●繁華街の噂
――ねえねえ、知ってる?
周囲の人々、特に若者達がざわめいている。インターネットが普及する現代社会、噂話が伝搬するのはとても早い。彼は、彼女は口々に同じ内容を話し始める。
内容はとある若者達の失踪事件についてだ。若者達の家族が警察に捜索願を出したものの、事件から数日経った今でも行方の手掛かりは何一つ掴めていない。
……たった一つだけ、彼らが残した言葉がある。
最後に若者達が訪れたであろう雑居ビルの一室に、人数分の紙が残されていたのだ。
尚、それぞれの筆跡で記された言葉は全て、同じ物だったとの事。
其の言葉は……神様に会いに行く、ただそれだけ。
嘘か誠か、現実味のある恐怖は若者達の心を擽る。興味本位で、或いは度胸試しにと考える犠牲者が増えるまで、然程時間は掛からないだろう。……そう、このままでは。
●何故、彼らは其処へ向かったのか
「まぁ、原因は不明どころか邪神の眷属が関わってるんだけどな」
一般人に解るワケがない、と言い切るのは十朱・幸也(鏡映し・f13277)だった。
彼の言葉から、猟兵達は察するだろう。場所はUDCアースだと。
其の世界の地図を取り出し、場所を指差しながら彼は説明を続ける。
人の多く集まる繁華街、その片隅に存在する古い雑居ビル。テナントの入っていない一室に若者の集団が侵入……そのまま忽然と姿を消した。部屋の入口を映した監視カメラが若者達の姿を捉えていた為、最後の足取りが判ったらしい。
尚、彼らとは今も連絡が取れない状態が続いている。行方の手掛かりも無し。
……神様に会いに行く、残された此の言葉の真意も不明のまま。
「失踪者達の行方調査、邪神復活儀式の場所の特定と阻止。必要なら眷属、邪神の撃破を頼みてぇんだわ」
今回の目的を猟兵達に告げて、返ってきた頷きを見て……十朱は更に続ける。
其の表情は何かを言うべきか躊躇っている、或いは言い辛そうにも見えた。
「失踪したヤツらの中に一人、泥人が混ざってた。多分、アレが眷属だ」
実際に泥人を見た事、或いは戦った事がない一部の猟兵が首を傾げるのを見て、ふと一息吐いてから十朱は己が知っている情報を話し始める。
一般人と変わらぬ人格を持ち……共通点は皆、臆病でお人好し。色彩をもつ姿に変われるブラックタールの変種。足元を隠せば見た目は、普通の人間そのもの。
……以上の事から、猟兵達が攻撃を仕掛ければ泥人は怯えるだろう。泣いて、震えて、猟兵達に見逃して欲しいと懇願するかもしれない。命乞いをする可能性もある。
「泣かれようが、喚かれようが……相手はオブリビオンだ。情なんて抱く相手じゃねぇ」
冷めた言い方は一部の戸惑う猟兵達の心に、釘を刺す様で。
ただ、十朱は思った事を口にしただけかもしれない。もしかしたら現地で迷う事が無い様にと、彼なりの優しさだったのかもしれない。真実は彼のみぞ知る。
転送準備を進める様子に誰も、何も言えず。それでも、時間は待ってくれない。
猟兵達が遅れれば、遅れる程に犠牲者は増えるのだから。
「腹括ったヤツから行け、でもって無事に帰って来い。……頼んだぜ」
普段とは違う真剣な様子で、十朱は猟兵達を送り出す。後は君達の手に託された。
ろここ。
●御挨拶
皆様、お世話になっております。
もしくは初めまして、新人マスターの『ろここ。』です。
一度、シリアスめいたシナリオをやってみたいなと思ったんだ……。
六本目のシナリオは調査、及び戦闘シナリオとなります。
何故、若者達は古い雑居ビルへ向かったのか。彼らが神様に会いたい理由とは。
皆様のキャラクターの想いも記載がありましたら、精一杯描写させて頂きますね。
純粋に戦闘を楽しみたい方も、お気軽に御参加頂ければと思います。
それでは、皆様の素敵なプレイングを幸也と一緒にお待ちしております。
第1章 冒険
『集団神隠し事件』
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POW : 雑居ビルの一室をくまなく捜索する
SPD : 繁華街の人々に事件と関連のありそうな話や噂を尋ねる
WIZ : 失踪者に共通する行動や過去を調べる
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村井・樹
さて、『神』とはよく言ったものですが。
……大抵、私達が目にする神は邪神、せいぜい疫病神、といった所なんですよねぇ
さて、愚痴もそこそこに、調査を始めましょう
SPDで判定
『コミュ力、礼儀作法、誘惑、言いくるめ、催眠術』など、私の持ちうる対人術を生かして、近隣の方のお話を伺ってみましょう
「失礼、少々、お時間宜しいでしょうか?実は、このところ、若い方達が、この近辺に出入りしていると聞いて。……物騒ですよねぇ」
「まるで、新手の宗教団体のようですねぇ。そちらもどうか、お気をつけて。」
……このように尋ねれば、相手方の気分を害すことなく、かつ我々に必要な情報を伝えてくださるでしょうか?
※プレ外の言動等大歓迎
●神隠しの噂
「(猟兵達が目にする『神様』なんて邪神、或いは疫病神の類なんですよねぇ)
まあ、良く言ったものですが、と愚痴めいた思考を過ぎらせて歩くのは村井・樹(Iのために・f07125)だった。所作の一つ一つが美しく見える事から、今の彼は『紳士』の人格なのだろう。彼が通り過ぎた後、偶に一般人が振り返る程には紳士的に見えている様だ。
……さて、愚痴の様な考えは此処までにしておこう。キリがない。
幸い、彼が進む先には複数人の女性達が立ち止まっており、また何らかの話で盛り上がっている様に見えた。年齢からしてママ友、というものだろうか。
「まだ見つかってないんでしょう?」
「でも、あそこのお家……お子さんとの仲が悪いって噂だったじゃない」
――失踪事件の手掛かりになるかもしれない。
村井は確信めいた思いを胸に、ママ友グループにゆっくりと近付き……まずは丁寧に一礼。顔を上げて、ふと微笑む。其の紳士的な立ち振る舞いに、ママ友グループの視線は彼に集中していた。誘惑の効果もあり、好意的なものだった。
「失礼、少々、お時間宜しいでしょうか?実は、このところ、若い方達が、この近辺に出入りしていると聞いて」
「そうなのよ!私のお隣さんの娘もあの雑居ビルに入って、神隠しに……」
「……神隠し。それはまた、奇妙で、物騒ですよねぇ」
女性の発言に、村井は事件の噂が『神隠し』として伝わっているのを知る。
状況からその様に伝わるのも無理はない、が……其れだけでは情報が足りない。さて、どうするか。思案していると、別の女性が口元に人差し指を立てつつ。
「ここだけの話、なんだけどね?……その子、何度も家出していたらしいのよ。ウチの娘が塾帰りの夜、良く見掛けたらしくて」
「私も見たわ!別の高校の男子と一緒だったけれど、どうやって知り合ったのかしら?」
「成程、貴重なお話、ありがとう御座います。そちらもどうか、お気をつけて」
立ち去る時も一礼を忘れず、村井はまた柔和な微笑みを浮かべて、廃墟ビルが存在するであろう場所に視線を向ける。
「(宗教団体、とは断定出来ないですね……ただ……)」
失踪者は全員、自分達の意志で現地へ向かった可能性もある。
……もう少し情報が欲しいですね、と村井はまた別の場所へと歩き始めた。
成功
🔵🔵🔴
古明地・利博
(絡み・アドリブ歓迎)
神様に会いに行く、か。神なんて碌な奴居ないのにな~……。まぁいいや、
とりあえず噂でも調べようかな。
私は町の人、特に20歳前後くらいの若い人に【コミュ力】を使って事件に関係ありそうな話を聞きこむよ。「ねえねえ、最近面白そうな噂が流行ってるみたいだけど知らない?」みたいな感じでね。怪しまれたらオカルト系が好きだからってな感じで誤魔化すよ。
……こういうの正直苦手だけど噂の断片くらいは出てくるんじゃないかな。
まぁ噂全体が出てきたらラッキー、もし噂の断片だけでもネットを使って検索すればある程度は分かるんじゃないかな?オカルトサイトとかにそういう話が上がってそうだしね。
●集団失踪計画
「ねえねえ、最近面白そうな噂が流行ってるみたいだけど知らない?」
不健康な見目の少女の姿、彼女からの急な問い掛けに、若者達は正直に言って動揺していた。ヤバくね?大丈夫か、コイツ?と口にしているのを見て、問い掛けた本人――古明地・利博(曰く付きの蒐集家・f06682)は、わざと困った様な表情を浮かべながら続ける。
「ああ、ごめんね。私、オカルト系が好きだから噂が気になってね」
古明地はこういう調査方法は不得手としている、とは言っていたが……それでもコミュ力が活きたらしい。若者達のグループ全員、その話を信じて警戒心を和らげる。一部、彼女の不健康さを心配する様な視線もあったが、其れは敢えてスルー。
