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生首物語

#UDCアース

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#UDCアース


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●雪まつり
 雪まつり会場に大小さまざまな雪像が並んでいた。
 話題になった雪像の周囲には大勢の人だかりができ、屋台で購入した食べ物や飲み物を手に人々は祭りを楽しんでいる。
 快晴であった。
 太陽の光が燦燦と降り注ぐ。
 その中で、ふと違和感があった。
「なんか、あちこちにあるよね」
 会場を巡っていた女性がふと違和感に気付いて傍らの友人に言う。
 道の端やベンチの上。設置された簡易テーブルの上。よく見ればあんなところやこんなところにも。
 手の平サイズの生首の雪像が点々と置かれているのだ。

●そんな、雪まつり会場に行くお話
 グリモアベースの窓際でルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が正座していた。

「実は、UDCアースで『磨羯卿』カプリコーンが復活します」
 ルベルは困ったように言う。
「カプリコーンは、指導力の高い邪神のようです。
 召喚者に強大な神格性を与える神だと冷静に語り、人の子を慎重に導く神である、と自身を称するため、其の声を聞いた人が狂信者となってしまった様子。
 その姿は、説明がむずかしいのですが……」
 ルベルは敵の姿を説明しようと言葉を探した。
「ぐるっと、光がこう。それで、黒い闇がぶわわっと、ちりちり。それで、豚さんがぷぎーって感じで。敵がニイってしておりました。そうそう、針が大きかったです」
 ルベルはとても真面目な表情であった。
「光り輝く狂暴な山羊、光り輝く針の雨、地に刺さる黒い角。敵はそんな攻撃をしてくるようです……」

 予知した敵の姿を思い出したのか、耳を伏せながらルベルは説明を続ける。

「まずは、邪神の居場所を突き詰めなければなりません。
 現地であるUDCアース、北海道札幌市の雪まつり会場では、祭りに紛れて信者たちが『邪神の力を高めるため』の呪具、小さな生首の雪像を至るところに設置している様子。手の平サイズの生首です。
 しかも、生首は……どんどん増えています。
 信者たちが、一般人に呼びかけて造らせたり、造った生首をどこかで配ったりしているようなのです」

「生首を辿れば、信者に辿り着ける。それは間違いありません。
 ゆえに皆様は雪まつり会場に行って頂き、なんかいい感じに事件を解決してくださいませ」
 ルベルは最後にパンフレットを猟兵に配った。雪まつりのパンフレットである。

「雪まつりは7日間あり、本日は5日目です。
 年に一度の楽しいお祭り、人々の笑顔をどうぞお守りくださいませ」
 そういうとルベルは頭を下げ、猟兵を雪まつり会場へと導くのであった。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 今回はUDCアースでの冒険です。気楽でゆるい感じのシナリオです。

 1章は雪まつり会場で生首を巡っての冒険。
 2章も雪まつり会場で生首を巡っての冒険。
 3章はボス戦です。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『増える生首』

POW   :    張り込みで生首が増える現場を押さえる

SPD   :    監視カメラや罠を仕掛けて関係者を確保する

WIZ   :    噂やネットの情報等から次に増えるタイミングを推測する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

緋神・美麗
折角の雪まつりにまた趣味の悪いものが…さっさと発生源を見つけ出して叩き潰さないとね。ついでに邪神も潰せばしばらく平和になるかしらね。

【WIZ】
雪まつり関係のSNSから生首情報を洗っていけばどの辺りから出現しだしてどういう風に増えていっているか割り出せるはず。【情報収集】と【コミュ力】を駆使して情報を集めて今後の出現場所とタイミングを割り出すわ。後は他の猟兵とも情報を共有して生首が増える現場を押さえて一斉に潰せばおしまいね。

他の猟兵との絡みやアドリブ歓迎です


エルネスト・ポラリス
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】
○アドリブ歓迎
○他猟兵と連携歓迎

アシスタントディレクター、エルネストADのお仕事は探索者セットを用いた雪像調査に始まる。
ハケと試験管で慎重にサンプルを採取し、虫眼鏡での観察。
ぶっちゃけただの雪にしか見えない。成果など出ない。辛い。
回収したサンプルはやがて溶け、また回収から始める。おててがかじかんできた。

途中から面倒くさくなってきたエルネストADは張り込み半分で現地調査に乗り出す!
信者と鉢合わせる危険の中で、【勇気】を振り絞り調査は進む……!

「あ、信者見つけたらワイヤーでの【ロープワーク】で捕まえましょう。UCも追撃は無し、あからさまな暴力は放送事故ですよ!」


ゲンジロウ・ヨハンソン
アドリブ歓迎
2人チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】にて参加

(軽快だが何処か禍々しいBGMを流し)
『我々は見た!雪まつりに隠された惨劇、生首の恐怖!邪神、磨羯卿カプリコーンは実在した!?』
安っぽいテロップと共に登場する、ゲンジロウディレクター・自称ゲンD。
UCで呼び出した蒼衣の剣士にカメラを持たせ、撮影に挑む!

『そう、これは雪まつりの会場に潜む黒い闇を追った、一般猟兵の熱い闘いの記録である』

我らがゲンDは持ち前の【コミュ力】を用いた聞き込みでついに生首の雪像が現れるという噂の場所を突き止める!
時にはホームレスにお酒や2500円を握らせて情報を得たりもした!

後は【覚悟】を決め張り込み続けるのみ!


トリテレイア・ゼロナイン
(会場にて)
大きな雪像ですね…初めて見ましたがここまで芸術的たっだとは
おっと、まずは生首ミニ雪像をなんとかしなければ

ここは妖精ロボを使って会場を監視しましょう。ミニ雪像に偽装して会場内の各所に配置、監視カメラの要領で信者たちの動向を掴んでいきます。

(パンフを読みながら)札幌雪まつりにドローンは持ち込み禁止だそうですがこれは妖精ロボですし問題ないはずです、今回は飛ばしませんし

信者達は生首雪像を流行らせている様子。ならば此方も対抗して妖精雪像を流行らせて妨害工作を図ります。キャッチー度なら生首より此方が上のはず…!

会場の規模が規模なので他の猟兵の作戦に協力して動きたいものですね


當良邑・祈
信者たちが作った生首をレプリカクラフトで偽物にすり替えていく。
コレが呪物ならまがい物に変えていくことで効果をなくすことができるかも知れない。
そうしていればこちら仲間と思い込んだヤツか、妨害に気づいたヤツが接触してくるはず。
そいつを適当にふん縛ってしまえばいい、少々厚着すればこっちはただの小娘にしか見えない、油断した相手など容易い

焦ることはない、祭りに仕込みをするなら最終日までは猶予があるはずだ。
会場を見て回りながら、活動を続ける。
それにしても様々な世界で異形と相対したが、それでも未だ見ぬようなものが雪像として作られている。人の精神から捻り出された想像物・創造物に息を呑む。



(連携改変等々歓迎)



●終焉、星の導き、静かに、それは
 空には星が瞬いていた。
 地上にはイルミネーションの光がある。

「それも、もう、終わる」
 高いビルの上だった。

 生きることに疲れた、そんな理由だったかもしれない。
 脳はただを欲した。
 死。安楽。自由。解放。終焉。
 寒い。季節は、冬だった。
「さっさと、終わりにしよう」
 その者が一歩を踏み出そうとした時。声が聞こえた。

【人の子よ】
 やわらかく、細く、透明に空気を振動させるような。
 けれど、周囲には誰もいない。

「……?」
 周囲には、誰も、いない。
 だが、声は続いた。

●物語の始まり
 画面上に映像が出る。BGMが流れ出しました。

 ででーん。ちゃらららーりりりっ♪ デデデデデ……
 軽快にして禍々しいBGMです。

 『我々は見た! 雪まつりに隠された惨劇、生首の恐怖! 邪神、磨羯卿カプリコーンは実在した!?』
 安っぽいテロップと共にゲンジロウディレクター・自称ゲンDが登場した。あ、この方は猟兵のゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)様です。

「ゲンジロウ、これで貸しひとつだ」
 カメラマンの†蒼刻の騎士†様の声が入っているけど気にせず映像は進んでいきますね。

 『そう、これは雪まつりの会場に潜む黒い闇を追った、一般猟兵の熱い闘いの記録である』
 ここで真のオープニング! 禍々しい暗黒の中を一人また一人と猟兵が歩いていく画像とハスキーな女性ボイスで情熱的に紡ぐ歌が流れ……。

 オープニングの間に私は隣に置いたモニターの情報を確認します。このモニターは雪まつり会場の映像がリアルタイムで流れてくるのです。

「折角の雪まつりにまた趣味の悪いものが……さっさと発生源を見つけ出して叩き潰さないとね。ついでに邪神も潰せばしばらく平和になるかしらね」
 同じ部屋にいる緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)様がぽつりと呟きました。美麗様は猫型の情報端末でSNSを調べていらっしゃるようですね。

 あっ、オープニングが終わり、番組が再開するようですね。見なくては。
 え? 私? トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)です。

●優雅な白鳥も水面下では激しく足を動かしているという
 交代ね。
 ここからは私、美麗が記録を綴るわ。

「生主さんが連日何人も会場を訪れてるのね」
情報端末を覗けばたくさんの写真や動画が溢れかえっているわ。
 普通の人の動画では食べ物やプロジェクションマッピングが多く映されていて、生主の人は自分が食べ物を食べるところや移動中にリスナーと出会って和気藹々とする映像を流したりもしてるみたいね。

「美麗さん、何か情報見つかりましたか?」
 エルネスト・ポラリス(いつか満月の下で・f00066)さんがズレた眼鏡を直しながら声をかけて……エルネストさん、虫眼鏡で雪像を観察してるけどあれで何かわかるのかしら。アシスタントディレクターって大変ね。

「料理が美味しいみたいね」
 情報端末の写真を見せたら、エルネストさんは雪像を置いて立ち上がってそそくさと。
「調査シーンは撮れたんであとは現地に行ってきます!」
 ゲンジロウさんと†蒼刻の騎士†さんがその後ろをついていって……お土産買ってきてくれるかしら? ちょっと期待しちゃうわね。

 そういえば、現地にはもう1人當良邑・祈(サイボーグの化身忍者・f09602)さんも行っているから合流できるといいわね。連絡いれておこうかしら?
 そっちに2人行ったわよ、って。

「もう全員で行っちゃいません?」
「そうね……?」

●スキーヤーは空を跳び
 北海道札幌市。大通り公園。
 快晴。空は青く、雲がない。
 空気はキリリと冷えている。
 道は一方通行だ。道行く人々は皆同じ方向へと歩いていく。 纏うのは分厚い防寒着、手に持つのはパンフレットやスマートフォン、屋台で買った食べ物だ。

 當良邑・祈もまた、Pコートにマフラーを纏い雪まつり会場を歩いていた。

「様々な大会で何度も優勝している賞金稼ぎ! 18歳の田辺です!」
 声がする。視線をやれば今まさに高さ24メートルの特設ジャンプ台からスキーヤーが滑り降りるところだった。
 ギャラリーがスマートフォンで写真や動画を撮っている。
 スキーヤーはシャッと白い斜面を滑り降り、跳んだ。
 体を捻り宙で回転して着地。着地の瞬間に片方のスキーが外れて空を舞う。

「キャアアッ」
 悲鳴があがった。
 空を飛んだスキー板が一本、祈の近くへ飛んでくる。正確には、祈の近くにいた女性のもとへ、だ。祈は片手でパシリとスキー板をキャッチした。

「大丈夫ですか!」
 雪まつりスタッフが駆け寄ってきてアタフタと謝罪する。
「怪我はしていません。大丈夫です」
 祈は首を振る。近くにいた女性が礼を言い頭を下げた。
 スキーを外したスキーヤーの男性も走り寄ってきた。
「すんません! 怪我なかったっすか」
「大丈夫です」
 祈は謝る男性へとスキー板を返した。
「病院行かなくて平気っすか!」
 スキー板を受け取りながら男性がぺこぺこと頭を下げる。顔が真っ赤だ。泣きそうな顔をしていた。
「大丈夫です」
 祈は安心させるためにもう一度言った。周囲の人々がほっとした顔をする。
「何かあったら言ってください、あとから出て来る症状とかあるかもなんで」

 ふと見れば、道の端に生首があった。1個。
 
●ホームレスはワンカップを手に
 ギャギャーン♪ ギャギャギャ♪

【――許さないぞ! 大魔王!】
 勇壮なBGMと有名声優による熱いセリフが大音量で流されている。

 3階だての家ほどの高さのある巨大な雪像――、白い雪壁が空を表し、壁から浮き出るように勇者が剣を構えている。対するは魔王。よく見ると魔王のマントの部分に細かく魔王の配下がいるのだ。
「大きな雪像ですね……初めて見ましたがここまで芸術的たっだとは」

 人々が大喜びで写真や動画を撮っている。
「これが話題のゲームのやつか、よくできてるじゃん」
 そんな声があった。
 トリテレイアが興味深く見守ると、セリフによりゲームのワンシーンが再現されている。

【みんな! 下がってくれ! 魔王が攻撃をしてくるっ】

 人垣がいっせいに後ろに下がる。
「おや、これは面白いですね」
 トリテレイアも一歩下がった。
「攻撃がくるぞー」
「あははは」
 笑い声の中、色のついた光が雪像を彩った。

 魔王を中心に紫の闇が演出される。
 魔王の配下たちは赤い光で照らされた。
 空は青色の光で演出されていた。

【みんなを守る! そのために、負けるわけにはいかないっ】

 勇者の勇ましい声がした。
 そして、勇者の剣が金色に輝く。
 金色が雪像をどんどん侵食していき、紫や赤を消していった。

「なるほど、これは動画に撮られるわけですね」
 トリテレイアは納得して雪像を離れた。
 妖精ロボの情報を映し出す小型端末を手に雪まつり会場を移動する。小型端末の画像は真っ暗になっている。5分ほど前に画像が急に乱れ、情報が途絶してしまったのだ。
(「画像が急に途絶えるなんて。何があったのでしょう」)

「2500円やるから! ほらっ!」
 聞きなれた声がして視線をやると、ゲンジロウがホームレスに金を握らせていた。しかも、その姿を†蒼刻の騎士†が撮影している。さらにアシスタントディレクターのエルネストADがワイヤーでサラリーマンを縛り上げていた。
「あなたが信者ですね!」
 そして何やら2人とホームレスとサラリーマンとで話し合い、最終的にサラリーマンは解放された。
「勘違いでした。すみません」
「勘違いで済むか!」
 サラリーマンが怒号を発する。周囲を通る人々がざわざわしていた。
「これでひとつ」
 ゲンジロウは再び必殺の2500円を使った。
「それなら、まあ」
 効果は抜群だった。

