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闇の救済者戦争⑰〜灼滅せよ

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #闇の救済者戦争 #禁獣『歓喜のデスギガス』 #お待たせして申し訳ありませんでした

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#闇の救済者戦争
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#禁獣『歓喜のデスギガス』
#お待たせして申し訳ありませんでした


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●scene
 もう絶望はしたくないか。
 ならば、もっとも確実な対処法は喜びを消してしまうことだ。
 喜びを知ることがなければ、絶望を感じることだってなかった。
 この怪物は、厭というほどに、あなたたちにそれを思い出させてくれる。

『やあ猟兵のみんな、久しぶり! じゃなかったっけ、こんにちは? こんばんは? うーん、どっちでもいいや!』
 夥しい影と朽ちた建造物で歪に造形された巨体が、ある種の無邪気さすら感じる眼でこちらを見下ろしている。
 本当に見ているのかすらわからない。鮮血よりなお赤い双眸は焦点が定まらぬまま、歯らしきものをむき出して、『究極禁獣』歓喜のデスギガスは――笑っていた。
『なにその目、何だか嫌な感じだなぁ。あっ、もしかしてぼくの歓喜の門を狙ってるね? それってよくないと思うけどなぁ。だってぼくは友達が欲しいだけだし、今すっごく役に立ってるんだよ!』
 その声色から憤慨の情は感じられない。あるのは、歓喜。ただただ、歓喜。己の為す事すべてが人の為であると信じて疑わぬ、純粋ゆえに最も悍ましい、幼子のような善性の暴力がそこにあった。

 歓喜の門より出て、大地を埋め尽くす程にひしめいていた敵の群れが殖えなくなった。
 続きを見たものは、己の目に映った景色に圧倒されたことだろう。
 数百メートルはあろうかという巨大な影の大波――己の体表そのものを、波打つ暗黒の海へと変化させたデスギガスが、猟兵たちを飲み込もうと迫ってきていた。
 笑っている。絶望を体現した怪物の貌が、影の海からあなたへ笑いかけている。
『ねえ、抵抗なんかやめて仲良くしようよ! この波に飲まれちゃえば、君もぼくの一部にしてあげられるんだ。それってとってもいいことだと思わない?
 友達になろうよ。だって、世界は辛くて苦しいことでいっぱいなんだから!』

●warning
「戦争もいよいよ終盤だね。皆の頑張りの甲斐があって、歓喜のデスギガスさんの弱点が判明したみたいだよ。お疲れさま」
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はそう言って猟兵達を出迎えると、軽く拍手をしてねぎらった。
 副業が絵本作家であるという彼のスケッチブックに描かれたデスギガスは、ある意味とても写実的で、コミカルかつおぞましい見た目をしている。可愛いよね、と微笑む章に、いったい何人が同意できたことだろう。
「デスギガスさんの身体は、見た目通りすごく弾力があって、普通に攻撃してもあらゆる攻撃を跳ね返してしまうんだ。
 けれど、ここ。実はこの、お腹にある『歓喜の門』が弱点なんだって。ここを攻撃され続けたら死んでしまうらしい」
 ただし、そのためには、まずデスギガスが放ってくる影の大波を無事に突破するための作戦が必要だろう。
 それを乗り越えたとて、操るユーベルコードも侮れないものばかりだ。こちらにも何らかの対策があった方がいい。
 その上で己の攻撃を叩き込む……はっきり言って絶望だ。迫り来る大波。失敗は致命に繋がる状況。それを乗り越える意志と力の強さ、両方を示せるか。

「ちなみに、デスギガスさんを倒すと『歓喜の門の残滓』が貰えるみたい。どうやらどこかの世界に繋がっているみたいなんだけど……ケルベロス・フェノメノンさんを先に倒すと、デスギガスさんは逃げてしまうんだって」
 二兎を追う者は何とやらってやつだね、と章は肩をすくめた。
 だとしても。
「どんな事があっても絶対に諦めない。その執念を見せておく事が大切なんだ。誰かがそう言っていたよ」


蜩ひかり
 蜩です。
 よろしくお願いいたします。

●概要
 デスギガスとの純戦になります。
 やや難ですので、オープニングで警告されている点をしっかり対策していただければと思います。
 対策さえあれば戦闘、心情、ネタ、なにを重視しても大丈夫です。
 アガメムノンくんが誰かわからない方もお気軽にどうぞ。

●プレイングについて
 公開後すぐに受付、導入はありません。
 締切はプレイングの集まり具合と、戦争の進行状況を見て決定になります。
 状況次第で早期完結重視になることも、逆に全採用重視で再送が発生することもあります。
 ご了承ください。

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プレイングボーナス……影の大波をかわし、歓喜の門を攻撃する。
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第1章 ボス戦 『禁獣『歓喜のデスギガス』』

POW   :    デスギガス・ラッシュ
【大きく裂けた口】から【歓喜の笑い声】を噴出しながら、レベル×5km/hで直進突撃する。2回まで方向転換可能。
SPD   :    ダークセイヴァー・レクイエム
【人類砦の残骸】を降らせる事で、戦場全体が【絶望の世界】と同じ環境に変化する。[絶望の世界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    ザ・ダイヤ
空中あるいは地形に【ダイヤ】の紋章を描く。紋章の前にいる任意の対象に【漆黒の影】を放ち【記憶喪失】効果を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

西院鬼・織久
ただ逃げるしかなかったデスギガスを漸く殺せる。殺せなかった禁獣の首に漸く手が届く

我等が怨敵を喰らい尽くすまで、我等が怨念尽きる事なし

【行動】PWO
五感+第六感と野生の勘を働かせ、影の大波の動きと敵攻撃の前兆を察知、軌道を見切る
先制攻撃+UCの速度で大波と敵攻撃をかわし、かわしきれない物は怪力+なぎ払いの衝撃で軌道をそらしつつ武器に宿した焼却+生命力吸収の呪詛を付与、継続ダメージを与える
殺しきれない敵攻撃の威力とダメージは各耐性でこらえながら攻撃から魔力吸収、継戦能力に利用
敵の突撃をいなしつつ、UCで歓喜の門に速度を乗せた串刺し+貫通攻撃、武器伝いに怨念の炎を流し込み傷口をえぐる



●1
 いつかこの時が来る事を願いながら、いつもただ逃げることしかできなかった。
 だが、漸くだ。漸く、この忌まわしき禁獣の首に手が届くかもしれない――|西院鬼《さいき》・|織久《おりひさ》(西院鬼一門・f10350)の赤い双眸は、常以上の輝きを宿し、敵を見上げていた。
 怜悧な美貌を更に冴えさせるその光は、闇を照らすまばゆい希望でこそないかもしれない。殺意、信念、怨嗟、そして狂気。織久という存在を磨き、尖らせ、際立たせるのは、そういった類の仄暗い迫力だった。

『ねえ、そこの髪の毛が長い君! なんだか不機嫌そうでかわいそうだなぁ。でも大丈夫、ぼくがいっぱい笑顔にしてあげるからね!』
「戯言を。真に我等の幸いを欲すならば、お前自ら滅びるがいい」
 織久に強く睨まれようと、デスギガスが怯む様子はない。それどころか首を傾げる有様だ。
『だめだめ、ぼくは長生きしてみんなを幸せにしなくっちゃ。うーん、どうすればいいのかなぁ。あっ、そんなにぼくの事が嫌いなら、ぼくの友達にしちゃえば嫌いじゃなくなるね!』
 ――なんとおぞましい思考回路だろう。|これ《﹅﹅》と対峙する毎に突きつけられてきた現実だ、今更驚くこともない。いや、だからこそ、これ程までに強く、今滅ぼすべきだと感じている。

 来る。
 攻撃が。
 織久が眉をひそめたのは、彼の鋭敏な感覚で捉えたものが殺気だったからではない。
 心弾むように波打つ巨影。そこに視えたのが、無垢なまでの善意だったからだ。

 我等を此処まで玩んでおいて、何が愉快だというのか。デスギガスの善意は、皮肉にも織久が内包する怨毒を更に増幅させる結果となった。
 血がひとりでに沸き立つ感覚。身体が魂ごと煮えたぎるよう。西院鬼の吸血鬼が代々その血に宿してきた竜の怒りが、織久に闇を裂く翼を与える。
 うねる大波が追いつかない程の速度で飛翔しながら、歓喜の門へ迫る織久を見るデスギガスの表情は、まるで歓迎でもしているようだ。きみもぼくの友達になりたいんだね――そんな、無邪気な笑い声を聞いた気がする。
 真横を走っていた波がありえない程の直角で曲がり、織久を捉えようと迫る。だがそれも予測していた織久は、力を込めて大鎌を振りかざし、デスギガスの肉体を弾き飛ばした。同時にこちらも弾力で跳ね飛ばされるが、素早く体勢を立て直す。
『あはは! ぼくといっぱい遊びたいんだね、じゃあどんどんいくよー!』
「その笑みも長くは持つまい。此処でお前の命運を断つ」
 デスギガスが突進を繰り返すたび、織久はじわじわと身体へ蓄積する衝撃のダメージに耐えながら、怨嗟の炎を纏う鎌を何度も、何度も突き立てていった。
 骨が砕けるような音も何度か聞こえた。それでもなお鎌を振るう。この執念が伝わらぬ敵の肉体と、精神性が忌々しい。しかし傷つけることこそ叶わずとも、逆に溢れんばかりの魔力と生命力を吸収し、利用する事は出来ている。

