Le retour de la princesse
カミーユ・ヒューズマン
「殲神封神大戦⑰〜忌まわしき過去を売るモノ」で描写していただいた今は亡き異性の幼馴染の眠る海域に赴くエピソードとなります。
「夏休み=お盆=墓参り」と言う発想から。
カミーユの故郷であるそこは滅んだ時に水底深くに沈み海上には何もありません。
「相変わらずじゃのう、ここは……」
麗しのお姫さん号から乗り換えた小舟をくらげたんに曳航して貰って現地に到着すると、念のために海に潜り位置確認。
間違いなさそうと判断出来たら小舟の上に戻り、幼馴染の好きだった焼菓子や似合いそうな装飾品などを小箱に密封したモノに重りをつけて沈めます。
「酒はやめにした。お前の酒の好みはわからなかったからな……」
「わしは今もお姫さんを続けておる。約束じゃからのう」
「最近は他所の世界にも足を運べるようになってな」
「何じゃろうな……話すことはいくらでもある筈なのに言葉が出てこぬ」
最後に花束を海面に浮かべ
「さらばじゃ皆の衆! 来年も土産話を抱えてまた来るのでのう!」
占めっぽい空気は吹き飛ばしていつものノリで「ぬははははっ」と笑いつつ故郷のあった海域を後にします。
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無限に思えるほどに青い海が広がる世界、グリードオーシャン。夢と野望が散らばるこの世界の海には誰にも知られず沈んだまま帰ってこないものも数限りなくある。
……星明りの中海図とコンパスを手にしたカミーユは自分が目的の座標にたどり着いた事を確認する。
「相変わらずじゃのう、ここは……」
海月に曳かれた艀船の上で男は静かな海域を見た。彼は海月に船番を任せ夜の海へと潜っていく。不思議な事に夜にも関わらず月明かりが深くにまで届く、届くからには見えるものもあった。それは嘗ての夢の跡、それを認めた彼は艀船に戻る。
『じゃあ、負けたほうがお姫様ね!』
あの時の言葉が海上を目指す彼を追う。戻った彼を人型となった海月が出迎えて密封した箱を彼に手渡した。それを渡された彼は再度海底を見下ろす。
「酒はやめにした。お前の酒の好みはわからなかったからな……」
そう語らざるを得ないほどに古い知己に向けて焼き菓子や装飾品を詰めた箱を沈めて届ける。
「わしは今もお姫さんを続けておる。約束じゃからのう」
今の自分を彼女が見ていたら笑うだろうか、それとも呆れるだろうか。
「最近は他所の世界にも足を運べるようになってな」
きっと多くの土産話を向かってすることが出来ただろう、それとも王子様となって共に世界を巡っていた未来もあったのかも知れない。切々とした語り口は彼らしくはない。
「何じゃろうな……話すことはいくらでもある筈なのに言葉が出てこぬ」
言葉を紡げば紡ぐ程に息苦しくなる、セイレーンは海に近しい民だと言うのに。静かに海面を見つめる彼に、海はただ波音でしか答えてくれない。そんな彼の肩を海月が軽く叩いた。
「……そうじゃな、こんな湿気たツラなぞあいつらも見たくないじゃろうな」
彼女が微笑みながら手渡したのは、花束。鎮魂の花。カミーユは両手でそっとそれを受け取ると、箱を沈めたその上に浮かべ、そして両腕を拱いて気合を入れた。
「さらばじゃ皆の衆! 来年も土産話を抱えてまた来るのでのう!」
先程まで背負っていた空気はどこへやら、いつもどおりの調子に戻った彼はその場で手を振った。海月は元の姿に戻ると艀船を元来たピンク色の海賊船の方へと曳いていく。その間も「ぬははははっ」と豪快な笑い声を響かせて去っていくカミーユ。
これは、彼の夏の思い出。そして思い出と再会するだけの一挿話。
成功
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