闇の救済者戦争㉑〜己が過去の救済者
● 死と腐敗の王
その日。
全てが腐敗した。
大地のように見える血管は異臭を放ち、ヘドロのような赤い液体を染み出させては大きく膨れた気泡が断末魔のように弾ける。
腐敗を広げる大地の中央に立つのは、
五卿六眼の一人である腐敗の王。その名の通り目に見える全てを腐敗させる彼の力は、その場に立つ猟兵にも力を及ぼしていた。
相対した瞬間、爛れ落ちる体。激痛に耐え立てば、目の前に現れるのは己の姿。
ーー否。己だった者の姿。
腐敗の王の隣に立つオブリビオンと化した自分自身は、邪悪な笑みを浮かべながら腐りゆく猟兵を見下している。
全盛期の
過去。爛れゆく
現在。
それでも一太刀浴びせなければならない。
ダークセイヴァーに生と死の循環を取り戻すために。
● グリモアベースにて
「仕事だよアンタ達」
冷徹な目で猟兵達を見渡したパラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)は、グリモアに浮かび上がる腐敗の王の姿にほんのわずか眉を顰めた。
「闇の救済者戦争の黒幕の一人、腐敗の王の予知をしたよ。厳しい戦いになるだろうが、行ってくれるかい?」
頷く猟兵達に頷きを返したパラスは、改めて戦いの概要を説明した。
死の循環を加速させた腐敗の王は、目に映る全てを腐敗させてくる。猟兵も同様だ。腐りゆく肉体をそれでもと鼓舞しながら、万全の敵と戦わなければならないのだ。
その敵は、己自身の闇の化身。
「アンタ達の肉体を材料に生成されるのは、アンタ達自身。ーーつまり、オブリビオンとなったアンタ達自身と戦わなきゃならないのさ」
オブリビオンと化した自分がどのような姿をしているのか、どんな能力なのかは分からない。だが、それは紛れもなく己自身の闇の化身。過去となった己を倒さなければ、腐敗の王に一太刀浴びせることさえできない。
「例えアンタ達でも、今回腐敗の王を倒すことはできないよ。だが、少しずつでも傷を積み重ねることはできる。未来の勝利のために、今日は腐敗に耐えとくれ」
冷静に言ったパラスは、猟兵達を腐敗の王の許へと導いた。
三ノ木咲紀
オープニングを読んで下さいまして、ありがとうございます。
マスターの三ノ木咲紀です。
今回は皆様に己自身の闇との戦いをご案内させていただければと思います。
この戦場に立った瞬間、腐り落ち始める皆様の体から生成されるのは、オブリビオンとなった自分自身です。
つまり闇堕……げふん。
どのような姿で、どのような攻撃を仕掛けてくるのか。またその対抗策をプレイングまでお願いします。
オブリビオンと化した自分自身との戦いも大事ですが、腐敗の王も攻撃してきます。これを掻い潜って腐敗の王にダメージを与えればボーナスとなります。
=============================
プレイングボーナス……僅かずつでも腐敗の王に与えたダメージを重ねる。
=============================
プレイングの受付開始時期は別途タグにてお知らせします。すぐではないのでご注意ください。
それでは、良き邂逅を。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『腐敗の王』』
|
POW : フレイムビースト
自身の【全身】を【熱き魂の炎】化して攻撃し、ダメージと【装備焼却】の状態異常を与える。
SPD : オブリビオンソード
【腐敗による「消滅と忘却の宿命」】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【ユーベルコード知識忘却】の状態異常を与える。
WIZ : 死の循環
【この世界を司る「世界法則」そのもの】から、戦場全体に「敵味方を識別する【死の循環】」を放ち、ダメージと【肉体腐敗】の状態異常を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
イーブン・ノルスピッシュ
眼前に立つのは超大国製の野戦服とアサルトライフルを装備した俺
猟兵に覚醒できず、超大国の配下として戦禍を振り撒く存在と化した俺の姿だ
だが……
(ドッグタグの束を固く握りしめる)
己の内に滾り
体を突き動かす復讐の炎
それが
俺と
お前を決定的に分つものだ!
