第二次聖杯戦争⑳〜デッド・アンド・デッド
「みんな予兆は視たはずよね。新しい戦場が開いたんだけど、そこにいる奴がけっこー手強いのよ。
名前は|都怒我阿羅斯等《つぬがあらしと》。なんか、日本書紀だかに名前出てるらしいわね。
私は実は知らなかったんだけど、神将として交戦した記録もあるみたい。それがまさか、『ディアボロスランサー』の使い手だったとは思わなかったわ。っていうかあれ、誰かが扱える代物だったのね」
この世界の住人である白鐘・耀でさえ知らなかった真実なのだ。謎だらけで当然といえよう。
「で、状況としては……正直詰みね。なんせ相手は、私たち生命を生み出したモノを使いこなすのよ?
しかもオブリビオンになったせいなのか、それとも生きてた頃から出来ていたのかは知らないけど、
ディアボロスランサーの力をさらに活性化させることで、『生命樹状態』って強化モードに入るのよ。
……こうなったらもう終わり。たとえ私たちが数万揃ったところで、絶対に倒すことは出来ないわ」
耀は絶望的な事実をけろっと述べる。それが逆に、対抗手段があることを示していた。
が、その対抗手段の言及に入ると、耀の表情が険しくなる。
「……抗体兵器が、ものすごいスピードで|地球《こっち》に向かってる映像を予知したわ。
ディアボロスランサーの活性化に反応したのか、それとも別の理由があるのかは、正直わからない。
確かなのは、抗体兵器の力を使えば、『生命樹』を枯らす……つまり、対抗できるってこと」
抗体兵器とは生命に敵対するもの。|この宇宙《シルバーレイン》を本来の『死の世界』に戻そうとする、いわば世界そのものの免疫反応のようなものだ。戦いが終わって久しい今でさえ正体は掴みきれない。
生命に絶望し仇なしたと語る都怒我阿羅斯等だが、彼の在り方は生命根絶を求むる抗体ゴーストと真逆だ。
ゆえに、抗体兵器との呉越同舟が相成る……利用しているのがどちらなのかはわからないが。
「抗体兵器は『禍々しい呪い』に満ちてるわ。あれを使えば、「生命樹」に対抗するのは簡単でしょう。
……ただまあ、正直危険よ。昔、あれを使って能力者と敵対したコたちもいたんだけどね……」
耀は腕を組んだ。
「わかんないもんだわ。この宇宙に生命をもたらしたディアボロスランサーとその使い手だった男が敵になって、今度は『抗体兵器』が味方になるってのよ? あるいは、これも|銀誓館学園《わたしたち》が歩むはずだったイフなのかしらね?」
かつて、銀誓館学園はディアボロスランサーを巡り、ひとつの重大な決断を迫られた。
当時の能力者たちは、生命根絶を掲げる異形との敵対を選び、結果として大陸妖狐や『伯爵』との休戦に至ったという。あれはまさしく、この世界の歴史を決定づけた大きな岐路だったのだろう。
では、もしもあの時、能力者たちが異形の提案を呑み、『伯爵』を滅ぼしていたならば……。
あるいは今のように、|死を以て死を齎す《デッド・アンド・デッド》ような戦いが起きていたのだろうか?
「逃げたハビタント・フォーミュラのこととか、そもそも聖杯剣のことも気になるけど、まずはひとつひとつ片付けていきましょう」
耀は火打ち石を取り出した。
「……あとね、あのディアボロスランサーの中には、新たな宇宙に旅立った能力者たちが閉じ込められてる。
敵を倒せれば、ディアボロスランサーはもとに戻ってまた新たな宇宙へ向かっていくはずだけど……逆に言えば、ここであいつを倒せなかったら、せっかく旅立ったみんなの思いが無駄になるってことでもあるのよ」
耀の知己も、その中にはいるのだろう。表情は張り詰めていた。
「だからお願い。みんなを助けてあげて」
送り出すときに、彼女がこうして「願う」ことはあまりない。
戦いの始まりを告げるゴングのように、火打ち石が乾いた音を鳴らした。
唐揚げ
●プレイングボーナス
都怒我阿羅斯等の先制攻撃に対処する/何らかの手段で『生命樹』に対処する。
シナリオの話。
みなさんが戦場に転移した時点で、敵は「生命樹」と化しています。
「生命樹」と化した都怒我阿羅斯等は、表記されているユーベルコードに加え、「生命樹」によって敵を自動迎撃し、戦場から弾き出します。どれだけ離れてようがどれだけ数を揃えようが絶対に自動的に迎撃します。
なので、普通にやると手強いどころか戦いになりません。おまけにいつもの先制攻撃です。
が、耀の語った通り、宇宙の彼方から「生命樹」を枯らす効果を持った「抗体兵器」が落ちてきます。
兵器の形状はいくらでも種類があるとのことなので、希望がある方は自由にプレイングしてください。
抗体兵器を使えば、生命樹の自動迎撃効果に対しては容易に対抗できるでしょう。それでもまだ先制攻撃が来るわけですが。
なんらかの形で対抗が出来ればいいので、必ず抗体兵器を使わなければいけない、ということはありません。でも抗体兵器を使わない場合は、かなり難しくなります。そのつもりでマスタリングします。
持ち帰りたいなら、呪いをなんとかすれば抗体兵器は持っていけますし、手放せばどこへともなく消えるでしょう。破壊しても問題ありません。残しておくよりはマシかもしれませんね。
ディアボロスランサーに囚われた能力者たちは時間が停止しているので、呼びかけとかは出来ません。
都怒我阿羅斯等を撃破出来れば、ディアボロスランサーは元に戻ってそのまま飛んでいきます。
あと、都怒我阿羅斯等からなんか聞き出そうとしても無理です。ご了承ください。
第1章 ボス戦
『都怒我阿羅斯等』
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POW : 天地開闢の祝詞槍
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【純粋生命力 】属性の【ディアボロスランサー】を、レベル×5mの直線上に放つ。
SPD : 舒弗邯閼智(ソブルハンアルチ)
【全身に生えた七本の蒼き角 】を纏い空中高く舞い上がった後、敵めがけて急降下し、[全身に生えた七本の蒼き角 ]が尽きるまで【ディアボロスランサー】で攻撃し続ける。
WIZ : 魂よわだつみに還れ
【ディアボロスランサーから生命の奔流 】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
木常野・都月
生命樹…コウタイ…
よく分からないけど、要はコウタイを使うと敵が倒せるって事だよな?
俺は猟兵だ。
人と世界を守るのが仕事。
全力でガブーってやるだけだ。
先制攻撃は転移しないで激痛耐性で我慢しよう。
コウタイは呪いって聞いた。
呪詛耐性で我慢しよう。
チィ、出来そうなら月の精霊様の力で浄化を頼む。月明かりの欠片使っていいから。
我慢ばかりだけど、痛がるより先にやる事がある。我慢。
追い出される前にできる範囲で。
コウタイ?を杖に取り込めるか?
無理そうなら火の精霊様に一緒に取り込んで貰おう。
加えて高速詠唱、属性攻撃、範囲攻撃、全力魔法を乗せて、コウタイ属性?が入った火のUC【精霊砲】をギリギリまで溜めて発射しよう。
●生命の奔流
敵は、この世界の宇宙に生命をもたらしたものなのだという。
スケールが大きすぎて、木常野・都月にはピンとこない。彼はこの世界の歴史も、宇宙の成り立ちも、理解できる範囲でしか咀嚼できなかった。
愚かではある。だが無理もなかろう、彼はまだ人の世にさえ馴染みきれていない獣の子。いわんや、世界の命運をや、という話だ。
では、なぜそんな都月が、判然としないままにここにいるのか。
理由はひとつ――「人と世界を守る」ことが己の仕事だと、都月は「わかっている」からだ。
「俺は猟兵だ。あんたが何者かも、なぜ生命に絶望したのかもわかんないけど、人と世界を脅かすっていうなら……全力で、ガブーってしてやる!」
狐の身体であれば牙をむき出して威嚇していたであろう都月に、都怒我阿羅斯等は眩しげに目を細めた。
「我を前に、なんという蛮勇。まさしく生命の輝き」
都月は、彼の目にふたつの色を見た。日に褪せた本のような乾いた色と、光射さぬ深い深い海の底のような昏い色を。
「だがそれゆえに、我は汝を殺そう。生命使いよ、我が前に立ったのが汝の誤ちなり」
乾いた色の名を、絶望といった。
昏い色の名を、殺意といった。
だが、そんな都怒我阿羅斯等の双眸は、次の瞬間驚愕に見開かれた。
「これは!」
生命樹より放たれた力を切り裂いたのは、はるか空より飛来した兵器。
禍々しい呪いを澱のように纏いたるもの。生命を否定し根絶する、この宇宙の|正しき力《・・・・》。
「抗体兵器! 生命使いの輝きに反応したか? あるいは我を寄す処としたか!」
「これが……コウタイ」
都月は抗体兵器に手を伸ばした。触れようとした瞬間、ぞっとするような冷たさが背筋を、肚を駆け抜けた。
(「なんだ、これ」)
心の臓が脈動するたび、循環させようと押し出した血をどこかへ持っていかれるような、虚無感が身体を叩く。
全神経が叫んでいる。これは触れてはならぬものだと。どんな毒よりも恐ろしく、耐えることなど出来ないものだと。
都月は柄を掴んだ。
「これを使えば倒せるってんなら、使うだけだ!」
引き抜いた兵器は、剣のようでもあり杖のようでもある。
あるいは、奇病に冒されねじれた木の枝か。斬るにも突くにも難儀する、兵器とは思えぬカタチ。
だが、都月は本質的に理解する。|これ《・・》の使い方は、尋常の兵器とは違うのだと。
「月の精霊様……頼む、月明かりの欠片使っていいから!」
「愚かな。やはり生命根絶すべし。魂よ、わだつみへと還れ!!」
都怒我阿羅斯等はディアボロスランサーを突き出した。
鋒から、莫大な青い光が迸る――生命エネルギーそのものを凝縮した、|生《き》の|ちから《・・・》が。
都月は痛みに耐えるつもりでいたが、それでは対処しきれぬことを彼は悟った。
何故なら、生命の奔流は暖かかった。
光の輝きも、触れた瞬間も、目を閉じてまどろみそうになるくらいに暖かかった――母の胎を思い出す。かえるべき場所を。
「……我慢、だ……!!」
皮肉なことに、抗体兵器のもたらす虚無感が安寧の終わりを拒絶させた。
生命の奔流は、抗体兵器を冒すことが出来ない。まるで見えない障壁があるように、抗体兵器の刃なき刀身が光を弾いているのだ。
激流に流されまいとする哀れな漂流者めいて、都月は柄を強く握りしめた。過剰な生命エネルギーが、彼の身体を脅かす。生命活動に欠かせない酸素とて、純粋であれば毒となる――それと同じだ。都月の両目から血が溢れた。
「火の精霊様!」
都月は叫んだ。彼が柄を握る腕に、赤い炎の螺旋が這い、熱量が抗体兵器へと移る。
抗体兵器を燃やす炎は病んだ臓物を思わせる赤黒に変じ、やがてどろりと溶鉄めいて崩れた。忌まわしき力だった。
「なんと愚かな……己が取り込もうとしている力のなんたるかを知らぬまま、呪いを受け入れようというのか!」
「知った事か……俺は何も知らないけど、少なくともあんたみたいに絶望はしてないぞ!」
動脈血色の砲撃が、青い生命の奔流を内側から喰らい、都怒我阿羅斯等を襲った。
「ぐおおお!!」
都怒我阿羅斯等はディアボロスランサーを盾代わりに受ける。だが互いに相反し相容れぬ力、水晶を思わせるディアボロスランサーにぴしりと罅が走り、受け止めきれぬ反生命エネルギーが角めいた生命樹を幾本か吹き飛ばす!
「……俺は、まだ何も知らないんだ。そんなうちに、勝手に終わってなんかやれないよ」
都月は息も絶え絶えに言った。
理屈を知らずとも、彼はその身その命でもって、示すべき答えを示していたのだ。
成功
🔵🔵🔴
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
…ディアボロスランサーの担い手を敵として、抗体兵器を手に立ち向かう…
…私達の戦いにも、こんな可能性が有り得た、のでしょうか。
ですが、今は今。
今より続く未来を守るため、取れる手段は全て取るのみです。
ガトリングガン型の抗体兵器を以て生命樹へと攻撃。
敵のユーベルコードは時間を置けば置く程威力が高まるので、早期に使わせることを狙いとし、敵本体への攻撃も重ねます。
槍を放つ動きが来次第、跳躍回避に蟲達を集めた【オーラ防御】による受け流しで何とか直撃は避けます。
受けたダメージは【激痛耐性】で何とか耐えて戦闘続行。
ユーベルコード発動の機が巡り次第暴走黒燐弾を放ちます。
生命を、未来を奪わせはしません…!
