ワイルドハント×闇の救済者戦争祝勝会!
夜と闇に覆われた世界のとある都市の一角に、白亜の教会がある。かつて純白だった壁は薄汚れ、ひび割れて。オブリビオンにすら忘れ去られた過去の遺物。
最近、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)が住処とし始めたことで、静かながらも温かな雰囲気が少しずつ戻ってきていたそこは。
今、大賑わいを見せていた。
「戦勝記念の炊き出しバーベキューだよ!」
音頭を取るのは国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ乙女ハイカラさん・f23254)。呼びかけに応えて集まってきた旅団『ワイルドハント』の面々を見回して、満足気に頷けば。
「設営完了したッス!」
早速、会場づくりに動いていた臥待・月紬(超級新兵(自称)化け狸・f40122)が、召喚した『臥待特技兵小隊』の式神たちと共に報告にやってきた。
見れば、何もなかった敷地内にいつの間にやらテーブルがずらりと並び、バーベキューセットや大きなかまどが幾つもある調理場が出来上がっている。
「
戦いの前に場を整えるのは工兵のお仕事。これくらいお任せあれッス!」
「ほー、さァすが獣戦の現役猟兵。手際イイでやんの」
白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)からの声に、胸を張っていた月紬の狸な尻尾が嬉しそうに揺れた。
先の大きな戦いを終え、緊張感の消えた和やかな雰囲気。
「ダクセでの狩りもとりあえず一区切りってか」
物九郎は適当な場所を見つけてごろりと横向きに寝転がると。ひらひらと適当に手を振って、エラそうに言い放った。
「者共おっつ。褒めて遣わす」
「猟団長に褒められたでござるよ」
そのぞんざいな物言いに、しかし龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は、わーいと素直に喜んで。設営を評価された月紬と共に笑顔を見せる。
純真な姿に物九郎は金瞳を閉じて。そのまま何も言わずに待ちの姿勢に入った。
だから、任せっきりな旅団の長に代わって、主催者の鈴鹿が改めて声を上げる。
「さあ、ワイハンの仁義を感じてもらえるような会にしようね!」
改めてのスタートの合図と、整った会場。
そうなればやることが具体的に見えて来るから。
「戦争は終わったけど、ダークセイヴァーの人たちはお腹空かせてるだろうからいっぱいご飯用意してあげないと!」
アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(涯てに輝く・f13378)がピンク色の瞳をキラキラと宝石のように輝かせて、やる気満々に両手をぐっと握れば。
「ええ。まずはお腹を満たさなければ、ですよね」
「お腹へっちゃ何も出来ないしね」
シプラ・ムトナント(鋼の衛生猟兵・f39963)とソフィア・アンバーロン(虚ろな入れ物・f38968)も頷いて見せてから、視線を合わせて笑い合う。
「ま、戦後の処理はその時考えるとして、祝勝会ね。
あっちこっちで貪り喰ってきたから腹減ったわ」
何だか矛盾したことをぼやきながら、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)もにっと笑って動き出した。
「どこの世界でも戦争で一番割を食うのは牙を持たない民草だ」
ユキト・エルクード(亡霊夜警・f38900)は、赤瞳を静かに一度伏せてから。
「結構な数のロクデナシどもがいなくなったとはいえ、心の傷が癒えるのはまだまだ先の話……せめて腹一杯になってもらって、日常に立ち直る為の一助になれればいいな」
改めて顔を上げながら、微かな笑みを口元に浮かべ。落ち着いた視線で会場を見渡す。
「戦争の後の宴と言えば、海賊の華!! 皆様、パーっと騒ぎましょう!!!」
「はい!!!」
