数多の花を浮かべた水路をゴンドラが進む。
『今日はいい日ね!』
『あぁ、晴れて良かったじゃあないか!』
笑顔の咲くここはサクラミラージュの一画にある水路を生活の中心としている街であった。
本日は晴天、桜と白い紫陽花が交差するこの梅雨前の間を人々は寿ぐ。
春の芽吹きを、来る雨への潤いを。
蒼櫻大社分社も水路のその枝の一つにあり、この狭間の花の祝を行うのは本社からの倣いであった。
『さて、今年の“
華貨”は?』
『あぁ、今年も良い白紫陽花と白桜、白躑躅に白丁香花だよ!』
さぁさ支度だ花祭り。
水路に燈火を、花を供え金色結んだ花で取引を!
それはこの地に伝わる古きお話。
ある昔、花美しきこの水路の街では金貨より美しく咲く花の方が高価だったのだとか。其の昔話に習い、現在は金のリボンを結び“お金の代わり”とこの祭りの間、通貨の代わりに街でだけ使えるのだとか。
●花の水路より
「皆様ごきげんよう、何とも過ごしやすい梅雨前の爽やかな季節ですわね」
にこやかに猟兵達へ挨拶をした壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)が珍しく常とは異なる洋装であった。
たっぷりとしたフリルと花。そして珍しく下ろした髪には桜の花を飾っており、視線に気付けば“猟兵コレクション、とても楽しゅうございましたね”と言った腕には金のリボンを結ばれた花々が四種類、籠一杯に咲いていた。
「こちらをね、お祭の間街でお金の代わりに使えるのですって」
この籠一杯の花をお金の代わりに街の紫陽花カフェーは勿論、沢山の花で彩られたゴンドラのカフェバーを楽しんだり、行き交いながら販売されるキッチンゴンドラを楽しむ、食べ遊覧も。
キッチンゴンドラはワンハンドスイーツ兼軽食としてクレープやエディブルフラワーに砂糖の結晶纏わせアイスクリームに飾った結晶氷華。
花絞りの餡飾ったお団子にチョコレートやナッツで化粧をしたワッフルスティック。そして――……。
「キッチンゴンドラの中には、出逢えたら幸運があると噂のミルクプリンの店がございますの。好きな物を問われ、答えるとカクテルグラスにプリンとたっぷりの“あなたの好き”が乗るのだとか」
果物あたりが妥当かしら?それとも?と小首傾げた杜環子が、ふと何かを思い出したように手を打った。
「あらわたくしったらごめんなさいね。あのね、遊覧をゆったり楽しみたい方へお勧めなのがおにぎりと卵焼きと浅漬け詰められた和華と、サンドウイッチと魚介フリッターの収まった洋華の二種類ある、花形の籠の花弁当ですの!」
楽しみ方は人それぞれ。
それからふと、杜環子が瞳を細めてわらった。
「でもね、この時期のお祭時期の黄昏時にだけ、ある噂がございます。時折“迷い船”が出るのだそうで」
“迷い船”は紫陽花小路に迷い込む。
花色の雨の中、老婆か翁か幼子か……或いは“最も大切な者”か。
「花を請われるのだそうです。持っている全ての花を……そして、その花を渡すと必ず帰れる。同時に戻った者は必ず“傘”を授けられるのだそうですの」
まるで神隠しのような一時のあと、もしかすれば星が見られるやもしれませぬ。
流れる星には願いを乗せて。
きっときっと楽しい一時になるでしょう。
そう柔らかに微笑んだ杜環子が常櫻の都への門を開く。
皆川皐月
お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
バレンタインシナリオがしたい!という欲望のモラ保護+。
●第一章:日常『桜舞う水路をゴンドラに揺られて』
時間帯:昼
主にゴンドラ船上
一つの船に最大4名様まで。
キッチンゴンドラ委細は断章にて。
下記は紫陽花カフェーメニューです。
❖1:花色茶(バタフライピーティー。添えられたレモンジャムで青紫陽花から赤紫紫陽花への変化をお楽しみください)
❖2:紫陽花トライフル(ふわふわシフォンケーキに雲のクリームと爽やかなゼリィ、早生葡萄を飾ったグラス)
❖3:紫陽花ケーキ(真白いレアチーズケーキの上に咲いたのは紫陽花のゼリィ。)
テイクアウト専用✧˖°
❖4:紫陽花カップケーキ(カラフルなバタークリームを紫陽花の花のように絞った愛らしいブルーベリーフレーバーのカップケーキ)
●第二章:冒険『雨彩の世界』
時間:黄昏時
誰そ彼の神隠し。
君の隣の人は、最初からずうっとその人だった?
いつのまにか目の前にいたその人は――誰?
どうかその花を。
どうかその花を“■■■”にくださいませんか。
授けられる傘は、いつか君か君の大切な人の助け足り得ることを――■■■は祈ります。
●第三章:日常『ほうき星に願いを』
にぎやかな街の中か。
酷く静かな街外れの丘か。
カフェの窓辺から見上げた“星”。
祈る?願う?それとも、ただ気になっただけだろうか。
君だけの一時の、ただその一瞬。
●その他
全体的にお遊び&心情系の雰囲気重視のお話です。
複数人でご参加される場合、互いの【ID+呼び名】または【団体名】などをご記載いただけますと助かります。
また失効日も揃えて頂けますとなお嬉しいです。
マスターページに文字数を省略できるマークについての記載があります、よろしければご利用ください。
プレイングにて当方グリモア猟兵とご指名頂きますと、三章目のみご一緒させていただくことも可能です。
短縮絵文字は杜環子(🪞)、藍夜(☔)、ドルデンザ(👊)です。御用事があればお声かけください。
●オーバーロードについて
あれもこれも!とご希望がある場合、またはじっくりお話がしたい方にオススメです。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 日常
『桜舞う水路をゴンドラに揺られて』
|
POW : ゴンドラを漕いで観光する
SPD : 船頭さんのおすすめのコースで観光する
WIZ : 水路の流れに乗って観光する
|
ゴンドラカフェバー🚣♀️
この土地自慢の水と、その水で育った甘い葡萄で作られた赤白ワインやカクテルなど。
カクテルはノンアルコールのモクテルもお出しできるため大切な人と同じものを共に楽しめるスタイル。
紅茶や珈琲なども十分楽しめる。
おすすめは春苺を使ったケヱキとザクザクな大判のクッキーなども。
キッチンゴンドラ⚓️
⚓️1:クレープショップ
よくあるお品は大抵あります。
ですがお祭り期間限定、フラワークレープ💐
エディブルフラワーに砂糖の結晶纏わせ、アイスクリームに飾った
結晶氷華!
⚓️2:華菓子工房
小さな桜の海老煎餅は小桜煎餅🌸
花絞りの餡飾ったお団子🍡などなど
桜湯や緑茶のサービスも!
⚓️3:雅菓子洋装店
チョコレートやナッツで化粧をしたワッフルスティック🧇
チョコレート餡のダクワーズ🍫
洋菓子はフィナンシェやマドレーヌなど、小さなお菓子も様々。
好きなものを袋いっぱいに詰めて楽しめる秘密のおやつ袋の販売も……!
そして――
「キッチンゴンドラの中には、出逢えたら幸運があると噂のミルクプリンの店がございますの。好きな物を問われ、答えるとカクテルグラスにプリンとたっぷりの“あなたの好き”が乗るのだとか」
🍮
噂を聞いた杜環子曰く、お勧めは果物。
けれどもしかしたら、無理な物や食べられない物でなければ願いが叶うかも……?
モモカ・エルフォード
【蜜檸檬】
呼称:えあんさん
えあんさんは洋華にするのね?
じゃあ、ももは和華にしようかなぁ
日本酒って言いたいけど…
シードルにしておくの
…だ、だいじょぶだもん
お花の籠も可愛い~v
水の上に揺れるゴンドラ
足元が覚束なくて、差し出された手に縋り
広い胸に飛び込むように乗り込む
乗ってしまえばのんびりと
お結びをもぐもぐしつつ、川面に浮かぶ花を眺め
フリッター気になっていたのv
ね、こっちの卵焼きも食べてみて?
ふわふわでお出汁が効いていて美味しいわよ
うんっ 見付けたら買いたい!
ももの『好き』は、えあんさんだけど…
プリンには乗らないし悩んじゃう(真剣)
食べないもん!大事にするの
…あっ!
えあんさん、プリンのゴンドラ発見!
エアン・エルフォード
【蜜檸檬】
呼称:もも
弁当は何にする?
俺?
俺は洋華と白ワインにしようかな
美味そうだ
そうだな、ももは飲み過ぎてゴンドラ酔いをしたら大変だろう?(くすくす
乗る時は妻へ手を差し伸べ
気を付けて
どこからともなく花の香が漂ってくる…
水上から眺めると、とても美しい景色だね
こうして、ゆっくりできるのはいいな
ワインを飲みつつ、楽しんで
このフリッターも味がいいよ、ソースも美味い
一口食べてみる?
ももならくれると思ったよ
本当だ、優しい味だな
ああ、噂のミルクプリンの店に出会えるといいね
ももの『好き』は何だろう
小さくはなれないから…というか、プリンの上に乗ったら食べられてしまうのでは?
幸運を祈ろう…え?
見つけたって?どこ?
●一対の青
「もも、足元気をつけてね」
「うん……わっ、」
ゴンドラへ乗り込み、ひどく自然な所作でモモカ・エルフォード(お昼ね羽根まくら・f34544)へ手を差し出すエアン・エルフォード(Windermere・f34543)は舞う花びらの中、絵になる美しさであった。
けれど、その姿も全ては目の前の妻を想ってのこと。エアンを甘く微笑ませるのは世界で一人、モモカだけなのだ。
そうして当然、モモカが頬染め甘やかに微笑むのも――……。
「もも、大丈夫?」
「えあんさん、ありがとうっ」
揺れるゴンドラに慣れず飛び込んでしまった広い胸の安心感を知っているのもまた、
世界で唯一人。
祭寿ぐ花の雨の中、時折混ざる青葉は初夏への導きか。“チリン”と鳴ったベルの方を見れば弁当売りの船。
『ようこそ蒼櫻分社花祭りへ!お弁当はいかがですか?』
「弁当か……もも、どっちにしよう」
「ふふ、えあんさんは?」
店のゴンドラのショウケースを覗きこむエアンへモモカが寄り添い見上げれば、“俺?”と相好を崩したエアンが選んだのは洋華。
「それと合う白ワインを。ももは?」
「えあんさんが洋華なら……じゃあももは和華にしようかなぁ。それでにほ――……シードルと」
『ありがとうございますー!』
桜舞う柄の風呂敷に包まれた二つの弁当と脚付きグラス、ワインとシードルの小瓶乗った盆と花籠の花を交換したところで、モモカはじっと自身を見つめるエアンの視線に気が付き小さく頬を膨らます。
「……だ、だいじょぶだもん」
「うん……ふふ。あぁ、ももごめんって」
受け取った盆を抱えたまま振り返らぬ妻の腰を引き、モモカの手許から流れるような所作で盆をゴンドラのテーブルへ置いたエアンは小さな背を自身へ凭れ掛からせると、そっと囁く。
“だってゴンドラ酔いしたら大変だろう?”と微笑みかければ、春空色のモモカの瞳が緩み“えあんさんが一緒だからよ!”と膨れっ面も笑顔へ変わる。
貴方と一緒だから、酔うのなら花と貴方が良い。
互いのグラスを満たし、花舞う中で乾杯を。
モモカが桜エビと枝豆の混ぜご飯に舌鼓を打ったところで船は白花水路へ。
「わ、見てえあんさん!ここは桜も紫陽花も綺麗……!それにほら、こっちも!」
「……そうだね、綺麗だ」
楽し気に水面へ手を伸ばし花へ触れる細い指先に煌めく銀環は、エアンと互いの瞳色の石飾った一対。
白ワインの爽やかさが揚げ物の名残を洗い流せば、また一口とピックで摘まむフリッターが進んでしまう。
「モモ、このフリッターも味がいい。ソースも美味いし。一口食べてみる?」
「あのね、フリッター気になってたの……!ね、こっちの卵焼きも食べてみて?ふわふわでお出汁がきいてて美味しいわよ」
楽し気にする君との一時が、何より全てを美味しくしてくれる。
貝柱や海老のフリッターも滋味あふれる卵焼きも共に楽しみ、気付けば互いに空になった花籠は一纏め。
続く水路の遊覧を楽しみながら、ふとモモカが口にしたのは“噂の”プリンショップ。
折角の幸運だから“見つけたら買おうね”と微笑み合う夫婦の“好き”はお互いで。
プリンに乗せる?乗らないね?なんて分かっていたことを口にして、視線交わすのさえ楽しみの一つに過ぎなかった。
が、ふとモモカは気付く。
“カランコロン”と音色の違うベルの音を。
「あっ!……えあんさんっ!」
「ん?プリンの店なら幸運を祈ろ――……」
袖を引くモモカにエアンが桜見上げていた視線を下ろせば、じっと先の水路を見つめていたモモカが指をさす。
「えあんさん、プリンのゴンドラ発見!」
「え?見つけたって?どこ?」
きらりと星を飾った天幕の不思議なゴンドラ。きっとそれこそ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
藤・美雨
◎
深(f30169)と
美味しいもの楽しいもの綺麗なものがいーっぱい!
素敵なお祭りなら深と一緒が一番だ
とりあえず何か摘みたい!
私ワッフルスティックね
いつものようにはんぶんこしよ
深もありがとー
他のお店も巡りたいけど……
やっぱりミルクプリンの噂、気にならない?
一緒に探そうよ
ちゃんとお菓子は食べ切るよ
美味しくて幸せ!
飲み物片手くらいはいいだろう?
モクテルも飲みつつ探検だ
あのお店かな、それともあっち?
落っこちそうになっても深がいるから大丈夫
もしミルクプリンのお店が見つけられたら、何を頼もう
好きなもの……思わず「深!」って答えそうになるけど
危ない危ない、食べ物の話だ
えっと、苺かな?
これもはんぶんこしようね
呉・深
◎
美雨(f29345)と
蒼櫻大社由来の祭りか?
この世界らしい綺麗な光景は見ていて楽しい
美雨の誘いに乗って一緒に行こう
腹拵えとして頼むのはダクワーズ
流れるように半分に分ける自分に驚きつつ
美雨が満足そうだしいいか……
此方こそありがとう
次はどの店に……確かに噂も気になるが
探すにしても菓子を食べきってからにしよう
テンション上がってるのは分かるから、ほら落ち着け
確かに喉は乾く
俺もモクテルにしようかな
噂の店を探しつつのんびり観光
……美雨が危なっかしくてついついそっちを見がちだが
店を見つけられたら何を頼もうか
果物なら……ラズベリーが良いな
美雨がなんだかそわそわしているのが気になるが
とりあえず半分、食べるか?
●“素敵”へ君と
深呼吸をすれば胸を満たすのは微かに甘い花の香り。
いつも跳ねまわる足も、今日はちょっとお淑やかに。柔らかなストライプのパニエが愛らしいラベンダーブルーのスカートを翻し、藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)今にもスキップしそうな様子で水路沿いの道を行く。
「ねぇ深、見て!美味しいもの楽しいもの綺麗なものがいーっぱい!」
「ふむ。蒼櫻大社由来の祭りか?なんとも此処らしいものだ」
花舞う祭と聞けば、猟兵の大半は“
花舞う帝都”を思い浮かべる。何せ、呉・深(星星之火・f30169)だってそうなのだ。
そんな春の今日、深も常と異なりシンプルなシャツとパンツにウォーターブルーのオーバーサイズトレンチコートで春の装い。
美雨が楽し気にするこの日常の一端は、深にとって“当たり前”になりつつある。本人は気付いていないが、美雨はこういう時に深の口角が上がることを知っていた。
「(深、楽しいんだ
……!)」
お祭の非日常感を楽しむなら目一杯!
「とりあえず何か摘まみたいー!」
「あぁ、丁度船が来たぞ」
見ればそれは梅印の提灯下がった“雅菓子洋装店”。
海の向こうの菓子を帝都風にアレンジしたスイーツが人気のショウケースに並ぶ洋菓子とワッフルメーカーから香る甘さに美雨が堪らず手を上げ船を止める。
「私ワッフルスティック!深、いつもみたいに半分こしよ!」
「分かった。俺はダクワーズを」
『ワッフル、お分け用のツインとダクワーズお一つですね!』
「お願いしまーす!」
ワッフルの真ん中に点線のカットラインと足のように串2つ。
冷ましても温もり残るふわふわワッフルに冷たいチョコレートを纏わせ、散らすのはドライフルーツとナッツを混ぜたお洒落な装い。串を離せば綺麗に半分こ。
深も受け取ったダクワーズを半分に分け、“いただきます”と美雨と揃って食んでからハッ!とする。
「(……俺は、)」
「深、ありがとー!まずは――ワッフル!ふわっふわだしチョコ冷たいけど美味しい!」
“ねぇ深、美味しいね”
ころころ表情を変える美雨は、美味しい時少しだけ声を潜めて深に囁く。まるで二人で秘密を共有するかのように。
「(まぁ、いいか)そうだな……ありがとう、美雨」
“
きみ”いればこそ、この幸福は生れるのだから。
チョコ餡もワッフルも堪能して暫し。祭の為に作られた花のトンネルを抜けたところで、美雨が一唸り。
「深、……ミルクプリンの噂、気にならない?」
「たしかに。店を見つけられたら何を頼もうか」
通りがかりに見つけたBarゴンドラに寄った際、深はエスプレッソ×ラズベリーで豆の良さを引き立てるような甘苦くも甘酸っぱいベリーの後味が後引くモクテルを。美雨は赤色鮮やかなストロベリー×アールグレイのモクテルは隠し味のレモンジュースで甘酸っぱさと爽やかをプラス!