 逃がすものか。
 絶対に|これ《﹅﹅》を殺してやる。
 攻撃を続ける事で高まりきった殺意と怨念が、織久の飛翔力を限界まで加速させた。デスギガスの突進を完璧に振り切って、一瞬の隙をつき、歓喜の門めがけて突っ込んでいく。
 刃に灯るは血紅の炎。
 ただ一振りの大鎌を手に、黒き海を切り裂いて飛ぶ姿は、まるで美しい矢のよう。
 無念の死を遂げた者達の髪と血から織り上げた糸が、駄目押しとばかりに怨敵の肉体を縛った。
「友人に等なれようか。我等が怨敵を喰らい尽くすまで、我等が怨念尽きる事なし」
 その姿が、歓喜の門に吸いこまれていく――執念の一撃は、無敵に思われた敵の身体を貫通し、肉体の一部を吹き飛ばす鮮烈な嚆矢となった。
『あれっ?』
 笑い続けるデスギガスは己の危機に気づかない。
 門の中で、いつまでも燻り続ける怨念の炎が、その身を焦がして燃やし尽くそうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
この期に及んで随分愉しそうね、それしか考える頭がないのかしら
じゃ、お望み通り遊びましょうか

『宵闇』で飛翔して接近し躰から『飢渇』の群れを吐き出す
影の大波を『飢渇』の『微塵』化による爆撃で吹き飛ばす
『微塵』の爆撃で面攻撃し、防御の仕草で歓喜の門の正確な位置を探る

この程度ではどうという事はないんでしょうね、ならこういうのはどう?

あえて影に飛び込み敵の体内に取り込まれる

その自慢の防御は体内からの攻撃にも機能するものなのかしらね?

UCを発動、敵の体内から『血潮』の津波を放出し、耐性を無効化しつつ歓喜の門諸共敵の躰を内側から喰い破ろうとする
出し惜しみは無し、ギリギリまで『血潮』を吐き出してから脱出する



●2
 味方の嚆矢が歓喜の門を貫くのを、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は飢えた獣の如き鋭い双眸で眺めていた。そこには怒りというより、軽蔑や呆れの色がより濃く見て取れたことだろう。
「この期に及んで随分愉しそうね」
 冷ややかな言葉。
 それもそうだ。デスギガスは、歓喜の門を焦がし続ける怨嗟の炎を消す仕草すら見せない。

『嬉しいよ、友達からあったかいプレゼントを貰ったんだもん! 友達の……あれ? 誰だっけ。いっか、せっかく新しい友達が話しかけてくれてるし!』
「……それしか考える頭がないのかしら。じゃ、お望み通り遊びましょうか」
 メフィスがそう皮肉に言い捨ててみせても、この獣は言葉の意味をそのまま受け取ってしまうのだろう。跳ねて喜ぶ姿は本当に子供のようだ、とは思う。ただし、かわいくはない。
 油断ならぬ敵と心得ているゆえに、抜かりはない。継ぎ接ぎの背を破り、歪な形状に突き出た肩甲骨が、宵闇を翔るための手段と化す。
 自らの皮膚片と血液を骨身の翼から滴らせ、生きる屍が空を|羽搏《はばた》く。飢餓衝動に喘ぐ眷属たちが、躰の繋ぎ目から膿のように、ぼとぼとと滴り落ちてくる。
 『普通の』吸血鬼達が今のメフィスを見たならば、その姿を大いに称え、或いは恐れたことだろう。だが、対峙している相手は普通ではない。異常なのだ。
『へえ、君はもう死なない体なんだね。でもお腹がすいてるのかぁ。じゃあ、ぼくをいっぱいお腹につめて、空腹も忘れさせてあげるね!』
 言葉通り、影の大波がメフィスの口元へ押し寄せてくるのが見えた。
(内部から破壊する気かしら。その気はないんでしょうけど)
 おぞましい発言は聞き流し、メフィスは自らの眷属達を爆弾に変化させた。それは破裂した途端、辺り一面に|夥《おびただ》しい血を撒き散らし、骨の破片を炸裂させて、迫る波を豪快に吹き飛ばしてしまう。
 避けるより散らす――弾力が健在とはいえ、半液状化した敵に対する面攻撃は、有効な防御策として機能した。同時にダイヤの紋章まで消し飛ばす事ができたのも幸いだった。
 跳ね返る自らの血がメフィスの身体を染め、骨が肌に刺さる。どうでもいい。目に入る事だけは避けながら爆撃を続けていると、少しずつではあるが、波の間に道が開けてきた。
 波の奥に垣間見える、不気味に輝く闇の渦。あれが歓喜の門だと目星をつけたメフィスは、すかさず秘策を発動する。
「思った通り。この程度ではどうという事はないんでしょうね、ならこういうのはどう?」

 骨身の翼で波間を滑空して。
 彼女は――自ら闇の海の奥深くへと潜っていった。

『やったねアガメムノンくん、友達が増えたよ! これでもうお腹も減らないよね!』
 無邪気に笑ったのはデスギガスである。これが策であるとも知らず、忘れた友へ話しかける姿へ向ける慈悲もない。だが、メフィスも、己が急速にデスギガスと同化していくのを感じ取っていた。
 飢餓感が消え失せていく。謎の喜びが沸き上がり始めている。だが、己の衝動に抗い続けた彼女の精神は、簡単に揺らぐものではなかった。
「その自慢の防御は体内からの攻撃にも機能するものなのかしらね?」
『えっ?』
 デスギガスは不思議そうに己の身体を見る。
『ぼくの身体が……赤い?』

 影の波を飲み込まんばかりの勢いで吹き出すのは、メフィスの全身から流れ出す血潮の奔流。それはやがて影を凌駕し、波となり、逆にデスギガスを圧倒していく。
 正直美味いものではない。だが、メフィスは衝動のままにデスギガスを、歓喜の門を、内側から喰らい破っていった。狂おしい程の飢餓感が戻ってくる。もう何も考えない。ただ、限界までこの血で闇を食い潰す。
 139秒。意識が遠のきかけた瞬間、メフィスは最後の力で翼から暴風を放つと、デスギガスの中から脱出した。強い虚脱感を堪えて振り返れば、巨大な敵影の一部が真っ赤に染まっていた。
『なんでだろう。ぼくには普通の攻撃は効かないはずなのになぁ』
 アンタの望み通りにはさせない――全身から血を滴らせた『貌無し』の女は、冷淡に怪物を一瞥した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

…どこまでも無邪気な子供だな
だが、無敵でないなら討つ術はある

指定UC発動し「地形の利用、ダッシュ」+UC効果の高速移動で接近
影の大波は勢いが弱い箇所を見切って「破魔、属性攻撃(聖)」の魔力を籠めた「衝撃波」を集中させて「吹き飛ばし」
波の勢いが弱まったら、高速移動で一気に駆け込み、歓喜の門に接敵だ!

周囲が絶望の世界に変わったとしても、俺の戦意は揺るがない
家族と故郷を失い絶望の底に堕ちたからこそ
この状況でも耐えられるのさ
今必要なのは、この世界に希望を引き寄せる「覚悟」
その覚悟を意志の力で「属性攻撃(聖)」に変えて黒剣に籠め
「2回攻撃、怪力」で一気に歓喜の門を叩き斬る!!



●3
 あえかな光さえも遮るようにそびえていた暗黒の巨影が、赤と黒の斑に染まるのを、|館野《たての》・|敬輔《けいすけ》(人間の黒騎士・f14505)は見た。味方が命がけで放った飢える血潮が、敵の身体の一部を捕食したらしい。
『いままで真っ黒だったから気づかなかったけど、赤いのもかわいいね! 黒い鎧のお兄さん、きみもそう思わない!』
「……どこまでも無邪気な子供だな」
 ファッションチェックに付き合う気はない。ほうと息を吐く敬輔の姿には、かつて復讐と憎悪の念に突き動かされて走っていた頃よりも、何処か余裕が滲んで見えた。
 己の復讐は報われたのだ。だが、この世界にはまだ、終わりなき生と死の苦痛に囚われた魂がごまんといる。その元凶のひとつが目の前の|これ《﹅﹅》だ。
 剣を置く理由があろうか。無論、油断もない。相手が無敵でない事は既に仲間が示してくれた。ならば、その覚悟に報いるべく共に戦うのみだ。

 魂を力に変えて――両親、妹、意を同じくする少女や、無念のうちに散っていった闇の救済者たちの遺志が敬輔に宿る。波とともに押し寄せるのは、デスギガスらに無残にも蹂躙された人類砦の残骸だ。
 素早く走り、砦を防波堤として利用する。其処には抵抗の痕が刻まれていた。壁に残る血飛沫、壊れた拷問器具の残骸、そこに繋がれたまま放置された誰かの白骨。希望とはこれ程に脆く、儚いものなのかと、心折れてもおかしくない程の絶望が広がっていた。
 だが、今の敬輔が考える事はまったく違う。彼らの魂が灯火へ群がるように、剣先へ集う。
 語りかけてくるのだ。感情が。
 敬輔にはわかる。彼らは、ただ絶望して死んでいったわけじゃない。

 ――希望を感じる。
 ――ほんの幽かでも。いつかこの世界も変われる、そう信じる心を。
 ――なら、俺にはこの想いを繋ぎ、奴の喉元へ届ける使命がある!