●銀色に映る景色
歴史の分岐点と呼べる瞬間は、たしかにいくつもあった。
他ならぬ土蜘蛛がそうだ――葛城山殲滅戦は多くの犠牲を出した。
あの時、能力者たちが女王の籠城戦を看過していたならば、学園にも土蜘蛛にもあれほどの犠牲は出なかっただろう。
そもそも戦争自体が起きなかったかもしれない。そうしたら自分は、どんな人生を過ごしていたのだろう? 土蜘蛛の友人たちはどうなっていた?
あるいは、鶴岡八幡宮での人狼騎士との会談。
あるいは、大陸妖狐の使者の受け入れ。
あるいは、ドクターオロチと名乗った異形の封印。
あるいは――。
|現在《いま》は、そうした多くの選択の上に積み重なっている。
どれかひとつでも、掛け違えばまったく別の未来が待っていたはずだ。
「……あの時、もしも異形の手を取り、ディアボロスランサーを破壊していたら……」
ニーニアルーフ・メーベルナッハは呟き、目を閉じた。
生命樹より迸る自動迎撃攻撃は、すべて目の前の抗体兵器が弾いている。
抗体兵器を手に敵対した者たちがいた。彼らの運命の糸は絶えた。
まだ見ぬ仲間が世界にいた――いや、いるのだ。猟兵に目覚め仲間になった者たちが、この世界にはたくさんいる。おそらくはこれからも。
「今は、今です」
ニーニアルーフは目を開き、ガトリングガンを思わせる重火器めいた抗体兵器を軽々と拾い上げた。
「生命使いよ。そこまでして我を滅ぼさんとするか」
「あなたに恨みはありません。ですが、あなたの絶望だけで、私たちが掴んだいまを否定させるわけにはいかない」
「……ならば」
ディアボロスランサーが青い光を放つ。莫大なエネルギーが満ちた。詠唱に入ったのだ。それだけで天地が鳴動し、震え上がる。宇宙そのものが、忌むべき侵略者の顕現に慄いている!
「ええ、今より続く未来を守るため、私は採れる手段をすべて採るのみです!」
ニーニアルーフは抗体兵器を構え、トリガーを引いた!
抗体兵器の銃口から、明らかに生命が触れてはいけない力だった。
膿瘍を思わせるどす黒い弾丸は、生命樹から迸るエネルギーを切り裂いて飛来する。されどそれも、ディアボロスランサーを中心に放射される生命エネルギーによって、超高熱で気化するかのように消し飛んだ。
「これなるは生命をもたらせしディアボロスランサーの権能」
都怒我阿羅斯等の双眸が燃えるように輝く。
「汝が抗体を以て純粋生命を否定せんとするならば、残骸と成り果てし我は生命を以て生命を駆逐せん――これが、汝らの愚かさと知れッ!!」
「みんな、力を貸して!」
ニーニアルーフは跳んだ。白と黒の蟲たちをぞわりと前方に集め、純粋なる|生《き》の|ちから《・・・》を減衰せんとする。
神の左手にすら打ち克った能力者が、ここで斃れるわけにはいかない!
蒼の奔流に包まれた時、ニーニアルーフは、痛みよりも賦活する生命の力強さを感じた。鼓動が、耳でなく全身に響いてくる。
それは危険な拍動だった。まるで、心臓が今にも爆発しそうなほどだ。血流は血管を灼き千切らんばかりに強まり、臓物が爆ぜかける。
(「これが、ディアボロスランサーを操る者の力……けれど……!」)
蟲たちが散る。害悪で死んだのではない、溢れすぎた生命力ゆえに、植物が枯れ落ちるように枯死したのだ。異様な光景だった。
「生命を、未来を奪わせはしません……!」
「――!!」
純粋生命の波を超え、意思あるままに現れたニーニアルーフに、都怒我阿羅斯等は驚愕した。
散った蟲たちの亡骸を|弾倉《チャンバー》に込め、至近距離でトリガーを引く。死そのもの、生命を忌避し根絶する否定の力がどす黒い弾幕となって噴き出した。相反するふたつの力が荒れ狂い、両者を吹き飛ばす!
「きゃあっ!」
「ぐ……!」
痛みであれば耐えられよう。だが生命も抗体の力も、ともにもたらすのは痛みではない。ニーニアルーフは、抗体兵器握る手から生命力を吸い上げられるような虚無感に震えた。
「……生命使いよ。汝らは絶望を知らぬか」
傷ついた都怒我阿羅斯等もまた、槍を構える。声音にあるのは憧憬、郷愁、そして絶望。
「ならば道理は無用なり。止めてみせよ、我が悪行……!」
ニーニアルーフは、彼の目に燃えるような生命の力強さを見た。能力者たちと同じ輝きを。
だがそれは、燃えた炭の熾火を思わせる、終わった炎だった。
「……あとに続いた者として、ここは退きません。私たちは、生命は未来へと続きます。あなたを超えて」
ニーニアルーフの声音に宿るのは、そんな男への憐憫と敵意だけだった。
成功
🔵🔵🔴
朱鷺透・小枝子
ディスポーザブル01【操縦】
|抗体兵器《BS-B》を回収、01の胸部|に装着《捻じ込む》!
生命と敵対する武器、良い!
元より自分は命を殺す為にある!!
胸部抗体兵器から【範囲攻撃】
パルスアトラクターの変わりに光子を放ち、生命樹を枯らし、
光子集束【レーザー射撃】ディアボロスランサーを抗体兵器で【武器受け】
UC発動の時間を稼ぐ。
殺せ!否、壊せ!!共に壊そう!!!壊し切れぇえええ!!
『恐喜歩』抗体兵器の呪いと怨念結界を同調
【念動力】空間を歪ませてディアボロスランサーの直線を曲げ逸らす。
【早業】01の行動時間を加速、距離を詰め、
【怪力】禍々しき|呪い《呪詛》を纏う拳で【重量攻撃】
壊れろぉおおオオオ!!!!
●生命ならざるもの
「……哀れな」
都怒我阿羅斯等は、朱鷺透・小枝子を見た瞬間、呻くように嘆いた。
彼は生命に絶望し、生命を滅ぼすことを選んだ。
だが、その根源はどうあがいても生命に属している。それこそが彼の力の源泉であるがゆえに。生命根絶の使徒、異形にはなりようがない。
ゆえに嘆いた。愚かなる|使《死》者を。
鋼の躯体を駆りて降り立ちしその者の本質を、都怒我阿羅斯等は即座に看破した。純粋生命の使い手は、それゆえに生命ならざるものを知る。
「生命と敵対する武器! いい!!」
対する小夜子は、狂喜していた。
空より飛来せし抗体兵器を無造作に鷲掴みすると、やおらそれをディスポーザブル01の胸部にねじ込んだ。
まるで最初からそうあったかのように、抗体兵器は|愛機《悪霊》に馴染んだ。
出力向上。小夜子は狂的に笑う。呪い? 知ったことか!
そもそも|そんなものは一切感じない《・・・・・・・・・・・・》。その理由を小夜子は深く考えない。邪魔だからだ。
「もとより自分は、命を殺すためにある!! いざッ!!」
重装甲が地面すれすれを飛翔した。迸る生命エネルギーをものともせず、巨躯が都怒我阿羅斯等に襲いかかる!
蒼と黒。生命と死。はたしてどちらが世界の味方なのか、傍目にはまるでわからない。
ましてや、襲いかかる|小夜子《黒》が胸部より光子を放ち、角のようなもの――生命樹を枯死させていくとなればなおのこと。
「生命ならざるものよ。なにゆえにそのような|ざま《・・》で我を阻む!?」
「理由!? どうでもいい、お前は敵だ! 自分は兵士だ! それで十分!!」
会話にならぬ。狂気があった。ディアボロスランサーとディスポーザブル01の拳がぶつかりあい、反発した。吹き飛んだ都怒我阿羅斯等めがけ、収束した死の光子が光条となり迸る。ディアボロスランサーを盾のように掲げ防御。
「ぬう……! これが猟兵だというのか? 生命の埒外、|残骸《われら》の仇敵……!」
迸る|光条《やみ》を純粋生命の蒼が喰らう。ディアボロスランサーは、纏う生命の輝きで数十倍にも膨らんだように見えた。
「受けよ、天地開闢の槍を!!」
「オオオッ!!」
胸部、抗体兵器を取り込んだ部位に光の矛が突き刺さり、溢れんばかりの生命エネルギーが躯体そのものに叩き込まれた。
蒼の光が駆動系を乱流し、関節部という関節部から血のようにスパークを噴出する。コクピットを赤く染めるエラーメッセージの山。
「殺せ」
どくんと抗体兵器が脈動した。
「否、壊せ。ともに壊そう! 壊しきれぇえええッ!!」
「何!?」
純粋生命が再び弾かれる!
都怒我阿羅斯等は空中で態勢を整えつつ、生命の光をさらに生み出し、充填させる。対するディスポーザブル01は不動。代わりに周囲の空間が歪んだ。
「生命を奪うは自分の意義! 敵を滅ぼし殺し破壊することこそが責務!
主義主張信念理由、すべて知ったことなし! 自分はただ壊すのみ!!」
抗体兵器は馴染む――馴染み|すぎる《・・・》。呪詛は「ない」のではない、小夜子どほとんど同化していた。
空間さえも歪曲させる呪いと怨念は、ついに再噴出した純粋生命のエネルギーを捻じ曲げ逸らした!
「バカな……!」
「壊れろぉおオオッ!!」
狂叫とともに、破城槌じみた拳が繰り出される。受けたディアボロスランサーの罅がさらに深まり、都怒我阿羅斯等は地面をバウンドして転がった。
「……やはり、我が心にあるは絶望のみ。哀れなり、生命ならざるものよ」
なおも両雄立ち上がる。生と死、在り方は対極。求めるは同様。近似にして対称、それゆえに相容れることはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
山吹・慧
何の因果か抗体兵器を使う事になるとは、
全くわからないものですね。
鉄甲型の抗体兵器を装備。
とんでもない暴挙に出たものですね。
残念ですがあなたの絶望に付き合う事はできません。
その槍は解放してもらいます。
生命樹の枝は【功夫】の打撃の【乱れ撃ち】で破壊。
敵の先制に対しては【気功法】により祝詞槍の純粋生命力の気を
感じ取り、その声を聴きましょう。
そして【集中力】で攻撃のタイミングを感じ取って回避。
そのまま【残像】を伴う動きと【フェイント】で攪乱してから
【グラップル】で真上にブン投げて、
ディアボロスランサーの生命の気も味方にした
【羅山天昇波】を放ちましょう。
抗体兵器が障害になるのであればパージしておきます。
●森羅万象
能力者であった頃、抗体ゴーストに何度手を焼かされたか知れない。
万色の稲妻がもたらす強化は、ただでさえ厄介なゴーストをさらに面倒な敵へ格上げし、能力者たちを幾度となく悩ませた。
それが今、山吹・慧を鎧う手甲となっている。
「なんの因果でしょうね。抗体兵器を使い、ディアボロスランサーと戦うとは」
言いつつも慧の表情は落ち着いている。
相手がどのようなものであれ、戦いにおいて動揺や迷いは死の入り口だ。
行住坐臥、常に心を落ち着け冷静に拳を振るう。
そうでなくては、死と隣合わせの青春を生き延びることはできなかった。
対する都怒我阿羅斯等もまた、凪いでいた。
「そのようなものを手にしてなお、生き足掻こうとするか。生命使いよ。
我が見し絶望、汝にあえて語りはすまい。だとしてもなんたる暴挙か」
「それはこちらの台詞ですよ、生命の槍の使い手よ」
慧は落ち着き払って返す。
「とんでもない暴挙に出たものです。しかし、僕らはあなたを倒します。
残念ですが、あなたの絶望に付き合うことは出来ませんし、その槍は解放してもらいます」
槍の裡には、多くの仲間たちがいる。
名を知る者も知らぬ者もいよう。関係がない、誰であれ仲間だ。
「あなたは、決して犯してはならない愚を犯したんですよ」
このような勝手な絶望に、付き合わされていいわけがなかった。
生命樹が見えざる攻撃を放ち、慧を戦場より吹き飛ばそうとする。
慧は短く、鋭く呼気を吸うと、目にも止まらんばかりの拳打を放ち、角めいた枝を次々に叩き折った。
「玄武の使い手か。ならば!」
都怒我阿羅斯等が先手を打つ。慧は純粋生命の力で、跡形もなく消し飛ばされる自分の痕跡を見た。おそらくはそうなる未来のヴィジョンを。
極限の危険において、脳が打開策を導き出すため記憶を遡る――それが走馬灯の正体だ。慧が得た錯覚は、そういうものの延長にあった。
目を細め、彼は不動で迎え撃った。
「いいでしょう、来なさい。僕らを生命使いと呼ぶならば」
都怒我阿羅斯等は吼えた。天地開闢の祝詞を。
「滅びよ、生命使い! 汝らが頼り、しがみついた生命の力を以て!!」
波濤が迸る! 蒼き光輝は海を――否、銀河を思わせる生命の瞬きだった。
慧は動いていた。ほとんど無意識に、放たれる瞬間を読み取って。
純粋生命とはすなわち、エネルギーの塊。薬も過ぎれば毒となり、栄養を摂りすぎれば草木とて枯死するように、それ自体がプラスであっても生命を滅ぼすほどに凝縮されたものである。
森羅万象、この宇宙に散ったすべてにありしエネルギーの根源である。
ただ抗体兵器のみが、それを否定する。食いちぎるような力でもって。
「ならば僕は、それすらも味方につけてみせましょう」
「!」
都怒我阿羅斯等は刀と槍を同時に振るった。だが切り裂いたのは残像だった。
右か――否、上。ショートジャンプした慧の、瓦割りめいた拳が降る。
刀の石突で拳を弾き、再収束させた生命エネルギーの奔流を下から上へ薙ぎ払う。
「悪足掻きを!」
慧は再び消えた。抗体兵器が不穏に震える。慧はその震えに同調しない。ただ淡々と、森羅万象を感じ取り、味方につけ、己の意に添わせる。
「もらった」
掠めた生命エネルギーで身を焼かれながら、慧は鮫のように笑った。
熱された鉄のような色に瞳が燃え、次いで衝撃波が都怒我阿羅斯等の身体を通じ天を貫く!