「最近の、ってアレだろ?神隠しの噂」
「神隠しってウケるんだけどー!アレ、ただの失踪でしょ?」
「ソレ、前に言ってたヤツ?集団失踪計画、だっけか……」
「集団失踪計画?」
新たに出て来た単語を聞いて、古明地が首を傾げる。
半分は情報を引き出す為、もう半分は個人的な興味の為。そんな彼女の様子を快く思ったのか、最初に其の単語を口にした女性が自慢げな表情で続ける。
「そうそう!前に集団失踪計画をネットでほのめかしたヤツがいて、ソイツが犯人じゃないかって専らの噂!まあ、もうそのアカウント消えてんだけどねー」
「つーか、それなら何で犯人含めて失踪したままなんだよ。理由もわっかんねぇし」
「アタシだって知らないよ。例えば……誰かに、気付いて欲しかったとか?」
「適当言うなって……アレ、さっきの女の子は?」
若者達が会話に夢中になっている間に、古明地は其の場から消えていた。
……え、神隠し!?と若者達が見当違いの方向へ考えを巡らせるまで、あと少し。
●喧騒から少し離れた場所で
「神なんて、碌な奴居ないのにな……まぁ、いいや」
……苦手な事をするのは疲れるものだが、想定以上に収穫があった。
集団失踪計画。あからさまに危険としか思えない内容に、それでも縋りたくなるのは……本心なのか、適当なのか、強ち先程の女性の言葉は間違いでもないかもしれない。
古明地はオカルトサイト等を用いて、集団失踪計画について更に調べようと……古いノートパソコンを手に、再び動き始める。何処か、インターネットが使える場所を探して。
大成功
🔵🔵🔵
シエン・イロハ
SPD選択
路地裏や怪しげな店など、警察の手が回っていなさそうな場所を中心に調査
現場になった雑居ビルの周辺を重点的に『情報収集』
最初は散歩程度のペースで歩きつつ『聞き耳』や『第六感』等用いて情報握ってそうな相手を探すのを優先
声かけなくても済むんならその方が楽でいいんだがな
情報持ってそうな奴に遭遇し、素直に吐いてくれるような奴じゃなければ『殺気』放つなり『恫喝』するなりして聞き取りを
直接手ぇ出してないだけ有難いってもんだろ
嫌ならとっとと喋れや、手間とらせんな
失踪した奴らの特徴、特に泥人に関しては情報あるに越した事はねぇからな
事前の下見やら上から指示受けてた様子目撃されてねぇかを中心に情報収集
●時には恐怖も有効活用
「(見るからにきな臭ェ場所だな……)」
失踪した若者達を最後に見掛けた現場、雑居ビルを目にしてシエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)は思う。警察による立入禁止テープが貼られているのを確認した後、彼は周辺を歩き始めた。
……見知らぬ顔に警戒しているのか。ただ散歩している様に見えても、其の場所を拠点にしている人達の微かな声が聞こえる。否、敢えて聞き耳を立てている。殆どは体格も良く、柄の悪そうなシエンの姿に怯える声だったが。襲ってくる訳でもない為、別にどうでもいいと全て無視した上で歩き続ける。
「……っ!」
――何故か、己を見て慌てて逃げる姿にシエンは口の端を吊り上げた。
逃走した男の不運は、此の場に居合わせたのが『迅疾』を冠する男だった事だろう。一般人では決して逃げ切れぬ速さ。其れを以って、シエンは男を追い越して真正面に立つ。ひぃ、と怯える声が聞こえた。
「逃げても無駄だ、って解っただろ?」
手間取らせんじゃねぇよ、と言外に告げていた。
殺気に身が竦む、此の場を切り抜ける為の選択肢が見つからない。どうすればいい。
素直に話す様子が見られず、シエンは男に近付いて……胸倉を掴み、鋭い視線を向ける。
「直接手ぇ出してないだけ有難いってもんだろ。嫌ならとっとと喋れや」
手は出していないが、恐ろしい事には変わらない。
このままでは殺される、と身の危険を察知したのか。……勿論、面倒臭い事になりそうだから、シエンに其のつもりは一切無い。多分、無い筈だ。恐らく。
「俺、前に、あのビルに……被害者の一人と、他の子が出入りしたの、見たんだ……それだけ、それだけで……!」
「その女の足元は?他の奴らも出入りしてたか?」
「被害者はわかんねぇけど、前に見た子は足が変だった……!その女の子以外も、全員変で、でも、ずっとあの部屋にいるんじゃ……」
「面倒くせぇ、はっきり言え」
「あの女の子以外、他の子達が出て来たのを見た事がないんだよ!だから、神隠しは本当に……もう、もう、ゆるし……っ!?」
漸く解放された直後、男は一目散に逃げ出した。
情報は搾り取るだけ取っただろ、とシエンも追う様子はない。
それよりも泥人は被害者に混ざっていたのを含めても複数人が居る筈なのに、何故発見出来なかったのか。ふと、彼はある事を思い付く。
「(……地下室でもあんのか、あの場所)」
成功
🔵🔵🔴
シノ・グラジオラス
POW選択
アドリブ等は歓迎
消えたくなって、神にでも縋った結果がって事か?
そう言う気持ちは痛い程分かるが、
自分が消えたって、その原因は消えやしないのにな
雑居ビルの管理人に偶然を装って会えればいいが、
無理なら近隣の人にあの部屋の前の住人とか、噂についてを
『コミュ力』と『情報収集』を使って聞き込みする
この辺が雑居ビルなら、喫煙所とか行けば人も捕まえやすいかね
あとは現地の部屋に行って『失せ物探し』『追跡』で失踪者がいた痕跡やその他、
『聞き耳』で空き部屋に似合わない音とかを探るとするか
入った記録はあるが出てはなさそうだしな
この部屋から出ていける出口なり何かがあるって事か
…物言わぬ何かになってなきゃいいが
●まずは一服、からの
「いやー、まさかアンタがあのビルの管理人だったなんてな」
「此処で一本吸うのが至福の時間でねぇ。……で、兄ちゃん何を聞きたいんだっけ?」
さっき話したばかりじゃねぇか!とツッコミを入れる等、和やかな雰囲気で談笑をしている二人の男がいた。どちらも手には煙草を持ち、紫煙を燻らせている。
一人は失踪事件の現場となった雑居ビルの管理人、もう一人は猟兵――シノ・グラジオラス(火燼・f04537)だ。
此処は雑居ビルからそう遠くない、共用の喫煙所。偶然を装って会うつもりで、そうでなくても誰かしら捕まえられればと此の場所を訪れたのだが……まさかの偶然、管理人とばったり出会ったのだ。ああ、彼はなんという豪運の持ち主なのか。
「事件があった部屋の前の住人とか、噂の理由とか知らないか?」
「管理人っつっても、こんなオンボロビルだからなぁ……。あの部屋は偶に不審者が出入りする様になっちまって、監視カメラ設置したんだよ。でも、入ったタイミングで部屋に警備員が駆けつけても、誰もいねぇときた」
「誰もいねぇ、って……確かに中に入ったんだろ、ソイツらは?」
「監視カメラがバッチリ捉えてんだけどなぁ……なんなら部屋の中、見てみるか?」
ジジイの喋り相手になってくれた礼だ、と管理人は楽しげに笑う。
……事件の事で警察などに色々聞かれているのか、目元に疲労の色が浮かんでいるのをシノは見逃さなかった。其の事実には触れずとも身を案じながら、管理人の提案を有難く了承して。
二人で煙草を潰した後、徒歩五分も掛からず、事件があった部屋に着く。
古い雑居ビルの一階に在る其の部屋の中へ、彼がゆっくりと入った。
「(……鼻が利き過ぎるのが役立つなんてな)」
入った直後、シノは様々な臭いに眉を顰めるが……埃やカビの其れに混ざって、確かに泥の臭いがした。しかめっ面のまま、他の情報は無いかと彼は部屋を見渡す。痕跡、空き部屋では聞こえない筈の音、何か他に――。
「ん……?」
備え付けなのか、仕事用のデスクが一台。
其処から泥の臭いが強くなっている気がする。正確には下にある床、か。綺麗に整えられているが、剥がして張り替えてを繰り返した結果、臭いが付いてしまったのだろう。恐らく、此処に抜け道がある。……気付いたのはそれだけではなかった。
「気付い、て……」
デスクの脚に無理矢理刻まれた様な、懇願の様な言葉。
消えたいからこそ、神に縋ったのだろう。自分が消えたって、原因が消える事は無いし、変わる事もないのに。彼らの気持ちが解るからこそ、シノは強く思う。
……彼らが抜け道の先で、物言わぬ何かになっていない事を。
大成功
🔵🔵🔵
紫藤・蛍
消えた若者、神隠し…
うーん、ワカラン。
名探偵もお手上げだね、なんて適当な軽口
消えた場所に何かあるかもしれないねー。
雑居ビルで糸口探し
ネットで集団失踪計画を出した人物が泥人なら雑居ビルのPCに形跡が残っているかも。
消えた若者の行き先はどこだろうかと考えて
人数から遠くへ連れていくことは難しいかもしれない。→雑居ビルのどこかに詰め込まれてはいないかな?
