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想いを伝えたかった君へ

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●君よ、愛を語らえ
「さあ、あんたたち、仕事の時間よ」

 ホワイトボードのひとつを占拠し、チェイザレッザ・ラローシャ(落霞紅・f14029)は片手に水性ペン、片手に資料原本を持ち、背筋を正して猟兵達へと向き直った。
 コピーした資料を鯨型UDCに配らせ、準備が整えば説明開始。

「アルダワの迷宮はご存知?まー知ってるわよね。あそこに今、学生たちに人気のダンジョンがあるのよ」

 きゅっ、と四角を3つ。フリーハンドながらそこそこ正確に描いて見せると一つ一つに耳の絵を描く。どうやら今回向かうダンジョンを簡略化して描いているようだ。
 部屋にはそれぞれひとつずつ耳の石像と扉が入り口とその向かいに計二個。
 入り口は施錠されていないが、向かいの扉は特定条件を満たさなければ開かないという、ダンジョンにはよくあるタイプの部屋だ。

「正式名称『愉悦を喜ぶ耳の間』……攻略難易度は★(ベリーイージー)。同一のダンジョンも何件か出現してるって聞いてるけど、今回向かってもらう部屋は『愛するものへの本気の気持ち』を語らないと次の部屋への扉が開かないのよ」

 もの、は人じゃなくてもいいとは言うが、学生達による利用例の殆どは恋愛関係のあれこれだ。
 好きな人への気持ちを整理するために敢えて籠って語り続ける、告白が本物であることを証明するために想い人を連れて入るなど、特にバレンタインデーには多くの学生達がこの部屋を訪れたのだという。
 それにより、この先に起こる危険が判明してしまった。

「それがさ、ゴールインしたカップル数組がそのまま先の部屋に行ったんだけど、軽い怪我して帰ってきちゃったのよ。突然部屋の家具がすっ飛んできたんですって」

 きゅきゅきゅ。複数の四角を描いて、そこと耳の間の間に通路らしきめちゃくちゃな線を追加する。
 普段、耳の間の先には複雑な通路と、いくつかの部屋が待ち受けているのだという。ダンジョンに住み着いて研究をしていた魔術師の小部屋であると噂されてはいるのだが、真実は不明。危険度はなく、先に進む通路も見当たらない。
 その為、いつもはちょっといい雰囲気になりたいカップル達が愛を囁き合う場として使っているらしいのだが、現在は安全のために出入りを禁止して貰っている。

「そこで、あんた達の出番よ。『耳の間』を抜けて、その先にある小部屋の異変を調査、可能な限り解決してちょうだい」

 予知では詳しく見えなかったが、場合によっては戦闘も考えられる。武装の準備は忘れないように、と付け加えるとチェイザレッザは空中に承認印型グリモアを押印。
 アルダワ魔法学園への通行が認められ、空間に異なる世界の景色が歪んで現れた。
 後は潜り抜けるだけ、というところで黒髪のダンピールは「あっ、そうそう!」と手を打ち、

「耳の間なんだけど入る部屋によって語り口の好みが変わるらしいわよ。ダメ出し食らう幻聴まで聞こえてくるみたいだから、納得させるまでとことん語ってね!」

 あとはよろしくぅ!と笑みを浮かべた。


日照
 ごきげんよう。日照です。
 五作目は楽しく元気に、時に切なく、時に激しくを目指していきます。

●シナリオの流れ
 一章では『耳の間』にて愛を語っていただきます。OPにもあるように人でなくとも愛用の品、動物などへの愛を語っていただいても問題ございません。
 また各部屋には謎の幻聴、通称『耳の魔さんの囁き』と呼ばれる現象が発生しています。
 合格判定とアドバイスを行い、先の部屋に進みやすくするシステムですので、皆様の邪魔はいたしません。
 余程の事がない限り全員がクリアできます。
 二章では先の部屋にてポルターガイスト達と戦っていただきます。何組かに別れて別個の部屋を攻略していただくこととなります。
 三章では更に奥の部屋にてボスバトルとなります。ボスの正体は予知の時点では不明です。
 ポルターガイストを倒すことで自動的に先の部屋へ進み、正体が発覚します。

●特殊事項
 今回、第一章はあわせの指定がない限りはお一人様にて描写致します。
「嫌だ!あいつにだけは聞かれたくない!」という内容も安心安定完全防音により外部に漏れることはございません。
 ただし報告書(リプレイ)を読まれればバレるかと思いますのでそこはご容赦ください。

●あわせプレイングについて
 ご検討の場合は迷子防止のため、お手数ではございますが【グループ名】か(お相手様のID)を明記くださいますようお願い申し上げます。

 では、良き猟兵ライフを。
 皆様のプレイング、お待ちしております!
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第1章 冒険 『愉悦を喜ぶ耳の間』

POW   :    ソウルフルに熱意を込め歌い話す。

SPD   :    論理的に、もしくはテクニカルに歌唱し述べる。

WIZ   :    情感豊かに歌い上げ、色褪せぬ思い出の如く語る。

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●耳の魔の囁き
 召集された猟兵達は学生食堂に向かうグリモア猟兵と別れ、ダンジョンに向かう。
 指定された場所には3つの扉があり、それぞれの扉には『情熱』『簡潔』『詩的』と書かれていた。
 学生達から集めた情報によると、入った部屋により聴こえてくる声は異なっており、声の好みに合わせねば扉は開かないという。
 その好みというのが扉に書かれたこれらだ。

『情熱』━━対象への想いを熱く、激しく、高らかに語ることで扉が開く。なお幻聴はややおネエっぽいらしい。
『簡潔』━━大切な言葉を的確に選び、わかりやすく語ることで扉が開く。なお幻聴は気だるげな女性っぽいらしい。
『詩的』━━センスが求められるが、感情込めてそれっぽい感じに語れば扉が開く。なお幻聴は夢見がちな少女っぽいらしい。

  また、学生によれば多少ダメ出しはされるものの、アドバイスに従って根気よく語れば大体扉は開くのだという。
 己に見合う部屋へと入れば、部屋自体が攻略を手伝ってくれるのだ。
 耳の魔の正体は不明だが、助けてくれるのならありがたい。猟兵達は語るべき愛を胸に、それぞれの部屋への扉を開いた。
セルヴィ・アウレアム
「耳の間、なぁ。他人のコイバナを聞きたがるなんて、珍妙卦体なモンもあったもんやねぇ。」
「まま、ええやろ。ウチの思い、とくと聞いてみぃ。」

●行動【POW:ソウルフルに思いを込め歌い話す】
「ウチのいちばん大切な相手はお金。当然よなぁ?」
「お金っちゅうのは万能のツールや。作り出され、価値を見出されたときから、人が常に拠り所とし、崇拝する。いわば宗教とも言えんな。」
「無論お金で買えんもんもある。当然や。しかし、お金があれば人の生活を豊かにする。人の心を豊かにする。」
「だからこそ、心のこもったお金というモンを、ウチは心から愛しとる。」
…これでええな?と八重歯をキラリと光らせ、腕を組み、部屋の答えを待つ。



●挑戦者一人目:天下の回りもの
「耳の間、なぁ。他人のコイバナを聞きたがるなんて、 珍妙卦体なモンもあったもんやねぇ」

 セルヴィ・アウレアム(『迷宮喰らい』セルヴィ・f14344)は三つの扉の前で腕を組んだ。アルダワの広大な迷宮を探索するために作られた人形少女からすれば、この部屋はやや物足りない内容なのかもしれない。
 が、だからといって素通りする事などできるわけがない。愛を語らなければ通れないというのなら、己が持つ愛を示してやればいいだけの話だ。セルヴィは大きなリュックを背負い直して扉を押した。
 選んだのは、情熱の扉。
 入った途端、入口の扉が勢いよく閉まる。もしや閉じ込められたか?と思い調べてみたがそうではなく、出ようと思えばいつでも出られるようだった。部屋の構造は事前情報通り、入口と正面の扉、そして耳の形の石像。土台には『アナタの熱い愛を語りなさい』と刻まれている。セルヴィは胸を張って語り始めた。

「ウチのいちばん大切な相手はお金。当然よなぁ?」

 金。即ち通貨。人の世の発展と共に作られたそれらがセルヴィの愛するものであった。親指と人差し指で丸を作りながら、セルヴィは耳の石像へと語る。

「お金っちゅうのは万能のツールや。 作り出され、価値を見出されたときから、人が常に拠り所とし、崇拝する。いわば宗教とも言えんな。今の世の中、お金なしに生きていける人は早々おらん。心が弱ったときに神様が必要なように、お金は誰の懐にも必要な物なんや」

 一呼吸し。

「無論お金で買えんもんもある。当然や、価値ってもんは数字になるもんだけにあるとは限らへん。しかし、しかしや、お金があれば人の生活を豊かにする。人の心を豊かにする」

――だからこそ、心のこもったお金というモンを、ウチは心から愛しとる。
 セルヴィは八重歯を光らせ、腕を組む。己の愛はこの耳の望む「本気の愛」に相応するものであるとセルヴィは確信していた。故に自信満々、扉の解錠音を待つ……のだが、開かない。
 は、なんでや。と扉に近付こうとしたその時、突然頭がぐらりと揺れた。

『――めよ』
「ん?」

 幻聴、噂に聞いた『耳の魔さんの囁き』というものなのだろう。男なのか女なのかもわからない奇妙な声色はそっと、セルヴィの耳に囁き――

『ダメよダメ!!アナタが愛している理由はわかったワ!でもダメ!!それだけだと足りないのよ!ええ足りないわ!』

 かけない。寧ろ叫んでいる。
 あまりのやかましさに両手で耳を塞いだが声量は変わらない。直接脳に語り掛けてくるタイプのあれこれなのか?と疑問に思いつつもセルヴィは声に堂々言い返す。

「は、はぁ!?足りんって何がなん!ウチの愛が足りんはずないやろ!」
『ええ、アナタの言葉は素敵だワ。言葉だけなら十分に足りているでしょう……でも!あの言葉だけでお金へアナタの愛が届くと思うノ?いいえ!まだ足りないわ情熱(パッション)が!!もっと!!もっと熱を籠められるはずでしょ!!ほら!!もっと力強く!!燃えるように!!!』

 耳の魔さんからすれば、どうやらセルヴィの愛は理性的だった模様。語る言葉から愛は感じれども、熱意不足。故に、最後の一押しとして熱い愛の言葉をと要求してきた。あと一言といえ、先程語り尽くしたセルヴィはやや戸惑い気味だ。

「え、えーっと……お、お金の事、す、好きよ?」
『ニュアンスはイイワ、でもダメヨ!もっと大きな声で!!』
「お、お金のこと、好きやで!」
『ああンもっと!!もっと激しく!!』
「あーもう!!!ウチは!!!お金が!!!めっちゃ好きやねん!!!!」

 半ばやけくそで叫んだその言葉。ぜぇぜぇと荒く息を吐き、これでどうだと扉を睨む。耳の魔の反応がない。まだか、まだ足りないというのか!と声を張りだそうとした瞬間だ。

『――最高(エクセレント)……!!』

 ガチャン。
 鍵の開く音が聞こえた後に扉がゆっくりと開いた。満足したのか扉が開いてからは脳に響く変な声は止まり、静寂のみが部屋に残る。
 叫び疲れながらも勝利と愛を証明したセルヴィは、大きく息を吐きながら奥の通路へと進んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
『簡潔』の扉を選ぶ
石像に向かい語れば良いのか、虚空に向ければ良いのか
小さく首を傾げた後は常と変わらずふらりゆらり進み出て

「笑顔が見たい

悲しみ苦しみを和らげてその瞬間を引き出せた時
元の笑顔をもっと輝かせられた時
喜び、感動、或は驚きに綻ぶ時
「どんな賛辞より、笑顔ひとつが嬉しい
それが可能であると知っているし、この先もそうでありたい

「オレは、オレの作る料理を愛してる

至って大真面目に――言ったものの、暫しの沈黙の後
やはり自惚れが過ぎたかとつい遠くを見る
情熱の方にでも行った方が良かったかなぁ
ま、アドバイスも結構楽しみにしてンだよネ
オレお話するのは大好きだし
お気に召すまで、存分に語らいましょ?



