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塹壕の泥沼模様

#獣人戦線 #ヨーロッパ戦線 #ゾルダートグラード



 荒れた大地を疾走する女がいる。
 大地を打ち鳴らすように駆けるその四肢は、馬のものだ。しかしその馬体の上には、人間の女の上半身がある。
 名をローザと言う。ゾルダートクラードに反抗するレジスタンスの女隊長が、黒土を背後へ飛ばしていく。血と鉄と油が染み込んだその黒土は、幾多の砲撃と爆撃によってこの星本来の大地がむき出しになり、抉り起こされた結果だった。
 戦場なのだ。

「!」

 重機関銃が始動する特有の空転を耳が捉え、そちらへ盾を構える。中世然としたそのカイトシールドは、果たしてライフル弾の連射を防いだ。
 白兵剣戟士。一子相伝の古代剣術を用いて戦うローザは、“はじまりの猟兵”を祖とするユーベルコード“聖戦剣戟陣”を発動していたのだ。

「お……!」

 突貫する。重機関銃の銃座まで距離はあるが、一歩が優に十メートルを超える身だ。接近はすぐに果たされ、

「その指輪……、人妻か!」

 世迷言を、と一閃すれば、残るのは死体と壊れた機関銃だけだ。そうして、次の標的に狙いを定めようとした、その時だった。

「――ご主人がいらっしゃるのですか」
「!?」

 アリクイたちが、己の前に立ちふさがっていた。


「皆様、事件ですの!」

 猟兵達の拠点、グリモアベースでフォルティナ・シエロは言う。

「現場は獣人戦線。オブリビオン率いる六つの超大国が戦争を続ける世界ですわね」

 そのうちの一国、ゾルダートクラードの支配地域を示す資料を表示しながら、フォルティナは言葉を続ける。

「皆様に今回依頼したいのは、ゾルダートクラードと戦うレジスタンスの支援ですの」

 現場の状況を説明しますわ、と、画像を次々に表示していく。そこは平原であり、戦場だった。長く伸びた塹壕が二種類描かれている。対面するような配置であり、双方ともに、相手の塹壕の側面へ回ろうと自分たちの塹壕を伸ばしていった結果なのは想像に難くなかったが、その長さには明らかに差があった。

「長い方がゾルダートクラード、短い方がレジスタンスですわね……。端的に言って、レジスタンス側は包囲されかかってますの。
 個々の戦闘力でも戦闘員の数でも上回るゾルダートグラード軍の方が、戦況は有利。いずれレジスタンス部隊をすり潰し、壊滅させてしまうでしょう」

 ならばどうするか。

「皆様にこの苛烈な塹壕戦となっている現場へ出撃していただき、レジスタンス部隊へ加勢。そしてゾルダートクラード群を撃退して欲しいんですの」

 現場近くまではグリモア猟兵の能力で転移が行われる。転移の準備を進めながら、フォルティナは言う。

「レジスタンスたちは塹壕に潜むゾルダートクラード軍を何とか引きずり出そうとしていますが、敵塹壕からの絶え間ない火器攻撃に晒され、戦いあぐねていますわ。彼らの女隊長が決死の突撃を繰り返しているようですが……、予知からするとどうやら敵側に、相性の悪い相手がいるようですの。
 ――それでは、皆様のご武運をお祈りしておりますの」


シミレ
●目的
 ・塹壕にこもるゾルダートクラード軍の撃破。

●説明
 ・ゾルダートクラードに反抗するレジスタンス組織が、平原でゾルダートクラード軍と戦っています。
 ・戦場は塹壕戦であり、レジスタンス側が不利な状況です。
 ・レジスタンス側に加勢し、塹壕にこもるゾルダートクラード軍と戦い、最終的にこの戦場から撃退してください。

●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!
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第1章 集団戦 『貴方の配偶者を絶対に殺すアリクイ』

POW   :    寂しいんです
【疑いの心】を感じると自動発動。それに決着をつけるかレベル分後まで「攻撃力・跳躍力・魅力」のどれかが3倍。
SPD   :    一年が過ぎました
レベル×10mまでの【メール型地雷原】を、任意の形状で敷設する。使用者はこれに接近した者の【所持金の量】を感知できる。
WIZ   :    決死の爪
【威嚇体制からの爪の一撃】が命中した敵を一定確率で即死させる。即死率は、負傷や射程等で自身が不利な状況にある程上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


 猟兵たちが転移したそこはやはり事前の情報通り戦場だった。塹壕が張り巡らされ、そこから頭を出した兵士たちが銃声と悲鳴を空に挙げる。そんな悲痛の音が空間を埋め尽くしていた。
 それを断ち切らんと駆ける女がいた。彼女の前に、オオアリクイが立ち塞がっていた。

「貴女の配偶者が死んだとします……」
「何を――、くっ! 地雷か!?」

 女隊長一人に、塹壕に隠れ潜むオオアリクイの数は無数。地雷で動きを制限し、その鋭い爪で仕留めんと、両者は一進一退の攻防を繰り返していた。
 猟兵たちはこの戦闘に介入するため、急ぎ行動を開始した。
シプラ・ムトナント
わたしは衛生兵ですが……落ち着いて治療できる状態ではありませんね。
わたしも戦います。参戦の許可を、ローザ隊長。

救急カバンから軍用注射器を取り出し、【薬品調合】した軍用麻酔と回復薬を充填。
『用法要領の不遵守』を使います……ふぅ、気分は良くはないですね。

では、全開で行きます……付いて来られますか。

スピードを活かしてアリクイに接近します。
助走を付ければ地雷原を飛び越せますし、踏んでも痛覚は麻痺状態……わたしは、止められませんよ。

散弾銃のレミーで【零距離射撃】。至近距離からの散弾を受けてもらいます。

……わたしに配偶者はいません。
家族も皆軍人ですので……寿命を削って戦うことも、理解してくれるでしょう。





「貴方の配偶者にとって、今日は運命の人となるのです……。
 “戦場で妻がアリクイに殺されて一年が経ちました”……と」
「意味が解らん……!」

 一進一退の攻防を続けていたローザは埒が明かないと、体勢の立て直しのために塹壕へ飛び込んだが、そこで戦場に新たな気配が生じたことに気付いた。
 足音……?
 方角としては自分の背後、レジスタンス側だ。塹壕の中を駆けてくる音が聞こえる。その音に淀みが無いのは、戦場に慣れているかよく訓練されている証拠だ。増援か、すわ挟撃か。馬体を有する自分にとって手狭な塹壕での接敵は避けたいと考えながら、その頃にはこちらへ駆けてくる足音が一人分だと確信した。
 肝の据わった者もいるものだと、そう思って振り返れば、そこにいたのはヒツジの女だった。

「――わたしも戦います。参戦の許可を、ローザ隊長」
「名前は」
「シプラと申します」
「よろしい、シプラ。敵は見たか? あのアリクイだ!」

 戦場の流れが変わった瞬間だった。


 シプラは思う。落ち着いて治療できる状態ではありませんね、と。衛生兵である己にとって、戦場というシチュエーションも塹壕というロケーションも特筆すべき環境ではないが、攻撃の応酬が止まず、しかも劣勢ともなれば話は別だ。

「それは……、薬か?」

 ええ、と隣のローザに頷きを送りながら、自分の救急カバンから数種類の薬瓶を取り出すと、注射器を使ってシリンジ内で調合する。

「軍用麻酔薬と回復薬です」
「お、おい……」

 並々ならぬ量だ。麻酔薬も回復薬も、シリンジの中で大量に混ざり合う。

「これは用法容量を守っていない・・・・・・使い方ですので、絶対に真似をしないでください」

 そう警告した次の瞬間。注射器の針を自分の太ももに刺した。
 シリンジの中身を押し込んでいき、全ての薬液が身体に入った。

「ふぅ……」

 正直、気分は良くはない。
 だが使用済みの注射器を丁寧に仕舞い直したら、それでもう準備は完了だ。

「――行きます」
「!?」

 行った。塹壕内の壁を蹴って、跳ねるような動きで戦場に飛び出していく。
 ユーベルコード、“用法用量の不遵守”。過剰な麻酔と回復薬を自らに注射することで痛覚を麻痺させ、スピードと反応速度が爆発的に増大する能力だ。それによって今、塹壕から飛び出した自身は既に疾走している。一歩目から全力だった。
 猛接近してくるこちらを捉えようと、あちこちのゾルダートクラード兵が塹壕から頭を出し、銃口を向けてくるが、そのような動きより己の方が圧倒的に速い。
 片手に切り詰めた散弾銃を構えたまま、前転や跳躍を織り交ぜながら前進する。それだけで、迫る射撃はこちらが先ほどまで居た場所を空しく貫いていくだけだった。
 敵の塹壕までもうすぐといったところで、問題のオブリビオンが姿を現した。
 アリクイたちだ。塹壕から頭を出し、接近するこちらへ問うてくる。