結局やる事は互いに同じ
保身なき吶喊からの零距離射撃だ
だが今の俺には背を押してくれる力がある
炎のオーラ防御を纏い加速
俺の胸元へ銃口を突き立て、そのまま盾にしながら腐敗の王目掛け突き抜ける
改造銃を焼却される前に、王もろともに徹甲弾とパイルバンカーを同時に叩き込もう
●
爛れ落ちた皮膚から滲み出た血液が、ボロボロのポンチョに染みて赤い斑模様を作り出す。激痛の第一波を辛うじて堪えたイーブン・ノルスピッシュ(
戦闘猟兵・f40080)は、額に汗を浮かべながら目の前に立つ男を睨みつけた。
眼前に立つのはオブリビオンと化したイーブン自身。超大国製の野戦服とアサルトライフルを装備した男は、万全の装備で立ちこちらを見つめていた。
野戦服を一分の隙もなく着こなした男は、イーブンの姿を見ても微動だにしない。臨戦態勢を整えながらも動かない男は、待っているのだ。
腐敗の手からの命令を。
そのことに気付いたイーブンは、あの男が何者なのかを悟った。
あれは、戦場に散らなかった自分自身。保身に走り他を犠牲にし、流されるまま戦った自分の成れの果て。猟兵に覚醒できず、超大国の配下として戦禍を振り撒く存在と化したイーブンの姿だ。
超大国の忠実な兎として生きることができたら、それはそれで幸せだったかも知れない。己の矜持と良心さえ対価に差し出せば、約束されていたのだ。戦火の幸福を。
「だが……」
奥歯を噛み締めたイーブンは、
ノルスピッシュL50-50を握る手に力を込めた。反対の手で握るのは、ドッグタグの束。戦場で散った戦友たちの魂。この手を離して手に入れる幸福などいらない。
戦意を見せるイーブンに、腐敗の王はゆっくりと手を上げた。
「殺せ……」
「Sir, yes sir! 」
吠えた男は大きな銃を構えると、ぬかるんだ地面を蹴り吶喊を上げるとイーブンに向けて銃を構えた。イーブンの銃によく似た大型の銃口がこちらを睨みつけた直後、発砲。蜂の巣になり地に伏せる未来予想に腐敗の王が余裕を見せた時、猛烈な熱波が周囲を満たした。
炎のオーラに包まれたイーブンに向かう銃弾はことごとく燃え尽き、地に落ち血溜まりで鎮火する。一瞬動きを止めた男の隙を突いたイーブンは、
オレステスの業怒の業火をその身に纏うと
ノルスピッシュL50-50の銃口を向けたまま突撃を仕掛けた。
動く度に走る激痛。地に倒れ目を閉じることができればどれほど良いだろう。屈しそうになるイーブンの背中を支えるのは、戦友たちの姿だった。背中を支えてくれる彼らの顔を見ることはできない。だが力強い腕はイーブンを支え、前に進む力をくれえる。
男の胸元に銃口を突き立てそのまま加速。激情に滾る思いのまま吠えたイーブンは、奥にいる腐敗の王の許まで男の体を押し込んだ。
「フレイムビーストよ……」
声と同時に、視界が灼熱に包まれる。熱き魂の炎と化した腐敗の王が鉄塊のような剣を突き出すと、オブリビオンと化したイーブンを貫いた。男の腹を貫いた剣が密着していたイーブンに届いた時、装備品が炎に包まれた。
銃を持つ掌が熱でただれ、焼けた鉄が容赦なく焼いていく。目の前が真っ赤に染まったが、イーブンが止まることはない。
「己の内に滾り
体を突き動かす復讐の炎。それが
俺と
お前を決定的に分つものだ!」
激情のまま叫んだイーブンは、己の姿もろとも徹甲弾とパイルバンカーを放つ。貫通力のある弾は腐敗の王へも打撃を与える。
崩れ去る自分を見下ろしたイーブンは、グリモアベースへと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵
ベリザリオ・ルナセルウス
【白と黒】
あれが腐敗の王か…欠落を発見できていない状態で戦う事はどれだけ危険かは考えなくても分かる。だからと言って退く事はできない
死の安らぎさえもない、死者の魂すら踏み躙られる世界で生きる者として、力の限り戦おう
織久と共に腐敗の王に立ち向かう。織久は自分の身がどうなろうと決して躊躇わない。だから私が守る
この場所では広範囲に結界を張る事も難しいだろう。盾を中心にオーラ防御の結界を張って織久をかばいながら戦おう
腐敗の速度と痛みを少しでも和らげられるよう浄化の祈りを込めてUCを使って敵を一斉掃射し肉体の腐敗と現れるオブリビオンは私が抑える
耐久力には自信があるから任せて。織久は腐敗の王を頼むよ
西院鬼・織久
【白と黒】
呼称:ベリザリオと同行
たかが腐敗、たかが絶望程度で我等は止められません
我等の血肉より生まれた物であれば、我等が怨念にもよく馴染むでしょう
我等が怨敵喰らい尽くすまで、我等が怨念尽きる事なし
全てを喰らい我等が怨念の糧とせん
【行動】PWO
先制攻撃+UCに怨念の炎を宿し爆破と同時に焼却+生命力吸収の呪詛を付与、継続ダメージで削る
腐敗する体の苦痛や敵攻撃の状態異常を各耐性で堪えつつ受ける攻撃の魔力吸収を行い継戦能力に変換
手足の腐敗が起こり武器を持てなくなった場合は手足を使用しない影面と怨念の炎で禍魂に宿っていた代々の西院鬼と似た姿の敵と腐敗の王と戦う
●
爛れ落ちる地に立ったベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)は、襲う激痛に思わず息を止めた。全身から吹き出す血や体液が、白い鎧の隙間から滲み出る。衝撃の第一波をやり過ごしたべリザリオは、眼前で悠然と立つ赤と黒の姿を睨みつけた。
「あれが腐敗の王か……」
死の循環を加速させた腐敗の王は、未だに倒れる気配すらない。欠落を発見できていない状態で戦う事はどれだけ危険かは考えなくても分かる。腐敗の王を睨むべリザリオに、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)が挑発の笑みを浮かべた。
「怖気づいたのですか?」
「まさか」
