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闇の救済者戦争⑬〜空腹よりも辛いのは

作者：真空。

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「ほら、まだ食べなよ」
　可愛らしい声が響く。しかし、その光景は酷いものだった。牢屋の中、山のように積まれた食べ物を前に食べ続けている――いや、食べさせられ続けている人々。中には倒れかけている人もいるが。
「まだまだあるよ」
　牢屋の前に立つ少女が杖を振ると、どさどさと食べ物が落ちてくる。中には埋もれている人もいるようだ。
「誰か、助けて……」
　苦しげな声が、食べ物が降る音に紛れて消えた。

　第五層、月光城。嘗ては異端の神々と戦う為の城塞だった。この場所で、破壊すれば禁獣の持つ無敵能力を無効化できるとされる、ケルベロス・フェノメノンの欠落へと繋がると思しき謎の通路、魔空回廊の存在が判明した、らしい。
「皆、お疲れさま。疲れていると思うんだけど……次に向かって欲しい場所は、魔空回廊って所なの」
　御乃森・雪音（La diva della rosa blu・f17695）は申し訳無さげに告げる。
「魔空回廊っていうのが、ケルベロス・フェノメノンの欠落を隠すための場所へと繋がると思われる場所なんだけど。その場を守っているのは月の眼の紋章と融合したこの城の主自身で、紋章と魔空回廊の相乗効果により、敵は回廊内にいる限り、戦闘能力が元の『660倍』になるという恩恵を受けているみたいなの。だから、とても大変だろうなって思うんだけど……」
　ごめんね、と間に挟みつつも話は続く。
「……でも、一応弱点もあってね。この能力強化の源は、回廊にぐるりと取り巻かれる形で作られた人間画廊に展示品として囚われている人間達の命。だから強烈な攻撃を何とかして、捕まっている人を解放していけば強化は下がっていくみたい。半分くらいで無効に出来ると思うわ。今回囚われている人達は、食欲こそすべて、って感じの主にひたすらに食べさせ続けられているんだって……そちらの意味でも命が危ないから、助けてあげて」
　お願いね、と雪音は微笑みを浮かべ転移の扉を潜る猟兵達を見送る。無事に帰ってくるように、との祈りを込めて。

