歯車は、燃えども潰えず
●
――バぢゅ……ッ!
熟れたトマトが潰れるような、飛沫が床に飛び散る。
暗所に響く怒声で、日和見・カナタ(冒険少女・f01083)は寝ぼけた意識を覚醒させた。
怒りの矛先は囚われの少女に向けたものではない。黒いスーツに白いシャツを着込んだ厳しい男が、部下と思しき者の頭を機械の腕で「握り潰した」のだ。
「あ、あ……」
「ひぃいいッ?!」
「誰がこんなガキ連れて来いっていったよ。お゛? 他の組に舐められんぞ」
「ち、ちが……こいつが――あギゃん!?」
怒り狂うのは顔に傷のある、いかにも粗野な男だ。手にもメカメカしい鈍器を持っている。身長は2メートル近くあり、色黒で、全身をサイバネティクスな人工筋肉でがっしりと覆われている。
見せしめに部下を数名屠ると、大仰にため息をついた。残りの男たちは全身総毛立ち、竦み上がる。
「オジキになんて言うたら……はぁ」
「な……何をしてるんですか、あなた! ひ、人の命をなんだと思ってるんですか!?」
カナタは頭にカアと血が上り、思わず叫んでいた。立ちあがろうとしたが、ファイバー製の拘束具が絡みついて姿勢を直すのにもたついてしまう。どうやら虜となっているらしい。汗ばんで張り付いた衣服が気持ち悪い。ただでさえ昼夜を分かたず「捜査」をしていたのだ。汗に汚れ、19歳の冒険少女としてはその不快感は容易に拭いがたい。
その捜査内容はズバリ犯罪組織の調査。クスリと女性の売買を主とするサイバーザナドゥのとある犯罪組織、その末端や鉄砲玉を虱潰しに返り討ちにし、ついに組織に繋がる尻尾を掴んだ、その矢先のことだった。まさか向こうの若頭(ナンバー2?)が姿を現すとは。千載一遇のチャンス到来である。
「あなた! この組織の偉い人ですね! 大人しくこの拘束を解いて、ぐっ……ワイヤーが絡みついて……こんなこと、すぐにやめさせてみせます!」
「驚いた。洒落抜きで、こんなガキが……?」
「ガキじゃないっ。世界を股に掛ける冒険家の私には、カナタという立派な名前があるんですから!」
額のグリーンのゴーグルが曇るくらいに怒りで上気して、ジタバタと暴れる。存外締め付けが強固である。
聞き込みの最中、ほんの僅かに油断し拘束されてしまった。だが、蒸気機関の出力を上げればこの程度の拘束はすぐ解ける。
「こんな拘束、すぐに破って、とっちめます!」
赤銅の腕が唸りを上げたところで、ずいと踏み出した若頭が、カナタの頭を掴む。出力調整にリソースを割いていたカナタからすれば寝耳に水。
驚く間もなく浴びせられた言葉は意外な提案だった。
「怖い怖い。ええと、カナタちゃん。ここは穏便にゲームで決めないか。俺たちだって命の奪い合いがしたいわけじゃない。痛い目見るのはごめんなんだよ」
「……ゲーム……? 冗談でしょう。全員まとめてお縄につくのは決定事項! 情状酌量の余地もありませんから!」
「まあまあ、お前ならそれができちまうだろうさ。俺たちを追い込むためにあえて死地に飛び込んできた勇気ある冒険家様に、手を上げるなんて畏れ多いってコト。宝……なんてモンはねえが、決定的な証拠が必要だろう? ……オイ!」
「へい」
部下たちが取り出したアタッシュケースには粉末の梱包、シリンジ、チューブと吸引器、それに毒々しい色合いの――この世界の薬液。組み合わせれば無尽蔵に廃人を量産できる、彼らが犯罪に関わっているということの、紛れもない証拠。
これを提供すること、これがゲームに勝利したカナタに与えられる褒賞だ。
「ルールはこれから二時間、お前が声を上げないこと。それだけだ。まあ叫ばなければいいってことだな。どこかに叫ばれて人でも呼ばれちまったら、それこそ言い逃れできないしなあ」
「(……その証拠も根こそぎ押収して、全員罪を償ってもらいますからね!)」
ゲームなんて最初から本気でやるつもりはない。隙を見て制圧してしまえばいいのだ。一犯罪組織の面々、若頭をはじめ鍛え上げた上、機械化で武装もしている……とはいえ、この場にいるのは十人も満たない。カナタは内心で舌を出しながら首肯する。
この時点でカナタは致命的な過ちを犯している。そのミスはいくつかあるのだが、最たるものは「ゲームなんて最初から本気でやるつもりはないのは、お互い様ということ」、そして「囚われの身となっていた己を過信したこと」だ。よーいドンの力比べならいざ知らず、油断が招いた結果を冒険心と見誤れば、それはただの蛮勇となってしまう。
すぐに、身をもって、己の判断の結果を味わうことになるのだ。
――ドスッ……!