 剣を振るう。この闇で生まれ、共に生きた者達が残した、せつなくも尊い想いを乗せて。
 敬輔の放った渾身の斬撃波は、闇の大波を見事なまでに切り崩した。
 いや。崩したというより……逃げた。まるで『これは触れてはならぬものだ』とでも、本能的に恐れているような、不思議な動きをデスギガスが見せた。
「見ただろう。周囲が絶望の世界に変わったとしても、俺の戦意は揺るがない」
『すごい、友達がたくさんいるんだね! でも嫌だなぁそれ。なんだか、僕だけ仲間はずれにされてる感じがするんだもん』
 デスギガスはしょぼくれた声を出す。その通りだ、としか言いようがない。
『あれ? でも、君って家族を殺されちゃってるよね。そうだ、魂人になったらどう? 死んでもずーっと一緒にいられる家族がいっぱいできるから、寂しくないよね!』
 あまりに冒涜的な言葉を発しながら、デスギガスは無邪気に笑う。
 以前の敬輔なら一発で逆鱗に触れかねない言葉だ。だが、今は違う。耳を貸す必要はないと。大切な家族が傍らに寄り添い、そう告げてくれるのを、感じる事ができる。
 彼はきっぱりと言い捨てた。
「いいや。家族と故郷を失い、絶望の底に堕ちたからこそ、この状況でも耐えられるのさ」
 敬輔はそう言って、柔く笑みすら浮かべてみせると、やる気を失ったように揺れる波間を一気に駆け抜けた。

 ひとりじゃない。皆の希望が共に開いてくれた、歓喜の門へと通じる道だ。
 今必要なのは、絶望や怒りじゃない。この世界の希望を集め、引き寄せ、背負い抜く。
 そのための『覚悟』だ。
「希望はここにある。俺はそれをお前達に突きつけに来たんだ!」
 敬輔の覚悟へ同調するように、黒剣が眩い輝きを放った。デスギガスは急いで逃れようとする――しかし、一の太刀を防いでも、すぐさま本命の第二撃が放たれる。敬輔の命をも乗せた全力の攻撃から、逃れる術はない。
 歓喜の門が真っ二つに両断される。その瞬間、すべての魂が、真なる喜びに満たされたことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クィンティ・ラプラード
死して第三層へと渡ったわたしが最初に出会った獣
それがあなたでした

歪んだ思考による純粋な善意は
新たな絶望を生み出すのでしょう
わたしがそうだったように

変異した下半身の触手は
歓喜のデスギガスがわたしに与えたもの

デスギガスの純粋さに好ましさはあれど
その存在の邪悪さと脅威を見過ごす訳にはいかない

世界を呑み込むあなたの影に
わたしは負けない

浄化の力を持つ眩い光が後光となり
世界を呑み込む影の波を照らし打ち消す

絶望だけの世界にはならないわ
闇の救済者《ダークセイヴァー》が在る限り

わたしに出来ることは祈り、護り、繋げていくこと
戦うみんなが傷つかないように
自由に動けるように
どんな状況になっても《祈る》ことを諦めません



●4
 クィンティ・ラプラード(キタルファ・f39354)は、奇跡と呼べるものを見たことがない。
 ただ、彼女はいまようやく、僅かでも確かな光明が闇の彼方から産まれる、夜明けの気配を黄金の双眸に捉えていた。
 クインティと同じくこの世に生を受け、運命に虐げられた黒騎士の青年が、その剣先に同胞たちの希望を乗せ、歓喜の門を引き裂いたのだ。
 それでも、門はまだ完全には破れない――クインティは無意識のうちに両の掌を重ね、空にたちのぼる光を見つめていた。あれはわたしたちの魂。わたしたちの祈り。どうかもう、誰も傷つくことがないように。

『いまのはちょっと痛かったなぁ……いまの……あれ? なんだっけ? 脚がいっぱいの君、わかる?』
 クインティは静かに眸を伏せた。否定も肯定もしない。わたしもそうして、欠けた記憶を探し続けているから。
『君、そんなに脚があったら歩くの大変じゃない? 今減らしてあげるからね!』
 あまりに無邪気で残酷な言葉を耳にして、ああ、やはり、忘れられているのだと実感する。
「……死して第三層へと渡ったわたしが、最初に出会った獣。それがあなたでした」
『え? そうなの? ぼくはすぐ忘れちゃうけど、覚えててくれて嬉しいな。だったらもう友達だね!』
 ――そう、『友達だからなんでもしてあげる』と言って。
 クインティや数多の魂人たちに脚を、心臓を、なにか余分なものを生やし、結果玩んだのは、ほかならぬデスギガス自身だというのに。
 二本の華奢な脚にまとわりつく、紫色にぬめる蛸のような異形の触手。
 それを不気味に感じるか、ある種の造形美と捉えるかは人それぞれだろう。ただ、奇跡の翼を背に携えた清らかな娘の姿とは、もうかけ離れてしまっていた。

『ねえ、君はぼくの所に来てくれるよね。下層に戻るのは嫌でしょう? だって見て、こんな世界なんだよ!』
 呪いのような言葉と共に、影の大波が押し寄せてくる。其処には、破壊された人類砦の残骸が混じっていた。
 人型の焼け跡が残る石壁。翼をねじり切る為の拷問具。絶望の記憶が引き起こされ、ふるりと身体が震えた。歪んだ思考による、純粋な善意の押しつけ――けれど、クインティは、それでもこの怪物を憎まない。むしろ、その純粋さは好ましいとすら感じる心があった。

(ほんとうの友達に、なれれば良かった)
 たとえ翼を折られ、姿をねじ曲げられても、悪夢は聖なるものの根源には届かない。
 そして、その心根のうつくしさゆえに、邪悪と脅威を見過ごしてもくれない。
「ごめんなさい。今はまだ、いけないわ。世界を呑み込むあなたの影に、わたしは負けない」

 クインティが再度両掌を重ね合わせる。
 細い背から、流星群のような後光があふれ、影の波とぶつかり合った。
 |眩《まばゆ》く、やさしく、慈愛と幸いすら感じさせる、おおよそこの世界には似つかわしくない、ささやかで綺麗なひかりだ。しかし、力強いひかりだ。
 光の粒は波を押しのけて天までのぼり、すべての攻撃を遮断する光の壁となる。その内側はプラネタリウムのような輝く星空をうつす。安らかな世界があった。
 ここまでの戦いで傷ついた仲間達が、礼を述べながらその安全地帯に駆けこんでくる。クインティの献身は、後続にとっても大きな支えとなるだろう。

『どうしてぼくと遊んでくれないの? つまんないよ』
 デスギガスの言葉を翻訳すれば『どうして攻撃しないの?』といったところか。
 答えは簡単だ。
「わたしに出来ることは祈り、護り、繋げていくこと。戦うみんなが傷つかないように。自由に動けるように」
 クインティが望むのは、護り、癒し、与える。ただそれだけだから。
 想いはデスギガスと変わらない筈なのに――いや。いつか、それさえも変わることを、ただ祈りながら。
「絶望だけの世界にはならないわ。|闇の救済者《ダークセイヴァー》が在る限り」
 存在そのものが光のような女は、地獄のような戦場の真中で、一途に希望を灯し続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六道・橘
わたし
彷が数日帰ってこなくて絶望してるの
だから斬らせてもらうわ
厄払いみたいなものよ

影の波は強い意志で全て斬り伏せ近づく
「なんでも一緒、同化」って前世も今世も嫌いな事なの
|俺《わたし》はわたし
|兄さん《彷》は彷
前世では上手に伝え兄を救えぬ自分を見限り自殺した
今世は違うから恋ができるって知ってるの

UCは1回は自刃
彷がいない今が絶望よ、もう適応してる
彷に出逢うまで
孤児だからと捨て駒扱いの學徒兵
誰も顧みてくれない
前世の兄を思い出した15歳から
その妄愛は唯一の精神安定剤
実際にいたのよ
彷はわたしの寵姫