第1章 ボス戦 『『三欲天使』スター・ピッグ』

POW   :    【常時発動型UC】ブラックハングリー 【敵対者が攻撃行動を行う度に、敵対者の】【栄養、エネルギーに類する物を強制的に吸収】【し、自身の栄養とする事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。 SPD   :    ホワイトリバース 【今まで喰らった様々な物を吐き出す事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。 WIZ   :    コピーピッグ 対象のユーベルコードを防御すると、それを【戦闘用の子豚として排出、対象のUCを】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　魔空回廊の中は、噎せ返りそうなほどの食べ物の匂いで満ちていた。牢屋から溢れる食べ物で、回廊自体も埋まりかけているように見える。そして、食べ物の山の向こうで呻く人々の助けを願う声。
「料理は食べた相手に喜んでもらうためのもの、無理させるのは絶対違う」
　自らも料理を得意とする栗花落・澪（泡沫の花・f03165）からすれば、空腹でも無いのに食べさせ続ける等、納得出来る事態では無い。
「あなたも食べに来たの？　邪魔しに来たの？」
　『三欲天使』スター・ピッグが澪に気付く。
「そんな気持ちの籠って無いご飯食べるわけないでしょ」
　澪がふわりと飛び上がり、身の回りにオーラの壁を作り上げる。まだ強化の解けていない今、正面からの戦いを避けるために澪が選んだのは。
「貴方の闇に、希望の輝きを」
　澪の全身から神々しい光が溢れ出した。ひらりと、どこからか振り落ちるのは甘い香りを放つ花弁。食べ物で埋まった牢獄全体が、悪を浄化する天上世界へと変わっていく。
「防御できるものならしてごらん」
「むー、これならどうだ！」
　スター・ピッグが杖を振り上げると、ぽいっと子豚が一匹飛び出し、その身体から澪の光を模したような光が降り注ぐが既に戦場全体を覆う破魔の力が全てを搔き消していく。ぷぅ、と困ったように一声鳴いて姿を消した。澪は更に自身の聖痕に宿した力を使い、浄化の光を乗せた風魔法を大きく広げていく。
「何、これっ……目がちかちかするー」
　聖なる光で作られた壁、オブリビオンからすれば視界に入れるだけでも痛みが走る筈だ。
「今のうちに……さあ、逃げて。もう食べなくていい、大丈夫。あとは僕たちに任せて」
　風魔法を刃に変え、牢屋を破ると中の人々を逃がしていく。お腹を押さえつつこの場を離れる人達を見送り、スター・ピッグへと向き直ると破魔の力を聖痕から放つ。
　魔空回廊が、白い光で満たされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「660倍に強化されては勝ち目はないですね。ですが人々を助ける事で、その強化も薄れる様ですし
先ずは人々を救出しましょう」
　スピネル・クローバルド（家族想いな女の子・f07667）は遠目から様子を窺う。『三欲天使』スター・ピッグはスピネルには気付いておらず、捕らえた人々に食べ物を降らせて食べさせることに夢中になっているようだ。
「今の内ですね……さぁ、気付く間もなく終わらせましょう」
　ゆっくりと祈りの形に手を組めば、スピネルの姿がぐらりと歪む。身を覆うオーラが周囲の色と同化し、迷彩の様な効果を発揮してそのままなら目立つ鮮やかな金色の髪も柘榴石の目も隠してしまう。更に目立たないように気を付けつつ、スター・ピッグの視界から外れている辺りの人々を逃がしにかかった。ユーベルコードの発動による飛翔能力で音を立てる事無く牢獄に張り付き、鍵を破壊して中の人を出口へと誘導していく。
「大丈夫ですよ、私達猟兵が貴方の希望になります！」
　薄らとしか姿が見えないものの、優しい声にさあ早く、と促されるままに逃げ出していく人々。幾つかの牢を解放したところで、流石にスター・ピッグが異常に気付く。
「え、ちょっと何これー！　逃げちゃってるんだけど！」
　大きな声で騒ぐスター・ピッグから距離を置くと、一旦人々を逃がす手を止めロングボウを構えるスピネル。ＳＳＷの超技術を用いて作られた、特製の弓は威力も精度も抜群だ。ぐっと手を引き、一気に離す。真っ直ぐに飛んだ矢はスター・ピッグに突き刺さった。
「え、痛い！！！」
　見えない相手からのいきなりの攻撃。痛みと怒りで走り回るスター・ピッグから逃れ、スピネルはさらに遠くから、もう一度弓に矢を番えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　唯嗣・たから（忌来迎・f35900）は隠れる事無く、魔空回廊の中を進む。
「ご飯は美味しいけど、腹八分目がいいよ」
　無理に食べても美味しくない。そう思うたからの声に『三欲天使』スター・ピッグが気付いた。
「お腹一杯の方が幸せに決まってる！　美味しいは大事でしょ……ってスケルトンじゃない！　美味しいって分かるの！？」
「ご飯……美味しいけど……舌、ないけど。……美味しい雰囲気は、わかるから……あ、因みにちょっとは、味、感じる。ちょっとね」
　ちょっと、と指を開いて見せるたからに対し、苛立ったように頬を膨らませるスター・ピッグ。豚さんも足を踏み鳴らし威嚇の姿勢だ。
「とりあえず、過ぎた食べ物も、牢屋もみーんな、腐っちゃえ――凌遅実行」
　たからの声に合わせ床から無数の影のような煙のようなモノが伸びる。地獄よりいずる怨霊の腕は彼方此方に姿を見せ、牢獄の檻を、積みっぱなしになっている食べ物を腐敗の力で腐らせていく。
「ちょっと、止めてよ！！」
　叫ぶスター・ピッグがたからの行動に対して攻撃を仕掛けようとするものの。
「いくらあなたが強くても、触れたら腐る手、触れない。あとたからから、摂れる栄養、カルシウムしかない。骨だし」
　たからからも、怨霊の腕からも奪い取れる栄養やエネルギーは存在せず、触れれば腐ってしまう為に牢獄の周りに近寄ることも出来ない。
　隙間を縫うように動いたたからが、鉈で腐り脆くなった牢を切り壊して中の人達を助け出す。ちょっと怖いかもしれないけれど腐敗の腕で囲むようにしてしまえば、また捕まる事も無く安全に逃げられるだろう。
「ご飯は楽しんで、美味しく、程々に食べるもの。無理矢理、食べさせるなんて。いっそご飯に、謝れー」
　腕達の間を抜け、スター・ピッグへと迫るたから。ぶんぶんと振り回される鉈が、スター・ピッグを切り、その杖を叩き落した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「成る程つまり無理矢理大食いを押し付ける……それは反抗するべき圧政だね？」
　ニクロム・チタノ（反抗者・f32208）は圧政を許さない。反抗の竜チタノの加護を纏い、一気に囚われの人々の救出へと向かう。重力領域を展開し、『三欲天使』スター・ピッグの動きを封じる。
「何、やだもうっ……動けない！」
　じたばたとスター・ピッグが暴れている間に反抗の妖刀を振るい、牢獄を壊していく。攻撃行動を行う事でエネルギーを吸われるものの、それも計算済み。チタノの身を包んでいた護りの蒼焔がチタノ本人への攻撃を防ぎ吸われていく。多少敵の強化になってしまうかもしれないが、囚われた人々を解放してしまえば同じと残る牢も叩き壊して残った人たちも逃がす事に成功した。
「もー、皆逃げちゃったじゃない！　仕方ないからアンタが食べなさいよ！」
　呼び出された食べ物がチタノの視界を塞ぐ。多少パワーアップしているのか、大きめのケーキやら丸ごとチキンやら降ってくるものも大きくなっているようだ。
「蒼焔のエネルギーを吸ってパワーアップしているみたいだね？」
　まだ余裕があると見たチタノは、そこに更に反抗の雷装もぶつけるように吸収させてしまう。限界近くまでエネルギーを蓄えたスター・ピッグはぱちぱちと光を放ち、なんだか危険な様子に見える。
「いくら底なしの食欲をもっていても身体には限界ってものがあるのさ」
　過剰なまでのエネルギーを蓄えキャパオーバーになっているスター・ピッグへ、反抗の妖刀で渾身の一撃が叩き込まれる。
「いくら美味しくても度が過ぎたら身を滅ぼすよ？」
「お腹一杯……もう限界ー！！！」
　その身をもって理解しろ、と振り切られた反抗の妖刀が与えたダメージによって、弾けるように爆発するスター・ピッグ。光の粒となって消えた後に残ったのは、もう誰も手を付ける事の無い大量の食べ物。
「終わった、ね」
　魔力で構成されていたからか、あっという間に朽ちていく食べ物の山。チタノが立ち去る頃には唯の塵の山となり、崩れ消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2023年05月18日