そこに、やたらと勢いのいいシノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海グリードオーシャン・f03214)と流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)の声がノリ良く響き。
「なら、ウチの出番アルネ」
ずいっと前に進み出たのは、超級料理人である天王寺・吾郎(白黒料理人・f32789)。
どっからどう見ても中華な料理人は、ユーベルコード『ウォー・アイ・満漢全席!』を早速発動させて。
「あ、吾郎。極端に辛いのは……」
「分かってるアルヨ」
気遣う鈴鹿に、心配無用とばかりに笑い返すや否や。麻婆豆腐に麻婆春雨、ラーメン、チャーハン、チャーシュー、さらに玉子焼きに唐揚げなどなど、あっという間にずらりと並ぶ大量の中華料理。
「大喰らいもいるし、このぐらい作るアルヨ」
自身もその中に数えながら、続いて吾郎は、封神武侠界から持ち込んできたものを広げ始める。あんまん肉まん、ギョーザにシューマイといった、手軽に食べられる点心系。
それらのために蒸籠も準備しながらも、隣に置くのは沢山の牛肉や羊肉。
だってほら、鈴鹿の号令は『炊き出しバーベキュー』ですから。
「豚肉は腐りやすいから持ってこなかったアルヨ」
気遣いを見せながらも、どんっどんっと肉を並べれば。
「ぼくはブルーアルカディアで回収してきた魔獣肉をたくさん用意してきたよ」
「こちらは、備蓄していた食糧を解放しましょう。
治安維持兼食料確保に近くの森で魔獣狩りをしていた甲斐があります」
鈴鹿とオリヴィアがさらなる肉の山を積み上げていく。
おおー、と感嘆の声を上げる咲花は、だがしかし、シプラと月紬の姿にふっと表情を曇らせた。肉食禁止な世界出身の羊獣人と狸獣人を気遣ってのものなのだが。
ちらり、と視線で吾郎にそれを訴えるけれども。
「獣人戦線? 悪いけど、他を当たるヨロシ」
さくっと返されて、咲花は、はわわ、とおろおろしだす。
その様子に、でもシプラはくすくすと楽しそうに笑って。
「お気遣いありがとうございます。そもそもわたしは文字通りの草食なので食べられませんが、その分皆さんに沢山食べて頂きましょう」
大丈夫と伝えれば、ようやく咲花の顔がぱっと輝いた。
「それじゃ、どんどん仕込んでいくよ!」
そして鈴鹿が早速、肉の山に手を伸ばしていく。
「わーい魔獣肉。私、魔獣肉ダイスキ♪」
ジュルリ、と食欲を隠そうともせずに、メフィスも鈴鹿の用意した肉に歩み寄った。
「美味しくシンプルに食べられる部位を選んできました!」
部位、と言いながらも結構魔獣そのままな肉が多いけれども。
「解体とか下処理は任せて。肉を切り分けるのは得意だから」
むしろそれこそ得意分野と言わんばかりに、気にせずメフィスは手を動かして。
「あ、余った骨とかもらっていい?」
つまみ食い宣言とも聞こえる確認に、笑顔から零れた鋭い歯がキラリと光っていた。これは骨ごといけそうですね。
「大量の下ごしらえには慣れてるッス!」
「ええ。一度にたくさんの量を調理するのは慣れています」
集団行動が基本の軍人である月紬とシプラも、大量の肉に物怖じせず。
「兵科は衛生兵ですが、その辺りは叩き込まれておりますので」
「炊き出しは慣れたモン、と。さすがの手際で」
テキパキと捌いていくシプラに、寝転がったままの物九郎が間延びした賞賛を送り。作業の合間で衛生兵がぺこりと一礼。
「……こうしていると、義勇軍で調理班にいた頃を思い出すッス」
月紬も見事な仕事ぶりを見せながら、ふっと遠くを見て。
「班長が滅茶苦茶怖かったけど……おかげで体が覚えてるッス」
ふるふると首を左右に振ってから、また手元の肉に意識を戻した。
「こちらは塩漬けしてあるので味付けはほぼ不要ですよ」
オリヴィアは、多少手間が省けるものを用意したと告げるけれども。
それでも用意した肉の量が量。解体するのもありますし。
ソフィアや咲花も手伝うけれど、圧倒的に手が足りないから。
「騒いでるだけではダメでしょうから、協力しませんとね」
「はい!!!」
状況を察したシノギは、まだ妙なノリを引きずっている影郎を置いておいて、ゴーストキャプテンたる能力で自身の幽霊海賊遊戯戦から多数の死霊を召喚した。