ふとストローを咥えたままの美雨が水路を見回した時だ。
“カランコロン”と沢山聞いた店の船ベルとは違う音。
「――深!」
「美雨――……なるほど、あれか」
出会えた小さな奇跡にグラスを打ちあわせ――……深とプリンを交互に見つめ。散々悩んだ末に美雨は苺。深は逆にあっさりとラズベリーを注文。
繊細なカクテルグラスに艶やかなミルクプリンとたっぷりのフルーツと――……美雨のグラスにブルーベリーの飴の王冠と三日月。深の王冠にストロベリーの飴の王冠と太陽。
まるでどこか一対にも見えるグラスに添えられた匙はどこか特徴的な形。
添わせれば、ぴたりと嵌まる不思議な金匙は祭りの思い出となることだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜鳥・藍
WIZ
貨幣代わりのお花。貴重なのもわかりますね。
手塩にかけられ咲く花は貨幣以上の価値がある事もございましょう。
趣味で花たちの手入れをしていた母の表情を思い出せばなおさら。
お花で飾られるとどんなに華やかに飾られてもくどくならないのは不思議よね。
繁華街だと目がチカチカしはじめちゃうのにね。
しばらく考えて購入するのは暖かい紅茶と結晶氷華。
どうしてもキラキラした結晶に目を引かれてしまうのは私がそうだからなのかしら。
噂のミルクプリンのお店はどんなものかしら。
そしてのせてもらうなら何かしら?
……やっぱりたっぷりでなくてもいいから、ほろにがのカラメルソースが一番。
苦みがあるから甘さが引き立つんだもの。
●甘華なる一時を
腕に掛けた“華貨”の花籠からそうっと一輪掬い、嗅いでみる。
鼻腔抜けた甘さは嫌味なく純粋に馨しく、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はついうっとりと瞳を細めてしまう。
「……たしかに、貴重なのも分かります」
そして過るのは趣味のガーデニングで花の手入れをする母の表情。
「お花で飾られると、どんなに華やかでも“くどく”はならない……不思議だわ」
繁華街のネオンも同類の“華美”の域だが、どうにも目がチカチカしてしまう。
その時、ふと擦れ違うゴンドラのベルの音の方を見れば、クレープの店で、反射的に手を上げ引き留める。
「すみません……紅茶と、このクレープを」
『はーい!』
華貨と交換で受け取ったクレープ 結晶氷華は陽光にキラキラ輝き、アイスティーの氷が躍る。
「……綺麗」
砂糖の結晶がエディブルフラワーを不思議な宝石のように魅せる姿をじっと眺めていたが、アイスの表面が潤みだしたところで藍はハッとした。
「あっ!アイス溶けちゃう……!」
だがいざ食べようと思えば“どこから口をつけようかしら!”とつい悩んで。
くるくる見回した末、クリームたっぷりな端からおそるおそるぱくり!
「~~~おいしいっ!」
アイスは食べるのにちょうどよい温度で冷たくも口に良く馴染む適温。
濃厚なバニラの香りを邪魔しない花と結晶のシャクシャクとした口当たりが心地良く、クリームもしつこさがなく食べやすい。花のトンネルを潜りきる頃には最後の一口を食べ終えていた。
少し氷が融け汗をかいたグラスからアイスティーを一口二口。さっぱりと口も気分も転換したところで、ベル鳴らし擦れ違いゆくゴンドラに思い浮かぶのは“噂のお店”。
「ミルクプリンのお店って、どんな見た目?それに……何を乗せてもらおうかしら?」
出会えたならば伝えなきゃ。
「ほろ苦のカラメルを。あの、たっぷりでは無くて……」
丁度良いくらいの中庸で。
多すぎず少なすぎずでこそ、引き立つ甘さがあるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ウィリアム・バークリー
⚓️3:雅菓子洋装店
妻のオリビア・ドースティン(f28150)と
オリビアと二人のゴンドラで水路を往く。ゴンドリエーレさんにはチップをはずんで。
花々がお金の代わりとは、何とも粋なお祭だね。そう思わない、オリビア?
ぼくは『雅菓子洋装店』が気になるかな。
チョコレートのワッフルスティックをお願い。それとワインを扱ってるゴンドラを教えて。あとで買ってワッフルと一緒に食べる。
ワインのゴンドラが見つかったら、軽やかでチョコレートによく合うほろ苦さも備えた赤ワインを頼もう。
ま、お酒がだめなら、オリビアと同じ紅茶にする。
んー、いい天気だなぁ。絶好のデート日和だよ。オリビアと一緒に来られてよかった。
オリビア・ドースティン
⚓️3:雅菓子洋装店
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】
「色々な世界で多種多様なお祭りがありますがお花をお金の代わりにするのは初めてですね、お洒落な感じがして素敵だと思います」
綺麗な花籠を手にしつつ、一緒にゴンドラで移動して目的のお店へ
洋菓子店に着いたら商品を見つつ選びます
「どれも美味しそうですが私はダグワーズをいただきましょうか」
その後は紅茶を他のゴンドラで確保したらウィリアム様と共にいただきます
「この景観を楽しみつつ一息入れられるのは素敵ですね」
ウィリアム様とデートに来られて本当に良かったです。
●
夫婦の時間
柔らかな風に揺れるフルリのエプロンと赤のメイドはオリビア・ドースティン(ウィリアム様専属メイド・f28150)のトレードマークでありながら今は大輪の花のよう。
そんな妻の手を引き、ウィリアム・バークリー(“
聖願”/氷聖・f01788)は共にゴンドラへと乗り込んだ。
「花々がお金の代わりとは、何とも粋なお祭だね……そう思わない?オリビア」
「はい。色々な世界で多種多様なお祭りがありますが、お花をお金の代わりにするのは初めてですね」
入口で渡された華貨の籠を抱き、“お洒落な感じがして素敵だと思います”微笑んだオリビアが夏緑の瞳細め微笑む傍ら、ウィリアムがこの祭を妻と共に過ごす喜びを嚙みしめた時、ふとゴンドラの揺れが少ないことに気が付いた。
「(もしかして、)」
漕手の丁寧な操舵に感謝の意を籠めチップをと差し出せば、漕手はそっと首を振る。
「ゆっくり街も人も景色も眺められるのはあなたのお陰です」
『光栄です。お言葉だけで十分ですが……』
漕手の指先が示したのは、オリビアの抱える花籠。
『白藤を一房、頂けますか?』
「「もちろん!」」
夫婦が差し出す藤を受け取り帽子へ飾ると、漕手が深々と感謝の意を示した。
『さ、どちらへ参りましょう?』
そんな言葉で始まった遊覧は白紫陽花通りを優雅に抜けて。
ふと、一本向こうの水路で見えた梅の提灯に心惹かれた一艘“雅菓子洋装店”のショウケースの前。
「どれも美味しそうです……!」
「そうだね。うん、でもやっぱりぼくはチョコレートのワッフルスティックにしようかな」
瞳を輝かせる
「ウィリアム様がそれになさるなら……私はダクワーズを」
華貨と交換で得たワッフルもダクワーズもお茶の時間を楽しむには十分。
丁度行き合えたカフェバーの船で紅茶のポットを希望したオリビアが慣れた手つきで紅茶を淹れるのんびりとした時間。
今日の良き日に“デート”を楽しめるなんて、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
自分の知らない常識を知るとドキドキする
足元が覚束なくなったような崩れていくような
嬉しいのか哀しいのかは分からないけれど
華貨と籠の花弁当をぎゅっと抱えて
ドキドキしながら歩く
溺れそうで胸が苦しい
好き
好きって何だろう
帝都の煌めく夜が好き
ミルクホールの明かりの中でさざめく人の声も
全てを包む音楽も
敬愛なら今上帝
空なら雲一つない青空
好きが片手で足りてしまった
儚い花を貨幣にするなら
永久より刹那が優るのだろう
「プリン、プリン屋さんを探さないと」
期待と不安で胸が苦しい
好きがこんなに少なくて
咄嗟には誰の顔も浮かばない
私の生は薄っぺらいのだろうか
「プリン屋さん…」
コンソメジュレに埋もれたプリンが出てきそうな気がした
●自問するこころ
「(これが……“今日だけ”のお金)」
籠を抱えながら頬を紅潮させ、高鳴る胸のまま細く息を吐いた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)にあるのは妙な緊張感。
お祭の日なんてよくあることなのに、どうしてこんなに緊張するのか……桜花にとって“花がお金”という経験は初めてのこと。更に言えば、桜花の教わった“常識”には無いこと。お金だというそれをただ籠に入れて持ち歩くなんて……!
「(不用心……では、ないのでしょうか)」
“祭”の一言で片づけるにはどうにも刺激が強くて、悩んでしまう。不快ではない。ただ、“知らない”と知った衝撃が大きくて……。
気紛らわせに買った花弁当のおにぎりを食めば、具は実山椒の佃煮で爽やかな旨味があった。
しかしその後はどうにも食指が動かずいたうち、ふと小耳に挟んだのは“噂のミルクプリンの店”の話。
“好きを乗せてくれるんだって!”という言葉に、桜花はふと空を仰ぐ。
「……すき」
今日みたいな雲一つない青空。
「すき……」
雲より高く空より高く、遍くこの帝都を納める今生帝への好きは“敬愛”。
「……す、き?」
提灯にネオンに蝋燭の明かりも、どれも美しい帝都の夜。 好き。
ミルクホールでさざめく人の声。 すき。
ミルクホールに流れるクラシックもジャズも。 すき。
“すき”って、なんだろう。
片手で足りる“好き”に瞠目した桜花は、ただ進む船に身を任せながら首を回して探すただ一つ。
「プリンのお店……探さないと、」
分からないのに。
桜花は“もしかしたら”を願ってしまう。自分で自分を薄っぺらいと感じてしまった居心地の悪さを、どこかすくいたくて。
かろん、とベルの音。
そして立ち寄ったカーテンの向こう、上手く声の出ずにいた桜花へ勧められた一つ、それは、琥珀色のジュレ。
「……コンソメ?」
『カラメル。あんたは普通が好きそうだから』
囁くような店主の声が遠ざかる。
グラスを手に瞬きをした桜花を置き去りにして。
大成功
🔵🔵🔵
月白・雪音
…水の都を舟で渡り、通貨は花と変わる。なんとも涼やかで美しい催しです。
その中で街ならではの甘味が味わえるとあらば心も躍るというもの…。存分に楽しませて頂くと致しましょう。
クレープに和の菓子、洋菓子…、どれも甲乙付け難く目移りをしてしまいますね。
…決められぬのなら全て味わってしまえばよいのでは?
壽春によれば幸運を表すミルクプリンの店が存在するとのこと。
出会う事が叶うのならそちらも是非賞味致したい所ですね。
好きな物。肉…、は流石に甘味には合いませんか。
そうですね。それでは…、
月と雪。私の名を表すものが、私の『好き』となりましょう。
…華貨が残り少なくなってしまいましたね。些か夢中になり過ぎましたか。
●花月にスキップ
「――なんとも、涼やかで美しい催しです」
腕に掛けた籠の花は本日かぎりのお小遣い。これを使ってこの街ならではの活気や甘味を楽しめるのならば、と月白・雪音(月輪氷華月影の獣・f29413)は僅かに眦を下げていた。
ゴンドラへ向かう足取りがどこか軽く、小さな虎耳がぴこぴこと店の活気とベルの音を拾う。
焼きたてクレープやワッフルのバターの香りも期待通り!
サラダを巻いたクレープにはローストビーフのトッピング。ワッフルはカリカリのナッツが心地良い。ダクワーズのサクサク感とチョコ餡の優しくも濃厚な甘みは癖になりそう。
口休めにした小桜海老煎の塩っぽさはさっぱり。新茶と聞いた緑茶はあっさりとした味わいで飲みやすい。
「さて、と」
紙袋へ手伸ばした雪音がぱくりと食んだのは小粒のマドレーヌ。
「ん、これ桜の塩漬けが美味しいです」
甘いと塩っぱさの両立は後を引いていけない。
秘密のオヤツ袋は少し味見で残しておこうか?思いながらも手が止まらない、あぁこれはまた店へ行かなくては――なんて、思ってしまった時。ふと引き当てたミルククリーム抱いたクッキーを齧り、思い出すのは噂のミルクプリンのお店。
好きな物を乗せてくれる。
「すきなもの……お肉?でも、ミルクプリンには合いません」
ぐるぐる、考えた所で聞こえたベルの音。
雪音の勘が“あれこそ”と訴える感覚のままに目指したゴンドラへ、辿り着くまで考えていた言葉を向けた。
「私は月と雪が好きです。私の名を表す二つが、とても」
閉じていたテントが一瞬開き、カタンと眼前のカウンターに置かれたグラス。
真白いプリンの上には大小さまざまな丸い焼きメレンゲ菓子の雪の上、青い飴の三日月が金粉纏い鎮座する。
『華貨、3つ』
そう書かれた紙に答え花を三輪グラスと置き換えれば雪音の籠に残るのは大輪の白紫陽花が二輪。
「些か夢中になり過ぎましたか」
けれど匙で掬い食んだそれは濃厚だけれどベタつかず北の雪のように。
大成功
🔵🔵🔵
マリー・アシュレイ
【花緑青】
…ウェズリー、ここは?
は?どう見ても観光じゃない
依頼って言うから、折角武器も手榴弾も磨いてきたのに…
…別に
というか、良く知らない
あなたが
アサイラムに戻ってからも
アリスラビリンスはこんな風に
呑気にお祭りを愉しめるような状況じゃなかったもの
…まぁ、良いわ
仕事だって言うなら、満喫してあげる
そうね、手始めに
結晶氷華
花で買えるなんて、不思議
…ん。美味しい。何これ?凄い
(淡々とした視線と表情ながら耳はピンと立て
! あれ、もしかしてミルクプリンのお店…?
行きましょ、ウェズリー
好きな物…良く分からないから、あるだけ全部乗せて
その中から私の“好き”を決めるわ
ウェズリー・ギムレット
【花緑青】
最後にマリーを見たのはまだ赤子の頃
父親を盾に帰還した私を恨んでいるかと思えば
「パパの願いだから」と私を探し見守りに来たらしい
相応の実力はあると思うが
今日ばかりはのんびりと過ごして欲しいものだ
ここが初依頼の現場だよ、マリー
こういうのは嫌いかね?
オウガが蔓延る日常は変わらず、か
内心嘆息し
マリーの後に続き
キッチンカーか…沢山あるね
お眼鏡にかなったものはあるかな?
ほう…これは綺麗だ
繁々眺めてから彼女に白花渡し
どうだい?
気に入ったのなら何よりだ
折角だ
私も果実入りをオーダーしよう
ああ、あれが…
出逢えたら幸運があるらしいね
マリーの後に続き様子を見守り
これから先も彼女の“好き”が増えていく事を願って
●花の水をすくう
そこに後悔があるか、と聞かれればウェズリー・ギムレット(亡国の老騎士・f35015)という男は懺悔することだろう。
だが今日は懺悔でも贖罪でもなければただ一人でこの祭りに訪れたわけでは無い。
「……ウェズリー、ここは?」
兎の縫いぐるみを抱いた少女がウェズリーの袖を引く。
「――マリー、ここが初依頼の現場だよ」
「は?どう見ても観光じゃない」
キッと自身を見上げるマリー・アシュレイ(血塗れのマリア・f40314)の視線に眉下げ応えれば、ぷいっとマリーはそっぽを向くとウェズリーの袖さえ離しぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめぼそぼそと呟く。
「せっかく……磨いて来たのに。“依頼”って、言うから……
この子だって、
この子だって……」
遊びなんかお仕事じゃない。
そう言いたげなマリーへウェズリーはそっと、そして眉下げ困った顔のまま問いかける。
「こういうのは嫌いかね?」
「……別に。というか、」
ぎゅ、と兎の縫いぐるみ抱きしめたまま、マリーはぽつぽつと呟き出す。
「よく……知らない。あなたが
アサイラムに戻ってからも、
アリスラビリンスはこんな風にお祭を楽しめる状況じゃなかったもの……」
「オウガが蔓延っているのは相変わらず、か……」
ウェズリーは思う。相棒と
別れた当時から考えれば、マリーはとても大きくなった。
記憶にあるマリーは赤子だったが、会って最初に“あなたがパパの相棒ね”とひどく大人な言葉で自身を見た、少女……それが改めて出会ったマリーなのだ。
ウェズリーはただ教えたかった。自身が世界は多岐にわたることに衝撃を受けたように、不思議の国のルールだけが世界ではなかったと知ったあの時のように。ただ、“楽しむこと”を知って欲しかった。
その雰囲気を敏感に感じ取ったマリーの兎耳が揺れる。
――別に、マリーはウェズリーを困らせたいわけでも悲しませたいわけでもない。ただ本当のことを言っただけ。
「……まぁ、良いわ。仕事だって言うなら、満喫してあげる」
ふるりと花舞う風に揺れた兎耳。
アッシュグレーのその姿に重なる懐かしき相棒の面影と共に、“そうだね、マリー”と口にしたウェズリーは――ちゃんと笑えていただろうか?
「お眼鏡にかなったものはあるかな?キッチンゴンドラが多いようだ」
ゴンドラに乗り込み広げたマップリストを眺めていた二人だが、ふとマリーの兎耳がふるりと振るえ捉えたベルの音一つ。
「そうね、手始めに
結晶氷華を
これで買えるなんて……不思議」
「ほう……これは中々綺麗だね」
“ありがとうございましたー!”と爽やかな店員の言葉で別れた二人のクレープはちょっと特別なオーダーを抱いて。
マリーは氷華を多めで青緑の花を多めに甘さをプラス!
ウェズリーはフルーツを追加し瑞々しさをプラス!
互いの特別な味を楽しみ、最後の一口を桜眺めながら終えたところでじいっとマップを眺めつづけていたマリーが声を上げた。
「!ねぇ、ウェズリー……もしかしてあれ、ミスクプリンのお店……?」
「ああ、あれが……出逢えたら幸運があるらしいね」
閉じられた入口――……明らかに“特別”な装いのゴンドラへ船寄せれば聞こえてきたのは“魔法のプリンはいかがですか”の言葉。
“いってらっしゃい”とウェズリーに送り出されたマリーは花籠片手に店と一人で睨めっこ。
たしか“好きな物”を言うんだったか――と、此処まで思い出してマリーははたと気付く。“私のすきって、何?”と。
パパ?
ウェズリー?
兎?
これ?
「……――全部。」
『なに?』
「好きな物……良く分からないから、あるだけ全部乗せて。その中から私の“好き”を決めるわ」
ウェズリーは後に知ることになる。
小さなグラスにプリン見えないほどジュレの海とメレンゲ菓子の雲河に覆われた、てっぺん。
カラメルソースのリボンと兎耳の生えた満月が金粉纏った豪華な一皿を手にマリーが戻って来るなんて!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アオ・ロードクロサイト
その日初めて知り合うミラ(f39953)とふたり
乏しい表情乍らも花の香りを運ぶ風を楽しんで
白躑躅を持ち辿り着く先はゴンドラ
食べ物、いっぱいある。おいしそう
アオもゴンドラ乗れるのかな
声を掛けられ振り向けば明るい光のような女の子
…だあれ?
