サマエル・マーシャー
『性能試験Case.EX』の題名でノベル執筆を依頼させていただきます。
アイテム『ヤコブ・バッチ』を適用し、ユーベルコード『ヤコブ・スタイル』を発動させた格闘ゲームキャラスタイルでアスリートアースでアスリートかダークリーガーと戦闘するという内容でお願いします。
格闘ゲームキャラ状態ではありますが飛び道具の類を使うというよりはガチガチの総合格闘家として対戦相手を淡々と処理する感じでお願いします。
対戦した理由は対戦相手が強者とのガチンコを求めていたから。なので、最後まで戦いきることが対戦相手への救済であると考えて遊びは一切なしで情け容赦なく冷徹に対戦相手を叩き潰します。
対戦結果で自身の近接格闘能力向上用のアイテムとユーベルコードの性能を判断します。(性能試験要素)
大まかな内容は以上です。アドリブ歓迎です。
可能でしたらどうかよろしくお願いします。
「なぁ嬢ちゃん。あんた手練れだろ」
サマエル・マーシャー(
電脳異端天使・f40407)が声を掛けられたのは昼過ぎ、薄暗い裏通りでのことだった。
金網とコンクリート。景色に電飾は少なく、サイバーザナドゥとの差異を感じさせる。乱雑に落書きされたグラフィックからは、周辺一帯の治安を推し量ることができた。
アスリートアース。スポーツでの勝利が究極の名誉となる奇異な世界。
救いを求める者が此処にいる。
サマエルが異世界に足を運び、都市のメインストリートからも外れた理由はそれだった。
大袈裟に言えば予兆、平たく言えば勘。
結果、その勘は間違いではないかもしれない。
声の方向へ、サマエルは赤い瞳を向けた。
身軽そうなパンクファッションに身を包んだ女性が笑みを浮かべている。
彼女はクスクスと、無愛想なサマエルを笑う。
「怪しいもんじゃないよ。アタシはジャヒー、専門は格闘技。階級は無差別、ジャンル指定なし……所謂、
素手喧嘩ってヤツのプロさ」
「なぜ私に声を掛けたのですか?」
「あんたが強そうだからだよ」
サマエルが訊くと、ジャヒーは淀みなく答えた。
「滾ンのよね、血が。アタシさ、強いヤツと闘いたくて仕方ないの。誰も相手がいなくなって、ルール無用の殴り合いばっかしてたら――ダークリーガーになってた」
この世界でオブリビオンを表す語。
そうした単語が飛び出しても、サマエルは平然と彼女を見ていた。
「いいんだよ、アタシはそれで。でも相手がいなきゃ、バトルってできないじゃん?」
ジャヒーは見せつけるように拳を握り固める。
「嬢ちゃん、アタシと闘ってくんない?」
歪に曲がった口。雑に切られた髪の隙間から覗く、殺気に満ちた瞳。
そんな彼女からの願いを、サマエルは――。
「いいですよ」
二つ返事で了承した。
正気でないのは互いに同じ。狂いの先には混沌しかない。
見つけた。
心の中でサマエルは呟く。遥々この地に来た甲斐があった。
また一人、人を救える。
「祝福は私に、救済は貴女に――私は、貴女を救いましょう」
おもむろにマイクロチップを取り出し、サマエルはそれを指で上へと弾いた。
コインのように回転して落ちてきた小型基盤をキャッチし、頸部に差し込んだ。
電子の肉体が変容する。デフォルトの外見が、外部から挿入されたプログラムによって書き換えられていく。
腰回りと腿を大きく露出させた、黒主体の衣装。光輪と翼、淡い青髪に留めたヘアピンだけが変わらない。
ぱし、とサマエルは胸の前で拳を合わせる。手に装着した赤いグローブは、まるで格闘ゲームのキャラクターのようだった。
ヤコブ・スタイル。
格闘ゲームの挙動を自身に適用するプログラム、ヤコブ・バッチによって得られる恩寵。
この状況はその性能を試す絶好の機会。
「さぁ、始めましょうか」
なぜなら、相手は強者と闘うことを望んでいるから。
「いいねぇ! あんた最高だよ!」
興奮して大声を出したジャヒーが一歩踏み出す。
間合いを詰め、拳を構えてサマエルへ突っ込む。
「じゃ、こっからは恨みっこナシだなァ!」
突き出された右手がサマエルの顔面を狙う。
彼女の鼻先に触れる寸前、その拳はぴたりと止まった。