人の入らなさそうな場所を中心に探してみる。
物置部屋とか屋上とか地下とか
もしもーし、こんにちはー。
もし捜索中に泥人とか若者とかに出会ったら失踪計画に参加したい風を装って近づこうかな!
あたしも仲間に入れて欲しいなー、なんて。ダメ?
けらり軽い調子で首を傾げた
●怪しい雑居ビル
「助けて、名探偵!……って、流石に名探偵もお手上げかな?」
降参と言いたげに両手を上げて軽口……其れも適当だったらしい。
消えた若者、神隠し、現時点では理由も居場所も不明ときた。名探偵でもこれじゃ解らないよね、事件現場となった雑居ビルを見上げてはどこか楽しげに紫藤・蛍(蛍火・f12120)は笑う。
「消えた場所に何かあるかもしれないしねー」
本音は此処で上手く泥人や若者達に遭遇する事が出来れば、仲間に入れてと言うなりして同行し、儀式場所を見つけられるかな、と思ったが……残念ながら其処まで上手く事は運ばない様だ。其れは其れで笑えるのだけれど。
「うーん、とりあえず部屋は後にして、っと」
雑居ビルの中にも様々な部屋がある、何処か別の部屋に隔離されている可能性も視野に入れて、ビルの階段を駆け上がって行く。物置部屋、屋上……は残念ながら、何かが無理矢理詰め込まれた様な痕跡は無い。証拠品を破壊した様な跡も見られない。
――それなら、地下にあるかも!
「あれ、でもこのビルって地下室あったっけー?」
事件のあった部屋は一階、雑居ビルに地下室があるとは聞いていない。聞いたかもしれないけれど、忘れちゃったから仕方がない!つまり、此れはミステリーあるある……いや、あるあるかは定かでは無いが兎に角、紫藤はある結論に至った。
「わかったー!隠された地下室、ってやつだよ!」
絶対そうだ!そうと決まれば!紫藤が一目散に向かうのは失踪現場の部屋だ。
大胆に扉を開けて、周囲を見渡す。……パソコンなどは置かれていないらしいが、ほんの僅かに泥の臭いが残っている気がする。気のせいかも、しれないけれど。
……それから暫く、彼女は其の部屋を念入りに調べ始める。仕事用デスクの脚の周辺、陰になって見え辛いが……何故か埃があまり溜まっていない様に見えた。もしかすると、この下に地下室があるかもしれない。とは言え、自分一人で床を剥がすのは苦労しそうだ。……人数が多ければ、一般人でも可能かもしれない。
「閃いちゃった、かも?」
――確たる証拠は無いけれど、何故かそんな気がして。
他の猟兵達にも此の事を伝えようと、紫藤は部屋を出て再び走り始めた。
成功
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第2章 集団戦
『泥人』
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POW : 痛いのはやめてくださいぃ…………
見えない【透明な体組織 】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : 悪いことはダメです!!
【空回る正義感 】【空回る責任感】【悪人の嘘を真に受けた純粋さ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 誰か助けて!!
戦闘用の、自身と同じ強さの【お友達 】と【ご近所さん】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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●両親に見て欲しかった、それだけ
家に帰っても、テストの成績の事ばかりで他の話なんて聞いてくれない。
妹の方が優秀だから、妹の方が偉いから、妹の方がすごいから、妹の方が――。
……大好きな妹なのに、段々消えちゃえばいいなんて思う様になるのが辛かった。
妹しか見てくれないのが悲しかった。私も、私だって、頑張ってるのに。
「本当にいなく、なったら」
……家出くらいじゃ心配してくれない、なら。
本当に消えちゃえば、ちゃんと私を探しに来てくれるかな。
きっと、名前を呼んでくれるよね……おとうさん、おかあさん。
●正しさとは
失踪現場の部屋、仕事に用いる様なデスクを移動させて、床のタイルを剥がす。
隠された地下室への入口が露わになり、猟兵達は意を決して一人ずつ梯子を使って降りていく。元々あったのか、それとも儀式の為に作られたのか……下へ下へと進む度に、鉄錆と泥の臭いが猟兵達の鼻を突き刺す様で。
……侵入者達の存在に気付いたのだろう。泥人達が道を塞ぐ様に集まり、猟兵達を睨み付けている。そして、口々に呟くのだ。
「あの子達はみんな、神様に会いたかった」
「消えたくて、だから一緒にいなくなろうって誘っただけ」
「寂しい子達を助けただけ、これからも助けたいだけなのに」
「ひとでなし」
「私達の方が、絶対に正しいもん」
他人の寂しさに付け込んだ挙句、オブリビオンにもかかわらず人でなしとは。
空回り続ける正義を押し付けて、失踪者達にとっての救世主を気取っている彼女達に教えてあげるといい。
泥人達の正しさは、誤った正しさである事を。
辛くとも、悲しくとも、其れが命を投げ出す理由には決してならないと。
……例え、今回の被害者達が手遅れだとしても。それでも、猟兵達の正しさを示すしかないのだ。
村井・樹
人外が俺達の事を『人でなし』って呼ぶのか
……なら、お望み通り、『人でなし』の戦い方をしてやるよ
俺自身が『存在感、フェイント』、そしてヤツを煽るような言葉を利用し、『盾受け』も交え泥人を陽動
「で、『一緒に居なくなろう』とか抜かした当のアンタは、のうのうと今も動いてるんだな?羨ましい限りだ」
「ここに来た連中も、もう一度お前らに会えたら、大層いい顔で『ありがとう』って言うだろうさ」
その間に偽メメを操作し、敵の隙を伺う
逆上して此方に突っ込んでくれるなら、却って好都合だ
メメを操って、ヤツの背後をとってUCを発動
『だまし討ち、暗殺』を仕掛け、そのままヤツを封じてしまえ
※プレ外の言動、他猟兵との絡み等大歓迎
古明地・利博
(絡み、アドリブ歓迎)
フフッ、正しい?君たち面白いね、そうやって弱みに付け込んで人を殺すのが正しいと思ってるんだ!
アハハ……ふざけるのも大概にしろ、泥共。
まぁ、そんなわけで勘違いの泥人共を皆殺しにしちゃうよ♪
【狂神の悪戯】を使って……そうだね、土属性の鉄砲水で泥人や泥人が召喚した物もろとも吹き飛ばそうかな。暴走しても結果的に泥人達を殺せたらいいよ。
吹き飛んでまだ息のある泥人には手を差し伸べるよ。「助けて欲しい?」ってね。もし手を伸ばして来たらその手を払いのける。「でもダーメ。君たちは弱みに付け込んで人を沢山殺したんだから。じゃあね、泥人さん♪」みたいな事を言って頭を踏み潰すよ。
●『人でなし』の戦い方
「フフッ、正しい?君たち面白いね、そうやって弱みに付け込んで人を殺すのが正しいと思ってるんだ!」
――嗚呼、なんと滑稽な言葉を撒き散らしているのだろう。
他人の弱みに付け込む自覚も無く、望まれたからそうしてあげたと泥人達は反論する。自分達の行動に一切の悪意を持たないと、そう思い込んでいる。ここまで自覚なき正義とは、なんと恐ろしいものか。
古明地・利博(曰く付きの蒐集家・f06682)は笑う。笑って、嗤って、そして……その声はピタリと止んだ。鋭い視線で泥人達を見据える。
「……ふざけるのも大概にしろ、泥共」
「右に同じく。人外が俺達の事を『人でなし』って呼ぶのか」
古明地から見て、左側に立つのは村井・樹(Iのために・f07125)の姿。雰囲気は情報を集めていた時と違い、どこか荒々しさを含んでいる様にも見える。実際そうなのだろう、彼は今は『私』ではない。自身を『俺』と呼ぶ、不良の人格。
胸糞悪ぃ、と村井は内心で吐き捨てる。だったら、お望み通りにしてやろうじゃねぇか。彼の肩に乗るメメ君(偽)が戦意を感じ取り、ゆっくりと動いた気がした。
「『人でなし』の戦い方をしてやるよ、人外風情が調子に乗んな」
ちょいちょい、と片手の指を動かして挑発をしながら、村井は嗤う。
勿論、勘違いの泥人共は皆殺しにするつもり満々な古明地も奇妙な魔導書を手にして、集中を始める。
「つか、『一緒に居なくなろう』とか抜かした当のアンタは、のうのうと今も動いてるんだな?羨ましい限りだ」
古明地の詠唱の邪魔をさせまいと、泥人の内の一人を指差して、村井は煽る様に畳み掛ける。監視カメラに映っていた、被害者達を連れてきた泥人の容姿については別の猟兵から情報を共有してもらっている。故に、的確に其の少女を示す事が出来たのだ。
泥人達は騒めく、理不尽への怒りを露わにする。意味が解らない。私達はただ、みんなを助けてあげただけなのに。責められる筋合いなんて無いのに。
――私達は、悪くないッ!!!