「がはァッ!!」
都怒我阿羅斯等は吹き飛んだ。驚愕に目を見開いて。
これが、生命使い。死すらも味方につけ生き足掻くものども。
彼は本能で理解する――猟兵が、なにゆえに己の天敵たるのかを。
成功
🔵🔵🔴
イグニス・ランフォード
懐かしい面子に同窓会みたいだなと思ったが
まさかディアボロスランサーまで戻ってくるとは思わなかった
だが、貴様のせいであまり嬉しくない再会だ
彼らを解放してもらうぞ
…そのために力を貸してもらうぞ抗体兵器
植物にはこれだとチェンソー剣二刀流で切り分けながら
詠唱させないためダッシュで近づく
実力は向こうが上、回避も心許なく防ぎきれるとも思えない
ならば受けて流すのみ
戦闘知識と第六感も合わせで攻撃初動を見切り
抗体兵器にバリアウォール・覇気で武器受け盾受けオーラ防御
貫かれる前に後ろに流す!ダメージは激痛耐性で耐える
間合いに入って手刀…盾にした兵器や腕が壊れているなら蹴りでUCを叩き込む
この世界は壊させない
●望まざる再会
再び戦いが始まったことに対して、イグニス・ランフォードが抱く感情は一言では言い表せないぐらいに複雑だ。
終わったはずの戦いが始まったことは、純粋に哀しい。平和であること以上に歓迎すべき日常などなく、しかもかつて倒した敵が蘇ったときている。
なんの意味があったのかと、打ちひしがれもした。だが、誓いがイグニスを支えてくれた。それがある限りは戦える気がした。
そう思い、この厄介極まりない戦争も、勝利めがけ突き進んでいた矢先だ。
「戦ってるさなかに言うことではないかもしれないがな」
角めいた生命樹の攻撃を、一対のチェーンソー剣で斬り捌く。
抗体兵器は歓喜を思わせる振動と咆哮をあげ、根絶すべき生命を刃の歯でもって貪り食らった。
立ち上る瘴気がもたらすのは、心臓を空っぽにされるような厭わしい虚無感。
生命が触れてはいけない呪いだった。だがそれだけに強力でもある。
「懐かしい面子に、同窓会みたいだなと思っていたんだ。
厄介な敵に変わりはないが、どこか微笑ましい気分もあったさ」
イグニスは前へ走る。目的は都怒我阿羅斯等の詠唱を妨害することだ。
されど槍持つ男もまた精兵、純粋生命の凝縮を続けながら、刀と槍とを手足の如く振るい、鋸剣と火花を散らす。
「まさかディアボロスランサーまで戻ってくるとは思わなかったよ」
ギャリギャリと刃と矛とが拮抗し、男と男は刃越しに睨み合った。
「……貴様のせいで、あまり嬉しくない再会だがな」
イグニスの青い瞳には、静かで苛烈な怒りが煮え滾っていた。
対する都怒我阿羅斯等は、疲れ切った生命の表情をしている。
「我を憎むか、生命使い。赦さずとも構わぬ、これなるは我が絶望の悪行」
刀がびょうと空気を裂いた。イグニスは垂直に跳び、左右から襲いかかる生命樹を引きちぎりながら回転し、間合いを取る。
「抗体を用いてまで生き足掻かんとする者よ、汝の行動はただ我が絶望を深めるのみ。|疾《と》く失せよ、その忌まわしい生命にのまれて!!」
着地を狙い、凝縮された純粋生命の輝きが直線状に放たれた。
あらゆるものを飲み込み、害するのではなく過剰に育むことで滅ぼす、生命そのものをあげつらうような禁断の力が、イグニスを呑んだ。
だが、青い光がイグニスを完全に滅ぼすことはなかった。
「貴様には貴様の事情と、貴様なりの絶望があるのだろうな」
クロスさせた抗体兵器で光を受け止め、いなしている。
「そんなものは、知ったことか。俺はただ、護るために戦う。それだけだ」
鋸剣が喧しく回転する。余剰エネルギーがイグニスの頬を裂いた。
「友を、旅立っていった仲間たちを、解放してもらうぞ。都怒我阿羅斯等」
一歩前へ。
「――そのために、力を貸せ抗体兵器。貴様の敵を、滅ぼすがいい!」
さらに前へ! 身を灼かれるも構わず、光を裂いて駆ける!
「愚かな……!」
都怒我阿羅斯等は退かぬ。純粋生命の力はいよいよ抗体兵器でも耐えきれず、鋸剣はびしりと割れた。
「言ったはずだ。知ったことかと」
抗体兵器は所詮、呉越同舟相成っただけの仇敵に過ぎぬ。
イグニスはそれ自体を捨て石に、光を跳んで頭上に回っていた。
纏うは覇気。これなるは白虎の拳の応用、今我が身は虎の牙なり。
「貴様の絶望なぞ、彼らは知ったことじゃない。仲間を返せ――|オブリビオン《・・・・・・》!!」
怒りの蹴撃、頭部を捉える! 都怒我阿羅斯等は縦回転しながら吹き飛ばされ、火花が散るほどのスピードで地面を擦った!
「ぐぅおお……ッ!!」
血がぼたぼたと滂沱の如く溢れ、都怒我阿羅斯等の足をふらつかせる。
降り立ったイグニスも無傷ではない。だが、死んでいない。生命はいまだここに。
誓いと記憶は、この胸に。
「この世界は、壊させやしない」
肉体を凌駕するほどの魂を燃やし、あの頃から変わった男は立つ。あの頃と変わらず、同じように。
大成功
🔵🔵🔵
新田・にこたま
槍による先制攻撃は私のサイバーアイによる見切りであれば受ける場所をかろうじて選ぶことぐらいはできるはず。槍の攻撃に対して右腕の義肢を差し出すように躍り出ます。そして右腕に当たった瞬間、即座に右腕の接続を切断。右腕に犠牲として吹き飛んでもらい即死を避けます。余波だけでも大ダメージでしょうが。
決死で攻撃を捌きつつ、カウンターでミサイルを放ちます。そのミサイルに降り注ぐ液体。多分宇宙細菌入りの化学兵器とかそんな感じの抗体兵器です。
抗体兵器を纏ったミサイルが生命樹を枯らしながら着弾すれば、骸の海と抗体兵器のWパンチで生命樹を滅ぼすことができるでしょう。
絶望には一人で沈んでいろ…!
私は、まだ諦めない…!
●諦めを受け入れぬ者
新田・にこたまのサイバーアイは、どうやら故障していたらしい。
なぜなら、遠間にいたはずの男が、一瞬で目の前に近づいてきたからだ。
故障としか思えない。でなくば――都怒我阿羅斯等の動きが、にこたまの近く力を上回り、サイバーアイの性能をすら超えたことになる。
「くっ!!」
にこたまは咄嗟にフォトン光刃を纏った特殊警棒を振るい、ディアボロスランサーの一撃を受け止めた。
次いで生命樹の輝きがにこたまを圧す。色なき水銀を思わせる液体状の金属が、にこたまの身体を包み込むようにして螺旋を描くと、生命樹の先端部が枯死し滅んだ。両者は弾かれ、ともに両足で地を削りながら身を起こす。
「なんという|ざま《・・》だ、異世界の者よ。汝は身も心も鉄で鎧い、骸の海に冒されることすらも受け入れたか」
「……|悪党《てき》に倫理的説教を受けるつもりはありません。私が行うことはすべて正義なので」
にこたまはぴしゃりと言い捨てた。
「私が私の身体をどうしようが、私の勝手です。世界を滅ぼさんとするオブリビオンが、「親からもらった身体を大事にしろ」とでも言うつもりですか?」
「……我はとうに朽ちた者。それは我が意に非ず」
都怒我阿羅斯等はディアボロスランサーを構える。それだけで大気が重みを増した。
「生命は斯様にも醜く無様なるか。諦めを知らず、諦めることが|出来ぬ《・・・》者よ。汝に引導を渡してくれる」
「熨斗をつけてお返しします」
にこたまは言い、拳銃で牽制射撃をしながら前へと跳んだ!
都怒我阿羅斯等の全身を、蒼いオーラが覆う。
「ならば見よ。これこそは宇宙に生命を蒔きたる天地開闢の光よ!!」
光輝が、膨らむ。圧倒的熱量は、生命というプラスのエネルギーでありながら、あまりに熱く大きく強すぎるゆえに生命さえも滅ぼしてしまう。
にこたまは右腕を差し出した。最初から避けるつもりなどない。同時に肩の付け根の接合部分をパージし、左側に跳ぶ。肌すれすれを熱量が迸った。
「……ッ!!」
右腕部は当然のように爆ぜる。純粋生命は火や炎のような、単純な熱とは違う。より根源的なエネルギーそのものであり、剥き出しの熱量は太陽の熱放射など火にはならない。いわば、生命だけを滅ぼす過剰な栄養だった。
「……絶望には、一人で沈んでいろ」
爆発の余波で空中を舞いながら、にこたまは言った。
周囲を泳ぐ液体金属――すなわちカタチなき抗体兵器が、サイバースペースより現出した弾頭にへばりつき、溶け込み、それ自体を兵器とする。
「私は、まだ諦めない……諦めなど、正義には存在しません!!」
骸の海を詰め込んだ弾頭が、都怒我阿羅斯等へと飛来した。
生命根絶と、堆積した過去そのもの。ネガティブエネルギーの相乗効果だ。
「うおおッ!?」
ありえざるふたつは互いに互いを消滅させあいながら、質量崩壊のエネルギーをもって都怒我阿羅斯等を灼いた。
放出された純粋生命が、骸の海化した環境を即座に正へと引き戻す。荒れ狂うエネルギーは、原初の地球に似た。
都怒我阿羅斯等は呆れ、恐れ、そしてやはり絶望した。
残骸たる己が堕ちたあの混沌をすら、生命はわがものとし足掻くのだ。
光の向こうの光は、かつての彼にもあるはずのものだった。
乾いた絶望と澱みなき敵意の中には、わずかな羨望と郷愁も遺っていた。
成功
🔵🔵🔴
リア・ファル
飛んできた剣型の抗体兵器を取り、『ヌァザ』と二刀構える
「ヌァザよ、抗体兵器を取り込み、我が力とせよ! ……多元干渉最大出力!」
己が生命と呼べるかは惑うときもあるけれど、ボクはボクさ、今この時ばかりは、ヒトの願いにより創造された非生命体として!
その呪いも力も、乗り越えてみせる!
(情報収集、ハッキング、全力魔法、リミッター解除)
邪魔させるわけにはいかない
今を生きる銀誓館の皆と、新たな宇宙に旅立つ彼らのために!
