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レイラ・キャラバンⅢ

#アポカリプスヘル #グリモアエフェクト #ストームキャラバン #レイラ・キャラバン


「隊長、レーダーに反応ありました」
 荒れた野を、三角形を描くように隊列を組んで走る大型の装甲車3両。
 その先頭を走る、他の2両と少し違う形をした、指揮車と呼ばれる車両の中で。
 操縦席に座る黒髪黒瞳の男性が、機器を操作しながら情報を上げた。
「数は軽く10越え……あー、20も越えますかね?
 こっちへほぼほぼ真っ直ぐ向かってくる感じで移動中」
「わー。カイロ適当ー」
 そこにへらりと笑いながら絡むように声をかけたのは碧眼の男性。
 カイロと呼んだ相手が座る椅子の背もたれに後ろから軽く寄りかかるようにしてモニターを覗き込めば、少し長めの金色の髪がさらりと揺れる。
「いいじゃないですか、ハサンさん。間違ってはないんですから」
 むっとした顔を作って言い返すカイロだけれども、その口調は面白がっているようで。
「まあね。事前情報通りってことでしょ?」
 ハサンも笑みを崩すことなく、ひらりと手を振り、椅子から身体を離した。
 モニターに向いていた視線を上げれば、見えるのは狭苦しい装甲車の内部だけれども。
 ハサンは、外に広がる荒野とレーダーが示した存在が見えているかのように、遠い目をして呟きを零す。
「破棄されたはずのフラスコチャイルドの群れ、かぁ」
「経緯はさっぱりですけど、俺達が発った街に向かってますからね。
 友好的じゃなさそうだってことですし、この辺りで食い止めておかないと」
「それを俺らがやるっていう、ね。
 オブリビオンストームがあるわけでもなさそうなのに、皆お人好しだよ」
「おや」
 男2人のどこか呑気な会話に混じったのは、艶やかな女声。
 ハサンが振り向けば、定位置に座った美しい女性が赤い唇でにっと笑っていた。
「それじゃハサンは留守番してるかい?」
「うわー。隊長、そうやって俺だけ拠点を見捨てるヒドい奴扱いするんだから」
「嫌がる奴を無理矢理戦いに駆り出すわけにもいかないからねぇ」
「嫌がってないですー。行きます。むしろ率先して戦いますから」
 緩くウェーブのかかった肩までの黒髪を面白がるように揺らしながら、隊長と呼ばれた女性はくくっと笑い。ハサンと楽し気に言い合ってから。
 その蒼空のような紺碧の瞳をすっと細めて、凛と告げる。
「全車通達。戦闘態勢」
 その声は、指揮車にだけでなく、通信機器を介して後続の2両にも届いたから。
 ノイズ交じりの声が返ってきた。
『2号車、了解した』
『3号車、了解し……うわっ!?』
『隊長、ワシも出るぞい。試射の的に丁度よいわ。行くぞサミ!』
『はいはーい……』
 固い印象の女性の声と、柔らかな男性の声……は途中から何やら割り込まれて。
「また親方は……」
 それを聞いたハサンが零し、カイロも隊長も苦笑を浮かべる。
 いつも通りの展開に、程よい緊張が漂う中で。
「さて、今日はアタシも出ようか」
「ええっ!?」
 しれっと放った隊長の一声に、会敵以上の驚愕が装甲車を震わせた。

 3両の装甲車で荒野を行く、特殊な奪還者。
 彼らは、世界を切り裂いた暗黒の竜巻『オブリビオン・ストーム』を追いかけ、出現したオブリビオンを倒して物資を奪う、凄腕のストームブレイド集団だった。
 ストームキャラバンと分類される彼らは、隊長の名前を冠した名で呼ばれる。
 すなわち……レイラ・キャラバン、と。

「そのレイラ・キャラバンが迎撃に向かった相手がちょいと厄介でね」
 肩を竦めて九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)が話し始める。
 ストームキャラバンは、オブリビオン・ストームを追いかける特殊な奪還者だが、普通のキャラバンとしての仕事もすることがあるし、物資の補給もそれなりに必要となる。ゆえに拠点ベースとなっている街へ立ち寄ることは珍しくないのだが。
 その、縁のあった街が襲われる、という情報を得て。
 誰に頼まれるでもなく、向かって行ったのだという。
 その相手は、かつて地下に建造されていたフラスコチャイルド製造施設で生み出され、失敗作として破棄されたはずの存在。
 それが蘇ったということは。
「フラスコの落とし仔……デミウルゴス・エコーだよ」
 それはフラスコチャイルドのオブリビオン。望みもしないのに生み出され、失敗作として破棄された彼らは、人類への恨みと憎しみに染まっている。
 街を襲撃するのも、空虚な復讐の為。
 意味も意義もなく、ただただ人類を虐殺するためだけの襲撃だ。
 速やかに倒して、街への脅威を排除すると共に、歪んだ生に再びの終止符を打つ……そんな戦いではあるのだけれど。
「まず相手取ることになる『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』は、その数もさることながら、全員で生命力を共有しているらしくてね。
 各個撃破で数を減らしていって、ってのが現実的に難しいんだよ」
 1体を倒しても、他の個体から生命力を得てすぐに復活してしまうから。
 有効な戦法は、なるべく多くの敵に一度にダメージを与えるか、強力な攻撃を叩き込み続けるか、といったところだろう。
 どちらにしろ、ストームキャラバンの戦闘要員では数が足りないし。装甲車の砲撃もユーベルコードでない以上有効打とは成り得ない。
「それと、群れを倒したなら、それを率いていた『セイレムの聖女』が現れる。
 こっちは、生前に施設で受けた実験の影響もあるんだろうね、殆どの攻撃を受け付けない超強力な防御力を持つ」
 こちらからの攻撃は、かのドクター・オロチ配下として『デミウルゴス・セル』の能力を得た存在であることもあり、例えユーベルコードであっても全て防がれてしまう。
 例外は、偽神細胞をその身に持つストームブレイドによる攻撃だが、それも与えられるダメージがかなり軽減されてしまうようだ。
 ストームキャラバンはストームブレイドで構成されているため、彼らの攻撃はセイレムの聖女にある程度は通じることになる。しかし決定打にはなり得ないだろう。
「とんでもない相手だが、勝機が1つだけあってね。
 セイレムの聖女は、ユーベルコードを使用するたびに肉体が自壊していくんだ」
 ゆえに、ストームキャラバンに頼るよりも、反撃としてユーベルコードを使わせて、自滅を狙う方が効果的な作戦となる。
 とはいえ、攻撃力も強化されている相手。そのユーベルコードを耐え凌ぐのは、猟兵であっても容易ではない。ストームキャラバンの者達では猶更か。
 だからこそ、夏梅は猟兵達に声をかけて。
「拠点を護る彼らに、手を貸してやってくれないかい?」
 にっと笑いかけると、荒野へ続く道を示した。


佐和
 こんにちは。サワです。
 生み出された恨みと棄てられた憎しみと。

 戦場は荒野の只中。障害物はありません。
 敵が目指す街までは距離があるため、気にしなくて大丈夫です。

 第1章は『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』との集団戦。
 全員で生命力を共有しているため、倒しても復活したりがあり得ます。

 第2章は『セイレムの聖女』とのボス戦。
 防御力が超強化されているため、ストームブレイドから以外の攻撃はどんな攻撃でも通じませんし、状態異常にもかなりの耐性を持ちます。また、ストームブレイドからの攻撃でも、与えられるダメージは激減します。
 ただし、ダメージがあろうとなかろうと、攻撃を受けると必ず反撃としてユーベルコードを使用し、その度に身体が自壊していきます。
 攻撃して反撃を受け、それに耐える戦いになるでしょう。

 レイラ・キャラバンは同名のシナリオに登場したストームキャラバンです。
 メンバーは総勢9名。3両の装甲車に3名ずつ乗っています。
 詳細を知りたい方は、シナリオタグをご利用ください。

 今回、車外に出て戦うのは以下の6名です。
 隊長のレイラ。女性。戦闘能力は不明。
 陽気なハサン。男性。近距離も遠距離も戦えるが、今回はガトリングガン装備。
 副隊長のサハル。デッドマンの女性。軍人気質。電動ノコギリの2刀流。
 ガスマスク装備のラファ。フラスコチャイルドの女性。大小様々な銃器使い。
 機械技師の親方。爺さん。今回はグレネードランチャーらしきものを作った様子。
 その弟子サミ。男性。親方に振り回されている。

 絡んでみたい人がいれば御指名ください。
 明に相手を指名しないでやりたいことを指定するのも可能です。その場合は、適当なメンバーをこちらで割り当てさせていただきます。
 もちろん、特に気にせず、関わりなく戦っても大丈夫です。

 それでは、棄てられた戦いを、どうぞ。
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第1章 集団戦 『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』

POW   :    Quiet noise
【静穏型ガトリング砲から発射された砲弾 】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    戦術:欺瞞情報拡散
戦闘力のない【情報収集型無人機とダミーオブリビオン 】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【偽情報の流布などを行い、市民からの援助】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    AntieuvercodePulse【AP】
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【疑似代理神格型演算支援システム 】が出現してそれを180秒封じる。
👑11
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 それは街にやってきたキャラバンからの情報だった。
 街に向かう途中で、人の集団を見た。こんな荒野で大型車両もなく移動するのも、大人数が徒歩で無事に移動できているのもおかしい。オブリビオンではないか。
 不安になったキャラバンは、自身の安全を確保するため進路を確認していたところで、もう1つの事実に気付く。その集団が、街へ向かっている、と。
 出来る限り急いで街に来たキャラバンは、皆にそれを伝え。
 そういえばその辺りの地下に、かつてフラスコチャイルドの製造施設があった、と老人が思い出せば。恐怖は現実となって伝播して。
 パニックになりかけていた街を、レイラ・キャラバンは出立した。

