闇の救済者戦争②~百万回死んだ神
●さよなら、やさしい神様
――ああ、
また救えなかった。
優しい優しい子らだった。親切な村人たちだった。
もういちど、もういちど、僕はその災厄の前に立つ。
そうして、僕は。
食われて死んだ。焼かれて死んだ。抉られて死んだ。刺されて死んだ。斬られて死んだ。縊られて死んだ。
それでも、僕は。
――あの、■■■■■■を……。
そうだ、僕は。戦わなくちゃ。
厄災から、■■■をまもる、ために。
●そしてそれから、幾万の時が過ぎて
「やあ、来てくれてありがとう。ダークセイヴァーで始まっている戦争、「闇の救済者戦争」の事はもう耳にしているね?」
贄波・エンラ(Liar Liar Liar・f29453)は己の呼びかけに応えて集まった猟兵たちの姿を認めると、そう礼の言葉を述べ、ふぅっと口から紫煙を吐き出した。
「早速だけど行ってほしいところがあるんだ。場所はかつて『紋章つかい』が築きあげた、「侵蝕迷宮城」の中でも最大の書庫城。蠢きながら今なお巨大化を続ける城……その内部には、あらゆる危険で邪悪な魔術知識の書が眠っているとされる。けれど君たちにやってほしいのは、その本たちをどうこうする方じゃあない」
この書庫城の中には、遥か昔に『紋章つかい』の研究に利用され、数多のおぞましい実験の果てに「耐用期間切れ」として廃棄された魔獣や人間、或いはヴァンパイアの成れの果て――即ち狂気に冒され、異形と化し、植え付けられた強大な力を衝動のままに振るうことしかできない「狂える異端の神」が、広大な城内を徘徊しているのだという。
「間違いない強敵だ。けれど彼らの中には砂粒ほどのほんの僅かな「過去の良心や後悔」が残っていることがある。そう、君たちに倒してほしい敵の中にも、それはあるんだよ」
咥えた煙草を口から放し。もう一度ふぅ、と紫煙を吐いて、エンラは言った。
――敵の名は『生命枯らせし鷹羽の犬』。
「それは死神だ。あまねく生命の死を司る神霊。全生命の、「苦痛からの解放」を願う声から生まれた存在。この死神は――第四層で死してもなお第三層で苦しめられる魂人たちに心を痛めたらしいんだ。そして、どんな偶然があったものか。自分を助けてくれた村を、村の魂人たちを守ろうとして、村を救おうと闇の種族に抗ったみたいだよ」
その結果。死神は百万回の死を与えられ。魂人たちは「永劫回帰」の果てに壊れて闇の種族の玩具と化し――そして、死神は実験対象と成り果てた。
「だから、この死神の後悔は「村を守れなかったこと」だ。ううん、もっと正確に言うと、この死神は今も「村を守るために、闇の種族に抗っている」つもりでいる。……狂気に冒されてしまったがゆえに、守るべき村がもうないという事実を認識できないんだ」
だから、そう。
「もう戦わなくていい。もう抗わなくてもいい。そんなことを囁いてやれば、死神の狂気は僅かに緩み、攻撃力を減じることが出来るだろうね。だけど、まあ。村がもうないことや、救うべき魂人たちがもういないことを突きつけてしまうと、彼はその現実を受け入れたくなくて更なる狂気に陥る。そのへんは上手くさじ加減を調節するべきかな」
そういうことでさ、と、エンラは三度紫煙を吐き出して。その紫煙はグリモアの光に照らされ、転移の門と化す。
「転送は僕が引き受けるから。準備ができたら、僕に声をかけておくれよ」
相手は百万回死んだ死神だ。どうか油断しないようにね――。
信用できない笑みを浮かべると、エンラはそうして猟兵たちを送り出すのだった。
遊津
遊津です。ダークセイヴァーの戦争シナリオをお届けします。
ボス戦一章構成となっております。
当シナリオには以下のプレイングボーナスが存在します。
※プレイングボーナス……敵の僅かな良心(または後悔)に働きかける。
「◆戦場について◆」
迷宮書庫城の廊下で戦う事となります。屋内ではありますが。廊下は広く、拓けています。天井があるため、空中戦には向いていません。