真っ黒な顔の横に青い人魂、と死霊らしい外見なれど、メイドや料理人ばかりを選んだからその手際は文句なし。よく見ればその動きには愛嬌も見え、皆へ接する態度も優しいものだった。
とはいえ、やはり第一印象はどうしても、なので。考えたシノギは、死霊たちの首から花輪をぶら下げて愛嬌プラス。
「これで住人の皆様も安心です」
「はい!!!」
誰かツッコんであげてください。
「ぼくもペンギンクルーを呼ぶよ!」
それならと、鈴鹿も『スカイクルーザー・ヨナ』から烹炊員担当の料理得意なクルーを集めてきて、死霊と一緒にお手伝い。
可愛いペンギンでファンシーさが加算されたところで。
「作業員の頭数が多くて困ることだけはないはずだ」
百人を超えるユキトが、ふっと微笑み、調理に加わった。
「お化けメイドやらペンギンやらがいるんだ。俺が沢山いたっていいだろう」
「陽炎分身でござるか!?」
ユーベルコードと見抜けても、さすがに同じ顔がずらりと微笑んでいるのは凄い光景なので、咲花が慌てるのも無理はない。
でも、その見た目さえ気にしなければ、人数が必要な作業や、繰り返しの単純作業を臨時作業員たちが引き受けることで、細かな部分に手が回るから。
作業効率は格段に上がる。上がる、けれども。
「……なんか準備の様子だけでも、ちょっとした見世物っスね」
物九郎が半ば呆れ気味に呟くのもむべなるかな。
その間にもバーベキューの準備が整っていき。
「これでみんなにも食べやすい感じに仕上がったかな!」
ふぅ、と鈴鹿が息をつけば。
「それでは、どんどん焼いて参りましょう」
シプラがすぐに次のステップへ。
「
糧食のお肉は焼いたことがありますが……普通のお肉を自分で焼くのは初めてかもしれませんね」
草食獣人が焼く肉という倒錯的な状況なれど、シプラはにこにこ楽しんで。火加減を見ながら丁寧に焼いていく。
「食欲を誘う香りが!」
じゅうじゅうという音にも惹かれて、オリヴィアがうっとりとした表情を見せました。
それじゃあこっちでも、と鈴鹿が魔獣肉をバーベキューセットへ移動すれば。
「まだ肉が大きかったかな?」
「丸焼きよ丸焼き! 飢えた時はこーいうシンプルな調理法が良いの!」
躊躇う鈴鹿から、気にすることはないとメフィスが肉を受け取り、豪快に焼き始め。
「んで、そっちでスープを作るわよ」
かと思えば焼き手を鈴鹿に任せて別の調理台へ。
「僕もスープ作ろう」
その動きを見たソフィアも、鍋を選んで持ってきた。
「スープの作り方には拘りがあるの。
まず『具の少ないスープはスープにあらず』よ」
メフィスの言葉にうんうんと頷いて同意しながら、ソフィアは野菜を大きめにざく切りしていく。
その種類も量も豊富で。そこに干し肉も加えれば、具沢山で食べ応えのあるものになるのは一目瞭然。そこに、UDCアースから持ち込んだ固形のコンソメを入れて味のベースを作り、ぐつぐつと煮込み始めると。それは、ポトフもどき、といったところか。
「味はこんな感じでいいのかな?」
ちゃんと味見はしたけれど、と不安そうに首を傾げるソフィアに、オリヴィアが目を留めて。味見係に名乗り出る。
「動きすぎたから味覚に自信ないんだよう」
「確かに、動くと味が濃いものを食べたくなったりしますからね」
理由にくすりと納得しながら、でも大丈夫ですよと太鼓判を押して。
「薬草も入れませんか? 滋養強壮に」
オリヴィアが差し出した新しい野菜に、ソフィアも笑顔で賛同した。
「よかったらそちらにも」
メフィスにも同じように勧めれば、味違いの具沢山スープにも薬草が入り。
「あと老人や病人用ね」
同じ材料でメフィスは別の鍋を用意する。
具は細かく刻んで、汁にとろみをつけて。嚙む力や飲み込む力が弱くても、むせたり詰まったりすることなく食べられるように、と配慮された一品。
「具沢山なのは変わらないから、スープでも腹にはたまりやすいし」
どう? と見せれば、ソフィアとオリヴィアから賞賛の拍手が送られました。
さらに、向こうで寝転がっていた物九郎も。ものすごくビビったような、狐につままれたような猫顔を見せて。
