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第二次聖杯戦争㉒〜揺籃、遍く生を抱き呑む

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #聖杯剣揺籠の君


●金沢大学最終決戦
「年明けと共に勃発した第二次聖杯戦争……不意打ち気味の開戦だったけれど、戦況は当初の想定を裏切り、極めて順調に推移しているよ。少しばかり、不気味なほどにね」
 慌ただしく出撃してゆく猟兵たちを横目で眺めながら、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はまず初めにそう説明の口火を切った。2023年となった瞬間に開始された銀雨超常世界『シルバーレイン』での戦争は、まだ半月近くを残している状況に関わらず既にフォーミュラたる『聖杯剣揺籠の君』の攻略が始まっている。
 人形少女の言葉通り、戦況事態は非常に良い。幾つかの有力な敵戦力は未だ健在なれど、それを踏まえた上でも今月中の戦争終結は間違いないだろう。無論、それは歓迎すべき事だ。しかし一方、その順調さが却って彼女の警戒感を掻き立ていた。
「ともあれ、倒すべき相手である事に変わりはない。不測の事態が起こっても良いように備えつつ、今は手の届く敵に専念しようか。『聖杯剣揺籠の君』もまた、フォーミュラに相応しい戦闘力を誇っている。他に気を向けたまま挑めるほど容易くはないよ」

 現在、フォーミュラは水晶宮殿の如く様変わりした金沢大学に掛かる陸橋『アカンサスインターフェイス』に陣取っている。『聖杯剣揺籠の君』はこの場所から『いんよくのかぜ』と呼ばれる催淫性の波長を放出しているらしい。これを浴びた生物は本能のままに蠢くだけの生物となり、やがて死に至ればその命はこの強大なリリスへと取り込まれて、その力の一部となってしまうのだ。
「性質の悪い事に、この『いんよくのかぜ』は徐々に効果範囲を拡大させている。今は金沢大学の周辺だけに留まっているけれど、今月末までに討伐出来なければ石川県全体へ、次は日本全土を、最後は地球全てを覆い尽くす。そうなれば、星一つの命を統一した『聖杯剣揺籠の君』は正に絶対者となるだろうね」
 故にこそ、そうなる前にこのフォーミュラを討伐しなければならない。だが、相手はかつて銀誓館学園の能力者が交戦した時よりも、遥かに戦闘力が強化されている。『シルバーレイン』において戦局を左右する力を秘めた物品群『メガリス』、その中でも世界結界修復の要であった『聖杯』を再び手中へ置いた事で『聖杯武器』の形成に成功したのだ。
「あらゆる物質を引き寄せる黄金の篭手『神の左手』、突き刺した対象に宇宙の終焉まで癒える事のない毒を注ぐ『リリスの槍』、そして射程距離無限かつ命中した対象のユーベルコードを全て奪う『聖杯剣』の3つ……どれ一つとっても甚大な脅威だ。ただ、それらの使用に全力を注ぐ関係で、戦闘中は『いんよくのかぜ』が発動しない事だけが救いかな」
 必ず先手を取られる上、厄介な追加効果までついている。それは裏を返せば、猟兵たちを『そうまでしなければならない相手』とフォーミュラが認識している事も意味していた。である以上、倒せぬ道理も無い。幸か不幸か、世界を滅ぼす敵を相手取った回数など、両の手では足りないほどなのだから。

「かつて銀誓館学園の能力者たちが為し得た事を、猟兵が出来ない筈はないさ。さぁ、かつての先達にボクたちの戦い振りを示そうか」
 そうして話を締めくくると、ユエインは仲間たちを送り出すのであった。

●それは何よりも穢れた純粋
 ――果たして、その場所を金沢大学であると認識できる者が居るのだろうか。
 広大な敷地を持つその最高学府はあらゆる建造物が水晶へと変じ、まるで御伽噺の宮殿が如き様相を見せている。その絢爛豪華さはいっそ荘厳さすらも感じさせるだろう。だが一方、不自然なほどの静寂が周囲一帯を覆い尽くしていた。
 しかし、それも当然だ。自然の中に生きる虫も、バードサンクチュアリに憩う野鳥も、大学に通っていた筈の学徒さえも。全てがただ沈黙の中へと沈んでいるのだから。唯一物音を発するのは、裸身を惜しげもなく晒す魔性の女ただ一人。
「わたし……ゆりゆりには、ほんとうにほしいものがあります。それは、『すべてのせかいのすべてのいのち』。えっちになったものはすべてしに、いのちはすべてゆりゆりにそそがれる」
 鈴を転がす様な声音が紡ぐは悍ましき願い。しかし、かつて快楽のみを求め続けた在り様とは少しばかりその趣を異にしているらしかった。
「すべてをうばいつづければ、ゆりゆりはどこまでもつよくなれる。いんよくのかぜのこうかはんいも、どこまでもひろがってゆく。せかいのそとにでれるなら、もっと。もっと。そのはてに、きっとむくろのうみもこなごなにできるはず……!」
 口遊むは己が一度堕ちた先である『骸の海』の破壊。過去の集積物たるその場所で何を見、何を体験し、どのような感情を抱くに至ったのか。それはこのリリスしか、否、彼女自身すらも理解していないのだろう。
「……あれ? なぜ、そんなにむくろのうみをうらんでいたのでしょうか?」
 こてりと首を傾げるも、答えなぞ出てくるものでは無い。彼女は持っていた物を全て、聖杯へとくべてしまった。とは言え、理性よりも本能に準ずる淫魔である。かつてのゴースト、そして今はオブリビオンとして蘇った女は蠱惑的な微笑みを浮かべゆく。
「……かんがえてもしかたないので、ゆりゆりはしんぷるに『さいきょう』をめざします。りょうへいたちもたいせつないのち。ゆりゆりはおなかがすいて、こうふんしてきました……!」
 それは正しく、全てを狂わせ呑み込む大淫婦と言うべき在り様なのであった。