ミラ、そう…ミラというの
アオは、アオ。ん、よろしく
こくりと頷けば視線は再びゴンドラへ
ゴンドラ、アオも気になってた
うん。甘いもの、好きよ
あまり食べたことないけど
アオは琥珀糖がいちばん好き
きらきら甘い宝石。ここにはあるかしら
でもこのクレープも気になる…
お花が朝露に濡れたみたい、きらきらで綺麗なの
ミラは何を頼むの?
ワッフル…ん、それも美味しそう
甘くて良い香りがする
ちょっとだけはにかんで
秘密のおやつ袋はもちろん購入
フィナンシェ多めにたくさんの焼き菓子を詰めれば達成感
おやつの時間が楽しみ
そういえばプリンは見つけることができるかな
アオに幸運が訪れるか、わからない…けど
なんとなく、見つけたときのミラの輝く顔が見てみたい
そう思ったから
一緒に探して、みない…?
ミラ・オルトリア
初めましてのアオちゃん(f40050)と!
春の甘やかな香りを胸いっぱいに楽しみ
白沈丁花と共に
キッチンゴンドラだなんてワクワクする!
どんなスイーツがあるのか――あら?
ゴンドラ前に佇む女の子を見つける
ほんわり花のような愛らしい姿に惹かれるように
ねぇ、君!一人?
私?私はね、ミラっていうのよ♪
アオちゃん!どうぞよろしくね
私、スイーツが気になってきたの!
アオちゃんは甘いもの、好き?
問いかければ彼女も甘いものが好きなよう
このクレープ
エディブルフラワーがキラキラ…
クリスタルクレープっていうのね…!
私はね、あっちのワッフルスティックが気になるなぁ
チョコレートとナッツの香ばしく甘い香り!
これは美味しいに違いない!
にぃっと無邪気に笑み
あ!おやつの販売あるね!
マドレーヌとか色んな物をお持ち帰りしようかな
せっかくだものお土産もたくさんと
お家でも楽しめるの素敵よね!
!わわ…アオちゃんなんていい子なのかな…
なら!私はアオちゃんの笑顔のためにプリンとの出会いを探すわ!
フルーツいっぱいに宝石のようなプリンにしてもらうの
●小さな羽根二つ
きっと、偶然だった。
この祭りへ訪れて、アオ・ロードクロサイト(Cantus Blue・f40050)とミラ・オルトリア(デュナミス・f39953)の視線がパチリとぶつかったのは。
ほんの少しの心細さは互いの手を取らせるには十分な理由で、同族と気付けば猶のこと。
・
・
・
白沈丁花を手に花の雨の中、くるりと舞って。
“最初に出逢えるキッチンゴンドラはどれだろう”なんて鼻歌を歌っていた最中。ふと、目についたのは花で飾られたゴンドラの前に
佇みゴンドラ眺める少女の姿。どうしてか、無性に興味が湧いた。
ただの偶然。でも、偶然はきっと面白い――そんな直感を信じ、ミラは一歩を踏み出して。
アオはというと、風に乗ってくる花の甘い香りと菓子の甘い香り――どれも戦場にはない、というより希少な香りを楽しみながら、腕に掛けた籠から取り出した一輪の白躑躅の香りを楽しんでいた。
「……いいかおり」
「うん、とっても!――ねぇ、君!一人?」
ふ、と眦下げ淡く微笑むアオとは対照的、元気いっぱいに深呼吸をしたミラは両手を上げ花の雨を享受しながらくるりと踊ってアオの視界へ入り込み微笑めば、驚いて目を見張ったアオがゆっくりと瞬き。
同じく花籠を手に、“お祭楽しいね!”と微笑む少女へ小首を傾げて見せた。
「! ……だあれ?」
「私?私はね、ミラっていうのよ♪」
「ミラ……?そう、ミラというの……アオは、アオ」
確かめるようにミラの名を呼び、アオは音にする。
鈴転がす声は互いに近くて少し遠い、似ているようで異なる二人は互いに“よろしくね”と口にしたならば、向かう場所は唯一つ!
「ねぇ、キッチンゴンドラだなんてワクワクする!」
「うん……食べ物、いっぱいある。おいしそう」
“アオ達もゴンドラ乗れるかな?”とアオが首を傾げて見せれば、“一緒に乗ろう!”とミラに手を引かれ、二人で一緒にワクワクのままに飛び乗れば微笑む漕手が丁寧に漕ぎ出し、花浮かぶ川面滑る風が二人を包み込む。
相談しあう二人は漕手から受け取ったキッチンゴンドラのリストと睨めっこ。
「……私、スイーツが気になってきたの!アオちゃんは甘いもの、好き?」
一緒にスイーツや軽食の写真とメニューを見ていたミラのおずおずとした問いかけに、今度のアオは僅かに眦を下げ、小さく頷いて。
「うん。甘いもの、好きよ……あまり食べたこと、ないけど」
獣人戦線ではどうしても貴重な高級品になりがちな甘味は少し特別な味。けれど声を潜めたアオがそうっとミラへ囁くのは、未だ舌に残る大切な記憶の一つ。
「……――アオは琥珀糖がいちばん好き。きらきら甘い宝石……ここにはあるかしら?」
「琥珀糖……キラキラの!あるかな?探して――の前にっ!クレープはどう?」
チリンと鳴るベルはお店の証。
ラメでおしゃれをした花飾ったきらきらの船はクレープショップのものだ!
氷華の色味は何にしよう?視線彷徨わせた末、アオが選んだのは一番人気とポップのついたカラフルな花畑。華貨と取り換えで受け取った結晶氷華に二人で瞳を瞬かせて、ついつい見入ってしまう。
「お花が朝露に濡れたみたい……きらきらで、綺麗なの」
「すごい!クリスタルクレープ、エディブルフワラーがキラキラ……!」
まるで手中に宝石を持ってしまったようなこれも、素敵なワクワク。
ふと、先程別れた店で何も買わなかったミラへアオが小首を傾げ問いかけた。
「ミラは、何を買うの……?」
「私はね、あっちのワッフルスティックが気になるなぁ……チョコレートとナッツが香ばしいなんて……!美味しいに違いないよね☆」
花よりも眩く微笑んだミラが口にした時、タイミングよく訪れた雅菓子洋装店の船がやってきた。ベルの音は勿論、ワッフルメーカーから香り立つバターと生地が堪らない甘さでミラは勿論アオの心も擽ってしまう。
焼きたてが冷まされる間にミラが選んだのはオーソドックスなミルクチョコレート。
ナッツは一種類なんて勿体ない!と折角ならクルミ、アーモンド、マカダミアナッツ、カチューナッツ、ピスタチオと5種のミックスを。
ちらりとアオの手許で花咲くクレープを見た店員がこっそりと。
『お友達とちょっとお揃い、イチゴのお花はいかが?』
「咲かせたい!」
「……アオと、おそろい?」
アオとミラを“お友達?”と微笑んだ店員からの贈り物は、小花に見立てたフリーズドライのイチゴ。惜しげなく散らせば、ミラのワッフルスティックもアオのクレープに近い花畑のよう。
『お祭、楽しんでね!』
そうして別れたお店のゴンドラが離れた時、アオが隣を伺えば丁度ミラとぶつかった。どちらともなくミラは微笑み深くにぃっと無邪気な笑顔に幼さを見せ、アオは眦を柔らかく僅かばかり口角を上げていた。
「私とアオちゃん、お友達にみえたかな?なんだか」
「アオとミラ……見えた、かな?」
と、どこか照れくささの滲んでしまうのはどうしてだろう?
お互いにどこかそわそわしてしまった時、ふとミラが見たアオの手許、日差しに潤んだアイスクリームがどこか柔らかそうに映って――……。
「ねー……って!アオちゃんアイス溶けちゃう!」
「……! ミラ、チョコレート溶けてる……!」
互いに慌てて食んだ一口目は、甘く蕩けるような食感に白い頬は薔薇色に染まっていた。
氷華の名を冠した砂糖結晶纏うエディブルフラワーのサクサク食感もナッツのカリカリ感も、もっちりクレープ生地とふわふわワッフルで楽しんで。最後の一口は同時にぱくり。
「あ!アオちゃんおやつゴンドラあるよ!」
「おやつ、ゴンドラ?」
イヒヒ、と悪戯に笑ったミラがブイサイン。“ひ・み・つ・♪”と耳打ちすれば、ハッとアオは思い出す。リストを見ていた折り、アオがこっそり秘密のおやつ、という言葉に“いいな”と呟いたのをミラはばっちり聞いていたのだ。
アオが僅かばかりはにかんで、様々なおやつを二人で選んゆく。お好きなのをお好きなだけ!とうたうその店は、大抵が親指ほどの一口サイズ。
星やハート、翼や滴、オーソドックスな長方形。アオは小腹が空いた時にとフィナンシェを多めに詰め、ミラはフレーバー多めの貝殻型可愛いマドレーヌをチョイス。揃いで少し、入れた琥珀糖はお祭時期だけ限定、花の砂糖漬け入り。
そうして揺られること、暫し。
花のトンネルを過ぎた時、先の水路行き交う船を眺めたアオがぽつりと。
「……秘密、もう一つ。プリンは――見つけられる、かな?アオに幸運が訪れるか、わからない……けど」
「そっか、秘密のプリン屋さん!見つかるかなー?」
まだワクワクがあったね!と屈託なく笑むミラ。
もし、そんなミラがその秘密のお店と出会った時、どんな笑顔になるのだろう?
「……ミラは、もしプリン屋さんを見つけたら――びっくりする?」
「しちゃうよー!きっとしちゃう!」
びっくり。
びっくりって、どんな顔だろう?もっともっと、もしかしたら……。
「アオ、ミラのびっくりときらきらの笑顔……見て見たい。だから一緒に探して、みない?」
瞠目して、瞬きを三度。
アオの言葉に一瞬ぽかんとしたミラであったが、すぐ笑顔になるとワーイ!と両手を上げて喜んだ。
「アオちゃんはなんていい子なのかな……! なら!私はアオちゃんの笑顔の為にプリントとの出会いを探す!んで、フルーツいーっぱい宝石プリンにしちゃおうかな!」
夢のような時間。
夢のような話。
でもきっと、二人なら叶えられるかも!
カランコロンと鳴った“特別”なベルの音が二人へ届くまでもう少し。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
◎
再び!!
サクラミラージュですわ!!
《…元気だね~》
だって!!
ゴンドラカフェの品々が美味しそうなんですもの!!
そう考えたらそこに行こうと考えるのも不思議はありませんわよね!?
《…ソウデスネー。
日本語が分かるだけまだマシかな。
…でも、それなら金のリボンを忘れずにね。
あれが通貨代わりになるのなら、無くさずに気をつけておくべきだし。
それに、ミルクプリンのお店も見つけたい。
UC使って見つけ出したいね》
…怒ってないのに?
《…怒ってるといえば、怒ってるかな。
前にお姉ちゃんがしたこと、あれまだ根に持ってるよ。
見つけ出せたらチャラ。無理なら雅菓子洋装店で何か美味しい物買おうね》
う…
なら、見つけ出せるように私も祈りますわよ?
《見つけ出せて、好きなものを聞かれたら。
都合上美希の答え優先になっちゃうけど、いちごを載せてもらおうかな。
美希の好きっていったら、いちごだもの》
たくさん、食べられるといいわね?
《お姉ちゃんも、いっぱい味わえるといいね?
今後悪いことをしないように――》
いやですわ!!
《…んのバカ姉》
●二人でね?
花舞う祭の街は賑やかで、降り立ってからというものそわそわしてしかたがない!
あぁなんてことだろう、花や菓子の甘い香りも楽し気な数多の笑顔も何もかもが気分を高揚させお祭の空気へと引き込まれてしまう!
「再び!!サクラミラージュですわ!!」
本日の
ラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)さんは超元気。
「(……変気だね~)」
心の裡で“ワァマブシー”なんて美希の片言が聞こえようとニコニコ笑顔のシエルはどこ吹く風というより追い風のように。
「ふふふ、だって!!ゴンドラカフェの品々が美味しそうなんですもの!!」
あの出店リストを見た時のトキメキと言ったら……!と力強いシエルの様子に遠い目の美希は溜息も出ない。
「(ソウデスネー……まぁちゃんと日本語喋れてるだけマシかなぁ。あっお姉ちゃん、ちゃんとその籠のお花使うんだよ?それが通貨代わりになるんだから)」
寧ろ、渡された
籠一杯分の花を忘れないでと念押しする様子は、本来傍から見ればどっちが姉で妹なのか分らなかったことだろう。
けれど今日も、二人で一人。
「(ミルクプリンのお店も見つけたいよね、いっそUC使っちゃう?)」
微笑み無邪気な問いかけをする美希に、どこかそわそわしたシエルがそうっと問う。
「……ねぇ、美希」
「(なぁに?)」
「……怒って、ない?」
珍しく殊勝に――というよりも、もじもじそわそわ目を泳がせるシエルに美希は溜息を一つ。
「まぁ、怒ってる……といえば、怒ってるな。“前”にお姉ちゃんがしたこと、あれみきまだ根に持ってるから」
裡から自身を捉える琥珀の瞳はどこか強い。
そんな美希にびくりと身を震わせたシエルが“どうしたら許してくれるの?”と思ってしまえば、どうしたって伝わってしまうのに。
「(許してほしい?)」
「……」
「(いー……って言うには、秘密のお店が必要かなー?)」
「う……」
秘密のお店。それは幸運なら出逢えるという、ちょっと特別なお店。
美希がUCを使っちゃう?なんて口にしていたお店を所望すれば唸る
お姉ちゃんの難しい顔に美希ついクスクス笑ってしまう。
こんな眉間に皺を寄せ心の裡を“どうしましょう”なんて分かりやすい感情で埋めるシエルを間近で拝めるなんて!
許してほしいと思うこと。それは二人で一人だからではない、きっとシエルが美希を大切に思えばこそ。
美希自身、シエルが自分に甘えている面があるから大胆な行動に出ることがあるのは分かっている。だとしても、許してしまえば次から簡単に……きっとシエルは簡単に以前は越えなかった一線を軽々越えさらにその先へも踏み込んでしまうだろう。
美希は思う、“心は大切にしなくちゃ”と。
世界で一人に一つだけの命に等しい心は容易く削れ、度合いによって軽率に命を殺す。唯の人も、猟兵も、戦っていて分かったことだが心あるオブリビオンも。皆、等しく。
シエルの聞こえぬところでそっと。きっといつか聞かれてしまうかもしれなくてもそっと、美希はつぶやく。
「(“死ぬ”のは簡単なんだよ、お姉ちゃん)」
知っているでしょう?なんて皮肉は言わないから。許してね、と言葉にそっと蓋をして。
「……ウー……よし!」
「(シンキングタイム終わった?あっ、ねぇお姉ちゃんみき雅菓子洋装店も行きたい。もし秘密のお店が見つからなかったら、お土産もいっぱい買おう?)」
「むぅ……なら、見つけ出せるように私も祈りますわよ?」
折角の楽しいの時は無理も無茶もご法度。
偶然で十分なのだという美希の言葉に、頬膨らませたシエルがゴンドラへと乗り込んだ。
鳴るベルと船に乗ったからこそ感じられる風に赤い髪を靡かせ見れば、世界はまた違った景色になる。
「(ねぇねぇお姉ちゃん)」
「なぁに、美希」
“
独り言”はひっそりこっそり。
「(――もし見つけ出せたら代わってくれるよね?だって美希の
好きな物いーっぱい乗せてもらおうかなーって思ってるんだけど)」
“ねぇ?”と言う美希の圧に、シエルはニンマリと。
「……たくさん食べられると良いわね?」
「(うん♪お姉ちゃんもいーっぱい味わえると良いね?きっと今後ワルイコトしなーいって約束したらもーっとおいしく――……)」
「いや!!です!!わ!!!」
カッ!と琥珀の瞳を見開き渾身の一言にゴンドラの漕手、ゴンドリエーレが驚いたことに“ホホホホごめんあそばせ”と誤魔化せばジト眼の美希がお出迎え。
「(バカ姉)」
「何とでもおっしゃい」
ぷいっとシエルがそっぽを向いた時、ふと。建物の隙間から見えたのは一本向こうの水路を行く“目を惹くお店”。
「「あー!!/(あー!!)すみません一本向こうの水路、すぐ行けますか!?」」
ちなみにこの叫びにゴンドリエーレがまたびっくりして飛び上がったのは此処だけの秘密であるし、街の水路を知り尽くしたゴンドリエーレによって二人が手にしたグラスが全ての答えである。
大成功
🔵🔵🔵
シランス・ウィア
【春花】
白紫陽花を携えて
1人で訪れたゴンドラで
ふと己のように1人訪れた人を目に留まる
珍しい
同じように男性1人で訪れる方はあまり見かけないから
なんだか関心を誘われる
貴方も甘いものを求めに此方へ?
紫陽花カフェだなんてお洒落ですよね
よければ、お席をご一緒しても?
折角のご縁なので
…私はシランスと言います
どうぞよしなに
噫、様々な物がありますね
クラヴァさんは何にされます?
…お持ち帰り
奇遇ですね
私も家の者にお土産を考えてました
こんなに美味しそうですから
マドレーヌとかこの紫陽花のカップケーキも
甘いのが好きな子達なので、きっと喜ぶだろうと…
クラヴァさんは奥様へのお土産、素敵です
愛妻家…というのでしょうか
私はまだ相手はいませんが…
男性としてそういった姿勢に尊敬します
そういえば出逢えば幸運のミルクプリンも気になりますよね
探してみませんか?
