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煤に始まり

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●小さな村の災難
「逃げろ逃げろ!また出たぞ!!」
 とある村落。ありふれた民家の入口で男が声を張り上げる。すると周囲の村人達はさっと顔色を変えて走り出した。
「早く非難を!」
「待って、まだ着物が……!」
 村の若い衆たちは民家に走り込むと、中にいた女性を抱えるようにして避難させる。名残惜しそうに伸ばされた女性の指。その先で、真っ黒な煤が舞った。
「ああ……」
 落胆の声。その数秒後には家の至る隙間からばっと煤が舞う。
 まだ人死には出ていないとはいえ。村は確実に困窮の淵に立たされていた。

●グリモアベースにて
「と、いうわけだ」
 葉蔓・四季(ヤドリガミの妖剣士・f14663)は簡単に予知の概要を猟兵達に伝える。
「場所はサムライ・エンパイア。そこにある小さな村でのことだ。民家をススワタリが襲っては家々を文字通り煤だらけにしているらしい。いやはや。死人は出ていないとはいえなんとも難儀な話であろう?」
 四季はゆったりとした口調でそういうと、何事かを思案するように扇子で8の字を描く。
「しかし、一つ疑問もある。何故こうも次々攻撃的に動いているかということだが……まあ、その辺りは奴らを叩いていればいずれ明らかにもなるであろう。その辺りは猟兵諸氏の力の見せどころであろうな。どのような形であるにせよ、さくっと終わらせたいところだ」
 なぜなら、と。前置きして彼は続ける。
「この問題を解決すれば、当然人々からはありがたがられるだろう。そして時間があれば、何かお礼もして貰えるかもしれない。まあその辺りは定かではないが……今宵の月が綺麗であることは、間違いない」
 さあ。煤を追い払い、月を呼ぼうではないか。
「ではよろしく頼むぞ。猟兵達」



 初めまして、辻と申します。初めてのシナリオとなります、どうぞよろしくお願いします!
 事件はサムライ・エンパイアのとある集落で起こっています。1章はススワタリ達との集団戦。上手くいけば2章でボス戦。3章では村人達が外で夜宴を開いてくれることが予想されます。
 この村では地酒の一気飲みや、焼いた鶏肉の一気食い等を披露する風習がありますので、それに興じるも良し。または村の宴会場や、喧騒から離れた静かな場所で満月を眺めるのも良いでしょう。四季もお誘いがあれば出ます。
 それでは、プレイングを心待ちにしております。
3




第1章 集団戦 『ススワタリ』

POW   :    まっくろくろすけの通り道
【対象が煤だらけになる集団無差別体当たり 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    かつての住処
【ススワタリがかつて住んでいた巨大な屋敷 】の霊を召喚する。これは【扉から射出した大量のミニススワタリ達】や【窓から射出した巨大ススワタリ】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    煤だらけ
【対象に煤が付くフンワリあたっく 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を煤で黒く塗りつぶし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オブシダン・ソード
いすゞ(f09058)と同行
え、汚れたくない? そんな理由で僕の事使うの?
さすがにどうかと…いや…相棒が言うなら、良いけどさあ

僕の器物をいすゞへ
それじゃあ、僕が君の剣になるからね、相棒
裏で何が動いてるのか知らないけど、まずはこの迷惑なススワタリを斬ってしまおうか
ちなみに僕は最初っから黒いからね
遠慮なくやって良いよ

いやあ、薄汚れてしまったねえ、相棒
笑ってないよ

攻撃はできるだけ受けてあげたいけど
範囲攻撃とかは覚悟してね
サボんないでホラ相棒
がんばれがんばれー

僕の鼓舞は効くって評判

相剋符とか決まったら超褒めるね
さっすが、やればできるよね君は!

…うわーこの端に粉が詰まる感じ嫌だわー
あとで手入れしないと…


小日向・いすゞ
おぶしだんセンセと/f00250

さあさ、センセ
あっしは汚れたく無いっスから頼んだっスよー

はいはい、行くっスよ『相棒』!
と言ってもあっしは剣の技術が有る理由じゃないっスから
センセの動き次第っスよ
頑張れ頑張れ
あっしには鼓舞も無いっス

これ斬ってるだけで汚れないっスか!?
騙したっスね!?

あえて汚れるような刳り方で敵を斬るっス
あっしも勿論汚れるっスけど

何笑ってンスか…?

あー
こっちに直接来るならば
仕方ないっス、相剋符!
痛い上に汚れるって最悪っスからね!

