第二次聖杯戦争⑰~薔薇に願いを
銀色の雨が降り注ぐ世界・シルバーレイン。
過去の戦いが再現され続けていた世界で、だがしかし、本来の過去とは違う形で――
未知の存在が首魁として再臨したかつての決戦があった。
そして、オブリビオン・フォーミュラ『揺籠の君』は、その際に現れた異世界への穴『
全能計算域限界突破』を利用して、全ての世界への侵略を企て、動き出す。
彼女の『ほんとうにほしいもの』のために……。
「今回向かってもらう先は……薔薇園だよ」
第二次聖杯戦争の場となった、シルバーレイン世界の金沢市。
説明と共に、グリモアベースに金沢南総合運動公園の花盛りな一角を映し出した九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は苦笑を見せた。
攻略開始地点である金沢城公園には季節外れの『冬の桜』が咲き乱れていたが。
その他に『冬の薔薇』も咲いているのか、と猟兵達にも戸惑いが走る。
「この薔薇園には『ふたりでひとり』がいる。
バラバラに戦っていた『魔槌しなもん』と『雪降ここあ』がね。
そして、彼女達が決死の覚悟を決めた途端、薔薇が咲き乱れたんだよ」
ふたりを覆い隠す程の薔薇の花。
それくらいならば、猟兵達が臆することもないのだが。
「厄介なのが、その薔薇の中に『万能宝石エリクシル』の萌芽があるってことでね」
それは『エンドブレイカー!』世界からの侵略者『魔神エリクシル』。様々な世界に侵攻しようとしている魔神は、どうやら、ふたりから放たれる強い願いを感じ、世界を越えて顕現しようとしているらしい。
「この世界に、これ以上敵勢力を増やすわけにはいかないからね。
薔薇園で待ち受ける『ふたりでひとり』の相手は別の者達に任せて、無数の薔薇の中にある万能宝石を萌芽のうちに刈り取って欲しい」
増殖を繰り返し咲き乱れ続ける薔薇の中から探すのは大変だろうが。
増殖し続けているからこそ、気にせず薔薇ごと刈り取ることができるし、エリクシルを探さずに強烈な攻撃で薔薇ごと叩き潰すこともできる。
もしくは、エリクシルは願いを感じて顕現するから、薔薇園で強い願いを抱いたなら、その者の近くにより多く現れるかもしれない。
「手段は任せるよ」
夏梅はにっと笑ってひらりと手を振り、咲き乱れる薔薇の中へ猟兵達を送り出した。
佐和
こんにちは。サワです。
四季咲きの薔薇でも温室でないと冬には咲きませんよ。
初夏や秋に咲く薔薇の花が季節外れに満開です。
しかも、薔薇は増殖し続けているので、花壇から溢れたり、東屋が覆われたり、本来の薔薇のアーチ以外にもアーチ状になっていたりしているところがあります。
その美しい花の中に、時折、キラキラ輝く宝石が――万能宝石エリクシルの萌芽が紛れ込んでいます。
この萌芽を防ぐシナリオとなります。戦闘は発生しません。
尚、当シナリオには特別なプレイングボーナスが設定されています。
それに基づく行動をすると判定が有利になります。
【プレイングボーナス】☆
薔薇の形をした「エリクシルの力の断片」をひとつ残らず滅ぼす。
それでは、季節外れの薔薇を、どうぞ。
第1章 冒険
『エリクシルの薔薇を刈れ』
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POW : 強烈なユーベルコードで万能宝石エリクシルを叩き潰す
SPD : 増殖以上の速度で薔薇園の薔薇を刈り取る
WIZ : 強い「願い」をぶつけ、エリクシルの反応を探る
👑11
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大倉・新月
しなもんちゃんとここあちゃん、今度こそ…今一緒にいるんだね
私は、ちょっと安心した、かも
やっぱり、最期まで一緒にいたいものね?
ばらばらに戦ってる二人とそれぞれ一度ずつ戦場で出会ったけど
分かってくれたみたいで嬉しいな…(くすくす)
ゴーストイグニッションで自動追尾の雑霊弾を活かして万能宝石を潰そう
【断末魔の瞳】は殺された人の今際を見る世界だけど…
残留思念――強い思いをひょっとしたら拾えるかもしれないから
私も、目視で探す、よ
『ふたりでひとり』――良い響きよね
別離の地獄も一緒の幸せも味わった私だから
私たちだって、ずっと一緒に居たいのは同じ
同じ形の薔薇が現れるなら、探す参考になるかな?
