●ほんとうにほしいもの
ずっとずっと、己を満たすものを求めてきた。
血肉も、快楽も、興奮も、絶頂も。生死を賭けたやり取りさえも、すべては身も心も震わせ溢れるほど満たされるために。
――ぎんせいかんがくえんはさいごまであきらめない、どりょくとじょうねつにあふれたかっこいいひとたちです。ばびろんのけものをもってしてもしょうりつはふかくじつ。だからおもしろいのです。
――しぬかいきるかのせとぎわです。これがのうりょくしゃたべほうだいのほんとうのだいごみなのです。ゆりゆりはうれしくてかんじちゃいます。
――ほんとうは、あなたにもあるはずです。いのちをすててもおしくないほどのよくぼうが。ゆりゆりは、ひとよりもごーすとよりも、ほんのちょっと、しょうじきなだけ。
けれど、その彼女はもういない。
「わたしには、ほんとうにほしいものがあります」
それは、"すべての世界のすべての命"。
すべてを奪い続ければ、どこまでも強くなれる。世界の外に出られるのなら、もっと、もっと、きっと躯の海をも破壊できる。
「そのためなら、かこも、みらいも、こころもいりません」
だからもう、覚えていない。
何を愛したのか、何を求めたのか――何故、それほどに躯の海を恨んでいたのかさえも。
「せいはいよ、これからはあなたが、わたしのかわりになきなさい。ざんこくでうつくしい、すべてのせかいのために」
それが、彼女が"彼女"であったころの、最後の言葉。
●そは、誰が為に
「……僕は彼女が、少し羨ましい。――って言ったら、怒られそうですね」
それでも、それが蓮見・双良 (夏暁・f35515)の正直な心境だった。己が"己"たりえるすべてを手放してでも欲しいもの。己を突き動かすほどの強い想い。それを未だ知らぬ身ならばこそ、その理由を知りたいと思ってしまう。
「金沢大学周辺は、既に彼女の支配する"白く輝く淫欲の領域"に変貌しています」
彼女――オブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』は、その全身から、あらゆる生物を"死の絶頂"に至らしめる催淫効果を持つ"いんよくのかぜ"を巻き起こしている。その風に触れた者たちは絶頂に至った末に"行為を繰り返しながら死ぬだけの獣"となり、そうして死んだ生命は彼女に吸収され、彼女をどこまでも強化していく。
「つまり、今回のご依頼は現地の制圧。タイムリミットは……来月1日の16時です」
それまでに完遂できなければ、"いんよくのかぜ"は石川県全域を覆い、翌日には日本全域、その翌日には地球すべてを覆いつくしてしまうという。
「勿論、戦場にも、この風は絶えず吹き荒れています」
白く粘つく大地の上で、獣のような行為にふける者たち。普通に乗り込めば、まずその淫蕩な光景に惑わされ、風に汚染される確率も増大するだろう。
「ですから、見たり聞いたりしなければ良いんです」
その効果があるのなら、方法は問わない。それこそ、風の影響を受けている全一般人を治癒したりしながらでも、とにかく淫蕩な光景を一切"認識しない"よう務めることができれば、彼女の最も強大なこの能力さえも、封じることができるのだ。
そうすればあとは、聖杯で強化された揺籠の君との一騎打ちのみ。
「風を封じられたといっても、彼女は強敵。まず先手は打たれるでしょう。加えて、聖杯の力を使った攻撃もしかけてきます」
ですから重々お気をつけて。そう添えると、双良は三日月のグリモアを起動させた。
「……"心"を失くした"望み"に、意味はあるんでしょうか」
それは、誰のために"在る"んでしょうか。
――"彼女"の答えはもう、誰も知らない。
西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。
戦争最終局面、聖杯剣揺籠の君との一戦をお届けに参りました。
⚠️プレイングについて
・執筆スケジュールの都合により、今回は【ソロ参加】かつ【オーバーロード】の方のみの募集となります。
・OP公開時から受付開始、〆はタグにてご連絡いたします。
※キャパオーバーになりそう、と思ったら〆ますので参加をご検討の際はご注意ください。
●補足
・1章のみで完結。
・"いんよくのかぜ"対策によって認識しなかった光景は、リプレイでも一切描写されません。
●プレイングボーナス
・淫蕩な光景を一切認識しない。
・揺籠の君の先制ユーベルコードに対処する。
皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『聖杯剣揺籠の君』
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POW : うずまくいんよく
【神の左手】による近接攻撃の軌跡上に【いんよくのたつまき】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
SPD : せいはいうぇぽんず
【あらゆる物質を引き寄せる「神の左手」】【癒える事なき毒を注ぐ「リリスの槍」】【対象のユーベルコード全てを奪う「聖杯剣」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ : みだらなひとみ
【揺籠の君の淫靡な眼差し】が命中した部位に【淫欲に満ちた思念】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ絡み歓迎
あれが、聖杯剣揺籠の君さん…
ひどいにおいに、すごい気配の武器たち
それでも、進ませてもらうの
狼の嗅覚と聴覚を持ってるぼくには、ここは厳しいから…、電脳空間にアクセス
嗅覚と聴覚を一時シャットアウト
ぼくの武器を捨てることになるけど、これで惑わされないの
においも音もないから、魔力感知と目だけで対処しないと…
槍はルプス大剣モードを生成して、破邪結界の浄化で毒を、大きな刀身で穂先を受け流すの
剣は重力結界で触らずに受け流してUCを奪われないように配慮
揺籠の君さんの右手側に、狼の脚力を活かして大きく走り込んで左手の籠手を向けにくくしながら魔力で残像を残して攪乱するの
複数魔術を使って複数の攻撃を受け流すのは長くは無理
だから、一気に駆け抜けないとっ
手前で足下を爆裂魔術で吹き飛ばして煙幕にするの
やっと、ここまで来れたよ?
煙幕に隠れた間に高速詠唱、全身の魔道具を励起して相手の左手側に回り込んでUC発動
付近のいんよくのかぜも吸収して威力に変換
全力魔術を受けてみるの!
