第二次聖杯戦争㉒〜簒奪者の歌声を聴け
蕩けるような声であった。
『わたし……ゆりゆりには、ほんとうにほしいものがあります』
震える白――否、金手甲の手で握る刃が、青白く煌めいた。
ああ聖なるかな、聖なるかな――所詮はその杯も
メガリスなのに。
『すべてのせかいのいのちを、』
『すべてをうばいつづければ、ゆりゆりはどこまでもつよくなれる』
夢を見た。
理想を見てしまった。描いてしまった。
どこか分かっているはずなのに、悲鳴を上げる心臓も無視して、震え指先を握り締めて叱咤して。揺籠は夢を見た。
比類なき力で“骸の海を粉々にする”夢を。
『――いいえ。いいえ、ゆめではない。きっと、むくろのうみもこなごなにできる……は、ず……?』
わたしは、ゆりゆりは――……
『なぜ、そんなにむくろのうみをうらんでいたのでしょうか?』
思い出さえ喰らった
聖杯がギラついて欲すのは力たる猟兵の命。飢えた杯をより満たさんと、
持ち主を突き動かす。
●
「――どうしてあの方はご自分を売ってしまわれたのかしら」
“あんなバケモノなんぞに”――ぼうっとしていた壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)の落した声がしんとした部屋に妙に響く。
そんなこと、それこそ力を求めただけか揺籠自身の口にした“骸の海を粉々にする”希望のためなことは明白で――ふと動いた猟兵に気付いた杜環子が視線を瞬かせるとハッとした。
「あら。あらあらごめんなさいね、わたくしってば嫌ね、年寄りなんだから」
“困っちゃいますわよね”なんて取繕って並べた資料は“聖杯剣揺籠の君”のもの。
「オブリビオン・フォーミュラ 聖杯剣揺籠の君――……打倒の時間でございます。我々が撃てる手段はもうそれだけ。取るしかございませんの」
言葉交わすことがいくら叶おうと、一度抜いた刃を納めることへ至る可能性は無い。
それこそ“来るところまで来てしまった”と深い色湛えた藍の瞳で告げた杜環子の視線にブレは無かった。
「かの君の手にする聖杯剣が真の武器と化した今こそ、取り時でございます。遮るものは無く、ただ力のぶつかり合い。端的に申し上げます、聖杯剣は猟兵の命をくべよと、揺籠の君へ促しているのです」
聖杯は本気だと杜環子は良い、資料を示して言葉を紡ぐ。
「まず、あらゆる物質を引き寄せる黄金の篭手――以後神の左手と呼称すこれ。次に、突き刺した対象に宇宙の終焉まで癒える事のない毒を注ぐ――リリスの槍。更に、射程距離無限かつ命中した対象のユーベルコードを全て奪う聖杯剣その刃」
厄介なものばかりだが、超常のメガリスさえ猟兵が揺籠の君も己おも脅かす敵と認識したのだ。
杜環子の指先が示したのは“金沢大学”――に、掛かる“陸橋 アカンサスインターフェイス”!
「この直上に、います」
何がなど些末な話。
たった一人の女がバケモノを手に待っている。
杜環子が無意識か、魔鏡に爪を立てればグリモアが煌めいて
「どうか――……ご無事でのお帰りを、お待ちしております」
言い切り唇を噛み締めた。
皆川皐月
お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
ビルを垂直に駆けろ。
●注意:こちら一章のみの『第二次聖杯戦争』の戦争シナリオです。
●プレイングボーナス!:聖杯武器の追加能力に対処する/揺籠の君の先制ユーベルコードに対処する。
●第一章:『聖杯剣揺籠の君』
ああ、聖なるかな。
その杯が掬いもうたのは淫欲の――ただ、ただ、一つの夢を持ってしまった女だったものでした。
●戦争シナリオだけれど数は気にしません。
オーバーロードだととても戦ってお話もします。
きみの心は、言葉は、戦いは、この
目的さえ売った女の心をふるわせるもの足り得るのか。
●その他
複数ご参加の場合はお相手の【呼称+ID】または【グループ名】がオススメです。
【★今回のみ、団体は2名組まで★】の受付です!
IDご記載+同日ご参加で確認がしやすいので、フルネーム記載より【呼称+ID】の方が分かりやすく助かります。
マスターページに文字数を省略できるマークについての記載がございますので、良ければご活用ください。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
最後までご閲覧下さりありがとうございます。
どうか、ご武運を。
第1章 ボス戦
『聖杯剣揺籠の君』
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POW : うずまくいんよく
【神の左手】による近接攻撃の軌跡上に【いんよくのたつまき】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
SPD : せいはいうぇぽんず
【あらゆる物質を引き寄せる「神の左手」】【癒える事なき毒を注ぐ「リリスの槍」】【対象のユーベルコード全てを奪う「聖杯剣」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ : みだらなひとみ
【揺籠の君の淫靡な眼差し】が命中した部位に【淫欲に満ちた思念】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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儀水・芽亜
自分と引き換えに得た力に何の意味があるというのでしょう? 私の
美学に反します。
せめて安らかに骸の海へと送り返しましょう。
聖杯武装の攻撃は、「瞬間思考力」で「見切り」、「フェイント」を織り交ぜて回避に全力を尽くします。
どれも厄介な攻撃ばかり。神の左手に捕まれるのだけは避けなければ。
こちらの番ですね。今回は遠距離戦仕様。聖杯剣の遠隔斬撃にだけは気をつけませんと。
では、「浄化」の光輝の雨で、一矢を天に向けて射出。
無数に分裂し「範囲攻撃」となって降り注ぎます。さあ、篠突く雨から逃げられるものなら逃げて見せてください。
「さいきょう」に届かずとも、満足出来ましたか、聖杯剣揺籠の君?
●さいきょうに届かずとも
淫欲の風が止んだ橋の上、天女と言うには異様な風貌となった揺籠――否、“聖杯剣”揺籠の君は瞳を細め柔く柔く儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『
夢可有郷』・f35644)を出迎える。
『あなたもゆりゆりのごはんになりにきてくれたのですか?』
「自分と引き換えに得た力に何の意味があるというのでしょう?」
問いかけに疑問で返すことは良くなくとも、今の芽亜にとっても、聖杯剣握る揺籠の君にとってもそのようなことは些末。
『ふふ。ゆりゆりはしんぷるに“さいきょう”をめざします。だから――』
「結構です。私はあなたをせめて安らかに骸の海へ返しましょう」
淡々と言い返せば、ひたりと揺籠の君の微笑みが固まった瞬間、
黄金の左手が空を掴む!
『ざんねんです』
言葉と同時に巻き起こった激しい竜巻に反射的に目を瞑ってしまった芽亜だが、
デヴァイン・ユニコーンを突き立て暴風に耐える最中、耳を霞めた違う風の音。
「っ、まだ――!」
『きづいたのですか?』
迫った黄金を仰け反り躱し息を呑む。
揺籠の君の声は悍ましいほど穏かなままだが、その目は嫌というほど爛爛と獣染みていた。
咄嗟に槍を突き出せば反射的に目見張った宙浮く揺籠の君の下を滑るように抜け、転がるように走り出す。
「(いけません、近付くよりも離れた方が
……!)」
瞬間的に思い起こすのは過去の戦い。
特筆して揺籠の君という存在と至近距離戦闘の相性は悪い……いや、幾分か分が悪い場面の方が多い、と芽亜には分かる。
咄嗟に見切り身を翻したお陰で
黄金の左手に触れられることは免れ、同時に揮った槍のフェイントは効いていた。
『にがしま――……』
「いいえ。こちらの番です」
芽亜の指先が、空仰ぐ驟雨の弓の弦を引く。其は弓の姿を借りた神器なり。
「さあ、篠突く雨から逃げられるものなら逃げて見せてください」
光の雨が咲き過ぎた花に降る。
大成功
🔵🔵🔵
流茶野・影郎
やれやれ
自分をモノだと言う人があんな表情を見せるとはね
なら、ちょっとだけ頑張るとしますか
聖杯武器の追加能力と先制攻撃に関しては
聖杯武器を使わせることに集中(SPD)させればいい
神の左手はスライディングや軽業でタイミングを狂わせる
リリスの槍は忍者刀で穂先を叩きつつ距離を詰める
聖杯剣は全力で逃げるか忍者刀で吹き飛ばすか
そうやって距離を詰めて、カウンターでタックルを当てて吹き飛ばす
これでユーベルコードは封じる
後は立ちあがるのを待って
『キャスター・スティンガー・ブレイク』
忍者刀を加速させて突き刺す
限界を突破すれば急所は着けるかも
何もかも捨てて
何もかも捧げて
いや、もう言うまい
お前の無念は俺が持っていく!
●こえを
「やれやれ」
溜息一つ。頭を掻き手にしたのは“Caster”と綴られたイグニッションカード。
UC―キャスター・スティンガー・ブレイク―
足元に奔った魔法陣が輝いた瞬間、鋭き槍撃を姿勢低く避け呟く。
「……ちょっとだけ頑張るとしますか」
『ゆりゆりのごはんになりにきてくれたのですね?』
抜き打った忍者刀を聖杯剣で弾き上げた甘やかな声の主を、流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)は随分前から知っている。“さいきょうへの礎に”――……そう誘うように言う、忌々しき者の名こそ。
「――聖杯剣揺籠の君」
『はい。ゆりゆりはさいきょうになりたいのです』
その
蕩かすような瞳を自身に向ける女の形をした化生に寒気がする。
赤く澱む瞳に内包した埋火の色に影郎が反射的に距離を取る――が、踏み込んだ揺籠の君が
黄金の左を伸ばす。
だが追い縋られることなど想定内。
「やはり来ますか」
『いま、こわしますからね』
姿勢低く走ると見せかけ仰向けに滑り込めば躱し、振り向きざま伸ばされたリリスの槍を忍者刀で叩き落すように逸らし、息を吐く。
『あなたはゆりゆりのごはんでは?』
「いいえ、違います」
抑揚無く淡々と答えれば“はて?”と揺籠の君が小首傾げ聖杯剣の柄に手を掛けた瞬間、影郎は踏み込む。
「(恐らく
アレに防ぎようは無い)」
猟兵というよりも、能力者としての勘が“触れるな”と叫ぶのを、信じて。
距離を詰める歩法は前へ体重を乗せたもの。剣振り下ろされるより早く体当たりし吹き飛ばせばグラついた揺籠の君が目を見開き囁く。
『あなた』
うたうような声に孕む何かは聞かぬフリ。何もかも捨て捧げた女の瞳が潤み、揺れていても。
影郎からすれば、聖杯剣を手にしてしまった揺籠の君へ駆ける言葉などもう無かった。ただ前へ踏み出し跳ね起きた揺籠の君の胸に、激痛。
『あ、ら?』
「……お前の無念は俺が持っていく」
深く、鋼を突き立てる。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・セカンドカラー
◎お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
封印を解く、リミッター解除、限界突破、オーバロード。
継戦能力。
高速詠唱早業先制攻撃重量攻撃凍結攻撃封印術身体部位封じマヒ攻撃気絶攻撃禁呪。
空間の切断解体から切断部位の接続で再構築し空間ジャンプ、
仙術、
多重詠唱結界術等を駆使して聖杯武器を全力回避。
時を凍結した時に
闇に紛れるので眼差しも防げるでしょう。ま、思念も爆破も
大食い、魔力吸収。
凌げたら
混沌神の戯れの開催よ。これよりは戦闘に非ず料理よ。戯れに聖杯武器を
化術武器改造防具改造玩具にしましょうか。
大食い、魔力吸収、魔力供給、エネルギー充填❤
●きっとあなたは狂った夢を見たのよ、なんて
妖艶に微笑んで見せた聖杯剣揺籠の君へ、常と変わらず少女のような笑顔を浮かべたアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の
混沌魔術師艶魔少女・f05202)が細い指先で指し示し、告げる。
「
せいなるかな、
せいなるかな」
『あら。ふふ、まるでせいはいのようなことをいうのですね』
ひたり、揺籠の君の笑顔が張り付く。
一歩。
二歩。
微笑み深くしたアリスは何も気にしない。巻き起こる風はアリスの足元から、柔らかに甘い薄桃のキューティクル艶めく銀の髪を払い、徐々に増す艶めいた空気を当たり前のように纏おう。
「
ああ愛しき生命の営みを讃えよう、
高らかに謳おう生命賛歌」
少女の聲の艶が増す。
空気が変わり、どこかギラつきはじめるアリスの瞳。
ひくりと頬引き攣らせた揺籠の君野唇が戦慄き、突き出されたリリスの槍が――!
『――あなたは、なにものですか?』
「
ラストスタンド」
“ラストスタンド”――その言葉に、どこか揺籠の君は聞き覚えがあったけれど、“力”欲した聖杯が全てを忘れさせてゆく。
揺籠の君はゆっくりと解かれ明かされるアリス・セカンドカラーという少女を知らなかった。
本当はきっと此処で――いっそ全力の物量ででも殺してしまえば良かったのかもしれない。
「ふふ……うふふっ!ねぇあなた――わたしと遊びましょう?」
こんなところで遊ぼうなどとお門違いな口をきく者は大抵禄でもないものだということをさえ揺籠の君は忘れていた。
ああ憎むべきは
最強への階か。全てを捧げてしまった己か。
『あなたはゆりゆりのさいきょうへのいしずえになってください』
神の左手の指が鳴らされた瞬間、引き寄せの竜巻が巻き起こる――はず、だった。
アリスが綺麗に微笑み、その小さな唇が紡ぐ。
「
タイムフォールダウン」
『……!』
なにを、など口にすることさえ拙いだろう。
くすくす微笑む
アリスを前に、背に聖杯剣の柄を揺籠の君が握ろうとした――その時。
「
時間質量を開放し時を凍結させ一切の活動を、禁じる♡」
『っ、ぐ――あなた、ゆりゆりにっ、なに、を……!』
ガチガチと震える神の右手に揺らぐ空気中の竜巻が無理矢理解かれ霧散する。軋ませた歯を食いしばり初めて眉間に皺寄せた聖杯剣揺籠の君を、誰が見ただろう?
当のアリスといえば、ただ揺籠の君を指差し微笑みかけただけ。
体が軋む。冷汗は止まらず酷い痺れと振るえとがめちゃくちゃに襲い来る!常人ならば泣き叫び気の狂いかねないそれを揺籠の君は
受け止めてしまった!
それこそ恐らく聖杯剣の所持者ゆえの祝福であり呪い。
“最強”であれと聖杯に力と引き換えに科せられた
宿命と言えよう――……。
『ゆりゆり……をっ!』
「あら」
『はなしてください!』
揺籠の君が握りしめた聖杯剣を叩き下ろした瞬間、アリスがパチリと指を鳴らし、嗤った。
「――えいっ」
『……は?』
ただ、少女が跳ねただけ。
揺籠の君はあからさまに狼狽えた。
当然だ、
一体何をされたのか分からないようにさせられていたのだから。
愛らしく跳び跳ねて見せたアリスの爪先で、淡く煌めいた
仙術が“在り得ない”を紡ぎ出す!
この時この間は、きっと最初で最後の離脱の叶う瞬間だったのかもしれない。
だが戯れでも逃げようと背を見せれば恐らくアリスは笑って無邪気に猛威を振るったことだろう。だが、この先もしも逃げなかったとしても確実にアリスは揺籠の君へ手を伸ばす。いくら視線をぶつけようと楽し気に指を振ったアリスが時を惑わせ空間を歪め叶わない。
在るはずのものが無く、無くても良いものが場に出てしまう。
『くっ、どうしてですかっ』
「あら……分からない――いえ、知らないか……忘れてしまったかしら?
量子的可能性から回避の可能性への収斂がある――って」
槍を揮おうと聖杯剣を揮おうと視線で追おうとも“アリスに
追いつかない”!!その事実が揺籠の君を酷く焦らせる。
だが、分かりにくくさせているだけで実際のところアリスは聖杯剣の刃を多重に詠唱し重ねた結界で弾き上げ、槍を同じ方法で往なし、視線については僅かなマヒの間に凍結結界を挟んでから身を翻すという数多のリソース消費を行ったうえで平然とした風を装っていた。揺籠の君に見つからぬよう、震える手を握り締めて叱責する。
「(まだ、わたしは戦える――……あなたを頂けば♡)」
より強く色濃く在れるだろう。
乾いた唇を嘗め、アリスは気付く。もし瞬き程度でも
闇に紛れてしまえば揺籠の君の視線を大きく引き離せるのではないか、と。
可能性は試すに限る。
『……さあ、おぼれてしまいなさい』
「あら、まだだめ。
少し肌寒いくらいくらいが丁度良いもの」
その思念も、爆破さえもがアリスのおやつ。
念じたことも思念さえ喰い物にされること――……それまで喰う側だった自分が喰われる側になったこの一時を揺籠の君は足掻き時に切り飛ばし、時に貫き、時に竜巻を爆散させ逃れんとして……!
「ふふ……」
『ゆりゆりには、まだ――……まだ、さいきょうに!』
「うふふっ」
ただただ、アリスはわらう。
どこか必死にさえ見える揺籠の君を笑っているのではない。その一生懸命さに愛おしささえ感じてしまう。その足掻きに高揚する。
ただただ、この抵抗さえ息苦しい空間を作り出したアリスは揺り籠の君にとっての悪夢だったけれど。
「
えっちなのうみそおいしいです♡」
吸収、供給、充填。
ごくんと細い喉を上下させ全て全てを呑み下した
小悪魔の赤い舌がぺろりと唇を嘗めた。
大成功
🔵🔵🔵
悪七守・あきら
※連携アドリブ歡迎
さいきょう、のう、と不敵に笑う
まず聖杯剣に対しては【瞬間思考力】と【激痛耐性】でしのぎ、左手を警戒する。
敵のUCに対しては使用UCで対処。
ここで介錯してやるのが慈悲というとのか…
高周波ブレード『虎徹・改』を抜き放って肩部スラスターを全速でふかし、
袈裟・胴抜き・上段斬りの連撃を放つ。
もう休め。いずれわしもそちらに行くことになる。
●問う、
悪七守・あきら(反逆姫・f37336)はわらった。
「さいきょう、のう」
ふは、と息吐き赤い瞳を弓形に細めれば、聖杯剣揺籠の君が小首を傾げた。
『わたしはあなたもたべてさいきょうになりますよ?』
戦場に不釣り合いなほど微笑む女があまりに優雅に夢を語るや否や。
「っ、!」
『あら』
一足飛びに距離詰め伸ばされた
黄金の左を、あきらは仰け反りながら蹴り上げた。
速い。
だが、避けきれぬ速度ではない――そう思考しながら、更に考える。
そうして一つ行きついて。
「(これは)」
そう、これは。
「――陽動じゃな!?」
『はい。ふふ、あなたもゆりゆりのごはんになってください』
聖杯剣揺籠の君の唇が美しい弧を描いていた。
『ゆりゆりはさいきょうにならねばいけません』
「……何故じゃ」
『それは……――さあ?』
“わかりません”と甘い声で言う聖杯剣揺籠の君の刃を虎徹・改で往なした腕が痛い。
一撃一撃の重さに舌を巻きながら、あきらは問う。
長く生きたがゆえに、命も記憶も擲った目の前の女がどこか憐れにも見えたから。
『でもいいんです』
「なんじゃと?」
なにを。
問うより早く、大上段より叩き下ろされた巨大な聖杯剣があきらを真っ二つにせんと鍔競り合う!