「俺らが何とかしてきますよ、って言ってくればよかったのに。
 そしたら、食料とか少し多めにくれたかも」
「できるかどうか分からないことを約束するもんじゃないよ」
 ガトリングガンを肩に担いで、へらへら笑う金髪のハサンに、緩いウェーブのかかった黒髪の下で蒼空のような紺碧の瞳をにやりと笑み、艶やかな赤い唇でレイラが答える。
「それに、これを防いだところで、他の脅威がなくなるわけじゃない。
 街には訓練と思って動いてもらおうじゃないか」
『厳しいですね、隊長は』
 指揮車のスピーカーからは操縦に残ったカイロの声。
 レイラはふっと見慣れた装甲車に視線を流してから、向かい来る敵を見た。
 そこに居たのは、制服のようなセーラー服の上からフードのついた黒く長い上着を着た少女達。だが、その背には、学生鞄ではなく赤いコードの伸びた機械が背負われ。ガトリングガンを持つ右手も、蛇腹剣を握る左手も、武骨な黒い機械腕になっている。
 真っ白い肌は、血の気も人らしさも感じさせず。ところどころに巻かれた包帯に染み出る赤い血と、白い髪の下で嗤う赤い瞳を、酷く強調していた。
「人だね」
「うん、人だね」
「ボクらを造ったのと同じ、人だ」
「勝手にボクらを生み出して、勝手にボクらを棄てたのと同じ、人だ」
「またボクらを造るの?」
「またボクらを棄てるの?」
「またボクらを壊すの?」
「だから人はキライ」
「キライだから殺そうよ」
「うん、殺そう」
「たくさんたくさん人がいるところにいって」
「たくさんたくさん人を殺そう」
 口々に言って、嗤いながら、武器を構え向かって来る『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』。
 その様子を、無造作に1つに纏めた長く真っ直ぐな白髪を荒野の風に揺らす少女が、無言のままに見つめる。
 ゴーグル付きのガスマスクで顔が隠され、その表情は見えないけれども。
 赤い瞳は、真っ直ぐにオブリビオンの群れを見ていたから。
「ラファ」
 その肩を、ぽんっとレイラが叩いた。
 振り向いたラファに、だがレイラは何を言うでもなく。
 いつも通りの、蒼穹のような笑みを浮かべていて。
「…………」
 だからラファは、レイラ・キャラバンに拾われたフラスコチャイルドの少女は、また無言のままに視線を戻し。
 背負っていたロケットランチャーを手にしてオブリビオンに向けた。
 その前に、電動ノコギリを両手に構えた、体格が良すぎて一見女性に見えない、長い金髪の副隊長・サハルが立つ。
 レイラを、そしてラファを護るようなその背中を、ラファはじっと見つめて。
「それにしても、相手の数が多すぎません?」
 苦笑しながら、レイラの隣にハサンが立つ。
「的が多くて選り取り見取りじゃ。試射にうってつけじゃな!」
「いや、親方、撃てるかどうかわからないものを持ち込む雰囲気じゃないですよ?」
「うるさいサミ! つべこべ言わずに弾を準備せんか!」
「……これ、グレネードじゃない気がするんですけど……」
 年季は違えど揃いのつなぎ姿でわちゃわちゃ言い合う親方とサミが、レイラの傍まで来たところで。
「大丈夫だよ」
 レイラは、誰よりも早く猟兵達の気配を察して、にっと不敵に微笑んだ。
「援軍だ」
 
桐原・剛将
連携・アドリブ可
エセ関西弁

「じゃかあしいわ、デザイナーチャイルドくらいでぐだぐだ言ってんとちゃぞ!」
グレネードランチャーを乱射して黙らせる。
「こちとら年がら年中戦争して老若男女関係なしにぶっ殺しぶっ殺されしとる世界出身やぞ、恨み言なんざ聞き飽きたわ!」
といいながらこっそり陰陽転変使用。攻撃回数5倍、装甲を半分。
グレランの攻撃で怯んでいる隙にステルスマントで姿を消して接近。
閃光弾で目眩まししつつ、超高比重金属木刀でできるだけ数をへらす。
離脱の際にもグレランで最後っ屁かましとこか。



 不敵な隊長の言葉にはっとしたカイロは、すぐにレーダーにその影を見る。
 乗り物も拠点もないところから突然現れた存在は、猟兵――世界を渡る奪還者。
 幾度か関わり、その存在を知るカイロは、口元に喜びを浮かべ。
 そこから『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』へと放たれた弾丸の軌跡と、着弾による爆発を機械越しに感じた。
「じゃかあしいわ、デザイナーチャイルドくらいでぐだぐだ言ってんとちゃぞ!」
 突然の乱射と共に響いたのは、これまた乱暴な言葉。
 パイルバンカーもついた武骨なグレネードランチャー『DDC-G メジャー・コング』を右手一本でがっしりと保持した桐原・剛将(焔の剣士・f29916)は、叫びながらもその攻撃を止めることなく、轟音の中で続ける。
「こちとら年がら年中戦争して老若男女関係なしにぶっ殺しぶっ殺されしとる世界出身やぞ、恨み言なんざ聞き飽きたわ!」
 今はUDCアースで普通の学生をしている剛将だが、元はクロムキャバリアのとある学生国家でキャバリア乗りとして活躍していた身である。
 戦乱の続く世界で、戦闘経験もそうだが、様々な不条理に幾度も直面してきたから。
 勝手に生み出され勝手に棄てられた。
 そう語るフラスコチャイルドの少女達の境遇に、不憫と思わなくもないけれども、流されて手が鈍るということなど、ない。
 今の彼女達は、人類に仇成すオブリビオンなのだから。
 剛将は、躊躇いなく、グレネードランチャーを乱射し続けた。
 乱暴で大雑把に見える攻撃だが、しかし剛将はこっそりとユーベルコード『陰陽転変』を発動させ、装甲を犠牲に攻撃力を格段に上げていたりする。
 感情に任せての勢いではない、実は理性的な攻撃。
 なのだが。
「むむ、こりゃワシも負けておれんわい。サミ、弾じゃ!」
「だから親方、これグレネードじゃない気が……」
 その勢いに張り合うように、つなぎ姿の2人がなにやらわちゃわちゃしていた。
 そこからも何かしらの弾が放たれ。
 そして他の猟兵達からも銃弾やら氷やらの攻撃が続けば。
 にやりと獰猛に笑った剛将は、ステルスマントでその身を隠す。
 視覚はおろか各種レーダーまで欺き、姿を消すその機能を存分に生かし。
 数多の攻撃に怯むフラスコチャイルドの群れへ、警戒されずに接近すると。
 撃ち込んだのは、閃光弾。
 局所的な効果を把握していることと、自身やフラスコチャイルドの身体が影を作る位置を計算し、味方への悪影響をできるだけ避けた動きで、強烈な閃光による考え得る最良の効果を得た剛将は。
 右手の武器を超高比重金属製の(便宜上そう呼んでいる)木刀に持ち替えると、視覚を奪われたフラスコチャイルドを片っ端から叩き伏せた。
 くずおれ倒れる少女は、だが他の個体から生命力を得てか、すぐに立ち上がってくる。
 けれども剛将は何度も何度も木刀を振るい、幾度も幾度も少女達を倒し。
 その動きに閃光弾の影響がなくなってきた、と感じた瞬間。
 躊躇いなくその場から離脱した。
 敵の集団の中で孤立する危険を冒すことなく、着実な戦いを見せて。
「最後っ屁かましとこか」
 剛将はしっかりとグレネードランチャーの一撃を残していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルゥ・グレイス
こちら、終末図書館所属ルゥ・グレイス。グリモア猟兵の依頼兼、終末図書館への正式な救難要請を受諾。戦闘に参加します。
現在の戦局及び今後の戦術について打ち合わせを…なんだか面白そうなもの持ってますね。グレネードランチャー?