……空回りもここまでくると、救いようがねぇな。呆れた様に鼻で笑って、正義感と言う名の毒に蝕まれる泥人を見据える。人でなしを倒す為に助けてと叫ぶ者の近くには、其の泥人に似たお友達等が現れる。同じ様に、猟兵達を人でなしと罵っていて。
「はー、馬鹿の一つ覚えかよ……黙ってろ。なぁ、メメ」
村井の視線は泥人達の、更に向こう側。薄紫色の絡繰人形。
大勢で村井に攻撃を仕掛けようとした泥人達、彼女達が召喚した者達の視線は一斉に背後へと集中する。気付いた所でもう遅い。
「ソイツは、ここにあってはいけない。だから、ここで終了処分(オシマイ)だ」
やっちまえ、と告げれば偽メメ君の内部から何かが溢れ出す。異能捕縛用機構、ユーベルコードを封じる為の結界を形成する装置の様な物。鋼糸が広がり、其れが交差する様にして……泥人達が逃げる間もなく、結界が構築された。
「こんな、もの……!」
毒を喰らいながらも、泥人の一人が結界から抜け出そうとするが……掴んだ手が、逆に傷付く結果に終わる。どうして?と不思議そうな表情を浮かべるが、ユーベルコードを封じられた以上……残るのは空回りの正義感。強化の恩恵はもう無いのだ。勿論、友達や近所の人も。
「後は頼むわ、って聞こえてねぇか?」
「――Ia ia ph'cdeum mghupadgh agg c-gotha shuggagl chos」
狂える神の遊びは、可愛らしいものではない。
古明地の詠唱を終えて、現れたのは土属性を有した……さしずめ、泥の鉄砲水と言った所だろうか。彼女の狂神の悪戯を避ける術は今の泥人達にはない。水圧に耐える事は出来ず、吹き飛ばされた先は……村井が放つ、強靭な鋼糸。尚、偽メメ君は村井の指示を受けて、既に彼の元へ避難済だ。
水に潰される様な衝撃に、泥人達は声にならない絶叫を上げている様にも見えたが……鉄砲水が止んだ後、対峙していた泥人達の殆どが倒れ、息絶えていた。
其れでも僅かに息が残っていた、被害者達を拐かした張本人である泥人に古明地がゆっくりと近付く。ビクッ、と泥人が怯えた様子を見せるが……構わず彼女は手を差し伸べて。
「助けて欲しい?」
助けて、お願い、死にたくない。だって、まだ消えたいって望んでいる子が沢山いるんだもの。もっと助けてあげなきゃ。私は悪い事なんかしていないんだから、だから、助けて――。
「でもダーメ」
古明地は笑みを浮かべたまま、其の手を払い除ける。
泥人が絶望した様子を見せると、村井がまた呆れた様に息を吐いていた。
「君たちは弱みに付け込んで人を沢山殺したんだから。じゃあね、泥人さん♪」
「ここに来た連中も、もう一度お前らに会えたら、大層いい顔で『ありがとう』って言うだろうさ」
……助けてきたと嘯く、泥人の終わりはなんと呆気ない事だろう。
最期は古明地に頭を踏み潰されて、彼女は物言わぬ泥に成り果てたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
飛鳥井・藤彦
【WIZ】
「ほんま哀れやなぁ、そないな傷の舐め合いごっこして救世主か神さんの遣いにでもなったつもりやろか」
傷を舐めたら治るどころか化膿を招くのがええ例やね。
つまり君らがしてることはただの人殺しや。
救いなんて耳触りのええ言葉で己の行動を正当化せんと僕達と向き合えない時点で、そこに正義なんてあらしまへん。
袖から花鳥風月符を取出し【七星七縛符】で泥人を捕縛。
ほんで輝紅篠画で【なぎ払い】【吹き飛ばし】ますわ。
泥人がどんな姿とっていても、哀れな声をあげても、僕は構へんよ。
「だって君らの方が『ひとでなし』やん」
にっこり笑って言いきり、迷いなく泥人を排除。
容赦ないって?
そりゃ、おもんない人らやったからねぇ。
●傷の舐め合いにもならない
――私達は悪くない、ひとでなしは貴方達の方だ。
同じ様な言葉の繰り返しばかりで、溜息すらも出やしない。
物の試しに『お友達』と『ご近所さん』とやらの声も聞いてみようかと、飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)は敢えて攻撃を受ける素振りを見せる。
泥の拳で殴り掛かられるが、避けるのも容易な拳。攻撃のタイミングに合わせて、少し後ろへ身体をずらせば、ダメージを最小限に抑えられる。服は少し汚れてしまったが。
「私の友達は正しい、私の友達はあの人達を助けたの」
「あの子達は正しいの行いをしたんだ」
……やれやれ、所詮は類は友を呼ぶというやつか。
以前結んだ縁に招かれる様に参加した依頼だったのかもしれない。
少しは絵になる相手かと期待したが、目の前の敵のなんとつまらない事。身の丈程もある輝紅篠画を手にした飛鳥井はふと、微笑んでは口を開く。
「ほんま哀れやなぁ、そないな傷の舐め合いごっこして救世主か神さんの遣いにでもなったつもりやろか」
傷は舐めれば治る、とは良く言ったものだが……実際に行えば治るどころか、化膿を招いてしまう。飛鳥井は言外に彼らを『人殺し』だと告げているのだ。事実、彼の言葉に間違いはない。
……それでも泥人達は叫ぶ。自分達の行いは正義であり、猟兵達こそが悪なのだと。盲目的な正義の主張など、彼の心に突き刺さる筈もない。耳障りの良い言葉ばかり並べ立てなければ正当化出来ないなら、自分達と向き合えないのなら、其処に正義などありはしない。
「(おもんない人らやなぁ……)」
話すのも時間の無駄だと、片方の袖から美しい絵と短歌が描かれた霊符――花鳥風月符を取り出し、歌に乗せてふわりと飛ばす。狙うは友人達を召喚して、動けなくなっている術者本人達だ。友達、ご近所さんが危険を察知して叩き落そうとするが、間に合わない。
術者が攻撃を受けた事で召喚された者達は消失し、再度召喚しようとしても捕縛の霊符が其れを許さない。
「離して、よ……!私達は、まだ……!」
「強情な人らやねぇ」
誤った正義を貫こうと泣きながらも抵抗する姿は、いっそ哀れにも思えて。
……だからと言って、飛鳥井は攻撃を止めるつもりはない。幾ら泣き叫ぼうと構わない、こんなにも面白くない輩に迷う必要などないのだから。
大筆を構え、彼はにっこりと笑う。笑っている筈なのに、泥人達が抱くのは恐怖。
止めて、私達は、もっと誰かを救わなきゃ――。
「だって君らの方が『ひとでなし』やん」
吹き飛ばそうとする勢いで、飛鳥井は大筆を横薙ぎに振るう。
彼の一閃は重く、防ぐ手段のない泥人達は直撃を受けて、近くの壁に叩き付けられる。嗚呼、哀れにも……最後の最期まで人殺しを正当化しながら、彼女達は事切れた。
成功
🔵🔵🔴
シノ・グラジオラス
シエン(f04536)と参加
POW選択
デスクの脚に見つけた言葉に、
目の前のヤツらが腹立たし過ぎて笑いすらこみ上げてくる
助けた…だと?
ふざけんな。お前らが勝手に助けたつもりになってるだけだろ
お前らと討論する気なんざ微塵もねぇよ
退けよ、雑魚。テメェらに用はない!
…動画は勘弁
あー、すまん。完全に頭に血ぃ上ってたわ
『殺気』を放ち『ダッシュ』で距離を一気に詰めて『先制攻撃』で
間髪入れずに【紅喰い】を叩きこむ
攻撃は『2回攻撃』『気絶攻撃』でとにかく黙らせる
敵からの攻撃は『見切り』と『武器受け』で可能な限り受け流すが、
無理そうなら『激痛耐性』で我慢
焦ってるように見えるが、シエンからの一発で頭は冷える程に冷静
シエン・イロハ
シノ(f04537)と参加
(溜息一つ、シノの後頭部に槍の柄で一撃入れ
落ち着け阿呆、サッサと頭冷やさねぇと今の姿動画に撮るぞ
SPD選択
消えたかったのに何で痕跡わざわざ残したんだろうなぁ?
神様に会ってどうしたかったんだろうなぁ?
なぁ、心優しいお前らならちゃんと聞いてやったんだろう?