●挑戦者二人目:口に運ぶ幸せ
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)が入ったのは『簡潔』の扉。コノハは知らない事ではあるが、室内の構造は情熱の間と全く同じ。唯一異なるのは石像の台座に書かれている言葉が『わかりやすーく愛をはなして』になっているくらいだ。
 さて、何処に向かって話せばいいのやら。石像か、閉ざされたままの扉か、あるいは虚空か。いずれにしても声が届けばいいことか、と一歩前へと歩み出れば、コノハは己の想いを語り始めた。

「笑顔が見たい」

 まず一番の欲求を口にする。
 それは、愛すべきそれの結果により生み出される対価。コノハは己の手で生み出すそれによって、この欲求を満たせると知っていた。

「悲しみ苦しみを和らげてその瞬間を引き出せた時、元の笑顔をもっと輝かせられた時、喜び、感動、或いは驚きに綻ぶ時……どんな賛辞より、笑顔ひとつが嬉しい」

 大真面目に語る薄氷の眼差しが正面の扉へと向けられ、愛すべきその名を告げた。

「オレは、オレの作る料理を愛してる」

 料理。それも、自らの手料理。
 彼の手で生み出されるそれらには潤沢な愛が注がれているのだろう。口に運べばそれだけで口内を満たす味わい。舌先から、食感から、調理されることによって変化の生まれた食材たちが食べたその人を幸福へと導いていく。その瞬間の笑顔とは何とも素晴らしいものだろう。コノハは故に、己の料理を愛した。
 長い沈黙が続く。あまりに反応がないものだから自惚れ過ぎただろうかだとか、情熱の方にでも行った方が良かったかなぁなどと頭を掻いて視線を泳がせていたら、頭がぐらりと揺れて声が響く。
 この『簡潔』の間の耳の魔さんはどんな評価を下すのか……アドバイスがあるならどんなものかと期待しながら目を閉じれば、

『ん~~~、ごぉかくじゃないかなぁ』

 すごいゆるっゆるな声が脳内に響いてきた。語った内容との落差に気が抜ける。
 そのうえ合格だと言ってきているのに扉は開かないのだがこれはなんでだろうか、と頭を捻るコノハに、耳の魔さんはゆるゆると語り掛けてくる。

『んとねぇ、むつかしーコトバも少なかったしぃ、ウチにもわかりやすかったよぉ。おリョーリいいねぇ。手作りのおリョーリって、しあわせいっぱいだよねぇ。おいしく作れると余計にぃ。笑顔が見たいってのもわかるわかるぅ。おいしいときの笑顔いいよねぇ。こう、にぱーってするやつ。うん、ウチもわかるよぉ』

 そもそも幻聴が料理などするのだろうかという突っ込みはさておき、コノハの愛へと同意を示してくる耳の魔さん。が、

『でもぉ、見たいのってダレの笑顔?』

 緩いながらに、突くべき疑問は突いてくる。

『きっとねぇ、おリョーリよりねぇ、ダレかの笑顔のがすきなんだと思うよぉ。でもぉ、みんなっていうよりはぁ、ダレかのを望んじゃってると思うんだよねぇ。どーでもいいヒトの笑顔は、どーでもいい程度にうれしいだろうしぃ』

 そうだ、料理を愛すと言いながらも、まず望んだのは他者の笑顔だ。料理というツールを用いて、笑顔を引き出す。それを思えば確かに料理も愛してはいるのだが、真に求めているものは異なって来るのではないか?
 コノハは疑問への答えを脳内で探す。惑いながらもその答えを見つけ出そうと口を開こうとして、

「オレは……」
『んにゃ、いっかー。その辺ウチは気にしなーい。ホンキは伝わったしごーかくごーかくぅ』

 ガチャン。
 あっさりと鍵が開いてしまった。本当にこれでいいものなのか?と悩みつつも開いた扉に触れて、奥を覗き込む。分かれ道はなさそうだが、先の部屋に行くまでは時間がかかりそうだ。ずっと一本道ならばいいんだが、と部屋を出ようとした時だ。

『ダレのか知りたくなったらまた挑戦してねー、がんばー』

 能天気に、しかし彼の背を後押しするように、耳の魔さんの声が響いて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鮫島・冴香
■前提
…愛を、語る?
ちょっと待って、私以外の人にあたって頂戴。
私の柄じゃないわ
※別人格であり夫の『鮫島栄太郎』の人格に変わり
『…なんで、僕?』
苦笑しつつ
『えぇと、じゃあ…【簡潔】の扉にしようかな』

■語
僕の妻の…この姿の女性の話をしよう。
僕と彼女は、仕事の上司と部下の間柄だった。
一回り以上も年の離れた彼女。
まさか恋愛関係になるとは思っていなかった。

意外にも、アプローチしてくれたのは冴香の方からだった。
そんな目で見てはいけない、と思っていたけれど…
押し負けたよね(苦笑)

でも、こうして死んだ僕を呼びよせる程に
彼女は愛してくれているんだ、と実感しているよ

…こんな話で、どうだろう?

※アドリブ大歓迎です!



●挑戦者三人目:永久に共に歩む人
 鮫島・冴香(Sexy Sniper・f13873)は扉の前で深く息を吐く。

「私の柄じゃないわ、他をあたって頂戴」

 こういうことは自分には向いていない、と愚痴る女は髪を掻いた。ならばなぜここにやって来たのか、愛を語るなどという行為は己の領分ではないのだと語る彼女の左手薬指が理由は知っていた。
 髪を掻いていた手が止まる。背筋が伸び、不満げに歪められていた顔がすっと無表情へ。周囲の状況を把握すると女は――否、もうそこにいるのは鮫島・冴香ではない。

「……え、なんで僕が?」

 鮫島・栄太郎――冴香の亡き夫であり、彼女の心へと同居するひとりが表へと押し出されていた。彼女へと声を掛けてみるも、どうにも反応はない。ああ、ここは自分が行くしかないのかと覚悟を決めれば『簡潔』の間へと進む。
 今だ慣れないヒールで耳の石像の前まで来れば、栄太郎は像へと視線を向ける。語るのはもちろん、妻の事だ。

「僕の妻の……この姿の女性の話をしよう。僕と彼女は、仕事の上司と部下の間柄だった」

 妻の姿で、夫は語る。
 二十歳も歳が離れていた彼女は、かわいらしいとは思えども恋愛感情を抱くほどではなかった。若く、情熱的で、未来への希望に満ちた部下の事をそのように見てはいけないと理性が働いていたせいかもしれない。
 が、男の堰を壊したのは女の方だった。仕事へ向けるのと同じ、あるいはそれ以上の情熱をもって男に接し……ついには押し負けて、そのまま結婚へと至る。不幸にも結婚一年目、最愛の妻の誕生日を最期に男は妻を己の腕で抱きしめる事は出来なくなってしまったものの、男の幸福は確かに彼女と共にあった。

「こうして死んだ僕を呼びよせる程に彼女は愛してくれているんだ、と実感しているよ」

 その愛を、紡いだ糸のようなか細くも強い繋がりを胸の奥に感じて、栄太郎は微笑んだ。愛する妻の声で、妻の身体で、眼差しの温かさだけが男の存在を証明している。
 これでどうだろう、と栄太郎が扉を見る。語ったのは己の愛と言うよりは、妻が己へと向けてくれた愛ではあったが……と疑問を浮かべていると、ぐらり、頭が揺れて。

『おぉ~、なれそめごちそうさまでしたぁ。うん、いいと思うよぉ』

 気の抜けた声と一緒にぱんぱかぱーん、とファンファーレまで追加で聞こえてきた。どうやら彼らの愛は耳の魔もお気に召したようだ。栄太郎はほっと胸を撫で下ろす。

『ん~、いろいろメンドーだから聞かないでおくけどぉ、おくさんのカラダにだんなさんの心が残っちゃってるー、みたいな話だよねぇ。おくさんがぁ、だんなさんのこと大好きなの伝わったしぃ、それだけおくさんのこと見てるだんなさんのことも伝わったよぉ』

 だから、ごーかくぅ。と耳の魔さんがゆるゆると告げればガチャンと音が鳴る。
 扉をそっと押してみると、確かに鍵が開いていた。ようやっと妻も表に顔を出すだろうと安心していると、

『これからも、末永くねー』

 と、祝福の声。
 末永く、か。と部屋を出た後、一度だけ耳の石像を見つめる。ありがとう、と視線だけで告げたその後、結婚指輪へと視線を落とす。目を閉じ、開けばそこにいるのはもう彼ではない。

「はぁ……本当に、厄介な部屋だったわ」

 冴香は部屋に入る前同様に息を吐くと、武器を構えて入り組んだ通路の先へと進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋稲・霖
『情熱』の部屋に入ってみるぜ!…あんま自信はねえけど、熱く語ればオッケーっしょ!

ポルターガイストがうらやましがって物ぶっ飛ばしてきそうな告白とかはできねえけど

大きく息を吸い込んで叫び始めるか
…俺はもふもふが好きだー!!
自分の尻尾があるじゃんとかってツッコミはなしな!
セルフでもふるとかつまんねえだけだし

敵にもそういうもふもふしたのいたりすんじゃん、可愛いの
倒さなきゃいけないってのはそりゃ分かってるけどな!?
攻撃するんじゃなくて…もふらせてくれたら満足していなくなってくれるとか、そういう敵ばっかになってくれないかなとか、思っちゃうわけよ!
それくらい、可愛くてもふもふしたやつが好きってこと!



●挑戦者四人目:人類共通の癒しとなりえるもの
 秋稲・霖(ペトリコール・f00119)が押し開けたのは『情熱』の扉だ。
 正直、彼にはこの学園の生徒たちが盛り上がるような類の――誰が好きだとか、誰の事が気になるだとか、そういう甘い恋の話題というものはない。なんせゆるくチャラくのらくらと生きてきた。のめり込むような色恋沙汰には今のところ縁はない。
 故に、霖が語るのはただひたすらに燃える愛。それも特定の誰かへの心情ではない。一呼吸、歌う時と同じように、ありったけの気持ちを込めて耳の像へと絶叫(シャウト)。

「俺は!!もふもふが!!好きだあああああああ!!!」

 もふもふ。
 そう、もふもふ。擬音でありながらそのすべてを物語る魅惑の単語。もふもふ。
 言ってしまえばこの世に存在する毛並み柔らかなあったかい生き物たちが彼の愛の対象だ。ならばその三つ編みにした豊かな尻尾はどうなのだと言われてしまいそうだが、こういう場合自分はノーカウントというものだ。セルフもふもふなど寂しい極まったときでさえやらない。そんなことをすれば寂しさが増す。

「敵にもそういうもふもふしたのいたりすんじゃん、可愛いの。倒さなきゃいけないってのはそりゃ分かってるけどな!?攻撃するんじゃなくて……こう、こうさ。もふらせてくれたら満足していなくなってくれるとか、そういう敵ばっかになってくれないかなとか、思っちゃうわけよ!」

 虚空を撫で回すその手の動きは、何もないはずの空間にもふもふを幻視してしまうような優しさと熟練さがある。
 確かに昨今、凶悪極まりないはずのオブリビオン達にはもふもふした可愛い生き物が多い。敵である以上、猟兵である彼は倒さなくてはならないわけではあるが、やはりもふもふ。倒すのに多少抵抗もあるようだ。

「まあ、それくらい可愛くてもふもふしたやつが好きってこと!どう!俺の愛!合格確定じゃねぇ?」

 拳を握り、胸を張る。
 どうどう?と耳の像へときらきらに目を輝かせて聞いてみれば、ぐらり。脳を揺らしてきたのはオネエな雰囲気の耳の魔さん!