ああっ厭だわ
意地を張らずに彷を探しにいけばいいのよ

アガメムノン
忘れた獣へ囁き刃返す
わたしは彷を忘れないから



●5
 色の無い影の海は希望の星灯りに照らされ、穏やかな空気に包まれる。
 それが己の攻撃の一切を遮断する鉄壁とは知らず――いや、きっと忘れたのだろう。デスギガスはキレイなものを見つけて嬉しい、といった様子で、目の前に現れた光の壁をつつき回している。
 対照的なのは猟兵だ。心ここに在らず、といった様子の娘が、しかし奇妙に強い熱を帯びたまなざしで、ふらりと姿を現す。
 |六道《りくどう》・|橘《きつ》(|逸脱の熱情《橘と天》・f22796)は希望の光を見ていない。古風なセーラー服もこの地獄には不揃いで、異質な雰囲気を纏っていた。

「わたし」
『そう、君! 君はなんだか』
「彷が数日帰ってこなくて絶望してるの」
『……彷? 彷ってだれだっけ? ぼくの友達?』
「だから斬らせてもらうわ」
『……えぇー?』
 デスギガスが珍しく困惑している。会話が噛み合わない、というか、する気を感じない。
『あ、たぶんわかったよ! 君はぼくに八つ当たりがしたいんだね』
「ええ。厄払いみたいなものよ」
 八つ当たりか。厄払いか。橘にとっては決定的なまでに違っていた。
 目の前のこれが形骸化された絶望だというのなら、斬るしかない。
 斬るしかない。斬るしかない。斬るしか――……

『うーん、痛みを受け止めるのも友達のすることかなぁ? じゃあいいよ、ぼくはどうせほとんど無敵だしね。頑張ってる間にぼくの中へ取りこんであげちゃおう!』
 デスギガスもあっさりと思考を切り替えると、巨大な大津波となって橘へ襲いかかった。
 なんでも一緒とか。ずっと友達とか。いつの世も、周りは皆そういった言葉が好きだ。
 ずっと嫌いで、馴染めなかった。誰かと縁を結ぶ才能がなくったって、生きていけると思っていた――|兄さん《﹅﹅﹅》と出会うまでは。

「|俺《わたし》はわたし。|兄さん《彷》は彷。同じにはなれないわ。『同化』って、前世も今世も嫌いな事なの」
 恋する少女のような双眸が狂信的な輝きをみせる。そう。これは恋だ。彼女を動かしているのは、恋という狂気だ。前世では上手く言えなかった、ただふたりで生きたかったのだと。そんな己を見限り、命を断ったのはもう随分前のこと。
 彼岸の色に染まる太刀で波を次々と斬り伏せて、彼女は/彼は、見る者が戸惑う程に躊躇わず進む。
「もしもこの世界に産まれていたら、死んでもあのままの|俺《わたし》だったかしら。今世は違う。違うから、」
 ――恋ができるって知ってるの。

 ひとつ、太刀を振るうごとに。
 とめどなく溢れる慕情を紡ぐ橘へ、共感を示すことができたのは、皮肉にもデスギガスがひとの心を読む事に長けていたからだ。
『そう、きみはそのお兄さんに出会うまで、ひとりぼっちのみなし児だったんだね。かわいそう』
「ええ、孤児の學徒兵なんて捨て駒扱いよ。誰も顧みてくれなかったわ」
『この世界には親のいない子がたくさんいるよ。だから、みんなぼくが友達になってあげるんだ』
「素敵ね。でも、わたしには必要ない。彷がいるもの」
 束の間会話が通じたように見えても、当たり前のように殺戮の刃は波を斬り裂く。
 絶望の象徴たる人類砦の残骸が当たっても、橘は気に留めるそぶりすら見せない。そのさまは、ひどく奇妙に映ったことだろう。
 前世の兄の存在を思い出した15歳から、彼への妄愛だけに縋って生きてきた。その唯一の精神安定剤を失えは、愛は簡単に娘を修羅に変える。
『えっと、何日か帰ってきてないだけだよね? そのお兄さん、本当にいるの?』
「いるわ。驚くでしょう、実際にいたのよ!」
 橘の口調が熱を帯びる。
 |彷《兄さん》は――わたしの寵姫。

「ああっ、厭だわ! 意地を張らずに彷を探しにいけばいいのよ!」
 次の橘の行動には誰もが驚いた事だろう。叫び、突如として――自分で自分の胸を貫いた。
 彼女にとっては当たり前のこと。「1回は俺を斬りなさい」、いつもそう言ってくれるひとが、今は傍らに居ないのだから。
 いち早く理解を示したのはやはり、デスギガスだった。
『そっかぁ。君がこの戦場で強い理由がわかったよ』
 恋に堕ちた女は、くちびるを血紅で濡らし、自嘲的に嗤う。
「そう。彷がいない今が絶望よ。もう適応してる」

 アガメムノン――橘が不意にその名を囁くと、デスギガスの動きが鈍った。
『アガメムノン、くん……? そうだ。ぼくにも、そんな友達がいたような……』
「もう行くわ。わたしは彷を忘れないから」
 愛は絶望の底。だが同時に、最大の希望たりえる不可思議な感情。
 忘却する者は、それを手に取る資格すら無い。
 |厄を払うのだ《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。彷がいない、その『絶望』を。
 橘の放った最後の一閃が、がらんどうになった歓喜の門の奥底に、深々と突き刺さった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
うわ…何か、波打てる、ね…
黒ぉい……いいこと?
ううん、よく、ない!遠慮、する…!!

ぷかり空中浮遊!
空中機動でびゅんっと高く高く
其の儘越えれるなら善し
でなければ波の動き見切り避けつつ薄いところ探し
燐火を全力魔法で一点集中に放ち部位破壊
自分が通れる穴作れば
オーラ防御で防ぎつつ抜ける

ねぇ、欲しい、て、仲良くて、言う、けど…
友達、飲み込んだり、しないもの、だよ?
そもそも、一部になちゃたら、キミになる、から
そしたら、友達なれない、よね!
友達と、自分は、別、だもん。

作戦、立てるより…
何だか本能に従た方が、良い…そんな気が、する!から!
ヤバいと野生の勘働けば、高く高く浮遊したり
狐変化して避けたりオーラ防御
隙見て歓喜の門へ燐火を放ったり
臨機応変に。

わわ、危ない!
その笑いながら、突撃は、ちょと不気味…!
でも、直進しかしない、し
方向転換だて2回…!
しっかり見切って
上手くカウンター繰り出す

ずと、気になてた、けど…
時々呼んでる人、居る、よね…?
わからない?忘れちゃた?ふぅん…?

話しかけながらも避けて防御に攻撃!



●6
 情念の刃を受け、黒い海面は轟々と波打つ。味方が出現させた光の障壁からひょっこり顔を覗かせ、|火狸《かたぬき》・さつま(タヌキツネ・f03797)はデスギガスの様子を窺っていた。
「うわ……何か、波打てる、ね……黒ぉい」
 端正な美丈夫の姿をした妖狐の青年は、子供のような幼さと純粋さを滲ませ、率直に言葉を紡いだ。大きくて、黒いのが、何やらうごうごしている。
 しかし、さつまの鋭い直観力が読み取ったのは、先程までとは何かが違うという違和感だ。
 ぴんと耳を立て、辺りのにおいを嗅いでみる。この世界特有の湿った空気に交じり、仲間の流していった血の濃さが鼻孔を突いた。その中に、さつまでなければ感じ取れないような、微細な意識が混じる。
(デスギガス、さん……ちょと、困てる? 何か……)
 そういえば、先程仲間がデスギガスへ何事かを囁いているのを見た。何をしても独善的な喜びで満たされているのが常である、この怪物の感情も揺らぐような一言――それが何であるのかは、さつまにも心当たりがあった。

 すると。
『君、ずっとぼくのほうを見てるね。友達になりたいのかな?』
 さつまのすぐ足元に、突如デスギガスの巨大な顔が出現する。いまにも歪な大口がぽっかりと開き、さつまを闇の奥へと飲み込もうとしているかに思われた。
『ぼくと一緒にいたらすごく楽しいよ! それっていいことだよね?』
「……いいこと?」
 デスギガスは『だよね?』と問うた。一方的な押しつけではなく、賛同を求めるように。
 さつまは感じ取る。デスギガスという闇の中に空いた、ちいさく、だがとても重大な欠落を。
 それを自覚させられることによって生じた、ほんのささいな己への猜疑心を。
 その様子は|些《いささ》か哀れにも見えたかもしれない。だが、さつまは強い意志を持って首を横に振り、デスギガスの誘いを否定する。
「ううん、よく、ない! 遠慮、する……!!」
 さつまの脳裏に浮かぶのは、大好きな主人や、たくさんの優しい友人たちの顔だ。みんなが待っている。美味しい食事や、楽しい話題を用意して。だから、家に帰らないわけにはいかない。