●夢の跡
石川県金沢大学。
その長く渡る連絡橋、いやその頭上に浮かぶ影を見上げながら、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は呟いた。
「あれが、聖杯剣揺籠の君さん……」
様々なものと融合した姿ながら、尚も白く輝く翼を広げ佇む姿に、ロランは静かに息を飲む。自らの欲望のまますべてを捧げてしまったリリスの姫のその貌には、最早表情らしきものは見えない。
「ひどいにおいに、すごい気配の武器たち……それでも」
"白く輝く淫欲の領域"とは聞いていたが、文字では伝えきれぬ臭いと光景を前に、少年は思わず柳眉を寄せる。子供が目にして良いものではないことは明らかだ。
けれど、ロランは唯の子供ではない。猟兵であり、天才と謳われる魔術師ならば、選択肢はひとつのみ。迷いはない。
「――進ませてもらうの」
今よりも更に幼いころに人狼病を発祥してから、徐々に進行している狼化。その鋭利な感覚はときに有利に働くこともあるが、聴覚や嗅覚を刺激するものばかりのこの戦場では不利でしかない。ロランはまず電脳魔術を介して電脳空間へと接続すると、それらを一時的に断絶した。自らの武器を捨てることとなるが、今はそれが勝機に繋がる。
無音無臭の世界。視覚だけを残したのは、その姿を確りと見留めるため。
『ここでたっていられるということは……あなたはりょうへいですね?』
そう問いかけるも、じっと己を見つめたままの少年に、聖杯剣揺籠の君は小首を傾げた。
語る気がないのか、それとも聴覚を封じたか。いずれにしても、直ぐにでも自分の糧となるのならば些細なこと。娘は纏う武器へと力を注ぐと、瞬く間にそれらを嗾ける。
(来たの
……!!)
目視だけでは躱せたかどうかは分からない。けれど、魔術士たるロランには魔力を捉えることは赤子の手を捻るほどに容易かった。
軽やかに地を蹴って飛翔すると、破邪結界から成した天狼の魔剣【ルプス】へと一気に膨大な魔力を注いで大剣へと転じ、その幅広の刃でリリスの槍の受け流した。次いで向かい来る聖杯剣は正面で重力結界を展開し下方へと叩き落とすと、狼の脚力で一足飛びに間合いを詰める。
(複数魔術を使って、複数の攻撃を受け流すのは長くは無理……だから、一気に駆け抜けないとっ!)
己が力量を把握しているからこそ、最善の術もまた心得ていた。ロランは再び跳躍すると、聖杯剣揺籠の君の
右手側に大きく回り込む。
『っ! そういうことですか……!』
ロランの意図に気づいた娘が、けれど恍惚的な笑みを浮かべた。生死を賭けた闘いもまた、彼女を歓びで満たすもの。心を失くしてもまだ、リリスの姫たるその性は内在しているのやもしれぬ。
考えたとて、その笑みの意味を知る術はない。ならばこそ、ロランは唯、眼前の敵だけを見据えて俊敏に動き、自らの影を幾重にも残した。こうして右手の周囲で攪乱を続ければ、安易に神の左手の引力は使えまい。
狙う一瞬は、すぐさま訪れた。
聖杯剣揺籠の君が次の一手を決め倦ねたその僅かな隙に、ロランは素早く魔術を展開した。紡ぐのは爆裂魔法。放つのは己の眼前、その足許。
粉塵とともに爆風を読んだ魔法は、忽ちひとりの少年の姿を掻き消した。ロランは息を止めて一気に駆け抜けると、拓けた視界の先にいた娘に向けて、口端を上げる。
「やっと、ここまで来れたよ?」
言うと同時、励起済みの魔道具たちを展開し、詠唱済みの魔力を最後に音にする。
「喰われ開ける穴、食んで肥える顎、喰うものも虚ろなる穴でできた世界。魅入られし其を飲み干して。ヒュッテンブレナー式消散結界――嚥下」
狙うは、神の左手。
「ぼくの全力魔術を受けてみるの!」
『くっ……!』
その小さな身体から放出された膨大な魔力は、いんよくのかぜ諸共吸収し、更なる力を増しながら巨大な破邪結界で娘を喰らってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
鈴鹿・小春
いよいよ決戦!
きっちり揺籠の君に引導渡して平和取り戻すよ!
…直接戦った記憶はあまりないけどヤバいことは知ってるし、向こうのペースに持ってかれないようしなきゃね!
グレイトギンセイガーに乗って陸橋へ!
カメラとマイクオフにして自動操縦に、景色見たり聞いたりしないようにして揺籠の君の所へ向かう。
欲言えばパンチ叩き込みたいけど先に神の左手に引き寄せられるかな?
攻撃の気配感じたら破魔の力込めたオーラで全身覆って飛び出し、ゆりゆりへ突撃、吸われる加速利用して槍と剣見切って瞬間思考力で鮫剣合わせぶつける!
その衝撃で自分の体強引に弾いて竜巻や攻撃躱しつつゆりゆり鮫剣で斬って生命力奪うよ。
着地したら奪った生命力も活用し僕とゆりゆり囲むように結界術で結界…外の様子を感知できなくするのを周囲に展開して遮断!
集中して戦いたいしね!
更に竜巻が来たら吸い寄せに抗わず逆に利用して加速、UC発動して呪詛の罠を仕掛けつつ殺戮ハウンド展開、色んな角度から攻めさせて罠へ追い込み、動き止まったら紅蓮撃叩き込む!