 その一連のやりとりもバッチリ†蒼刻の騎士†が撮影していた。

「……ああいうのは放送事故というのでは」
 トリテレイアは呟いた。

 ホームレスの近くにはワンカップの瓶と生首が10個並んでいた。

●SNSには次々と情報が流れていた
 美麗が情報端末を見ると、最新のSNS情報で事件が起きたことがわかった。

 『ジャンプ台でスキー板が飛ぶアクシンデントが発生して女の子が素手でキャッチしたんだって』
 『なにそれすごい』
 『田辺選手は最近調子悪いよね。前も転んでた』
 『一歩間違ったら大けがだよ、ちゃんと安全に運営してくれないと困るよ』

「何か起きたみたい。邪神が動いたのかしら」
 美麗は手に持っていたカニ饅頭を食べた。ほかほかしている。湯気が白くたちのぼり、生地はひたすら柔らかい。中はトロ~リとした汁と温かな具だ。

 続いて、もう1つ事件があったようだ。

 『変な2人組がサラリーマンを襲ったんだって』
 『ホームレスにお金握らせてるの見た~』
 『やだ、こわ~い』

「一般人が襲撃される事件が! 大変、邪神が動き出したに違いないわ」
 美麗は情報を集めながらザンギを口に運ぶ。ジューシーだ。

 みんな~♪ みんなで♪ 踊ろうよ♪ YES! あたしたち! プリティー♪ エンジェルッ♪
 
 会場にはそんな歌が流れていた。視線を移すと、簡易設置ステージでミニスカートに生足の女の子たちがマイクを手にダンスしている。

「あ」
 美麗はステージの両端に生首が置かれているのを発見した。

●控えめな雪像
 祈は市民雪像の間を歩いていた。
 市民が作った雪像は、小さめでどこか温かみがある。
 大規模な雪像も小さな雪像も、それぞれに良さがあった。
 そして、設置されたモニター画像では前もって用意されたと思しきプロジェクションマッピングの紹介動画がされている。紹介されている映像のような光景は夜になると視れるらしい。
(「それにしても様々な世界で異形と相対したが、それでも未だ見ぬようなものが雪像として作られている……」)
 祈は人の精神から捻り出された想像物・創造物に息を呑んだ。

 まるっこいウサギのキャラクターを模した雪像。説明の札を見ると早朝に放送されているアニメキャラクターらしい。

「……生首が」
 金の瞳は生首を見逃さなかった。キャラクターの足元に生首が添えられている。生首もまたキャラクターそっくりのウサギの頭をしていた。

 
生首があった。
 祈は生首を偽物にすり替えるためにユーベルコードを発動させる。レプリカクラフトで造った偽の雪像は生首にとても良く似せることができた。
 そっと両手で生首を抱え、人目を忍んで偽物とすり替え。

「あっ」
「えっ?」
 声がした。
 見ると、祈より2、3歳年上に見える女子学生が口に手を当てて驚いた顔をしている。
「すみません、その雪像造ったのわたしなんですけど、今何を?」
 女子学生が恐る恐る声をかける。
「あ……これは」
 祈はどう対応したものか考え、一瞬口籠った。そこへ。
「祈さーん!」
 美麗が走ってきた。
「どうしたのー?」
 美麗が祈の隣に立ち、女子学生に明るく声をあげると女子学生はそそくさと逃げていこうとする。
「い、いえ。いいです」
「待って!」
 美麗はその背を呼び止める。女子学生が振り返ると、とても人懐こそうな笑顔があった。チラリと舌を出し、悪戯に笑い。
「実はちょっとだけさっきの話聞いてたの。この雪像、あなたが造ったのよね? すごい!」
 女子学生は目を瞬かせ、おずおずと頷いた。

●ロボットは合体する
 トリテレイアは衝撃を受けた。
 彼の目の前で妖精ロボが5体まとめてタワーのように積み上げられ、子どもの手によって雪がかけられている。
「違う違う! 雪と雪で隙間をくっつけるんだよ」
「こうー?」
「そうそう!」
 子どもたちは楽しそうにやりとりしながら雪をせっせと積んでいく。離れたところからもう1人、今度はおじいちゃんがやってきた。
「ほれ、もう1個あったぞ」
 おじいちゃんはニコニコしながら妖精ロボを子どもに渡す。子どもたちは大喜びだ。

「合体だー!」
「完成したら滑り台の上から落とそうぜ」

 少し離れた場所では大人たちが簡易テントの中でラーメンを啜っていた。保護者らしき女性が1人、テントの入り口から声をかける。
「ケイちゃん! お肉買うよー食べるかいー」
「あっ、ママが呼んでるー」
 ケイちゃんと呼ばれた女の子が子どもの輪から離れる。
「またね」
「うん、またねー」

 それはとても和やかな光景だった。

「タカシー、寒いからもう帰ろう」
 男性の声がした。
 トリテレイアが見守る中で子どもがまた1人、離れていく。

 子どもたちは1人また1人といなくなる。
 そして、1人が残った。

 10歳に満たない女の子だろうか。
 女の子は妖精雪像を1人でいつまでもいつまでも合体させていた。
「おーい、ココア飲むかあ」
 おじいちゃんがココアを持ってきた。
「失礼ですが、ご家族の方ですか?」
 トリテレイアが尋ねるとおじいちゃんは首を振る。
「いんや。俺は単なる暇な爺さんよ」
「この子はお知り合いですか?」
 おじいちゃんはその言葉にもまた首を振る。

 トリテレイアは女の子に問いかけた。
「これは、どういう状態になれば完成なのですか?」

●そこに戦いがあった
 編集した映像がチェックされていた。

「アシスタントディレクター、エルネストADのお仕事は探索者セットを用いた雪像調査に始まる……」
 映像の中でエルネストADがハケと試験管で慎重に生首のサンプルを採取し、虫眼鏡で観察している。

「ぶっちゃけただの雪にしか見えない。成果など出ない。辛い」
 アナウンスは淡々と続いた。
 そして、映像の中でエルネストADはかじかんだ手をを口元に寄せてはあ、と息を吐く。赤くなった指先に白い吐息が儚くかかる。眼鏡が曇っていた。

「……気温はマイナス18度。寒い」
 アナウンスは淡々と続いている。
「だが、諦めない」
 アナウンスと共にエルネストADは眼鏡を拭い、再びかける。その脇で回収したサンプルが段々と溶けていく……。

「これは、時間との戦いであった」
 アナウンスは淡々と続いていた。

●放送事故はなかった
 編集した映像がチェックされていた。

 映像は雪まつり会場を歩くゲンジロウが映し出されている。
「もう、これしかない。我らがゲンD、そしてエルネストADは聞き込みに乗り出したのだった……」
 アナウンスが淡々と続いている。

 映像の中でゲンジロウがホームレスを発見する。
「祭りを楽しんでる人たちの中、ホームレスとの邂逅。現代社会の闇に迫る」
 アナウンスが淡々と続いている。

 映像の中でゲンジロウはホームレスの前に膝をつく。笑顔。

「歯を見せて笑うその表情は雄々しく、優しい。漢ゲンジロウ、ホームレスに真正面から向かい合う……」
 アナウンスが淡々と流れる中、ゲンジロウが2500円をホームレスに握らせる映像が。

 ぷつっ。

 一瞬画像が途切れた。暗転すること2秒。

「真心は、通じた」
 アナウンスと共に映像が再び流れ出す。次の映像ではホームレスと肩を組みワンカップで乾杯するゲンジロウの姿があった。

「熱い漢は語る。誠意をもてば相手には伝わる――」

 乾杯する2人の背後でエルネストADがワイヤーでサラリーマンを縛っている映像が映り込んだ。

 ぷつっ。

 一瞬画像が途切れた。暗転すること2秒。

「皆さん、私たちはついに情報を掴みました」
 声と共に映像が流れ出した。映像ではホームレスとゲンジロウとエルネスト、そしてサラリーマンの4人がワンカップを手に乾杯している。

「それで、どうしてあの生首を?」
 和やかな空気。
「あっちにある赤のチェック柄テントがあるだろ。あのイベント会場でそういう企画があるんだよ」
 ゲンジロウとエルネストがイベント会場に向かうと、ホームレスとサラリーマンは付いてきた。

●冬色の片思い
 美麗と祈は女子学生と市民雪像を見て回っていた。
「あ、みて。あのキャラ知ってる」
 嬉しそうに言って見せれば女子学生もまた嬉しそうに頷く。キャラクターの雪像の足元にはやはり生首があった。
「あ、あっちにスポーツ選手の雪像があるわね」
 美麗が気を引いた隙に祈はレプリカクラフトで作成した偽の生首を本物とすり替えていく。
「そういえば、あの小さなナマ……、雪像は、オマケとして作るものなんですか?」
 祈がそっと女子学生に問いかけた。
 女子学生は首を振る。
「ううん。あの小さいのは、おまじない」
「おまじない?」
 美麗と祈はそっと視線を交差させた。
 女子学生は言葉を続ける。
「向こうにイベント会場があるんだけどね。そこで造るんだよ。
 小さい頭を作ったら、運気が上がるとか。自分に自信が持てるとか。そういう話みたい」
 こんな小さな雪像で、効果なんてないとは思うけど。
 女子学生は小さな声で呟いた。
「わたしね、好きな子がいるんだ。新学期が始まったら告白したいなって思ってて。……ほんとは休みの間にも、偶然どこかで会えないかなって思ったりしててね。それで造ったの」
 いっしょに造る? と女子学生は誘う。
 そして、女子学生は美麗と祈をイベント会場へと連れていくのであった。

●なっちゃんのお守り
 15体の妖精ロボを雪でくるみ、立派な合体ロボが完成した。
「手伝ってくれて、ありがとう。あとはお守りつくったら完成するよ」
 女の子がニコニコと言う。手も頬も真っ赤になっていた。
「お守りとは、どういうものでしょうか?
 女の子の合体ロボ制作を手伝ったおじいちゃんとトリテレイアは『お守り』も手伝おうと申し出る。女の子は嬉しそうに口を開く。
「あっちのね、」
「なっちゃん! こんなとこにいたんだな、探したよ」
 声がした。見るとスキーウェアに全身を包みスキー板をかついだ男性が女の子のもとに歩いてくる。女の子は俯いた。

「俺が滑るとこ見ててって言ったのにいないから心配したんだぞ」
 男性は田辺、と名乗った。
「妹がお世話になりました。ほら、なっちゃん。行こう」
 田辺は妹の手を引く。
 妹はふるふると首を振った。
「まだ、お守りつくってないもん」
「お守り?」
 田辺が問うと、妹は説明した。
「あっちのね、イベント会場で、お守りつくるの」
「……?」
 田辺は不思議そうにおじいちゃんとトリテレイアを見る。
「何か、造りたいのだそうです。もしよかったら手伝おうと思っているのですが」
 トリテレイアが説明し、田辺は不思議そうにしながら頷いた。
「まあ、妹がしたいというなら。普段あまり我が儘も言わない子なので」
 行こうか、と手を引き、一行はイベント会場を目指す。

 移動中に妹がぽつりと問いかけた。
「お兄ちゃん、また転んだんだ。お尻、雪ついてる」
 兄は無言で苦笑するようだった。
「もう、スキー止めようと思ってるんだ」
 妹は俯いた。

●イベント会場での生贄剪定を阻止せよ
 猟兵たちが会場に足を踏み入れると、中にはたくさんの人がいた。楽しそうにしている者もいれば、自信のなさそうな顔や思い悩む顔をしている者もいる。

 会場に入ってすぐ、目に入るのは看板だ。

 『→こちらで幸せの雪像が造れます→』
 『←こちらで完成品が貰えます←』

 看板の右側、雪像造りコーナーには大量の雪と彫刻刀があった。
 人々は思い思いに雪を丸め、彫刻刀で削って 雪像を造っている。造った雪像を自分で持ち出す者もいれば、完成品コーナーに置くだけで帰る者もいた。

 完成品コーナーには置いて行かれた生首の雪像が大量に並んでいた。
 『ご自由にお持ちください』という札がある。

「なるほど、ここで生首が造られて、外に持ち出されていたと」
 猟兵は周囲を探る。
 会場内には数人のスタッフがいた。

 スタッフによるアナウンスが流れる。
「今日はこの後、一大イベントが予定されています。予定時刻は19時30分から。
 ご都合の良い方は、皆さんおひとりひとつ、雪像を持って外の雪像前にお集まりください。
 また、運が良い方には特別チケットもお渡ししております。イベントの際に雪像ステージにお招きし、特別なプレゼントをプレゼントする予定です」
 時計を見る。
 今は、17時だ。

 彼らは目をあわせた。
 ここが邪神の狂信者の営む会場であることはほぼ確定だろう。
 そして、イベントというのは邪神の復活ではないだろうか。
 持って集まるように指示されている雪像は邪神の力を高めるためのものであり。
 特別チケットは?

