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かばねの山におもいを託し

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 町。
 町があった。
 周りを壁で囲ったその内には、無数の家屋が立ち並び、幾つもの炊事のための煙があがっている。
 子供達は笑いながら走り回り、大人たちは汗水垂らしながら日光を殆ど必要としない食用菌類や苔、それを食む家畜の世話に従事する。そこには圧政に苦しむ暗い影もなかれば、強制されている悲壮感もない。
 ごくごく普通の労働と、それにともなう繁栄を享受している人々の姿があった。
 異常な光景だった。
 ここはダークセイヴァー世界。
 人は家畜であり玩具であるはずだった。

●グリモアベース
「今回の仕事はダークセイヴァーのある町の調査。その結果オブリビオンが居るようなら撃破になる」
 藤堂・藤淵がやってきた猟兵達に端的に述べる。
 はしょりすぎだ。
 猟兵達が詳細を求めると、面倒臭そうにグリモア猟兵が再度口を開く。
「ダークセイヴァー世界にある噂がある。『希望の町』つーてな、そこに行けば圧政に苦しむ事もなく、生命を脅かされることもなく、毎日飯が食えるんだそーだ。で、俺がたまたまその町っぽいのを見つけたってわけ」
 町である。
 村ではない。
 人口、家屋の数、そして防御施設。
 全てが村という範疇を超えていた。
 猟兵達が不思議そうに首を傾げる。
「うん、おかしいよな。なんでこの世界で発展することが出来たのか。奪われることもなく、ここまで発展出来るわけがねえんだ、ことダークセイヴァー世界ではな。唯一可能性が有るとすれば、オブリビオンに対抗出来る何がしかの存在が、この町にはあるってことだ」
 猟兵だろうか。否。登録されていない猟兵は存在しないはずだ。そんな町を治める領主がいたとしたら猟兵を調べればわかるはずなのだ。だが、それは無いという。となれば。
「オブリビオン」
 化け物に対抗できるものは化け物以外に有り得ない。他の化け物の縄張りならば、新たな化け物はやってこない。当然の話だ。
「そ。だからお前さんらはこの町に潜り込み、オブリビオンをあぶり出してもらいてえ」
「目星くらいないのか。無作為に探せと言われても……」
「そうだな。人から話を聞くのが一番だが……でかい建物虱潰しに当たれば何かでるんじゃねえの? ガキがたくさんいる孤児院? みたいなのと、長者だか町長だかが居るっぽい建物とか。こういう時、昔からいたっぽい老人から話がきければ話は早いんだが」
「何か問題が?」
「少なくとも俺がぱっと視た限りでは年寄りはみえなかった。精々中年まででな」
 藤堂の後ろに見えるその町の風景からは、確かに老人らしきものは確認できなかった。
「ダークセイヴァーの環境、人類の文明レベルで長生き出来ないってのは確かにわかるんだが、そういったって限度がある。見渡す限り若いのしかいねえってどういうことだ? 何よりここまで栄えている町なら爺婆が生き残れる確率は高くなるはずだ」
 過去の歴史を紐解けば働けなくなった老人を遺棄するような事例はないわけではないが、それは生活に困窮した者たちの苦肉の策だ。この町の豊かな見た目にそぐわない。

 1,明らかなオブリビオン被害が視られない点。
 2,老人が存在しない点。
 3,奇妙な繁栄をしている点。

 この3点から調査するに値する、と判断された。
「ああ、一応言っておくが、この世界で普通に聞き込みしようなんて思うなよ。俺らはヒーローでもなんでもねえ。余所者で、不審者と変わりがない。下手すりゃ追い出されるか売られるからな。それじゃ、まあ頑張ってこい」


サラシナ
 数あるシナリオの中から拙作に目を通していただきありがとうございます。サラシナと申します。
 本作は奇妙な町の調査依頼となります。
 この町で何があったのか。
 正解のルートはごくごくシンプルです。
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第1章 冒険 『嘘と真実』

POW   :    腹を割って話す

SPD   :    隠された手がかりを探す

WIZ   :    複数の情報から正解を推理する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

八上・玖寂
偲(f00203)と。
壁まであるとは。よほど財政が潤っていると見えます。
……そうですか。そうですね。

何かした他所者が売られるような町なら、人攫いくらいいるかもしれませんね。
偲を一人で町歩きさせて、僕は【目立たない】ように隠れながら監視します。

彼女が人気のないところに連れていかれたりした後に合流して【情報収集】ですかね。
殺しはしませんよ。そうしたら意味がないでしょう。少なくとも今は。
偲、少し向こうを向いていなさい。気分が悪くなりますよ。


※アドリブ歓迎


八上・偲
玖寂(f00033)と一緒に。

希望の町。平和。
そんなの、この世界にあるわけないの。

きょろきょろ辺りを見回しながら、ひとりで町の中を歩いてみるの。
何か変なものがないかも気にしつつ。

話しかけられたら、困った顔で
「お父さん、どこかにいっちゃった……」とか泣きそうな声で言ってみたり。
どこかへ連れていかれそうになっても素直に言うこと聞いて着いていくね。

死ぬ・殺されると思ったら:【属性攻撃】で燃やす

玖寂が何かしてる間は邪魔しないようにしとくね。


※アドリブ歓迎


イルナハ・エイワズ
騒ぎを起こして売られればそれで解決な気もしますが
折角のダークセイヴァーの町ですから散策をしましょう

散策中は邪魔をされないよに目立たず行動します
町へは霧の外套を使って気が付かれずに入り込みましょう
中へ入ったら解除します

町の中で観察するのは防衛設備
武器などを扱っている店や施設
武器を扱う訓練を行う設備あたりです
町の人々に防衛能力はあるのでしょうか?

町の中はさらっと通過する感じで町の外れへ進みましょう
本命は墓地
墓地の有無、町の規模に見合っているか
墓地が無い場合には壁の外をぐるりと周って野生の獣の有無を調べます
人を襲う獣はいるのでしょうか?
話が出来る子ならいいですね

ユルが疲れたら抱っこして移動しましょう


鹿忍・由紀
繁栄することが奇妙なこと扱いだなんて、本当に良いところだね。

【SPD】
自然に話を聞くのは難しそうだから俺は他の手掛かりを探そう。
オブリビオン被害が老人がいないというかたちで現れてるんだろうけど…目立たないように町を偵察して見た感じとりわけ年長そうな人に対象を絞ろう。
ユーベルコード「追躡」で対象を観察して何か怪しい行動や、手掛かりになりそうな話をしていないか確認する。
「追躡」だけじゃなくて自分の足でもまた別の対象を探して聞き耳とかで情報をかき集めよう。
ハズレだった場合や情報が足りなさそうな時はまた更に別の対象を探そう。
自然な会話術があればこんなに面倒なことしなくても良いのになぁ。


四王天・燦
SPDで調査。
町人同様の服装で目立たないこと第一

先ずぶらり歩き。
家屋から町の古さを推測。
病人の有無も見ておく。
綺麗な箱庭か、健康体を集めた人間牧場か

さて盗賊の本懐は此処からだ。
楽しげに鍵開け・忍び足・目立たないで町長など有力者の家に忍び込むぜ。
誰かが町長と話をして気を引いていれば好機。
人がいて難しければ孤児院などに狙い変更

探す情報は
・住人の過去、町の歴史
・壁が出来た経緯
・孤児の受け入れ元
・後援者の存在
・人の本音
不審な物はチェック

金目の物は
(この装飾品、エンパイアにはない宝石だ!)
だが発覚を遅らせる為にも涙を飲んで我慢…

この平和。
オブリビオンを倒しても恨まれるな…
確かにひーろーでも何でもねーぜ


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】で参加
ダークセイヴァーで人類が繁栄できる…ある程度目星はつきますが、今回はどのオブリビオンなのか…

「世界知識」「礼儀作法」を駆使し「『希望の町』の噂を聞いて、自らの領地の運営に活かしたいと考える領主に仕える騎士」と振舞い、情報を収集しましょう。
調べる場所と人物は、医療関係施設と従事者、そして墓地と管理人、そして真実に近い子供達です。老人がいないとしても、突然全員が蒸発していない限り、過去には必ずいたはず。彼らにその行方を尋ねましょう

質問した際にセンサーで呼吸、体温の変化等を「見切り」怪しいと感じた人物はリストアップ。そのリストはフォルター様に託しましょう
調査は彼女の方が得意ですからね


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
〈目立たない〉ように街に潜入。服装も地味なものを選んで、街中でもなるべく人目に付かねえよう行動。
大きい街みてぇだし、いざという時身を隠す場所を一応確保しておく。

街に人間以外の動物が居るか探して、可能なら〈動物と話す〉技能で情報を引き出してみる。
接触できそうな動物は牧場で飼われている家畜とか、人が多い場所の近くにいる犬や猫、カラスとかかな? ペットがいると善いけど。
動物視点で見て近寄り難い場所があるか、見知った人間で最近顔を見かけねえ奴がいるか、この辺の情報が仕入れてぇな。

あと次善策で、《彷徨える王の影法師》で街の様子を隅々まで観察。

有力な情報が手に入ったら、他の皆と共有するぞ。


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

【古城】にて参加

この安穏とした空気、不信感の籠らぬ緩んだ眼差し…実に胡散臭い、畜舎にあるまじき場所だ
…新たな繁殖方法を見つけたか、試している最中、というところか?

何にせよ、まずは調査からか
闇雲に動かず、トリテレイアが調査した怪しい人物の情報を持って来るまでは大人しくしておこう
情報を受け取れば、本格的に行動を開始する
そうだな…希望の町の噂を聞いて訪れたものの右も左もわからない、案内して欲しい、とそっと手でも触れてやろう
いつもの如く、誘惑・恐怖・言いくるめ・催眠等を駆使し、更にUC:ヴィーゲンリードで駄目押しする
知っている情報を全て吐かせ、怪しい場所があれば案内させるか

※アドリブ歓迎


リーヴァルディ・カーライル
…ん。闇に覆われた世界で希望の町だなんて…。
随分と、奇妙な話もあったものね。

猟兵の存在感を消す呪詛を自身に付与。
希望の町の噂を聞いて来た旅人に変装する。

この町で一番大きな町長の屋敷に向かう際、
猟兵を見かけたら同じ呪詛を施して同行する。

…猟兵だと気取られると厄介。

無口無表情な普段と違い礼儀作法に則り町長と会話を。
第六感で町長に疑われないように見切りつつ、
吸血鬼の領主の元から逃げてきた事を告げ、
この『希望の町』に移り住みたいと思っている事を話す

…その上で、不安そうに町の領主や防衛について聞いてみよう。
どうして、吸血鬼の圧政を受けていないのですか?と…。

危険が迫れば【吸血鬼伝承】で霧になって一時撤退




(希望の町。平和。そんなの、この世界にあるわけないの)
 八上・偲は1人、町の中を歩いていた。
 キョロキョロと視線を落ち着きなく走らせて、どこに向かうでもなくふらりふらり。
 迷子のようにしか見えない所作である。
 それもそのはず、彼女達の狙いはそれ。
(他所者が売られるような町なら、人攫いくらいいるでしょう)
 八上・玖寂による策だ。彼は養い子である偲を囮とし、その背後、物陰に潜み目立たぬよう監視を続けている。
 実行犯をうまいこと捕まえられたら、色々と『お話』をさせてもらおうと思ったのだが。
「あら、どうしたの?」
「お、お父さん、どこかに、言っちゃったの」
 1人の女が泣き真似をする偲の前にしゃがみ込み話しかけてきた。まだ若い。20から30の間といったところか。
 温和な顔立ち、身なりもまともで犯罪に加担しているような輩には見えない。
 だからこそ怪しいといえば怪しい。犯罪者が犯罪者めいた格好をしている方が珍しい。
「迷子かしら? 自警団の人に聞いてみようか? ねえ、お名前はなんていうの?」
「偲。ねえ、おばちゃんお父さん探して」
「そっか。じゃあ偲ちゃん、ちょっと一緒に探しに行こうか」
 演技としてはそこまで上手いというものではなかったが、持ち前の愛らしさと魅力により女性は偲の言うことを信じたようだった。
 うまく行った、と言って良いものか。
 これで路地裏にでも連れて行ってくれたら企図した通り情報収集も出来るのだが……。

 結局普通に自警団の詰め所に連れて行かれてしまい、仕方なく玖寂が保護者として名乗りを上げて保護する形になった。
「人攫いじゃなかったね」
「……糸を垂らすポイントが悪かったのかもしれませんね。次は場所を変えてみましょう」

 今度は路地裏。スネに傷がある連中なら絶好のスポットだろうと踏んだのだが。
 今度は孤児院に連れてこられてしまった。
(犯罪に加担しているわけではない? ではなぜ発展を?)
 八上両名に疑問符が乱舞する。完全な見込み違いだ。
 まあ仕方がない。連れてこられてしまったからにはここで情報を集めてみようと、暫くそこに潜入して過ごすことにした。

