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「よく来たわね」
開口一番に、カスミ・アナスタシア(碧き魔女の系譜・f01691)の苛立ちを感じられたのは、恐らく気のせいではなかっただろう。猟兵たちが集まるまで伝えるべき内容を反芻していたのだろう、手帳に向けられていた視線が上がる。
「単刀直入に言うわ。ダークセイヴァーで発見された強制収容所を潰してほしいの」
そう言うと、自作されたであろう地図を広げる。
「場所はふたつの村の境にある森の中。この村から人を攫って収容しているようね。理由は分からないけど……まあどうせ碌なことじゃないのは間違いないし、今回気にする必要は無いわ」
ばたん、と乱暴に手帳を閉じるカスミ。同時に溜息を吐くと、地図上の、収容所の一角を指す。
「詳しい場所は、どうせ転送するから知らなくてもいいんだけど、この辺りに収容所に侵入できるポイントがあるの。そこから侵入して、収容されている人たちを解放、そして主であるオブリビオンを撃破する。これが今回の概要よ」
と、そこまで話し終えた彼女が、何か考え込むように視線を落とす。しかしそれも一瞬。すぐに猟兵たちへ向き直り、作戦の詳細を説明し始めた。
「収容所内に侵入後、まずは情報を集める必要があるわ。施設のどこに人が収容されているのか、どうやったら解放できるのか、その他必要だと思った情報を調べて頂戴。看守たちもどこか違う場所から連れてこられた人間だから、上手く利用すればきっと難しいことじゃないはずだわ」
どうやら彼女の調べによると、収容されている人間は誰一人として脱出を諦めていないようだ。加えて看守たちも暴力によって無理矢理従わされているようで、ちょっとしたきっかけがあればすぐにこちら側へ寝返ってくれるだろう。問題はこの施設の主であるオブリビオンだ。こんなことをしている理由どころか、その正体すらも分かっていない。
「相手がどんな姿をしているか分からないけど、こちらに危害を加えようとしてくるやつは皆敵だと思っていいわ。もし攻撃をされたら、その時は――」
彼女にはもうひとつ、分かっている情報があった。それも相手の勢力に係る情報だ。しかしそれを伝えるべきではないと、そう判断した。助けるべき者の優先度を誤り、被害をより大きくするのを防ぐために。
「――躊躇わずに殺しなさい」
伝えるべきではない。この隷属から逃れる術を知らない、哀れな少女たちの存在など――。
何か質問は、と問うも、誰からの反応も無かった。それを確認すると、彼女は四葉の形をしたグリモアを輝かせる。
「じゃ、後は頼んだわよ」
振り返った彼女の表情は見えなかったが、その声には確かな怒りが滲んでいた。
朝霞
はじめまして、新人マスターの朝霞です。
今回はシリアス路線越えて後味悪い系シナリオに挑戦しようと思います。
前回シリアスですとか言いながらネタを被せていきましたが、今回は本当にネタ無しです。しんじてください。
今回の目的はオープニングにあった通りですが、収容された人々は第一章の調査が終わった時点で自動的に解放されますので、救出プレイングは不要です。第三章のボスは特に注意点などありませんので、普通に戦闘していただく形になります。
以下は第二章の注意点です。よくお読みください。
第二章「集団戦」では、解放された人々が逃げる中での戦闘となります。敵は一人でも多くの犠牲を出そうと攻撃を仕掛けて来るので、🔴の数だけ死人が出ます。大成功とならない限り完全に防ぐ手立てはありません。
また、そういった仕様上シナリオは鬱展開へ新幹線並みの速度で直行します。苦手な方はご注意ください。
それでは皆様のプレイング、心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『強制収容所を開放せよ』
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POW : 暴力を背景に脅しつけ吐かせる等
SPD : 書類、日記等情報源を盗む。周囲を探索する等
WIZ : 口車に乗せる等
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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施設の裏手、誰も居ないその一角に、老朽化からか大きく亀裂の入った箇所があった。人一人通るのもやっと、といった具合ではあるが、頑張れば通れなくもない。
収容所へ侵入した猟兵たちは、各々情報収集を始めることにした――。
山理・多貫
【POW/アレンジアドリブ歓迎/他のPCとの交流歓迎】
収容所………?
オブリビオンが?
なんのために……?
なんだか……いやな予感がします、ね……。
【行動】
施設内に進入し、なにか事情を知っていそうな奴を捕まえて尋問します。
尋問の際にはユーベルコード「二人だけの約束」を使用し「私の質問に嘘はつかないこと」というルールを与えます。
正直に答えるまで、何度も。何度も。
【戦闘】
万が一戦闘に発展した場合には他に見つからないよう
ポイズンダガーで音を立てずに相手の行動能力を封じます。
カタラ・プレケス
色々と気になる点は多いけど、
好き勝手させるわけにはいかないし、
まずは情報収集だね~。
まずはスクナの毒と呪詛で口を軽くさせて、
攫われた人数・いつから攫われたか・どんな風に攫われたかを、
聞き出して、精度を上げてから、天動観測と地動観測で、
どこに人が集中しているか・どこが脆いかを占って調べるよ~。
【連携・アドリブ歓迎】
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収容所に侵入した猟兵たちは、まずそれぞれに行動するようにした。看守たちを味方にするにもしないにも、どのみち最後は全員纏めて救出する算段ではあったが、極力見つからない、目立たないに越したことはない。これはあくまで潜入であり、友人宅へ遊びに来たわけでもなければ、武力鎮圧のために襲撃しているわけでもない。その為にもなるべく少数で、なるべく見つからないように動くことが必要だと判断した。
「色々と気になる点は多いけど、好き勝手させるわけにはいかないし」
カタラ・プレケス(呪い謡て夜招く祈りの鳥・f07768)はそう独り言ちながら、前方を歩く山理・多貫(吸血猟兵・f02329)を追っていた。
「なんだか……いやな予感がします、ね……」
ダークセイヴァーのオブリビオンたちは、傾向として人間たちを痛めつけるのが好きだという者が多い。この収容所も、近くの村から住民を浚っては痛めつけるためのもの――程度の代物であれば、もしかするとまだ死人は出ていないかもしれない。それが都合のいい考え方だというのは重々承知の上なのかもしれないが。
何を始めるにせよ、まだ情報が足りていない。
「ま、それを知るためにもまずは情報収集だね~」
そう言ったカタラの視線は、歩みを止めた多貫へと向いた。口許で人差し指を立てている。静かにしろ、という合図なのだろう。ひんやりとした石造りの壁に身を寄せる。ちょうどT字となっていた通路の角、そこからそっと顔を覗かせると、お世辞にも十分とは言えない装備を纏った看守が一人立っているのが見えた。装備と言っても鎧や帷子ではなく、ぼろきれのような服に槍を一本持ってるだけ。むしろこんなものでよく脱出されないものだ。この程度では看守の実力もたかが知れるだろう。
「私が……いきます……」
角から身を乗り出し、周りに他に誰もいないことを確認すると看守の方へ歩き出す多貫。はじめから隠れるつもりもなかったのか、相手はこちらの存在にすぐに気づいた。
「止まれ! そこで何をしている!」
槍の切っ先を多貫に向け、看守の男は身構えた。それでも多貫は止まらない。黒と臙脂のマントをなびかせ、真紅の瞳で看守を見つめる。
「ま、まさか……ヴァンパイア……!」
無論違ったが、多貫は何も言わなかった。勘違いした看守は腰を抜かし、武器を取り落とす。話に聞いていた通り、彼も何処かからか連れてこられただけの人間なのだろう。そんな彼の首筋に牙を立てた。
「いやだ……殺さないでくれ……! 村で娘が待ってるんだ……頼む、なんでもするから殺さないでくれ……!」
「なら……私の質問に、嘘はつかないこと」
「わかった! 知ってることはなんでも話す!」
「約束だよ……? じゃあ残しといてあげる」
死ぬまで血を吸い続けないとわかって安堵した看守は、震えながらも抵抗を止めた。遠くからそれを確認したカタラも彼に寄ると、危害を加える気がないことを伝える。
「じゃ幾つか質問するから、正直に答えるんだよ~?」
看守は黙って何度も首を縦に振る。嘘を吐く素振りが無いことを確かめると、持参していた薬を懐に仕舞った。
それから看守は本当に何でも正直に話した。誤算があったとすれば、思っていた以上に情報を持っていなかったことだろうか。確認できたのは「収容されている人数が最低でも10名以上である」こと「他の看守たちの場所」そして「主の正体を誰も知らない」こと。
「――出たよ」
得られた情報を基に、カタラは人々が収監されている場所、そして警備や建物自体の脆い箇所を占う。少々情報が少なかったため、あまり正確性は高くないかもしれないが、全く何も分からないよりは良い。情報をくれた看守には、一刻も早くここから立ち去ることを勧め、二人は奥へと進む。
「ん?」
占いで建物の脆弱な部分をいくつか見つけたカタラは、通路の途中、何か妙な違和感を覚えた。しかしここで立ち止まっていては、他の誰かに見つかってしまうかもしれない。そう思った彼は、落ちていた石ころで壁にバツ印をつける。もしかしたら他の猟兵が気付くかもしれないし、どうしても気になるならば終わった後に確認すればいい。
「……行きましょう、か……」
多貫の言葉に軽く返事をしながら、カタラは再び歩き出した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シェオル・ウォーカー
【POW】
強制収容所とは、なんともこの世界らしい。
さて、荒事は私の領分だ。始めよう。
侵入後、看守が一人になったところを『怪力』で押さえ込み、『殺気』で脅す。吐けばお前も自由にしてやる、とでも言えば口を割るだろう。
まずは、攫われた人々の収容場所だ。
次に、ここで何が行われているのか。
そして最期に、この施設の「主」は何者なのか。
特に最期の質問は、私にとって重要だ。
斬るべき相手の姿も分からないとあっては、刃の振るいようがない。
聞くべき事を聞いた後は、敵対しないならば看守は解放する。
敵対する場合は、そのまま『怪力』で締め上げて無力化しよう。
人々に逃げる意思があるならば、私がやるべきことは敵の殲滅だ。
アリス・セカンドカラー
マザーグースって子供に聴かせるにはアレな内容なのも多いわよね。なんで殺人鬼の歌なんてあるのかしら?
メルヘンってある意味ブラックユーモアの塊じゃない?