消えた奴らが本当は何を望んでたのか
それとも何か、聞きもせず勝手な予想で連れてったのか
一緒にと言っておいて、そいつらだけで行かせたのか
寂しがってた奴らを
所詮口先だけの御為倒しか
近距離の敵は『先制攻撃』『範囲攻撃』『2回攻撃』で槍で攻撃
距離が離れている敵に対しては上記技能+『投擲』で【シーブズ・ギャンビット】
回避は『見切り』
●救済という名の自己満足
……くつくつと、渇いた笑みが零れる。
助けた、などとほざく泥人達への苛立ちがそうさせるのだ。普段の自分らしからぬ笑い方を自覚する事は無く、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は獣の様な鋭い目を敵に向けた。ひっ、と怯えた様な声が聞こえた気がするが知った事か。
「助けた、だと?……ふざけんな。お前らが勝手に助けたつもりになってるだけだろ」
――デスクの脚に遺された言葉、気付いてと言う儚い願望。
寂しい子達を助けたから、だから自分達は正しい?独善に塗れた言葉を脳内で繰り返す事さえ胸糞悪い、腹立たしい。胸の内から溢れ出す憤怒に塗れ、普段とは異なる雰囲気を見せている事に今も尚、彼自身は気付かない。
狼の双眸が、射抜く様に泥人達を睨み付ける。此れ以上、奴らがのうのうと存在する事さえ吐き気がする。
「お前らと討論する気なんざ微塵もねぇよ。退けよ、雑魚。テメェらに用は……ッ!」
「あー手が滑った」
「な゛ッ!?」
完全に棒読みの上での一撃が、シノの後頭部に直撃。
怒りを撒き散らす彼の言葉を強制的に止める。ベスティアの柄で突いたのは、シノの悪友――シエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)だった。
ゴンッ!とかなり鈍い音が聞こえた気がするが、全力では無い。力加減は雑だった気がするが、頑丈なシノならば大丈夫だろうと考えたからだろう。……きっと考えがあった筈だ、と思いたい。
「落ち着け阿呆、サッサと頭冷やさねぇと今の姿動画に撮るぞ」
「……動画は勘弁」
「そうか、じゃあ写真撮ってあいつらに送っとくか」
「いやいや、そうじゃないからな?シエンさん、酷くねぇ!?」
冗談に乗ってくるシノの姿、そして雰囲気は普段見慣れている其れで。
世話焼かせやがって、という言葉は胸の内に留める。此れで冷静さを取り戻さなければ、シエンは彼を来た方向とは逆に蹴り飛ばして、たった独りで泥人全員皆殺しにするとでも考えていたのだろう。
「あー、シエンすまん。完全に頭に血ぃ上ってたわ」
「謝るくらいなら、さっさと準備しろよ」
「そりゃ、そう――だなッ!」
未だ怯え惑う泥人達へ、殺気を纏いながらシノは駆ける。
シエンは其の場に留まり、槍の代わりに取り出すのは略奪者の名を持つダガーセット。其の名は、プラエドー。近距離で好きに暴れる彼が討ち損じた敵を、遠距離から仕留める算段。
シノは駆ける、速く、疾く。距離を詰める毎に人ではなく、獣の姿へと変貌する。冷静にはなったが、内側の怒りが消えた訳ではない。紅喰いによって、完全にスコルへと姿を変えた直後、鋭い爪が泥人の一人の胸を引き裂いた。其れだけでは終わらない、もう片方の爪でより深く……対象の胸を抉る様に。少しでも、失踪者の心の痛みを思い知れと言う様に。
泥人達は仲間に執拗に攻撃を続ける狼を化物と叫び、間違った正義感という毒を抱きながら走る。仲間を助けようと、化物を倒す事で正しさを証明する為にも。
「消えた奴らが本当は何を望んでたのか」
ヒュッ、と音がして……両隣を走っていた筈の仲間が、地面に倒れていく。
彼らの項や後ろ足には数本のダガー、遅れて感じる痛み。そう、自分の背や足にも同様にダガーが刺さっていて。
蝙蝠の翼を広げた男は鼻で笑って、またダガーを手にしていて。視線は冷めているのに、笑みを浮かべる姿が恐ろしい。そんな泥人の心境など知った事じゃないと、シエンは更に言葉を重ねる。
「なぁ、心優しいお前らならちゃんと聞いてやったんだろう?消えたかったのに何で痕跡わざわざ残したんだろうなぁ?神様に会ってどうしたかったんだろうなぁ?さっさと答えろよ、ちゃーんと聞いたんだろ」
知らない、そんな事知らない、だって消えたいとした言ってなかった。一緒に消えて、神様に会いに行こうって。消えたいって望みを叶えてあげただけ、其れ以上を言わなかったのはあの子達のせいだ!
……怯えるだけで何も言わない様子を見て、阿呆らしいとダガーを一回転。
「聞きもせず勝手な予想で連れてったのか。一緒にと言っておいて、そいつらだけで行かせたのか。寂しがってた奴らを……救世主気取っておいて、所詮口先だけの御為倒しか」
「神様……神様、助けて……!助けてあげたから、私も、助けて……!」
……やっぱり、そう言う事か。
助けるとのたまって、本当は生贄にしたかっただけなんだろう。助けてあげたから、助けてと言う理由は嫌でも直ぐに判明する。シエンが静かにプラエドーをしまうと、泥人は安堵した様子を見せる。だが……。
「止めを刺すのは俺より、そいつの方が良いだろ」
「え……っ?」
倒れたまま背後を向けば、其処には終わりを告げる狼の姿。
泥人が助けてと再び呟く前に、スコルの爪が背中を二回引き裂く。深く、深く。シエンは息絶える彼女を一瞥した後、更に奥の儀式場へ視線を向けていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
美星・アイナ
それは救いの手なんかじゃない
心の隙間につけ込んだ姑息な行いだ
ひと睨み後無言でペンダントに触れて
シフトする人格は全てを灼き尽くす苛烈なる焔の姫
『その口、二度と開けないよう灼き尽くすよ』
大鎌形態に変えた黒剣を構えてレガリアスシューズ起動
加速度をつけた【2回攻撃】の【なぎ払い】で攻撃
歌うようにユーベルコード詠唱
生み出した赤水晶の欠片を【一斉発射】して追い打ち
欠片の軌道に合わせて飛び上がり蹴撃をおり混ぜながら頭部、肩口に【踏み付け】
最後は合体させた赤水晶の欠片の炎を大鎌の刃に宿らせ【傷口をえぐる】様に【串刺し】
さて、この騒ぎを起こした元凶とやら、さっさと出ておいで
次に餌食になるのは、あんただよ(冷笑)
●哀れな者への葬送火
「それは救いの手なんかじゃない。心の隙間につけ込んだ姑息な行いだ」
静かに、確りと否定の意思を込めて美星・アイナ(インフィニティアンロック・f01943)は吐き捨てる。其れでも自分達の行いを正しいと、救いだと言い切る姿に怒りを覚える。何を言っても無駄だと理解する。
彼女は無言で南京錠を模したチャームが付いたペンダントを握り締め、改めて泥人達を赤茶色の瞳で睨み付ける。何を言っても無駄ならば、其の身に刻んでやる。彼女が手にしたペンダントは人格交代を手助けする物、彼女の支え。
内側で何かが切り替わった音がした気がした。
今の彼女は美星であり、美星ではない者。全てを灼き尽くす苛烈なる焔の姫。
「その口、二度と開けないよう灼き尽くすよ」
――交代した彼女の怒りも重ねて、炎に乗せよう。灼き捨ててくれよう。
赤い水晶の珠が美しい、DeathBladeを剣から大鎌へ変えた直後に駆け抜ける。地下の暗がりの中、星のスタッズが光り輝いて。
接近するまでは一瞬の出来事。攻撃範囲内にいる複数人の泥人達に対して、美星は大鎌の一閃で真っ二つにする。もう一歩踏み込んでは、更なる泥人を逆向きに薙いだ。
残った泥人達は数で攻めようとお友達、ご近所さんを呼び出す。召喚された者達は口々に美星を非難し始めるが……焔の姫は耳障りと思えど、戯言に心を痛める事はしない。
「地に落ちた血涙達、姿を変えて此処に集え……行き場のない哀しみと怒り、水晶の炎に変えてここに放たん!」
凛とした声で発せられる詠唱は、まるで歌の様。
ふわり、水晶の欠片の様な炎が浮かぶ。ぽつぽつと増えていく其れらの数は二十一、其の全てが姫の周囲を漂う。美星の号令を待つ。
「――骸も遺さず焼き尽くせ!」
泥人も、其れが呼び出した者達も。全て黙らせる為に。
……炎が向かう。矢の様に鋭い軌道で泥人達に襲い掛かる。ある者は喉に刺さり、ある者は足を射抜かれて、命中した場所から溢れる炎はやがて全身を焼き尽くす。
幸いにも掠めただけ、延焼が全身に至らぬ者も美星に踏みつけられて、物言わぬ泥になっていて。残る一人は死にたくないと怯え、涙で頬を濡らすばかり。足元さえ見なければ、ただの人間の少女にも見えただろう。
「……選択権すら与えず、先に奪ったのはアンタよ」
消えたい、其の先にあった筈の望みを聞く事もしないで奪うだけ。
そんな相手に慈悲の心を持つ必要など、ない。美星は水晶の欠片を模した炎を刃に纏わせて……既に振り上げていた大鎌を、勢い良く振り下ろす。延焼によって焼けた部分を抉る様に串刺しにされて、泥人は目を見開いたまま動かなくなった。
大成功
🔵🔵🔵
紫藤・蛍
"正しさとは”何か。それは本当に存在するのだろうか。
これ、あたしがずっと考えてて今もまだ答えが出てない疑問。
敵を前に考える素振り
「私達の方が、【絶対に】正しいもん」そう言ったな?その"絶対とは”何か。
私に証明してくれるかな?