「あぐっ! え……?」
いきなりのことに、しばらく頭が追いつかなかったが、ゆっくりと視線を落として下を見ると、下っ端の右手が握り込まれた拳に変わり、お腹の真ん中、へその辺りにめり込んでいる。
「むぐッ!? げほ、げほっ!」
それに気づいた瞬間、押し出された空気が勢いよく逆流してくる。カナタは咳き込み、垂れかけていた涎を小さな粒として吐き出した。
「おいおい、まだスタートの合図をしてねえだろうが。まあお前の今の悲鳴は聞かなかったことにしてやるからお互い様だな」
「へっへえ、でもいいんですかい?」
「やれ」
――どむっ、ドゴッ、ドボォ……!
壁に押し付けられるようにして衝撃を逃せないようにすると、男の一人が連打し始める。速くリズミカルな割にへそへの連打は重く、着実にカナタの内臓をシェイクしていた。
拳が刺さるたびに頬が膨らみ、すぼんだ口のわずかな隙間からブぷっと唾液が噴き出される。
「お゛うっ?! ぷげっ、ごっ、ほぉっ?!」
カナタの汗や吐き出された唾液が付き、少しベットリとした拳を振りながら、男は覗き込む。
「へえ、結構元気そうだな」
「なん……ですか、おかしぃ、ぅぷ……! なぐられ、た、す……すうかい、ぐらいで、お……おなかぁ……ぐちゅぐちゅになってぇ……」
内臓の気持ち悪さと波打つように到来する断続的な痛みで、声が咄嗟に出せない。
ただ、搾り出すような声だからこそカウントされなかったのは怪我の巧妙とだったろうか。
「ぐちゅぐちゅか! 可愛らしい言い方すんじゃねえか。別に『ぐちゅぐちゅ』になってねえよ、内臓はな」
「カナタちゃんよ。今のお前は脳内の痛感受容体を麻痺させて、快感神経を過敏にしている。本来なら全部遮断して麻酔みてぇに使うそうなんだが……過敏になった神経が『特定の刺激』にだけ反応するように『誤認』させたら――あー、いや、口より体に説明する方がわかるよな」
頭がぼーっとする。無意識に腹部を前面に晒した状態。男がが狙う箇所は自ずと定まった。
筋肉質な握り拳、それが勢いよく伸び出され、無防備なカナタの腹へと真っすぐめり込んだ。
――ドゴッ!!