「……生贄」
 会場では生贄の選定がされている。
 その可能性があった。

●それは、静かに、導く、星、その後に
 空には星が瞬き
 地上には項垂れる人がいた

 大きな木の下に果実が落ち
 木の下に憩う人々は果実を幾つでも食べ、いつも笑っていた

 けれど砂漠の地に生きる人々は水すら得られず、いつも苦しんでいた
 人々は星を見あげ、嘆く

 しかし、どんなに嘆いても現実が変わることはない
 それをみんなが知っていた

 【いいえ、それは違います】

 星がやさしく頭上から言葉をかける

 輝き、導きましょう、人の子よ

 いつも見ていました
 嘆く姿、苦しむ姿、あなたのことを

 あなたは、誰も見ていないと思っていたのでしょう
 助けがないと思っていたのでしょう

 私のギエディが貴方を強くしましょう
 私のナシラが貴方の敵を封じましょう
 私のダビーが貴方を取り巻く環境を変えましょう

●祈るように
 大通り公園の周囲に聳え立つビルほどではありませんが、高くて巨大な白い雪像がありました。
 雪の壁が地面にほとんど垂直に立っています。
 その垂直の壁は空を表しています。
 壁から浮き出るように、勇者の像があります。勇者は、勇敢に剣を構えているようです。反対側に立つのは魔王でしょうか。よく見ると魔王のマントの部分に細かく魔王の配下がいるようです。
 今は音声とBGMが止まっていますが、仲間によると先ほどまで大きな音声とBGMが流れていたのだそうです。

「祈さん、一般人がたくさんいるわね」
 そっと美麗さんが囁きました。私は頷きます。
「邪神が顕現するなら、危険かもしれません……」
 けれど、どうすればいいのか。私にはわかりません。

 逃げろ、といえば逃げるでしょうか?
 邪神が出る、と言って人は信じるでしょうか?
 お祭りに乗じた戯言だと思われてしまうのが関の山、そんな気がするのです。
 私たちには、ここにいる人たちを避難させるための権力も何もないじゃないですか。

 イベント会場には人々が集まっていました。
 次々と入ってきて、次々と出ていく。そんな人の波。
 それぞれに背負っている人生があるのだと、思います。

 この地球で、人類防衛組織UDCは人知れず戦っています。組織の存在、そして怪物、邪神の存在も、民間人は知らないのです。
「UDC組織を頼れば……」
 けれど、彼らの戦力は猟兵に大きく劣るもの。せいぜいお願いできるのは戦闘後の情報統制くらいになるでしょうか。

●真髄恐怖映像!ゲンかい!?
「ここまでの編集は完璧だ!」
 ゲンジロウさんがサムズアップしています。

 ADとして頑張った甲斐がありました。おててもすっかりかじかんで。
 寒いんですよ。
「一般人が巻き込まれる可能性があるのですが」
 祈さんがそっと猟兵仲間に囁いています。私も同感です。

「ステージの上で、戦うことになるのでしょうか」
 トリテレイアさんが思案気に呟きました。何か考えがあるのでしょうか。
 ひとまず私が思うのは、どうして生首を雪で作る必要があったのかということですね。粘土とかにしてくれれば、こんなに手が冷えることはなかったのに。

「狂信者を残らず縛り上げてしまえば邪神は復活しないんじゃないでしょうか?」
 でも、フラグメントの都合がありますからね。
 その場合3章はどうなるのでしょうね。

「エルネストさん、カイロあるわよ。はい」
 美麗さんがカイロをくれました。あったかいです。
 私たちもホームレスやサラリーマンを連れてきてるのですが、他の猟兵たちも雪まつりで出会った民間人を連れてきていますね。
 女の子とか見ると故郷の弟妹を思い出すんですが。

 こういうの、人のぬくもりって言うんでしょうか。
 事件が起きれば、人は死んでしまうかもしれない。それを仕方ないで終わらせたくない。終わらせないために私たちがいるんです。
 ……そう、私は思うんですが。

 UDCアースの民間人は猟兵の存在も敵の存在も知らないのですね。それでは私たちにできることは……。
 
●5000円も使ってしまった
 覚悟があった。

「UDC、か」
 呟く。

 イベント会場にいるのは何も知らない一般人だろう。そして、スタッフは。騙されているだけの一般人なのか。眷属たるUDCか。

 『――心配すんな。オレらの今回の贄はここにいる悪ぃやつらだけだ』
 己もまた騙され、邪神の召喚を手伝わされたことがある。
 それは、傷だった。

「2時間半か」
 その時間で何ができるだろう。

●終焉
 これは、生首を巡る物語。主役は猟兵たちだ。
 舞台は雪まつり会場。2時間半後に巨大雪像の舞台でイベントが予定されている。
 
 物語は既に始まっていた。
 そして、猟兵の周りには今、沢山の一般人がいた。

 彼らは残り2時間半で未来を動かし、変えることが、できる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『イベント会場での生贄剪定を阻止せよ』

POW   :    怪しいやつに力づくで話を聞く。理由をでっちあげて持っている人から回収する。

SPD   :    会場内を細かく探す。周囲のようすを見て怪しい部分を探る。

WIZ   :    出所や渡されていそうな人を推理する。会話により警戒心を解く 。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

緋神・美麗
生贄選定チケットとかまた洒落にならないことをやってくれるじゃない。絶対に阻止するわよ。
会場内の人達に【コミュ力】【情報収集】【存在感】【言いくるめ】を駆使して。特別チケットを持っていないか聞いて回る
「初めて北海道に来たんだけど、折角だし記念に特別チケットがどうしても欲しいのよ。持ってたりしないかしら?もしくは持ってるって人は知らない?」
持ってる人が見つかればチケットを譲ってもらえるよう交渉する
交渉が失敗し譲ってもらえなければ影の追跡者をチケット所持者に追跡させ、他の猟兵と合流して今後の対処を相談する

他の猟兵との絡みやアドリブ歓迎です


ロースト・チキン
ヒャッハーーー!!
もう我慢できねぇーー!!
首だ!首よこせぇーーー!!

ローストさんは【群れる世紀末】でモヒカンたちを召喚し、怪しい奴らを手当たり次第に囲んで、斧を片手に舌なめずりしながら恫喝しながら、力尽くでオハナシします。

へっへっへ…ココをオレ達の縄張りと知って例のブツ持ち歩いてるんだろうな?
オイ、ジャンプしてみせろ!
持ってるだろう…首を?


中々見つからなくても彼の野生の感は、解決策について、ピンと来た!

次だ!次――――っ!!
もう、見つからないなら適当に仕入れてくるか?
おっ、あるじゃねーか! 巨大雪像の首が!!


エルネスト・ポラリス
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】
○アドリブ歓迎
○他猟兵と連携歓迎

さて、雪像をどうにかしなくては。
ですがまあ、生首像については、仲間が対応してくれます。
私は、イベント会場に集まっている一般人に接触していきましょうか。

やはり、巨大な雪像が一番怪しいですよね。
人も多く集まる筈、積極的に話しかけて情報を集めていきましょう。
初対面の人に馴れ馴れしく話しかける【勇気】には自信があります。【優しさ】は忘れずに、どんどん情報を集めていきましょうか。

露骨に嗅ぎまわってたら狂信者に睨まれるかもしれませんが……。
ええ、場合によってはうっかり人狼咆哮を雪像に向けて撃ってしまうかもですね!


ゲンジロウ・ヨハンソン
○POW
○アドリブ歓迎
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】にて参加

ゲンDの隠された過去、それによりゲンDの【覚悟】はより強靭なものとなる。
…奴らの声が聞こえるんだ。死の運命に抗えってな。

相変わらず†蒼刻の騎士†にカメラをもたせ、イベント会場をいったりきたり。
ただでさえ溢れ出る威圧感に加え、活きのいいメンバーが増えたことで
更に一般人が目をそらしそうな一団となり、【コミュ力】を駆使して生首の雪像を回収していく。
回収方法は、自分たちが都市伝説を題材とした作品を撮っていると正直に話し、
その撮影に是非あなたの作品を使わせて欲しい!と情熱的に伝える。
同時にトリテレイアの用意した偽物の雪像を渡していく。


敷島・初瀬
「良いスケープゴートがいたであります」
責任を擦り付けれる解りやすい鶏がいたので利用させてもらうであります。

怪しい奴とついでにリア充を物陰でボコって身ぐるみ剥いで雪像に釣るしておくであります。
吊るす前に首筋にナイフを当てて尋問は忘れずに、会話にヒャッハーを入れて鶏の仲間を装い罪を擦り付けようと試みるであります。

邪神対策を大義名分に適当な大型石像に爆弾仕掛けて遊ぶかもしれないであります。

(アドリブ、他の人との絡み大歓迎です) 


トリテレイア・ゼロナイン
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】
○アドリブ歓迎
○他猟兵と連携歓迎

ポジション:現地アシスタント
さて、ゲンジロウ様達と現地合流しましたが、少々不味いですね。
ですがドキュメンタリー制作の体で何とか解決してみせましょう。
生首雪像が邪神の力を高めるのなら、それを偽物とすり替えてしまえば邪神の顕現の妨害になるのでは?
妖精ロボを最大数動員して凄く可愛いデザインの偽物生首雪像を大量生産。生首を持っている一般人の方に「デザインに関しての手違いがありまして、此方が正しいデザインの物です」とゲンジロウ様を補助しつつ礼儀作法で交換を申し出ましょう。
その際に怪しい動きを取った方はマディソン様にお任せします。


ヘルメス・トリスメギストス
「ふむ、邪神の信者は、この雪まつり会場で邪神復活の生贄を選定しているのですね。
そして、その選定の特別チケットは、すでに会場のお客様方の手に渡っている、と」

その特別チケットは、お客様方が持っている雪像の中に埋め込まれていると見るべきでしょうね。

雪像に埋め込むことができ、さらに邪神復活の生贄にすることができるもの……
それは爆弾に違いありません!
舞台に上がれば、そこで爆弾が爆発するのでしょう。

「そうと分かれば、人々の手から爆弾入りの雪像を回収するだけです!」

魔力と知力と執事力を極限まで高め、雪像の形状、重さを予測。
内部に爆弾が仕込まれている雪像を見極めて回収します。

「主を危険な目にはあわせません」


アイ・リスパー
ヘルメスと同行

「あの、ヘルメス様。いくらなんでも爆弾が仕込まれていることはないと思うのですが……」

ただ、観客の皆さんに配られた雪像は怪しいです。
私も支援をおこないましょう。

「雪像に何かを埋め込んであるのでしたら、ドローンの動画で情報を得られるかもしれません」

召喚したドローンからの映像をホロディスプレイに映し、観客の皆さんが持つ雪像を分析します。
また、イベントスタッフにおかしな動きがないかも見張らせます。

もし会場に騒ぎが起こったら、人々に『雪像を捨てて』避難するように呼びかけましょう。

「みなさん、ドローンの指示する経路に沿って、慌てずに避難してください」

他のみなさんと情報共有して協力します。


マディソン・マクナマス
【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】で参加

『マディソン、新しいクエストじゃよ……怪しい奴を見つけるんじゃよ……』
「久しぶりだな、神様」
『儂が怪しい奴にマーカーを付けるから、×ボタンで捕獲……いや×は射撃じゃったかな……』
「相変わらずだな、神様」

酒を飲みながら歩く事でUC:バッカスの乱痴気騒ぎを発動、幻覚の自称神と会話しつつゲンジロウ一行について回る。
カメラに写ろうとする自称神を無視しつつ、生首回収する仲間から距離を取り周辺警戒。生首回収や代用品の生首の配布を見て不審な動きを見せる奴を探す。
一行が悪目立ちして人目を引いている間に怪しい奴をパイプ椅子殴打による【気絶攻撃】で拉致、【恫喝】し情報を引き出す


當良邑・祈
【SPD】
会場を見張るように歩き回る

チケットを渡そうとするスタッフ、人が奥に引っ張られて行くことがないかと注視する

先程会った女性のように、ここにいるの多くが何も知らずその小さな願いを破滅の招来に利用されていると思うとやるせない。

が、ただ邪神が呼びかけただけなのか、最初の一人は自ら深淵へと踏み出したのではないか?

終局を望むのもまた人であるとしても、私はそれを欲さない。
だから抗おう。

信者を抑え、生贄の選定と移送を妨害するだけのが直近の目的だが、人の流れを追い儀式の場の特定も進めなければ、

「それにしてもあと2時間か、事が起きるのはまだ先だと、悠長に考えていた自分が恥ずかしい」

(連携改変等々歓迎)



●17時~・抗う者
 當良邑・祈(サイボーグの化身忍者・f09602)は会場を見張るように歩き回っていた。
 祈が思うのは先ほど会った女子学生のことだ。
 そして、集まっている人々のことだ。
(「ここにいる多くの人が、何も知らずその小さな願いを破滅の招来に利用されている……」)
 それが、やるせない。
 祈はそっと拳を握る。

 しかし、と祈は考える。
(「ただ邪神が呼びかけただけなのか、最初の一人は自ら深淵へと踏み出したのではないか?」)
 最初の一人は、果たして――。

「祈さん、時間はあまりないみたいね。でも、私達に出来る事、きっとあるわよね」
 緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)が呟いた。祈は静かに頷く。
「必ず。……信者を抑え、生贄の選定と移送を妨害するだけが直近の目的ですが、人の流れを追い儀式の場の特定も進めなければいけませんね。
 実は、事が起きるのはまだ先だと、悠長に考えていました」
 恥じ入るように目を伏せる祈に美麗がにこりと笑いかける。
「大丈夫。絶対に阻止するわよ」
 美麗はウインクをして軽く手を振ると近くの一般市民のもとへ近づいていく。
「それ、もしかしてチケット? すごい!」
 人懐こく明るい笑顔。金の双眸はどこまでも澄んでいて、見る者を老若男女問わず惹きこまずにいられない。明るい声と視線を向けられれば、誰しもが心を開いてしまう。

 そんな美麗を信頼しながら、祈もまた会場の隅々に目を配る。
(「終局を望むのもまた人であるとしても、私はそれを欲さない。だから抗おう」)

●17時~・番組制作は続いていた
 エルネスト・ポラリス(いつか満月の下で・f00066)はマイクを手にアナウンス用のセリフを読み上げる。
「ゲンDの隠された過去、それによりゲンDの覚悟はより強靭なものとなる」
 ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)はカメラの前で真剣な表情だ。
「……奴らの声が聞こえるんだ。死の運命に抗えってな」
 蒼衣の剣士がカットを告げる。
「撮り直しだ、ゲンジロウ。凄みが足りない」
 撮り直しは3度めであった。
「アナウンスはもう撮れましたよね、あとは任せましたよ」
 エルネストが離れていく。
「……奴らの声が聞こえるんだ。死の運命に抗えってな」
 ゲンジロウはセリフを渋く吐き捨てた。

「今、何を撮ってるんですか?」
 祈がそっと問うと、トリテレイアが答える。
「ゲンDが過去を思い出しながら事件解決のために決意を新たにするシーンですよ」
 そして、少し迷う。
「過去にUDC関連で何かあったようで」
「……そうなんですか」
 祈は頷いた。
 猟兵には1人1人歩んできた道のりがある。
 多くの者は壮絶な過去を背負っていた。
 多くの者は胸に傷を負っていた。
 それを人に見せる者もいれば、見せない者もいる。
「それを、番組で。すごいですね」
 祈はどこか神聖な気持ちでその撮影を見た。

 そして、ふとトリテレイアに視線を映した。
「なにか?」
 白いボディに緑のセンサーが瞬く。
「いえ」
 祈はウォーマシンに興味があった。自身は体の複数部位を機械に置き換えたサイボーグでもあった。

 周囲では一般市民が何事かと集まってきていた。
「ゲンジロウ様、チャンスです。市民の皆様にご説明を」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が段ボール箱を手に囁いた。箱には大量の妖精ロボ雪像が入っている。
 そして、説明会が始まった。カメラをまわしてその光景を撮影しながら蒼衣の剣士は声を入れる。アナウンスはエルネストの仕事だったのだが、蒼衣の剣士はさっさと収録を終えてしまいたかった。最近は夜更かしをしすぎて27歳の弟に早く寝るように言われているのだ。21時には寝るように、と。