へぇ。なるほど。親方殿、今回は試射会をご要望と。
でしたら、そのようにしましょうか。

第八術式起動。
戦場全体に広がる敵を一点に転移させてまとめ、グレランで一撃。
ダミーもまとめて爆撃。
とてもシンプルで効率のいい作戦ですね。
さぁ、相手の回復が終わる前に次弾いきましょうか。


敵には特に思い入れなどはない。
ただこの世界では意味もなく作られて壊されるなんてこと、ありふれた絶望だろう。とは思う。



「こちら、終末図書館所属ルゥ・グレイス。
 グリモア猟兵の依頼兼、終末図書館への正式な救難要請を受諾。戦闘に参加します」
 荒野の只中には不釣り合いな、事務的な声が凛と響く。
 ここが戦場になると信じられない程普通に、すたすたと歩みを進めたルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)は、白衣の裾を揺らしながら、本を胸元に抱えたそのままでキャラバンの乗組員へと近づいて。
「現在の戦局及び今後の戦術について打ち合わせを……」
 危機感の薄い、平然とした声色のまま話しかけた。
 けれども。
「むむ、こりゃワシも負けておれんわい。サミ、弾じゃ!」
「だから親方、これグレネードじゃない気が……」
 技術者なのだろうか、揃いのつなぎを着た2人は、一抱え程の武骨な機械を間にわちゃわちゃしていて。ルゥに気付いていないようだった。
 師弟なのだろうか。確かに、親方と呼ばれた方は、濃茶色の髪が少なくてっぺんが禿げているし、口元に髭も蓄えているから、かなり年嵩に見える。つなぎの汚れや痛み具合も年季を感じさせるものだ。
 一方のサミと呼ばれた短い銀髪は、まだ少年と言えそうな若さで。つなぎも真新しくはないが、親方に比べれば綺麗なもの。
 ここに、不健康な程に白い肌に、真白い白衣を着た、学者な雰囲気のルゥが加わると、戦闘ではなく開発実験をしそうな光景になってくる。
 そんな雰囲気を壊すことなく、ルゥは親方の横から覗き込んで。
 何かを撃ち出す銃器のような、それにしてはいろいろ剥き出しだったり変なところが飛び出ていたりする、長く奇妙な金属の塊を観察すると。
「なんだか面白そうなもの持ってますね。グレネードランチャー?」
「おっ、見る目があるの。ワシの最新作じゃ。
 的がぞろぞろ出て来たんで試し撃ちに来たところじゃよ」
 くるりと振り返った親方が、嬉々として説明を始め、ルゥにそれを見せびらかした。
 確かに、既製品にはない乱雑さは、ハンドメイドたる所以だろう。それは親方なりに工夫を凝らした結果ではあるのだろうけれども。
 一言でそれを表現するなら――スクラップ。
 適当な機械部品を見境いなく接合してグレネードランチャーの形を真似た、と言えそうな雰囲気だったから。
 サミが微妙な顔をしているのも当然かもしれない。
 しかしルゥは、物珍し気にそのグレネードランチャーを眺め。
 持ち前の知識欲ゆえにか興味津々といった体で親方の説明を素直に聞いていた。
「へぇ。なるほど。親方殿、今回は試射会をご要望と。
 でしたら、そのようにしましょうか」
 そしてゆっくり頷いて見せたルゥは。
 攻撃を受ける『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』を見つめると。
「敵性対象、確認。システム問題なし。総員通達。
 さあ、作戦開始だ」
 ユーベルコード――八号攻性術式【空蝉】。
 群れといってもある程度広がっていたフラスコチャイルドの少女を転移させ、1ヶ所に集めるように盤面調整。
 生命力を共有し、各個撃破に向かない相手を、一点にまとめることで、爆弾によるシンプルな攻撃でも最大の効果が得られるように整えていく。
「ではどうぞ」
「うむ。ほれサミ弾じゃ!」
「はいはい……」
 そして親方を促せば、弟子がしぶしぶ差し出した、グレネードというより地雷のような弾を何やらセットして、発射。
 どっかーん、と大きな爆発が巻き起こり、数人の少女達が吹き飛ばされた。
「うむ。飛距離も威力も問題ないな。成功じゃ!」
「さぁ、相手の回復が終わる前に次弾いきましょうか」
「よし、どんどん行くぞ。サミ!」
「はーい……」
 上機嫌な親方と、疲れた顔のサミ。そして次々撃ち出される、多分地雷。
 ルゥは特にツッコミを入れることもなく、爆発でまた離れてしまった少女の位置を転移で再調整したりして、シンプルで効率のいい作戦を遂行していく。
 吹き飛ばされた少女が、生命力を共有してまた起き上がってきても。
 少女達が自分と同じフラスコチャイルドであっても。
 ルゥは特に気にすることなく、淡々と、作業をこなす。
(「この世界では意味もなく作られて壊されるなんてこと、ありふれた絶望だろう」)
 生まれも育ちもアポカリプスヘルゆえか、それが普通とばかりに受け止めて。
 続く爆発に、また他の猟兵達の攻撃に、少女達が倒れていくのを静かに眺め。
 ふと、その銀色の瞳が流れると。
 キャラバン側に立つ長い白髪のフラスコチャイルドを、少しだけ、見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グリゼルダ・クラウディウス
どれほどの大勢であっても、雑兵で、余を討取ることは適わぬぞ。

余の<気功法>は竜の強靭な肉体を更に強く、硬くするだけではない。
練りあげた気は、万象を凍てつかせる冷気を生じさせる。

全員で生命を共有し、倒されても、なおも立ちあがってくるというのであれば、このような対処法はどうだ。

起きあがりたくとも、起きあがれぬ状態にしてしまえば良い。
余の冷気をもって、その身を凍てつかせて、氷像に変えてくれる。

余が得意とする<凍結攻撃>、永久凍土の覇者たる氷銀竜の咆哮だ。

凍てついた肉体を無理に駆動させようとすれば、肉も骨も砕け散るぞ。
その大層なガトリング砲も、銃身が凍りついてしまえば使用することはできまい。



 次々と弾丸を発射する様々な銃器。ガトリングガンにロケットランチャー、グレネードランチャーとそれに似せたスクラップ。
 見た目も効果もそれぞれだけれども。
 そのいずれもが『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』を撃ち抜き、倒し。
 しかし、程なくして倒れた少女達は起き上がる。
「なるほど。全員で生命を共有し、倒されても、なおも立ちあがってくる、か」
 その様子を目の当たりにしたグリゼルダ・クラウディウス(氷銀竜・f39138)は、凍るような青い瞳を少し細めると、麗しい唇に不敵な笑みを浮かべた。
 青いドレスに包まれた抜群のスタイルを見せつけるかのように胸を張り、気功法で練り上げた気をその身に纏えば。見た目は繊細だが実は強靭な、竜神としての身体は、更に強く硬くなり。その上で、万象を凍てつかせる冷気が生み出されていく。
「であれば、このような対処法はどうだ」
 そうして放たれたユーベルコードは『氷竜哮』。
 歌うような見た目で、竜の咆哮を響かせれば、それはたちまち冷気と化し。
 フラスコチャイルドの少女達の間を伝わっていく。
「起きあがりたくとも、起きあがれぬ状態にしてしまえば良い」
 そうであろう? と問う言葉も凛と冷たく。
 広がる冷気が、起き上がりかけた少女達を凍てつかせ、氷像に変えていった。
「凍てついた肉体を無理に駆動させようとすれば、肉も骨も砕け散るぞ。
 大層なガトリング砲も、銃身が凍りついてしまえば使用することはできまい」
 凍てつくことで与えられるダメージよりも。
 凍結によりその行動が阻害され、制限されることを狙い。
 広がっていく冷たき女王の咆哮。
 そうして動きを封じれば。
 そこに飛び行く弾丸と。飛び込んでいく剣の軌跡。
「へえ。見事なもんだ」
 少しウェーブのかかった黒髪を揺らし、朱唇に笑みをたたえたキャラバンの女性リーダーが感嘆の声を零すのが聞こえ。
「当てやすくなったの。サミ、次じゃ!」
「へーい……」
 スクラップから地雷を撃ち出す技師師弟の嬉々とした様子が見え。
 グリゼルダは、ふっとまた冷たい微笑みを浮かべると。
 長い長い銀色の髪を、片手でさっと肩のあたりから払うようにして広げて魅せる。
「余は氷銀竜。永久凍土の覇王である。
 どれほどの大勢であっても、雑兵で、余を討取ることは適わぬぞ」
 尊大に。優雅に。王たる品格を持って立ち。
 得意とする凍結の息吹が、フラスコチャイルドの少女達の嘆きを、恨みを、憎しみを、次々と凍りつかせていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
このキャラバンに来るのも久し振りだ。少しばかりお手伝いしようか。
ふむ、全員揃ってるようで何より。それじゃ状況を始めるよ。

空間裁断の「範囲攻撃」による広域攻撃。高密度の空間の断裂を避けきれるかな?
反撃のガトリングガンは銃口の向きから射線を「見切り」、撃たれる前に立ち位置を変えていく。
裁断空間の中は、空間の断裂がどんどん増えていくよ。下手に動けば、首がポトリだ。
だけど動き回ってもそれは同じこと。ぼくの領域に飲み込まれた時点で詰んでるのさ。
駄目押しで、空間裁断の密度を上げる。その中にいる者たちは、細切れの肉片にまで切り刻まれるよ。