月見月
 どうも皆様、月見月でございます。
 第二次聖杯戦争、正に破竹の勢いといった所ですね。すっかり出遅れてしまいました。という訳で遅ればせながら、対フォーミュラ戦となります。
 それでは以下補足です。

●最終勝利条件
 『聖杯剣揺籠の君』の撃破。

●プレイングボーナス
 聖杯武器の追加能力に対処する/揺籠の君の先制ユーベルコードに対処する。

●開始状況
 金沢大学に掛かる陸橋『アカンサスインターフェイス』が戦場となります。周囲の建造物は水晶に置き換えられており、荘厳な雰囲気を湛えていますが、戦闘を行う上での不利要素はありません。
 相手は必ず先制攻撃をしてくる上、聖杯武器に強力な追加効果を帯びています。これに対処しなければ、反撃の一撃を繰り出す事すら困難でしょう。

●プレイング受付につきまして
 16日(月)朝8:30~開始となります。他戦場の制圧との兼ね合いで、場合によっては再送をお願いする可能性を御了承頂けますと幸いです。

 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『聖杯剣揺籠の君』

POW   :    うずまくいんよく
【神の左手】による近接攻撃の軌跡上に【いんよくのたつまき】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
SPD   :    せいはいうぇぽんず
【あらゆる物質を引き寄せる「神の左手」】【癒える事なき毒を注ぐ「リリスの槍」】【対象のユーベルコード全てを奪う「聖杯剣」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ   :    みだらなひとみ
【揺籠の君の淫靡な眼差し】が命中した部位に【淫欲に満ちた思念】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
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エメラ・アーヴェスピア
…随分と強力な武装ね、相手の能力も…まぁ貰いたくないわね
でも、相性自体はそこまで悪くない筈よ…まぁ、先制攻撃をどう凌ぐか、だけれど
…頑張りましょう、相手はフォーミュラ、戦争の結末も近いわ

・浮遊盾を隙間なく何重に、【メカニック】でバリア装置も追加して防御態勢ひきこもる
・複数の盾を使う事で引き寄せ、無機物の自動盾で防ぐ事により槍や剣、眼差しからの思念に対処
・バリアはかぜ対策
・後はそのまま『この場は既に我が陣地』、自動照準にて【砲撃】、撃滅する
直接ダメージではなく、致命的な状態異常からの破壊には、この砲台は強いわよ

骸の海の破壊…何が起こるのかはあまり考えたくは無いわね

※アドリブ・絡み歓迎



●瞳ではなく砲火を交え
「ふん、ふん、ふぅん~♪」
 水晶宮殿が如き様相と化した金沢大学に掛かる陸橋、『アカンサスインターフェイス』。その欄干へと腰掛ける『聖杯剣揺籠の君』の周囲には、神々しくも禍々しき聖杯武器がまるで傅く様に浮遊していた。
 虫の音も、鳥の囀りさえも無く。女の奏でる鼻歌だけが響く戦場へと足を踏み入れたエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は、警戒感と共に思わず眉を顰める。
「なるほど。ええ、一目見ただけで分かるわ。どれも随分と強力な武装ね。それに相手の能力も……まぁ、貰いたくはないわね。どれ一つとっても、直撃を受ければその時点で『詰み』よ」
 事前説明は予め頭に叩き込んだつもりだった。しかし、百聞は一見に如かずとはよく言ったもの。こうして直接相対したリリスは正に異質と言う他ない。淫猥が女の形をした存在でありながら、清浄の極致たる聖杯を纏うと言う矛盾。その端々から感じられる力は、正しく『フォーミュラ』の名に相応しいと言えるだろう。
「でも、相性自体はそこまで悪くない筈よ。年齢は兎も角、身体は御覧の通りな上、大半は機械化しているしね……問題は先制攻撃をどう凌ぐか、だけれども。せいぜい頑張りましょうか。相手はフォーミュラ、戦争の結末も近いのだから」
 だが、同じような脅威にはこれまで何度も相対して来たのだ。相手が一筋縄でいかない事など承知の上。そうして思考を戦闘へと切り替えつつ、ジリと彼我の距離を測る半機人に対して、女は不意に鼻歌を止めると……。
「あら、かわいらしいりょうへいさんですね?」
 ちらり、と。何気ない様子で視線を向けて来た。たったそれだけの、攻撃ですらない単なる所作。しかし視線が合った瞬間、エメラは全身にどろりとした何かを流し込まれる様な不快感を覚える。
「ッッッ!?」
 本能がアラートを掻き鳴らした刹那、即座に動けたのはこれまでの経験が為せる業か。彼女はすぐさま浮遊型の蒸気盾を隙間なくかつ何重に展開し、視線を強引に遮断してゆく。辛うじて最悪は免れた。だが、思考はまるで熱病に浮かされた如く靄が掛かり始める。
(まさか、こんな形で不意を突かれるとは……! 半ば引き籠る形になってでも立て直しの時間が欲しいのだけれど、そう思うようにはいかないでしょうね)
 そんな願いも虚しく、バキリという不協和音が鳴り響く。ハッと見やれば、堅牢な筈の浮遊盾がぐにゃりと軋み、今まさに歪み崩れんとしていた。その隙間から垣間見えたのは、リリスの左手に煌めく黄金籠手。
(空白が生じれば、次に来るのは勿論……ッ!)
 幾つかの浮遊盾を随伴させながら、咄嗟に横へ飛び退くエメラ。間一髪、一瞬前まで彼女が居た空間を漆黒の槍が貫いてゆく。僅かにでも判断が遅ければ、呆気なく串刺しになっていただろう。
「かくれんぼはだめですよ? かわいいおかお、みせてくださいね」
「誰にでも言ってそうなお世辞ね。さぁ、次は聖杯剣かしら? だけど今度はこちらの番よ!」
 聖杯剣の一撃を受ければ、あらゆる超常の力は否定されてしまう。とは言え、それが万能かと問われれば断じて否。半機人は乱れる思考を掌握しながら、既に対抗策を導き出していた。
 ふわりと音もなく振るわれる巨大な結晶の剣。万が一の備えとして魔力障壁を形成しながら、エメラはくるりと身を翻す。術者の意に従い胸元の宝石型演算器が術式を構築し、周囲の空間を歪曲させ、そして。
「かつての戦いは陣取り合戦の様だったと聞くわ。なら……ここは既に、私の砲撃陣地よ」
 一瞬にして、戦場全体を埋め尽くさんばかりの小型砲台が展開される。その数、実に六百と七十門。これには思わず『聖杯剣揺籠の君』も驚きに目を見開く。単体の火力はそれなり程度だが、見ての通り数が数だ。如何に聖杯武器とは言え、これら全てを無力化するには一手や二手では到底足りるまい。
「直接ダメージではなく致命的な状態異常からの破壊には、この砲台は強いわよ。単なる無機物なら情欲なんて関係ないものね? さぁ、始めなさい!」
 果たして、号令に従い砲門は一斉に火を噴き始めた。相手も手近な砲台を破壊するものの、その程度では到底追いつかぬ。砲煙と爆発に呑まれ掻き消える敵の姿を一瞥しながら、半機人は小さく息を吐く。
「フォーミュラの最終目的が、まさか『骸の海』の破壊とは……もしそれが為された場合、何が起こるのかはあまり考えたくは無いわね」
 此度の戦争を引き起こした元凶と相対しているにも拘らず、謎は深まるばかりだ。過去という時間の集合体、骸の海。その正体に疑問を覚えつつも、エメラは気を抜く事無く念入りに砲撃を続けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
拙者もあらゆる相手をぶっ殺して最強になりたいんでござるよ!気が合うね!!