見つける事叶えば
おすすめの果物とチョコレート菓子にしようか
…クラヴァさんもチョコレート好きなのですね
なんだか親近感というのを感じます
お土産、喜んでもらえるといいですね
クラヴァ・ブローラック
【春花】
面白い風習だよね、花が通貨になるなんて
手にした白桜が綺麗な内に散策してみようか
気紛れに訪れたゴンドラ
その中でふと目を引く存在が
性別も年齢も関係ないからね
甘い物が好きな事には
ああ、此処へはつい足を運んでた
珍しいケーキがあるかもって思ったらさ
これも折角の縁だから一緒に見て回ろうか
僕はクラヴァ
どうぞ宜しくね
僕の目当ては"妻へのお土産"
まあ持ち返りの品だよね
紫陽花ケーキを持ち返りで一つ
「美味しい」と笑う妻の顔を想像すればつい表情も綻んで
"幸せのお裾分け"ってやつ
いつか君にも大事な人が出来ると
自然と考えるようになったりするよ
なんて悟ったように言ってみるけれど
余計なお世話じゃないと良いな
そう言えば噂になっていたプリンも外せないよね
ああ、良い提案だ、それは
出逢えたら……そうだな
柑橘系のジャムにビターチョコレートが理想かな
はは、甘い物って言ったらチョコレートは欠かせないからね
やっぱり僕たちは気が合いそうだ
こんなに美しい土産なんだ
きっと君の方も喜んで貰えるさ
●華縁の水面
その出会いを何と言うべきかは、今は置いておくべきなのかもしれない。
渡された花籠から一輪の白紫陽花を手に、その美しさを楽しみながらシランス・ウィア(静寂の黒花・f38947)は一人ゴンドラを待つ。
「(綺麗だ……。少し赤、いや青みかかってる
……?)」
紫陽花は土の性質で色が変わる。その根幹の特性か純白ではないそれにふと沸く愛着から顔を上げ列の進んだ時、ふと目についたのはどこか一組向こうの自身と同じく男一人で訪れた様子の青年。
どうにもこういう花関連のイベントだと女性や友達同士の割合が多くなってしまう中、先に船へと案内された一組が抜けたことでより近くなり、妙に気になったその背にシランスは一歩、近付いて――……。
一方その背ことクラヴァ・ブローラック(春想Everlast・f38893)は指先で黒い蝶を遊ばせ、花籠から小枝の白桜を手に、周囲の雰囲気に眦を緩ませていた。
「(面白い風習だよね、花が通貨になるなんて。それに先程、私のように一人で来ていた青年も居たな)」
サクラミラージュでしかお目にかかれないような不思議な祭りは、どんな人でも引き付けられるのだろうか?それはどこかドキドキというのかワクワクというのか、不思議な高揚感をクラヴァへと齎し、
薬指の環を癖のように撫でさせる。
「(きっと君なら驚くんじゃないかな)」
妻への土産話は花と共にしようと思いをはせていた時、ふと後ろから掛けられる声。
「あの……貴方も甘いものを求めに、此方へ?」
「うん?そうだね、甘い物が好きなことには性別も年齢も関係無いからね」
初対面な所為かおずおずと尋ねたシランスの若さにクラヴァが柔らかに答えたところで、訪れたのは紫陽花カフェ行きのシャトルゴンドラ。
ゴンドラを見て。互いを見て、行き先が同じだと分かれば同じ船に乗ってさぁカフェへ。
「紫陽花カフェだなんて、お洒落ですよね」
「ああ。つい足を運びたくなるくらいにはね」
互いに何気ない話しから、この祭りの通貨が“白い花”であることへの興味や異国のゴンドラという船を取り入れた時代を先取りした街づくりへと向き、再びカフェの話しへと移る。
「……僕はね、珍しいケーキがあるかもと思ってさ」
「なるほど。マップに乗っていたお菓子以外にもあるでしょうか」
そうしているうち、ゴンドラの進みが緩やかになり、紫陽花が飾られた桟橋でひたりと止まると到着の合図。
大輪の紫陽花は桟橋の白から店へ向かって店内は青、テラス席は赤へのグラデーションで飾られ、テラスと店の境は紫色の紫陽花で彩られた華やかな不思議な空間が待っていた。
ほぅっと感嘆の息を溢し、誘われるように店へ――……と、進んでからシランスもクラヴァも再びはたと互いを見て。
「あの、よければお席をご一緒しても?」
「勿論。折角の縁だから一緒に見て回ろうか」
シランスの言葉にクラヴァが頷いて選んだのは赤と青の紫陽花が飾られたテラス席。
「私はシランスと言います。どうぞよしなに」
「僕はクラヴァ、どうぞ宜しくね」
互いに名乗ったところで開いたメニューに目移りしそうになる。
メニューは全て持ち帰りが叶うらしい。小さなその記載にクラヴァが表情を綻ばせれば、向かいのシランスがきょとんと小首を傾げていた。
「クラヴァさん?」
「ん?いや、僕の目当てが見つかってね」
「目当ての……ケーキですか?」
不思議そうな顔をするとバズかばかり幼くも見えるシランスにふと笑ったクラヴァが首を振り、左薬指の環を見せると。
「いいや、妻へのお土産にね。“持ち帰りOK”ってここ、書いてあるだろう?」
「あっ、本当ですね……!良かった、私も家の者にお土産を考えていたんです」
どこか似たように訪れ、どこか欲しかったものも近くて。
不思議だと笑いあって改めてメニューを眺めて悩む。
「甘いのが好きな子達なので、マドレーヌとかこの紫陽花のカップケーキも、きっと喜ぶだろうな。クラヴァさんは奥様への素敵なお土産、どれになさるんですか?」
「そうだね……焼き菓子も良いけれど、紫陽花のケーキにしようかな。きっと“美味しい”と笑ってくれると思うんだ」
勿論“華貨”とお店の話しも一緒にね、と微笑む愛妻家の姿に、シランスの胸に芽生えるのは穏やかな幸福。
「――私はまだ相手はいませんが……男性としてその姿勢、尊敬します」
「そうかな?大切な人へ“幸せのお裾分け”というのは存外幸福なものでね。きっといつか君にも大事な人が出来ると、自然に考えるようになったりすると思うよ」
余計なお世話だったかな?と思うも、真摯に頷くシランスの姿を見て内心クラヴァがホッとしたところでオーダーを。
合わせて持ち帰りのオーダーもしてしまえば、店側は“リボンと花で飾りましょう!お祭ですから!”と真白い箱は紫陽花で彩られ、二人共相手を想って選んだリボンで蝶結びされれば特別な人は個が出来上がる。
カップを傾け、一息。
「そういえば、出逢えば幸運のミルクプリンの噂も気になりますよね……探してみません?」
「そうだね、噂になっているらしいプリンの店も外せないよね。ああ、良い提案だねそれは」
さて何を乗せてもらおうか。
曰く何でも――……何ていうけれど、たしかグリモア猟兵の勧めは果物だったはず。
ふむりと考え、口を開いたのはほぼ同時。
「出逢えたら……そうだな、柑橘系のジャムにビターチョコレートが理想かな」
「私はお勧めの果物とチョコレート菓子にしようかと思って」
また、互いに似たような好み。
今度こそ、クラヴァもシランスも互いを見て笑いだしていた。
「クラヴァさんもチョコーレトお好きなのですね」
「シランス君も?はは、甘い物って言ったらチョコレートは欠かせないからね」
どうやら僕達は気が合うらしい。
花の繋いだ不思議な縁は店の出際に互いの土産を受け取って、次の探し物を目指しながら再びするのはお土産を渡す先の相手の話。
「お土産、喜んでもらえると良いですね。私も、クラヴァさんも」
「こんなに美しいお土産なんだ、きっと君の方も喜んでもらえるさ」
ゆっくりと漕ぎ出される船に揺られ、花の風の中へと進んでゆく。
大成功
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第2章 冒険
『雨彩の世界』
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POW : ひたすら前へと進んでみる
SPD : 効率よく進んでみる
WIZ : 様々な工夫を凝らしつつ進んでみる
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ふわりと薄い霧が視界を掠めた。
気が付けば漕ぎ手はおらず、船は音もなく水面を滑っている。ほたほたとふる花色の雨は、当たれども濡れはしない不思議な雨。
こんな細い水路へ入った記憶などありはしない。そう思った瞬間、思い出すのは“迷い船”の話だ。
たしか案内のグリモア猟兵は“神隠しの一種でしょう”と言っていた。
そうしてゆっくりと思い出す、彼女の言葉。
“迷い船”は紫陽花小路に迷い込む。花色の雨の中、老婆か翁か幼子か……或いは“最も大切な者”か。
花を請われるのだそうです。持っている全ての花を……そして、その花を渡すと必ず帰れる。同時に戻った者は必ず“傘”を授けられるのだそうですの。
そう考えるより早く、耳を掠めた踵を鳴らす音。
ハッとそちらを見れば勝手に船が止まり、人影も一定距離でひたりと足を止めた。
誰と問うでもない。
その人影は噂通りに口を開く。
『……花を、』
君の答えは、なんだろうか。
***
MSより
雨彩の世界へようこそ。
花を渡すも渡さないもあなた次第。霧の幻はただ“花”を請うだけ。決して籠の花でなければいけないわけではありません。
授けられる傘は幻次第。
でももしかすれば、思い描いた相手がいればその相手へ幻が似合うと思い描いた物になるかもしれませんし、自分自身へと思う場合あなたへ似合う傘を幻は思うことでしょう。
ふしぎで静かな一時、雨彩の世界でゆっくりと誰かや自身を想う時間をお過ごしください。
ウィリアム・バークリー
オリビア(f28150)と
霧が出てきたね。冷えないかい、オリビア?
オリビア?
違う。姿はオリビアそのものだけど、気配がまるで違う。
――これが神隠しの幻?
だとしたら、本物のオリビアもじきに戻ってくるんだろうけど……。
花? ああ、そういう話だっけ。
いいよ、あげる。全部持っていって。
見れば見るほどオリビアそっくりでも、気配が希薄でやっぱり別人だ。
霧が、晴れる。
隣になじみのある気配。
お帰り、オリビア。怖い思いはしなかったかい?
ああ、ぼくも傘もらってたのか。雨傘だね。金色の縁取りのある紅い傘。雨の日はよく目立ちそうだ。
雨降りの日に、二人で並んで歩こうか。そう思うと雨の日が待ち遠しくなるね。
オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】
霧がでてきましたね、これが話に出ていた迷い船でしょうか?
「ウィリアム様、気をつけてくだ・・・」
どうやら気づかぬ間に幻と入れ替わっていたようです
話しかける前に気づけないとは従者としては恥ずかしいですが反省は後にしましょう
「お望みはこの花のようですね、どうぞお納めください」
そういって全ての花をお渡しします
気づいたら戻ってきましたね
「こちらは怖い思いなどはありませんでしたね、そして話にあった傘はこのような感じです」
そう言ってウィリアム様にお渡しします
見た目は寒色系ですが寒さよりも気高さを感じられる雨傘のようです
私のはどのようになったでしょうか?
●霧の歌
Ver.オリビア
夫と微笑み合いながら川面の花にオリビア・ドースティン(ウィリアム様専属メイド・f28150)が触れた時だった。
「あら……霧が出てきましたね。これが話に出ていた迷い船でしょうか?ウィリアム様――」
振り返れば隣に“形だけ”のウィリアムがいる。まるで絵だけが置いてあるような。
共に乗っていたはずの“本物”の夫 ウィリアム・バークリー(“
聖願”/氷聖・f01788)の姿は影も形も無く、噂通り船頭も居ない。
「……ウィリアム様は、大丈夫でしょうか」
“気をつけてくださいね”とオリビアがぽつりと溢したところで、カツコツと石畳蹴る靴の音。
「(これが、)」
『……ぼくに花をくれないかい?』
どこかオリビアの耳馴染みある声が囁くから、ウィリアムと分けた籠に残っていた花を全て渡してしまう。
「お望みはこの花のようですね。どうぞお納めください」
目元を靄で隠したそれがウィリアムではないと分かっているものの、そう思いたくなるのは此処が神隠しの場だからか。
靄纏うウィリアムが“ありがとう、オリビア”と綺麗に微笑んだ。
何故か胸を過る安堵に目を伏せた時、一陣の強い風が吹く。
「きゃっ……あら?」
ぽつぽつと降っていた花色の雨が弱く淡く止もうとしていた。
Ver.ウィリアム
ふわり、霞が視界の端を過る。
「……ん?」
この川面に生き物はいない。流れるのも振るのも花ばかりだから――そう思っていた矢先、一陣の冷たい風が吹いた。
「霧が出てきたし、冷えないかいオリビア。川面を覗いたら危ないよオリビ――……ア?」
名を呼べばいつでも返事をする可愛らしい声は返ってこなくて。
「……――これが神隠しの幻か」
振り返れば隣に“形だけ”のオリビアがいる。まるで絵だけが置いてあるような。
共に乗っていたはずの“本物”の妻 オリビア・ドースティン……否、オリビア・バークリーの姿は影も形も無く、噂通り船頭も居ない。
「(きっと此処を越えれば会えるはず。さて、どうしたものか)」
考えかけた時、こつこつと軽い足音が船へ――……視界に映るのはもう目に馴染んだ臙脂のメイド服と真白いエプロンそして星のような金髪に目元を靄で隠したそれ。オリビアではないと分かっているものの、そう思いたくなるのは此処が神隠しの場だからか。
『……わたしに花をくださいませんか?』
「花? ああ、そういう話だっけ……いいよ、あげる。全部持っていって」
どこかウィリアムに耳馴染みある声が囁くから、オリビアと分けた籠に残っていた花を迷わず全て渡せば、靄纏うオリビアが“ありがとうございます、ウィリアム様”と微笑んだ。
何故か胸を過る安堵にウィリアムが“どういたしまして”と答えた時、一陣の強い風が吹く。
「わっ……やっぱり」
ぽつぽつと降っていた花色の雨が弱く淡く止もうとしていた。
*
「お帰り、オリビア。怖い想いはしなかったかい?」
「おかえりなさいませ、ウィリアム様。こちらは怖い思いなどありませんでしたね、お話にあった通り……そして傘は、」
霧が晴れ互いの姿を見止められた瞬間、ウィリアムもオリビアも“おかえりなさい”と心からの安堵と共に伝え、ふふと笑っていた。
そうして話すのは“いつのまにか”自身が手に握っていた一本の傘のこと。
「このような感じです」
ぽん、と開けば銀の石突を中心に外へ向かってロイヤルブルーの紫陽花が一輪咲いたような。取っ手も石突と同じ銀色で赤とグリーンのリボンが蝶結び。
「不思議です、寒色なのにどこか高貴にも感じられて……」
ウィリアム様に、とオリビアが渡せば、ありがとうとウィリアムは受け取ってから自身の傘も広げてみる。
「ぼくも傘を貰っていたんだ。雨傘、これは……」
オリビアと対になるように銀の石突と取っ手。傘布はオリビアのメイド服と似た臙脂色、取っ手にはホワイトとシルバーのリボンが蝶結び。
「雨の日には良く目立ちそうだし……ねぇオリビア、雨降りの日に二人で並んで歩こうか?」
“君みたいな傘だね”と微笑むウィリアムの言葉に、二人は雨の日が待ち遠しくなっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「…全ての、花」
一体何処迄花だろう
「多分、ですけれど。自分が花と認識してしまったら、其処迄全て花扱いになるのでしょうね」
苦く笑う
服の意匠は花だ
帯留めも花
桜鋼扇に刻んだ紋様も花
そして
自分の頭上に咲くのも、花
「帰れないのは、困るのです」
今上帝にお会いしたい
今上帝のお役に立ちたい
死ぬなら今上帝のお役に立って死にたい
願うのは何時も其れだけだ
服などなくても帰りにマントを買えばいい
多少困るが桜鋼扇又作ろう
頭部の桜の枝も、嘗て折ったが又生えた
多く与えても増える何かは無いだろうが
帰れぬ事は困るのだ
脱いだ服
帯留め
桜鋼扇
折った桜の枝2振り
全て華貨の籠に詰め渡す
「私が何時か今上帝に会えるよう、貴方も祈って下さいね」
●知らずの花よ
気付けば御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は霧中の船にいた。
「……一体、此処は」
真白い紫陽花の咲き誇る静かな水路に響く靴の音。
過るのはグリモア猟兵が最も大切な人“かも”しれない、と言っていたことを桜花は思い出す。
『……――花を』
低くも高くもなく、女性とも男性とも思えぬ声。
「(花。……それは一体どこまで?)」
桜花は纏う着物も、帯も、帯留めも、花。
懐に忍ばせている桜鋼扇も、桜の文様と意匠が刻まれているうえ、 そうして――……。
「たぶん――……私自身が“花”と認識してしまったら、そこまで全て花扱いになるのでしょう?」
くすりと漏らしたその笑みは、常に桜花が浮かべる柔らかい微笑みとは少し違っていたけれど。
桜花の頭上にも、花。
“名”にも、花。
捧げられるべきは自分?そう内心首を傾げながら、そっと。
「……帰れないのは、困るのです」
桜花の目標も夢も、いつも変わらない。“今上帝のお役に立つこと”ただ一つ。
導かれるように視線を上げれば、船通る水路横、白紫陽花の向こうに黒い衣冠纏う“何か”の姿。
その姿に桜花は一目で気付く、“あぁ、あれは自身の思う今上帝ではない”と。
勉強した歴史で見た過去の帝という存在達が来ていた衣装の一つを纏う顔は、もちろん靄に巻かれて見えず伺えず。……きっとあの靄は“桜花自身のこころ”であると同時に妄想だ!理想だ!だがそうであっても神隠しからは抜けられまいと“花”全てを置こうとしたとき、そっと檜扇が桜花の手の上に重ねられる。
「……え?」
『 、 』
ふるりと首を振り、違うとでもいうような仕草をした靄の檜扇の先が、桜花が自身の横に置いた花籠を叩く。
「ですが、」
花を求めていらっしゃるのでしょう?
そう問い、桜鋼扇を置こうとした――瞬間!
「きゃっ……!」
強い風が吹き、籠の花を舞い上げると船諸共桜花を押し流す。
ふわり手を振る何かに見送られながら。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
POW
かみかくし……なぜかしら、心が少し騒めくのを感じます。
だって私がこの世界に生まれたという事はこの世界で死んだという事。
だけどクリスタリアンはあの宇宙で多く生きる種族なのでしょう?
どこかのタイミングでこの世界にやってきたのかしら?