※アドリブ等お任せ
モニターとマイクをオフにしてしまえば、鈴鹿・小春(万彩の剣・f36941)の駆る巨大ロボ――グレイトギンセイガーは、ある種の密室と言えた。
目標座標を聖杯剣揺籠の君へとセットされた機体は、"いんよくのかぜ"をものともせず、自動操縦モードで最短距離を飛翔する。獣のように欲に塗れた人々の頭上を瞬く間に超えると、連絡橋の袂で高く跳躍した。
『――ここにくるのは、ひとりだけじゃない。……なぜか、そうおもっていました』
記憶はすべて聖杯に捧げ、一欠片も残っていないはずの娘が、自分でも不思議そうに独り言ちた。眼下より迫りくる機体を一瞥しながら、裡にふつふつと湧き上がるさざめきに嫣然とした笑みを浮かべる。
身体が覚えているのだ。
オブリビオンとして幾度屠られようとも、蘇るたびに彼らの強さを体感してきたこの身が今、再び命を賭したやり取りができるのだと、快楽にも勝る高揚感を与えてくれるのだと歓喜に震えている。
まだ距離はあるグレイトギンセイガーへと、娘が神の左手を伸ばした。まるで誘うように、そして返り討つために、重量も重力も構わず小春の乗る機体を一気に引き寄せる。
(そう来るのは想定内! ――だから、逆に利用させてもらうよ!)
欲を言えば、グレイトギンセイガーの強烈な拳を一撃でも叩き込みたかったが、そんな単純な攻撃が通じる相手ならば、過去あれほど銀誓館学園が討ちあぐむことはなかっただろう。
(……直接戦った記憶はあまりないけど、ヤバいことは知ってるし、向こうのペースに持ってかれないようしなきゃね!)
だからこそ、小春は最大の防御とも言えるグレイトギンセイガーのハッチを躊躇いなく開けた。操縦席から勢いよく飛び出し、その身を敵眼前へと曝け出す。
その無謀とも取れる行動に、リリスの姫も血色の双眸を見開いた。
『なにかさくがあるようですね。……ふふ。あなたごと、ゆりゆりがうけとめてあげます』
「じゃあ、遠慮なく行くよ!」
元より全力を賭すと決めていた。
愈々迎えた決選に、余力を残す理由はない。
(ここできっちり揺籠の君に引導渡して、平和取り戻す……!)
機体の中にいたときよりも尚も増す吸引力に、小春は口角を上げた。欲しかったのはこの加速と――それにより生まれる、この加重。
小春は鮫を思わせる牙を持つ愛刀・つうれんを構えると、飲み込まんと口を開ける淫欲の渦へと満身の力で真横に薙ぎ、振り抜いた。咆哮とともに生まれた衝撃波が淫欲もろとも渦を喰らい、消滅させる。
『くっ……!』
爆風の中に眉を顰める娘を見たのも一瞬。小春は風圧を逆手に取り、強引に身体を跳ね返し距離を取った。相手の初手の気配を感じて瞬時に纏っていたオーラで砂塵を弾きながら、再び生まれた引力に抗わず鮫剣を大きく振りかぶる。
『さめけん……! あなた、のうりょくしゃ……ですね?』
「前はね! 今は――猟兵だよ!」
躱さんと翼を羽搏かせた娘を、けれど小春は逃さなかった。己に掛かる重力のままに上段から振り下ろした刃が、白い柔肌を容赦なく喰らう。
痛みか、怒りか。呻きながら歪み虚ろな視線を向けた娘は、つうれんの牙に抉られた肩を抑えながら身体を起こした。傷の見た目以上に感じる消耗感に、生命力をも吸われたのだと悟る。
だが、すべてが遅かった。
『これはっ
……!?』
「言ったでしょ? 遠慮しない、って」
見渡せば、精密に編まれた結界がふたりを取り囲んでいた。阻むのは外傷ではなく、"いんよくのかぜ"が齎す景色と音。
『かんがえましたね』
「集中して闘いたかったからね!」
『――でも、これであなたもにげられません……!』
「それはそっちも同じ!」
一際濃厚な淫欲を孕む竜巻が生まれると同時、小春も漆黒の鉄靴でもって地を蹴った。反射的に現れたレッグギロチンが、その刃に刻まれた金色の孔雀の羽根煌めかせながら無数の針金細工の猟犬を解き放つ。
狙う獲物は、無垢なように見えてその
実リリスの女王。
四方から襲いかかられ、翼も四肢も鋭利な牙で貪り喰らわれた娘は、羽ばたきを止め連絡橋の上へとやおら降り立った。それさえも、小春の手の内なのだと知らずに。
娘の足許でひとつ、光が点り弾けた。その違和に気づいて窄められた娘の視線と、罠にかかった敵を見据える小春の視線が一瞬、交差する。
「
呪詛の罠の効果は、あとのお楽しみ。――今はこっちだよ!!」
言い放ちながら繰り出した、凝縮された妖気の炎を纏った強烈な一打が娘を袈裟斬りにし、忽ち全身を紅蓮の如き炎で喰らい尽くしてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
シリン・カービン
世界の全てを、自分すらも贄にしてまで叶えたい願い。
それほどの強い思いなのに、叶えたい自分はもういない。
なんだか腹が立つ。
望みを叶えるために行動するのなら、
結果を見届けて歓喜するなり悲嘆に暮れるなりするのがケジメ。
他の生命に犠牲を強いるのなら尚のこと。
いくら相手が骸の海であったとしても、自身を蔑ろにするのは全くいただけない。
「何にしても貴女は止めなければならないのですが」
雑念をシャットアウト。精霊達に呼びかけながら戦場へ突入。
闇の精霊に願い、辺りを闇で覆う。
風の精霊に願い、周囲の音を遮断する。
生命の精霊に願い、生命の在処を感じ取る。
沈黙と闇の中、揺籠の君を示す強き生命の気配をマーカーに狙撃体勢をとる。
こちらは闇の中なので淫靡な眼差しに捉われることはない。
一般人の生命も感知しているが、
獲物に集中しているので
行為を意識しない状態。
闇を払われてもUCで姿を消して淫靡な眼差しを無効化。
揺籠の君に意識を極限まで集中し、必殺の一射を見舞う。
「あなたは、私の獲物」
憤懣。
それが、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)が聖杯剣揺籠の君へと抱いた感情だった。
人々の命を、世界を、己すら失ってでも叶えたい欲望。それほどまでのものを抱き贄にしたというのに、望んだ本人はもうどこにも居やしない。