捨てた拾ったなんて、ありがちな話。自分が特別だなんて思わないことだね。



 荒廃した地を踏み、厳しい環境を通り抜けてきた風にさらりと金髪を揺らして。
 セシル・バーナード(サイレーン・f01207)はぐるりと辺りを見回す。
「このキャラバンに来るのも久し振りだ」
 大型の装甲車両が3両。そのうちの1つは以前中を見させてもらった。あの時案内してくれた無口な少女は今もまた車内にいるのだろう。
 そして車外には武器を携えた見覚えのある姿が幾つも。ガトリングガンを構えた金髪碧眼の彼は、同じ金髪をポニーテールにした猟兵と並んで弾をばら撒き。2刀の電動ノコギリを軽々と扱う色黒な副隊長は、炎の鳥と踊るかのよう。白髪を長くたなびかせた赤瞳の少女は、顔全体を覆う黒いガスマスクを外して何やらお菓子を食べていて。つなぎを着た親方は、妙なスクラップの傍でご機嫌で、弟子の少年がまた溜息をついている。
 かつて共に戦った時に見たのと同じ顔ぶれ。
 さらにそこに、緩くウェーブのかかった肩までの黒髪を揺らし、蒼空のような紺碧の瞳と艶やかな赤い唇に笑みを称えた女性が――キャラバンの隊長であるレイラが、姿を見せていることに、セシルは少しだけ驚いて。
 でもすぐに、中性的なその顔に、にっこりと艶やかな笑みを浮かべた。
「ふむ、全員揃ってるようで何より」
 そして、指し示すように手を掲げ、向けた先にいるのは『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』。
 次々と銃弾に倒れ、その傍からまた立ち上がってくる、生命力を共有した群れを、だがセシルは表情を変えぬまま見つめ。
「少しばかりお手伝いしようか」
 紡ぎ出すのはユーベルコード『空間裁断』。
「それじゃ状況を始めるよ」
 不可視無音で防御を無視する無数の空間断裂を広範囲に放てば、フラスコチャイルドの少女達の白い肌に次々と赤い傷が刻まれていく。
 その傷は、銃撃と同様、すぐに消えていくけれども。
 消えた傍から次々と刻まれていく赤い線。
「空間の断裂はどんどん増えていくよ。下手に動けば、首がポトリだ」
 氷銀竜が放つ凍結の息吹を見ながら、それと手を分けるかのように指定する範囲を狭めると、空間断裂の密度が上がり。さらに無数に重ねていくから。
 そこに居るだけで、白い髪が、白い肌が、切り刻まれた。
 だからといって動けば動いたで、待ち構えていた空間断裂の餌食。
「ぼくの領域に飲み込まれた時点で詰んでるのさ」
 子供らしく無邪気に、しかし残酷なまでに艶やかに、セシルは微笑み。
 捕らえた少女達を見えない刃で細切れにしていく。
「またボクらを棄てるの?」
「またボクらを壊すの?」
 紡がれるのは怨嗟であり悲嘆であり。
 殺されたのが蘇って尚殺される、勝手に弄ばれた生命の呪詛の声。
 しかし、セシルは顔色一つ変えぬまま。
 緑色の瞳で、特に何の感慨もなく、フラスコチャイルド達を射抜く。
「捨てた拾ったなんて、ありがちな話だよ。自分が特別だなんて思わないことだね」
 冷たく切り捨てる言葉は、哀れな少女達にきっぱりと最期を突き付け、未練をも切り落とすかのようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
みんな久しぶり
加勢させて貰うよ

ハサンと協力して
ガトリングガンで範囲攻撃
できるだけ多くの敵を攻撃し続けよう

適当に撃っても当たるのは
いいのか悪いのか

大丈夫そうなら装甲車を盾にして敵の射撃から隠れたり
駄目そうなら神気で防いだりしながら戦うよ

これだけ弾が飛び交えば仕方ないんだけど
埃っぽくて仕方ないね
前に行った温泉が懐かしくて仕方ないよ

多少の攻撃じゃ埒が明かないなら
強力なのをお見舞いしようか

ハサンらキャラバンのメンバーに
少し時間稼ぎを頼んでUCを使用し
BSプラズマグレネードを生成
攻撃力を5倍に、移動力を半分にして
敵に向かってぶん投げよう
もちろん近接組には声をかけておくよ

たまやー、って言って通じるのかなぁ



「みんな久しぶり。加勢させて貰うよ」
「晶!」
 携行型ガトリングガンの弾と共に飛び込んだのは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)。
 黒いリボンで高い位置に纏めた長い金髪を揺らし、露出を抑えつつもフリルをあしらい可愛らしさも垣間見える黒衣を纏った少女の姿に、ハサンがその名を呼んだ。
 すぐに2人は並び立ち、互いのガトリングガンの銃口を揃え。
 声を交わすまでもなく、連携してより広範囲の敵へと銃弾を撃ち込んでいく。
 過剰に弾を偏らせることなく。
 できるだけ多くの敵を攻撃し続けられるように。
(「適当に撃っても当たるのは、いいのか悪いのか」)
 味方より格段に多い敵に――『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』の数に、口の端で苦笑しながら。
 小柄な少女の身体でも扱えるように設えたとはいえ、そこそこ大柄な武器を、晶は上手く反動を逃がしつつ、慣れた様子で扱い続けて見せた。
 だがフラスコチャイルドの少女達は、次々撃ち抜かれた傍から次々立ち上がり続け。
 生命力を共有している、という情報が真実であることを見せつけてくる。
 それでも、晶に諦める気はさらさらないし。
 共に来た猟兵達の存在と、またキャラバンの皆と一緒に戦えることに、心強さと嬉しさしかないから。
「これだけ弾が飛び交えば仕方ないんだけど、埃っぽくて仕方ないね」
 あえて軽い口調で、隣のハサンに笑いかける。
「前に行った温泉が懐かしくて仕方ないよ」
「本当に。今すぐあのお湯に飛び込みたいよ!」
 多分、ハサンも同じような気持ちだったのだろう。
 肩を竦めるような気配と共に、明るい声が返ってきた。
 だが、気持ちだけで戦況が好転するわけがないことを、晶は知っている。
(「この程度の攻撃じゃ埒が明かない、か」)
 ちらりと周囲を見渡して。
 パイルバンカーもついた武骨なグレネードランチャーから次々と弾が撃ち出され。ロケットランチャーも素早く撃ち込まれていく中で。2刀の電動ノコギリが炎の鳥と共に斬り込んで。親方のジャンクのような奇妙な武器も、見た目以上の成果を上げているのを確認すると。
 晶は、ガトリングガンの銃口を下ろす。
「強力なのをお見舞いしようか」
「任せといて」
 その一言だけでこちらの意図を悟ったのか、ハサンがすぐさま晶を護るように弾幕の範囲を変えて。時間を稼いでくれたから。
 晶はユーベルコード『兵装創造』を発動させる。
 手にしていた携行型ガトリングガンが分解されたかと思うと、その形を変え、足りない材料を物質創造力で補い、再構築されていき。
 造り上げられたのは『BSプラズマグレネード』。
 キャバリア用であるがゆえに、晶が持つには巨大な手榴弾。
 さらに、敵との距離や群れとして集まっている現状から、移動力を半分にすることを代償にして、攻撃力を5倍に上げて。
「いくよ、ハサン! みんな!」
 声を張り上げてから、晶はグレネードを、投げ込んだ。
 大きな弾は大して遠くまでは飛ばせなかったけれども、充分フラスコチャイルド達が集まる只中にまで届き、着地して。
 途端、広範囲にプラズマ爆発を発生させる。
「たまやー」
 その光景に、思わず口にしてしまった晶だけれども。
(「アポカリプスヘルでこんなことを言って通じるのかなぁ」)
 UDCアースでもないんだし、と瞬時に失言を悟った。のだが。
「かぎやー」
 まさかの合いの手に、思わず振り向く。
「……親方、それ何ですか」
「知らんのかサミ。これは古くよりのオヤクソクという奴じゃ」
「はあ……?」
 訝し気な顔の少年の横で、妙にしたり顔で頷く親方が見えて。
 晶は、自分で言っておきながらも青い瞳をぱちくり瞬かせて驚くと。
 すぐに楽しそうな笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、私のお菓子にいろいろ危ない薬品が使われているのは本当?って一体どういうことですか?
趣味で作っているものに変なものなんていれませんよ。
それにアヒルさんも悪乗りしないでください。
隣で作っているのを見てたじゃないですか。
このままじゃお菓子の魔法の効果がでません。
誰がこんな嘘の噂を流しているんですか?
ふええ、信じてください。
ふえ?ラファさんは食べてくれるんですね?
ありがとうございます。
敵さんの動きが遅ければ多くを倒すことができると思います。
アポカリプスヘルじゃ薬品まみれでも食べ物はありがたいんだろうって、アヒルさんそんなこと言ってないでアヒルさんも戦ってください。



 戦いの最中、銃弾の雨の間を縫って、『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』から情報収集型無人機が飛び立った。
 ダミーオブリビオンも現れて『戦術:欺瞞情報拡散』により偽情報が流布されていく。
「ふええ、私のお菓子にいろいろ危ない薬品が使われているのは本当?……って一体どういうことですか?」
 その偽情報にあわあわするのはフリル・インレアン(大きな帽子の物語👒 🦆 はまだ終わらない・f19557)。
 手の中には、いつも一緒のアヒルちゃん型のガジェットと、素朴な手作りクッキーが用意されていて。
「趣味で作っているものに変なものなんていれませんよ」
 必死にその安全性を説くフリルだったけれども。
 ガア。
「アヒルさんも悪乗りしないでください。隣で作っているのを見てたじゃないですか」
 ガジェットの鳴き声を唯一正確に理解し、胃薬なんて要りません、とその言葉に反論しつつ。安全性を涙目で訴えていく。
「誰がこんな嘘の噂を流しているんですか?」
 辺りを見れば、はい、と手を挙げるダミーオブリビオン。さらに、無人機が手を振るかのようにその機体を少し揺らしながら、フリルの近くを通過するから。
 ふええ、とフリルはつばの広い大きな帽子の下で俯いた。
「このままじゃお菓子の魔法の効果がでません」
 ユーベルコード『時を盗むお菓子の魔法』。
 それは、フリルが趣味で作ったお菓子を給仕している間、戦場にいる趣味で作ったお菓子を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にするもの。
 しかし、変な噂があるお菓子を楽しんでくれる人などいないから。
「ふええ、信じてください」
 フリルは涙目で拡散されていく噂と戦い。
 その最中に。
 そっとフリルの手元に別の手が伸びてくる。
「ふえ?」
 驚いたフリルが俯いていた顔を上げると。
 そこには、顔の全面を覆っていたゴーグル付きガスマスクを下ろし、摘まみ上げたフリルの手作りクッキーを躊躇いなく食べる長い白髪の少女が、いた。
「ラファさんは食べてくれるんですね?」
 先ほどまでとは違う意味の涙を湛えながら、フリルは表情を輝かせ。
 さらにおかわりと手を伸ばしてくれるラファに、クッキーを差し出す。
「ありがとうございます」
 泣きそうになりつつお礼を告げれば。
 ラファはもぐもぐしたままこくんと頷いてみせて。
 それからもう1つクッキーを摘まむと、ロケットランチャーを構えた。
 狙いを向けた先、フラスコチャイルドの少女達は、その動きがフリルのユーベルコードのおかげで遅くなっていたから。
 着実に狙いをつけて、1発に最大限の効果を発揮させる。
 続いてもう1発。またクッキーを食べてから、次を。
 しっかりと敵を吹き飛ばしていく様子に、その役に立てたことに、フリルはほっと胸を撫で下ろし。クッキーを楽しんで貰えていることに、嬉しそうな微笑を浮かべるけれど。
 ガアガア。
「アポカリプスヘルじゃ薬品まみれでも食べ物はありがたいんだろう、って……?」
 ガジェットの鳴き声に、むむ、とフリルは赤い瞳を頑張って吊り上げると。
「アヒルさん、そんなこと言ってないでアヒルさんも戦ってください!」
 またロケットランチャーの着弾爆発音を聞きながら、呑気にクッキーを食べ散らかしているガジェットを、ずいっと敵に向けて突き出した。
 ガア。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
命懸けの貧乏くじを進んで引きにいくなんて
さすがレイラキャラバン
喜んで力を貸すぜ
命と未来を守りたいのは
俺たちも同じだ