「貴方に配偶者はいますか……?」
「……わたしに配偶者はいません」
「別に答えなくていいぞ……!」

 こちらの支援のために追ってきたローザが、周囲の注意を引き付けながらそう言ったのが背後から聞こえた。

「配偶者がいないのなら殺しはしませんが、通すこともできません……」

 と、アリクイたちは塹壕の前へメール型の地雷をばらまき、腕を横に伸ばした威嚇のポーズを取った。接近は許さぬと、そういうことなのだろう。
 ……助走は十分です。
 己は迷わなかった。地雷原に突入し、たった今足元で炸裂したとしてもだ。痛みなど感じぬまま一気に足を踏み切ると、大地を蹴って跳躍を、否。

「――――」

 大跳躍を果たした。薬液で強化された身体能力によって大きく、長い、跳躍だった。
 飛翔と言えるような跳躍で地雷原なぞ優に飛び越し、敵塹壕の目の前へ着地。前転を何度かぶち込んで勢いを殺すと、起き上がりざまにオオアリクイの腹へショットガンの銃口を押し付けた。

「!!」

 射撃音が、二連。
 すぐに距離を取り、カウンターの爪を回避。足から流れる血に一瞥をくれ、荒い呼吸も僅かな間に整える。

「殺しはしないと言ったはずです……。何故そこまで――」
「家族も皆軍人ですので……私が寿命を削って戦うことも、理解してくれるでしょう」

 戦闘はまだ続ていく。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

バロメリアン・マルゴール
行動:視線が通らずとも攻撃可能な「歌」の魔術で戦う
副次行動:歌で周囲に仲間が来た事を喧伝し、ローザや一般兵の士気を高める

オレの役目は心が暗くなりそうな戦場に光を届けること
m'aider助けを求める声に応えに来たぜ

戦術は簡単だ
歌うことで敵の塹壕内にアイテム『アーティストフォース』を無数に顕現させて盲撃ちで攻撃、だ

ぶっちゃけ牽制や陽動にしかならないだろうが……
オレの歌のパフォーマンスは、人を勇気づける情熱を帯びたモノだ
生まれた隙を仲間一般兵が生かしてくれると祈ろう

後、視認できる敵には
地雷を踏まぬようその場で動かず狙い歌えば良いのさ

あぁ、空っぽの財布に入る金と配偶者は年中募集中だぜ




 機関銃の連射、爆弾の炸裂。あちこちで騒々しい音が鳴り響いていた。戦場なのだからそれは当然であり、誰もがそんな騒音を搔き消さんと、やはり騒音を振りまいていく。
 そんな時だった。

「……♪」

 この場に似つかわしくない声が聞こえてきた。音階と旋律を持った声を歌と言う。
 その声の正体はどこかと探すが、ゾルダートクラード軍からは見えない。

「塹壕からか……?」

 歌声はローザが振り返った先、レジスタンス側の塹壕から聞こえていた。


 バロメリアンは歌った。塹壕の中を歩き、赤い花のネックレスに手を触れながら。
 周囲の空気は乾燥しているし、荒れた土をくり抜いた塹壕の中だから埃っぽい。喉には良くないが、平原の戦場というものは全天を有する。声を張ると塹壕の壁に反響して声が空に上がり、そのまま周囲へと広がっていく環境だ。

「――m'aider er er……」
「!?」

 だからそうした。
 戦場が歌声と、そして光で満たされていく。歌声に魔力を乗せることで術式が発動したのだ。これは自分の一族が得手とする魔術だった。
 術の効果はすぐに戦場に現れる。座標は敵の塹壕内部であり、そこで驚愕の声が連続していく。

「ひ、光が……!?」

 無数に生まれたのだろう。塹壕の淵から覗いてみれば、ゾルダートクラード軍側の塹壕が淡く発光しているのがここからでも解った。発光の正体は己が生み出した無数の武器なのだ。

「光弾に光輪に、光の音符……。アーティストフォースって呼んでるんだ。
 よっと……」

 それらが敵兵を打撃している間、当面の危機は落ち着いたことになる。淵から覗いていた顔の横に手をついて身を持ち上げ、塹壕から外へ姿を現す。

「よせやい、照れるぜ」

 そうして広い戦場に立ってみれば、多くのレジスタンスが己を見ていた。服と手に付いた土を叩いて落としながら、言葉を続ける。

m'aider助けを求める声に応えに来たぜ」
「おお……!」

 歓喜の声に恭しく一礼する。
 自分が生み出したアーティストフォースらが精々牽制や陽動にしかならないとしても、己の本来の役目は別にある。
 心が暗くなりそうな戦場に、光を届けること。自分の歌やパフォーマンスは皆を勇気づける情熱を帯びたモノなのだ。
 こうして敵勢を乱し、味方を鼓舞できたのならば、

「――ローザ隊長に続け!」
「ゾルダートクラードを倒すんだ……!」

 あとは生まれたこのチャンスを仲間一般兵が生かしてくれるだろう。

「地雷を撒き続けて数十分が経ちました……」

 オブリビオンも迎撃として地雷を撒くが、己はそれに対処できる。

「こんな風にね」
「おのれ……。読みもせず捨てま――」

 相手が敷設した地雷と、アリクイ本人を狙い歌えばいい。
 地面に光輪を走らせることで地雷を連鎖爆発させ、アリクイには光弾をぶち込んだ。

「収入を知りたいって? 空っぽの財布に入る金と配偶者は年中募集中だぜ」

 手を軽く振って、また喉に手を当てる。
 歌うのだ。

「ア……♪」

 戦闘が続く限り。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャドス・ジャンジダ
ずいぶん珍妙な敵だな。
だからと言って、ゾルダートの連中に手を抜くつもりも無いが。
それに味方には勇ましい女隊長と来たもんだ。
いいねぇ、そういう戦場ってのもオツなもんだ、喜んで加勢しようじゃないか。

キャバリアに乗ってUC発動、最前線の味方を巻き込まない程度に全弾、武器と砲身が焼け付くまで撃ち込んでやるぜ。
こっちはこの状態だと動けないからな、敵が突っ込んで来ようと正面から迎え撃つ。
これだけで状況が傾くとは思えないが、これが俺のやり方ってヤツだ。
来いよ、正面から撃ち合いとしゃれこもうぜ!

ついでに俺に配偶者は居ないぞ。
下手すると子供は何人か……いや居ない、大丈夫だたぶん、この話はやめよう。




 猟兵の介入により、戦況は変わり始めていた。

「――!」
「……!」

 レジスタンス側が勢いづき、攻勢に打って出ているのだ。それに対してゾルダートクラード軍も迎撃を行っているたが、その中に件のオブリビオンの姿が見えた。

「ずいぶん珍妙な敵だな……」

 事前に説明を聞いた時もそうだったが、今実際に見てもやはりそうだと、ジャドスは感想する。
 丸いフォルムに気の抜けた顔に、使ってくるユーベルコードまでふざけている。
 ま、だからってゾルダートの連中に手を抜くつもりなんて無いがな……。
 つまり、己は最初から全力だった。

「――ディーコスチ、出番だぜ」

 重量型のパンツァーキャバリア、ディーコスチ。片膝をついていた己の愛機が始動し、機体各部が唸りを挙げる。
 行くのだ。大地を踏み締めて起き上がり、レジスタンス側の塹壕へ近づいていく。戦場に新たに加わった轟音は、砲火と鉄血の場に相応しい重低音の足音だった。
 こちらの存在に気づいた敵が遠方から射撃を送ってくるが、ただのライフル弾程度では抜けない。無視して、塹壕の手前まで突き進んでいく。

「おお……!」
「キャバリアか!」

 キャバリアの登場は、活気づいていたレジスタンス側の追い風にもなった。それも重量級ともなれば安心感が違うのだろう。自然とディーコスチを中心とした布陣が緩く出来上がる。

『ハ! あまり近づくんじゃねえぞ。前にも行くんじゃねえ。今から“片づけて”やるから、巻き込まれるぜ!』

 言って、ディーコスチが変形していった。
 機体が低く屈むことで、重心が落ちていく。安定感を得るためだ。そうして大地に根を張るように構えると、次に各部の武装が展開していく。
 それは大型の主砲であり、ガトリング砲など多数の副砲だった。重量級のパンツァーキャバリアがその威容を解放していっているのだ。

「……!」

 前方、塹壕の中でゾルダートクラード軍の兵士が慌てて動き出すのが見えたが、こちらの準備は完了していた。

『行くぜぇ……!』

 主砲から、砲弾が発射された。砲口の周りに衝撃波が環状に走るのは、大気の壁を一瞬でぶち破った証拠だ。音速など優に超過した一発が、敵の塹壕の一端を崩壊させる。
 そして、跳ね上がった主砲と入れ替わるように、副砲を間髪入れずにぶち込んでいく。耳をつんざくような射撃音が連続し、周囲の音がすべて圧し潰される。左右に伸びた塹壕を上からなぞり上げるように、弾丸の雨が降り注いでいった。