 暫くして、外にいる玖寂と合流した偲が1つ情報を掴んできた。
「女神様、ですか?」
「うん。この世界で聞いたこともないお噺だったから気になって」
 孤児院の職員曰く。
 昔々、人々がヴァンパイアに敗北した後の話。
 世には暴力と絶望が溢れ、人は人として生きていけないまでに追い詰められていた。
 ここもまた同様で、明日食べる物にすら困窮する有様だったのだという。
 人を喰らうか、人を売るか、それとも人から奪うか。そこまで困窮していたらしい。だがその時、女神が現れて人々を救った。
 女神は人々に暴力と絶望に打ち勝つ力を与え、恩寵を与えた。
 人々は化け物たちを追い払い、森を切り開き、地を耕し、発展をして今に至る。
 めでたしめでたし。
「神話、というよりもこの町の歴史、ですね」
「うん。繁栄した理由はその女神様にあるんだって」
 どこか皮肉げな響きが、彼女の言葉に乗ってしまったのも無理もない。
 この世界の住人であった彼女にとって、そんな救いなど有るはずがないと確信しているのだから。
 でなければ、彼女は生まれなかった。存在しなかったのだから。
「偲」
「あ、うん」
 想い沈みそうになる偲を玖寂が止めた。
「その話、少し調べてみる価値はありそうですね。女神様、居るものなら会ってみたいものです」
「きっとろくでも無いのに違いないけどね」
「だからこそ、ですよ」
「玖寂趣味わるーい」
 一転して明るい声を出しながら、偲と玖寂は再度町を探索しに行くのだった。



(騒ぎを起こして売られればそれで解決な気もしますが……)
 イルナハ・エイワズが【霧の外套】を使って完璧な隠形により町に侵入を果たした。
 光学的に完全な透明化、さらに忍び足も使っている彼女を見つけられる者は赤外線か、もしくは超音波、臭いで物を知覚する生物くらいだろう。
(まあ、せっかくのダークセイヴァー世界、しかも稀有な発展事例ですし観察させてもらいましょう)
 ユルと共にのんびりと観光気分で見て回る。
 壁には自警団らしき者たちが巡回している。足運びや装備を観察するに程度は悪くはない。きちんと訓練された人間の動き方だった。
 とはいえ。
(あれではヴァンパイアとまともに戦えるとは思えませんね)
 悪くはないどまりだ。突き抜けた力が有るようにも、ましてや歴戦の風格というか経験が見えるようなことがない。
 あれではヴァンパイアの前では木っ端と変わりはないだろう。
(やはりオブリビオンの関与は確定、ですかね?)
 暫く歩き回っても、とくに強者といわれるような者も、特に優れた防衛施設が有るわけでも無かった。
 精々盗賊か野獣、うまくすれば魔獣相手くらいにならいい勝負ができるかも、といったレベルでしかない。

 次いでエイワズは墓地へと赴いた。
 見渡す限りの墓。まばらに見える人は墓参りに来ている者たちだろうか。
 墓守のような者は今のところ見えない。好都合だ。これから調べ物をするのに下手に邪魔されても困る。
 当初は墓の数から何かわかるかと思ったが、正直どの程度が適正なのか世界知識を持っていても容易には判断ができない。
 町の歴史と文化、人口データが無いと適正値が出ないからだ。
 軽く見た限りでは、多い。それだけは確かだ。土葬文化で個人ごとに墓が有るからか、あるいは……。
 それとは別に面白いことがわかった。
(……25歳。31歳。37歳)
 墓石に刻まれた生没年からわかる死亡した年齢が明らかに若い。
 流行病でもあったのだろうか。それにしては40以上生きている者が殆ど居ないというのはどういうことか。
 殆どのものが40を迎えること無く死んでいる。まるで短命の種族であるかのように。
「ユル、どう思います?」
 答えはない。相棒の竜の子は、いつのまにか丸まって眠りこけていた。
「……」
 随分と退屈をさせてしまったようだ。仕方ないとユルを抱えあげてやるのだった。


(繁栄することが奇妙なこと扱いだなんて、本当に良いところだね)
 皮肉げな内心を隠すこと無く口の端を歪めたのは鹿忍・由紀。
 彼は町に潜み、年嵩の者を尾行していた。
 己の術【追躡】による影の黒猫は、彼とはまた別の男を追跡している。
 対象は中年の男性。30か、40か。農作業で疲れきったその顔立ちからは正確な年齢が読み取れないが、随分とくたびれた印象を受ける。
(自然な会話術があればこんな面倒なことしなくても良いのになぁ)
 何が悲しくてむさ苦しい中年男性の背中を凝視し続けなければ成らないのか。
 とはいえ、これも仕事だと萎える心を奮い立たせて観察を続ける。
 出来ることならあからさまに怪しい人物や、それこそオブリビオンにつながる行動をしてくれたら助かるのだが。

 暫くつけて回ると、男は自宅へと引っ込んだようだった。妻が1人、息子が5人。
(子沢山だな)
 特に裕福なようには見えないのに随分と励んだものだ。
 影ならともかく、自分自身は流石に家の中まで入って観察するわけにもいかない。
 外から聞き耳をたてながら様子を伺っていると、変化が訪れた。
 男が、死んだのだ。
 疲れたといってベッドに倒れ込むように寝入ってすぐのことだった。
 まさかこんなことになるとは。
 老人がいないという事そのものがオブリビオンの被害なのだろうとは思ってはいたが。
 人が死ねばそれなりに騒がしくなる。自身での観察を切り上げて、影を使って張り込むことにする。
 結果、わかった事実に今度こそ鹿忍は驚愕を顕にした。
(寿命、だって?)
 縁者や隣近所の者たちが口々に大往生だ、よく頑張ったと口にしているのだ。
 確かに随分くたびれた印象の男だったが、それだって中年程度。60や70といった年齢でもないというのに。
 まるでそれが当然のように家族も周りもそれを受け入れて、粛々と葬儀の準備に取り掛かるのだった。
(なるほど、それがここの常識。この町の、ここの人達の異常、か)
 オブリビオンによる被害。まずこれで間違いないだろう。


 町の噂を聞いてやってきた騎士、そんなカヴァーストーリーで町に入ったトリテレイアは首を傾げていた。
(おかしい)
 まさかすんなり入れるとは思っていなかった。
 異国の騎士ならば証をみせろ、くらいは言われると思ったのだが。
 化け物でないならいい、とでもいうような警備のぬるさだ。
 基本的に荒廃したこの世界における驚異は魔獣やヴァンパイアだけではない。
 貧した人間すら敵となるのだ。
 彼らは自らの飢えを凌ぐために人を襲い略奪し、食らう。盗賊の正体が隣村の者だった、なんてのはよくある話だ。
 化け物に支配されていない世界でさえごく普通に起こりうる問題を、まさかこの町で警戒していないわけはないのだが。
(私が盗賊の仲間だったら、中から破壊活動をし放題ではありませんか)
 門を内側から開ける。巡回の自警団を始末する。もしくは巡回予定を掴む。やりようはいくらでもあるのだが。
(それだけ自らの力に自信があるのか、襲われたことがないからザルなのか、どちらですかね)
 奇妙な違和感を胸にトリテレイアは調査を開始する。
 子供。
 空振り。
「お父さんたちはね、死んじゃったんだよ。お父さんのさらにお父さん? そんなのもうずっと前に死んじゃったにきまってるじゃん」
 医療従事者。
 空振り。
「え? なんで老いた者が居ないか、ですか? 人は老いれば死ぬでしょう。当たり前のことですが……。ええ、私はこの町生まれでこの町で教育を受けたものです。それがなにか?」
 墓地の管理人。
 空振り。
「若くして死ぬ理由? いや、死ぬのは当たり前だろ? お前さんところは違うのか?」

 町の中にある酒場。その奥まった席が2人の合流場所だった。
「芳しくない結果になった、そんなところか? トリテレイア」
「私はそれほどわかりやすいですか? フォルター様」
 フォルター・ユングフラウが血のように赤いワインを片手に聞き込みの終わったトリテレイアを出迎えていた。
「昨日今日の付き合いではない。雰囲気くらいはわかるようになる。で、詳細を聞こうか」
「この町では少なくとも老人なるものは存在しません。そして、そこまで生きた人間というものを見た人がいません。皆死ぬのだそうです」
「んん? どういうことだ」
「そのままの意味です。この町の人間は皆、短命なのです」
「生贄にしているわけでも、連れさらわれるわけでもなく、死ぬ?」
「ええ、それが寿命だと信じ切っているようですらあります。誰も嘘をついている兆候がみられませんでした」
「馬鹿な。これだけまともに食糧もありそうな町で、短命? 栄養失調でも病でも無く?」
「はい。医者、といっていいのかはわかりませんが、この町の者はそう言っていますね。寿命であったと」
「ヴァンパイアの新たな実験施設か、人間の養殖施設のようなものを想像していたのだがな」
 呆れたようにため息1つ。ユングフラウがグラスを空にする。
「どうしましょうか?」
「少し待て」
 空になったグラスを眺めながら思考の海へと埋没する。
 短命の種族だったのか? 否。明らかに違う生き物であったならば、相棒であるトリテレイアのセンサーが何か異常を掴むだろう。グリモア猟兵からもそういった情報は出ていない。
 病の可能性は? 小さな集団でのみ流行り、そのままそれが常識となることは十分に考えられる。
 だが、だとしたらオブリビオンとは無関係なのではないか。
 短命であることとオブリビオンは全くの無関係という可能性も無くはないが、グリモア猟兵が予知して向かった先で、まったく別の問題が発生している。そんな事が起こりうるのだろうか。
 わからない。保留。
 関連が有るものとして考えてみるならばどうだ。
 オブリビオンによって人の寿命が著しく短くなる理由はなんだ。
 生命力や寿命を吸収するオブリビオンなのだろうか。
 十分有り得る。だが何故発展している。ただの餌ならば食らい付くしてまた別のところへ行けばいいではないか。
 まさか人のように畜産にでも目覚めたか? 過去にそういう事件に遭遇したことはある。だが、状況が違いすぎる。なにより人が現状に違和感を持っていないのが解せない。
「そうであると洗脳、もしくは教育した下手人が存在しなければこのような状況は生まれ得ないのだが」
「フォルター様、今洗脳とおっしゃいましたか?」
「ん? ああ、そうだが。何かあるのか?」
「いえ、今回の事件に直接関係があるのかはわかりませんが……以前そういう事件に関わったことがあります」
 トリテレイアは語りだす。かつてあった教団と『楽園』、その末路を。
「女神ラグナソピア、か……」
 忌まわしきオブリビオンの名を、ユングフラウは反芻した。


 基本的にダークセイヴァー世界のコミュニティに潜入するのは容易ではない。
 人同士でさえ騙し合い喰らい合う世界では、人だからといって信用するには値しないからだ。
 鏡島もそれを重々承知しており、目立たないよう注意しながら町の中へと侵入していた。
 そうして入ってしまえば規模の大きい集団というのは楽なものだ。
 集落のような小集団では余所者はすぐにバレるが、町規模になれば知らない人間がいたからといってすぐに通報されたりはしない。
(さて、動物動物っと)
 そんな事情もあって、鏡島は悠々と目的となる存在を見つけることに成功した。
『あん、なんじゃあお前』
 猫だった。随分とやさぐれた雰囲気の雄猫。
 彼は丁度荷物の上で丸くなっており、此方を見下すような位置に居た。
『あー、いや、ちょっと調べ物してて。話きかせてもらえないかなあって』
『おう坊主。物を頼むときはそれなりの礼儀っちゅうもんが必要なのわかっとるか? あぁん?』
『お、お願いします。教えてください』
『そういうこっちゃねえんだよ。わかってねえなあ。これだから若いのは』
 テシテシと尻尾で頬を叩かれる。髭を引っ張ってやろうかと一瞬思ったがなんとか耐える。
『な、何をすれば』
『ん』
 猫の鼻面が示す方向にあるのは食料品店。
 合点がいった。出すものを出せ、そういうことだろう。

『居なくなったやつは知らねえが、近寄りたくねえとこなら、あるな』
 あぐあぐと、鏡島の貢物を食しながらの雄猫。
『人間どもの長の家だ。あそこは臭くて臭くて近寄れっていわれても嫌だね。薬草だかなんだか、よくわからねえツンとした臭いがすんだ』
『薬師とか、なのか?』
『知らねえな。ただ坊主、アイツに近寄るなら気をつけろよ。たぶんありゃまっとうな生きもんじゃねえぞ』


 町長の家を聞き出して向かった先に居たのは、1人の旅人然とした少女だった。
「……ん。あなた、猟兵ね」
「ああ、ベースでちらっと見たな。お前も町長んとこに?」
「……そう。行くなら、一緒にいく?」
 鏡島と会話しているのはリーヴァルディ・カーライル。
 彼女は自身と同じ呪詛を鏡島にもかける。
 猟兵の力を欺瞞する呪いだ。焼け石に水かもしれないが、しないよりずっといいことを彼女は経験から知っている。
「……猟兵だと気取られると厄介」
「なるほど、そりゃそうだ」
 道中、村長がもしかしたら人ではないかもしれないと鏡島が報告しているうちに、そこについた。