声をかけてくださった方は違う人。もしかして過去のあの人(私)かと思ったけれど……いえ、容姿はよく似てる。けど気配は全く違う別人。……少し父に雰囲気が似ている。
少し驚いちゃったけど花はお渡しします。
願わくは傘は過去の私に。冷たい雨にうたれないように、さしだしたい。
傘は大事に抱えます。
いつになるのかわからないけれど、きっといつか渡せると思うから大事にしないと。
●鼓動を潜めて
とくんとくんと妙に脈打つ胸。
「(かみかくし……)」
聞いた瞬間、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は何故かドキリとした。
「(……どうしてこんなに心が騒めくの)」
自身の心に問おうとも、返って来るのは少し早い脈の音ばかり。藍自身
この世界出身であるにもかかわらず、一体どうしたというのか。
だがふと。
猟兵へと覚醒してから知ったことではあるが、“クリスタリアン”という結晶の種族はとある宇宙で最も多く生きているのだという。だが藍は生まれも育ちもサクラミラージュ。そして“転生者”だ。
「(私がこの世界で受けた二度目の生、つまり私は“
この世界で死んだ”ということ。だけど、)」
クリスタリアンは宇宙に多い。サクラミラージュではほぼ無縁の宇宙。
だからこそ思うのは、一体“私”がどのタイミングでこの世界へ来たのか?だなんて……と考えていたところで耳を打った一つの靴音がぴたりと止まる。
「……!あ、れ……?」
視線上げれば、立っていたのはフードを目深に被った女性。
けれど、藍はすぐその違和感に気が付いた。姿形は様々な出会いと経験で見た“過去の私”に似ているのに、雰囲気だけはどこか藍の父似た、不思議な存在。
「(びっくりした……)」
“私”とも言えず、“父”とも言えぬ存在は花色の雨の中囁くように藍へ呟いた。
『花を、ください』
「これをどうぞ」
籠の花を渡せば、受取り香りを楽しむ幻がクスクス笑うとピタリと止まっていたはずの船が動き出す。水面滑るように進んで進んで、その先の光へ。
……――終わった神隠しの時間は長かったように感じたというのに、振り返れば影も形もない通って来た道。そうしていつのまにか握っていた傘に気付いた藍はぎゅっと傘を抱く。
いつか、“
あの人”へ、そっと差し掛けられるようにと、静かに藍は願っていた。
どうか、冷たい雨に一人で打たれないで。
大成功
🔵🔵🔵
藤・美雨
◎
深(f30169)と
少し不思議な雰囲気だから、はぐれないように深と手を繋ぐ
大きな手が暖かくて安心するんだ
全然怖がってないの、バレバレだけど
幻さんも悪い人じゃなさそうだしね!
籠の花はいくらでも渡しましょう
これ、必要なんだろ?
好きなだけ使っておくれ
だから、私達のことは見送ってくれると嬉しい
……そう、私達
二人で帰れないと意味ないから
こんな素敵な空間に閉じ込められるのも悪くないけど
深とはもっと一緒にいろんな場所に行きたいんだ
それこそ死ぬまでずーっとね!
だから傘を贈るとしても深に
あなたが無事に帰れますようにと
心の底からそう思う
……深も同じこと考えてたの?
う、うわ
なんか恥ずかしい
でも嬉しいな
呉・深
◎
美雨(f29345)と
危険はなさそうだが、念のために美雨と手を繋いでおく
細い手はするりとすり抜けそうで怖いから、ぎゅっと
……俺が怖いのはお前が独断先行することだよ
幻にはきちんと手持ちの花を渡そう
三途の川の渡し賃ならぬ渡し花、だな
どうかあなたに良い旅路を
そして俺達にも帰り路を頼む
一人でこのような場所に踏み入れば、興味のままに調査に乗り出したかもしれないが
今は美雨と一緒だ
無意識に無事に帰ることを優先してしまう
帰って、出かけて、帰って、また出かける
そういう日常がきっと、すごく大切なんだ
傘を贈るなら美雨に
いつも無茶する彼女を少しでも守ってくれと
……美雨も俺に傘を?
…………そうか
なんだかこそばゆいな
●雨の日も晴れの日も“君”と
花色の雨が鼻先に当たって気がついた頃には、ふうわりと自身達を囲む霧に全てを撒かれていたように思う。
「深、はぐれちゃダメだよ」
「美雨、こっちに」
濃霧の中、互いの名を確かめるように呼び声を掛けながら危険が無いよう首を巡らせ周囲を警戒しつつ、視認なんかせずとも互いの手はすぐに見つかりしっかりと握った瞬間の安堵を人は“幸福”と呼ぶのだろう。
呉・深(星星之火・f30169)からすれば小さく華奢な藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)の手はするりと抜けてしまいそうなのが、怖くて……ぎゅっと握るよりいっそ、指を絡めてしまう。
「(……俺が怖いのは、お前が独断専行することだよ)」
「(えへへ、深の手あったかい!)」
絡められた指に少し力を入れれば、どこか遠慮の見えるような力できゅっと握り返されることに、たしかに互いの存在を感じられる安心感は何物にも代えがたいと美雨は思う。
きっとこの濃霧を自身が怖がってないことなど深にはお見通しだとしても。
深はどこかクールで冷たそうに見えるけれど、じつはとても手が温かくて、大きくて、包んでくれる。これは美雨だけが知ってる深の良い所であり秘密。
コツコツと甲高い踵の音。
「「!」」
響き反響したそれが、ぴたりと船が止まると同時に留まり、顔の伺えぬそれが深と美雨見据えそろりと口を開く。
『……花を、』
求め縋る様な声にあるのは、僅かな寂しさか哀しさか。
「ねぇ、深。……幻さん、悪い人じゃなさそうだね」
「そうだな。美雨、渡してやろう」
そろりと美雨が深を見上げれば、前髪の下からなら密やかに伺えた深の視線が美雨に緩み小さく頷いた。
「うん!籠の花くらい全然いいよ!」
惜しむことも無く快活に微笑んだ美雨の差し出した籠から深が片手いっぱいの花をひとまず渡せば、恭しく両手で受け取った幻が至極幸せそうに頬寄せ笑ったのだ。
言葉にせずとも“良かった”と言いたげな様子に、何故か胸に広がる小さな安堵感を覚え、美雨も深も少しだけ首を傾げ羅けれどそれはそれ。“もっと必要かい?”と美雨が問えば幻は首を振る。
「(三途の川の対価……ではない?)」
「でもこれ、必要なんだろう?」
『――あるだけ』
ここは恐らく世界の境。
常世と幽世の狭間――それが深の推理。渡るではなく変えるための対価こそ、花なのだろう。常世の“特定の祭”という限定品はこのハザマではさぞ高価なのではなかろうか。
言葉無く奏考察しながら、深はもしも“自身が一人だったなら、”を思う。きっと何にも顧みず、多少この場を理解できたら保険を掛けながらでも、好奇心に任せ調査をしたことだろう。もしも危険があれば、最悪グリモアを使って世界を越えれば脱出も叶うだろうから。
――でも、違う。
「……深、何だか大丈夫っぽいよ」
「そうか」
そう、自身の手をそっと引きこそこそ話しかけてくる眼下の少女――美雨がいるから。
“たった一人”というのは全て過去の妄想に過ぎない。目の前にある“今”は、温かくて変えの利かない幸福だ。
当時の自分は、きっと幸福の湯は浸かれば抜け出せないなんて幻想だと思っていたことだろう。
だが今なら言える、“抜けたくなくなる”のだと。
「……もっとあるが、良いのか?」
『くれるを、ありがとう』
男とも女ともつかぬ声へもう一度良いのかと問うのは、“二人で”帰るため。これは一人分、なんて難癖は困るから。“深が美雨と一緒に帰りたい”から。
しかし幻は微笑み、“その優しさごと花を頂きましょう”と振るまい、真白い花と穢れの無い優しさは、値の付けられない価値があると示すように恭しく礼をした。
「……私達のこと、見送ってくれる?私“達”二人じゃなきゃ意味がないんだ」
美雨がおずおずと口にしたことに、ついハッと深は美雨を見た。
自身と繋ぐ手に力を込め離すまいとしながら問うその姿に、胸の奥がむず痒いような、ぎゅっと握られるような。ちなみに人はこれを“キュン”というが、深自身が気付くのはいつだろう
「こんな素敵な空間も悪くはないんだけど……深とはね、一緒にいろんな場所に行きたいんだ!それこそ、死ぬまでずーっとね!」
花開くように美雨が素直な気持ちを言葉にする側ら、深が内心「う゛っ……!」とキュン度の高い
ダメージを受けていたなんて美雨の知る由もないことである。
「ねっ、深!」
「そうだな」
バッと振り返った美雨に咄嗟に自身を整え深が答えられたのは幸運なことであったかもしれない。
くすくす。くすくす。笑う幻の声が反響した瞬間、強い風が二人の船を押す。
「わっ……あれ?痛くはない?」
「美雨……!あぁ、確かに音程は無いようだ」
ごうごうと船押す強風に驚くも、不思議なことに“音”だけ。
咄嗟に身竦めた美雨と、その細い肩を抱いた深とが不思議そうに見つめ合えば、くすくすと笑う声の悪戯だったのだろうか?気付けば霧は晴れに二人の船は賑わいの中にあった。
「あ……、深」
「美雨、それは……いや、俺もか」
手には傘。
広げてみれば美雨は縁に黒猫の踊る黒い石突と取っ手に藤色と赤色のリボン結ばれた青い雨傘。
深は縁にフリルを纏わせた白いレースの傘地。金の石突にはレースと同じ真白いリボン、取っ手には青紫のリボンが結ばれた日傘であった。
まるで“相手を想った”からこそ渡された傘の姿をきょとんと見つめてから、互いをまた見つめ合って。
「ねぇ深、深に傘あげたいって思ってたら深が持ったら良さそうな傘くれたみたい」
「美雨“も”俺に傘を……?」
「うん」
「…………そうか。俺も、傘を贈るなら美雨にと思ったんだ」
とても素直な言葉に、一瞬美雨は虚を突かれたような顔になる。
二度三度瞬きをしてからゆっくりと深の言葉を咀嚼して、それからあわあわと慌てだすと、真白い頬をどこか淡く染めならが思うのは先のこと。
「!?……………しっ、深もおなじこと、考えて……たの?うわぁ……なんだか恥ずかしい、けど……えへへ、嬉しいっ!それがあったらお日様痛く無さそう!」
「俺も、雨の日に誰とも間違えなさそうだし、突然雨が降ってもその大きさなら二人で入れそうだ」
来る雨季と更に先の酷暑の日差しを想う。勿論全ては君と一緒に!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリー・アシュレイ
【花緑青】
ウェズリーの動きが止まったから
何よりも、私と同じ髪と耳の色だったから分かった
…あれが、パパなのね
始めて見る顔
あんな風に笑うの…
不思議と涙は出てこない
近くに行こうとも思わない
一秒でも長く、その姿を目に焼きつけて、声を耳に残して
記憶に留めておきたい
花…“全て”、渡すのよね?
真っ直ぐにパパを見つめ、叫ぶ
パパ!私はちゃんとウェズリーを見つけたわ!
パパの願い通り――これからずっと、ウェズリーを見守ってく!
パパの代わりに…パパのやり残したことを、私の全てを賭けて
だから安心して!
私から渡すのは心と言葉の花
今の私が持つ全てのそれを、パパに捧ぐわ
どんな傘が貰えても、笑顔で差して
ほらウェズリー、出口よ!
ウェズリー・ギムレット
【花緑青】
相棒の姿を見間違えるわけはない
マリーと同じダスティピンクの柔らかな髪とグレーの耳
黒翡翠のように澄んだ眸を細めると、歳の割に童顔に見える時計ウサギ
…ああ。彼がアシェル…私の相棒で、君のパパだ
彼女を案じつつ
花乞われれば、被っていたホンブルグハットを彼へと投げ
前に言っていただろう?
自分も帽子を被ってみたい、って
私の一番の気に入りだ
きっと、君にも似合う
私は君を、過去のことにしたくはないんだ
今でも相棒だと思っている
…君を犠牲にしてまで扉をくぐった私を…ふふ、分かっているよ
恨んではいないのだろう?
それが本懐だと良く言っていた
だから私も、君の優しさに甘えさせて貰うよ
ああ、そうだね
微笑み、傘を差そう
●扉の向こう
霧に巻かれ、幼い兎の少女 マリー・アシュレイ(血塗れのマリア・f40314)を気遣っていたウェズリー・ギムレット(亡国の老騎士・f35015)が正体不明の靴音にマリーを守るように細く小さい肩を抱いた時――眼前へ現れた靴音の主に、いつもは冷静な碧眼を動揺に見開いた。
「――
」
「……ウェズリー?」
その4文字の名に乗る感情は悉く言葉にし難きものだった。
甘い灰の長い兎耳を頭上で揺らし、マリーと同じ柔く呼吸するダスティピンクの髪。白い肌に煌めく、濁り知らずの黒翡翠の瞳。
ウェズリー・ギムレットが忘れ得ぬその姿は、自分の背中を扉の向こうへ押しやり“またな!”笑った
時計兎 アシェル・アシュレイ。
ウェズリーの一生を救った、ウェズリーにとっての代えの利かぬ相棒であり一生涯の恩人であると同時にアリスという生涯ゆえの英雄。
幻というには余りに逢いたい人、という存在過ぎた。
こんな――こんなに胸を締め付けられるような、それこそ“罪”を突きつけられようとは。
けれどきっと、これはウェズリー・ギムレットという一人のアリスが生涯を賭けて守ろうと誓った
マリー・アシュレイと出会った瞬間に課された為さねばならぬことの一つ、なのだ。
辛くとも、苦しくとも、何があろうとも。
逃げることなど許されない、いや、ウェズリーという一人のアリスの逃亡をウェズリーという一人のアリスナイトが許さないだろう。
「……マリー、彼がアシェル――私の相棒で、君の……パパだ」
声は震えずに言えただろうか。
震えるような心地でマリーの肩に手を添え告げれば、自身の手にそっと小さくも温かい手が添えられた。
「……あれが、パパなのね」
マリーは“素敵な淑女”だから、一瞬でもウェズリーの冷静さ崩す唯一を見た瞬間全てを察していたなんて口にしない。
「(初めて見る顔)」
一見、笑みを絶やさぬ男性……でも、よく見れば懐かしむような目でウェズリーを見て、自身に向ける視線に滲むのはどこか“申し訳なさ”。
「(……なによ)」
違う。
「(……違うわ)」
違う。
マリーの欲しいものは、違う。
笑って。ねぇ、パパ。
『やぁ、ウェズリー……マリー、俺の可愛い子』
どこか甘く優しい声に名を呼ばれた瞬間ウェズリーは咄嗟に目頭を抑えて天を仰ぎ、マリーは肩に重ねられたウェズリーの手を握っていた。
その笑顔に、声に、喉を掴まれたような感覚にウェズリーはどうしたって許しを請いたくなるし、扉を探していた時分には思いもしなかった神に懺悔をしたくなるのは……きっと、自身の勝手な思いなのかもしれない。
『泣くなよ相棒、今日は花を貰いに来たんだが』
マリーは黙して兎耳を揺らし、じっと照れくさそうに笑う父親を目に焼き付ける。
「(そんな風に笑うのね)」
大人なのに幼さの見える顔はきっと恐らく童顔で、悪戯っぽくウェズリーに帽子が似合うと笑えば“そうかい”と精一杯笑顔を返す紳士の姿は健気にも見えたが、一方でマリー自身涙は出なかった。悲しくないからではない、驚いたからではない。ただ“あれが自分の父であり、今隣にいる大切な人の相棒”。
「ウェズリー」
「分かっているよ、マリー」
そうして被っていた帽子を脱いだウェズリーが軽やかに
ホンブルグハットを投げ渡せば、受け取ったアシェルが瞠目したのは一瞬。
『覚えていてくれたのかい?嬉しいな、ほら……んー、耳はやはり締まった方が良いかな』
「何、前に君は言っていただろう?それは私の一番のお気に入りだ。きっと、君にも似合う」
擽ったそうに笑うアシュレイが片耳折り帽子をかぶってみせる姿にウェズリーは胸がいっぱいになりそうになったが、自身の手を再び引いたマリーが現実に引き戻し問う。
「もう一度聞くわ、ウェズリー。花……“全て”渡すのよね?」
「そうだね、勿論」
そう親しげに話す姿に、ククッとアシェルが喉を鳴らして笑い、“あぁ良かった”を口にしたのだ。
「……アシュレイ?」
『いや、良かったと思って。なぁ相棒、“向こう側”は良かったか?』
「! 君を犠牲にしてまでくぐった――……」
『こら、“時計兎”を何だと思っているんだ?俺と君は相棒だが、その前に“アリスと時計兎”だ。だろう?マリー!』
「そうよ、ウェズリー、パパ!」
時計兎という相棒を手に入れてしまったアリスだから。
アリスという相棒を手に入れてしまった時計兎だから。
だから、“その時為すべきを成した”ただそれだけ。それだけだったのだから、何を悔いることがあるというのか。
『本懐を遂げた俺が、相棒たる君を恨むとでも?』
「……まさか。ただ私は君を過去にはしないし、君の優しさにも、マリーの優しさにも甘えているんだよ」
そう言葉にして、初めてウェズリーは胸のすくような心地であった。
勿論、自分自身に対する蟠りも後悔もある。だが、あくまでもそれはウェズリーだけのもの、だから一歩進み出たマリーの強い瞳は一度ウェズリーを射抜き、次にアシェルを射抜いてきりりと釣り上がる。
「パパ!」
『ん!』
「私はちゃんとウェズリーを見つけたわ!」
微笑みは自信たっぷりに。
私はパパの子なんだから!と微笑めばウェズリーもアシェルも優しく眦を緩め、頷いて。
「パパの願い通り――これからずっと、ウェズリーを見守ってく!」
『頼んだ、マリー』
「……君達、一体いつそんな約束を」
どこか恥ずかしそうにする
ウェズリーを
時計兎達はクスクス笑って続きを紡ぐ。
「パパの代わりに……パパのやり残したことを、私の全てを賭けて。だから安心して!」
この物語は
まだ終わってはいない。ウェズリー・ギムレットというアリスの
生涯はまだ真白いページが待っている!
『まったく、マリーは随分おしゃまなレディに育ったな……でも、俺の相棒は相当な紳士だから色々教えてもらうと良い』
「うん、パパの言う通りウェズリーはとっても物知りで私にいーっぱい教えてくれるの!」
言葉と共に差し出す花は籠いっぱい!
マリーに差し出されたそれを受け取ったアシェルは柔らかに微笑むと籠を抱き、笑顔で告げた。
『二人の道行に花が咲くことを祈ってる!』
晴れゆく霧に比例して遠くなるアシェルの姿。
「ほらウェズリー、出口よ!」
快活に笑ったマリーに手を引かれ、ウェズリーは光へ向かう。
名残惜しさは胸にしまって、花弁の風吹く中へ。
「ああ、そうだねマリー――……アシェル」
思い出にしない相棒はいつでも
隣に。
頑固だと苦笑いする相棒に、分っているよと笑えるだけの余裕が生まれたから、手にいつの間にかあった傘の感触を確かめるように握りしめる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
◎
見て美希! 花の色の雨――嬉しくて“美希”も思わず出てきちゃったみたいねうふふふふっ!