「んっォ゛?!」
体が、おかしい。何重にも膜に覆われたように感覚が鈍くなっているのに、殊更痛みには敏感に反応して、内股に滴りそうになるくらいまで疼きが止まらなくなっている。下腹部と脳が直結しているかのようだ。ジンジンと殴られた箇所が小刻みに絶頂にほど近い感覚を訴えて、次の殴打を期待してしまっている。おそらく、何か外的に衝撃を受けることをトリガーに正常な感覚を壊す危険薬物。
この身が自由なら転げてのたうち回って、股ぐらを掻きむしりたくなる疼痛。そして小一時間ほどは手淫に耽りたくなってしまうような欲望に駆られた。その薬物が麻薬に近いものだと、脳裏のスイッチを入れられたことではっきり認識した。まずい、まずいまずいまずい! 混乱した脳は理解が追いつかず、ただただ痛みを甘受してしまう。
「はっ……はーっ、はっ、はぁあ……これ、うそ……ですよね、私、わたしッ……ぃ!」
「本来なら引っ張ってきたオンナを一発で商品にできる代物だ。お前は厄介そうだったから、念のため脳が『ぐちゃぐちゃ』になるレベルで投与しておいたんだぜ? 普通に話しかけてくるから驚いたのは事実なんだが」
――ボゴッ!
「お……おォ゛ッ……!」
「お前はもう、終わりなんだよ、カナタちゃん」
「うぅ?! ぐうゥぅ゛〜ッ!?」
カッと見開かれる両目と、対照的に只管だらしなく開かれる口。くしゃくしゃの雑巾のように折れた体躯。その全身を余すことなく駆け巡る、衝撃! 痛い。痛くて、苦しくて、なのに最ッ高に気持ちいい。
強烈な打撃と痛みに、涙が滲む。
「げォッ、ぐ……」
――ぎゅりっ!
「んッえぉッ!! んぐゥゥッッ?! ごっ゛……ぽッ?! お、ぐ……ええ゛ェェッ!!」
拳が引き抜かれていなかった。あまりの痛みにそんな簡単なことも理解できない不覚。そのまま、ギュルリと腹肉と腹膜内がねじられる。腹にめり込んだ拳が半回転する。
千切れそうな痛みに、女性とは思えない鈍く低く響いたうめき声は、誰が聞いてもカナタが声を上げたと判断しただろう。
「あらら、声出ちゃったな。じゃあ罰ゲームといっとくか」
「は……ひ、ひゅ……ばつ……?」
「罰ゲームは同じ条件で最初からリスタートだ。ただし時間は四時間に増やす」
朦朧とした意識が、血の気が引いたせいでさーっと明瞭になる。苦悦に意識を取られてしまったが、今殴られていたのだってものの数分だったはずだ。それをあっという間に制限時間を倍にされてしまった。被虐のクスリの効果がいつ切れるかもわからないのに、こんなことを続けているわけにはいかない。今すぐにでも制圧しなければ……!
無理やり蒸気機関をフル回転させ、力を込める。猶予幾許もない。即刻、実力行使の時間だ。
「こうやって……こんな風に、多くの女性を拉致して、酷い目に……? ゆ、ゆるさないっ、あなただけは絶対に許しませんっ!」
「おっと、それともう一つ、ペナルティだ」
ガクン――と、立ちあがろうとした刹那、まるで人形の部品を外すようにカナタの片脚がポロリと「外れた」。
何が起きたかもわからないまま、もんどり打って地面に這いつくばる姿勢で転げる。怒りに燃える冒険家から一転、惨めに許しを乞うように床に顔を擦りつける姿を晒してしまった。
「がッ?!」
片脚を失い、もう片脚で辛うじてバランスを保っても立つのがやっとの状態。とても機敏に戦える物ではない。
「ぐ……蒸気機関が、あッ……!」
「この界隈じゃ義肢なんて珍しくもなんともねえ。だからこうしてハッキングして、中枢側を軒並み切り離して無力化すンのは常套手段なんだよ。カナタちゃん」
「ぐううっ!! いつ、こんな細工を!?」
「最初からさ。投薬した時に神経を過敏にする代わりに別の神経が鈍化することがあるらしいな? また一つ賢くなったねえ!」
「ゲームに勝ったら手足は返してやるよ。もっとも負けたら、残りの手足は一本ずついただくけどな。お! へへ、これはこれで高く捌けそうだ」
舌なめずりせん勢いで、取れたカナタの脚を持ち上げしげしげと見つめる男。その様子に、茫漠と取り止めのない思考の中にはっきりとした嫌悪感と、怒りが無いまぜになった感情を催す。
そんなカナタを嘲笑いながら、男たちはバランスを崩したカナタに群がる。さながら灯りに集う蛾のように、寄ってたかって痛ぶり始めた。
男の一人はカナタが逃げられないように片手で彼女の背中を支え、真っ青な顔になった彼女に、膝当てを装備した別の男が近づく。
――ドズゥっ!