詠唱が厳つくて恥ずかしいっスから
余り使いたく無かったンスよ…

はー、そうっス
やれば出来る子っスよあっしは
褒めて伸ばされたいっス

あーもー
お風呂に入りたいっスよう



「これは間違いないね」
「あー、間違いなくそうっスね」
 今や黒鉛のように煤が吹きだす民家を前に、小日向いすゞとオブシダン・ソードは警戒に言葉を交わす。
 これはあれだ。まともにやり合ったら間違いなく汚れる汚れるというやつ。
「さあさ、センセ。あっしは汚れたく無いっスから頼んだっスよー」
「え、そんな理由で僕の事使うの?」
「はいはい、行くっスよ」
 『相棒』、と。漆黒の瞳が笑えば、相棒がいうならと赤の瞳も笑う。
「裏で何が動いてるのか知らないけど、まずはこの迷惑なススワタリを斬ってしまおうか。それじゃあ、僕が君の剣になるからね」
 剣になる。比喩にも聞こえる言葉だが、オブシダンの場合はそれが現実のものとなる。
 不意に舞った風に乗るように。黒いローブが揺れたかと思うと、次の瞬間には宙に黒耀石の剣が現れていた。いすゞは取り落とさぬよう柄をぱっと握ると、そのまま家の中へと飛び込んでいった。
 家の中は日の光は差し込んでいるものの、煤のせいか暗い。草履のまま土間を上がると、早速ススワタリ達が廊下の向こうから姿を現した。
「早速おでましだね」
「センセ、頼んだっスよ」
 剣を握るのはいすゞだが、相手を両断するのは剣そのものの力による。
『さあ行こうか、相棒』
 いすゞの振り下ろした剣がススワタリに命中した瞬間。オブシダンの力がそのまま相手を切断する。
「煤が舞うっスね」
「サボんないでホラ相棒。がんばれがんばれー」
「センセも、頑張れ頑張れ」
 そんなことを言いながら二人が攻撃する度に煤が散る。勿論二人の姿も否応なく煤に塗れていくわけで。
「これ斬ってるだけで汚れないっスか!?騙したっスね!?」
「いやあ、薄汚れてしまったねえ、相棒」
「何笑ってンスか……?」
「笑ってないよ。それよりほら」
 オブシダンが声で示した先からススワタリが一体、こちらに向かってやって来る。その姿にいすゞは少し迷うように声を漏らしたが。
「仕方ないっス、相剋符!」
 いすゞの唱える音が、煤の黒の中響く。
『唵、蘇婆訶――鑁、吽、怛落、纥利、悪!』
 ユーベルコードを相殺すると、いすゞは駆ける。そのまま勢いに乗せ剣を振るえば、オブシダンがそれに応えた。
「さっすが、やればできるよね君は!」
「はー、そうっス。やれば出来る子っスよあっしは」
 そういいながら、はたはたといすゞは服の煤をはたく。
「あーもー。お風呂に入りたいっスよう」
「この端に粉が詰まる感じ嫌だわー。あとで手入れしないと……」
 後で綺麗にすることを思いながら。二人は更に奥へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小日向・いすゞ
おぶしだんセンセ/f00250と

あー
結局煤まみれっスよォ

頭の天辺から尾の先迄煤にまみれてテンションあがる人がいるのならば見てみたいっスよ…

はいはい
やるっスよ

民家の中っスから、火も使わない方が良いスね

管狐!
キミ達も道連れっス
センセに纏わせて力を

敵を盾に出来ないかも試してみるっス
煤鷲掴み

もうここまで汚れたら何しても一緒っスね
下駄を脱いで足元の機動性を確保

あっしのお通りっス
チャキチャキ往生して何なら煤も綺麗にして倒れて欲しいっス

普段から輝い…
えっ、今もしやあっしの尾の話してるっスか?
それとも毛質の話っスか?

あー!
この剣急激に不必要な気がしてきたっスねー!

反省したなら必要以上に働くっス

さあ
行くっス相棒


オブシダン・ソード
いすゞ(f09058)と同行
相殺したところであのススワタリがピカピカになるってことはなかったね
残念
まぁこんだけ汚れたら後は一緒でしょ
最後までがんばろうね相棒
ねえ、テンションめっちゃ落ちてない…?

今回僕は君の剣になると決めたからね
チャキチャキ斬り飛ばしていこう
室内だと突き刺すのメインで行くと良いよ

がんばれがんばれ、今の君は輝いてるよさいこー
あー…輝いてるってのは嘘かもなあ…
しかし通った端から綺麗になっていくのはこう、あれだね
モップ

わかった、ごめん、あとで何かお手入れとか手伝うから
甘いもの奢っても良いから
許して
捨てようとしないで、ね?