早速だが【流体金属】君防御頼む…
盾になって連続攻撃を防いでくだち!槍の毒も拙者に触れなきゃいいんだよ!剣も直接受けなければ流体金属君由来のユベコ以外は大丈夫だろ!
だが左手は防げねぇ!流体金属君が持っていかれあわや拙者万事休す!…と思うじゃん?

…Now Loading…

他の攻撃が当たる前に【ファストトラベル】!ロードを挟むので突如消えて見失うって訳だ
どこに飛ぶかって?いるだろ、引き寄せられた流体金属君が!
至近から拳銃乱射!…は牽制、本命は相手の足元に転がした手榴弾よ
再攻撃される前にテレポートですぞ!近くの味方んとこまでな!



●三十六計、逃げるが勝ち也
「けほっ、こほっ……つれないかたでしたね。かわいらしいおかおがみれなくて、ゆりゆりちょっぴりかなしいです」
 最後の砲台を打ち壊し、濛々と立ち込めた硝煙の中から『聖杯剣揺籠の君』が姿を見せてゆく。七百近い火砲からの砲撃を受けてもなお、フォーミュラは未だ余裕十分といった様子である。
 あらゆる生命を死の絶頂へと導き、果てた命を吸収せし魔性の女。今は金沢大学周辺のみと言えども、その身に孕んだ命の数は如何ほどか。全ての世界の全ての命を欲すると言うのは、決して伊達や酔狂では無いのだ。尋常であれば、その異質さに臆する者も居るだろう。が、しかし。
「奇遇ですな、拙者もあらゆる相手をぶっ殺して最強になりたいんでござるよ! 気が合うね!! でも負けた時の台パンだけは勘弁な! お店出禁にされちゃうから!!」
 このトンチキにそんな感情は無縁と言って良い。愉快な戯言を口走りながら、戦場へと姿を見せたのはエドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)である。今が世界存亡を賭けた戦いの最中だとは微塵も感じさせぬ言動に、リリスもまたくすりと笑みを浮かべゆく。
「かちたいひとがふたり。でも、しょうしゃはひとりだけ。なら、やるべきことはひとつですね?」
「HAHAHA、望む所ですな。今夜のドン勝は渡さんでござるよ。ただし、始めに言っておく……拙者は実は一回刺されただけで死ぬぞオオオオッ!」
 片や、悠然と妖艶に。片や、良くも悪くも変わる事なく。しかして、両者示し合わせたかの如く同時に戦端を開いた。まず先手を打ったのは『聖杯剣揺籠の君』。手招きする様に左手の黄金籠手を翻すや、物質誘引の力によって一気に彼我の距離を詰める。間髪入れずに繰り出されるは、聖杯剣と毒黒槍による連撃だ。どちらも掠っただけで致命となるだろう。
「さて、と。早速だが流体金属君、防御を頼む……盾になって連続攻撃を防いでくだち! 槍の毒も拙者に触れなきゃいいんだよ! 剣も直接受けなければ流体金属君由来のユベコ以外は大丈夫だろ! ……いやマジで大丈夫だよね???」
 一方、エドゥアルトは早々に他力本願の構えを見せている。傭兵の呼びかけに応えてずるりと姿を見せたのは、白銀に輝く流体金属型の生命体であった。オウガメタルはぶわりと膨れ上がるや、両者を隔てる壁と化す。
 金属の硬度と液体の柔軟性を兼ね備えたソレは、繰り出される攻撃を絡め取る様に受け止めてゆく。無機物故に毒は効かず、超常の法則に依らぬ生命体へ神秘根絶の力は通じぬ。それでも完全に無力化は出来ず、殺し切れなかった暴威が貫通して来るものの、黒髭は驚くべきしぶとさにより紙一重でそれらを凌いでゆく。
「わははは、拙者と流体金属君が力を合わせればフォーミュラなぞ恐るるに足らず! 正に強靭、無敵、最強ぉッ!」
「ちょっとじゃまですね。いらないふくはぬぎぬぎしましょうか」
「あっ、ちょっと、それはナシ!? 流石に左手だけは防げねぇ! 流体金属君が持っていかれあわや拙者万事休す! このまま薄い本ルートまっしぐらか!?」
 調子に乗れたのも束の間、不機嫌そうに眉を顰めた『聖杯剣揺籠の君』は黄金籠手を使ってオウガメタルを強引に剥ぎ取ってしまう。剣も槍も耐えられたが、物質である以上は誘引力から逃れられない。
 斯くして丸裸にされてしまい、慌てふためくエドゥアルト。対するリリスは微笑を浮かべたまま聖杯武器を振り抜く。幾ら歴戦の強者とは言え、無為無策でフォーミュラの前に身を晒せば死は不可避だ。そればかりは如何ともしがたい。そう……。
「――と思うじゃん?」
 それが本当に無為無策であれば、だが。
 刹那、世界が静止したかと思うやリリスの視界がブツンと音を立ててブラックアウトする。黒塗りの景色の中で動くものは、くるくると回る中央の渦巻き模様Now Loadingのみ。一瞬驚く女だったが、しかしてそれ以上の変化はない。
「うん……?」
 来ると思った攻撃が来ず、小首を傾げる。だが数秒の暗転が終わった後、元に戻った視界の中に黒髭の姿は無かった。何処へ消えたのかと視線を巡らせようとした直前、不意に懐から野太い声が響く。
「こいつはチートじゃなくてラグだから、判定的にはセーフってな?」
「っ!?」
 ハッとそちらを見やれば、目の前に拳銃を構えた髭面があった。その正体は瞬間移動の異能。オウガメタルを座標としたそれによって、一気に懐へと潜り込んだのだ。立て続けに撃ち込まれる銃弾を鬱陶し気に払い除けるリリス。
 だが、それは飽くまでも牽制。本命は足元に転がした芋煮手榴弾だ。抜き取った安全ピンを指先で弄びつつ、エドゥアルトはニヤリと笑う。
「そろそろ良い時間なので、拙者はこの辺で落ちるでござるよ。という訳でノシ!」
 無言で槍を突き出すも、世界は再び暗転。それが晴れた直後、居なくなった傭兵の代わりに手榴弾の炸裂が『聖杯剣揺籠の君』の視界を埋め尽くすのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユスミ・アルカネン
【ドヴェルグ】SPD、アドリブ◯
よくわからないけど、すごく嫌な感じ
悍ましいと言うか、触れてはいけないと言うか…

