サイバーザナドゥとは思えないほど深い緑の中、一匹のホンドギツネが歩いていた。
土の香りを嗅いで歩くキツネ――コンロ・コンバッティア(超小型試作キャバリア・狐モデル・f40457)が動作をするたび、風にかき消されるほどの駆動音が鳴る。キチチ、と音を立てて空を仰いだコンロは、森の奥へ目をやった。
瞳が細められると、瞳のカメラは望遠モードに切り替わる。瞳は青く待機モードのまま、しかし体は警戒を示して地に伏せる。
本物のキツネではありえないほどの超長距離にわたる索敵の果てに、コンロは敵性存在を認識する。
「ゥ――」
唸りを漏らした直後、コンロは動き出していた。
地を蹴り、木々の合間を縫ってコンロは駆ける。敵性存在もコンロとほぼ同じ速度でコンロに向かっており、二者の距離はみるみるうちに縮まっていく。
淡い影の輪郭が精度を増す――敵性存在が狸だと視認した瞬間、内部AIは敵のスキャンを開始した。
生体反応なし/内部駆動を確認/排除を検討――承認/機構解析
スキャンの直後、コンロの瞳は赤く染まる。
赤い視界に次々と情報が映し出される。
分析によって得られた情報は、目の前の狸が動物ではなくコンロとほど近いロボットであることを示している。
だが、在り方が近しいことを知ってもコンロに搭載されたAIが何かの感慨を起こすことはない。3Dスキャンによって
狸の機構は高い精度で暴かれ、敵の機能停止に向けた情報を次から次へと展開している。
流れるような情報処理の間も、コンロと敵は走り続けていた。
「ガウゥッ!!」
「ウォヴッ!」
威嚇の叫びが木々を穿つ。
顔を合わせた瞬間から敵意は明白で、コンロが牙を剥くと同時に狸も大口を開けた。
鈍い音は、二者の跳躍が重なった音。
両者の牙は等しく互いを引き裂き、首元の毛皮は裂かれて宙を舞った。
「――ゥヴ――」
あらわになった銀色の機械部は、鮮血よりも目を惹く。
損傷を確認/頸部パーツ表層を破損/内部機構損傷なし/戦闘行為は続行可能
エラーメッセージは、損傷の軽微さに比例して視界の片隅に表示されるのみ。
バックグラウンドでは絶え間なく演算が繰り返され、次の手の可能性は無数に浮かんでいた。
「ギャンッ!!」
演算の結果、コンロは咆哮を上げる。
「ギャウゥっ!」
狸も負けじと叫び返し、尾を大きく膨らませて跳躍した。
風を帯びて体が膨らんで見える――見上げるコンロの眼差しは軌道計算によって狸の着地地点を導き、落下直後の狸の首を獲ろうと横にずれる。
「――!」
だが、狸の持つ演算装置はそれすら織り込んでいた。
「ゥガっ!」
狸は宙で体勢を変え、回避したはずのコンロを捉え直したのだ。急降下した狸は、避ける暇も与えずにコンロの頭部にかじりついた。
「キャンッ!」
コンロの悲鳴と共に、
警告音が鳴り響く。
見開いた目玉の内側で特大のエラーメッセージが展開される。頭蓋を模した頭部機構は堅牢なはずだが、一部が噛み砕かれて基盤にまで狸の牙が届く。
「――ッ!」
エラーメッセージにノイズが走って崩壊する。バチバチと頭部で爆ぜる火花の熱を覚えながらも、コンロの全身に備わったセンサーは狸の胴部ががら空きであることを見抜いていた。
「ガアァッ!」
鼻先を突っ込むように腹部に食らいつくコンロは、四肢を踏ん張って首を大きく左右に振る。
「ギャッ……!」
毛皮を剥がされた狸の無機質な内部があらわになる。毛皮に深く牙を食い込ませたまま機構に牙を突き立てると、狸の叫びに機械的なノイズが走った。
「ウギャアアッ!!」
コンロに振り回されながらも狸も爪を立てて抵抗する。尾の制御機能をフル活用してその場に留まろうとするコンロだが、やがて耐えかねて二匹の機械は地面に転がった。
上下や左右を忙しなく入れ替えながらの攻防が繰り返される。露出した駆動部は裂けて火花を散らし、視界はノイズとエラーメッセージで埋もれて使い物にならない。
そんな中でもマウントポジションを取り戻して、コンロは狸の頭部フレームに牙をかけるとへし折った。
「ッギ
、…………」
すかさず抵抗しようとコンロの側を振り向いた狸は、そのままの格好で地に伏せる。
パチパチと爆ぜていた火花も収まり、激闘によって機械部を露出した四肢はピクリとも動かなくなる――直後、コンロも同様に倒れこんだ。
深刻なダメージによってコンロの機能は停止した。
赤い瞳だけは最後まで燃え盛っていたが、それも最後には消灯し、後には何も映さない暗闇だけが残された。
成功
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