「ああいう配慮も、やろうと思えば出来るんですわな……?」
バケモノを3・4個増やした口で喰い散らかす様子が常で、つい先ほどまでも豪快に肉を扱っていたメフィスの、意外で新鮮な姿に目を丸くしていた。
のだけれど。
「さらに『ウォー・アイ・満漢全席!』アルヨ」
「え? 満漢全席!? わーい、私満漢全席だいすき!」
向こうで再び腕を振るい始める吾郎とずらりと並ぶ中華料理に、一気にメフィスのIQが下がって。あっという間に戻ったいつも通りな姿に、違う意味でまた物九郎の目が丸くなる。猫が豆鉄砲食らったような……は違うか。
「せっかくだから、かまどを一口借りるッス!」
そしてこちらから漂うのはスパイスの香り。月紬が作るカレーだ。
軍で覚え、週一で作って磨いた腕前を振るい。きっと初めて食べるであろうこの世界の人にも食べやすいように甘口アレンジを加え、さらに。
「オリヴィアさんの薬草も入れてみたいッス!」
「是非」
声を上げればオリヴィアの快諾が返り。スパイスと薬草の見事なブレンドを見せる。
「肉は別で調理してるッス。好みで後入れするのが獣人戦線スタイル、ッス!」
「なるほどでござる」
月紬の出身世界ならではの気遣いに感心する咲花の手元では、川魚がいい香りを漂わせていた。地元で捕ってきた川魚は、肉はきっと鈴鹿たち他の面々が沢山持ち込むだろうからと思ってのもの。
そしてさらに。
「やはりお肉を食べるなら
これも食べたくなってしまうのが日本人でござる!」
焼き魚の横で炊き上がりを待つのは、飯盒炊飯。
(「お米であればシプラ殿もいけるのではないでござろうか?」)
ちらりと羊獣人を見て思えば、視線に気付いたシプラが、不思議そうに首を傾げ、でもにっこりと微笑んでくれたから。咲花もにぱっと笑顔を浮かべる。
(「……ご飯を完全に忘れてたッス! 龍巳さんに感謝ッス!」)
そんなやり取りの横で、カレー完成間際の月紬がこっそり慌てていたりするのですが。
助けの手になっていたことなど欠片も気付かぬまま、咲花は調理を進め。しかし魚と米との並行作業にだんだん手間取ってきて。
「手伝おう」
そこにそっと、ユキトが手を出した。
分身ではなく本人である。まだこの旅団に来てから日が浅いユキトは、団員との親交を深めたいと思っていて。いい機会と自ら咲花の隣に並ぶ。
「これなら俺にも手伝える」
言って、苦笑しつつ視線で示す先には吾郎の姿。
「流石に本格料理はプロにお任せだ」
見てくれからしてパーフェクトな料理人の姿を、その手際の良さと出来上がる見事な料理を、視線を追った咲花も眺めて。納得の頷きを見せた。
「……いや、手伝う必要ないくらい皆様めちゃくちゃスゴイですね」
それは、死霊を呼び出したシノギも感じていたことで。吾郎に至っては、もはや店舗、とまで評してみたり。
それでも死霊やペンギン、分身といった単純作業の担い手たちは、細々としたお手伝いを地道に着実に重ねていたから。
「みんなの協力体制がバッチリで、すごい手際で準備が出来てくね」
進行具合を眺めた鈴鹿も満足気。
「これならたくさん来ても捌ききれそうだ!」
「あとは、デザート作るアルヨ」
足りないのはそれだろうと動き出した吾郎に、鈴鹿もにっこり、杏のデザートをいっぱい並べだす。甘く煮たプレザーブから、タルトにクッキー、パウンドケーキまで。
「素朴なお菓子の方が馴染めるかと思って」
杏の味を大事にした優しい甘味の数々に、鈴鹿の気遣いが香り立った。
「月餅は持ち込みアルヨ」
吾郎は、丸くずっしりなそれを並べた後に、杏仁豆腐やマンゴープリン、パインや桃がごろごろ入ったゼリーも次々作り出す。
「やっぱり、めいっぱい作っておくアルヨ」
自分もめいっぱい食べたいですからね。
「何だかあっという間に料理が出来てるんだよう……」
デザートまで続く勢いに押され気味で、おろおろしていたのはアヴェロマリア。
ならばと気を取り直して、買って出たのは配膳役。
何しろ次々と料理が出来てますからね。
小柄で細腕なアヴァロマリアだけれども、サイキッカーとしての念動力があるから、一度にいっぱいよそっていっぱい運べます。