はいじゃあ働こうか管狐くん
僕は相棒のための剣。そこは変わらないよ



 からり。音を立ていすゞは何枚目かの戸を開く。
「思ったより広い家だったね」
「そうっスね。あー」
 不意に戸にかけたままの手を見れば、まるで炭で遊んだかのように所々黒くなっている。しかも手だけではない。そこから伸びる腕にも服にも、琥珀色の髪に至るまですっかり煤に塗れていた。
「結局煤まみれっスよォ」
「まぁこんだけ汚れたら後は一緒でしょ。最後までがんばろうね相棒」
 いすゞの手に握られた剣――オブシダンの刀身からも時折、黒曜石の光に混じりさらさらと煤が零れていく。
「ねえ、テンションめっちゃ落ちてない……?」
「頭の天辺から尾の先迄煤にまみれてテンションあがる人がいるのならば見てみたいっスよ……」
「まあそうだよね。でも、この頑張りは家には出てるみたいだよ」
 オブシダンの言葉にいすゞが振り返る。その先にはてっきり黒々とした廊下にぽつぽつと下駄の跡でも残っているかと思ったが、そこには見違えるように綺麗になっていた。
「家は元通りになるってことっスね」
 そんなことを話していると、また何かが近づいてくる気配がする。
「新手のようだね。チャキチャキ斬り飛ばしていこう」
 僅かに黒曜の光が鋭くなったかと思うと同時に、いすゞは気配の方向へ走り出す。カッと音を立て戸を開けば、そこには案の定ススワタリたちの姿があった。
「管狐!」
 夜の守日の守に守幸へ賜へと、恐み恐みも白す。
 走りながら、いすゞが力のある音を唱える。
『――守給へ幸給へ管狐。疾う疾う、如律令!』
 言葉が完成すると同時に、ふわりと現れた管狐が黒曜の刃に沿う。
「じゃあ働こうか管狐くん。それと相棒、ここは突き刺すのメインで行くと良いよ」
「わかったっス!」
 言葉に合わせ、いすゞは薙ごうとしていた刃先を突きへと変える。貫くように真っすぐ腕を伸ばせばオブシダンが容赦なくススワタリを消し去った。
 最後のあがきのように舞う煤と明るさを取り戻した部屋が、対比するように流れていく。
「がんばれがんばれ、今の君は輝いてるよさいこー。あー……輝いてるってのは嘘かもなあ……」
「普段から輝い……えっ、今もしやあっしの尾の話してるっスか?それとも毛質の話っスか?」
「うーん、なんていったらいいかなあ。通った端から綺麗になって、あれだね」
 例えるなら。
「モップ」
「あー!この剣急激に不必要な気がしてきたっスねー!」
「え、ちょっと」
「あの辺に剣を入れるのにちょうどいい壺があるっスねー!」
「わかった、ごめん、あとで何かお手入れとか手伝うから」
「あの押し入れもいい感じっスねー!」
「甘いもの奢っても良いから、許して」
 捨てようとしないで、ね?と。
 もうひと押しすればいすゞは少し笑う。
「この村ではお団子が名物らしいっスよ……っと」
「あれ、下駄脱ぐの?」
「もうここまで汚れたら何しても一緒っスからね」
 その時。ふわりと出てきたススワタリをいすゞはむずっと掴むと、後ろから来ていたススワタリの前に出し盾にする。
「すごいすごい」
 六匹、七匹、八匹。途中からはもう数えるのをやめたけど、二人でぐるぐると屋敷を回って倒して行く。
「こんなもんっスか?」
「そうだね。ススワタリはこれで終わりみたいだね」
 あと気になるのは、と。オブシダンの言葉に導かれるようにいすゞが顔をあげると、そこには人一人のぼるのがやっとの小さな階段と、二階への扉がつけられていた。
「明らかにボスっぽいのがいそうっスね」
「最後まで頑張ろうね、相棒」
「もちろんっスよ、相棒」
 互いの調子を確認すると、いすゞは一段目に足をかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『鬼門沌行』

POW   :    妖気解放
【禍々しい波動】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    鬼神召喚
自身が戦闘で瀕死になると【封印されていた鬼神】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ   :    百鬼夜行招来々
戦闘用の、自身と同じ強さの【亡霊】と【妖怪】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は石上・麻琴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ぎい、ぎい。
 それは誰の足音か。ひとつ、ふたつ。あるいは複数か。
 それはわからない。それでも『ソレ』は静かに丑寅に座しながら猟兵たちを待っていた。
小日向・いすゞ
おぶしだんセンセと/f00250
アンタが親玉っスね
この汚れの怨み、ただただ八つ当たらせて貰うっスよ

敵の数が増えるのならば
センセ、分かれて戦うっスよ
前衛をお願いするっス

あっしは本来前にでる様な立ち回り苦手っスもん

相剋符、癒式符で補助するっスよ

大丈夫、センセが前に居てくれるならばあっしは集中して敵を狙えるっス

離れてようがあっしの刃でしょう?
さあさ、その力をあっしの為に振るうっスよ、相棒!

調子が良い事と人の補助は得意っスからね
気軽に突っ込むと良いっスよ

片手には白狐の杖
逆手には袖より取り出した符を

彼が前に出るのならば、
自らが盾になる事も厭わぬ

センセもちゃんと煤まみれになるっス
死なば諸共っス!


オブシダン・ソード
いすゞ(f09058)と同行

ああ、もしかしてこれが発生源かな?
ここまでの掃除の仕上げだ、これも退けてしまおうね

人の姿に戻って対応
僕だって自分で前に出るのは苦手なんだけど…しょうがないな
錬成カミヤドリで黒耀石の剣を召喚
黒い刃の列で召喚される敵の相手をしよう
自分でも器物を手に、剣士として戦わせてもらうよ

やっぱススワタリとか出てくるの?
このまま人間体は汚さずにいけると思ったんだけど

…調子の良い事言うのが得意だねぇ
わかったよ、相棒のためだ
多少苦戦しても君がカバーしてくれるんでしょ。背中は任せたよ

ボス格まで切り込めば召喚されてる奴も消えるみたいだし、多少強引にでも突破を狙う
そろそろ打ち止めでよくない?