 深い青の双眸が鋭く前を見据えるのは、相手を敵対する存在だとみなした時だ。足元から突き上げるように襲ってきた波を、大ジャンプでかわし、視えない足場があるかのように、空を蹴って駆けあがっていく。
『楽しそうだね! じゃあ、これはどうかな?』
 そんなさつまを捉えようと、デスギガスも影の大波を荒れ狂わせて対抗する。しかし、あくまでも波は波。さつまは波の高低差や、満ち引きをよく観察し、海が凪ぐ一瞬を見逃さなかった。
「わわ、波……すごい! でも! そこ、通ちゃう、から!」
『通るのは無理だと思うけどなぁ。かわいい友達がたくさん来てくれて嬉しいな、みんなで遊ぼうね!』
 高く伸びすぎて薄く、甘くなった影の波へ果敢に飛びこんでいくのは、たくさんの青い小動物たち。ふわふわと愛らしい仔狐の姿をしたそれらに、デスギガスは無邪気な声をあげるが。
「だめ。遊ば、ない……!」
 それらは皆、さつまの意志に従って動く狐火だ。先頭の仔狐が切り込み隊長となり波に突っ込めば、彼らは訓練された猟犬のように隊長へ続き、影の波の中で青い炎を燃えたぎらせる。
 一点集中で放たれた攻撃により、波は沸騰し、不気味な黒い霧が視界を遮った。しかし、さつまはその向こうに輝く炎を、闇を切り開く光の在処を見逃さない。
 霧はデスギガスの身体が蒸発している証拠だ。問題は自分の通れる隙間があるか、まだないか――躊躇っていては好機が逸する。さつまは己の本能と直感を信じ、影の霧と波の中へ飛びこんだ。

 誰かの声が聴こえる。
『ぼくらは友達だよね』『いいことをするんだ』『   ム ンくん』『ぼくって役に立ってるよね』『まって』『なんでもしてあげるんだ』『友達だから』『なんだか不安だよ』『ねえ』『友達が欲しいなぁ』『ア?????くん』『ぜったいに、忘れちゃいけなかった、気が』『すごいよ、友達がいっぱい!』
(…………)
 
 己の身体にも狐火を纏い、手足に絡みつく波を霧消させる。人型のままでは少し厳しいか。
 ならば、と、さつまは素早く狐の姿に変化する。空いた穴を埋めようと迫り来る波の中を、見事に駆け抜けてみせた。
 うねる波は、まるでそれ自身が黒い防波堤のよう。そこに開いた、たった狐一匹ぶんの風穴は、やはりデスギガスから欠け落ちた何かを思わせる。
「ねぇ、欲しい、て、仲良くて、言う、けど……友達、飲み込んだり、しないもの、だよ?」
 再度人の姿に戻り、見えてきた歓喜の門へ近づきながら、さつまは懸命に訴える。
『……そうかな? ぼくはこの世界で辛い思いをしてるみんなを助けてるんだけどなぁ。助けあうのが友達だよね。助けてって声がたくさん聴こえたから、ぼく頑張ってるんだよ!』
「わわ、危ない!」
 まるで友人との戯れを楽しむかのように。
『あはははははは!』
 嬉しそうな声をあげながら、物凄い勢いで突進してくるデスギガス。いったいこの怪物にとって、『友達』とはなんなのだろう。大地が、波が震える程の大きな朗笑に狐耳を寝かせながら、さつまはぴょんと高く上へ跳ね、辛うじて第一撃をかわす。
 その笑い声が不気味に思えたのは、いっさいの悪意が感じられなかったからだろう。さつまの、そして大多数の良識から、著しく外れた行いをしているにもかかわらず、だ。
「そもそも、一部になちゃたら、キミになる、から、そしたら、友達なれない、よね!」
 獣の本能が告げている。
 |これ《﹅﹅》は怪物だと。けして通じ合える相手ではないと。
 全身の毛が逆立つような寒々しさを覚えながらも、それでもさつまは戦うことを、敵の心へ語りかけることをやめなかった。
 一度突進を避けてもすぐ二回目がくる、そのこともしっかり頭に入っている。

『あれれ? そういえばそうだったかも……でもぼく、みんなが助けて、って思ってるのがわかるんだ。友達のお願いはなんでも聞いてあげたいよ』
「ううん……助けられて、ない。キミに助けて、とは、言てない!」
 さつまの放った一言が、揺らぐデスギガスの心を刺したのか。二度目の方向転換はやや動作が出遅れ、そのわずかな隙を見切ったさつまが動いた。
 直進してくる敵の腹部――そこで不気味に渦巻く歓喜の門めがけ、仔狐と仔狸が正面からいっせいに飛びかかる。さつまは素早く脇に逃れてみせるが、デスギガスは直進を止めることができない。
『ぼくがいらないの? 強がらなくていいんだよ……あれ? なんかヘンだなぁ……うわぁ、あっつい! あっついよ!』
 終わりなき地獄の入り口を思わせる赤黒い歓喜の門を、強く、熱い光で塗りつぶすように、青い炎が|煌々《こうこう》と欠落を焼きつくす。
 こヤんと鳴きながら、一匹の仔狐がさつまの周りを飛びはねて、彼が握る蛮刀の中へと宿った。
 さつまの想いを乗せた刀は、一際強い炎を纏って光りかがやく。
 炎に驚き、動けずにいるデスギガスの腹の中心へ、追い打ちの一撃。素早く繰り出された横薙ぎは怪物の腹を裂き、青い火柱が弾けるように天まで突き抜けた。

「ねぇ……ちょとお話、いいかな」
 さつまはそこで刀を下ろした。この敵を単に討ち砕くよりも、|何とか《﹅﹅﹅》したいという、本能的にこみ上げてきた気持ちがそうさせたのかもしれない。
「ずと、気になてた、けど……時々呼んでる人、居る、よね……?」
 先程、デスギガスの中を通り抜けた時に聴こえてきた思念。予兆でも耳にしていたあの名前――。
「アガメムノン、さん。友達の、名前、じゃない?」
『あっ……そうだ、アガメムノンくんだ! アガメムノンくん……君はアガメムノンくんを知ってるの?』
 さつまはふるふると首を横に振る。少なくとも、今のところその名に心当たりはない。
『そっか……アガメムノンくん……あれっ? ぼく何の話してたんだっけ』
「わからない? 忘れちゃた? ふぅん……?」
 アガメムノンとはいったい誰なのか。
 どうしてデスギガスは、そんなに大切だったらしいものまで忘れてしまったのか。
(友達。忘れたくない、もの。たくさん、ある、のにね)
 もし己が同じ立場に陥ったらと考えると、さつまは敵ながらもどかしい気持ちにかられる。しかし、今これ以上できる事はなさそうだ。
『えっと、えっと、ぼく何しに来たんだっけ……あっ、そうだ! 戦争をいっぱい頑張って、猟兵のみんなとも友達になるんだよね』
 ――ねえ。

『君、ずっとぼくのほうを見てるね。友達になりたいのかな?』
「……ごめん。友達と、自分は、別、だもん」
 先程までの会話も、決死の攻防もすべてなかったかのように、繰り返される会話。
 それがデスギガスという存在を象徴しているような気がして、さつまはどこか寂しげに背を向け、迎えてくれる仲間のもとへ強く駆けだした。
 けれど、闇の底に遺した灯火は消えていないはず。最後にこの声が届くようにと、ただ、それだけを願っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リゼ・フランメ
貴方の言葉はとてもヒトらしいのね
喜びがなければ絶望もない
確かに貴方の存在が示す通り、それがヒトの心の有り様でしょう
でもねデスギガス
抗う事を辞めるのは罪よ
戦うと決め、闇を見つめ、それでも魂の翅で羽ばたきつづければ
輝く夢まで辿り着ける

例え翅がとれほどに脆く、危うく、繊細であれ
それがヒトの心、希望というものなのだから

願いの劫火を以て、相対しましょう

影の大波には、破魔の炎を宿した剣撃を放って焼却
全てを焼くのは無理でも私が通り抜けるだけの隙間を作り更に前へ

デスギガスの突進は歓喜の笑い声を頼りに動き出すより先んじて察知
動きを見切り、方向転換できない程に限界まで引き寄せた後、蝶の動きめいた軽業、されど早業の身の捌きで空に跳びながら回避
跳力足りなければ、魔術で爆炎放ち衝撃と烈風を纏い加速

空中ですれ違い様、カウンターで指定UCを腹部の歓喜の門へ

友達が欲しいと孤独を恐れるデスギガス
誰かの役に立っているという喜びがその証左
彼の魂の邪悪な闇と罪を、炎の蝶で灼くわ

願わくば次の生では
歪むことなく、正しきを友と供にと



●7
 炎は|刧《おびや》かす。時に苛烈なる正義として、時に闇を照らす篝火として。
 リゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は戦場に立つ。かすかな熱気が、彼女の透けるような肌を撫ぜる。先程まで戦っていた仲間の、心に灯る炎の残滓を感じるようだった。

