見よ、アリアケは赤くモえている
「ねえ
白饅頭、こんなネタあるならもっと早く呼んでくれれば良かったのに」
「仕方ないなの。想定よりポン……難易度の高い要求だったなの」
「おい白饅頭、それは一体どういう……」
小洒落た居酒屋の個室に三人?の猟兵の声が響く。溜息を吐いて白饅頭――ナノ・ナーノに詰め寄ったジークリット・ヴォルフガングは、聳え立つ狼めいた両耳をピコピコ可愛らしく動かしつつ、ナノの隣でジョッキを呷るステラ・フォーサイスに視線を向けた。
「だから
参謀本部としては
前職の経験を生かして、
真夏の祭典への参加を要求するなの」
「断る」
「ええー、いいじゃんジーク。誰も
ヘ○シェ○ク矢野の事なんて考えないし覚えても無いよ」
ゴメン、今
前作の事考えてた……しれっとした顔でステラの言葉を聞き流すが、ジークもそれなりに焦ってはいた。確かにウケがイマイチだった一発芸系では最早ケルチューバーとして進退に係わるラインまで来てしまったのだ。
「そ……それは兎も角、だとしたら
陸軍としてはもっと可愛い格好をだな」
「却下でしょ。
海軍としては陸軍の提案には年齢的にも一度客観的に現実を見ろやで反対であって
空軍もそれに同意している」
ステラの端末からライブ通話で
相棒がチカチカとライトを点滅させていた。あの
一輪モトコンポもいるのかと、ジークは再び溜息を吐く。両軍の意見がぶつかり合い議論は平行線のまま――しかしここで黙っているような参謀本部では無い。
「現実は世知辛いなの。しかし参謀本部として陸軍の要望も無視出来ないなの」
「白饅頭……」
両翼をギュッを組んでしたり顔で頷くナノに一縷の望みをかけるジーク。そう、必要なのは――。
「ボクにいい考えがあるなの」
「確かに可愛さはある。以前やった○戒騎士とは根本的に違う事も分かる」
「それ以上いけないなの」
ジークは生まれ変わった。これまでの鋼鉄な感じのジークとは違い、美しい肉体を柔らかな薄布で包み込み、かつてのむせる様な威圧感は殆ど無い。あるのは覚悟の決まった造形だけ。
「だが……これは」
「大丈夫なの。お友達にも大人気間違いなし! なの」
一歩踏み出したジークの動きに合わせて揺れるシルエットはさながら熟した果実の様。引き締まった肉体とのコントラストが絶妙な迫力を醸し出して待機スペースで既に圧倒的な存在感を発揮していた。その格好こそがナノの秘策――勿論、愛しさと切なさと心強さを内包したその
決戦装備はステラが用意した。
「いやしかし」
「しかしも何ももう止まらないのよッ!」
技能が無くても覚悟して、と懸命に真顔を取り繕うステラがジークへ言葉を返す。元々ジークが希望していた『魔法剣士ケルキュア』はもっとこう、プリティな癒し系だった。しかし魔○○士の方が○ンキの客層を鑑みるとより効果が高いと
プロデューサー判断であんな事になっちゃったので、今回の
衣装はステラの意見具申を信頼し炎天下でもダメージが少なく且つ新たなファン層の開拓に寄与出来るこの恰好になった。らしい。
「あ……後が無いのよジーク、これだけは分かって?」
「大丈夫なの君達の世界でもこの位の格好はウヨウヨいたなの」
「やけに詳しいな白饅頭……」
実際多い。むしろ普段の格好から鎧装を外し際どいアクセントを強調しているだけだから実質問題無い――これが
新たなる希望なのだから。そう言い聞かせ、ジークはギュッと拳を握り締めた。
「ええい、ままよ!」
「いってらっしゃいなの」
「ブフ……こりゃあPVも三千倍くらい稼げるかな」
そう、同じ事を繰り返すくらいなら○んでしまえの精神である。
『わ、わァ……』
『凄いのが……来ちゃった!』
『何だこれは』
『ば、爆発しちゃう!?』
どこが爆発するのだ、とジークは訝しんだ。撮影場所に到着するや物騒なフォルムの得物を構えたカメコ達に囲まれて、あたかも機関砲めいたシャッター音の嵐が耳をつんざく。正に戦場、赤々と燃える灼熱の太陽に照らされて、やむを得ずジークは笑顔を振り撒き会場にアピール。そうだ、注目されているという事は何も悪くない。
「……おい白饅頭」
「何か問題発生なの? 大丈夫なの?」
そう、問題はただ一つ。この格好だ。ジークは可愛いに憧れているのであるから可愛い企画をやってみたいと要求したのだ。しかし現実はどうだ。明らかにボディラインを強調し過ぎる艶めかしいフォルム。鍛え上げた肉体をド派手に見せつけるぴったりとしたボディスーツに、通気性バツグンの透け散らかした鎖帷子風のアクセントはどう考えてもスタイリッシュなTA○MA○IN。何だこれは。こっちのセリフだ。灼熱に晒された素肌から飛び散る汗がぬらりと煌いて、歓声を上げる観客を尻目にジークは小声でインカム越しのナノに言葉を続ける。
「お前の選択こそ大丈夫なのかと問い詰めてやりたい!」
「大丈夫だ、問題無いなの」
自信満々に答えるナノ。それもその筈、全て数字が我々の正義の大勝利を示している。これまでの滑りに滑った一発芸的な企画とは段違い、ドローンでライブ配信されるジークの姿にモニタ前のユーザーはありったけのスパチャを投じ始めたのだ。そしてスパチャが増える度にドローンのカメラアングルがより攻めた画角に変わっていく。ユーザーもカメコもナノも皆、笑顔で大満足なのだから実際問題無い。
「何か客層もおかしいじゃない!?」
「ちゃんと愛と勇気を振り撒いてお金に還元されてるから大丈夫なの」
「収益化キターーーーーー
!!!!!!」
更に驚異的な同時接続数は流れているだけで約束された勝利を齎す――吼えるステラの視線の先には指数関数的に急増する当月の売上。ジークの異論を物凄い速度で押し流していく現実が戦いは数である事を改めて突きつける。
「つまり、どういう」
「いいからとっとこ踊れなの」
とっとこ……ナノの声と共に展開していたドローンが
決戦配備を受諾する。途端、ドローンに内蔵されたスピーカーが爆音で軽快なミュージックを流し始め、一部のカメコが音に合わせて踊り始める姿にジークは警戒した。
「これは……」
「知っているのかステラ」
ぐるぐるとジークの周囲を回るカメコ達。さながら
愛玩用齧歯類が滑車を休みなく回す様に踊り続ける事で、一種のトランス状態に陥り完成された群体となるネットで時々バズっている
儀式の一つ。さながら生贄の様に中心で狼狽えるジークの姿は全世界配信され、会場の異様な熱気を伝える動画は瞬く間にPVとスパチャを稼いでいく。
「だーいすきなの」
『はいせーのっ!』
「ええい、やればいいのだろう!」
流石、歴戦の勇士。見様見真似で即座に振り付けを完コピしたジークはもう生贄では無い。歌姫――否、女神へ転じた○AI○AN○Nが流れる様な所作でカメコ達を従えて舞う。もう出オチでは無い。一騎当千絶対無敵のケルチューバーに、私はなる!
「所でこの曲はいつ終わるんだッ!?」
「そんな先の事はわからないなの」
迷ったら、危険な道に賭けるんだなの。
成功
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