「……うむ、出番無いですねえ」
というわけで、本当に役目がなくなってしまった影郎がここに。
手持ち無沙汰のまま、ぐるっと会場を見回して。
ふと、そこに、近くの住人たちだろう、見慣れない姿が混じっていることに気付いた。
「あんたらが猟兵、なのかい?」
「俺めのコトは猟団長と呼べ」
忙しなく動く者たちには近寄りがたいのか、寝っ転がっている物九郎に恐る恐る話しかけた大人は、何かぶっきらぼうにあしらわれていて。
子供たちもどこかおっかなびっくり。
ならば、と影郎は頷くと。
「――これはここ最近の話」
子供たちの興味を惹くように、物語調に語りかけながら近づいた。
「この世界に危機が訪れた時に現れた嵐の軍団、ワイルドハントの話」
何が始まるのかと、好奇の視線が幾つも集まったところで。
「グワー!?」
「ああっ、ルチャ影が死んだ」
「この人でなし!」
影郎は1人で幾つもの役を演じ分け、いきなり訪れた危機を魅せる。
まあ早々に演者当人が死んでるトンデモ展開なわけですが。
その迫力にビクッとして、引き込まれていく子供たち。
「どこの世界でも戦争で一番割を食うのは牙を持たない民草だ」
「私は衛生兵です。それでも……戦います!」
「ここで逆転するッス」
「料理は炎あるよ!」
「シルヴィア! やっちゃえっ!」
「さあ略だ(オブラート)!!
奪われた! ものを!! 取りかえし!!! ましょう
!!!!」
尊い仲間の犠牲の後、1つになった皆の心。
どんどんと増える登場人物に、そしてその特徴をしっかり捉えて表現する影郎に、子供たちの瞳に希望の光が灯って。
「よーし、者ども――ニコイチのフォーミュラを狩りに行く」
「目標、発見! 今よペンギンクルー!」
「此処で喰らいつく!」
「決めるでござるよ、バビロニア忍法!」
いつの間にやらシノギの死霊たちも影郎の声に合わせてその役割を演じていけば。
舞台はいよいよ盛り上がり、クライマックスへ。
「そして、全ての力を結集した結果……」
「破ァッ!」
流れを読んで飛び込んできたオリヴィアが、渾身の
天霆轟雷脚を放てば、その輝きに子供たちから歓声が上がり。
「戦争は終わった――とさ」
締めくくりの影郎の言葉に、拍手が巻き起こった。気付けば子供たちの後ろで、大人たちも観客に加わっていた様子。
最後まで見てくれた子供たちにキャンディを配りながら、影郎は会場をちらりと見て。
「さて、そろそろご飯ですよ、皆さん食事に行きましょう。
温かい、美味しい料理が待ってますよ」
猟兵への警戒が大分ほぐれた住人たちを、オリヴィアと共に誘導していった。
「いらっしゃいだよう」
出迎えたのは、アヴァロマリアが念動力で運ぶ料理の数々。
席を勧めながら、子供に大人に老人にと、相手を見ながら余さず料理を行き届けて。
「えへへ、なんだかウェイトレスさんになった気分……」
その近くで、星霊スピカのシルヴィアも、くるりと踊るように主に子供たちを誘う。
さらに、何か目玉と牙の生えた口のついた黒スライムが、潰れたような見た目で器用に温かなスープ皿を運んできた。
「温かいうちにどーぞ」
それを生み出したメフィスが、眷属の働きを見ながらにいっと笑い。
「……つまみ食いしたらおしおきよ」
釘を刺すと、一部の黒玉がギクリとしたように震える。
「うん、準備おっけーだね」
料理が並び、お肉もある程度焼けて、人も集まったところで。
鈴鹿は、オリヴィアを促すように、ぽんっとその肩を叩いた。
「えっ、私ですか?」
開始の挨拶と正しく察したオリヴィアだが、その役目が自身に来たことに、金瞳に困惑の色を混ぜる。
確かに会場提供者ではあるけれども、もっと適任がいる、と物九郎に視線を投げるけれども。ワイルドハント猟団長は、オリヴィアの様子に気付きながらも、運ばせた料理を前にふんぞり返っているだけで動こうとしない。
そして、その姿を指で示した鈴鹿が、ね? とにこにこ笑うから。
「皆さん、戦争お疲れさまでした!」
オリヴィアは、任されましたと声を張り上げた。
「すべてが終わったわけではありませんが、大きな戦いは一区切りしました!
