アポカリプスヘルは北関東荒野。アポカリプス・ランページを経てなお平穏には遠いアポカリプスヘルでも、アウトローが覇権を奪い合う最も危険な地域。
その超危険地帯を、圧巻の肉体が闊歩していた。その数は10……あるいは20とも40とも言えるか。
全員そろって
4つの肉玉を備えた10人の女性。その集団は【豊饒の使徒】。グリモア猟兵谷保・まどかに案内されこの地に訪れた猟兵である。
広大なる北関東荒野さえ埋め尽くさんほどのその集団。一体如何なる目的でここに訪れたのか。
それはここに蔓延る無法者たちの駆除……ではなく。
「ここなら広さも十分ですし、誰にも迷惑は掛かりませんね」
豊雛院・叶葉(豊饒の使徒・叶・f05905)が辺りを見回して言うように、この場所を選んだ理由の一つはこの広さ。何しろ世界が滅びて久しいアポカリプスヘルで、復興や再生など微塵も考えない無法者たちばかりの住む土地。危険度さえ度外視すれば超広大な空き地と言ってもいいのだ。
「えぇ、どうやら彼らも復活はしていないようでぇ」
そしてその危険な無法者も、この一帯を支配していた者は夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)を始めとする猟兵たちの
活躍によって駆逐されていた。その際の経緯があんまりにあんまりすぎたためか、どうやら空いた縄張りに新しい勢力が流入することもなく、そのまま空白地帯として捨て置かれていたようだ。
そんな広いばかりの荒れ地に一体彼女たちは何をしに来たのか。
それは艶守・娃羽(豊饒の使徒・娃・f22781)の隣にある物体が答えを持っていた。高さ2メートル強、幅1メートル強の直方体で、前面には多数のボタン、そして下方には大きな穴。
ある程度の文明を持つ世界を知るなら、それの名前も分かるだろう。
「これが『ケンバイキ』の完成品になりますのね」
そう、それはまさに食堂などにある券売機であった。だが、これから出てくるのは食券などではない。
「悪くならない出来立てが出てくるのは変わらないんだよ」
「食べ尽くしても勝手に止まらないようにもなったのですね」
鞠丘・月麻(豊饒の使徒・月・f13599)と鞠丘・麻陽(豊饒の使徒・陽・f13598)の言い方から察せる通りに、出てくるのは料理そのものだ。さらに以前は出たものを食べ尽くすまで無軌道に溢れ出てくる未完成品であったが、調整した今は開始も終了も任意に決められる。
「おっきなケーキも出せるようになって良かったんだよぉ」
「あのお土産のお肉はぜひとも出るようにしたかったのでぇす」
さらに甘露島・てこの(豊饒の使徒・甘・f24503)やリュニエ・グラトネリーア(豊饒の使徒・饗・f36929)が強く希望した品、即ち『学食らしくない料理』も今や自由自在だ。
「これ一つあればお弁当が足りなくならないのはいいよね」
「荷物が増えないし片付けも考えなくていいのも嬉しいですの」
華表・愛彩(豊饒の使徒・華・f39249)と絢潟・瑶暖(豊饒の使徒・瑶・f36018)はその利便性にも着目する。確かにこれ一つあれば食べ物関係についてはそれ以上の荷物は必要なくなるし、さらにこの装置の特性として、食べ尽くせば容器は勝手に消滅するというのもある。食べ残しさえしなければ後片付けの必要すらないのは環境にやさしいとも言えるだろう。
しかし、そもそも前述の通りこの機械そのものが一般的な券売機サイズがある。そんな巨大なものを持ち込んでは、荷物の軽減も何もないのではないだろうか。
「あの島の事を考えますと、この大きさに納められるのはまこと便利なことで」
そう、なんてことはない。この一団の食べる量は、この機械の大きさよりもはるかに多いのである。一般的な自動販売機の体積は1~2㎥ほど。普通の食料を用意したとて、その程度では到底足りることはないだろう。
なにしろ、その程度の量では彼女たちの『一人分』にすら到底届かないのだから。
「えぇ、これだけあれば桃姫さんもご満足いただけるかとぉ」
「え……まぁ、はい……」