(……なんだか腹が立つ)
満たされて歓喜に震えるでもいい。望まぬ結果となり悲嘆に暮れるでもいい。欲し求め手を伸ばしたのなら、その結果を見届けるのが筋ではないか。けじめではないか。
贄が己だけなら、まだそれでもいいだろう。けれど、他の命までも犠牲にするのなら話は別だ。貌も知らぬ誰かの欲望のため、知らずと供物にされようとしている者たちを思えば尚のこと。
(そう言っても……あなたには伝わらないのでしょうけれど)
シリンは、連絡橋の先、白く輝く淫欲の領域に佇むリリスの姫を映した眸を僅かに伏せた。言葉は通じれど、互いの言い分は平行線を辿るだろう。それはこの現状を見れば考えずとも明らかだった。
それでも、己を蔑ろにする行為は到底得心できるものではない。――例え相手が、骸の海であったとしても。
顔を上げ、再び聖杯剣揺籠の君を緑の双眸で捉えながら、シリンは浮かぶ想いをすべて振り払った。娘の住まう清涼な森の空気とは真逆の淫乱な臭気が、此処が戦場であり、己が狩人であることを思い知らせる。
「何にしても、貴女は止めなければならないのですが」
『こんどはえるふですか……そのじゅんすいなちから、たべたらきっと、ゆりゆりはまたさいきょうにちかづけます』
言い終えると同時、リリスの姫は淫靡な眼差しを向けた。だが、動いたのは彼女だけではない。シリンもまた、精霊へと意識を向けた。如何に穢れた敵陣だろうと、彼らは必ず"在る"ことを知っている。だからこそ、裡より言葉を紡ぐ。語りかける。
闇よ、風よ、生命よ。光を喰らい影すら生まぬ夜と成し、音を喰らい深閑と成せ。そしてあらゆる命脈を――我に灯せ。
返る言葉はなけれど、一瞬にして黒へと切り替わり音の絶えた空間こそが応えであった。その闇の直中、一際強く燦めく灯火から可憐な少女の声が響く。
『あなた……せいれいをあやつるものですね?』
「違うわ。共に生きる者よ」
自らの術を封じられた姫の声音は、微かながら確かな驚嘆を孕んでいた。だが、どう思われようとシリンにとってはなんら意味を持ちはしない。
感情の籠もらぬ声で否定だけを返すと、構えていた愛銃の龍眼鏡――望遠照準器越しに、姫の命の灯を見据えた。獣のように行為に至っている人々のそれも見えてはいるが、戦場で狙うは
獲物のみ。
一拍の間もなく放たれた弾丸が、リリスの姫の身体を確実に穿った。一瞬、生命の炎が大きく揺らぎ、呻き声が洩れる。
『……このくらやみは、ちょっとめんどうですね』
己を狙う気配から逃れんと聖杯剣揺籠の君も翼をはためかせたが、闇に尚灯る命は隠しようもない。闇を払われた場合の策も講じていたが、どうやら姫はその術を持たぬらしい。
シリンは手早くボルトをスライドさせ排莢し装填を終えると、再び照準器に姫を捉えた。
最早、景色も音も、感情さえも、娘の視線と心を奪うことはできはしない。
此処は戦場で、そして娘はオブリビオンを狩る者。シリンは唯、リリスの姫だけを狙う。
「あなたは、私の獲物」
グリップに力を籠め、躊躇いなく引き鉄を引き――直後に轟いた銃声とともに、女の絹を裂くような声が木霊する。
大成功
🔵🔵🔵
北条・優希斗
アド○
真の姿:イェカ
少し羨ましい…か
ヒトによってはそうだろうな
己すら見失っても尚、探求し続ける志に憧憬を抱くヒトはいるだろう
だが、貴女が求めた
全能計算域は
『全知故に無知である』事を体現した様な能力だと思うがね
…?
俺は…何を?
対策
“いんよくのかぜ”は無視
出来れば斬撃波+範囲攻撃+属性攻撃:焔で風を焼き尽くす位か
先制の淫靡な眼差しは…
見切り+軽業+残像+情報収集+第六感+地形の利用
で視線に入らない様にする
当たってしまうのならば覚悟で耐え抜き…
UC+早業+騙し討ち+属性攻撃:蒼
…全てを忘れてしまったならば
何を望んでいたのかを思い出させてやるよ
風の効果的にも
これはそれを無効に出来るしね
後は短期決戦狙いで
ダッシュ+先制攻撃で肉薄
居合で双刀抜刀
2回攻撃+早業+鎧無視攻撃+追撃+連続コンボ+可能ならUC:蒼舞・剣聖
で畳みかける
…何もかもを忘れた存在
それは只の残滓だ
貴女は力を求めるあまりに『骸の海取りが骸の海になり』
自身を貶めてしまったと
…そう、俺には思えるよ
猟兵等からの幾重もの攻撃が、その柔く甘やかな肌を穿ち切り裂けども、聖杯剣揺籠の君は未だその
容に妖艶な笑みを湛えていた。
『たくさんりょうへいがあつまれば、それだけたのしめるというもの……もっともっと、ゆりゆりをかんじさせてください』
それが生死を賭けた闘いによる昂ぶりだと悟ると同時、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)の脳裏に声が過ぎる。
――僕は彼女が、少し羨ましい。
(ヒトによってはそうだろうな。己すら見失っても尚、探求し続ける志に憧憬を抱くヒトはいるだろう。――だが)
「貴女が求めた
全能計算域は、"全知故に無知である"ことを体現したような能力だと思うがね」
確かにそれは己の声だったが、発した直後に優希斗は口を噤む。
今、自分は何を言った? 音にした言葉を脳裏で繰り返すも、言わんとしていることは分かるが、何故そう思い至ったかが分からない。嘗ての旅路で失った記憶が紡がせたのか。言葉にせよと、己を掻き立てたのか。
しかし、それも瞬きが如く一瞬のこと。
男は
頭を振り思考を切り替えると、眼前に広がる白く輝く淫欲の領域を一瞥しながらやおら抜刀した。途端、刃の切っ先が描いた軌跡をなぞるように生まれた斬撃波が、炎を纏って白を喰らってゆく。
『ぜんちゆえにむち……おもしろいことをいいますね。ほんしつをみおとしている、わすれている……そういったところでしょうか』
優希斗へと語りかけるようでいて、けれど独り言ちのように零すと、リリスの姫は僅かに伏せていた瞼を上げ、柔らかに、そして淫靡に微笑んだ。