ワールドクリエイターでそんなメルヘン世界を具現化しましょうそうしましょう。
どうせ苦しく狂った現実ならば、楽しく狂った妄想(祈り、呪詛、封印を解く)に変えてしまいましょ。
さぁ、壁さん、私を通してくださいな♪
常識さんは盗み攻撃でないないない♪リアルは盗み、ぽいっ☆しちゃおう♪
ねずみさんはお友達♪鉄格子さんは意地悪ね?照明さんは恥ずかしがりや♪親切で紳士な看守さんがわたしを暗がりに連れ込むの♪
(動物と話す、毒使い、催眠術、誘惑、怪力、鍵開け、救助活動)
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「強制収容所とは、なんともこの世界らしい」
ぼやいたシェオル・ウォーカー(悪刃・f14868)は、その瞳と心に炎を宿していた。今回の目的はこの収容所を潰すことだと言われているが、それは同時に囚われた人々を救出するということでもある。どれだけ手を汚そうと、彼の根幹を成す感情に揺るぎはない。
「さて、どう来るか――」
鼻歌を歌うかのように上機嫌で前を歩くアリス・セカンドカラー(不可思議な腐海の笛吹きの魔少女・f05202)。その背中に僅かな狂気を感じながら、シェオルは警戒を強めた。
「Lizzie Borden took an axe♪ And gave her mother forty whacks♪ And when she saw what she had done♪ She gave her father forty-one♪」
どこで覚えたのかそんな物騒な唄を囁きながら、アリスは石壁に手を触れる。
「メルヘンってある意味ブラックユーモアの塊よね」
それを合図とするように、ぐにゃりと景色が歪む。自分の目がおかしくなったのだろうかとシェオルは目を擦るも、見える景色は変わらない。それもそのはずだ。歪んでいるのは視界ではない、建物そのものなのだから。
全体的に丸みを帯びたシルエット。明るすぎて逆に毒々しいカラフルな色合い。まるで絵本の中のおとぎ話のような景色。
「さぁ、壁さん、私を通してくださいな♪」
次の瞬間、壁だったそれは真っ赤なカーテンへ。小気味良い音を立てて開くと、壁の向こう側の通路へ続いている。アリスは軽やかなステップを刻みながら、小鼠と世間話、誰も居ない牢の格子戸を叩き、照明を消したり灯したり。目の前の光景に理解が追いつかないシェオルは頭を抱えた。
「ありがとう、ねずみさん♪」
手の甲に乗せていた小鼠を地面へ降ろすと、アリスは駆け出す。ちょうど突き当たりになった角の、その先。そっと顔を覗かせると、二人の看守の姿が見えた。装備は古めかしい強度の無さそうな甲冑に、槍が一本。弱そうではあるが、気付かれずに一二人とも無力化するのは難しいだろう。
しかしアリスは、躊躇いもせずに姿を見せた。
「こんにちはミスタ。わたしと一緒にあそびましょ?」
赤色の瞳。どこまでも吸い込まれそうな、そんな瞳に見つめられた看守の一人は、呆気なく陥落した。
「お嬢ちゃん、こんなところに居ちゃ危ないから、おじさんと安全なところへ行こうね」
「お、おい、何言ってんだよ……てか、お前誰だ! 何処から――」
「うるせぇ! 邪魔するな!」
もう一人の看守を突飛ばし、アリスの手をとって奥へと歩いていく。
「ま、待て! 絶対こんなのおかしいだろ!」
あまりに唐突な出来事に、残された男は混乱していた。おかしいと分かっていても、立ち上がって追いかけることが出来ない。
「自分の娘と同じくらいの子だろ……」
そうぼやいた直後、彼らの姿が消えたその先で、くぐもった声と何かが地面に崩れる音がした。
「クソッ……言わんこっちゃない……!」
立ち上がり、槍を構える。ゆっくりと、恐る恐るその先へ――。
男が、自分が押さえ込まれた事に気付いたのは、目の前にあるものが地面だと認識してからだった。
「――騒ぐな」
看守が一人になったタイミングで出てきたシェオルが、背後から地面に押さえ込み、左腕を捻り上げる。甲冑の可動域が限界を迎え、ぎりぎりと金属が捻れる音がしても、彼は手を止めない。
「質問に正直に答えるなら、自由にしてやろう」
痛みで声が出ないのか、看守の男は顔をくしゃくしゃにしながら頷いた。
「まずは収容場所だ。拐われた人々は何処に囚われている」
「し、知らな――いだだだだだだ!! 本当だ! 本当に知らないんだ!」
とぼけている訳ではなさそうだ。シェオルは力を緩める。
「何処に居るのかは知らない……けど、皆ここを通って奥へ連れていかれるのは間違いない……」
ということは、ここから先の道が別れていなければ、この先に囚われた人々がいるはずだ。
「次に、この施設では何が行われている」
「それも……分からない……」
「……では、この施設の主は何者だ」
「…………すまん」
その一言で何も知らないということを悟ったシェオルは、彼を解放することにした。
「な、なあ、あんたたちは、ここに連れてこられた人を助けに来たんだろ? だったら俺たちも助けてくれないか?! ここにいる看守は皆、同じように連れてこられた人間なんだ! 皆を助けてくれるなら、俺は何だって手伝う、だから頼む!」
捻られた左肩を押さえながらも、彼は告げる。
「……分かった」
仕方ない、と言いた気な表情をしながらも、彼らに出来そうな指示を出していくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フォルター・ユングフラウ
【WIZ】
この腐った世界の名所、強制収容所か
どうせならば、我も作ってみれば良かった…が、生憎今は猟兵の身だ
内心はどうであれ、粛々と任務に励めば誰も文句は言うまい
看守も人間であれば、扱いやすいな
我の美貌と誘惑、恐怖や催眠、言いくるめ等々を用いて、堕としてやろう
駄目押しとして、UC:ヴィーゲンリードも使っておくか
知り得る情報を全て吐かせ、収容所内の地図も持って来させる
他にも重要物品があれば、それらも持って来させるのも良いかもしれぬな
何にせよ、大義の為に殺しを許可されているのだ
これ程昂る事も、そうあるまいよ
あぁ、存分に、戸惑い無く“正義”を執行してやろうではないか…ふふっ
※アドリブ歓迎
トリテレイア・ゼロナイン
なんだか奥歯に物が挟まったような作戦説明でしたね
グリモア猟兵の方がああいう言動を取る時は大抵ロクな内容の任務ではないのですが…
いえ、私は騎士として人々を脅かす邪悪の盾となるだけです
まずは情報収集ですね。「防具改造」で暗色のマントを纏い潜入します。
センサーで歩行時の振動を検知して看守の位置を「見切り」囚人と接触、脱走に協力的と思われる看守を教えてもらいます。その看守と接触し、「礼儀作法」「優しさ」で説得。我々の脱出計画に加わってくれるよう良心に訴えます。
看守から情報を得たらそれをもとに妖精ロボを収容所に放ち、内部構造の把握と脱走時の陽動に使うリモート爆弾での「破壊工作」を行わせましょう
●
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、その機械の身体に宿した心で疑問を感じていた。
「なんだか奥歯に物が挟まったような作戦説明でしたね」
だいたいこんな時は、何かよからぬことが起こると相場が決まっている。が、それを彼が口にすることは無かった。
「まずは情報収集ですね」
ちら、と横に立つフォルター・ユングフラウ(嗜虐の乙女・f07891)へ向けられた眼光には、人々を脅かす邪悪の盾となるべくしたトリテレイアとは、また違った感情が滲んでいるように見えた。
「どうせならば、我も作ってみれば良かったな……」
「今、何と?」
「ただの冗談だ。任務に励むのなら、文句もあるまいよ」
「……」
生まれながらにして冷徹なその瞳は、遠くの石壁で揺らめく照明をじっと睨んでいた。
「さて、我らも行くとするか」
「……同意します」
トリテレイアは彼女を信用していいものか迷っていたが、流石に同じ猟兵である以上、意味も無く無駄に人を殺めるような真似はしないだろう、との結論に至った。
幸いこの施設の内部はそう明るくない。多少おざなりだろうが、暗闇にまぎれるような色をしていれば、ある程度隠れて移動することも出来るだろう。とはいえ初めから隠れるつもりの無かったフォルターが見つからなかったのは、単に警備が手薄だったことと、更にその中をトリテレイアのセンサーで感知しながら歩いていたおかげだろうか。しかしどれだけ歩いても、囚われた人々の下に辿り着くことが出来ない。やはり看守を経由せずに囚人たちのところへ行くことは出来ないようだ。
「どの人物がこちらに協力的なのか……分からないのは困りましたね」
「なんだ、そんなことを考えていたのか?」
歩くのはもう飽きた、と言わんばかりに眉根を寄せたフォルターは、今まで避けていた通路に向かって歩き出す。
「図体のわりに臆病な奴だな。まとめて堕とせば問題なかろう。なんせ我らは――正義を執行するのだ」
押し殺したような笑いを漏らすフォルターに、トリテレイアは一抹の不安を隠せずにいた。だが他に道があるわけではない。仕方なく彼女の後に続く。
通路の先は、明るく開けた場所――広間のようだった。残念ながら牢は見当たらない上に、見張の看守は3、4――5人。とてもじゃないが見つからずに移動など不可能だろう。トリテレイアのセンサーには、見えている以上の反応は無い。フォルターはその広間の――中央を闊歩していった。
「……? 止まれ! 何処から入ってきた、返答次第では――」
フォルターは無言だった。ただその深紅の瞳で看守をねめつけるだけ。端麗な顔立ちに見合わない有無を言わさぬ圧力に、看守は思わず黙り込む。
「我は少し疲れた。椅子が――欲しいのだが?」
「は、はい、今すぐ!」
その一言に、周りにいた看守たちはどよめいた。何が起こったのか分からなかったが、何かが起こっている。
「申し訳ございません、こちらには椅子が……」
「無ければ椅子になればよいだろう」
「よ、喜んで!」
先頭にいた看守が四つん這いになると、フォルターはその上に腰掛けた。他の看守たちは警戒して近寄ってくる様子は無い。彼らに動揺が広がる中、トリテレイアだけはその正体を見ていた。正確には、猟兵である彼にしか見えなかった、と言うべきだろうか。おそらく意識操作か何らかの意味合いを持つ魔法陣から発せられた魔術が、看守の男を捕らえたのだ。
「さて」
座ったまま、なまめかしく脚を組みかえる。遠巻きに見ていた男たちは生唾を飲み込んだ。
「――話し合いといこうじゃないか」
右手を上げると、再び魔法陣が現れる。しかしそれを引き止めるように、トリテレイアは彼女の前に出た。
「……邪魔なのだが」
「お待ちください。我々は彼らに危害を加えるために来たわけではありません」
「喧しい犬だ……」
「何か?」
「ふん……好きにするといい」
つまらなさそうに吐き捨てるフォルターを背に、彼は一人看守たちの下へと歩みを進める。2メートルを超える巨体に怯えていた看守たちであったが、両手を挙げたまま武器を所有していないことをアピールすると、安心したように肩を落とした。
「先も申し上げたとおり、我々はあなた方に危害を加えるつもりはありません。あなた方も囚われの身だと承知の上で、協力をお願いしに来たのです」
威圧感を与えないように片膝を折って話をするトリテレイア。彼の言葉に息を呑んだ看守たちは、お互いの顔を見合って、やがて彼の話に耳を傾けた。
「なるほど……」
看守たちから得られた情報は「誰もこの施設の全容を把握していないこと」「何のためにこの施設があるのか理解していないこと」「捕らえられた人々はこの広間の先で『ぼろぼろの服を着せられた少女』に引き渡されること」だけだった。これだけ人数がいるのだから、誰か一人でも囚人の位置や地図の在り処など知っていてもよさそうなものだが、その様子も無い。ここまでの情報を元に、トリテレイアは自律式の妖精型ロボットを複数、先の通路へと放つ。それらが新たな情報を得ることが出来れば、看守たちの協力を得て囚人たちを逃がすことも出来るだろう。ついでに脱走の手助けとなるべく、破壊工作を行わせておけば問題ない。
量としてはあまりたくさんの情報を得られなかったことを除けば、この場はひとまず、特に大きな問題も無く収まった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
月鴉・湊
相変わらずこの世界は……まあいい、こういうことはおじさんの様なのが仕事すべきだ。
UCを使用し透明化したまま潜入する。足音は忍び足で消し、人の出入りの激しい部屋で情報収集していこう。
他の猟兵は見つからないように人気のないところを探すだろうからね。こういう場所は姿が見えない俺が探索を行おう。
他の猟兵が見付かったり追われていたなら影ながら助けてあげよう。可愛い女の子だったら特に、ね。
殺せと言われたが今は極力しないようにしておくよ。
……後で嫌になるほどしそうだから、ね。
アマータ・プリムス
収容所ですか……色々と思う所はありますがまずは情報を集めましょう
人手が必要そうなのでUCを発動
アウリスを呼び出し当機の姿に【変装】させて探索の手伝わせる
【目立たない】ように収容所内を移動しながら【情報収集】
看守を発見したらアウリスに囮になってもらい【だまし撃ち】でフィールムを首に巻きつけ意識を奪う
【世界知識】で収容所内の内部構造を把握、学習力で記憶
重要そうな部屋に行き鍵のかかった部屋や金庫は【鍵開け】で中を探る
その間アウリスには見張りを命じます。なにかあれば合図を出すように
「当たりを引ければいいのですが……」
情報を引き出せたら携帯秘書装置に纏めておき後で他の方とも共有
※アドリブ連携歓迎
セレヴィス・デュラクシード
狭い場所とか、潜入とか、こーゆー時だけは背がちっちゃくて良かったと思うんだよ(溜息
ん‥‥さ、早く捕まってる人達を安心させてあげなきゃね
・行動/SPD
ボクが探すのは事務に使われてる部屋だよ、目的は建物の図面・日誌の入手
【狐の威を借る狐】で手の平サイズのボクを呼び出し周囲を警戒させつつ先行、ボクも【忍び足】で追跡しなきゃね
・戦闘
一気に間合いを詰めて腹部に肘打ち、息を詰まらせて喋れなくしてから口を押さえて説得するんだよ、説明する前に騒がれたら拙いからね~
部屋が暗くても明かりを付けないで少し我慢、すぐに暗さに目が慣れる【=暗視】んだよ
※連携、アドリブ歓迎
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「うひー……こーゆー時だけは背がちっちゃくて良かったと思うんだよ……」
溜息と共にそんな言葉を吐き出したセレヴィス・デュラクシード(複製されし幻想の狐姫・f04842)は、広間の看守たちを他の猟兵たちが相手している間にそっと駆け抜けた。
「ん‥‥さ、早く捕まってる人達を安心させてあげなきゃね」
行き先はこの先の通路。それ以外の場所はもう他の猟兵が回っているだろうし、今窺っていた様子だと、この先にはまだ誰も進んでいないようだ。
「さあ、おいで」
あくまで周囲を警戒しつつ小声で呼びかけると、手のひらサイズのデフォルメされたようなセレヴィスが現れた。通路の隅の目立たない場所を先行して歩かせながら、自分もその後をそろそろとついて行く。
ここまでで彼女が気付いたのは、この広い収容所の中で「部屋と呼べる場所」が存在しないことだ。収容所に客間などは必要ないにしても、せめて倉庫や管理室など有ってもいいもの。いや、特に後者は無ければならないものでもある。この先に何かがあればいいのだが。