『あ~~~~~わかる、わかるわぁ。やっぱりいいわよねぇ、もふもふ!アタシも好きよ!』

 絶賛!やはりもふもふは正義であった。それ以外の理由ももちろんあるのだろうが、オネエっぽいこの耳の魔さん、やはり人?並みに可愛いものは好きなようだ。判定が気持ち甘い。

『熱意も十分、ラヴも十分、ええ、ええ!いいわよアナタ!アナタみたいなオトコノコ、おねえさんタイプだわ~~♪生まれ変わったらもふもふになって撫でまわされたいくらいよ!』
「そ、そうっすか?」
『そうよぉ!ちょっと好みのタイプだしオマケしといちゃうわ。他の子にはナイショね?』

 ガチャン。と鍵が開いたと思ったら扉まで勝手に開く。更には扉の先の通路は真っ直ぐ一本道が続いていて、次の扉までの道はかなり楽を出来そうだ。結構な好待遇である。

「うわー!次の部屋まですぐ着きそう!ありがとっすおねえさん!」
『やだもぉ!素直な子は大好きよ!これからももふもふをたーっぷり愛でてってちょうだいねー!』

 気のせいか、手を振ってくれる幻まで見えてきそうな応援具合。なんとなくそんな気がしたからと霖も手を振ってから笑顔で部屋を出て、オマケしてもらった道を真っすぐに進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
…願わくば貴方の立場で、
人の愛の話を聞きたかったものだけど 野暮かな

【WIZ/詩的に】
僕が愛を語らうなら、其の先は『本』へ
彼女は何時だって僕に言葉をくれるんだ
頁に並ぶ文字を辿る、指先から視線から
ゆるやかに ゆるやかに 伝っていって
最後には必ず、胸中に落ちて来る様な言葉をね
言葉が胸中に落ちた時の音は、
宛らカップの底に角砂糖が落ちた時の様で
僕をとても、素敵な気持ちにさせてくれる

それに、彼女は僕の手を引いて
色々な世界を見せてもくれるから
僕は何時だって、彼女に夢中なんだ
それはもう子供の時から ずっと、ね

…これで、良いのかな?
愛を語るのは、不思議と気恥ずかしいね
何て、文字に逃げたくなって、手は万年筆へ



●挑戦者五人目:創造と想像の白黒世界
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は誰もまだ挑戦していない『詩的』の部屋へと歩を進める。部屋の構造はやはり同じなのだが、他の部屋とは異なりいきなりぐらんと頭を揺らす声が響いてきた。

『よく来たわね!さあ!あたしに貴方の愛を語りなさい!』

 これがこの部屋の耳の魔さんなのだろう。夢見がちな少女とは聞いていたがどちらかというと我儘放題に育てられた高飛車なご令嬢といった雰囲気だ。用意したとおりの愛を語ってもいいものなのだろうか。目に見えぬ彼女を探すように室内を見回したライラックは何処にいるかもしれない乙女へとひとつ、願う。

「初めましてお嬢さん……願わくば貴方の立場で、人の愛の話を聞きたかったものだけど、野暮かな」
『あら、あたしの言葉が聞きたいの?でも残念、あたしの役割は聞く事よ。あたしが貴方より先に語るのは規約違反だもの。だからさあ、語って、語りなさい。小夜啼鳥が囀るように貴方の愛を示すのよ!』

 高らかに命じればその瞬間から声はぴたりとやんで、静寂。どうやら本当に聞く事だけがこの奇妙な声の仕事なのだろう。ならば、とライラックが穏やかにその名と同じ色の目を細め、想いの限りを歌いだす。その愛の対象、『本』について。

「彼女は何時だって僕に言葉をくれるんだ」

 本というかたち。それを目蓋の裏に浮かべ手繰るのは幼い日に愛した物語の一篇、心打たれた詩の一片、捲る度に湧き上がる興奮。
――頁に並ぶ文字を辿る、指先から視線から、ゆるやかに ゆるやかに 伝っていって。

「最後には必ず、胸中に落ちて来る様な言葉をね」

 彼は語る。胸の中に落ちた言の葉は宛らカップの底に角砂糖が落ちた時の様なのだと。甘く沈んで融けていって、しあわせで満たしていく感覚はとても素敵な気持ちにしてくれた。

「それに、彼女は僕の手を引いて色々な世界を見せてもくれるから」

 ある時には穏やかな西風が撫でる花畑、ある時には荒れ狂う大海原を渡る船の上、またある時には一寸先さえも見えない闇に支配された古代の遺跡。彼女が導いてくれる、それだけで、何処までも自由に旅立てた。
 そう、子供のころから、ずっと。

「僕は何時だって、彼女に夢中なんだ……これで、良いのかな?ね」

 語り終えれば妙に気恥ずかしくなり、万年筆を手遊ぶ。物書きという職業柄、愛を綴る事はしばしばあれども、愛を語るというのはこうも勝手が違うものだろうかとあちらこちらに視線を飛ばす。
 対するこの部屋、もとい判断者代理の耳の魔さんの反応はというと。

『――なんてことなの、貴方、とても浮気性だわ』

 震えた声が静かに響く。
 もしや、一冊に絞った方が良かっただろうかなどと心配し始めた頃、耳の魔さんの声が脳を劈いた。

『でも……これは純愛でもあるわ!こんなにも多くに心を奪われておきながら、一途に本を愛している!ええ、ええ、あたしだって本は好きだもの。本を読んでいると違う世界の住人になった気分になる、ええ、あなたの語る通りよ!』

 ガチャン!
 鍵が開き、扉がゆっくりと開いていく。その先には入り組んではいるものの仄かに明るい通路。灯りを追加してくれたあたり、どうやらライラックの言葉に耳の魔さんはご機嫌なようだ。

『合格よ。この先に進むといいわ……その代わり、今度お勧めの一冊を教えなさい。次この部屋へ挑戦するのなら、あたしにその本についてを語って聞かせること。いいわね?』
「――ああ、その時にはとっておきを持って来よう」

 眠れない子供が添い寝をせがむような声色に小さく笑み「またいずれ」と部屋を出ていけば、通路を過ぎ行く空気の冷たさにライラックは両手をポケットに避難させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■アドリブ歓迎

「愛。愛か……」
ゆらゆら尾鰭を揺らして考える
僕は恋を知らない
いつの間にかおちているものらしいけど
見当たらない
語れるほどの愛
愛というのはどんなものなんだろう

「好きな物はチョコレートにもふもふしたもの」
これは最近できた
すき

「これがないと死んでしまうというならば、歌だろうか」
歌えない僕は存在する意味が無い
僕は歌う為に生まれたのだろう
歌が好き
言の葉を歌詞にして世界を震わせて
人の心に届けられる歌が好き
誰かを君を
笑顔にできる
僕の唯一

紡ぐ「恋の歌」
恋を知らない僕が紡ぐ半人前な
中身のない恋の

一瞬
恋を教えてあげると微笑んだ桜の龍の姿が脳裏をよぎり
彼が口づけた髪のひと房を無意識に撫で―

あれ?

顔が熱い



●挑戦者六人目:気付いた時には真っ逆さま
 リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)は『情熱』の間へと恐る恐る入っていく。宙をゆらりと泳いで進み、語らねばならぬそれについてを思案する。

「愛。愛か……」

 人魚の歌姫は眉根を寄せた。恋とはどんなものだろうか。いつの間にか落ちているものらしいと聞いたことがあるが、見当たらないし見つからない。どういう感覚なのか彼は知らなかった。
 ともあれ語らなければ先には進めない、代わりに語る愛についても考えるが――愛とはどんなものだろう。此方もよく分かっていない。好きなもの、とは違うのだろうか。試しにと耳の像へ宣言してみる。

「好きなものは……チョコレートにもふもふしたもの」

 最近理解したそれらは確かに好きだけど、愛だろうか。螺鈿の鱗を煌かせ、人魚はくるんと尾鰭を巻いた。反応がないあたり、これはたいして意味がない様だ。ならばと思考を巡らせて、次に思いついたのは。

「これがないと死んでしまうというならば……歌、だろうか」

 歌うために産まれてきたのだと、歌えねば存在する意味がないと、リルは言う。歌が好き、と。

「言の葉を歌詞にして世界を震わせて、人の心に届けられる歌が好き。誰かを、君を笑顔にできる、歌が好き」

 それが、僕の唯一。
そう呟いてリルは己の存在を証明する。恋知らぬ少年が歌う、恋の歌。甘く、熱く、蕩けるように聴くものを虜にする人魚の歌声は、無垢でありながらも蠱惑的だった。他に観客がいたとしても、この場は彼の歌以外何もなくなっていただろう。
 恋焦がれ、妬き焦がれ、炎さえも具現させる歌声は熱烈に。けれどなにひとつと燃やすことはなく部屋を包んでいく。

――嗚呼、このアイで すべてを妬いて、焼いてしまえたら……

 歌が、止まる。
 知らぬはずの恋を想い歌った、というのに。脳裏に浮かんだその光景が声を泡へと変えていく。秘色の髪を絡め捕る細い指先を、柔らかく落とされた唇を、此方を見つめた花霞の双眸と、甘い言葉を。

――教えてあげましょうか?だなんて。

 無意識に口付けられた箇所を撫でていた。頬が熱を持ち、胸の内側から言いようのない感情がせり上がってきて、けれど言葉にならない。歌に出来ない。ああどうしよう、愛を示さないと。でもあの、物語のような出来事がどうにも頭から離れてくれない。焦る心で耳の像を見たリルではあったが、

『っっっっっっっ、合っ格!』

 何故だろう、姿かたちの見えない耳の魔さんが力強いサムズアップを見せてくれたような気がした。言葉と共にガチャーン!!!と勢いよく解錠、そしてバターン!!!とこれまた勢いよく扉が開く。あまりのことにリルは身じろぎ、その場で動けないでいた。
 リルの心中も察さず、耳の魔さんは語り出す。

『ああああああ、いい、いいわ。とても!!アナタ最高だわ。ええアナタの好きなもの、確かにアタシに伝わったわ!!』
「え、でも、途中で歌えなく」
『そこはいいのヨ!!なんとなくおネエさん察しちゃったから!!今日のところは形にしなくていいワ、寧ろ無理に形にしなくっていいの。だからさあ、先にお進みなさい!』

 もしこの場に、この謎の存在が実体化していたとしたら、リルの背をぐいぐい押して扉の先へと追いやっていただろう。否、言葉だけでも十分に背を押してくるような存在感がある。
 リルが困惑拭い去れぬと部屋を見回せば、耳の魔さんは優しく語り掛けてきた。

『いいこと。まだ形に出来なくっても、アナタは種を見つけたワ。次は芽吹いた時にいらっしゃい。その時にはアタシはもっと力になってあげられるし、きっと今以上に素敵な歌を歌えるようになってるから!』