『これでどれだけこの状況に“効く”かわからねえが、まあ、これが俺のやり方ってヤツだ!』

 敵勢が慌てふためき、レジスタンスの雄叫びが聞こえる。少なくとも状況は悪化していないことは明白だった。
 しかし、
 あのアリクイはどこだ……?
 姿が見えなかった。あのアリクイは、曰くこちらの配偶者を狙うという特性を持っているという。珍妙だという評価が妥当だ。

『どこにいるか知らねえが、ついでに言っておこう。俺に配偶者は居ないぜ』
「――そうですか」

 この轟音の中で果たして聞こえんのかね、とそう思っていたら、返事があった。そして同時に、敵勢の中から動きがあった。
 アリクイだ。塹壕から飛び出し、こちらへ駆けてくる。塹壕から飛び上がったその跳躍力は、明らかにユーベルコードで強化されている様子だった。

『いいぜ、正面から撃ち合いとしゃれこもうぜ!」

 この状態のディーコスチは移動が出来ない。すなわち敵が突っ込んで来る場合は対策が必要なのだが、その対策も正面から迎え撃つとすれば、良い。それだけの力はあるのだ。
 
「私たちは今、疑っています……!
 貴方には何か隠し事があるのではないか、と……!」

 やはり強化されているであろう攻撃力と魅力で、形成されたレジスタンスの波を突破し、こちらへ接近してくる。
 問いとそして攻撃をぶち込まんとするアリクイに、己は思わず引き金を引く前に、口を開いた。

『いやまあ、下手すると子供は何人か……。あっ、いや居ない、大丈夫だたぶん。……この話はもうやめよう』
「え――」

 砲撃。
 轟音で、それ以上の話を打ち切りとなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

チル・スケイル
オオアリクイの獣人が。配偶者を殺そうとしている。
…私に夫は(妻も)いませんが、通らぬ訳にはいきません。

塹壕?飛べば上から撃てます。
地雷?飛べば踏みません。

【終】

これでは雑プレイングがすぎるので、ユーベルコードを活用しましょう。

突撃杖『ストゥーマ・フシロ』を両手に構え、塹壕の中に氷の弾丸を撃ちまくります
そして塹壕の中を立っていられないほど滑らかにします
アリクイだろうとその他の獣人兵士だろうと、これでは発砲どころではありますまい
こちらは遠慮なく攻撃し、今度はオブリビオン達をつるつるの氷にしましょうか

ところで我々の懐具合を知って、どうしようというのですか。




 上空に転移したチルは思う。
 オオアリクイの獣人が、配偶者を殺そうとしている……。
 そして配偶者がいない者は殺さぬとしても、威嚇のポーズで“通せんぼ”をするという。
 異様な戦場であるし、己には夫も妻もいないが、しかし“通らぬ”訳にはいかなかった。
 だがまあ、と。

「地雷も塹壕も、こうやって飛翔していれば関係ありませんからね……」

 だからそうした。塹壕上空に近づいたところで旋回し、位置を調整すると、

「行きます……!」

 身体を下に傾け、背中の翼で大気を打った。
 パワーダイブだ。
 高速で地上に近づいていけば、塹壕にいるゾルダートクラード軍の姿がどんどんと鮮明になる。己の得物である突撃杖『ストゥーマ・フシロ』は、すでにそれらに穂先を向けていた。

「――!」

 両手で構えた杖の先から発射された氷の弾丸の数は、複数。そのすべてが塹壕へ飛び込んでいった。そして、ゾルダートクラード兵を貫くだけでなく、塹壕内の環境すらも変えていく。
 氷結によって、塹壕内部が立っていられないほど滑らかとなったのだ。これで、こちらに対する地対空射撃などは軽減し、さらに攻撃がやりやすくなる。

「では、この調子で片づけていきましょうか」

 塹壕というものはこのような空襲を警戒しているのか、ゾルダートクラード軍のものもレジスタンスのものも、どちらもジグザクに掘られている。そのため一度攻撃した後は、また空へ上昇し直す必要があり、そしてパワーダイブを再び敢行する。そういう流れだった。
 なので己も十分に攻撃した後、身体を傾けて進路を変えると、塹壕から離れて上昇していく。

「ひ、卑怯者……!」

 眼下でオオアリクイが何かを言っているが、気にしなかった。自分の持つ能力を使って、最善の行動をしているのだ。非難何するものぞ。

「さあ、もう一度行きますよ!」

 やはり地対空射撃は先ほどより散発的になっており、降下がしやすい。突撃杖を構え、二度目の連射を行った。氷弾は先ほどと同じく塹壕内部へ簡単に降り注がれ、ただでさえ初撃で冷却されていた塹壕内をさらに冷却していった。

「う、ううう……!?」

 その結果、塹壕の床だけでなく、オブリビオンそのものが凍結していくのだ。足元から氷漬けとなっていくオオアリクイ達を見ながら、そういえばと、思い出す。

「あの地雷、相手の所持金の量を感知できるそうですが……。我々の懐事情を知って、どうしようというのですか」
「え? そ、それは勿論、ゾルダートクラードへ振り込むようにスパムメールを――」

 そこまでだった。
 頭まで氷漬けとなったオオアリクイを見送り、上昇。

「碌な理由じゃありませんでしたね……!」

 そして、三度目のパワーダイブを敢行した。
 もはや止められる者はこの戦場にいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウル・トールフォレスト
うーん
うるさいのにさみしい場所だね…こんな所にいると誰だって気が滅入っちゃうよ

まずはさみしい見た目から変えなきゃね
【包囲、狩猟庭園】で『高き森』を戦場に作り出す
これで地面の下に潜らなくても身を隠せる場所が出来たよ、これで動きやすくなった

さあ遊ぼっか。かくれんぼ、みんな好きなのでしょう?
たくさんのわたし達がオニ。見つけたら容赦なく、頭から食べちゃおうか
そんなかわいいポーズをとってもダメ
影は消えること無く、なにより恐れない
決死の覚悟も届かない、本物の、怪物の爪を見せてあげる

ところで、はいぐうしゃってなあに?




 ここはうるさいのにさみしい場所だね。
 金属と土が、火薬と血が、いろいろなものが、大きな音と一緒にまき散らされる。
 それだけだ。

「こんな所にいると誰だって気が滅入っちゃうよね」

 まずは見た目から変えようか。



「!?」

 自分達のいる場所が一変したのを、ゾルダートクラード軍の誰もが知った。戦場に生じた変化に自分たちが“飲み込まれた”からだ。

「森……!?」

 地面から突如として生えてきた木々は、塹壕も鉄条網も何もかもを押しのけ、己の存在空間を確保していった。今も木々はその広さと高さを拡大中であり、まさしく森と言って差支えない領域が戦場に広がっていく。
 自分たちは戦場から一転して、大自然の中へ取り込まれたのだった。


 結果を見て、アウルは満足気に頷いた。

「これで、地面の下に潜らなくても身を隠せる場所が出来たね」

 動きやすくなった。わざわざ地面が掘られていた以前の状態は、自分の身長ではやりづらくて仕方がない。隠れようにも隠れられないし、動こうにも動けない。
 今、自分の目の前には慣れ親しんだ光景がある。背の高い木々が密集した、高い森だ。
 さあ、と。

「遊ぼっか。かくれんぼ、みんな好きなのでしょう?」

 あんな風に地面に穴を掘っていたのだから。
 隠れて、見つかったら、終わり。

「かくれんぼって、そういうルールだよね」
「!?」

 言って、森の中に“影”が現れた。木々と木々の間を歩くその“影”は自分と同じシルエットをしており、数は優に百を超えている。
 ユーベルコード、包囲・狩猟庭園リトルガーデン・プレデターズ。高き森と“影”も含めた、己の能力だ。

「たくさんのわたしたちがオニ。見つけたら、容赦なく頭から食べちゃおうか。
 ――そんなかわいいポーズをとってもダメ」

 絶望したような表情でアリクイ達が逃げ始め、“影”が動き出した。かくれんぼの始まりだった。
 アリクイらは短い歩幅で必死に走ったり、木々の後ろに隠れていく。やがて追い詰められると、果敢にも“影”へ腕を振り上げて爪を振るった。
 が、

「!?」
「影は消えること無く、なにより恐れない。
 決死の覚悟も届かない、本物の、怪物の爪を見せてあげる」

 リーチが違いすぎる。“影”の爪で薙ぎ払うように吹き飛ばされ、腕を掴んで持ち上げられる。
 もうどうにもならなかった。アリクイの頭に“影”が近づいていき、やがて双方が接する。