「ゲンジロウは語る。
 自分たちが都市伝説を題材とした作品を撮っていることを。
 その撮影に是非あなたの作品を使わせて欲しい! と。
 情熱は、伝わった……」

 そして、蒼衣の剣士は歌を歌った。BGMの代わりだ。

 仰げば雪像 わが友の戦場
 雪まつりに はや半日
 おもえばいと疾し この一日
 今こそ探せ 狂信者

 それは綺麗な歌声だった。
 歌い終われば思わず人々の間から拍手が湧き上がる。

「さて、皆様!」
 トリテレイアは集まった人々に妖精ロボ雪像を配る。
「デザインに関しての手違いがありまして、生首雪像は此方が正しいデザインの物です」

 蒼衣の剣士は声を入れる。
「可愛らしいデザインの偽生首雪像、それが、ウケた」

 こうして彼らは生首を偽生首に交換することに成功した。
「余った妖精ロボ雪像は完成品置き場に並べておきますね」
 トリテレイアが妖精ロボ雪像を並べていく……。

●17時30分~18時・事件は現場で起きているんだ
「生贄選定チケットとかまた洒落にならないことをやってくれるじゃない。絶対に阻止するわよ」
 美麗は決心を胸に会場を見る。
「初めて北海道に来たんだけど、折角だし記念に特別チケットがどうしても欲しいのよ。持ってたりしないかしら? もしくは持ってるって人は知らない?」
 見目麗しい明るい笑顔で頼み込めば、男性が頬を染めてチケットを我先にと差し出す。
「あの、もしよかったら」
「使ってください」
 美麗は差し出されたチケットを全て受け取り、花のような笑顔で礼を言った。男性たちは悩みが吹っ飛んだような顔をして赤くなっていた。

 一方、エルネストは妙齢のご婦人たちの相談を聞いていた。
「うちの主人ったらなかなか出世しなくて、しかも農業をやりたいとか言い出して」
「最近そういうの流行っているらしいですからね」
「うちの息子、高校生なのに割り算すら間違えるのよ。将来が心配だわ」
「割り算は確かに、できたほうがいいですね」
 優しい物腰で笑顔を向け、相談に耳を傾けているとご婦人たちは我も我もと話だし、しかし情報は一向に得られない。
「お兄さんイケメンね、うちの娘の婿にこない?」
「あらやだ、娘さんの婿だなんて。私なら自分と火遊びに誘っちゃうわ。なんちゃって、ウフフフ」
 ついにはそんな声まで。

(「た、大変そう」)
 見守る祈はそっと近寄り、ご婦人たちの気を引いた。
「あっちで撮影をしてて、綺麗な奥様たちを映したいってあのおじさんが」
「まあ。映りにいく?」
「やだ。お化粧直さなきゃ。直す時間あるかしら」
「さっき見た時、おトイレ行列ができてたわよ」
 ご婦人たちはゾロゾロと移動していった。

 その頃、美麗は特別チケットを巡るやりとりを耳にしていた。
 一緒に会場に来た女子学生だ。男性スタッフと話している。
「あなた、二度目ですよね。何か深刻なお悩み事が?」
 美麗は注意深く傍に寄る。
「悩み事の深刻な方に優先してチケットをお渡ししているんです」
 男性スタッフがチケットを渡す。
「悩みが深刻だと、チケットが貰えるんですか」
 女子学生は目を瞬かせた。
「ははは、それもありますが実はお嬢さんが可愛いからサービスです」
 男性スタッフはパチリとウインクをして去っていった。

「ねえ、それ特別チケット?」
 スタッフが去ったのを見計らい、美麗は女子学生に話しかける。
「あ、うん。貰ったの」
 女子学生が頷いた。美麗は少し迷ってから、この女子学生には本当の事を離そうと決意した。
「そう。実はね、他の人も行っているんだけどそのチケット、危ないと思うの」
 美麗がそう切り出して説明し、女子学生が納得してチケットを渡した時だった。

「お前ナンパされてたっしょ! 見てたぜ」
 若い男子学生が声をかけた。
「あっ……」
 女子学生はパッと赤くなった。
 美麗は察した。先ほど話していた片思いの相手だ、と。
「あ、じゃあ、またね」
 美麗は女子学生にウインクして2人から離れた。
(「うまくいくといいわね!」) 

 そして、そんな会場に突然トラブルが発生した。
「ヒャッハーーー!! もう我慢できねぇーー!!
 首だ! 首よこせぇーーー!!」
 ロースト・チキン(チキン野郎・f03598)の雄叫びと共にイベント会場に19体のモヒカンが乱入してきた。
「お、お客様!?」
 スタッフが止めに入る。が、ローストは斧を片手に舌なめずり。モヒカンがスタッフを取り巻き、恫喝する。
「呪具を、首を出せーーー!」

 ローストとモヒカンたちは呪具である生首の回収に来たらしい。その方法は非常にストレートであった。
「良いスケープゴートがいたであります」
 阿鼻叫喚のイベント会場を眺め、敷島・初瀬(フリーの傭兵・f04289)がニッコリと呟いた。
(「責任を擦り付けれる解りやすいニワトリがいたので利用させてもらうであります」)
 敷島・初瀬は社会常識に欠け性格も頬よく歪み、リア充に嫉妬する問題児――テロリストである。13歳のあどけない笑顔の下には常識の文字の欠如した脳がある。

「スケープゴート? どういうことなんです?」
 めげずに一般市民に話しかけ情報収集していたエルネストが勇気を持って初瀬に話しかけた。内心では不穏な単語に、「もしやこの少女は狂信者なのでは」と疑っている。
(「あまり露骨にいくと狂信者に睨まれるかもしれませんが……」)
 目の前の少女、初瀬はニコニコしながら言った。
「罪を擦り付けるであります。……ヒャッハーって言いながらやれば全部あのニワトリの罪にできるであります」
 そう言うと初瀬は持っていた手荷物から大量の爆弾を取り出して雪でくるみ始めた。まるで遠足の当日早起きしてオニギリを作るかのような手際であった。
 初瀬は一個一個丁寧に、手に塩をかけて作業を進める。
 赤くなった手をふうふうと息をふきかけ、辛抱強く作業を進める。
 必ずやり遂げる、という情熱。初瀬にはそれがあった。

「これを外の巨大雪像に仕掛けて一斉に爆発させるであります」
「こ、これは」
 エルネストは確信した。
(「この少女、間違いなく狂信者……イベントというのは爆破により一般市民を大量に巻き込み、生贄にする儀式なんですね」)
 なんとしても阻止しなくては。
 エルネストは目の前の問題に対応すべく頭を回転させる。

 その耳には、仲間の声が届いた。

「エルネスト、やっぱお前さんがアナウンス入れてくれー」
 ゲンジロウが手を振っている。
 蒼衣を纏う剣士がカメラを向けている。
「あとで吹き替えじゃだめですか? 今狂信者が」
 そのやりとりの間、会場の中央でローストが暴れていた。
「へっへっへ…ココをオレ達の縄張りと知って例のブツ持ち歩いてるんだろうな? オイ、ジャンプしてみせろ! 持ってるだろう……首を?」
 恫喝するのは生首を両手に抱えたサラリーマンだ。
「も、持っていますが。ジャンプする必要……」
 サラリーマンは手に持った生首をアピールする。
「ジャンプしてみせろォ!」
 ローストが吠えた。ヒイッと悲鳴をあげ、サラリーマンはジャンプする。
「……見つからねえ。チクショウ、生首! いったいどこに」
 ローストは唸る。唸るローストの目の前でサラリーマンは手に持った生首と完成品の生首置き場をアピールする。
「あの、生首が欲しいならあっちにいっぱい置いてて、持ち出しし放題ですよ」
「次だ! 次――――っ!!」
 ローストは話を全く聞いていなかった。
「あ、あの。あっちで造ることもできて……」
 律義に説明しているサラリーマンを解放し、ローストは次なる被害者へと迫る……。

●18時~18時30分・決闘
『マディソン、新しいクエストじゃよ……怪しい奴を見つけるんじゃよ……』
 神を自称する浮浪者のオッサンの幻覚がマディソン・マクナマス(アイリッシュソルジャー・f05244)に語りかける。
「久しぶりだな、神様」
 マディソンは酒焼けした声で神様とひとり、会話する。
 戦争神経症気味の老猫はコートの裾を引きずり、雪を付けて白くしていた。

 幻覚のオッサンは胡散臭い笑みを浮かべる。声を聞くマディソンの耳がぴくりぴくりと動いていた。尻尾はゆらり、と揺れ。
『儂が怪しい奴にマーカーを付けるから、×ボタンで捕獲……いや×は射撃じゃったかな……』
 マディソンのヒゲがピンとした。口の端が吊り上がる。
「ふっ……!」
 次の瞬間、イベント会場で暴れていたモヒカン19人衆にマークが付いた。確認した瞬間にマディソンはパイプ椅子を無言で投げた。容赦はなかった。

「グアッ!? な、なんだ! 敵襲か!」

 後頭部にクリーンヒットしたモヒカンが1体倒れて動かなくなった。マディソンは淡々と歩み寄るとパイプ椅子を取り、別のモヒカンの右耳を強打した。モヒカンが吹っ飛び、吹っ飛んだ先にいたもう1体のモヒカンを巻き込んで動かなくなる。
 吹っ飛んだモヒカンを確認することもなくマディソンはヒゲを撫でた。
 確認するまでもなく、起き上がることはあるまい。それがわかっていた。

「相変わらずだな、神様」
 引き算をしよう。19引く2。17……、
「残りは18体だな」
 マディソンはローストもロックオンしていた。
 ローストはモヒカンを倒されたことはよくあることなので気にしていなかったが、自分がロックオンされたことに気付き、敵意をあらわにする。

 マディソンが告げる。
「情報を吐いてもらおうか」
 ローストは突如として現れたマディソンへと警戒の眼差しを見せ、羽を広げる。
「出たな狂信者!」
「何を言う、狂信者はそっちだろう」
 マディソンが床を蹴る。
 ローストもまた床を蹴った。
 手にはパイプ椅子と斧があった。
 周囲で囃し立てるのはモヒカンと神だ。
「やれ! やっちまえー!」
「きゃあ! 喧嘩よ!」
 一般市民が数人逃げていった。

『ヒヒ……マディソン、勝つんじゃよぉ』
 神が囁く。
 マディソンはパイプ椅子を横に薙ぐ。左から右へ。
 ローストが斧を振る。上から下へ。

 パイプ椅子と斧がぶつかり合い、熱い火花を散らした。

●18時~18時30分・仕掛け
 騒ぎが大きくなっていた。
 他の猟兵たちも慌てて介入するためにマディソンとローストのもとへ移動していく。

「チャンスであります」
 騒動に隠れるように初瀬は大量に造った爆弾雪像を段ボール箱に入れていく。

「そこの男も手伝うであります」
 初瀬はエルネストに爆弾雪像の箱を1箱、差し出した。もう1箱は初瀬自身が持ち、完成品置き場に並べていく。完成品置き場にはトリテレイアが造った妖精ロボ雪像が並んでいる。とても愛らしい雪像だった。
「ふ……」
 初瀬は勝利を確信しながら箱から手製の爆弾雪像を取り出した。なんと爆弾雪像は見た目が妖精ロボ雪像にそっくりに作られている。

「罪を擦り付けるのは得意であります」
 初瀬は妖精ロボ雪像を残らず爆弾雪像にすり替えてしまった。そして、外へと移動する。外の空気はヒンヤリ、どころではなくキリキリとした痛さすら感じさせる寒さを放っている。
 初瀬はふとマフラーを忘れたことに気付いた。だが、戦場に生きる少女は些末事だと振り払う。目的が果たせれば、それでよい。
 それが、傭兵として生きて来た初瀬の在り様であった。

「作戦は……順調であります……」
 少女は、歪であった。
 年頃の少女らしき幸せを全く知らず、持たず、ただ他人の幸せはわかった。そして、嫉妬していた。それを隠そうとも思わなかった。
 初瀬は、そんな少女だった。

 エルネストは箱を持ち、初瀬についていく。
 協力者を装い情報を引き出すことにしたのだ。
「これをどうするんですか?」
 初瀬はエルネストを伴い、外の雪像の方へ歩いていく。

●18時~18時30分・決着と和解
 ガキィィィィン……!

 パイプ椅子の背が斧を受け止め。身をずらしつつ、パイプ椅子を唐突に引いた。椅子を掴むのと逆の手が斧の柄を掴み、ぐいと引く。ローストは引かれて前傾する。
「カウンターだぜ」
 マディソンはパイプ椅子を手放し素早く右の拳をローストに叩き込もうとする。重く鋭い拳であった。
「くぉっ!」
 ローストは身を捩りギリギリで回避する。羽が数枚宙に舞った。回避しつつ、バランスを崩し。
「チェックメイトだ」
「この――」

 そこに、割り込む者があった。

「落ち着いてください! お二人とも味方ですよ! 同士討ちになっています」
 白きウォーマシン、トリテレイアだ。
 会場を見張っていた祈も見かねて助け舟を出した。
「お二人とも、猟兵です」
 美麗も顔を覗かせ、うんうんと頷いた。

「はははは、面白いのう……」
 猟兵たちが連れて来た一般人たちが目を丸くしてその光景を観ていた。
 スキーヤーの兄と妹は手をつなぎ、兄は妹を守ろうと囁く。
「帰ろう。ここは危ない」
「お兄ちゃん、でもイベント見たい」
 妹のなっちゃんは駄々をこねていた。
「お守りはつくったんだろ?」
 兄は諭すように言う。が、妹は首を振る。
「イベントでお願い強くするの。……お兄ちゃんがスキー勝てるようにって、祈るんだもん」
 妹は唇を噛む。妹は兄が帰ろうと言えば、従うしかなかった。
 まだほんの子ども。イベントに参加したいとどんなに思っても、保護者が帰ると言えば帰らなくてはいけない。思い通りにはいかないのだ。
「スキーはもう、」
 兄が言うと、妹はぶんぶんと頭を振った。
「やだもん。やめちゃ、やだもん。だって、お兄ちゃんはスキーが好きなんだもん。知ってるもん……ほんとは、勝ちたいんだもん!」

 女子学生は人込みの中で意中の彼を見つけていた。
「あのね、今日。会えたらいいなって。思ってたんだ」
 はにかむように言えば、彼も悪い気はしないらしい。照れたような笑顔で応えていた。
「さっき、ナンパされてるのを見て本当はイラッときたんだ」
 2人はいい感じになっていた。

 ホームレスと会社員は意気投合したのか再びワンカップで乾杯していた。
「いやあ、見ました? 今の。映画みたいでしたね」
「格好良かったなあ」
 ホームレスはしみじみと呟く。
「ああ、久しぶりに家に帰ろうかなあ」
「あ、家。あるんすね」
 会社員は言ってからちょっと気まずそうな顔をした。配慮に欠けた言葉だったと悔やんだらしい。
「ははは。いやあ。あるんだけど帰りにくくて」
「いやあ、なんといったらいいか。でも、帰ったほうがいいすよ……何かあったら相談とか乗りますし」
 会社員はホームレスと連絡先を交換した。

 爺さんはどこか憑き物が落ちたような顔をしていた。
「おじいさん、大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
 美麗と祈が声をかけると爺さんは柔らかく笑む。
「いい暇つぶしになったわ」
 そして、くるりと背を向けて会場を去ろうとし。

「待てよ」
 マディソンが声をかけた。その隣にはゲンジロウが雄々しい笑顔で立っている。
「爺さん、飲むか」
 手には酒があった。
 爺さんは目をしばしばさせた。そして、頷いた。