「あ゛ぁ゛あッ?!」
鋼鉄の膝が、カナタの腹全体を押し潰した。腹の内側からは「グチゅぅ」と、内臓が潰れたような音がする。危険ドラッグで感覚がめちゃくちゃになった腹筋で、鋼鉄の一撃を受け止めて平気でいられるわけがない。実際に壊れていなかったとしても、カナタの心を折るには十分な一撃だった。
――びりっ……!
「えっ?! いやっ、やだっ、いやあッ……やです、や、めェっ!」
その心の間隙を突いて、下着や潜入用の着衣を破り捨てられる。
剥き出しになった皮膚は膝蹴りで赤黒く染まっており、本来なら呼吸できなくなるほどの痛みを繰り返し訴える。凹んでいた腹が、そして潰れていた内臓が、元の形に戻っていく。膝が抜かれた事で若干苦痛が和らぎ、カナタは息を吸い込んだ。
だが、次の瞬間、まさにその瞬間を見計らって、再び鋼鉄の膝がカナタの腹に突き立つ。
――ドボォ!!
「ぅあ゛あッ?!」
「仕方ねえな。これでも咥えてろ」
「ム゛ゥッ! ふ、ぐ……ッ?!」
己の舌先に、べっとりとクロッチに汁気が付いた下着が触れ、それで口を塞がれるとカナタの抵抗意欲はいよいよ萎えてしまった。息苦しくて仕方ない。せめて声を出さないことで嵐が過ぎ去るのを待つ心地だ。
代わりに催されるのはインモラルな気持ち。言い知れない背徳感がカナタの全身を湧き立て血が沸騰するようだ。興奮が蒸発し、生ぬるい吐息へ変化している。
膝蹴りがヒットするたびにカナタの口端からくぐもった悲鳴と吐瀉物が吐き出された。全く容赦のないどころか勢いを増す膝蹴りは、脂汗を浮かべるカナタの腹筋を破壊し、内臓を蹂躙していく。
――ドボォ! ドズッ! ズボォッ、ズドォッ、ドォン!!
「ゔっ! ゥげ……おっ!? ぐぶッ?! ブッ、げ……ぉ……へ、ぉ゛……❤︎」
十数発、蹴りの連打を食らったところで、男にもたれるように倒れ込んだカナタは、腹を庇うように体を折って、胃の中身を全て絞り出す勢いで嘔吐する。
数瞬のうち、酸っぱい臭いが口いっぱいに充満して、その不快感に叫び出しかける。
口の中に布生地が詰まってなければ痛みの余りに叫んで転げ回っていたことだろう。男たちはこの「ゲーム」が少しでも長く愉しめるようにカナタの苦しむ様を見て、弄んでいるだけだ。
「いい声になってきたなあ? じゃあお次はこいつで鳴かせてやるぜ」
「ふんッ、フグゥッ!」
カナタは、腹部の激痛に耐えながら、ゆっくり俯いていた顔を上げる。霞む視界に映ったのは、打擲用武器。それも特殊警棒やボディ・ボーンコードを違法に改造した、より痛めつけるのに特化した代物だ。当然イヤイヤと目尻に涙を浮かべて首を振る。
――バギィっ!!