城内は炎を熱源としない正体不明の灯りによって照らされており、太陽の光は差し込みませんが、暗闇でもなく、視界は確保されています。
戦闘を邪魔するものは何もありません。迷宮書庫城にあるものならば戦闘に利用することは可能です。何かを利用する場合「何を」「どうやって」使用するのかきちんとプレイングに明記してください。
転移、即接敵となりますので、技能などを使用して何かをあらかじめ用意しておく(体の「パフォーマンス」をよくしておく)などはできません。何らかの準備行動を行う場合、戦闘と並行して行うこととなります。
上記の注意事項を読んでいないと判断されるプレイングは申し訳ありませんが不採用とさせていただきます。
「◆ボス敵『生命枯らせし鷹羽の犬』について◆」
全生命に平等に「死を齎すもの」として願われた死神が、たったひとつの魂人の村を救おうとして、叶わなかった成れの果てです。
狂気に冒されており、猟兵たちを闇の種族の尖兵であると認識して襲い掛かってきます。
「村を救えなかった」ことに後悔を抱き、今も「(もはや存在しない)村を救うため」に戦うという狂気に陥っている為、「もう戦わなくて良いこと」や「もう抗わなくて良いこと」を示してやると少しばかりながら狂気が緩み、攻撃力が減衰します。
猟兵がいっさいユーベルコードを用いず、技能とアイテムだけで戦った場合でも、赫き剣や黒い砂嵐、黒い風を用いて戦います。
当シナリオのプレイング受付開始は、このシナリオが公開され次第即時となります。
諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページを一読の上、プレイングを送信してください。
また、送られてきたプレイングの数によっては全員採用をお約束できない場合がございますので、あらかじめご了承ください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『生命枯らせし鷹羽の犬』』
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POW : 黒嵐佇む鷹羽の犬(ケイモーン・ムストノテロス)
戦場全体に【黒い砂嵐】を発生させる。レベル分後まで、敵は【生命力吸収】の攻撃を、味方は【吸収した量に比例する生命力付与】の回復を受け続ける。
SPD : 生命穿つ冥赫剣(アンフェールズツヴァイハンダー)
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【生命を吸い取る赫き剣】で包囲攻撃する。
WIZ : 冥界の使徒(インフィエルス・アポストル)
【顕現可能時間を代償に将来の青年体の姿】に変身し、武器「【である生命吸収能力】」の威力増強と、【他者の生命力を弱らせる黒い風】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
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夜刀神・鏡介
幾度も殺されて尚戦い続ける、か。果たして俺にそれができるかどうか……
利剣を抜き、澪式・伍の型【逆波】の構えで壁を背にして相対
複雑に飛び回る無数の剣は厄介だが、しかしここは書庫の廊下。動き回るにも限度があろう
そして背後が壁なら、背中から刺される心配もない
後は頭上と、正面からの攻撃を捌いていけばいい
後悔や無念の気持ちを否定しないがしかし、お前の戦いはもう終わっている
今を変える為に戦うのは、今を生きる者のやるべきことなのだから
もう、お前が戦う必要はない
攻撃の手が一瞬でも緩んだならば、【逆波】の構えを解除して、敵へと接近。渾身の一撃を叩き込む
……後は任せろ。今すぐにとはいえないが、いつか必ず
●
その死神の目は、まっすぐだった。狂気の淵に落ちてなお、まっすぐに――誰かを救うために戦おうとしていた。
(幾度も殺されて尚戦い続ける、か)