「私は遠い村から逃れてきたものです。噂でこの町は吸血鬼の支配を受けていないと聞いて。……よろしければ、この町に置いていただけないでしょうか」
 カーライルは常の無口無表情を礼儀作法で塗りつぶし、町長と名乗る男と交渉、と言う名の情報収集を開始した。
 鏡島はいざというときのために脇に待機している。
「構いませんよ。ここはいつでも人手不足でして。まっとうに働いてくださる方でしたら歓迎します」
 猫からの情報のとおり、部屋には奇妙な臭いが充満していた。鼻が曲がる、という程ではないが心地の良いものではない。
 また町長自体の風体もいただけない。
 全身を覆うローブに目深に被ったフード、そして手袋。まるで皮膚を露出したくないかのような出で立ちである。
 殆ど顔が見えず、ちらりと覗く部分も隙間なく包帯で隠れていた。
「あの、不躾ですがその包帯は、お体に何か」
「古い傷です。見苦しいので隠しているだけで、今はこの通り、動かす分に支障はありませんよ」
「なるほど。ところで話は変わるのですが」
 住むにあたり不安であるからと前置きを置いて、防衛にどの程度気を配っているのか、また吸血鬼の支配がなぜないのかを問うた。
「我が村には女神様がおりますので。それに、不届きな侵入者を誅するくらいの戦力は我々にもあります」
 空気が、変わった。ぎしりと空間がひび割れるように。
「どういう、ことでしょうか?」
「大方、盗賊の間者か何かか。町に入る人間は全員チェックしている。馴染みの商人でも何でも無い人間が、この短期間に何人も入ってきて、我らが警戒しないとでも思うたか。うろうろと聞きまわったり調査をしているのはわかっている。しかも防衛設備の説明をせよとまで言われてはなぁ。馬脚を表したな、こそ泥。浅はかなことよ」
 町長がこの時初めて顔を上げて、しっかりとカーライルと正対した。
 がらんどうの瞳。比喩ではなく、本当に瞳がないのだ。
 有るのは爛々と光る鬼火のようなナニカ。
 化け物だ。
 カーライルと鏡島が腰を上げる。
「逃さんよ」
 町長が言うが早いか、床から手が次々に生えてくる。それらは全て腐れ爛れた、見るも無残なものだった。
「貴様らのような盗賊の慣れの果てよ。仲良く朽ち果て、戦列に加わるが良いわ」
「お生憎! まだまだ腐れるつもりはねえんだよ!」
 カーライルは霧と变化して戦線離脱。
 鏡島は震える足を叱咤して、立ちふさがるゾンビの群れを切り開いて町長の家から一旦退避を図る。
 まさかこれ程の力があるとは思っていなかったのか、囲いはあっさりと破れ2人は無事鏡島が確保していた安全地帯へと退避することに成功する。
「逃さんぞ! 町を、町を守るのだ!」
 遠く、何者かに檄を飛ばす町長を尻目に遁走。
 情報としては十分。
 町長は敵。しかもゾンビだ。ならば後は猟兵達を招集し一気に潰してしまおう。


 時は少し遡る。
(ん? 客かな? やーり。天はアタシに味方せりっ!)
 四王天・燦だ。
 彼女は町を観察した後であった。得られた情報は多くはない。
 精々町が数十年をかけて発展したものであることと、病人が殆ど居ないこと。
 人間牧場である可能性は少ないように見えたが、確証はない。
 で、あれば。
 一番事情をしっていそうな町長の家に潜入するしかないと足を運んだのだった。
(誰だか知らないけど探し終わるまではひっぱってくれよ、っと)
 鍵開けをして裏口から侵入。ぬきあしさしあし、家人に発見されぬよう目ぼしい部屋を探し歩く。
(間取り的に、今来客を相手してるのが応接間なら……ここらへんに……あったあった)
 書斎、というよりも町長の私室といったところか。
 早速机と棚を片っ端から物色していく。
 目当てとするのは町の歴史や詳細なデータ。後援者や孤児に関しての覚書でも有れば尚良しといったところ。
 目ぼしい場所を虱潰しに探して、それを見つけた。
 羊皮紙の束だ。
 軽く目を通すと歴史というよりも町長自身の日記、のようにも見える。
 長として就任してからの事が淡々としながらも丁寧に書かれている。几帳面な性質なようだ。
 だが、どういうことだろう。この膨大な数は。
 流し読みですら短時間で読破は不可能と思われた。
(というか文字、書けたんだ)
 存外教養のある人物らしい。識字だけでなく計算や、たまに見えるこれは魔法陣のたぐいだろうか。魔術や薬学にも通じているようだった。
 違和感。
 書いた日もあれば書かなかった日もあるのでなんとも言えないが、これは10年や20年でかける量ではないのではなかろうか。
(まって? 確かこの村って老人はいないんだよな? となると町長だって中年くらいだろうし、まさか子供の頃に町長に就任したとかそういう?)
 計算が合わない。意味がわからない。しっかり読んでみようかと、最初から文字を追おうとしたところで。
 破砕音と怒声。
 戦闘の音だ。
(まっず。なんかトラブった?)
 とあれば長居は出来ない。使えそうな資料を片端から詰め込んでいく。
(あっ、これエンパイアには無い工芸品!)
 今更資料を盗っているので1つ2つ拝借したところで変わりはしないだろうが。
(入らない!)
 残念なことに膨大な資料の為に彼女のバッグは許容量オーバーで、とてもではないがこの珍しい工芸品にまでは入りそうになかった。
 事件の手がかりを捨てるか、金目の物を捨てるか。四王天は高速で頭を回して悩みに悩んで、泣く泣く工芸品を元の位置に戻して部屋を後にするのだった。
 できれば、全部終わった後にまたこれたらいいな、などと思いながら。


 猟兵達は鏡島が確保したセーフハウス、打ち捨てられた荒屋に集結し、情報を突き合わせていた。

1.町の人間たちが短命であること。
2.町長がゾンビであったこと。知能はあるようだ。
3.その後ろにはオブリビオン、もしかしたらラグナソピアと名乗る女神がいるかもしれないということ。

「そして、この日記」
 四王天のお手柄だった。
 膨大な羊皮紙の束を全員で読み解いていく。
 それは町長と、この町の辿った物語だった。


 地獄。
 地獄があった。
 人類がヴァンパイアに決定的な敗北を喫してから、国家は崩壊し、交通網は分断され、日は陰り、人は人らしく生きることが困難となった。
 ある村では子を喰らって飢えを凌いだ。
 ある村では仲間を人買いに売ってパンを買った。
 ある村では飢餓で全滅した。
 ある村では隣村の者に襲われ食糧と命を奪われた。
 ある村ではヴァンパイアに、魔獣に戯れに虐殺された。
 この世は暗く閉ざされた。
 男が長を務める村も例外とはならなかった。
 女神が降臨するまでは。
「あなた達が富み、栄えることを約束しましょう。悪しきものから守る加護を授けましょう」
 女神の恩恵は絶大だった。
 あれほど驚異的だった魔獣は女神を恐れてろくに近づかなくなり、人々は活力を取り戻し、昼と言わず夜と言わず働き続けることが出来た。
 出来てしまった。
 老人までもが10人力を発揮し、森を開墾し、田畑が広がった。
 若者達が武器を取れば野獣や盗賊程度なら容易に撃退することが出来た。
 人々は飢えと恐怖から開放された。
 だが。
 異常に気がつくのにそう長い時間は要らなかった。
 人が死ぬのだ。
 火が消えるように不意に。
 女神の加護は人の限界を超える力を与えてくれる反面、体を恐ろしい速度で蝕んでいたのだ。
 若いうちはまだいい。だが、少しでも衰えればその疲労と体の崩壊に回復が追いつかなくなり、死ぬ。
 なんという呪われた力か。
 神などおらず、あの女神は邪神の類だったのだろうか。
 しかしどうする。
 男は、村人たちは悩んだ。
 女神の力に縋ればいつか、必ず死ぬ。だが、女神から仮に逃げおおせたとして、あの超常の力無しで自分たちはこれから先、生きていけるのか。
 荒んだ人の、飢えた魔獣の、傲慢なヴァンパイアの驚異に対抗できるのか。
 もし自分たちに驚異をはねのけられるだけの力があったら、悩むことは無かったろう。
 女神の呪われた力などに縋らずに、当たり前に生きていけばいいだけの話だ。
 だが今この世界で、当たり前に生きていくことは不可能だった。
 村人たちは決断を迫られた。長いこと話し合った。
 そして、決断をした。
 ただ無為に殺されていくよりは、少しでも可能性のある道を選んで死のうと。
 いつかヴァンパイアを、この女神を、倒せる何者かが現れる未来まで、血反吐を吐いてでも、子孫たちへ未来を残そうと。

 まず体力のない老人から、次に壮年、病人と、少しでも弱った者から死に絶えていった。
 男の妻も、ある日倒れたきり動かなくなった。
 男と共に、決断をした村人達も1人減り、2人減り、気づいたときには誰も残っていなかった。
 このままで終わるものか。
 男は若かりし日に齧った死霊術を駆使して、禁断とされる死者蘇生を試み、失敗。
 代わりに自身を不死のゾンビ、動く死体へと変じることに成功した。
 これが神罰か。
 怪しい女神などを受け入れて、死霊術にまで手を出した己に神が下した罰なのか。
 構いはしない。
 神は救ってはくれないのだ。ならば邪神でも外道の術でも、使えるものは使わなければ。
 男は腐りゆく脳みその代わりに術で思考する術を編み出し、村を取り仕切りだした。
 短い寿命でも回るよう村のシステム自体を変えていった。
 親が死んでも子が育つように施設を作り。
 早死にすることが当たり前であると、情報を統制し。
 外部からの情報に厳しく目を光らせ。
 女神がいても襲ってくる外敵から身を守れるように村を固く守った。
 気の遠くなるような年月をそうやって生き抜き、生き抜いて。
 いつしか村は、町となった。

 そして、今に至る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『堕ちた死体』

POW   :    噛み付き攻撃
【歯】を向けた対象に、【噛み付くこと】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    一度噛まれると群れる
【他の堕ちた死体の攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【追撃噛み付き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    仲間を増やす
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【堕ちた死体】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 何を間違ったのか。
 どこで間違ったのか。
 男にはもうそれを思い出すことも出来ない。失った何かを自覚することすら出来ない。
 男にあるのは唯一つ。
 人を絶えさせてはいけないということ。
 どんなに罪深かろうと。
 どれだけ犠牲を払おうとも。
 愛した妻の顔も、共に誓った仲間たちの声も、思い出せないけれども、誓いだけは覚えている。
 人を絶えさせてはいけない。

 町長は、いや、動く死体は、盗賊たちの成れの果て達と共に猟兵たちを待ち構えていた。
鹿忍・由紀
ゾンビになってまで自分の正義を貫こうとする意志の強さはすごいね。
女神を倒すものが現れるのを待ってたんだろ。邪魔しないでくれるかな。
長い間待ちすぎて、そんなこともう忘れちゃったか。
色々聞きたいことがあるんだけど、一旦戦うしかなさそうだね。

うわぁ…ゾンビがいっぱい。噛まれたくはないなぁ。
あんまりベタベタ触られたくもないから「見切り」を利用し、回避も含めSPD重視で攻撃。
雑魚のゾンビはとにかく切り捨ててこう。
こちらの戦力を見せつければ女神の事を話してくれる気になるかな。

結局女神が人間に対して体力の前借りをさせる理由がまだ分からないな。
ああ、女神の場所を吐くまでは勝手に死なないでね。


四王天・燦
日記を盗んだ際、奥さんに関わる品があったら出遅れ承知で回収。
最期に町長に渡すぜ。使命以外を思いだせたらな、と

盗賊ゾンビに容赦はない。
(てか同じ盗賊って言葉で括られたくねーな。品性がない)
噛まれるのが生理的に嫌なので全力で見切って避ける。匠な逃げ足で囲ませない。
電撃属性を帯びた神鳴で一刀両断だ

護りが減ったらアークウィンドに持ち替えて町長までダッシュ。シーブズ・ギャンビットで斬る。
「解放されて休める日が来たぜ。邪神だろうが殺せる連中が来る今日この日まで、町を守り抜いたんだ…奥さんに、皆に自慢話してきな」

終わったら直ぐに町を守る態勢に入るぜ。
ゲスな黒幕なら、町が壊滅する最後を町長に用意しかねないしな


ルベル・ノウフィル
wiz ラグナソ…ラグ……(名前が言えない)お、おのれ女神め。許しません(名前が言えなくて悔しい」

僕は堕ちた死体を担当しましょう
僕と共に在るは理不尽な世界へ反抗する死霊

そして、彩花

僕は躊躇わず妖刀で死体を切り、攻撃はオーラ防御を纏った妖刀で武器受けします

そしてUC写夭使用
戦場で猟兵に倒され死亡あるいは気絶中の死体を【二度と起き上がることなく安らかに眠る死体】に変え、1箇所に集めましょう

味方の中に死体を回収する方がいれば協力し、後ほど埋葬するのです

眠らずに哀しみや怒りを持て余す魂有れば僕と来ると良いでしょうね
盗賊でもなんでも、悪人善人、僕は共に来る魂の出自は問いません

「その代わりブラックです」


リーヴァルディ・カーライル
…ん。貴方は必死に人々を護っていたのね。
女神の恩恵から。魔獣の脅威から。吸血鬼の支配から…。
私も同じ。夜と闇を晴らすと誓ったもの…。
…貴方の遺志は、私が受け継ごう。