こちらの問いに何かしらの【疑問】を感じるようなら成功。
【謎を喰らう触手の群れ】を発動
格闘術+サイキック『ファイアブラッド(燃える血潮)』を使用
炎を纏った足技を豪快に見舞う【2回攻撃】
悪いことはダメです!って、分かってるならやっちゃダメー!でしょっ?
燃やしたところで はたと気づく。
あ、悪いと思ってないからやっちゃってんだー。
なーんだなんだそっかぁ。めっ!!
【目潰し】による折檻
●正しさとは
――紫藤・蛍(蛍火・f12120)は考えていた。
正確には泥人達の前で其の素振りを見せているだけなのだが、彼女が内側で疑問を抱いている事は事実だ。そして今も、答えは出ない。
「私達の方が、『絶対に』正しいもん。そう言ったな?その『絶対』とは何か。……私に証明してくれるかな?」
そもそも、泥人達の言う『絶対的な正しさ』には根拠が無いのだ。
失踪者達の消えたいという望みを叶えたから?否、其の先に在る本当の望みを叶えていない以上、其れは過ちだったと考えられる。
無関心な両親に関心を持ってもらえる方法を教えたから?否、彼女達は失踪者の心の隙間に付け込んだだけだ。其れも正しさの証明にはならない。
……そして、これまでの猟兵達の言動は泥人達に一抹の不安を植え付けるには充分だった。口では自分達の正しさを主張しても、本当にそうだろうかという疑問が浮かんでしまう。
「――今、疑問を感じたね」
呟きと同時に紫藤の背後から現れるのは紫色の触手、其の塊だった。
宙を浮かぶ塊から何本もの触手が生える様に出てきて、勢い良く泥人達へ向かい飛んで行く。泥人達が抱いた疑問、其れを狙っているのだ。
逃れようと散り散りになって動くも、謎を抱いたままでは逃れられない。一人、また一人。触手の先がハエトリグサの様に開き、胸や頭を文字通り喰らう。
目の前に広がる光景に……幸か不幸か唯一、己の正しさに疑問を抱かなかった泥人が震え上がる。
「余所見してて、いいの?」
目を逸らそうとした瞬間、顔面に痛みを感じたまま地面を転がる。
紫藤が近付いて、隙だらけな所を蹴り飛ばしたのだ。痛みに呻き、涙を零す。そんな様子もお構いなしに、彼女は泥人の胸を踏み付けた。
「ひぐ……っ!?」
「悪いことはダメです!って、分かってるならやっちゃダメー!でしょっ?ねぇ、キミもそう思わない?」
「私、達……は……!」
「あ、悪いと思ってないからやっちゃってんだー」
なんだ、そっかぁ。此の惨状に似つかわしくない程、間延びした声で紫藤は呟いた。周囲で喰われている者達は兎も角、目の前にいる其れは悪いと思っていない。だから、難を逃れているのだ。
「悪い事は……めっ!」
ずちゅり、と音がして。後に響くのは最後の泥人の絶叫。
……此の個体が最期を迎えた事で、此処に居た泥人の集団は全滅したのだ。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『残響の女神』
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POW : 信者の供物
自身の装備武器に【生贄になった者の身体部位の一部 】を搭載し、破壊力を増加する。
SPD : 叫ぶ
【絶叫 】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ : 凝視
小さな【狂気 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【トラウマに応じてダメージを与える空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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●終わりという、救いを
猟兵達は泥人達との戦いを終えて、更に奥深く。
恐らくは儀式場が存在する場所へ歩みを進めていく。
……近付いている筈なのに何の物音もしない、あまりにも静か過ぎる。猟兵達は儀式を阻止出来たのだろうか。いや、もしそうなら失踪者達の助けを求める声がしてもいい筈だ。声が出せない状況なのかもしれないが。
きっと、失踪者達はまだ生きているんだろうと信じたかっただけかもしれない。
猟兵達の内、誰かが目の前の扉を開けた瞬間だった――。
「ア゛、ア゛ァ――。ネ――ェ、キ、ヅ……デェ……」
――そんな都合の良い話だったならば、どれ程良かっただろう。
確りとした防音設備は、儀式が終わるまで此の邪神に気付かせない為だった。
扉を開いた今、目の前の継ぎ接ぎだらけの邪神は遠慮なく叫び声を地下室内に響かせる。男子、女子、どちらも混ぜ合わせた怪物。所々混ざっているのは制服だったものであろう、切れ端。そう、此の邪神は……失踪者達の身体で作られているのだ。
もう助ける事は出来ない。否、まだ出来る事があるじゃないか。
猟兵諸君、グリモア猟兵が言っていた筈だ。覚悟を決めて此の場所に立つならば、目の前の悲しい怪物に終わりを齎さなければならない。
気付いて欲しかった相手を、自らの手で殺めさせる訳にはいかないのだから。
【お知らせ】
プレイング受付開始は『3月7日(木)8時30分』以降となります。
村井・樹
信じる者は救われる、なんて言うが
……信じた末路がこれだなんて、救いようがねぇ
お前もそう思うだろう、『紳士』?
修羅双樹を発動
俺が『存在感、フェイント』で陽動し、『盾受け、オーラ防御』で攻撃を凌ぐ
その間なら『紳士』、お前は『目立たない』筈だ
『ロープワーク』であれを捕らえて、そのまま『敵を盾にする』ことで、味方の攻撃を当てやすい状況を作れ
一度捕まえてさえしまえば、『暗殺』だって思いのままだろう?
少しでもこいつらを憐れむ暇があるんなら、さっさと手を動かして。……全部終わらせてやれ
その方が、スッパリ、情も、この先の被害も断てる
『紳士』の好きな『合理的』な考えだろう?
※プレ外の言動、他猟兵との絡み等大歓迎
古明地・利博
(絡み、アドリブ歓迎)
やっぱり碌でもない神だったね。全くもって笑えないよ。
今の君たちを君たちの両親は見たがらないだろうね。
犠牲者の成れの果てを憐みの表情を浮かべ、一瞥した後【不浄の炎槍】を詠唱、【属性攻撃】で燃やすよ。
槍は化け物の四方八方から、全身が満遍なく燃えるように。
死体には火葬が一番だとおもうからね。
それと、喉と目には確実に当てたいな。面倒そうな攻撃してきそうだからさ。
「救いを求めるのは悪い事じゃないと思う。実際、私も何度も求めた事があるからね。……でもね、実際に救われたのは一度も無かった。それで漸く気付いたよ。求めるだけじゃ良くならないってね。」
飛鳥井・藤彦
【WIZ】アドリブ、他PCとの共闘歓迎
(邪神を見て普段見せないげんなりした表情で溜息をつき、頭を掻き)
まぁこの形も芸術なんやろなぁ。知らんけど。
ほんま宗教絡むとロクなことないねん。
……よし、決めた。
最後位はもうちょい綺麗に彩ったるわ。
歪な女神に対して大筆で【なぎ払い】攻撃しつつ、春らしく優しい桜色の【塗料】を【吹き飛ばし】て【グラフティスプラッシュ】発動。
桜色の塗料の飛沫で表現するのは桜吹雪。
美しくも儚く散りゆく短い命。
時に愛でられる前に風雨に晒され、気づかれぬ内に果てるもの。
「……散る桜、残る桜も散る桜ってな」
救えなかった命もいつかは果てた命。
そう折り合いをつけ。
描いた満開の桜は弔いの花。
●嘆きの声
「ア゛、ァ……ギ、ギキ、ヅ……デ、ネェ……」
継ぎ接ぎだらけの、焦点の合わない双眸は猟兵達に向けられて……かと思えば全く別の方向を見つめ始める。気付いて、気付いて、気付いて。細やかな祈りは歪み、渇望のままに動く犠牲者達……否、今は邪神たる者。
信じる者は救われる、なんて良く言うが。信じた結果が此の末路、救いようがねぇ話だ……チッ、と小さく舌打ちを一つ。
「(……お前もそう思うだろう、『紳士』?)」
村井・樹(Iのために・f07125)、其の不良人格は己の内側に問い掛ける様に内心で呟く。返事は無い。……憤り故に言葉が出ないと言った所か。
「やっぱり碌でもない神だったね。全くもって笑えないよ」
犠牲者達の成れの果てを憐れむ様に見据えて、はっきりと告げるのは古明地・利博(曰く付きの蒐集家・f06682)だった。譫言の様に呟き続ける邪神へ、彼女は決定的な一言を告げようとする。
「今の君たちを君たちの両親は見たがらないだろうね」
……ぴたり、と。ほんの少しの間、邪神が硬直する。
猟兵達の行動により、邪神復活儀式の完遂は食い止めた。今の邪神は不完全な存在なのだ。故に……吹いては消えてしまう灯火の様な、個々の意識が残っていたのだろう。しかし、揺らぎは即座に修正されて、また気付いて欲しいと邪神は繰り返す。……救えないと決定付けるには充分過ぎる証明だ。
「ほんま宗教絡むとロクなことないねん」
普段の飄々とした様子とは違い、げんなりとした様子で溜息を零す。
今はもう邪神とは言えど、其の作品は犠牲者の骸で造られた者。此の形も芸術なのかもしれないが、飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)にとっては畑違い。もっと明確に言うならば……知らんけど、とでも言いたい。
「……よし、決めた」
頭を掻いていた手を止めて、代わりに輝紅篠画を手にしながらぽつり。
歪められた願い、弄ばれた命。せめて、手向けの花の一つも無ければ、安らかに逝けないだろう。無論、薄暗い地下室に花などある訳がないから。
「最後位はもうちょい綺麗に彩ったるわ」
……それでも自分には出来る事がある、浮世絵師の腕の見せ所だ。
●散り逝く命の花
「ギヅイ、デ、ヨ゛ォオ゛オ゛――ッ!!!」
狂える邪神は絶叫する。歪な願いを撒き散らす。
無論、猟兵達が共感をする筈がない。だが……此の邪神は何人の犠牲者達によって作られたのだろう。誰も肯定しなくても、内側に存在する者達の願いは一つ。人数分の共感が邪神を強くするのだ。
「(……喉と目、かな)」
確実に当てるべき部分を確認して、古明地は即座に詠唱を始める。
詠い終えるまでの間、村井と飛鳥井は足止めの為に動こうと彼女を背にして。先に動いたのは村井だった。……いつまでも黙ってねぇで手伝え。『不良』の人格は応答を聞く前に修羅双樹を発動、『紳士』を呼び出す。
「……っ」
『紳士』は改めて邪神と向き合い、痛ましさに目を逸らしそうになる。
それでも『不良』は『紳士』に鋼糸を押し付けながら、真剣な眼差しで告げるのだ。
「少しでもこいつらを憐れむ暇があるんなら、さっさと手を動かして。……全部終わらせてやれ」
――『紳士』の好きな合理的な考えだろう?