相手の攻撃は全て搦手、それならこれで対処出来る筈…
「我が標は北極星の下に」
極夜の鏡をカウンターで発動させて、連続攻撃を夜の帳が全て弾く
「ボクがいる限り、みんなにその手は届かせない」

ガンバンテインから、氷葬UCで精霊の剣を召喚して攻撃します
何本もの氷剣を駆使して追い詰めようと試みる
「えっ、クリストフさん、教えるって何を…?」
戦闘中に不意に傍にいるクリフトフさんから掛けられた言葉に思わず聞き返し

「それで…、クリストフさん、いんよくって何ですか?」


オッズ・チェイス
【ドヴェルグ】アドリブ◎
おっと、これはふざけてる場合じゃなさそうだ。

おっ、良いこと言うねヴェルナー!
それじゃあアタシもちょっとはいいとこ見せようか!

▼先制対処
一撃が軽いんなら各々にバンクロールをぶつけて一撃ごとに攻撃を相殺しようか。
『瞬間思考力』と『心眼』で攻撃が来る位置を予測&見切りながら『範囲攻撃』で対応。
バンクロールはいくらでも出せるから味方の援護攻撃もしていくよ。

▼神ノ賽:剣
『投擲』するダイスは『幸運』を上乗せしたアタシの神器、ロウ。
『神罰』と『急所突き』も使って、1本でも多くアンタの急所にブチこんでやるよ!!
剣の数が多かったら四肢にもブチこんで動きを制限したいところだね


伊川・アヤト
【ドヴェルグ:全五名】人格/アヤト
哀れですね、ただ私にできる事は貴方が疎う骸の海に還る事のない道である事だけです。ただ貴方が奪った者の分の対価を置いて頂かないと行けませんがね、ねえ皆さん。

戦闘前にplaceboを吸い痛みに対する耐性と思考力を高めた後、敵UCを利用して接近しUC発動。
引き抜いた殃禍と直毘の一本を手に取り、殃禍からは呪詛を込めた斬撃波を放ち怯んだ隙に直毘を突き刺し捕食させる事で適した姿へと封印を解く。

キミが単純で助かりましたよ、笑いたくなる程ね

以降肉体の限界が来るまで呪詛を纏い切断を繰り返す。
呪詛は耐性で耐え攻撃は受け流すか空中機動での回避を行い、痛みは身体に残る薬効で誤魔化す。


ヴェルナー・アイゼン
【ドヴェルグ】アドリブ◎
■SPD
実戦がいきなりボス戦か
俺自身の鍛錬を怠ったツケがここで来ちゃったかな?
もうちょっと経験積んでおきたかったけれども、それを言っても仕方無い。
未熟者の俺に一緒についてくれている旅団の仲間を信じて、俺のやれることを頑張る!
それだけだ!

先制対策:
[オーラ防御、第六感]で回避

UC
左手と剣は、先制対策同様の手法でかわす
毒は[毒耐性]でこらえる

【UC】で出てきたアイテムを[第六感・メカニック]使って、操作して攻撃([属性攻撃])!
「この程度のガジェット、使いこなせなくてどうする!?俺!」

攻撃・守備に際しては、[集団戦術]で、俺や仲間の孤立は絶対に避ける


クリストフ・フロイデンベルク
【ドヴェルグ】
貴様が骸の海で何を経験し憎悪を抱いたのか……最早答えは失われたようだ。
ならば他を問おう。
今、貴様は本当に満ち足りているのか?