だが、双眸を向けた先に男の姿はなかった。直ぐさま視線を巡らせ再び捉えるも、既に遅い。両の手に愛刀を携え、周囲で目合う人々を避けんと連絡橋の欄干を伝い、残像を纏いながら一足飛びに駆け抜けて来た優希斗が、今まさに眼前に迫り来る。
「好きなように受け取ればいい。どうせ、忘れてしまったのだろう?」
貴女を"貴女"たらしめていた、そのすべてを。
ならばもう、その唇が紡ぐ言葉は、"貴女"のものではないのだから。
「……全てを忘れてしまったならば、何を望んでいたのかを思い出させてやるよ」
そう言い切った優希斗の双眸が、一層放つ光を増した。力強く地を踏むと、一瞬にして聖杯剣揺籠の君と肉薄する。
「風の効果的にも、
これはそれを無効に出来るしね」
『それはどういう――』
返しながら、娘は距離を取らんと後方へ跳んだ。だが、男が更に踏み込むほうが一拍早かった。
蒼い閃光が、眼前で流麗なふたつの弧を描く。娘が認識できたのは、それだけだった。気づけば聖杯による武装もろとも四肢の骨肉が断たれ、幾つもの傷口から溢れ出した血が、白い愛液のうえで無数の花を咲かせている。
しかしそれよりも、裡を這う痛みよりも、今もなお男が放つものに瞠目せずにはいられなかった。覚えている。識っている。それは――、
『……むくろの、うみ』
何故、この男が? どうやって。
けれど、その力でもって己の眼差しも封じられていることは確かだった。優希斗と同じように、リリスの姫もまた裡への問いかけをやめる。男は答えぬだろう。そして、"わたし"ももう、答えを持たない。
陽炎のように身体を揺らめかせながら、娘は一等深く切り裂かれた胸をその細指で押さえた。死ぬかも知れない。その実感に、益々身体が疼いているのだろう。蹌踉めきながらも恍惚とした笑みを浮かべる姿に、優希斗は僅かに眉間を寄せる。
何もかもを忘れた存在。それは最早、唯の残滓に過ぎない。
「貴女は、力を求めるあまりに"骸の海取りが骸の海になり"、自身を貶めてしまったと……そう、俺には思えるよ」
男の零した声に、応えられる女はもうどこにもいない。
大成功
🔵🔵🔵
和井・時親
アドリブ負傷歓迎
嬌声は蟲の羽音で掻き消そう
視界は目を閉じ塞ぎ、呪う
淫蕩な光景が見えてしまう目を呪う
解く経典から漏れる呪詛で俺を呪う
裡にある呪詛を浴びて飲まれ、呪う
痛みは覚悟出来ている
終わらせに来たんだから
淫欲のままに死ぬ獣に成り果てたくはないからね
めいっぱい抵抗させてもらう
ごめんね、今キミを見ることは出来ないけれど
それでもこれだけ
俺にも命にかえても惜しくない欲望はあるよ
キミのように、しょうじきには到底なれないけれどね
俺の姿を完全に見えなくすることなんて出来ないから
キミには操られてしまうんだろう
激痛には耐えられるよう踏みとどまるし
易々と操られてやる気もない
俺の思考を操るわけではないんだろう?
だったら蟲は俺の意志のままにキミを喰らい尽くすよ
経典を解いたからね
へどろは垂れ続けている
呪詛に爛れた無数の白燐蟲を嗾ける
喰らい尽くしておいで
揺籠の君…
キミの裡にある昏い感情はあるかな
今に全部を蟲が喰らう
キミとおしゃべりを楽しむ気はない
かつての戦いのことを持ち出すこともしない
あの時は俺、子供だったから…
爆発とともに、声を洩らさずにはいられないほどの激痛が和井・時親(紫の呪言士・f36319)を襲った。
火であぶられたような苛烈さを増す腹に手を当てれば、熱を帯びたどろりとしたものが掌にまとわりつく。それが自身の血であることは、色が見えずとも分かる。身を割くような痛みが、なによりもはっきりと物語っている。
眸は己で呪い、既に何も見えはしない。
快楽に溺れながら死ぬ獣に成り果てる気は更々なかった。ならば徹底的に抗うまでと、まず喜悦に塗れた声を呼び招いた白燐蟲たちの羽音で上書いた時親は、次いで音もなく巻緒を解き経典を広げた。忽ち湧き溢れ出た夥しいほどの呪詛を、躊躇うことなく己へと向ける。淫猥な光景を映してしまう双眸は、呪い封じる。それが呪言士たる時親のやり方であり、森羅万象を汚染する呪われた言の葉の使い方であった。
そうして裡に溜め続けていた呪詛を浴び、自ら呪詛に飲まれた時親にとって、どれほどの痛みも恐怖には成り得なかった。すべてを終わらせに来た時点で、覚悟はとうにできている。
『がんばってあらがうすがたもかんじちゃいますけど……そろそろらくにさせてあげます』
そう言って聖杯剣揺籠の君が口端を上げると同時、時親の右手が己の意に反して腹の傷を抉った。まるで臓物を取り出すかのように患部を弄り、更なる激痛が全身を襲う。忽ち漏れ出すように消耗していく気力と体力のなか、それでも時親は揺らいだ身体に力を籠め、崩れ落ちかけたところを踏み留まる。
己の姿を完全に消す術を持たぬからこそ、寧ろ身構えができた。未だ腸へと指を伸ばさんとする右手の主導権を強靱な意志で取り戻すと、手の先からぼたぼたと滴り落ちる血を振り払った。気づけば前屈みになりつつあった上半身を起こし、隠しようもないほどの強い気配へと顔を向ける。
『ふふ、どんなにきずついてもたちあがってくるそのすがた……なんででしょう? どこかでみたおぼえがあるようなきがします』
「キミとおしゃべりを楽しむ気はない」
興奮しているからか、どこか饒舌なリリスの姫に対し、時親は感情の籠もらぬ声で一蹴した。無論、嘗ての闘いのことも持ち出す気はない。何かを語るには、あのときの自分はまだ幼すぎた。
『そのきがい、いつまでもつでしょうか? それよりも、えっちなことにみをまかせたほうがたのしいですよ?』
「そう時間は要らないよ。だって――俺の思考を操るわけではないんだろう?」
瞬間、四散していた白燐蟲たちが群れを成して時親の周囲へと集まった。左手の裡で開かれたままの経典からは、へどろのような呪詛が止め処なく垂れ続け、無防備な蟲たちを汚染し爛れさせてゆく。
「揺籠の君……キミの裡に昏い感情はあるかな」
『なにを
……!?』
――さぁ、喰らい尽くしておいで。