良きにつけ悪しきにつけ、色々と変化があると思いますが、今宵は勝利を祝って大いに盛り上がりましょう!」
「たくさんたくさん、召し上がれ♪」
響いた開会の号令に、そしてアヴァロマリアの誘いに、美味しい時間が始まる。
「いただきます!」
ダークセイヴァーでは馴染みのない料理も多いだろうと、鈴鹿は率先して食べ始め。美味しいことを身をもってアピール。
「なかなかいけるアルヨ」
「カレーも我ながら上出来ッス! ご飯があってよかったッス!」
「焼けたそばから食べられるのもいいな」
吾郎も月紬もユキトも、食べながら住人たちに勧めていく。
いや本当に美味しいですし。種類も豊富でいたれり尽くせり。ビュッフェみたい。
もちろん量も豊富なので、遠慮なんていりません。
「小隊の皆も食べるッス!」
設営を手伝った臥待特技兵小隊も、御馳走に預かります。
「プロの料理人のご飯が食べられるって凄くお得な気分」
「炊き出しなのにものすごく豪華なパーティーになっちゃったかも?」
中華をあれこれつまむソフィアや、どんどん焼けていく肉を次々配るアヴァロマリアも驚き笑顔。
豪快に焼いてワイルドな味付けで楽しむ数多の肉はもちろん大人気で。
「マリアもみんなと一緒に食べよっと♪」
頑張ったアヴァロマリアもお腹が空いてきたから、あとの配膳は死霊やペンギンたちに任せて食べる方に参戦。
「どれもとっても美味しい!」
「あなたも。此度の戦争でよく活躍してくれましたから」
オリヴィアは、戦争で共に戦った守護霊獣を呼び出し。黄金に輝く獅子の前にも肉の塊を置いた。
あ、黒スライムもメフィスの許可が出て、主と一緒にバクバク食べています。
「白米も美味しいですよ」
勧めてくれた咲花にシプラが微笑を向ければ、ぱあっと笑顔が華やいで。
「外でのバーベキューなんて絶好のパリピシチュでござるな!」
咲花自身も肉に白米にと舌鼓を打つけれど、感動するのは味だけではない様子。
「猟兵になってから順調にパリピな経験を積めているでござるし、拙者が立派なパリピになる日もきっと近いでござる」
「相変わらずパリピを極めるのに貪欲っスね」
うんうんと1人頷く咲花に、こちらも肉を食べながら物九郎がにやりと笑う。
「なんなら一発芸でも披露して来なさいやオラッ」
「うぇぇ!? 一発芸でござるかあ!?」
そして急な無茶振りに、咲花はおろおろ考えて。
「に、ニンニンでござる!」
紙皿を投げ、さらに食べ終わった串を苦無のように投擲すれば。見事に射抜かれた白い丸が、近くの木にいくつも貼り付いた。
子供たちを中心に拍手と歓声が巻き起こるけれども。
「はっ!? 咄嗟過ぎてつい
忍者っぽい事をしてしまったでござるう!?」
当人は頭を抱えています。
その様子に物九郎は苦笑して。そしてちらりと宴会を見て。
「……まあ、そのヘンのがもう既に、かくし芸大会みてーな絵面じゃありますけどもよ」
メイド死霊にペンギンクルー、黒スライムに分身体。金獅子と星霊スピカと賑やかな様子に、さらに苦笑を深くした。
「肝試しとなんかセットみたいになってる様にも見えるでござる……」
咲花も、特に死霊と黒スライムをじっと見てしまって。
でも気を取り直すようにぶんぶんと首を振り。
「細かい事は気にしたら負けでござるな!」
「おや、咲花様。メイドをじっと見つめて……きっと恋しいのですね!