そして敵の境遇を哀れには思うけど
だからこそ命を喰わせやしない
今度こそ静かに眠らせてやろう

戦闘
迦楼羅を炎翼として空から登場

皆、元気そうだな
サハルもいつも通りだ
今日はレイラも出てるんだな
景気づけに業火絢爛に行くぜ

地表近くを飛び回り
回避行動をとりながら演奏

生まれた音は熱を孕んで
音の波紋が広がる度に
オブリビオンを燃やし炎に包んでいく

数多に一度にダメージを与え
且つ文字通りの波状攻撃で
その生命力が尽きるまで焼却

更に旋律が高まれば
命を共有する力そのものを燃やし
その繋がりを断ち切り
各個撃破しやすくしていく

言うまでもないかもだけど
ラファ、こいつらを
囚われた闇から解放してやることが
俺たちが出来るせめてものことだ
安らかに眠らせてやろう

そしてあんたにはキャラバンの仲間がいる
決してこいつらと同じなんかじゃない
レイラキャラバンのラファだ(ぐっ

事後
演奏を続けて鎮魂曲に
さてもう一踏ん張りと行こうぜ



 長い金髪を翻しながら振るわれる2刀の電動ノコギリ。
 女性とは思えぬほどしっかりした体格と色黒の肌が、重量のある武器を軽々と扱う様子に説得力を持たせ、安心感さえ生み出していたが。
 明らかに多勢な『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』。しかも、生命力を共有している少女達は、斬り倒した傍から無事な者の生命力を得て、またすぐ復活して襲い掛かってくるから。
 サハルは鉄面皮ながらも微かに金瞳をしかめた。
 だがそこに、炎の鳥が飛び込んでくる。
「命懸けの貧乏くじを進んで引きにいくなんて、さすがレイラ・キャラバン」
 それはブレイズキャリバーたる地獄の炎と共に在る金翅鳥『迦楼羅』の翼だけを背に具現化させた木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
 にっと不敵な笑みを浮かべて空から舞い降り。
 飛翔の勢いも乗せた巨大剣『焔摩天』を豪快に振り抜き、少女達をなぎ倒すと。
 僅かではあるが金瞳を見開いたサハルに振り返り、改めて笑いかけた。
「皆、元気そうだな」
 かつて共闘した時と変わらぬキャラバンの様子に、お堅い軍人のような冷静な表情にいつの間にやら戻っているサハルに、いつも通りだと感じ。ウタは嬉しそうに破顔する。
 そして、他の猟兵達と共に戦うキャラバンのメンバーをぐるりと見回して。
 お菓子を食べている白髪のラファの傍に立つ美貌に気付いた。
「今日はレイラも出てるんだな」
 これまでの戦いでは装甲車の中にいた、キャラバンの隊長。
 その姿が見えることに少しだけ驚いて。
 思わず向けた視線に気付いてか、レイラは艶やかな赤い唇でにっと笑い、緩いウェーブのかかった黒髪の下の蒼穹の瞳でウタを見つめ、ひらりと右手を振ってくる。
 ウタはそれに片手を揚げて応えてから。
 改めてフラスコチャイルドの少女達に向き直った。
 その傍らに合わせるように並ぶサハル。
 言葉を交わさなくても揃えてくれる動きに、ウタは笑みを深くして。
「景気づけに、業火・・絢爛に行くぜ」
 その手に今度は『ワイルドウィンド』を携えると。
 ギターの弦をかき鳴らすと同時に、地を蹴り飛び出す。
 そのまま炎の翼で低空飛行。地表近くを飛び回り、フラスコチャイルドの少女達が振るう蛇腹剣を油断なく回避しながら、力強く旋律を奏でた。
 レイラ・キャラバンが選んだ、誰に知られずとも誰かを護る戦い。
 その決断への称賛を乗せて。
 そして、その思いへの共感を伝えるように。
(「命と未来を守りたいのは、俺たちも同じだ」)
 ウタはギターの音を響かせて。
 その音の波紋に熱をはらませ、地獄の炎も重ねて辺りに広げていく。
 音の波は炎の波となり、文字通りの波状攻撃を繰り出せば。
 ウタを取り囲んでいた少女達を一度に燃やし。そして、回復した傍からまた紅蓮の炎が襲い掛かっていくから。
 じわじわと燃やされていく生命力。
(「勝手に造られて、勝手に棄てられて、か……」)
 炎の中で尚も紡がれる責め嘆く声に、ウタはぐっと口の端を噛みしめる。
 人として扱われていない、彼女達の境遇を哀れには思う。
 でも。いや、だからこそ。懸命に生きる人の命を、未来を、喰わせやしない。
(「今度こそ静かに眠らせてやろう」)
 決意と願いが強まると共に、更に高まっていく旋律。
 まるで、命を共有するその力そのものを燃やしていくかのように、少女達の繋がりを断ち切るかのように、地獄の炎は燃え広がって。
 そこにサハルが飛び込み、電動ノコギリを無造作に振るう。
 深く刻まれる傷。飛び散る鮮血。
 それは先ほどまでの斬撃と変わらない結果ではあったけれど。
 その傷の回復が格段に遅くなっているようにウタには見えた。
 ちらりと視線を流せば、凍結の息吹で永久凍土のようになった一帯で、回避も攻撃も封じられた少女達に銃弾や地雷が降り注ぎ。またその向こうでは、剣一本で少女達の中に飛び込み無双する猟兵や、見えない刃に切り刻まれ続ける少女達の姿もある。
 生命力を共有する存在全てが同時に削り続けられればどうなるか――
 その答えを、ウタは手応えとして感じ。
 さらにワイルドウィンドをかき鳴らそうとして。
 ふと、飛び回る最中の流れゆく視界に、その姿が映った。
 敵として相対する少女達と同じフラスコチャイルドのキャラバンメンバー、ラファ。
 今はゴーグルつきのガスマスクを下ろしているから、長い白髪と色白な肌に映える赤い瞳が無表情に敵を見据えているのが分かる。
 その様子は、サハルと同様、以前会った時と変わっているようには見えない。
 ロケットランチャーを構え、冷静に戦いに挑んでいるようだ。
 けれども。
 その少し後ろに、普段は装甲車の中に待機する隊長のレイラがいて。
 青空を映したかのような蒼い瞳が、穏やかながらもラファを見つめているから。
(「ああ、そうか」)
 ウタは、その存在の意味を理解して。
 炎翼をはためかせると、ラファの傍に降り立った。
「言うまでもないかもだけど」
 視線だけでこちらを向いたラファに、ウタは微笑み。
「ラファ。こいつらを囚われた闇から解放してやることが、俺たちが出来るせめてものことだ。安らかに眠らせてやろう」
 真っ直ぐに赤い瞳を受け止め、伝える。
 迷いは見えないけれども、迷いを見せてないだけかもしれないから。
 迷いがなかったとしても、気遣い思う者がいると伝えることに意味があると思うから。
 ウタは言葉を紡ぎ。
「そしてあんたにはキャラバンの仲間がいる。決してこいつらと同じなんかじゃない」
 ラファの近くにいるレイラの存在を感じながら。
 今この時も戦い続けているサハルを、ハサンを、親方とサミを。装甲車の中にいる残りの面々を。思いながら。
 ウタは、ぐっと拳を突き出して見せた。
「あんたは、レイラ・キャラバンのラファだ」
 そんなウタを、ラファはじっと見つめて。
 何も言わぬまま、持っていたクッキーを口に入れると、ロケットランチャーを構える。
 でもその視線が、ウタを促すようにフラスコチャイルドの少女達へと動き。
 そして、その様子に自信のようなものが感じられたから。
 ウタは満足気に笑うと、またその背の炎翼を広げた。
「いくよ、ハサン! みんな!」
 そこに金髪をポニーテールにした少女の声が響いて。
 ハサンが、刀を振るう丸刈りの少年とサハルも、群れの中から離脱すると。
 投げ込まれるプラズマグレネード。
 巻き起こる大爆発。
 さらにグレネードランチャーやスクラップにしか見えない親方の新作兵器からの地雷、そしてラファのロケットランチャーが放たれ、連鎖する爆音。
 それが収まりきる前に、ウタは炎の翼で飛び込んでいく。
 この大打撃から回復させはしないと、ギターの旋律と炎の波を広げ。
 盤面操作や凍結の息吹による援護を感じながら。
 ガトリングガンや空間裁断による攻撃とも重ねながら。
 サハルの振るう電動ノコギリにも炎を合わせて。
 全てのフラスコチャイルド達を、倒した。
 もう共有する生命力がなくなったのだろう。倒れ伏したまま起き上がらず、そのまま姿を消していくフラスコチャイルドの少女達を、ウタは見渡し。
 かき鳴らしていた旋律を、穏やかで静かな鎮魂歌に変えて。
 祈るように、その最期を見送る。
 他の皆も、もう少女達が復活してこないと判断したのだろう。
 どこかほっとしたように、雰囲気が少し緩んで……
「まだ、か」
 ウタは鎮魂歌を早々に切り上げると、新たに現れた人影へと振り向いた。
 白髪の少女達とは明らかに違う、ウェーブのかかった長い金髪を揺らして。ぼろぼろの服を纏い、片翼を燃やし落とされたような、赤い仮面の天使。
「さて、もう一踏ん張りと行こうぜ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『🌗セイレムの聖女』