で?
誰ですの、あなた。
今は美希とのお出かけですのよ。
神隠しだかなんだかどうでも良いけれど、美希の姿で一言でも喋らないでくださる?
私の た い せ つ な 家 族 ――
……花、を?
花って、何の?
ああ、
華貨がそうなの。
……或いは、これでない別の花もそう?
…うふふ、まっこと……うふふふ……。
くれてやりますわ、全部。
美希の目的は果たされましたし、これ以上回るお店は特に…といったところですし。
それに、また行けばいいし。
どれだけ綺麗でも、今の私には必要の無いもの。
どうぞ、好きなだけ受け取りなさいな。
…そういえば、あの人なら、どうしたのかしら。
いつかの聖杯女を殺す時にご一緒した、正義の警察官さん。
私と美希の、叶わぬ片想い――。
《お姉ちゃん、お姉ちゃん!》
あ?
って、美希! 今まで何処に!
《お姉ちゃん、その傘は何?》
ああ、これですの?
この紫の傘はね――
《え、白い傘でしょ?》
は――
あ、は、
くふふ、うふふふ…!!
●霧中になるから、
ふんわり揺れたルビー色の髪。金色琥珀の瞳はお揃いで、少しだけお姉ちゃんが吊り目。
妹は垂目気味。全部同じだけどちょっと違うからこそ互いだけのオリジナルな二人だから楽しくて、おかしくって。
ほたほた、ほたほた、雨が降る。
「見て、美希!花色の雨でしてよ!」
『そうだね、お姉ちゃんとっても綺麗!』
淡く青い色味の花色の雨は普段見ないはずの色。
空仰ぎ伸ばした両手で濡れぬ雨を受け止め、子供のようにわらう
ラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)ととても良く似た少女が真似るように空へ伸ばした手を取り合って微笑み合う。
それは普通の双子なら普通な話……――
普通の双子、なら。
霧に巻かれた嘘のように誰も居ない世界で、君と……――なんて平然とシルの隣に美希が居る訳ないだろうが。
思わず出てきた?訳が無い。美希とシエルは現状、ユーベルコードという超常の力を用いて初めて同時に存在できる。
ラップトップ・アイヴァーは
二人で
一人なのだから。
それこそ平素、何の対価も無くそんな真似が出来るのならばとっくにしている。
「――で?」
『なぁに?』
ルビー色の髪を揺らし小首傾げる美希――を模した何かへ
ラップトップは努めて冷静に問う。
「誰ですの、あなた」
『やだなお姉ちゃん、みきだよ』
「……今は美希とお出掛けですのよ。神隠しだかなんだかどうでもいいけれど、
それはやめてくださる?」
平静装いそう口にする
ラップトップではあったが、内心冷や汗をかいていた。
幾ら心の中を探そうと美希の影も形もない現実に噴き出る冷や汗が止められない。
「(美希、美希……!どこですの、美希
……!!!)」
宛てのない呼びかけ。
返事のない心の裡はうすら寒い気さえした。
だがそうも言ってはいられまい、と頭を振った
シエルが思うのは故郷、アスリートアース。様々なスポーツが世界の中心である故郷らしい話だが、たしかにスポーツの神に祈る……なんて吹けば飛ぶほど薄い信仰心くらいなら
ラップトップにもあった。
だが異界はどうだ、まさか片割れが“隠される”などということが起こるなんて。
霧の中で動かぬ船の上、睨みつけられた美希のようなものはカラカラ笑うと軽やかに船を飛び降り、紫陽花咲く脇の道へと降り立った。
「(……気持ち悪い、“美希”のようではありませんか)」
偽物なのに本物のようで偽物で――吐き気がする。
『お姉ちゃん酷いよ、そんなこと言うなんて』
「あら、わたくしの
大切な家族のことですもの。本当の美希ならそんな
安易なことなどしなくってよ」
“ちぇ、冷たいな”と道の小石蹴った美希らしきものはくるりと振り返ると
ラップトップに両手を差し出し美希の顔のまま微笑んだ。
『お花、ちょうだい?いーっぱい!』
「……花、を?花って、何の――」
それこそ貴女の足元に咲いているじゃない。
そう思い口にしようとした矢先、脳裏にフラッシュバックしたのは
美希との言葉。
『あっお姉ちゃん、ちゃんと“その籠のお花”使うんだよ?それが通貨代わりになるんだから』
「……ああ、
華貨がそうなの」
あるいは別の花も対象なのだろうか。だが考えるより、シエルからすれば“こんな程度のこと”で自身を美希が離されたことに納得はいかない。
「うふふ、まっこと……ふふ、うふふふふ――まぁ、良いでしょう。くれてやりますわ、全部」
花の籠を突き出せば“いいのー?”なんて声。
「結構よ。美希の目的は果たされましたし、これ以上廻るお店は特に――……といったところですし」
今年、これで終わってしまうというのなら来年を待てばいいだけ。
それに別の機会にこの街を訪れれば近い物が楽しめるかもしれないと思えば、美希と比べて惜しむ物など何もない。
「どれほど美しい物も美味しい物も今の私には必要ない物。どうぞ、好きなだけ受け取りなさいな」
『ほんと?ありがとう、じゃあ貰うね!』
籠ごと攫われたところで、停滞していた波が動き出す。
背中尾を押すような風が船を押し、霧の薄い方へシエル乗せた船を運んで行く。きっと遠くなく
光の中へと帰れるだろう。
「(……そういえば、)」
ふと思い出すのは、とある警察官の姿。
いつかの“
聖杯女”を骸の海へ叩き落す折り、共に戦場を駆けた正義うたう凛々しい警察官。
胸にある甘い温もりなのにどこか苦く大人っぽい味のするこころ。シエルは勿論この感情の名前を知っているが、あえて呑み込めばやっぱり苦い。
「(全く我ながら、)」
「(お姉ちゃん!お姉ちゃん!)」
思考の海に浸かりかけた時、目を覚ます様な愛らしい声。
「あ……?って美希!貴女今まで何処に!」
「(お姉ちゃん、その傘は何?)」
“質問に質問で返さないでちょうだい!”と怒ろうにも、意識すれば手中には握った覚えもない何かの感触。はたと見て見れば美希の言う通り“傘”で……。
「ああ、これですの?この紫の傘はね――」
「……え、白い傘でしょ?」
「は――……あ、は、」
“何言ってるのよ”なんて、あぁ。
「くふふ……ふふっ、うふふふふ
……!!」
花弁の雨が降る中、少しずつ日が沈むにつれて影が伸びてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
アオ・ロードクロサイト
【詩謡】
ん。船が導く先
大切な存在
逢えるかな
逢えるといいな
アオが逃げ出さないよう見張るひと
なのに光を与えてくれたひと
翼を持たない雪豹のお兄さん
アオは与えてもらってばかり…だった
外の世界を知らないアオに、キレイなものを教えてくれた
きらきらの砂糖菓子
あの国では希少だった薔薇の花
小さな雪だるまも冷たくて
初めて触れたときびっくりした
でもアナタに触れることは一度もなかった、ね
アオは主さまのために謡う籠の鳥
いつだって主さまのため
希われひとりのために謡ってきた
でも、ね
アオは一度でいいから
お兄さんのために謡ってみたかった
もう叶わない
アオの願いごと
鳥籠が開かれたとき
お兄さん死んじゃった
アオはまだお兄さんのための唄を謡えない
だからいまは花を贈らせて?
白い薔薇、アオにくれた薄桃と色違い
お兄さんの黒髪に映えて、キレイ…だから
お兄さんがくれた世界は楽しいよ
はじめてお友達できたの
きらきら笑顔が眩しい可愛い子
いつかたくさん、お話させて…ね?
笑顔を浮かべた青年を見送って
胸が少し苦しい。でも嬉しい
ん、逢えた
アオの大切なひと
ミラ・オルトリア
【詩謡】
花色の雨と共に私達を導くように船はただ水上で
私達を導くみたい
私、迷い船の話に興味があったの
…この迷い船が導く水上の先
夢でもいい
私は大切な者の存在を見つけたかった
蜂蜜彩の蕩ける黒眼を閉じた時
黒雀の耳に音が掠めた
花を請うその声は聴き間違える筈のない
歌うように優しい女性の聲
眼開き聲の方を見た
その姿は紛れもなく私の…母の姿
「私、ね?お花を
ずっと贈りたかったんだ」
故郷の世界
その戦場で…歌姫として命を燃やし尽くした亡き母へ
…弔う事ができなかったの
苛烈な戦場で母の亡骸を
いつか母の命に花を贈りたかった
真っ白なアザレアを母の幻に差し出す
「あなたに愛されて幸せでした
…私、戦場で歌ってるんだ
お母さんみたいに皆のこと守れるように」
旅する中でこんなに可愛いお友達や
頼もしいお友達もできたんだ
だから
どうか安心して見守ってて
私、諦めないで戦場で唄い続けて見せる
それを伝えたくて幻に縋り
満面の笑顔で花を受け取る母を見送る
「…不思議な時間だったね
アオちゃんは誰かに逢えた?」
隣合う彼女の手を握り
そっと微笑む
…よかった
●このうたを、君はきっと知っている
花色の雨は美しい。
きらきら、きらきら、それこそ此処は夢のような世界なのかもしれない。なにせ気付けば導かれるように此処にいたのだから。
同じ場所にいるのに互いが全く違う場所にいるような感覚は、歌にも言葉にし難い不思議な心地があったけれど……。
Side blue.
「……ん」
船の導いた先でアオ・ロードクロサイト(Cantus Blue・f40050)を待っていたのは“また逢いたい”と心の中で願っていたあの人。
「―――、」
『 』
音にならない言葉は春の風過ぎるようにアオの耳を擽っただけだっだけ。
でも、それでも目の前に居るのは
アオにとって大切な存在。
アオの姿を見止めると、僅かばかり眦を下げ……――おそらく、名を呼ばれた。
「(アオが逃げ出さないよう見張る人)」
戦場という非日常の中に在りながら善性を捨てず、獣性に支配されず、良心のままに“普通”にいたひと。
「(……ううん、違う。お兄さんはアオに知らないいっぱい……素敵な知らないをいっぱい、教えてくれた)」
優しいあなたは、
翼無きあなたは、
光 を。
きらきら、きらきら。
幾ら降ろうとアオを濡らさない花色の雨のように在ったひと。
幾度思い返してもアオにとって“雪豹のお兄さん”との時間は特別なものであり、一切色褪せない、ずっと“籠”にいたアオにとって一時の安らぐ時間であった。
出るのは主さまに求められた時だけの、たったひとりに希われ謡う一羽の鳥にすぎず、そのお世話を命じられたあなたは
必要以上に与えてくれたのだから。
青い空に浮かぶ雲の白さは砂糖菓子に似ていると言っていて、本当だったね。
宝石のようだと言っていた別の砂糖菓子を丁寧に布に包み隠し持ってきてくれたことも、忘れたことなどないの。
砂糖菓子じゃない、と見せてくれた輝く雪の冷たさも雪だるまの愛らしさも作り方だって、聞けばあなたは丁寧に教えてくれた。その成果を見せる機会は終ぞ訪れなかったけれど。
「(でも)」
唯一。
初めて指先がぶつかってしまったあの日、急いで引っ込めたけれど指先に残った硬い感触。……今なら分かる、あれは鍛錬に明け暮れた手だって。
名前だけで想像していた薔薇の美しさも、棘の痛みも、全部全部。
「全部、アオに教えてくれたのはお兄さん……だもの、ね」
決して
アオに触れなかった、誠実なあなた。
「でも……でも、ね――アオは一度でいいから、お兄さんのために謡ってみたかった」
あの日。
アオの鳥籠が開かれたあの日に、あなたも失われたのだから。
「だから――……アオはまだ、お兄さんのために唄を謡えない」
微笑んだまま、そうっと膝つきアオを呼ぶあなたの声を、今でも思い出せるから大丈夫。
『……―― 花を、』
「うん。アオからお花、贈らせて……?」
あなたの黒髪に映える美しい白薔薇を。
あの時初めて見た薄桃色の薔薇の美しさは、今でも胸にあるから――アオからは雪色の薔薇をと差し出し、そっと棘を折り黒髪艶やかな雪豹の男性の耳元へ飾れば、目元緩めたまま雪豹の男性は告げる。
『
、 ?』
「っ、今――!」
今、アオを呼んだの?呼んでくれたの?
そう問おうとすれば声が出ない。まるで問うこと自体を阻むような世界に言葉を呑み込んで籠を差し出せば、しっかりと男性らしい腕が丁寧に受け取った。
瞬間、アオの背を押すように風が吹く。
「――っ、ん。沢山の綺麗、ありがとう。いつかたくさん、お話させて……ね?」
はじめてお友達が出来たの、とアオの眦が緩んだことを知っているのは“雪豹のお兄さん”だけ。
送り出すように手を振るあなた。いつかきっと、とアオは静かに願う。
Side black.
言葉を交わしていたはずの友達の気配が薄くなることに気付きながらミラ・オルトリア(デュナミス・f39953)ある一点から眼を逸らせずにいた。
「あ――」
この船に乗った時から頭の片隅でずうっと考えていたのは迷い船の話。
“大切な人”が見えるとはどういうことなのか――……ミラ自身には何を映してくれるのか……。
霧に巻かれた時、恐怖よりもワクワク感の方が勝っていたなんて言ったら怒られてしまうだろうか?アオは心配しちゃうかな?なんて。
とろりと蜂蜜色蕩ける黒い眼を閉じて耳澄ませた時、聞こえたのは風音でも何でもない。
「 、」
息を呑み、瞠目する。
背の翼と同じく黒き羽音を携えた耳に確かに届いたのはどこか甘くも凛とした歌聲は。
『 ――♪、―― ……♬、花を』
ミラはその聲を知っている。
誰よりも美しくて、凛と伸ばした細い背から奏でられる力強くも味方の力になり得る歌聲。
「(お母さん)」
艶めく黒い翼のお母さん。ミラの大好きな、憧れの
お母さん。
いつでも優しい微笑みを絶やさず、等しく優しかった人。ミラの大切な人――だからこそ、それが幻だとよく分かる。
「ねぇ、お母さん」
『ミラ』
「……うん。あのね……私、ね?お花をずっとお母さんに贈りたかったんだ」
獣人戦線の苛烈な戦場の一端でミラの母は
戦っていた。命を賭して。
戦場に立つ歌姫というのは総じて“そういうもの”なのかもしれないが、ミラの母は限界すら越え命を燃料にしてまで背水の陣といえる戦場に命を賭けた。
全霊を掛け歌うのは、この歌が戦場に立つ人たちの背を押し、戦場に立たぬ人の背も押せるようにするためなのよ、といつも通りに優しい声で。
歌を構成するメロディーにも、歌詞一つとっても全て全てに意味があることも。
「
私に歌の意味を教えてくれたお母さんの“命”に」
差し出すのは真っ白なアザレア。
幻と知りながらも籠の中で選りすぐったのは最も咲きかたの美しい大輪のもの。
メインの四種類以外にも各駕篭数輪ずつ、迷わないように目印として入れられたそれは、ミラが花籠を受け取った時一際目を惹いた大輪だ。
どれもが素敵な花だけれど、これだけは必ずミラ自身手ずから母に渡したくて差し出せば細い指先が花を摘まむと鼻を寄せ香りを嗅いで幸せそうに微笑んでくれるから、合わせて告げた想いはミラの小さな決意。
「私はあなたに愛されて幸せでした。……私ね、今戦場で歌ってるんだ。お母さんみたいに、皆のことを守れるように」
顔を上げて、胸を張って背筋を伸ばす。視線を逸らさず伝えれば、じっとミラ見つめた瞳を凪がせた母が眦を緩めて、そうっと細い指先でミラの頬に触れて。
『
。 、 』
「……うん。旅をする中でね、真白な可愛いお友達や頼もしいお友達も出来たんだ。だから――」
にこりと笑ったミラのお母さんはミラの腕から籠を攫うと頬から手を離す。
突如吹いた強い風が船を、ミラの背を押しきりの向こうへと誘ってしまおうとするから、最後に。
「――どうか見守ってて!私、諦めないで戦場で唄い続けてみせる!」
縋ることは、出来なかった。
けれど頬に触れたあの温もりに感じた懐かしさはどうにも言葉にし難くて、胸を苦しくさせるから……だから潤む視界をぐっと堪えて呑み込んでめば、自身の手に感じた母とは違う熱。
「ミラ」
「!、アオちゃん」
互いの手から消えた花籠が全ての答えなのだろう。
すぐにミラもアオも察し、先に口を開いたのはミラだった。
「……不思議な時間だったね。アオちゃんは誰かに逢えた?」
「ん、逢えた。アオの大切なひと。……ミラは?」
そっと重ねた互いの手。
冷えた指先を温めるように握り合う理由なんて無かったように思うけれど。
「うん、私も。……よかった」
花舞う不思議な水の旅路は徐々に終わりの桟橋へ。
沈みゆく日が水平線を赤くする。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エアン・エルフォード
【蜜檸檬】
呼称:もも
そうだね、俺もこの時間帯は好きだな
空のグラデーションがいい
まあでも『黄昏時の逢魔が時』とも言うしね
あれ、言ったそばから霧が…出てきたか
ぎゅっと抱きついてきた彼女の素早いリアクションに笑い
一緒にいるんだから怖くはないだろう?
内心可愛いと思いながらも、不安な時には真っ先に頼ってくれるのが嬉しい
何かって何が来ると…え?
あれ、君達はどこから来たんだ?
いつの間に現れたのか目の前にはピンクのリボンの少女とブルーのタイの少年
小さな2人は、どこか懐かしいような、見知ったような瞳をしている気がする
ふと、隣の妻を見遣れば自分と同じように不思議そうな表情を浮かべていて
そうか、これが幻
冷静に観察するも、悪い気配は感じない…むしろ
この花が欲しいの?