『ええっと……なんだかここすごく暑い気がするんだけど、どうしてだっけ。君、赤い髪の君! 覚えてないかな?』
「青い炎は、赤い炎よりも冷然と冴えて映るでしょうね。けれど、どんな色より強い熱を秘めて、凜と燃えるのよ」
『青? あっ! 本当だ、ぼくのお腹、青く光ってる。君がやったの?』
 リゼは静かに首を振る。対するデスギガスは、首を傾げながらもやはり、いびつな笑みを浮かべる。
『君は、うーん……あれ? 不思議なことを考えてるようだね。えーと、じゃあ……早速友達にしちゃおう!』
 先程までに比べると、デスギガスの声には心なしか迷いが感じられた。それでも、影は海という底のない威容の姿を借り、リゼの炎さえ絶望の闇へ堕とそうと蠢く。
「あくまでそう来るとあらば。願いの劫火を以て、相対しましょう」
 己の背丈の何倍もあろうかという影の波が迫れども、リゼは動じることなく剣を構え、敵と相対する。指先で触れれば、龍晶は仄かな熱を帯びはじめた。
 人の心が読める、と豪語する歪んだ怪物。だがリゼもまた、波の向こうにその姿を、正体を、はっきりと捉えているかのように、闇を見つめている。
 デスギガスは困惑したことだろう。静かで、けれど強い意志を秘めたひとの視線が、およそ抱かれたことがない類の感情を纏い、己の『親切』を斬り裂こうとしている。
 彼のわずかな戸惑いが細かく水面を揺らすのを、リゼは見逃してはくれない。細身の長剣に魔を退ける祈りを宿し、厳かに一歩踏み出す。
 とん、と軽やかに波間へ放たれた一突きは、針に糸を通すが如く繊細で絶妙。
 切っ先からひろがる炎は、この大海の全てを焼き尽くすには至らねど、リゼの進むべき道を作るには充分すぎる劫火だった。

 邪なる影の波は、聖なる炎に競り負けたかのように、だんだんと焼かれ綻びを大きくしていく。
 やがて空いたヒトひとりぶんの小さな穴は、先程より一層、具体的な形をもって広がっているように思われた。
(きっとこれが、貴方から欠け落ちてしまったものなのね)
 怪物の心に空いた風穴を、リゼは迷わず走り抜けた。踊るように靴を鳴らし、駆ける彼女の背を焔の蝶たちが追う。あかい彗星が閉ざされた海に尾を引いて、はかなく消えてゆく。
『きみは……何? もしかして、ぼくに同情しているの? 大丈夫、ぼくは心配なんていらないよ。それより君、なんか頼もしそうだし、一緒にみんなを助けてあげよう!』
 無邪気な、しかしおぞましい歓喜の笑いが、再び空気を震わせる。その予兆に怯えたように、炎の蝶がふるりと小さな翅を動かしてみせた。
「貴方の言葉はとてもヒトらしいのね」
 蝶の反応を視界に捉えたリゼは、剣を盾にし、受けの構えを見せた。狙いを読まれないよう心を研ぎ澄まし、ただひとりの騎士として闇と対峙する。
『ヒトらしい? えっと……ぼくが弱くて頼りないってこと? じゃあ強い所見せてあげなきゃ!』
 張り切ってリゼへ直進してしまったデスギガスは、結果的に彼女の思惑通りに動いた。怪物が嬉々として笑い、あわや闇に飲み込まれる寸前、リゼは軽やかに地を蹴った。

『あれれ?』
 赤と白の戦装束が目の前で翻る。
 デスギガスの巨体からは、まるでひとひらの蝶が空へ飛び立ったように見えただろう。
 ヒトは、それくらい小さく、か弱きものかもしれない。
「喜びがなければ絶望もない。確かに貴方の存在が示す通り、それがヒトの心の有り様でしょう」
 まったくの無。
 闇に追いつめられた末、それこそが幸福だと。そういう考えに縋るものも居るのかもしれない。
「でもね、デスギガス。抗う事を辞めるのは罪よ」
 けれど、リゼの密やかに、しかし苛烈に燃える心の焔は、雪と灰にうずもれた過去へ膝をつく時間を与えなかった。
 静かに胸が脈打つ。想いは劫火となり、溢れ、烈風を纏って渦巻きながら火勢を増していく。
 急ぎ反転したデスギガスだったが、それでも相手を捕らえるには至らない。
 笑い、曲がり、進み、なおも逃げられ続けるさまは、手に入らない蝶を追いかけ続ける幼子のように見えただろう。
『あははは! 君、しぶといなぁ。ますます友達にしてあげたくなっちゃう!』
「それは真理ではないわ。友達が欲しいのは、貴方自身が孤独を恐れているから」
『……そ、そうなの? 実は君のそれ、さっきからなんか引っかかるんだよね……なんでかな?』
「誰かの役に立つ事で喜びを感じるのは、その証左」
『……僕って孤独なの? そんなことないよ、こんなにいっぱい友達がいるんだよ!』
 デスギガスは細長い腕をばたつかせ、自らの身体を叩いてみせる。この闇の中に、どれだけの人々を飲み込んだかを示しているのだろう――リゼは騎士として、そのさまを邪悪だと断ずる。
 しかし、心の奥底まで覗けは、そればかりとも言い切れなかった。
「貴方の孤独は、多くの命を一方的に摘んでしまった。戦うと決め、闇を見つめ、それでも魂の翅で羽ばたきつづければ、輝く夢まで辿り着けるのに」
 その罪を赦すことはできないが、憎みはしない。新たな火種を生まない為には、一度すべてを焼き尽くし、清めるほかない。
 どうしてもリゼを捕らえたいのか、なおもデスギガスは彼女を追い続けた。いくら望んでも叶わない夢のように、蝶は風に乗り、怪物の腕からするりするりと逃れ続ける。

 疲れたのだろうか。
 手に入らないものを追い続けて。
 だんだんと、その動きが鈍り始めた。
 諦め――貼りついた笑顔の裏に、その感情を見いだしてしまうのも、ヒトの性かもしれない。

 今ならば。
 敵の動きに好機を見たリゼは、全身に纏う魔力を足元に集め、爆炎として放出する。
 衝撃は烈風を巻き起こし、優雅に空を踊る蝶は、一瞬で苛烈な炎の弾丸と化した。攻撃をかわし続けていたリゼが、こちらへ向かってきたのを見て、デスギガスは歓喜の声をあげる。
『あっ、やっと振り向いてくれたね! えっと、えっとね……そうだ! 君がどうしてもぼくを倒したいのはわかったよ。じゃあ、殺してもいい事にしちゃおう!
 でも、ぼくもオブリビオンのみんなのために、君をぼくにするのは諦めないよ。つまり、どうなっても、ぼくは友達の役に立てるよね』
 その口から語られたのは、彼の狂った献身と友情観だった。
 リゼに触れようと、伸びてくる指先があった。けれど、これは触れてはいけないもの。けして握り返してはいけない、罪と血にまみれた手だ。
 鍔元の宝珠が輝き、断罪の剣が炎を纏う。リゼは迷うことなく指の隙間をすり抜けると、すれ違いざまに決別の一太刀を振るった。強く、しなやかなその斬撃は、無防備になったデスギガスの腹部へ見事に命中する。
 あまりに軽やかな一撃は、喰らった当人も首をかしげるほど、致命傷にはほど遠い斬撃であった。
『えっ……君、どうしてぼくに止めをささないの? チャンスだったのに!』
「灼くのは、貴方の魂の中にある邪悪。闇と罪。命を奪う事そのものが私の望みではないの」
 諭すように言い聞かせる声と共に、リゼが伸ばした指先から、火焔の蝶が無数に放たれる。
 細い翅を懸命にふるわせ、仄かに闇を照らす蝶たちは、この世界に生きるヒトのよう。
 その翅がとれほどに脆く、危うく、繊細であれ、深い絶望に抗うように飛んでいく。
 ヒトの心。ヒトの持つ希望。想いを乗せたリゼの蝶たちは、歓喜の門へと群がった。
 あえかな光は、しだいに明るさを増していく。
 それらはやがて、触れたものすべてを灼き尽くす炎と化し、ただ邪悪を滅するために|煌々《こうこう》と燃え上がるのだ。

『ひゃあぁ! あっつい、あっついってば! なんかすぐ最近こういう事があった気がするなぁ……どうしてみんな、そんなにぼくを燃やしたがるのかな』
 ――ねえ。
『そこの赤い髪の君! どうしてか知らない?』
 怪物は歪に笑ってみせた。
 つい一瞬前までの記憶が、またごっそり抜け落ちているのだと、一目でわかった。
 彼の魂はいつまで闇をさ迷いつづけるのだろう。リゼは祈るように眸を伏せると、こう返した。
「そうね。炎には闇を退ける力があるから、ではないかしら」
 淑やかに踵を返した女の、燃えるような赤髪を、デスギガスは不可思議そうに見つめる。敵対していたことも、友人として迎えられなかったことも、もう忘れてしまったのだろう。

 ただ、リゼは最後まで祈り続ける。夢のような奇跡を信じ、凛然と前を向く。
 ――願わくば次の生では、歪むことなく、正しきを友と供にと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仰木・弥鶴
友達というのはね、いい意味でも悪い意味でも対等であるものだよ
圧倒的な力で支配するのは友情ではなくて暴力というんだ
かつての君ならそんなことは十分に理解できていたはずなのにね