 がんばってー!と声援を送る耳の魔さんと、何故か昂ったままの胸の内をそのままに、リルは扉の奥へと進むことにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
POW
人語会話不可能にも関らず
狸っぽい色合いの狐姿で
てふてふ部屋へ入り込む

愛…、好きな、モノ?と、首傾げ
尻尾ぺふんぺふんしつつ
色々あって……何を、語れば…と
大好きな主の、話…?
でも、何て表現すれば良いか…
暫く、毛繕いしつつ思案…

ぴょこんと人姿へ
んと、食べ物の話、でも、良い?
餅、好き
あの触感…何もつけなくても美味しいけど
醤油とかきな粉とか…何にでも合う
餅ピザ作…ハッ!
…コノちゃんに、置いてかれた…!
好み、聞いてみたかった、な…
あ、えぇと、コノの料理、全部美味しい、よ
ふわっふわのパンケーキとか
色んな味あって
こー…幸せが広がる感じ、する
おいしー料理は、生きる力だけでなく
笑顔とか、元気とか、くれる、ね



●挑戦者七人目:とっくに掴まれた胃袋と
 火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は『情熱』の間を選ぶ。いや、正確にはさつまと思わしき一匹のたぬき――それも正確ではないだろう。カラーリングはともあれ形状的には狐であろうもふもふが、ふんすふんすと扉を押す。えいえい、押している。とおとお、押している。

 ……あかない。

 しゅんとしているたぬきつねをちょっとかわいそうに思ったのか、最後に控える残り一人の猟兵がそっと扉に隙間を作ってやる。隙間ができるとぴゃあああああっと花も飛ばしかねない喜びよう。たぬきつねは会釈らしき頷きをひとつして部屋に入っていった。

 てふてふてふ。
 部屋の真ん中まで進んでいくたぬきつね。尻尾をぺふんぺふんと揺らして、好きなものを思い浮かべる。好きなもの、好きな、モノ。
 たくさんある。
 いろいろあり過ぎてどれから語ればいいのか、そもそも何についてを語ればいいのだろうか。たぬきつねは悩ましさのあまりに毛繕い。大好きな主の話がいいかな、でもなんて話せばいいんだろう。ちるちる。毛並みが整っていく。

『…………あの、たぬきちゃん?お部屋間違えた?』

 耳の魔さんすら心配になって声を掛けるレベルの和みように、流石にたぬきつねも人の姿へとぴょこんと変身。一瞬にして身長190cmの青年へと変わった。視線の高さの違いなど気にも留めず、んーと首を傾げれば、さつまは一番最初に思い浮かんだそれの事を話すと決めた。

「んと、食べ物の話、でも、良い?俺、餅、好き」

 たどたどしい口調で思い浮かべたままに口にしたのは、餅。あの毎年多くの死者を出すことでも有名な敏腕殺し屋にして、白くて、焼くとやわっこくて、びにょーんと伸びるあれである。
 そのまま食べるのももちろんおいしい。が、醤油を塗って焼いてもおいしい、きな粉をまぶして食べてもおいしい、なんならみたらしにくぐらせてしまっても構わないし、あんこに溺れさせたっていい。茹でてしまえば焼いた時とはまた異なる柔らかさ、お正月の御雑煮には欠かせない必須食品である。

「あー、でも、餅ピザも作……ハッ!」

 ほわんほわんとお餅を並べていた脳内に、突然浮かんできたのはエプロン姿の悪友の姿。

「……コノちゃんに、置いてかれた……!」

 床をだぁんと叩いて悔しがる。どんな調理法が好きなのかを聞きたかったが、続けざまに浮かんだ美味しい料理の数々が悔しささえも吹き飛ばしていく。お餅だけではない、彼の作る手料理の数々はいつだってさつまのあらゆるものを満たすのだ。

「あ、えぇと、コノの料理、全部美味しい、よ。ふわっふわのパンケーキとか、色んな味あって……こないだは南瓜とか、小松菜とか、人参とか、紫芋とか、たくさんあって……こー…幸せが広がる感じ、する」

 にへらん、と笑顔を浮かべれば幸せ満杯。どんどん恋しくなっていく味が自然と腹の虫を鳴かせてしまった。
 そんなさつまのマイペースな語り口に、耳の魔さんは長らく沈黙していた。ダメ出しをしてくる、とは聞いていたがどんな風に言われるのだろう。思わず耳をへたんと伏せて像を見つめていると、

『…………ええ、もう何も言う事はないわ』

 合格よ……と何かを押し殺すように囁く耳の魔さん。かしゃんと妙に優しい解錠音と扉もそっと開いてくれているサービス具合である。通路は入り組んでいそうではあるが、暗くはない。
 さつまは悪友の姿を浮かべた。あの悪友の事だ、きっと愛を語るのはさっくりクリアして、この先で迷子になっていることだろう。もしくは先に部屋に辿りついて、自分を待ってくれているかもしれない。そう思えば、自然と足も軽くなる。
 待ってて、コノ!と飛び出すと瞬く間に青年は毛玉姿に変わり、てってこ通路を駆けだしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋薙・冬香
「こんな依頼に遭遇するなんて…ね」
愛するものへの本気の気持ち、か
私の場合、彼以外にいないわけだけど…
「ちょうどいいわ。すっきりするまで付き合ってもらおうじゃない」

(独白の感じで)

恋華荘の管理人の彼
彼との出会いは運命と直感して
私は彼の側にいることを決めた
けれど今は自分の存在と気持ちが揺らぐ
私は彼に恋してるの?って

彼の側にいたい。彼と一緒に遊びたい。その気持ちは本当。
でも彼とキスしたいとかそんな気持ちは沸いてこない
あの時の焦がれた想いは何だったの?

…そっか
私の恋はまだ芽吹いてすらいないのね
あの時感じたのは…予感

どうする、私?
気付いたからには、踏み出すしかないわ

だからここから始めるわね
好きよ、いちご



●挑戦者八人目:いとしいあなた
 緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)は一匹の姿を見送ってから、自分は『簡潔』の部屋へと向かった。愛するものへの本気の気持ち、それを聞き届けるまで次には進ませないというこの部屋に、冬香はたったひとりの姿を胸に秘めて踏み込む。

「ちょうどいいわ。すっきりするまで付き合ってもらおうじゃない」

 耳の像の前へと立ち、冬香は語り始める。

「私が語るのは――恋華荘の管理人の彼、彼との出会いは運命と直感して、私は彼の側にいることを決めた」

 彼女の住まうその女子寮に唯一、管理人という立場故に許された異性(イレギュラー)。少女の容貌に柔らかな物腰、外聞などの理由もあり女子同然の生活を行う彼。妖狐特有のふわふわの尻尾も魅力的で、愛らしいことこの上ない。

「けれど今は自分の存在と気持ちが揺らぐ。私は彼に恋してるの?って。彼の側にいたい。彼と一緒に遊びたい。その気持ちは本当よ。……でも」

 でも、と続くその先はどうにも冬香には悩ましいもので。例えば、アプローチはしても彼とキスしたいとかそんな気持ちは沸いてこない。スキンシップは出来ても、もっと踏み込んだ関係に、とまでは至らない。
 これは、本当に恋なの?あの時の焦がれた想いは何だったの?
 私が出会ったものは、運命ではなかったの?
 巡る思考に沈む表情。谷底を見つめるように視線を床へと落としていると、ぐらりと揺れる頭の奥。

『……もやもやしてる?』

 耳の魔さんがやんわりと問いかけた。

「ええ、とっても」

 この答えが知りたいの。どこからともなく聞こえてくる声へと問い返した。それに対して耳の魔さんは少しだけ悩んだような声を響かせてから、『教えてあげる』と囁いてきた。

『きっとねぇ、まだ、恋じゃないんだと思うよぉ。恋のね、手前。あわーいあまーい、もの。だからね、ちょっとのことで満たされちゃうの』
「恋じゃ、ない?」

 初めに耳の魔さんの声が聞こえてきたときよりも、強く揺さぶられた感覚があった。恋しているの?そう自分に問いかけていたというのに、未だ恋をしていないのだと言われる。ならばこれは?恋の手前のこれは一体なんだというのだろう。

『それはねぇ、これから恋になる、ちいさい種。これからね、お水をあげて、お日様を浴びて、すくすく育っていくの。だからね、名前なんてまだないんだよ』
「……そっか。私の恋はまだ芽吹いてすらいなかったのね」

 腑に落ちた、と視線をあげる。ああそうか、あの日感じていたものは予感だったんだ。
 どうする?と己に問いかける。『どうするのぉ?』と耳元で気だるげな声が聞こえる。だがもう自分は気付いてしまった。種に水を遣ってしまった。これから彼という陽を浴びて、この想いは育ってゆくのだろう。

――気付いたからには、踏み出すしかないわ。

 冬香は耳の像に、想い人への言葉を告げる。いつか、本人に言う時と同じように。

「好きよ、いちご」

 真っ直ぐと、シンプルに。まずはここからはじめましょうと。
 耳の魔さんは冬香の言葉に満足したのか、かしゃん。扉の鍵を外した。

『うんうん、それがいちばん、伝わりやすいね』

 扉が開けば、先の見えない歪な通路。これは、これから先の自分の道だ。どんなに迷い、うねり、遠回りをしても、この道の先には必ずたどり着くべき場所がある。
 分かっているのなら、恐れる必要はないのだ。冬香は自信を持って前へと進む。いつの日か、先程整えた己の想いを伝えるために。


●耳の魔さんのお節介
『いい?どんな時でもアナタの心に嘘をついちゃだめよ』
『いろんなきもちの最初はねぇ、ぜぇんぶ「好き」からなんだから』
『どんな言葉に隠しても無駄よ。貴方達の心なんて、あたし達が暴いてあげるんだから』

 耳の間に潜む奇妙な幻聴たちは、想いを胸に先へと進む猟兵達の背を押していく。
 入り組んだ、或いはほぼ直線だった。様々な理由で変化していた通路の終わりに、扉が一つ。猟兵達は次なる部屋――そう、ようやっとたどり着いた目的地の扉を押し開けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ポルターガイスト』

POW   :    パイロキネシス
【自然発火の能力を持つ念力】が命中した対象を燃やす。放たれた【青白い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    テレキネシス
【念動力で操った家具の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ラップ現象
対象のユーベルコードに対し【対象の集中を阻害する騒音】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●君よ、本体を見抜け
 猟兵達が各々の前に現れた扉を開くと、落ち着いた雰囲気の洋室が姿を見せた。
 左の壁面には暖炉、正面には壁全体を埋める本棚、右側には背の低いチェストと観葉植物の鉢が並んでいる。
 暖炉の近くには一人掛けのソファーが二つ、天井から吊るされた黄色系の灯りが部屋全体を暖かく包む。
 成程、確かに雰囲気もいいし恋の成就したふたりで語り合うにはちょうどいい空間だ。
 問題はこの部屋で突然家具が動き出した、と言うことだが……

 と、猟兵達が部屋の中心へと踏み込んだ途端、チェストの上に置かれていた花瓶が浮き上がる。
 空中で歪な弧を描き、猟兵達へと襲い来るが間一髪で回避。これが異変か!
 気付けば家具が浮き上がり、棚の中の本が鳥のように頁を開いて空を飛ぶ。
 どう対処する?武器を構え、猟兵達は部屋の謎に迫った。
鮫島・冴香
落ち着いた部屋ね。
こんな所で生活できたら穏やかな日々が過ごせそうよね。

(動く物品を【第六感】で避けつつ)
…ポルターガイスト、かしら。
(熱線銃を構え)
悪戯しちゃだめよ、構って欲しいのかしら?
(己もUC【サイコキネシス】を発動させ。
 動く家具等を元に戻すように力を使ってみる)
姿を見せて頂戴?あなたの目的は何かしら?
この素敵な部屋でソファーに腰掛けて、ゆっくりお話してみる気はない?
(【第六感】で気配を探りつつ、ポルターガイストの主に声をかけ。
 敵のUCには【オーラ防御】を発動し)
あなたが攻撃するのなら、私も行かせて貰うわ
(【第六感】でピンときた場所に衝撃波を)
さぁ、姿を見せて

※アドリブ&絡み大歓迎



●ルーム1:スケアリー
 鮫島・冴香(Sexy Sniper・f13873)は部屋を飛び交う本や家具を避けながら壁際へと逃げ込み、チェストの一つをサイコキネシスで引き寄せた。盾代わりに眼前へと据えれば突進してくる一冊を防御、更に側面から飛び込んできたソーサーを屈んで回避して現場を確認する。
 飛び交う家具類に規則性はなく、何故だか自分を集中して狙いに来ているわけでもない。先程から本が何冊も壁にぶつかったり暖炉に飛び込んだりしている辺り、チェストの影に隠れた自分が分からないのだろう。
 家具類自体が襲ってきているわけではないのなら、これを操っている存在があるはずだ。部屋を見回す。冴香と同じ、人間大の生物が隠れられそうな場所はあるが、それらしい影も気配もいない。

(例えば、この部屋の何かに宿っているのなら?)