紡ぐ言の葉は囁き程度。けれど、無数の白燐蟲は一気に飛翔すると、燦めく鱗粉を零しながら瞬く間にリリスの姫の全身を喰らった。白い肌を食い千切り、傷口から流れ込んだ呪詛が女の身体を裡から蝕み始める。その壮絶な痛みもまた快楽となるのか、羽音に紛れて微かに嬌声にも似た悲鳴が洩れ聞こえた。
食事の時間は、もう暫く続くだろう。ひとつ息を零すと、時親は再び敵を見据えて口を開く。
「ごめんね。今キミを見ることは出来ないけれど……それでもこれだけ。――俺にも、命にかえても惜しくない欲望はあるよ」
キミのように、しょうじきには到底なれないけれどね。そう添えた声さえも、蟲たちの貪る音に掻き消されていった。
大成功
🔵🔵🔵
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
…それだけ強い願いがあったからこそ、今そうしているのでしょうけれど。
願い故に命を喰らうその行い、赦すことはできません。
かつての聖杯戦争で死んだ双子の妹の仇であり。
私達とは道を違えたものの、神秘根絶という手段を以て人類の未来を守ろうとした、かつて聖杯剣を携えていた彼の意志を穢すような貴女の行い、赦せるものではありません……!
その心情を以て、意識を揺籠の君に集中。周囲の風景を認識から外します。
接近戦を仕掛ける為、先制UCの引き寄せには逆らわず接近を。竜巻にだけ飲まれないよう、【蟲使い】で操る蟲達に引っ張って貰ったり、ブレンネン・ナーゲルを地面に突き立てる等して抵抗。
聖杯剣は斬撃軌道と範囲を【瞬間思考力】にて判断し回避方向を決め、槍は武器での【受け流し】も選択肢に。
竜巻が止み次第、黒燐奏甲での強化と、負傷部位あらばそこを補い。
ブレンネン・ナーゲルを【怪力】で振るい接近戦を挑みます。
…私にも、願いはありますけれども。
そこまで強く想う程では無し。
なのである意味、彼女が羨ましい…のかも知れません。
銀の雨の降る世界 2010年3月28日。
それは、忘れもしない聖杯戦争の決戦の日。そして、ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)の双子の妹が戦死した日でもあった。
コマンダーが出した作戦を振り払い、襤褸となった身を引き摺りながら、ふたりで囚われた仲間の救出に向かった。共に命を落とす覚悟はあった。けれど、片割れだけを残してゆく覚悟はあっただろうか。裡で問いかけても、浮かぶのは唯、硝子越しに悪戯っぽく笑う妹の姿ばかりだ。
娘は一度強く瞼を閉じてから、連絡橋の先にいる聖杯剣揺籠の君を見据える。
想いの形は違えど、彼女もまた自ら選んだ。己のすべてを
擲ってまで叶えたい欲望のために。
「……それだけ強い願いがあったからこそ、今そうしているのでしょうけれど」
白く輝く淫欲の領域の直中に在るリリスの姫は、幾重にも猟兵たちの攻撃を受け、最早満身創痍と言えた。だのに、まだ怯む様子はない。劣勢を感じた者の放つ怯懦なけわいを感じない。その凜然とすら思える佇まいが、ニーニアルーフの裡で燻る憤りを一層駆り立てる。
「願い故に命を喰らうその行い、赦すことはできません」
『たべられることで、そのいのちはゆりゆりのためになるんですよ? むしろとってもうれしいことでしょう?』
大疵を感じさせぬ余裕でさも当たり前のことのように言う姫へと、ニーニアルーフは静かに湧き上がる憤懣のままに睨めつけた。これでいい。この強い感情が、視界中に広がる白く輝く淫欲の領域さえも掻き消してくれる。
娘は手甲型の赤手――ブレンネン・ナーゲルと名づけた紅炎手で拳を作り、姫へと宣する。
「聖杯戦争で死んだ双子の妹の仇……そして、私たちとは道を違えたものの、神秘根絶という手段を以て人類の未来を守ろうとした、かつて聖杯剣を携えていた彼の意志を穢すような貴女の行い――決して、赦せるものではありません……!」
その怒気と殺気を感じ取ったのだろう。娘の初動よりも僅かに早く、聖杯剣揺籠の君が神の左手を掲げた。途端生まれた竜巻が、淫欲を孕みながらあらゆるものを吸引し始める。
無論、娘もまた姫の許へと引き寄せられるが、その唇は満足げな弧を描いていた。己の獲物は、接敵してこそその威力を発揮する。ならば抗う方が愚かだ。
ニーニアルーフは、自らも駆けることで聖杯剣揺籠の君との距離を一気に詰めた。狙いを察した姫が、ならばと淫欲の渦を嗾けるが、黒燐蟲たちを繰り身体を上空へと引かせそれを躱す。
『のがしましたか。いえ、まだ……!』
その一瞬、竜巻が止んだ。
娘はすかさず蟲たちに自らを放り出させると、漆黒の鱗粉を零しながら舞う彼らを再び呼び、赤手に纏った。見る間に黒が浸食したその掌で強く拳を作り、遠心力と重力に身を任せながら高所より一気に下降する。
己にもまた、願いはある。
けれど、なにもかもを擲つほどの強い想いでもない。
(なのである意味、彼女が羨ましい……のかも知れません)
――それでも。
あのとき命を終えてしまった片割れのため。聖杯剣の、本来の誇りある主のため。眼下の姫の、より負傷した半身めがけて、全体重を乗せその怪力をもって紅炎手を振り下ろす。
鋭利な鉤爪から伝わる、肉を抉る生々しい感触。
吹き出した赫を躱さぬまま、躊躇うことなく、娘は白翼ごとその背を袈裟懸けに切り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
神塚・深雪
産めよ増えよ地に満ちよ。
なんて言った神様も世にはいますけど、野別幕無とは別ですし、他人のは興味がないといいますか。
狂気には耐性ありますけど、結界を張って。使えるものは使って行きましょう。
本当は浄化もして進みたいけれど、流石に限界がありますし、何より一時的なものにしかならなさそうなのが口惜しいです。揺籠の君へ向かうことを優先に進む事に。
取られた先手も、使えるものを全てつかって、いなして躱して。
(揺籠の君がいざなってきた場合)
は? そういうの、(伴侶で)まにあってますから!