POW   :    祈りの声は届かない(ワタシニハスクエナイ)
【救済を求める身勝手な弱者の祈り】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【偽神細胞増殖】【偽神細胞活性化】の状態異常を与える。
SPD   :    嘆きの声は聞こえない(ワタシニネガワナイデ)
自分の体を【弱者の嘆きによって強化し、自在に変貌】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【偽神細胞有毒化】【幻聴】【幻覚】の状態異常を与える。
WIZ   :    願いの声は途切れない(ワタシヲコロシテ)
【奇怪な音と共に変貌していく白き翼】から、戦場全体に「敵味方を識別する【救いを求め続ける亡者たちの叫び】」を放ち、ダメージと【拒絶反応増幅】【精神汚染】【耐性弱体】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
セシル・バーナード
偽神細胞。デミウルゴスのあれか。フィールド・オブ・ナインの忘れ物、無に還すよ。

「全力魔法」「範囲攻撃」で砂陣蹂躙を展開するよ。装甲を五倍、攻撃力を二分の一に。
いくらやばい能力を持っていたって、視界を封じてしまえば簡単には当てられない。それでも念のため「オーラ防御」は張っておこう。
この砂鉄の竜巻に抵抗するほどに、自壊していくんだよね。それなら、持久戦だ。
ぼくときみと、どちらが斃れるのが早いか根比べだよ。
偽神細胞を植え付けられたら、「激痛耐性」で抵抗しよう。

どうしたの、ぼくはまだ立っているよ? 所詮は偽りの聖女サマ。奇蹟なんてあり得ない。
人の世にさまよい出る前に、この場で滅べ。



 美しかった顔は、赤い仮面に覆われギョロリと片目だけが見え。
 敬虔なシスターのような黒服は、ボロボロに破れてただの布切れと化し。
 大きく広がる白い翼は、その片方が燃え千切られたかのように失われ。
 白く繊細だった肌は、死者の色に墜ち、右手は溶けているかのように大きな鍵のような武器にでろりと纏わりつく。
「ア……アア……」
 零れ落ちるのは、祈りか嘆きか願いか。
 狂った教団に造られた偽りの聖女――『セイレムの聖女』。
「偽神細胞……デミウルゴスのあれか」
 聖女というより魔女のようなその姿を見たセシル・バーナード(f01207)は、グリモア猟兵から聞いていた情報を思い出して頷く。
 フラスコの落とし仔――デミウルゴス・エコー。偽神細胞によって超強化されたその身は、誰にも傷つけられることはない。
 されどその身に祈りの声は届かず、嘆きの声は聞こえず。
「……アア……ア……」
 途切れることなき願いの声に、ただただ苦悶の声を漏らすのみ。
 ワタシニハスクエナイ――
 ワタシニネガワナイデ――
 偽りとはいえ聖女であったはずの魔女の、成れの果て。
 セシルは、だがその苦し気な姿に心揺らすことはなく。静かに『敵』とだけ見て。
「フィールド・オブ・ナインの忘れ物、無に還すよ」
 展開するのは『砂塵蹂躙』。
 セシルの周囲が、微細な粒子を含んで吹き荒れる砂鉄の暴嵐に包まれる。
「いくらやばい能力を持っていたって、視界を封じてしまえば簡単には当てられない」
 反撃として振るわれる歪な鍵のような武器が、セシルを狙い、貫こうとするけれども、セシルは砂塵を盾に身を隠し、躱し。念のためにオーラを纏い防御を上げる。
 そして、ある能力を半分にする代償に別の能力を5倍の効果にできる砂塵を、いつも通り装甲5倍として。代わりに削るのは攻撃力。
 どんな攻撃にも傷つかないなら、そこに力を割くことはしない。
 その代わりに狙うのは。
「この砂鉄の竜巻に抵抗するほどに、自壊していくんだよね」
 セイレムの聖女の自滅。
 反撃としてユーベルコードを使う毎に肉体が自壊していく、超強化による歪みのような弱点を利用するべく、セシルは砂鉄の暴嵐を障壁として、聖女に迫る。
「持久戦だ。ぼくときみと、どちらが斃れるのが早いか根比べだよ」
 目を眩ませ、武器を避け。響いてくる弱者の祈りが、救済を求める声が、与えて来る状態異常に耐え。偽神細胞にも抵抗して。
 セシルは余裕だと見せるように心掛けながら、聖女と相対し続ける。
「……ワタシ……ニハ……」
「どうしたの、ぼくはまだ立っているよ?」
 零れ落ちた聖女の声に、にっこりと微笑んで。
 さらりとした金糸の髪を暴嵐にキラキラと揺らしながら。
 緑色の瞳で、聖女を射抜く。
「所詮は偽りの聖女サマ。奇蹟なんてあり得ない。
 人の世にさまよい出る前に、この場で滅べ」
 厳しく真実を突き付けるかのようなセシルの言葉に、セイレムの聖女は、砂塵の向こうで祈るように天を仰ぎ。
 その左手が指の形を崩し、右手のように壊れていくのが、見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桐原・剛将
創作・アドリブ可
エセ関西弁

「ちっ、しゃないな。時間稼ぎは趣味やないけどやったるわい!」
折れぬ心が発動。必要なのは命中率と回避率。
前回と同様にステルスマントで姿を隠しながらグレネードでチャフや閃光弾で目眩まししていく。
相手の目の前まで移動し、
「ほい、受け取り」
攻撃でないなら防がれない。重さ80tもの超高比重金属刀をひょいっと軽く放り投げて渡す。
うっかり受け取ったら終わりやで。この重さやったらそうそう動けへんやろ、いい的にしたる!
自分はもう即座に離脱して逃げる。



「……アア……ア……」
 苦悶の声を零しながら現れた『セイレムの聖女』に、桐原・剛将(f29916)は舌打ちを隠そうともしなかった。
 死者の色の肌。ボロボロの黒服。焼け折れた片翼。溶け崩れた右手。
 哀れな程に醜い姿を見せながら。
 赤い仮面から覗く片目は、赤くギョロリと辺りを睨み。
 大きな鍵のような歪な武器には、怨嗟のような歪んだ祈りが纏わりついている。
 恨みのままに、憎しみのままに、嘆きのままに、人々を襲おうとする聖女……いや、もはや魔女と呼べる程に墜ちた、聖女の成れの果てに、剛将はあからさまな嫌悪を見せ。
 金髪の妖狐が生み出した砂塵を受け平然としている様子に、苦い顔をした。
 吹き荒れる砂鉄の暴嵐に、聖女は傷1つ負っていない。
 事前にグリモア猟兵から聞いていた、偽神細胞による超強化を目の当たりにして。
 こちらの攻撃が何も通らない現実を見せつけられて。
 剛将は、苦虫を噛み潰す。
「ちっ、しゃないな。時間稼ぎは趣味やないけどやったるわい!」
 狙うは、聖女にユーベルコードを使わせることによる自壊の誘発。
 自身の攻撃では聖女を倒せないと、聖女より自分が弱いと自覚することで、剛将はユーベルコード『折れぬ心』を発動させ。命中率と回避率を3倍にして駆け出した。
 再びステルスマントでその身を隠し、武骨なグレネードランチャーから放ったチャフを砂塵に混ぜながら、出来る限り隠密に、木刀を携え接近して。
 砂鉄の暴嵐が弱まり、治まりだしたのを感じると。
 今度は閃光弾を撃ち込んだ。
 祈るように天を仰いでいた聖女の、仮面から覗く片目を、強烈な光が眩ませて。
 それでも接近する剛将をある程度は察したか、赤い仮面がこちらを向く。
「……ワタシ……ヲ……」
 その背の白き翼が、奇怪な音を発したと思うと、奇妙な変貌を見せ。
 放たれるのは、救いを求め続ける亡者たちの叫び。
 タスケテ――
 タスケテ――
 もはや怨嗟に近いその声は、剛将の精神を汚染し、耐える心を折ろうとする。
 だが剛将は、その苦悶を受けながらも、それを跳ね返すように獰猛に笑って見せ。
「男なら倒れる時は前のめり!」
 自身を鼓舞するように叫びながら、聖女の目の前にまで迫った。
「ほい、受け取り」
 そしてひょいと軽く放ったのは、剛将が手にしていた木刀。
 斬り付けるわけでも殴りかかるわけでもない。ただ無造作に渡されただけのそれに、聖女は反射的に、溶け崩れた手を出して。
 信じられない程の重さをその身に受け、身体がずしんと沈む。
 木刀、と呼んでいるのは便宜上のこと。剛将が軽々と扱うことも併せて、木刀にしか見えないそれは、実際は超高比重の金属刀だから。
 咄嗟に受け取ってしまった聖女の動きが、止まる。
 攻撃ではないから、超強化でも防げない。
 攻撃ではないから、ダメージにはならないし、状態異常といった相手の能力を阻害する効果が与えられることもない。
 それでも、ただただ単純な、重さ、という要因が、聖女にのしかかり。
「この重さやったらそうそう動けへんやろ。いい的にしたる!」
 動きが止まった聖女に、にやりと笑った剛将は。
 苦痛にまでになった亡者の叫びから逃れるように、一気にそこから離脱した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
デミウルゴスの残滓
みたいなものなのかな

