戦神の弾幕
いつの世も、人間というのは殺し合うものだ。
まだ言葉がまともに存在しない時分から、はじめに棍棒を持ち、次に石を持ち、やがて棒に石をくくりつけ。火を友とするようになり、鉄を
鍛つようになり――とどのつまり、人類の進歩の歴史とは、殺傷の歴史といっても過言ではない。
度しがたく愚かなことだ、とグラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は思う。戦が、争いがあるからこそ、炎と戦の神の一柱である彼が存在するとはいえ、繰り返される戦いの歴史には、それを司る身でさえ呆れるような愚かしさがある。
――まったく、よくも飽きぬ事だ。死んで生まれ変わりまた殺し合うとは。
グラナトは嘆息しながら、しかし己もまた、今まさに戦いに挑もうとしていた。とはいえ、これは人の世の争いに非ず。理より外れた者達、オブリビオンとの殺し合いである。
――ここは、ヒーローズアースのとある街、郊外の地下に密かに建造された
工廠。
「「「ギギッ、ギャギギギギッ
!!」」」
けたたましい声に、グラナトは鼻を鳴らす。
「狭苦しい天井に、やかましい蜥蜴どもとはな。気が滅入る仕事もあったものだ」
隠密するでもなく地下の正面ゲートを、呼び起こした火炎槍で突き破り、踏み込んだグラナトを迎えたのは、数十体からなる量産型のバイオモンスターであった。おそらくは人間の遺伝子と爬虫類の遺伝子を人為的に掛け合わせて作り出された人外の怪物。蜥蜴の俊敏さもそのままに、二足歩行で襲い来る。おそらく人語など解するまい。姿こそ人型だが、皆一様に臀部から巨大な尻尾が生えており、戦闘用のメットで覆われた顔からは表情も読み取れぬ。
先頭の一体が、尾をバネにして跳躍した。なるほど、サイズからも分かるとおり、あの尻尾はかなりの筋肉量を有しているらしい。武器にも移動手段にもなり得るという事だろう。一瞬で一〇メートルほどを、まるで撃ち出されたようにひとっ飛び。鋭い爪でグラナトの頭を断ち割ろうと振り下ろす――が、
ずん、と重い音がして、バイオモンスターは空中に縫い止められた。メットと頚の隙間から紫色の体液が漏れる。吐血。グラナトはそれを無感情に見上げ、左手にした
小銃の銃床を引き、片手でバトンめいて取り回した。反転。
銃把を掴む。
BLAMN!!
バイオモンスターの身体の中心を、赤熱した銃弾が突き抜けた。着弾点から広がる炎がその身体を舐め尽くし、瞬く間に焼き尽くした。爆発四散!! 怪人の体内にある余剰エネルギーが暴走して凄絶に散る!!
BLAM!! BLAMN!! 立て続けに二射、更に後続の二体の頭を吹き飛ばし、またも二つ爆散!! 煙を上げる小銃を突き出したまま、グラナトはつまらなげに溜息を吐く。
「遅すぎる」
いかなる早業か。いつの間にか彼の手の中には、彼自身から迸る炎に炙られ、赤銅色に煌めく神の銃があった。
被筒を握って突き出した
銃床で臓腑を叩き潰し、半回転させながら引き戻して射撃――曲芸めいた白兵射撃だが、グラナトにとってはその程度、如何程のことも無い。
グラナトは旧き神の一柱ではあるが、しかしてそれは旧き力のみで戦うという事を意味しない。愚かしい人類が生み出した、愚かな争いのための、最も単純で最も暴力的で最も効率的な投射武器――銃。
戦の神たるグラナトが、使えぬ道理がないものだ。
「ギィイイーーーッ!!」
ヒステリックな蜥蜴の叫びが響き渡る。ガシュッ、と音が鳴ると同時に、周囲の蜥蜴男たちのマスクの口元が展開した。ぬらぬら光る乱杭歯が露わになり、その奥からホース状の器官――おそらくは舌が突き出る。
聞き苦しい噴出音と同時に、その先端から濃緑色の液体が、放水めいて吹き出した。確かめるまでもない、毒、或いは酸の類だ。
「小悪党というのは、いつの世も醜悪を煮詰めたような趣味をしているものだな」
グラナトが声を発すると同時に彼の身体から立ち上る炎が渦を巻き、壁となって毒液を阻む!! 悪臭と蒸気が、しかしそれすら凌駕する火勢に捲かれて瞬く間に消え失せる。
蜥蜴男たちが次の手を取る前に、グラナトは小銃を肩にかけて右手を上げた。大容量
箱型弾倉が搭載された
軽機関銃が、鈍く光る。
「
疾く燃え尽きろ」
声と同時にトリガー。同時に巻き起こる銃声は、小銃の単発射撃とは比較にならぬ!!
炎のカーテンの向こうに透かした蜥蜴男達に、緋弾の雨が叩きつけられた。――雨と呼ぶより、もはやそれは嵐。秒間一〇発以上の真ッ赤に燃える炎の銃弾が、炎壁を突き抜けて螺旋の炎を引き突き進む!!
蜥蜴男達がどのような施術を受けたとて、いかに強力なオブリビオンとして生を受けたとて――戦神が巻き起こした炎の嵐の前に、一個の生命がいかに抗えよう?
火炎弾の嵐の中、着弾の衝撃で蜥蜴男達が四肢をデタラメに揺らし、無秩序なブギを踊る。弾幕一過、空の薬室を撃針が叩く。撒き散らされた薬莢が跳ね回る残響を、怪人達の爆発音が飲み込んだ。
貫かれ散った怪人達を一顧だにせず、グラナトは炎の壁を解き、空になった弾倉を捨てて悠然と歩き出す。
まだ前哨戦に過ぎぬ。今回の仕事の標的は、この施設の最奥にいるのだ。
「――阻めるものなら阻んでみろ。炎そのものとして、貴様らを残さず蹂躙してやろう」
戦神は嘯き、新たな弾倉を軽機関銃に叩き込んだ。
ボルトを引く。弾丸が迫り上がる。ロック。
殺意を形にしたような金属音が、鈍く冷たく、突き刺すように鳴り渡った。
成功
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