「さっきは悪かったな」
「いいってことよ」
 モヒカンとローストも加わり、彼らは互いの行き違いを詫びて打ち解けるのであった。
「このお爺さんと先ほど妖精ロボを合体させたんですよ」
 トリテレイアがそんな話を披露する。
「あちこちから妖精ロボを拾ってきて」
 ははは、と爺さんが笑った。

●18時30分~19時・人狼咆哮
 ところ変わって、外。

 エルネストと初瀬が雪像に向かって歩いていた。
(「雪像に向かっていく……やはり、儀式を行うために」)
 エルネストは仲間に連絡を取るべきか迷いながらもついていく。
 と、通行人の会話が2人の耳に入った。

「このイベント、参加してる連中見た? どいつもこいつも辛気臭い顔してて、人生の負け犬って感じ」
「わかるー。あはは。雪像作ったくらいで幸せになれるわけないのに」
 初瀬はぎょろりと声の発信源を睨んだ。
「リア充……」
 怨念の篭った一言が絞り出された。そして、眼にもとまらぬ早業で通行人に手刀を叩きこみ気絶させた。
「!!」
 それは一瞬の出来事だった。
 エルネストが止める暇もなく、初瀬は通行人を雪像へと引き摺って行く。

 止めなければならない。エルネストは覚悟し、初瀬の前に立ち塞がる。
「待ってください、その2人をどうするつもりなんですか?」

 返ってきたのは「横断歩道の信号が赤から青に変わったからこれから渡るところなのに」というような不思議そうな瞳であった。
「吊るす……であります」
 初瀬は、常日頃からリア充に強い反感を抱いていた。
 初瀬は、リア充が目の前で不幸な人々を――藁にも縋る思いで縁起物に頼ってしまう人々を嘲笑う言動をしたのが許せなかった

 必罰。
 その瞳が語っていた。
 そして、雪像付近に視線を向けるよう促す。エルネストは促されるままに視線を移動し、絶句した。

 そこにはいつの間にか初瀬が仕留め、確保したイベントスタッフたちが纏めて縛り上げられていたのだった。
 縛り上げられたイベントスタッフは全員、初瀬が少しずつ捕え縛り上げた狂信者たちだった。が、初瀬はそこまで説明はしなかった。
「全員、吊るすであります」
 邪魔をするな。と、その瞳が言っている。

 初瀬にしてみればそれは『狂信者』と『不幸な人々を嘲笑った悪意あるリア充』であった。が、エルネストは初瀬を『一般市民』を生贄にしようとする『狂信者』だと思った。

「――ここで見捨てるようなら猟兵になんざなってませんよ!」
 エルネストは吠えた。

●18時~18時30分・爆弾捜索と避難
 一方、会場にはもう2人猟兵がいた。
「ふむ、邪神の信者は、この雪まつり会場で邪神復活の生贄を選定しているのですね。
 そして、その選定の特別チケットは、すでに会場のお客様方の手に渡っている、と」
 ヘルメス・トリスメギストス(執事・f09488)が思案気に呟く。緑の目が見渡す会場は混沌としていた。
「雪像は呪具。つまり、雪像の中に仕掛けが……」
 ヘルメスは雪像を作っている人々をちらりと見た。特に何かを仕掛ける様子の人はいない、が。

「……完成品を配っている人が怪しいです」

 ヘルメスの片眼鏡がきらりと光った。
「雪像に埋め込むことができ、さらに邪神復活の生贄にすることができるもの……それは爆弾に違いありません!
 舞台に上がれば、そこで爆弾が爆発するのでしょう」
 ヘルメスが推理を披露すると、傍にいたアイ・リスパー(電子の妖精・f07909)がおずおずと主人に口を挟んだ。
「あの、ヘルメス様。いくらなんでも爆弾が仕込まれていることはないと思うのですが……」
 言いつつ、何もないところで躓いて転びそうになるアイ。
「おっと」
 ヘルメスはさっとアイに手を差し伸べ、支えた。
 アイはよく転びそうになる。ヘルメスは慣れていた。

「ありがとうございます、ヘルメス様」
 アイに鷹揚に頷きながらヘルメスは雪像を見極めるべく集中し、魔力や執事力が高めていく。アイも付き従いながら主人をサポートするために動画撮影ドローンを飛ばす。
「そういえば、スタッフの姿が視えません。ヘルメス様」
 気付いたことを報告するアイ。ヘルメスはハッとする。
「……すでに儀式のためにスタッフたちが動いているのかもしれません。
 皆様! 猟兵の皆様! 聞いてください、スタッフが!」
 危機感を募らせ、他の猟兵を呼ぶヘルメスへ、アイが再び報告する。
「ヘルメス様、完成品置き場にある雪像が怪しいです」
 アイの報告をもとにイベント会場にいる猟兵たちは完成品置き場に集まった。

「みなさん、ドローンの指示する経路に沿って、慌てずに避難してください」
 アイは人々に呼びかける。
「爆弾が仕掛けられたんだって」
 人々は指示に従い雪像を捨てて会場を去っていく。
「騒ぎは、あとでUDC組織に揉み消してもらいましょう」
 祈が呟いた。
「巻き込んでしまうより、ずっといいです」
 ヘルメスも頷く。
「主を危険な目にはあわせません」
 彼にとって、人々は皆『主』であった。

●18時30分~19時・謎は解かれた
 完成品置き場には9人が集まっていた。
 ヘルメス、アイ。
 美麗、祈、マディソン、ロースト。
 ゲンジロウ、蒼衣の剣士(†蒼刻の騎士†)、トリテレイア。

「みなさん、この雪像を見てください」
 アイが完成品置き場に並んでいる『妖精ロボ雪像』を指す。
「それがどうかしたのですか?」
 トリテレイアが訝し気に問う。蒼衣の剣士はここでもカメラを構えていた。其のカメラが集まっているメンバーの顔を1人1人順に映していく。
「これは、爆弾です」
 ヘルメスが告げると一同は驚愕した。
「何を仰いますか。爆弾ではありませんよ」
 トリテレイアが否定する。
「なぜ言い切れるんですか?」
 アイが首をかしげる。ゲンジロウがフォローを入れた。
「その雪像を用意したのがトリテレイアだからだ。爆弾なわけがないだろう」
 カメラがもう1度全員の顔をじっくりと映す。

「ですが――爆弾です。ほら」
 ヘルメスは残念そうに眼を眇め、愛らしい見た目の雪像の雪を払う。すると、中の爆弾があらわになった。

「「なっ!?」」

 一同、息を呑む。

「残念です。何度も冒険を一緒にした仲間だと思っていましたが」
「こ、これは誤解です! そんな馬鹿な……」

 トリテレイアが必死に言葉を紡ぐ中、猟兵たちは蒼衣の剣士が撮影した映像を巻き戻してチェックする。
「ほら、ここで緑のセンサーが一瞬チカッと揺らいだでしょう。爆弾がバレて動揺したに違いありません」
「本当だ! チカッとした」
 猟兵たちは視線を交差させ。

「冤罪です! 話を聞いてください」

 と、彼らの耳に咆哮が届いた。

 オォ――――ォゥ――

 それは、人狼の咆哮。

「……エルネストだ!」
 彼らにはそれが仲間の咆哮だとわかった。
 猟兵たちは一斉に外に出た。

●19時~19時30分・合流
 日は落ちていた。

 イルミネーションが輝く中、夜闇に白い雪像が仄かに照らされている。その前で人狼が――エルネストが吠えていた。
 背には縛られた一般市民を庇っていた。
 そして、正面では咆哮の衝撃に吹き飛ばされて目をまわしている初瀬がいる。

「初瀬様!」
 トリテレイアが駆け寄る。
「……油断したであります」
 初瀬は助け起こされながら無念そうに言う。
「もうちょっとでリア充を吊るせそうだったのに」
「またやらかしてたんですね」
 トリテレイアの説教が始まる。

「おっ、あるじゃねーか! 巨大雪像の首が!!」
 ローストは巨大雪像を見つけて目を爛々とさせた。そして、斧を片手に雪像を登っていく。17体になっていたモヒカンたちもローストに続いて雪像を登っていった。

「エルネスト、一体何があったんだ」
 蒼衣の剣士がカメラをまわしていた。
 エルネストはカメラ目線で説明する。
「狂信者です。あの少女が爆弾雪像を作り、一般市民を雪像に吊るそうとしたんです」
「待ってください、この方も猟兵です。とてもその、過激なことを偶にされますが……偶にというか、いつもですが……」
 トリテレイアが庇おうとすると、猟兵たちが思い出したように言った。

「爆弾雪像を並べたのはトリテレイアさん……でしたね。
 今も、そんな風に庇って……グルでしたか」
 祈が淡々と呟く。
「そ、そんな。違いますよ」
 トリテレイアはあたふたと弁明しようとした。初瀬は「何を騒いでいるんだろう」というような不思議そうな目をしていた。

 そんなやりとりを尻目にローストとモヒカンたちは雪像の上を順調に登っていた。ローストはふう、と息をついて周囲を見る。
「いい景色だ。高いところは、いいもんだぜ」
 彼にはコンプレックスがあった。
 空が飛べないというコンプレックスである。だが、今高所から見る景色はそれを忘れさせてくれる……。

「それはおかしいですね」
 ひどく冷静な声が地上に響いた。エルネストだった。
「爆弾雪像は、そこの少女が並べたんですよ。元々置いてあった妖精雪像に似せて作ったものをすり替えたんです」
 だからトリテレイアさんはグルではありませんよ、と告げるエルネスト。そして、首をかしげた。
「……グルでないということは、あれ? ということは、トリテレイアさんの言っていることが正しいということで……あれ?」

 あれ?

 猟兵たちは首をかしげた。

「初瀬様、紛らわしいことをしないでください。狂信者だと思われたんですよ」
 トリテレイアは縛られたスタッフたちを示した。
「スタッフたちは狂信者サイドの人間ですから、彼らにちょっと話を聞いてみましょうか? 儀式の情報などがわかるかもしれません」
 美麗はリア充たちを解放してあげた。リア充たちは礼も言わずに逃げていく。
「あとでUDC組織を頼ることになりそうね」
 その背を見ながら美麗はそっと呟くのであった。

「波乱万丈な映像が撮れたぞ」
 その背後では蒼衣の剣士がゲンジロウにこれまで撮影した映像を見せていた。
「放送事故の部分はあとでもう少し巧く編集したほうがいいな」
 ゲンジロウは自分がホームレスに2500円を握らせている映像やエルネストがワイヤーでサラリーマンを縛っている映像を見て唸る。
「その後のゴタゴタした部分は……」
 イベント会場で撮影した映像は、混沌としていた。
「全部編集するわけにもいかないしなあ」

 そんな地上に高所からの雄叫びが届く。
「ヒャッハーーー!! 首を落とすぜえーー!!」

 声に釣られて雪像を仰ぎ見る一同。
「「あっ、あれは!」」

 なんと彼らの視線の先でローストがモヒカンを侍らせて勇者の雪像の肩に立ち、斧を振りかぶっているではないか。ローストは巨大雪像が呪具だと思ったのである。
「ローストさん! 何を?」
「落とすなら魔王のほうにしません?」
「いや、意外と勇者のほうがあやしい可能性も」
 猟兵たちが思い思いに何事かを口走る。場が混乱したまさにその時。その瞬間。

 カッ―――、

 雪像が鮮烈な光を放った。青い光であった。
「うぉっ」
 ローストが目を眩ませる。

 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ――、

 アラーム音が鳴り響く。
 アイがハッとした。
「い、今! 19時30分です……!!」

●19時30分・降臨
 雪像の頭の上に、ふわり、と『星が舞い降りた』。

 【人の子よ】

 女性の声がした。

 それは、やさしく、静かな声だった。
 全身は黒藍。墨が半紙に掠れたように輪郭は滲み、細かな粒子が全身を取り巻いている。纏うのはきっと黒のドレスだ。裾が長くゆったりと広がり空気に溶けるように消えている。
 手に持つのは人肌と似た色をしているぬいぐるみ。
「豚だ……」
 誰かが呟いた。
 頭は黒の髪がうねり、まるで意思をもつかのように蠢く。それが覆う隙間から見えるは女の白面。ニイ、と唇が笑んでいる。

 水の流れるが如く青白の光は弧を描き、光の線が糸のように絡んで高く掲げているのは鋭く細い針だ。

「『磨羯卿』カプリコーン……様」
 呟いたのは爺さんだった。

「爺さん?」
 ゲンジロウとマディソンが目を瞠る。

 爺さんはふらふらと雪の中を進み出た。
「ああ、なんて……」

 爺さんは空を見る。
 空には、星が瞬いていた。
 そして地上には、猟兵たちがいた。

「なんて、非現実的な光景じゃろうか」
 爺さんは笑っていた。とても嬉しそうに、しかし虚しく笑っていた。

 【人の子よ、しくじりましたね。力がこんなに、弱い……】

 磨羯卿が食事をスプーンから零した我が子を叱るかのようにやわらかに声を発した。
「ははは、はは……」
 爺さんは笑っていた。

 【人の子よ】

「人の、生命を奪おうとする神なんて……」
 爺さんは目から涙を流していた。涙を流しながら、泣いていた。
「――わしが求めた神は、人に語りかけたり、せぬ。
 わしが求めた神は……人の心の内にのみ在り、見守っていてくれると思うことによって人の心を支える、……そんな概念なんじゃ」

 爺さんの考える神は、全てに公平であった。
 神は何もしない。
 例えば狼に襲われる兎がいたとする。
 狼は食べることを祈り、兎は逃れることを祈る。
 どちらを救っても片方の祈りは叶わない。
 ゆえに、どちらの祈りも聞かずに狼と兎自信で決着を着けさせる。

 顕現してしまっては。それはもう神ではない。

「ああ、……夢から覚めてしまったようじゃ。哀しい、のう」
 爺さんは呟いた。吐く息は白く広がり、儚く闇に溶けて消えていく。
 消える端から、また吐く。
 消えては吐き、消えては吐き。
 呼吸。
 生きている証拠であった。

「爺さん、狂信者だったんだな」
 猟兵が問えば、爺さんは一瞬、目を瞬かせた。

「そうじゃな、確かに狂ってしまいたかった、そんな気がする」

 【……輝き、導きなさい、私のナシラ】

 磨羯卿が声を発した。
 そして、掲げていた針の周囲に大量の光り輝く針が生成される。

「わしは、もう、生きていたくないと。あの夜に思ったんじゃ」
 何かを思い出すように爺さんが呟き、高い空に輝く針を見つめた。
「身寄りもない……金だけは、あった。
 金を稼げば幸せになれると思っておった。家庭を顧みずに仕事ばかり打ち込み、そのツケが今の孤独よ」
 爺さんはそっと目を閉じた。

「――死なせておくれ」

 光り輝く針の雨が今、降り注ごうとしていた。
 全ての猟兵はその瞬間、行動を開始した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『磨羯卿』カプリコーン』

POW   :    輝き導きなさい、私のギエディ
【自分が抱いているぬいぐるみ】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【光り輝く狂暴な山羊】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    輝き導きなさい、私のナシラ
【自身の武器である針】から【大量の光り輝く針の雨】を放ち、【対象を地面に縫い付けること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    輝き導きなさい、私のダビー
【頭部のオーラを変化させた黒い角】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に磨羯宮のサインが刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アルム・サフィレットです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アドニード・プラネタリア
かわいくないぬいぐるみ〜。
邪神に怒られそうだけど、そう思うアドニード。

僕の炎で焼いちゃうぞぉ♪
オーラもぬいぐるみもねー。

UCは、炎の術(全力魔法)です。
(先制攻撃)とも合わせて使いたいところ。

邪神の針は(盾受け)で弾けるor防御出来るモノかな?