話ができるような状態ではなさそうだし
街に行かせる訳にもいかないから
ここで足止めしようか

ワイヤーガンを使用して
拘束を試みるよ
前に出るのでハサン達に援護頼んでおこう

防御力が高くても状態異常に強くても
物理的な拘束なら一定時間は効果あるんじゃないかな

その間にキャラバンのメンバーに攻撃して貰い
相手のUCを誘発しようか
まあ、ワイヤーガンの拘束だけでも使ってくるかもしれないけど

デミウルゴスとは戦った事があるし
体を変形させる相手とも戦った事があるから
その経験を元に攻撃範囲を予測して回避しよう

予測した変形の速度やタイミング、攻撃範囲を
キャラバンのメンバーにも伝えて支援するよ



 現れた『セイレムの聖女』に、そしてすぐに仕掛けた猟兵達の攻撃が全く通じていないことに、佐伯・晶(f19507)は構えていたガトリングガンを下ろし、青瞳を細めた。
「デミウルゴスの残滓……みたいなものなのかな」
 フラスコの落とし仔――デミウルゴス・エコー。
 デミウルゴス・セルにより全ての攻撃に耐えうる程の防御力を得て。
 しかし、自身がユーベルコードを使うとその身が崩壊していく。
 哀れな魔女。嘆きの聖女。
 事前の情報通りであることを確認するかのように呟いたその声に、側にいたハサンが振り向き、問うような視線を投げかけて来たけれど。
 それ以上のことを晶は知らないし。話ができるような状態でもなさそうだから。
「街に行かせる訳にもいかないから、ここで足止めしようか」
 軽く首を横に振り、やるべきことだけを見つめるように口にして、武器をワイヤーガンに持ち替えれば。
「そうだね」
 頷いたハサンがまたガトリングガンを構える。
 晶はふっと微笑んで。
 荒れ狂っていた砂嵐が弱まり、強烈な閃光が走ってから。
 セイレムの聖女に向けて駆け出した。
 途端、ガトリングガンの弾がばら撒かれ、聖女の気を惹く。
 晶の行動が阻害されないように。晶に注意が向かないように。
 言葉を交わすことなく行われる援護射撃。
(「これでユーベルコードを使ってくるかな?」)
 どれくらいの攻撃で反撃してくるのか、聖女の判断基準は分からないけれど。
 聖女にユーベルコードを使わせ、それに耐えることが唯一の勝機。
 でも、偽神細胞に影響を与えて来る聖女の攻撃は、ストームブレイドであるキャラバンの面々には耐えるのが難しいかもしれないし。そもそも彼らは猟兵ではないから。
 晶は油断なく『庸人の錬磨』で聖女を見据える。
 デミウルゴスとは戦ったことがある。
 身体を変形させる相手とも戦ったことがある。
 培ってきたこれまでの経験をもとに、聖女の攻撃を予測して。
「下がって!」
 嘆きの声と共に右手を変貌させ、魔鍵と一体化して長くなった腕。
 それを見た晶は、ハサンの位置を計算して咄嗟に叫んだ。
 直後、聖女が周囲へ放つ広範囲攻撃。
 でもその攻撃範囲は、ついさっきまでハサンが立っていた辺りがギリギリで。
 晶の声に反応して大きく飛び退いていたハサンには届かない。
 しかし晶は、その無事を確認することなく、大丈夫だと確信して。
 聖女の放つ攻撃をできる限り自身も回避し。
 避けきれずに襲い来る幻覚や幻聴に、それが幻だと予測して惑わされることを防ぎ。
 タスケテ――
 ワタシニハスクエナイ――
 タスケテ――
 ワタシニネガワナイデ――
 嘆きの声に心も照準も揺らさぬまま。
 晶は、ワイヤーガンを撃ち放つ。
 防御力が高いから、これで傷つけることはできない。
 状態異常に強いから、これで弱体化させることもできない。
 でも、物理的な、ただのワイヤーとしてならば?
(「物理的な拘束なら、一定時間は効果あるんじゃないかな」)
 木刀を手に止まっていた聖女を、晶の狙い通りにフック付きのワイヤーが絡め取り、縛り上げるかのように纏わりついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえ?弱者の嘆きによって強化って、ここにいるみなさんは強いですから弱者なんていません。
これであの人の強化効果を封じましたね。
ふえ?それじゃあダメって、どういうことですか?
あの人にどんどんユーベルコードを使って貰わないといけないって、そんなことしたらとんでもない攻撃がきちゃうじゃないですか。
それにあの人の攻撃には偽神細胞有毒化があるじゃないですか。
ラファさん達が危ないですよ。
ふええ?!だからこそ私が行くべきって、私が行っても何もできないですよ。
ふえ?私はただ、あの人の側で嘆き続ければいいって、戦わなくていいってことですか?
みなさんを守るために行ってこいって、そんなひどいですよ、アヒルさーん。



 暴嵐の余波に慌てて大きな帽子のつばを引き寄せながら、ふええ、とフリル・インレアン(f19557)は縮こまる。
 広いつばの下からちらりと覗けば、砂塵の向こうに『セイレムの聖女』のどこかボロボロな姿が辛うじて見えて。
 しかしその嵐が全くダメージになっていないのも解った。
 そして、反撃として放たれるユーベルコード。
 タスケテ――
 タスケテ――
 弱者の嘆きが聖女を強化し、周囲に状態異常を振り撒いていく。
「ふえ?」
 だがフリルはきょろきょろと辺りを見回して。
 キャラバンの面々と、自身と同じ猟兵達しかいないことを確認して。
「弱者の嘆きによって強化って……
 ここにいるみなさんは強いですから弱者なんていません。
 これであの人の強化効果を封じましたね」
 ほっとした様子で胸を撫でおろす。
 でも、フリルの手の中のアヒルちゃん型ガジェットは、呆れたように一声鳴いて。
「それじゃあダメ、ってアヒルさん、どういうことですか?」
 フリルだけがその声の意味を正確に理解して、首を傾げた。
 聖女が纏う嘆きは、この場に居る者からのものではない。
 恐らくは、聖女が救えなかった者の、かつての嘆き。過去から染み出てきたのか、存在が失われて尚残っているのか……いずれにしろ、姿なき弱者の残滓だろう。
 だからこそ、聖女はオブリビオンなのだろうから。
 ゆえに、フリルの安堵とは裏腹に、聖女は強化されてゆく。
 しかしその一方で、聖女の手が、足が、崩れ壊れてゆく。
 それを指摘するように、ガジェットはまた、ガア、と鳴き。
「あの人にどんどんユーベルコードを使って貰わないといけない、って……
 そんなことしたらとんでもない攻撃がきちゃうじゃないですか」
 フリルが慌てて反論する。
「それにあの人の攻撃には偽神細胞有毒化があるじゃないですか。
 ラファさん達が危ないですよ」
 ガジェットに見せるようにフリルが振り向いた先には、長い白髪を砂塵の風に揺られて佇むラファがいた。
 フラスコチャイルドのストームブレイドであるラファは、セイレムの聖女が相性の悪い攻撃手段を持っていることを感じたのか、じっとその動向を伺ってはいるけれども攻撃する様子は見せず。先ほどまで構えていたロケットランチャーを背に戻し、フリルの手作りクッキーをゆっくり食べている。
 聖女の攻撃も届かない距離を保っているようなのも確認して、ひとまずはほっとして。
 他のストーム・キャラバンの面々の様子も伺えば。
 ハサンとサハルは聖女と戦っていたけれども、傍にはそれぞれ猟兵がいて彼らを守っているようで。無謀な戦いをしているわけではないことがすぐに分かったし。
 一番無鉄砲に飛び出していきそうだった親方は、試射をしていたガラクタにしか見えない新兵器の弾がなくなったのか、何やら話しかけているレイラに指示されたのか、弟子のサミと一緒に装甲車へ引き上げていく。
 これならストームブレイド達がむやみに巻き込まれることはないだろう。
 良かったと胸を撫で下ろすフリルだけれど。
 その手の中で、急かすようにガジェットが鳴いた。
「ふええ!?
 だからこそ私が行くべき、って私が行っても何もできないですよ!?」
 ストームブレイドであるキャラバンの人達を行かせるわけにいかないのは、分かる。
 でもそこで、何故自分なのかと。
 もっと戦えそうな、自分よりも強い猟兵達がいるのにと、フリルは半分泣いているかのような情けない声で反論するけれども。
 ガア。
「私はただ、あの人の側で嘆き続ければいい?
 それって、戦わなくていいってことですか?」
 ガジェットの指示は、フリルを囮に差し出すかのようなもの。戦えないフリルに聖女の攻撃を引き付けて、ユーベルコードを喰らい続けろと言っているも同義だったから。
 ふええ、とフリルの顔が真っ青になる。
 だがしかし、ガジェットの狙いは、フリルのユーベルコード『たった一人の生存者』にあった。それは、フリルが非戦闘行為に没頭していれば外部からの攻撃を完全に遮断できる、フリルだけにしか効果がないけれども最強の盾。
 その有用性をガジェットは理解し。これが最適解と判断し。
 しかし、そのことを一切フリルには告げないまま。
「みなさんを守るために行ってこい、って……
 そんなひどいですよ、アヒルさーん」
 涙目のフリルが、抗議に没頭しながら聖女のユーベルコードを遮断し続けるのを、ガジェットは円らな黒瞳でじっと見上げていた。
 ガア。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
生前に実験を受けて
更に蘇ってオロチにいじられて
文字通り踏んだり蹴ったりだ
可哀想に