それでは、そんな咲花様にも花輪を!! お揃いですよ!!!」
「いや恋しくないというか肝試しが追いかけてくるでござるうぅ!?」
シノギがけしかけた死霊が、花輪を差し出しながら咲花と追いかけっこ。
「愛嬌マシマシですから。住人たちも楽しめるでしょう」
別のメイド死霊は住人へと花輪をそっと渡しています。尚、先ほどの影郎の講談のおかげか、こちらは逃げ出すまでの抵抗ではなくなっていたようです。ちょっと笑顔がひきつってはいますけれど。
そんな騒ぎを眺めていると。じっと物九郎を見つめる子供。
特に愛想を見せず、肉を食べながらふいっとそっぽを向く物九郎だったけれども。
「スキに飲み食いして行きなさいや」
言い放たれたぶっきらぼうな言葉から滲み出る優しさに、一瞬きょとんとした子供の表情が、すぐにふわっと緩んで。
「はい!!!」
何故か影郎が妙なテンションで返事をすると、子供の背を押して料理の方へ連れて行った。あ、また猫が豆鉄砲食らってる。
「お怪我をされている方はいませんか?」
焼き手も食事も一段落したシプラは、衛生兵としてやっぱり持って来ていた救急カバンを手に住人たちの間を回っていた。
戦争はもとより、激しい戦いが続いていた世界ゆえ、傷ついている者も多いだろうと差し伸べる優しく温かな手。なにしろ軍用の医薬品、戦傷にはよく効くのだ。
後は、体力も大事だから。
「食べられそうなら、沢山食べてください」
食事も勧めれば、ペンギンクルーがどれにする?と言うように料理を運んできた。
「あれ? シルヴィア?」
くいっと飲み物を空けたソフィアが見つめる先では、星霊スピカが子供たちの間をふわりふわりと飛んでいて。そのふわもふで可愛い身体で、負傷ももちろん、それよりも心の傷を癒している様子。
ぎゅっと子供と抱き合うのを見て、ソフィアはふふっとまた飲み物を呷った。
そしてユキトも。料理を間に、住人たちにそっと話しかけて。
浮かない顔をしている者を優先的に、その辛い気持ちを吐き出させていた。
(「これでも歳だけは取ってるんでね」)
少しでも心が楽になるように。
耳を傾け、ゆっくりと頷いて。
(「理不尽な思い出はさっさと砕くに限る」)
自身にできる治療をと、ユキトは静かに寄り添っていく。
「いつも通り騒げば、きっと皆の心も晴れます」
一方でシノギは、がばっと立ち上がると料理人死霊が運んできた酒樽を指し示し、陽気な声を張り上げた。
「さぁお酒です!!!! お酒を飲みましょう
!!!!」
「はぁい」
応えてアヴァロマリアが念動力で配り出す。尚、アヴァロマリア自身は未成年なので、酒解禁はまだおあずけです。
「私も飲めます」
逆に、20歳になったオリヴィアは、はいっと手を挙げ受け取って。
「こっちは老酒アルヨ」
焼けた傍から肉を消していた吾郎も、持ち込んでいた封神武侠界の酒を勧めた。
料理とは別の盛り上がりを見せて来た側で、メフィスもくいっと飲んでから。
「え、これお酒なの?」
おいしー、とおかわりおかわり。
「猟団長様もほら! 中心に混じって! ほら!」
シノギが物九郎をずりずり引っ張ってくれば、面倒臭そうにしつつも、念動力で目の前に来た酒を無造作に掴み、あっさり空にしてからにっと笑った。
そのやり取りにふふっと微笑んだオリヴィアは。
ふと、かぱかぱと飲み物を干しているソフィアに気付き。
「ソフィアさん、もう飲んでます?」
「え? うん2樽ぐらい」
シノギが勧める前から飲んでいたそれが、実は酒だったとあっさり頷くソフィア。
その早さと量に、あら、とオリヴィアは目を瞬かせるけれど。
「あれ? どうしたの? 流石にこれ以上呑んだら酔っちゃうよ」
お酒はもう終わりかなぁ、なんて酔いの欠片も見せない、少し陽気になっているかなぐらいでしかない様子にさらに驚いた。
「む、ソフィア様の酒豪っぷり、負けてられません
!!!!」
気付いたシノギが、勝負とばかりに酒をぐびぐび。
「シノギさん、あんまり飲み過ぎはだめだよ?
ちゃんとお水飲んだり、料理食べながら飲まなきゃ」
しっかり料理をおつまみに、自前の炭酸水も間に飲んで、自己管理していたソフィアがそれを勧めるも、シノギにそれを聞く余裕はすでになく。
「さあ~らくらつら~。うばわれら、ものぉ、ろりかぇし……」
「大丈夫ですかシノギさん」
あっさり酔っ払ってべろべろになったシノギに、シプラが救急カバンを手に慌てて駆け寄り。ついてきた星霊スピカのシルヴィアがふわりと寄り添うと、倒れたピンク髪の頭にちょんと手を乗せた。
「あー、こんなとこにもおにくー♪」
「グワー!?」
向こうでは、メフィスも酔っ払って影郎の頭にそのギザ歯で喰らいつく。
芝居がかって大袈裟に倒れる影郎に、子供たちが、また講談が始まるのかと期待を見せたので。オリヴィアは金獅子にお願いして、子供たちの前に優しく出てきてもらうと。興味を見せた子を背中に乗せたりして遊んでもらった。
咲花は未成年組だから、中華料理やカレーや肉でお米を美味しく食べ終われば、目が向くのはずらりと並んだ甘味の数々。
「デザートは別腹……今日ぐらい一杯食べても大丈夫でござろう!」
「戦争に勝ったお祝いでもあるから、良いよね!」
自分に言い訳を紡ぐ咲花の隣で、アヴァロマリアもにっこり続き。
「早く食べないとなくなるアルヨ」
大喰らいな吾郎が、杏のパウンドケーキを1本丸ごと齧りながら笑うと、咲花もアヴァロマリアも慌ててデザートにとりかかった。
沢山用意してあるので早々なくならないと、作った当人が一番分かっていますけどね。
あちらこちらで紡がれる、美味しく優しく楽しい騒ぎ。
「こういう雰囲気も良いよね!」
鈴鹿も中華なデザートに手を伸ばしながら、ちょっとした催し会場みたいになった大成功の炊き出しバーベキューを眺めて。
「まだ全部解決したわけじゃないけど、明るい兆しが見えている。
だから、こうして、少しでも明るい気持ちになってほしいよね!」
住人たちの見せる笑顔に、より嬉しそうに笑い、告げる。
杏のプレザーブを乗せた小皿を手にしていたアヴァロマリアも。
「オブリビオンがいなくなったわけじゃないし、今のうちに少しでも元気になってこれからも頑張れるように、いっぱい食べていっぱい笑って、いっぱい楽しんでね!」
後半は住人たちに語りかけるようにして、念動力で運ぶデザートと共に、宝石のように輝く笑みを振り撒いた。
「まだ終わりではありませんが、一筋の道筋は見えて来そうです」
頭に噛み付いた酔っ払いメフィスも、頭からだくだく流れてる血もそのままに、にょっと起き上がった影郎も深く頷き。
「この世界は大きく変わったはずッス」
まだ完全勝利とはいかないけれど、と月紬も希望の笑顔を見せる。
(「
獣人戦線にも、いずれ転機が訪れるなら……」)
そう思えば、今回の勝利は、自分にとっても特別なものになるから。
「皆、本当にお疲れ様ッス!」
「皆さん、お疲れさまでした」
月紬と影郎の言葉を聞いていたユキトが、口元に微笑を浮かべて飲み物を掲げた。
大忙しのシプラが、今度は影郎に駆け寄っていきます。
そんなワイルドハント猟団員たちをえらそうに見回して。
酒を干した器をぽいっとオリヴィアに投げ放った物九郎は。
「ダクセの『もっと上層』絡みとかでまたぞろデカい騒ぎでもあった日にゃ、そん時もココを拠点として使わせて貰いますからな」
慌てて受け止めたオリヴィアに、そっとそんな言葉を続けるから。
驚き顔を見せたオリヴィアは、すぐに。
「えぇ、第二層の五卿六眼を踏破し、第一層へ踏み込む時は、是非とも」
覚悟を込めた真剣な笑みを静かに浮かべて頷く。
そこに、住人たちに笑いかけるアヴァロマリアの声が、響いた。
「また悪いオブリビオンが出てきたら必ず助けに来るからね」
成功
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