「……ん?」
申し訳程度に照明の取り付けられた通路は暗かったが、一箇所だけ壁から光が漏れているのが見えた。いや、あれは壁ではなく扉のようだ。足音を殺し近づくと、小さなセレヴィスに扉の下から中をのぞかせる。誰もいないことを確認すると、彼女はゆっくりと扉を開け、中へと入った。
「ここは……何の部屋だろ……」
見たところ囚人を閉じ込めておくような部屋で無いことは間違いなさそうだ。が、施設の主が使っていそうなほど華美でも、ましてや清潔でもない。有るのは小さな机と椅子、まるで今まで誰かが寝ていたような跡のある藁敷きのベッドのようなものが複数。机には引き出しがついているようだが、残念ながら鍵が掛かっている。当然といえば当然か。
一応入ってきた扉の方を警戒しながら、セレヴィスは探索を続け――ようとして、目の前の壁が突然動き出したことに反応が遅れた。
「ッ!!」
瞬時に飛び退き、いつ何が起こっても対処できるように体勢を整える。この壁はどうやら隠し扉になっていたようだ。やがて開いた隙間から顔を覗かせたのは――。
●
「……」
アマータ・プリムス(人形遣いの人形・f03768)は、指先にフィールムを格納しながら、意識を失って倒れた看守を見下ろしていた。猟兵の生い立ちはその数だけあり、こうした収容所に思うところある人物も少なくはない。彼女ももしかすると、そのうちの一人なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。確かなことは、彼女がそんなことよりも任務を優先しているという事実のみ。
もう随分と施設の中を歩き回ったが、情報どころか部屋と呼べる場所すら見つかっていない。マッピングをしながら歩いているので、見逃した箇所があるとも思えない。広間では他の猟兵の姿を見かけたが、もう他には何もないかも知れない。そう考えながら、自分の姿を模した人形、アリウスを呼び戻していた時だった。
「これは……」
壁に付けられたバツ印。いや、そこではない。その付近にちらりと光るもの、金属だろうか。隠されるようにして壁に埋め込まれていたのは、紛うことなき鍵穴だった。
「何故こんなところに……」
携帯秘書装置と呼ばれるタブレット端末のようなものを取り出すと、マッピングしていた施設の見取り図を呼び出す。周囲の警戒をアリウスに任せ、現在地と壁の向こう側を照会する。そこは――。
「ふむ、まだ行っていませんね」
壁に耳を当て、何か物音が聞こえないか確認してみるも、特に何も聞こえない。この壁が厚いのか、誰もいないのか。迷っていても仕方がないと判断した彼女は、懐からメイドの七つ道具を取り出すと、早速ピッキングを開始した。
●
開錠するアマータから少し離れた位置、彼女の方へ向かって歩いていく看守をとりあえず「大人しく」させた月鴉・湊(染物屋の「カラス」・f03686)は、周囲と完全に同化して透明となった姿のままアマータの姿を見ていた。彼もまた部屋を探していたようだが、目的のものが見つからずに徘徊していたところ、彼女がこうして扉のようなものを見つけたところに出くわしたというわけだ。
広間の先に続く道はまだ行っていないが、それ以外にもう探索できそうな場所は残っていない。確認できている中では、もう看守は全て動けないかこちらの味方についたかのどちらかに別れている。しかし湊はこの先に敵がいることを警戒して、透明化を解かずにいた。
「しっかしまあ、相変わらずこの世界は……まあいい」
この後に起こることを予想しつつ、視線の先の彼女や他の猟兵たちの手を汚すような真似は極力させまいと考えていると、ようやく開錠が終わったのかアマータは石壁ならぬ石戸に手を掛けた。可能な限り彼女にも気付かれないように、開いた隙間から忍び足で中へと侵入する。部屋と思わしきその中には小柄な少女が一人身構えていたが、見たところ彼女もまた猟兵だろう、気にする必要はなさそうだ。
部屋の中はそう清潔ではなさそうだったが、一応掃除はしてあるようだ。今入ってきたのはやはり隠し扉だったようだが、反対側には普通の扉も見える。鍵は付いていない。ということは、この部屋はある程度自由の利く人間が出入りしているのだろう。
背後でアマータと小さな少女、セレヴィスが話をしているのを耳に入れながら探索を続ける。しかしやはり特に目立つものは無い。
「いい加減隠れてなくともよろしいのですよ?」
その言葉にぎくりとした湊は、やがて透明化を解いた。
「可愛い女の子が居ると思ったら、アマータ君じゃないか。こりゃ奇遇だねぇ」
いつものように軽口を叩いてみるも、まず最初に返ってきたのは溜息だった。
「……状況の説明は不要ですね?」
事務的に発せられた言葉に、湊はとりあえず黙って頷いておく事にした。
「えっと……?」
「失礼、脱線いたしました」
戸惑うセレヴィスに詫びながら、アマータは作業を開始する。先ほどセレヴィスが見つけた、鍵付き引き出しの解錠作業だ。作業とは言っても、隠し扉と違いこちらは非常に作りが簡単だ。すぐにカチリと音を立てて開く。
「当たりを引ければいいのですが……」
トラップの可能性も考慮し、ゆっくりと開く。中には薄汚れた本、ノートが二冊入っていた。アマータは二冊とも手に取ると、片方をセレヴィスに渡そうとして――端に着いた血の跡に気付き、湊へ手渡す。
中身はどうやら日記のようだ。そしてもう片方は――。
「こりゃなんだ……?」
湊の手元を覗き込んだセレヴィスは、短く息を呑む。そこには、そう広くないページをびっしりと埋め尽くす「死にたくない」の文字。気味の悪いそれは数ページ続くと、ぱったりと無くなる。代わりにそこから先は「今日も一人殺した」とその一文だけが淡々と綴られていた。
更にまた数ページ進むと、今度はきちんとした文章が書かれていた。
魔女様は約束してくれた。一日一人生け贄を差し出せば、私と私の一番大事な人だけは最後まで生かしてくれると。ああ、アイシャ。私がアイシャを守ってあげるからね。だから今日は、誰を差し出そうか。
魔女様、というのがこの施設の主なのだろうか。最初のページから乱れていたため分かりづらかったが、こちらも日記なのかもしれない。
一方アマータの持っていた日記は、比較的読みやすく纏められていた。が、それ故にこの日記の持ち主が、いつ殺されるか分からない恐怖と、周りの人が毎日一人ずつ殺されていく姿を見せられる狂気が鮮明に記されていた。そして最後には。
私のせいだ。私がもっと強ければ。私に魔女に立ち向かう勇気があれば、こんな事にはならなかったはずなのに。私の希望は、ミアは、壊れてしまった。それでもまだ生きている。生きているならいつかミアも……。だから私は生にしがみつく。みっともなくても、意地汚くても。ごめんなさい、ごめんなさい、魔女の言いなりになるしかない弱い私を、どうか許してください……。
二つの日記は、そこから先には何も記されていなかった。これはきっと、お互いの事を記した日記なのだろう。
誰もが行方を知らない囚人たちと、生け贄を欲する「魔女」。壊れてしまった「ミア」と、生きるために隷従する「アイシャ」。なんとなくだが、展開が見えてきた気がする。
「躊躇わずに殺せ、ねぇ……」
今になって思い出した言葉。それは主以外にも敵が現れるということ。或いは、ハッキリとした敵でなくとも、抵抗せざるをえない者がいる、と。
湊は持っていた日記をアマータへ返すと、彼女が携帯秘書装置に内容を転写しているうちにまた、姿を消した。
成功
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エルス・クロウディス
●SPD
力で解決したほうが楽そうではあるんだけどな。
まぁ変に目立つよりは、こうして情報収集したほうがいいだろ。
「さーて、情報が集まりそうなところはどこだろなっと」
<世界知識>と照らし合わせて、疑似全段観測で周囲の人間の動向を調べる。
……回避で使わないこと増えてきたな、これ。
管理室みたいなところがあればそこに忍び込んでもいいし、ポケットの中を<早業>で拝借してもいい。
あとはー……愚痴ってるやつに<コミュ力>生かして話しかけて、食料分けたりしながら軽く探りを入れるのも手か。
<地形の利用>して、<迷彩>で暗がりとかに隠れて盗み聞きとかもできるといいなー。
ま、見つからないの第一で。
アドリブ・連携〇
●
ある程度怪しそうな場所は他の猟兵が探索してしまっている。暗闇に融ける様に忍び、エルス・クロウディス(昔日の残響・f11252)は、最後に残された広間の先の通路を進んでいた。あらかじめ調査されていた建物の大きさ、そしてここに辿り着くまでに得た情報を照らし合わせて考えると、地下でも存在しない限り、この先に囚われた人々が居る可能性は高い。
「さーて、この先にも何か情報はあるかな、っと」
力押しで解決できるのならそれが一番早いだろうが、変に目立つよりは出来るだけ無駄な衝突を避けた方がいいだろう。足音を殺しながら、ゆっくりと前に進んでいく。先が行き止まりになって見えるのは、通路が曲がっているせいか、それとも階段になっているせいか。出来れば前者であってほしいと願いながら進んでいると、曲がり角になっていることが確認できた。ほっと一息吐き、壁際に身を寄せて角から頭を出す。
「おおー……ビンゴだね」
その先には、囚人たちを閉じ込めた牢が並んでいた。牢の数は6、ひとつひとつに入れられた人数はバラバラだが、ざっと数えて30人程だろうか。よくもまあこんなに集めたものだ。
情報の通りであれば、囚われた人々は逃げ出すことを諦めていないはず。流石に離れていてはっきりとは確認できないが、確かにやつれているわりにあまり絶望した様子は無い。そこから視線を巡らせたエルスはある一点に注目すると、なるほど、と頷いた。
看守、と言うべきなのか分からないが、ボロボロのみすぼらしい布切れを一枚纏った、他と同じようにやつれた少女が椅子に座っている。ここに居るのが彼女一人であるなら、現実的な脱走を計画していてもおかしくはない。
ふと、彼女が何かぶつぶつと呟いているのに気が付いた。エルスは背後を警戒しながらも、彼女の動向に極限まで集中し、疑似全段観測を開始した。
「――だ――いやだ――う、もう殺したくない、死にたくない――すけて、誰か助けて――」
すすり泣く声。後悔と恐怖に憑りつかれたその嗚咽を聞いて、エルスの身体は自然と動いていた。
「もう泣かなくていい」
痩せこけた頬を撫でる。こんなに近づくまで気が付かないなんて、もう看守としての役割を放棄しているといってもいい。それでもここに居続けるということは、それほどまでに追い詰められていたのだろう。身を隠すことを止めた時点で囚人たちには気付かれていたが、自分たちが声を上げることでバレては元も子もないと黙っていてくれたようだ。触れられて初めてエルスの存在に気付いた少女は慌てて顔を上げる。
「だ、誰……!」
「そんなに警戒しなくていい。俺は――」
入口の通路から、たくさんの足音が聞こえる。やがて音は大きくなり、その姿を現した。
「俺たちは君を――救いに来た」
なだれ込む猟兵たちと、表で看守をしていた男たち。突然のことに狼狽する少女のポケットから覗いていた牢の鍵を素早く抜き取ると、人混みの中の誰かに向かって投げ込んだ。あとは誰かが受け取って牢の鍵を開けるだろう。そうしたら全員を脱出させて、この収容所の主を倒せばいい。
背後で格子戸が開く音がする。同時に人々が泣いたり笑ったりする声が聞こえる。
「よし、君も逃げよう」
座り込んでいた少女に手を差し伸べて立ち上がらせると、エルスはその手を引いた。
「いい……の……?」
掠れた声で聞く彼女に、当然だと笑って返す。
「わた……私、本当はこんなの……こんなことしたくなくて……でもやらないと……私、死にたくなくて……!」
「大丈夫、もう大丈夫だ。君はまだ生きてる」
「生きてる……? 私……生きてる……? もう、もう誰も差し出さなくていいの……?」
「ああ……」
「やった……私……生きて……やった……あは……あはははっ……やった! ……私は……私は生ギッ――」
歪に途切れた少女の言葉。目の前でそれを見ていたエルスは、言葉を失った。仕方ないだろう。だって、今まで目の前で泣きながら笑っていた少女の頭に、折れた弓矢が刺さっているのだから。
崩れ落ちる少女。その後ろには、同じ年頃の少女たちが押し寄せていた。手には各々、お世辞にも武器とは言えないような凶器を手にしている。
「やられた……今すぐ追いなさい! あいつらを逃がしたら、私たちが死ぬのよ!!」
リーダーと思わしき人物が叫ぶと、少女たちは一斉に走り出した。
成功
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第2章 集団戦
『隷属から逃れる術を知らない少女達』
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POW : 命より重い忠誠を誓おう
【忠誠を誓った者から授かった力】に覚醒して【命を省みず戦う戦士】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 主のためなら限界すら越えて戦い続けよう
【主の命令書を読み限界を超えた捨て身の攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 主人に永遠の忠誠を誓おう
【忠誠を誓う言葉】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
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●
「この際殺しても構わないわ! 首さえ差し出せば、魔女だって文句は言わないはずよ!」
歓声は一転して悲鳴へと変わった。逃げようにも通路は狭く、同時に押し寄せると逆に詰まってしまう。これを守りながら戦えというのか。
いや、問題はそこじゃない。
彼女たちはいったい何者なのか。今しがた倒れたあの少女の仲間じゃないのか。自分たちも逃げたくはないのか。
「アイシャ、困ってるの?」
リーダーらしき人物、アイシャと呼ばれた彼女の下。他と比べて背の低い少女は、くりくりとした瞳でアイシャを見つめている。
「当然でしょ、ミア。あいつらが逃げたら、私たちはみんな死ぬのよ!」
「しぬ……?」
「そうよミア。死にたくないでしょう?」
「いや……死ぬの、いや……させない、アイシャはミアが守る!!」
ぎょろりと標的を捉えると、二人は戦場へ駆け出した。
カタラ・プレケス
アドリブ連携歓迎
…いつもの手口か。
ここまで墜ちてちゃどうしようもないね~。
敵の殲滅を優先するよ~。
敵を倒せない子も出てきそうだったら、
その子の分もぼくが殺そう。
迷わず倒してくれる人がいるならその人と連携して殺すよ。
手心は加えない。
恨んでくれてもいい。
こうなったなら殺したほうがましだ。
敵意が強いから【夜謳う御子】でひたすら叩き潰すよ。
さらに大量の呪詛と毒で動きを鈍らせてさらに潰す。
天蠍縛砂で抜けようものなら足を切る。
誰一人も残しはしないよ。
…殺せない子はそれでいいんだ。
それが普通のはずだから、
ぼくらがおかしなだけだから。
アンナ・フランツウェイ
ごめん、遅れた…ってなんで少女達がこっちを攻撃している…?少女達はオブリビオンじゃなくて、普通の人間?兎に角今は彼女達を食い止めないと!