「しなもんちゃんとここあちゃん、今度こそ……今一緒にいるんだね」
季節外れに咲き誇る薔薇の花の向こうに思いを寄せて、大倉・新月(トータルエクリプス・f35688)は口元に微笑を浮かべた。
ふたりでひとり。そう呼ばれるほどに互いを思う2人だからこそ。
「やっぱり、最期まで一緒にいたいものね?」
その結末はどんなものであれ、離れ離れになって欲しくない。
新月にも、離れ離れになりたくない相手がいるからこそ、そう願っていたから。
「ばらばらに戦ってる2人とそれぞれ一度ずつ戦場で出会ったけど、分かってくれたみたいで嬉しいな……」
くすくすと小さく笑みを零しつつ、新月は傍らに青瞳を向ける。
そこに佇むのはスカルロード。死神の大鎌を持つ黒衣のスケルトン。
新月の左肩に飾られた大きな青いリボンと同じものを肩からかけて、どこか女性的な仕草で寄り添う使役ゴーストは、名を『満月』という。
新月と満月。
2人の視線が――青い瞳と髑髏の眼窩が、真っ直ぐに見つめ合って。
「大合体……起動」
呟くような新月の声に、2つの姿が合体した。
ゴーストイグニッション。
文字通り、ふたりでひとりとなった新月と満月は、薔薇の花の中から宝石を探す。
万能宝石エリクシル。その萌芽を。
願いに惹かれて顕現するなら、強い思い……残留思念にも反応するのではないかと考えて、殺された人の今際を見る世界『断末魔の瞳』で拾えるかしらと使ってみながら。
新月自身の目でもしっかりと辺りを探して。
見つけたエリクシルには、万が一にも逃さないようにと、自動追尾の雑霊弾を放った。
「ふたりでひとり――良い響きよね」
美しく咲く薔薇の花の中に異なる輝きを見つける度、1つ、また1つとエリクシルを壊して。新月は、合体した満月の存在を感じながら、歩を進める。
「別離の地獄も一緒の幸せも味わった私だから……」
離れて戦っていたしなもんとここあ、その2人と対峙した時を思い出し。
今は一緒にいるはずのしなもんとここあ、その2人に心を寄せて。
新月も、そっと胸元に手を当て、自身の内に語りかける。
「私たちだって、ずっと一緒に居たいのは同じ」
それは強い願いとなり。
新月のすぐ近くに咲いていた白い薔薇の横に、全く同じ形の赤い薔薇が輝いた。
同じ品種、ではない。花弁の開き具合も重なり方も全てが同じ。
まるで1つの花が2つに別れて、それでも尚寄り添い続けているような。
そんな不自然な薔薇の花。
新月は、そんな揃いの薔薇を見つめて。
無言のまま放った雑霊弾は、輝く赤い薔薇を……エリクシルの萌芽を、砕いた。
大成功
🔵🔵🔵
フィルバー・セラ
【アドリブ連携歓迎】
めんどくせえ奴が介入すんのは願いたいぜ、全く。
そんなに願いが欲しいってんなら俺の願いを撒き餌にしてやるから寄ってこい。
ダークセイヴァーの全ての吸血鬼をぶっ殺す。
――その為にこんな望まねえ身体にさせられたのも利用して数百年単位【魔力溜め】て、
最早願いを越えて執念にすらなってることも否定できねえぐらいには燻ってんだ。
さぞや
エリクシルからしたら甘い蜜だろう?