だいたい、大事なものを亡くしてる貴女も大概です。本末転倒です。何を何故成したかったのかを忘れてまでして手に入れて、そこに何が残りますか?
私は私として在り続けて、今を得ています。
何もかもなくしてしまったひとに、屈する道理がありません!
(と、真の姿を解き放ってUCで攻撃)
本当に欲張りならね、自分を捧げて求めるんじゃなくって、求める中に自分も引っ括めるんです。
真の姿:白い翼に髪と同じ毛色の狼耳。其れは彼方に眠る、正しく『真の』姿
欲望のため、己のすべてを捧げた女の命すらも尽きかけようとしていることは、誰の目から見ても明らかだった。
それでもまだ、聖杯剣揺篭の君が健在であることには変わりない。事実、彼女の齎す淫欲に塗れた風は戦場を満たし、自我を失った人々を快楽へと煽り続けている。
神塚・深雪(光紡ぐ麟姫りんき・f35268)は、呼気を乱しながら肩で息をするリリスの姫を注視しながら、手早く術を紡ぎ結界を張った。
元より狂気に耐性はあるが、
努々油断はならぬ。
死と隣り合わせの青春を過ごしてきた身だからこそ、飲まれてから悔いては遅いことを、深雪は重々承知していた。手許にあるもの、手段、そして僅かな可能性すらも、勝利へと至る道筋と成り得るのだと、その身をもって知っていた。
どうせ先手を取られるのならばと、娘は愛刀を握りしめたまま敢えて神の左手の引力に身を委ねた。その水晶を思わせるほど澄んだ刃でリリスの槍を毒もろとも退けると、向かい来る聖杯剣からの衝撃波を上段から振り下ろした一閃で切り裂き躱す。
ひとつひとつは軽くとも、次々と襲う一手が間断なく続く。その僅かな一瞬に見えた眼下には、アスファルトの道まで滑りを帯びた白で穢され、唯々獣のように行為を繰り返す人々の姿があった。叶うるなら今すぐにでも彼らを解放したい。だが、応戦に手が割かれた今は満足な浄化は施せぬだろうし、なによりその場しのぎにしかならないであろうことは明白だった。
深雪は口惜しさに唇を噛むと、幾度目かの槍の切っ先をいなしながら刃で叩き捨てた。
『そんなむだなていこうはやめて、あなたも、ここちよいかいらくにひたりましょう?』
そう甘美な声音を響かせる女の肌は、爛れ、抉られ、赤黒い血で穢されていた。艶やかな髪は煤に塗れ見る影もなく、美しい曲線を描いていた四肢は歪な方向へと捻じ曲がっていた。
それでもまだ、聖杯剣揺籠の君は
婀娜やかであった。血も、塵芥も、リリスの姫にひとすじの影を落とすことはかなわない。
「産めよ増えよ地に満ちよ――なんて言った神様も世にはいますけど、野別幕無とは別ですし」
『むずかしいことなんて、かんがえなくていいんですよ? えっちなことはきもちいいこと。たくさんのひととたくさんえっちになって、しあわせなきもちに――』
「――他人は興味がありません」
冷徹さを孕んだ声音で一蹴すると、深雪は身を屈めて一気に姫と肉薄した。流れるように突き出した剣尖を、リリスの姫は血溜まりを作りながらも後方へと跳び躱して嬌笑する。
『そう、ですか……わかりました。なら、あなたにほんとうのかいらくのすばらしさを、おしえてあげます』
「は?」
苛立ちを顕に放った一太刀が、姫の翼を貫きながら切り裂いた。返した刃で、ぐらりと蹌踉めいた身体を横薙ぎにする。
「そういうの、まにあってますから!」
脳裏に過ぎった伴侶の姿。光を紡ぐ
麟姫たる己の対なる者は、同じく
黄金を纏う鳳皇ただひとり。どれ程のことがあろうと、それは決して揺らがぬ事実であり、想い。
「だいたい、大事なものを亡くしてる貴女も大概です。本末転倒です。何を何故成したかったのかを忘れてまでして手に入れて、そこに何が残りますか?」
『それ、は……』
リリスの姫の貌に僅かな惑いが浮かび、それが一瞬の遅れに繋がった。それを見過ごす深雪ではない。
「私は私として在り続けて、今を得ています。何もかもなくしてしまったひとに、屈する道理がありません!」
言い切ると同時、娘の背に純白の翼が生まれた。陽に輝く羽根を舞い散らせながら、長く靡く銀糸と同じいろの狼耳を
欹てる。本来の姿へと転じた娘は、女の僅かな動き、瞬きさえも瞬時に捉え、舞うような流麗な動きで忽ち懐へと飛び込んだ。
既に、勝敗は決していた。
手ずから自我を捨ててしまった女に、それを持つ者へ抗う術など最早ない。
「本当に欲張りならね、自分を捧げて求めるんじゃなくって、求める中に自分も引っ括めるんです」
切り裂くような悲鳴が響き渡るなか、深雪の鋭い眼差しの先には、敵の胸を深々と穿つ銀の羽根が煌めいていた。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
全てを捨てても欲しいもの、か…
真の姿解放、解いた髪は腰まで届くほどに伸び、瞳は青く純白の着物を纏う。
【天候操作】【結界術】で周囲の一般人を巻き込まない程度のごく狭い範囲で自身を囲むように吹雪の竜巻を起こしホワイトアウトで視界を遮断。