水中戦用のフレームに換装したキャバリアに搭乗
呑み込もうと押し寄せる影の大波を突き抜けるため『EPメガスラスター』を全噴射
タイミングを見て
波がぶつかり合い動きが鈍った場所を強引にこじ開けて進む
機体の破損は『EPナノクラスタ装甲』の自動修復に任せて『門』へ
…借り物のキャバリアだからできるだけ壊したくないけど
まあ、後で謝ればいいか

俺は『欠落』であろうと嫌な記憶であろうと
忘れてしまうのは好まないんだ
『EPミラージュユニット』で囮の幻影を発生させて
ダイヤの紋章から放たれる影にはそちらを狙わせるように攪乱

腹部の『門』へ到達後
ビームダガーを投げ込みUC
贄の紋印を目印に大量の白燐蟲を向かわせて貪らせる

絶望したくなくとも
忘れてしまったら同じことの繰り返しじゃないか
また友達を求めるなんて君は寂しがりやだね

ああでも、見た目は俺も可愛いと思うよ



●8
 群れからはぐれたのだろうか。
 焔をまとった蝶が、キャバリアに乗りこむ仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)の前を、ひらひらと気儘に通りすぎる。珍しい蟲だ。
 どの教室にも一人はこんな生徒がいたりするな、と、教師はふと日常を思った。

(……慣れないな。この兵器を使いたい時はここ、で合っていた筈)
 操縦席でまず感じるのは違和感。無理もない、この戦いのために知人の商人から借り受けたものだ。水陸両用だが、今は波に備えた水中戦用のフレームになっているらしい。
 まあ操縦は何とかなるだろうと、楽観視して煙草を口にくわえる。禁煙だったかもしれないとふと思ったが、とりあえず頭のすみに寄せておいた。
 歴戦の経験は、この戦いが佳境に近づいていることを肌で感じさせてくれる。何度も、さまざまな手段で、歓喜の門を攻撃され続けたデスギガスはさすがに少々疲弊しているようだ。
(ん? いや、違うかな)
 弥鶴はデスギガスの様子が何かおかしい事に気づいた。邪気が薄れ、戸惑いが生じているように見えるのだ。多少ではあるが、仲間の破魔攻撃が彼の心に変化を与えたのかもしれない。

『……ねえ、眼鏡の君! 君はぼくの友達になってくれるよね。えーっと……何人か忘れちゃったけど、今日、なんかいっぱい断られてるような気がするんだ。なんでかな?』
 まだ道理というものを理解できていない、小学生のような物言いだ。
 偶然にも自分が尋ねられたのなら、大人として、答える義務があるのかもしれない。
「友達というのはね、いい意味でも悪い意味でも対等であるものだよ。圧倒的な力で支配するのは、友情ではなくて暴力というんだ」
 落ち着いた声音でそう告げる弥鶴に対し、デスギガスは無邪気な笑い声を返す。
『支配? ぼくは支配なんかしてないよ。みんなのために何でもしてあげてるのにな……あっ!  もしかして、みんなもぼくのために頑張ってくれなきゃ対等じゃないってこと?』
 猟兵という、暴力では支配できないものたちに直面した。
 その心に触れたから、彼はようやく疑問を持つに至れたのだろう。
 しかし、デスギガスはおよそ的外れな答案を返してきた。果たして何点をつけるべきだろうか。
「君なりによく考えたことは分かるけど、それも一種の暴力なんだ。……かつての君ならそんなことは十分に理解できていたはずなのにね」
『……? 君、昔のぼくを知ってるの? そうだ、ぼく変なんだよ。何かぜったい忘れちゃいけなかったことを忘れてるような、ずっとそんな感じ。君を友達にできたら思い出せるかな!』
 キャバリアでさえも容易に飲み込むほどの、圧倒的な大波が弥鶴を襲う。
 どうやら、暴力で支配した相手は友人とは呼ばないと言った事も、すぐに忘れてしまったようだ。弥鶴は改めてコックピットを見回しつつ、まず最初に引くべきレバーを倒した。
 これで確か『EPメガスラスター』というパーツが起動するはずだ――背面で何かが動いている気配がするので、恐らく正常に動作している。
 探り探りペダルやレバーを動かせば、若干ぎこちないながらも、キャバリアは前後左右に移動してくれた。何より、生身で挑むよりは遥かに耐久面で融通がきく。本気で対策を講じた甲斐があったというものだ。
 とはいえ、そうのんびりしてはいられない。叩きつける影の大波は、機体を徐々に侵食し、黒く染め上げていく。搭載されたナノクラスタ装甲が自動的に修復を試みているが、完全に食い止めるには至っていないようだ。
(参ったな、できるだけ壊したくないんだけど……まあ、後で謝ればいいか。焦って失敗するほうが良くない)
 機体の損傷も多少は気にかけつつ、弥鶴は慎重に波の動きを観察し続ける。
 時折、波がぶつかり合うと動きが鈍ることに気づいた。そこにタイミングを合わせ、メガスラスターのレバーを一気に最大まで倒す。
 己も操縦席の背もたれに押しつけられるほどの衝撃を感じた。爆発的な水中推進力を得たキャバリアは、一気に闇の海をこじ開けて、その向こうに待つデスギガス本体の前へぽんと飛び出した。
 文明の勝利である。何かのパーツが外れる音が聞こえた気がして、弥鶴は心の中で知人に詫びた。

『それ、その大きいの、なんかすごいね! ぼくの波をこんなに簡単に突破できちゃうなんて思わなかったよ。すごいからご褒美をあげちゃうよ。
 人って嫌なことがいっぱいあるんでしょ? ぼく、心が読めるからわかるんだ。だから全部忘れさせてあげるね!』
 どうやら楽しい記憶の存在は無視されてしまっているようだ。この攻撃に関しても、対策は考えてあった。
 EPミラージュユニット――本来は、敵機の索敵機能を妨害するための装置だと言っていたか。だが、物は使いようだ。起動スイッチを押すと、キャバリアの幻影が何体も現れた。
『……あれ? えっと、えーっと……友達がいっぱい増えた?』
 デスギガスの記憶はただでさえ崩壊しやすい。攪乱するようにぐるぐると周囲を移動し続ければ、敵が本物の弥鶴を見失うまでにそう時間はかからなかった。
『うーんと……最初に何人いたんだっけ? うーんもういいや、全員にあげよう! 友達だもんね!』
 思惑通り、デスギガスは幻影に向かってダイヤの紋章を空撃ちしてくれた。そこに『友達』がいると信じ込み、すべてを喪失させる漆黒の影を、一方的に『プレゼント』している。そのさまはやはり、暴力であると弥鶴は思った。
『ようこそ、猟兵のひと! あっ何も言わなくていいよ、ぼく心が読めるんだ……あれ? 君は……おかしいな、なんにも考えてない……? 記憶がなくなっちゃったから?』
 幻影に一生懸命話しかけているデスギガスはひどく無防備で、隙だらけだ。
 弥鶴はすかさず機体を屈め、脇から腹部へと回りこむ。歓喜の門にはさまざまな傷痕が見て取れたが、とりわけ目立つのは、焼け焦げたような痕跡だ。
「丁度食べ頃かもしれないな。皆、めしあがれ」
 中国剣型のビームダガーを歓喜の門へ投げ入れると、黒い渦に贄の紋印が浮かび上がった。コックピットハッチを開き、手を空に向けると、弥鶴の体内に宿る白燐蟲たちが我先にと獲物へ襲いかかっていく。
 宿主に祝福を、それ以外には不幸をもたらす彼らは食欲旺盛だ。例え闇のかたまりであろうと、構わずに貪り尽くしていく。この輝きも暴力ではあるが、かといって対等になれたわけでもない。

 デスギガスは幻影と話すのに夢中なようで、弥鶴は投げたビームダガーが無事手元に戻ってくるのかを考えている余裕さえあった。
(絶望したくなくとも、忘れてしまったら同じことの繰り返しじゃないか)
 皮肉なことだ。
 猟兵の存在も、大切なものの名前も、痛みも、すっかり忘れて虚無と話しこんでいるデスギガスの姿は、弥鶴には絶望そのものに映っていた。
『……あれ? 何かお腹がすごく痛い、ような……いたっ、いたたた!』
 しかし、自分に群がる白燐蟲を目にしたデスギガスは、むしろいっそう嬉しそうな顔をしている。
『ぼくが美味しいの? じゃあ、このまま全部食べてくれてもいいんだよ。友達だもんね』
 その一言だけは、弥鶴の知る『かつての彼』を彷彿とさせたかもしれない。

 何となくミラージュユニットを切りたくなったので、スイッチを落とす。デスギガスの興味は、すっかり幻影から白燐蟲に移ってしまっているようだ。
「また友達を求めるなんて、君は寂しがりやだね」
 それは、君に不幸しかもたらさない生き物なのに――デスギガスは、急に聞こえてきた『新しい友達』の姿を探し、きょろきょろと辺りを見回した。
 そして、弥鶴の姿を認めると、満面のいびつな笑みを浮かべた。
『ごめんごめん、君のことすっかり忘れてたみたい! えーっと、何か約束があったよね……あっ、そうだ、記憶を消してあげるんだったね!』
「遠慮するよ。俺は『欠落』であろうと嫌な記憶であろうと、忘れてしまうのは好まないんだ」
 デスギガスの笑みがゆっくりと崩れていく。
 その身体が、友達と呼んだものに喰い荒らされ、静かにすり減っていくのと連動するように。