【リミッター解除】、『封印の楔』の魔力を一部解き放ち【指定UC】を発動。
寿命もたんまり払ってやるさ、こういう時不老不死に近いってのは便利だな、全く。
片っ端から【斬撃波】で燃やし尽くし徹底的に【蹂躙】してやるよ。
「めんどくせえ奴が介入すんのは遠慮願いたいぜ、全く」
無造作に無銘の刻印剣を振るいながら、フィルバー・セラ(
霧の標・f35726)は薔薇の花弁舞う園を行く。
右目の眼帯で顔の一部は見えないけれど、見える部分だけでも充分に、その不機嫌さが伝わってきて。顰めた左の緑瞳には殺意に近い光があった。
この咲き乱れる薔薇の先にいるという『ふたりでひとり』をはじめとした、シルバーレイン世界本来の首魁達だけでも厄介だというのに。そこに他世界からの侵略もあると言われれば、フィルバーの表情もむべなるかな。
その侵略者を――ふたりでひとりの強い願いを感じて顕現しようとしているという『万能宝石エリクシル』の萌芽を、フィルバーは薔薇の花が溢れる中に探し、剣を握る。
しかし、振るった剣が刈り取るのは、美しいが普通の薔薇ばかり。
探すにも、圧倒的に多い薔薇の花に惑わされてしまうから。
「そんなに願いが欲しいってんなら、俺の願いを撒き餌にしてやる。寄ってこい!」
フィルバーは声を張り上げ、強く願いを思う。
『ダークセイヴァーの全ての吸血鬼をぶっ殺す』
吸血鬼が戯れに襲った人間から生まれたダンピールであるフィルバーは、それ故に酷い迫害を受けてきたから。自分を世界に産み落とした吸血鬼への憎悪は深い。
親殺しを果たすも呪いを受け、長寿どころか不老不死に近い肉体を望まず手にしても、それすら利用して数百年、憎悪を、願いを、抱いて来た。
最早それは願いを越えて、執念にすらなっている、と言われても否定はできない。
それくらいには燻っている強い思いだから。
(「てめえらからしたら甘い蜜だろう?」)
すぐ傍に咲いた宝石の薔薇に、フィルバーは口元を歪めた。
その禍々しい輝きを見ながら、無銘の刻印剣を握り直し。眼帯に施された特殊な装飾と術式からなる『封印の楔』の魔力を一部解き放つと。
剣から放たれるのは、憎悪の獄炎。
決して尽きせぬ憎悪の焔刃を、フィルバーは大きく振りかぶり。
「寿命もたんまり払ってやるさ」
威力と範囲とを増加させる代償を惜しげもなく払って。
エリクシルの萌芽を、斬り落とすと共に燃やし尽くす。
炎は、フィルバーの寿命を削り、尚も強く広く燃え広がっていくから。
「こういう時不老不死に近いってのは便利だな、全く」
数多の薔薇と、時折輝くエリクシルとが、徹底的に蹂躙されていくのを眺め。
フィルバーはまた刻印剣を振るい、苦笑を浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
花は大事にしたいけど…増え過ぎても困っちゃうしね
なにより…厄介な宝石は早めに対処しないと
剪定だと思って頑張りますか
鎌を用いた【なぎ払い】で薔薇園ごと伐採処理しつつ
常に持ち前の【集中力】で園の中を観察し
エリクシルの萌芽自体も直接警戒
直接狙える時は【高速詠唱】で雷魔法の【属性攻撃】
電気の衝撃で破壊狙い
指定UC発動
おいで、分身達
萌芽の探索と破壊、手伝って
分身達も僕と同じ魔法使えるから
人海戦術も駆使
この広い場所じゃ、一人で探すには限界もあるしね
花壇担当、東屋担当、アーチ担当のようにグループ分けして
手が足りないくらい見つけたらすぐに応援呼んで
僕も動くから
増殖のペースが早い
キリが無くなる前に終わらせないと
「花は大事にしたいけど……増え過ぎても困っちゃうしね」
美しい薄紅色の鎌を振り回しながら、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は苦笑を零す。
綺麗に咲いている薔薇を傷つけることに少し躊躇いを感じながらも、その間にもどんどん増殖していく様子に、仕方ないと思う気持ちが強くなっていって。
これは剪定、と自身に言い聞かせるかのようにしながら、澪はまた、鎌を振るって薔薇を薙ぎ払い、道を切り開いていく。
「なにより……厄介な宝石は早めに対処しないと」
伐採処理の最中にも、澪は集中して辺りを観察し。
探すのは『万能宝石エリクシル』の萌芽。
薔薇を模して顕現しているから、薔薇園の中に紛れ込むのを見つけるのは大変で。
だからこそ、見つけたなら素早く詠唱し、雷魔法の衝撃で着実に破壊していった。
1つ、また1つと砕ける輝き。
その間にも薔薇はどんどん増殖し。
鎌を振るう度に綺麗な花弁が辺りに舞い散る。
「この広い場所じゃ、1人で探すには限界、かな」
成果を上げつつも、薔薇園全体を見た澪は。
これは人海戦術が必要だと判断した。
「おいで、分身達。萌芽の探索と破壊、手伝って」