行動は【POW】。
私は少女達の前に出て、戦闘を行う。と言っても迷いのせいか、私も知らぬうちに少女達を攻撃するのを躊躇ってしまう。その為最初は「武器受け」で少女達の攻撃を防ぐ事に集中する。
それにも限界が来て私や他の人が殺されそうになったら、断罪式・彼岸花を無意識の内に発動。大量展開した処刑器具で少女達を攻撃してしまう。
(発動後)え…。何だろうこの血だまりは。私はオブリビオンでは無い少女達を殺してしまったの…?
「そ、そんなの嘘だ…!」
・アドリブ、絡み歓迎。
シェオル・ウォーカー
【POW】
彼女らも従わされている様子か
。・・・・・・悪趣味な真似をする。
私には助けてやる手立ても、あるいは咎める資格もない。
互い退けぬ身だ。私は私の信念で剣を抜こう。
戦場も戦況も良くはない。他の猟兵達との連携を優先する。
前衛として前に出て、敵の接近を食い止めることに注力しよう。
【呪われた剣閃】で応戦。
可能であれば、腕か脚を狙い相手の戦闘行動に制限をかけたい。
おそらくそう簡単にはいかないだろうが、接近戦の応酬であれば『怪力』で対抗する。
自身が手傷を負った場合は、『生命力吸収』で凌ごう。
一貫して迷わず戦う。
間違いなく私は非道だが、もとより鬼も仏も斬ってきた口だ。
※連携・アドリブ歓迎。
●
逃げ惑う人々の中、カタラ・プレケス(呪い謡て夜招く祈りの鳥・f07768)はちらりと横を見た。隣で同じように立つシェオル・ウォーカー(悪刃・f14868)の様子を確認するためだ。敵は来た。今から引き返すことは出来ない。彼に動く気配があれば任せてもいいが、そうでなければ邪魔になる。
「……ま、いつもの手口か。ここまで墜ちてちゃどうしようもないね~」
「……悪趣味な真似をする」
会話だけでは推し量れそうもない。が、その意図に気付いたシェオルは敵の姿を捉えたまま剣を抜いた。
「私は私の信念で剣を抜こう」
その一言で、同じ性質の人間だと理解したカタラ。
「手心を加えるつもりは無いよ?」
「もとより鬼も仏も斬ってきた口だ。今更案ずる必要は無い」
「そっか~……」
背後には狭い通路に押し込まれるようにして進む群衆。前方には碌な武器も持たず突撃してくる兵隊。二人揃って、さて、と声を漏らすと、迎撃態勢に入った。
先頭、最も先に飛び出した一人から、錆びたフォークが振り下ろされる。しかし彼らに届く前に、それは腕ごと宙に舞った。
「ぇ――」
果たして彼女に、自分に何が起きたか理解する暇があっただろうか。それほどの間しか空けず、すぐに彼女は何かに押しつぶされて呆気なく死んだ。
剣を汚した血と脂を振り払うシェオルの横。夜の帳のような深い闇を纏うカタラ。その闇から伸びた腕が、一人、また一人と容赦なく叩き潰していく。遠くの敵はカタラ、近くの敵はシェオルと、分担して着実に屠っていく。少し遅れて到着したアンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)は、そんな異様な光景を目の当たりにしていた。
「あの子達はオブリビオンじゃなくて、普通の……人間?」
オブリビオンは敵だ。自分が猟兵である以上、それは絶対の掟。ではあの少女たちは何なのだろう。何故襲い来るのか、何故敵対しなければならないのか。しかしそんなことを考えている余裕はない。前線で戦う二人すり抜けて、敵は逃げる囚人たちへと向かっている。
「兎に角今は彼女達を食い止めないと!」
間一髪敵との間に入り込み、突き出される矢を受け止めたアンナ。力は弱く、武器も脆い。押し返し、とどめを刺そうと思えばすぐにでも出来るだろう。だが彼女がそうすることはなかった。
「目を覚ましてよ! どうしてこんなことするの!」
「目なんてとっくに覚めてるよ! 私だって、これが夢ならよかったって何度も思ったんだから!!」
よく見ると、頬は痩せこけ、腕や脚は少し力を入れただけで折れてしまいそうなほどに細い。瞳から色が失われつつある。この世界では珍しいことではないが、典型的な栄養失調の症状が見られた。囚人を監視する役割といえ、それが十分に満たされた生活を送っていたかどうかは、彼女たちを見れば一目瞭然であった。
生きたい。誰かを犠牲にしてでも、自分は生きていたい。かつてそんなオブリビオンと対峙したことがあっただろうか。アンナにはそれを明確に「殺す」覚悟が足りなかったのかもしれない。迷っている間に、さらに侵攻してきた少女たちは、逃げる囚人たちへ襲い掛かる。
「やめて……」
悲鳴。
「やめてよ……」
ナニカが床に叩きつけられる音。柔らかいモノを突き刺す音。何度も、何度も、何度も突き刺し、狂ったような笑い声が響く。
「やめてって……」
少女を矢を受け止めたまま、アンナの口から洩れたのは。
「……言ってるのにッ
!!!!!!!」
瞬間、周囲に大量の器具が展開される。それは断つものだったり、潰すものだったり、裂くものだったり、刺すものだったり、様々な形を有しているが、目的は一貫して同じ。殺す、こと。
目の前の少女は腹が無くなって死んだ。囚人たちを襲っていた少女は左右に引き裂かれて死んだ。首が飛んで死んだ。下半身を潰されて死んだ。死んだ。殺した。殺した?誰が?
「わた……し……?」
血だまりに沈む少女たちと、彼女らに襲われていた囚人たちの身体。どちらもオブリビオンではない。どちらも。
「そ、そんなの嘘だ……!」
我に返ったアンナは、その惨状を見て絶望した。もう声すら上げることもできない。しかしここは戦場である。立ち止まったものはただ的にされるだけ。そんなアンナに、別の少女が飛び掛かろうとしていた。
「……っ!」
体が硬直して動けない。アンナはきつく目を閉じた。返ってそれがよかったのかもしれない。また一人、少女が死ぬ瞬間を見なくて済んだのだから。
シェオルの剣に脚を刎ねられた少女は無様に地面へ転がる。後ろから続くカタラが、トドメとばかりに叩き潰すと、もう人としての原型を留めていなかった。
「……殺せない子はそれでいいんだ」
騒然とする戦場の中、カタラのそんな言葉だけがアンナの耳に残った。それが普通のはずだから、と。ぼくらがおかしなだけだから、と――。
成功
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アリス・セカンドカラー
アリスインワンダーランド、さぁ、愉しい愉しいパーティーの始まりね♪
スワンプマンてご存知かしら?と先ほど殺された少女に属性攻撃で雷撃を撃ち込んでワールドクリエイターで沼に変えた床に沈めてもう一回雷撃を撃ち込むわ。
するとあら不思議♪生前の彼女と同一の存在が沼から這い出した♪
まぁ、カートゥーンアニメ世界の法則を適用してるから出来る荒業だけどね。
……現実に適用したらちょっと頭おかしくなりそうな法則だけどまぁたぶん平気でしょ、嫌な現実は妄想で上書きしてないないしちゃいましょ。
メルヘン世界の法則で、さぁ、幸せな幻覚に包まれてお眠りなさい。
どこからともなく現れた動物のお友達が安全圈まで運んでくれるわ。
セレヴィス・デュラクシード
『ちょ!?‥‥あー、行くよッ!』
考えるのは後、まずは相手を足止めして避難の【時間稼ぎ】しなきゃ
【ダッシュ】の勢い付けた【スライディング】で最前の敵の足をさらい転倒狙い
そのまましゃがんだ姿勢で後続の足目掛けて片手を軸に回転しながら【疾風斬鉄脚】
骨折は勿論だけど、それ以上の酷い事になっても恨まないでよねっ!
飛び退いた後は‥‥困っちゃうよねぇ
バーチャルキャラとして再現される以前の記憶、設定ではこんな感じの戦闘経験もあるんだけど‥‥だからって
ヤルしかないのかなぁ(有効な無力化してる猟兵が居るか、真似出来るか横目確認
最悪、攻撃を既で【見切っ】て回避
顎を左右の足で【2回蹴り】上げるんだよ
※連携アドリブ歓迎
●
少女は死んだ。本当に死んだのか。では今ここに立つ少女は何者なのか。
「さぁ、愉しい愉しいパーティーの始まりね♪」
アリス・セカンドカラー(不可思議な腐海の笛吹きの魔少女・f05202)は不敵に笑う。
スワンプマンという思考実験を知っているだろうか。詳しい説明は省略するが、早い話が「同じ体、同じ記憶、同じ思考を持った別の個体は、本物と何が違うのか」といったものだ。実際にそんな事象が起こるのかと言われれば、そんな事は万が一にもあり得ないだろう。しかしアリスは、彼女はそれを為してしまった。現実を改変して作った沼に、現実を改変して生み出した雷を落とし、思考実験さながらの環境で、死んだ少女と同じモノを作りだしたのだ。全ては、限定的に書き換えられた世界法則の賜物ではあったが。
「さぁ、幸せな幻覚に包まれてお眠りなさい」
再び書き換えられる現実。何処からともなく現れたメルヘンチックな動物たちが、生を受けた少女を抱え上げて連れ出す。彼女が村に戻ることが出来れば、いや、生前の彼女が生まれた村に辿り着くことが出来れば、少女の死は無かったことになるだろう。だが一つ、忘れていないだろうか。スワンプマンが思考実験である所以は、全てが「同じ」個体であるからだ。それは改心してはならない。それは変化してはならない。敵だったものを作りだせば、それは即ち――。
「――ッ!!」
呆けていた少女は、やがて自らの使命を思い出すと、自分を抱え上げていた動物たちから飛び降り周囲を襲い始めた。
「ちょ!?……あー、行くよッ!」
セレヴィス・デュラクシード(複製されし幻想の狐姫・f04842)は目の前で暴れ始めた少女の鎮圧に向かう。
人を守ることと、拠点など建物を守ることの大きな違いは、一度でも攻撃を許していいかどうか、といったところだろうか。敵が非力な人間とはいえ、守るべき対象もまた非力な人間なのだ。汚れたナイフで動脈を切られた男は、ぼろ切れのような服を真っ赤に染め、女性の名前を呟きながら死んでいった。少女はナイフを捨て、彼の持っていた槍を手に取る。
武器を持った人間がやられたことで、辺りは更にパニックに陥る。守るべきは何か。救うべきは何か。セレヴィスは周囲を見渡した。あまり見慣れたくはない血溜まりを前に、彼女は迷いを振り払うように頭を振る。
優先するべきは逃げる人たちに一番近い敵だ。遠いものは放っておいても他の猟兵が対処するだろう。まさに今槍を突き出そうとしている少女へ向かって勢いよく走り出すと、足下に滑り込み体勢を崩す。ちらりと視線を移すと、後ろから増援が迫っていることに気付いた。
「ヤルしかないのかなぁ……」
捨てたはずの迷いが躊躇いを生む。しかしそこで足を止める訳にはいかない。
「……恨まないでねっ」
片腕を地面に着き、それを軸にして閃光のような一蹴。足止めのためとは思っていたが、痩せ細った脚がそれに耐えきれたかは、舞い散る血飛沫を見れば分かるだろう。脚が折れる、もしくは無くなった少女たちは、悲痛に泣き喚く。痛い。どうして。苦しい。もう嫌だ。
もう、死にたい――。
そう溢した少女は、耳の大きな可愛らしい象に頭を踏み抜かれて死んだ。
悲しそうな表情でアリスをみつめるセレヴィス。背を向ける彼女が何を思っていたのか、それは本人にしか分からない。
成功
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フォルター・ユングフラウ
【WIZ】
この腐り果てた世界に、貴様等の居場所は無い
搾取され、隷属させられ、屠られる…実に貧弱な存在だ
その生に、引導を渡してやろう
案ずるな
貴様達を虐げる存在は、もはや存在しない
時間を掛ければ被害は嵩む一方、ならば迅速に刈るしかあるまい
UC:トーデスシュトラーフェにて背後から首を狙おう
一撃で刈れずとも、誘惑・恐怖・毒・呪詛・催眠辺りで行動を阻害したい
脱走者への攻撃は、自身を盾として防ぐ
傷は吸血と生命力吸収で賄えば良い
我はこの腐った世界が繁栄する片棒を担いだのだ
奴等には我を斬り刻む権利がある
貴様等を屠るしかない我を許せとは言わぬ
むしろ叫べ、憎め
怨嗟の限りを吐き出し…身軽になって、逝け
※アドリブ歓迎
トリテレイア・ゼロナイン
※【古城】で参加、積極的に連携はせず2章でのお互いの行動の所感を3章で述べる予定
恐怖で従っている様子、完全な洗脳よりはマシですが囚人を守りながら彼女達を救うことは…いえ、絶望的だろうと諦めるわけにはいきません
弾頭のUCを少女達が進む先の床に撒き散らし転倒させ、囚人が逃げる時間を稼ぎます。転倒した相手にはスナイパー技能で足を撃ち抜き無力化
接近時は武器、盾、我が身で囚人をかばい怪力で拘束、後で繋がりやすいよう「優しく」足をへし折り痛みに悶えさせ少女達の士気を挫きます
リーダー格のアイシャを捕え降伏しなければ負傷者含め全員惨たらしく殺すと脅迫、今無為に死ぬか降伏して後で主人に殺されるかの二択を迫ります
●
状況は絶望的だった。何が、と問われて答えられる猟兵が居るかは分からない。この戦場に希望を見出だした者は、きっと居なかっただろう。だが希望がなくても、それが諦めるという結論に繋がるかは別の話だ。