彼女たちは『豊穣の使徒』。その豊かな身を保ち、育むために必要なカロリーは当然常人の比ではない。そして微妙な表情で答えているグリモア猟兵ミルケン・ピーチのボディ花園・桃姫もまた、使徒たちから見込まれるほどの『肉』を持ち合わせていた。その資質を強調するかのように、彼女の肉体は以前に出会った時より『成長』している印象を使徒たちに与えてすらいる。
「例の絡繰を参考に、性能の向上も図られているようですわね」
「元々同じような発想で作られたものみたいだから、流用も簡単だったみたいだね」
娃羽と愛彩が思うのは、封神武侠界で見つかった絡繰。同じく食料が無限に出てくる装置であったそれについていた機能が、この券売機には移植されていたのだ。
「あ、あの……あれですか……」
それが発見された経緯を良く知る桃姫はより一層微妙な表情に。なにしろその機能とは『味を極めて良くする一方、カロリーを爆盛りにする』というものであったのだ。
「はい。その部分も使徒に合わせた調整が施されておりまして」
「それ絶対増える方向にですよね!?」
さらにその機能自体も最適化済みである。もちろん豊穣の使徒向けにだ。
そして、それらを合わせればなぜこんな無法の荒野に彼女たちがやってきたのかの理由もわかる。
「ここなら何があってもだれにも迷惑はかからないのでぇす。人に迷惑が掛からないから何をしても許されるのでぇす」
広さも十分、オブリビオン以外は誰もいない。元々完全無法地帯であるが故に、どんな無茶や無法も咎められないし迷惑をこうむる者もいない。まさに『常識外れ』の行動をするにこれ以上の場所はそうないのだ。デビキン民のリュニエも安心の場所選定である。
「それでは早速始めるとしましょう。皆様、基本は前回と同様でよろしゅうございますね?」
「変わってる部分は各々アレンジが必要なんだよ」
「いつもの事だから大丈夫です」
そう言って、桃姫を除いた使徒たちは各々祈るような姿勢をとる。これはかつて装置そのものを見つけた時と同じような状況だが、その時に比べ全員が飛躍的に『成長』していることもあり、取れるポーズなどにアレンジが加わっていた。
そして、体形同様に増した力が全員に行き渡る。これは彼女たちのユーベルコード。その効果は、大まかに言えば『食事量と摂取カロリーを増やすもの』。
それ自体は前回と同様だが、今回の祈りの時間はさらに長い。そしてそれに比例するように、多重の力がさらに全員に行き渡った。
「依頼じゃないとこういうことができるんですね……」
一人UCを使わず傍から見ている桃姫が漏らす。使徒たちはユーベルコードを複数用い、その効果を重ね掛けしている。オブリビオンと戦う依頼なら複数のUCを使うのは不可能なことだが、その危険がないと分かり切っているなら連続使用も可能なのは以前実験して分かっていることだ。それ故、一つでも十分すぎる力を持つそれを複数人で、多重に重ねていく。そうして常では決してなしえないほどに測定不能な力が、そこに行き渡った。
「それでは、お願いします」
そして十全に力を蓄えたところで、代表してるこるが装置のスイッチを入れた。すると機械がうなりを上げて動き出し、その下にある大きな口から何かが出され始めた。
「あら、まずはこれですのね」
「どうやら最後に出たものの設定がそのまま残っていたようですねぇ」
出てきたのはカレー。この機械を手に入れた際の案件で最後に出てきたものである。しかし、それはその時のままというわけではなかった。
「あ、でもカレーだけなんだよ」
「ライスはこっちに別ででてますの」
麻陽の手にはグレイビーボートに入ったカレールー、月麻の手には平皿に盛られたライス。装置の方を見れば、その二種が別々に次々と出てくる。
そしてお互いの持っているものを合わせるべく麻陽がボートを開けてみると、そこにあったカレーもまた一味違った。
「なんか高級感がある感じだよ」
そこにあるのは色は黒に近く、上にはクリームソースが少量かけられている。中の肉も圧力をかけ柔らかくされた小型のブロック風という、見た目からして高級感のありそうなものだ。