攻撃技能(生命力吸収,2回攻撃,衝撃波,破魔)です。

防御技能(残像,盾受け,見切り)です。

回復技能(祈り)です。

他の猟兵さんとの連携はokです。
(祈り)は複数対象で使います。
なるべく僕だけは技能で捌きたいところですが…。


當良邑・祈
私が生まれたところに信仰はなかった、誰もが先人の知恵と技術を信じた、理論のその先だけを目指した。だから私が手を結び祈る神はいない。

信じ祈る対象は人の力、幾度となく間違いを繰り返しても、それでも続いてきた人の世の理。こんなところで終わりはしないはずだと。

-ワレイノリヲササゲル-
降魔化身法で全身を甲殻で覆う。

敵の攻撃は獲物を捉えずとも地形に触れると何かしらの小細工を引き起こしているようだ。
であればワイヤーフックを利用して敵の上方を位置取る。
周囲への流れ弾も多少抑えられ、サインは刻めないとおもうが。

相手は邪神、常識外の存在だ。空間そのものに爪痕を残すこともできるやも知れぬ。

(連携改変苦戦等々歓迎)


エウトティア・ナトゥア
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】で参加。

胡散臭い霊能者ムーブで登場。

むむ!巫女としての「第六感」にビビビっときたのじゃ。
彼奴は、ぐるっと、光があれで、闇がぶわわっとちりちりで、豚がぷぎーっで、ニイってしておる。
つまり……よく分からんのじゃ!
と、カメラ目線で鮮やかに正体を看破した所で彼奴を退治するかの。

(味方の攻撃に合わせて狼を嗾ける)
マニトゥ、あの豚っぽい所を齧り取るのじゃ!何か弱点のような気がしないでもないでもないのじゃ!
攻撃でできた一瞬の隙をついて、「破魔」の「祈り」をのせた精霊術を「全力」で叩きつけるのじゃ。

これでも喰えい!…………やったかの?(フラグ)


緋神・美麗
なんだかすごい紆余曲折があったような気がするけど被害を最小限に留めれたようね。このまま被害なしで終わらせるわよ。
降り注ごうとしている光り輝く針の雨は出力可変式極光砲を攻撃回数重視の散弾モードで撃ち払う
「私達の前で殺らせたりなんかしないわよ」
出力可変式極光砲散弾モードで応戦しつつお爺さんを庇いながら戦場外、もしくは安全そうな物陰迄移動する
お爺さんが抵抗するようなら最悪気絶させて無理やり運ぶ
お爺さんの心配が無くなったら本気で戦闘開始
「ここからが本番よ」
出力可変式極光砲を命中重視か威力重視のどちらか有効な方に切り替えて使用

最後にお爺さんに
「折角生きてるんだから最後までしっかり生き抜きなさいよ。」


敷島・初瀬
「シリアスな空気は苦しいであります、む、これは良い紅茶であります」
シリアスな世界には拒絶されるので大きな雪像の上でリア充共(テロ行為を邪魔する者もリア充であります)の戦いをお菓子と紅茶で優雅に見物してるであります。

下から文句が出たらめんどくさそうにライフルで狙撃するであります、タイミングは攻撃の瞬間、狙うは頭部可能なら目を狙うであります。

「さて仕事したからティータイム再開であります、踊ってくれよリア充共」
取り敢えずお茶会しながら見物続行であります。

(アドリブ、絡み大歓迎です)


ヘルメス・トリスメギストス
「ふむ、邪神が復活してしまいましたか。
ですが、私にはそれよりも大事なことがあるのです!」

巨大雪像の頭上に立ち、横に座るお嬢様――初瀬お嬢様に恭しく紅茶のお代わりを注ぎます。
わざわざ個人輸入して取り寄せたお菓子も気に入っていただけたようで、執事冥利に尽きるというもの。
ああ、これが神に仕える気分というものですね。
初瀬様、貴女が神です。

「おっと、我が神の前で神を名乗る不埒者、即刻我が主の視界から消えてくださいませんか?」

カプリコーンを家畜でも見るような目で見下しながら、懐から取り出したナイフとフォークを投擲して攻撃します。

「おっと、初瀬お嬢様、紅茶が切れてしまってますね。
お代わりをどうぞ」


マディソン・マクナマス
【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】で参加

『ボス戦じゃよマディソン! 勝てば素材ががっぽりなんじゃよ! 攻撃の後に隙ができるから、そこで弱点を……』
「いやさっきのニワトリの件忘れてねぇからな神様、あんたの言う事は金輪際信じねぇ」

『旅団ローグス・トーク』『団員募集中』『与太者大歓迎』の大漁旗を掲げた暴走宇宙ハーレーに、自称神と共に【騎乗】。旗をカメラに映して旅団宣伝を行い、片手運転で違法改造ブラスターを乱射し前衛を支援。
輝き導きなさい、私のナシラが放たれたら即バイク(と自称神)を乗り捨て回避。蒸気爆発手榴弾で敵の近くの雪像を爆破、飛び散る雪と蒸気による視界妨害で味方が大技を出すまでの【時間稼ぎ】を行う


アイ・リスパー
「ヘルメス様、初瀬様っ、ちゃんとお仕事してくださいーっ」

雪像の上でサボっている二人に叫びます。

まったくもう。
こうなったら、私が頑張るしかありませんね!

まずは【ラプラスの悪魔】で敵の攻撃を予測。
味方に敵の攻撃の着弾予測位置を知らせます。
一般人の避難誘導は味方に任せましょう。

私は衛星軌道上に待機している【小型宇宙戦艦】に指令を送って
超高高度からの【大型荷電粒子砲】の『一斉発射』で邪神を攻撃し、『時間稼ぎ』を図ります。

私自身は戦闘能力がないですから、戦いに巻き込まれないように『迷彩』で物陰に隠れつつ、味方の情報支援を担当しましょう。

「このような邪神に平和な雪まつりを邪魔させはしませんっ」


エルネスト・ポラリス
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】
○アドリブ歓迎
○連携歓迎
『真髄恐怖映像!ゲンかい!?』は視聴者に程よい恐怖とスリルをお届けする娯楽番組。死亡事故はNGですよ!

真の姿である巨狼の姿を解放し、UCを使用して山羊の相手をしましょう。
『狼殺し』は忘れずに飲んでおかないと……最低限、敵と味方の区別はつけないといけませんからね。

光る山羊VS荒れ狂う巨大狼……やっぱ番組の最後は盛り上げないといけませんね!
……ええ、ええ。人の命を奪う神など認めない。我々の番組で、B級モンスターに成り下がってもらいますよ!

あ、最後にこのテロップつけなきゃ。
『この後スタッフが【医術】でちゃんと【救助活動】を行いました』!


トリテレイア・ゼロナイン
チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】
お爺さん、貴方が今感じているその哀しみが神を召喚しようとした罰です。そして貴方が犯した罪への罰は死ではありません。生きることで償って貰います。

地面に刻まれたサインは大盾殴打でのUCを使って消しつつ、お爺さんや仲間、雪まつりの会場を盾受けでかばいます。

……念のため「防具改造」で防火処置を全身に施しておきましょう。

山羊が出てきたら突進を見切り、武器受けで勢いを殺しつつ、怪力で角を掴みスラスターでのスライディングでカプリコーンに接近。UCで鈍器として叩きつけましょう。

…もし逃げていなければ初瀬様には手袋とマフラーを買ってあげましょう…そしてお説教です
※被害担当OK


ロースト・チキン
ヒャッハーーーー!?
この狂気と暴力の世界に神は必要ねぇーーー!!

無謀にも無策で、訳の分からない拳法の構えと斧を携えて、敵に挑むロースト!しかし、勢い良過ぎて足元の雪に失念。攻撃してくださいと言わんばかりに敵の目の前へと、すってんころりん。

この世に神はいないのか!?
誰か助けてくれ!!
誰でもいいんだ!!
コイツを何とかしてくれ!!

瀕死の瀬戸際に立たされるだろうローストは、【世紀末救世主棟髪伝説】で救世主に祈った!!

あぁ、世紀末の光はここにあったのだ。


ゲンジロウ・ヨハンソン
○チーム【真髄恐怖映像!ゲンかい!?】で参加

ついに現れた『磨羯卿』カプリコーン!
おぞましくも何処か美しい姿にきっと視聴者も大喜び。
そんな浮ついた心は捨て置き、大鉈に手をかけて闘うのであった。

○戦闘
お決まりの助っ人登場!美少女霊能者、エウトティア先生を【コミュ力】で紹介じゃ!

【オーラ防御】や【盾受け】で爺さんを【かばう】しつつ【カウンター】を打ち込む。
邪神…神ってのは、恐ろしいもんじゃ…縋りたい気持ちもわかる。
じゃがな、その代償はデカイぞ…。
忌まわしき邪神の一端がこの身体には潜んでいる…そのUCを【捨て身の一撃】で磨羯卿の喚び出す山羊へと打ち出す。
理不尽すぎる結果に、爺さんも目を覚ますじゃろう。



●上空
「ただいま現場上空から映像をお届けしています! 御覧ください、巨大雪像の周囲、……見えますでしょうか、『何か』います。あれは、なんでしょうか」
 中継ヘリが上空から映像を撮っている。
 安全ヘルメットを被ったリポーターが中継していた。

 SNSでは一般市民が撮影した動画や画像が拡散され、話題になっていた。

 ぐらり。
 ふいに、ヘリコプターが揺れた。
「なっ、なんだ」
「何か、引っかかっ……」
 動揺。が、すぐに揺れは収まった。
「い、異常なし」
 報告があがる。
「た、ただいま若干揺れましたが、中継を再開します……!」

●導かれぬ者
「させないわよ」
 緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)がサイキックエナジーの出力を調整し、極光砲を散開発射した。
 降り注ぐ針の雨が相殺され、消えていく。だが、消しきれない。
 美麗はお爺さんの前に立ち塞がる。身を呈して守ろうというのだ。お爺さんは目を見開いた。お爺さんは身寄りがなかった。咳をしても1人、死ぬ時もまた1人。死した後も、誰も気にとめない、そんな身であった。そんな身には、立ち塞がる若者の背があまりに温かく、勿体無いように思えた。
「私達の前で殺らせたりなんかしないわよ」
 美麗が相殺しきれなかった針の鋭撃を覚悟し身を固めた時、白い鋼鉄の巨躯が割り込み、大盾を雪地に叩きつけた。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)であった。轟音と共に白雪が舞い、猛打により雪の下の大地までもが砕けて周囲に飛散する。衝撃の波が残針の半数を消し、美麗が再び放った極光砲が残りを消し去った。
「お爺さん、貴方が今感じているその哀しみが神を召喚しようとした罰です。
 そして貴方が犯した罪への罰は死ではありません。生きることで償って貰います」
 トリテレイアはそういうと地を抉った大盾を構え、邪神に相対する。

 【邪魔する者がいるとは】

 邪神は感情の窺えない声を発した。魔王雪像の頭の上に佇み地を見下ろすその姿は微動だにしない。まるで銅像にでもなったかのような静謐であった。

 その隙に美麗はお爺さんを連れて物陰へと移動する。邪神は高所から無言でそれを見送った。
「……?」
 地上の猟兵たちは訝しむ。邪神がぴたりと意思を発することをやめ、動くこともやめ、ただ雪像の上から見下ろすのみとなっている。
「いったい?」
 顔を見合わせる猟兵たち。そんな猟兵たちを見下ろし、邪神は愛しげに息を吐く。狂信者よりも導き甲斐がありそうだ、と。

「おーい、俺はどうしたらいいんだぁー」
 ロースト・チキン(チキン野郎・f03598)が勇者雪像の肩の上で敵と猟兵を交互に見て吠えた。傍にはモヒカンたちも健在だ。
 邪神は初めてローストの存在に気づいたように視線を向けた。導いて欲しいのか、と闇の気配が揺らめく。ローストの背筋にざわりと悪寒が奔った。
「ヒャッハーーーー!?
 この狂気と暴力の世界に神は必要ねぇーーー!!」
 敵は強い。
 ローストは肌でそれを感じつつ無謀にも無策で訳の分からない拳法の構えと斧を携えて敵に挑む。しかし、勢い良過ぎて足元の雪に失念していた。雪像の上ですっころぶ。運悪く場所は雪像の上だったため、なんとそのまま地上へと落下していった。
「必殺! 振り直しだぜぇ!」
 ローストは必殺のセリフと共に!
 落ちていった。
「あれ?」

「シリアスな空気は苦しいであります」
 敷島・初瀬(フリーの傭兵・f04289)が雪像に近寄っていく。
「危険ですよ」
 味方が言うも、全く気にした様子もなくスルスルと雪像を登ろうとする。邪神は雪像を登ろうとしている初瀬へと無造作に針の雨を放った。
 
「げっ」
 初瀬は色気のない悲鳴をあげて足で雪像を蹴り、針の襲来を避けて地上へと着地した。
「登って上から地上を見下したいだけであります。邪神の邪魔はしないから登らせてほしいであります」
 初瀬は邪神に不満げに言い、再び雪像を登り始める。しかし邪神は淡々と追加の針を降らせた。初瀬は邪神に悪態をつきながら再び雪像から地上へと逃れる。

 少し離れた場所では、アイ・リスパー(電子の妖精・f07909)が邪神に抗する覚悟を固めつつ初瀬に呆れていた。
「ついに、邪神が復活してしまいましたね……あの方は何をなさっているのでしょう?」
「ふむ、邪神が復活してしまいましたか。
 ですが、私にはそれよりも大事なことがあるのです!」
「……ヘルメス様?」
 ヘルメス・トリスメギストス(執事・f09488)は雪像に向かって猛進していた。走りつつ懐からナイフとフォークを取り出し、邪神へと投擲する。彼は元々他人を『主』と定めて奉仕するスタイルの猟兵だったのだが、今回は『主』を通り越して『神』にまで昇華していた。
「我が神の前で神を名乗る不埒者、即刻我が主の視界から消えてくださいませんか?」