「……諦めるわけにはいきません」
自分に言い聞かせるように呟くトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、摩擦抵抗を減らす特殊薬液を充填した弾丸を敵の足下にばら蒔きながら、侵攻を遅らせていた。転倒した相手には、容赦なく足に実弾を撃ち込み無力化していく。この場は特に問題が無いように見えた。問題があるとすれば、それは後ろだ。
考えていたよりも数が多かった少女たちは、初めから勝ち目の無い猟兵たちには目もくれず、最も殺しやすそうな人間から狙っていく。おそらく彼女たちは、手持ちの武器で効率よく相手を殺す手段を知っているのだろう。フォークによって頚椎を損傷させられた女性が一人死んだ。しかしそんな彼女もすぐに他の猟兵によって殺された。
「御伽噺の騎士のように振舞うのは……本当に難しいですね……」
照準を合わせていた隙に横を通り抜けようとしていた少女を、トリテレイアは転ばせて地面に押さえつけた。やがて3メートルに届きそうな硬質の巨体がのし掛かっただけで、簡単に腕が折れてしまう。
「立ち上がられても困りますからね、こちらも戴いておきましょう」
更に両足を折ると、彼女の絶叫が響き渡った。自力で動けないことを確認すると、唯一折れていない腕を掴んで掲げる。
「今すぐ投降しなさい。さもなくば、ここで倒れて動けない者を全て殺します」
事務的な口調で告げるトリテレイア。
「まずは――指の一本一本から行きましょうか」
瞳のセンサーが、状況の再スキャンの為に光る。残念ながら、それで止まる者は居なかった。掲げていた少女はいつの間にか静かになっている。あまりの恐怖に失神して――いや、もう既に死んでいた。
彼女たちは弱く、脆い。人間という種族の中でも特に。何故そんな彼女たちが戦わなければならないのか。納得のいく答えなど見つからないままに、敵として葬る。
この体が涙を流すことが出来ないのは、機械だからか。それとも――。
思考を掻き消すような銃声がまたひとつ、響いた。
●
逃げ遅れた小さな子供に迫る凶刃を、フォルター・ユングフラウ(嗜虐の乙女・f07891)は背中で受け止めた。
軽傷とはいえ、本来それを見慣れていて良い歳ではない。子供――少年は恐怖に足がすくみ、足を止めた。
「止まるな莫迦者!!」
背中を蹴られて無理やり硬直を解かれた少年は走り出す。
この世界は地獄だ。希望も、救いも、一切が存在しない。殺す少女が悪いのか。殺される村人が悪いのか。違う。悪いのは、こんな世界を作り出した悪魔たちだ。そしてそれは。
「我も同じ、か――」
そうだ、この世界は腐っている。
背後から追撃を行おうとしている少女の姿が視界の端に映ると、黙って目を閉じた。
「……?」
いつまで経っても何も起きない。振り向くとそこには、一人の男が立ち塞がっていた。正面から斬り付けられた男は、血を流しながらも笑ってフォルターを振りかえった。
「女王様……ご無事……ですか……」
更に腹にナイフを突き立てられた男は、内臓をやられたのか血を吐き出した。もう助かることは無いだろう。それでも彼は笑顔を絶やさない。
「お役に、立てて……光栄……で……」
徐々に光を失いつつある瞳を見たフォルター。彼女はその男の首筋に牙を立てる。
「ならば、我の糧になると良い」
「は……有難き……しあわ……せ……」
その血を糧とし、自らの傷を癒す。彼を放す頃には、笑顔のままでとうにこと切れていた。横たえた死体はまだ温かい気がした。
「……この腐り果てた世界に、貴様等の居場所は無い」
目の前の少女は、自分が人を殺してしまった事実におびえているように見えた。そうだ、今まで彼女たちはこれまで誰一人「殺した」とは言っていなかった。あくまで「差し出した」と言っただけで、直接手を下したのは全て魔女と呼ばれる存在なのだろう。彼女は初めて、人を殺したのだ。
「搾取され、隷属させられ、屠られる……実に貧弱な存在だ」
紅い瞳が少女を見据える。貧弱な少女は恐怖と罪悪感に震えていた。
「その生に、引導を渡してやろう」
震える少女の背後に、淡い魔法陣が現れる。
「案ずるな。貴様達を虐げる存在は、もはや――存在しない」
言い終える頃には、彼女の姿は消えていた。目の前から忽然と姿を消したことに少女は戸惑い、狼狽する。それは少女の背後、魔法陣の下。フォルターの手には、鋸刃の大鎌が握られていた。
一閃、深く深く斬りつけられた少女は上手く声を出せないまま、震える声で何かを呟いていた。よく聞き取れなかったが、それは怨嗟か後悔か。
「貴様等を屠るしかない我を許せとは言わぬ。好きなだけ憎め」
怨嗟の限りを吐き出し、身軽になって――逝け。その声は彼女に届いただろうか。それは誰にも分からない。感情の見えない表情で、フォルターは二つの死体を見つめていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エルス・クロウディス
こうなる、しか……いや。
途中で諦めるくらいなら、俺は最初からここにいないだろう。
掌から零れ落ちる瞬間まで――――たとえ、零れ落ちたとしても。
「俺の意志を、押し付けるッ!」
そんな<覚悟>なら、とうの昔だ!
疑似全段観測、全力稼働。
通路が狭い? 丁度いいなぁ!
「埋め尽くせ……!」
骸驟佚式。
元々、骸装の展開帯は包むもの。
故に、
「少しは寝心地いいんじゃないかぁ!?」
攻撃を弾きつつ、敵を柔く、確かに包んで壁際に<グラップル>。
雷<属性攻撃>を通して行動妨害、逃げる者は守りつつ素通り。
無理? 信じ頼る脆き心で押し通すとも……!
「生きて貰うぞ、絶対に。なぁ……魔女を、倒せば、いいんだろう!?」
アドリブ・連携〇
神酒坂・恭二郎
「ったく。こいつはいささか笑えないねぇ」
救いに来た者が、救うべき相手を殺す。悪趣味もここに極まれりだ。
死人なしで終わる事はない。
【忠誠を誓う言葉】を放った少女に対し、【クイックドロウ】でスペース手拭いを放ち、青いフォースを纏わせ【ロープワーク】の【串刺し】で心臓を抉る。
「死が望みなら来い。楽にしてやる」
少女達に【覚悟】の眼差しを見せ、明確な死の恐怖を呼び起こし、命を省みらせる事でUCを封じる。
これが正解なら3分だけ、少女達は戦士でなくなる。
パァン
すかさず両手を合せ打ち鳴らし【範囲攻撃】の【衝撃波】で吹き飛ばす。
「ガキ相手にこれしか出来ないたぁな。情けねぇ話だな、おい」
【アドリブ、連携歓迎】
●
「ったく。こいつはいささか笑えないねぇ」
混沌とする戦場を前に、神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)は目を細めた。逃げ惑う人々に、襲い掛かる少女。本来ならば彼女らも救われるべき存在であるはずなのに。
「救いに来た者が、救うべき相手を殺す。悪趣味もここに極まれり……ってか」
宇宙素材を用いた特殊な手拭いを握り絞め、向かってくる少女たちを見据える。彼女たちは各々何かを呟いているように見えた。それが何のための言葉なのかは分からない。しかし彼女たちが徐々に人でなくなりつつあることに気付いた恭二郎は、自らの力を振るう決意を固めた。
「 」
少女たちは何かを叫んでいる。もはや人の言葉ではなかった。他の猟兵たちと戦っている少女は、こんなにも凶暴ではない。明らかに何かが違う。ならばこれはきっと――。
振られてしなる手拭いが、青いフォースを纏い、ピンと張り詰める。まるで槍のように変化したそれは、的確に急所――心臓を貫いた。
「死が望みなら来い。楽にしてやる」
瞳に宿る覚悟は、相手が人間でも容赦はしないと、必ず守るべきものを守り通すと、そう物語っていた。直視した者たちは己の内から湧き出すような死の恐怖に震え、突如として足を止めた。自らの身体を抱きすくめるようにして震える少女たち。その姿を見ていた恭二郎は、自分の考えが間違っていなかったことに軽い安堵を覚えつつも、身に宿した守護明神の詞を借りて魔女の呪縛を塗りつぶしていく。
これが、彼女たちが魔女に与えられた力の正体、その名も「ユーベルコード」だ。
「こうなる、しか……」
目の前で崩れ落ちた少女を見下ろして歯を食いしばるエルス・クロウディス(昔日の残響・f11252)。でも、だから、と握った拳が白くなる。ここで諦めるのなら、初めからこんなところに来てはいない。
「そうだ……」
この世界で、命はあまりにも軽すぎる。人の命は地球よりも重い、と言ったのはどの世界だったか。しかしここでは、両手ですくい上げた水よりも軽く繊細で、何度掬ってもすぐに両手から零れ落ちていく。だけど。掌から零れ落ちる瞬間まで――たとえ零れ落ちたとしても。
「――俺の意志を、押し付けるッ!」
極限の集中状態に入ったエルスの射貫くような瞳が、戦場全体の動きを捉えた。狭い通路へ追い立てるのならば、自らもその通路へ入らなければならない。必ずそこに敵は集まる。
「埋め尽くせ……!」
押し寄せた敵が一点に集中する瞬間。恭二郎が無力化した者も含めて、その少女たちが一か所に集まる瞬間。その一瞬を見逃さなかったエルスは、狭い通路を埋め尽くすほどに展開した骸装で、彼女らを包み込んだ。
「少しは寝心地いいんじゃないかぁ!?」
そのまま壁に叩きつける。彼女たちの身体を傷付けない程度に、適度に衝撃を吸収する骸装は、確実に意識だけを奪っていく。
逃げる者を追う必要は無い。まだ立ち向かう者は戦う意志だけを削ればいい。
「無理なことなんてあるかよ……」
彼女たちをこんな目に遭わせた「魔女」という存在が何なのかはまだ分からない。ただ一つ言えるのは、もう誰も傷付く必要なんてないということだけだ。こんな犠牲が、これ以上あって良いはずがない。
少し離れた位置から、乾いた音が聞こえた。エルスが視線を向けると、おそらく手を叩いたのだろう、両の掌を合わせた格好で立っている恭二郎が見えた。周囲には眠るように転がっている少女たちの姿。
「安心しろ、気を失っているだけだ」
死んでいるわけではない、ということだけ確認すると、エルスは集中を解いて息を吐く。
「ガキ相手にこれしか出来ないたぁな。情けねぇ話だな、おい」
意識を失って倒れている少女たちを見下ろして、恭二郎は吐き捨てるように言った。ボロボロの身体で、心すらすり減らして、彼女たちはどうしようというのだろう。死にたがっていた者も中には居た。自ら死を望んで、殺される者も居た。こんな希望すら見えない世界で生きていく価値を見出せない者は、絶望した順に死んでいく。だとしても。
「生きて貰うぞ、絶対に。なぁ……魔女を、倒せば、いいんだろう!?」
少女は、閉じた瞼にうっすらと涙を滲ませていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月鴉・湊
やはり、こうなるか。
恐怖に縛られ周りが見えなくなってしまう。
良くあることだ、こういう者達には。
悪いが、これも仕事だ。恨むなら恨んでくれ。
彼女達の前で姿を消し、一人ずつ、殺る対象も消し首を跳ねていく。先ほどまで話をしていた子の姿がいきなり消え、見えたと思ったら首がなくなっているのはさぞかし恐怖だろう。
こうやって彼女達には魔女の恐怖を越える恐怖を与え、戦意を失わせる。
殺るのは向かってくる子だけでいい。
彼女達の境遇に躊躇う猟兵がいるなら俺が殺る。
俺のような者は増やしちゃあいけない。
そして背負える者だけが彼女達の命を背負えばいいんだ。
アマータ・プリムス
忠誠というものは強制するものではありません
自ずと湧き出る物です
それを理解させてあげるとしましょう
アルジェントムからイーリスを取り出し【武器改造】でアンプへと変形させたアルジェントムと接続
【楽器演奏】で戦う皆様と逃げる方々を鼓舞するためにロックを弾かせていただきましょう
「隷属による偽りの忠誠……そんなものは音楽の力の前には無力です」
響き渡る悲鳴も怒号も相手のUCも当機の【歌唱】とUCで打ち消してしまいます
これは頭ではなく心へ響かせる歌
自由とは万人に等しくあるべきものだと伝える歌
例えこの声がこの場の全員に届かなくとも当機は歌い続けましょう
誰かの胸に響くと信じて
アドリブ連携歓迎
●
逃げる人々は徐々に通路を抜けていった。その先は広間になっているため、残った人数程度なら余裕をもって脱出できるだろう。しかしそれは相手も同じ。密度が低くなったおかげで動きやすくなった戦場は、逆に相手にも行動の自由を与えてしまっていた。
「ナナ、シャル、あなたたちは通路を出たら左に行きなさい。私とミアは右に行くわ。囲い込んで仕留めるわよ!」
アイシャは仲間たちに指示を出しながら、広間へと戦場を移そうとしていた。ふと、何かとすれ違った気がして振り返る。そこには何もなかった。他の仲間は何かに気付いた様子は無い。やはり勘違いだったのだろうか。彼女は燻るような不安を抱えたまま、広間へと飛び出していった。
そんな彼女たちがまず目にしたものは。
「忠誠とは――」
ギターの赤いボディから伸びる鋼糸が、横に置かれた銀のトランクに繋がれている。
「己のためにあるものでも、ましてや強制させるものでもありません」
忠誠心を形にしたような恰好をしたその人は、誰かに仕えることの意味を、少女たちに知ってほしかったのかもしれない。
「――それを理解させてあげるとしましょう」
ピックが弦をはじく。普段から完璧に手入れされているそれは、今更チューニングの必要は無い。音量もちょうどいい。
「隷属による偽りの忠誠……そんなものは音楽の力の前には無力です」
ギターをかき鳴らすアマータ・プリムス(人形遣いの人形・f03768)は、自由を謳う。それは解放された人々のためか、はたまた心を囚われたままの少女たちのためか。
気分が高揚してしまいそうな音色に、人々は前を向く。例え誰かが死んだとしても、誰かに殺されたとしても、それは立ち止まっていい理由にはならない。生きて、ここから逃げなければならない。自分たちの目的を思い出した彼らは、互いを鼓舞するかのように声を上げる。諦めるなと、必ず帰るんだと。
音楽という教養が無い彼女たちの耳にも、この激しい旋律は届いているか。
「……ナナ、シャル……?」
立ち止まった仲間たちを見て、アイシャは同じように足を止めた。彼女には耳を傾けたこの音の正体が、この歌の意味が分かっていなかった。だから仲間たちがとても苦しそうな、悲しそうな顔で涙を流している理由が分からなかった。だがそれでも、まるで胸の奥に直接響いてくるような不思議な感覚が、アイシャの心を捕らえていた。
「なにこれ……いや……こんなの、知らない……!」
頭を抱えて悶えるアイシャ。その姿を見ていたのは、唯一何の影響もなかったミアだった。
「どうしたの、アイシャ。苦しいの?」
まだ年端も行かぬ少女が、大きな鉈を持ってアイシャの顔を覗き込んでいた。彼女には素養が無いなんて、そんな簡単な話ではない。アマータたちの見つけた日記には、彼女は壊れてしまったと書かれていた。声が、歌が、届かないのは、きっと心が壊れてしまったからなのかもしれない。
「アイシャ、苦しい? 苦しめるの、だれ?」
くりくりした大きな瞳が、やがて演奏するアマータを捉えた。そして。
「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおまえかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッッッ
!!!!!!!!!」
小さな体からは想像もつかない恐るべき加速力。地面が抉れるほどに思い切り蹴りだし、両手に持った鉈を振りかぶる。
アマータは決して彼女らを過小評価していたわけではない。だが人間である以上、彼女たちにも肉体の限界がある。それもこんなボロボロの体で、一体誰がこんなことを予想できただろうか。
振り下ろされた鉈は、薄っぺらい脆弱な鉄と肉体を切り裂き、血に汚れた。元からひん曲がっていた肩の部品が弾け飛ぶ。
「貴方は……」
彼女たちの間に立っていたのは、鎧を着た男だった。彼は血を吐きながらも、ミアと呼ばれた少女の肩をがっしりと掴む。
「なんでもするって……約束だったからな……」
視線を落とした男につられて地面を見ると、彼の持っていた槍が落ちていた。
「あとは……頼んだぜ……」
その一言で全てを理解したアマータは、ためらうことなくその槍を拾い上げた。人体の構造は理解しているつもりだ。だからこんな貧相な槍でも、人を殺すのには十分すぎる。
「まって……やめて、やめなさい! ミア! 早く逃げて!!」
後ろで誰かが叫んでいる。早くやらねば、こんな格好の機会を逃してしまうかもしれない。何よりこの男の犠牲を、死を、無駄にしてしまうかもしれない。だから彼女は、二人に向かって思い切りその槍を突き立てた。男は苦しまずに死ねるように、少女は仲間たちとの別れを済ませる時間を残せるように。それが最善だったと自分に言い聞かせながら。
こんな時くらい涙を流せない、自分の体と心が恨めしく思えた。
●
「シャル、私たちだけでも戻って、急いで死体の頭を集めないと!」
「待ってナナ、私、足がもう……!」
少女の足はぼろぼろだった。こんな劣悪な環境を裸足で駆け回っていたのだ。そうなるのは当然のことだった。
「だけど、休んでる暇なんてないよ! 魔女が言い訳なんて聞いてくれるはず――」
ナナと呼ばれていた少女は、そこで言葉を失った。話をしている最中に相手が消えたのだから、無理もない。とんでもないスピードで移動しただとか、隙を突いて誰かに浚われただとか、そういうことではない。本当に「消えた」のだ。
「シャル……? ねえシャル!?」
ごとり、と音がして足下を見る。そこには、今まで話をしていたはずの仲間が、首のない姿で倒れていた。
理解が追い付かない。何が起こっているのか。なぜ死んでいるのか。心臓の鼓動に合わせて噴き出す血を浴びながら、ナナの理性は限界を迎えようとしていた。耳元で声が聞こえたのは、そんな時だった。
「安心していい。すぐに仲間のところへ送ってやる」
彼女の絶叫が響いたのは、その直後だった。
「やはり、こうなるか……」
ついいつもの癖で落とした首を拾い上げた月鴉・湊(染物屋の「カラス」・f03686)は、それを麻袋に入れようとしたところで手を止めた。最期の表情は、恐怖にまみれていた。
彼女たちに何の罪があっただろう。浚われ、恐怖に囚われ、理不尽を強要され、やがて死んでいく。
「良くあることだ……悪いがこれも仕事なんでね」
恨むなら恨んでくれて構わない。そう言った言葉はもう死んでいる少女たちに届くはずもなく、ただ虚しく虚空に消えていく。そう、背負える者だけが彼女たちの命を背負っていけば、それでいい。
再び透明化した湊は、足音を殺してその場を去った。
成功
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第3章 ボス戦
『断頭台の魔女』
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POW : ずっと一緒にいましょうね、パパ……
【嫉妬】【憎悪】【寵愛の感情】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD : パパの為に生贄になりなさい!
【断頭台の刃】が命中した対象を切断する。
WIZ : 私ハ断とウ台のma女
【拒絶】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【霊界に通じる門】から、高命中力の【首を断たれた者の怨念】を飛ばす。
👑11
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合流した猟兵たちが見たものは、横たわる少女に折り重なるようにして泣き崩れる、もう一人の少女の姿だった。既に囚人たちは脱出したのだろう、その場には彼女たちと猟兵、そして犠牲になった人々の遺体だけが残っていた。
「あいしゃ……どこにいるの……」
弱々しい声が、倒れていた少女から絞り出される。もう目が見えていないのかもしれない。
「ミア、ミア、私はここに居るよ!」
それを聞いたミアは、口許をほころばせた。
「ねえあいしゃ……星が……きれいだね……」
ここは建物の中。当然星など見えるはずもないし、そもそも空は厚い雲に覆われている。稀に晴れることもあるらしいが、その瞬間に立ち会えるのは奇跡と言っても過言ではない。だから彼女は応えた。
「うん、そうだね……あの時一緒に見た空と、おんなじだね……」
「あいしゃ……いきて……わたしの、ぶんまで……いきて……」
握られた手に力がこもる。それはあまりにも弱く、本当に力を入れているのか分からないほどに。それでもアイシャには、きっと伝わったはずだ。
「うん、私は生きるよ。ミア、お別れは寂しいけど……私は、前を向いて生」
首が飛んだ。
断面から血が噴き出すとともに、彼女の体はミアの上に崩れ落ちる。
「あいしゃ……ふふ、おもたいよ……もう、あまえんぼさん……だね……」
何も見えていないミアは、そんな親友の重みを感じながら、静かに息を引き取った。
瞬間、全員が戦闘態勢に入る。全く気配を悟られずに、敵がこの場に現れていたのだ。
「全く、お留守番もできない番犬なんて、おもちゃになる価値すら無いわ」
アイシャの首を落としたであろう巨大な刃が、その声の主の下へ帰っていく。冷たく言い放ったそれは、球体の関節を持つ人形のようだった。これが、魔女の正体なのか。
断頭台のようなものを後ろに控え、ガラスのような容器に入れられた生首をいとしそうに見つめる。取り付けられたタグには、FATHERと刻まれているようにも見える。
「そうねパパ……遊び終わったおもちゃは片付けないと……」
これが、全ての元凶。これが、忌まわしき魔女。こんなふざけた世界を作り出した者の一人。
今更猟兵たちに説明など必要ない。
この腐った世界を、敵を、ぶっ潰せ――!!
アリス・セカンドカラー
人の手はあまりにも小さくて、
掬い取るよりも取り零すモノの方が多くて、
もしも、それを罪と呼ぶならば
――背負いましょう、その罪を。
嫉妬も憎悪も怨念も、強い感情――精神活動はエネルギーである。
物理的な行動も位置エネルギーに運動エネルギー、慣性エネルギーetc.etc.様々なエネルギーに満ちている。
そも、存在することそのものがエネルギーの塊である。
ならば、そねあまねくをエナジードレインしてイーファルニエフィルフィンの糧にしましょう。
過剰吸収にならぬよう、随時オーラ防御や念動力や属性攻撃として放出していくわ。
シェオル・ウォーカー
【POW】
ようやく姿を現したか、同類。
同じ悪同士、言葉は不要だろう。
私もお前も、所詮は殺すことしか出来ない半端者だ。
いくぞ、オブリビオン。
私は前衛として立ち回ろう。
【殺気】で敵の注意を可能な限り引きつけ、相手の攻撃にあわせて【百獣の剣技】で応戦する。これは攻撃回数を重視し、攻撃の相殺を狙う。威力が不足する分は、【怪力】でカバーしよう。
負傷は避けられないだろうが、【激痛耐性】で踏みとどまる。
私が耐えれば、他の猟兵達も動きやすくなるはずだ。
故に決定打は狙わず、敵が攻めづらい動きに集中しよう。
悪いが、私も一人で勝とうなどとは思っていない。
他の猟兵達はいずれも腕利きだ。
あまり、私達を舐めるなよ。
神酒坂・恭二郎
「嬢ちゃんが黒幕か。親父さんと仲睦まじくて何よりだ」
深い呼吸で煮え滾った怒りを抑え、飄々と告げる。
会話の通じる手合いではない。
行動は【クイックドロウ】で手拭いを鞭にして『パパ』を狙う。その後も攻撃力重視の布斧で攻撃、【二回攻撃】で【武器改造】で手数重視の布槍に変じて間合いを取って攻撃。槍、斧、鞭を使い分け、全て『パパ』狙いだ。
【覚悟】を決め、こちらへ攻撃を【おびき寄せる】。
攻撃に対しては布操術の【早業】で【オーラ防御】、時折に【カウンター】。味方を【庇う】闘い方だ。
「怒ってるのは俺だけじゃないんだぜ、嬢ちゃん」
注意を引けば、【ロープワーク】で捕縛し、味方への隙を作りたい。
【アドリブ、連携歓迎】
守田・緋姫子
...オブリビオンは嫌いだ。とっくに終わったはずのものが現世に死と災厄を撒き散らす様は見るに堪えない。醜い死人の悪あがきはここで終わらせてやる。
ユーベルコードを発動して、私の力の及ぶ限りの、この女に殺された死者達を亡霊として呼び戻す。このユーベルコードは相手がクソ野郎であればあるほど効き目がある。今回は相当派手な光景が見られるだろうな。
だが、ミアとアイシャだけは対象から外してそのまま眠らせておこう。彼女達の眠りは妨げてはいけないと思うのだ。
戦闘は亡者達に任せて、私自身は人の良さそうな猟兵の後ろにでも隠れさせてもらおう。...敵と間違われなければいいがな。
アドリブ、連繋関係
エルス・クロウディス
黒髪青眼、青く染まる外套。
「骸装は戻せないな」
あれが気まぐれに気絶してる彼女たちを襲わないとも限らない。
「泣いたり笑ったり、出来るように……ってな……!」
必然、無茶が必要になるか。
通路入り口付近でウィルを肩に担ぐように構える。
骸装は大抵両手が埋まるが、こいつなら左は自由だ!
10秒――欲を言えば20秒欲しい。
疑似全段観測併用で<見切り>、壊態で<なぎ払い>、司纏軼尖の防御特化と<激痛耐性>も頼り凌ぐ。
「もってくれよ……!」
タイミングを見て壊態で敵を捕えて<時間稼ぎ>、味方に避難勧告。
力で肥大したウィルを叩き付けて指向性のない前方<範囲攻撃>。
隙はできるだろ?
後、任せる……!
アレンジ・連携〇
セレヴィス・デュラクシード
これで満足かな?(頭掻き
お前、ゆるさないよ?
人じゃないアイツには分からないかもだけどさ‥‥人の命、想いを弄んだ事、絶対に『後悔させてから』滅してやるッ
確かにあの二人にも罰が必要だったよ、だからってこんな形じゃなかった筈なんだよ!