悪いけど、ボクの旅路はまだ続くんだ、こんなところで引き返したりしないさ
凌ぎきったら反撃
ディアボロスランサーよ、命のために動け
【法則操作・自在結界】
生命のエネルギーよ、ボクの声に応えて奴を討て!
●希望という文字が表すは
宇宙より飛来せしは、一見すると超常の兵器とは思えぬほどにシンプルな作りの両刃剣だった。
「……これが、抗体兵器。かつてこの世界の能力者たちが、幾度も戦った敵の力……」
リア・ファルは呪い溢れる剣を掴み、それが生命の敵たる所以を知った。
バーチャルキャラクターとは、電子の海より現れた新たな生命。
本質は物質に非ず、さりとて完全なる電子とも異なるはざまの者。
0と1で定義され、その刹那にある|なにか《・・・》によって進化した種。
抗体兵器は、その|生命《なにか》をひたすらに否定している。
ともすれば呪いはリアさえも脅かそう。生命の埒外たる猟兵でなくば、迂闊に手にとることすらも出来なかったはずだ。
こうしてただ掴んだだけでも、たしかにあるはずの足場がふっと消えて失せたような、己の存在そのものが空虚になったような寒々しさがある。
「己が生命と呼べるか、惑うときもある。けれど、ボクはボクさ。
ヒトの願いにより創造された非生命体――だけど、少し安心した」
リアは顔を上げる――彼女は笑っていた。
抗体兵器に対する拒絶反応は、彼女が生命あるものの証左でもあった。
だからこそ、相容れぬ。
だからこそ、今は呉越同舟たる。
「生命に汚染され、無垢より堕した者よ。汝すらも、我が前に立つか」
「汚染か。たしか異形という敵たちは、そういう言い回しをしたそうだね」
ならばこの男も、生命の側にあれど、もはや|生命根絶《そちら》側の存在に成り果てたということか。
オブリビオンという残骸だから、ではない。彼の絶望こそが理由ならば。
「ボクの胸を鼓動させるのは、生命じゃない。ヒトが持つ希望そのものだ。
キミがそれを消し去ろうとするならば、やはりボクはキミを倒さねばならない」
片手に魔剣ヌァザ。
片手に抗体兵器。
「ヌァザよ、抗体兵器を取り込み、我が力とせよ!」
カタチより解き放たれた抗体兵器から、呪いが溢れかえった。
リアの身体が0と1のデジタルノイズに還元されていく。眦から溢れた赤い涙さえも意味をなさぬ数字の羅列にばらけていく。
だが!
「その呪いも、力も、キミの絶望も! すべて、乗り越えてみせる!」
たしかな力強さを込めて、リアは叫んだ。
「多元干渉最大出力! その槍はもう、キミのものじゃない!」
「如何にもその通り。ゆえにこれはすべて我が悪逆、我が絶望の愚行なり!」
男もまた吼えた。ディアボロスランサーが目を灼くほどに輝く!
「己の生まれた海へと還れ、無垢なる者よ。|希《まれ》なる望みさえ、世界にはあらぬことを知れ!!」
あらゆる生命を、拒むのではなく包み込み、癒やし慰め育むことで、過剰なる生命の力でもって滅ぼす。それがわだつみの槍の本質である。
生み出す力の悪用。リアは根絶の原理を以て、これに挑んだ。
ほどけかかったリアという存在を繋ぎ止めたのは、ひたむきな思いだ。
「邪魔を、させるわけにはいかないんだ」
今を生きる|銀誓館の皆《ひとびと》。
「彼らは、旅立った。希望を、生命を繋ぎ、伝えるために」
新たな宇宙へと旅立った|彼ら《ひとびと》。
「そしてボクも、この旅路はまだ終わってない。終わりやしないんだ!」
暖かな虚無感が心身を包んだ。0と1、合間など存在しない完全な合理へと還る救いがそこにあった。
ただそこには、希望はなかった――だから彼女は耐えられた。
「こんなところで引き返したり、しないさ!」
「……!!」
崩れかけたリアというヴィジョンが、再び彼女の像を結ぶ。
まだらに染まった剣を振るう。都怒我阿羅斯等は生命の槍で剣を受けた。
軽い。なんという軽い剣だ。こんな小娘さえも戦わせるのか、生命よ。
汝らはそこまでして世界にへばりつき、あるべき終わりと停滞を否定して生き足掻くか。その醜悪こそが……!
「ディアボロスランサーよ、命のために動け」
「槍よ! 我が意より離れるは赦さぬぞ!」
「生命の槍よ! 応えて! キミとともに旅立ったヒトたちと、この世界に残ったヒトたちの今のために!」
「槍よ――!」
リアを包む生命の奔流は、逆転した。
「ボクの声に応えて、奴を討て!」
「バカな、槍持つ我の支配をすら退ける干渉など……!?」
残骸たるその身にとって、矛として振るう生命はまさしく害悪。
都怒我阿羅斯等は生をもって死をもたらさんとする。
リアは死を手繰り、されど生を否定せず望んだ。希なる可能性に賭けた。
かつては彼もそうであったかもしれない。だが今はもう違った。
その違いが、リアの声を届け、そして槍が都怒我阿羅斯等を害するという結果に至った。
「生命使い……否、無垢なる者、否!」
都怒我阿羅斯等は叫んだ!
「……猟兵! 我が敵、おのれェッ!!」
生命の奔流が、残骸に成り果てし男を貫き、その身を蒼によって滅ぼしていく……!
大成功
🔵🔵🔵
深山・鴇
【逢魔ヶ時】
戦争が来るたびに規格外の敵が現れるものだが…まぁ猟兵も埒外だからな
そうだね、あの中の命が人質だとかにならなくてよかったよ
さて、抗体兵器とやらを手にすればいいのかな
呪いはまぁなんとかなるだろう。ねぇ、逢真君
(呪いのエキスパートでは?という顔で見た)
似合ってるよ、それ(呪詛糸が伸びる指輪を褒めつつ、自分も近くにあった西洋剣を拾った、意外なほど手に馴染むようだ)
ああ、任されたとも!
降り注ぐ流星や悪魔に紛れて攻撃を仕掛ける、何せうちのかみさまの後押しだ
決めないと剣豪の名が廃るというものさ(UC使用)
どんな場所からでも視認さえできればこちらのものだ
悪いが神殺しは初めてじゃないんでね!
朱酉・逢真
【逢魔ヶ時】
抗体兵器)糸状の呪詛を伸ばす10個の指輪。呪いと相性◎ 旦那のは結界で覆う
心情)闇落ちした元英雄…ッてトコかね。マ《過去》の時点でなにひとつ関係ねェが、まァさか宇宙船があンなちっこくなるとは。ひひ、中身のいのちが損なわれねェってのはマジで助かるやァ。じゃ、行くかァ。前任せたぜ、旦那。
行動)迎撃は呪詛糸の網を盾にして防ぐ。そこに流線型の結界と生命を害する病毒を交互無数に重ね、可能な限り詠唱時間を短くさせるため周囲にも病毒を撒き喉を焼く。いざとなりゃア旦那は黯に隠す。パリカーらよ、降り注げ。ああ、通じるとは思ってねェ。目くらましだよ、流星群も、強力な悪魔らも。頼ンだぜ、決めてくれ剣豪。
●三千世界の神を殺し
世界とはよくよく広く、深い。規格外の敵と相対するたびに深山・鴇は思うものだ。
自分では想像もつかないような神々や人間、竜、怪物、英雄、悪党がいて、すさまじい規模の偉業や戦いがあり、そのすべてが過去という堆積物になっている。
「まぁ、猟兵も埒外だからな。臆することはないが……」
視線を受け、朱酉・逢真は喉がひきつるような笑い声らしきものを漏らした。
「俺にとっちゃア、闇落ちした元英雄だろとなンだろォと、《過去》の時点でなにひとつ関係ねェさ。旦那は思うとこあンのかい」
「そうだね。強いて言うなら、|ディアボロスランサー《あの中の命》が人質だとかにならなくてよかった、かな」
鴇は、目の前に突き刺さった西洋剣型の抗体兵器を掴み、引き抜いた。
まるで長年愛用してきたかのように、柄は手に馴染む。不気味なぐらいに。
剣が媚びているようだった。心を鍛えていない使い手では、たちまち魔性に魅入られたかのように、剣を振るうことに溺れていったかもしれない。
同時に、逢真のすべての指には10の指輪。まるで、最初から嵌まっていたかのように。
骨ばんだ不健康な指に意外なほどフィットしていて、見た目はさして主張しない地味なアクセサリだ。よく見なければ、そういう身体の形状だと思われそうなぐらいに。
「ひひ。それもそォだ。宇宙船があンなにちっこくなるとはねェ」
|中身《いのち》が損なわれないというのはありがたい。常日頃気にする、味方への毒の飛散も、呪いの誤爆も気にしなくていいときている。
そしてこの抗体兵器。逢真は目を細めた。この宇宙の正しき存在、生命を根絶し否定するモノら。生命と対極にあることで、逆説的に肯定する逢真とは真逆に思えるが……。
「ディアボロスランサーよ。汝が生命の権能、少々気張って吐き出してもらうぞ」
愛する都怒我阿羅斯等は、使い手の強権で生命の槍の力をさらにひねり出した。
純粋なる生命、太陽を思わせる青い光が世界を満たさんばかりに煌々と燃え上がる。
「骨の折れる相手だ。生命使い――いや、猟兵よ。我は汝らをこそ滅ぼすためにここへ蘇ったというわけか」
「おお、おっかねェ。俺ァ、ンな大したモンじゃねェさ……旦那はともかくな」
「よく言う」
鴇は苦笑し、呼気ひとつ。空気がずしりと重くのしかかる。
呪詛は|同行者《逢真》がうまくやってくれている。自らは|剣豪《役割》を果たせばいいだけのこと。|それ以外《防御》はすべて切り捨てる。
でなくば届かない。積み重ねた技術と、これまで培った経験が告げている。
都怒我阿羅斯等の放つ神気と殺意とがぶつかりあい、ぐにゃりと空気を濁らせた。
「槍よ、その生命を以て、生命の埒外たるモノどもを滅ぼせ!!」
青い光が膨れ上がり、爆裂した。天地開闢を思わせるエネルギーが渦巻いた。
逢真にとって、あの純粋なる生命は、《|仇敵《あの女》》を思わせるほどに対極のエネルギーであり、まさしく天敵であり、それが逆に対策のしやすさに繋がった。
生命を害するにはどうすればいいのか。簡単だ、病と毒を以て弱らせる。
自らは抗体兵器の呪詛網によってカバーし、ありとあらゆる病毒をミルフィーユのように交互に重ね、無数に織り混ぜ、青い光の到達をコンマ秒でも遅らせようとする。
「ホント、おっかねェよな……総出で頼むぜ、|流星の悪魔《パリカー》よ」
はじめに光があり、次いで星が生まれた。流れる星は病毒の到来を告げる黙示録の騎士である。全能の神が生みたもうた自らの否定者=悪魔を喚ぶ忌まわしき輝きである。
「退くがいい、女悪魔どもよ! 我に敵意誘惑は通用せず!」
都怒我阿羅斯等はそれらを一蹴した。歴史神話において英雄は色に溺れ奸雄になるものだが、彼はもはや神の域に達する。敵意を爆発させた悪魔どもはたちまちに滅ぶ。
銀色の雨をすら飲み込むほどの流星群は、すべてが純粋生命の光に呑まれた。
鴇は剣を構える自分を、俯瞰的に認識する。
目の前では、天地創造を思わせる光と闇のぶつかりあいが起きていた。
強すぎるがゆえに死をもたらす生と、強すぎる死でもって生を肯定する1と0が、目と鼻の先で拮抗している。一歩踏み出せば、自分なんてちっぽけな|人間《もの》は、ふたつの力が起こす奔流にすり潰され、肉体も魂も欠片も遺さず消え去るのだろう。
「頼ンだぜ、|旦那《剣豪》――」
声がした。鴇は薄く微笑んだ。
「ああ、任されたとも!」
神、悪魔、竜、怪物、英雄、王……すべての規格外が敵となり、すべての規格外を斬ってきた。人間は愚かだ。愚かゆえにすべてを踏破しうる。そういう役目を任された。
「悪いが、神殺しは初めてじゃないんでね!」
剣を振るう。敵はそこにいる。死が圧される。青の光が届こうとしている。飛沫が利き腕の逆を灼いた。ためらわず、いとわずに剣を振り抜いた。
光も闇も、生も死もかまわず超えて、剣閃は都怒我阿羅斯等を斬り裂いた。
「ぬうっ!!」
生命の奔流が途切れる。神話を想起させる強力なる星も悪魔も、すべて純粋生命が薙ぎ払った。すべてが捨て石である。この一撃を届かせるための。
都怒我阿羅斯等の身体から血が滴る。赤い血だ。
「なんだ、案外血の色は同じなんだな」