行使するのも業腹だが止むを得ん。
昔取った杵柄、神聖魔法で淫欲を阻む光の障壁破魔+浄化+結界術+祈りを展開。
同時に【召喚術】で邪神の眷属共を呼び出し、聖杯武器から私達を【かばう】よう命じる。
ふ、七星将の『尾』を真似たが中々に便利だな。

UCで揺籠の君の生命力を奪い、他の連中に治癒力や抵抗力として分け与えるとしよう。
特に危うい若造(アヤト)には多めに、な。

しかしユスミに余計な事淫欲を吹き込まんでもらいたいものだ。
それは私が教え込む予定なのでな、くくく。



●運命の糸は定められた結末を誘いて
「このばあい、しょうはいはどうなるのでしょうか? ひきわけ、でも、だめーじてきにはゆりゆりがふり? しんぱんさんがいないと、あいまいのままです」
 爆ぜた硝煙の焔、衝撃と共にめり込む鉄片、焼け爛れた肌身。常人ならば絶命は不可避であろう炸裂を超至近距離で受けても尚、『聖杯剣揺籠の君』は暢気なものであった。苦痛すらも快楽と感じているのか、溜め込んだ命で裏打ちされた余裕か、はたまた何も考えていないのか。ともあれ、その姿は強い弱いではなく『異質』というに相応しいものだ。
「いやぁ……実戦がいきなりボス戦か。俺自身の鍛錬を怠ったツケがここで来ちゃったかな? 出来ればもうちょっと経験を積んでおきたかったけれども、今更それを言っても仕方無いか」
 ヴェルナー・アイゼン(あなたの街の便利屋さん・f38534)の言葉通り、彼にとってオブリビオンとの本格的な戦いはこれが初めてであった。しかし百聞は一見に如かず、そして百見は一触に及ばず。こうして相対した事で経験が無いなりに感じるものがあるのだろう。言葉尻に警戒感を滲ませながらも、そんな軽口を叩けるだけでも上等である。
 一方、共に転移して来たユスミ・アルカネン(Trollkvinna av Suomi・f19249)もまた、言い知れぬ不安と嫌悪に眉根を顰めてゆく。当然ながら、まだ齢十三の少女に男女の機微など分からぬ。況や、昏い情欲だけで塗り固められた女をどう形容すべきかなど知る由も無い。だが、猟兵としての本能は眼前の敵が決して相容れぬ存在であると理解しているのだろう。
「よくわからないけど、何だかすごく嫌な感じ。悍ましいと言うか、触れてはいけないと言うか……あんまり、上手く言えないけど」
「おっと、確かにこれはふざけてる場合じゃなさそうだ。随分と仰々しい武装に、厄介な能力の数々。はてさて、運否天賦が付け入る隙があると良いんだけれどね?」
 そんな仲間の様子に、オッズ・チェイス(賭博神・f33309)はスゥと油断なく目を細めゆく。彼我の実力差は大きいが、決して絶対ではない。死力を尽くし、連携を切らさなければ十二分に『賭け』となる。
 しかし、それとは別種の『何か』が勝敗の天秤に乗せられている事を彼女は感じ取っていた。『聖杯剣揺籠の君』が骸の海で垣間見、そして己が全てを賭しても良いと断じたもの。それをこの場で確かめる術はないが、であればとクリストフ・フロイデンベルク(堕ちた聖者・f16927)は別の問いを口にする。
「貴様が骸の海で何を経験し憎悪を抱いたのか……最早答えは失われたようだ。無を求める事ほど、空虚な行いもあるまい。ならば他を問おう。今、貴様は本当に満ち足りているのか?」
「? みちたりてなんか、いませんよ? だからこそ、ゆりゆりはいのちがほしいのです。すべてのせかいの、ね。だって、それは……なんででしたっけ?」
 聖者の問い掛けに淫魔はこてんと小首を傾げゆく。恐らく、この問答は尾を喰らう蛇の如く堂々巡りとなるだろう。足りぬ足りぬと欲せども、何故足りぬかは本人すらも知り得ないのだ。始まりが無くして、どうして終わりを知れようか。
 分かり切っていた事だが、改めてそれを突きつけられると複雑極まりない。思わず、伊川・アヤト(明星の旅人と白雨の探偵作家・f31095)は深々と溜息を吐きながら首を振る。
「やはり哀れですね、己が何をしたかったのすら忘却しているとは。私にできる事は、貴方が疎う骸の海に還る事のない道と為る事だけです。ただ、貴方が奪った者の分の対価を置いて頂かないと行けませんがね。ねえ、皆さん?」
 何か得られる物が無いかとも期待したが、最早これ以上の問答は無用だ。そう判断したアヤトは景気付けか電子タバコを口の端に加えつつ、そう仲間たちへと呼び掛ける。取り分け、初陣と言うだけあってヴェルナーの意気込みは人一倍だった。
「ああ。小難しい事は無しでいこう。未熟者の俺に一緒についてくれている旅団の仲間を信じて、やれることを精一杯頑張る! 今はそれだけだ!」
「おっ、良いこと言うねヴェルナー! こりゃあ、先達として負けてらんないね。それじゃあアタシもちょっとはいいとこ見せようか!」
 良い啖呵だと笑いつつ、賭博神は若者の背を叩く。幸いな事に『空中工房ドヴェルグ』の士気は極めて高かった。当然だ、始めから負けると思って戦いに臨む者など居やしない。そしてそれは無論、相対する敵とて同じこと。
「むつごとはもう、おしまいですか? いいでしょう、それじゃあここからはついたりつかれたりするおじかんです。ごにんまとめて、あいしてあげましょう」
 蠱惑的な笑みを浮かべつつ、ゆっくりと瞼を閉じる『聖杯剣揺籠の君』。瞬間、彼女が纏っていた掴み所の無い雰囲気に殺意と言う芯が巡りゆく。そうして女は三つの聖杯武器を侍らせながら……。
 ――ただ、その瞳を見開いた。