「ぐっ、おぬし……っ!」
軋む。
軋む。
全身が。鎧が。刃が――!
「(虎徹が――!)」
圧し折られる。
叩き斬られた体が痛い。
「――カハッ、は――……、っ、っ、ぐぅ、」
ぐらつく。
首の皮一枚凌ぐも感覚も曖昧。だが、あきらはわらった。
「はは……ははは、よかろう。わしがおぬしを介錯してやろう。これも慈悲というものよ」
『いいえ。あなたをかいしゃくするのはわたしです』
振り上げられるその刃は自信の表れだったのかもしれない。
斬ったあきらが脱力していることへの安心か。
UC―機神流・流柳落花生―
けぷ、と血を吐いた女とあきらは視線を交わさず、餞は言葉だけ。
「もう休め。いずれわしもそちらに行くことになる」
大成功
🔵🔵🔵
エミリヤ・ユイク
※アドリブ歓迎
やれやれ全く困った人ですね。さて、と少しばかり痛い目を見させつつお仕置きといきましょうか。それでは勝負開始です。
まずは手袋を外して剛魔之黒装束をしっかり着て心に根性、覚悟、気合いを持ちます。
次にいんよくのたつまきを吸わないように息をとめつつ、引き寄せられる力を逆に利用してダッシュで接近します。そうしたら神の左手の攻撃が来るのでそれを残像で回避して、怪力を発動し覇壊之念による貫通攻撃で神の左手を右手で思いっきりぶん殴って壊すのを試みます。この時しっかり大地を踏みしめて抉るように回転を加えて殴ります。覇壊之念は超硬度かつ触れたもの全てを塵にしますからね、効果はあるでしょう。
その後左手で抜刀した黒狼牙爪を握りしめ、しっかり大地を踏みしめて、まずは蹴りによる黒狼振牙の高振動刃でゆりゆりの脚に切断を試みます。そうして体制が崩れた瞬間に限界突破した黒狼天地無双による超神速の突きを放ち返し刀で追撃。返しの攻撃も返し刀で受け止め、超神速の突きで反撃です。
速度は威力、この一撃は痛いてますよ?
●断ち切るは確かな刃
「やれやれ……全く、困った人ですね」
瞬く右眼の翠と左眼の蒼が聖杯剣握る揺籠の君を見上げ、どこか淡々としていた。
吹く凍て風に黒髪を棚引かせたエミリヤ・ユイク(黒き狼を継ぐもの・f39307)が剛魔之黒装束にチラつく雪を浴びながら、真白い手袋を外すとポケットへと突っ込んだ。
ぐるり首を回し、息を吐いて。
「さて、と少しばかり痛い目を見させつつお仕置きといきましょうか」
『ゆりゆりに“おしおき”ですか?どきどきしてしまいます』
ぼろぼろなのに、未だ余裕をもってエミリヤへ微笑み向ける揺籠の君はもう――いや、とっくにどこかがおかしかったのかもしれない。
だが、そんなことエミリヤには関係ない。
今目の前にいるのは、元々揺籠の君という危険な存在。それが今やメガリス聖杯を手にし、己の記憶も想いも何もかも全てを捧げ、世界を跨ぐ規模の脅威――聖杯剣揺籠の君となり君臨している。
エミリヤに為すべきは討つ――ただ、それだけ。
この激戦に必要なものを、エミリヤは知っている。
「(――心に根性も、覚悟も、気合も持ちました)」
畏れぬ心も、胸の内に。
『ふふ……うふふっ……!さあ、あなたもゆりゆりのごはんになってください』
「お断りね」
礎になる気など端から在りはしない。
深呼吸し駆けだした瞬間、わらう聖杯剣揺籠の君
黄金纏う左手の指が鳴る。
エミリヤの想定通り巻き起こった竜巻は、生物の欲を引きずり出す風を巻き上げ凄まじい速度で暴れ出す!
「(くっ、でも風の向きは恐らく――)」
風に耐えるのではなく、エミリヤはあえて風に乗る。抗わず
利用することにしたのだ。
掠めた風に頬切られようと、今は見ないフリをして。
翠蒼の瞳で風の流れを見切った瞬間飛び込み、力強く地を蹴りダッシュすれば一息に聖杯剣揺籠の君の眼前へ――!
『まぁ。おいしそうなあなたから、ゆりゆりのところへきてくれるなんて』
「貴女のごはんにはなりません」
突き出し伸ばされる神の左手は想定内!
辛い姿勢でも自身の経験と反射を頼りに仰け反り避ければ、顔面スレスレ。躱されたことに甘い顔を歪ませながら、にんまり意味深にわらう聖杯剣揺籠の君と視線を合わせぬよう転がり抜けたエミリヤの背を、リリスの槍が肉薄する!――が、その切っ先が貫いたのはエミリヤの残像のみ。
『あら、おもしろいあそびですね?』
「(……――笑いたければ笑えばいい)」
くすくす少女染みた笑みをこぼしながら油断なく視線向ける聖杯剣揺籠の君の瞳の奥は笑っていない。それほど、彼女は本気なのだ。
追い縋る攻撃から逃れるように駆け回りながら、幾度も作った分身破られた数を、エミリヤは途中から数えるのを止めた。
「――っ、は――……はっ、ぐうっ!」
ほんの一瞬止まりかけただけ。
それさえ隙と言わんばかりに迫るリリスの槍の穂先を避けようと、エミリヤが地を蹴るも、もつれた足に転倒した。
『あら。あら、だいじょうぶですか?もうつかれたでしょう?』
“おいかけっこ”なんて。
わらう揺籠の君の、なんと憎たらしいことだろう。
「――誰がですか!」
跳ね起き飛び退いた場所を、聖杯剣が抉り、エミリヤは息を呑む。
常に神経張りつめさせ視線交わすことさえ許されぬ激戦は、生物としての神経を酷く削ってゆく。
ギリギリの綱渡りをしながら命綱無しに走れと言われているかのような状況はクローンと言えど人間のエミリヤを甚振るには十分。
深く息吐き捨ていっそ爆ぜそうなほど激しく脈打つ自身の鼓動を、エミリヤは聴いた。
「(まだ……まだ、わたしは動けるわ)」
大丈夫と、呑み込んだ溜息も滴る汗さえ振り払い、横凪に払われた聖杯剣を抜けた直後――揺籠の君の笑い声。
『ふふ……うふふふ!!かわいいひと、さぁ――ゆりゆりのもとへきてください』
あれを、恐れなくていい。
初めからわかっていたことだ――相対するのは命がけで生の世界も死の世界さえ壊したがる強欲な
姫君だと。
「わたしは――」
斬る。
必要な覚悟も、諦めぬ根性も気合も持っただろう!