鴇は清々しいくらいに、あっけらかんと呟いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベリル・モルガナイト
私は。世界を。守護する。盾の騎士
果たすべき。ことは。変わりません
飛来した、ランスの。抗体兵器を。手に
元より。使い続ける。気は。ありません
【呪詛耐性】で。呪いを。なんとか。抑え。一戦だけ。使いこなせれば。構いません
都怒我阿羅斯等に。対し。盾を。構えて。前へ
詠唱時間に。応じた。威力上昇
時間を。与えなければ。威力の。強化は。抑えられる
無論。元より。強大では。ありましょうが
迫る。攻撃は。直線
タイミングを。合わせ。盾を。持つ。腕が。砕ける。覚悟にて。【盾受け】し。その威力を。受け流す
攻撃する。一瞬を。得られれば。それで。良し
受けたのに。合わせ。ランスを。強化された。身体能力の。全力で。投擲
心の臓を。穿つ
●矛と盾
抗体兵器の飛来と同時。ベリル・モルガナイトは走った。
盾を前に突き出し、身を守りながら前へ。|突撃槍《ランス》を思わせる形状――表面には凹凸ひとつない、無機的すぎる恐ろしい抗体兵器を掴み取り、腰だめに構える。
「我を恐れず、死さえ厭わず来るか。生命使い、いや猟兵よ」
ある種の戦士の敬意があった。それを黒雲のように色濃く包むのは絶望の闇だ。
青い光を浴びてきらきらと輝く、ベリルの肉体とは対称的な、くすみ乾いた光だった。
ベリルのユーベルコードは、己以外の誰かを守ろうとすると力を高める。
身を擲ち、盾となるベリルにはよく合ったユーベルコードだ。
「私は。世界を。守護する。盾の騎士」
いわんや、こんな大仰なことを言い切る精神性をしている。
ベリルにとっては、世界とそこに生きる人すべてが「誰か」なのだ。
どんな相手だろうと、果たすべきことは変わらない。盾を頼みに前に出る。
突撃槍型の抗体兵器が、ベリルの中に満ちたサイキックエナジーをすら脅かす。
クリスタリアンとて生命である。本来であれば、忌まれ根絶される仇敵。
呪詛が|紅緑柱石《モルガナイト》をくすませた。生命と相容れぬ死の寒さだった。
ベリルが死を恐れることはない。
彼女の盾は、己の身を――いのちを守るための防具ではなく、武器である。
ただ一秒でも永らえ、|世界《だれか》を守る戦いを続けるためだ。
生命が惜しいわけではない。だが、いのちを捨てるほど愚かでもない。
「あなたは。生命に。絶望したと。言いましたね」
青い奔流が膨れ上がり、爆ぜようとしている。純粋な生命の力。
サイキックエナジーの凝縮が生み出すクリスタリアンの輝きより美しく恐ろしい光輝が。
「絶望に。染まりし。あなたの。矛は。重く。強大。なのでしょう」
両足でざりざりと地面を踏みしめ、腰を落とす。速度をすべて片腕に乗せる。
「ですが――」
片手は前へ。もう片手は後ろへ。できるだけ後ろへ。柄を握りしめ後ろへ。
「私は。耐えます。耐えて。みせましょう」
純粋生命の熱量が、盾に到達した。
あっけないほど簡単に、腕が砕けた。
盾は無事でも、ベリルの腕が耐えられなかった。砕けた|紅緑柱石《モルガナイト》は石片となり、石片はさらに破砕して微塵に。微塵は熱量に熔けて消え去る。
「その向こう見ずさこそ、生命の本質。そして我を絶望させたものである」
都怒我阿羅斯等の声が光の向こうから聞こえる。
「消えよ、猟兵。汝が盾は耐えようとも、汝は生命の槍には耐えられず」
「いいえ」
ベリルが得たのは一瞬だ。たった一瞬、戦闘を維持するにはとても足らない。
だが、それでいい。限界まで引き絞った弓弦のように、無事な片腕が解放の時を待つ。抗体兵器の柄を握りしめ、すべての力と速度を質量に乗せる!
青い光を切り裂き、抗体兵器という名の矢が一の字を描いた。
「何!」
都怒我阿羅斯等は瞠目した。抗体兵器とは生命根絶の刃、ディアボロスランサーを滅ぼすために生まれた、この宇宙の正しき武装である。
ベリルが詠唱時間を稼がせないために動いたのはわかっていた。が、申し分ない熱量を孕んだこの純粋生命の光を、なぜたかが抗体兵器が喰らい飛んでくる!?
光の向こうに、青に染まらぬ|紅緑柱石《モルガナイト》の輝きがあった。
あらわになった左の顔面には、御仏を思わせるアルカイックスマイルが浮かぶ。
死の瀬戸際、全力を注いだとは思えない優しい表情だった。
「……そう、か」
都怒我阿羅斯等は身を穿たれ、貫かれる痛みとともに思い出した。
生命とは、苛烈で向こう見ずなだけではない。
同じ|生命《もの》を愛し、慈しみ、ときには他の生命のために自らをさえ捨て去る矛盾を恐れもしない、愚かで非合理的な熱量もまた、生命の本質だったのだ。
かたや隻腕、かたや突撃槍をその身に受ける。ともに重傷だ。
先に膝をついたのは、都怒我阿羅斯等のほうだった。
ベリルは立っていた。盾で身を支え、もはや満身創痍とて、両の脚で立っている。
細くすらりとした、美しい身体。けれどもその在り方は、城を思わせた。
大成功
🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
純粋生命力を齎す進化の槍
それを私利私慾の道具に貶めるなど
繁栄は文明に発展を齎し灯を|点《とも》した
然し格差、人種、戦争を理由に人類は争い殺し合うことも当たり前になった
だから滅んでも良いのか?
それが『槍の持ち手』としての原罪なのか
馬鹿にするなよ痴れ者が
醜く在ろうとも
愚かであっても
僕達は寄り添い合い困難を越えて進む
独善で勝手な屁理屈ほざいてんじゃねえぞジジイ!!
◆熱力学第一法則
来い!抗体兵器『アダマスの鎌』!
生命を刈り取る力で世界樹の枝葉を切り裂き
神権の副作用は激痛耐性+浄化で中和
生命の奔流を武器受け+切り込みで押し戻し、怪力+グラップルで掴まえる
念動力+火炎耐性
限界突破+焼却でもろともに薪になれ
●生命に課された罪
世界でもっとも広まり読まれた書物に曰く、人は原罪を背負うという。
人の始祖は禁断の果実に手を出し、智慧の対価に楽園を追われた。
何も知らなければ、それは無垢という。何かひとつでも知れば足らぬが生まれる。
かくして人は不完全なものとなり、その代わりに地に満ちることを許された。
目の前にいるのは、ヒトを――いや、生命を地に満たさせた英雄であるという。
この宇宙の創世はいかなる神話とも異なった、|外世界からの介入《サムシング・グレート》で成り立っていた。
「それをあなたは……いいや、お前は私利私欲の道具に貶めるか」
戒道・蔵乃祐のごつごつとした拳に血管が浮かび、ぶるぶる震えた。
「なるほど、|生命《じんるい》は愚かでしょう。言わんとすることはわかる。
繁栄は文明に発展を齎し灯を点した。智慧と技術が社会を豊かにした。
しかしそれが、格差や人種、戦争、人類が争い殺し合う理由も生み出したのだから」
都怒我阿羅斯等は鋭く睨み返した。
「だから滅んでもいい――などと、我は抜かすつもりはない」
峻厳な瞳。苦行を超えた修行僧を思わせる凪があった。
「我が悪行に共感は要らず。納得もまた必要なし。これはすべて我が絶望がゆえの傲慢。
生命の埒外たる者よ、世界の外より来たりし生命使いよ。赦さずとも構わぬのだ」
「……馬鹿にするなよ、知れ者が」
底冷えするような声が応えた。
『槍の持ち手』の原罪だと嘯くならば、まだマシだっただろう。
生命をもたらした愚行のツケを払うと、人間らしい理由であったならば。
だが、これはなんだ。それすらもすべて受け入れ、背負い、なお悪たるだと?
そんなものは、もはや神の理屈だ。|敵《あれ》は、そういう|つもり《・・・》なのだ。
「醜く在ろうとも、愚かであっても、|生命《ぼくたち》は寄り添い合い困難を越えて進む。醜くて愚かだから、互いに補い合おうと群れ集うんだ」
ただ独り、善も悪も超越して在ろうなどとはヒトが振るっていい理屈ではない。
|そんなもの《・・・・・》に成り果てたことと、そんな理由で滅ぼされるなどということに、蔵乃祐は滾った。
「独善で、勝手な屁理屈ほざいてんじゃねえぞジジイ!!」
咆哮が大気を揺らす。純粋なる生命の青光が迎え撃った。
呼応するように、宇宙の彼方、生命なき真空の闇より飛来するものがある。
神話において、雷神が己の親たる創世神の創造の証を堕とし、不具へと貶めた神殺しの刃。生を以て生を否定する相手には相応しい、死を以て死を齎す武器。
「来い、『アダマスの鎌』よ!!」
その銘に従い、抗体兵器は蔵乃祐の掌にするりと収まった。
|生命《ヒト》が握ってはならぬ禁断の力の代償で、蔵乃祐の両目より熱血が溢れた。
「足掻くな、猟兵よ。お前の憤懣も苦悩も、すべて手放し還るがいい!」
「断る!!」
激昂。海を思わせる青い光の波に逆らい斬り裂いて、蔵乃祐は走る。
都怒我阿羅斯等は眉根を寄せた。傷つき斬られ穿たれた身の痛みからではない。
生命のもたらす|救済《おわり》を否定し、拒み、進む敵の姿は愚かだった。
醜くもある。それに眉根を寄せたわけでもない。青の奔流が輝きを増す。相対距離が縮まる!
純粋生命の熱量を喰らい、たましいをとこしえに滅ぼす業火が渦巻いた。
「これは」
都怒我阿羅斯等は槍を引こうとしたが、叶わなかった――炎を貫いて現れた巨腕が、手首をがしりとつかんだからだ。
世界樹の角が、敵対者を弾き出そうとしたが、すべて生命を刈り取る鎌が切り裂く。
「もろともに薪になれ」
仁王の如き形相が、滲み焦げるような声で言った。
「自滅覚悟だと。愚かな」
「そうだ。愚かだとも」
炎が蔵乃祐を包む。腕を通じて都怒我阿羅斯等をも呑む。逃れられぬ!
「だが、お前に比べればまだマシだ」
純粋生命は宇宙が嫌う根源の熱量だ。生命が生み出し、生命を生み出すエネルギーそのもの。
罪業を責め苛む業火はそれすら……いや、ゆえに熱量を飲み込み燃えた。冷酷なる熱力学第一法則に従って。
エネルギーは消えも増えもしない。強い熱量は弱いものを飲み込む。シンプルな理屈。ただ、それだけのことだった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルジニア・ルクスリア
「槍を持つ男」関連の情報は、銀誓館の末席に名を連ねる者として平静ではいられないものばかり。
だけど、一つだけはっきりしている。槍を持つ男。こいつだけは絶対に倒さないと!
天から降り注ぐ、抗体兵器の一振りを手に取る。
禍々しい大鎌の抗体兵器はサキュバスの、元々はパフュームリリスの私の手に良く馴染む。忌々しいぐらいに。
……選り好み出来る状況じゃない。『生命樹状態』なんてチートを覆せるなら、何だってやってやるわ。
敵からの【先制攻撃】は直線攻撃。攻撃のタイミングを【心眼】で【見切る】事で【残像】が出来るような【軽業】で回避。
先制攻撃を生き残れて漸く、スタートライン。
今回はハードモードだからね。柄にもないけど死にもの狂いになって戦うわ。
『禁忌融合・女怪』発動
戦闘後にダメージを全て受けることになるけど、なりふり構っていられないわ。
……旅立った人達の志を無駄にするわけにもいかないもの。
※アドリブ・絡み歓迎。抗体兵器はお持ち帰りします。
●過去を超えて過去を討て
かつて、都怒我阿羅斯等は『神将』として銀誓館学園の前に立ちはだかった。
しかし当時の能力者たちは、ディアボロスランサーの存在さえ知らなかった身だ。
すべてが明らかになった時には、すでに都怒我阿羅斯等は斃されていて、情勢は感慨に耽る余裕さえ与えてくれなかった。
すべてが終わり、そしてまた始まった今、こうしてそのものが別の形で敵になるだろうと、誰が予想できただろう?