 精霊、妖精、悪魔――ポルターガイスト。
 あくまで推測、真実は定かではない。が、可能性の一つを見出して冴香は室内の何処とは言わずに語り掛けた。

「悪戯しちゃだめよ、構って欲しいのかしら?」

 籠城する犯人へ語り掛けるように、冴香が見えない何かへと声を掛ける。が、どうにも反応はない。
 否、反応はあった。部屋の中心付近を飛んでいた本が何かにぶつかったように急停止すると、ぱぁん、と蒼白に焼けて弾ける。偶然だろうか、声のしたタイミングで落とされたハードカバーの鳥は床に敷かれたラグへ焦げ目を残して炭となる。暖炉から火が飛んだわけではない。突然止まり、燃えた。

「姿を見せて頂戴?あなたの目的は何かしら?」

 二度目の問いかけ。今度はティーカップが突如砕けて燃え上がり、破片の雨を降らせていった。場所は、先程本が燃えた場所とほぼ同じだ。しかし中空には何もない。見えない何かがそこにいるのかもしれないと目を凝らして観察する。
 落ちた場所の近くには何がある?先程の焦げたラグ以外に付近にあるものと言えば消炭とカップの破片、他壊れてしまった家具のあれこれ。そして……

――ああ、動いていないものがあるじゃないか。

 現場を見つめてきた女の勘が、本体(ホシ)の居場所を特定する。冴香が目星をつけたその場所……向かい合わせになった一人掛けソファーの片割れへ、壊れない程度の衝撃波を浴びせた。ぐらりと大きく揺れたソファーは間を置いて小刻みに揺れ、震えが止まるとこぽり、液体とも固体とも言えない奇妙な揺らぎがソファーから現出した。
 ソファーの片方から湧き出てきたのは半透明の少女の形。虚ろな眼差しは表情が読み取りにくいものの、彼女の様子を見るからに敵意がなく、どちらかというと怯えているように見えた。
 宿る殻を失ったが故なのか、それ以外に理由があるのか――今はわからずとも、対話ができるのならばこの部屋で彼女が何をしようとしているのか知る事ができる。
新たな器を探るように中空を漂い始めた少女へと、冴香は敵意を消して微笑んだ。

「はじめまして。あなた、この素敵な部屋にいつからいるの?……ねえ、ソファーに腰掛けてゆっくりお話してみる気はない?」

 ゆっくりと近づいていくが少女は後退り。手を伸ばしてみるも大きく身体を震わせて伸びた腕の分距離を取られる。このままでは埒が明かない。席に移動する前に本題に入らねば、と思っていた矢先。少女の口が小さく動き、

――ないの……

「えっ」

 微かな訴えを残し、少女は目に涙を湛えたまま消えていった。同時に部屋中を漂っていた本の群れや家具が音を立てて落下する。あの少女がポルターガイストの本体であることは間違いなかった。しかし、言葉をいくら反芻しても、少女の本心は理解できないままだ。
 残されたのは荒れ果てた部屋と、女が一人。

「……なにが、ないというの」

 消えた少女の影を見つめるも、最早解は得られない。それでも、と。冴香は真相究明のためにと手近に落ちていた書物に目を通すところから始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
…これは、参ったな
何故こんな事を、と問い質す時間もなさそうだ
──そもそも、相手が見えないから話にならないか

【WIZ】
(先制攻撃/カウンター/見切り/聞き耳/二回攻撃)

家具をまともに喰らう訳にもいかないし、
早急に魔導書を手に『花の歌声』での先制攻撃
家具を指定しての攻撃で、敵を妨害しよう
…それと共に、不意打ちで動揺は誘えるかな?
攻撃を放った後は見切りと聞き耳を使い、
何か他と違う動き・声や音を探す試みを
見つけ出せれば本体と判断して、
其方へと二度目の攻撃を放とうか

騒音が放たれるのであれば、
『鏡合わせの答合わせ』で相殺し返すよ
…貴方がどうして、そんなに癇癪を起こしているか
僕には想像も、付かないな



●ルーム2:ヒステリック
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は苦笑い、部屋を勢いよく飛び回る燭台や花瓶を避けながら部屋の様子を探った。
 どうにもこれらを操る存在の姿は見えない。そのうえ家具の操作は乱暴、ライラックに当てられなかったものたちは壁や床に勢い良く叩きつけられ、歪に形を変えてしまっている。それほどの速度と力で飛んでくるのだ、当たればひとたまりもない。

(参ったな。何故こんな事を、と問い質す時間もなさそうだ)

 となれば、此方からも攻撃を。動きを止め、正体を暴きだすことが先決だ。
 ライラックは革表紙の魔導書を手にすると呪いを唱える魔術師のように詩編をひとかけ諳んじる。柔らかに響く花の歌声、レ・クイエム。

――暖かなる春が来た。咲く花々は貴方を目指し、僕は其れを祈るだろう。
──どうか届きますように。

 声に応じ、頁が風もないのに捲れた。その一片が千切れれば薄く淡く色を変え、舞い散るは彼の名と同じ春の花。部屋を飛び交う家具の数々を薄紫の花弁が嵐の如く阻害する。
 溢れたリラの花弁に身を隠して、男は黙す。さて、本体は何処にいるのか。耳をそばだて、目を凝らし、花弁と家具の合間から他とは異なる何かを探る。
 すると、一カ所。
 明らかにおかしいと気付いた。そうだ、これだけ無差別に器物が飛び交っているのにここだけ無傷、家具がひとつとぶつかっていない。確信し、ライラックは花弁吹雪を一点集中。標的は――天井。吊るされた照明器具へ薄紫の突風を吹き散らす。
 照明が大きく揺れ、こぽぽと泡立つ無色の泡。溢れて出てきたそれが少女の形をとると絹を裂くような声をあげて花弁から逃げ出した。部屋の片隅へと逃げ込んだ少女の姿を追えば、言葉一つで花吹雪を再び羊皮紙の紙束へと戻す。ぱたりと本を閉じてライラックは半透明の少女へと近寄った。

「……貴方がどうして、そんなに癇癪を起こしているか。僕には想像も、付かないな」

 揺らめく少女の形へと刺激し過ぎないよう調整した声色で問い掛ける。この少女が此度の元凶なのだとしたら、真相を解明したうえで彼女自身の心も癒さねばならない。これほどに荒れ、人を傷つけてしまった少女の心は酷く皺が寄っていることだろう。温もりをもって皺を伸ばし、まっさらに整える。そうすればもう被害者が出る事もない。
 問うて暫く、少女と男の間には物音一つない。時計すらないこの部屋で、二人の間に流れた時間を計るのは心音か呼吸程度だろう。それでも我慢強く、時が過ぎるのを待った。

――して。

 と、少女の声が静寂に色を付ける。

――どうして、どうしてよ!なんで邪魔するの、あたしは何も悪くないのに!
――誰も悪いことって言わないじゃない、素敵なことっていうじゃない!
――なのに!

 少女の金切り声が耳を劈く。天井の照明まで割れる程の強烈な声に、思わず魔法の鏡を呼び出し迎撃しようと試みたライラックだが、少女は慟哭を跳ね返される間もなく姿を消した。身構え、更なる戦闘に備えるも、どれだけ待とうが家具が動く気配はない。

「……倒した?いや、攻撃は反射していない。ならば一体……?」

 消えた少女の気配はどこにもない。恐る恐る部屋を歩いてみたが変化の兆候ひとつない。あまりにも呆気ない幕引きと後ろ髪を引かれる締めくくりに作家の心がざわついた。
 悪くない。ただそう叫んだ少女の、潤んだ眼が焼き付いて離れない。喉が裂けそうなほどに悲痛な言葉の先に、真実を見つけ出さねばならない。そう思うと、ライラックは今一度部屋の中を探索し始めた。
 少女の心が何を求め、何を訴えていたかを見つけ出すために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

てぇか、何故だか途中で鉢合わせてナンか怒られてンだけど
あーもう背中叩くなし
口封じ(?)に手持ちのおやつ取り出した所で飛んでくるあれやこれ
あーポルターガイストって初めて見た!などとはしゃいでる場合でなく
飛来物躱しながら【彩雨】を発動
床、壁、天井、全周囲へ向け放つ

たぬちゃん後ろは任せたからネ、ちゃあんと掴まっててヨ
じゃないと一緒に撃ち落とす、と針で飛来物落としながら
何も無い空間へくまなく注意を向ける……のを繰り返し
針がおかしな動きを見せたら其処に何かがある証
たぬちゃんソコ!(引っ掴んで投げる)

良く出来ましたー、とおやつ掴ませ誤魔化し
ハイハイ、全部終わったら聞いたげますぅ


火狸・さつま
コノf03130と

獣姿でてってこ
姿見るなり
コノ、居た!見つけた!!と背中へジャンプ突撃がしり張り付き
置いてっただろ!俺、ちゃんと誘いに行ったのに…!の尻尾びたんびたん!抗議

オヤツで誤魔化され…お手製?喰う。
あー…と口開けた所へ邪魔が
俺、今、忙しい黙ってて!ぼふり尻尾膨らませ
しゃ…!(恫喝威嚇)
気配変化が無いかきょろり
コノにモノぶつけてくんな!と【しっぽあたっく】で打ち返したり叩き落としたり
物が飛ばない場所…何か、居る?と、雷火の範囲攻撃

!?
くるり宙返りしっぽあたっく
相殺されれば雷火で攻撃
抗議&オヤツタイムを邪魔した罪は重い


びゅんっ!と戻り
コノのオヤツ手に目輝かせるも
…誤魔化されないからなの視線



●ルーム3:ジェラシィ
 一旦、時間を巻き戻そう。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は只管に長い一本道の通路を抜け、ようやっと扉の前までやって来ていた。この部屋が次の調査対象、今回の事件が起こった場所かと扉に手をかける。ノブを捻り、そして――
 どごっと、背後からやってきた衝撃に押し出されるがまま思いっきり額を扉に打ち付けた。背中には明らかな重み。まさか部屋に入る前から例の被害が、と全身に警戒を走らせた。のだが。

(コノー!!!)

 違った。
 コノハの背に貼り付き尻尾をべっすんべっすん叩きつけているのは火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)であった。冬毛特有のふわふわ尻尾で抗議の尻尾アタックをお見舞いしている。
 脱力。コノハが肩を落とせばさつまがチャンスとばかりによじ登る。

(置いてっただろ!置いてっただろ!俺、ちゃんと誘いに行ったのに……!)
「あっ、いたい!ちょっとしっぽちょっといたい!ごめん、ごめんって!」

 すっかりご立腹のたぬきつねが最終的に右肩に落ち着いたところで摘まみ上げられ小脇に抱え直される。改めて、部屋へ。
 室内はまさに応接間(サロン)のよう、オレンジに照らされる温かみのある室内を見回して、コノハはほぉ、と息を吐く。
 依頼でなければゆっくりと壁際の本でも開いて寛げそうだとか、ソファーに腰かけて暖炉の炎が爆ぜる音を聞いてただ無為に時を過ごすのもいいだとか、そんな雑念で脳が満たされる。
 のを、さつまの尻尾アタックが邪魔した。小脇に抱えられてなおも熾烈な抗議のおかげさまで依頼の事を思い出す。

「あーもうアタシがわるぅございましたー」

 ポケットを漁れば取り出す可愛らしいラッピングの袋。口と片手で器用に紐解けば中から一枚のチョコチップクッキーを取り出す。たぬきつねの目が輝く。大きく口を開けてたべるたべると主張すれば、コノハがクッキーを口元まで運び……

 ひゅん。と横切るティーカップ。
 危うく落としそうになったクッキーをさつまの口元から離し、周囲を見回せば既に完全包囲。ゆっくりと浮き上がるソファー、チェスト、燭台に花瓶。棚に収まっていたはずの本たちさえも渡り鳥の如く隊列を組み狭い室内を巡り始める。
 腕の中から抜け出すと飛び交い始めた家具類へしゃっ、と威嚇するさつま。敵愾心に反応してか、家具の動きはコノハとさつまへと一斉に向けられた。

「あーらポルターガイスト?初めて見たワ……」
(コノ!来る!)
「ええ、そうネ……たぬちゃん後ろは任せたから!」

 コノハの背面へ急接近した本の一冊を、さつまが跳び上がり尻尾で鋭く叩き落とす。背中を任されたと告げられれば言われた通りに背へと跳び付き、近付く家具類へと警戒を強めた。
 一方コノハはまじないを唱え、指先に万色映す水晶を生み出していた。結晶はばらりと花開くように分かたれて、細く鋭い花弁を散らす。コノハを中心に全方位、飛び回る器物に向け放たれれば動きを縫い留め、凍て付き、一時的に停止させる。
 同時に、コノハは周辺の状況をつぶさに確認した。床、壁、天井、すべてに針は飛ばした。何処かでおかしな動きがあればそこに本体がいるはずだ。さつまに当たらぬ様、けれど飛んでくる家具も止めながら部屋中を隈なく針を操作し探索する。
 と、かくん、と針がコノハの意思と関係なく動きを変えた。まるで自らを守るために何かで薙いだような軌道の変化を見逃さず、コノハは本体と思わしきそれに狙いを定めた。背面にしがみついているもふもふに手を伸ばして、わっしり掴むとおおきく振りかぶって。

「たぬちゃんいっけええええぇぇぇぇ!!!」
(へ?)

 投げた。
 それはもう思いっきり投げた。空を舞う家具の合間を綺麗にすり抜けて、きょとん顔のまま縦回転するたぬきつねが壁にかかる一枚の絵へと飛んでいく。ワンテンポ遅れてはっと気づいたさつまは尾を滾らせる。決して静電気で尻尾が膨らんだわけではない。発動した刻印より供給された力が黒雷となり、尾全体に歪な文様を浮かび上がらせる。距離が詰まる、射程範囲内に到達すれば渾身の力で尾を叩き込んだ。

 ばぢぃぃぃぃぃっ!!!

 電気の弾ける音と、絵画を鎖す額縁が割れる音が不協和音を奏で、床へ残骸を派手に散らかしていく。一片から溢れ出した奇妙な靄が泡立てば、次にどんな攻撃をしてくるかわからぬ未知の敵から距離を取るため、しゅばっと相方の傍へさつまが戻ってくる。よくできましたと渡される特製おやつ。おやつを手に目を輝かせるたぬきつね。
 が、全力で投げられたことを思い出せばさつまはハッとした後に「ごまかされないからなー」と視線をうぬぬと飛ばす。勿論おやつは食べるがそれはそれとして飛ばした。
 そんな微笑ましい様子に、少女の形を整えた半透明が金切り声をあげた。

――なによなによぉ!あたしの事無視してなかよくしてぇ!!
――ずるいずるいずるいー!!あたしだって、あたしだって遊んでほしかったのに!
――もっともっともっとあたしを見てほしかったのに!!

 少女は手近にあった花瓶の欠片をふたりへ投げつけると、泡立つように消えていく。花瓶の欠片をはたき落とせば、部屋の中を漂っていたものたちが重力を思い出して地に引き摺り落とされ、少女の痕跡は荒れた室内以外何もなくなる。
 凪いだ空間を呆然と見つめて瞬き数回。我に返ったコノハと口いっぱいにほおばったクッキーを飲み込んださつまが互いを見た。

「……もしかして、まだ何か残ってるかも?」
(調べよっか、コノ!)

 そう、部屋の異変は静まったが、原因が何かはまだ見つかっていない。
 おやつも食べてご機嫌のさつまは本棚裏など狭い箇所を、コノハは落ちている本を読みつつ片付けることによって部屋を探ることにした。
 割れた額縁と絵画の隙間、隠されていたものに気付くのはもうしばらく後の事。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緋薙・冬香
「さて。気持ちも吐き出してすっきりしたことだし」
ここからは猟兵のお仕事といきましょう
小部屋の異変の調査と解決、しっかり仕留めるわ

部屋に入ったら、家具とかが飛んでくるって話だけど、
部屋に入る前に血統覚醒で力を底上げしておきましょう
飛んでくる家具は、スライディングと空中戦を活用して、場合によってはスカイステッパーで踏み落として、回避
飛んでくる家具の方向へ接近するわよ
「原因、あなたね?」
ポルターガイスト、ね
わかりやすくて助かったわ

攻撃は蹴り技を中心にして
反撃のパイロキネシスは対抗策とか考えてないけど
「火傷は、恋だけで充分なの」
特に今は、ね!
悪いけど、あなたにはここでご退場願うわね!



●ルーム4:クルーエル
 緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)の紅い目が真っ直ぐに飛んできた本の一冊を捉えた。寸前で蹴り落とせば動きの流れに身を任せたまま裏拳。姿勢を低くし室内を見回した。
 平常よりも視界はクリア、モノの動きも捉えやすく、四肢に内から力が漲ってくる。吸血鬼――己に宿る絶滅種の力は身体能力を向上させるだけではなく、冬香に精神的な余裕さえも与えていた。
 低空から確認する室内は随分な様子だ。統率された動きで飛んで行く本達は魚群のよう、無差別に飛ぶ家具に散り散りにされても再び集結しては高い天井と中空の合間をうねり、泳いでいる。本物の魚を、こうして水底から見つめられていたのならどれだけよかっただろうか。それこそ、この仕事を終えた後、デートに誘うにはそんなシチュエーションがいいかもしれない。

「さて。気持ちも吐き出してすっきりしたことだし」

 立ち上がって、十指を絡めぐっと腕を伸ばし、肩の凝りをほぐすように腕を回す。向かってくる、花瓶が一つ。

「お仕事といきましょう」

 蹴り上げ、破壊。更に後ろから飛んできたカップも踵で砕き落とす。
女の存在を察した本の群れが怒涛の如く襲い来れば、冬香はスライディングの要領で本群の下へと潜り込み、過ぎ去ったその後ろで跳躍。
 空を踏み、軌道を変えて本の群れに迫れば、上から更なる蹴撃を喰らわせる。跳び、蹴り落とす。跳び、蹴り落とす。これを繰り返しているうちに、本の大半が動かなくなった。
 着地、冬香はもう一度部屋を見る。迫る家具を叩き壊しながらも、本体の潜む何かを探し――見つけた。
 駆けた先、入り口横のチェストを蹴り壊す。木くずが派手にばら撒かれる中、同時に溢れ出してきたのは半透明の物質。液体にも気体にも固体にも見えるそれはカーペットの上で形作られ、人を模した。

「あなたが本体ね。……悪いけど、あなたにはここでご退場願うわ」

 見下ろす少女の霊が、澱んだ緑で見つめ返してくる。

――結局、そう。
――誰もあたしの言葉なんて聞いてくれないんだわ。

 ゆうらり、少女が立ち上がる。白い髪が、白い衣服が、風にそよぐ柳のように揺れた。
 見開かれた少女の緑眼に女の姿が映る。こんなにも細く弱弱しい少女に、言葉にしがたい怖気を感じ、冬香は身構えた。何かが、来る。

――だから、いいわ。聴かなくていい。
――あたしのことを無視するお前達なんて、死んでしまえ。

 確かな憎悪を持って騒霊少女が殺意を放つ。目に見えぬそれは冬香へ真っ直ぐと向けられるが、寸前で身を捩り回避。長い髪の先がぶわり、何かに触れ、瞬間で燃え上がる。
 パイロキネシス――蒼白い炎によって豊かな黒髪の先端がじりりと焼け始めた。ただの炎なら水に浸けるなりはたき消せるかもしれないが、ここに水はなく、異色の炎が容易に消せないことはすぐに理解できた。ならば、冬香は衣服に燃え広がる前に髪を掴む。

「火傷は、恋だけで充分なの。特に今は、ね!」

 燃えた髪先数センチだけ、『契約』の名を持つ光の刃を指輪から発生させれば即座に切り落とす。落ちた髪の行方を見向きもせず、女は真紅を燃え上がらせた。

「僅かでも、女の命を斬らせた分は痛い目見てもらうわよ」

 返す刃で一閃、少女の霊に斬り付ければ痛々しい悲鳴を上げて少女が真っ二つに裂かれた。心地よい声に僅か陶酔。が、すぐさま酔いは冷める事となる。
 裂かれた少女が消えるとともに、操作されていた家具が床に落ちる。ここまでは他の部屋もそうだ。同じだった。が、部屋自体が大きく揺れ始めるのは何故か。立ち上がれぬほどの振動に身を屈めた冬香は、胎動の意味を知る事となる。
 見つめたその先――空になった本棚の向こう側、突如動いた壁から出現した、新たな扉。
 新たな、敵へ続く道。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『セイレイに愛された少女の亡霊』

POW   :    『黒き焔』と遊ぶセイレイ
【揺らめく複数の黒炎玉 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    『旧き幻想の知恵』のドレス
対象のユーベルコードを防御すると、それを【古代精霊言語に変換し身に纏い 】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    『私も精霊に愛されたかった』
自身に【数体の黒い生霊(セイレイ) 】をまとい、高速移動と【威力の高い魔術の衝撃波(ウェーブ)】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアサノ・ゲッフェンルークです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ルーム1:怖かったわ
 冴香は一冊の日記を見つけていた。
 その内容は、一人の少女が恋に胸躍らせ、思い悩む姿が綴られた甘くも苦い日々の記録だった。丁度今のような、恋に溢れる季節があったのだろう。少女の不安を押し込めた吐露が記されていた。

『もし、もしも言葉が伝わらなかったらどうしよう』
『たくさん練習して、たくさん気持ちを込めて、それでも伝わらなかったら』
『いや、嫌われたくない』

 ペンを持つ手が震えていたのか、歪んだ筆跡が誰かの心を映していた。


●ルーム2:病気だったのね
 ライラックが見つけたのも同じく日記だ。
 見知らぬ少女の恋物語、覗き見するのは気が引けると口にはするが興味には勝てない。頁を手繰れば少しずつ見えてくる、恋による弊害。