見開かれたエミリヤの瞳は翠と蒼ではなく、星の如き金色と海の如く深い蒼を湛えていた。
『あら、きれいですね』
「それでは、“本当の”勝負開始です――!」
UC―黒狼天地無双―
その静なる咆哮を、聞いたことはあるか。
「天壊せよ、我は黒き狼なり」
祈りのように言葉を紡ぎながら、エミリヤは疾駆する。
空を切らん勢いで蹴り出したその足は限界を超える力と共に。
「誰一人避けも逃しもさせない、この速さと鋭さこそ黒き狼の真髄なり」
言葉は呪文にあらず。ただ、真実である。
揺籠の君が激痛と同時に視認できたのは、深々足に食い込む黒狼振牙の刃。甘やかな聖杯剣揺籠の君の唇が噛み殺す悲鳴ごと、足を斬り飛ばさんと連綿の気合を以って揮われた刃が、藻掻く聖杯剣揺籠の君の肉を削ぐから。
『あっ、なたは――!』
「速度は威力、この一撃は痛いですよ?」
エミリヤの星の瞳と深海の瞳は聖杯剣揺籠の君を見ない。
『ゆりゆりは!ゆりゆりはさいきょうになって――いえ、ならなくちゃいけないんです!むくろの、うみを!!』
骸の海を粉々にする。
そう絶叫した目の前の女を、冷静な目が一蹴する。
だから、何だ。
エミリヤは腕の痺れも、体中の痛みも、頬から未だ滴る血と痛みも何もかも無視をしながら、思う。
今ここで、リリスの槍握り構えた聖杯剣揺籠の君を討ち取らねばならない、と。
疲労と激痛の中、脳裏で明滅する生物的な感覚が叫ぶからこそ、迷うことなど在り得ない。
鋭く突き出されたリリスの槍を激しい火花散らしながら黒狼牙爪がギリギリで受け流す!
「受けて朽ちるがいい。黒狼天地無双ッッ!」
叫べ。
達人が見るという酷くゆっくりのした一瞬の中、苦虫噛み潰した揺籠の君とは正反対にエミリヤが一喝し放った超神速の突きが、深々と揺籠の君の胸を貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
◎
骸の海を、壊す?
傑作ですわそれは――あははっ。
…ああ、でも。
にこたまさん(f36679)の言う通りね。
どちらにせよ真の姿の死体になった私とあなたで、
《美希も入れて?》
み、き。
《お説教は後でね。
一線を越え過ぎた揺籠の君、絶対許さない。
みきももう手を差し伸べたくない。
ほら、チェッカーフラッグ地面に刺して!》
美希…ふふっ、
勿論そのポールを掴んで根性で引き寄せを耐えますの。
そこから……UC。エフェクトを当てて速度低下させますわ!
これで避けられる、視線からも外れられる。
にこたまさんにどうしても当たりそうな攻撃は、武器受けで受け流せばいいだけ!
ねえ揺籠の君さん。
骸の海を、私という死を壊せるなんて本気でお思い?
自分の快楽しか考えないあなたが?
人々の想いを踏み躙り続けたあなたが!?
ええ、もう無理ですわね!!
《この計算は覆らない。
ほら、警官さんも当然の判決を下してる》
…一緒に、決めましょ?
Boost――time!!
引き寄せを利用、とどめの一撃を!
正義と正義と死の引鉄、どうぞ味わって――
ごきげんようッ!!
新田・にこたま
◎
美希さんたち(f37972)と。
冷静にいきましょう、シエルさん。
どうせ今から殺す相手…感情の無駄遣いですよ。
先制攻撃の竜巻による引き寄せは
・バンカーヒールを地面に撃ち込む
・サイバーモールを自分に括り付け、反対側を伸ばしてどこかに引っ掛ける
上記二段構えで対処。要は根性です。舞踊(ダンス)やってた私の足腰は強いですよ。
UCを発動するための隙を一瞬でも作れればこっちのもの。
聖杯武器による攻撃に対抗するために限界突破。どうせ当たれば終わりの攻撃なら防御を捨てて回避に特化。美希さんたちのUCの効果もあれば更に見切りが容易なはず。
その上で、引き寄せ攻撃には敢えて乗っかって3人で一気に接近します。
そして、情けも容赦もなく、切り捨てます。
攻撃タイミングはお二人と同時です。一緒に引き寄せられているということもありますし、それだけの一撃を当てなければいけない強敵だとも思っています。
今治市と、この地で揺籠の君が引き起こした地獄絵図…思い出すだけで反吐が出ます。
悲劇の主人公ぶった悪に、ただ当たり前の鉄槌を…!
●美しい“生き方”とは、
「は?」
「……え?」
その日、新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)はラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)が零れ落ちそうなほど瞳を見開き、唇を戦慄かせる姿というものを初めて見た。
「シエルさん」
こちらを見ないラップトップが“シエル”だとにこたまはすぐ分った。
“骸の海”――それはラップトップが最も
近い側面をもっているからこそ、この反応なのだ。
「骸の海を、こわ、す?」
あぁ、このバケモノは何を言っているのだろう。
あぁ、この女は何を夢想しているというのか。
一体、何を――言っているのだ、この
女は!
「あは」
どくどくと
脈打つ心臓のあたりを握り、シエルは慟哭し嘲笑し茫然ともしたいような、感情に自身の“こころ”がめちゃくちゃにされるような衝動に襲われ、強い吐き気と眩暈に泣きそうになった。
なみだなんて、とうにかれたはずなのに。
「シエルさん――!」
にこたまの声が届かない。
敵のたった一言に目に見えて揺らぐシエルを見たことが無く、にこたまは聖杯剣揺籠の君の言葉っは未達の理想なのだから今防げばいい――そう強く思いラップトップの肩を強く掴んだ、瞬間。
「っ、あはははははは!」
『あら?うふふ、たのしそうなあなた、ぜひゆりゆりのごはんになってください』
そう微笑んだ聖杯剣揺籠の君が神の左手の指を鳴らした。
巻き起こる竜巻。引き寄せるような風の流れににこたまは咄嗟にバンカーヒールで地面を穿ち、素早く自身に括ったサイバーモールを橋の欄干に引っ掛け自身を縫い留める。
「っ、シエルさん!!」
「ふふっ!ふ、あは。んふふっ、はっ、はははははは――
…………!!ほんっとに、馬鹿なことを仰らないでくださる?冗っ談じゃない!!」
ラップトップの笑い声と怒声に驚いたにこたまが怯んだのは一瞬。
優雅なまでに余裕を見せ二人を見やった聖杯剣揺籠の君を睨み上げた
ラップトップの瞳が激情にギラギラ燃やす様に、にこたまは思う。
人の感情表現とは、本当に千差万別。にこたまが家族に“正義”を突き付けた時とは状況自体異なるが、“人の激情”はやはり凄まじい。
だからこそ、にこたまは暴風の中ラップトップへ冷静を促せる。
「冷静にいきましょう、シエルさん“どうせ今から殺す相手……感情の無駄遣いですよ」
“感情に流されすぎてはいけない”――その想いを籠め見つめれば、濃い琥珀色の瞳と今日初めて視線が合った。
「っ、にこたまさん……そう、ですわね。えぇ、えぇ……そう。どちらにせよ、
私とあなたで――」
にこたまが
ラップトップと視線合いホッとした時、
ラップトップの体がチェッカーフラッグの柄を地面に突き刺し、唇が“もう一人”の名前を呟く。
「――み、き」
にこたまには聴こえない、シエルだけが内から聞く
たった一人の声。
「……そう、ね。えぇ、ふふっ……わたくしと貴女は二人で一人ですもの、ね」
「はい、でも今日はお二人だけではありません」
『ふふ……うふふ、うふふふふふ!さあ、ゆりゆりをさいきょうにするためのにえに!』
輝き溢す聖杯剣の歪な様も、嫌と言うほどギラつく黄金の左手も、蛇絡み合ばれるリリスの槍も、所詮は虚飾。
「にこたまさん」
「はい」
わらう揺籠の君を、今。
「一線を越えてしまった彼女を、私達とあなたで斃しましょう。そして、」
「はい!そして?」
「……一緒に“美希のお説教”も聞いてくださいませー!」
暴威を斃す決意を固めたものの、突然にっこり微笑んだ
ラップトップが言い逃げた。
「わ、私もですか?!」
“シエルさーん!”と後ろから聞こえるにこたまの声を暴風で聞こえません!という素振り見せる
ラップトップはと言えば、実は内で既に美希に怒られていた。
「(お姉ちゃん!にこたまセンセ関係無いでしょ!)」
「いーえ!ここで戦うのです、なら一蓮托生と言うのはいかがかしらと思いましてね?」
「(もー!!)」
ラップトップは聖杯剣揺籠の君の向こうに見えた空を仰いだ。
冬の青空特有ながら、突き抜けた色味は美しい。
吐く息は白く落ち、足元の雪が深くとも、冷たくとも、今シエルは美希と共に
生きている。
永久に骸の海から逃れられなくとも、生きてしまっている。
「私は私――さ、流れを変えてしましましょう」
UC―Trigger /XM―
未だ渦巻く暴風は底知れず、くすくすわらいの揺籠の君の瞳恐らく自身達を獲物としか見ていないだろう。
それで構わない。“今”は。
チェッカーフラグのポール引き抜いた
ラップトップは風に乗りながら風をアークの霊障で圧倒し駆け回る。
『あなたはゆりゆりのさいきょうのためにささげてくれるのですね?』
「ふふふ!まさか!――大体あなた、骸の海を、私という死を壊せるなんて本気でお思い?」
『ええ。ゆりゆりはさいきょうになって、むくろのうみをこなごなにします』
ラップトップは白雪の上にとても目立つ。
鮮烈な赤が目を引く上、モノクロのチェッカーフラグを揮い時に突き立て急ブレーキを掛け正面から襲い来る竜巻を時に打ち据え受け流していた。
「自分の快楽しか考えないあなたが?人々の想いを踏み躙り続けたあなたが!?」
『それでもゆりゆりはこわします。むくろのうみを、うみを――こなごな、に!』
問い続ければ記憶も命も聖杯にくべた聖杯剣揺籠の君はボロが出る。
何せどうして成したかったのか――もう、思い出せないのだ。揺籠の君自身――欠片も。
「どうして?」
『さあ?でもゆりゆりはさいきょうになるんです!』
シエルは最強を知っている。あくまでアスリートアースでの“最強”に限るのだが。
皆、強く在りたい理由を持っていた。誇り高く、気高く公平なスポーツの中にあった……オブリビオンが現れるまでは。
「ふ、ふふふ!その程度なの。ならもう無理ですわね!!」
『――いいえ!!』
一方、バンカーヒール突き立て、橋の欄干に括ったサイバーモールで暴風の中なんとか仁王立っていたにこたまは、聖杯剣揺籠の君の視線が完全に外れた瞬間――視線対策に下ろしていた目蓋をゆっくりと押し上げれば瞳の色味が増していた。
目を閉じていた間、ラップトップと聖杯剣揺籠の君の問答を聞きながら、ラップトップが引き寄せた竜巻と視線のお陰で難を逃れながら把握した橋の構造、自身、ラップトップ、そして聖杯剣揺籠の君の位置を把握した。
高速演算の結果、あと30秒後が最高の瞬間になる。
「(20――15、14、13……)」
脈打つ
心臓はもっと燃えられる準備ができた――!
「……頃合いです」
にこたまは思っていた。
既に聖杯剣揺籠の君は幾度も猟兵達と戦闘を繰り広げている。
よく見ずとも傷だらけのその体であの虚勢のような高笑い……それは弱った犯罪者が見せる、逃げる直前の手口の一つ。
勿論元々強力なものが合わさった聖杯剣揺籠の君だ。侮れば、先人が残した言葉の一つ、“キュウソネコカミ”にあうだろう。
「だから情けも容赦もしません。切り捨てます」
今日は――否、今日“も”勝ちに来た。
今、炉心にくべるは勇気。根性。情けは一時灰にしてしまえ。
UC―正義の限界突破―
バンカーヒール抜いた足で滑るように駆けながら、引き戻したサイバーモールの先端で揺れた警笛を思い切り吹く!
「――正義の名の下に、ホールド・アップです!!!」
『っなんです!?』
迫る激しい警笛音に聖杯剣揺籠の君が驚愕し振り返ったのは、耳が聞こえ“生物”である性。要は致し方の無いことだったと言えよう。
『わたしは――!』
「これ以上!この国を好きにはさせません!」
「ええ、そうですわね。正義と正義と死の引鉄、どうぞ味わってくださる?」
引寄せる竜巻を利用し一息に接近したにこたまは抜き打った警棒を引き絞り展開されたフォトンセイバーの刃がにこたまの炉心とリンクする!
打って変わって優雅に微笑む
ラップトップの纏う赤と黒の電子の輝きが迸る!
ただ、泣いていただけかもしれないけれど。
ただ、探し物をしていただけかもしれないけれど。
為した全てを悔いようとも後の祭り。産み落とした成した二度の淫獄の罪が晴れることも憐れまれることも無いだろう。
全身全霊の双撃が、藻掻き聖杯剣振り回そうとしたその身を深々貫いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
チェルシー・キャタモール
◎
【うさへび】
あの人とはいずれ決着をつけないと、と思っていた
サイモン、我儘に付き合わせてごめんね
……ええ、約束!
真の姿を解放
よりリリスに近い姿を晒す
本当は誰にも見られたくない姿だけど
それでも……リリスだった自分からはもう逃げたくないの
サイモンのバイクには一緒に乗る
私は『グレネード』を投げて目眩ましを狙うわ
爆炎は【オーラ防御】で突っ切りましょう
『コウモリさんの傘』で視界も遮るわ
槍は『月を飛ぶ悪魔』から放つ【衝撃波】で逸らしにかかる
剣はオーラ防御で身を守りつつサイモンを信じるわ
あなたの隣ならいつだって安心出来るもの!
攻撃を凌ぎきったらすかさずUCを
これで揺籠の君の行動を無力化するわ
ねえ女王様
良い夢を見る心地よさ、あなたは知ってる?
あとはタイムリミットまで全力ね
杖に月の魔力を籠めて【属性攻撃】の魔法を
月の魔女と悪魔が揃えば無敵なんだから
リリスに近い私でも「猟兵」としての軸はぶれなかった
……きっと隣に優しい悪魔がいてくれるからね
私が悪い子になっても、きっと迎えに来てくれるから
ありがとう、サイモン
サイモン・マーチバンク
◎
【うさへび】
怖いけど仕事は仕事です
依頼主はチェルシーということで
帰ったらお礼に甘いものでもお願いしましょうか
真の姿を解放
三月兎の悪魔です
チェルシーからは目を逸らさずに
だってチェルシーはチェルシーですから
『アングイス』に乗って戦場を進みます
『予告状』をばらまけば多少は視界も誤魔化せますかね?
【オーラ防御】で身を守りつつ突っ切りましょう
攻撃の予兆は【野生の勘】で掴む
槍は『ムーンストライク』で【武器受け】狙い
剣はバイクの全力【ダッシュ】で回避しましょう
引き寄せはバイクごと引っ張ってもらって利用しますよ
攻撃を凌ぎきればUCを
『ムーンストライク』を強化し一気に攻めましょう
懐に突っ込めば【怪力】を籠めた一撃を
月まで飛んでけ!
俺、約束したんです
チェルシーが
悪い子でも隣にいるって
だから一緒に猟兵として最後まで働きますよ
手放すことで強くなったゆりゆりさんと違って、俺達は積み重ねたものを「手放さないこと」が強みなんですから
チェルシーがいつものように笑ってるのには安心してます
こちらこそありがとう
●交わした
感謝の価値
サイモン・マーチバンク(三月ウサギは月を打つ・f36286)がぐるり回した
ハンマーが雪を殴り飛ばし跳ね上げ、雪風にはためいたジャケットの
裏地が場違いなほど鮮やかな一方、サイモンは相対する聖杯剣揺籠の君の姿に威容に唾を飲んだ。
畏れてはならないと、自身に言い聞かせる。
「(怖い、けど)――チェルシー」
「なに?」
仕事は仕事だと割り切れば、もう。
静かに息を吐きながら隈目立つ三白眼の目蓋を上げ、見る。聖杯剣揺籠の君を見つめながらアイスブルーの髪を雪風に踊らせる少女の背へ言葉を投げて。
「チェルシーはチェルシーですからね」
その言葉に大きく肩震わせた少女こそ、本日のサイモンの依頼主、
チェルシー・キャタモール(うつつ夢・f36420)だ。
いつも明るい彼女が今日は妙に静かで、まるで雪に紛れてしまいそうだ――そう、思った時。
「ねぇ、サイモン」
「――なんですか?」
突然のチェルシーの呼びかけにサイモンはハッとする。
徐々に強くなる風が雪を巻き上げ白み始めても、細い背は決して揺らがない。
「私ね」
どこか
甘さを含んだ声は、雪中でもサイモンの兎耳によく届く。
チェルシーはアイスブルーの髪は風に乱され、項が晒されようと直さない。風に“好きにして”と、委ねまるで今日の天気の話題かのように言葉を投げた。
「私、リリスだった自分からはもう、逃げたくないの」
白く細い息を棚引かせ少し不安気なチェルシーは寒さが痛みに変わりそうな中、自身で選んだのはチェルシー曰く“
悪い子に近い”姿。
黒いフリルが雪混じりの風に舞い躍り、いつもの元気さを留守番させたのは――簡単だけれどとっても大切な事だった。。
『ふふ』
きらきらかがやく せいはいけん。
まとわりつくへびのひとみは ぎらぎらと。
へびとおのれという りりすをもしたやり。
つばさのごとき ましろいかがやきをまとい。
おうごんのこてをはめた ひだりてはかみのごとく。
『うふふ、あなたは――』
聖杯剣揺籠の君の瞳が、チェルシーを捉えわらっていた。
「チェルシー。帰ったら甘いもの」
「――! そうね。ええ、約束!」
皆まで言わなくていい。
だって、
知っているんだもの!