付属のスプーンですくってライスにかけ、全員にそれを行き渡らせる。
「それでは、いただきましょう」
叶葉の号令の下一同で食べてみれば。
「おいしい!」
「おぉ……肉感がすごいのでぇす」
「辛さだけじゃなく甘みもあるんだよぉ」
深いコクのあるルーに大きくもほどけるような肉、そしてしっかり溶け込んでいる野菜の甘みと高級感あるカレーの味わいだ。
およそ一般の学食では出そうにない見た目と内容。これこそがまず第一の改造の成果であった。
「設定を変えれば前のも出せますので、ご所望なら」
「それも魅力的だけど、折角だから新しいのが欲しいかな」
やはり実戦初投入なのだから新機能を試したい所。というわけでボタンをいくつか押しなおして出てきたものは。
「おぉ、お肉なのでぇす」
「これは焼肉ですのね」
出てきたのはタレにつけてから焼き上げられた肉。学食メニューでありがちな焼肉定食的なものではなく、薄すぎず厚すぎず一口サイズに切ったものを炭火で焼いた、まさに『焼肉』であった。それは出てきた瞬間に網から取ったかのように熱々。口に入れてみれば溶けるほどの脂が広がり、表面の焼け具合と中の熱の通り方は過不足なく完璧とまさに『育て上げられた』焼肉であった。
もちろん部位もカルビやタン、ロースにハラミと王道はもちろん、ホルモンも各種取り揃えられている。一々指定するのが面倒なら『プレート』あたりのボタンを押せばワンセット纏めて出てくる機能も完備されていた。
「あれ、これは壺に入ってるんだよ」
「この間るこるさんが持ってきてくれたものに似てますね」
なぜか皿ではなく壺に入って出てきたもの。引っ張り出してみれば一本の長い肉が出てきたが、それを見て桃姫が何かに気づいたような表情になる。
「あれ、このお肉って……」
「ええ。元となるサンプルがあれば『特定の品』も再現できるようになりまして」
それは元が蒸気機関であるこの装置の調整パーツを求め赴いたアルダワ世界で、二人が顔を知る焼肉屋から仕入れた名物壺漬けカルビ。その店秘伝の味付けが施された特製のそれを、現物をコピーするような形で再現することに成功したのだ。
「おいしいですよねこのお肉」
「えぇ……つい食べ過ぎてしまう程で……そう言えば桃姫さん、あの時の件ですが」
るこるが言うと、それまで凄い勢いで肉を食べていた桃姫の手がぴたっと止まる。
「あれからあまり時間が空いていないのもありますが、色々大丈夫だったでしょうかぁ?」
何が、とは言わないし聞き返さない。その時のことで気にかかることなど分かっているからだ。
「そ、それはその……アカリに手伝ってもらってまあそれなりに……」
そういう桃姫だが、その胸はいつも以上にふるふると揺れ、さらにその影になった腹もコスチュームをやや伸ばしながら張り出している。
「やはり、それなりになってしまいますよねぇ……」
それを聞いたるこるも全てを悟った顔だ。
詳しくは省くが、そのアルダワでの一件でも最早当然の様に二人は肉が増えた。だが普段と違うのはそれはUCの反動による制御可能なものではなく、魔法的に効果倍増されていたとはいえ普通にカロリーを摂取、各々の個性に合わせた場所に正当に蓄積されたというある種制御不能な生理現象として起こったものであったのだ。
るこるはカロリーを消費する技や装備を相応に持っているが、桃姫はそんなものはない。結局いつも通り、スポーツに明るい仲間に監督して貰って普通に減らしたようだが、やはりそれからの期間の短さとついた量の桁から完全消化には至っていないらしい。
「やっぱり育っていると思ったのでぇす」
「大きいことはいい事なんだよぉ」
とりわけカロリーオーバーと縁深い食品を愛するリュニエとてこのからの
励ましにがっくりとうなだれるが、結局ヤケを起こしたように肉をかっくらう辺り所詮桃姫は桃姫ということなのだろう。
「まあ、気を取り直し次に参りましょう。こういうのも出せるようになりましたのよ」