「ッ、不味いな。行使するのも業腹だが此処は止むを得ん! 昔取った杵柄を切るしかあるまいが……さて、これだけで防ぎ切れるかどうか」
 ただ、視線を向けると言うだけの所作。其処に籠められた暴威を誰よりも早く見抜いたのはクリストフであった。永遠の暗夜ダークセイヴァーにおいても、こういった呪眼を使う者は珍しくない。その経験が一手、彼に行動する機を与えたのだ。
 聖者は小さく舌打ちをしながら、魔力を編み上げ光の障壁を作り出す。清浄なる輝きは淫欲を孕んだ邪視を浄化してゆく。だが、相手は三十六世界全ての命を飲み干さんと欲する大淫婦。百を超える老練な術者の御業であろうと、相殺するにも限界が生じてしまう。
「これは視線が合図になっているの? それなら……我が標は北極星の下に。極夜の輝きよ、極北に映る我が姿よ、この場で許される者は唯一人である事を此処に証明せよ」
 しかし、それも彼単独ならの話である。クリストフが稼いだ猶予は数瞬なれど、どうすべきかを判断するには事足りる。障壁が破られる直前、阿吽の呼吸でユスミがカバーに入った。
 彼女が力ある言葉を紡いだ瞬間、周囲一帯が昼間にも関わらず薄闇に包まれる。敵意害意によって発動せし極夜の鏡。それは暗さによって見通しを狭め、蛇頭の女怪ゴルゴン退治が如く視線を跳ね返す事で敵の初撃を無力化する事に成功してゆく。
「……ボクがいる限り、みんなにその手は届かせない」
「あらあら、ほんのあいさつでしたのに。なら、ちょくせつふれあうとしましょうか」
 猟兵二人掛かりで相殺した呪眼を小手調べだと言ってのけるフォーミュラ。女は己が一手を潰された事に憤るどころか、寧ろ愉しむかの如く笑みを深めてゆく。右手に漆黒の毒槍、左手に黄金籠手、そして背に水晶の刃を背負いながら、見た目にそぐわぬ勢いで踏み込んで来た。
「援護感謝するぞ、ユスミ。だが、助けられてばかりでは私の沽券にも関わるのでな。さぁ来たれ、邪神の眷属よ。七星将の『尾』を真似たもので中々に便利だが……一撃、凌げれば御の字だろう」
 単騎では太刀打ちできないのは先の交戦で証明済み。故にクリストフは異形の存在を呼び寄せる事により、鏡面と合わせて聖杯武器による連撃を防がんと試みる。だが彼自身、それが飽くまでも時間稼ぎにしかならぬことは承知していた。
 そう、相手には神秘根絶の力を帯びし聖杯剣があるのだ。極夜の鏡と邪神眷属群が振るわれる一閃を受け止めるも、均衡は一瞬。甲高い破砕音と共に、両者は千々に砕け散りゆく。
「アレを相手に出し惜しむつもりなど始めからありません。こちらも初手から切り札を切らせて頂きます」
 そのまま距離を詰めて来るリリスに対し、アヤトもまた真っ向から相対する。片手に携えるはトランク型の携帯兵装。青年が何かを狙っている事は明白だ。それを踏まえた上で、『聖杯剣揺籠の君』は敢えて毒黒槍でも聖杯剣でもなく、黄金籠手を使う事を選ぶ。
「いいでしょう。じらしあいもたのしいけれど、それはもうじゅうぶん。さぁ、どうぞちかくに……」
 ゆるりと、まるで手招きする様に指先が振るわれ、その軌跡に沿って竜巻が渦巻く。全ての生命を死の絶頂へと導く淫猥なる旋風。だが、その真意は己に挑まんとする敵手への招待状だ。
 斯くして、青年の姿は桃色の風に掻き消える。通常であればそれが意味するのは苦痛と程遠い死だ。しかし仲間たちは勿論、女でもこれで終わるなどとは考えていなかった。そして、それは言うまでもなく――本人でさえもだ。
「MONOLITH、封印解除開始。AWD,Operation System active……座標、固定」
 果たして、突風を打ち破り人影が飛び出してくる。くぐもった呟きに視線を惹かれれば、その相貌を覆うは藍色の仮面。アヤトは携えていた兵装へと手を伸ばすや、内部より何かを引き抜く。それは二振りの刃だ。一つは『直毘』と刻まれた太刀。もう一つは暗青の刀身が目を惹く諸刃の剣。呪詛を以て神成る力、その銘は。
「――殃禍、顕現」
「うふふ、よいどれすこーどですね?」
 双剣を振るう青年と聖杯武器を手繰るリリスが真っ向からぶつかり合う。本来であれば自殺行為でしかないはずの単騎駆けなのだが、二合、三合と両者は得物を交わらせてゆく。それは予め吸引していた電子煙草の薬効、そして解放した神代の呪詛による身体強化の賜物である。堕淫の瘴気を寄せ付けなかったのも、より濃密な陰気を宿していたが故。
 だが、過ぎ足る力には代償が付き物だ。戦闘力の上昇と引き換えに、アヤトは時間制限を背負っていた。しかし、長期戦など端から眼中にない。膨大な命を得た相手に挑むならば、短期決戦で削り切るのみ。
「あら、あら? はやいとまんぞくできませんよ? ほら、たのしみましょう」
 尤も、そんな猟兵の狙いなど相手も承知の上だ。自らの身体を貫かれ、血肉を抉り取られても『聖杯剣揺籠の君』に動じる様子は無い。例え戦闘力を得たとしても拮抗までが精々だと見抜いていたのだ。しかし青年は臆するどころか、寧ろ不敵に言葉を返して見せる。
「ええ、確かに楽しいと言えるかもしれません。本当にキミが単純で助かりましたよ……笑いたくなる程にね」
 刹那、青年の左右から人影が飛び出した。それは攻撃の機を窺っていたヴェルナーとオッズ。拮抗状態という事は、敵もまた眼前の相手から手を離せぬという事でもある。個々の力は劣っていようとも、数の利はこういう時に活かすものだ。
「……悔しいけど、今の俺じゃ真正面から正々堂々なんて口が裂けても望めない。だからこそ、ここは『ドヴェルグ』の一員として自分の役割を果たす! それがいま出来る全力だ!」
「ああ、その意気だよヴェルナー! 世界を賭けた伸るか反るかの大博打、ここで張らなきゃ男が廃るってもんさ。安心しな、どんな奴にだって賽の目は平等だ! アタシが保証する!」
 幾つもの部品を組み合わせた杖状のガジェットを手に、剣戟が乱れ舞う戦場へと飛び込む便利屋。その覚悟にニヤリと笑みを浮かべつつ、賭博神もまた天秤杖をかちゃりと鳴らす。戦場でも盤上でも、勝負は機を掴む者にこそほほ笑むものだ。が、しかし。
「っと、とと!? おいおいおい、あんな大見えを切ったタイミングでかよ! この程度のガジェット、使いこなせなくてどうするんだ、俺!?」
 この瞬間、どうやら幸運の女神は機嫌が悪かったらしい。ヴェルナーの握るガジェットが突如としてうんともすんとも言わなくなってしまう。自分の窮地は相手の好機、頭数の差を覆す為、『聖杯剣揺籠の君』は瞬時に標的を不運な猟兵へと変えた。
「はじめてのひとでしょうか? おあいてできて、こうえいですね」
 アヤトの猛攻を水晶剣で捌きつつ、リリスは毒黒槍の穂先を差し向けてゆく。威力よりも手数を重視した一手だが、そもそも掠めた時点で戦闘不能は不可避なのだ。宇宙の終焉まで癒えることが無いと言うのは、決して単なる比喩表現ではない。
(少しくらいなら耐えられるかもと思ったけど、見通しが甘すぎた……あれは傷一つで即アウトだッ! このまま何も出来ずに終わったら、後悔してもし切れない!)
 紙一重で逸らし、避け、防ぐ。経験不足の身でありながら寸での所で持ち堪えられているのは、正に幸運と言って良いだろう。しかし、運とはいずれ尽きるものだ。集中力がほんの僅かに緩んだ瞬間、それを狙い澄まして毒黒槍が繰り出され――。