不良らしい悪い笑みを浮かべて、はっきりと。情を、此の先の被害をスッパリと断つならば、そうするべきだ。……忘れるな、総ては【I】の為。
其の言葉で漸く覚悟を決めたのだろう、『紳士』は静かに頷いて。『不良』の考えを読み取り、早速行動に移そうとする。
……向こうは大丈夫そうやね。大筆の軸の部分を使い、振り下ろされた邪神の手を払いながら飛鳥井は笑む。其れは普段通りの微笑み、数度の攻防を繰り返したが彼にはまだ余力がある様だ。
邪神は引き続き、飛鳥井に攻撃を仕掛けようとして……標的を『不良』に変更する。気付いてもらえなかった、其の事実が己よりも存在感がある様に見えた『不良』への妬みを抱かせたのだろう。相変わらず焦点は合わないままだったが、邪神の腕は確実に『不良』へと伸びる。防御の為のオーラを、滅私奉公に集中させて。彼に届くまで、残り僅かな距離だった。
「y'-gotha f'- ng-n'vivet -orhstm-llll -orCthugha-ugg uaaah」
――だが、其れも届かない。古明地の詠唱は完了した。
伸ばした掌に突き刺さり、直後に数多の赤黒いジャベリンが続く。数は九十本、属性は火。ジャベリンの殆どが邪神の全身を貫いた後……其の総てが発火、敵を焼き尽くそうとする。特に集中して刺さっていたのだろう。喉から溢れる炎は凄まじく、邪神が手で押さえても消えない。
「……救いを求めるのは悪い事じゃないと思う。実際、私も何度も求めた事があるからね」
炎に悶え苦しみ、呻く声を上げている邪神を見つめて……古明地は語り掛ける。
「……でもね、実際に救われたのは一度も無かった。それで漸く気付いたよ。求めるだけじゃ良くならないってね」
今更もう、遅いかもしれないけれど。伝わる筈も無いのだろうけれど。
……それでも彼女は言いたかった、伝えたかったのだ。叶わないと知っているからこそ、不浄の炎槍によって燃え続ける姿を確りと見つめて。
猛火から逃れようと暴れ始める邪神の身体を、不意に何かが絡め取る。密かに背後に回っていた『紳士』が持つ、鋼糸による捕縛。もがけばもがく程、糸は深く食い込むばかり。
悲鳴が地下室内に響き渡る。其の声に揺らぎそうになる覚悟を『紳士』は歯を食い縛って堪える、彼らを終わらせる為に……!
「飛鳥井、さん……!」
「はいはい、任されるで」
輝紅篠画の先端には優しい桜色の塗料、動きを止めた邪神と向き直り、飛鳥井は薙ぐ様に大筆を振るう。ただ塗り潰すのではなく、歪な女神に彩を与える一閃。枯れていた枝に、美しい桜吹雪が舞い踊る。気付けば、美しい満開の桜が邪神の身体に描かれていた。
「……散る桜、残る桜も散る桜ってな」
其れは美しくも儚く散りゆく短い命。時に愛でられる前に風雨に曝され、気付かれぬ内に果てるもの。
……せめて気付いてあげられれば良かったけれど、今更遅い事も猟兵達は理解している。救えなかった命も、いつかは果てた命だったのだから。そんな風に折り合いをつけるしか出来ないのだ。
今、出来る事はせめて……邪神を倒し、その後で犠牲者達を弔う事程度だろう。
――邪神(ぎせいしゃたち)の撃破まで、あともう少し。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シエン・イロハ
シノ(f04537)と参加
(…生きていてほしかった、なんて、ガラじゃない
想定して足を踏み入れた以上、ショックを受けたわけでもない
ただ…かつて見た“何か”とダブって見えるそれが、酷く気に入らないだけだ)
SPD選択
槍は使用せず、ダガー使用の近接戦
『先制攻撃』『2回攻撃』で【シーブズ・ギャンビット】
接合部や関節の動きを鈍らせる場所狙い
回避よりも『カウンター』で攻撃回数を重ね『激痛耐性』で耐える
…シノてめぇ、さっきの仕返しか(背の痛みに頭が冷えたのか、溜息吐き
気に食わねぇんだよ、アレが
痛みに耐える声なんぞ耳障りだ
…それだけだ
戦闘後、邪神復活の儀式跡が残っているなら再利用出来ないようにしておく
シノ・グラジオラス
シエン(f04536)と参加
POW選択
こうなるのを予想してなかったワケじゃない
最悪の結果なんていつもこうだ
けど、頭はイヤに冷えたままなのは…さっきシエンに殴られたからだと思いたい
『先制攻撃』で発動した【紅喰い】の攻撃力重視に『2回攻撃』を乗せて、
できるだけ全力で戦闘は手短に
長引きそうなら『捨て身の一撃』
攻撃は『武器受け』『見切り』で受け流し、『激痛耐性』で耐える
シエン、あんまり無茶すんなよ前のめりなんてお前らしくもない
(苛立つ背中を叩いて、ニヤリと笑い)
前で無茶すんのは俺の仕事だろ?俺もあの声は聞くに耐えないからな
早く終わらせてやろうや
戦闘が終わったら線香代わりに煙だけの煙草を置いておく
●貴方は何を見る?