仕切り直しとばかりに娃羽が別のボタンを押すと、今度は別のものが機械から出てきた。それは平たく巨大な円形で、やはり熱く様々なものが焼けた香りを立ち上らせている。
「おぉ、ピザですね」
娃羽の出身地ヒーローズアースがまさに本場とも言える、巨大サイズのアメリカンピザだ。当然一切れなんてケチなことは言わず、一枚40センチ級のものが次々と。上に乗る具材も溢れんばかりのチーズに加え、ペパロニにピーマン、オニオンと言った大定番に、むき海老にアサリにイカと言ったシーフード、パイナップルやマンゴーを乗せたトロピカルなものもあり、種類も充実だ。
「全体的には宅配ピザみたいなメニュー、ですね」
「それだけじゃないんだよ」
相方の言葉に麻陽が別のボタンを押せば、そこから出てくるのはまるでタルトのように分厚い生地にチーズとソースが盛り込まれた巨大な『シカゴピザ』。
数年前のクリスマスで麻陽自身がクリスマスディナーとして用意したそれは、もちろん学食で出るようなメニューではおおよそない。
「そう言えばあの時は予知したのも私じゃないし、戦いもあるからいけなかったんですよね。お話を聞いてとても楽しそうでしたので、ずっと興味があったんです」
一発で機嫌の治っている桃姫の様子に楽しそうじゃなくて美味しそうの間違いじゃないか、というツッコミは誰もが飲み込みつつ、そのピザを取り分け食べる。
「チーズがとろとろですねぇ」
「生地はふわふわなのもサクサクなのもあって、上が同じでも土台が違えば全然違う感じになるね」
「釜揚げしらすや大葉が乗っているのもございますね。知った具材でも異国の料理に合うというのは誠不思議にござります」
異国文化には疎い叶葉すら唸らせるそのピザの出来栄え。もちろんスイッチを変えることで薄型の本場ピッツァやもちもちナポリ生地に切り替えも可能だ。
瞬く間に平らげられたそれは、しかしすでに尋常な量ではない。
出る端から片付けられて行くので目立たないが、機械はスイッチを入れた後からフル稼働、出た料理は既にトン単位を越えている。
ユーベルコードの重ね掛けという普段は出来ない手段によって強化された彼女たちの食事量。【姫】の名のもとに統一されたそれは以前でも小さな島一つ分を喰らい尽くすほどの力を彼女たちに齎していたが、その時に比べ全員が様々な意味で『成長』していることにより、そのレベルは数値にすれば最早10億を超えるまさに天文学的と言える領域にまで届いていたのだ。
もちろんその成長には弊害もあり。
「最近また服が合わなくなってしいましてぇ」
「あぁ、私も……まずバストは既製品を合わせること自体が不可能ですし、それ以外の部分もバランスがどうにも……」
体系と服の悩みは女性の定番の話題であるが、やはり色々規格が違い過ぎる。何しろ元も成長率も常人の域ではないのだ。そこらで普通に売っている服など最早何の用もなさないのは彼女らにとっては常識の世界。
「あの、少し勇気がいるかもしれませんが、マタニティコーナーというのは……」
「お腹部分が胸につっかえるんで駄目です」
おずおずと瑶暖が提案するも即時却下。るこるも一緒に頷いているあたり、使徒上位の彼女やそれに見込まれる桃姫のレベルならばその辺りは既に通り過ぎた道ということだろう。
おしゃべりとともに消えていくピザだが、この状態でもまだまだやっとオードブルが終わったと言ってもいいようなところ。
「次は焼き鳥とかもいいですね。串に刺さってる方がそれっぽいんですの」
「これは綺麗なお寿司で……握りもちらしも味だけでなく見た目にも大変華やか。お祝いの品や細工品も出せるようになっていればより嬉しゅうございますね」
「ピザがあるならもちろんハンバーガーやホットドッグもありますわ。特別メニューはサンプルがないのでまだですが……」
「ラーメンやおそばは元からあったけど、米粉や線麺、フォーにミーゴレンとかもあるんだよ」
「やはりステーキです。これなくしてお肉は語れないのでぇす」
追加された学食らしからぬ料理を、次々と楽しんでいく一同たち。もちろん一人が何かを設定すればそれは全員分が出てきて行き渡り、そして瞬く間に消えていく。
