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チューベローズの姉妹

#サイバーザナドゥ #ノベル

ウル・ビーディー




「外部プログラムを用いた自己メンテナンスを開始します。」
 BeastDoll-modelUR、ウル・ビーディー(侍女獣人形・f26152)の管理する屋敷の一室にて。ウルの自室は無機質な部屋で、彼女の座る椅子の前にあるメインコンピューターの他にも、壁際には整然と機器が並んでいる。棚の隅に小さな鉢植えが一つ、白い花をつけているだけの生活感の薄い部屋。
 ウルは椅子に座り、背もたれに寄りかかる形で胸部と腹部の機構を展開している。腹部からは箱型の機械が露出し、ケーブルが目の前のメインコンピューターに複数繋がっている。胸部は両開きの扉のように開き、ウルの全身状態を現わしている。
 胸部のモニターに映る全身図に、各部の状態が表示されている。時折表記が切り替わり、また替わり、メンテナンスが進行している事を現わす。

 ピクリ、とウルの耳が、微かな、本当に微かな自身が発する駆動音とは違うものを察知する。それは本当に僅かで、それを捉えた瞬間に鉄製の部屋の扉が開かれる。
 ウルのカメラアイが、扉を開けた主を捉える。その者はウルの着用するメイド服によく似た、しかし、赤系を主とした色使いで、そして、ボロボロになった服を着ている。二足歩行の狐獣人を、ウルのカメラアイが捉え、電子脳が識別する。
「BeastDoll-modelFX。姉妹機のフォクシー・ビーディーと認識します。」
 ウルの姉妹機、フォクシー・ビーディーの両目のカメラアイが、メンテナンスモードで脱力しているウルを捉える。
「BeastDoll-modelUR。姉妹機のウル・ビーディーを捕捉。」
 ペロリと舌を出し、舌なめずりをする。しかし、そのフォクシーの発言は、ウル同様に無機質で機械的であり、姉妹の再会を喜ぶ雰囲気は微塵も感じられなかった。着用しているメイド服も、ボディもボロボロのフォクシーは、カツカツとウルに近づく。ウルのように豊かな毛量の尻尾がゆらゆらと揺れる。
 ウルの目の前でフォクシーは足を止める。ウルから見ればフォクシーに見下された状態で、フォクシーはウルを見下して。
 キュイっとフォクシーのカメラアイが、ウルの腹部と胸部、それから腹部から伸びるケーブルに目を向ける。
「外部プログラムを使用した自己メンテナンスを実行していると認識します。」
 フォクシーの発言は、ウルと瓜二つ。どちらが話しているのか分からないくらいだ。
 フォクシーはウルの状態を認識すると、何の躊躇もなく、ウルの腹部に繋がったケーブル数本を鷲掴む。
「警告。メンテナンス時のケーブルの抜き差しは故障の原因と――。」
 なります。言い切る前にフォクシーはブチンとケーブルを引っ張り外す。
 フォクシーはただプログラムに乗っ取って行動するのみ。姉妹機のウル・ビーディーを破壊するのみ。
「警告。メンテンナンスモードが強制中断されました。ケーブルを戻して下さい。」
「却下。電子脳部の解放を求めます。」
 ウルがメンテナンスを強制中断されたことを警告する中、フォクシーはトントンと手の肉球をウルの胸部に当て、ウルが電子脳を開放するように命令を送る。
「電子脳部の解放を承諾。電子脳を解放します。」
 ウルは抵抗する事なく、後頭部から電子脳が格納された機構を外部へと開放する。
 フォクシーはウルの電脳部が開放されるのを、舌をペロリとしながら見つめる。そうしてウルの核となる電子脳が開放されると、右手でウルの電脳カバーに触れる。
「警告。電脳部への接触は、エラー等の原因になります。直ちに離れてください。」
「電脳部の解放を確認しました。直ちに破壊をします。」
 フォクシーの右腕に仕込まれた機関銃が展開する。ウルの制止の声は、フォクシーには一つも響かない。似た者同士の声が部屋に響いて、そうして、ダダダダダダッ!と銃の発砲音が連続して部屋に響く。

「けい……こ……error。er……。」
 至近距離、いや、ゼロ距離で放たれた銃撃。その衝撃と、電脳カバーと電子脳が割れる音と、ウルの視界が真っ赤に染まって、暗く黒く染まるのはほぼ同時。慌ただしくウルの状態が悪化する。最後にerrorの文字をウルが視界内に認識すると同時に、ウルは破壊され崩れる。

 ウルの電脳が致命的なダメージを負ったことを視覚的に確認したフォクシーは、何の感情も浮かばない目でウルを見下す。
「腹部機構を展開します。」
 先ほどウルとメインコンピューターを繋いでいて、フォクシーが引きちぎるように抜き取ったコードを拾いながら、フォクシーは腹部機構を展開。
 コードをウルに挿し込み、フォクシー自身にも差し込む。
「対象を強制再起動。データ移行を指示します。」
 フォクシーの指示と共に、ウルへと再起動の指示が送られる。ガ、ガガ、ピ、ガガガ。と何とも言えない壊れた声をあげてウルのボディが駆動する。
「ガ……エ、error。」
「強制データ移行を開始します。」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年02月04日


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