真白い雪の中を真っ直ぐにチェルシーは駆ける。
後ろを追随するサイモンの気配と同時に、妙に自身を射抜く聖杯剣揺籠の君の視線を感じなが、――……。
「っ、チェルシー!!伏せろ!!」
「なにっ――きゃ!」
珍しく叫んだサイモンへ振り返ろうとしたチェルシーは、蛇が橋の欄干に喰いつき自身の身ごと引いたことで転倒し転がる形になり横凪に振り回された“聖杯剣”の直撃は免れた。
「っ、痛った……!」
『あらざんねんです。きもちよくにえにしてあげるのに』
誰を贄にと尋ねることさえ愚問――だが、このままでは分が悪くなる。
そう勘に告げられたサイモンは呼び出した
アングイスに飛び乗り、すれ違い様チェルシーと視線交わしたのは一瞬。
「(揺籠の君と目を合わせたら食われる。だから、まず視界は奪わせてもらいます)」
ムーンストライクを担ぎ上げ、サイモンはバイクに身を這わせるように姿勢低く速度を上げる。
「(恐らく俺もチェルシーも“この”揺籠の君と勝負できる回数は少ない)」
サイモンの野生の勘が叫ぶのだ。
正面から戦ってはならない。
至近距離で相対してはならない。
そして――せめて“一瞬”凌がなければ、と。
『あら。あらあらあら?ゆりゆりはかわいいうさぎさんも、どうほうも――さいきょうのためのにえにしたいです』
目の前のバケモノがあんまり綺麗に笑うから寒気が酷くてしかたがない。
「……誰が同胞だ」
勝手なことを言うなサイモンがと小さく吐き捨てれば、ころころと少女のようにわらう聖杯剣揺籠の君の瞳が、舞い散る予告上の雨を見つめて弧を描く。
『まあ』
寒気。
「っ!?」
「サイモン!」
『きれい』
予告上の雨に身を裂かれても逃げなかった全ては“これ”のためだけだ!揺籠の君ににたりと笑われ、初めてサイモンは気が付いた。
必死に顔逸らそうとすれば、勢いよく顎を掴まれ、
ルビー色の瞳がサイモンと“視線を交わす”。
瞬間、耳劈く爆音。
「サイモン!!」
「――い˝っ……こ゛、の゛やろ゛う゛っ!!」
チェルシーが悲鳴染みた声で自身を呼ぼうとも、サイモンは振り返らない。さっきもその前にも、もう全部伝えたから。
爆破され左眼の視界を失う。得たのは激痛。
酷い痛みにサイモンは左眼を押さえながら口内の血を吐き捨てた。
『ふふふ!ああ、“どうほう”とともにわたしの――ゆりゆりのにえになってください。さいきょうになって、むくろのうみを、』
「チェルシーは!!」
一つ、とても言い返したかった。何よりサイモンは心から嫌だった。
チェルシーが“リリス”であるというだけで、快楽の支配から逃れたチェルシーを“同胞”と楽し気に呼ぶ揺籠の君が、とんでもなく不快だった。
「チェルシーはチェルシーなんですよ!!!」
三日月兎の悪魔が叫び揮った
ハンマーで雪を打ち上げ予告状の雨の中、飛び乗ったアングイスで手伸ばしたチェルシーを拾うと後ろに乗せ呟いた。
「……チェルシー、左――お願いします」
「馬鹿ね。私が右も左も前も後ろも見てあげるわよ!」
後ろに乗った
チェルシーは
チェルシー明るさを放ち擲ったグレネードで目晦まし!
『あら。ゆりゆりのにえにならないのですか?』
「お断りよ!サイモン、止まらないでちょうだいね!」
「わかってます――よっ!」
チェルシーのオーラの防壁を感じながら、竜巻を時に利用し時に逃げ出しながら爆炎の中二人で駆け抜ける。
追い来る揺籠の君の視線を真っ黒なコウモリさんの傘で遮って、チェルシーは布越しに揺籠の君へあっかんべー!
サイモンが信じてくれたから、チェルーも信じる。
『ゆりゆりは――』
聖杯剣揺籠の君が蛇蠢く槍を突き出した瞬間、チェルシーの掲げた
月を飛ぶ悪魔の輝きが迸り、衝撃波となり軌道を逸らす!
「ふふっ!あなたの隣ならいつだって安心できるわ!」
「あ゛―……左眼分苺たっぷりナポレオンパイでお願いしますね」
“パフェでもいいですけど”と口角上げたサイモンを見た蛇ちゃんが“しゃー!”と言えば、“どっちかにしてちょうだい!”なんて背に感じるチェルシーの笑顔にサイモンが思いだすのは、約束。
チェルシーとした、大事な約束。
“チェルシーが
悪い子でも隣にいる”こと。
一方で、チェルシーもまた約束した時を思いだし、ふと笑った。
きっと大丈夫。
もう怖いものなんてない。
「(――きっと、)」
優しい兎の悪魔が隣にいてくれるから。
そしてきっと、
何があっても迎えに来てくれるだろうから。
きっとサイモンはいつものように“いいですよ”と二つ返事をするのだ。
まるで日常の延長――昨日の続きの今日みたいに。
『もうっ、ゆりゆりはおなかもへりました。はやくさいきょうになってしまわないと――!』
「そう。でももう眠る時間よ女王様。ねえ?良い夢を見る心地よさって、――あなたは知ってる?」
UC―夜はお静かに―
揺籠の君が気付いた時にはもう遅い。
けぶる霧は鋭き刃を鈍らに変え、鋭利な槍を柔いものへと変じさせ、神の手は唯の籠手。鋭き竜巻は春風の如き優しさへ。
「サイモン、お願いね」
これは
124秒間の勝負。
「当たり前ですよ。一緒に猟兵として最後まで働くって言ったでしょう」
空へ飛び上がり鋭く翔けながら、サイモンが振り上げたのはUC―月が見ている―の黄金の魔力纏わせたムーンストライク。
「手放すことで強くなったゆりゆりさんと違って――」
『そうです。ゆりゆりはあとすこしでさいきょうになれるんです!』
「そうですか。ま、でも俺達は積み重ねたものを“手放さないこと”が強みなんで」
にんまり目を閉じ笑った兎の悪魔の、悪辣なこと。
「それじゃ、月まで飛んでいけ!!」
何時もみたいに笑う君に、ホッとする。
“ああよかった”と、価値があると認めてしまう。
盗めず盗ませたくない“日常”を。
夢ではなく現実であって良い“日常”を。
霧散した大輪は泣いていた。
なりたかったものは葉に溜まった夜露の如き夢。
誰にもその先があったかなんて、枯れ花の夢は分からない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