同じことが自分の身に起こった時、果たして自分にそれができるかどうか――夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は胸中で自身にそう問いかけながら、死神の赫剣を自らの刃「利剣【清祓】」でもっていなした。壁を背にして、【
澪式・
伍の型【
逆波】】の構えでもって死神と相対する。
中段で刀を構え、正面からの全攻撃を切り払いと受け流しでもって防御する構え。常に壁を背にし続ける事で、死角を作らないようにつとめる。
死神が死の力を解き放つ。1380本の生命を吸い取る赫き剣が迷宮書庫城の廊下で渦を巻き、精緻な紋様のタペストリーを織り紡ぐように幾何学模様を描きながら、鏡介へと向かってくる。
「だがここは書庫の廊下だ……!動き回るにも、限度があろう!」
【
逆波】の構えによって襲い来る刃を叩き落し続ける鏡介。壁を背にしたのは死神のこの攻撃に備えてのことだ。背後が壁であるならば、少なくとも背中から刺される心配だけはしなくていい。故に鏡介は、頭上に渦巻く剣、そして正面に向かい来る剣のみに集中することができた。
「お前の後悔、無念の気持ち……それを否定する気は、ない。だが」
防いでばかりで攻めてこない鏡介に、死神が不審そうに構える。その犬のそれをした耳朶を、鏡介の言葉が叩く。
「お前の戦いは、もう終わっている」
『――――……』
「今を変えるために戦うのは、今を生きるもののやるべきことなのだから」
『……ち、がう。ぼくは、まもらないと。あの村を、守らないと』
――やさしいたましいびとのこたちでした。しんせつなむらびとたちでした。
――かれらはだれも、しにたいとはねがいませんでした。
――だからぼくは、死を願われるだけの存在だった僕は。
――はじめて彼らを、守ろうと思ったのです。
「もう、お前が戦う必要はない」
『――ぼくは』
ほんのわずかの間、死神の目が正気を取り戻す。その目が悲しみに満ち溢れる。詮無きことだ。現状を理解してしまったなら、狂気が緩んでしまったなら、守ろうとしたものがもうどこにもないことが、聡い死神には理解できてしまうのだから。
けれど、それだけが巡り来た好機。鏡介が掴んだ瞬間。【
逆波】の構えを解除して、死神へと肉薄する。
「……後は、任せろ。今すぐにとは言えないが、いつか、必ず」
鏡介の渾身の一撃が、死神へと叩き込まれる。噴き出した血が、死神の白い頬を濡らした。
大成功
🔵🔵🔵
黒影・兵庫
守るべきものはもうないなんて…どうやって伝えりゃいいんだ!?
(頭の中の教導虫による『早業』の『肉体改造』で黒影の筋肉と骨を増強し『衝撃波』での『推力移動』で攻撃を回避する)
(「ここがどこかを気づかせる必要があるわ!周囲を観察させなさい!」と頭の中の教導虫が話しかける)
わかりました!ならUC【誘煌の蝶々】で支援兵の皆さんの舞で動きを止めている間に
『結界術』で『迷彩』効果を付与した結界に隠れて、敵に周囲を観察させ
敵の様子が変わったらもう戦う必要はないことを『催眠術』と共に伝えて信じ込ませ攻撃を仕掛けます!
(「真実を知った敵の狂乱に巻き込まれないようにね」)
はい!せんせー!
●
『……かたなにきられて、しにました』
――これでひゃくまんと■■■■いっかいめ。それでもぼくはしねません。
『あの村をぼくはまもります。だからぼくはしねないのです』
歌う様に言う死神の前に相対して、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)は戸惑う。
(守るべきものがもうない、なんて……どうやって、伝えりゃいいんだ!?)
そうしている間にも、兵庫の脳内に埋め込まれた、彼が「せんせー」と慕う寄生虫『教導虫「スクイリア」』によって高速の肉体改造が行われ、兵庫の筋肉と骨が増強される。死神が放った黒き風を、衝撃波を伴う推力移動によって回避する兵庫。
頭の中から、教導虫が彼に囁きかけた。
“ここがどこかを気づかせる必要があるわ!周囲を観察させなさい!”
「わかりました!なら……おいでませ、支援兵のみなさん!」
兵庫はユーベルコード【
誘煌の蝶々】を発動させる。炎に寄らない書庫城の怪しく灯るランタン、それに照らされて長く伸びる兵庫の深緑色の影の中から、六八〇頭の可憐にして儚げに舞う蝶の群れが現れる。その蝶の群れの発光する鱗粉に触れて死神は動きを止める。
「ご足労いだたきありがとうございます!」
迷彩効果を付与した結界術に隠れる兵庫。兵庫を見失い、辺りを見回す死神はふと首をかしげる。
『あれ。……あれ。ここは、どこでしょうか』
書庫城の中。それがどういう意味を持つのか。聡い死神の狂気が、少しずつ払拭されていく。
「今!」
もう戦わなくて良いのだという事を、戦う必要はないのだという事を、兵庫は蝶たちの揺らめきに交えて催眠術で死神に信じ込ませる。
『あ、ああ、あああ、うそだ、うそです、いやだ、しんじない、ぼくは、あのむらを!!』
“真実を知った敵の狂乱に巻き込まれないようにね”
「はい!せんせー!」
教導虫の声に元気よく返事をして、兵庫は蜂皇族の牙から作ったナイフ「蜂皇の牙」を構える。
『ああああああああああああああああああ!!』
少年のすがたであった死神が、青年へと姿を変える。それは成長する死神の将来の姿。顕現可能時間を代償にした急激な成長を遂げて飛翔しながら、死神は周囲の生命力を吸収し他者の生命力を弱らせる黒い風を嵐のように暴れさせる。否。それは死神自身の心の荒れようだ。生命力を吸われ、蝶々がぱたぱたと床に落ちていく。
『信じません、うそです、ぼくはあのむらをすくわなきゃ!あのこらがもういないなんて、まにあわなかっただなんて、そんなこと!』
「……信じられなくても、それが真実なんだ……よっ
……!!」
黒い風の嵐を潜り抜けた兵庫のナイフの一撃が、死神の胸に突き刺さった。
大成功
🔵🔵🔵
朱雀・慧華
助けてあげたい
今の私に出来るかはわからないけど
ミッキュ、ごめん!手伝って!
本体を壊されない限り死なないから
攻撃対象を逸らすための囮に
その間に自分に【オーラ防御】
杖を使った水魔法の【属性攻撃】で敵を濡らし
氷魔法の凍結で時間稼ぎ
攻撃は回避しながら当たるまで頑張る
生命力を奪われて苦しくても
もういいんだよ
貴方はちゃんと守れたよ
【指定UC】発動
魔法の絵筆で空間に生きた【アート】を描く
守ろうとしていた人々を、村を
想像でしかないけど
偽物ってすぐバレちゃうかな
でも、伝えたいのは気持ちだから
ありがとうって
お疲れさまって
皆、伝えてあげて
やり取りが終わったのを見届けて
氷魔法で凍結攻撃
少しでも思い出を邪魔しないように
●
『……むしにたかられて、しにました』
これでひゃくまんと■■■■にかいめ。それでもぼくはしにません。
『よわっちくていとしい、にんげんたち。ひとりだって死にたいとねがわなかった、むらびとたち。あのこらをぼくはまもります。だからぼくはしなないのです』
歌う様にそう言ってふらふらと歩みを進めてくる死神を、朱雀・慧華(純真天使・f17361)は悲痛な思いで見つめる。
慧華の心にあるのは、この死神を助けたい、助けてあげたいという気持ちだ。
(今の私に出来るかはわからないけど……)
「ミッキュ!ごめん、手伝って!」
羽の生えたフェネックの「ミッキュ」がぽぽんと慧華の傍らに現れる。死神のすがたが、少年から青年のそれへと変貌していく。それは死神の将来のすがた。百万回死んでもまだ尽きない「顕現可能時間」を削って成長した姿となった死神は、武器である生命力吸収能力をいや増し、他者の生命力を弱らせる黒い風を纏って、時速640キロで飛翔しながら慧華へとせまる。その黒い風を、ミッキュが代わりに受け止めた。その間に慧華は、自らの体に防護の壁を纏う。母親から受け継いだ「ティアマトの杖」でもって水を顕現させ、死神の身体を濡らし、氷結魔法によって凍結させる。時速640キロの飛翔は、死神の身体の凍結を促進させる。黒髪を白く凍らせながら、死神は慧華の生命力を少しずつ奪っていく。黒い風を回避しながら、生命力を奪われて苦しくても、慧華は諦めずに繰り返す。
「もう……いいんだよ。貴方は……ちゃんと、守れたよ……!」
――それは、虚偽だ。死神は村を守れなどしなかった。けれど慧華は、その真実を捻じ曲げようとする。展開させるユーベルコードは【