「あわ、あわわわわわわ――」

 接した。
 アリクイのシルエットは徐々に“影”へと飲み込まれ、最後にはもう“影”しか残らなかった。

「ところで……」

 “影”が再び歩き出し、またアリクイを捕まえ、流れは繰り返される。
 そんな光景が森の中で次々と生まれていくのを見ながら、ふと疑問を思い出す。

「“はいぐうしゃ”ってなに?」

 その疑問には、結局誰も答えてはくれなかったが。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『地獄の塹壕戦』

POW   :    積極的に攻撃を仕掛ける

SPD   :    敵の潜んでいそうな箇所を探す

WIZ   :    敵の作戦を読み、その裏をかく

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 ゾルダートクラード軍側の塹壕内部で、変化が訪れていた。

「……!」

 ほぼすべての兵士が横に伸びた塹壕から離れ、後方陣地へ繋がる縦の塹壕に殺到している。
 退却の動きが生まれているのだ。


 ゾルダートクラード軍の兵士らは思う。アリクイたちはこの戦闘に対する特攻兵器ともいえる人材だったと。女隊長をはじめ、レジスタンス側の配偶者を殺して相手の戦意を挫く狙いとして招集された改造獣人だったのだ。
 しかし今、そのアリクイたちがすべてが排除された。
 彼らの身体能力の強化も、地雷原も、一撃必殺の爪も、すべて通じなかった。
 何故か。

「猟兵が来るとはな……!」
「退け、退け! 猟兵が来たんだ! ――全員独り身だった!」

 介入によって戦況が変わり、戦法が通じなくなった。だとしても、次善の策というものを自分たちは用意していた。

「後方陣地に戻れ! そこには“あれ”を呼んでおいた!」

 アリクイよりも単純で、強力で、何より既婚者でも独身でも通じる汎用的な存在を呼び寄せたのだ。
 だから、

「そこまで生き延びろ! 猟兵は俺たちで足止めする……!」


 猟兵たちは行った。ひとまず敵の一部を撃滅することに成功したが、残る敵勢は塹壕を遡り、潜み、こちらの様子を窺っている。
 隠れ潜む敵を見つけ出し、戦況をさらに動かす必要があった。

「逃がすな、塹壕に飛び込め!」

 ローザの声に従い、レジスタンスの者たちも塹壕から飛び出し、突撃していく。
 膠着が一転、両者は追う者と追われる者に別れたのだ。
シプラ・ムトナント
【POW】
状況が動いて来ましたね……わたしもこのまま塹壕に突入します。ローザ隊長も、十分お気をつけて。

塹壕内部は遮蔽物が多い、敵の待ち伏せやトラップ等を警戒せねば。

ここは「吸着手榴弾」を使います。
これはその名の通り、吸着性能を持つ手榴弾。
ピン二本を同時に抜いて、穴や物陰といった怪しい場所に【投擲】……これで投げた場所に吸い付きます。
普通の手榴弾では気づかれれば投げ返される可能性がありますが、どこかへ吸い付いてしまえばその恐れは無い。

荒っぽいクリアリングになりますが、これなら敵の塹壕の破壊も兼ねられます。
これで敵を炙り出し、ダメ押しに散弾銃をお見舞いです。追撃戦に容赦は無用、倒れて頂きます……!




 状況が動き始めた中、シプラも同様に行動を再開した。

「私も塹壕に突入します。ローザ隊長も、十分お気をつけて」
「ああ! そちらも武運を!」

 陽動のために地上を駆けるローザと、塹壕へ飛び込んでいく己。二手に分かれて再び戦場に介入していく。
 待ち伏せやトラップ等に警戒をせねば……。
 塹壕内部は遮蔽物が多い上に、ルートが制限されている。逃げる側からすれば、罠を設置するための条件が整っているのだ。こうしている間にも敵は逃げ、罠の準備を終えていることだろう。
 前方の安全を確認する必要があった。それも手早く、確実にだ。

「ここは、これを使いましょう」

 そう言って取り出したのは、マラカスに似たシルエットだ。そこに付いていた二つのピンを素早く抜くと、

「――――」

 通路の向こう側へ投擲。放物線を描いて飛んでいったマラカスは、そのまま塹壕内の曲がり角に落下する。
 すると、曲がり角の向こうから、慌てた動きで足だけが飛び出してきたのが見えた。こちらへ蹴り返す、そんな動きだったが、しかしその靴先に蹴ろうとした物体が付着したことで、蹴り出すことは叶わなかった。

「……!?」

 それに気づいた足が、否、全身が明らかに動揺していた。
 刹那。マラカスが大きな音を立てて爆発した。
 衝撃波と破片を周囲へ撒き散らし、通路の向こう側で、多くのものが倒れる音と壊れる音が聞こえてくる。

「やはり効果的ですね、この“粘着手榴弾”は」

 砂と風が巻き上がった塹壕を進み、先ほど爆発で荒れた曲がり角へ到達すると、生き残りにショットガンをダメ押しでぶち込む。
 手榴弾を投げ込んで安全を確保、というのは随分と荒っぽいクリアリングだが、手っ取り早くもある。特にこの粘着手榴弾であれば、どこかに付着してしまえば相手に投げ返される心配も無い。

「このまま続けましょう」

 再びマラカスを、粘着手榴弾を取り出し、ピンを二本外して投げつける。
 一本は外装の解除であり、柄の先についていた球状のカバーが外れ、その中身が露わになる。粘着質な素材で覆われたそこは強力な接着剤の塊だった。もう一本は、内部の発火機構を作動させるものだ。
 投げつけることで内部に圧力が加わり、爆発の条件が整う。

「!? 手榴――」
「!」

 慌てて飛び出してきた敵に、散弾を浴びせる。狭い塹壕で切り詰めたショットガンは、特に有効だった。
 直後に響く爆発音と破砕音を聞きながら、再装填を行う。
 中折れ式のショットガンにとって、装填などそう手間ではない。すぐに再装填は済まされ、戦闘準備は再び整う。

「追撃戦に容赦は無用、倒れて頂きます……!」

 行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

チル・スケイル
一人で進むだけならどうとでもなりますが、それでは無意味。ここからはレジスタンスと共に進まなければ。

その為には、敵と罠を念入りに潰さねば。
魔法により氷の大盾を作り、構えて突撃!これにより生半可な弾丸や爆風は防ぎます
透き通る盾に隠れる事で、防御しながら相手を視認。そのまま氷の魔法で反撃です
盾があって魔法の杖を使えないので威力は落ちますが、氷で固める程度なら十分です
それにレジスタンスの支援攻撃ももありますからね

地雷にも対処せねば。魔力では探せない…ならば視力で発見!
氷盾を叩きつけ、爆破して破壊します
盾はいくらでも作れますからね、このまま制圧していきましょう


バロメリアン・マルゴール
行動:歌による盾で味方部隊を守りつつ共に制圧する

塹壕の外での戦いでは遮蔽が重要だがそれを期待するのは難しい
ではどうするか
オレが皆のたてになればいい
同行の許可を、マダム・ローザ

オレは武器らしい武器を持たないし、敵の居場所も見当がつかない
故に、攻撃をさせて居場所を自分からバラしてもらう
歌によって自分の居場所を誇示し、そこから生み出す光で仲間と己を守れるオレはていのいい戦場のカカシってわけだ
そして、カカシに撃ち込んだ敵には

3時方向だ!

後ろの一般兵達から素敵なプレゼントがお待ちかねってワケだ

とはいえ弾丸を受け止め続けるのはキツい
衣装の花柄に朱色がついたら一度下がるか
本命はまだいるだろうしな




 塹壕という遮蔽物同士の戦闘から一転、一方は遮蔽物を与えられ、一方は遮蔽物が期待できない。バロメリアンは戦況の変化を理解していた。
 ならばどうするか。

「オレが皆のたてになればいい。だろう? ――同行の許可を、マダム・ローザ」
「同行は歓迎だ。だが、盾か。私も持っているが……」

 ローザがこちらの身体を一瞥する。白い軍服とマイクを持った姿を。

「君にも何か考えがありそうだ」
「確かに、オレは武器らしい武器を持っていないし、敵の居場所も見当がつかない。だけど歌なら歌える」

 こんな風に、とローザより前に出て、一声を放った。
 すると、柔らかな光が生まれた。マイクを構えた己とその後方を包むように広がっていく。先ほどの塹壕戦で見せたものとは別の魔術だった。

「傷が……」
「その光の中にいれば、防御も回復もばっちり。歌って光って目立つのが利点でもあり欠点だが、むしろ敵が攻撃してきたら、自分から居場所をバラしてくれるってことだ」
「それを手掛かりに君の後ろの我々が叩く。だが、それだと先頭の君が……」
「聡明な女性だ。オレの事はていのいい戦場のカカシとでも思ってくれ」
「――なら、私も先頭に立ちましょうか」
「おや?」