「おっと、そいつはナシだよ。まだ勝負から降りるにゃ早すぎる。負けを取り戻すにこっちも掛け金を釣り上げないとね?」
 円い何かが一枚、ほんの僅かに刺突の軌道をずらした。ハッと女が目を凝らせば、それは色鮮やかな賭貨。たかがその程度であれば払い除ける事など造作も無いが、オッズは生半可な上乗せレイズに抑える気など毛頭なかった。
「おかねをかいしたかんけいなんて、ゆりゆりはあんまりすきじゃないです」
 ざらりと、止めどなく溢れ出す無数のチップ。まるで意思を持つかの如く跳ね散らばるそれらは、圧倒的な物量を以て徐々に敵の攻め手を鈍らせてゆく。数瞬か、数秒か。決して多くは無いが、体勢を立て直すには事足りる時間だ。
「ふぅ、今のは少しばかり肝が冷えたぞ。ともあれ、やはり厄介なのはあの有り余る生命力か。全く、どれ程の他者を喰らったのやら……少しばかり掠め取ってやっても罰はあたるまい」
 『聖杯剣揺籠の君』が尤も厄介な点は『いんよくのかぜ』でも『聖杯武器』でもない。無尽蔵とも言える生命力、ただその一点に尽きる。それを崩さねば勝機は無いと判断したクリストフは、徐に己が身へ刻まれた刻印を晒してゆく
 命、活力、寿命。それらは何も敵だけが持つ強みに非ず。只人の身でありながら、幾年月を重ねてもなお少年の姿を保ち続ける絡繰り。それはこの銀雨降り注ぐ世界とも無関係ではなかった。
「それに、余り戦いを長引かせて要らぬ知識を垂れ流しにされるのも困る。ユスミに余計な事淫欲を吹き込まんでもらいたいものだ。それは私が教え込む予定なのでな、くくく」
「っ、これは……!」
 くつくつと喉を鳴らしながら、墜ちた聖者は刻印から禍々しき紅の輝きを淫魔へ浴びせかける。瞬間、ガクンと女の動きが目に見えて鈍り始めた。これこそ彼と同化したメガリス『アムリタ』の権能。他者の寿命や若さを奪い、あるいは分け与える生殺与奪の呪い/奇跡である。
(……特に若造には多めに分け与えてやるとするか。前衛を張っている上に、ただでさえ危ういのだからな)
「えっ、クリストフさん、教えるっていったい何を……?」
 特に消耗が激しいアヤトへ重点的に生命力を注ぎつつ、戦線の立て直しを図るクリストフ。決して派手さは無いが、この土壇場で体力的な余裕を得られたのは極めて大きい。
 一方、そんな聖者の傍へそっとユスミが歩み寄る。自分の名が聞こえたので気になったのだろう。戸惑い気味に問い返す少女だったが、彼は鷹揚にそれを受け流してゆく。
「よいよい、今は気にするな。それよりも……見ろ、戦況が動くぞ」
 そうしてクリストフが指し示す先では、いよいよ猟兵側の巻き返しが始まろうとしていた。その先鋒を務めるのは、やはり双刃を振るうアヤト。しかし、その表情は未だに険しいままだ。
(クリストフさんのお陰で多少の余力が出来ました。ですが、それを踏まえた上でも動ける時間はそう多くはありません。薬の効果もいつ切れてもおかしくはない……!)
「よいれんけいですね。ちょっぴり、うらやましいです。でもそれは、ごにんそろってこそ。あなたがくずれたら、ほかのかたもすぐに、ね?」
「なら、その前に押し切るだけですッ!」
 着実に『聖杯剣揺籠の君』の生命力は削られている。決して殺し切れない相手ではない。後はただ、どれだけ時間が残されているか否か。より激しさを増す攻防の中で先に限界を迎えたのは――。
「っ、ぐ、ぅ……!?」
 リリスではなく、青年の側だった。不意に咳き込むと同時に、口の端から鮮血が伝い落ちる。急速に覇気を喪いゆくアヤトは相手にとって格好の獲物だ。失われた生命力を返して貰うとばかりに、黄金の籠手を伸ばして彼を引き摺り寄せんと試みる。
「ふ、ふふ。どうやら、かけはゆりゆりのかちですね」
「……おやおや、まさかアタシを前にしてそんな愉快な事を宣うだなんてね。だけどこっちはまだ、全ての手札を見せた訳じゃない。はてさて、何本出るか。それじゃあダイスに聞いてみようか!」
 だが、その手が掴んだのは求めていた肉ではない。ゴリという硬い感触。いったい何だと掌を開くと、其処に合ったのは二つの骰子。その目が六のゾロ目クリティカルだと認識するよりも先に、飛び出して来た十二本の剣が黄金籠手ごと左手をズタズタに斬り裂いてゆく。
「はっ、こいつは上々だ。一本でも多くアンタの急所にブチこんでやるよ!!」
「これくらいなら、まだ……!」
「いいえ、これで終わりです。極北の海より契約せし精霊よ。その躰、鋭き剣となって彼の者へ降り注げッ……!」
 それらをどうにかする為に右手の毒黒槍を振るわんとするが、間髪入れずそちらにも衝撃と共に鋭い痛みが走る。その正体はユスミが放ちし凍てつく氷塊の刃。凍れる切っ先は相手を縫い留めるだけでなく、流れる血すらも凍結させる事によって更なる拘束と化す。
 これで『聖杯剣揺籠の君』は身動きを封じられた。だが、それも長くは保たぬだろう。右手の毒黒槍、左手の黄金籠手は使えずとも、まだ全ての神秘を根絶する聖杯剣が残っているのだ。その証拠に賭博神の刃は急速に罅割れ、少女が生み出した氷も音を立てて蒸発しつつあった。
(はは、まさかなぁ……この土壇場で一番トドメを刺しやすい位置に居るのが、よりにもよって俺とはね)
 青年、聖者、賭博神に少女。皆、己が全霊を籠めた一撃をオブリビオン・フォーミュラへと叩き込んだ。どう足掻いても次の行動を起こすには一呼吸を要し、そして魔性の女はその刹那を以て縛めから逃れるだろう。
 故に、いまこの瞬間に動けるのは――ヴェルナー、彼一人しかいない。
(手持ちの武器は相手に有効な筈だけど、使い方が分からないガジェットだけ。正直言って、仕留められるかと言えばかなり怪しいな……だけどッ)
 今回が初の実戦? 相手がフォーミュラ? 他の面子よりも経験に劣る? そんな事など端から分かっていた事だろう。全てを承知の上で戦場に立ったのだ。ならば、為すべき事は変わらない。
「俺は……俺のやれることを頑張るだけだッッ!」
 果たして、使い手の意に応えたのだろうか。若者が裂帛の雄叫びを上げた瞬間、機械杖がガチャリと音を立てて起動し始めた。内部から迸る閃光が無数の枝状に分かれては虚空へと消えてゆく。それが雷に類する力だと気付いた瞬間、女の顔から一瞬にして余裕が消失する。
「でんき、つえ、かがくによるそれは……まさ、か!?」
 脳裏に過ぎる己が敗北の記憶。かつて琵琶湖で行われた聖杯を巡る決戦の際、リリスの命を奪ったのは科学の力による雷だった。それはある意味での過去再現であり、だからこそ有効性という点においてこれ以上のモノはない。相手もこの一撃だけはどうにかして逃れようと藻掻くが、もはや全ては遅きに失しており――。
「いっけぇえええええっっ!」
 機械杖によって増幅された生体電流が、のたうつ大蛇の如くフォーミュラへと牙を剥く。その雷鳴は戦場全体へと鳴り響き、全てを白く染め上げ、そして。
「そ、んな……ま、た…………――――」
 オブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』は、跡形もなく焼き尽くされるのであった。