夢見る少女の不思議な世界】。自身の持つ絵筆と絵の具、「
七色空描筆」と「
七色空絵具」から、慧華は空間をも支配した時限式の生きる絵画を描き出す。それは死神が守ろうとした村。守ろうとした魂人たち。例え想像でしかなくても、魂人たちを知っている。ならば描き出せるはずだ、今はもう死神の胸の中にしかない、守りたかった愛しき子らを。
「“ありがとう、■■”」
――描き出された魂人は、慧華の知らない名で死神を呼んだ。
「“お疲れさま、■■”」
もういいんだよ、■■。きみはわたしたちのために戦ってくれた。おかげで村は守られた。みんな生きている。だからもう、戦わなくていいんだよ、■■■■■■■■――。
『ああ、あ、あ……』
描き出された魂人たちを見た死神の目から、狂気が払拭されて、悲しみの膜が張る。聡い死神は、正気を取り戻せば理解してしまう。自分が百万回も殺されている間に、闇の種族に狙われた村がどうなったのか。狂気に逃げ込まなければ真実が見えてしまう。だから、それは。そんなことは、あり得なくて。だけど。
『うう、あああ、ぼくは、ぼくは、そんなよわっちいにんげんたちがいとしくて、だから、まもりたくて』
慧華は待った。描き出された魂人たち全員が、死神を抱きしめ終わるのを。死神の瞳からこぼれ落ちた涙が、白く凍り付いていく。慧華の氷魔法によって、死神は優しく、苦しみを感じることなく凍りついていって――
そして、やがて。氷像と化した死神は、ぴしぴしと砕けて散った。
それでも。それでも死神はまだ死なない。これで終わりでないことを、慧華の神としての直感が伝えている。
けれど今の状態では、慧華には何もしてやることはできない。
(誰か、この優しい死神を終わらせてあげて)
そう願いながら、慧華は戦場から一時撤退するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
村を救おうとした死神?
そんな神さまもダークセイヴァーにいたんだね
助けて上げられないのが残念だけど、お役目は、ぼくたち猟兵が引き継ぐの
まずはドーム状の結界術を展開
先制攻撃に備えるの
一撃もらったら張り直しと重ね掛け
なんとか視界に収めないと…
待って、ぼくは闇の種族じゃ、村を焼きにきたんじゃないの!
魔力追跡でなんとか捉えて予測演算
氷属性魔術で牽制しながら声を掛けるの
ぼくたちは猟兵、ぼくたちも闇の種族と戦ってるの
村を守る為に
あなたは狂うまで守る為に戦ってきたんでしょ
もう、戦わなくていいの
あなたの役目は、ぼくたちが引き継いで、必ず守るから!
相手UC解析完了
UC発動
その狂気ごと、あなたを闇に還す
おやすみなの
●
『……こおりづけになって、しにました』
これでひゃくまんと■■■■さんかいめ。それでもぼくはしにません。
『よわっちくて、だからこそつよくて。いとしいにんげんたち。だれもぼくをおそれなかった。だれもぼくにしにたいとねがわなかった。だからぼくはまもります。まもるのです、あのむらを』
『ぼくがまもるのです、ぼくが、ぼくは、まもらなければ。ぼくがたたかわなければ』
ふらふらと歩みを進めながら、まるで歌でも歌うかのようにそう言う死神。それに対してロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は、驚きのようなものを感じていた。
(村を、救おうとした、死神。そんな神さまも、ダークセイヴァーにいたんだね……)
この世界には残酷なモノしかないと思っていた。ヴァンパイアも神も闇の種族もただ人々を責め苛むばかりで、それに命を賭けて抗うのがこのダークセイヴァーに生まれた人々の宿命なのだと。
だけどここには、たった一つの村を、魂人たちを助けようとして闇の種族に抗って、百万回の死を遂げた後に狂い果てた死神がいる。……たとえそれが叶わず、魂人たちは永劫回帰の果てに狂い、闇の種族の玩具となるという結末を辿ったのだとしても――優しい神さまは、この世界にもいたのだ。
(助けてあげられないのが残念だけど、お役目は、ぼくたち猟兵が引き継ぐの)
『ぼくはまけません。なんどしんだって、あの子たちを守ってみせます!』