 【……ダビー】
 邪神が呼びかける。その声は「なんだか最近の人の子の考えることは複雑だな」という感情が滲んでいた。
 そして、邪神の頭部のオーラが黒い角へと変じた。

 ヘルメスの放ったナイフとフォークは邪神の前で黒い角に穿たれて跡形もなく消滅し、さらに黒い角が邪神の足元、雪像の頭へと磨羯宮のサインを刻む。

「初瀬お嬢様、このヘルメスめが壁になりましょう。雪像を登ってください!」
 地上近くではヘルメスが初瀬と邪神の間になるよう位置を調整しながら雪像を登り、ヘルメスを肉壁として初瀬もまた雪像を登る謎の協力プレイがされていた。
 邪神は容赦なく2人に針を降り注ぎ、2人(特にヘルメス)は全身を血に染めていたが。
「ここまで来たら登り切るのです!」
 ヘルメスは血塗れで初瀬の登路を守る。そして2人は勇者像の頭に辿り着いた。
「はあ、はあ……、ティ、ティータイムであります」
「ゼエゼエ……、そ、そうですね、紅茶をお淹れしましょう」
 2人は雪像の頭の上でティータイムをしたかったのだ。ただそのためだけに命懸けで雪像を登って来たのであった。

 【……意味がわからぬ……】

 これには流石の邪神も戸惑っている。邪神はひとまず無害そうな2人を放置することにした。

「よい景色であります」
 初瀬は雪像の頭にちょこんと座った。そよそよと風が吹いている。少し、いや、かなり寒い。登り切るまでの道のりで怪我も負い、血も流していた。手当はしたが、マイナス18度は堪える。

「初瀬お嬢様」
 ヘルメスが恭しく声をかけ、雪像の頭の上で紅茶を淹れる。器用だ。そして、お菓子と手袋とマフラーを渡した。
「手袋とマフラーはトリテレイア様からですよ」
 初瀬はチラリと地上を見ると手袋とマフラーを装着し、お菓子と紅茶を味わう。頭上で薄っすらと星が輝いている。都市の光に照らされた夜空は明るく、星は控えめに光っていた。綺麗だ。
「む、これは良い紅茶であります」
 そんな初瀬を見ながらヘルメスは思う。
(「ああ、これが神に仕える気分というものですね。初瀬様、貴女が神です」)

 そして、ぐらり、とヘルメスの体が倒れていく。出血が多すぎたのだ。
「お嬢様、お仕えできて……よかっ、」
 雪像から全身を血に染めたヘルメスが落ちていった。

 地上ではアイが叫んでいる。
「ヘルメス様、初瀬様っ、ちゃんとお仕事してくださいーっ」
 
 邪神はそんな猟兵たちに「人の子? わけがわからないよ人の子?」という顔を向けていた。

「まったくもう。
 こうなったら、私が頑張るしかありませんね!」
 アイは苦労人だった。足元には「介抱してくれないんですか?」という顔で倒れているヘルメスがいた。
「これは美味しいであります」
 初瀬は落ちたヘルメスには一切目もくれず、頭からだくだくと血を流しながらクッキーを食べていた。

 勇者雪像の頭の上がティーパーティーと化している中、魔王雪像の頭の上で邪神はちょっと困ったような気配を纏って佇んでいた。そして、ようやく声を発した。

 【なぜ雪像の上で紅茶を?】

 視線は勇者雪像の頭の上に向けられていた。だが、初瀬は邪神を無視した。

 【人の子とは常に導きを欲しているものかと思っていたが、そうでもないらしい】

 邪神は感情の窺えない声で言った。
 見下ろす地上では他の猟兵たちが行動を開始している。

●神は問う
「ついに現れた『磨羯卿』カプリコーン!
 おぞましくも何処か美しい姿にきっと視聴者も大喜び。
 そんな浮ついた心は捨て置き、大鉈に手をかけて闘うのであった」
 ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)はカメラに向かって助っ人の紹介をしていた。
「お決まりの助っ人登場! 美少女霊能者、エウトティア先生を紹介じゃ!」
 紹介とともにカメラの前に姿を見せたのはエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)。金色の毛並みの尻尾がゆらりと柔らかに揺れ、猫耳がぴこりと揺れればカメラを構えている蒼衣の剣士も満足げに頷く。華のある映像がばっちり撮れた。
 エウトティアは厳かに口を開く。
「むむ」
 きりっとした表情でカメラ目線。バッと片手を右上にあげ、ポーズ。ポーズは会心の出来だった。周囲から感嘆の声が漏れるほどだ。
「巫女としての「第六感」にビビビっときたのじゃ!」
 何かが始まった。

「かわいくないぬいぐるみ~」
 そんな戦場(?)へと、ふわり、と小さな羽を羽ばたかせ、アドニード・プラネタリア(天文得業生・f03082)が舞い降りる。アドニードは真っ直ぐな瞳で邪神を見上げて口を尖らせた。邪神の抱く豚のぬいぐるみがお子様の趣味に合わなかったらしい。

 【人の子よ 見た目が全てではありませんよ】

 邪神は自分に話を振って貰えて嬉しそうだった。
「僕の炎で焼いちゃうぞぉ♪ オーラもぬいぐるみもねー」
 しかし、アドニードは強気な笑顔とともに炎の矢を大量に生成し、敵に放つ。
「燃えちゃえー」
 あどけない様子の猟兵は、しかし恐るべき破壊力の繰り手であった。

 【……これは!】
 驚愕した様子で黒い角を放つ邪神。徐々に炎が勝り、黒い角が燃えて消えていく。その時、アイは味方を支援すべくユーベルコード『ラプラスの悪魔』を発動していた。敵の攻撃を予測する技である。アイは味方に敵の攻撃の着弾予測位置を知らせようとしたのだが。
「あっ!? い、いけませんっ、上です!」
 悲鳴のような声が漏れた。

 【くっ……、】
 邪神は一度雪像を離れ、上空へと舞い上がった。上空でくるりと宙がえりをし、邪悪な力を浮力にして滞空する邪神。ふと見ると中継ヘリが近い。

「バ、バケモノ……」
 リポーターが呻く。邪神は微笑んだ。そして、黒い角で中継ヘリを撃墜しようとし。
「させない」
 静かな声がした。
 見ると、當良邑・祈(サイボーグの化身忍者・f09602)が中継ヘリの上から邪神を見下ろした。祈は、邪神の上を取るために早い段階で動いていたのだ。祈は夜風に髪をなびかせながら両手を祈るようにあわせた。機械脚がしっかりとヘリの上でバランスを取る。

 ――-ワレ イノリヲ ササゲル――

 ユーベルコード『降魔化身法』で全身を甲殻で覆った祈は敵に体当たりするように組み付き、闇の中を落ちる。祈は落ちながら暗器を閃かせて邪神の首を掻っ切った。白い首が血を噴き、邪神がざわりと闇のオーラを揺らがせた。

 【オノレ!】
 禍々しい殺気と共に闇のオーラが迸る。見る見るうちに傷が塞がり、血が止まる。裂かれた皮膚が閉じ、傷が消え、元通りの白い肌へ。
 邪神は祈を振りほどくと魔王雪像の上へと再び陣取った。

「相手は邪神、常識外の存在、致命傷にはならないと思ったが」
 だが、ダメージはあったように思えた。祈は目を細め、仔猫のように軽やかに地上へと着地する。

「彼奴は、ぐるっと、光があれで、闇がぶわわっとちりちりで、豚がぷぎーっで、ニイってしておる。つまり……よく分からんのじゃ!」
 地上では撮影が続いていた。エウトティアがちょうど胡散臭い霊能者風の解説を終えたところだった。
 エウトティアがカメラ目線で決めポーズをしたところで蒼衣の剣士からOKが出る。一同はホッと胸をなでおろし、さて後は邪神退治を、と気持ちを切り替えるのであった。
「マニトゥ、あの豚っぽい所を齧り取るのじゃ! 何か弱点のような気がしないでもないでもないのじゃ!」
 マニトゥと呼ばれた巨狼がエウトティアの声に応え、豚を狙う。

 【むっ、こ、これ。やめなさい! しっしっ!】

「わぅ!」
 邪神は豚を守ろうとするが、マニトゥは執拗に豚に迫りついに鼻を齧り取ってしまった。エウトティアは蒼衣の剣士をつっつき、マニトゥの勇姿をバッチリとカメラに収めることに成功した。

「『真髄恐怖映像! ゲンかい!?』は視聴者に程よい恐怖とスリルをお届けする娯楽番組。死亡事故はNGですよ!」
 エルネスト・ポラリス(いつか満月の下で・f00066)が念を押す。
「ははは! 死亡事故なんて起きるわけないじゃないか」
「そうですよ、だってここは夜の雪まつり会場ですよ」
「5日目の夜ともなれば大盛況でほら、周囲のビルの窓から会場を見物してる人までいる!」
「それってダメなのでは」
 猟兵たちが明るい笑い声でカメラで撮った映像をチェックする中、上空では中継ヘリがふらふらと撤退するところだった。
「これ以上は危険と判断! これ以上はいけません!」
「そんな! 私の使命は死んでも現場の映像をお届けすることです!」
 中継ヘリの内部が揉めていた。
 SNSでも「中継ヘリが襲われてた」という動画が拡散されていた。

 そんな中、エルネストは真の姿を解放した。ユーベルコード『月狂いの宿痾』により満月の幻影が呼び出される。
 エルネストはトリカブトを材料とする劇薬『狼殺し』を飲む。敵と味方の区別をつけるためだ。そして、幻影の月を見た。
「う……」
 人の躰が徐々に巨大な狼へと変じていく。全身から毛が生え、鋭い牙と爪が月光に光る。獰猛な牙の耀く赤い口を開き、巨狼は吠えた。

 ……オ、ォ――……オゥ――

「あれは、なんだ!?」
 人々は非現実レベルすぎる光景に口をあんぐりと開けた。豚を狙っていたマニトゥも釣られて吠える。

 オゥオ――、ワゥァー……

 意思交感が出来たのかは知らないがマニトゥとエルネストは邪神にギラギラとした目を向けた。補足すると会場付近にいたペットのワンちゃんたちも触発されて一斉に遠吠えをしていた。とても煩かった。

 【ギエディ、お相手なさい】

 邪神は抱いていたぬいぐるみを宙へ放つ。ぬいぐるみはすでにマニトゥにより鼻を齧り取られて涙目であったが、光り輝く狂暴な山羊へと変化した。
「な、なんだ!?」
「山羊と狼が!」
 人々の見守る中、巨大な山羊と狼の戦いが始まった。

「一般市民の人々と雪まつり会場を守ってみせます」
 混沌とした戦場。トリテレイアは決意を新たに大盾を構える。

「時間稼ぎをしましょう!」
 アイがそんなことを言っていた。
「ああ、俺も味方が大技を出すまでの時間稼ぎをするつもりだ」
 マディソン・マクナマス(アイリッシュソルジャー・f05244)が頷く。

「はい。雪まつり会場を守りましょう」
 トリテレイアが味方へと頼もしそうに声をあげる。雪像を守ろうと。
「ああ、時間稼ぎをしよう」
 マディソンが手を振り、大漁旗を暴走宇宙ハーレーに取り付ける。雪像を破壊しようと。

『ボス戦じゃよマディソン! 勝てば素材ががっぽりなんじゃよ! 攻撃の後に隙ができるから、そこで弱点を……』
 神を自称する浮浪者のオッサンの幻覚が語り続けていた。
「いやさっきのニワトリの件忘れてねぇからな神様、あんたの言う事は金輪際信じねぇ」
『マディソン! 動きを覚えるんじゃよ! Xボタンは連打しすぎると壊れるから気を付けるんじゃ……』
 マディソンは暴走宇宙ハーレーで会場を走り回る。後ろに神が乗っていた。神は、ハーレーに乗れる。次の試験に出題されることだろう。
 マディソンはカメラの前を巧みに走り旗を見せる。旗は3枚あった。
 『旅団ローグス・トーク』
 『団員募集中』
 『与太者大歓迎』
 と、そんな文言が書かれた旗であった。
「おい、攻撃してくれないと俺の違法改造ブラスターが乱射できないじゃねーか」

 【人の子は 理解しがたい……】

 邪神が困ったように首を傾げ、針の雨を降らせた。
「違う、そうじゃないんだ、前衛に向けて撃ってるところに援護したかったんだ」
 マディソンはハーレーと神を乗り捨て針の雨を回避した。神がショックを受けていた。

 【そうであったか、すまぬ】
「私も前に出て庇えばよかったですね、すみません」
 邪神とトリテレイアが詫びる。
「気を取り直して、……守ってみせます」
 トリテレイアは脚部スラスターを噴かせて滑るようにマディソンの元へ移動する。
「マディソン様!」
 針の雨が大盾へと降り注ぐ。光の雨が辺りを眩く照らしている。マディソンは蒸気爆発手榴弾を魔王雪像に向けて投げた。雪像を爆破しようと。

「雪像が!」
 咄嗟にトリテレイアは雪像を守るために動いていた。雪まつり会場は彼の守護の対象であった。
「残り2日間のお祭りのために、雪像も守ってみせます!」
 無数の針の雨を受け止めてきた大盾にトドメとばかりに手榴弾の爆発の衝撃が走り、盾がピシリと音を立てて割れた。持ち主であるトリテレイアもまた衝撃に吹き飛ばされ。
「衝突するわけには!」
 魔王雪像を守るためにトリテレイアは咄嗟に長剣を雪地に突きブレーキをかける。同時に脚部スラスターを噴かせて衝撃を抑えつつ、しかし反動で反対側にあった勇者雪像へと衝突。
「やった、壊れていませんよ。セーフですね」
「ぎゃあ!」
 トリテレイアが安堵する。ほぼ同時に勇者雪像の上にいた初瀬が落ちて来た。雪に埋もれ、倒れ伏す隣には先に落ちたヘルメスの姿があった。
「平和な雪まつりだったのに……」
 キッとアイが邪神を睨む。
「なんてひどい!」
 仲間を傷つけ、雪像を狙った邪神を許さない、平和な雪まつりをこれ以上邪魔させない、とその瞳が訴えていた。そして、アイは衛生軌道上に待機している小型宇宙戦艦に指令を送り超高高度からの大型荷電粒子砲の一斉発射をする。
「時間稼ぎです!」
 苛烈な一撃が邪神を襲う。時間稼ぎというにはあまりに強烈な一撃だった。邪神は慌てて勇者雪像へと飛び移る。そして、魔王雪像が大型荷電粒子砲によって破壊された。

「なんてひどいことを!」

 【人の子よ 私は何もしていない気が】

「なんてひどい!」
「守れなかった……!」
 猟兵たちは邪神への戦意を昂らせた。邪神の言い分に耳を貸す者は皆無だった。

 【……ナシラ、ダビー、導きなさい】
 邪神は何かを諦めたように黒い角を放ち、針の雨を大量に降らせた。雨雲から雨が降るが如く長く、厚く、広く光が降り注ぐ。光に紛れるように黒もまた蠢いている。
 【ところで、旅団とは、なんだ】
 邪神が途方に暮れたように呟いた。