そして紡いだユーベルコードで召喚されたのは、無数の澪。
琥珀色の長い髪も、そこに咲く金蓮花も、背に生えた天使の翼も、手にした『清鎌曼珠沙華』も全く同じ、文字通りの分身。
だがしかし、その大きさは極めて小さく。掌に乗ってしまうほど。
それに時折、何故か卵の殻に入っているのもいたりして。
小さく可愛い天使がわちゃわちゃと、無邪気に澪の周りを囲む。
「この辺りのグループはこっちの花壇、次はあっちの花壇担当だよ。
あとは、東屋担当がこの辺、アーチ担当はそっちのグループにお願いするね」
そんな分身達に澪はてきぱきと担当エリアを振って。
隙なく探索できるようにと、監督する。
分身たるミニ澪は、小さいながらも鎌を持ち、程々の強さではあるが澪と同じ魔法が使えるから。エリクシルを見つけたならば、澪を待つまでもなく破壊できる。
澪は、分身を信頼し、任せつつも。
「手が足りないくらい見つけたらすぐに応援呼んで。僕も動くから」
いつでもサポートに入れるように、状況を冷静に見極めていた。
数多のミニ澪は、エリクシルを壊しながらも薔薇を刈り。
薔薇園が埋もれてしまうのも防いでいく。
しかし、刈った傍から薔薇は伸び、どんどん増殖していくから。
そのペースの早さに澪は、きゅっと表情を引き締めた。
「キリが無くなる前に終わらせないと」
そしてまた、薄紅色の鎌が振るわれ、美しい花弁が舞い散り踊る。
大成功
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佐伯・晶
咲き誇る薔薇かぁ
ある意味壮観ではあるから
エリクシルによるものじゃなければ
ゆっくり眺めるのも悪くないんだけどね
強い願いをぶつければ寄ってくるなら
元の体に戻りたいとか
この状況を打破できるような
技術や魔術がある世界に行きたいとか考えてみよう
知り合いが亡くなっていき
自分だけが時間の流れに取り残される恐怖を想像すれば
寄ってくるかな?
それらしいのが見えたら
ミサイルで薔薇ごと焼き払おうか
一応、地形が変わらない程度には火力を抑えておくよ
もしそれでエリクシルだけが残るようなら
ガトリングガンで砕いてしまおう
願いを歪めて叶えるんじゃなければ
すごく欲しいんだけど
研究するにも危なそうだし
どこかにもっと良いものないかなぁ
「壮観、ではあるんだけど」
季節外れに咲き誇る薔薇の花を見回して、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)はひょいと肩を竦めた。
「エリクシルによるものじゃなければ、ゆっくり眺めるのも悪くないんだけどね」
どんどん増殖しているけれども、薔薇はとても美しく。様々な色形で晶の目を楽しませてくれている。本当に、原因が原因でなければ、冬の薔薇なんて珍しいものを、ただただ堪能できるのに、と残念に思いながら。
さて、と晶は気持ちを切り替えて、改めて薔薇と相対した。
探すのは『万能宝石エリクシル』の萌芽。
ふたりでひとりの強い願いに反応して顕現する侵略者。
「強い願いをぶつければ寄ってくるなら……」
その性質から考えて、晶は、自身の内にある願いを強く思う。
『元の身体に戻りたい』
『この状況を打破できるような技術や魔術がある世界に行きたい』
封印されていた邪神とひょんなことから融合し、神となってしまった晶は、UDC組織の保護の元で、普通の人間に戻る方法を探していた。
だからこれは、常日頃から晶が抱いている願い。
それを改めて強く願い。
エリクシルへの餌にする。
その中で、晶はふと、想像する。
望まぬ形とはいえ晶がなった神という種族は、人間に比べて遥かに長寿。
しかし晶の周囲の知り合い達は、その多くが人間だから。
このまま時が進めば、皆、晶より先に亡くなる。
晶だけが、時間の流れに取り残されてしまう。
そんな、恐怖でしかない未来を想像して。
『元の身体に戻りたい』
より強く、願いを抱けば。
「……なるほど。これがエリクシル」
晶の周囲に輝く薔薇の花が――宝石の煌めきが花開いた。
それは小さな萌芽。
されど、世界を歪める侵略者だから。
「さて、派手に……は今回控えめに、いってみようか」
晶はユーベルコードで小型ミサイルを生み出すと、薔薇ごとエリクシルを焼き払う。
無差別な広範囲攻撃に見えるけれど、一応、地形が変わらないように、晶はミサイルの火力を抑えてあった。
その気遣いから破壊を逃れてしまうエリクシルがないか、晶は無数のミサイルの成果を確認しつつも油断なくガトリングガンを構え。
幾何学模様を描いて飛翔するミサイルを。
攻撃の中で砕けていく煌めきを。
じっと見つめていく。
「願いを歪めて叶えるんじゃなければ、すごく欲しいんだけどなぁ。
研究するにも危なそうだし……」