事前に防具を改造して第六感を強化
攻撃の気配や殺意の存在感を視覚化する見切りの呪詛を付与して
敵の攻撃を避け、怪力任せに大鎌をなぎ払いカウンターを狙う

…私達は女神を討ちに来た。
もうこれ以上、罪を重ねないで…。

敵の隙を突き【限定解放・血の教義】を発動
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して魔力を溜め、
光を扱う反動で傷口を抉るような痛みに耐えながら、
死者を浄化する“光属性の風”による2回攻撃を行う

…死の安息は等しく訪れる。眠りなさい。安らかに…。


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
《二十五番目の錫の兵隊》を前に出して、屍人同士が連携できねえよう《兵隊》と一緒に〈フェイント〉〈目潰し〉で足並みを乱すようにする。
あとは〈援護射撃〉〈鼓舞〉で後方から皆を適宜支援。
仲間を呼ばれたら、他の味方と連携しつつ、弱っている奴から優先的に叩いて数を減らす。

――もうおれの言葉なんて届かねぇだろうけど、これだけは言っておきてぇ。
なあ、町長さん。
あんたはもう休んでいい。いや、とっくの昔に休めばよかったんだ。
絶望して、足掻いた末にそんな姿になって、残った僅かな平穏まで打ち捨ててさ。
……それで何の救いも無ぇなんて、見てるこっちがやるせねえよ。


八上・玖寂
引き続き偲(f00203)と。
死んでも働くとは勤勉なことで。僕は無責任な人間なので遠慮します。

武装に『万天を断つ無明の星』を使用後、
『朽ちる憧憬に灰を撒け』を振って切り刻んでおきましょうか。
【先制攻撃】【傷口をえぐる】【2回攻撃】【暗殺】あたりは意識しつつ。

向こうの攻撃は【見切り】出来るよう、位置・距離関係は把握するように。

偲が前のめりになりすぎるようなら、襟首掴んで引っ張り戻しておきます。
入れ込み過ぎると早死にしますよ。


※アドリブ歓迎


八上・偲
玖寂(f00033)と一緒に。

あなたが悩んだってことは分かるの。
すごく苦しんだとも。
でも、わたし、燃やすね。

『讃えよ我は灰燼の女王』で広範囲に【属性攻撃】するね。
味方は巻き込まないように、ゾンビだけ。

仲間が増えたの?だから何?
【2回攻撃】でもう一度死体を焼き払って。


人が人として生きていけない世界。それがここ。それは知ってる。
だからこそ、この世界の何もかもを、わたしは、燃やすの。

あいた。
……大丈夫だもん。大丈夫だもん。


※アドリブ歓迎


イルナハ・エイワズ
100年ほど生ける屍として、ここを発展させてきたのですね
短命であるはずなのに、町長は変わらない
この町の人々は疑問を感じていなかったのでしょうか?

生活が十分に満たされていれば人々は疑問を持つことはないのかもしれません
素晴らしい治世の中で人々は飼いならされていったのでしょう
それはこの世界で生きるには致命的なことなのかもしれませんね?

アッサルの槍を主体に戦闘を行いましょう
敵に囲まれたりしたら面倒そうですから
戦闘知識と見切りを使いつつ
仲間や周囲の物を上手く利用して間合いを維持しましょう

囲まれそうな仲間が居たらその周囲の敵を優先し攻撃します
串刺しにすれば動きを妨げることも可能でしょう


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】で参加
ラグナソピアの可能性は考えていましたがまさかここまで世代交代が進むほど長い間関わっていたとは…!

遠隔操縦で呼び出した機械馬に騎乗し敵中突撃、怪力で振るう盾と槍でのなぎ払い、馬の踏みつけ、格納銃の乱射で蹂躙しつつ、敵中突破

(敵中を突破しフォルターの元に戻りつつ)
村長の行いですが…私としては村長の行いは悪だと断じることしかできません。ですが選択肢がない中での行いを、SSWを始め様々な世界を知った私が断罪するのもまた傲慢なのでしょうね…(自嘲気味に呟きフォルターの返答に対して苦笑しつつ)私もあのように振舞えれば楽なのですが…
【戦闘中の会話で両者の相違点が浮き彫りとなる描写を希望】


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

【古城】で参加

…哀れな男よ
だが、未だ腐らぬその意思は実に見事
故に褒美を授ける
貴様が、貴様達が求めた、女神をも屠る一撃だ
手向けと受け取れ

死霊術士たる我は、生きる屍の苦痛は容易に想像出来る
禁忌には禁忌を─UC:ヴィーダーゲンガー、死霊術の最奥にて応えよう
苦痛も絶望も悔恨も、全てこの腕が持ち去る
容赦は即ち侮辱、故に肉片一つ残しはせぬ
腐り果てた脳であれど…せめて今際の際は、夢見た世界を、懐かしき者達の顔を、催眠にて見せてやる

自らを責めるな、騎士よ
刃は血に濡れる為にある
大事なのは「何者の血で濡らすか」だ
外道たる我が言うのだ、間違いはあるまい?

※戦闘中の会話で思考の相違が浮き彫りとなる描写を希望




 町長と、そして動く死体の群れは荒屋を取り囲むようにして布陣していた。
 まっとうな人影は皆無。町長がそういうふうに取り計らったのだろうか。
「うわぁ……ゾンビがいっぱい。噛まれたくはないなぁ」
 心底嫌そうに動く死体の群を眺めて、鹿忍がダガーを抜く。
 噛まれるどころか、触られるのさえ御免被るとばかりにその体がひらりと走れば、一瞬前まで鹿忍がいた場所をゾンビの腕が通過する。
 速い。
 数を頼りにしても、しょせんは腐った死体。体のキレは生きた人間と比べて明らかに劣り、連携も無い。そのような者をいくら揃えたところで、鹿忍の前ではカカシと変わりはしない。
(動きは遅い。見切るのは簡単だけど……)
 カカシでも、数を揃えればブラインド代わりにはなる。首魁である町長の姿が見えないのだ。
「面倒だなあ。戦い慣れしてなさそうなのが救いだけど」
 もしくは脳髄まで腐り果ててまともな戦闘行動などできなくなっているのか。どちらにしろ鹿忍にとっては仕事が多少楽であるという事以外の意味はない。
 するりするりとゾンビ達の腕を掻い潜る度に、ゾンビ達が倒れていく。見れば彼等の足が断たれていた。
 いかな化け物とはいえ、足を無くしてしまえば地に伏せるしか無い。
 数多のゾンビが倒れ伏した先に、ようやくフードを被った町長の姿が見える。
「ゾンビになってまで自分の正義を貫こうとする意思の強さは凄いね。女神を倒すものが現れるのをまってたんだろ? 邪魔しないでくれるかな」
 応えは無い。町長はただ鬼火の中に怒りを宿して猟兵達を睨み付けるだけだ。
(長い間待ちすぎて、そんなこともう忘れちゃったか)
 哀れな男だ。鹿忍には他人の為にそこまでする決意も使命感も欠如しているけれども、何も感じないほど乾ききっても居ない。
「まあ、どうにかしてやろうってわけでも無いんだけれども」
 それはそれ。これはこれ。情に流されて働きすぎるような事は、鹿忍はけしてしないのだった。


(ラグナソピアの可能性は考えていましたがまさかここまで世代交代が進むほど長い間関わっていたとは……!)
 トリテレイアは以前、かのオブリビオンと戦った経験があった。だからこそ気づけなかった。アレはもっと短期に人を滅ぼす毒だと思いこんでいたがゆえに。
(これ以上、のさばらせるわけには参りません)
 機械で出来た軍馬にまたがった彼は戦場を駆ける。
 3m近い彼を乗せる馬もまた規格外の大きさだ。その一歩は2mもいかない人なぞ容易に踏み潰すことが可能。ひとたび走り出せばその勢いを人ごときが止めることは出来ない。
 古来より騎馬は戦場の覇者で有り続けた。銃が生まれるまでは、だが。
 残念なことにゾンビ達には銃はない。そして騎手たるトリテレイアには豊富に銃火器が格納されている。
 はるか頭上からばら撒かれる銃弾に、圧倒的な質量の機械馬に、為す術も無くゾンビ達が肉塊にされていった。
 けれど腐っても化け物。ただ黙って殺されるなどということはない。何体ものゾンビが潰されても、撃ち抜かれても、次々に襲いかかり馬の足を止めようと藻掻く。
 瞬間。
 横合いから光芒一閃。
 複数のゾンビがまとめて消し炭となってその場に崩れ落ちた。
「助かりました」
「気にすんなっと、そこ!」
 鏡島の【二十五番目の錫の兵隊】、その電撃が再度ゾンビを焼き焦がす。
 自分が前に出て戦わない分、鏡島は戦場を俯瞰して他猟兵のフォローによく努めた。
(自分で直接人を斬ったりとかは……したくねえけど。これくらいならおれでもっ) 
 電撃だけで終わらない。彼自身もスリングショットを手にとって射撃に加わる。それは相手の目を潰し、行動を阻害し、派手ではないがしっかりと敵にダメージを与えていった。
 

「死んでも働くとは勤勉なことで。僕は無責任な人間なので遠慮します」
 常と変わらず、同情も共感もすることもなく玖寂が進み出る。
 手に持つ刃は既に不可視。ダークセイヴァーの闇と同化したそれは、何者にも視認すること能わず。
「花でも咲かせてみましょうか」
 軽い感じで呟けば、それが必殺の狂風となる。
【朽ちる憧憬に灰を撒け】
 21にも及ぶ暗器の群が、てんでバラバラに、それこそ一本一本が意思を持ったように踊り舞う。
 あるものは前後から鋏で断たれるように首を刈られ。
 あるものは足首から手首まで、関節という関節を丁寧に斬り裂かれ。
 またあるものは正中線にそった急所を余さず穿たれて、活動を停止する。
 楽な仕事だ。
 数が多いだけで、ともすれば路地裏のゴロツキの方がまだいい動きをする。
 玖寂は冷然とした瞳で戦場を観察し、それに気がついた。

「あなたが悩んだってことは分かるの。すごく苦しんだとも。でも、わたし、燃やすね」
 轟々と燃え盛る死体達。偲の手による【讃えよ我は灰燼の女王】の効果だ。
 無数の燃える桜の花びらが丁寧に、丁寧に、敵だけ選別して燃やし尽くしていく。その様はまるで赤い蝶が舞うようで、幻想的な美しさがあった。無論、その先にあるのは滅びだけだが。
 肉を焦がし、腐汁を蒸発させながらも、再度ゾンビが立ち上がる。しぶとい、わけではない。それがゾンビ達のユーベルコード。死体をゾンビとして戦わせるという悪辣な技だ。元から死体の彼らが使えば、形ある限り無限に起き上がる悪夢めいた技となる。
 しかし。
「だから、なに?」
 再度炎の蝶が舞う。
 悲鳴は無かった。ゾンビにはそのような機能がないのか。もしくは炎の勢いが声すら飲み込んだのか。
 完全に炭化して、ぼろぼろと肉体そのものを崩壊させて、今度こそゾンビが朽ち果てた。
 幾体も、幾体も。
 立ったまま燃え尽きる者。倒れ伏して藻掻き苦しみながら果てる者。
 その業火の先に見えるのは、この町の長。業火よりも尚赤い鬼火をその眼に宿して、ひたりと偲を見据えている。
「人が人として生きていけない世界。それがここ。それは知ってる。だからこそ、この世界の何もかもを、わたしは、燃やすの」
 それこそが彼女の存在意義。強迫観念ともいえた。
 踏み出す足は強く、焼け焦げた大地を踏みしめて。
「きゅっ」
 後ろから首根っこを引っ張られて変な声が出た。
 何者か、なんて振り返らずともわかる。
「入れ込み過ぎると早死にしますよ」
 頭上から降ってくる呆れたような、冷たい声。玖寂だ。
 彼女の養い親であり、拠り所。いつでも変わらぬ泰然とした姿。
「……大丈夫だもん。大丈夫だもん」
 自分でさえわかる強がり。
 明らかに突出していた。明らかにのめり込んでいた。
「善悪問わず人にも世界にも物語くらい有りますよ。一々共感したり反発していたらきりがないでしょう。もう少し肩の力を抜きなさい」
 出来るならばしていると反発することも出来た。でもそれは、この男の心配を無碍にするようで憚られた。
 なので偲はただ無言で俯くことで返事とするのだった。



