●握手をしたあの日は、
今思えばこの友との始まりは、本当に偶然であったと思う。
元来、猟兵とはグリモアベースを含め現在21の世界を行き交い戦い守る者の総称だ。
ラース・クラインベックはその日、万全に整備したスーツを纏いアームドフォートの角度調整を行いながら、さり気無く件の依頼へ赴く同行の猟兵達を伺っていた。
皆出身、性別、ジョブに年齢、種族さえ異なる者達が依頼内容を聞き資料に目を通す中、ふとラースの目についたのは“同じ目線の高さ”で視線ぶつかった自身と同じ竜派ドラゴニアンという存在だった。
今ならラースは言えるだろう、あれはちょっとして好奇心だったかもしれない――と。
「なぁ!オレはラースだ。あんたは?」
「初めましてラース。僕はセルジュ、セルジュ・フォートリエです」
「セルジュ、よろしくな!セルジュもこの事件解決しにいくんだよな?」
“ええ、”と静かに頷くセルジュに瞳を輝かせたラースは、手を差し出し屈託なく微笑んで見せた。
今ならセルジュは“あのラースは普通だったんだ”と言えるのだが、実はあの時セルジュは内心驚いていたのだ。これから戦いの場に赴くというのに、ラースがあんまり素直に笑って手など差し出すから。
「――このかっこいい装備のオレはラース・クラインベック!」
“よろしくな!”と紫瞳を綻ばせ微笑むラースに一瞬面食らったセルジュは“どうかしたか?”と当たり前のようにラースが首を傾げるものだから、少し慌てながらも平素を装い“宜しくお願いします”とセルジュがラースと握手を交わしたタイミングで現場状況の説明を終えたグリモア猟兵が、グリモアを展開し激励の言葉を向ける中、輝くその入口に握手同様に瞳を輝かせるラースへセルジュは苦笑い。
「さ、行こぜ!セルジュ!」
「……えぇ、アックス&ウィザースの浮遊岩諸島――足場に気をつけていきましょう」
“おう!”と笑って二人は光へと踏み出した。
それが、二人の冒険の始まり。
何気ない偶然ばかりの出会いで、不思議な出会いであった。
●切欠を
「そっち行ったぞ!気をつけろ!」
他の猟兵から飛んだ檄にハッとしたラースが、向かってくる犬に似たオブリビオンに照準を合わせ、キャノンを発射しようとしていた。
「おう!俺のビームキャノンで――……」
『オォオーーン!』
『グルァァァア!』
正面からとばかり思っていたその獣は、隠れていた林から飛び出し牙を剥く。
「っ!?」
「――そのまま正面を撃ってください!こちらは僕が……!」
慌てたラースの隣へ飛び込んだセルジュの言葉にラースが一頭のオブリビオンを撃ち抜くと同時、セルジュの青い刃がラースに飛び掛かろうとしたオブリビオンを切り捨てた。
荒い呼吸が静寂に落ちて――……先に大きく息を抜いたのはラースだった。
「危なかったー……助かったぜ、ありがとなセルジュ!」
「実戦の場合、基本的にこのような状況に陥る可能性がいつでもありますから」
“気をつけてくださいね”というセルジュをきょとんと見上げたラースはセルジュがこの状況に慣れた様子なことに小首を傾げれば、丸く見開かれた目にフッとセルジュが笑い、“訓練経験があるので”と一言。
「訓練経験?」
「えぇ……若い、というか幼いと言うべきでしょうか。そういう頃から訓練や戦場に出ていましたので」
――それは貧しいから。最も
金になることを、セルジュは生きる道を得るために選んだ。
人が聞けば様々察し、推測し、良い顔をあまりしないことをセルジュは知っていた。が――……。
「すっげーな……!だからさっき出来たのか!?」
「え、えぇ……ああいう不測の事態や伏兵の可能性は、訓練事項にもありますので……」
“すげぇ!”と目を輝かせるラースがあまりにも手放しに凄い凄いというものだから、セルジュは不思議でならなかった。
はっきり言って、セルジュの目から見ればラースはひどく平和ボケの類に感じられたのだ。手放しに初対面の相手を信じ、握手をし、屈託なく自身の
表情を見せ、あまりに気楽に挨拶もして。
貧しい生まれの自身には遠い世界の相手にも、見えた。
「なぁセルジュ、あとでさっきのどうしたら良かったのか教えてくれよ。分かるんだろ?」
「そう――ですね、ある程度の対応の仕方は、」
「っしゃ、よし頼むな!あっこれで討伐終わったんだ……引き上げだって、行こうぜ」
機械鎧と装備を纏う身でありながら、とても軽々動いてみせるラースの方が、剣士として身軽な装備を好むセルジュには不思議に見えるけれど。
太陽と言うより、セルジュにはどこか嵐の様な勢いを感じる相手であったが面白いもので、屈託ない素直さは不思議と悪いものではなかった。逆に、ああも素直で大丈夫だろうか?と心配になってしまうくらい。
たった一つの約束は、“友情の小さな始まり”となる。
●共に、
依頼へ赴く折り、互いの苦手なポイントに気付けば声を掛けて、時に良い点や改善点を話し合う。