ヴィルジニア・ルクスリアが平静を保てなかったのも、当然だ。
それでも、あの男は――あの|敵《・》は、斃さねばならない。
己を強いて決意し、戦場に駆けつけたヴィルジニアの心は、やはり強かった。
生命樹はそんな彼女の決意さえも一顧だにせず、ただ敵対者として消し去ろうとする。
生命樹の攻撃を阻んだものを見て、ヴィルジニアは大きく目を見開いた。
「味方になるかもしれなかった相手が敵になり、敵だったものが味方になるのね」
膝立ちの状態から立ち上がり、目の前に突き刺さったものの柄に手を伸ばす。
それは、鎌だった。寓話の死神が振るう死の象徴めいた、禍々しく不気味な大鎌だ。
一方で刀身は奇妙なほどに透き通っていて、それが逆に怖気を立たせる。
血に濡れることなき清廉の刃。触れてはならぬものだと直感が告げていた。
だが、選り好み出来る状況ではない。ヴィルジニアは柄を掴んだ。
意外なほどに手に馴染む。馴染み|すぎる《・・・》。忌々しいほどに。
「そう。これは、|リリスだったもの《かつての私》向けの武器なのね」
担い手を蝕むはずの呪詛すら、おそらくは他のものに比べれば『軽い』のだろう。
その事実がヴィルジニアの胸をむかつかせる。短く呼吸し、心を落ち着けた。
「消えよ、生命使い。いいや猟兵。そしてこの宇宙の抗体よ。消えよ!」
都怒我阿羅斯等が吠え、海を思わせる純粋なる蒼の光が膨らむ。
「いかに世界の敵と成り果てど、我は生命の槍を振るうもの。
槍よ、我が声に応えよ。純粋なる生命の力もて、生命を滅ぼすべし!」
傷つきなお敵対する都怒我阿羅斯等の目にあるのは、褪せた本のような乾いた絶望だ。
何かを求め欲する、ぎらついた闘争の色ではない。
サキュバスであるヴィルジニアからすると、ひどく「枯れた」色だった。
「あいにくだけど、私はまだあなたみたいに諦めるつもりはないわ!!」
ヴィルジニアは大鎌を振るい、光の初撃を凌ぐと、横に跳ぶことで直撃を回避。
軌跡を追って光の奔流が戦場を薙ぎ払うと、今度は上に跳んで地の利を得た。
「そうだろうとも。でなくば、かつて我を屠った者たちではあるまい。
我とて、この行いを理解せよとは言わぬ。我らはとうに仇敵にして天敵よ!」
生命の槍が震えた。都怒我阿羅斯等の意思に逆らおうとする槍自体の反抗か。
都怒我阿羅斯等は力任せに槍を支配し、頭上から振り下ろされた鎌を受ける。
「くっ……!!」
反発力が大きい。膂力の差は明らかか。逆方向へ吹き飛ばされたヴィルジニアに、大砲の砲口めいて槍の鋒が向けられた!
(「終わり? 違う、ここからがスタートラインよ」)
その力は、禁忌だ――危険性の問題ではない、|いまの《・・・》ヴィルジニアにとっては忌むべき力。
だが、過ぎて去った道程でもある。己を己たらしめる礎。
「あなたが振るうその槍は、かつて希望を乗せて次の宇宙へと旅立ったの。
今もその矛の中には、旅路の途中の人々がいる……それなら、わたしは……!」
過去の鏡像が、影法師のように立ち上がり、いまのヴィルジニアに重なった。
「――旅立った人たちの志を、無駄にするわけにはいかないのよ!!」
空中を蹴り、疾駆! 抗体兵器が震える。真に正しき|担い手《ゴースト》に歓喜する。
「その姿……なるほど、抗体兵器が降り来たるのも当然か。我という生命を否定するか!」
「違う……!」
刃と矛とが、上下に交わった。
血が飛沫を上げ、びちゃびちゃと散った。
「ぐ……!!」
都怒我阿羅斯等は刀で己の身体を支えた。ヴィルジニアはこみ上げる熱情めいた高揚を深呼吸で冷まし、振り返る。
「リリスだから、ゴーストだからじゃない。私は、わたし。この世界の意志を継いだひとりとして、猟兵として|過去《あなた》を越えるのよ」
澄み切った刃よりも、彼女の瞳と言葉はクリアだった。
大成功
🔵🔵🔵
メリー・スペルティナ
抗体兵器……シンプルというか幾何学的で無機的な寒々しい感じの剣ですわね……
先制でも要詠唱のUC、なら少しは猶予がある筈ですわ
使い捨て血晶石を撒き、抗体兵器での生命樹の無力化と呪詛による詠唱妨害を狙いますわ
一応即放って来る可能性は頭に入れ、槍の切っ先には意識を向けますわ
……まあ即死しなければ負傷は構いませんのよ
後は反撃…の前に、血晶石と負傷又は自傷で流した血の一部を抗体兵器に纏わせます
この血は多くの怒りや嘆き、恨みや妬みなどをその底に抱える、
本来なら絶対やりませんが、UCでそれらのいわば怨霊に形を与えると同時に、抗体兵器の力を伝播させ、あの男へ一斉攻撃ですわ!
そういう思念の方が「そちら」にも相性がよいですわよね?
……まあ同時にこの血はそういう「呪い」を内に封じ浄化するもの。抗体兵器はそのまま血の力で取り込み封じさせてもらいますわ。
あと生じた「怨霊」達も終われば同様ですわね
生命根絶とか言い出す呪いの塊を放置する気なんか更々ありませんのよ
※アドリブ連携等歓迎です
●そのあとに起きるもの
万の時を閲し、けして融けることなくなった氷晶を思わせる剣だった。
一切の華美を捨てた、機能の究極にある刃。刀身は不気味なほどにまっすぐと伸びる。
メリー・スペルティナは、あまりにも幾何学的で無機質な剣の寒々しさに、ぶるりと身を震わせた。
触れた瞬間に、身体の芯から凍てついたような感覚を得たのは間違いではあるまい。
なぜならそれは、抗体兵器――すなわち生命非ざるべき宇宙が生み出した、生命という『侵略者』に対するアンチボディ。
半吸血鬼とて生命である。呪詛は否応なくメリーの心身を蝕んでいく。
「生命根絶、でしたかしら……本来であれば即破壊するところですけれど」
メリーは言いつつ、剣を振るい生命樹による反撃を相殺する。
ひい、と奇怪な風鳴りがした。死にかけの亡者の喉から漏れる呻きめいた剣閃。
「……これであなたに近づけるなら、重畳ですわ」
対する都怒我阿羅斯等は、褪せた瞳をすっと細めた。
仮にも、生命の根源たる槍の担い手としては、あまりにも光のない双眸だ。
「あくまでも、我を過去の残骸とし取り除かんとするか。生命の埒外たる者よ。
汝のそのたゆまなき生存の意志こそ、骸の海にて我を絶望させた生命の本質……!」
次の瞬間、青い光が視界を染めんばかりに燃え上がった。
メリーは血晶石を飛礫のように撒き散らし、槍の穂先に注意を払う。
(「こちらの妨害を意識するなら、一瞬でも早くユーベルコードを発動するはず。最悪死ななければそれでよし」)
思考は純粋生命力の奔流に遮られた。放たれた威力は、不十分な詠唱でさえなおメリーの想定を超えていたのだ。
致死は避けた。が、純粋生命の熱量は容赦なく彼女の骨肉を消し飛ばした。
草木に水を与えすぎると枯死してしまう。過剰な生命力は逆に毒となるものだが、ディアボロスランサーほどの出力ともなると、生命力それ自体が純粋なる熱量を帯びるのだ。メリーは、母の胎のような暖かさで身を灼かれるという奇妙な感覚を味わった。
「避けたか。だが次はないぞ、猟兵!」
再び生命の力が汲み上げられる。メリーは傷を抑え……流れ出した血を、不気味な長剣に纏わせた。
「あなたのように、死の先の絶望に狂った魂を、わたくしはいくつも見てきましたわ」
刃に移った血はひとりでに蠢く。まるで、蜘蛛の糸にすがる亡者のように。
「怒り、嘆き、恨み、妬み……生前の感情は、死しても決して消えはしないもの。
あなたが死して絶望したなら、わたくしはそれら終わらぬ死者の想念を以て抗います!」
「!」
メリーの思惑通り、抗体兵器と死者の怨念は実に相性がよかった。
ぶくぶくと泡立った血から無数の不定形の死者が生まれ、メリーに先んじて都怒我阿羅斯等に襲いかかる!
抗体兵器の呪詛を纏った怨霊は、それ自体が生命に対しての天敵たりえる。
放たれようとしていた青い光を貪るように呑み込み迫る死者を、都怒我阿羅斯等はもう片手の刀で修羅のごとく斬り伏せた。
「おのれ……! 生きるためならばどんなものも使うというのか、獣にすら劣る貪欲ぶり……!」
「自分の絶望ひとつで世界を終わらせようとするあなたに、言われたくはありませんわね!」
メリーは血によって倍に伸びた刀身を横薙ぎに振るい、しがみついた亡者もろとも都怒我阿羅斯等を一閃した!
それは矛であり檻。呪いを封じ浄化する力をもて敵を害し、同時に世に在るべからざる怨念を封ずる。
メリーの在り方は変わらない。多くの怨恨憎悪を祓いし乙女にとって、絶望など踏み越える道程に過ぎないのだから。
成功
🔵🔵🔴
紫・藍
やや、空から十字架が!
マイクとしてちょうどいいのでっす!
あや、呪いでっすかー?
藍ちゃんくんは藍ちゃんくんの完結をこそ目指しているのでっす!
変革を続ける藍ちゃんくんが成し遂げたと思えるのは。
きっと、最後のその時なのでっす。
藍ちゃんくんが終わる時へと捧げる生き方をしている藍ちゃんくんにとって、死とは呪いではないのでっす!
いつか笑う未来なのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
歌うのでっす。未来を手に歌うのです。
祝詞。詠唱。唄である以上、藍ちゃんくんの領分です!
呪うは祝詞に通ずる!
語源を同じくする祝詞に対応する呪いを十字架さんと歌にして、祝詞とデュエット!
適当に詠唱すれば良い訳ではないないはず!
呪詛をデュエットされたことで祝詞として成立しなくなる以上、威力は落ちるかと!
槍に怒られていて息のあってないおにいさんの歌を息ぴったりの藍ちゃんくん達が呑み込むのでっす!
凌げば藍ちゃんくんの番でっすよー!
癒すは嘆き!
打ち破るは生命への絶望!
神将として手放し、オブリビオンとして失った死を、お返しするのでっす!
●終わりの話
青い角を思わせる生命樹が、本来ならヒトに寄り添うはずの生命の光を放つ。
使い手たる都怒我阿羅斯等が絶望に堕ちた今、それは同じ生命を害する危険な光だ。
紫・藍も、為す術もなく弾き出される……かと、思われた。
が、空から流星のように舞い降りた抗体兵器が、光と藍の間に割って入った。
「やや! 空から十字架が!」
地面に突き立ち聳えるのは、磔を思わせる巨大な十字架だった。
武器として振るうには不格好すぎる。藍の戦い方にはなおさら合わない。
死をもって生を終わらす抗体兵器が、救世主の象徴たる十字を象るとはなんという皮肉であろうか。
「これは……マイクとしてちょうどいいのでっす!」
しかしいかんせん、使うのが藍だったのでこのノリだ。
不穏な呪詛にも構わず手を伸ばす。藍は、藍らしく歌うのが仕事だから。
「そうして生きてなんになる?」
「……あや?」
出し抜けに、都怒我阿羅斯等が問うた。
「それなるは生命根絶を掲げる宇宙の自己防衛反応。いわば汝やかつての我の天敵。
猟兵よ、今一度問おう。汝が生命に、そこまでして永らえる意味はあるのか」
「……」
藍はぽかんとして、しばし黙ったあと答えた。
「藍ちゃんくんは、藍ちゃんくんの完結をこそ目指しているのでっす!
いつか「藍ちゃんくん」が完結するときまで、藍ちゃんくんは変わり続けるのでっす。
おにいさんにとっての死は、きっと|そう《・・》ではなかったのでしょう!」
くしゃりと、無邪気に破顔した。
「でも、藍ちゃんくんは違うのでっす! なぜなら藍ちゃんくんにとって生きることは、その「最後のいつかの終わり」へと捧げるため、終点までのステージなのでっす!」
「…………」
「藍ちゃんくんにとって、死とは呪いではなく、いつか笑う未来なのでっす!」
すべては終わる。形あるものも、形なきものも、この宇宙も生命も例外ではない。
楽しいステージもそうだ。終わるからこそ価値がある。幕が降りて初めて舞台は完成する。
藍は|十字架《マイクスタンド》を握りしめた。
「藍ちゃんくんは、未来を手に歌うのです。……その時まで、歌うのでっすよ!」
「それが、汝の生き方か。よかろう、それでこそ生命使いなり。それこそ我が絶望なり!」
青い光が太陽を思わせるほどに膨れ上がった!