 ぎい、……ぎい。
 いすゞは最後の一段に足を掛けると、天井に設けられた扉を慎重に押し開ける。頭半分ほど覗き込んだ2階部分には、一階とはうって変わり黒い闇が広がっていた。二階、というよりは屋根裏と表現しても良いかもしれない。
「行くっスよ」
「こっちはいつでもいいよ」
 オブシダンの言葉にいすゞは一度頷くと、黒曜石の剣を手に、出来るだけ音を殺し闇の中へ身を滑らせていく。
 下駄を置いてきたのは正解だった。いすゞは柱の向こうに揺らめく青い炎を認めると、近くの柱に身を隠す。
「ああ、もしかしてこれが発生源かな?」
 コレと表現されたもの。それは、燃え盛る大きな手だった。長い爪は人を切り裂くように長く、その手に纏わりついている炎は青白く闇を照らしていた。
「あれが親玉っスね」
「見えにくいけど、ススワタリも何体かいるみたいだね」
「センセ、分かれて戦うっスよ。前衛をお願いするっス」
「前衛?」
「あっしは本来前にでる様な立ち回り苦手っスもん」
 そう言われてじっと見られてしまえば、オブシダンも人間の姿に成らざるを得ない。
 ローブ姿に戻れば、オブシダンは先ほどまでの自分の姿ーー黒曜石の剣を幾重にも創り出す。
「僕だって自分で前に出るのは苦手なんだけど…しょうがないな」
「大丈夫、センセが前に居てくれるならばあっしは集中して敵を狙えるっス。離れてようがあっしの刃でしょう?」
 その言葉は余談を許さない。
「さあさ、その力をあっしの為に振るうっスよ、相棒!」
「…調子の良い事言うのが得意だねぇ。わかったよ」
 相棒のためだ。そういうと、オブシダンは敵の方へと走り出す。
 すると、こちらを敵と認識したのだろうか。背後の手よりも先に、ススワタリ達がオブシダンの前に飛び出してくる。
「人間体は汚さずにいられると思ったんだけどなあ」
 一体。目の前に飛び込んできたススワタリを黒曜の剣が貫き、煤が舞う。そのまま流れるようにオブシダンは刃を操り次の一体に二振りが薙ぐ。
 オブシダンが前衛で立ち回るその奥で、鬼門沌行が行う怪しげな挙動をいすゞは見逃さなかった。
 片手に白狐の杖。逆手の袖からは符を取り出し。
『唵、蘇婆訶――鑁、吽、怛落、纥利、悪!』
 手が生み出した幻影の攻撃を、いすゞの相剋符が相殺する。
 相棒が作り出した機会を無下にはしない。オブシダンは距離を詰めると、剣をまるで隊列のように並べて狙いを定める。
「いくよ」
水平に並んだ剣が次々と、鬼門沌行に確実に傷をつけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小日向・いすゞ
敵が減るまで相剋符と杖で戦うっス
杖はもうぶん殴るっスよ
符をペタペタ
センセを前に、盾扱いで動く構え
漏れた敵はちゃんと捌くっスから
頑張れ♡頑張れ♡
鼓舞能力が無いから溜息つかれてないっスか?

アンタに怨みは無…
いやあるっス
何ヒトの事汚してンスか!
許さないっスからね!

ボスが最後に残ったのならば
決定打に成りにくい自らの符よりも相棒の手を掴む
センセのその刃、あっしに寄越すっス!
管狐を管より呼び出し纏い
任せたっスよ、相棒
一番強い所、見せて貰うっス

とは言え、体を動かすのはそこまで得意じゃ無いっスから
危ない時は七星七縛符
動かない敵は流石に外さないっスよォ

――いい加減、素振り位はした方が良いかもしれないっスねェ


オブシダン・ソード
結局何が目的なんだろうねこの手は
まあはた迷惑だからここで仕留めちゃうけれど

いすゞの符の助けを借りつつ、器物の剣で敵を斬り裂いていこう
湧いてくるならススワタリ等のザコを優先
衝撃波の類は後退で勢いを殺すとかしてダメージを軽減させていきたい
掴みかかってきたら指を斬り飛ばしてやるからね

はいはい、熱烈な応援だなー。気合入っちゃうなー
はあ

ボス格単体になるまで減ったらいすゞの手の内に収まってあげる
結局僕等はこうするのが一番強いんだよ
手を繋ごうか
さあ、いくよ相棒

まあ、任せて

ユーベルコード使用
真っ二つにしてあげるからね

いやあ、中々。君も剣の使い方がサマになってきたじゃないの
その調子で、ね?



