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きらめく果実をショコラに添えて

#サクラミラージュ #ノベル #バレンタインノベル2023 #不死蝶のグルメ

灰神楽・綾



乱獅子・梓




――カランカラン、と心地良いドアベルの音に迎え入れられ踏み込む店内は、きらきらと眩い光が反射していた。ルビーの苺に、琥珀のレモン、タンザナイトのブルーベリー。温室を思わせる硝子張りの天井から降り注ぐ、たっぷりの光を浴びてプリズムを放つ果物たちは目にも鮮やかで。
「うっわ〜〜!めちゃめちゃキレイじゃん!」
 可愛いもの好きな灰神楽・綾
(廃戦場の揚羽・f02235)の心もバッチリと掴んでいた。手持ちのデバイスを構えて絵になるところをすかさずパシャパシャと撮って行く様子に、少し後方から見ていた乱獅子・梓
(白き焔は誰が為に・f25851)がやれやれとため息をつく。
「綾、程々にしておけよ。でもこれは確かに…撮りたくなる気持ちはわかるな。」
 ちょうど近くのミルクキャラメルの枝の先に実った、トパーズめいたオレンジに梓が顔を寄せる。サングラス越しにも分かるサンキャッチャーのような美しさに感心していると、ふわりと甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。宝石に見えてやはりこれは“果実”なのだと実感する瞬間だ。そうしてひとしきり写真撮影と観察見物が済んだあたりで店員から籐編みの籠と手袋を渡され、いざや本格的な“宝石果実穫り”は開始される。穫り場、もとい宝石果実の飾られた場所は、地面からは一段上がった棚の上。ちょうど綾と梓の身長だと腰より少し下の高さに、土に見立てたチョコ綿飴の畑や、小さめのミルクキャラメル果樹があちこちに用意されていた。
「俺は全種類集めたいなー。幾つくらいあるんだろ?」
 やはり人気があるからなのか、苺やオレンジなどのメジャーなフルーツは探さずともそこかしこになっていた。その辺りも勿論手堅く逃さず籠に詰めながら、綾が珍しいものはないかと目を光らせる。
「見たところかなり豊富そうだよな。季節も関係ないみたいだし…ほら。」
 チョコ綿飴の畑を見ていた梓が、探し当てた宝石をひとつ摘み上げてみせる。その指先にころんと丸く輝いていたのは。
「お、キウイだ!皮無しでまるままとか綺麗だなー」
「見た目も少しずつ変わってて面白いな。」
 他にも木になった柘榴をぱかりと開けてみると、アメジストのクラスターに似た形状になっていたり、房で実ったバナナを捥ぐと皮はイエロートルマリンに中身はオパールと色味の違いを楽しむことが出来た。そうやって少しずつ籠の中が賑やかになってきたころ。
「あ、こっちにもう一つ埋まってそう…って、焔!?」
 今まで梓の肩の上で大人しくしていたドラゴンの焔が、突然キュイ!と一声高く鳴いた。そしてもう我慢できないとばかりにチョコ綿飴の畑に飛び込もうとしたので、慌てて梓が止めにかかる。
「あー匂いにつられたか?あちこちからするもんな…って零もか!」
 梓が手の中でワタワタと暴れる焔に苦戦していると、反対側の肩にいた零も辛抱が切れたのか、ピョン!と飛び出してキャラメルツリーに飛びつこうとする。それを今度は綾が捕まえて、わかるわかる、と宥めながら深く頷いた。
「しょーがないよね。どれも美味しそうだもん。まだまだ集めたいとこだけど…一旦席に着いて味見にしよっか?」
「そうだな、食べたら少しは落ち着くだろうし。それじゃ移動するか」