さあ、邪神との戦いも大詰めと言った所か。
……最悪の結果なんて、いつもこうだ。こうなる事を見越してはいた、だからこそ覚悟も出来ている。その上で此の場所に踏み入ったのだから。
それでも、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は、そんな自分自身違和感を感じていた。やけに頭が冷えている実感。先程、隣に並び立つシエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)に殴られたからだろうか。勿論、其れもあるとは思うが……。
「(……って、流石に悠長に構えている場合じゃねぇよな)」
明らかに疲弊しているとは言えど、邪神はまだ立ち続けている。油断は出来ない状況だ。だからこそ、シエンといつも通りに……シノがそんな風に考えていた、丁度其の時だった。
「――ッ、シエン!?」
蝙蝠の羽根を広げ、プラエドーの内の一つを手にしたシエンが邪神に向かい、真っ直ぐに駆け出したのだ。
●耳障りな『何か』
……生きていてほしかった、なんてガラじゃない。
想定して足を踏み入れた以上、ショックを受けたわけでもない。
少なくともシエンという猟兵は邪神の『気付いて』という絶叫すら一蹴し、一切の迷いも無く、迅速に邪神へ終わりを齎す。そんな男だろう。何が彼を突き動かしたのか……其れはきっと、邪神ではないのだ。
かつて見た『何か』と重なって見える、しかし其の『何か』を鮮明に思い出せない。だが、彼が気に入らないという感情を抱くには充分過ぎた。
普段は投擲や暗殺に用いる筈のダガーで、喚き続ける邪神の全身を斬り裂く。
「(――黙れ、喚くな、叫ぶな)」
シエンの感情を乗せた攻撃は接合部や関節を狙いながらも、身体の何処かに口の部分が見えれば其処も狙って。
……至近距離での戦闘の代償、絶叫が否応なしに頭の中を揺さぶる。鋭利な爪が頬を、腕を、脇腹を抉る様に引き裂く。だが、其れがどうした。此の耳障りな声さえ止められるなら、其れで――。
「日頃の恨み……じゃねぇ、手が滑ったァ!」
……きっと思わず口が滑ったのだろう、仕方がない。
冗談めいた言い回しで、背中を小突かれる感覚にシエンの動きが止まる。直ぐに何かが迫る気配を察して、其の場からバックステップで離れた。
同様にして離れたのだろう、再び並び立つのは悪友――シノの姿。小突いてきたのも彼だろう、声で大体分かる。それと、背の痛みが中々引かない。
「……シノてめぇ、さっきの仕返しか」
「シエン、あんまり無茶すんなよ。前で無茶すんのは俺の仕事だろ?」
俺の仕事を取らないで下さーい、とまたも冗談めいた言い方を聞いて……そして、冷静さを欠いていた自分に対してシエンは溜息を零す。先程の出来事、動画に収めておいても良かったかもしれない。ニヤリと笑うシノを見て、彼は思う。
「……気に食わねぇんだよ、アレが。痛みに耐える声なんぞ耳障りだ。……それだけだ」
「へーへー。俺もあの声は聞くに耐えないからな」
早く終わらせてやろうや、とシエンに告げると同時にシノは紅喰いを発動。
……言葉の通り、短期戦を狙っているのだろう。邪神の爪と同等、或いは其れ以上に鋭いスコルの牙が邪神の肩に深く食い込む。急接近に対応する間も無く、邪神は呻く様に叫ぶばかり。反射的なのだろう、スコルを引き剥がそうと背中を爪で抉るも……離れない。激痛が走ろうと、耐えられる。此の邪神の動きを止める為に。
「一々喚くんじゃねぇ、耳障りだ」
動かない的ならば、背後を取る事も容易い。
シエンはダガーを手に、焼け爛れた喉を狙う。彼の雰囲気はいつも通りに戻り、其れは攻撃方法にも表れる。ダガーによる斬撃は確かに喉を斬り裂き、其処から淀んだ血が溢れ出した。
「キ……ィ、ェ……」
其れでも、邪神はか細い声で求めるのだ。
何れは怨嗟となっていたであろう声で、願いを紡ぎ続ける。
……ただ、気付いて欲しかった。其れだけだった。そんな声を上げ続けるのだ。
成功
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ペイル・ビビッド
アイナお姉ちゃん(f01943)と
生きるのは楽しいことばかりじゃない
だから神様にすがりたいのもわかるけど
こんなの…
神様に生きるのを諦めさせられたっていうようなもんじゃんか!
前にコイツと似た敵と戦ったことがある
攻撃に合体した人間のパーツを飛ばしてくるかも
レガリアスシューズ全開
【逃げ足】と【第六感】を信じて【ダッシュ】だ
アイナお姉ちゃんは向こうへ動いて
追撃の方向をかく乱させよう
距離を迫られたら平筆で【見切り】→【武器受け】【なぎ払い】【カウンター】
ある程度相手を巻いたら
【力溜め】からのスパッタリングスターで
攻撃をできるだけ撃ち落とす
結末はキツいものになっても
最後の願い…あたしたちが果たしてみせるよ
美星・アイナ
ペイルちゃん(f01836)と共闘
邪神の叫び声は失踪者達の嘆きの声
信じた物に裏切られて傷付き朽ちた彼らの思いの丈だ
ペンダントに触れてシフトする人格は
苦界の枷を打ち砕く天の御使い
「貴方達の最期の願い、私達が叶えるわ」
レガリアスシューズ起動しペイルちゃんとは反対の位置で移動
邪神の攻撃は【武器受け】【見切り】で回避
【ジャンプ】から【2回攻撃】の蹴撃
歌うようにユーベルコード詠唱
赤水晶の欠片を【一斉発射】しその間に剣形態の黒剣で
【なぎ払い】【傷口をえぐる】ように連撃を叩き込む
最後は赤水晶の欠片で錬成した槍で【串刺し】にし【鎧無視攻撃】
焔が灼くのは人身惑わした悪意の枷
返して貰うわ、彼らの涙と魂を
アドリブ可
●浄化の炎は赤く、赤く
貫かれて、燃やされて、喰らわれて、斬り裂かれて。
……其れでも尚、歪められた願いを繰り返す姿は悲痛だった。憧れの人を後から追い掛けて来て、今正に邪神と対峙したばかりのペイル・ビビッド(淡色弾ける筆先の軌跡・f01836)には少なくとも、そう見えた。
「こんなの……こんなの、神様に生きるのを諦めさせられたっていうようなもんじゃんか!」
生きる事は楽しい事ばかりじゃない。神様に縋りたくなる気持ちも解る。
きっと、自分が想像している以上に辛くて苦しかったのだろう。其れでも、現実は変わらない。犠牲者達は縋る相手を誤った、そして……不完全とは言えど邪神と成ってしまったのだ。
言葉に出来ない感情に震えていると、不意にそっと背中を撫でられる。美星・アイナ(インフィニティアンロック・f01943)の温かい手だった。
「アイナお姉ちゃん……」
「……ペイルちゃん、一緒に頑張ろう」
信じた物に裏切られて、傷付き朽ちた彼らの思いの丈。
呻く様に叫ぶ邪神の嘆きの声、其れを聞く度に胸が痛まない訳がない。だからこそ、早く終わらせなければ。
ペイルが頷いたのを見て、美星は胸元のインフィニティ・アンロックに触れる。人格の交代。苦界の枷を打ち砕く天の御使い、どうか力を貸して――。
「貴方達の最期の願い、私達が叶えるわ」
美星が言い切った直後、二人は同時にレガリアスシューズを起動。
ペイルの声に彼女は応じて、互いに反対の方向へと駆け抜ける。邪神は追う様に移動……よりも前に、周囲を見渡す。暗がりで見え辛い場所に無造作に置かれた、『何か』を掴んでは貫かれた場所を塞ぐ様に埋める。
其の光景にペイルは思わず、目を塞ぎそうになるのを堪えた。被害者の骸だったもの、其の残骸で身体を補強しているという事実は……まだ幼い彼女には辛い光景だろう。
「(それでも、頑張るって決めたから……)」
辛い事実を突き付けられる、そんな結末かもしれない。
此処に至るまでの覚悟を思い返して、父親から譲り受けた平筆を握り締めながらペイルは更に駆ける。自ら邪神に接近する為に。其の最中に美星に視線を向ければ、意図を理解してくれたのだろう。詠唱の準備に取り掛かってくれて。
「ギッ、ギギ……ッ、デ、ヨ゛ォ……!」
「……っ、ごめんね!」
上から潰す様な勢いで振り下ろされる邪神の掌を、ペイルは回避する事に集中。武器で受け止める事も考えたが、敵の一撃一撃が大振りである事を踏まえたのだろう。痺れを切らした様に両手を同時に振り下ろす瞬間、彼女は再び距離を取り……平筆を構える。色鮮やかな塗料が、仄かな光を帯び始めた。
「この一筆を流星に変えて……当たれーっ!」
薙ぎ払う様な動きで、筆の先端から塗料が邪神へ向けて飛来する。
始めはただの塗料だったが、徐々に光そのものへと変化して。スパッタリングスターによる光弾を防ごうとした邪神の掌を、的確に撃ち抜く。此れで潰す様な攻撃は使えない、先程の様な修復には時間が掛かる筈。
「アイナお姉ちゃん、お願い!」
「地に落ちた血涙達、姿を変えて此処に集え……」
周囲に浮かぶ二十二個の赤水晶の欠片を模した炎が現れる。
歌は既に終えていて、美星が続けて告げるは彼女の想い。
「焔が灼くのは人身惑わした悪意の枷」
全ての炎を放つと同時に、美星もまた剣形態のDeathBladeを手にして進む。
赤水晶の欠片が突き刺さった傷口、燃える其の部分を狙ってDeathBladeを突き立てる。其れだけでは終わらない。一度突き刺さった欠片を己の元に集束、槍となった炎の先端を邪神へ向けて。
「――返して貰うわ、彼らの涙と魂を」
迷いなく、炎槍が邪神の額を貫く。
其処から燃え広がり、邪なる神は二度火刑に処されたのだ。
……不完全な神は限界を迎えたのだろう、全身を燃え上がらせたまま地面に倒れ伏す。やがて灰となって消えるであろう、それでも……確かに呟かれた言葉を其の場にいた猟兵達は聞き逃さなかった。
「ァ、リ……ト……」
其の呟きを最期に、灰となるまで邪神……彼らは言葉を発する事は無かった。
●弔い
ある者は最期を彩り、花を描いた。
ある者は線香代わりにと煙草を置いて行った。
また、ある者達は二度と利用されない様にと地下施設に存在していた邪神に関係する全てを焼き尽くして、破壊した。
犠牲者達から見れば、泥人こそが捕食者だったのかもしれない。
しかし、邪神へと造り変えられたからとは言え……その時の犠牲者達にとっては猟兵達は捕食者に見えたのかもしれない。
捕食者はどちら、なんて……状況次第でくるくると変わるものなのだろう。
しかし、確かな事実は犠牲者達が最期に示してくれたじゃないか。
猟兵達諸君。君達は確かに、犠牲者達の心を救ったのだ。
――さあ、胸を張って帰ろう。
大成功
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