「えぇ、私からもそう願います」
ジャヒーの拳を左手で受け止め、サマエルは言う。
「こいつ……ッ!?」
「ああ、それと」
腕を動かしてジャヒーが抵抗しようとするが、位置は少しもずらせない。
冷淡に、サマエルは告げる。
「死なないでくださいね」
握っていた手を勢いよく引く。腕を払った瞬間にジャヒーの体勢が崩れる。
がら空きの胴。拳を叩き込む。躊躇なく放たれた右腕が彼女の腹にめり込む。
かはッ、と息を吐く音。それを聞いてもサマエルは止まらない。
仰け反って離れたジャヒーに蹴りで追い打ちを仕掛ける。脇を打つ蹴りに怯んだところへ連撃。顔、鳩尾、腹。隙のない拳の雨が相手を襲う。
適用したゲームプログラムは、決して調和の取れたものではない。
サマエルが宿したのは、インフレを極めた
ぶっ壊れ性能だ。
連撃に次いで、サマエルはジャヒーに両手で掌打を打ち込む。大きく後ろに弾かれたジャヒーが前を望めば、彼女は宙へと跳んでいた。
「どうか受け取ってください――私からの愛を」
短く畳んだ片脚が伸び、ジャヒーの顔面に突き刺さる。弾き飛ばされた彼女はストリートの壁に叩きつけられ、そのまま地面へ倒れた。
数十秒経っても動かないジャヒーを見て、サマエルは構えを解いた。
救済は完了した。此処に用はない。
立ち去ろうと踵を返した。
「らああああああッ!」
背後から絶叫。
サマエルが振り返った瞬間、ジャヒーの頭突きが彼女の頭を直撃した。
「……ッ!?」
痛みに悶えながらも跳び退き、サマエルは相手の出方を窺がった。
肩で息をして、ふらふらとジャヒーは構える。それでも瞳の殺気は消えていない。
「救いだァ、愛だァ!? ンなモンのために、アタシは死合ってねぇンだよォ!」
半ば咆哮のように叫び、ジャヒーが迫る。
狂乱に置かれた彼女を見据え、サマエルは思う。
こんなにも私を欲している。私を愛してくれている。
朦朧として正しい判断も下せぬ、憐れで愛しき隣人よ。
今、貴女を救います。
異常な妄想がサマエルの頭で渦巻く。
私は救世主だ。私は救世主だ――。
「そうですね。私は真摯ではなかったかもしれません」
振り抜かれた拳を、サマエルは易々と避けた。
ジャヒーの瞳を見つめ、優しく語りかける。
「貴女を叩き潰します。救済を完遂するために」
ストレートパンチがジャヒーの頭を揺らす。
ふらついて下がった彼女にサマエルが接近。回転蹴りを放ち、高く振り上げた脚で踵落としを決める。前に折れた姿勢にはサッカーボールキックが打ち込まれ、ジャヒーの身体が上方向に吹っ飛ぶ。
「まだまだ貴女に付き添いますよ」
無理に浮かせた相手の身体。顔は上を向き、顎を無防備に晒している。
一点を狙い、サマエルが身体全体を使って右腕を振り上げた。
「いつまでも、いつまでも。闘志という魂が尽きるまで」
拳がジャヒーの顎を砕く。
重い拳。救済と呼ぶには荒々しい一撃が、彼女を沈黙に叩き込んだ。
またジャヒーの身体が吹っ飛んで、地面に落ちる。
サマエルが近寄ってみたが、反応はない。完全に伸びたらしく、白目を剥いて倒れてしまった。
彼女の救済は叶ったのか。確かめようもないので、サマエルは仕方なくこの場を去ることにした。
チップを身体から抜き取る。肉体が普段の姿に置き換わるのを感じながら、サマエルは手のひらの基盤を見た。
ヤコブ・スタイルは強力だ。だが、ジャヒーを真に救いたいと思った瞬間、技の威力がそこからさらに跳ね上がった気がする。
「救世主であるという自覚が、近接格闘の精度に直結するのでしょうか……?」
推測を呟き、サマエルは歩き出す。この情報を得られただけでも性能試験の意味はあっただろう。
いや、それよりも。
「まだ私は、救世主という役割を高められる――」
未熟とは、能力を向上させる余地があるということ。
私はより強くなれる。より愛されるようになる。
確信を抱き、サマエルはヤコブ・バッチを胸の前で握り込んだ。
その手で他者を殴ったという認識は、欠落したままで。
成功
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