 ローザの言葉に頷いたところで、別の声が聞こえてきた。声の方を振り向いてみれば、青いドラゴニアンがそこに立っていた。
 チルだ。


 今は戦線を押し上げる場面だと、チルはそう理解していた。
 一人で進むだけならどうとでもなりますが……。
 己の翼や能力を用いれば可能だろう。だがそれでは己だけが突出することとなり、無理があるし、無意味でもあった。レジスタンスと共に行動し、前進していく必要がある。
 ローザと彼女の小隊、そしてバロメリアンの前で、己は先んじて術式の発動を見せた。

「――――」

 戦場に似つかわしくない透き通った音が周囲で響いた後、生まれたのは一枚の巨大な氷の板、否、

「盾だ!」

 小隊員が言う通り、それは大盾だった。大きく分厚いそれは完全な透明であり、多少の屈折を経て向こう側の景色を見せてくる。不純物が混じっていない証拠だった。
 その大盾を身体の前に構えながら、隊列の先頭に立つ。

「私も同行して、銃撃や爆風を防ぎます。――行きましょう」


 二人の猟兵は行った。

「“m'aider”……♪」

 まず、重々しく低い声で歌が始まった。バロメリアンの身体から光が生まれ、まるで繭のように皆を包む。チルが氷の大盾を構え、歩き出す。

「おお……!」

 全員の士気が高い。歩き出した二人の猟兵に乱れ無く追随してくる。二人はそれを背中の気配として感じながら、

「!」

 すぐに敵の迎撃を受けた。銃撃だ。激しいその勢いは、少数部隊のものではないことを意味している。

「歌って光って、氷で反射して……まあ、目立ちますよね」
「~~♪」

 二人になったことで互いの負担は、単純計算で二分の一だ。が、目立ったことで敵からの反撃も厚い。しかし自分たちが目立てば目立つほど、他のエリアが手薄になるということでもあった。
 来る。
 連射されてきた弾丸は、すぐに二つの結果を得る。
 大盾の表面に衝突したものは、甲高い音を立てた。だが、それだけだ。表面に傷も付かず、クリアな視界は保たれている。
 光の壁に関しては、弾丸は何の抵抗も無く通り過ぎ、バロメリアンの軍服に到達したが、やはりこちらもそれだけだった。防御力の向上によってダメージを軽減し、歌声は止まらない。
 どちらにせよ、敵の位置はよく解った。

「そこです……!」
「三時方向だ!」
「!」

 その位置に目掛けてレジスタンスが動いた。銃を構えて射撃し、一斉に火力を送る。防御を猟兵に託した大胆な攻撃はゾルダートクラード軍にとって予想外の攻撃方法であり、効果的だった。
 激しい銃撃によって敵勢は次々と倒れ、強固な陣地を構えている者がいれば、

「私に任せてください!」

 チルが魔法を放つ。盾を構えたことで杖は使えず、威力は落ちる。が、相手を氷で固める程度なら十分だった。放たれた魔法は相手を氷で固めることで無力化し、

「……!」

 比較的タフなローザが一時的に飛び出し、その氷ごと相手を長剣で砕くと、また隊列に舞い戻ってくる。
 コンビネーションだ。
 猟兵が防ぎ、位置を突き止め、レジスタンスたちがアタックを仕掛ける。この基本的な流れは最初の数回で完成した。
 防御、索敵、攻撃。あとは、この連携の密度を高めて進んで行くだけだったが、敵も流れのどこかに亀裂を入れようと様々な手を尽くしてくる。

「! 地雷です!」

 例えば罠だ。隊列の侵入ルートに先んじて撒かれた地雷は、チルの魔力では探せない。バロメリアンはというと、

「――♪」

 歌うのが仕事だ。彼から生まれた光が光源となって、薄暗くなりがちな塹壕でも、こういったトラップを見つけやすくなったのは重畳でもあった。
 下がっていてください、とチルは皆に言うと、

「……!」

 盾を投げつけるように叩きつけ、地雷を爆破。単純だが実質的な方法で無効化させた。そうしてすぐに、チルは新たな大盾を生み出す。

「まあ、いくらでも作れますからね。――行けますか?」
「オレかい? 戦場近くにいる限りは歌で守ってやるよ、マドモワゼル」
「言いますね。その衣装、花が色づき始めていますが」
「今は春だからなぁ……。男前が上がっただろ?」

 でもまあ、と。

「本命はまだいる、か」
「ええ、この先に」

 塹壕の先を見ていたバロメリアンは肩をすくめ、チルも立ち位置を変える。二人の負担の分担が見直され、

「行きます」
「“m'aider”――♪」

 進んで行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャドス・ジャンジダ
(アドリブ、絡み歓迎)

全員独り身だった!
いやそうなんだけど、なんか釈然としないな!?

違うんだよやっぱり一夜のなんちゃらってやつで燃え上がってだなぁ。
それでちょっとアレしてホレした結果、後日俺の子だのうんぬんかんぬん……


気を取り直して、キャバリアから降りて塹壕に突撃するぜ。
なら小回りの利くこのUC『夜の森の神』を使用だ。
不意打ちを警戒しながら静かに素早く敵を追いかけるぜ。
気配感知に聞き耳、野性の感で不意打ちに対応だ。

後方に何か隠し玉があるみたいだが、それは別として後ろで立て直される前に殲滅しておかないとな。
手あたり次第、この爪で切り身だか刺身にしてくれるわ!





「全員独り身だった……。いやそうなんだけど、なんか釈然としないな!?」
 退却していくゾルダートクラード兵らをキャバリアの視覚阻止で追いかけながら、ジャドスは己を振り返っていた。

「違うんだよ、やっぱり一夜のなんちゃらってやつで燃え上がってだなぁ。
 それでちょっとアレしてホレした結果、後日俺の子だのうんぬんかんぬん……」

 と、顔を上げた時には既にもう兵士らは奥深くまで退却を進めており、付近のレジスタンスらが半目でこちらを見上げている。

「……気を取り直して、と」

 ともあれ戦場だ。状況は変わり、誰もが対応の変更を迫られている。己もディーコスチから降りると、塹壕へ飛び込んでいった。
 もはや塹壕のあちこちでレジスタンスらが突入している。これ以上ディーコスチで吹き飛ばすわけにはいかず、小回りの利く掃討が必要とされているのならば、自分にも手はある。

「――――」

 変化は一瞬だった。走りながら発動したユーベルコードによって、己が変わっていく。


 猟兵とレジスタンスの追撃を警戒していたゾルダートクラード兵は、視界の端に違和感を抱いた。
 何だ……?
 暗く、素早い何かが一瞬己の視界の端を通り過ぎた。正体を見極めようと目を凝らしてみても、“それ”が何かは結局わからなかった。

「……!?」

 その姿を視界に捉えた瞬間、自分の意識が恐怖で埋め尽くされたからだ。否、自分だけではない。周囲にいた隊員らも皆、一様に目を見開き、武器を向けた。
 しかし、“それ”はすでにもういなかった。一瞬のうちに姿を消している。しかし、銃撃や悲鳴が溢れる戦場の中であっても、微かな足音や息遣いなどが聞こえていた。
 “それ”はまだ近くにいるのだ。異質な気配を誰もが感じ取っており、緊張の糸はずっと張り詰めたままだ。
 声を出さず、前を向いたままハンドサインで背後の仲間へ指示をする。警戒せよ、と。
 刹那。サインのために振った腕の感覚が消えた。

「――――」

 振り返って見れば、己の腕は上腕から切り飛ばされ、宙を舞っている。そして、背後の仲間はすでに血だまりの中に倒れ込んでいた。

「……!」

 血だまりの上で、“それ”がこちらに目掛けて爪を振るった。



「よっと……」

 ユーベルコードを解除したジャドスは、己の爪に付いた血を振って払った。
 隠密力と速度、そして爪の攻撃力を強化した先ほどまでの姿は、“夜の森の神”と言えるものだった。不意打ちを警戒し、静かに素早く敵を追い詰め、悲鳴も発砲も許さなかった。

「後方に何か隠し玉があるみたいだが……」

 それは別として、後ろで立て直される前に殲滅しておかなければならない。
 上出来だ、と己の仕事を振り返りながら、再びユーベルコードを発動。塹壕の影に身を潜めると、
 ……手あたり次第、この爪で切り身だか刺身にしてくれるわ。
 また近くの敵勢へ、息を殺して接近していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『オブリビオン戦車隊』

POW   :    タンクキャノン
【戦車砲】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    超大国の改造成果
自身の【車体】を【長距離砲撃形態】に変形する。変形中は攻撃力・射程が3倍、移動力は0になる。
WIZ   :    タンクデサント
X体の【随伴歩兵】を召喚する。召喚された個体の能力値・戦闘力・技能は自身のX分の1。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