無理矢理【指定UC(一定周期で苦痛を伴う)】を使用
【ダッシュ】で地面を、【空気を/狐百まで踊り忘れず】蹴り無規則な軌道加速で背後から接近、加速と体重を乗せた【踏み付け】からの全力蹴り上げの【2回攻撃】
「さぁ次はお前の番なんだよ!」
最後に、死んじゃった人達を簡単でも良いから弔ってあげたいなぁ
今は見えなくても、いつか雲が消えたら綺麗な星空が良く見える場所に
※アドリブ連携歓迎
アンナ・フランツウェイ
(真の姿への変化と共に呪詛天使・再臨が発動、呪詛の声の主に乗っ取られた状態です)
アンナ、貴方は人間性を取り戻す内に心が弱くなった。だから人を殺しただけで苦しむのよ。だから私がこの世界を壊してあげる。この体の中から見ていなさい。
断頭台の魔女への接近には、強化された真の姿の能力と「見切り」で攻撃の軌道を見切って回避。攻撃を食らっても「激痛耐性」と「気合い」で耐えるわ。
接近出来たら断罪剣・ラストブラッドを魔女の胸元へ突き立て、「傷口をえぐる」で追撃。でもあえて殺さないように手を抜く。貴方を許すわけじゃない。…嬲り殺しにするためよ!剣で何度でも切り裂いてあげるわ!
フォルター・ユングフラウ
【WIZ】
【古城】にて参加
諦めなければ願いは適うと、そんな童話の様な甘い言葉を体現する気か?
……まぁ良い
自身に残された騎士物語を体現出来るか否か我が見定めてやろう、トリテレイアよ
断頭台の魔女よ、聞け
被虐の女帝が、貴様をこの世界より“片付け”てやろうではないか
我も、父上…UC:ノスフェラトゥを喚び出してやろう
数々の状態異常を駆使し、じっくり遊んでやる
どうだ、自身が玩具となる気分は?
貴様の惨めな呻きが、遊び終えた玩具への鎮魂歌となるであろうよ
どうやら騎士が、貴様の刑場を用意するらしい
何とも気が利くではないか、ん?
─さぁ、父上
貴方の槍と我が鎌にて、あの愚物に終焉を齎しましょう
※アドリブ歓迎
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】で参加
(2章でのフォルターの行動に対して)
ここは腐りきった世界だと貴女は言いました。
ですが私は諦めはしません、届かぬ物へ血に塗れた手を伸ばすのは慣れています。この魔女を討ち果たし小さな一歩を世界に刻みます。
UCの発振器を戦場にばら撒きます。
UCの障壁を壁状に展開したり盾受けで攻撃から仲間をかばいつつ、スナイパー技能で関節や糸を攻撃、行動阻害を狙います。
容器の首を狙って相手の動揺を誘えればさらに狙いやすくなるでしょう。
相手の動きが鈍ったらUCの壁を檻状に展開、逃走を防ぎつつ怪力による大盾での鎧砕きの一撃を容器に加え破壊します。
「これは檻ではありません、貴女の処刑場です」
アドリブ・連携歓迎
カタラ・プレケス
アドリブ連携歓迎
…少なくとも僕から君に語る言葉はないよ。
僕より他の人の方が言いたいことはあるだろうからね。
それに、どう言い繕うとも人の不幸を招く呪術師てある以上、
僕も君と同類だ。
…それでも、君はあまりに残酷が過ぎた。
だから、存在ごと呪い殺そう。
第三禁忌を展開して、放たれた怨念諸共腐らせよう。
霊符を使って【呪詛】と【破魔】で妨害。
天蠍縛砂で足を拘束して味方の攻撃を援護するよ。
スクナの【毒】で目くらましもしようか。
徹底してサポートに努めるよ。
●
「ねえパパ、今日はこんなにたくさんのご馳走があるわ。いくつかは……食べられないみたいだけど」
魔女は猟兵たちを一瞥すると、再びガラス容器に目を向ける。あれはやはり、父親だったものなのだろう。この魔女と呼ばれる存在が何のために生贄を求めているのかは分からないが、おそらくあのガラス容器と無関係ではないはずだ。もしかすると、それのために今まで延々と犠牲を強いてきたのかもしれない。
「……オブリビオンは嫌いだ」
誰に言うでもなく、一人こぼした守田・緋姫子(電子の海より彷徨い出でし怨霊・f15154)。オブリビオンが好きだという者は逆に珍しいだろうが、彼女の言いたかったことはきっとそうではない。
オブリビオンは過去の残滓。とうの昔に終わってしまったもの。それが現世に、現在に、現実に生きるものに害を為し、災厄を撒き散らしていい道理などあるものか。
「醜い死人の悪あがきは、ここで終わらせてやる」
「醜い死人みたいな見た目をしているくせに、誰に向かって口を聞いているのかしら」
緋姫子の言葉に気を悪くしたのか、眉根を寄せて彼女を見返す。そんな魔女は、自らの周囲を囲うように、地面から何かが這い出ようとしていることに気が付いた。
まるで沼のような冥いそこから、初めに見えたのは小さな手。腕が伸び、やがて這いずるように姿を現したそれらは、全て頭が無かった。彼女が呼び出したものは、この断頭台のようなものを持つ魔女が、これまでに殺めてきた人々。
「覚悟はいいか、クソ野郎。さあ、お前の罪を数えろ」
その言葉を合図に、一斉に魔女へと襲い掛かった。伸ばされた手が、ぼろぼろの身体が、虐げられた痕が、罪の形。
この世に生きている以上、誰もが罪を背負って生きている。それは赦されるべき罪。だがこの魔女は罪に悪を重ねてしまった。もう戻れない、赦されない領域に達してしまった。ならば守るべきを守れないことはどれほどの大罪か。人の腕は伸ばすには短く、人の手は掬うには小さすぎる。命を背負うには、あまりにも脆すぎる。どんな背景があろうと、彼女たちも本来こんな戦場に立っていていい年齢ではない。しかしそれと同じように、どんな背景があろうと、彼女たちは猟兵なのだ。
「Efil ni efilthgin 人生の夜を司る者――」
小さな背中に、何を背負うのか。アリス・セカンドカラー(不可思議な腐海の笛吹きの魔少女・f05202)は、断頭台の刃を自在に操り亡者たちを薙ぎ払っていく魔女へ密かに触手のようなものを伸ばした。
「……?」
気付くか気付かないかといった僅かな違和感。魔女は自分の動きが徐々に鈍くなっているように感じた。これだけ派手に動き回れば、どれほどのエネルギーが生まれるだろうか。そうでなくともこの世に存在するものは全てエネルギーを持っている。アリスはそのエネルギーを吸収しようというのだ。おそらくある程度吸収しきったところで魔女もその存在に気付くだろう。しかしそれでいて尚過剰となるほどのエネルギーを魔女は持っていた。
「なによこれ……っ!」
足下に伸びていた触手を踏みつけようと一瞬手を止める。そこへ亡者の群れを縫うようにすり抜けたアリスが急迫した。
「その前にいらない分をお返しするわ」
余剰分のエネルギーは、念動力として放出する。赤い瞳が妖しく輝いた。途端、足首の球体関節がバラバラに砕け散った。
「ッ……!! ぁあ足がぁあぁぁあぁあぁッッ!!」
人形の身体に痛みがあるのかは分からないが、その事実に魔女は叫び声を上げる。
「今更何を驚いているの。あなたはこれから死ぬのよ?」
そう言ったのはアンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)、いや、彼女はこうも冷たい目をしていなかったはずだ。彼女は、誰だ。
見ているだけで気が狂いそうな呪詛と怨念、それらがアンナを覆うようにして広がっている。その中心で、彼女は嗤っていた。魔女を、違う、自分自身の心を。罪悪感に苛まれるのは、心が弱くなってしまったからだと。敵を、世界を蹂躙し、破壊するさまをその目に焼き付けろと。
足を失った怒りに、闇雲に刃を振るう魔女へアンナは飛んだ。もう亡者はほとんど残っていない。故に何処からでも襲える。乱れ舞うような刃をすり抜け、断罪剣を胸元へ突き立てた。そのまま片面の鋸刃を弾くようにして抜き取る。その剣が貫通することは無かった。そもそも人形に心臓など存在していないので、貫通しようがしまいが彼女には関係なかったが、目的はそこじゃない。
「貴方を許すわけじゃない。……嬲り殺しにするためよ!」
鋸刃で何度も傷を抉り、切裂く。身体が人形とはいえ、その表面は人工皮膚のようになっている。どういう仕組みになっているのか、一丁前に血液も通っているようだ。まあ、それが本当に血液なのは分からないが。
「煩いゴミ共が!! 大人しく贄になればいいのよ!!」
再び大きく振るわれる刃を避けようとアンナは後ろに飛ぶも、それを追うようにして迫ってきていることに気付いた彼女は、小さく舌打ちをした。地面に足を着け、来る衝撃に備える。しかしそれが彼女に届くことはなかった。
「ようやく姿を現したか、同類」
シェオル・ウォーカー(悪刃・f14868)の剣技によって受け流された刃が地面を抉る。
自分という存在を理解しているからこそ、彼にはこの魔女がはっきりと悪だと言えた。自らが悪であり、他者を殺すことでしか存在する意味を見出せない。悪を絶つことが出来るのがまた悪だというのなら、躊躇わずにそれを為す者。
「同じ悪同士、言葉は不要だろう」
と、一歩前へ踏み出した――だけのはずが、彼の姿は既に魔女の懐へと肉薄していた。呪われた長剣が幾重にも閃を描き、急いて手元に戻した巨大な刃を弾いていく。威力を抑え、手数に重視した剣技であったが、元来の怪力が併わさり、完成された技へと昇華する。敵の攻撃を防ぐだけが守りではない。相手に攻撃をさせないこともまた守りだ。
「パパ、もう少し待っててね。今日はお片付けが大変なの……」
くい、と指先から伸びた糸を引くと、背後の断頭台のようなものが立ち上がる。刃の無いそれはまるで台と言うよりは、門のよう。ふとシェオルはその中に幾多の光を見た気がした。次第にはっきりと形を成す光は、これまで喰らって来た人々の怨念そのものだと理解する。いくら怒涛の剣捌きといえど、手元の刃を抑えたままこれに対応するには骨が折れるだろう。だが彼はまた理解している。
「あまり、私達を舐めるなよ」
一人で戦っているわけではないことを。
「そうだね、僕も君と同類だ」
夜の闇のような翼を広げたカタラ・プレケス(呪い謡て夜招く祈りの鳥・f07768)が、呪術を紡ぐ。人を呪わば穴二つ、とはよく言ったもので、彼も人の不幸を呼び起こす呪術師である以上、それが正義とは言えるはずもない。だがそれは自らが選んだ道だ。誰にも否定はさせないし、超えてはならない一線を持っている。
それを超えた魔女を、彼は赦さない。
「少なくとも僕から君に語る言葉はないよ……でもね、君はあまりに残酷が過ぎた」
淀んだ世界に、歪んだ存在に、最早容赦など必要ない。
ふわりと舞ったのは、彼岸に咲くと言われた花の赤い花弁。いつの間にか魔女の周りを囲うように漂うそれは、門から這い出ようとした怨念を腐敗させていく。既に死んでいるとはいえ、悲痛な叫びを上げながら腐り落ちていく様は痛々しく見えた。更に追い討ちを掛けるように、魔女の足下に彼岸の花が咲く。花弁に触れた先から侵食し、腐食させていく。手の指が、髪が、腐っていく。
攻撃の隙を掻い潜り、体勢を整えるためかその場から退いた魔女はまず、腐食した部分を自ら切り落とした。
「許さない……パパが綺麗だって褒めてくれた指を……髪を
……!!」
もしかしたらそれは彼女が人形になる前の話なのかも知れない。だが今の魔女にとってそれは過去でも現在でもない。漠然とした記憶、それだけが彼女の全てなのだ。
魔女は初めから魔女だったわけではない。それが何十年、何百年前の出来事かは分からない。父を、一人の男性として愛してしまった少女は、手始めに母を殺した。そして抵抗する父の身体が邪魔だと、頭と切り離した。そうすればもう暴れないから。きっと父も暴れたくなんてなかったはずだ。なのに言うことを聞かなくて、勝手に身体が動いてしまっていたのだと。だから切り離した。これでずっと一緒に居られるはず。
当然、そんな生活が数日と続くはずが無い。放置した身体が、ガラス管に入れた首が、やがて腐り落ちていく。こんなはずじゃない、こんなのパパじゃない。愛おしい姿が崩れ落ちていく様を見ていた少女は悪魔を呼んだ。悪魔は少女に囁く。捧げた首の数だけ、お前と父親の寿命を延ばしてやろう。それに少女が頷かないはずがなかった。
そして、他者の命と引き換えに、少女は人形の身体と、永遠の命を手に入れる。ここに、断頭台の魔女が生まれた。
結局魔女は討伐されることとなったのだが、今この世界にこうして害悪として蘇った。
「許さない……!」
怒りに震える魔女が、剣を構えるシェオルを向いた。先ずはお前だと言わんばかりに、ガラス玉の目をひん剥いている。
その後ろに立つ青年。白だった髪は黒に。紅だった瞳は蒼に。黒だった外套は青に。エルス・クロウディス(昔日の残響・f11252)は自らの装備である骸装を手放した。それにはまだ、眠っている少女たちの安全圏としての役割が残っている。
「泣いたり笑ったり、出来るように……ってな……!」
外套、ウィルを肩に担ぐように構え、集中。力を収束させる。迫る攻撃は全てシェオルとカタラが防いでくれる。ならば集中するしかない。心の中で数を数えながら、そのときを待つ。
18……19……。
「今だッ!!」
エルスの合図に、シェオルとカタラは後退した。その直後、迫り来る刃も、怨念の塊も、伸ばされた魔女の腕も全てを巻き込み、肥大化した外套が圧し潰した。悲鳴を上げる魔女。