「けっこう、倒したっスか?」
「そうだね。結局何が目的なんだろうね、この手は。――とりあえず」
 どうしても数が多いね、と。オブシダンは言葉を漏らしながら、こちらに向かってくるススワタリを黒曜の剣を操り切り落とす。
 状況は多勢に無勢。とはいえ、未だオブシダンといすゞが優勢を保っている。
 剣を振り降ろした瞬間に隙が生じれば、後方から符が――あるいは杖の一撃が飛ぶ。
「はい、次の符っス」
 ついでに背中に符をぺたり。ちなみにこの符は一枚限りではない。既に背中に何枚も貼り付けられていた。
「今の僕の背中って、何度も割引シール貼られた商品みたいになってない?」
「全然そんなことないっスよ。ほら、頑張れ?頑張れ?」
「はいはい、熱烈な応援だなー。気合入っちゃうなー、はあ」
「ため息って、やっぱり鼓舞能力が無いからっスか?」
「えーっと、……っ」
 瞳の端で捉えた光景に、考えるより早くいすゞを伴ってオブシダンは後退する。跳ぶ様に地を蹴り、勢いのままに伏せ、剣をまるで盾のように並べる。いすゞも動きに合わせ伏せると、次の動きに備えたその時。
 ごう、と鬼門沌行を包む炎が勢いを増す。妖気が膨らむ様をいすゞの瞳が捉えた。
「来るっス!」
 禍々しい波動が柱を轟轟と鳴らし放たれる。オブシダンは衝撃を剣で削ぐと、いすゞの前に出て勢いが過ぎ去るのを待つ。
 まるで突風のように抜けた妖気が過ぎるのを確認した後、二人は静かに立ち上がった。
「驚いたっスね」
「でも、上手く躱せたみたいだね。じゃあそろそろ」
 機は熟したようだ。
「センセのその刃、あっしに寄越すっス」
「そうだね。結局、僕らはこうするのが一番強いんだよ」
「あっしは素振りくらいした方がいいかもしれないっスが……一番強い所、見せて貰うっス」
 どちらからともなく掴まれた手から、互いの熱が伝わってくる。
「さあ、いくよ相棒」
「任せたっスよ、相棒」
 再びオブシダンはその身を黒曜石の剣に変え、いすゞの手の中に身を預ける。その柄をいすゞはしっかりと握ると、管狐を呼び出すための言葉を唱え始めた。
『夜の守日の守に守幸へ賜へと、恐み恐みも白す。――守給へ幸給へ管狐。疾う疾う、如律令!』
 現れた管狐は先ほどより強く黒曜の光に寄り添う。全ての駒を揃え、いすゞは鬼門沌行の前へと立った。
「ほんと意味不明な手っスね。アンタに怨みは無……いやあるっス」
「あるの?」
「何ヒトの事汚してンスか!許さないっスからね!」
「あー、そうだね」
 音を立てて剣を構えるといすゞは走りだす。とはいえ、そこに策はない。あるのは相棒への信頼だけだ。
 だが、それで十分だ。
「いくっスよ!」
 いすゞはまっすぐに腕を伸ばす。確実に相手に届くように、それだけを目指して。その信頼に、オブシダンが応えた。
「真っ二つにしてあげるからね」
 ず、っと。鬼門沌行の手に刃の先端が触れた瞬間、オブシダンが力を発現させる。青い炎に黒曜が煌めいた瞬間――鬼門沌行は真っ二つに分かれ、消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『今宵は夜宴の時なり』

POW   :    豪快に一気食いや一気飲みに挑戦する。もしくは美味しいお酒や食べ物に舌鼓を打つなど

SPD   :    素早く一気食いや一気飲みに挑戦する。もしくは皆の前で芸を披露するなど

WIZ   :    賢く一気食いや一気飲みに挑戦する。もしくは月や星を眺めて風流に浸るなど

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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「本当に、本当にありがとうございます。さあ、大したことは出来ませんが……」
 その夜。事態を収束させた猟兵達のために、村人たちが宴会を開くこととなった。満月の下で、肉や魚、酒が振る舞われる。
 ひらりと落ちた何かを手にとれば、それは梅の花。この世界に春を告げる花が、月に映えて咲いていた。
浮舟・航
【星鯨】
お二人とも、お疲れ様でした
……小日向さん、櫛使います?

すごいな、あんなに一気に飲んだり食べたりできるなんて
オブシダンさん、頑張ってくださいね。僕たちの備品代表として。
倒れてしまっても、ちゃんと持って帰りますから…
セツナさんも、すごいな。逞しい。
……(合掌)


食事は二、三口いただいて
後は星や月を眺めていたいな
煤の一つもついていないような、まるい月
こんな月は、きっとなかなか見られませんから

ふわ、と落ちてきたのは梅の花
手に取って、狼谷くんに渡す
きっと、景色が見づらいでしょう
満月が見れずとも、これだって負けないくらいきれいなものですから
水の注がれた浅皿を眺め
……ええ、これも立派な満月ですね


オブシダン・ソード
【星鯨】
柄の隙間に煤が…刀身も磨かないと…
気にかかる所はあるけど、せっかく宴開いてくれてるんだし、積極的に楽しませてもらうよ

一気食い推しが文化だというなら、それにも挑戦してみよう
備品代表。まぁ任せてよ
ヒトの姿を得てからこっち、食べるのが楽しくてね
案外いけるんじゃないかな
それでは、いただきます
周りの真似すれば良いんでしょ鶏の一匹くらい…
無理
セツナが頑張ってるけど僕はもう…
え、あーん、って君別にそんな可愛い生き物でも無ぐわーっ

大丈夫、生きているよ僕は
はあ、オブリビオンより強敵だったかも
お腹が重いからちょっと賢太郎の横らへんで転がってるね…
ははあ、風流だね、良い景色

賑やかな時間が過ごせて僕は嬉しいよ


狼谷・賢太郎
【星鯨】
オレは満月を直接見ちゃうとやべーからなぁ
持ち込んだ赤くてでっけー番傘でも差せばなんとかなるだろ!
食う時は立てとく!

オレも村の人からオブシダンといすゞの話を聞こっかな

おー、すげー。ヒトの口ってあんな開くもんなんだなー
オレは二人の勇姿を見守りながら、味わって食べるぜ!

でも景色が見づれーのだけが残念、っと……これ、梅の花か?
へへ、ありがとな、航!

あ、いいこと考えた!
浅皿を借りて、お酒は飲めねーから……水でいっか
で、この上に貰った梅の花を浮かべて、月を映して……できた!
へっへー!
これならオレだって、みんなと一緒に花見も月見も両方できるぜ!
こーいうの、ふーりゅーって言うんだろ?
すっげー綺麗だな!


小日向・いすゞ
汚れた服は煤を落とし
煤を落とさず水洗いすると最悪っスし
尾やら頭は櫛による毛繕いを所望したい所っス
ありがとっスよ浮舟センセ

ご飯はボチボチ食べる
はー
美味しい
村人の人達はみんなふーどふぁいたーか何かの様っスね
おぶしだんセンセとせつなセンセが挑戦するというのなら屍は拾うっスよ

手伝うっスか?
はい
あーん
あーんするっス
ほら
こんなに可愛い狐が食べさせてるンスよ!
あん?

二人とも生きてるっスか?
これは癒やす事の出来ない自業自得

一気食い挑戦者を弄り飽きたらお酌やら
給仕して回るっス

まま、じぇいくすセンセ
どうぞどうぞ
ご飯は適量の方が美味しいし
お祝いは皆でしたほうが楽しいっスから

なるほど、風流っス
狼谷センセは賢いっスねえ


ギド・スプートニク
【星鯨】
煤まみれのいすゞ嬢には笑いを漏らし
二人の活躍にあやかって食事を頂こう

自身は大食いはせず、普通に食事
だが食べ方に関しては作法などあまり気にせず、豪快に齧りつく
うむ、美味い

こういった独自の文化も面白いものだな
確かに、フードファイターとは近いものがあるのやも知れぬ

喰い倒れるオブシダン卿やセツナ殿の姿には、ははは、と笑い
程々に休まれると良かろう
男二人を抱えるとあっては、航殿が過労死してしまうからな

花も月夜も、人々がはしゃぐ姿も、風流なものよな
なるほど、賢太郎殿もなかなか粋な事を考える

ジェイクス殿とも盃を交わし
そうだな
あまり戦いばかりに明け暮れていては、心も荒むというものだ


ジェイクス・ライアー
【星鯨】
村人からオブシダンといすゞの雄姿でも聞こうか。ああ、賢太郎といったか。君も聞いていくかね。
ほう。成る程、2人で解決まで導くとは流石だな。労いの言葉でもかけていくか。

さて、宴席ではオブシダンとセツナのパフォーマンスを肴にゆっくりと杯を傾けよう。
…見ていたら気持ち悪くなってきたな。
フードファイトの類はどうも面白さが分からない。
おい、オブシダン。生きているか?
……やはり食事も酒も、適量適度が一番だな。

今宵は満月か。賑やかさに疲れたら少し外れで月見酒を。
ああ、悪いないすゞ。お前も飲むなら注いで……なに?未成年?……そうだったのか。

日々の依頼の狭間、こうして穏やかに過ごせるのは貴重な時間だ。


セツナ・クラルス
【星鯨】
オブシダンさんといすゞさんはお疲れ様
さあさ、こっちへ来て話を…の前に顔を洗った方がいいかもしれないな
ふふ、ずいぶん大活躍したようだね

丸呑みならともかく
一気食い程度どうということでもないのではないかな
余裕の笑みで鶏の一気食いに挑戦するもすぐに後悔
ふふふ、無理だねこれは
何故いけると思ったのか少し前の私
とはいえ、何もせずに負けるのは悔しいね
精々励むとしよう
序盤はお行儀よく食べていたが
段々面倒になり、手や口の汚れも気にせずかぶりつく
大丈夫、私も生きているよ
ははは、こんな風に食事をしたのは初めてだ

