「っ……ここまで、なのね……」
限界を迎えた沖浦・小夜子(囚虜・f01751)の体が、ガクリと崩れ落ちる。
巨大な館の、これまた巨大な庭園で小夜子は四人のメイドと戦っていた。四方を囲まれての攻撃に小夜子の体力は削られて、もはや立ち上がる気力もなかった。
「や~っと大人しくなったわね!」
小夜子が床に倒れると、弓矢での攻撃を繰り返した一人のメイドが小夜子に近寄った。
膝丈のメイド服を着たツインテールの彼女の言葉に、大人びたロングヘアのメイドはうなずく。
「処刑しよう」
言って、ロングヘアのメイドは手にした槍を小夜子の首に向ける――「アメ、待って」と声を上げたのは、この中では最も豊かな体つきのメイドだ。
「処遇を決めるのは私達ではないわ。
主様の元へお連れします」
ひとりだけ紺色のメイド服を纏う彼女が、おそらくこの四人の中のリーダー格なのだろう。きっぱりとした物言いにロングヘアのメイド――アメは槍を収め、ツインテールのメイドは小夜子の前にしゃがみ込む。
「ご案内~……したいのだけど、立てるかしら?」
「ううっ……」
つんつんと指でつつかれて、傷だらけの小夜子はそれだけで痛い。
「ハレ。捕虜は丁重に扱いなさい」
「は~い」
ハレがうなずくと、ツインテールが頭でぴょんと揺れる。
「……拘束、始める……」
ここまで沈黙を保っていたショートヘアのメイドは呟くと、自身の得物でもある鎖を手に小夜子に近づいた。
「手、後ろに……」
低い声で短く指示するメイドに逆らう気力もなく、小夜子は自らの手を後ろに回す。
ガチリ、と音がして手首を冷たいものが覆う。枷を嵌められて手の自由を奪ったメイドは、次いで首輪を手にした。
「……失礼致します」
ボソリと一言断って、小夜子の首に戒めが加わる。
「ユキってば、もっと可愛い首輪にすればいいのに~」
「うるさい……」
黒く武骨な首輪をハレにからかわれて、素っ気ない態度を取るショートヘアのメイド・ユキ。
ユキの言葉こそ冷たいが、首輪が小夜子の長髪を巻き込んでしまわないように気を配る所作は丁寧だ。
「っ、」
丁寧に、そして確実に、小夜子の首には枷が掛けられる。
枷からは鎖が伸びていた。体力も気力も尽きた小夜子にはその鎖はあまりに重く、見かねたアメがその鎖を持つ。
「これは私が持とう。少しは楽だろう?」
「……、ええ……」
お礼を言うのは違うか、と思って口をつぐむ小夜子。
そうする間にも、足首にも枷が課された。手首は束ねられたが、足首は歩きやすさを考えてか束ねられていない。代わりに足首の左右の枷は鎖で繋がれて、走ったり体術で彼女たちを攻撃したりは出来ないように制限が設けられていた。
両手足の拘束を受け、首輪から伸びる鎖を引かれれば小夜子に逆らうすべはない。四人のメイドに逆らおうと身じろぎすればカチャカチャと鎖が音を立てるから、隙をついて逃げることも困難だろう。
もっとも、彼女たちから袋叩きに等しい攻撃を受けた今、小夜子に隙をつくほどの気概は残っていない。大人しくさえしていればメイドたちも攻撃を仕掛けてくることはないことに甘えて、小夜子は枷が嵌められた自分の体をただ見下ろしていた。
――すると、見下ろす胸の下に鎖が通される。
「ひゃ……っ!?」
手足を押さえ込まれ、これで終わりだと思っていたから驚きに声が上がる。しかしメイドたちは小夜子の理解も待たず、てきぱきと小夜子の上半身にも鎖を回していく。
「アメ~、そっちお願い~」
「ユキ、腕にもかけるのか?」
「うん。……ハレ、もっときつく締めて」
三人が会話をしながら小夜子の体に鎖をかけるのを、リーダー格らしいメイドは黙って眺めている。