請われて返せば、こくこく頷く様子に微笑んで
いいよ、全部あげよう
渡すと2人は嬉しそうに笑ってくれる
霧の見せる邂逅に温かな気持ちになって
…なあ、もも…今のは、もしかして…
(手元に残った傘は…)
もしかしたら、まだ見ぬ未来の
子供たちへの贈り物、かもしれないね
モモカ・エルフォード
【蜜檸檬】
呼称:えあんさん
陽が沈んだばかりの空の色ってロマンチックで好きなのv
えあんさんの肩に頭を凭れさせながらうっとりしていたら
急に濃い霧が立ち込めて…
ほんのちょびっと、身体を離しただけで
すぐ側にいるはずの彼の姿も見えなくなりそう
(ぎゅっ)思わず抱きつけば、温かなぬくもりと揶揄うような声に安心する
だって霧の向こうから何か来そうなんだもん;
照れ隠しに唇を尖らせて指差した先に
(にゃあああっ?!)
ちょこん、と可愛いちっさな二人の子ども
ツインテにピンクのリボンカチューシャがぴょこっと揺れる女の子と、クリクリおメメにブルーのタイの男の子が現れた!
えっ…これが噂の幻??…可愛い…けど
…ニコニコ笑う二人を見ていると、どこかで会った?
ううん、いつも側に居るような
懐かしいような、愛おしいような感覚に胸がきゅうっとなる
彼の問い掛けに、はっとする
うん、もしかして…(家で帰りを待つ2匹の仔猫たちを思い浮かべて)
もも、花を差し出した時に聞こえた気がしたの
(もうすぐ会えるよ)
小さな傘は仔猫たちへのお土産?
それとも
●あいたいな
隣の温もりといつまでも一緒にいたいから。
「えあんさん、綺麗なお空ね……」
「そうだね、俺もこの時間帯は好きだな」
夕日の朱にエアン・エルフォード(Windermere・f34543)のプラチナブロンドが染まる様を美しいと見つめるモモカ・エルフォード(お昼ね羽根まくら・f34544)の傍ら、エアンもまた愛らしいローズブラウンの髪をより薔薇色へと近づける朱の光纏うモモカの愛らしくも美しい姿に眦を下げて微笑めば、次の言葉は互いに重なって。
「えあんさんの目、アメジストみたい」
「ももの目はアメジストみたいだ」
思っていたのは同じこと。
“真実の愛”の石の如き瞳は今、この時だけ互いを見つめ合い、水平へと沈みゆく夕日を見送ったのはついさっき。
夜の帳がゆるりと引かれ、美しい空のグラデーションに瞬き始めた星々を仰ぎ、夫婦で一番星を探そうかと微笑み合っていた――……はず。
「………えあんさん」
「大丈夫だよ、もも」
エアンの腕を抱きしめ、そろりと自身を見上げる瞳に不安気な色を乗せた妻 モモカの髪に指絡め撫でたエアン自身、神経を尖らせ周囲を見ていた。
「(思いの外霧の広がりが早いし、船は――……“所定の場所”までは案内する寸法か)」
船頭なくとも進む船への不信を今はどうにもしようがない。
エアンの故郷でも
邪神ないしは妖精による悪戯の類が無いわけでは無いが、残念ながら経験が無い。もしそういう類なら当然の如く安全の保証は無いわけで……。しかしこのサクラミラージュの場合はどうだろうか?
水先案内人の言葉を思い出すのならば、一切“危険だ”と言わなかったあたり、そういうものは無いのだろう。
ただ音も無く夫婦を乗せた船がゆっくりと狭い水路を進んでいる。
「もも、
今のような時間はね、逢魔が時……魔物と擦れ違う時間、とも言うけれど……」
「まっ、魔物
……?!」
ぎゅとエアンの腕を抱きしめたモモがぴったりと寄り添えば、クククと上から降る小さなエアンの笑い声。
「俺が一緒にいるんだから、怖くはないだろう?」
「うう……でも、」
冷静に考察しながらもモモカの不安を和らげるように言葉交わすエアンに、モモカ自身救われていた。
「(……絶対、離しちゃだめ)」
分からないけれど。
ただ自身が怯えているだけなのかもしれない。けれど確かな温もりを個の一瞬でも見失いたくなくて、霧に抗う楊に抱き着けば笑っていいたエアンに包まれるような感覚。
「ほらこうすれば大丈夫だろ?」
「ひゃっ、にゃあああっ
……!?」
抱きしめられたのだとモモカが自覚した瞬間、熱持つ頬がほの赤く染まり仔猫のように声を漏らす様さえ可愛らしい。
「(
俺の妻はいつでも可愛い……真っ先に俺を頼ってくれてありがとう)」
言葉にしない秘密の言葉はそっとモモカの背を撫で伝えた時、ふと、モモカが息を呑む。
「もも?」
「えあんさん、あの……あれっ!」
エアンの後ろを指差すモモカの指先を視線で辿れば、霧煙る中に見えた小柄な姿が二人分。
「こ、ども……?」
「これが、噂の……まぼろ、し?」
それこそもっと、エアンもモモカも思い描いていた強烈なものではなく想像していなかった待ち人に目を白黒させるばかり。
屈託なく、しかしどこか大人っぽく微笑むブルーのタイ結んだ少年とピンクのリボンのカチューシャを付けた少女に感じる既視感に二人はつい顔を見合わせてしまう。
「……ねぇもも。ももはあの子達……知ってる?」
「え、と……ううん、でも――なんだかね、見たことがあるの」
「そうか、良かった」
モモカの言葉に胸撫でおろしたエアンが困ったように笑いながら“いや、俺も見たことがある気がして”と言ったことにどこかモモカもホッとしてしまったのはモモカだけの秘密。
明確にすぐ名を上げられる子供の知り合いはいないはず。親戚縁者にしては――……何かが、違う気がする。
『ねぇねぇ、あのね』
『あのね、お花……』
少年少女が小さな手を差し出しながら視線合わせて“せーの!”と。
『『お花、ちょうだい!』』
可愛らしい声が混ざり合って求めたのは船に置いたままだった
籠の花をさしているらしい。
一切の悪い気配は無く、ただ純粋に幼い子供達。
「(……悪い気配はない、か)」
「ねぇ、えあんさん……この子達、私とっても懐かしい。それに愛おしくて、胸がきゅうって……」
「なるほど」
胸元を握り締め、じっと幼い二人を見つめるモモカの脳裏を過るのは朝、エアンと二人で“いってきます”とお留守番をさせてきた二匹の仔猫のこと。
思考の海へ耽りかけるモモカに代わってエアンが不思議な幼い二人の幻へ向き直る。
「この花が欲しいの?」
『『うんっ!』』
揃ってこくこくと頷き瞳輝かせる様は、どこかモモカに似ているような。
「いいよ全部あげよう。ね、もも」
「……あっ、うん!もちろん!」
エアンの問いかけにハッとしたモモカが籠を差し出せば二人揃って満面の笑み浮かべ幼い二人がそうっと籠を受け取って微笑み深める傍ら、花籠を渡す為に身を乗り出したモモカへ幼い少年がそっと。
『
』
「……え?」
船が進む。
2人の背中を押す様な、船を押すような風に攫われる。
「もも?」
「え?あ、うん……ちょっと、不思議だなって!」
耳を押さえきょとんとするモモカを見詰めたエアンが心配そうにすれば“大丈夫!”とモモカはいつもの微笑みを浮かべ身振り手振り――……を、しかけてふと何か握っているような感触。
「あっ、これ――」
「ん?あ、俺も――」
モモカの手に弐つの小さなピンクと水色傘が紫のリボンで蝶結び。
エアンの手には大きな黒い蝙蝠傘。広げればきっと大人二人は余裕で入ることが出来るだろう。
まるで未来の“幼い子ら”と“増えた家族”のためのような。
いつかきっと、二人を待つ春風のような未来が驚きも喜びも何もかもを運んでくることだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『ほうき星に願いを』
|
POW : 逢いたい人がいる。
SPD : 叶えたいことがある。
WIZ : 今は、わからない。
|
●ほしに謡う
夜の帳は静かに降り、朱に染まる水平は今濃い紫の美しい色を纏う。
――一番星を見つけたのは誰だったか。
『知ってる?今日ってね、大きな流れ星が見えるって話なの』
なんでも天文学者達が星の周期から計測した結果なのだとか。
それが蒼櫻大社の祭りと被る日が来るなんて、今日の祭りのフィナアレには最高だ!そう語る人々は誰も彼もが幸せそうに微笑みながらも星を待っている――と、君へ“朝の新聞を読んでから、実はみんな今夜を待っていてね!”と話したのはゴンドラの船頭だったかカフェの店員か、街の人々がどこかそわそわ落ち着かないのは祭りのせいだけではなかったのだ。
ひらひらりと舞い踊る桜の中、君は流星に気付くだろうか。それとも星々を見つめ待つだろうか。
ゆらり花が満たすの静謐な川で?まだ少し涼しい風の中、カフェで楽しみながら?それとも賑やかな街の雑踏の中、ふと?――と、そうだ。他に一つだけ静かな丘が街の少し外れにあるのだとか。遠くはなくすぐ行ける距離らしい。
さぁ、百年に一度の箒星に何を祈る?
°˖✧☆✧˖°
☆天体ショーを楽しめる場所は4種類
🌟1:ゴンドラを楽しんだ花満たす川にて船上より
🌟2:紫陽花カフェにてゆったりと
🌟3:何気なく街の散策をしていた折り
🌟4:静謐の白櫻の丘
ゴンドラカフェでの購入品とともに楽しんだり、テイクアウトのドリンクと共にゆったりとした時間をお過ごしいただけます。
誰のために願ってもいい一時をお楽しみください。
🪞(杜環子)☔(藍夜)🎹(ドルデンザ)の三名が、百年に一度の天体ショーを見にそろっと雑踏にいるかもしれません。
もし御用事があればお声かけくださいませ。
夜鳥・藍
そのまま船上にて。
このまま何もしなくても船が流される心配は……なさそうね。
横になれるなら横になって、出来なくともそのまま星を眺めていましょうか。
クレープも食べちゃったし紅茶はすっかりぬるくはなってしまったけれど。
ぼんやりゆらゆらと揺られながら空を眺めて……私には流れ星への願いはもうないのかも。
ううん。あるにはあるのだけれど、でももうじき叶うという予感じみたものがある。
願っても願わなくても時期にその時はやってくる。
私は(過去の)私の故郷に行くことができる、そんな予感。
先程迷い道で出会った人。その方との出会いからそんな予感がするのです。
きっとあの方も昔に縁あった方なのでしょうね。
●花波に微笑む
「(このまま何もしなくても船が流される心配は――……なさそう、ね)」
霧の気配もなくただ通りは賑やかに花の降る一時。
雑踏は近く賑やかだが川辺は少々静かで、狭間に居るような不思議な心地で僅かな波間に夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は揺れていた。
神隠しの折り再会した船頭は心配してくれたが、お互い労りあって天体ショーの前に別れたため今の船には藍一人。
宙へ両手を伸ばし、ぐうっと緊張していた背筋を伸ばす。
「(今日は色々あったわ……)」
賑やかな時間を過ごせたと思ったらまさか霧中で不思議な一時を過ごすなんて。
そして今宵が祭の当日に訪れる百年に一度の星の夜だなんて、なんとも数奇なことだと思わずにはいられない――……そんな心地で空仰ぐように仰向けに寝転んだ。
「クレープ、美味しかったわ」
けれど湯気立っていた紅茶は今やぬるくなり、静かな夜に時折上がる歓声でどこかで流れた星がすぐに分かる。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
「(不思議……)」
喧騒と静寂の狭間の無関心な膠着は存外心地が良い。
「あっ」
すぅっと空流れた星が藍の瞳に映ったのは瞬き程度。けれど――次の瞬間、幾つも大きな星が流れ始める。
「……――ほしが、」
手を伸ばしたら掴めそうな錯覚がしようとも、どうしても藍は祈る気にはなれなかった。ちょっとした勘だが、何となく祈らずとも叶いそうな気がするのだ。
はっきり“何が”とは言えないけれど。
「全ては来るべき時に来る――ねぇ、そういうものなのでしょう?」
来るべき時、在るべきは在るへと成る。
自然の摂理とも言える“流れ”はきっと自分自身にも訪れる。良くも悪くも、きっと。
「(きっと私は私の“過去の故郷”へ行くことができる)」
漠然とした予感めいた気持ちにはどこか裏打ちの様なものがあったし、きっと“霧中の人”はその階だ。
人生、全てのことに意味はあるのだから。
ここに来たのもきっと、運命さ。そう微笑んだ藍の頭上を星がゆく。
大成功
🔵🔵🔵
海藤・ミモザ
🌟1
🎹さんとカフェバー
折角だから赤ワイン!
ドルデンザさんは?
チョコ系おつまみはシェア
二人で愉しむ味は特別で美味しい♪
夜風が気持ちいいー!
空も澄んでて絶好の観測日和だね
彗星って中々見る機会ないから一緒に見られて嬉しい
彗星って見た事ある?
私は、名もなき妖精だった頃を含めたらそれなりにあるかなー
どんな時も、願いを持てるのって良い事だと思うんだ
それって、まだ諦めてない…“生きたい”って事でしょ?
…幽世でもずっと独りで願ってた
ここから出たい、外の世界に行きたい、って
今日願うのは
―あなたとの時間がずっとずっと続きますように
でも、私自身も頑張るけどね!
聞かれたら内容伝え
あなたのは…聞いたら教えてくれる?
●君と紡ぐ星色の糸
「かんぱいっ」
「ええ、乾杯」
微かなグラスのぶつかる音は賑やかなバーの騒めき呑まれても、海藤・ミモザ(millefiori・f34789)の声はドルデンザの耳に届いていたし、低くも心地よいドルデンザの声はミモザにはよく聞こえていた。
「私赤にしたけど、ドルデンザさんは?」
「ふふ、私白で花の蜜漬けを足していただきました」
ミモザはシンプルに赤――薄明かりの中、翳されたドルデンザのグラスを見れば淡く黄味掛かった中に泳ぐ花。
「! それいいな、私次それにしようかなー」
「お味見に一口いかがですか?存外甘くなく爽やかでしたよ」
そうグラス向けて微笑むドルデンザに“いいの?”と問いながら細い指絡めたグラスの足。
くるり軽く円描くように揺らせば踊った煌めきと花につい頬綻ばせながら“二人で愉しむ味は特別だから美味しいの?”なんて想いごと一口飲めば、爽やかな甘さが胸に風を呼ぶ。
「わ、ほんとだ……結構さっぱりめ!じゃあ肴はこれで正解かも?」
「そうですね、大正解でした」
二人で分け合う“ビジュー”の名冠すのは箔や模様で飾った
真白い宝石。
店主曰く花蜜と花のリキュールを抱かせた祭限りの宝石なのだとか。
他にも貴腐酒漬けレーズンと酒で洗い作ったチーズは夜限定のメニューは大人な二人だからこそ楽しめる今宵だけの味。
「今夜は良い夜ですね」
「うん。夜風も気持ちい――……これは“天体観測日和”だね」
本日は百年に一度、蒼櫻大社の祭りと重なる箒星の日。
楽し気に夜空を仰いだミモザの横、ふとドルデンザが呟いた。
「ミモザさん、箒星のご経験は?」
「ん?ふふ、“名もなき妖精”だった頃も含めたらそれなりにあるかなー……ドルデンザさんは“箒星”って見たことある?」
ミモザの答えに“なるほど”と微笑んだドルデンザは、ミモザの問いへ首を横に振る。
「いいえ。こうして猟兵になってからも多少程度で箒星は初めてです」
「そっか、ふふ!初めて……うん、じゃあ願い事も?」
「そうですね……星に願うより、自力で行った方が叶うことが多くて」
“乱暴でしょうか?”と上品に微笑んで見せたドルデンザがグラスを傾けチョコを一口。機嫌良さそうな姿にミモザも柔らかに瞳を伏せ、言葉を紡ぐ。
「――あのね、願いを持てるのって良い事だと思うんだ。それってまだ諦めて無い……“生きたい”ってことでしょ?」
ミモザの言葉に碧い片目を見開いたドルデンザが不思議と幼くて、頬綻ばせながら。
「私ね、幽世でずーっと独りで願ってたの」
ミモザ自身の一時を知っているからこそ、ドルデンザは“何を”とは問わない。
「ここから出たい、外の世界に行きたい――って。で、今日願うのはね?」
グラスはテーブルへ。交差させた二つのあおに心を乗せて。
「――あなたとの時間がずっとずっと続きますように」
驚き見開かれる瞳は想像通り。
「でも!私自身も頑張るけどね!」
貴方と並べるように。並んで良いと自身が自身に胸を張って言えるように。
「まったく、おてんばなお嬢さんだ」
「そう?ねぇ……ドルデンザさんのお願いは?」
強請るようにミモザが小首傾げてみれば、耳元へそっとドルデンザが一言。
「 」
「 、へ?!も、もう!」
慌ててミモザが耳抑えドルデンザを見れば隻眼を弓形に、まるで仕返しに成功した顔で。
「ああそうだ、私は酒を育てるのが好きでしてね?」
ふ、ろ綻んだ顔に見えた経験と艶に小さくミモザが唸れば周囲が空仰ぎ上がる歓声。
肩に手を添えくるり回転椅子ごと回され仰いだ宙映す海色が、宝石の如く煌めいた。
大成功
🔵🔵🔵
ウィリアム・バークリー
オリビア(f28150)と
🌟1
ここまでゴンドラで過ごしてきたんだ。一日の締めくくりもゴンドラで過ごそう。
寒くないかい、オリビア? 運河の上は冷たい風が吹く。身体を冷やさないようにね。
見上げれば、星々の間をよぎっていく流れ星。尾を引いて飛ぶあの星に、“
聖願”たるぼくが願うとしたら一つだけ。
頭に霜をいただくまで、オリビアとずっと共に。
オリビアは何を願ったのかな?