くちい腹を宥め、賑やかな番傘の傍へ
水に映る月もまた格別
うんうん、いい時間だ
これで明日もまた頑張れるよ



「柄の隙間に煤が……刀身も磨かないと……」
「先に払ったほうがいいっス。煤を落とさず水洗いすると最悪っスし」
「あー、服というよりは……うん」
「なんスか?」
 小さな村の片隅で。オブシダンの隣を歩くいすゞがぱたぱたと衣を揺らすと、小さな残り煤が闇の中へ落ちていく。
 日はすっかり山の向こうへ落ちてしまったとはいえ、オブシダン達が服を確認するのに支障はない。今夜の月はいつもより強い光を地上に投げかけていたし、この村の規模に合わないほど、今夜はあちこちに明かりが灯されていたのだから。
「あ、いたいた!」
 おーい、と投げかけられる声にオブシダン達が振り向けば、木々の下に狼谷賢太郎を初め数人の姿があった。
「お二人とも、お疲れ様でした」
「さあさ、こっちへ来て話を……の前に顔を洗った方がいいかもしれないな」
「そうだな。それがいいだろう」
浮舟航とセツナ・クラルスに続き、つい零れてしまった笑いと共にギド・スプートニクがそういえば、いすゞは自分の頬に手をやる。
「顔?……って、黙ってたっスね!?」
「別に黙ってたわけじゃないよ。言うのが遅れたかもしれないけど」
「これは、かなりの冒険譚があったようだな」
 良ければ使うかね、とジェイクス・ライアーが一枚のハンカチを差し出せば、航も櫛を取り出し。
「……小日向さん、櫛使います?」
「ありがとっスよ浮舟センセ」
「そろそろ宴の準備が出来たから、オブシダンといすゞに来てほしいって村の人がいってたぜ!」
「気にかかる所はあるけど、せっかく宴開いてくれるなら楽しませてもらうよ」
 航達にも手を借り二人は身支度を整えると、ギドとジェイクスの先導で村の中心部へと向かう。
 遠目からでも既に見えていたその宴の会場では、既に酒にでも手をつけていたのだろうか。やけに浮かれた村人達の姿と、風習らしい一気食いや一気飲みが盛大に行われていた。
「さあさ、皆さんも!」
 やって来たところで早速鳥の一気食いへと誘われる。
「一気食いか。だれか挑戦するものは?」
 ギドの問いかけに、セツナとオブシダンがこたえる。
「丸呑みならともかく、一気食い程度どうということでもないのではないかな」
「文化だというなら僕も挑戦してみようかな」
「なら、二人のパフォーマンスを見せてもらうか」
「オブシダンさん、頑張ってくださいね。僕たちの備品代表として」
「備品代表。まぁ任せてよ」
「おぶしだんセンセも参加するっスか」
「ヒトの姿を得てからこっち、食べるのが楽しくてね。案外いけるんじゃないかな」
「おぶしだんセンセとせつなセンセが挑戦するというのなら屍は拾うっスよ」
 挑戦する二人が舞台へとあがると、歓声と共に目の前に焼き鳥が丸々一羽分置かれる。
「それでは、いただきます」
 オブシダンはそう両手を合わせると、セツナと共に一気食いへと取り掛かった。
 そんな二人が見える場所に賢太郎は一番傘を開く。ぱっと真っ赤な色を花開かせ地面に立てると、ほう、とジェイクスが声を零した。
「夜の蒼に映えるいい色だな」
 広がる色の取り合わせを青の瞳が捉える。
「オレは満月を直接見ちゃうとやべーからなぁ。航もこっちに来るか?」
 賢太郎が呼べば航が隣に座り、ギドやジェイクス、いすゞが料理や酒をそれぞれ取り分けて傘の元に持ってくる。
「大食い用ではないが、鳥の一つでも如何かな」
「ありがとうございます。それにしても……あそこはすごいな、あんなに一気に飲んだり食べたりできるなんて」
「おー、すげー。ヒトの口ってあんな開くもんなんだなー」
 航と健太郎の言葉通り、大口を開けた男が鳥を食べていく姿があちらこちらで繰り広げられている。
 そんな、一風変わった光景の中でセツナは丁寧に足を食べやすいように曲げると口に運んでいく。
 行儀よく食事にいそしむ姿や僅かに口元に浮かぶ笑みは、一見余裕の表情にも見えたが――。
(ふふふ、無理だねこれは)
 何故いけると思ったのか少し前の私。と、思わず過去の自分に自問する。
「とはいえ、何もせずに負けるのは悔しいね」
 そう。ここで簡単に引いてしまうのも面白くない。一度手をつけたならとセツナは果敢に挑戦する。
 そんなセツナの隣でオブシダンもまた、いうなれば一気食いの命題とでもいうべき状況に陥っていた。
(初めは、周りの真似すれば良いんでしょ、鶏の一匹くらいって思ってたんだよね……けど)
 無理。そんな二文字がつい頭を掠める。
 今、オブシダンは食に追い詰められていた。そんな時に相棒であるいすゞは。
「はー、美味しい」
 焼き鳥を一つ口の中に放り込み、思わずそんな言葉を漏らしていた。
 その隣でギドは骨付きの肉を手づかみで取ると、豪快に齧りつく。
「うむ、美味い」
 本人の貴族然とした風貌と相容れぬその食べ方は、それ故により料理をおいしく見せるようだった。
「一気食いとは。こういった独自の文化も面白いものだな」
「村人の人達はみんなふーどふぁいたーか何かの様っスね」
「確かに、フードファイターとは近いものがあるのやも知れぬ」
「フードファイトの類はどうも面白さが分からない」
 目の前で繰り広げられる食の惨事に、ジェイクスが整った眉を顰める。
「今のうちに、私は村人からオブシダンといすゞの雄姿でも聞こうか」
「あ、オレも聞こっかな」
「ああ、賢太郎といったか。君も聞いていくかね」
「行く行く!」
 ジェイクスが立ち上がると賢太郎も皿を置き、共に傍にいた村人に話を聞きにいく。