 店員の案内に沿って移されたのは、程よい日当たりが心地良い窓際の席。“4人”との気遣いなのかテーブルも広々としていて、焔と零が乗っても十分なスペースがあった。渡されたメニューもショコラからして甘さや苦さにミルクの度合い、産地の違いなども選べ、そこにサンドイッチの軽食や各種フルーツリキュールも並ぶのだから圧巻の多さだ。梓がじっくりと悩んでいる隙に、綾が端から端まで全部!と店員に耳打ちしようとしたのをきっちり阻止しつつ、それでも結局はたっぷりの量の注文を入れた為に、暫く待てばテーブルの上は豪華な様子となった。
「それじゃあいただきまーす!」
「いただきます。まずはやっぱり…これからかな」
 そう言って2人がまず手にするのは、温かなショコラショーだ。色々と選べる中で1番よく好まれるとお勧めされた、スタンダードなミルクチョコタイプ。程よい甘さとカカオの香りが相俟って、とろりと舌の上を蕩けていく飲み口には思わずほぅ、とため息に似た声が溢れた。
「ん〜!ちょうどいい甘さ。次はこっちもまずは“そのまま”の味を…っと!」
 1杯目をするりと飲み干した綾は、早々に籠の中から宝石果実を摘み出す。まずは一番数の多かったルビーカットの苺。生のものとは違う、一度かつりと歯にあたる硬さが新鮮だが、噛み切るにはさほど力はいらなかった。柔らかな飴に似て味わいはギュッと苺の甘さと香りを煮詰めたようで、コロコロと口の中で転がすだけでも味わい深い。一粒食べ終えたら、今度は本命とも言えるショコラショーと宝石果実のマリアージュへと興味を移す。一番キラキラとした苺をぽとりとカップへ落とすと、同じくらい瞳を輝かせて綾が声を上げた。
「梓、見て見て!溶けるとこもすっごい綺麗!」
「ん?おおー、本当だ。渦がキラキラしてるな。ほら、こっちも」
「わ、そっちはオレンジ?良い香り〜」
 スプーンでくるりと混ぜると、ショコラと果実が光を跳ね返しながら混ざり合うのが美しく、その瞬間に立ち昇る香りがまた折り重なってたまらないものになった。溶け切ったところを啜ると先程の甘さに柔らかな酸味と弾けるような果実の爽やかさが加わって、まるで別の飲み物のようだった。
「うお、うっま…!凄いな、ドライフルーツより味が濃いと言うか深いと言うか。これ、カカオの産地や果物ごとの相性を調べ尽くしたくなるわ。」
「わかるー!甘いのも勿論合うけど、グッと苦めのやつもきっと果実の味が引き立つよねぇ。あと俺は…これも嬉しいポイントかな!」
 そう言って綾がはむっ、と齧り付くのはティースタンドに並べられたサンドイッチだ。生地にカカオを混ぜ込んだ甘くない食パンに、胡瓜やハム、卵フィリングなどを挟み込んだ定番のものだが、ショコラに果実にと甘いものが続く中には嬉しい塩っぱさになる。他にも皿にはカチョエペペやスモークサーモン入りポテトサラダ、一口大のキッシュなどのセイボリーが並んでいて、ちょうどまるままのエメラルドキウイを分け合って食べていた焔と零も、次はそっちを…と虎視眈々目を輝かせていた。そしてそれは梓対しても、違った魅力を放っていて。
「お、このラインナップは…酒にも確実に合うな!よし、フルーツリキュールも頼もう。まずはさっぱりめに檸檬だろ、ライチにピーチ…」
「あ、俺も飲むー。アプリコットに…あ、カシスも外せなくない!?」
「そうだな。…って、綾は飲む量程々にしておけよ?」
「だーいじょうぶだって!じゃあ注文が来るまでに、お酒に合いそうな宝石果物を摘んでこよ。…その前に、っと!」

――パシャリ、と軽快な音が鳴る。
テーブルを彩るあたたかなショコラにきらきらの宝石果実。
ご馳走に齧り付きながら楽しげな焔と零に
その姿へと微笑みを浮かべる綾に梓。
その全てを1枚の写真へと納めて。

甘くて賑やかで楽しい一瞬を、そっと切り取った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年03月19日


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