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響煌焔狼ハウリング・ヘリオスの足跡

#サイバーザナドゥ #ノベル

エミリヤ・ユイク




 “悪しきを燃やせ”
 いつからか胸中で渦巻く衝動は、埋め火のように長らくあった。

「(……終らない)」
 何気なくついてしまった溜息に始まり、エミリヤはつい溜息をつく回数が増えていた。
 “悪”というものは実に止めどない存在であったのだ。
 エミリヤ自身、“悪の根絶”というのものには終わりがあるとばかり思っていたのに、現実はそう甘くはない。
 切っても折っても叩きのめしても壊しても摘んでも殺しても殺しても殺しても殺しても――まだ、いる。何処からともなく湧く悪に辟易しかけていた時、ふと思ったのだ。

「(私がいるここ研究所は――本当・・に正義?)」

 そういう目で見始めれば、ここ研究所こそ――……最も身近なだったのだ。
 今目の前の全て抗戦に用いるオブリビオン研究成果こそが答え。まぁ実際のところエミリヤ自身、研究所から自身への仕打ち自体“人”への扱いではないと理解しているけれど。
『ハハ、アハハハハハハ!』
「……本当、厭になる」
 もう少しましだと思いたかった気持ちが、毛先焼いたレーザー砲で霧散した。
「(剣使い、砲手は――レーザーとショートビームの二種か)――ちょうどいい」
 種類に欠ける。あぁ、“私”を嘗めているのか。
 そう思った瞬間、普段笑いもしなくなって久しいエミリヤの口角が上がっていた。だが良く考えれば壊し甲斐があると思えばいい。
 バク転で飛び上がり着地した天井を飛来するビーム避けるのに蹴り出し、落下待ち構えていた剣使いのマシンを熱燈した夜華で螺旋状に斬り飛ばす!
 棚引く黒髪優雅に、畳み掛けるように八方襲い来るビームとレーザーの群れを夜空幻奏翻して無へ帰しわらおうか。
「焔創せよ、我が魂」
 白い肌は寄り艶やかに光り返すのはTPMCの力。耳元で揺れた蒼き滴深海のイヤリングの色温かくも、GCの紫の煌めきがよりエミリヤの世界を高速へ!
「あぁ……ふふ、この手足も今じゃ“機械”化したんだ――それがどういう意味か教えてやる」
 研究記録を取り続けていた誰かが言った“エミリヤはバケモノだ”と。
 瞬く左眸に蒼六芒星は美しく、胸に燈る迦具土の蒼焔を息衝かせる。黒狼牙爪のアタッチメント、零天使煌めき続ける限りマシン共にエミリヤは止められない。
 勿論、押さえつけたところで意思強きエミリヤを“止める”と考えた時点で首が飛ぶ。
 次々壊されるマシンだが次々導入され、絶え間なくもただエミリヤはにやりと口角を上げ纏う全てで牙を剥く!
『クソッ!クソクソふざけるな、f39307!止まれ!!』
「ハハッ……私の意志の強さを甘く見ているようだな?」
 悪態つく研究員の耳元で囁き、GCの高速移動で地を蹴って。
マシンの砲身と、目が合った。
「――私は悪には負けんよ、私の心は砕けない!」
 冥狼振牙の鋼仕込みの靴底が砲身を一蹴りで圧し折り、蹴った機体足場に空へ飛び上がる。
「私は響煌焔狼ハウリング・ヘリオス……限界突破オーバードライブ、勝つのは私だ!!」
 空蹴り次元越えるエミリヤは胸の迦具土を尚燃やし、星になる!
『やめろぉぉおおお!!』
 UC―覚醒し焔の星に至る者―!
「これが私の逆襲!発動せよ、フレイムウィル・スフィア・フーエヴァー!!」
 研究員が聞いたのは、エミリヤの床蹴る音のみ。
 凄まじい熱量の蒼き煌星はいくつものマシン型オブリビオンの腹を抜き駆け抜ける!
 常人の眼には捉えきれぬ戦闘。
 レーザー砲撃つ固定砲台型オブリビオンマシンの砲身を接近しながら斬り飛ばし細切れに。
 突進しようにもエミリヤには緩慢にしか見えない動きの剣使いは、邪魔な剣を手首ごと黒狼爪牙で斬り落とし木偶の坊へ。
「邪魔だ!」
 首へ入れた刃を、引く。
 首が落ちる様さえスローな様を横目に、向けられた数多のビーム砲を空泳ぐが如く舞い避けて、首飛ばした機体を盾代わりに蹴り飛ばす。
 ダッシュ、ジャンプ、突貫したビーム砲機体の腹に残るのは大穴。何体来ようがその現実は変わらず、寧ろ沈黙する機体が増えるのみ。

 エミリヤが纏う全ては確かにどれもこれもが強力なアイテムだろう。だが、いくらそれぞれ全てが強かろうとあくまでもそれは個だ。
しかしそれを組み合わせ、その全てを“意思”で捻じ伏せ戦うエミリヤの鋼の意思。
『なんでっ――どうして、そこまで……!』
 エミリヤを初期から観測し計測し、時にエミリヤが泣こうが喚こうが心も体も好き勝手に痛めつけ、無体強いてでも行ってきた全てが――覆される。敵対者屠る仕事でさえ涙を流す精神を持ち合わせていたはずなのに!
研究し続けていたはずの研究員は、数多の沈黙した機体に囲まれ膝をつき、茫然としていた。
『おかしい、お前は……こんなっ、』
「言っただろう。私は負けないと」
 ほたり――研究員の真後ろに立ったエミリヤが冷たい瞳で研究員を見下ろせば、黒狼爪牙から滴り落ちたオイルが床に模様を描く。
『っ!?くっ、くるな……!』
「私は全ての悪を燃やす。お前も、アレマシン共も変わらない……“悪”だ。悉く燃やし消す」
 尻餅付いたまま後退り呻く研究員の瞳にあるのは動揺と混乱と恐怖を綯交ぜにした恐慌。
 慌てふためくその様は、エミリヤが従っていた時には想像もし得なかった表情であった。
「(……こんなものか)」
 逃げようとしていた研究員の男が、背を沈黙した機体によって阻まれる。
 部屋の機械をタップし、研究員の落したカードでログイン。展開したマップと他の研究員の居場所をサーチすれば全てが可視化した。
「(……A区画に35人、B区画7人、C、D……なるほど、この区画からの排除が最も効率的か)」
『エッ、f39307!エミリヤ・ユイク!』
「煩い」
『ヒッ!ア゛ッ、アァァアアアア!!』
 向けられた銃口ごと、もう沈黙した機体剣扱うマシン型オブリビオン同様に手首ごと斬り飛ばしてやれば上がる悲鳴。
 なんて醜いのだろう。なんて無意味なのだろう……と頭い、その首を落とすのみ。
 その程度で響煌焔狼ハウリング・ヘリオスは止まらない。“悪”を滅すという意思のもと、只管に走り続ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月16日


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