二の腕と胸に回された鎖が念入りに締められ、小夜子の動きを封じていく。黒いセーラー服の上を通る鎖は小夜子の胸を上下から圧迫し、くびり出された胸が強調されるようだ。セーラー服にも不自然な皺が寄って、羞恥に小夜子の眼鏡の奥で瞳は微かに潤んだ。
「……これでいい」
何度も小夜子を検分したユキがうなずくと、リーダー格のメイドは小夜子の首輪から伸びる鎖の一本を手に取った。
「立てますか?」
「ええ……」
誘うように持ち上げられた鎖に従って小夜子が立ち上がると、他のメイドたちもリード代わりの鎖を手にする。
背後にはユキ、左右にはそれぞれアメとハレ。そしてリーダー格のメイドは小夜子の前に立ち、鎖を引いて歩き出す。
「
主様の元へ、ご案内致します」
小夜子がメイドたちと戦った庭園を進んだ先に、主がいるという館はある。
拘束を受けた小夜子は走ることは出来ないから、必然として進みは遅い。遅々と歩くメイドたちは小夜子に配慮したつもりなのかもしれないが、敗北し拘束を受けた格好で長い時間を過ごすことは、小夜子にとっては屈辱以外の何物でもない。
「鎖の確認を」
館のドアの前でリーダー格のメイドが言うと、三人のメイドはそれに従って小夜子を縛る鎖の見直しを行う。
「もう少し、ぎゅ~ってしちゃいましょう」
ハレは言って、小夜子の胸元を縛る鎖を思い切り引っ張る。
「痛っ
……!?」
思わず声を上げてしまう小夜子――セーラー服越しにも鎖は肌に食い込んだ。
「悪いね。だが、これも私たちの仕事だ」
「……もっと、縛る」
小夜子が痛みに顔を歪めようとも、彼女たちの仕事は完璧だ。緊密に身体に密着する鎖に上体を苛まれつつ、小夜子は謁見の間へと通される。
「――
主様。お連れ致しました」
「御苦労だった、ソラ。そしてお前達も」
謁見の間には男が一人、その顔を見ようと小夜子は顔を上げるが、すぐさまリーダー格のメイド・ソラは小夜子の頭を掴むと無理やり頭を下げさせる。
「ぎっ……!」
ソラの爪は頭皮にめりこまんばかり。引っ掴まれた髪の毛もチリチリと痛く、思わず小夜子は小さく悲鳴を上げてしまう。
他のメイドたちの手ずから、小夜子は床に膝をつけさせられた。ジャラジャラうるさい鎖が床に伸び、掴まれた頭も下へ向けられて額と床がぶつかる。強引な土下座姿を取らせた小夜子の周囲で、メイドたちもまた膝をつき、主へと
頭を垂れている。
「これが侵入した子鼠か」
色香の漂うバリトンボイスが頭上から響く――近づいた主は床に広がる小夜子の長髪を踏んでいたが、それを気にした風もない。
「牢獄にでも入れておけ」
「畏まりました」
四人のメイドの声が揃う。
声に見送られて、主のものらしき足音は遠ざかっていく……足音が完全に消えてから、メイドたちは速やかに行動を開始した。
土下座の格好を取らされた時と同じくらい強引に、小夜子は立ち上がらせられる。ここへ来る時よりも強引に鎖を引かれ、小夜子はつんのめるように歩みを進めていく。
豪奢な謁見の間を通り抜け、廊下を何度か曲がると、徐々に廊下の空気は冷え込んでいく。ソラが廊下の突き当りにある古錆びたドアを開けると、殺風景な牢が口を開けて待っている。
「っ!」
ソラに突き飛ばされて、つんのめるように牢に入る小夜子。
小夜子が牢に収まると即座に鍵はかけられて、メイドたちは小夜子に一瞥もくれずに立ち去ってしまう。
ドアが外側から閉ざされてしまえば、そこにいるのは小夜子ただ一人。
拘束された身体は硬い床に転がり、何をすることも許されない。
いつ終わるとも知れない孤独と拘束が、小夜子を着実に苛んでいく……。
成功
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