「ぅえ゛ァっ?!」
ぐるんと弧を描いて振り抜かれた警棒は、カナタの胃の辺りをクリーンヒットしていた。胃の中に残っていた胃液は絞り出され、口の端から布を伝って垂れていく。気絶も許されない猛打である。
男はさらに警棒を振り回し、的確なコントロールでカナタの腹を部位ごとに抉っていく。まずは胃。
「う……ぇエ゛ェ゛っ」
空っぽのはずの胃からさらに饐えた液体が溢れ、同時にとろりとした温かい赤液が漏れてくる。次は脇腹。
「ヴっぐ?!」
身を捩る。一つ一つの痛みに反応している余裕もないのに、噛み締める顎が震えるくらいの力が余分に掛かってしまう。
転げ回った拍子に両腕を掴まれて、その義肢を身幹から無理やり引き剥がされてしまった。人工神経がベリベリと千切れていく感触と同時に、へそ目掛けてフルスイング。
――ボゴォ!! メリ、メリリッ……!
「べッ……げぼぉ……ぉ゛へぇ❤︎」
「どうした? 絶対に許さないんじゃなかったのか? 悔しかったら取り返してみろ」
「腕取られて甘イキしてやがる。見ろ。ここも洪水だぞ」
「へへ、なら栓をしてやらないとな」
布地を吐き出して、勢いよく嘔吐く。挑発されても、薬のせいだという言い訳も、自分を奮い立たせることもできない。
両腕と片足を失って歪なバランスとなったカナタの一糸纏わぬ姿が、そして己の意志で閉じることも隠すことも禁じられた秘所が、ぐいーっと片足を持ち上げられて衆目に晒されてしまった。
土手高の恥丘からさらに中心部へ視線を動かす。小ぶりだが、均一がとれて綺麗にまとまっている。小陰唇のはみ出しもないし、包皮も伸びたり出っ張ったりもしていない。淫肉は濃い桃色で、肛門のようにメラニン色素が溜まっている訳でもない。漂うのは汗で群れたような強烈な芳香。クスリの効果だけでなく本人の資質として興奮しきっていることは、ぽたぽた、つつうと糸引く淫蜜の存在で火を見るより明らかである。
カナタの頬がますます熱帯びる。男たちにとってカナタはもはや出荷待ちの商品である。ゲームの最中ではあるが、若頭の前でそういった品定めを丹念に行うのも下っ端の仕事である。
――にちゅ、ぽた、ぽた……っ!
指先を陰唇の縁に掛けられれば、肉が裂けるようないやらしい音を響かせるだろう。カナタ自身も確かに聞いた。半開きの口から涎が垂れる、上下ともに。透明の、粘り気のある液体は、ナカから滴っている。
「もう一本の足もいっとくか」
「待てよ。栓をするのが先だ」
「なら同時にいっとくか」
「!? や、やめ、おかしくなっぢゃ゛――あギぉ゛ッ❤︎」
残った義足を捻り引き抜きながら、股ぐらが地面にぶつかるより前に警棒を突き刺し、串刺しにする。内部から浮き上がる衝撃に舌をぴんと突き出し、びくんびくんびたんと体が上下した。下腹部が別の生き物ように痙攣し全く制御できない。
「あぁー❤︎ あ゛ー❤︎ ひゅご❤︎ あ゛〜っ❤︎」
打たれたり突かれる部位によって異なる反応を見せるカナタに、男たちは満足そうに頷きあう。
――ボゴッ! ボゴッ! ボゴボゴボゴッ!