『恋って素敵!』
『きっとあたしはあの方に出逢うために生まれてきたんだわ』
『でもどうしよう、あの方はあたし以外の人にだって優しいし』
『きっとあたし以外にも同じように想いを寄せてしまう人が現れる』
『どうしよう』

 盲目な恋情が少女の心を病ませ、次第に狂わせていった。


●ルーム3:妬ましかったわ
 コノハとさつまの見つけた、額縁に隠されていたそれもまた同じ。しかしこれは、日記本体から破り捨てられて隠されていたようだ。
 書かれていた内容に驚愕、これを隠したのは、人目に触れてほしくなかったからか。

『すき、すきよ、すきです、すきなの、すきなんです』
『こんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにも、なのにどうして』
『あたしを見てくれないの、あたしに笑ってくれないの、あたしを避けるの、あたしから離れていくの』
『いかないで』

 少女の恋は破れたのだろう。そして、きっと、その果てがこの先にある。


●ルーム4:だから、そう
 冬香は扉を開く。扉の先には広い部屋。床、壁、天井だけの殺風景な部屋は照明らしい照明もないのに白く明るい。
 隣でがちゃりと音がした。立て続けに三つ、開いた扉から他の猟兵達が続々とこの巨大な空間に集まって来る。どうやら四つの部屋はすべてここに繋がっていたようだ。集まった彼らは異様な空気を察して部屋の中心を見る。

 何もなかった部屋に、先程消えたはずの少女の霊が溢れ出した。こぽんと音を立てて融け合えば、複数人からひとりを形作り始める。
 白い衣服は黒く塗られ、薄く色づく髪はカーネーションの黄色。星を連ねた冠を戴き、手には玉を抱えた竜の杖。息を呑む美しさは猟兵達の視線を打ち付け、変貌を遂げた少女のかたちはゆっくりと目蓋を開く。
 唯一変わらぬ緑の瞳だけが冷たく燃え、猟兵達へと注がれた。

「あたしは、私は、奪いつくしてやるわ」

 彼女の恋は、まだ終わらない。
緋薙・冬香
「『火傷は、恋だけで充分』って、貴女には失礼な言葉だったわね」
破れた恋の果て…火傷なんてとうに過ぎたものだったのね
それでも…いえ、だからこそ、私は貴女の前に立つしかないわ
「いいわ。火遊び、しましょう?」
とっておきの炎で、貴女のくすぶっている恋を燃やし尽くしてあげる

【血筋に眠る浄化の炎】で攻撃
浄化したいわけじゃないけど
炎の、想いの強さなら負けないわ!
それを使って真っ向勝負!

反撃に何がくるかはわからないけど
もし黒炎玉が来たなら
こっちも緋色の炎を真正面からぶつけるわ
「恋の炎比べ、受けてたってもらいましょうか!」

私、ここに呼ばれたのかもしれないわね?
冬の香りがあなたにもたらすのは…あなたの恋の結末よ


ライラック・エアルオウルズ
恋には苦しい面もある、か
…その苦しさ、僕は想像する他無いけれど

【POW】(見切り/カウンター/フェイント)

放たれる黒炎玉は見切りで回避を試みて、
必要有れば『鏡合わせの答合わせ』で相殺
恋に燻る胸よりは痛くはないとしても、
どれを重視されても少々厄介だからね
…反撃で、連撃は妨害したいものだ

防御で身に纏う衣裳にとされる事を防ぐ為に
鏡を出す振りをしてのフェイント等も交えつ、
敵の隙を突く様にして攻撃を確実に通す試みを
手段は予め密かに手にした万年筆、
速やかに線を引き『■■■』で切り裂く
貴方の恋物語、難しくとも一度は捨てて
新たに素敵な恋をするべきだったと思うよ

…願わくば、貴方の愛の話が聞きたかったな


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

……そう、いいンじゃナイ?
奪うと決めたなら、奪われるのも覚悟の上デショ

「柘榴」を肌に滑らせ【紅牙】発動
相方の問いにも
喰えねぇ現象より美味そうだしネ、と当たり前のように軽く笑い
援護ヨロシクと一息に距離詰める
一撃で傷をつけ、『2回攻撃』で続ける二撃目は『傷口をえぐる』よう狙い定め

ホントは、変わってく自分が怖かったンじゃナイの
ナンて、今更か
いっそ全てをなくしてみたら

敵の攻撃は『オーラ防御』で凌ぎつ気にもせず
再び牙状の「柘榴」で喰らい付いたら
次は刻印「氷泪」で齧りつき『生命力吸収』

戦いの最中、呑気とも取れる相方の声に半ば呆れ笑い
さあね、焦がし過ぎて味も分からなかったりして


火狸・さつま
コノf03130と

こんな想えるて、凄い、ね
けど
奪うのは…愛じゃ、ない

ぶわっと毛を逆立てれば
ふわり、人姿へ

さぁ、奪われるのは、どちらか

『ちょいと遊ぼうか』
トンッと足踏み鳴らし
【燐火】にて先制攻撃狙い

いつもの、お行儀良い詠唱にお耳ぴくり
…コノ、女の子も、食べちゃう、の?
思わず聞くも
へぇ…
気のない声溢し
すっと前向き
攻撃に集中
『範囲攻撃』雷火を放ちコノを援護
……おいし…?
おみみぴこぴこ
後で、どんな味が好みか…聞こ、かな
ききそびれた、好みを

見切りにて躱し
オーラ防御と激痛耐性で凌ぐ

焦れるだけ
恋に恋して、終わった?
奪ったげる、全て
何もかも、燃やし尽くし

【燐火】けしかける



コノ…味と、見た目の好み。比例、する?


鮫島・冴香
あの子もやっぱり、オブリビオンなの…?
オブリビオンならば倒さなきゃならない、けれど…
「あなたが害なきもので、人々へ被害を与えなければ私達に戦う意味はないわ」
少しの望みを
「ねぇ、あなたの想いを聞かせて。何がないの?何を探しているの?
何を奪いたいの?」
(恋愛の色々が、彼女を狂わせたのかしら)
(でも…私は彼女のことを言えない)
左手薬指の指輪に目を落とし
(私もきっと、一生彼と共に在るだろうから)

■戦闘になったら
仲間との連携を意識し、熱線銃にて後方から攻撃を。
敵の攻撃には【オーラ防御】
UC【オルタナティブ・ダブル】で夫の人格を持った自分を出現させ
『冴香、撃つよ』
頷き、銃撃を

※アドリブ、絡み大歓迎です!



●逡巡
 胸が、苦しい。
 部屋で見つけた日記に綴られた、少女の不安を思い出して鮫島・冴香(Sexy Sniper・f13873)はひとり、悩む。
 あれに残されていた言葉が眼前の少女のものであるのだとしたら、どうしようと、嫌われたくないと、苦しんでいたのが彼女だとしたら。

(オブリビオンならば倒さなきゃならない、けれど……)

 武器を握らねばならないはずの右手が、無意識に指輪を嵌めた左手を握り締めていた。

●焼灼
 少女の掌の先に黒が燃え上がる。踊るように、揺蕩うように、揺らめく炎へと少女が息を吹きかければ拡散。前方に立つ敵の群れ――猟兵達へと黒焔弾が襲い掛かる。

「『火傷は、恋だけで充分』って、貴女には失礼な言葉だったわね」

 焔の群れを前に、女の豊かな黒髪が靡く。緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)は先程の部屋で騒霊へと告げた台詞を思い出しながらも、少女に同じく、手の中に小さな灯火を生み出していた。浄化の力を持つ緋色の焔は煌々と眩しく、冬香の思考ひとつで手の中から飛び出して燃え広がる。少女の放った黒を呑み込んで、相殺。

「恋の炎比べ、受けてたってもらいましょうか!」
「いいわ。貴方達だけ燃え尽きて」

 少女の焔はこれで終わりではない。消されることを想定していたか、新たに生み出した黒焔をその手に揺らめかせ、次の攻勢へと移ろうとしている。冬香も新たな炎を生み出し応戦しようとするが、少女の方が聊か速い。間に合わない。
 そこへ、ぶわり。
 冬香より一歩前へと歩み出た茶黒い狐が、ここまで人前では見せる事のなかったその姿を現した。逆立てた毛並みが黒い髪と浅黒い肌に変わり、体躯も成人男性のそれへ。火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は少女より高くなった視界で、向けられる敵意に青を細めた。

「うん、じゃあ、俺と。ちょいと遊ぼうか」

 薄く貼り付けたような笑みを浮かべ、爪先で床を叩く。少女の焔が吹き散らされるのと同時にさつまの足元から彼の瞳と同じ色をした炎の獣達が滲み、じゃれつくように黒焔へと跳び付いていった。焔弾が再び異なる炎によって砕かれる。
 だけではない。群れから飛び出した一匹の仔狸が少女の下へと駆けてゆけば、少女はこれを振り払うように防御、靡くドレスの袖に焦げ跡を残して炎の獣は焼失した。

「なによなによなによ、鬱陶しい!どうして邪魔するのよ、貴方達には関係なんて……!」
「あら。奪うと決めたなら、奪われるのも覚悟の上デショ」

 振り払ったその先、薄氷と少女の緑が交差する。コノハ・ライゼ(空々・f03130)の接近を許してしまった少女は後退り距離を取ろうとするも、コノハの方が幾分一歩が大きい。
 肌を撫ぜた切っ先が、染み出したコノハの血を喰らう。溝に伝う深紅に反応するように刃が牙へと姿を変えれば『いただきます』と亡霊少女に突き立てる。
 少女が裂かれた腕を庇うより早く、二撃目。おなじ傷を伝うように丁寧に傷口を開けば痛みに亡霊少女が叫び、周囲に黒き焔が群れ現れた。
 轟々と唸り声をあげて、黒の焔がコノハへと襲い掛かる。咄嗟にバックステップ。しかし今までの焔弾と違い、この炎は動きを辿って追いかけてくる。避けきれない、ならば炎も喰らってしまえと牙を構えた。
 瞬間だ。コノハの両脇をすり抜けて蒼い狐達が焔弾へとびかかる。

「……コノ、女の子も、食べちゃう、の?」
「んー?喰えねぇ現象より美味そうだしネ」
「へぇ」

 そっけなく悪友へ言葉を返せば、頭上で揺れる片耳以外を再び少女の方へと向け直す。亡霊少女は憎しみを露わに、猟兵達を睨め付ける。手にした杖を振るって、ドレスについた焦げ跡を古代精霊言語で解析、変換。黒の焔弾と共にゆらり、蒼の焔が群れ成して少女の足元から現出する。少女の纏う黒白のドレスがさつまの放った一匹からその全容を再現したのだ。

「あああああもう!燃えろ、燃えて、燃えちゃえ、燃え尽きろ!!」

 一斉に解き放たれた蒼と黒が部屋を埋め尽くさん勢いで猟兵達へと襲い掛かる。最前線で交戦するふたりは夥しい炎の掃射の中、己たちの身だけを守るので手一杯だと判断すれば、背後で攻撃のタイミングを伺う三人を庇う事は諦めた。ほとんどを丸投げて亡霊少女へと突撃する。
 そんな中で、だ。同じ炎の獣で応戦しながら、さつまは炎に牙を立てる相棒に戦闘とは全く関係のない質問を――けれど、ずっと聞きたくて仕方なかった問い掛けを、零す。

