喫茶スノウホワイトの日々。【碌でも無い客編】
静かな朝焼けの中に、鳥達の歌が響く。
「うん……上出来だ」
私は目が覚めると服を着替えて、最近寒さが一層厳しくなってきた店内に暖炉を焚く。
そして、今日お客様に提供するブレンドコーヒーを一杯淹れてみた。
出来上がったコーヒーを口に運び、豊かな香りと深い苦味を堪能する。
「やはり、今日はこのブレンドで行こう」
マンデリンの苦味とコクに、キューバの上品な香りが足されたオリジナルブレンドコーヒー。
今日はこれで決まりだ。
「さて…とっ!」
今日はどんな客が来るだろう。
そんな期待に満ちた朝だった。
「おや、いらっしゃ……い?」
そう、コレが来るまでは。
「え……強盗?」
全身モスグリーンのフード男。
ご丁寧に口元まで覆って顔は見えず、おそらく右目に当たる部分だけが光っていた。
……ロボット?
「失敬な……と、言いたいが、この格好じゃあそう思うわな」
そう言いながら、男は口元の布とフードを外す。
――なんだ。
「貴方も猟兵か」
よくよく見れば、さも当然と銃をぶら下げ右目は機械の義眼。
猟兵じゃなかったらむしろ困る。
「あぁ、ユウキという。 この辺で教団関連らしい儀式の噂があったんだがな……」
ユウキと名乗った男は寒い寒いとカウンターに座り、メニューを見やる。
「あ〜……そういや、開店してたか?」
時計に目を向ける。
本来ならまだ一時間早いのだが、先程の儀式の噂というのが気になるし、そうなれば普通の客が来ないこの時間の方が好都合だろう。
「いや、問題ないよ。 注文は?」
彼はブレンドコーヒーを一杯とだけ言って、店内を見回した。
「いやぁ、店だったとは……適当に見つけた山小屋で一服して帰るつもりだったんだが、まぁ好都合だな」
そう言いながらタバコを口に咥えて……元に戻す。
「賢明だな?」
「……世知辛い世の中だよ、まったく」
サイフォンの準備をしながら、私は儀式の噂とやらについて詳しく聞いてみる事にした。
「で……儀式というのは?」
……近所だとするならば、早めに――
「あぁ、ただのアホキャンパー共のどんちゃん騒ぎだった」
……は?
「キャンパーって……こんな山奥で? キャンプ場も無いのに?」
拍子抜けだった。
呆れた顔で、彼は続ける。
「あちこちのキャンプ場で出禁食らった様な阿呆が集まって勝手に騒いでたらしい。 まったく、とんだ無駄骨だよ……」
とりあえず憂さ晴らしに叩きのめして下山させたと言って、溜息をつく。
「まぁまぁ、事件じゃなくてなによりじゃないか」
そう言いながら出来上がったコーヒーを渡すと、彼はまず香りを楽しんでいた。
「……キューバか」
なるほど。
私は正解だと言って、続けて口に運ぶ姿を見守った。
「あ〜、メインは苦味が強い品種だな……う〜ん」
しばらく悩んでから、自信満々といった様子で私を見た彼は言う。
「……キリマンジャロ」
……。
「キリマンジャロは酸味の強い種なんだが?」
そう指摘されると彼は不服そうに顔を歪めて、両手を上げた。
「分かったよ、降参だ。 正直言うと、最初のキューバもカウンターでチラッと見えたから言ってみただけだ」
「……なるほどなるほど」
たまに居るのだ、こういう客も。
特別珍しい物でもない。
「普段から安物のインスタントしか飲まないんだよ。 旨いのは分かるが、品種までは分からん」
しかしまぁ、潔く認めるのは珍しい……か。
「ふふ、ありがとう。 やはり、客に旨いと言って貰えるのは嬉しいものだね。 冥利に尽きると言った所かな」
そう言って、窓の外を見る。
「あ、そういやサイフ持ってねぇ……」
……。
「……やはり貴様、強盗か!!」
今日の客は、碌でも無い客だった。
成功
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