(100年ほど生ける屍として、ここを発展させてきたのですね。短命であるはずなのに、町長は変わらない。この町の人々は疑問を感じていなかったのでしょうか? 生活が十分に満たされていれば人々は疑問を持つことはないのかもしれません)
 ゾンビの腐臭も、戦場の激しさも、どこ吹く風とエイワズは思索にふける。
(素晴らしい治世の中で人々は飼いならされていったのでしょう。それはこの世界で生きるには致命的なことなのかもしれませんね?)
 それは家畜の安寧でしかない。
 エイワズは、オブリビオンと町長を倒した後のこの町の行く末を思わずには居られなかった。
 強くなければ生きられないこの暗黒の世で、リーダーも力も失った彼らがどうなるのか。
 猟兵は事が済めば去るのだ。一生この地で、彼らの面倒を見ることなど出来ない。自ら生き残る術を持たないものは遠からず、別のオブリビオンの餌食となるだけだろう。
 暗い世界。暗い未来。碌な結果を予測することができず、エイワズはかぶりを振って思索の海から浮上した。
 今の仕事は敵の排除。それだけだ。
 状況は優勢、に見えて中々に面倒な状況であると後方から眺めたエイワズは悟る。
(なるほど、死なないわけですか)
 敵ユーベルコードによるものだろうか。いくら倒してもすぐさま起き上がり戦線に復帰するのだ。まさに不死の軍団。単体の能力はそれこそゴブリン等と大差ないというのに、死なないというのは面倒くさい。
「イヴァル」
 だが、やりようがないわけではない。エイワズが召喚した【アッサルの槍】が天から降り注ぐ。彼女から半径22m以内に居たゾンビ達がモズの早贄よろしく地面に縫い付けられる。もちろん一撃で致命となるが、再度復活。だが、動けない。串刺しにされた彼らはそこから一歩も移動することができない。
 後は焼き尽くすなり、復活しても活動できなくなるサイズまで細切れにするなりすればいい。
「殺して死なない、という部分だけなら中々に手強いですね、これ」


「ラグナソ……ラグ……」
 恐らく背後に潜むオブリビオンの名を口にしようとしていたのはルベル・ノウフィル。『おのれ、ラグナソピア! 許せん!』とでも言いたかったのかもしれないが、悲しいかな。彼の記憶力はその尻尾同様ふわっふわであった。
 しばらくラグラグ言っていたが。
「おのれ女神め。許しません」
 諦めた。
 Wizと記憶力には因果関係が存在しないと言うことが実証された瞬間でもあった。

 もちろん彼はふざけているわけでは無い。至って真面目だ。
 一度戦場に身を投じれば、その手にもつ刀でゾンビをいなし、払いのけていく。
 ゾンビごときでは裾の端にすら触れることは叶わない。それどころか、刀で斬られたわけでもないのに四肢を断たれて倒れ伏していく。
 いかなる妖術か。
 常人には見切ることすらできないだろうそれは、札。
 ダークセイヴァーの空より尚暗く。まるで世界の悪意の凝縮かのような黒々としたそれは、ノウフィル手製の札。名を『彩花』という。
 ただの札だと侮るなかれ。彼手ずから集め、封じた無念怨念は実世界のありとあらゆる者に牙をむく必殺の刃だ。
 ばたりばたりと倒れ伏していくゾンビ達は、どういうわけか二度と起き上がることはない。
「申し訳ありません。真似させてもらいました」
 ユーベルコード【写夭】
 敵のユーベルコードをコピーするだけではなく、アレンジして使う事ができるという汎用性に優れた技だ。
 復活のためのコードはアレンジをされ、まったく真逆の効果を発揮する。
 すなわち、二度と起き上がることのない安らかなる死。
 まさにこの戦場のルールを覆す一手であった。
 次々に苦役から開放されて眠りにつくゾンビ達に、ノウフィルが思い出したといったふうに声をかけた。
「ああ、もし未練があるのなら僕に付いてきても構いませんよ。僕は共に来る者の善悪、出自は問いません」
 幾つかの魂が、彼に纏わり付くようにして現世に遺る。
 怨みはらさでおくべきか、とでもいうように。そんな暗い情念たちにむかって、にっこりと笑いかけて。
「その代わりブラックです」


「少しだけ待って」
 そう言い残して四王天は敵陣を単騎突破。再度町長の私室へと潜入を果たしていた。
 別にあの工芸品を拝借しに来たのではない。目的は、別。
「あった。押し花とは、またベタな……」
 それは町長が妻に贈り、彼女が押し花にした品。劣化し、色あせても、まだ花の形を保っているのは持ち主がきちんと管理していた証左である。
 結婚指輪の代わりだったのだそうだ。当時貧しかった村では貴金属など贈り合えるはずも無く、近所の森から危険を冒して摘んできたそれが真心の証明となったのだと、彼の日記には記されていた。
 品は手に入れた。後は此を持ち主に叩きつけてやるだけだ。

「ヒーロー、じゃないけど真打ちは遅れてやってくる!」
 戦場へと急ぎ舞い戻ると、他の猟兵の方を向いていたゾンビの群の中に飛び込んでいく。
 彼女でなければ四方を囲まれ袋叩きになっていたところだが。
「遅い遅い!」
 見切り、避ける。文字にすればただそれだけだが、彼女の身軽さと目の良さが合わさったその技は実に神業に等しい。
 無人の野を行くが如く、ゾンビの腕を、噛みつきをすり抜けながら敵陣深く潜り込む。
「ええい、邪魔!」
 愛剣、神鳴を一閃。紅に染まった雷撃がゾンビ達の肉を焦がし、腐汁を蒸発させる。傷みなど無いはずのゾンビ達がまるで苦痛に喘ぐように悲鳴を上げて倒れ伏せば、その先に町長。
 一足で接近。ようやく町長が四王天に気がついて反撃の為に腕を振り上げるが、止まる。
 お守りのように掲げられた押し花。
「解放されて休める日が来たぜ。邪神だろうが殺せる連中が来る今日この日まで、町を守り抜いたんだ……奥さんに、皆に自慢話してきな」
 風が吹く。
 それは四王天のもう一振りの武器、アークウィンド。切りつけた側から風が巻き、町長が咄嗟に掲げた片腕が千切れ飛んでいった。


「……ん。貴方は必死に人々を護っていたのね。女神の恩恵から。魔獣の驚異から。吸血鬼の支配から……。私も同じ。夜と闇を晴らすと誓ったもの……」
 カーライルは町長をひたりと見据える。
 十重二十重と押しつぶすようにかかってくるゾンビなどは眼中には無い。
 黎明の名を冠した彼女の防具は第六感を強化し、呪いを付与された視覚は敵の視線と殺意すら光線のように見切る。
 彼女はただ、悠々とそこをくぐりながら進めばいいだけ。
 派手な行動は必要としない。事前に来るとわかっているのならばそれが可能だ。
 攻撃を諦めたように敵が肉の壁となって行く手を阻む。
 それすらむ、無駄。
 大鎌『グリムリーパー』を力任せに振り切れば、雑草の如くゾンビ達は吹き飛ばされ、上下2つに分かたれて、地に伏してゆく。
「……貴方の意思は私が受け継ごう」
 言葉にか、それともその圧倒的力にか、町長が一歩下がったように見えた。
「……私達は女神を討ちに来た。もうこれ以上、罪を重ねないで……」
 カーライルの言葉は真摯であった。本心からの言葉が、雨だれが岩を穿つように町長の心に浸透していくのが見えるようだった。ゾンビの群を操ることすら忘れたかのように、そのがらんどうの瞳でカーライルを見つめる。
「……死の安息は等しく訪れる。眠りなさい。安らかに……」
【限定解放・血の教義】
 属性と現象を操るその技は、圧倒的な光の風となって戦場を吹き荒れた。
 オドとマナを合一させたそれは、ある種の自爆技に等しい。なぜならダンピールである彼女自身が、光の風によってその身を焼いているのだから。
 猟兵である彼女ですら苦痛に感じる程の風は、近い敵から順繰りに焼き滅ぼしていく。炭化して燃え尽きていく彼らには、最早復活のさせようもあるまい。
 無論、それは町長の体も焼く焔となる。
「あ、が、ああああああぁあ」


 最早大勢は決した。
 ゾンビ達はほぼ壊滅し、首魁たる町長は枯れ木のように燃えている。それでも前に出るのは町を守るという想いの為か。
 その前に1人の女が立ちはだかった。
「……哀れな男よ。だが、未だ腐らぬその意思は実に見事。故に褒美を授ける。貴様が、貴様達が求めた、女神をも屠る一撃だ。手向けと受け取れ」
 瞬間、まるで冥府の底より生えたかのように200を超える腕が現れた。
【ヴィーダーゲンガー】
 ユングフラウの異能の1つだ。死霊術には死霊術とでもいうように、おぞましいその腕達は町長の焼け焦げた足を削ぎ取り地に落とす。
 腕を削いで胴を削いで、削いで削いで削いで。
 虫が葉を食いつぶすような早さで町長そのものを無くしていく。
 容赦はない。それこそが、1人の敵としての向き合ったユングフラウなりの誠意であった。
 町長が地を這う虫の如く無力化されるのに、そう多くの時間は要らなかった。

 地に伏した、最早肉塊のような町長の前に鏡島が跪く。
 瞳の奥の鬼火は最早消えかけて、発する音も言葉にはなっていない。
 死ぬのだ。
 人の為に足掻き藻掻き続けた男は、今ここで虫けらのように死んでいくのだ。誰にもその行いを褒められることも、認められることもなく。
 相手は確かに自分に襲いかかって来た化け物である。世界の敵である。けれども、事情を知ってしまっては憎むことなど鏡島には出来なかった。
――もうおれの言葉なんて届かねぇだろうけど。
「なあ、町長さん。あんたはもう休んでいい。いや、とっくの昔に休めばよかったんだ。絶望して、足掻いた末にそんな姿になって、残った僅かな平穏まで打ち捨ててさ。……それで何の救いも無ぇなんて、見てるこっちがやるせねえよ」
 それが彼の弱さであり、強さなのかもしれなかった。
 殺す敵への共感や同情は害悪でしかない。それは殺意を乱し、振るう武器を遅くする。直接生存率に関わる重大な欠点であった。何より、死に心を痛め続けてまともでいられるわけはないのだ。
 だが、彼は生き残っていた。
 戦いに怯え、敵に同情し、死にゆく者に心を痛めながら、狂うこと無く。
 もしかしたら誰よりも頑強な精神を、この若者は持っているのかもしれなかった。
 そこに四王天とユングフラウが並ぶように跪く。
「まあ、金にもならねえしな」
 押し花を町長の上に添えて。
「夢見るくらいはさせてやるさ」
 ユングフラウが町長と瞳を合わせる。
 一瞬鬼火が揺れて、やがてそれは深く沈むようにして消えていく。
「何、したんだ?」
「暗示、のようなものだ。その花と共に逝けるようにな」
 町長が末期に何を想ったのか、鏡島にはわからない。けれどもミイラのような町長の顔が、ほんの少しだけ安らかなものに見えたのだった。

 戦いがとりあえずだが終わり、死体が再び起き上がることがないよう皆で手分けして処理を施す最中。
 トリテレイアがユングフラウに声をかけた。
「村長の行いですが……私としては村長の行いは悪だと断じることしかできません。ですが選択肢がない中での行いを、SSWを始め様々な世界を知った私が断罪するのもまた傲慢なのでしょうね……」
 それは、自身の寄す処を騎士物語に置き、少ないながらも濃密な経験を積んだからこその葛藤だったのかもしれない。
「いけないのか?」
「……それは、そうでしょう。傲慢であっては、騎士足りえません。相手の立場になって物を考え、公平で無くては」
「そうやっている間に、全ては終わったわけだが」
「っ……」
 言葉に詰まる。確かに、雑魚を蹴散らして回っていた彼は、悪い言い方をすれば決定的な決断を他人に委ねるような形になっていた。傲慢かもしれないと、裁く権利はないと、届くはずの刃を他人に譲ったのだ。
「トリテレイア、汝は事を難しく考えすぎるな。というより、だ」
 呆れたように、慈母のように、ユングフラウが笑って。
「善悪などというありもしないモノに拘泥せず、ただ己の心のままに斬りたい者を斬り、成したいことを成せばいい」
「それは……無法者の思考です」
「知らなかったのか? 我は外道。道の外を歩む者よ」
 言葉は出なかった。彼女のようにぶれる事無く真っ直ぐに在れたならと思ってしまったが故に。
 騎士道とは真逆であっても、その様を羨ましく感じてしまったが故に。
「だが……汝のその葛藤は好ましくもある。正義をお題目にした、ただの殺戮者などより余程な。もし汝の正義が見つかったのならば教えてくれ」
 それは慰めなのだろうか。それとも純粋な興味なのだろうか。
 機械であるトリテレイアにはまだ、わからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『繁栄の代行者・ラグナソピア』