「!」
「来たな……」

 レジスタンスもゾルダートクラード軍も、戦場にいる誰もがその音や気配に気づいた。塹壕を抜けた先、ゾルダートクラード軍側の後方陣地よりさらに奥、平原の先からだ。
 金属が擦り合う、甲高くも重い駆動音に、大気を濁して淀ませる排気煙。その重量が大地を打ちながら移動することで、周囲を揺らす。

「アリクイは既婚者だけを狙った……」

 足元の揺れの源は、一つや二つではなかった。その大勢を前にして、ゾルダートクラード兵らが拳を握りしめ、歓喜の声を挙げる。

「だが戦車は違う!!」

 身分も配偶も、何もかもを無関係に押し潰す戦争兵器が今、戦場に到着したのだ。

「攻勢に転じろ! ゾルダートクラード万歳!」
「総員、ここが最後の正念場だ! 力を貸してくれ!」

 猟兵たちは、平原にて最後の戦いに突入していった。
ライル・ナハール
騎兵隊のお出ましか。
遮蔽物のない平原はタンクにとっては最高の狩り場だ。
全く嫌な話だが、そんな状況でキャバリアが盾にならないわけにはいかないな。
クソ、手が震えてきやがった。

「キャバリア、前に出ます!」

●作戦
ユーベルコード「オーバーフレーム換装」により射程と引き換えに移動力を高めたキャバリアで突撃、遮蔽物となってレジスタンスを守る。
敵の注意を引き付けるために砲弾を雨あられとばら撒きながら進む。
脚部と操縦席だけは破壊されないように注意したい。
そのための移動力だ。
それ以外の部分は壊れても構わない。
砲塔や腕部が駄目になってもキャバリアには最後の武器、キックがあるのだ。


チル・スケイル
本当なんだったんでしょう、アリクイは…
しかしそのアリクイも、塹壕も乗り越えました。ここが正念場です

慌てず、騒がず。戦車の砲は、銃口が向いている方にしか飛ばない
飛行力を活かし、常に可能な限り射線から外れる事で回避

そして戦車に勝てる砲なら、私にも持ち合わせがあります
大杖から発射するアイスバスターなら、ドラゴンも力で破れます
氷の魔法で、鉄甲だろうと貫いてみせましょう
あるいはキャノンに氷弾を直にぶつけて、パワー比べをするのもいいでしょう

ここに来て負けるわけには、レジスタンスの皆さんを敗北させるわけにはいきません
必ず戦車を打ち破り、超大国への歩みを進めるとしましょう!





「ヤベーぞ、戦車だ……!」

 歩兵が多いレジスタンスたちにとって、戦車との戦闘は大きな苦難だ。火力や装甲、機動など様々な面で強力であり、生半可な装備では対応できない。しかも自分たちが今いるのは平原だ。

「遮蔽物が無い!」

 戦車の砲はこちらを向いており、その威力から逃れようと全員が散開しようとしたその時、声が聞こえた。

『キャバリア、前に出ます!』
「……!」

 自分たちと戦車の間に割って入っていく影があった。巨大なその姿は、言葉の通りキャバリアそのものだった。
 直後。戦車から放たれた砲弾がキャバリアへ激突した。



「うっ……!」

 割って入ったキャバリアの操縦手であるライルは、衝突と激音に揺れるコックピットの中で呻いた。
 でも、これでいい……。
 遮蔽物の無い平原はタンクにとっては最高の狩り場だ。個人的には全く嫌な話だが、そんな状況でキャバリアを持つ己が盾にならないわけにはいかなかった。
 最初、飛び出す前は手が震えていたが、今はもう迷いは持っていなかった。己の判断は間違っていない、と。

「!」

 それを証明しに行った。
 砲撃を受けたキャバリアを再機動させ、戦場を駆けて行ったのだ。
 ユーベルコード、“オーバーフレーム換装”。射程を捨て、移動力を確保したその変形形態は、平原で動き続けるのに相応しいスタイルだった。
 行く。最初の砲撃は機体の片腕を肩からもぎ取ったが、それだけだ。すぐに機体のバランサーを起動し、平衡を保つ。レジスタンスの盾となるように動き続け、敵の注意を引き付ける。そのためには、

「砲撃……!」

 変形による比率は移動力を五倍にした一方、射程は半分程度にまで落ち込んでいる。つまり命中は期待できない。が、それは距離が空いている場合だ。
 動き続け、接近し、撃ち続ければ、こちらには武器があることと、それを届けるための“足”もあるのだと、敵に知らせることが出来る。

「……!」

 足を狙ってきた。その機動力を削ごうと、二発目の砲撃が放たれたのだ。予想していた攻撃だったので、すぐに機体を横へ変位させて事なきを得る。
 先ほどまで自分がいた位置の大地が抉り飛ばされ、大きな窪みが生まれたのを視界の端に捨て、動き続ける。
 己が守るべきものはシンプルだ。レジスタンス以外であれば、機体の脚部と操縦席だけでいい。そのための移動力だ。それ以外の部分は壊れても構わないと判断すれば、動きに迷いは無くなる。
 言葉を繰り返す。

「キャバリア、前に出ます……!」

 三発目。武装が砕かれたのと引き換えに、さらに前へ出た。砲撃によって敵戦車へプレッシャーを与えることは叶わなくなったが、それでも前に進む意味はある。
 キャバリアには、砲塔や腕部が駄目になっても最後の武器があるからだ。
 全身から煙と火花を吹きあがらせていたが、キャバリアは前進する勢いを止めなかった。

「……!」

 お、という声の連続が戦場に響く。
 直後。キャバリアは勢いの乗った蹴り足が、オブリビオン戦車の装甲板へぶち込まれた。



 蹴り……!?
 オブリビオン戦車隊は、自分たちが受けた攻撃を正しく理解していた。
 強打だった。蹴られた勢いそのまま、車体が平原をスピンしていく。
 その最中、それを見た。

「!」

 自分たちが向かっていた後方陣地から、一つの影が飛び上がったのを。
 有翼のその影は、竜人の姿をしていた。



 チルは行った。背中の翼で大気を打ち、空に飛びあがったのだ。
 遮るものの無い平原の風は乱れが無い。すぐに捉え、一息と言える感覚で高空へとたどり着く。
 本当なんだったんでしょう、あのアリクイは……。
 配偶者だけを殺す。今思っても異常な敵だった。しかし、

「そのアリクイも、塹壕も乗り越えました」

 ここが正念場だった。翼を打ち、加速していく。
 眼下でスピンしていた敵戦車は既に態勢を立て直しており、こちらの加速に気付き、砲を差し向けて来る。

『……!』

 来た。
 砲口がこちらと正対した次の瞬間、砲弾が発射された。砲口を中心に白い衝撃波が生まれ、音速超過の一発がこちらを撃墜せんと迫る。
 しかし己は慌てない。莫大量の破壊の力であっても、狙いは制限されている。即ち砲身の向く先であり、そこから外れれば問題は無いのだ。身体に軸転を二度入れ、被害範囲から退避。
 強い風が背後から押してくる。が、それだけだ。

「それに、砲ならこっちにも持ち合わせてるがありますからね」

 そう言って構えたのは巨大な魔法杖だ。アリクイ相手に持ち出したものより数段大きい。それを戦車へ向け、術式を発動。
 杖の大きさに見合った巨大な氷塊が、先端に生み出された。弾き出されるように飛び出したそれは、地上の戦車目掛けて一直線に降下していく。斜め撃ち下ろしの軌道だった。
 流星のように突っ走るその氷塊を迎撃せんと、戦車は砲撃を放つ。狙いは精確であり、氷塊の中心に砲弾が激突、炸裂した。
 しかし、

「その氷塊はドラゴンも破れる力、パワー比べをするのもいいでしょうが……」
『!?』

 爆煙と衝撃波を吹き飛ばしながら氷塊が現れた。無傷だった。進路も変わらず、戦車への直撃コースだ。
 やがて、その通りの結果となった。
 戦車の天面へ大質量の氷塊が墜落。その勢いはすさまじく、管楽器をぶちまけたような鈍く重い轟音が平原に響き渡った。
 ……ここに来て負けるわけには、レジスタンスの皆さんを敗北させるわけにはいきません。
 ふざけた敵を倒し、難関な塹壕も突破した。そして、眼下にいるあの戦車だ。
 今、戦車は氷塊との衝突によって各部から煙を噴き上げ、動きもぎこちない。近くによれば軋みも聞こえるのだろう。
 だが、あのような戦車など超大国にとっては数あるうちの一つなのだ。

「こんなところでは立ち止まっていられません!」

 必ず戦車を打ち破り、超大国への歩みを進める必要がある。その認識を露わにし、己は再度、大杖を構えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウル・トールフォレスト
かくれんぼに夢中になりすぎちゃった
もう、帰っちゃったのなら早く言ってほしいね
おかげでみんなのいる所から少し離れちゃった

まあいいや
このくらいの距離なら、歩いて直ぐだから

【深緑、畏れ多き大樹と成りて】
真の姿…『怪物』の姿を現して、戦車隊へと向かっていく
味方の人たちが危ないからね。敵しかいない場所に、わたし一人なら問題ない
「光輝」を纏うから、戦車砲の攻撃でわたしを傷つける事は叶わない…彼らに、恐れるものは何もない
歩みはゆっくりで十分、容赦なく的確に踏み潰していく

教えてあげる
『怪物』の力を
『高き森』の恐怖を





「あれ? みんなは……」

 ふと周りを見て、自分の周囲から人影が無くなっていることにアウラは気づいた。

「かくれんぼに夢中になりすぎちゃった」

 帰っちゃったのなら早く言ってほしいね、と呟きながらオブリビオンたちが走った方向に顔を向ける。

「おかげでみんなのいる所から少し離れちゃった。
 ――うん、あっちだね」

 足跡は勿論、その先から気配がする。それに大きな音も聞こえてきた。銃声とは違う、騒々しい音だった。
 塹壕を抜けた先に、開けた空間があるようであり、ここから距離は離れているが、

「まあいや。あれくらいの距離なら、歩いて直ぐだしね」

 構わなかった。



「……?」

 ゾルダートクラード軍の後方陣地、最後の戦場となったそこにいる誰もが、その瞬間に何らかの変化を感じた。
 最初はその変化が具体的に何かは、殆どの者が解らなかった。特にレジスタンス側はそうだった。

「なんだ、これは……」

 しかし、異常な変化だということは直観的に解っていた。戦場の空気が変わったからだ。
 圧迫感というか……。
 そのようなものを自分たちの全員が感じている。注意深く感覚を研ぎ澄ませば、それは日照の変化であり、気圧の変化だということが解ったが、一番の判断材料は向かいの平原に布陣するゾルダートクラード軍の残党と戦車隊だった。

「……!」

 彼らが驚愕と混乱の表情を浮かべてこちらを、否、
 私たちの後ろ……?
 視線の先を追って振り返った時、それを見た。

「――――」

 塹壕地帯に、巨人が立っていた。
 こちらに向かって来る。


 一歩を踏み出すだけで、アウルは塹壕地帯の一部を突破した。

「♪」

 今の自分は、先ほどまでとは違う姿に変わっている。真の姿だった。
 平原、それも戦場というこの場所は高い木が存在しない。比較対象物が無いからか、前方にいるオブリビオンたちは最初固まっていたが、こちらの一歩を知り、慌てて動き出す。
 だが、もう遅い。数歩歩くだけで己はレジスタンス達の横に立っており、オブリビオンとは、もう目前だった。

『!!』

 相手の中で一番速度を出せるのが戦車なのだろうが、それゆえにこちらから逃げられないと気づいたのだろう。砲塔を旋回させ、主砲をこちらに向けると、制動もかけずに砲撃してきた。
 狙わずとも当たると、そういう判断なのだろう。それは実際正しかった。砲弾はこちらの身体に衝突。しかし、

「“光輝”って言うの、これ」
『……!?』

 身体を覆う純白の衣服に触れると、まるでガラス玉のように砲弾が滑り、背後の大地に突き刺さった。
 二発、三発、それ以上に砲撃は連続するが、結果はすべて同じだった。無力化されるのだ

「…………」

 歩みは、ゆっくりとしたもので十分だった。オブリビオンの攻撃はこちらには通じず、足も遅い。距離はどんどんと縮まっている。恐れるものは何も無かった。
 言う。ねえ、と

「教えてあげる」

 一歩一歩。進んで行くたびに、パニックになっているのか、それとも大地が揺れているのか。戦車が動揺する。

「『怪物』の力を」

 その揺れを、足裏で触れることで止める。
 逃れようとエンジンがフル稼働し、キャタピラが大地を喰らうが、それすらも天上からの圧力で抑えつける。
 そして、徐々に足に力を込めていった。

『……!?』

 車体が軋み、エンジンが鳴き、内部から叫び声と拳で壁を叩く音が聞こえ、大地が沈む。

「『高き森』の恐怖を――」

 己が力を緩めることは、最期まで無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バロメリアン・マルゴール
目標:戦車隊を塹壕に近づけない
行動:貫通攻撃で攻撃し、歩兵の対処や哨戒を兵士に任せる

同じ歌が続くがこの世界でこの歌は特別でね
曲調を変えて歌い続けるぜ

歌の魔術は塹壕同様に戦車にも効くんだ
何せ音が届けば戦車の中に直接攻撃できるからな
中身を攻撃されたらまともな砲撃も難しくなるだろうさ
範囲攻撃だから随伴歩兵にも被害は出るハズだし

そして戦車の攻撃から身を守る方法は
そう、塹壕だ
戦車が塹壕に勝る理由は「塹壕の中からの攻撃で突破できないくらい固い」からだが
オレの歌なら問題ないわけで

迫る戦車の位置報告と随伴歩兵への射撃を兵へお願いしつつ回復も行う
迫る敵を確実に減らしていこう

次の次くらいの戦局でもまた共に戦おうぜ


シプラ・ムトナント
戦車隊……難敵ですが、退く訳には行きませんね。

ローザ隊長、対戦車戦闘の許可を頂けますか。
それと……勝利の後には皆さんへの治療の許可を。わたしは衛生兵、ですから。

まずは履帯に吸着手榴弾を【投擲】し、くっ付けて爆破を狙います。

戦車の履帯は丈夫です、手榴弾は出し惜しみせず使い切るつもりで参ります。
戦車砲は照準にも発射にも時間がかかるはず。立ち位置を変えながら手榴弾を放り込み、足を完全に止めてしまいましょう。

履帯の片側、かつ接地面近くに狙いを絞り、地面を吹き飛ばしつつ、戦車を傾けられれば体勢を崩せればベストです。
搭乗口に散弾銃レミーの銃口を押し当てて【零距離射撃】、『止めの一射』を。




 やはりというべきか、レジスタンスたちはそれを聞いた。

「♪」

 歌だ。アリクイとの戦いでも塹壕戦でも聞いた歌が今、戦車を前にしても聞こえてきた。
 同じ歌であっても、曲調は違う。この世界において特別な意味を持つ歌だった。

「――m'aider♪」

 活気を帯びた声で歌われている。それはバロメリアンの声だった。後方陣地内にある塹壕の中で歩きながら声を張っている。
 もう自分たちも度重なる戦闘で理解している。この歌声が力を持つということを。効果範囲は歌声が届く距離であり、そして今回の効果は、

「光の音符が――」

 それが生まれ、塹壕の外へ飛び出したり、中には塹壕の壁へ染み込むように入っていった。
 否、そうではなかった。
 生まれた音符はただ放出されたのではなく、一定の方向へ向かっているのだった。それはオブリビオン戦車の方角であり、塹壕や大地、鉄条網などあらゆる障害物を貫通、というより通過して行っている。
 音符が敵戦車へ到達するのはすぐだった。向こうもその存在に気づいていたようだが、回避しようが無かった。
 音符が、戦車の装甲を通過したのが見えた。

『……!?』

 直後。戦車に異常が生じた。動きが止まり、車体が揺れ始めたのだ。揺れは規則的な振動というより、不規則な鼓動のようなそれは、まるで苦痛にのたうつようであった。


 ……実際どうなってるんだろうな、中。
 バロメリアンは歌いながら、自分が放った光の音符について思う。魔術で生み出したあの光は、正確には浄化光だ。それが車内に入り込み、内部のオブリビオンを照らしたのだとしたら、

「~~♪」

 歌った。声に力を籠めれば音符の数が増え、音に圧を与えると速度が増した。音符の群れがさらに戦車へ浸透していく。
 だが、戦車も黙って攻撃を受けているわけでは無かった。

「おいあれ、砲塔が――」
「散開!」

 レジスタンスの声の通り、動きを止めていた戦車が砲塔をぎこちなく動かしていた。こちらへ向け用としているのは明白で、その目的も同様だ。
 だが自分たちは今、塹壕内部にいる。ローザの声に従って全員が砲口とは別の方へ走れば、狙いも甘い砲撃はただ塹壕の一部を削るか、空へ飛んでいくだけだった。
 相手は結果を得られない。しかし、自分たちは違う。戦車が塹壕に勝る理由は、“塹壕の中からの攻撃で突破できないほどに固い”からだが、自分の歌ならその問題もクリアできる。
 攻防を兼ね備えたこちらの構えに、敵が取れる手段はそう多くない。