「いすゞ嬢は?」
「加勢に行くっス」
「強力な援軍だな」
 たっ、と舞台に向かういすゞに、ギドはひらりと手を振った。
 舞台では、ちょうどセツナが鳥のモモ肉に齧りついているところだった。途中まで使っていたナイフやフォークは既に皿の端に置き去りにされている。
(こんな風に食べるなんて、考えたことあったかな)
 きっと、それはなかっただろう。そんなことを時に思いながら、セツナは食べ進めていく。
(セツナが頑張ってるけど僕はもう…)
「手伝うっスか?」
 いすゞはオブシダンの隣にくると、鶏肉を箸で器用に取る。
「はい、あーん」
「え、」
「あーんするっス」
「あーん、って……」
「ほら、こんなに可愛い狐が食べさせてるンスよ!」
「ほら……って、君別にそんな可愛い生き物でも無」
「あん?」
 ぐわーっという声が舞台に響いた気もするが、ここで何があったかは各人の想像にお任せする。
 兎にも角にも、一気食い大会が終息する頃には満腹になり舞台の床に背を預ける二人の姿があった。
「二人とも生きてるっスか?」
 ははは、と軽快に笑うギドの隣で、航が黙々と合掌する。
「オブシダンもセツナもすごかったなー」
「おい、オブシダン。生きているか?」
 ジェイクスは片膝をつきオブシダンの横に来ると、その状態を確認する。
「大丈夫、生きているよ僕は。はあ、オブリビオンより強敵だったかも」
「倒れてしまっても、ちゃんと持って帰りますから…」
「程々に休まれると良かろう。男二人を抱えるとあっては、航殿が過労死してしまうからな」
「セツナさんも、すごかったな。逞しい。大丈夫ですか?」
「大丈夫、私も生きているよ」
 おなかは苦しいくらいなのに、なぜか笑みが漏れる。
「ははは、こんな風に食事をしたのは初めてだ」
 思わずそんな言葉がセツナの口をついて出た。
 そう。ヒトの姿を得て。あるいは自由に。こんなにも生きている。
 十分に食に明け暮れた後は、一行は賢太郎の傘を喧騒から少し離れた場所まで持っていき集まる。
「ここがいいだろうな」
 土地や、風景にも重きを置き、ジェイクスがある地点を選び出す。
 そこは咲き誇る梅も月も、愛でるには最良の場所だった。
「今宵は満月か」
「煤の一つもついていないような、まるい月ですね」
 航は空を見ると、ほうっとするようなため息を一つ吐く。
 きっとこんな月は、なかなか見れないだろうからと。月も星も、その瞳の中に納める。
「そして花も見事だ。花も月夜も、人々がはしゃぐ姿も、風流なものよな」
 未だ宴の渦中にいる人々を眺めギドが呟く。
 それから酒や水、少しばかりの料理を肴に、この風景を楽しむこととした。
 オブシダンとセツナが休憩する間に、いすゞはお酒を手に歩いて。
「まま、じぇいくすセンセ。どうぞどうぞ」
「ああ、悪いないすゞ。お前も飲むなら注いで……」
「あっしは未成年で」
「未成年?……そうだったのか」
 ジェイクスはいすゞからの酌を受けると、少し口をつける。
「村人から聞いたが、この件。2人で解決まで導くとは流石だな」
「私達は二人の活躍にあやかってしまっているわけだが」
 いいのかとギドが問えば、いすゞは笑って。
「ご飯は適量の方が美味しいし、お祝いは皆でしたほうが楽しいっスから」
「あ、これは……」
 休んでいたセツナの髪に、ふわりとはなびらが落ちる。
 ふわり、ひらりと少しずつ落ちていくそれは航の手の中にも舞い降りて。
「景色が見づれーのだけが残念、っと」
「狼谷くん」
 航は、手に納めたそれをそのまま賢太郎の手のひらに渡す。
「……これ、梅の花か?」
「これも、きれいだと思いまして」
 満月が見れずとも、これだって負けないくらいきれいなものですからと。そう思って渡せば賢太郎は満面の笑みを浮かべる。
「へへ、ありがとな、航!あ、いいこと考えた!」
 賢太郎は浅皿を取ると、少し見回して。
「お酒は飲めねーから……水でいっか。で、この上に貰った梅の花を浮かべて……」
 賢太郎の閃きを全員で見守る。浅皿の位置を動かし、そこに月を映し出した。
「できた!へっへー!これならオレだって、みんなと一緒に花見も月見も両方できるぜ!」
 見上げられないのであれば。
「その手の中に月を、ということか」
「なるほど、賢太郎殿もなかなか粋な事を考える」
「こーいうの、ふーりゅーって言うんだろ?」
「なるほど、風流っス。狼谷センセは賢いっスねえ」
「ははあ、風流だね、良い景色」
「水に映る月もまた格別だね」
「すっげー綺麗だな!」
「……ええ、これも立派な満月ですね」
 浅皿に呼ばれた月に。賢太郎が楽し気にいえば、航もまた笑みを零した。
「うんうん、いい時間だ。これで明日もまた頑張れるよ」
「いい時間、か。日々の依頼の狭間、こうして穏やかに過ごせるのは貴重な時間だ」
「そうだな。あまり戦いばかりに明け暮れていては、心も荒むというものだ」
 セツナとジェイクス、ギドは言葉を交わしながら、他の面々に目をやる。
 ここにいる者は皆、常にこんな時を過ごせるわけではない。だからこそこんな時間は、きっと大切なものなのだろう。
「賑やかな時間が過ごせて僕は嬉しいよ」
「そうっスね。またこんな風に皆で過ごしたいっス」
 ふわりと、少し暖かさを纏った風が梅の花を運ぶ。
 煤は仕舞い。オブシダンといすゞが眺めるその先で、春はすぐそこまで近づいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月06日
宿敵 『鬼門沌行』 を撃破!


挿絵イラスト