「ねえコノ」
「なぁにぃ?今見ての通り忙しいんだけど!」
「味と、見た目の好み。比例、する?」

 一度だけ、コノハが悪友の姿を盗み見る。呑気に問いかけてくる横顔は数多の熱に照らされてココアのような色合いを見せる。

「……さあね、焦がし過ぎて味も分からなかったりして!」

 物量を増していく黒の焔を喰らわせながら、コノハは笑った。

 さてその背後、二匹の狐が嬉々として戦う姿をライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は記す。男性のバディー物というのは中々に盛り上がる題材だ、どうやら戦況も此方が有利、多少のネタ集めくらいは許されるだろう。

(しかし――恋、か。甘酸っぱいだけではなく、いたく苦しい面もある)

 その苦しさを経験したことのないライラックには、いかほどの痛みであるかを想像することしかできない。けれど、この世にこれほどの熱量を持って動くモノがあったのだということは知れた。なかなかの収穫だ。
 メモ帳を閉じ、帽子の中へ。眼前には二人が防ぎ切れなかった分の黒焔と蒼狐の群れ、そろそろ戦いにも参加しなければと。

「鏡よ、鏡と、自問自答――鏡合わせの答合わせやいかに」

 癇癪を起こすほど放たれた黒の焔を、完全に読み切ったライラックの鏡が吸い込んだ。が、これで終わりではない。蒼狐の群れがライラックを焦がそうと接近する。
 作家が取り出したのは愛用の一本、万年筆の軸先にインクが浮かべば、インクを散らすように強くペンを振るう。
 まるで侍が刀を振るったかのように描かれたインクの軌跡が炎の獣たちを両断し、拓けた道をゆっくりと歩んで進む。
 コノハとさつまに追い詰められた少女は部屋の中心、ライラックの進行方向上に炎を振り撒きながらやって来ていた。焔をさらにインクで塗り潰して、少女へ優麗に礼を一つ。

「御機嫌ようお嬢さん。いや、こうして戦う事がなければ、貴方の愛の話が聞きたかったのだけどね」
「なによ、邪魔しておいて随分な言い草ね」
「邪魔もするよ。僕達には護らねばならない人たちがいる。――ああ、そうだ。貴方の恋物語、難しくとも一度は捨てて、新たに素敵な恋をするべきだったのではないかな。護りたい、別の誰かを知っていたら貴方は変われたかもしれない」
「簡単に言って……!」

 ライラックへと強烈な嫌悪を向ける。恋知らぬがゆえの無遠慮な発言。仕方のないものではあるが、乙女の恋心とは文字では書き記しきれないほどの複雑さなのだ。

「難しい?そうに決まっているでしょう?捨てられるような想いなら!こんなに苦しくなんてなかったもの!!」
「そうね。一度燃え上がった心って、簡単に消せないわ」

 ライラックへと向けられた黒焔の一撃を、割って入った冬香の焔が打ち消した。
 芽吹いて間もなくとも、冬香には恋の恐ろしさはよくわかった。灼けつく感覚を知るまではただ温かかった感情が、相手を想えば想うほどに熱を増し、心を焦がし、時に形も変えて狂気さえ孕む。
 この少女は、狂気の只中で叫んでいるのだ。まだ終われないと、捨てられないと。

「だからこそ、私、ここに呼ばれたのかもしれないわ。冬の香りがあなたにもたらすのは……あなたの恋の結末よ」

 冬香の糸がゆるやかに空を棚引く。十の指で操って少女を縛り上げれば、黒の焔が群れ成して冬香を襲い掛かって来るが、これをライラックが魔法の鏡を呼び出して相殺。此方は任せてと淡い紫が細められた。
 ならばと、冬香は手元へ渾身の想いを籠める。そうだ、想いの強さで負けられない。彼女が終わらせられない恋を終わらせてあげられるのは、同じように恋を知る誰かでしかない。冬香の内を流れる血流が、更なる熱を呼び起こした。

「緋は火なりて、私はこの世ならざるを薙ぎ、祓うモノなり――目覚めよ!」

 炎が十の導火線を伝って少女に着火、浄化の焔が少女の身を、心の穢れを焼き尽くす。全身が焼ける様に痛い。けれどその肉体、ドレスのひとひらまで焼け跡ひとつと残さない。冬香の焔は狂気に蝕まれた彼女の心を焼き焦がしたのだ。
 焔が消えればふらり、覚束ない足取りの少女を前に猟兵達は攻撃の手を止める。あと一撃、あるいは二撃。それで決着がつくというそんな時。

「あなたが害なきもので、人々へ被害を与えなければ私達に戦う意味はなかったわ」

 なかったの。と、悔しそうに銃を構える女がいた。
 冴香はずっと、考え続けていた。戦う四人の姿を見ながら、己の想いを叫ぶ少女の姿を見ながら、一番後ろで悩み続けていた。
 どうにも、彼女を純粋悪と思えなかった。彼女を狂わせたのはたった一つの恋で、捨てきれなかった感情で、かけがえのないものであるはずなのだ。それは、自分と同じだ。
 愛する人を失って尚、産まれるはずだった命を無くして尚、想いを断てずにここにいる冴香には亡霊少女の心が痛いほどわかる。だからこそ、倒さなければならないという事も。
 銃を握る手が微かに震えていた。このままではいけないと分かっていてもブレる照準、定まらない感情。
そんな冴香の手を、同じ形の掌が優しく支えた。

――落ち着いて。さあ、撃つよ、冴香。

 自分の声だった。けれど、自分ではないやさしさと温かさで紡がれていた。銃口が真っ直ぐに亡霊少女へと定まって、不思議と迷いが消えていく。ああ、そう。いつだって彼の言葉があれば――
 頷いて、トリガーを引いた。弾丸の軌道上に躍り出た黒の欠片ごと、少女の胸を撃ち抜いた。


●想いを伝えたかった、きみへ
 消えゆくもうひとりが背を押した。故に冴香は撃ち抜かれ崩れた少女の下へと歩み寄る。己は滅ぼされるものだと理解したからか、少女は身を抱いて目蓋を強く閉じる。
 しかし、冴香は銃を下ろし視線を合わせるように屈むと、優しく、宥めるように声を掛けた。

「ねえ、聞かせてくれない?」

 恐怖に彩られた少女の顔に微かな困惑が浮かび上がり、ゆっくりと見開かれた両目に冴香が映り込む。

「あなたの想いを聞かせて。……どうして、奪うなんて、そんなことを?」

 暴走した想いを吐き出すだけであった先程までの彼女には聞けなかった、本当の少女の心。それを暴き出すために冴香は問う。少女の心は恋に狂ってしまっていたが、戦いの中でぶつけられた否定と肯定、許容、幾多の言葉と浄化の焔が弱った彼女に言葉を紡ぐだけの心を与えているはずだ。今なら、届く。
 じっと目を見つめて、答えを待つ。すると、

「……だって、私の、私の想いは、本物だったのに」

 ぽつり、呟いた。少女はたどたどしく己の想いを拾い上げ、整理していく。

「本物だったの、私、認めてもらえたの。でも、でも届いては、いなくって」

 パズルのピースが嵌っていくように、心の全容が明らかになっていく。ずっと見えなくなっていた、求めていたはずのものが形を作っていく。

「ちゃんと伝わらなかったのかなって、何度も伝えたわ。でも、でも私は認められただけで。本物だって認めてもらっただけで、それ以上はもらえなかった。私だけのひとになってくれなかった。だから、奪ってでもって、思ったの」
「それであなたは満たされたの?」

 ふるふる、少女は首を振る。

「本当は、奪うんじゃない。受け止めてほしかったのよね」

 認めるのでもなく、無理矢理に己のものにするのでもなく。
 肯定でも否定でもいい、受け止めて、言葉にして心を返してほしかった。

「だからあなたは苦しかったのよね」

 少女へと、武器を持たない手を伸ばす。すると、攻撃意思の有無に気付けなかったのだろう。身体を穿たれながらも黒の焔の一欠片が弱弱しく飛び、少女を庇うように両の手を広げて冴香の手を阻害する。
 戦いの合間、これは少女を守ろうと行動していた。少女の望みを叶えるべく、どんな命令にも従った。叫びに反応して、彼女を傷つけたものを彼女の意思と関係なく襲おうとした。冴香は伸ばした手を引いて、代わりに少女へと微笑む。

「ね、今なら。今なら少しこの子の気持ちが分かるんじゃないかしら。あなたのことを必死に守ろうとする、この子の気持ち」
「あ」

 それ以上、冴香は何も言わなかった。そこから先は彼女たちだけのものだと、少女たちに背を向ける。もう一人の自分が満足そうに笑って消えた。自分たちのやるべきことはこれで終わったのだと、待たせ続けていた四人の仲間達に帰還を促した。

 力尽きた一欠片が少女の掌に落ちる。今にも消えそうなその身体が崩れないように、そっと頬に寄せると聞こえた、小さくか細い、人間では理解しようのない言葉。それでもわかった。確かに聞こえた。少女ははじめてそれの想いを受け止められた。

「ごめん、なさい」

 溢れ零れた涙が、燃え尽きた黒を濡らした。崩れ行く身体をそっと両の掌で優しく包み込んで、

――ありがとう、そばにいてくれて。

 受けた傷の痛みも忘れて少女の亡霊は微笑み、掌の黒と共に消えていった。


●報告
「みんな、報告ありがと。おかげさまで事件の全容がようやくわかったわ」

 戦闘に参加した面々からの最終報告を雑にメモ書きして纏めれば、チェイザレッザはペンをくるりと回した。犯人の正体も判明し、オブリビオンも無事に倒すことができた。
 しかし、何故。突然彼女たちはこの迷宮に現れてしまったのだろうか。

「それについては先に戻って来てくれた子達が情報を集めてくれたわ。どうやら、原因はバレンタインデーにあるみたいね」

 そう、想いを伝えるために多くの生徒たちが耳の間を利用したこと、これが原因となっていた。例え叫んだ想いが真実(ほんもの)であろうとも、元より興味がなかったり他の誰かを好いている相手からすれば不必要なものだ。
 告白して、恋に破れ、けれどまごうことなき本当の想いを捨てきれなかった少女たちは、あの奥の部屋で涙したのだろう。怒り狂ったのだろう。結ばれなかったが故に他の幸福そうな誰かを強く妬んでしまったのだろう。その思念に引き寄せられてセイレイに愛された少女の亡霊が骸の海よりまろび出てしまった、というわけだ。
 さらには亡霊と共に連鎖召喚されたポルターガイストたちが部屋に残っていた少女たちの思念――あの日記の断片と同調、暴走。部屋に入って来たカップルに激しく嫉妬し、攻撃したようだ。

「でもま、話聞く限りその亡霊ちゃん、すっきりしたんじゃない?最後に思いっきり自分の想い爆発させてさ、ちゃんと自分を見てくれてるものに気付けてさ」

 きっと、これでよかったのよ。と女は笑う。
 メモ帳を閉じて、ぐっと伸びをするとチェイザレッザは皆に帰還を促そうとして、ふと口を閉じた。

「そういえば、そろそろホワイトデーよね。……どうする?移動はもうちょい待っておくから、購買寄ってく?」

 異なる世界にいられる貴重な時間。この程度のおまけは許せるだろうと胸を張れば、買い物を希望した面々を引き連れて購買のある別の部屋へと案内する。戦いの後の愉しく穏やかな買い物を終えれば、猟兵達は帰路に着いた。

 こうして、アルダワ魔法学園を小さく騒がせた、少女の恋のお話は幕を閉じた。
 想いを伝えたかった、伝わらなかった、届かなかった。
 それでも大切な物を見つけられた、気付けた。たったそれだけのお話だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月14日


挿絵イラスト