「あえっ!? おげっ!? ごぉお゛ォ゛おおおッ!?」
鳩尾。切断された疑似神経が脳へと送り込む焼けるような痛みと、喪失感に疼く断面は、文字通り灼けついたような凄まじい痛みに晒されている。にも関わらず、息を吸い込むことができず、繰り返し吐き出すことしかできない。鍛えているとか強化できる範疇を超えている。くぐもった悲鳴を飲み込むのも、当然不可能であった。
「はい残念」
「カナタちゃん、堪え性がないね。次の制限時間は十六時間だ。頑張ろうね」
耳に入ってくる言葉がただの羅列となって理解を拒む。下腹部に力が入り、ひとりでに腰が浮き上がって(実際に突き刺されたまま浮いているのだが、首を振って認識することもままならない)時折、ぴくぴくと震える。全身が外部からもたらされる刺激に喜んで、疼いて仕方がない。
カナタの都合など、最初からお構いなしだ。男たちは体を捩らないように首や顔を踏みつけにすると、一人はさらに自らの右足を彼女の股間へとあてがう。そして、首を引っ張りながらグリグリ踏みにじった。
「はうぅぅっ……❤︎ あはぁんんっ……❤︎」
強烈な電気あんまを受け、カナタは身体を反り返らせて悶絶する。足を持って持ち上げられるのではなく、首に負担がかかるせいで、痛みに涙がこみ上げ、異音に体が震え出した。
「ごぁぁっ……ふ、ぐぇぁぁっ……♪」
頭を上下に振りながらカナタはさらに悶え続けた。栗色の美しい髪が身悶えの拍子にぶちぶちとちぎれるのも知らず、バウンドするように何度も地面に擦り付けられる。四肢も服もなく、股ぐらを責め続けられる凄絶な有り様。涙を流しながら苦しむ少女の表情を見て、下っ端の嗜虐心はさらにエスカレートしていった。
何度も何度も局部を踏みつけられ、また、別の角度からは尻を蹴り上げられ、カナタの悲鳴が反響する。
彼女に残されているのは、わずかな尊厳だけだった。そして男たちは、目ざとく、見逃さずそれすらも破壊しようとしていた。商品に尊厳など必要ない。手頃な鈍器を膀胱のあたりをグリグリと押し込んでいく。
「ん……ぁっ……」
下腹部と尻が刺激に反応しピクリと動くが、抵抗の効果はない。力任せな刺激によって、彼女の中に溜まっていたものが吐き出されようとしていた。
「らめ……れすっ! それ、は……それだけは、いやっ……いやぁあぁ゛……」
最後に残った羞恥心に縋りつくようにして、カナタは必死に下半身に力を入れ、それを堪えようとした。男たちのゲスな狙いは手に取ってわかる。
だが、これまでに繰り返された度重なる暴行によるダメージは、普段は忍耐強い彼女に我慢することを許さない。
何度目かの突き上げる刺激を受けて、その門はあっけなく決壊した。
「う……フぅ゛……ぉ゛……❤︎」
ほとんど吐息のようなカナタの声とともに、ちょろちょろと黄色い液体が溢れ、床を汚し始める。
そして、次の瞬間、ふっと全身の力が抜け――激しい勢いで、液体が溢れ出した。まるで噴水、シャァァッ……! と、音を立てながら、あれよあれよという間に生温い水溜りができていく。
「ダ、メ……れ……しゅっ♪」
無理やりに失禁させられてしまい、汚らしい姿を悪人の前に見せつけることとなったカナタは、最後の人らしいプライドすらも打ち砕かれようとしていた。男たちの蔑む笑い声を聞きながら、彼女はブルブルと身体を震わせて小水を放出し続ける。
「何がダメなんだよオラッ!」
「この雌豚が! 勝手に喜んでんじゃねえぞ」
――バキッ! ボゴッ! ぐちゃ、どぢゅ! べぢん、バヂン!!