猟兵であればこそ、より強く在りたいと思うのはお互い同じこと。
勿論セルジュが気付くのが遅れた射手の類をラースが撃ち落とし、逆にラースに突如接敵する敵をセルジュが薙ぎ払う――……そうして互いの穴を埋めることが、ラースもセルジュも徐々に当たり前のようになりつつあった。
言ったわけでもないのに二人揃えば息を合わせられたお陰で、仕事が効率よく終わり、予定よりも上りが早かった時のこと。
“なんか飲んで帰らないか?”と言ったラースにセルジュが頷いて、気付けば互いの武器の撮りまわしについての話しになっていた。
「ラース、今日のアームドフォートでの動き、あの立ち回りでは難しいのではないでしょうか?」
「そうか?なら……あー、ビームキャノンをもう少し小型にすれば……」
「そうすると威力に影響しませんか?」
“接敵した敵は早めに斃した方が良いでしょう”。そう丁寧に口にするセルジュに、ラースは何となく擽ったい。
「うーん、でも……なぁセルジュ」
「はい?」
“どうかしましたか?”とカップ片手に問うセルジュに、頭を掻いたラースが意を決した様に、一言。
「なぁ、敬語――もういらないぜ」
「え?」
「オレ達仲間……だよな?」
“なんか擽ったいって言うか、そんな気にしなくていいからさ”と苦笑いするラースに、セルジュはぽかんと口を開いたまま。
言われてふと、セルジュは思う。
「(そういえば……こんなに他人と親しくなったのは、初めてだ)」
返事をしないセルジュに慌てた様子で“俺達仲間だよな!?”と尋ねるラースを、見る。
幾度も数多の世界を渡り重ねた戦いの中、酷なものなど様々あった。渡りゆく世界が違えば、当然のように価値観も違う。その違いに驚き、時にその過酷さに揃って翻弄されたこともあった。
救えるもの、救えないもの、守れたもの、守れないものも、沢山。
だが思えばどんな時もラースはラースのまま。
セルジュが酷な決断をしようとしても否定せず、“オレとセルジュが揃ってれば、ヒーローみたいにだってできるぜ!”と、希望を見せ教えてくれた“仲間”だ。気付けば、そう――仲間であり、友。
「……ラース」
「なぁ、オレ達って仲間だよな
……!?」
「まだ慣れないとは思いますが、ラースは僕と仲間……だろう?」
今度の握手は、セルジュから。
警戒する必要なくなり、気を張りすぎなくていい。
“だよな!”と笑った“友人”ラースと握手を交わしたセルジュは、吊り目の眦を少し下げ柔く笑っていた。
●友に、
ラース自身、いつまで経っても丁寧なセルジュの言葉が気になっていた。
「(たまーに……甘いもんでた時とか、可愛いもん見た時崩れてるんだよな)」
恐らく無意識なのだろう。だが、時々セルジュは丁寧でなくなる時があることにラースは気が付いていた。
特に顕著だったのは、アリスラビリンスに住まうぬいぐるみの様な愉快な仲間達のお茶会を急襲するオブリビオンを共に撃退しに行った時のこと。
小さな声で、スイーツをまえにすれば“美味しそうだ”やら愉快な仲間達に“可愛らしいね”と呟いていたのが聞こえたのだ。
だからこそラースはセルジュが自身に妙に丁寧に話すこと自体、努めて行っていると気が付けた。
「(やっぱ仲間だし、気にして喋られるより良いよな!)」
まだ慣れず偶に丁寧な言葉が返って来るけれど。
今、ラースはキマイラフュチャーで話題になっていた、からふるどらぐるみに目を輝かせていたセルジュを引っ張って、からふるどらぐるみの詰まった話題のクレーンゲームへ挑んでいた。
「……ラース、どうやったら取れるだろう?」
既に3回目だがアームの問題かキャッチならず。
挑むセルジュの傍ら、ついこの間のことの様にセルジュとの出会いを思い出していたラースが、呼ばれて意識を戻す。
「あーそれ、そういう風に掴むとたぶん取れないぜ」
「……どうしてですか!?」
そんなばかな!と言いたげなセルジュに、ラースは得意顔。
アーム機構を扱う類は自身の得物然りで角度と、持ち上げるアームの場合アームの固さが物を言う。
「こういうのはコツがあるんだ。ちょっと任せろ、オレなら一発だぜ!」
得物と近い系統の機械の類なら、ラースの得意分野に含まれる。
押し込む力を利用し持ち上げ、アームの引き際ぬいぐるみに引っ掛かる位置取りをすれば、あっさりからふるどらぐるみが転がり落ちる。
「ラースはこういうの上手だね……!」
「まぁ、毎日ちょっと違うけど似たようなもん弄ってるからな!ほら、セルジュ」
「!――いいのか?」
“これ取りに来たんだろ?”と言うラースに、“ありがとう!”と喜び隠さないセルジュの笑顔は、もう自然なものだった。
顔見知りから知り合いへ、そうして戦友のようになり、気付けば仲間で、友になり、数多を分かち合っていた。
過酷な戦いも、穏やかな日常も共に往く。
成功
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