『――!!』

 エンジンを最大出力で動かし、その場で円を描くように動き始めた。動き続けながら主砲も副砲も乱射するその姿は、こちらへの攻撃というよりは、別の目的を持っているようだった。
 ……こっちの声を掻き消そうとしてるのか!
 戦場に今響き渡っているこの歌声が原因だと、向こうも気づいているのだろう。声の届く範囲が効果範囲であるならば、音をぶつけて可能な限り“殺せば”いい。そういう判断だった。
 声をさらに張る。あの荒々しい動きがこちらの攻撃に対する防御であるならば、向こうの考える攻撃は何か。

「敵戦車から歩兵の排出を確認!」
「……!」

 戦車内部から多数の歩兵が現れた。暴れ狂う戦車から振り落とされ、そのまま地面に転がり、音符に浄化されるどころか、ともすれば履帯に踏み潰されたり、乱射された砲撃の餌食になるが、それでも構わずこちらに突撃して来た。

「……!」
「射撃で迎撃しろ!」

 無数の肉壁は大地を埋め尽くさん勢いで増え続けていく。それに対し、レジスタンスたちも銃をもって応戦していく。
 そこで、一つの声を聞いた。

「――ローザ隊長、対戦車戦闘の許可を頂けますか」


 ……!?
 ローザは声に振り返った。そこにいるのはシプラだ。手には着手榴弾と切り詰めたショットガン持っている。すでに装備の確認は済ませているのだろう、こちらをじっと見ている。

「君は……」

 言いたいことはいろいろあった。彼女の足の怪我のことも、先ほど見た薬品のことも、装備のことも、今も増え続けている敵兵や狂乱している戦車のこともだ。
 だが言葉はさらに続く。
 それと、と。

「勝利の後には皆さんへの治療の許可を。わたしは衛生兵、ですから」
「……勝つつもりなのか、とは問わんよ」

 断る理由を探そうにも、そんなものは持ち合わせていなかった。
 歌っていたバロメリアンが口角を上げ、自分たちの方を見た。

「だよな。――次の次くらいの戦局でもまた共に戦おうぜ」

 歌が再開し、戦場は動き出した。



「!」

 タイミングを図り、シプラはローザと同時に塹壕から飛び出した。
 同時と言っても、ローザの方が先行だ。視界の先で騎士装の彼女が敵の前線と接触したのが見える。と、そのまま敵を引き付けるように動いていく。
 ローザに注目した敵たちへ、レジスタンスからの銃弾とバロメリアンの音符が襲い掛かっていく。
 空白。
 戦場に生まれたそこへ、シプレは駆けて行った。
 軽装の身だ。速度を出して行き、こちらを捕えようとする敵から距離を離し、押し止めんと行く手を塞ぐ相手には、ショットガンをぶち込んだ。平原で大多数が相手であれば、狙いは厳密でなくてもいい。
 実際、散弾は複数の敵にヒット。なぎ倒されるように、敵兵が吹き飛んでいく。その様子に片眉を上げた。

「脆い、ですね」

 人体的な意味ではなく、兵としての“質”だ。戦車隊のユーベルコードで生み出された大量の兵士たちは、その数に反比例するように戦闘力が乏しかった。
 戦車が回復するまでのただの肉盾、その程度の扱いなのだろう。もう一発散弾をぶち込んだところで、状況が変わった。

『!』

 こちらの接近に気づいた戦車が砲撃を放ったのだ。だがその狙いが荒すぎた。こちらの前方に着弾すると、自分が生み出した歩兵らを吹き飛ばした。

「…………」

 二発の散弾と一発の戦車砲によって、オブリビオン戦車までのルートが見えた。狂気としか思えない光景だった。
 戦車砲というものは照準と発射に時間がかかる。今は装填中だろう。その隙を逃さず、足に力を籠めるとルートを一気に突破。戦車への接近を果たした。
 既に武器はショットガンから手榴弾へ持ち替えている。ピンを引き抜き、旋回する戦車の履帯へ投擲した。
 吸着。そして爆発した。

『!?』

 手榴弾の威力によって履帯が破損した戦車は、今まで旋回していた勢いによって自分自身を振り回し、バランスを失っていく。
 そこへさらに、追加の手榴弾を吸着させた。複数を即席で結束した手榴弾は重く、戦車の足回りと地面を大きく爆破した。
 完全に制御を失った戦車が、爆発によって抉れた地面に捕まる。するとその巨体は否応なしに傾いていくこととなる。
 そこを逃す己では無かった。傾いだ車体に飛び上がると、装填済みの散弾銃、レミーの銃口を開いた搭乗口に押し付けた。

「――さようならAu revoir.
『……!』

 零距離の射撃が、二連続で車内に炸裂した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャドス・ジャンジダ
(アドリブ、絡み歓迎)

悪い、出遅れちまったがまだ敵は残ってるか?
……ふむ、戦車が相手なら得意分野だ。
遅れたその分、派手にぶちかますとするぜ。

再びキャバリアに乗ってUC発動。
敵さんに朗報だ、最初のとはまた一味違う趣向だ。
隠し玉が割れた以上、俺としてはもう温存する必要もないからな……全弾くれてやる。
ああ、正真正銘の『全部』だ。
戦車も歩兵も関係無い、平原ごと正面の全部を破壊するぜ。

当然相手も撃ち返してくるだろう。
射的じゃないんだ、そうこなくっちゃぁな!
派手に撃ち合おうぜ!

咆えろディーコスチ!
そして来い、ゾルダートクラード共!
楽しもうぜこの殺し合いをよぉ!!!




 戦場に新たな揺れが加わったことを、レジスタンスの皆は知った。

「これは……」
『悪い、出遅れちまったがまだ敵は残ってるか?』

 巨大戦車のものとは別の振動だと気づいたとき、音声が聞こえた。レジスタンスを追って来るように後ろから現れたのは、キャバリアだった。
 ジャドス、と誰かが彼の名前を呼べば、その場にいる者たちは手を振ってキャバリアを歓迎した。


 ジャドスはすぐに敵を視認した。平原の上に存在するそれを見落とすことは無理だ。敵もこちらに気付き、砲塔を旋回させている。

「成程、隠し玉は戦車だったか……。それなら得意分野だ。
 遅れた分、派手にぶちかますとするか」

 コックピット内で操作が完了すると、ディーコスチに変化が生じた。各部に動きが生じ、機体が姿を変えていくのだ。
 力を解放する。その言葉通りの動きが機体の全身で起こっていった。

「全種ロック解除」

 肩に装備していたミサイルポッドと二連砲、胴に装備していたマシンガンとグレネードランチャー、そして両手にそれぞれ持つガトリングガンが一斉に起動した。それは全ての武装がスタンバイ状態に移行し、完了したことを意味する。
 ディーコスチが姿勢を低く落とす。それは先ほどの固定砲台モードと同じく、発射の反動に備えるためだ。しかし今回は全身の武装を使うため機体の姿勢は縮こまるようなものではなく、全身を披露するように広がった構えを取っていた。
 敵の最期の切り札が解った以上、こちらとしても温存する必要は無いのだ。

「全弾くれてやる」
『……!』

 武装が一斉にその力を解放した。ポッドからミサイルが放たれ、グレネードランチャーが曲射を放つ。それらが生んだ風切り音を突き破るように肩の二連砲が二度炸裂。その頃には各部のガトリングガンが空転から射撃に移行しており、胴のマシンガンと共に吐き出した弾丸で平原を舐めていく。
 その連射から逃れようと、オブリビオンの戦車はアクセルを全開にして平原を駆けていくが、やがて銃撃に追いつかれる。
 連射によって大地と同じのように戦車の装甲が抉られ、そこに二連砲とグレネードランチャー、ミサイルが次々に着弾していく。

「ハ……!」

 大量の土砂が巻き上がり、爆炎が現場を包んだことで戦車の姿が隠れるが、その直前。こちらに砲を向けているのが見えた。
 放たれてきた戦車砲が、こちらの肩部分を直撃する。

「射的じゃないんだから、そうこなくっちゃぁな!」

 爆発と砲撃で生まれた大きなクレーターの中、戦車は煙を噴きながらもまだ動き続けていた。
 砲はこちらを向いたままだ。ぎこちなく照準を調整し、また砲撃を放ってきた。
 砲撃が、連続する。

「ハッ! いいぜ、派手に撃ち合おうぜ!
 咆えろディーコスチ! そして来いよ、ゾルダートクラード共!

 戦車砲がディーコスチの機体を打撃する。コックピット内部に警報が鳴ったが、しかし己は構わず、装填が終わり次第、各部からの攻撃を再開していく。

「楽しもうぜ、この殺し合いをよぉ……!!!」

 大音が鳴り響く中、どちらも己の全力を吐き出し続けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月27日


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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