風の音で聴覚も遮られるでしょうが加えて耳栓もしておきます。
こちらを狙う揺籠の君の殺気を【気配感知】で察知、視聴覚を封じられても居場所の把握に努めます。
先制攻撃は纏った風のオーラで【オーラ防御】しつつ、引き寄せには抵抗しません。
間合いに引き込んでくれるならしめたもの、近づけば嫌でも揺籠の君しか見る余裕がないでしょうからあえて吹雪の結界を解き指定UC発動。
引き込んでくれて助かりました、私も貴女に触れたいと思ってましたから。この全てを凍らせる指先で。
…貴女はかつて、自身と戦い傷つきながら何度も立ち上がった能力者を好きになったと聞きました。でも今の貴女は、その人のことも覚えていないんですね…
私は、私が好きな人のことは忘れたくありません。たとえ願いを叶えるためでも。
――
起動。
そう幾度も紡いできた言葉を静かに音にすると、忽ち八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は白に包まれた。腰まで伸びた黒髪を、純白の着物の袖を靡かせながら、いつもの穏やかな茶から凜とした
気配を帯びた青へと変えた双眸に、聖杯剣揺籠の君を映す。
『あなたも、のうりょくしゃ……だったひとですね?』
「ええ」
問いかけにはそれだけを返すと、詩織はそっと眸を閉じた。あたりに満ちる大気と冷気へ一気に魔力を放つと、氷雪を繰り生み出した吹雪を己の身に纏う。
それは、淫欲の風に煽られた人々の姿と嬌声を遮断するためであったが、リリスの姫に対する詩織の感情のようにも見えた。
(全てを捨てても欲しいもの、か……)
それが一体なんだったのか、いま眼前にいる姫へと尋ねても、求める答えは返ってこないのだろう。それを知る
揺籠の君は、もうこの世にはいない。
だからこそ、詩織は念を入れて、最後に耳栓ですべての音を封じた。彼女に思うところはある。――けれど、彼女の言葉は求めていないのだと言うかのように。
その刹那、強い殺気に捉えられると同時、抗いようのないほどの強い力に身体が引き寄せられ始めた。
自らの吹雪で視界を覆われていても、敵の手の内は把握済み。神の左手と淫欲の竜巻だと察すると、詩織は反射的にオーラを纏った。確かに欲情に塗れているはずだが何ら揺らぐことのない感情に一拍安堵しながら、表情は変えぬまま、寧ろ好都合と言わんばかりに自ら竜巻のなかへと向かってゆく。
『……っ! ゆりゆりのいんよくが、きかない
……!?』
この至近距離ならば、否が応でも互いの姿しか見られぬだろう。そう察した詩織が吹雪きの結界を解けば、一足飛びに肉薄したその視線の先には、動揺を顕にする聖杯剣揺籠の君の貌があった。何かを呟いたようだが、未だ耳を塞いでいる詩織には、一切の音は届かない。
それでいい。元より、今の彼女とは深い会話をする気はないのだから。
「引き込んでくれて助かりました」
『それは、どういう……』
「私も貴女に触れたいと思ってましたから。――この、すべてを凍らせる指先で」
すぐにでも後方へと跳び距離を取れれば、まだ姫にも勝機はあっただろう。だが、既に不随となった半身を抱えるリリスの姫は、その選択肢を持ち得なかった。
さようなら。
そう耳許で囁きながら、凍てつくほどの白い指先がまだ幼さの残る柔らかな頬に触れた途端、凄まじい冷気が女の身体を喰らった。皮膚の下を這うように伝うそれは、瞬く間に四肢の先から熱を奪い、急速に裡へと向かって伝播していく。
『あ、がっ
……!!』
凛冽さに身を震わせながら、苦痛の声を洩らながら、己の身体を支える力さえも奪われた聖杯剣揺籠の君は、突っ伏すように崩れ落ちた。霞む視界の中、それでも何かを求めるように弱々しく手を伸ばす。
『まだ……まだ、です……ゆり、ゆり、は……さいきょう、に……』
「今の貴女の願いは、本当にそれになってしまったんですね」
詩織は足許に伏せる姫へと視線を落としながら、感情の籠もらぬ声を洩らした。身体を横たえ、氷と化した部位から崩れ始めたリリスの姫の末路を静かに見守る。
「……貴女はかつて、自身と戦い傷つきながら何度も立ち上がった能力者を好きになったと聞きました。でも、今の貴女は、その人のことも覚えていないんですね……」
――ゆりゆりは、なかまのためになんどもおきあがってくるあなたのことがすきになりました。
――わたしはあなたのすてきなこころとからだをこれいじょうよごしたくないので、ころすのはやめにします。
確かに彼女はそう言ったのだと、報告書に綴られた文字を思い返す。
最期、仲間の仕掛けた罠によって加速した冷気が、一気に命の燈を喰らい尽くした。冬空に氷片を散らしながら消えてゆく姿に、詩織はひとつ息を零した。
「私は、私が好きな人のことは忘れたくありません。たとえ願いを叶えるためでも」
――ありがとう。ゆりゆりはもう、むねがいっぱいです。くいはたったのひとつだけ。あのひとにもういちどであって、さよならを……。
嘗ての闘いで最期にそう願った"彼女"はもう、何処にもいはしなかった。
大成功
🔵🔵🔵