「……か、勝ったぁ~。外してたらもう俺、どうしようかと」
「はっはっはっ! いやぁ、まっさか最後の最後に大金星を搔っ攫ってくなんてねぇ。よくやったよ、ホントに。ビギナーズラックなんて言ったら失礼だねこりゃ」
 大淫婦は此処に討伐され、金沢大学の敷地内に静けさが戻る。戦いは終わった、そう認識した途端に緊張の糸が切れたのだろう。深々と息を吐きながら崩れ落ちるヴェルナーの肩を、労う様にオッズが叩く。
 また、その横ではアヤトが橋の欄干へもたれかかる様に腰を下ろしてゆく。呪いの反動もあって、精も根もとうに限界を迎えていた。痛み止めがてらに電子タバコを咥えつつ、彼の表情にも安堵の色が滲んでいる。
「これまで戦ってきた敵に負けず劣らず、凄まじい相手でしたね。とは言え、五人全員が一人も欠ける事無く終えられて何よりです」
「全く、一番無茶をしていた者が良く言う。だが、確かにそうだな。この戦い、紛れもなく我々の勝利だ」
 前線を維持し続けた青年に、クリストフも呆れ交じりの笑みを浮かべて同意する。消耗は大きいが、目立った怪我を負った者は無し。戦果としては最上と言って良かった。のではある、が。
「……そう言えば、クリストフさん。ちょっといいですか?」
「む、どうしたユスミ。まさか、何かおかしい所でもあるのか?」
 ふと、恐る恐るといった様子で少女が聖者へと歩み寄る。よもや、気付かぬ内に何か傷でも受けていたのか。思わず問い掛ける男へ、彼女は答えではなく更なる質問で応じた。
「結局……いんよく、って何ですか?」
 改めてぶつけられた素朴な疑問に、さて彼が何と答えたのか。それは分からない。確かな事はただ一つ、『空中工房ドヴェルグ』の面々はこの戦いに勝利したという事だけである。
 斯くして猟兵たちは互いの健闘を称え合いながら、共に帰路へと就くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月20日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト