エリカ・タイラー
UDC組織管理下のスイミングスクールでトレーニングをします。
季節を問わず温かく清潔な水があり、水着の服飾技術も高い世界。
有難く使わせて頂きましょう。
――パシ、と、エリカ・タイラー(騎士遣い・f25110)の脚が水面を叩いた。
とあるUDC支部が所有する、水中訓練用の温水プールにはエリカ一人。広々としたプールを独占していると、訓練のためではなく余暇を過ごすためにここへ来た気分になってしまう。
(……格好のせいもあるかもしれません)
思って、エリカは水中で揺らぐ自分の格好を見下ろした。
ダークブルーのオフショルダーにハイウエストのボトムを合わせた格好は、訓練ではなく
休暇のよう。水泳帽もゴーグルも着けていないから、ますます訓練気分ではなくなってしまう。
この水着はエリカが選んだわけではない。UDC支部ではあらゆるシチュエーションに対応した行動が求められるため、どのような状況にも合わせた衣装が一通り用意されている……そして、水着も例外ではない。
機能性の高い競泳水着やダイバースーツを着ることもあるが、行楽地の海辺やナイトプールなどへ潜入することだってある。そうした場ではある程度ファッション性の高い水着を着る必要があるから、UDC支部にも多様な水着が取り揃えられているのだ。
装飾性の高い水着は、普段エリカが着ているアンサーウェア『ドールマスター』よりも動きにくくすらある。
競泳水着と比べても機能性は格段に下だが、動きにくいからこそ訓練には丁度よいとも言えるだろう。
何本か泳いでから、エリカは軽く息をつく。
「少し、休憩にしましょう」
水温はほどよく、透明度の高さから清潔さが見て取れる……水の外に出るのももったいない気がして、エリカはプールの床を蹴って体を水面に浮かべた。
人工的な波を作ることも出来るようだが、今は水面は凪いでいる。
浮かべた体はゆらゆら揺れこそするものの水に流れることはなく、エリカは不思議とくつろいだ気分。
水のしぶきが時おり音を立てるほかは静謐な空間で、見上げる天井は採光性が高く眩しいくらいだ。
「――、」
指先は水面をもてあそんでいた。
ふと右腕を上げてみると、透明な水が滴る。華美な水着に対して右腕の傷痕を隠すラッシュガードだけは機能性が高いシンプルなもので、見ようによってはそこだけが浮いていた。
(今、何をしているんでしょうか)
ラッシュガード――その下の傷痕に意識を向けると、自然と妹のことに考えが向く。
ヴァンパイアの襲撃を受けた際、攫われた妹は今どこで何をしているのか……ダークセイヴァーで生きているのなら、こうしてプールでのんびりする時間などないのかもしれない。
悪い方にばかり考えが向きそうになって、エリカは水中に潜り込む。
(…………いえ、やめておきましょう)
今は、考えても仕方のないこと。
全身を水に沈めると、水中でウィッグの長髪がゆらゆら揺れた。海藻みたいなゆらぎを眺めていると、少しずつ、呼吸の泡が口から漏れていく。
「……」
頬を膨らませ、ぎゅっと閉じた唇から、それでも泡は小さくこぼれる。
漏れる泡を見上げながらしばし我慢するエリカ――どこまで我慢できるかと自分に根比べを挑む気持ちで水面を見上げていたが、耐えきれずに大きい泡が口から漏れると限界はすぐだった。
「――!」
水中で縮めていた体を大きく伸ばして、水上へ急浮上。
「ぷはっ……!」
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込めば、緊張していた体が弛緩していくのが分かる。
「……ふぅ、ほどほどにしないといけませんね」
潜水している間に、マイナスに傾きかけた思考はフラットに戻っていた。凪いだ気持ちを取り戻すエリカとは裏腹に、飛び上がるように動いたせいで水面は大きく波打っていた。
「泳ぎの練習も、もう少ししておきましょうか」
独り言を言って、エリカはプールの端へ移動する。
力強くプールの壁を蹴って、大きな水しぶきが舞う。
迷いを断ち切るように、エリカの体は前へ前へと進んで行った。
成功
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