小さく首を横に振ったべリザリオは、織久の姿を横目で見ると改めて盾を構えた。織久も同様に腐敗の影響を受けているはずだが、全く動じた様子はない。
「例え怖気づいたとしても、ここで退く事はできない。死の安らぎさえもない、死者の魂すら踏み躙られる世界で生きる者として、力の限り戦おう」
「……」
同意を求め織久を見たが、不敵な笑みを浮かべるだけで何も答えようとしない。何を考えているのか問いただそうとした時、気配が動いた。
腐敗の王の隣に生まれた、白と黒の二つの人影。べリザリオと織久の肉を糧に生み出されたオブリビオンの姿に、織久は歓喜の声を上げた。
「そう来ましたか。相手に取って不足はありません」
「織久、無茶は……」
「たかが腐敗、たかが絶望程度で我等は止められません。我等の血肉より生まれた物であれば、我等が怨念にもよく馴染むでしょう。……人たりとも死の影より逃れる事能わず」
歓喜と共に先制攻撃を仕掛ける織久は、全身を腐敗させているはずだ。だが激痛に怯む様子をおくびにも出さずに影面を放ち、怨念の炎が白と黒を包み込む。
呪詛が辺りを包んだ時、織久の体が宙を舞った。互いに繋がれた影の腕だ。そう悟ったべリザリオは、盾を織久の前で構えた。態勢を崩した織久を狙い振り下ろされる剣の間に割って入ったべリザリオは、直後に感じる衝撃に歯を食いしばった。
衝撃をやり過ごし、即座に詠唱を開始する。まずは奴らの足を止めなければ。
「我が旋律に祝福あれ!」
生まれた旋律の矢が、二体のオブリビオンを押し止める。その隙にユーベルコードを解除した織久は、態勢を立て直すと闇焔を構え直した。
織久は自分の身がどうなろうと決して躊躇わない。だからべリザリオが守る。盾を中心にオーラ防御で守った時、腐敗の王が死の循環を放った。
この世界を司る「世界法則」そのものから生まれた死の循環が、べリザリオと織久に襲いかかる。自身の体から腐臭が沸き立つのを感じるほどの死の循環に、全力で抵抗する。歯を食いしばり攻撃を耐えるべリザリオは、背中で庇う織久の声に少し口の端を上げた。
「べリザリオ……」
「耐久力には自信があるから任せて。織久は腐敗の王を頼むよ」
「分かった」
頷いた織久が、腐敗の王と相対する。それを気配で感じ取ったべリザリオは、白と黒の攻撃を一身に受けながらも猛攻を耐え凌ぐのだった。
●
時は少し遡る。
この地に立った瞬間に襲う激痛をやり過ごした織久は、隣に立つべリザリオの声に振り返った。
「あれが腐敗の王か……」
「怖気づいたのですか?」
「まさか」
軽く挑発してやれば、少しむっとしたように即答が返る。白い鎧の隙間から溢れる赤にほんのわずか眉を顰めて己が身を検めた織久は、腐敗した体を一瞥すると改めて戦場を睨んだ。
この地に立った瞬間から襲う腐敗の激痛など、意に介さない。この程度の痛みで怯むほど、織久が抱える闇は浅くない。べリザリオが甘いことを言っていたが、一族の怨念を背負い戦う織久はある意味生と死の循環を断ち切る者と言えるかも知れない。だから肯定するのも違う気がする。べリザリオに言葉を返そうと口を開きかけた時、膨れ上がる気配に闇焔を構えた。
目の前に現れた白と黒のオブリビオンに、織久は歓喜の笑みを口元に浮かべる。そこに立つのは、禍魂に宿っていた代々の西院鬼と似た姿。織久が使役し、いずれ行き着く成れの果て。相手に取って不足はない。
「たかが腐敗、たかが絶望程度で我等は止められません。我等の血肉より生まれた物であれば、我等が怨念にもよく馴染むでしょう。……人たりとも死の影より逃れる事能わず」
詠唱と同時に放った黒い影が、白と黒のオブリビオンを爆破。宿された怨念の炎が二つの影を包み込んだところに、闇焔を振るい一撃を喰らわせる。
手応えを感じた瞬間、織久の体が宙を舞った。互いに繋がった影の腕を掴んだ黒が、織久の体を持ち上げ腐敗の大地へと叩きつける。咄嗟に防御姿勢を取った織久に、白が獲物を振り上げた。態勢を崩した織久は、斬撃を受け止めようと腕を振り上げるが腐敗した腕がどこまで受け止められるか。衝撃を覚悟した時、べリザリオが割って入った。
「織久!」
白の攻撃を盾で受け止めるべリザリオに、ユーベルコードを解除し立ち上がる。怨念の炎と共に付与した生命力吸収の呪詛が少しずつ傷を癒やすが、さすがに追いつかない。肩で息をし改めて闇焔を握った時、腐敗の王が死の循環を放った。
重ねられる腐敗に、腕が上がらない。骨か筋肉をやられたか。今までダメージなど無視して戦ってきたが、さすがにその反動が来ている。黒と白を抑えるべリザリオの背中に、織久は唇を噛んだ。
「べリザリオ……」
「耐久力には自信があるから任せて。織久は腐敗の王を頼むよ」
「分かった」
べリザリオの声に頷いた織久は、腐敗の王と相対する。織久の視線に全身を熱き魂の炎化させた腐敗の王が、フレイムビーストを纏い鉄塊のような剣を振り下ろす。あの一撃を喰らえば装備品が焼却されてしまうが、もとより武器で攻撃する気などない。
「我等が怨敵喰らい尽くすまで、我等が怨念尽きる事なし。全てを喰らい我等が怨念の糧とせん」
腐敗の王のフレイムビーストに、影面が喰らいつく。犠牲者の血と怨念を啜った影はフレイムビーストの炎を消し去り相殺。猛烈な水蒸気に視界が塞がれた隙を突いた織久は、怨念の炎を腐敗の王へと放った。
いつか腐敗の王も、西院鬼の怨念の列に加えてやろう。
炎に包まれた腐敗の王に不敵な笑みを浮かべた織久は、隙を突きべリザリオと共に離脱するとグリモアベースへと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
苦痛と共に血を流し壊死してゆく身体
こんな姿をあの人に見られたくはない
見られてしまえば、あの人はわたくしの為に自らを犠牲にするだろうから
腐り落ちた体から生える、わたくしの偽物
もう誰も泣くことのない世界を望むのでしょ?