POW   :    繁栄の時、来たれり
【周囲を鼓舞し能力を引き出す声援】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
SPD   :    栄耀の時、来たれり
【正】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【光輪】から、高命中力の【限界を超えて能力を引き出す光】を飛ばす。
WIZ   :    最盛の時、来たれり
【死亡させた人々】の霊を召喚する。これは【自身が創造した肉体】や【他者に憑依する事】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それは、まるで全てが終わるのを見計らったかのようにやってきた。
 人の群。
 ゾンビなどではない普通の人間の集団だ。
 手に手に武器や農具を持ったその先頭に、一際目立つ風体の女が1人。
 風にそよぐ桃色の髪は艶めいていて。
 琥珀色した瞳は尽きぬ慈愛に深く輝き。
 身を包む衣は清廉を表すかのように純白。
 ひと目でわかった。彼女こそオブリビオン。彼女こそ女神。
「ラグナソピア……あれが」
 神、というのも頷ける。ただの化け物とは一線を画した凄み、畏敬の念を感じずにはいられないナニカを持っていた。
「……なんと惨い」
 女神が死体の山と、そして猟兵達へと視線を走らせて呟いた。
「町長が言っていた盗賊というのは貴方がたですね。町長はどこです? 貴方がたを追っていってから姿が見えないのです。……まさか」
 姿の見えない町長。無数の死体。盗賊と言われた者たち。子供でも容易に想像がついてしまう流れだった。
 町人達の顔に憤怒の相がより一層強く浮かんだ。
「罪深き者たちよ。最早、釈明の機会すら与えません。大人しく断罪されるならばよし。抵抗するのならば……」
 女神が一歩前に出れば、町人たちもまた武器を握り直して猟兵達に詰め寄ってくる。
 完全に猟兵達が悪人の構図だ。
 戦うしか無い。
 所詮一般人程度、物の数ではないと猟兵達も身構えて、それに気がついた。
「気づきましたか。これが我が力。神の恩恵。祝福を受けし我が民達によって貴方がたは裁かれるでしょう」
 人の限界を超えた力を発揮すると記されたその奇跡――呪いが、今展開されていた。
 どうする。
 猟兵とて不死身ではない。一般人を完全に無視して女神を殺す、というのは不可能ではないが難しいだろう。その間に確実に手痛い打撃を食らう事は目に見えている。異能は無くとも彼ら町人の一撃は確実に此方の肉を切り裂くだろう。
 諸共に皆殺しにするか? それならば容易だろう。所詮付け焼き刃の力を与えられた人間だ。範囲型のユーベルコードを多数展開すれば事は済む。先のゾンビ戦の焼き増しだ。10も殺せば、もしかしたら恐れをなして逃げ去ってくれるかもしれない。勿論最後の1人まで戦う可能性もあるが。
 ダメ元で説得するか? 女神は無理でも一般人ならばやりようはあるかもしれない。大人しく女神が放っておいてくれるわけもないので、手を考えなければいけないが。

 どうする。
 どうしたい。
ルベル・ノウフィル
wiz
女神め、
ところでお名前なんでしたっけ?
いえ、勿論覚えておりますとも

【この町の異常性を理解している元町民】の霊を召喚する。これは【女神の力の副作用による死の告白】や【女神への信頼の揺らぐエピソードや抱いた感情を人々の脳に直接伝え、一般人の肉体は傷つけず、ただ信じている現実を揺らがす精神攻撃】で攻撃する能力を持つ。

理不尽な世界へ反抗する死霊が戦場を揺蕩う
第六感とダッシュと気合で接近

負傷しても死霊は僕に止まることを許さない
僕も僕に止まることを許さない
絶対に

「僕には誓いがある」
そして僕には覚悟がある
最後は捨て身で妖刀墨染を叩きこむ

お甘いんですね
こんな世界に
都合の良い神なんているわけがないのに


リーヴァルディ・カーライル
…あぁ、貴女がラグナソピアだったんだ。
これも何かの偶然…いいえ。運命、かな?
待っていて、繁栄の代行者…ううん、ラグナ。
今、その呪わしき運命から…“代行者の羈束”から解放してあげる。

事前に改造した防具の呪式を変更
存在感を遮断する呪詛を付与して気配を消す
【見えざる鏡像】を使い不可視化

第六感を頼りに敵の視線を見切り、
他の猟兵を隠れ蓑に追跡を逃れ女神に接近し隙を伺う

先の闘いの影響で傷口が抉られるように痛む…。
意識を手放したい誘惑に駆られるけど…。
彼女の声を聞いて自身を鼓舞して耐え、
力を溜めた生命力を吸収する大鎌を怪力任せになぎ払う

…ん。さようなら、ラグナ。
どんな形でも、また貴方に逢えて嬉しかった…。


八上・玖寂
偲(f00203)と。

(他の猟兵に対して)
無辜の人間を殺すことに抵抗がおありですか。
こうして武器を持ち、我々に殺意を向けているのに?
既に女神の"奇跡"が働いているというならば、ここを切り抜けても行く末など想像容易いのに?
まあ、僕はどちらでも構いません。ただ、彼らのために死ぬ気だけはありません。

【目立たない】【忍び足】で戦場を歩きながら
『朽ちる憧憬に灰を撒け』で増やした鋼糸(銀影)で町民を縛って転がしておきます。数に限りはありますが。
暴れるなとは言いませんが、そんなに暴れたらどんどん絞まっていくと思いますよ。
少しでも長生きしたいなら大人しくされるのが身の為かと。

……手のかかる。(偲を抱き上げ)


八上・偲
玖寂(f00033)と一緒に。

優しい言葉を言って。
綺麗で強い力をあげて。
でも根っこの部分では誰も救いはしない。
……むかつく。
気にしてたらキリがないって玖寂は言うけど、でも。

『黒騎士を伴う残火の王女』で騎士を呼ぶね。来て、ガイスト君。
騎士を見て一般人が逃げるなら追わないし、来ないなら何もしないけど、向かってくるなら相応に攻撃する。
積極的に殺したいわけじゃないけど、わたしの"敵"になるなら覚悟して。

女神に相対したら、装備してる槍(埋火)で【属性攻撃】。
さよなら。やっぱりわたし、貴女のこと嫌い。

終わったら、玖寂のとこに戻って抱きつく。
……ごめんなさい。でも……。

※アドリブ歓迎


鹿忍・由紀
町長さぁ、女神を倒して欲しいって願いつつ街全体で女神を守ろうとするんだから参っちゃうね。
面倒だな…一応手加減しとくけど、うっかり死んでも文句言わないでよ。どっちみち死ぬんだから。

「毒使い」「マヒ攻撃」でダガーに麻痺毒を付与。
向かってくる町人には「見切り」で致命傷を避けるようにダガーで切りつけ。ダメ押しで「気絶攻撃」。
強化されてるからまだ動くかもしれないけど鈍らせられたらOK。女神だけを狙うための根回しで。
とりあえずラグナソピアまでの道を作ろうかな。ある程度近づけたら攻撃するふり「フェイント」してUC磔で動きを封じる。
攻撃は他の猟兵に任せるよ。女神相手に隙を作れたら俺の仕事としては上々でしょ。


四王天・燦
人は殺さず。
神の鍍金を剥ぎ狂信も解く

「字が読める奴は町長の日誌を読んでくれ!」
声が届く内に叫ぶ

町長の執念事情を説き逃げ続ける。
符術『力場の生成』で屋根を跳び時を待つ。
傷は激痛耐性で凌ぐ。
負荷で変調を来す者が出たら呪いの証明とし説得演説。
「煽られるまま殺せば魂まで呪われる。邪神の玩具になるな。人の尊厳を取り戻せ!」

人が退いたら符術でラグナソピアの背に跳びアークウィンドを刺し風で肉を抉る。
「衣装は真紅が似合うぜ。ん?ドス黒い血…汚い泥しか出ねーわ」

最後に接吻。生命力吸収で精気奪取。
「若さの為とはいえ不味い。魂は要らね」
眉間を貫く

「町長…仕事料は町を現在に繋いだご祝儀から天引きだ」
苦笑して町を眺める


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
《笛吹き男の凱歌》と〈楽器演奏〉で、戦い慣れしてねぇ町の人を怯ませる、禍々しい音楽を奏でる。
イレギュラーな使い方の反動でおれ自身の恐怖心もいつも以上に増大しちまうけど、これで町の人の動きが止まれば……!
これでも向かってくるなら〈援護射撃〉〈目潰し〉で無力化する。

やっぱりおれは、弱い人間だ。
町を滅びから護ろうとした町長と、オブリビオンから世界を護るおれたち。どっちも間違ってねぇはずだ。
なのになんで……おれ泣いてんだろうな。
町長のように己を捨てる勇気なんて無ぇ。仲間のように手を汚す覚悟も無ぇ。
それでも、だからこそ、自分が信じたもののために足掻きてぇんだ。たとえどんなに怖くても。


イルナハ・エイワズ
ユルの頭を優しく撫で、魔導書を預けましょう
「ユル、預かっておいてくださいね」

女神の胸と全身を見て、また胸に目をやり
「繁栄の女神なんですよね?」
と首を傾げて、軽く挑発しておきましょう

集まった人々は武器を手に取ってますので丁度いいですね
「化け物と戦う覚悟はあるのでしょ?」
自分より格上の化け物と戦うということを体に叩き込んであげます
人々には武器は使わず対処します
一撃で意識を刈り取るのではなく
吐くような苦痛を伴う打撃で動けなくしていきましょう
手痛い打撃を貰っても表情は変えず
瀕死になるまで戦い続けてあげますよ

瀕死しなったら女神の背後に「仮初の肉体」を召喚し女神を槍で串刺しに
「まだ終わってませんよ?」


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

【古城】で参加

あの男は己を朽ちさせつつも人間の存続を願った
ならば、それに全力で応える他はあるまい
貴様の如き独善が神を騙るならば、我も今宵限りの神を名乗ろう
─貴様に終焉を齎す、死神をな

決して、町人は傷付けぬ
UC:ヒュドラの威容と恐怖・言いくるめを用いて、投降を呼びかけよう
だが、目的は他にもある
トリテレイアを咥え女神へと一息に投擲、物理的に女神を引き離す
…あの騎士は、自壊をも厭わぬ覚悟で我の言葉に応える気か
投げ飛ばされた女神は顎にて噛み砕き、町人から更に離れた場に放ろう
その後は、騎士の回収に向かう
我にさえ刃を向けるその正義、見事だ
故に、斃れるな
汝の刃は、まだ錆びる時ではない

※アドリブ歓迎


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
町長は魔道に堕ちながらも故郷を守る覚悟を見せました。我が道を往く方もいる。では私は?

正義は見つからずとも、騎士としてあの女神から人々を守ります。たとえこの町の行く末が暗いものだろうと

女帝に献策
ヒュドラに咥えられ投げ飛ばされて女神の眼前に着地、防具改造で装備した煙幕発生器を起動させ町人と女神を目潰し。その隙にセンサーで女神の位置を見切り手をつないで拘束、己自身をハッキングしリミッターを解除した自壊前提の怪力でフォルター様へ女神を投げ渡します

(一連の愚行、町人の攻撃で大破寸前、回収に来たフォルターに半ばから折れた剣を突きつけ)
彼らに危害を加えるならば貴女でも…戦い…
(限界を迎えて倒れる)





「町長さぁ、女神を倒して欲しいって願いつつ街全体で女神を守ろうとするんだから参っちゃうね」
 面倒だという気配を隠すこと無く鹿忍が嘆息する。
 眼前には怒れる群衆。彼らはすぐにでも猟兵達を飲み込むだろう。
 得物を抜いてまた1つ溜息。数ばかり居る。そのくせ積極的に殺すのは躊躇われる。なんとも合理的な壁である。
「面倒だな……一応手加減しとくけど、うっかり死んでも文句言わないでよ。どっちみち死ぬんだから」
 祝福――呪いを受けて限界を超えた彼らの寿命はどれほど削れているのか。不眠不休で働くよりも、開墾や農作業を10人力でやるよりも、戦闘行為は確実に彼らの体を蝕むだろうことは容易に想像できる。
 死は、もしかしたら直後にでも訪れるかもしれないのだ。
「大概甘いね」
 今度の溜息は自身に向けて。死ぬのなら殺してしまえばいい。だというのに彼が取ったのは殺さないための手。
 ダガーに毒を塗る。致死性のものではない。麻痺毒。動きを封じ、せめて邪魔にならないようにと。
 直後、群衆が殺到する。
 見切る。避ける。人の波を縫いながらその体を浅く斬りつける。毒を与えるならそれで十分。
 とはいえ瞬時に麻痺するわけではない。浅く斬られた程度では彼らは止まらない。
「寝ててよ、もう」
「かっ、は」
 その腹を強かに殴る。
 空気を吐き出して倒れた男はそのまま動かなくなる。ようやく毒が効いてきただ。
「1つ、2つ、3つ4つ、ああもう、沢山」
 次々と地面に這いつくばる町人達。キリがない。よくもまあこれだけの人間を揃えたものだ。
 子供以外の人間を全員投入でもしたのか。
 数えるのも面倒なほど毒を塗り、与え、殴りつけて女神への道を作ることに成功する。
「シッ!」
 気合一閃。あたかも投擲するかのようなモーションを見せつけて。
【磔】
 女神が、その場で硬直する。投擲はブラフ。本命はこの視線の先の空間を固定する技。
「後は、おまかせ」
 十分過ぎるほど働いた。女神討伐は他の猟兵がしてくれるだろう。
 鹿忍は女神への道が塞がれぬよう、再度町人達へと斬りかかっていく。



「字が読める奴は町長の日誌を読んでくれ!」
 群衆を前に声を張り上げたのは四王天だった。
「これだ! ここにこの町の真実が、お前たちの女神の正体が書いてある! 皆、まずは止まってこれを読んでくれ!」
「盗賊風情が! 何を言うか!」
 四王天の必死の叫びへの返答は剣による一撃。
 丸太をも軽く両断しそうな一刀を軽々と避ける。
「盗賊じゃねえよ! お前たちを助けに来たんだよ!」
「嘘も大概にしろ!」
 聞く耳を持たない。怒りと狂信に我を忘れた群衆が四王天に殺到する。
「チッ。分からず屋め」
 四方から殺到する凶刃を前に、それでも四王天には余裕がある。
 何故か。
 次の瞬間にはそれが明らかになる。空振る凶刃。驚愕に目をみはる町人達。
「こっちだこっち、ウスノロ共」
 声は、上から。
 四王天はまるで鳥の如く空を駆け、屋根へと至っていた。
【力場の生成】だ。空中にまるで足場が有るかのように幾度もジャンプが出来るという異能。勿論攻撃の技ではない。彼女は人を傷つけるつもりなど毛頭ない。
 町長の執念に感じ入るものが在ったのか、それとも彼女の信念故か。
「よく聞け。嘘だと思っても聞け。お前らのその力は恩寵でもなんでもねえ」
 屋根によじ登ってきて追撃してくる町人を躱し、別の屋根に飛び移りながら、何度も何度も呼びかける。
「体に不調が出てる奴はいないか? 次第に体が重くなったり、痛くなったりしないか?」
 跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。どこからか飛んできた矢が、四王天の肩を貫く。それでも、止まらない。痛みは耐えて、無視して。
 跳んで跳んで呼びかける。
「それは限界を超えてるからだ。分不相応な力にはしっぺ返しがくるんだ! いますぐ武器を置け! 死ぬぞ!」
 ついに、長々と四王天を追っていた1人の男が崩れ落ちる。まるで手足が動かなくなったように。
「見ろ、この力は危険なんだ! これ以上力を使うな! 煽られるまま殺せば魂まで呪われる。邪神の玩具になるな。人の尊厳を取り戻せ!」
 次第に四王天を追っていた者たちから殺気が薄れていく。矢は止まり、怒声が小さくなっていく。
 成功だ。
 見やれば鹿忍の作った道と、拘束された女神が見えた。
 再度力を使って空間を踏みしめて跳ぶ。
 大きく大きく何度も跳んで、着地。女神の背後。奴は此方に振り返ることも出来ない。
 アークウィンドを抜刀。人ならば致命傷である内蔵がある位置へ一突き。更に風を発生させて傷口をずたずたに引き裂き広げる。
「衣装は真紅が似合うぜ。ん? ドス黒い血……汚い泥しか出ねーわ」
「おの、れぇ!」
 せせら笑う。女神の拘束が外れる。恐ろしい勢いで腕が迫る。
 身を屈めて回避。バク転で距離を取ってもう一度笑ってやる。
「地金が見えるぜ、女神様」



「無辜の人間を殺すことに抵抗がおありですか。こうして武器を持ち、我々に殺意を向けているのに? 既に女神の"奇跡"が働いているというならば、ここを切り抜けても行く末など想像容易いのに?」
 玖寂が淡々と1人の少年に声をかけた。顔色を失っている、鏡島だった。
「わかってる。でも、おれ……殺したくねえ。それは、なんか違う気がする」
「まあ、僕はどちらでも構いません。ただ、彼らのために死ぬ気だけはありません」
「……わかってる。死んでくれなんて、言えない。だから、おれが……」
 それから先の言葉は迫りくる怒号に飲まれ聞き取れなかった。若い鏡島の苦悩は想像できなくもないが、玖寂はそれにかかずらう程、面倒見も良くなければ、傲慢でもない。
 玖寂は英雄ではない。ヒーローではない。良き人間でも無ければ、世界を救うものでもない。
 ただ己の力の及ぶ範囲で、生きていく分の仕事をするだけ。
 あの少年も邪魔さえしなければ好きにすればいい。助けもしないが、此方も邪魔はしない。

 群衆と猟兵達がぶつかる。
 怒声と剣戟が響き、悲鳴と絶叫が木霊する。
 まさに戦場。
 玖寂はその中をゆるく歩いていく。目立たないよう、存在感を消して。戦場が混沌とすればするほど玖寂のような者は仕事がしやすい。
 興奮状態にある人間の感覚は驚くほど鋭くもなるが、同時に視野狭窄に陥る。要は目の前のものしか見えなくなるのだ。一対一で対峙するより余程楽だ。
「ん、次。はい、次」
【朽ちる憧憬に灰を撒け】で増やした鋼糸――銀影で次々に町人達を拘束。全身を縛る必要などない。親指同士、膝同士、くっつけておいてやるだけで人は満足に動けなくなる。
 此方の糸は町人全てを縛り上げるにはどう考えても足りないのだ。節約をすることに越したことはない。
「……暴れるなとは言いませんが、そんなに暴れたら、指、落ちますよ」
 いま正に暴れていた男が玖寂の通告に恐れを成して大人しくなる。

 そのころ、玖寂の養い子はというと。
「優しい言葉を言って。綺麗で強い力をあげて。でも根っこの部分では誰も救いはしない。……むかつく。気にしてたらキリがないって玖寂は言うけど、でも」
【黒騎士を伴う残火の王女】
 ガイストと偲が呼ぶ騎士が召喚される。
 常ならば、完全武装の騎士など、しかも威容な黒騎士など見たら人々は逃げ出すだろう。だが力に酔い熱狂で我を忘れた人々は気が付かない。恐怖を勢いで塗りつぶして殺到する。
「そう。じゃあ、燃やすから」
 偲とガイストが、飛びかかる火の粉を払おうと、その力を開放しようとして。
「ぐあっ!?」
「ぎゃっ!」
 彼らが次々に目を押さえ、身悶えしながら地面を転がる。
 何者かの援護射撃。しかも目を狙ったものだ。血は流れていない。何か刺激物でもぶつけたのか。
 後方へちらりと目をやれば、先程玖寂と2,3会話していた少年が見えた。
 偲は瞬時に理解した。
 殺させないつもりだ。人々にも、猟兵たちにも。
(変なの)
 敵は殺す。燃やし尽くす。それは彼女の世界のルール。到底あの少年の思考は理解できない。
 けれど。
(敵じゃないなら、焼かない)
 それが彼女の世界のルール。
 地面を転がるそれはもはや敵ではなくなっていた。
 人々の体をまたぎ、飛び越えて偲は女神に向かって駆け出した。
 丁度うまい具合に道が出来ており、手の速い猟兵が既に一撃加えた後のようだった。
「さようなら。やっぱりわたし、貴女のこと嫌い」
 埋火が空間を赤く染めながら疾走る。
 衣装の一部を焼き焦がしながらも女神が反撃してくる。オブリビオンの腕は鋼と変わらない。殴られればそれはハンマーに相当し。手刀はそれこそ西洋剣のように肉を断つだろう。
 無手とて油断していい相手ではない。
「幼子よ。貴女が何故私をそんなに否定するのか、理解できません。誰も救わない? この町を見なさい。これほど発展した町を貴女は見たことがありますか? 人を富ませ、繁栄させることの、何を厭う必要があるのです」
「煩い。煩い煩い煩いっ。沢山人を殺しておいて、優しい言葉で騙してっ、そういうところが」
 互いに互いの攻撃を躱し、必殺の期を伺いながら言葉を交わす。
「私が居なければ、彼らは生まれてすら居なかった。町は村のまま滅びていたとわかっても?」
「っ! かんけい、ない! そういう所が嫌いなのっ」
 幼い偲には理論立てて反論することは出来ない。けれども、女神の在り方自体が気に食わないのだ。
 一見正しく見えてしまうことが。
 反論のしようもなく、彼女と村長の選択は未来を作っていたのだとわかってしまうから。
 その足元に膨大な数の屍があるのだと知ってしまったから。
 気持ちが悪くて悪くて、どうしようもないのだ。
 楽園などないと鼻で笑えても、その実体が醜悪な物であれば苛つくのだ。
 言葉にできないこの混沌とした感情を、偲はまだ名前をつけることができない。生まれ故郷であり、死んだ場所でもあるこの世界に冷静に向き合う術を、この幼子はまだ持つことができない。
「だから、のめりこむなと言っているんです」
 まるで偲の思考を読んだかのように声がかかる。
「玖寂っ」
「ウチのを虐めてくれたお礼です」
 偲に答えること無く、玖寂の腕が翻れば無数の糸が女神を拘束しようと踊る。
 女神は間一髪、糸の外へと跳躍していた。彼らの間に町人たちがまた人の壁を築く。
「玖寂っ」
 再度呼ばわり、偲は彼へ体当たりするように抱きついた。
「……困った子だ」
「……ごめんなさい。でも……」



 
(やっぱりおれは、弱い人間だ。町を滅びから護ろうとした町長と、オブリビオンから世界を護るおれたち。どっちも間違ってねぇはずだ。なのになんで……おれ泣いてんだろうな)
 はらはらと涙を流しながらも、鏡島は戦場を睨みつける。
 群衆は猟兵達を飲み込みながら雪崩のように迫ってくる。恐れを盲信と怒りで塗りつぶして進む人のなんと愚かで恐ろしい事か。
 力の有る無しなど関係ない。これは狂騒への恐怖だ。
(町長のように己を捨てる勇気なんて無ぇ。仲間のように手を汚す覚悟も無ぇ。それでも、だからこそ、自分が信じたもののために足掻きてぇんだ。たとえどんなに怖くても)
 傷つくのも、傷つけるのも、殺すのも、殺されるのも、全てが怖い。怖くて怖くてしかたがない。
 それでも、鏡島は戦場に自らの意思で立ったのだ。己が信念の為に。
 先程の玖寂の言葉が思い出された。
 先程援護した少女の視線を思い出した。
 そして、確信するのだ。
(誰も殺させない。殺さない。それが、おれの戦いだ!)
 スリングショットに代わって次に彼が握る武器は、剣でも銃でもない。なんの変哲もない、楽器。オカリナだ。
 人を傷つけるものには見えないし、武器などと言うにははばかられるような品。けれども、これは猟兵が持つ武器なのだ。紛れもなく。間違いなく。
 鏡島が肺いっぱいに空気を吸い込んで、群衆に向けてそれを吹く。直後、人々に異常が起こった。耳を抑え苦しみ藻掻きだしたのだ。
 音響兵器、という存在がある。
 読んで字のごとく、それは音によって対象の内耳を攻撃し鎮圧、無力化する兵器だ。
 指向性が高く指定した箇所以外へは被害を出さず、しかも対象者へも致命的な傷は負わせない。非殺傷兵器というものだ。
 鏡島がやったのはそれの模倣。
 ただのオカリナならば不可能だったろう。猟兵の武器を猟兵である鏡島が持ったからこそできた。
 群衆だけに向けた音の暴力に、ある者は耳を塞いで地に崩れ落ち、ある者は必死にその効果範囲から逃れようと走り出して他の者とぶつかって転倒する。
(難聴とかになっちまったら、ごめんな。後で治すから)
 音とは、使いようによっては人を攻撃できるのだ。UCなど無くとも。特別な力など無くとも、だ。



【写夭】
 敵のUCをコピー、その場で改変し一度だけ使うことが出来る戦場の鬼札。
 だがこの技には1つだけ致命的な欠点があった。
 それは一度その技をかけられ防御しなければならないということだ。見たり聞いたりしたものを模倣できるわけではなく、しかもその特性上絶対に後手に回る。
 防御できなかったら意味はないし、そもそも自分にかけられない限り模倣は不可能なのだ。
 故に、一部のオブリビオンに見られる支援型、指揮官型のものとは相性が最悪なのだ。
 悪い事にラグナソピアはその系統のオブリビオンのようで、先程から町人達を扇動、強化するばかりで此方に直接攻撃をしてこない。
(まあ、完全に手がないという訳でもなさそうですが)
 冷静に戦場を観察していたノウフィルは見た。ラグナソピアが霊魂、もしくは情念、なんでもいいが、そういったなにか非実体の物を召喚して人に降ろす様を。
(強化の一種……いえ、多分操り人形にしているのか)
 降ろされた人々は決まって他猟兵に無力化された者達だった。なるほど、先程のゾンビ戦の焼きましに近い。町人たちを徹底的に殺し破壊しない限り戦力として使うわけだ。
 それを崩さない限り千日手。だが、策はある。
 ノウフィルが走る。鹿忍が作り、維持している道を駆け抜けて女神へ声が届く距離まで到達する。
「まどろっこしい手がお好きなんですね? 直接僕達にそれを降ろせばいいのに。流石はラグ、ラグ……ところでお名前なんでしたっけ?」
「安い挑発ですね。態々言われたとおりに使うとでも? 罠かもしれないのに」
「おや、神を自称するお方が、僕らのような盗賊風情の策に恐れを成したと? いえ、構いませんよ。誰だって恐れは存在する。悪いとはいいません。ただ神様が、ねえ? そんな風で人がついてくるんですか?」
 神や指導者という者には1つ決定的な呪縛が有る。
 それは人に支持、崇拝され続けなければならないということだ。人の信を失うということは彼らにとって死にも等しい。
 ノウフィルは言葉だけで女神の行動を制限する。
「……良いでしょう。ならば味わいなさい。死して尚私に付き従う者たちの意思を!」
 瞬間、全身に怖気が走る。
 脊髄を氷の柱に置換されたような、絶望的な寒気。これは死者の感覚だ。ノウフィルとその死者の感覚がリンクして、思考が混濁し始める。
 なるほど、乗っ取り。成功すれば敵を無力化できるどころかこちらの戦力にできる。鬼札だ。
 だが、
「あい、にくと。魂の扱いは、僕の得意分野でしてね」
 足を踏み出す。ノウフィル自身の意思で。
 女神のユーベルコードの防御に成功したのだ。
「馬鹿なっ」
「魂の操作が自分だけの専売特許だとでも? 随分とお甘い」
 コード解析。完了。
 必要部分の抽出。完了。
 コード改竄。完了。
「自分の技で泣きを見るといいですよ、神もどき」
 女神の死霊を操る技を徹底的に改竄した技が発動した。
 死霊を呼ぶのは同じ。ただそれは人に降ろすためではない。
 告白の為。
 女神の悪辣さを、世界とこの町の差異を、直接人々の脳に訴えかけるのだ。
「ああ、町長さん。先程逝ったばかりだというのに申し訳ないですね」
 おぼろげだが、呼び出された死者が先程亡くなった男であることは明らかだった。
 言葉でも文書でもなく直接意思を叩きつけられた町人達が、次々に武器を取り落としていくのが見えた。
 ノウフィルが跳ぶ。
 告白を受けてもまだ戦おうとする者の刃の下をくぐり。時に傷つきながらも。
「僕には誓いがある」
 覚悟がある。
 死霊が、力が、何より自分自身が、止まることを許しはしないのだ。
 女神の顔が、はっきり見える。
 妖刀、一閃。
 女神の悲鳴が響く。



 暴徒に挑む直前のこと。
「ユル、預かっておいてくださいね」
 エイワズは自らの本体を、竜の子に手渡した。
 これからやることの為に。
 散歩をするような気がるさで暴徒の中へと進んでいく。
 怒声、罵声、雄叫び。四方八方から迫る凶器と狂気の中でさえ彼女は常と変わらない。
「自分より格上の化け物と戦うということを体に叩き込んであげます」
 避けて、殴る。シンプル過ぎる行動だったが効果は劇的だ。
 2m近い筋骨隆々の男は、それだけで吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
 死にはしない。女神の強化能力がその程度で人を死なせてはくれない。
 けれども腹を強打された男はその場で身悶えしながら吐瀉物を撒き散らす。
 一瞬だけ、町人たちの間に恐怖が走る。ただの女に見えないような者が、大男を一撃で昏倒させたらそうなるだろう。
「化け物と戦う覚悟はあるのでしょ? 武器を取っておいて躊躇するのは愚か者のすることですよ」
 来い。
 手招きして挑発。
 町人たちが恐怖を払拭するように叫びながらエイワズに襲いかかる。
 剣が、斧が、槍が、鉈が、クワが、スキが、フォークが、鎌が。
 四方八方から絶え間なくエイワズに襲いかかる。
 UCがあれば、もしくは槍があればこの程度の群衆、物の数ではなかっただろう。だが今、彼女は無手。
 肩に、腹に、頭に、胴に、時間経過と共に傷が増えていく。
 ただやられているばかりではない。何人もの町人がエイワズに殴り倒され、蹴り倒され、苦しみ藻掻きながら地べたを転がる。
 けれども彼女を囲む群衆が減る様子はない。十重二十重に彼女を囲む人の群れはさながら砂糖にたかる蟻のよう。
 棍棒で頭を強打されエイワズの体が揺らぐ。
 流血が目を覆う。
 ヤドリガミの本体は魔導書だ。人のような体は言わば湖面に浮かぶ月のようなもの。それでも、痛みや感情が存在しないわけではない。
(寒い。死に向かうという喪失感……。本体ではないからと、少し無茶をしすぎましたね。……けれど)
 策は、成った。
【仮初の肉体】発動。
 召喚場所は女神の、後ろ。
「っ!?」
 女神が気づく。腕を振るって払いのけようとして
「遅いですよ」
 刹那よりも尚速いひと突き。
 腹から槍を生やした女神が血を吐きながらたたらを踏む。群衆が悲鳴を上げる。
「まだ終わってませんよ?」
「な、?」
 地面を爆裂させながら、騎士がおりたったのだった。



 時は少し遡る。
「あの男は己を朽ちさせつつも人間の存続を願った。ならば、それに全力で応える他はあるまい。貴様の如き独善が神を騙るならば、我も今宵限りの神を名乗ろう。――貴様に終焉を齎す、死神をな」
【腐爛の血毒】が発動し、ユングフラウの肢体がみるみるうちに膨張、肥大化して人成らざる化け物へと変容していく。
 ヒュドラ。
 9つ首の身の丈40mに迫ろうかという大蛇だ。
 町人たちの顔に畏怖の感情が浮かんだ。いくら力を増そうとも、精々2m程度の生き物が歯向かって良い存在ではないのだ。
『抵抗するな。さすれば、危害は加えん』
 言葉に力を籠めてユングフラウが町人に呼びかける。畏れよ、恐れよ、怖れよ、と。
 神の宣告に近い。化け物が跳梁跋扈し、夜闇が深いこの世界では、強大な力こそが神聖となる。
 少なくない数の町人達が武器を取り落とし、まるで命乞いをするようにその場に跪く。
 町人の囲いがほつれ、女神の周りに空白地帯が出来る。
(好機)
 すぐさま、侍っていたトリテレイアを咥えると、大きく振り回し。
 投げた。
 巨大生物の首、その遠心力を存分に加えられたトリテレイアは砲弾の如き勢いで突進し、女神の眼前に激突した。
 地面を破壊しながらも着陸するトリテレイア。直ぐ様煙幕を噴射。
 町人の邪魔を受けないようにするためだ。
「なんっ!?」
 女神の驚愕の声。
 問答する暇は与えない。女神を掴む。
 トリテレイア発案の策だ。女神を人々の中から引き剥がし、そこを討とうと。
 作戦の前半は成功。後はユングフラウまで投げ飛ばし、さらに遠くに隔離してしまえば成功する。が。
 びくともしない。
 女神が抵抗しているのだ。
 見た目は華奢な女なれど、その本質はオブリビオン。猟兵の力と拮抗、否、むしろ上回る。このままでは孤立したトリテレイアはむしろ窮地に陥るは必至。 
 なればオブリビオンを超える力を。今、ここに。
 都合のいい覚醒などではない。そんなものは期待していない。手繰り寄せるのだ。限界を超える力を。意思と、計算と、技で。
(町長は魔道に堕ちながらも故郷を守る覚悟を見せました。我が道を往く方もいる。では私はなにを成すべきなのか。正義は見つからずとも)
 見つからずとも、誓ったのだ。自らの根源。子供だましの騎士物語。
 人を、守る。
 そのためならば、我が身など。
 自分自身へのハッキング開始。
 普段ならばアクセスの出来ない自律プログラムへと侵入。
 出力を最大値へ。
 アラート。
『器官への重大な損傷を起こす恐れ在り!』
 認識領域全てに広がる警告文。直ちに出力を安全域まで落とせと何度も警告してくる。
(そんなもの!)
 全て却下。
 さらに条件を満たしたことにより【オース・オブ・マシンナイツ】が発動。
 体全体から断末魔めいた軋みを上げながら、ついに女神が持ち上がった。
「っ! やめなさい!」
 藻掻く。今更遅い。
「ぐ、が、あぁぁあああああ!!!」
 踏み込んだ足が、捻りに耐えきれず胴体部分が、肩が、腕が、次々に破断を起こしながら、女神を投げ飛ばす。
『見事!』
 空中でユングフラウがキャッチ。牙をつきたて、毒を注入し、町人の手の届かないところへと投げ飛ばす。
 それをトリテレイアは、アラートで真っ赤に染まる視界で眺めていた。
 ユングフラウが此方を見る。巨大なヒュドラが此方に迫ってくる。
 トリテレイアに。トリテレイアの背後に居る人々に向かってくる。
 剣を持ち上げる。ヒュドラに向ける。剣先は信じられないくらいに重く、保持することができない。ふらふらと震える。それでも。
「彼らに危害を加えるならば貴女でも……戦い……」
 ブラックアウト。
 剣が落ち、腕が落ち。首が傾いて。トリテレイアはその場で機能を停止した。
『我にさえ刃を向けるその正義、見事だ。故に、斃れるな。汝の刃は、まだ錆びる時ではない』
 ユングフラウはその巨大な口で、先と同じく半壊した騎士をくわえる。傷にさわらぬように、そっと。



 他の猟兵達が確かに刻んでいった傷。
 騎士と女帝が作り出した決定的なチャンス。
 この機を逃したら、駄目だ。
 カーライルは呪いと異能【見えざる鏡像】による完璧な隠形をしながら、疾走る。
 女神へ、ラグナソピアへ、”彼女”へ向けて。
 先の戦いで負った傷が痛む。鐘がなるように、一歩毎に脳髄に痛みが響く。闇に属する彼女にとって光とはそれ程の傷である。全身を覆う倦怠感はそれこそ、人からしたら高熱をだしたときのソレに近い。
 それでも、それでも、駆ける足に淀みはない。
(……あぁ)
 懐かしい声。懐かしい姿。在りし日の姿そのままに、彼女が今目の前に。
(……貴女がラグナソピアだったんだ。これも何かの偶然……いいえ。運命、かな?)
 必然だったのかもしれない。カーライルは女神を見る。
 聖痕が疼く。
 お前の遠くない先の姿だと突き付けるように。
 恐れはない。後悔はない、はずだ。自分も、多分彼女も。
 力の代償。契約の対価。こうなることは必然。彼女と自分が相まみえるのもまた、世界というシステムの掌の内なのかもしれない。
(待っていて、繁栄の代行者……ううん、ラグナ。今、その呪わしき運命から……“代行者の羈束”から解放してあげる)
 大鎌。振りかぶる。女神――ラグナを両断せんと。
 間際。振り返る。不可視の筈のカーライルと目が、あった。
「ぁ……」
 ラグナソピアの腹に、深々と食い込む刃。
 じわじわと刃が進む。ラグナを、殺すために。
 ごぼり。
 口から溢れ出る鮮血。元から血で汚れていた衣装が、決定的に赤にそまる。染まり切る。
 血のあぶくの中で溺れている。苦しいのだろう。
 楽にしてやらなければ。この苦しみと、呪いから。
「っ、かっ、い」
「……ん。さようなら、ラグナ。どんな形でも、また貴方に逢えて嬉しかった……」
 鎌か振り抜かれる。ラグナソピアがわかたれる。
 最後の瞬間笑った、ように見えた。
 ありがとう。
 音にならない感謝の言葉。幻聴か、それとも。
 もはや確認する術はない。
 ラグナソピア、否、ラグナは今度こそ、死を迎えられたのだから。

●そしてそれから

「読め。一言一句取りこぼすことなくだ」
 戦後、女神も長も失い打ちひしがれる人々に今一度、四王天が町長の日記を差し出した。戦いの最中誰も見向きもしなかったそれを、今なら読めるだろうと。
 教育水準はアースの日本などとは比べるべくもなく、文字を理解できる者は少なかった。彼らが読めない者たちのために音読し、全員が過去と現状を理解するまでにはそれなりに時間が必要だった。
 四王天は根気強く待った。
 そして。
「ば、かな……嘘だ」
「創作かどうかくらい、わかるだろ」
 町の施設の成り立ち。自警団の設立。壁の設置。どの出来事も、情報も、町を深く知り尽くした者以外記述が不可能なもので、矛盾点もみあたらなかった。当然だ。1人で町を切り盛りしてきた者の日記なのだから。
 外部の者が一朝一夕ででっちあげられるようなものでないことくらい、冷静になって読めば誰にだってわかった。
「でも……なら、俺たち、これからどうすればいいんだ。力もない。町長も、いなくなってしまった。これから、いったい、どうしたら」
「力はありますよ。格上に抗う気概は先程確認しました。誰かに頼らずともある程度の驚異は跳ね除けられると評価します」
 エイワズが慰めるわけでも、力づけるわけでもなく、ただ淡々と述べる。
 人々に痛めつけられてボロボロになった彼女の体にはそれなりの説得力があった。
「これからの事は自分たちで考えなさい。私達はあの女神のようにいつでも力を貸すような都合のいい存在ではありません。町長のように貴方方を真実から遠ざけて甘やかすような存在でもありません」
 冷たい言葉だった。だが、自立を促す発破のようにも見えた。
 のろのろとではあるが人々が立ち上がり、破壊しつくされた町をどう復興するか、その相談を始める。
「愚かで、でもそれだけではない。人とは本当に興味深い」
 エイワズはその様をいつまでも、いつまでも眺めていた。

●エピローグ

 ラグナソピアの存在は
 村長の決断は
 かつての村を滅ぼすよりも遥かに多くの人の命を不条理に奪った
 ただそれは、村が滅びず発展繁栄したが故
 それを否定できるものが居るだろうか
 あの決断の時、別の道を選びただ死に絶えるべきだったと誰が言えるだろうか

 オブリビオンの繁栄の力が
 一人の男の執念が
 そして猟兵達の行動が
 ついには人の町を作ったのだ

 町のこれからが明るいものだとは断言できない
 超常の力を前提に発展した町は、きっと今のままではいられない
 戦った人々が後どれほど生きられるのか、誰もわからない
 世にオブリビオンの驚異は未だ絶えず
 人はこれからも死ぬ
 けれども、この町では人が人らしく生きて死んでいける
 それだけの基礎があり、気概があった

「町長……仕事料は町を現在に繋いだご祝儀から天引きだ」
 猟兵達は自分たちが救った町をもう一度目に焼き付けて、この世界から去っていくのだった。

 地獄があった。
 町があった。

 そして未来が、ある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月04日
宿敵 『繁栄の代行者・ラグナソピア』 を撃破!


挿絵イラスト