ゴンドリエーレさん、今日は一日ありがとうございました。せめてものお礼です。
花ではない硬貨をチップとして少し多めに手渡し。
さあ、明日からはまた忙しい毎日だ。今日の思い出を胸に抱いて、頑張って一緒に立ち向かっていこう。
オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】
🌟1
静かに楽しむならこのままゴンドラで眺めるのもいいですね。
ウィリアム様と一緒に寒さに気をつけて空を見上げます。
「これがお祭りの締めくくりですね、とても印象に残る星空です」
星空を眺めつつ願うのはウィリアム様とこれからも一緒に歩める事を願うばかりです。
もちろん猟兵で大変かもしれませんが幸福に満ちる事が望ましいですし。
「今日1日素敵なお祭りをありがとうございます」
天体ショーが終われば1日お世話になったゴンドラの船頭様に御礼を言いつつ降りましょう。
明日からも精一杯お仕えしますので一緒に頑張りましょう
●この
願いは天高く
沈みきった
陽光の名残りも徐々に冷めてゆく中、花浮かぶ運河を滑る風がにわかに冷えてくる頃。
一日のほとんどをゴンドラで過ごしたなら、せっかくだから今日の締めも勿論ゴンドラにしようかと微笑み合った二人は休憩を挟み再び船に揺られていた。
眩くも美しい日が沈みきれば、やはりまだ本格的な夏前。運が滑る空気が冷え出した頃、そっとウィリアム・バークリー(“
聖願”/氷聖・f01788)はオリビア・ドースティン(ウィリアム様専属メイド・f28150)へと身を寄せ、そっと尋ねる。
「寒くはないかい、オリビア?」
「ありがとうございます、ウィリアム様。見てください、箒星前ですが空が綺麗です」
細い腕を伸ばし瞳細めるオリビアの視線辿って空を仰げば、ウィリアムの瞳に飛び込む煌めきは人工電灯の少ないサクラミラージュだからこそ、何よりも星々の姿を美しく見せていた。
「本当だ。すごい、もう流れ星も始まっているね」
「そうですね。これがお祭の締めくくり……とても印象に残る星空です」
尾を引く流星の軌跡は勿論瞬き程度だけれど美しく、何より互いが二人で共に眺めているという事実に幸運を噛みしめてしまう。
――事実、二人は猟兵。猟兵というものは日々忙しく、思えばこうして心落ち着け過ごす時間というのはそう多くないかもしれない。
穏かな、それこそ“何もせず二人で在るだけ”というのは想像よりも幸福で贅沢なのだろうか?
そんなオリビアの気づきの傍らでウィリアムは流れゆく星々に“
聖願”として――願うことはたった一つ。
「
、
」
「……
」
繋いだ手は固く、祈りは心に秘めたとて互いにどこか分かってはいるのだけれど。
未だ流れゆく星々は美しく、空多いそうなその様子に上がる歓声の喧騒は運河にいるせいかどこか遠くて。
――そうして星が流れきり天体ショーが済んで暫し。ふと、ウィリアムがオリビアと視線を合わせそうっと綺麗なハンカチに包んだのは華幣ではなく硬貨のチップ。
「ゴンドリエーレさん、今日はありがとうございました。せめても、お礼を」
『いや、そんな――』
「今日一日、素敵なお祭りをありがとうございました」
ウィリアムの言葉を後押しするようにオリビアが微笑めば、照れくさそうに頭を掻いたゴンドリエーレが帽子を取ると深々と礼をした。
『こちらこそ、君達のお役に立てたら何よりだよ。どうか素敵な花と星の加護が君達にもありますように』
優しい祈りを受け取って、ついウィリアムもオリビアもくすくすと笑う姿は少年少女のよう。
ランプに火燈して渡すと“帰り道は気を付けて!”と優しい笑顔に送り出された二人は、ただ大切なもののように互いの手を繋で帰路へと付いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
◎
《それでお姉ちゃん?》
不可抗力という言葉をご存知?
《みきまだ何も言っ――……うん、分かる。仕方ないなぁ。
みきが同じ立場でもお姉ちゃんと同じことしたと思うから……》
でしょう?
ほら、⭐️4につきましたわよ。
ここなら、きっと静かに星を。
《みきはお星さまも好きなの!
空には注目していてねお姉ちゃん、大きな流れ星とか見えたらお願いごとするんだから》
全く美希ったら…叶うといいわね。
願いとは自分の力で、この手で叶えるもの。
態々星に任せるまでもありませんのに……
《ほら見てお姉ちゃん、お星さま!
いっぱいの箒星!》
話を聞きなさいと……
《箒星に理想の願いを乗せたら、きっと叶えてくれるかな?
これからもお姉ちゃんと、ずーっと一緒に暮らせますように!》
美希………
《ほらほらお姉ちゃんもお願いごとしよう?》
……仕方ないわね。
でも、お願い事は美希にも内緒よ。
《えー!?
教えてくれたっていいと思うんだけどー!》
……うふふふっ……。
(…流れ星に乗せるまでも無いのだけど。
美希には私の分までずっと幸せになっていて欲しい
なんて。)
●二人で“ひとり”
日も暮れ、空に燈る星々は
スタジアムライト眩い故郷よりもよく見えた。
「(――それで、お姉ちゃん?)」
ラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)にとってはよく聞き慣れた声が脳裏で通る。
「……美希、“不可抗力”という言葉をご存じかしら?」
「(ちょっと!みきまだ何も言って……うん、まぁ、分かる……けど。あぁもうっ仕方ないなぁ!)」
“みきがもし同じ立場なら、きっと”そう思うからこそ、美希はあえてシエルに詰め寄らない。はっきり言えば恐らく“相手が悪かった”としか言いようが無いからだ。
神に仏に影朧――不思議なもの犇めくサクラミラージュという世界はフィールド違いに他ならない。
「ふふ、でしょう?ほら着きましたわよ」
仰ぎ見た白櫻の大樹に、ほうっと息を溢す。
どうしてが胸のすくような清廉な空気が心地良く、街中も悪くはなかったが、より洗われるような清々しさに深呼吸。
「(お星様、ここならもーっとよく見えそう!ね、ね、お姉ちゃん!)」
「なぁに、美希」
根本にそっと腰掛けた
ラップトップを急かすように呼ぶのは美希だけ。
つい緩んでしまうままに問えば――それこそ“
隣に居たら”きっと静かな夜はもっと賑やかだったかもしれないけれど、それはそれ。
「(お姉ちゃんっ!ちゃんとお空見ててね!おーっきな流れ星見えたらお願い事するんだから!)」
「全く美希ったら……」
身振り手振りが大きくて、笑顔が絶えなくて。
それで――お揃いのルビー色の髪も、琥珀色の瞳もお互いの方が綺麗と羨んだ年頃の時間もあった。同じなのにどうしてこうも違って見えるの?なんて――……なんて、そう、面と向かって今となってはくだらない喧嘩をしたことだって、あった。
シエルはお姉ちゃんだから、いつでも美希の願いが叶うことを祈ってる。仰いだ空を潤ませてはきっと怒られる。逸らしてしまえば“ちゃんと見て!”と膨れられてしまう。
叶うと良いわね――そう思う傍ら、シエルの願いは自分の力で叶えると決めている。何より、シエルにとって願いとはわざわざ星々に
願うものではないのだから。
「(……あっ!ほらねぇ、見てお姉ちゃん!あそこ!ほら!お星様!)」
「あら」
視界の上方らしい方を示す裡の美希に従って視線を向ければ宙奔る星。
一つの星を皮切りにいくつもいくつも流れてゆく様はやはり美しく、それこそ夢や魔法のようにも映る。
お姉ちゃんの話を聞きなさい、なんて言葉も吹き飛んでしまうよう圧倒的な光景にはしゃぐ美希と息を呑んだシエルはおそらく、知る者が見ればとても“姉妹”だったことだろう。
“これは
理想の願い”
“きっときっと、”
「――これからも、お姉ちゃんとずーっと一緒に暮らせますように!」
ラップトップの声に出た、願い。
美希でありシエルである肉体ゆえだが、思わず口を押えかけたシエルは咄嗟にその手を自身で止めていた。
美希がどこか半信半疑な顔で祈っていることを知ったから。
もう夢なんて見ないとばかり思っていた。夢や希望を持つことはあっても、“
遠き理想”を描く年頃なんて疾うに終わったとばかり。
「(よーしっと!ほらほら、お姉ちゃんもお願いごとしよ?)」
「……仕方ないわね」
無邪気なあなたが傷付けられない世界を見たい。
優しいあなたが泣く必要のない世界が見たい。
大切なあなたが――どうか、
「
」
音にはしない。
心でも言わない。
「(……?お姉ちゃん、何のお願いしたの?)」
「だめ。私のお願い事は美希にも内緒よ」
微笑みウインクをした姉を見たのは久しぶりだったけれど、シエルの言葉を理解した瞬間、美希が目を見開いて身振り手振りを大きく抗議する。
「えー!?教えてくれたって良いと思うんだけどー!だってお姉ちゃん私のお願い事聞いたよね?!ね!」
「あーら、聞いてないわよ?」
“うそつきー!”なんて可愛らしい抗議にそっぽを向いてしまえば、シエルにとっては
流れ星に乗せるまでもない願いを
確認だけだ。
ただ、それだけ。
街灯が伸ばした
二人の影が花びらに塗れ、静かに夜へ溶ける。
大成功
🔵🔵🔵
藤・美雨
◎
深(f30169)と
🌟4
あー、楽しかった
不思議体験もこういうのなら悪くないよねぇ
と、まとめ気分に入ってたけどフィナーレはここからだったね
それじゃ、行こ
深の手を取って丘へ向かう
どうせなら誰もいないところがいいな
だって深と二人きりがいい
綺麗な星空を二人占めするんだ
あとはただ、ひたすら星を眺めていよう
流れ星きれいだねぇ
深はさ、何か願い事ある?
ぽつぽつ語る深の願い事が愛しい
私に叶えられるものがあるなら手伝いたいな
ふふ、なんでも言っておくれ
ん?私の願い事?
そりゃ可愛い服が欲しいとか美味しいものが食べたいとか
今日みたいに楽しいことももっとしたい
強くなりたいって気持ちもあるなぁ
守りたいものを守れるようにね
私はどこまでも欲張りなのさ
……一番はね、やっぱり深と一緒にいたい
深の隣にずーっといたい
これからも、私を深の隣に置いてくれるかい?
……うん、ありがと
勢い余って抱きついちゃったりするけど変な意味はないよ、ないから!
でも深とくっついてると幸せなのは本当
ずっと深の心臓の音、私に聞かせておくれ
呉・深
◎
美雨(f29345)と
🌟4
お互い無事で何よりだ
けど帰るのはまだだぞ、ほら
美雨に手を取られたらされるがままに
丘か、うん
悪くない
確かに今日一日、なかなか騒がしかったしな
二人占めか
そういうのもきっと悪くない……むしろなんだか、嬉しい
流星の美しさには圧倒されるな
ん?願い事?
そうだなぁ……
他の世界の綺麗な場所にも行ってみたいな
可愛い生き物にももっと出会ってみたい
あとは、本
色んな世界の色んな本を
美雨は?
彼女らしい願いの数々は聞いていて楽しいが
あまり無茶はするなよ
……俺も強くならないとな
美雨を守れるように
お前の怪我を治すのは俺の仕事だから
美雨の一番の願いを聞けば、心臓が大きく鳴った気がした
……それは俺も同じだ
俺も美雨の隣にいて構わないか?
放っておけないのもあるが、俺がここにいたいんだ
っと、うわ!?
勢い余りすぎだろ……
避けたりはせず受け止めるが
けどこちらこそありがとう
こういうスキンシップもたぶん、悪くないものだ
……幸せ、なのかな
渦巻く気持ちに向き合うのはまだ少し怖いが
今はそのまま受け取っておこう
●彗星の頌歌
この胸の高鳴りを何と言うべきなのかなんて、“
あの時” 藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)には説明が付かなかった。
「(だって――……だって私は“
ドキドキしない”はずなのに)」
嬉しいとワクワク胸が躍る――ような気のせい。
悲しいとぎゅーっと胸が苦しい――ような錯覚。
辛くても“いたくない”から――ちゃんと、わらえる。
苦しくても“いたくない”から――辛いのと一緒。
「(あぁ)」
“私だけ”ならいつでも平気なのに。
でも、友達が絡んだ時は?ううん、きっと呉・深(星星之火・f30169)と比べればきっと――……なんて。なんてそんな葛藤はきっと今は良くて。
迫る流れ星をどうしたって深と見たい。深と、二人だけで見たい。
・
・
・
「あー、楽しかった!不思議な体験もこういうのなら悪くないよねぇ」
鼻歌を歌いながら深の手を引く美雨がご機嫌に口にするのは先程の神隠しのこと。
後に魔法のように現れたゴンドリエーレに慌てて心配をされたけれど、どうやらあの時ゴンドリエーレも自身だけ船に取り残され大いに慌てたそうだ。猟兵の神隠しだなんて!と慌てながらも噂を信じ船に戻ったところ、深と美雨が神隠しよりも無事に戻ってきてよかった!と泣き出したのだ。
どこもおかしくはなく、花籠が消え傘を持って現れた二人を心配しつつも送り出してくれたゴンドリエーレと別れて暫しした、今。
街は来たる箒星を今か今かと誰もが待っていた。
「お互い無事で何よりだ。けど帰るのはまだまだだぞ?」
「ふふ、フィナーレはこれからだったね。それじゃ、行こ!」
軽やかな美雨の一歩はいつもと変わらない。
その姿にどこかホッとしながら、深は美雨が街の中心へ向かわないことをすぐに察していた。
「丘か」
「うん!」
「うん、悪くないな」
“でしょー!”と深の手を引きながら振り返り微笑む美雨と共に歩いて、少し建物が少なくなったところに丘はあった。
小さな丘の頂上には幹太い樹齢は恐らく百は越える白櫻が二人を出迎え、喧騒から少し離れただけとは思えぬ清廉な場に、気付けば二人は深呼吸をしていて。
「(綺麗……うん、やっぱり丘にして良かった。だって、どうせなら誰もいないとこが良かったもん。深と二人きりがいい)」
清廉な場所で二人、体をほぐすように伸びをして何気なくぶつかった視線で、無意識にお互いを見てしまったのだと知ってしまう。
「ねぇ深、こんなに静かだと綺麗な星空二人占め……って感じしないかい?」
「あぁ。確かに今日一日、なかなか騒がしかったしな。二人占めか……そういうのもきっと、悪くはない。いや――寧ろ、」
“嬉しい”その一言を深が言おうとしながら深が木の根元に腰掛け空を仰いだ時、丁度星が一つ空を奔る。
「「あ」」
「見ろ美雨、座ると丁度いいようだ」
「うん!」
深の隣に美雨も腰掛け揃って空を見上げればまた、一つ、二つ。
箒星の先駆けのように降り始めた星々の流れる様は魔法のようで、どこか非現実的にも感じられるほど不思議で美しい。
「流れ星、きれいだねぇ」
「あぁ。圧倒されそうだ」
いくつもいくつも、徐々に数を増やしゆく流れ星を横目に、思い出したかのように美雨が小首を傾げて深に問うのは流れ星と言えば“おまじない”。
「深はさ、何か願い事ある?」
「ん?願い事?そうだなぁ……他の世界の規制な場所にも行ってみたいな。それに可愛い生き物にももっと出逢ってみたい」
「ふふ、いいね。私に手伝えそうなことはなんでも言っておくれ」
「そうだな、それに――……」
様々世界を渡り歩いたからこそ尚強く、深は思う。先人の言葉通り“世界は不思議に満ちている”うえ、その世界は日々開拓され数を増している。つまりは数多の不思議がもう数え切れぬほどあるということに他ならず、それを楽しまずして何というのか――……!
そんな夢を空仰ぎ語る深の横顔を見つめ、美雨の口角は自然と上がっていた。
「(……うん、深の願い事は愛おしいな)」
胸に広がる温もりが、エンジンが思い切り稼働しているわけでもないのにじんわりと美雨の体を温め始める。
「あぁ、あとは本。色んな世界のいろんな本を――……美雨は?」
「ん?私の願い事?」
テンポよく喋っていた深が言葉を止めると、じっと美雨を見つめ呟けば、美雨が瞳見開いたのも一瞬。んーっと、と前置き微笑んで先程の深のように空を仰ぎながら。
「そりゃ――……可愛い服が欲しいとか、美味しいものが食べたいとか、」
「あぁ」
「あーとーはー、今日みたいに楽しいことをもーっとしたいし、」
相槌を打つ深を強い色の瞳でじっと見て、美雨は言う。
「強くなりたい」
「あまり無茶をするなよ」
間髪入れず帰って来た深の答えに、大きく瞳開いた美雨が数度瞬きののち笑い出していた。
「私のは欲張りなお願いだろう?」
「何を言っている、当たり前だ。美雨、お前が強くなりたいのなら俺も強くならないとな。美雨を守れるように」
深の“当たり前”。
それは美雨の“こころ”を温めるには十分で、ふと美雨は気付く。沢山の人を、世界を見る中で理解した“しあわせ”……きっと今胸で宇付く感情はそれなのだ、と。
僵尸の体は修理が利くのに守ってくれるだなんて!
星の雨が降る中、こみ上げる喜びを表情に出したままな美雨に、より雰囲気を和らげた深がつられたようにクツクツ微笑み浮かべてそうっと呟いた。
「お前を治すのは俺の仕事だろう?」
「うん、ふふ……深だけのね!――でも本当はもっと、ううん一番の願い事っていうのがある」
「――一番?」
少女らしい願いよりも、強くなりたいことよりも……もっともっと、美雨にとって大切なこと。
“あのね”と密やかに囁く願いに耳を寄せて。
「やっぱり、深と一緒にいたい。深の隣でずーっといたい」
「 、」
切に呟く美雨の言葉を聞いた瞬間、深の心臓機構が大きく脈打った気がした。呼んだつもりの名前が呼べない。
そろりと照れたように“一番の願い”を口にする美雨に、美雨の声で口にされた言葉が、まるで深の心臓機構でも撃ち抜いたかのように。
「(そんなこと……)」
深に迷う必要なんてなかった。
先程口にしていた願いは全て“一緒に”と思いながら、脳裏で描いていたものだから。
「それは俺も同じだ。なぁ、美雨……俺も美雨の隣にいても構わないか?」
「――うんっ!うん、うんっ、“当たり前”だろう?これからも深の隣に私を置いておくれ!」
「あぁ――っと、うわ!?」
至近距離で聞いた願いの答えを思っていた以上に受け取ってしまえば峰を満たす溢れそうなほどの“しあわせ”が美雨を突き動かし、気付けば美雨は深を強く抱きしめていた。
「ありがと、深……それと、えへへ勢いがね、余ってしまったよ」
「まったく、勢い余り過ぎだろう……」
避けるはずも無く受け止める深の諫めるような言葉も美雨には愛おしいくて仕方がないし、耳に届く深の鼓動をゆっくりと聞くのは、どんな子守唄よりも心地が良い。
そして、受け止めた深もまた“こういうスキンシップも悪くはないか、”とただ穏かな気持であった。
「ねぇ、深」
「どうした」
「……深の心臓の音、ずっと私に聞かせておくれ」
答えを聞いたのは美雨だけ。
流れゆく星々の光は、白櫻の膝元でただ幸せな二人の上を数多の願いを乗せて流れてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