はぁ、と晶は複雑なため息をつき。
「どこかにもっと良いものないかなぁ」
そしてまた、願いはエリクシルを呼び。
美しい宝石の煌めきが舞い散った。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
預かり子のキアラ(f11090)と
元の結社でも今構えた花園でも
見る事はない狂い咲き
想いが花を捻じ曲げている
その悲壮を惨いと感じ
哀しみを辛く思う
討つ時に苦いものを呑む能力者も多かったね
けれど
「ごめんな」
せめて想いから開いた花は散らさず
「俺はこの子たちに未来を繋ぐ」
まだたった四つで戦場に立つこの子の為に
「君たちを見過ごすことは出来ない」
希う
『護るべきを護り力なき者の盾となる』
それがあの時代からの唯一つの望みと
想起し瞳を閉じ集中する
時人おじさま!と声がした
ありがとうと頷きその禍ツ石を踏み砕く
次はキアラの番だ…一つも逃さず見つけよう
世界結界は全てを覆い隠す
残った花は今を生きる誰かの笑顔の糧になればいい
広大な庭を持ち、四季折々の花の色が見られた大きな洋館『Flower Garden』。
銀誓館学園の寮であったそこを拠点とする葛城・時人(光望護花・f35294)は。
金沢南総合運動公園の薔薇園で、かつての寮でも、今の『花園』でも見る事のない、薔薇の狂い咲きに囲まれていた。
(「……想いが花を捻じ曲げている」)
美しさよりも強く感じるのは悲壮。
それを惨いと感じ、哀しみを辛く思いながら。
(「討つ時に苦いものを呑む能力者も多かったね」)
銀誓館の能力者として重ねた日々を、薔薇に重ね見る。
だってこの狂い咲きは、かつて討った敵の切の願いが生んだもので。ただただ、大切な人と一緒に生きたい、それだけの思いが起こした季節外れの盛花だったから。
時人は、かつての辛さも思い出し、強く手を握る。
けれど。それでも。
「ごめんな」
紡がれる言葉は、その思いを赦さぬ決意。
敵の願いは理解できるし、尊いものだとも思うけれど。
相手はオブリビオン。世界の敵だから。
それに……
時人はふと、傍に揺れる白い影を見る。
白銀色のマントを羽織り、聖木より創られし『ドルイドの杖-Fragment of Lerads-』を握りしめる少女を。
かつて銀誓館で共に戦った白魔女の娘である、預かり子の姿を。
大切に大切に、眺めて。
「俺はこの子たちに未来を繋ぐ」
ぼろぼろのツバが紡いだ歴史を物語る、葡萄のついた魔女帽も。肩で切り揃えられたさらりとした銀髪も。真っ直ぐに前を見る青瞳も。ちょっと慌てん坊なところさえ。
母親を思わせる、素敵な女性の姿をしているけれど。
それは運命の糸症候群によるもので。
本当の彼女はまだたった4つ。
急成長を見せ、時人と肩を並べて戦える程になっても。
時人にとっては、かわいい預かり子。
ゆえに。
「君たちを見過ごすことは出来ない」
彼女のためにも、希う。
それは、かつての時代からの唯一つの望みとも重なっていた。
『護るべきを護り、力なき者の盾となる』
そのために時人は、かつても今も、戦うのだから。
改めて想起し。青瞳をそっと閉じ。
集中する。
「時人おじさま!」
響いた預かり子の声に、時人の口元が緩む。
開いた視界に揺れるのは『万能宝石エリクシル』の萌芽。
薔薇に囲まれ、薔薇を真似るように、狂い咲く禍ツ石。
「ありがとう」
時人は預かり子に頷くと、『白燐奏甲』で強化した脚力で、萌芽を踏み砕いた。
大切な子たちの未来を脅かすものを。
時人の強い願いに惹かれて顕現したものを。
躊躇いなく、壊す。
「次はキアラの番だ」
「はいっ」
そして続いて、預かり子の近くにエリクシルが花開く。
それを1つも逃さず見つけ、そしてまた砕きながら。
時人はふと、狂い咲いた薔薇を、見る。
脅威を表すものとはいえ、美しく咲く花を。
――世界結界は全てを覆い隠す。
エリクシルを砕き、オブリビオンを倒したなら。
残った花は、きっと、ただの美しい花になれるから。
(「今を生きる誰かの笑顔の糧になればいい」)
そんな未来を願って。
時人は預かり子と共に、エリクシルだけを砕き続けた。
世界を、生命を、護り抜くために。
大成功
🔵🔵🔵
キアラ・ドルチェ
保護者兼師父な時人おじさま(f35294)と
咲き誇る薔薇に感嘆のため息を漏らしつつ、その美しさの歪に眉をしかめ…
「咲く時を忘れた花は、こんなにも綺麗なのに何故か悲しい」
…それは「ふたりでひとり」相手への気持ちでもあるかもしれないけれど
死して尚蘇り、「ふたりだけの世界」でしか生きられないのは、私は哀れに見えます
そう。時人さんや私の母…銀誓館の皆さんが協力し守り抜いたあり方こそ、私には至上に思えるから
そして守り抜いたこの世界を
私も、強く強く、護りたいと願うからっ!
「エリクシルよ、顕現せよ!」
薔薇は一切傷付けない
万能宝石のみ狙い、森王の槍で全て貫き
「時人おじさま、世界を、生命を、護り抜きましょうっ」
溢れる程に咲き誇る薔薇を見回して、キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)は、ほうっと感嘆のため息を漏らした。
温室でもないのに、大きく花開く冬の薔薇。
その枝葉も寒さの中で不自然な程に青く茂って。
だからキアラは、見惚れていた青瞳を陰らせ、美しさの歪に眉をしかめた。
「咲く時を忘れた花は、こんなにも綺麗なのに何故か悲しい」
それは、キアラが、この狂い咲きの原因を知っているからかもしれない。
増殖する薔薇の先に居るのはオブリビオン。
大切な人と最期まで一緒にいたいと願った『ふたりでひとり』。
純粋なその思いをキアラも理解できるし。
そう思える相手がいることは尊いことだとは思うから。
だからこそ、その願いで咲いた薔薇が悲しく見える。
オブリビオン『魔槌しなもん』と『雪降ここあ』。
死して尚蘇り、でも『ふたりだけの世界』でしか生きられない、ふたりでひとり。
(「私は、哀れに見えます」)
だってキアラは知っている。
ふたりだけの世界よりも至上の在り方を。
(「そう。それは……」)
キアラは被っていた白い帽子のツバにそっと触れた。
ネミの白魔女として継承した、葡萄の付いた魔女帽は、その歴史を刻んでツバがぼろぼろで。そこにキアラは、先代のネミの白魔女である母の存在も感じる。
そして、傍らに視線を向ければ。
そこに立つのは、キアラと同年代……いや、年下にも見える少年の姿。
漆黒の髪に黒いマオカラ―の上着、黒のスラックス。黒づくめゆえに、その優しく強い青瞳が、銀刺繍が施された襟と手首の返しが印象的なその人は、キアラの保護者にして師父である『おじさま』だ。
訳あって年齢遡行した若い姿になっているが、おじさまはキアラの母と共に銀誓館で戦ってきた人だから。
この魔女帽と並んで、数多の能力者と協力して、世界を守り抜いた人だから。
(「おじさまや母……銀誓館の皆さんのあり方こそ、私には至上に思える」)
尊敬し、憧れ、そして自身も共にと決意して。
黒いその姿を見つめれば。
瞳を伏せたおじさまの周囲に『万能宝石エリクシル』の萌芽が輝く。
「時人おじさま!」
思わず声を張り上げると、おじさまはゆっくりと青瞳を開けて。
淡く、でも優しく、微笑みを見せた。
「次はキアラの番だ」
「はいっ」
そしてエリクシルを砕いたおじさまに促されて、キアラも願う。
おじさまや母が守り抜いた世界。
それをキアラも護りたいと。
おじさまや母のように。
キアラも誰かを護り抜きたいと。
強く強く、この思いならおじさまにも負けないと思うほどに、願って。
「エリクシルよ、顕現せよ!」
母も持っていた『ドルイドの杖-Fragment of Lerads-』を掲げ、叫ぶ。
その願いの強さに呼応するように、キアラの周囲にも花開くエリクシル。
歪な輝きを青瞳に映したキアラは、しっかりと頷くと。
「森のディアナよ、汝が慈悲もて我に想い貫く槍を賜らん。万物よ自然に還れ!」
ユーベルコード『森王の槍』で生み出した植物の槍を放った。
槍は、キアラの思いに従い、薔薇を一切傷つけずにエリクシルを貫く。
だってキアラの願いは、世界を護ること。
生命を、護ること。
それは薔薇という植物にも向けられて。
だから、慈悲の心が薔薇の花を護る。
そして、おじさまもエリクシルだけを砕いていくのを見て。
きっとキアラと同じ思いでいてくれているのだと、心がふわりとするから。
「時人おじさま。世界を、生命を、護り抜きましょうっ」
キアラはまた声を張り上げ、エリクシルだけを貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
彼女たちとは面識はないけれど、伝え聞く二人の想いは痛いほどよく分かる
「世界を滅ぼす敵」でなければ、或いは別の関係を築けたかもしれません
だからこそ、あの忌まわしきエリクシルに邪魔はさせない
最期まで添い遂げる彼女たちの覚悟を、歪んた悪意で穢させはしない
わたくしの願いは「世界の平和」と「愛する夫と幸せに暮らす未来」
これまでもその未来を侮辱し穢す敵と何度も相対した
お前たちの狙い、やり口はよく知っている
祈り捧げ歌うは【涙の日】
願いとは、誰かに頼り切って叶えてもらうものではないわ
痛みに耐え、試練を乗り越える勇気と覚悟あればこそ大願は成就する
甘い言葉には屈しない
人を弄び破滅へと導く悪意を全て断ち切ると誓って
季節外れの薔薇の花が狂い咲く園に、天使の歌声と称えられたヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の妙なる旋律が響いていく。
「主よ。御身が流せし清き憐れみの涙が、この地上より諸々の罪穢れを濯ぎ、善き人々に恵みの慈雨をもたらさんことを……」
紡がれるのはユーベルコード『涙の日』。
静謐なる聖歌と共に捧げた祈りは、邪気を打ち払う眩き裁きの光となって美しき宝石を砕き、悲哀を包み込む白き慈愛の光となって可憐な薔薇を照らす。
柔和な青い瞳で、しかし頑張って睨み付けるように力を込めて、ヘルガが見つめるのは増殖する薔薇の向こうにいる存在。
(「彼女たちとは面識はないけれど、伝え聞く2人の想いは痛いほどよく分かる」)
生き残ることよりも、共に居ることを選んだふたり。
例え、報いを受けて死ぬことになっても、ひとりでいては意味がないと。
もう本当に二度と離れないと決意したバビロンの獣『ふたりでひとり』。
オブリビオンでなければ、世界を滅ぼす敵でなければ。
或いは別の関係を築けたかもしれないと思う、魔槌しなもんと雪降ここあ。
(「だからこそ、あの忌まわしきエリクシルに邪魔はさせない」)
最期まで添い遂げようとする彼女たちの覚悟を、せめて守るために。
世界を越えて顕現する『万能宝石エリクシル』の歪んだ悪意などに穢させはしないと。
ヘルガは歌い、祈り。
そして、エリクシルの萌芽を誘い出すためにも、願う。
(「わたくしの願いは……」)
世界の平和。
そして何より『愛する夫と幸せに暮らす未来』。
ささやかなれど強い願いを、改めて抱いて。
すぐ傍に咲いた、薔薇と同じ形をした歪な煌めきを、睨む。
ヘルガは、これまでも願う未来を侮辱し穢す敵と相対してきた。
何度も、何度も。
だからこそ。
「お前たちの狙い、やり口はよく知っている」
祈り捧げ歌い。
願いを抱きつつも、エリクシルにその願いは渡さない。
大切な願いを歪めさせたり、しない。
「願いとは、誰かに頼り切って叶えてもらうものではないわ」
痛みに耐え、試練を乗り越える勇気と覚悟あればこそ、大願は成就するものだから。
ヘルガは、甘い言葉には屈しないと、真っ直ぐに前を見つめ。
人を弄び破滅へと導く悪意を、全て断ち切らんと誓い。
その繊手に輝く水晶の指輪を、揺らぐことなき導きの星を、そっと抱いて。
「主よ」
蒼いミスミソウの花を散りばめた真白きオラトリオは。
騎士になる覚悟も持つ、光成す歌紡ぎの姫は。
自分のために。
誰かのために。
そして何より、愛する夫との未来のために。
砕け散るエリクシルの輝きの中で、歌い続け、祈り続ける。
もう誰も、泣くことのない世界を――。
大成功
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南雲・海莉
「私は、願いのためにずっと歩いてきた
義兄さんに逢いたい
もう一度隣で生きたい
失った時間を取り戻したいと」
両足で踏み締め
周りに宣言するようにこの数年の想いを声に
同時に感覚を研ぎ澄まし、視界や物音の変化に意識を集中
時に第六感も持って萌芽の場所を特定
「私の記憶の侭の
優しい理想の義兄を」
UC使用
特定した全ての萌芽を焼き尽くし凍らせ砕く
もう分かってる
見つけ出した義兄と言葉を交わして確信した
その願いは薔薇が叶える前から歪みも孕んでいると
何故なら義兄の優しさは、理想は
彼の芝居にーー呪いに包まれていた