「はぐぅぁぁぁっ……♪ おォ゛……ォ゛っあァッ
……!!」
半ばケダモノじみた、刺激にリアクションしてしまう機械的な反応で、薄い胸板が身体ごと、背筋までもびきびきと、大きくのけ反る。ガッチリと全身を押さえ込まれ、逃しきれない痛みが快感となって何度も脳天を衝く。その暴力的な快楽が波打って押し寄せる様に、達しないでいることなどできそうにもなかった。
顔こそ未来の「商品」として目立つキズはないものの、肋骨をはじめ全身の骨は折れ、特に恥骨や腰骨は念入りに折られ、蹴り上げられた尻は別の生き物のように無惨に腫れあがり、義肢は四肢とも外され、打撲と打ち傷・切り傷は数えきれない、血だらけの体。肺や臓腑も外的にいたく損傷し、呼吸するだけで痛み……すなわち視界を白熱させる快楽が自由を奪う。
あまりの惨めさと苦悦が、意識を勝手に閉ざす方向へ向かわせた。
「さて、今度はこっちも気持ちよくさせてもらおうか」
「よっ、と。前戯は必要なさそうだな。お前らも好きに使えよ、どこでもな」
「歯を立てたら命はないと思えよ、へ、へへ」
やがて、男たちの中の一人が彼女に馬乗りになった。
先ほどまでのように、痛めつけることが目的ではない。しかしある意味ではそれ以上の、消えない傷を彼女に与えることが目的だった。商品の検品は内部まで及ぶ、というわけだ。
男の肌と、自らの肌の触れる面積が増えていくのを感じ、カナタの恐怖は最高潮に達しようとしていた。
馬乗りになった男の得物がズブリと自らの奥へと挿し込まれていくのを感じながら、カナタの意識は遠のくよりもはっきりと覚醒していく。
「ひぃっ……! もういやですからぁ! わかりましだがらッ゛、ごめんなさ゛ぃ゛っ、いや、いやっ!! いやだいやだいやだいやだァぁぁぁぁ――!!」
絹を裂くような悲痛な叫びは、狭く薄暗いこの空間の中だけに響き渡った。
●
そこには、一週間前とほぼ同じ体勢で拘束され続けているカナタの姿があった。しかし、四肢を失っていることをはじめとして、その様子は一週間前の快活な女の子とは別人かと見紛うほど憔悴している。男たちの陵辱の苛烈さを物語る酷い有様であった。ゲームの制限時間は二百五十六時間。もはや何も見ずに正確に計測をするのは困難で、監禁調教されたカナタには今がいつでどれくらいの時が経ったのかも判然とはしない。それどころか――。
「ええへへぇ……しょうこ……つかみ、ましひゃ……ぁ❤︎」
もはや己を己たらしめるのは、彼らを成敗するという一点のみに集約され、それ以外の意識は朦朧している時間が長くなっていた。度重なる投薬によるオーバードーズで支離滅裂、途切れ途切れの記憶の中「自分に投与された薬品は決定的な証拠である」「万一耐えてしまえばクスリは薬効が薄く証拠にならない」「自分自身が壊れれば壊れるほど、より強力な証拠になる」と論理を組み立てている。
破綻した中ではロジカルではある、どうやってその証拠を持ち帰るのか、そして己は社会復帰するのか、その辺りが欠落している点を除けば。
「からだ、いッだ……ぃ♪ れ゛も、しゃいご……さいごにぁ……かならず、ォ゛……私が、勝つん、れす、ぁ……❤︎」
疲れ果てた虚ろな表情。もはやついでのように拳や鈍器で全身くまなく打たれながら、カナタは「商品」として出荷を待機する状態だ。逃げ出す契機を手にするには、もうそこしかない。
あるいは、メガコーポと戦うレジスタンスや義を失っていない奇特な警察が、カナタの失踪を聞き駆けつけるのはいつになることか。
その時が訪れることを信じて、カナタは震えて待つ。これは恐怖からではなく、歓喜から来る震えだ。赤いハートが浮かんだ瞳の端には、苦悦の嬉し涙さえ滲んでしまう。
それでも。
それでも――冒険少女の炎は、揺らめいても、消えない。時には酷い目に遭ったとしても、決して。
成功
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