「後、任せる……!」
骸装の維持のためか攻勢に出ることが出来ないエルスは、これを待っていたとばかりに、他の猟兵たちへ投げかけた。
●
「嬢ちゃんが黒幕か。親父さんと仲睦まじくて何よりだ」
滾る怒りを深呼吸で抑え、ゆっくりとした足取りで魔女の前に立ちはだかった神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)。手に握られているのは、一枚の手拭い。それがただの布でないことは、先の戦いで十二分に知れている。対する魔女は、もう片足と片腕が奪われ、武器である断頭台の刃さえ上手く動かすことが出来ない。もう勝敗は決しているといっても過言ではないだろう。だがこれで終わりではない。
地面を蹴って急迫した恭二郎の最初の一撃は、槍。青いフォースを纏わせた手拭いが張り詰め、凶器となって魔女の下へ。かわされると次は鞭に。隙を突いては斧に。変幻自在のスペース手拭いが魔女を襲う。それらを間一髪でかわしながら、魔女はじりじりと後退する。このまま壁際に追いやれば、多少は楽になるかもしれない。それに。
「怒ってるのは俺だけじゃないんだぜ、嬢ちゃん」
激しい攻勢を繰り広げる恭二郎が呟いたのは、そんな一言。余裕の無い魔女が、それに応えることも、反応することも出来なかったのは、必然だった。
空を切る音、それは手拭いではない。空中を自在に蹴り出し、姿すら捉えることの出来ない速度で翔けるセレヴィス・デュラクシード(複製されし幻想の狐姫・f04842)。碧眼の輝きだけが尾を引き、まるで夜空を翔ける流星の如く、魔女へ一直線に狙いを定めた。瞬間、爆弾でも使ったのかと言わんばかりの激しい衝撃と音が戦場を支配する。
土煙が晴れ、やがて姿を現したセレヴィスは、伝説の妖狐のような九本の尻尾と狐耳を携え、走るノイズに顔を歪ませながらも立ち上がる。
「お前、ゆるさないよ?」
そこにいつもの明朗快活な笑顔は無い。あるのは――燃えるような怒りだけ。理不尽を強いられた少女たちを想う、その怒りだけ。
「さぁ次はお前の番なんだよ!」
残っていた片足を先の攻撃で粉砕したセレヴィスは、その怒りを全てぶつけるように追い討ちで蹴り上げる。鼻先を掠っただけで首が飛びそうになるのを上から押さえつける魔女。その隙に恭二郎の手拭いが鞭となってしなる。
「そんなものっ!」
魔女は反射的に身を捩ってそれを避けた。が、恭二郎の狙いは初めから魔女ではなかった。
ガシャン、とガラスの割れる音。それを聞いて、魔女は恐る恐る振り返る。その目に映ったのは、砕けた容器から転げ落ち、魔女の手を離れ腐り落ちていく父の頭だった。
「うそ……パパ……?」
ぐずぐずと、まるで毒に冒されたかのように目に見えて腐っていくそれを前に、とうとう魔女は発狂した。耳を劈くような金切り声。何かを叫んでいるが、何を叫んでいるのか全く分からない。
と、突如刃と繋がっていた腕を振り回し、周囲にむやみやたらに攻撃を仕掛ける。壁や天井に傷が入り、損傷の激しいところは崩れていく。この建物自体がそんなに造りの良いものではないため、あまり暴れられると施設ごとつぶれてしまうかもしれない。
恭二郎は舌打ちをしながらもセレヴィスと共に安全圏へと退く。
その様子を、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)とフォルター・ユングフラウ(嗜虐の乙女・f07891)は少しだけ離れた場所から窺っていた。
「ここは腐りきった世界だと貴女は言いました」
トリテレイアが言ったのは、少女に手を掛けたフォルターがこぼした言葉だ。
「ですが私は諦めはしません」
魔女の攻撃の隙を探しながら、彼は思いの丈を紡ぐ。
「諦めなければ願いは適うと、そんな童話の様な甘い言葉を体現する気か?」
呆れたような声。フォルターには、今まで存在しなかった思考。水と油。表と裏。光と闇。全くもって正反対の二人。
「届かぬ物へ血に塗れた手を伸ばすのは慣れています」
例え紛い物だったとしても。
「この魔女を討ち果たし、小さな一歩を世界に刻みます」
それに応えたのは、まず溜息だった。
「……まぁ良い。自身に残された騎士物語を体現出来るか否か我が見定めてやろう、トリテレイアよ」
やがて、平行だった二つの線が交差する。
「では」
短くそれだけ言うと、トリテレイアは大型兵器を構える。一見して何かに――いや、何にも見えないそれは、魔女にとっても未知の存在だった。棒のような、杭のような、そんな兵器。彼はスラスターを射出し、ホバー移動をしながら魔女の周りを一周、その棒のようなものを突きたてながら回った。そして即時に展開される格子状のエネルギー障壁。まるでそれは魔女を捕らえる檻のよう。
「これは檻ではありません、貴女の処刑場です」
その中に取り残されたのは魔女だけではなかった。鋸刃の鎌を持ったフォルターもまた、そこに留まっていた。
「処刑場とは、何とも気が利くではないか。ん?」
傲岸不遜、冷酷無比とは彼女のためにある言葉なのかもしれない。この世の全てを見下すような視線で魔女を射抜くと、慄き手を止めた魔女へ声を張った。
「断頭台の魔女よ、聞け。被虐の女帝が、貴様をこの世界より“片付け”てやろうではないか」
握られた鎌が鈍く光る。
「――さぁ、父上。貴方の槍と我が鎌にて、あの愚物に終焉を齎しましょう」
よく目を凝らさなければ見えない、ゆらりと歪んだ影。それが形を成す頃には、紅の瞳が四つに増えていた。
圧倒的な存在感。未熟さや甘さなど一切が絶たれた、完成されたヴァンパイア。その手に握られた槍の切っ先が踊るのを、果たして魔女は捉えられただろうか。肘から先が潰された腕を、槍が貫く。追うようにして反対の腕を鎌が切り落とし、また槍が貫く。刺す。斬る。薙ぐ。払う。打つ。抉る。穿つ。言葉など必要ない連携が、人形の身体を削ぎ落としていく。
「どうだ、自身が玩具となる気分は」
断頭台のようなオブジェを破壊したフォルターは、冷たい目で魔女を見下ろした。もう戦意どころか、戦える姿ですらなかった。
「貴様の惨めな呻きが――遊び終えた玩具への鎮魂歌となるであろうよ」
そして、最後の一刀が振り下ろされた。
●
バラバラになった魔女は、いつの間にか消えていた。その場を確認したわけではないが、おそらく消滅したのだろう。
誰かを忘れているような気はしたが、囚われていた人々は無事村へと帰り着いた頃だろうか。後から聞いた話では、助かった少女たちも涙ながらに許しを乞うていたが、村人たちは暖かく迎え入れてくれたようだ。
「皆を、弔ってあげられないかな」
そう言ったセレヴィスに賛同して、猟兵たちは施設の外へ犠牲者たちの遺体を運び出した。いつの間にか夜になっていたようで、外はすっかり暗い。が、その景色を見て一同は息を呑んだ。
空には、満天の星が瞬いていた。晴れ間を見ることが出来るのは奇跡とまで言われたダークセイヴァーの空が、雲ひとつ無い晴天を向えていた。
施設に隣接する森を少し進むと、小高い丘がある。全員をそこまで運ぶことは出来ないため、たった二人だけ、空の見える丘に埋葬することにした。
この世界は腐っている。救いなんて無くて、まるで地獄のようだ。
だけどそんな世界にも光があるのなら。いつか、この場所に眠る二人が、並んで見上げた空のような光が。今、世界を照らしているこの空のような光があるのなら。
少しだけ、希望を持っても――きっと世界は許してくれるだろう。
そうしてこの物語の表舞台は、ひとまずここで終幕を迎えた。
大成功
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アマータ・プリムス
湊様(f03686)と連携
思う所は色々とありますがまずはこの目の前の魔女を倒しましょう。彼女たちの刃で
湊様が召喚した一人にスコパェの仕込み刀を抜いて渡す
それと同時に湊様に合わせ【フェイント】をかけながら【だまし討ち】
フィールムで魔女を拘束し【時間稼ぎ】
湊様の合図に合わせ当機もUCを使用
イーリスが弾けないのでアカペラで【歌唱】するのは彼女たちが刃を振るうための応援歌にして魂の鎮魂歌
「未来とは自分の手で掴み、生み出すものです。運命が許してくれたほんの少しの奇跡。後悔のないようにお使いください」
魔女へトドメを刺したら彼女たちも消えてしまうでしょうが当機は歌い続けます
彼女たちが安らかに逝けるよう
月鴉・湊
アマータ君(f03768)と連携希望。
トドメ希望。
貴様か。彼女達をこんな風にさせたのは。
喜べ、珍しく俺は貴様なんぞに怒りを感じているぞ
UC「咎人達の贖罪」を使用し、先ほど手を掛けたシャルとナナを呼ぶ。
そして二人に語りかける。
これ以上、君たちのような子を産み出さない様に、そして君の、君達の怨みを晴らすんだと。
同意してくれたら一人に俺の刀を渡す。
そしてアマータ君と共に魔女を全力で血の糸の早業で拘束を行う。 動けなくなったところで彼女達に合図を出す。
さあ、君達の手で魔女を倒せ。
この負の世界を断ち切るんだ
●
「こんなの……聞いてない……こんな場所に、あんな奴らが来るなんて
……!!」
収容所の外。月明かりに照らされて、ひとつの影が走っていた。魔女だ。
バラバラになったはずの断頭台の魔女は、自らが操る糸で自分の身体を繋ぎとめ、誰も見ていない隙を突いて逃げ出していた。武器は全て失った。最も大事にしていた父も失った。何もかも、今の魔女には残されていなかった。
「ああ……パパ……パパ……!」
胸が張り裂けそうな悲しみが襲う。けれども涙は、人形の身体を手に入れたときに捨てたのだ。
ボロボロの身体に鞭を打ち、恐怖から逃れるように走る。身を隠すために森に入ったときのことだった。
――彼女を絶望の淵へと叩き落す、彼の声が聞こえたのは。
「貴様か。彼女達をあんな風にさせたのは」
首筋に刃を当てられたかのような、背筋の凍る感覚。声の主はどこにいる。右。左。後ろ。居ない。いつ何処から襲われるとも分からない恐怖に、魔女はやがて腰が抜けたように座り込む。
「喜べ、珍しく俺は貴様なんぞに怒りを感じているぞ」
月鴉・湊(染物屋の「カラス」・f03686)と、その三歩後ろに着くアマータ・プリムス(人形遣いの人形・f03768)は、そんな魔女の目の前に姿を現した。
「やめて……来ないで……来るなっ! 来るなぁぁああッ!!」
武器を失ってもう戦う手段を持たない名ばかりの魔女は、悪あがきとばかりに腕を振り回す。自分で立ち上がることも出来ないようでは、それも意味を成さないだろうが。しかしそれを湊は冷たく一蹴した。
「何を言ってるんだ。殺るのは俺じゃない」
それを聞いた魔女はすぐさまアマータを警戒した。しかし彼女も何かを待っているかのようにじっと立ち尽くすだけで、動く気配は無い。
「さて、ここで罪を償うチャンスを与えよう」
それは決して魔女に与えられた言葉ではない。辺りを漂う濃い霧のようなものが、やがて二つの形を作った。
ぼさぼさの髪、やつれた顔。やせ細った身体。みすぼらしい布の服。先程湊が手に掛けた少女たち。二人は焦点の合わない瞳でぼんやりと虚空を見つめている。
「何をする気よ……」
腰を抜かしたまま後ろへ這いずって逃げようとしていた魔女を、アマータのフィールムが縛り上げる。
「これ以上、君たちのような子を産み出さない為に――そして君の、君達の怨みを晴らす為に」
「未来とは自分の手で掴み、生み出すものです。運命が許してくれたほんの少しの奇跡。後悔のないようにお使いください」
ぼーっと湊を見上げた少女は、ゆっくりと頷く。そんな彼女に、一振りの刃を与えた。もう一人には、同じようにアマータが仕込み刀を抜いて渡す。
「さあ、君達の手で魔女を倒せ。この負の世界を断ち切るんだ」
未だ逃げようと暴れる魔女を、湊が更に拘束すると、もう身動きが取れなくなっていた。そんな魔女へ、二人の少女が時間を掛けて距離を詰めていく。アマータの歌に背中を押されて、ゆっくり、ゆっくり。確実に。
「あ、あなた達、今ならまだ許してあげるわ! あの二人を殺しなさい!」
ゆっくり。ただ自らの目的を果たすためだけに。
「わ、私の言うことが聞けないの!?」
当然彼女の声は届かない。彼女たちを突き動かすものは、魔女に対する恨みと憎しみだけなのだから。
「やめ……やめて……私が悪かったわ、ごめんなさい! そうよ、謝るから許して! お願い殺さないで!!」
二人の刃が魔女の首を刎ねたのは、その直後だった。ごとりと重たい音を立てて地面に転がる人形の頭。恐怖と悲愴に塗れたその顔は、何を語ることも無く宙に溶けて消えていった。そして同時に消え行く二人の咎人。その口許が僅かに動いたのを、アマータは見逃さなかった。彼女たちは最後に伝えたかったのだろう。
ありがとう、と。
「さ、気が済んだら帰るとしようかね」
光さえ当たらない森の中、湊は木に背中を預けて、未だ続く二人への鎮魂歌へ耳を傾けていた――。
大成功
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