『過剰適応』
言葉にすればたった4文字の、外から見ればありふれた呪い
でも裡から解くにはとても困難な、演技に隠された20年以上の傷痕の迷宮だ
「だからもういい」
私は義兄をその呪いから開放する
痛みも悲しみも分け合い
彼があるがままに生きていけるように
彼が本当の幸せな心のあり方を見つけたとき
私が知っている義兄でなくなったとしても
「かつて私が救われたように
今度は私が救うの」
本物の家族になるために
「…そこに薔薇は要らない」
冷たい風の中で薔薇の花が咲く。
季節外れの狂い咲き。強い願いに呼応して開く禍い花。
それを呼び寄せたのは『ふたりでひとり』の決死の覚悟だったけれども。
今、南雲・海莉(With júː・f00345)の周囲に咲く薔薇は……。
「私は」
大地をしっかりと両足で踏みしめ、海莉は口を開く。
この数年抱き続けた想いを薔薇に聞かせるかのように。
強い願いを周りに宣言するかのように。
「私は、願いのためにずっと歩いてきた。
義兄さんに逢いたい。もう一度隣で生きたい。失った時間を取り戻したいと」
行き場を失くした幼い海莉を拾ってくれた黒髪の少年。
共に生活し、妹のように可愛がられ、数多のことを教えてくれて。
同じ猟兵に目覚めた海莉を、アルダワ魔法学園に送り出してくれた。
大切な、家族。大好きな、ひと。
「私の記憶の侭の、優しい理想の義兄を」
失踪した義兄を探して。
懐かしい優しさを求めて。
ずっとずっと、海莉は走ってきたけれど。
(「もう分かってる」)
狂ったように咲き乱れる薔薇に囲まれて、海莉は漆黒の瞳を閉じた。
美しい花のような、憧れた義兄の姿に惑わされずに。
暗い闇に沈んだような、本当の義兄の心を見つめるように。
(「義兄の優しさは、理想は、彼の芝居に――呪いに包まれていた、って」)
義兄を追いかけて、知ることになった彼の過去。
幼い海莉には見せていなかった、苦しみや悲しみ。
それらを突き付けられてきた中で。
ようやく見つけ出した義兄。
再会を果たし、その姿を目の当たりにして、言葉を交わして。
海莉は抱いていた疑念を確信に変えた。
その願いは薔薇が叶える前から歪みも孕んでいたのだと。
過剰適応。
言葉にすればたった4文字の、外から見ればありふれた呪い。
でも裡から解くにはとても困難な、演技に隠された20年以上の傷痕の迷宮。
幼かった海莉が見えなかった――見ていなかったそれを、理解したから。
海莉は顔を上げ、目を開く。
長い黒髪を靡かせて、しっかりと両の足で地に立って。
告げる。
「だからもういい」
義兄を知り。義兄を見つけ。義兄と語り。
そして何より、海莉が成長したことで。
海莉の願いは変わった。
義兄を呪いから開放する。
幼かった昔のように、優しさや幸せをもらってばかりではなく。
痛みも悲しみも分け合って。
義兄があるがままに生きていけるようになることを。
海莉は、願う。
「かつて私が救われたように、今度は私が救うの」
例え、義兄が本当の幸せな心のあり方を見つけたとき、海莉が知っている優しい義兄でなくなったとしても。
その背に優しく庇護されるのではなく。
隣に並び立つ、本物の家族になるために。
海莉は、変わった願いを、強く強く胸に抱いた。
――そこに薔薇は要らない。
「陽よ、汝、希望を司るもの。月よ、汝、狂気を司るもの。
対にして全、相克にして相生たる力以て、その心の形を映し出せ!」
周囲に咲いた薔薇を一瞥し、研ぎ澄ませた感覚で、花に紛れて現れた数多の『万能宝石エリクシル』の萌芽を全て余すことなく睨み据えると。
決意と共に集中力を高め。
生み出した無数の陽光の欠片と月光の欠片を、放つ。
燃え盛る欠片が、凍てつく欠片が、美しき幾何学模様を描いて飛翔すると。
萌芽は燃え尽くされ、凍り砕かれ、消えていく。
もう願いは歪まない。
真っ直ぐに前を見つめる海莉の黒眸は、宝石よりも美しく煌めいていた。
大成功
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