「藍ちゃんくんでっすよー! さあ十字架さん、歌うのでっす!」
祝詞。神に捧げ、神を言祝ぐ御霊。歌と踊りはカミとつながる原始的な儀式だ。
生を以て死をもたらそうとする都怒我阿羅斯等の戦いは、槍の在り方に反する。
反面、死を以て死を齎す抗体兵器の在り方を、藍は否定しない。
呪いで心身を蝕まれようと、拒絶反応で甚大な苦痛を受けようと歌うのだ。
使い手として単純な勝負である。命を燃やし歌う藍のたましいの輝きは、純粋生命の光にさえ負けなかった。
「……なんという忌々しい暖かさ。生命よ、生まれ落ちた汝らはこうも輝くようになったか」
都怒我阿羅斯等の声は、懐かしむようで愛おしんでもいて、だが忌み嫌ってもいた。
そこまでして彼を絶望させたものは、なんなのか。彼以外は誰も知らぬこと。
愛の癒やしの歌声でさえの取り除けぬ。だが凌ぐことは……出来る!
「消えよ、生命! 世界とともに!」
天地開闢の光が地平線を薙ぐ! 抗体兵器の呪詛と、悲しみ払う藍の歌声は、見えない障壁のように純粋生命の光を防ぎ、耐え抜く……傷つき灼かれようとも!
「おにいさん! かつて神将として手放し、オブリビオンとして失った死を――お返しするのでっすよ!」
どくん! と、都怒我阿羅斯等の心臓が強く鳴動した。
「ぐ……!!」
生命の拍動は、残骸と成り果てた都怒我阿羅斯等にとって致命的だ。
青い光は途絶え、血を吐いて苦悶する。痛みも苦しみもない、温かい終わり。
「……まだだ、まだ、我は……!」
「なら、歌うのでっす。嘆きを癒やし! 生命への絶望を打ち払うその時まで!」
力強い歌が響く。絶望を否定せず、敵意をも包み込む藍色の歌が。
光が強ければ影も色濃さを増す。立ち上がる男の後ろに伸びる影法師は、蒼にも藍にも染まらぬ黒。それだけが、生命の敵となった男に寄り添っていた。
大成功
🔵🔵🔵
矢来・夕立
●抗体兵器:鮫剣(っぽいもの)
●先制対策:鮫剣に食べさせて受け流す
この世界の呪剣って武器。アレ良いですよね。
殺した端から食べる剣。食べながら殺す剣?どっちでもいいか。
抗体兵器の呪剣、生命樹にはよく刺さるのではないでしょうか。
コレなら先制攻撃にも対処できると思います。
光線でも角でもなんでも、生命力の塊なら食べてくれるでしょう。
呪剣で受け止めて肉薄。その間にナイフで首を切ります。【神業・影暗衣】。
|鮫剣《コレ》が満足できる殺しをやりましょう。
食べたいものも選ばせてあげます。
大将首を取りたいなら…確約はできませんが、努力はします。
生命樹を食べ続けるなら、柴刈りを続けるのも吝かではない。
そりゃホントは「もっと色々殺したい、色んな命が欲しい」とでも言うんでしょうが予算オーバーです。
武器は殺すために生まれてくる。|抗体兵器《コレ》なんてその最たるものですね。
無限の命を相手取るにはすごく役立ちました。でも危ないんで用が済んだら壊します。
嫌われましたかね。怨まれるくらいが丁度いいんで、構いませんけど。
●死を喰らう
ばきん! と鋼の砕けるような音を立て、生命樹がへし折れた。
「やはりいいですね、この呪剣とかいう武器。状況に合ってます」
がちがちと|牙《やいば》を鳴らす鮫剣型抗体兵器を、矢来・夕立は涼しい顔で御する。
欲しがり「すぎる」なら、怪力で柄を少々握りしめてやれば大人しくなるようだ。
「ぬう……!」
都怒我阿羅斯等は、へし折られた角=生命樹を即座に再生成する。
夕立の側から近づく。致命の気配を感じ、独楽のように高速回転して弾き飛ばす。吹き飛んだところへ強襲、牙と角とがぶつかりあう。この繰り返しだ。
「ただ、強欲なのが玉に瑕でして。首をもらいたいんですが大人しくしてもらえますか」
「笑止! 我とて戦士のはしくれよ、首級をそう簡単にくれてやると思うな!」
夕立は無表情で槍の刺突を受け流す。裂けた傷口を筋肉の緊張で「閉め」ることで出血を抑え、戦闘を継続する。
もしも常人がこの場にいたら、青と黒のふたつの流星が、互いに激しくぶつかりあいながら空中をジグザグに飛んでいく光景が見えただろう。
スピードでは夕立が上だ。だがそれ以外は敵が凌駕している。つまり、この状況はジリ貧だった。
「槍よ! 我が悪行にもうしばし付き合ってもらうぞ!」
ディアボロスランサーが、使い手の意を跳ね除けようと暴れる。それを膂力で押さえつけた都怒我阿羅斯等は、青い閃光をあとに引いて勝負を決めにかかった。
目にも留まらぬ超連撃。夕立は鮫剣に生命樹を食らわせることで凌ごうとするが、一に対処すると三が叩き込まれる有様。単純なダメージレースに差がありすぎる。
「生命を生み出す槍、ですか。アンタの使い方のほうが「らしい」と思いますけどね、オレは」
次第に防御を捨てた夕立は、ひたすら間合いに敵を捉え続けることを優先した。
被弾を意に介さずカウンターで生命樹を喰らい、守りが薄らいだところにナイフを滑り込ませる。「倒す」のではなく、「殺す」戦い方に。
「その点では|抗体兵器《コチラ》のほうが向いてますよ。武器ってのは殺すために生まれてくるものなんですから、当然ですかね」
「フッ……言うな猟兵、敵ながら肯定せざるを得ん。こと「殺す」威力に関しては、いかなディアボロスランサーとて先を譲らざるを得まい」
「勘違いをしてますね」
夕立の姿が消えた。都怒我阿羅斯等は、己が見ているのが影であることを理解する。
「使い方を理解できていないのは、アンタ自身ですよ」
声は背後。都怒我阿羅斯等は首を抑えた。ぶしゅり、と鮮血が噴き出す。
「あなたの槍の使い方は「らしい」ですが、その槍の「正しい」使い方じゃないんでしょう。そこまでしてまで|生命《オレたち》を殺したいんですか」
「ぐ、が……」
「なら、そんなあなたにお似合いの武器をあげます。どうぞ」
振り返り槍を繰り出そうとした都怒我阿羅斯等の土手っ腹に鮫剣の牙が食い込んだ。
夕立は柄を蹴り飛ばしさらに胴体に食い込ませ、都怒我阿羅斯等を地面に叩き落とす。
衝撃に耐えられず、抗体兵器が砕け散る。着地した夕立は膝を突きかけ、堪えた。ぼたぼたと血が足元にシミを作る。
「あいにく、オレは戦士ではないので。あなたには同意しませんし、その気持ちも理解できません。普通に殺します」
都怒我阿羅斯等には絶望という原動力がある。夕立にはない。憎悪も怒りも。
ゆえに迷いも躊躇もない。時にはその虚が、死すらも喰らう牙となる。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
真の姿:全盛期の能力者・黒い盾隊服着用・大人
この世界は命あるものが勝ち取った未来だ
「起動」
今だけは花園の栞を忍ばせ所属結社の隊服で戦う
必要な武器を忌避はしない
唯では済まないと理解しつつそれへ歩む
暗黒を抜け宇宙風化もせず蟠る大鎌を手にすると
命拒の波動が俺を即蝕む
「上等だ」
望むのは今揮える最大の力
あの船には俺の団長も俺が引き受けた結社の仲間も
沢山の、沢山の銀誓館の能力者が
「己が絶望に世界を勝手に巻き込むな」
果てなき彼方を夢見た皆を
命満ちるこの世界を
貴様なぞに絶対に渡さない
全技能励起
あらんかぎり攻撃や蝕みに抗い
蟲笛のククルカンでも攻撃を躱し
全身全霊を籠め
光蟲の槍詠唱
強く集中し高速・多重詠唱で更に創出
想うはあの時代
遠く俺が憧れた光
大鎌に光が宿る
抗体も内包するのが解る
抗体兵器を握る手にはもう感覚がない
それでも最後まで
命無き所でも光は輝く!
「貫け!」
渾身の力で送り出し更に追撃射出
乱反射する光も蟲も生命樹に追撃を叩き込む
事が成れば宙征く船は遠ざかっていくだろう
「…良い旅を」
さようならは今日も言わないよ
レモン・セノサキ
※連携・アドリブ・負傷大歓迎
抗体兵器ね……大丈夫さ、心配は無用だよ
使えるものは何でも使う
毒を以て毒を制す、なんてのも茶飯事さ
敵UCの転移は当然拒否
▲オーラ防御で▲ジャストガードを狙い、ダメージを軽減しよう
真の姿解放と同時に襤褸襤褸の符を投げ上げ【指定UC】発動
初手で仕留め損なったな、|病魔《トゥルダク》を
|るー、るーるー、るー、るー《敵が増えるぞ、今すぐにでも》!!
各々の「ブルーコア」改め「抗体兵器・レッドコア」の大群から▲レーザー射撃
残骸共は取得した抗体兵器のガンナイフ、ライフル、バルカンで集中砲火の援護射撃
何人かは「霊体外套」で姿を隠し、移動しつつ急所を狙撃(▲スナイパー)
銃弾の嵐の中、自分は「Ein」で接近戦を挑もう(▲グラップル)
敵UCは各自「奇術符」の幻影を身代りに回避
奇術符に組込んだ麻痺の呪詛で呪い返そう(▲マヒ攻撃)
一撃を当てられないんじゃ何時まで経っても減らないぞ
ズタボロの負傷上等、更に▲挑発していこうか
おい、ノロマ
私一人に構ってていいのか?