床を蹴った死神の身体が変貌していく。自らの『顕現可能時間』を代償として青年の姿に成長すると、生命力を吸収する能力を増し、他者の生命力を弱らせる黒い風を纏って時速690キロで飛翔しながらロランに向かって黒い風を撃ち出してくる。
『僕が守る!……あの弱っちくて強くて愛しい魂人たちを!あの村を!お前たちの玩具になどさせはしません!』
「待って、ぼくは闇の種族じゃ、村を焼きにきたんじゃないの!」
『僕だけが戦える……!あの子たちに力を使わせたりなんか、優しい思い出をトラウマに挿げ替えたりなんかさせない
……!!』
ドーム状の結界を張り、死神の黒い風に耐える。一撃一撃が結界そのものの「生命力」、すなわち耐久力を減衰させていく黒い風。ロランは結界を張り直して重ねがけを繰り返し、高速で飛翔する死神をなんとか視界に収めようとする。
肉眼で追えないならば、魔力を追跡し。ぎりぎりに捕えて相手の動きを予測演算する。氷の魔術を撃ち出して牽制しながらなんとかして死神に声を届かせようとする。
『氷では僕は殺せませんよ、だってさっきそれで死んだばかりです』
「ねえ、聞いて!ぼくたちは猟兵、ぼくたちも闇の種族と戦ってるの……!聞いて、お願い!」
叫びながらも飛び交う黒い風を、死神を、そのユーベルコードを解析していくロランの魔術。
「あなたは狂うまで守るために戦ってきたんでしょ、……もう。戦わなくて、いいの」
『うえです、よ!』
「……あなたの役目は、ぼくたちが引き継いで、必ず守るから!!」
死神の瞳に、正気の光が一筋、灯った。それは悲しみの表情だった。だって、聡い死神は少しでも正気に戻れば理解してしまう。なぜここにいるのか。「あれ」からどれだけの時が経ったのか。自分が百万回殺されている間に、村がどうなったのか。もう、守るべき村がないことまで、わかってしまう。自分が役立たずだったことを。
そうして、ロランの魔術解析は、終了した。
『ああああああああああああああっ!!僕は、僕は、あの子たちを、あの子たちを――!!』
「うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!」
満月の魔力がロランの顔に集中する。魔術文字による隈取が、ロランをより狼のごとき風貌に近づける。対象のユーベルコード、黒い風と生命力吸収能力を浸食し変化させる満月の力を乗せた咆哮がロランの喉から迸る。
「その狂気ごと、あなたを闇に還す……おやすみ、なの」
黒い風が死神を取り巻いて。生命力を吸い取られつくして、かさかさになって死神は消えた。
――けれど、まだだ。百万回死んだ死神は。これだけでは終わらせてはやれないのだと、ロランは悟る。
ああ、誰か、早くこの神さまをやすませてあげて。
ロランはそう願いながら、戦場から撤退するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
エインセル・ティアシュピス
【標と白猫】アドリブ歓迎
……にゃーん?(額のルーンが光る)
くろいぬさんのもひかって――そっか、ぼくたちおんなじなんだ。
ぼくよりはやくうまれて、いっぱいいーっぱいがんばってたんだね。
でもオブリビオンにひどいことされちゃって……
ふぃるばー、くろいぬさんがもうたたかわなくていいようにできないかにゃ?
たすけてあげたいにゃーん……
じかんがあったらいいの?じゃあぼくがんばって【時間稼ぎ】する!
【多重詠唱】で、【オーラ防御】と【結界術】をかけて、
こうげきをふせぎながら【浄化】のちからもいれて【指定UC】でおはなしするよ!
にゃーん、ぼくはくろいぬさんのてきじゃないよ!たすけにきたの!
くろいぬさん、いっぱいいっぱいい――っぱいたましいびとさんたちをたすけてきたってきいたよ!
すごいにゃーん!
でもね、つかれてるとみんながしんぱいしちゃうよう。
だから、くろいぬさんもいっぱいおやすみしてほしいの!
そのぶん、ぼくがいっぱいオブリビオンをやっつけて、たましいびとさんたちをたすけるからね!
そういって【手をつなぐ】よ!
フィルバー・セラ
【標と白猫】アドリブ歓迎
あー、なる程?
飼い主じゃなくて俺の手を引っ張るから何かと思ったら……
確かにどっちかってーと俺の領分だな。
……かといって俺も専門じゃあねえんだが!