「しかしこの機械、よくこれで壊れませんね」
「そうだね……と言っても実はわざと無理させてるのもあるんだよ」
「件の絡繰は席に着き続ける限り止まりませんでしたので、こちらはどうかというところもあり限界を調べる必要があると思いましてぇ」
感心する桃姫に愛彩とるこるが言う。やはり宇宙世界出身者や多数の兵装を改良を加え用いる歴戦の猟兵なだけあり、道具を冷静に試すということもきちんと考えているようだ。
「なくなったら勝手に止まるという機能ははずしてあるけど、そうなると今度は予期しないタイミングで止まっちゃっても困るからね」
「はぁ、なるほど……」
声を漏らす桃姫。その横から、てこのがさらに手を伸ばした。
「というわけで、ケンバイキくんにはもっと頑張って貰うんだよぉ」
そう言ってボタンを物凄い勢いで押しまくるてこの。そうして出てくるのはというと。
「あら、もうデザートタイムですか」
大量のホールケーキであった。前回の小さいカットケーキとはわけが違う、直径で20センチはあろうかというパーティサイズの超巨大ケーキだ。
もちろん種類も定番イチゴショートに始まり、チョコにチーズにタルト、さらに季節を無視したブッシュドノエルや本体を箱、クリームをリボンに見立てた創作ケーキと様々な種類が次々と出てきた。
「うぅん、やはりこのサイズは安心感が違うんだよぉ」
前回から巨大ケーキをご所望であったてこのもご満悦。もちろん他のメンバーも。
「クリームの中に細かくナッツが入っていて歯ごたえがあるのもいいですわね」
「粒あんにきなこ……こういうのもありますのね」
「連続でケーキが飛び出してきたと思ったら重なって合体してウェディングケーキになったのでぇす」
取り分け肉やピザを始めとする脂ぎったものを多めに食べていた桃姫などは、そこから急転直下の激甘世界にトリップ状態である。
「あぁ……甘くて柔らくて気持ちいい……」
塩と脂の頂から蜜と糖の海への急降下ダイブ、その落差はある種の『ととのい』とすら言えるものか。常人ならそれ以前に色んなもので全身をやられるところだろうが、使徒たちの力を受けた桃姫にはそんなものは関係ない。
「それにしても、本当においしいですね」
「えぇ。何しろ『カロリーの増大に比例して味が良くなる』という効果が搭載されてありますので」
「……は?」
しれっというるこるの言葉に、桃姫の手が止まる。
「やはり使徒の手で改造しましたので、私たちが持っている道具の力を応用するなどの改造が多くありまして」
つまり、とてつもなくおいしかったということはとてつもなくカロリーが増大されていたということ。
そして、その時は訪れる。
「あれ? 機械が止まっちゃったんだよ」
今まで様々な料理を出し続けてきた機械が、突如としてその動きを止めた。それに合わせ何人かの者が時計を見る。
「あら、もうこんな時間ですのね」
「どうやら時間的な作動限界が来たようですねぇ」
今回の起動実験で図ろうとしていた装置の限界、使徒たちの食べる量的にはまだ余裕があったものの、ユーベルコードの効果時間を見越して設定された時間的な制限に達したらしく稼働を停止してしまったようだ。
「そ、そうですか……それは残念……いえ、よかったです……」
これで終了ということで、桃姫はこれ以上のカロリー摂取はないと安心しつつもまだ食べ足りないという本音を漏らす。
「前回ほどは食べられませんでしたけど、腹八分目といいますので……」
「いえ、前回より食べてますよぉ?」
「え?」
ふたたび固まる桃姫。
「全員のユーベルコードが合わさった結果、食欲そのものに加え食事ペースも増加してしまったようで」
「前回の倍以上のスピードで数時間食べ続けていたみたいでぇすね」
つまり、摂取カロリーは小島一つ分を食べ尽くした前回を遥かに凌駕するほどということだ。
「そ、それってつまり……」
「まぁ、そういうことになるかとぉ」
つまりはいつものオチである。それが始まる予兆を感じたか、叶葉がるこるに声をかける。
「夢ヶ枝様、そろそろ」
「そうですね。それでは皆様ぁ」
それに答え、使徒の中でも最大級の胸をるこるが差し出す。すると使徒たちは次々そこに触れ、その中に吸い込まれて行った。
「桃姫さんもどうぞぉ」
「うぅ……結局……結局……!」
泣きながら桃姫もそこに触れ、中へと消えていく。そして全員がそこに入った時、北関東荒野に巨大な轟音が響き渡った。
「えーと、そろそろ時間だと思うのですけど……」
しばしの後、北関東荒野に一人の色黒の少女が現れる。毛皮のビキニに眼鏡という珍妙な格好をした彼女は、豊穣の使徒たちを直接ここに転送したグリモア猟兵谷保・まどかだ。
使徒たちを迎えに来るため彼女もここへやってきたのだが、自分が転送したはずの場所には誰の姿もない。ただ、話になかった肌色の山が目の前に聳え立っているだけだ。
「皆さんどこにいったのでしょうか……」
何の気なしにその山に触れてみると、なんとそれがゆさっと大きく揺れ、上から声がかかった。
「まどかさんですかぁ? お疲れ様ですぅ」
「るこるさんですか? 随分おかわりになりましたね。他の皆さんはどうしました?」
そう、その肉はユーベルコードの反動で前回以上の肉の山と化したるこるの体であった。突如こんなものが現れたとあっては、無人の北関東荒野でなければこれだけでちょっとした事件扱いされるであろう。この地を実験場に選んだ最大の理由はこれであった。
「そういえばまどかさんはご覧になるのは初めてでしたねぇ。えぇ、他の人達は【豊艶界】へご案内しまして……お手数ですが入口まで上ってきていただけますか?」
「はい、分かりました」
特に動揺することもなく、蛮族仕込みの登攀術でひょいひょい肉山を登るまどか。そのまま指示された通り入口……るこるの胸の谷間に平然と上半身を突っ込んだ。
「皆さん、いらっしゃいますかー?」
入口から顔を出したまどかの眼下に広がるのは、9つの肉の山が連なった巨大連峰であった。
「これは谷保様、ご苦労様でございます」
何でもないことの様に叶葉が答えるが、上から見ているからこそ顔の判別がつくがその体は胸も腹も他の肉と混然一体となり、最早どれが誰だか区別もつかない。
「山の中に海ですね、カルデラ湖という奴ですか?」
「本気でおっしゃられてるのでしょうか……」
「多分本気なんだよぉ」
その肉の海の中に浮かぶ小さな顔からそういうのは娃羽とてこの。
「移動に船が必要かもしれませんの」
「そういう時は愛彩さんにお願いするのでぇす」
「私はシップじゃなくてオペラのほうだよ……」
ツッコミどころはそこじゃない、というのは残念ながら入らない。
そして唯一部外者観点から物が言えそうな者は、やはり自分の肉に顔を埋めて泣いている。
「えぇと、【玉桂結】で少しは……」
「少し減ったくらいで何が変わるんですか! 桁が違い過ぎるんですよ!」
「月麻ちゃん、追い打ちになってるんだよ」
月麻が桃姫をとりあえず気遣ってくれてるが、完全に逆効果であった。
そんな状況にも動じず、まどかは期間の準備を始める。
「それじゃ大きいので皆さん一人ずつ転送しますね。最後に外に出てるこるさんです」
グリモアを使いまどかが一人ずつ使徒を戻していくが、一人消えたところで押し合っていた肉が解放されすぐその隙間は埋まってしまう。結局全員が消えるまで表面積はほとんど変わらないままで転送を繰り返し、まどかは出入口……るこるの胸の谷から体を引き抜いた。
「皆さんお帰りになりました。最後にその機械と一緒にるこるさんを帰しますね」
「はい、ありがとうございますぅ」
極限まで肥大化した乳肉の上に座り込んでの会話の後、まどかはるこるを転送。そのまま高高度の落下からしなやかに着地しつつ、自分もグリモアベースへと帰還した。
こうして、北関東荒野における食の無法地帯は終了となった。だが忘れてはいけない。今回はあくまで時間による終了であり、使徒たちの食欲が限界に達したわけではないのだ。
その食欲、今もって限界不明。
成功
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