後月・悠歌
この地に蘇った宿縁をよすがに、私はここへ戻ってきた
けれどまだあの場所には、幾人もの同胞たちが残っているわ
新たな宇宙へ希望を届けるために
この世界も、皆の意思も、潰えさせるわけにはいかない
――あなたは、ここで倒すわ
自分が抗体兵器を握る日がくるなんて、不思議な話ね
手にするのは当然、楽器を模した抗体兵器
さあ、戦いましょうか
この音の響く限り、あなたの好きにはさせない
呪いが身を蝕むだけでなく、相手は強大な力を持っている
どのみちほとんど攻撃を入れる暇などないでしょう
なら初撃に全てを掛けて、最大火力を叩き込むのに腐心するだけ
その手の槍を放つというのなら、それは線の攻撃になる
穂先の向きを、そのエネルギーの行く先を、全神経を研ぎ澄ませて見極めて
先制の槍撃と交差するように体を捻りその直撃を避けながら相手へ肉薄
完全に回避することが難しくても一撃を入れる体力さえ残れば構わない
最大まで威力を高めた一撃を全力で叩き込むわ
生命の槍を振るう者が、生命の紡ぐ未来を阻むなんて
そんな悪い冗談は、ここで終わりにさせてもらうわ
能力者にとって、呉越同舟はまったく経験がないわけでもない。
今でこそ友好関係に至った大陸妖狐がいい例だ。
あの時の選択が違えば、大陸妖狐か人類のどちらかが消えていたのだから。
土蜘蛛、吸血鬼、クルースニク、悪路王――来訪者や新世代ゴーストは選択と友好の歴史だ。
いまさら抗体兵器の何を恐れようか。レモン・セノサキは笑ってそう言った。
ただ。
そのひとつひとつの選択は、常に死闘と苦難と喪失の歴史でもあった。
土蜘蛛との友好は、双方にとって多くの……大きな、犠牲を出した。
過去に学んだ銀誓館学園は、新たな女王に自ら手を差し伸べたが、彼らの意志は血と仇で返された。
後月・悠歌はよく知っている――身に沁みて。他の誰よりも。
もちろん、銀誓館学園の思いが裏切られたことは一度だけではない。
クルースニクと吸血鬼。相争う両者の手を取り合おうとした能力者たちは裏切られ、遠くヨーロッパの地で魔狼との死闘を繰り広げることとなる。
原初の王はいまだ滅びず|世界《ここ》に在り、選択の因果は巡り巡ってセイクリッド・ダークネスの解放へとつながった。
どれひとつが欠けても人類の勝利はなかったろうし、どれかひとつが掬えていれば今の死闘はなかったかもしれない。
失った命は戻らない。これが本当に、最善でもっとも正しい|未来《いま》だったのだろうか。
葛城・時人は何度も己に問うてきたし、これからもそうするだろう。
それぞれの青春があった。
それぞれの現在がある。
そのすべてを、槍持つ男は滅ぼすのだという。
遠い別の宇宙に旅立った仲間たちすらも逃さず、すべて、滅ぼすという。
「この世界は、命あるものが勝ち取った未来だ」
時人は、イグニッションカードを取り出した。
「貴様が手にするその槍は、たくさんの|能力者《ひとびと》の未来を乗せた船だ」
描かれているのは、在りし日の結社の統一隊服。黒子の如く世界を守る決意のかたち。
「貴様が、そんな理由で手にしていいものじゃない」
青い瞳が瞬く。奥なる光の名を闘志という。
「……私がこうして宿縁を寄す処に戻ってきたのも、この瞬間のためだったのかしら」
悠歌は囚われた槍を、そして時人を見、静かに言った。
「けれどまだ其処には、幾人もの|同胞《なかま》たちが残っているわ」
今はあえて彼に倣い、あの時と同じカードを手に、立つ。
「新たな宇宙へ希望を届ける旅を、こんなところで終わらせたりはしない」
透き通るような声が言った。奥底に宿る音の名を信念という。
はぁ、と溜息ひとつ。レモンはボロボロの符をひとつ取り出した。
「忙しいんだよね、|生者《みんな》は。まあ、|悪霊《わたし》もだけど」
風に、赤いメッシュがなびいた。血の涙を思わす艶やかな赤が。
「斃さなきゃいけない|過去《やつら》がいるんだ。ここで止まってられないんだよ。
……神将にまでなって探し求めていた槍の使い道が、そんななんて寂しい奴だね」
生命に仇なした|抗体《おのれ》が言えた義理ではない。だが。
「|槍《それ》はもうお前のものじゃない。旅立った|能力者《みんな》のものなんだ」
握りしめた手に力が籠もる。燃え上がる炎の名を決意と言った。
死と隣合わせの青春を息抜き、旅立ち、悔やんだ者たち。
形も道行も異なれど、今は肩を並べひとつの敵へ。ならば唱える言葉はひとつ!
「「「――|起動《イグニッション》!!」」」
●いつか、彼方で
3人の姿が瞬時に変じ、同時に生命樹はそれらを「敵」と定めた。
「懐かしく忌まわしい生命よ。輝きを讃歌せし生命使いたち――いいや、猟兵ども。
我を怨むがいい。許すことなく憎むがいい。我は最期までこの絶望のままに進む!」
都怒我阿羅斯等は槍を地に突き刺し、吠えた。空間を震わせる大音声だ。
純粋生命の青が目を灼くほどの光となり、戦場を包む。ここより去れ生命と命ずる!
……だが!
「来たか」
時人は空を見上げた。空までも覆う青い光を飛来する星があった。
否、星ではない。目の前に突き刺さったそれは刃である。蟠る大鎌。いのちの否定者。
「毒を以て毒を制す、なんてね。……うん、いける」
周囲に剣のごとく突き刺さったガンナイフ、あるいは銃器の数々をレモンが掴み取る。
|よく馴染んだ《・・・・・・》。|忌々しいほどに《・・・・・・・》。
「自分が抗体兵器を握る日が来るなんて、不思議な話――でもそうね、敵だったものと手を取り合うなんて初めてじゃない。味方になれたはずのものと戦うことも」
悠歌の手には、すでに楽器を模した抗体兵器がある。
それは震えた。生命に振るわれることを、兵器そのものが忌むかのごとく。
「さあ、戦いましょうか」
「上等だ」
「心配はやっぱり要らなかったって、無事に帰って伝えてあげなきゃね」
呪詛が渦巻いた。生命樹は天敵の気配に震える。青い光が裂かれ消えていく!
「そうだろうとも。生命使いならばそうする。それこそが生命の本質なれば」
都怒我阿羅斯等は言い、突き刺した槍を引き抜き、構えた。
「槍よ! 汝の旅はここで終わる。求むる者どもを汝が力で滅ぼすことで!」
「言ったはずだ。みんなの旅路は、貴様の勝手な絶望に巻き込むな!!」
時人が駆けた! 命を拒み根絶せんとする抗体兵器の意志を意思でねじ伏せて!
蒼が応える。大鎌の不穏な風鳴りの直後、ふたつの刃が割れ鐘の如き衝突音を響かせた!
「オオオッ!!」
「|帰還者《わたしたち》を引き戻したのがあなたでなかったのは、嬉しいことだわ」
柔らかく、包み込むような旋律が、振り上げられた槍と男を抱きしめた。
「――だからこそ、私はこうしてあなたを止められる」
「ぬう……!」
悠歌の奏でる音が、白い光――白燐蟲を操り、踊らせる。
抗体の音色はあまりにも不気味で、|レモンを除けば《・・・・・・・》ぞわぞわと背筋を冷たい爪でひっかかれるような違和感をもたらした。
音に必要なのはアクセントだ。その歪さえも活かし、悠歌はいのちの歌を紡ぐ。
ただひとり、この場で呪詛も厭わず、生命根絶の波動を意に介さない者がいた。
「|るー《・・》、|るー《・・》」
骨を模したブーツ。濃灰のゴシックドレス。朽ちた鎖。白い髪。
「ルールー!? いや……」
時人は、レモンの真の姿を目の当たりにし瞠目した。
「……哀れなり」
都怒我阿羅斯等は双眸を顰めた。
「生命使い|もどき《・・・》よ、還るがいい。汝が|あるじ《・・・》の待つ陥穽へ!」
蒼は波濤となりて迸る。魂を還す海の如き輝き!
「|るー、るーるー《お断りだ、のろま》」
白化した前髪に二本の赤い雫めいて、メッシュが染まった。
「私のいる場所は、|穴《あそこ》じゃない!!」
拒絶反動がレモンの全身を切り裂く。溢れ出した蒼という純粋生命のエネルギーは、満杯になった水桶になおも注がれる水のようなもの。
臓器、血管、神経、骨肉、すべては血によって成り立つ。今のレモンはそうなっている。そうなることを選んだのだ。あの瞬間から。
ボロボロになった符を投げつける。化身するは往時の能力者――否。
今はその姿さえも返そう。目には目を、|残骸《オブリビオン》には|残骸《ナンバード》を!
「初撃で仕留め損なったな、|病魔《わたし》を」
立ち上がる。立ち上がる。魔弾の力宿す残骸が、虚弾の幕で蒼を染め上げる。
地より亡者が立ち上がる。|死を以て死を齎す者ども《デッド・エンド・デッド》が!
「人と魔が手を取りて創りし新たな世か。それが今の生命の選択、勝ち得た世界と申すか」
無数の弾丸を浴びて、なお都怒我阿羅斯等は健在である。
「片腹痛し。生命も生命ならざるものも、すべてことごとく滅ぼすのみよ」
「いいえ。そうはならない。滅ぶのはあなただけ」
悠歌。
「そうさせないために、俺たちは犠牲を払ってまで前へ進んだんだ。だから!」
時人。
ふたりの|能力者《イェーガー》は、レモンと残骸どもの生んだ隙に間合いを詰めていた。
都怒我阿羅斯等は天地開闢の力をコンマ秒ごとに高め、天と地とを再び分かたんと青く伸びた槍を振るった!
「それが、ディアボロスランサーの力なのね。その力で、あなたは未来を遮ると」
白燐蟲が盾となり、莫大な純粋生命エネルギーを抑え込む。
過剰生命力を浴びた蟲が爆ぜ散る。壮絶な終わりだった。
「――そんな悪い冗談は、ここで終わりにさせてもらうわ……!」
「我はすでに終わったものよ。その手で生命は尽きるのだ。永遠に!」
都怒我阿羅斯等は押し切る! そして青い光が、すべてを……!
……否!
「俺は」
せめぎ合っていた。
世界創世の槍が生み出した純粋生命のエネルギーと、時人の生んだ光が。
「な……!?」
「俺は、知っている。お前が振るうその光よりも、まばゆく輝く|光《もの》を」
脳裏によぎるはあの青春の時代。遠く、憧れて追い続けた光。
励起するように抗体兵器が輝いた。生命を根絶し否定する刃に光が宿ったのだ。
「生命なきところでも、光は輝くんだ」
すでに呪詛の反動は時人の心身を蝕んでいる。
手先の神経は滅び、感覚がない。五感さえも定かならぬ。
悠歌の紡ぐ音が、限界を超えた聴覚に干渉して彼を導いていた。
前へ。進むべきは前へ。あの時と同じように、あの時から未来までもずっと。
「俺たちが辿り着くべき最後は、今じゃない。此処でも――ない!!」
純粋生命の熱量を、光蟲の槍が貫き、抉った。
散った白き蟲たちの遺志をも飲み込んで、憧憬と希望に燃える光があった。
――ああ。
レモンは思い出す。己が抗体より覚醒めたその日を。
たったひとつの|欠陥《バグ》が彼女を生んだ。核となりしは偽身の符。けれど宿すたましいが憧れたのは――そうだ、あの光だ。いのちの輝き。生命の光。
「生命なきモノだって、光に惹かれるんだよ」
いのちなく、いのちを弄ぶ己が埒外へと至ったように。
「お前の絶望じゃ、|生命《みんな》は止められやしないんだ!!」
「黙れ、まがい物めが。ならば汝より滅びるがいい!」
麻痺の呪詛を力任せに振り払い、ディアボロスランサーの矛が、レモンを……!
「残念でした」
口からこぼれた血を拭いもせず、レモンが笑った。
「|悪霊《わたし》ひとりに構った時点で、お前の、負けだ」
身を貫く槍を両手で掴む。槍持つ男は引き抜こうとするが叶わぬ。
赤いいのちの雫を零し落とし、今にも死にそうなはずの身体のふたりが来る。
ひとりは、勝ち得た世界に後悔とともに残り、戦うことを選んだ。
ひとりは、手にした世界に別れを告げ、希望を運ぶことを選んだ。
「生命使い、猟兵! 汝らは、そこまでして――」
「認めればいいのに」
消え入るような声が、男の耳元に届いた。
「……あの|生命《ひかり》は、|絶望《おまえ》なんて……超えられるって、さ」
男は残骸と成り果て、かつて己が生み出したものに絶望した。
少女は抗体であることをやめ、けして己では届かぬものを愛した。
ともに埒外。拒めど伸ばせど、あの輝きには届かない。違いは選んだ答えだけ。
「――我が悪行さえも踏み越え進むのか、生命よ」
男は呆然と呟いた。
左。右。上。下。背後。正面。
すべてを光のドームが覆い、矛が男を狙い定めていた。
「貫け」
「――届いて!」
奏でる音が英霊を喚び、白い輝きは蒼を劈いて男を穿つ。
槍が、解放される。
「槍よ」
まるで、最初から彼女の胴を貫いていなかったかのように、生命の槍は自然と脱落した。
男は再び柄をつかもうと手を伸ばす。だが叶わない。
溢れ出る純粋生命の光が、3つの生命|たち《・・》を癒やす。
「槍よ。我は、まだ」
そして浮かび上がり、空へ。宇宙へ、暗黒の先の何処かへ、再び。
「槍よ――」
いつかの戦いでそうしたように。
男もまた、決して届かぬものへ手を伸ばし、崩れていった。
「……私も治してくれるの? ディアボロスランサー」
己の傷があった場所に手をやりながら、レモンは呆然と言った。
槍は応えぬ。方位磁針が北を指し示すように、矛先は空を見据えて滑るように翔ぶ。
「今度は|見送る側《こっち》になるだなんてね」
悠歌は苦笑して、空を見上げた。時人は片手をかざし、眩しい光を見送る。
こみ上げる思いは数え切れない。三人がそうだ。それぞれの思いと、言葉と、ねがいが胸によぎって、けれどもただ一言。
「……よい旅を」
別れの言葉は、今はまだ早く。いつかには届かないかもしれない。
けれども、それはやはり今日ではないのだ。もっと先、いつかどこかに、彼方で。
「あとでまた、追いつくわ。だから、待っててね」
生命の光が紡ぐ未来で。
「……ありがとう、みんな」
蒼は去り、赤が空を染め上げる。
燃えるような赤を、なにかにたとえるなら――それは、いのちの色だった。
大成功
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