単純な死霊術の類じゃあ逆に狂気に陥らせるだろうし、
該当する奴の残滓を引っ張ってこれるとも限らねえ……
だが、坊主の言葉を届かせる為にゃあ多少手をつけるしかねえって感じか。
仕方ねえ、少しでもいいから時間を稼げ。
何とか一手投じてやるよ。
【結界術】を纏った上で『新緑の外套』に魔力を流して【迷彩】化しておく。念には念を入れねえとな。
何でもいいから無機物を一つ確保して、【指定UC】と【召喚術】を【多重詠唱】で噛ませて作って……
……よし、内容も大丈夫そうだな。
【リミッター解除】、魔力の一部(【魔力溜め】)を解放。
拘束術式(【身体部位封じ】)で動きを止め、その上で声を聞かせる。
……お前が助けた連中も心配してんだ。
ゆっくり休んで、また元気な顔を見せてやれ。
これで坊主のUCも効くようになりゃ、あいつの浄化の力で勝手に力尽きるだろうよ。
●
『……ぼくのちからをそのままかえされて、しにました』
これでひゃくまんとななひゃくきゅうじゅうよんかいめ。それでもぼくはしにません。
『だってあのこらはやさしかった。こんなぼくにもやさしかった。あんなによわっちいのに、すぐこわれてしまうくせに、あのむらのたましいびとたちはそれでもつよくいきていた。いとしかった。だれもぼくに、しをねがわなかった』
子守唄を歌う様に、言葉に節をつけながら。ゆらゆらとその体を揺らめかせながら、死神は歩む。その額に刻まれた直線状の刻印が光る。それがルーン文字だとフィルバー・セラ(
霧の標・f35726)が気づけたのは、傍らにいた子猫のような少年、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)の額のルーンも同じように光っていたからだった。
「……にゃーん? くろいぬさんのも、ひかって――そっか、ぼくたち、おんなじなんだ」
――ぼくよりはやくうまれて。いっぱいいーっぱいがんばってたんだね。
「でも、オブリビオンにひどいことされちゃって……」
しゅん、とエインセルの耳が垂れる。エインセルはフィルバーの顔を見上げ、拙い言葉で希う。
「ふぃるばー、くろいぬさんがもうたたかわなくていいようにできないかにゃ?」
「あー、成程?」
――ったく。飼い主じゃなくて俺の手を引っ張るから何かと思ったら……
「たすけてあげたいにゃーん……」
「確かに、どっちかってーと俺の領分だな。……かといって俺も専門じゃあねーんだが!」
フィルバーは今まさに少年から青年の姿に変貌しようとしている死神の、狂気の淵にあるその瞳を見て、冷静に思考する。
(単純な死霊術の類じゃあ逆に狂気に陥らせるだろうし、該当する奴の残滓を引っ張ってこれるとも限らねえ……だが。坊主の言葉を届かせる為にゃあ多少手をつけるしかねえって感じか)
「……仕方ねえ。少しでもいいから時間を稼げ。何とか一手投じてやるよ」
「じかんがあったらいいの?じゃあぼくがんばって、じかんかせぎ、する!」
エインセルはまじないのことばを口内で複雑に唱え、フィルバーと自らの周囲に防護の膜と結界を張る。死神は黒い砂嵐を発生させ、生命力を――結界と防護膜からは「耐久力」を吸収しようとする。
顕現可能時間、すなわちこの世に存在していられる時間を手放し、成長した青年の姿になって、生命力吸収能力を増加させながら、黒い風を纏った死神は時速610キロで飛翔する。ぱらぱらと書庫城の天井や壁、柱の
生命力が終わりを迎えて散った。
『僕は死を願われて生まれて来た神。全生命に平等に死を齎すもの。だけど、あの子たちは誰一人も僕に死を願わなかった!僕になら永劫回帰によって優しい思い出をすべてトラウマに挿げ替えて苦しみながら狂い果てる前に、優しい死を与えることができるのに!彼らは死を願わなかった!だれもがみな、生きたいと言ったんです!だから、僕は、まけません。まける、ものか
……!!』
「にゃーん。ぼくは、くろいぬさんのてきじゃないよ!たすけにきたの!」
『僕に助けなんていりません!あなたたちに何かを救おうという気持ちが少しでもあるのなら!あの子たちを助けてください!』
「くろいぬさん、くろいぬさんはいっぱいいっぱい、い――っぱいたましいびとさんたちをたすけてきたってきいたよ!すごいにゃーん!」
『あのよわっちい魂人たちを!それでも強い村人たちを!愛しいと思ったんです!だから、僕は、あなたたちには負けてやったりしません
……!!』
「きいて、きいて、くろいぬさん!……にゃーん……」
『僕は負けない!お前たちになど負けてやらない!!何度死んだって、あの村を守ってみせるんです……!』
「にゃーん……にゃあ……にゃーん……」
狂気に陥った死神には、エインセルの言葉は正しくは届かない。こんなにも助けてあげたいのに。エインセルは鳴くことしかできなくなって、へたりと耳も尻尾もへたりこんでしまう。そのエインセルの頭を、フィルバーの手袋越しの手が撫でた。
黒い砂嵐が結界を叩きつけ、結界の
耐久力を削っていくのを、何度も何度も術をかけ直して、自らの纏う「深緑の外套」に魔力を流して迷彩化して。念には念を入れたうえで、フィルバーは書庫城の瓦礫となった小さな柱の欠片を拾い上げた。もはやそれは書庫城に宿る
魔力さえも奪われつくした、ただの石ころに過ぎない。
「これならいいか」
ユーベルコード、解放。【
想起・死魂残滓】。柱の欠片を「死者の言葉がひとつだけ入った貝殻」に変換し。それに召喚術を多重に重なり合う呪文の力で噛ませて
作り上げる。
「よし、内容も大丈夫そうだな」
フィルバーは貝殻を握り、自身の肉体の限界を解放する。ぶちぶちと末端の神経と血管が破けていく音が耳の音で聞こえる。眼帯の裏の眼窩が焼けるように熱い。視界がぼやけて、エインセルの耳がよっつに見える。限界を超えるとはそういうものだ。それを呪われた魔力の一端を解放することで強制的にコントロールし、自分で自分を操り人形にするようにして高速で飛翔する死神に近づくと、拘束術式を展開させて強引に死神の動きを止める。
「……お前が助けた連中も心配してんだ。ゆっくり休んで、また元気な顔を見せてやれ」
“ありがとう、■■”
“もういいんだよ、■■■■■■■■”
貝殻から聞こえた声は、エインセルとフィルバーの知らない名前で死神を呼んだ。
『あ、あぁ……あ』
それが本物なのだと気づいて、死神の目から狂気が拭われる。それと同時に、悲しみがその目に滲む。狂っていなければ、死神は聡いのだ。自分が百万回も死んでいる間に村がどうなったのか、救いたかった魂人たちがどうなってしまったのが、気づかないことはないのだ。
「にゃーん!!」
動きを止めた死神に、エインセルが飛びついた。手をつなぎ、紡ぐ言葉に浄化の力を籠めてユーベルコード【
安眠誘う子猫の囁き】の力を発動させる。今度こそ、エインセルの言葉は届く。
「にゃーん、つかれてると、みんながしんぱいしちゃうよう」
『……こねこ。あなたは』
「だから、くろいぬさんもおやすみしてほしいの!」
――そのぶん、ぼくがいっぱいオブリビオンをやっつけて、たましいびとさんたちをたすけるからね!
『……はい。ぼくは、かれらをたすけられなかったのです。ぼくがよわいから、ぼくがしぬことしかできなかったから、あのむらをまもれなかった。だけど、あなたたちは、まだ間に合う。僕にならなくて済むのです』
ぽろぽろと涙を零して、死神は泣いていた。ぎゅっとつないだてのひらから、エインセルにも死神の悔しさが伝わってくる。
『こねこ。かためのだんぴーる。あなたたちは、ぼくになってはいけません。どうかそのままで。これからどんなにたたかいつづけても、たいせつなものはなくさないでくださいね』
それはエインセルの持つ浄化の力か。あるいは狂気から解放された死神にやっと、永遠の眠りの時が訪れたのか。死神の身体はうすぼんやりと透けて、端々から消えていく。もう死神が死から目覚めることは、二度とない。
死神は、ようやく永遠の死を迎えられるのだ。
『おねがいします。よわっちくて、つよくて、だからこそいとしい、かれらのようなひとびとを、どうか――』
そう言って。死神は永遠に消滅した。
“おかえりなさい、■■”
貝殻はそう言って、それで役目を果たして元の瓦礫に戻った。
百万回死んだ死神は、永遠にこの世から消え去ったのだった――最後に安らかな眠りを手に入れて。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2023年05月06日
宿敵
『『生命枯らせし鷹羽の犬』』
を撃破!
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