嫌なこと全部忘れれば過去の傷に苦しまずに済む
幸せな記憶を捨て去れば喪失の未来に怯えずに済む
だからみんな、忘れちゃえ、忘れちゃえ……!
煩い
黙れ
人の尊厳を踏み躙る悍ましき欺瞞
慈愛を装い侵蝕する悪意
こんな戯言を自分の顔で語るなど虫唾が走る
祈り込め歌う【涙の日】
自ら苦難に立ち向かう覚悟を決め
人の生きた証を甘言で塗りこめる醜悪な偽物に神罰を
勇気を貫いた果てに、やがて希望が訪れることを信じて
●
白い羽に赤黒い飛沫が飛び、禍々しい斑模様を描く。掴んだ腕から飛んだ血と体液がつくる染みを見下ろしたヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は、壊死していく自分の身体に唇を噛んだ。
この地に降り立つと同時に襲う激痛の第一波は過ぎたが、崩れる身体を止めることもできず、壊死していくのを見ていることしかできない。白い肌から滲む血は生々しく赤く、訴える苦痛はヘルガの顔を歪ませる。
あの人がこの戦場に来ていなくて良かった。こんな姿をあの人に見られたくはない。心から思う。
こんな姿を見られてしまえば、あのひとはヘルガの為に自らを犠牲にするだろうから。
膝をつき苦痛を堪えるヘルガは、ふわりと重なる優しい気配に目を見開いた。しゃがみ込むヘルガを包み込むように抱きしめるのは、真っ白な翼とやさしい手。ヘルガによく似た優しい声は、耳元で甘く囁いた。
「もう誰も泣くことのない世界を望むのでしょ?」
麻薬のように流れ込む声に、ヘルガは小さく頷いた。どの世界にも涙を流す民草はいる。だがこの世界は酷すぎる。世界に蔓延る理不尽を少しでも無くしたい。それはヘルガの偽らざる想いで。頷く頬を白い手で包み込んだ声の主は、ヘルガと目を合わせると天使のように微笑んだ。
「一緒に行きましょう? 新しい世界へ」
「え……?」
ヘルガの目の奥を覗き込む視線から、目を逸らすことができない。魅入られたように身動きの取れないヘルガは、優しい毒に心を傾けた。
「嫌なこと全部忘れれば過去の傷に苦しまずに済む」
声と同時に浮かんで消える過去の記憶。深い爪痕を残す記憶は徐々に色を失い、白黒に変わると心の裡に深く沈み込んでいく。
「幸せな記憶を捨て去れば喪失の未来に怯えずに済む」
色鮮やかな幸福の記憶が浮かび上がる。仲間達と語り合い、笑いあったあの日の思い出が柔らかく色を失っていく。
優しい声が囁くたびに、ヘルガの脳裏に浮かんでは消える思い出が、小さな光だけを残して消えていく。現実を見ることができなくなったヘルガは、我が身が死の循環で腐り果てようとしていることさえ気付いていない。
最後にヘルガを満たしたのは、幼い頃の記憶だった。蝶よ花よと大事に育てられ、この世に憂いなど無いと本気で信じていた幼い日。「天使の歌声を持つ歌姫」と呼ばれていたあの日々は無知で、だからこそ幸福に満ちていた。
「だからみんな、忘れちゃえ、忘れちゃえ……!」
ああ。もう忘れてしまおうか。ここが一番幸せな場所。ここ以上に幸せな場所なんてありはしない。
そう思った瞬間脳裏に浮かんだ伴侶の笑顔に、ヘルガは目を見開いた。
「煩い」
吐き出すように言ったヘルガは、自分の頬を包む手を払い除けた。「幸福」だった頃の幼い自分の隣には、最愛の伴侶はいない。あの夢に浸っていれば、決して出会うことがない人だったのだから。意思を取り戻したヘルガを、女は再び抱き締めた。
「怖い顔しないで。目を閉じれば手に入るの。誰も泣かない世界が……」
「黙れ」
抱きつく女の体を渾身の力で弾き飛ばしたヘルガは、驚き傷ついたように目を見開く女の姿を見下すとよろりと立ち上がった。
女がヘルガに囁いたのは、人の尊厳を踏み躙る悍ましき欺瞞。慈愛を装い侵蝕する悪意。
「こんな戯言を自分の顔で語るなど虫唾が走る……!」
「戯言なんかじゃないわ。幸せはここに……」
性懲りもなく囁く女に冷徹な視線を送ったヘルガは、祈りを込めて【涙の日】を歌った。高く低く響くヘルガの歌声に、女も重ねて歌を歌う。何の憂いも無かった、無いと思っていた幼いあの日にも、この歌を歌っていた。あの日のヘルガは周囲の期待に応え、望まれる歌だけを歌っていた。だが今は違う。
自ら苦難に立ち向かう覚悟を決め、人の生きた証を甘言で塗りこめる醜悪な偽物に神罰を。
祈りを込めたヘルガの歌声に、邪気を打ち払う眩き裁きの光が女を貫く。腐敗の王もろとも裁きの光で貫いたヘルガは、ただ祈りを捧げていた。
(「勇気を貫いた果てに、やがて希望が訪れることを信じて」)
ヘルガの祈りは癒やしとなり裁きとなり、腐敗に満ちた場を満たしていく。女の姿が消え去るのを見送ったヘルガは、グリモアベースへと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵
水澤・怜
自身の闇:『影朧斬り』
故郷を滅ぼした影朧への怒りに囚われた学徒兵志願時の俺
下士官軍服をまとう転生を忘れた血濡れの桜
攻撃は軍刀による力任せの斬撃
腐敗の進行と痛みを激痛耐性、薬品調合による自己注射で耐え
最も愚かだった頃の俺…思い出したくもなかったが
…相対せねばならぬというのであれば
闇の俺も王も一撃は重いが主力は近距離戦
オーラ防御とUCで鋭き花弁を纏い可能な限り敵の攻撃を妨害
毒を塗った青藍を投げつけ着実に敵の体力を削ぐ
無論これだけで片がつくとは思わん
敵の動きが鈍った所で一気に切り込み、月白による斬撃と斬撃波の連撃を叩き込む
攻撃対象は闇の俺>腐敗の王
闇の俺を越えたのならば…後は己の限界まで王に挑むまで
●
情け容赦のない軍刀の一撃が、上段から放たれる。唸りを上げて振り下ろされる凶刃を辛うじて受け止めた水澤・怜(春宵花影・f27330)は、襲う衝撃と全身を貫く激痛に突きそうになる膝を叱咤しながら顔を上げた。
眼前に迫るのは、影朧斬りの姿。故郷を滅ぼした影朧への怒りに囚われた学徒兵志願時の怜は、怒りと復讐に狂っていた。
下士官軍服をまとう、転生を忘れた血濡れの桜。影朧を癒やし、転生へと導く力がありながらそれを否定し、理由も聞かずに全て斬り捨てていた過去の自分。影朧斬りとしての怜自身。
桜の枝が鬼の角のようにも見える影朧斬りは今、その刃を容赦なく怜に向けていた。
「影朧は全て滅ぼしてやる! 転生などさせるものか!」
「やめろ……!」
「邪魔をするならお前も斬り捨てる!」
怒りに目を血走らせ、力任せに振り下ろす斬撃を辛うじて受け流した怜は、腐敗し力が入らない足をそれでもと動かし距離を取った。
その隙を見計らったように、フレイムビーストが襲いかかってくる。熱き魂の炎と化し、その名の通り炎獣のような姿になった腐敗の王の攻撃を受け止めた怜は、襲う炎を歯を食いしばって耐えた。大きく腕を振りフレイムビーストを地面に叩きつけた怜は、燃える装備品を検めた。幸い木蘭は延焼を免れた。予め調合した劇薬を詰めた注射器を取り出した怜は、ポータブルERの蓋を閉め針を足に突き刺した。
腐敗と火傷の激痛を耐性で無視し、液体を注ぎ込む。筋肉注射で送り込まれた薬品は全身を走る激痛を緩和し腐敗の進行を遅らせるが、それもいつまで保つか。
地面に食い込んだ軍刀を引き抜いた影朧斬りが、怒りのままにゆらりと立つと怜に向けて歩みを進める。悲しみが裏返った怒り以外の感情が感じられない影朧斬りに、怜はよろりと立ち上がった。
最も愚かだった頃の怜の姿。思い出したくもなかった。だが。
「……相対せねばならぬというのであれば」
「立て。その首を刎ねて墓標の前に立ててやる」
「これ以上、勝手な真似はさせん」
再びこちらに向かい来る影朧の姿に、怜は
火遠理を詠唱した。矢の如く鋭き花弁が影朧斬りとフレイムビーストの足を止め、大きな隙を作り出す。間髪入れずに毒を仕込んだ
青藍を放った怜は、顔を顰める影朧斬りに月白を抜き放った。
「くっ……! こんな毒で俺が倒せると思うな!」
「無論これだけで片がつくとは思わん」
動きが止まった影朧斬りとフレイムビーストに、一気に斬り込む。冴え冴えと光る退魔刀を振り上げた怜は、上段から影朧斬りを切り払った。
「闇の俺を越えたのならば……後は己の限界まで王に挑むまで」
袈裟懸けに斬られた影朧斬りは、桜の花びらのようになり崩れて消えていく。返す刀で斬撃波をフレイムビーストに叩き込んだ怜は、ユーベルコードを解き人の形に戻った腐敗の王の姿に大きく後退する。腐敗の王の胸元には大きな傷が刻まれている。これ以上の深追いは危険だ。限界ぎりぎりまで腐敗の王に挑んだ怜は、踵を返すとグリモアベースへと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵
エミリロット・エカルネージュ
【闇堕ちしたボク】
呪われた竜の血に負け理性を失った、血と暴力を好む残虐残忍な暴走状態(今のエミリの髪をほどき、理性を失い笑っている)
(湊ゆうきMS「黄泉路を越えて」咲楽むすびMS「桃浪にあそぶ」など参照)
ボクがもし……餃心拳を捨てていたら
こうなっていたかも
『早業』UC発動『火炎耐性&オーラ防御&気功法』バリアで備え『空中戦&推力移動』駆け
闇堕ちのボクと腐敗の王に『気功法&砲撃』の餃子気弾『弾幕』展開し『範囲攻撃&貫通攻撃』しつつ……
闇堕ちしたボクが餃牙練空拳から餃子要素だけ抜いたUCを使ってる
呪い竜のオーラを纏った広範囲の格闘…当たったら人溜まりも無いけど、拳の速さは『第六感』で『瞬間思考力&見切り』すれば腐敗の王との攻撃は『残像』回避出来る
タイミング計り
闇堕ちしたボクの攻撃を腐敗の王へ『属性攻撃(水)&気功法&オーラ防御』込めた【冷静スープ餃子のオーラの乱気流】で『功夫&グラップル&ジャストガード&受け流し&カウンター』で受け流して同時討ちを
あのボク、敵味方関係なく
暴れてるみたいだから
●
腐敗した大地に降り立ったエミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)は、直後に襲う激痛に思わず膝をついた。
死の循環を加速させ、全てを腐敗させる腐敗の王。悠然と立つ姿を見上げたエミリロットは、その傍らで嗤う少女の姿に唇を噛んだ。少女の体から沸き立っている禍々しいオーラは、呪われた竜の血に負け理性を失っている証。
闇に堕た彼女に、餃子の気配はない。血と暴力に飢えた少女は長い髪を括ることもせず、鬣のように振り乱している。禍々しい緋色のオーラはティラノサウルスのような形に膨れ上がり、破壊の衝動を開放する時を待ち望んでいるようだった。
「ボクがもし……餃心拳を捨てていたらこうなっていたかも」
空恐ろしい想像に、恐怖が背中を駆け上がる。目の前にいる少女は、有り得たかも知れない未来。腐敗の激痛に構っている余裕など無い。
エミリロットの視線に、少女はピクリと反応する。獲物を見つけた鷹のように楽しそうに笑んだ少女は直後、緋色の気弾を放った。腹の底まで響くような呪い竜の咆哮と共に、無数の鋭い牙がこちらを噛み砕くように迫ってくる。火炎耐性のオーラを咄嗟に纏い大きく後方へジャンプで回避。そのまま飛翔したエミリロットは、餃子型の気弾を放った。
咆哮と餃子の弾幕の応酬。推力移動で加速をつけ空中戦を仕掛ければ、少女もまた飛翔し咆哮の弾幕で応戦する。火炎耐性のオーラで咆哮の横面を弾き出せば、凶悪な顎が餃子弾を噛み砕く。互いの弾幕はその場を蹂躙するように広がり、着弾した大地から腐臭の煙が沸き立った。
五分の空中戦に業を煮やした少女は、腐臭の煙を煙幕代わりに身を翻すと一気に接近し拳を突き出した。迫る気配に半身を返し、拳を突き出す。餃子のオーラをグローブのように纏った拳は少女の腹に突き刺さり、咆哮のオーラを纏った少女の拳はエミリロットの胸を強かに打ち付けた。
互いに飛翔しながら広範囲で繰り広げられる撃ち合いと打ち合い。お互いに必殺のオーラを纏わせた拳は当たったら一溜まりもない。第六感と見切りで対処したエミリロットは、背後に迫る気配に早業で詠唱を完成させた。
「餃子を焼く熱と蒸気をイメージした気の練り方、呼吸や挙動は餃子を皿に返すが如く一挙一動を……これで行ける筈っ! 餃心拳が奥義っ! 餃牙練空拳・緋龍咆!」
詠唱の隙を好機と見た少女は、ひときわ大きなオーラを纏った拳を突き出し上空から迫る。背後には隙を伺っていた腐敗の王が、熱き魂の炎を纏った巨大な剣を振り上げている。
挟み撃ちされたエミリロットは、拳と剣を受ける寸前奔流のようなオーラを纏った。
「冷静スープ餃子のオーラの乱気流よ、ボクを守って!」
とろみのついた冷製スープ餃子は水属性を帯び、装備を焼却する炎を弱らせる。とろみを利用し回避したエミリロットは、迫る拳に手を伸ばした。
「あなたの相手はあっちだよ!」
攻撃のために伸ばされた腕を取り、功夫の要領で受け流す。腐敗の王の前へと押しやったエミリロットは、突き出された大剣に斬り裂かれる少女の姿を上空から見下ろした。
致命傷は免れた少女は、大きく吼えると腐敗の王に向け魔弾を繰り出す。エミリロットに追撃を仕掛けようとしていた腐敗の王は、少女の攻撃に対応を余儀なくされる。
「あのボク、本当に敵味方関係なく暴れたいみたいだね」
安堵の息を吐いたエミリロットは、直後襲う激痛に飛びそうになる意識を必死で繋ぎ止めた。激痛耐性で無視していたが、そろそろ限界が近い。戦いを見下ろした少女は、そのまま飛翔するとグリモアベースへと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵
ジード・フラミア
オブリビオンとなった自分は2つの人格が混ざっているかのように、口調も混じり合い、一人称も【ぼく】と【ボク】が入り乱れた状態に
メリア?『ワタシ…イヤ、【ボク】と【ぼく】のオブリビオンデスカ。』
ジード「スクラップも人形も沢山操ってくるね……」
メリア?『デモ、……やっぱりあのスクラップの組み方、操作の仕方は【ぼく】の癖が出てマスネ。』
ジード「そうなのかな……でも確かにあの人形の操り方はメリ…【ボク】の癖が確かにある様に見えるよ……」
メリア『それは幸いデスネ。自身では分からない癖も2人ガ居れバ分かるモノデスネェ。デハ、2人で隙を作りまショウカ!』
ジードとメリアで付かず離れず行動します。自身、そしてもう1つの人格の癖を読みながら、何とか致命傷を躱しつつ、特定の攻撃をさせるように、行動します。
オブリビオンジードの【スクラップのなだれ】に併せて
UC【オペラツィオン・マカブル】を使用
オブリビオンジードと腐敗の王それぞれにスクラップのなだれが当たるように攻撃を仕掛けます。
アドリブ・連携は歓迎です。
●
埋め尽くす血管が腐敗し、腐臭を吹き出す死の場。そこに立った直後、襲ってくる腐敗の波。腐り落ちる体を必死に押さえたジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)は、痛みを必死に堪えると目の前に現れた一人と一体を睨んだ。オブリビオンと化したジードが黒いスーツでメリアが白いドレス。それ以外はほぼ同じ姿をしたジード? は、バラックスクラップを構えると小さな歯車を撒いた。
激痛を堪えながら、バックステップで回避。着地の衝撃が全身を駆け巡って思わず息が止まるが、勢いで動かなければ動けなくなってしまいそうで。
「【ぼく】ならそう逃げると思ったよ!」
そう言って口の端を上げたジード? が、歯車の数と速度を更に上げる。これ以上は動けないジードの前に、メリアが立ちふさがった。防御態勢を取り歯車を受け止めたメリアが作ってくれた隙を突き、巨大歯車を放つ。高速回転しながらジード? を狙い突き進む歯車はしかし、メリア? の突きで遠くへと弾かれた。
ジードの歯車攻撃に、あちらのメリア? も無傷ではない。一進一退の攻防を繰り広げたメリアは、油断なく睨むとランスを構えた・
『ワタシ……イヤ、【ボク】と【ぼく】のオブリビオンデスカ』
「スクラップも人形も沢山操ってくるね……」
そう言った直後、メリア? が突貫を仕掛けてくる。驚くほどなめらかな動きをするメリア? の攻撃を受け流しバラックスクラップで迎撃すれば、あちらも即座に対応してくる。自在に操作してくる人形を観察したメリアは、ジードにそっと囁いた。
『デモ、……やっぱりあのスクラップの組み方、操作の仕方は【ぼく】の癖が出てマスネ』
メリアの指摘に、ジードは改めてオブリビオンの戦いを見た。メリア? を動かす時の予備動作。わずかに体を右に傾ける癖。次の動きの予測はことごとく当たる。なくて七癖とはよく言うが、確かにそれはオブリビオンと化しても同じなのかも知れない。
「そうなのかな……でも確かにあの人形の操り方はメリ……【ボク】の癖が確かにある様に見えるよ……」
『それは幸いデスネ。自身では分からない癖も2人ガ居れバ分かるモノデスネェ。デハ、2人で隙を作りまショウカ!』
頷いたメリアが、ジードから離れて攻撃を仕掛ける。相手の癖を読み切れば、こちらがどう動けばあちらがどう動くのかを予測することができる。つかず離れす動き、自身と相手の癖を読み、それでも狙うのは腐敗の王の姿。
腐敗が進み、意識が朦朧としながらも戦おうとするジードに、腐敗の王はついに動いた。
「お前の記憶を消し去ってやる……」
腐敗による「消滅と忘却の宿命」を加速させる大剣が、ジードに迫る。メリアがガードに入ろうと駆け寄るが、間に合わない。巨大な剣から逃れることもできないジードは、自分の胸を深々と貫く大剣をじっと見下ろした。
「あ……」
「これでもう動きを読むこともできまい……」
『それはあなたデスネ!』
叫んだメリアのランスの穂先が、腐敗の王の大剣に変わっている。完全な脱力状態でオブリビオンソードを受けたジードは、メリアの体から敵のユーベルコードを排出したのだ。
不意打ちを受けた腐敗の王の動きが止まる。攻撃を仕掛けた直後の隙を狙ったジード? とメリア? が追撃を仕掛けてくる。こちらの動きを読んだオブリビオンのジード? 達に有効打を与えられず、未だ健在。いくら回避しようとしても、これ以上はジードが保たない。ジードを抱き上げたメリアは、続く攻撃を回避するとグリモアベースへと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵
ビッグ・サン
腐敗の王ですか
なんでも腐らせるのに、王が腐らないのはおかしいでしょう
現在は一瞬のうちに過去になり、形あるものはすべて滅びる
それはあなたも変わらないでしょう
お茶は冷めますが、その逆はない
世界もやがては冷めて止まってしまう
私はそれに逆らう研究をしていますが、なかなかうまくいかないものです
あなたの死の循環を止める永劫回帰もあなたが死ねば終わるのでしょう
(研究を始めて何千年とたつだろう、いまだに成功には至らない
それでも不死身に近い状態までは近付けている
賢者の石を入れた人形は魔力が尽きるまで腐りはしない)
「土は土に…」
ビッグが呪文を唱えると、真っ黒なガスが広がっていく
目に見えるものすべてを腐らせるなら、己の体ぐらいしか見えない暗黒のガスの中に捕らわれればどうだろう
ガスは腐食ガス
腐る物はすべて腐る
生き物だっていずれ死んで腐っていくのだ
浴びれば腐っていく
暗黒ガスの闇の中で腐って死んでいくといいですよ
あなたの死の循環を止めるという方法は、私の求める不老長寿の研究の役には立たなそうです
●
全てを腐敗させる空間に降り立ったビッグ・サン(
永遠を求める研究者・f06449)は、降り立った直後から感じる腐敗の魔力に手を握っては開いた。
(「研究を始めて何千年とたつだろう、いまだに成功には至らない。それでも不死身に近い状態までは近付けている。賢者の石を入れた人形は魔力が尽きるまで腐りはしない」)
そう思った直後、ユーベルコードが放たれた。戦場全体に放たれた敵味方を識別する【死の循環】は、視界に頼らない。そして腐敗の王のユーベルコードはこの世界を司る「世界法則」そのものから生み出す腐敗。進行を遅らせることはできるが、完全に腐敗を防止することはできない。
溶けた手の皮を特に何の感情もなく見下ろす。皮膚の下から滲む体液と、見え隠れする筋肉と皮下脂肪。まだ骨が見えていないから多少は時間があるか、など考えたビッグは、襲い来る呪詛にオリュンポスの印を掲げた。
オブリビオンと化したビッグが、腐敗を更に進めようと呪詛を放ったのだ。面倒臭そうに顔を上げたビッグは、黒い霧のような呪詛をそのまま返した。
「そこで待っていてください。邪魔ですから」
呪詛を返したビッグは、少女とぬいぐるみの人形をオブリビオン化したビッグ達に差し向ける。始まる攻防を一瞥したビッグは、そちらに構わず腐敗の王と向き合った。もとよりオブリビオンとなった自分自身など興味はない。ビッグの興味を惹くのはいつだって不老不死の法と、それに連なるかも知れない手がかりのみ。
「土は土に……」
詠唱と同時に、ビッグの体から真っ黒なガスが広まっていく。腐食性の暗黒ガスに包まれたその場には、ビッグと腐敗の王だけがいた。腐敗の王と向き合ったビッグは、彼に淡々と告げた。
「腐敗の王ですか。なんでも腐らせるのに、王が腐らないのはおかしいでしょう」
「私が「死の循環」を加速すれば、即ち世界は腐敗に満ちる……。だが……! 俺が「生の循環」を加速すれば、即ち世界は熱き魂に満ちる……!」
「腐ったら新しく生まれ直せば良い、という考えですか」
やれやれと肩を竦めたビッグは、フレッシュゴーレムの腐敗具合を記録しながらもなお腐敗の王に探りを入れた。生と死。この絶対的な循環を司るかに思えるオブリビオンが目の前にいるのだ。研究しないだなんてありえない。
「現在は一瞬のうちに過去になり、形あるものはすべて滅びる。それはあなたも変わらないでしょう」
「オブリビオンは過去……。過去は滅びはしない……。骸の海へ還るのみ……」
「お茶は冷めますが、その逆はない。世界もやがては冷めて止まってしまう。私はそれに逆らう研究をしていますが、なかなかうまくいかないものです。あなたの死の循環を止める永劫回帰も、あなたが死ねば終わるのでしょう」
やれやれと肩をすくめようとするが、肩がうまく上がらない。そろそろ潮時か。
「このガスは腐食ガスです。腐る物はすべて腐る。生き物だっていずれ死んで腐っていく。
暗黒ガスの闇の中で腐って死んでいくといいですよ」
「この程度で死にはしない……」
「そうですか。まあ別に構いませんよ。あなたの死の循環を止めるという方法は、私の求める不老長寿の研究の役には立たなそうですから、長居は無用です」
腐敗を発酵に変え肉体を繋ぎ止めたビッグは、暗闇に溶けるように腐敗ガスの中へと消えていく。
場を埋め尽くした暗黒ガスが晴れた時、そこに誰もいなかった。
大成功
🔵🔵🔵