『……うん、確かに君はそう思ってるみたいだね。君は……君も、友達にはなってくれないの?』
「悪いけどそうみたいだ。ああでも、見た目は俺も可愛いと思うよ」
 穏やかな笑みを浮かべ、巨体を見上げる弥鶴の心中を計りかねたのか、デスギガスは首をひねった。
 嘘偽りのない、本当にささやかな親しみの心。
 それゆえに、怪物には理解が及ばなかったのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
アド〇
心情
アガメムノンくんか
そいつは嘗てお前が友と言っていた存在
だがアガメムノンは全てを忘れるお前を利用しようと目論んでいた
しかしお前はそんな彼の心を理解した上で
彼の友としてその力を与えようとした
…それ程に大事だったものを忘れてしまったか、デスギガス
…哀しいな
…何を俺は、言っているのだろうな
…まるで『お前』を知っているかの様だ
灼滅せよ、か
その言葉も懐かしく感じるのは気のせいではないのだろうな
対策・攻撃
影の大波に飲まれればアウト
この状況は俺には不利だ
故にその状況を
そっくりお前に返してやるよ、デスギガス
見切り+地形の利用+第六感+情報収集+戦闘知識+UC
波にデスギガスが飲まれるのに乗じて歓喜の門のある部分に肉薄
自分への被害はオーラ防御+軽業+ジャンプ+残像
で最小限に抑える
人類砦の残骸による絶望の世界か
…残念だけれど、俺にはその未来は視えていたんだ
だから、その絶望に飲まれるより先に
一撃を加えて離脱しよう
UC:蒼舞:剣聖+2回攻撃+連続コンボ+斬撃波+属性攻撃:蒼
で歓喜の門に攻撃を仕掛け撤退



●9
 その戦場に立った瞬間から、いや、この敵を目にした瞬間から、だろうか。
 北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は、得体の知れない感覚で肌が粟立つのを覚えていた。
 脳の奥底で眠っていた膨大な情報が、一気に溢れ出し、思考に流れ込んできて、自分で止めることができない。
 他のグリモア猟兵は絶対に知らないような謎。真実か否かすらわからない情報。けれども、優希斗だけは、何故かそれが必ず真実であると確信できているのだ。時折見る夢によく似た感覚、光景が、何度も脳裏を過ぎっては、理解しきる前に消えていく。
(何だこれは。俺の知らない俺がこいつに関わっているのか……)
 ひどく頭が痛む。
 優希斗は暫く仲間の張った障壁の中に身を潜めていたが、デスギガスもいよいよ蟲に身体を喰らい尽くされ、耐久力の限界を迎えようとしていた。
『……逃げなくちゃ』
 デスギガスが不意にそう呟き、戦場から撤退を開始する。優希斗は咄嗟に動いた。絶対に逃してはいけない、そう思ったからだ。

『やあ黒い君、友達になってくれるの? 嬉しいよ! でもごめんね、ぼく今は急いでるんだ!』
 目の前に立ち塞がった優希斗に対し、デスギガスは喜色をにじませて答える。だが、仲間の猟兵達の攻撃の影響か、どこか焦燥感も感じられた。
 優希斗は恐らく、一番足止めに効果的であろう言葉を口にする。
「アガメムノンくんか」
『え?』
 案の定、デスギガスの動きがぴたりと止まる。そこからは勝手に口が動き始めた。
「そいつは嘗てお前が友と言っていた存在。だが、アガメムノンは全てを忘れるお前を利用しようと目論んでいた。しかし、お前はそんな彼の心を理解した上で、彼の友としてその力を与えようとした」
 自分でも何を口走っているのか、優希斗はさっぱり理解ができなかった。だが感情が、言葉が、とめどなく溢れて止められなかった。優希斗は爪が掌へ食い込むほどに、拳を強く握りしめる。
「……それ程に大事だったものを忘れてしまったか、デスギガス。哀しいな」
 目頭を熱くさせるほどのこの想いは、一体どこからこみ上げてくるのだろう。デスギガスも、そんな優希斗の様子を、興味深そうに見つめている。
『……それって本当? うん、でも確かにすごく聞き覚えがあるよ。アガメムノンくん。そうだ、アガメムノンくん……』
 しかしどうしても細部までは思い出せないようで、デスギガスは頭を抱えて必死に考えている。その様子も、優希斗にはとても哀しく思えて仕方がなかった。
「……何を俺は、言っているのだろうな……まるで『お前』を知っているかの様だ」
 だが同じぐらい強く、ここで討たねばなるまいとも思っている。優希斗は蒼き月を思わせる妖刀を手に取った。澄んだ刃が、静かに涙を流しているように視えた。

『あっ、絶対逃がさないって思ってるね。うん、ぼくも君の記憶にはすごく興味があるよ。じゃあこうするしかないよね!』
 デスギガスは再び、身体から影の海を放出する。味方に捕食され、いくらか面積が減ってはいるものの、やはりその質量が圧倒的であることに変わりはない。
(大波に飲まれればアウト。この状況は俺には不利だ……故に)
 辺りに散らばる人類砦の残骸を盾にしながら、直感を頼りに波を避け、対策を講じる。すると、閃くものがあった。
「この状況をそっくりお前に返してやるよ、デスギガス」
 咎人よ。永遠の海の揺り籠の中で、永遠に眠るがいい。
 そう呟き、優希斗はわざと蠢く闇の波間へ飛びこんでゆく。一見無謀にも見える行為だが――蒼穹を思わせる骸の海が、急に闇を蒼く染め上げていく。
 状態異常や行動制限を、科してきた相手に反射するユーベルコード『闇技・蒼淵海滅波』が発動したのだ。
 現れたのは、デスギガスすら飲み込むほどの巨大な大波。己の危険も承知の上だった。
『わわっ! 何これ!?』
 幸い、仲間達は攻撃を遮断する障壁の中にいるため、被害の心配をする必要はないだろう。絶対に逃がしてはならない。追随する闇を退ける気迫を纏い、優希斗は上へ上へと跳躍し続ける。
 デスギガスも波に流されながら、なんとか海から顔を出したようだ。ぷかぷかと頭だけ浮く姿は、遊泳を楽しんでいる子供のようにも見え、すこしだけ滑稽だった。
『あはははは! 楽しいね、これ! もっともっと遊んでいたいけれど、お別れの時間だよ。そうだ、最後にとびっきりのプレゼントをあげるね!』

 人類砦の残骸が空から降りそそぎ、巨大な洪水に流されていく。
 それはまさしく、この世の終わりのような光景。絶望に至るにふさわしい世界だ。
 海の底にいる仲間達は、いま何を思って、これを見ているのだろう。
 優希斗は――何故か、ふっと笑みを浮かべていた。

「人類砦の残骸による絶望の世界か。……残念だけれど、俺にはその未来は視えていたんだ」
 懐かしい友にでも出会ったかのような表情で。
 優希斗は絶望を見つめる。いや、その先にある、過去と未来のすべてを視ている。
 だから、諦めない。定められた未来に絶望などするものか。
 蒼穹の骸の海を妖刀に宿し、優希斗は舞うように、蒼き斬撃を素早く放つ。
 蒼の衝撃は闇を、海を、波を、絶望を、なにもかも切り裂いて、その先にある歓喜の門へと次々に吸いこまれていく。
 灼滅せよ――誰かがそう囁くのを、遠くに聴いた気がした。
「この言葉も懐かしく感じるのは気のせいではないのだろうな」
『偶然だね。僕もなんだか聞き覚えがあるよ。でも、なんかそれ、すっごくイヤな感じ!』
 優希斗とデスギガスの目線が合う。
 友であるとも、敵であるとも、形容しがたいこの一瞬。
 未だ掴めない過去と未来が、確かに交錯していることを、まだ誰も知ることはないのだろう。

『アガメムノンくん。アガメムノンくんだね。うーん……なるべく覚えていられるように頑張るよ。じゃあ、またね!』
 デスギガスはそう言い残すと、優希斗が撤退するより先に、早々と海の底へ消えていった。
 ゆっくりと、ゆっくりと、蒼と黒の波がひいていく。
 敵を倒しきることはできなかったものの、それ以上に何か重大なことを思い出せたような手応えを、優希斗は覚えていた。
(……忘却する敵に何かを思い出させられるとは、皮肉なものだ)
 優希斗の想いは、仲間たちが命がけで繋いできた道筋は、けして無駄にはならないだろう。そう強く信じ、再度の機を待つことこそが、絶望に飲まれないための最善の方法だ。

 凪ぎつつある浅瀬の海に、青年の静かな呟きが落とされる。
「またね、か。覚えていろデスギガス。次に会った時は……灼滅してやる」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年10月01日


挿絵イラスト