●上空
「皆さん、この摩訶不思議な光景、あまりに現実離れをした光景を、見てますか、私は今」
 プロ根性で中継ヘリを説得したリポーターが熱く語っていた時だった。

 番組の画面が突然暗転した。そして、一瞬後。
「会場ではヒーローショーが行われています。
 あまりに大規模なショーに人々は度肝を抜かれ……」

 映像はスタジオで喋るアナウンサーに変わった。

「どういうことなんです? 中継が、」
 リポーターが抗議しようとした時だった。ふいにリポーターは目を虚ろにさせ、ガクリと脱力した。そして3秒後、むくりと起き上がり、きょろきょろと周りを見る。同乗していた他の者も同様だった。
「良い映像が撮れましたね、いやあ、まるで本当の怪異のようでした。技術力がすごい! さ、映像も撮れましたし帰りましょうか」
 中継ヘリは帰っていった。

 SNSは徐々に拡散された動画が消え、事件について触れていた投稿も消えていった。

●戦場
 光の雨が降っていた。

 美麗がお爺さんを守ろうと立ち塞がり、対抗射撃をする。
 ゲンジロウも加わり、オーラを纏って針の雨を防いだ。
「邪神……神ってのは、恐ろしいもんじゃ……縋りたい気持ちもわかる。
 じゃがな、その代償はデカイぞ……」
 お爺さんに背を向けたままゲンジロウが語りかける。
「あの撮影の話、まさか、本当の」
 お爺さんが息を呑む。

 ゲンジロウの故郷。そこで起きた事件。
 仲間だと信じていた者たちは全てUDCであった。
 リーダー核のブロンゴはゲンジロウを騙し、巨大な邪神の召喚を手伝わせたのだ。
「故郷には、悪が蔓延っていた。奴は悪だけを葬ると約束し、俺は騙された。
 ああ、騙されちまったんだよ」
 光の雨を防ぎながらゲンジロウが吐き捨てるように言う。降りやまぬ攻勢にその体はいつしか至るところに傷を負っていた。

 周りを見れば、他の仲間とて同様だ。

 黒の角や針の雨に穿たれ無数の傷を負い、巨躯を血に染め、それでもなお猛る瞳のマニトゥとエルネスト。
 せめて守れる範囲のもとだけでも、と仲間に覆いかぶさるようにし、身を盾にして背に針を受けるトリテレイア。
 守られながら攻撃の機を伺う猟兵が数人。
 アドニード、エウトティアが術の準備をしている。

 全身を覆った甲殻に無数の傷を作り、肌にも赤い筋を作っている祈。だが、攻撃に転じる機会を窺い瞳は強い光を湛えている。

 初瀬も血に染まった顔を拭いもせずにライフルを構える。針の雨が降り注ぎ全身に無数の傷を負わせるが、ヘルメスがそんな初瀬へと『執事給仕術』で尽くしていた。傷が癒え、癒えた端から傷を負い、また癒える。何度か繰り返し、ヘルメスは限界を迎えて意識を失った。

 ゲンジロウは言葉を続けていた。
「復活した邪神は倒された。だが、その一部が知らんうちに俺に入り込んでいたんだ。そいつを今、解き放つ」

 足元の雪は血の赤に染まっていた。言葉を切り、血反吐を吐くとゲンジロウはオーラを最大に高め、シールドガントレットを振る。前方へとオーラの衝撃の波が奔り一瞬針の雨が和らいだ。
「大丈夫、私たちは――ここからが本番よ」
 美麗が励ますように言った。その全身も血に染まっていた。だが、表情は決して曇ることはなく晴れ晴れとした青空のような笑顔だ。
「折角生きてるんだから最後までしっかり生き抜きなさいよ」
 美麗が言うと、お爺さんは頷いた。

「ゲンジロウ、撃て」
 マディソンが宇宙ハーレーを片手で運転し違法改造ブラスターを乱射して支援する。その毛並みもまた至るところに傷を負い、草臥れたレザーコートが血に染まっている。ハーレーには『お前ロードキル』『飲酒運転』『よろしくおねがいします』の旗がはためいていた。
「こういうスリルが堪んねぇから安い報酬で命張ってんだ……」
 マディソンは呟く。
「安くて便利なマディソンおじさんが手を貸すぜ」
 マディソン・マクナマスは紛争地を渡り歩いたと常々語る老猫だった。彼が飲酒を好むのは戦いの恐怖や狂気から心を麻痺させるためだという。
「こんなのはな、日常茶飯事だぜ」

「One shot, One kill!」
 初瀬がユーベルコードを使用し、最後の力を振り絞って銃撃を放った。放つと同時に本人はガクリと気を失い、雪の地に倒れ伏す。
 放った一撃は狙い違わず頭部へ命中し、血の花がパッと咲いた。邪神が大きく揺らぐ。しかし、倒れない。

「忌まわしき邪神の一端がこの身体には潜んでいる……」
 ゲンジロウはユーベルコードを捨て身の覚悟で撃ち出した。飛び出したのは。

 三┌(┌( 'ω')┐ウヒョー!

 とても大切なことだが、ユーベルコード『忌わしき過去の盟約に喚ばれしモノ【斉藤・かける】(ウヒョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)』は正式な認可のもとに運用されている。
 その速度は時速85kmともいわれる。

 【な、なんだそれは】

 邪神は思わず攻撃の手を止めた。
 それは『斎藤』という名で呼ばれた。
 斎藤は空を駆ける。そして、敵を爆破した。
 戦場に斎藤の雄叫びが轟く。斎藤はつぶらな瞳をしていた。口元は意外とひょうきんにも視えるかもしれない。頬は丸かった。姿勢は前傾を通り越して這うようだった。腕は折り曲げて地にしっかりと手をつけ、四つん這いで時速85kmで空を駆ける。爆破ののちは突如芽生えた理不尽な熱い友情の絆でゲンジロウと自身をガッチリと繋いだ。

「どうだ」
 ゲンジロウは眼光鋭くお爺さんに視線を向けた。
 お爺さんは少し困った顔をした。

「狂気が溢れてる、暴力もスゲエ! この世界はもうだめだー!」
 雪に埋もれながら一部始終を見ていたローストが斧を構えて走り出した。そして、再びすってんころりん。

 雪に足を取られ、あおむけに倒れたローストの視界には地上に光る無数の灯りに負けて存在が薄くなっている星が視えた。

「……この世に神はいないのか!?」

 誰か助けてくれ!!
 誰でもいいんだ!!
 コイツを何とかしてくれ!!

 ローストは救世主に祈る。その祈りの強さは、思わず敵が手を差し伸べてしまいそうになるほどであった。
 しかし、敵が手を差し伸べるよりも早く。ローストを救う者が顕現する。

「ヒャッハーーー!! おい、オレの名を言ってみろ!?」

 胸に傷のあるモヒカンがローストの前に姿を見せ、アツイ笑顔を向ける。ローストにはわかった、この男は伝説のモヒカン世紀末救世主だ。

 モヒカン救世主は斧を手に跳躍した。高い。ひと息で雪像の上まで跳んだ救世主はニカッと笑うと邪神へと斧を振り下ろした。それはありとあらゆる理屈を跳ねのけるほどの力のある暴力的な一撃。

 【ガアッ……!?】
 あぁ、世紀末の光はここにあったのだ。

 よろめく邪神のもとへ地上から2つのユーベルコードが迫る。
「そろそろ降りておいでよ♪」
 アドニードが炎の矢を全力で放った。赤い髪が焔の照り返しで燃え立つように輝き、目は尊大な色を浮かべる。
「それとも、怖くて降りてこれないのかな?」

 エウトティアが巫女の霊力と祈りを籠め、紅く輝く精霊光を集束させる。それは、『天穹貫く緋色の光条』。
「おのれ邪神め、許さぬぞ!」
 エウトティアは傷つき、倒れた味方を想う。無茶しおって、と呟くその声には案じる色が濃く滲む。
「これでも喰えい!」

 2つのユーベルコードが敵を包み、爆音が轟く。そして、雪像から何かが落ちる。邪神だ。邪神は雪地に倒れた。
「……やったかの?」
 エウトティアが甘い苺のような目を瞬かせ、フラグを立てた。

 【ま、まだ……】

 邪神はふらりと起き上がる。だが、すぐにでも骸の海に還りそうなほどに弱っていた。

「ちょっと被害が出た気がするけど、人命が無事ならセーフね」
 出力可変式極光砲を威力重視に切り替え、美麗が全力の電撃砲を撃つ。美麗は困っている人がいたら見過ごせない性格だった。お人好しなのだ。
(「でもやっぱり、被害ゼロで終わらせたかったわね」)
 そんな思いは、口には出さない。美麗は負けず嫌いだった。代わりに、全力を籠めた。言葉にしない分、行動に全てを籠め。
「これが私の全力だーっ!」

 彼らを見守りながら蒼衣の剣士が時間を気にしていた。その手にあるカメラに向かい、マディソンが再び旗を見せ、マイクを手にする。
「剣振りしか能の無いならず者、時代遅れの鉄砲撃ち、二流三流の傭兵に、与太者、チンピラetcetc……そういう連中急募」

 邪神に美麗の砲撃が命中し、その体を吹き飛ばす。雪の中をバウンドしながら邪神は地へ転がり、荒れ狂う巨狼のエルネストが鋭い爪でその体を引き裂き、鋭い牙で喉笛を食いちぎった。鮮血が噴く。

 グルルルル……

 唸るエルネストは血に酔うかのように目を煌々とさせ、もう一度牙を閃かせた。
「そろそろ戻ってください!」
 普段とかけ離れた狼の様子に不安を覚えたのかトリテレイアがエルネストに声をかけ、敵から引き離す。エルネストは一瞬暴性に引き摺られて味方に抗いかけたが、徐々に理性の色を濃くしていき、やがて人へと姿を戻した。

 【ギエディ……】
 邪神が祈るように声を発する。だが、山羊はすでに倒されていた。

 【輝き導きなさい! 私のダビー!】

 悲鳴のような声が発せられた。
 邪神の命は今や風前の灯であった。起死回生の一手として邪神は攻撃をしつつ自身の能力を向上できる黒い角の一撃に全てを賭けた。

「その動きは読んでいましたよ」
 トリテレイアは先刻衝突回避のために使用してひしゃげてしまった長剣を投擲し黒い角の勢いを殺した。

「……まぁ、俺達には似合いの場所だよな?」
宣伝は続いていた。カメラには後ほど別録りの旅団風景が差し込まれる予定であった。

 勢いの削がれた黒い角はがっしりと鋼鉄の手に掴まれる。
「よかった。掴めるんですね」
 トリテレイアは言葉とは裏腹に冷徹に音を紡ぎ、滑るように邪神に肉薄するとユーベルコードを放った。黒い角が渾身をもって叩きつけられ、衝撃に地が沈むほど。

「例え第三次世界大戦が起きても、俺達は旅団でダラダラ過ごす。
 明日世界が終わろうとも、俺達は今日管を巻いて酒を飲む。
 ポップコーンとコーラ片手に、特等席で世界の危機を眺めようや」

 宣伝が終わった。
 マディソンはカメラに向かって手を振る。
 エルネストは最後にテロップを追加した。

『この後スタッフが医術でちゃんと救助活動を行いました』

「番組の最後らしく盛り上がりましたね」
 満足そうなエルネストが視線を巡らせれば、邪神はまだ動いていた。

 【盛り上がる……だと】

「……ええ、ええ。人の命を奪う神など認めない。我々の番組で、B級モンスターに成り下がってもらいますよ!」
 エルネストは微笑んだ。それは、勝利宣言。

「私が生まれたところに信仰はなかった」
 静かに歩み寄る者がいた。敵へ。

「誰もが先人の知恵と技術を信じ、理論のその先だけを目指した。だから私が手を結び祈る神は、いない」
 艶やかな黒髪。月光を集めたような金の瞳。
 當良邑・祈。

「人は、人の世は。幾度となく間違いを繰り返しても、それでも続いてきた」
 暗器を持つ手は腕から滴る血で濡れている。だが、己が傷を祈は全く気にしていなかった。祈が気にしたのは。

「すぐに楽にしてやる」
 少女の両脚は機械に置き換えられている。4本の脚と2本の刃で淡々と近寄り、祈は瀕死の敵を見下ろした。そして、機械脚で切り刻む。
 悲鳴があがり、やがて沈黙した。

 敵は滅びたのだ。

「一般市民は……」
「雪像は」

 怪我をした市民はいなかった。あるいはUDC組織の者が手を貸してくれていたのかもしれない。
 雪像はボロボロになっていた。

●終幕
「癒しのユーベルコードが使えるよ♪ みんなテントの中にでも、一回避難して落ち着こう?」
 アドニードが提案し、一行は意識のない猟兵を抱えてテントに移動した。

「SNS、どうなっているかしら」
 美麗が不安げに端末をチェックする。しかし。
「……全く話題になっていないわね」
 昼間にチェックした『怪しい2人組がホームレスに2500円を握らせていた』の話題も消えていた。

「まあ、その。大丈夫そうなら……帰るか」
「仕事は、終わったしな」
 怪我が癒え、テントから外に出る猟兵たち。

「「あ」」

 テントの入り口に生首雪像が並べられていた。
 一列に並んでいるそれは、12個あった。
「入った時には、なかった――」

【――許さないぞ! 大魔王!】

 勇壮なBGMと有名声優によるセリフが大音量で流されている。
 見ると、壊れた雪像の周りにちらほらと人が戻ってきていた。壊れた雪像が光を纏う。

【みんな! 下がってくれ! 魔王が攻撃をしてくるっ】
 人々は誰も下がらない。
「壊れてるー」
「この雪像、今日までだったんだ? 壊すところ見たかった」
「音と光がシュールだね」

 人々は写真や動画を撮り、楽しそうに笑っていた。

 猟兵たちが言葉を交わした一般市民たちは悉く姿を消していた。家に帰ったのかもしれないし、現地組織の者により保護や記憶消去措置を受けているのかもしれない。
 過ぎた時間は、戻ることはない。
 それは、思い出となり残るかもしれないし、忘れられてしまい、残らないかもしれなかった。

 頭上では都会の光に負けそうになりながらも光を放ち続ける星があった。地上に悩める人々があり、空に星が瞬くかぎりカプリコーンは蘇るだろう。
 それは、そんな神であった。

ふと、マディソンの袖を引く小さな手があった。なっちゃんだ。小さな女の子は、兄に見守られながら一生懸命に猟兵を見上げ、尋ねた。
「旅団って何?」
その瞳はキラキラと輝いていた。

●結

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年03月01日


挿絵イラスト