すぐに海へ還してやれないのは悔しいけれど
せめて最期の最後まで付き合ってやるぜ

戦闘
ワイルドウィンドで
ご機嫌で賑やかな曲を演奏

生命の躍動を感じてもらいたい
…そんな感情もないのかも知んないけど

この場には嘆く弱者は居ないぜ
皆、仲間を信じてて
街に戻って笑顔で再開するって
未来を決めてるからな

演奏=UCを続けて聖女の反撃を誘いつつ
その速度を減じて回避

万が一避けきれないキャラバンの面子がいれば
弦をかき鳴らしながら
爆炎の加速で移動し庇う
状態異常を獄炎で焼却浄化

回避行動も鈍るはずだから
キャラバンの攻撃も当たるだろうけれど
ダメージは少ないか
キャラバンへの反撃も同上で庇う

自壊する聖女から目を逸らさず
最期に倒れるその時まで
決して演奏は止めない

崩れ落ち力を喪った聖女を
紅蓮で包み灰に帰す
あんたは犠牲者だ
海で安らかにな

事後
そのまま演奏を続けて鎮魂曲に

お疲れ
街に戻るんだろ
そこまで一緒に行くぜ
ところで…レイラの得意な得物って?



 タスケテ――
 ワタシニハスクエナイ――
 タスケテ――
 ワタシニネガワナイデ――
 聞こえてくる声は、どれも苦しく哀しい響きを持っていて。それが祈りであれ願いであれ嘆きであれ、同じものであるかのように木霊・ウタ(f03893)には思えた。
 弱者が救済を求め縋る『セイレムの聖女』。しかしその聖女は、オブリビオンと化し。白い翼の片方を大きく失い、溶け崩れ始めたような身体にボロボロの服を纏い、呪われたかのように不気味な赤い仮面を上向かせて、天を仰ぐ。
「……アア……ア……」
 零れ落ちるのは苦悶の声。途絶えることなき弱者の声は、聖女の声でもあったのではないかと思うほどに、苦しく哀しい響きに満ちていたから。
 ウタは、ワイルドウィンドを握る手にぎゅっと力を込めた。
(「生前に実験を受けて、更に蘇ってオロチにいじられて……
 文字通り踏んだり蹴ったりだ」)
 可哀想に、と思うけれども。すぐに海へと還してやりたい、と思うけれども。
 それは叶わない。
 激しい暴嵐の中にあっても全く負傷していない様子に、こちらの攻撃は通用しないという説明を思い出し、ウタは歯噛みする。
「あれはなかなか……辛いもんだねぇ」
 聞こえたのは、キャラバンのリーダー・レイラの呟き。
 その声色に、自身と同じ気持ちが滲んでいるように感じられたから、ウタはふっと口元に小さな苦笑を浮かべた。
 倒せない相手。
 でも、倒れるのを待つことは、できる。
 右手が溶けたように一体化した魔鍵を振るい、その身を攻撃のために変貌させる度に、聖女の身体が崩れていく。
 ユーベルコードを使うことで自壊し、自滅していくセイレムの聖女。
(「すぐに海へ還してやれないのは悔しいけれど」)
 そのじわじわと蝕むような崩壊を見て確かめて。
 一気に仕留められない歯痒さをかみ殺して。
(「せめて最期の最後まで付き合ってやるぜ」)
 ウタはワイルドウィンドをかき鳴らした。
 響き渡るのは、ご機嫌で賑やかな楽曲。
 荒れ果てた地にも、嘆きの聖女にも、それと相対する苦しい戦いにも、似合わない旋律かもしれないけれども。
 生命の躍動を感じてもらいたい。
 そう願って。ウタは笑顔でギターの弦を陽気に鳴らす。
 もしかしたら、そんな感情もないかもしれないし。
 曲から何かを感じる心も失われてしまっているかもしれないけれど。
 それでも。
 伝えられるなら伝えたいと。
 閃光が走り、ガトリングガンが火を噴く中で、ウタは華やかな演奏を続けていく。
「親方。サミ。私らは引き上げだよ」
「もういいですよね親方。地雷……じゃなかった、弾もなくなりましたし」
「む……撃てないのであれば、致し方あるまいて」
 その後ろで、親方とサミと共に先に引き上げていくレイラ。
 ちらり、と視線を投げると、ちょうど振り向いたレイラとウタの視線が合って。
 任せたよ、と言わんばかりの笑みが返ってくる。
 だからウタも、にっと笑いかけ。
 改めてセイレムの聖女に相対すれば。
 レイラ達とは逆に、聖女へ向かっていくサハルの大きな背中が見えた。
 いつもの電動ノコギリを両手それぞれに持ち、切りかかっていく戦士。
 ストームブレイドゆえにその攻撃は完全無効化はされていないけれども、フラスコチャイルド達と戦っていた時に比べて格段にその威力は落とされているし。偽神細胞を持つゆえに聖女のユーベルコードが致命的な攻撃となり得るが。
 それでも、サハルは聖女より格段に速い動きで攻撃を躱し、電動ノコギリで斬りつけ、危なげなく戦いを進めていく。
 それは、ウタのご機嫌な歌曲をサハルが楽しんでいるからこそ。
 ウタの紡ぐ『翼のメロディ』の支援をサハルが受けられているからこその展開。
 無謀に挑んでいるわけではない。
 できることをできる範囲でやっているだけ。
 命を棄てるような無茶はしない、サハルの矜持をその動きに見て。
 ウタはまた弦をかき鳴らしていった。
 この場には、嘆く弱者はいない。
 皆、仲間を信じていて。
 街に戻って笑顔で再会するって未来を決めている。
(「だからこそ」)
 ウタはその旋律でサハルを支援し護るように、ワイルドウィンドに力を込め、ブレイズキャリバーたる獄炎も必要に応じて広げていった。
 そして聖女は。木刀やらワイヤーやらで動きを止められながらも、ガトリングガンや電動ノコギリに反撃し、その身体を溶け崩していく。
 すぐ傍で、大きな帽子のつばを引き寄せ嘆くだけの少女にも、ユーベルコードを誘発させられて、自壊がどんどん進んでいくけれども。
 まだ、聖女は立っている。
 まだ、聖女は嘆いている。
 ワタシニハスクエナイ――
 ワタシニネガワナイデ――
 手が足が崩れ身体の形が歪みながらも。
 まだ、聖女は倒れない。
 倒れられない。
 ワタシヲコロシテ――
 その姿からウタは目を逸らさずに、賑やかな曲を奏で続けて。
 見届ける。
 それしかできないと分かっているから。
 キャラバンを護りながら、聖女が力を喪うまで。
 歌い続けて……
 ようやく、その時が訪れた。
 文字通り崩れ落ちるセイレムの聖女を見下ろして。
 ウタは旋律に紅蓮を乗せ、最期の姿を炎で包むと、灰に帰す。
「あんたは犠牲者だ」
 陽気な旋律を、静かなものに変えて。
 終わりに贈る鎮魂曲。
「海で安らかにな」
 救えなかった聖女を。
 救われなかった弱者を。
 炎と共に、消し去って。
 顔を上げると、電動ノコギリの構えを解いたサハルが、じっとウタを見ていたから。
「お疲れ」
 ウタはにっといつもの笑顔を浮かべて、戦いの終わりを告げた。
「街に戻るんだろ? そこまで一緒に行くぜ」
 きっと、拠点が無事なことを確認しに行くのだろうと、決して自分達が護ったとは告げないのだろうと、何故か確信して。
 ウタは、サハルを促して、レイラが引きあげていった装甲車の方へと歩き出す。
 他の猟兵達やハサン、ラファも動き出したのを見ながら。
 何となく、ウタは歩調を緩め、追いついてきたサハルと並んだ。
 もう少し何か話してみたいなと思いながら。レイラの得意な得物とか、聞いたら教えてくれるだろうかと考え。
 ウタは微笑を浮かべ、口を開いてみる。
「なあ、サハル……」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年04月02日


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#ストームキャラバン
#レイラ・キャラバン


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は煙草・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト