●
それが依頼だという事を、グリモア猟兵のレイン・アメジストは幾度か強調して言った。
「少し変則的なのだけれど私が予知した現地で依頼形式に仕上げて来たの。もしよければ猟兵さんたちにお願いしたいのだけど、構わないかしら?」
そう告げて、同意を得たレインは頷き今回の依頼についての説明を始めた。
彼女が言うには──此度の転移先はどうも『サイバーザナドゥ』になるらしかった。
「ええ、例の。覇権を争い企業間戦争を繰り広げている無数の大企業の総称、
巨大企業群が世界の汚染……支配を続ける地球ね。ご存知なら頼りにしてるわ、そうでなければこの機会に触れてみてもいいかも知れないわよ?
依頼の詳細を説明するわね。
今回はこの巨大企業群に属すると見られる企業が近いうちに大量の低賃金労働者をまとめて虐殺するかもしれないの。私が予知した内容を分析するに──オブリビオンによる暴走が引き金となってる。一度暴走すれば、他企業が自浄する前に何の力も無い労働者や無辜の市民にたくさんの犠牲が出るのよ」
レインが言うには、今回のサイバーザナドゥで彼女が予知したのはとある悪徳企業が自社の労働者を最後に虐殺してしまうらしい。それを未然に防ぐため、まずはメガコーポ傘下の企業の特定と現場と思しきオフィスないしインプラント製造工場の在処を突き止めて労働者を救出する事が第一の目標となる。
救出までの運びが済めば、オブリビオンが所在するとされる企業の始末だ。
「……でも、今はまだこのオブリビオンと企業についての情報は明らかになっていないのよ。私の予知の精度が良ければよかったのだけど、それは望めない事だから許してね?
けどその代わり、現地で取り次いだ依頼がミッションの一助になると私は考えているわ。猟兵さんたちにはこの依頼に当たって貰って、『彼』を助ける事で目標に到達して欲しいの」
猟兵たちに手渡された資料、あるいは各個に応じた情報にそれぞれ目を落とした。
各々が目を通しているだろう事を確認したレインは少し待ってから口を開く。
「予知した現場にいた犠牲者の一人が恋人を救う為とうたって低額ながら報酬を提示してダークウェブに依頼を投げていたのを見つけたわ。彼はスラム出身のハッカーらしくて、今回の依頼に猟兵さんが来たなら彼の突き止めた地下工場へ案内してくれるそうよ。
──彼が死ぬ未来がある以上はこの依頼は有力よ。彼に同行し現場を突き止めて、猟兵さん」
●錆色のシャシー
スラムを飛び出した少年は薄汚れた携帯端末を腕の接続口に繋げ、裸足のまま汚染物質を有した雨の降る都市へと向かっていた。
息を切らす少年の様子は必死そのもので、薄汚れた低価格帯の機械化義体は置換のされていない循環器を酷く揺さぶり、律動させて、肺や胸を痛めつける。
接続された携帯端末から拡張視覚にまで至ったメッセージ情報を見る少年は、白く染まった髪を濡らして。喉の奥から血を吐きながらネオン光の並ぶ繁華街にまでたどり着いた。
「エル……! エルを、僕の恋人を出せ!!」
辿り着いた繫華街の半ばにある路地裏へ入り込んだ彼は、間もなく繫華街に似つかわしくない古びたオフィスビルの受付に駆けこんで叫び声を上げた。
駆け寄る警備がマシンガンなどの武装を手に構えるが、白髪の少年は意に介さずいきり立つ。
「はぁ。はぁッ……僕は、錆色のシャシーだ……っ、言えばわかる。分かってくれる! 返せ、僕の恋人を……返せ! ぐはっ」
しかし直ぐに少年シャシーは髪を掴み上げられ鳩尾に硬い機械腕の拳を叩き込まれ、黙らされてしまう。
集まって来た武装した警備達は互いに顔を見合わせて首を傾げていた。
「……なんだ、このガキ?」
「誰だ。見た所スラムのガキっぽいが拡張インプラントなんかカラダに入れてやがる、ハッカーかもしれねーぞ」
「地下の連中は確か提携社から派遣された連中だろう? この辺の連中と顔見知りなはずはねえが、妙だな……主任に報告すべきか」
正体の不明な少年。武器こそ持ち込んでいなかったものの、ただ帰すのも気味が悪い。
うつぶせに倒れた少年から目を離して警備が上層部に通信で報告していた時、しかし彼等の思わぬ展開になる。
「あぁ!? おい、逃げたぞ!」
「捕まえろ! 可能なら生かしたまま捕えろと代表からの指示だ!」
雨の降る町を逃げ惑う少年シャシーは背後から聞こえて来るそんな声に顔を歪め、やがて路地裏の一画で身を隠し息をついた。
彼一人では何も成せない。
そんな限界を感じた彼は、腕部に接続したままだった携帯端末がぶらぶらと揺れてるのを見てすぐに次の作戦を思いついた。
「金なら……ある……」
口座情報を開き、モラルが失われたサイバーザナドゥにおいて一定の信頼を有する額があるのを確認した少年シャシーは意を決して文章を作成した。
彼が依頼するのは身辺警護。
報酬は僅かな金額と、彼の恋人を捕えた企業の内部情報だった。
チクワブレード
はじめまして、チクワブレードと申します。
漸くサイバーザナドゥの読み込みをある程度終えたので、それとなく運営できると思います。
香りも味も不味くても、上等なグラスに注ぐ瞬間にだけ生き様を見るサイバーザナドゥの物語をどうぞよろしくお願い致します。
依頼概要はこちら。
第一章『冒険─依頼人の身辺警護』
今回のロケーションはサイバーザナドゥの繁華街にある悪徳企業のオフィスビルを目指すものです。
依頼人となった少年を守りながらビルを目指し、地下工場へと辿り着いて下さい。
※こちらの描写、リプレイはサポート等も交えてまとめて行われます。他者との連携や交流を避けたい場合は【周辺の索敵や掃除】をプレイングに入れていただければ別行動として描写します。
第二章『集団戦─デッドコピー【狼神・ワン】』
地下のインプラント製造工場の警護として配備された、メガコーポ傘下派遣企業『DSIコーポレーション』の量産型戦闘レプリカントのオブリビオン集団と戦闘になります。
一章での依頼人はここに到着した時点で依頼完遂となり、皆様の戦闘から離脱しているので考慮は不要です。
地下工場の低賃金労働者は敵集団を撃破する事で救出となりますので、はりきってめちゃくちゃにしてください。
第三章『ボス戦─執行騎士』
一章での依頼人から受け取った企業の情報を基に探し出した企業代表のオブリビオンを撃破します。
メガコーポ傘下企業を守護する者として改造を受けている代表は相応に強力になっているので、油断なく戦いましょう。
ロケーションはサイバーザナドゥの都市ビルのオフィスになるので、撃破後はメガコーポ傘下である事を裏付ける証拠資料や情報を手に帰還する事となります。
『本件についての簡単な追加情報』
都市内の警察機関は敵企業に買収されており該当地区では動かず。逆に言えば警察が離れている無法地帯となっている。
依頼人は敵企業が違法な製造や犯罪組織への加担に関わっているとされる情報を握っているらしく、或いは猟兵の中にいるサイバーザナドゥの正義の武装警察や事情通な方なら断片的に知っているかもしれない(というフレーバー付与)
猟兵としては最終的にオブリビオンを使役する企業は潰したい所。
今回はインプラント製造を担う企業なので、例えば猟兵にとって贔屓する会社に得があるという理由で参戦も良いと思います。
以上、よろしくお願いします。
第1章 冒険
『依頼人の身辺警護』
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POW : 壁となり身代わりとなってでも守る
SPD : 素早く反撃、逆襲する
WIZ : 襲撃ポイントを予測し、対策する
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新田・にこたま
元々怪しい企業ではありましたが予知が出ましたか。
潜入する理由付けができて助かりましたね。
さて、では依頼人に接触してビズに移りますか。
完全に警察官な格好で行けば怪しまれるとは思いますが、警察官だからこそ敵対企業の情報を得るためにビズを受けたという言い訳もできます。
実際は正義100%ですが…利益優先だと思わせた方が話が早いですね。
敵企業に侵入する際にはUCでオフィスビル内のサイボーグたちにデータ攻撃を仕掛け私を同僚だと思わせて正面から堂々と侵入します。
依頼人は私が捕らえたことにして一緒に行動しましょう。
UC効果で敵の判断力と警戒心はデバフがかかっていますし、疑われることはあまりないと思いますが…。
●
──夜の路地裏はどこも冷える。
ダークウェブに依頼を掲示した少年、『錆色のシャシー』は震える手足を丸めながら地面に置いて腕と接続した端末画面を睨んでいる。助力を申し出て来る他企業のエージェントやハッカーを虱潰しに精査する彼は、一歩間違えれば絶命の綱渡りを強いられていた。
危険域に身を置く者ほどその根幹にはリターンを求めているケースが高い。ましてや巨大企業群の傘下に突入するための警護依頼など、どう考えても頭にアルコールとマリファナでも突っ込んだ類の馬鹿か敵対企業のテロリストにしか見えないのだ。そうなればリターンは少なく、リスクばかりのビズとなる。需要はリターンを求めるものではなく、そうした馬鹿を骨の髄までしゃぶり尽くしてやろうというスカベンジャーや戦闘狂に傾いてしまう。
だから。
少年はとても慎重に、自らの居場所は最低限の情報のみでやり取りをしていた。そのつもりだったのに。
「あなたでしょう、錆色のシャシー」
「なっ、は
……!?」
路地裏に響く声。
微かな水の滴りがどこかから木霊してくるのが聴こえ、次いで少年の耳の内を満たすのは自分の鼓動が爆速になる音だった。
かひゅ、という喉の奥から掠れた音が鳴ったのを見て──今となっては旧デザインの婦警服に身を包んだ新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)が飲食店の屋上から飛び降りて、片膝と拳を立てしなやかに着地する。
「私は新田。あなたの依頼、身辺警護のプランについてビズを──呼んだのは自分なんだから話を聞きましょうか?」
「ひぃっ、本物
……!?」
ビズに移ろうとするにこたまの前で錆色のシャシーが腰のベルトから何かを引き抜こうとしたのを見て、彼女はそれよりも早く警察手帳を翳して動きを止める。
少年の眼も義体済みだったらしい。警察手帳のデータが本物と違わぬ照合結果をもたらしたことで、潔く地面に尻餅をついてその場に屈したのだった。
「あなたを追う者や、巷を騒がせる『義体蒐集屋』ではないので安心してください。こちらはあくまでもビジネス……本来の任務で此処にいる訳でもないのです」
「ど、どうやってここに……」
「見た通りですが?」
にこたまは未だに狼狽えている少年の前でひらひらと両手を上げて見せ、何もしないといった風に見せつけると屈んで顔を覗く。
旧式制服に身を包む彼女がどういう意図の人物かは錆色のシャシーには分かる。そして、警察である側面をこうもありありと見せつけられては疑いの余地は無かった。
なによりも、どこかの企業や組織に肩入れするような警官は今の彼にとっては都合がよかった。
ビズを受けたいという意志があるのなら、錆色のシャシーが選ぶ返答はひとつだけだ。
「……報酬は先払いさせて貰う。額に見合う所まででいいんだ、腕を貸して欲しい……残りの企業機密に関しては別れ際にまとめて凍結させたデータでそっちに投げるよ」
「いいでしょう。ではこの場でクレジットを送金した後、あなたの依頼を遂行後の後払いでの報酬を件の情報データとする契約で構いませんね」
淡々と、必要以上に思惑を勘繰られない程度に。にこたまは少年の眼を見たままビズのピリオドを打って、錆色のシャシーも気付かぬ間に右手で掴んでいた腕を通じて彼に契約書類に該当するフォーマットを送信。受理させた。
これで、ある程度の信頼は取り次げた。んー、と背伸びしながら立ち上がったにこたまは夜の路地裏を振り返り見る。
雨足は弱まったが、それでもまだ降り続けている。地面を跳ねる雫が光を乱反射させ、視界に疎らな点を打っていた。
「薄着の様ですが寒くないですか? もし良ければ防弾も兼ねて上着くらい貸しますよ」
「え、あ……大丈夫だ。僕も逃げ足なら自信がある、銃撃戦になったら身を隠すつもりだよ」
震える肩を見たにこたまが目を細めてから、暫し彼の眼を見て。それからゆるく頷いて答える。
「我慢はカラダに毒ですよ。まぁ、では行きましょうか」
踏み込めば逃げる。野良の子犬でも相手にしてるような感覚を彼女は覚えるのだった。
──捜索時、既に追っ手の位置はある程度掴んでいた。
だから路地裏を出る時も、錆色のシャシーに案内されて着いたビルの傍に来ても、誰かにそれを見咎められる事も追われることも無かった。
それを知って知らずか、あるいは運の良いこともあるのだと思いながら少年は自らが恋人を救う為に乗り込もうとしていたビルを改めて壁越しに指差してにこたまに報せた。
「警備の人数は今は14人。本当はもっといるはずだけど……地下か、僕を探しに出てるのかも知れない」
「なるほど、では少し待っててくださいね」
錆色のシャシーが見守っているのを背にして、右手を適当に振る。にこたまの視界の端に拡張視覚による電子文章が流れた後、彼女のユーベルコードが自らの機能の外に干渉──錆色のシャシーや並のハッカーでは知覚できない精神干渉プログラムの波を放った。
静まり返る夜闇の中、繫華街の方から差し込むネオンの光を浴びるにこたまは打ち込んだ記憶改竄プログラムの結果を待った。プロセスは単純だ、この手の手法に耐性が無いならばすぐに手応えがある。次のバックドアプログラムにまで至ればそれで終わりだ。
時間は限られている。
(……上書き完了。同期……一部失敗、ビル内に少々のプロテクトが掛けられていましたか。他の猟兵さんには申し訳ないですが私の後は軽い戦闘になりそうですね)
ユーベルコード【正義の潜入捜査(即席)】を終えたにこたまは仲間に通信を一つ入れた後、背後の少年に向き直る。
「どうだった?」
「行きます。ここからは不安でしょうが『退路』含め問題ないので、安心して私の言うとおりにして下さい」
錆色のシャシーは白髪の髪から水気を滴らせ、霧雨にまでなった空を一度見上げる。
「……たのんだよ」
意を決してビルに近付いて行った錆色のシャシーは、背中から一度乱暴に押されて飛び込むように建物内に入ってしまう。
床を滑る少年の衣服を引っ掴んで立たせたにこたまは周囲から感じる視線、社内の警備サイボーグたちにローカルでの通信を入れた。
「『──あとで奢りです』」
「『──よくやった。おいお前等、アイツが今日の酒奢るってよ!』」
「『──どうして捕まえて来たお手柄に私が奢るんですかね、まぁいいですが。生きて帰って来たらお願いしますよ』」
「『──応。代表がカンカンだったからな、遅いぞってな。あの給料泥棒からのお達しだ、地下のラインに加えておけ……だとよ』」
男達の通信を終え、にこたまはビルの地下への案内線が視界に浮かんだ事でそれが『腐敗警官仲間』になった自分へのサービスだと考え。錆色のシャシーを乱暴な手つきで揺すりながら歩かせてそちらへ向かって行くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
レイン・ファリエル(サポート)
『さぁ、貴方の本気を見せて下さい』
人間のサイキッカー×ダークヒーローの女の子です。
普段の口調は「クールで丁寧(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、機嫌が悪いと「無口(私、アナタ、ね、よ、なの、かしら?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格は落ち着いてクールな感じのミステリアスな少女です。
人と話すのも好きなので、様々なアドリブ会話描写も歓迎です。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
七星・天華(サポート)
羅刹のガンナーで元気娘。
基本的にフレンドリーに接する。
『一般人に過度な期待はしないでよね。』
自分は才能など無い平凡な存在だと思っているが実は天才。
二丁拳銃「白雷」と「黒雷」を用いた近距離戦闘も可能で
ナイフや体術も扱える。
装備や戦場の地形を利用した遠近両方の戦闘も可能。
生まれつきの体質と装備の影響で常時帯電している。
世界を放浪して手に入れたアイテムで出来る事の幅が広い。
少々過酷程度の環境は即座に対応適応するサバイバル能力。
美人な元気娘だが暗殺もするデンジャラスな一面も。
家族のみんなが好きだが特に姉が大好きで昔から姉の一番のファン。
出身の隠れ里に自分にもファンが居るとは微塵にも思っていない。
●
──新田にこたまからの通信メッセージを見た七星・天華(自覚無き天才・翔ける紅い雷光・f36513)が空きビルの一室から出て行く。
人気のない暗闇。ビルの廊下にはどこかの無名企業が置いた自販機が設置されており、その薄明りのそばで待たせていた仲間のレイン・ファリエル(クールビューティー・f17014)がベンチに座っていた。
通信を終えた天華が戻ったのを見上げ、レインは小首を傾げて訊ねる。
「依頼人の少年は無事に着きましたか」
「錆色のシャシー、だっけ? うん、新田さんが上手くやってくれたみたい。こっちはこれから依頼人の退路確保と地下工場へのルート確保、つまり……お掃除ってところかな」
天華とレインは既に新田にこたまがユーベルコードによってオフィスビル内にいるサイボーグを欺いている事は知っていた。だが同時にそれだけでは全体の無力化は難しく、義体によっては何らかのバックアップやインプラントによってデータ改竄の痕跡に気付いてもおかしくない。
依頼人の身辺警護は報酬に見合うまでと契約が成されていたが、とはいえオブリビオンが背景にいる事件のひとつ。猟兵としても錆色のシャシーなる少年の事情を鑑みれば最後まで面倒を見てやりたいというのが本音だった。
ゆえに今後の猟兵は現場周辺の企業関係者や私兵部隊の掃討、依頼人や地下工場で囚われている労働者たちの退路の確保が優先されている。天華とレインは後続の猟兵たちにビル外周の敵戦力への対処を任せ、依頼人たちの入って行ったビル内の警備とサイボーグたちの無力化が今の任務となる。
「では行きましょうか。なるべくならば企業の使役するオブリビオンが襲って来るより先に事を済ませておきたいですし」
「だね、じゃっ……ボクは左から行くよ!」
──霧雨が冷たいビル風によって横から吹き付けて来る最中、天華とレインは左右に分かれてオフィス内に突撃した。
「警報アラート
……!?」
サイボーグ達のローカル通信に割り込んで来るのは社内警備システムから発せられた警告文だ。窓を叩き割られた反応、その位置へ警備兵は義体を走らせ迅速に対応しようとした。
しかし、暗いオフィス内に一人が入った瞬間に眉間を撃ち抜かれて滑り。続くサイボーグがアームガードを頭部に添えて突入すれば後頭部を抜かれて崩れ落ちる。
「なんだ、何が起きて……!」
熱源。味方の持つ企業製ライフルではなく、拳銃と見られる発砲パターン。消音が為されている。足音は複数。天井、壁面、正面下部、背後。
困惑するサイボーグの視界内に浮かび上がる襲撃者の痕跡が、そのまま自らの死への道筋と化して──彼は無慈悲な弾丸に貫かれて壁の染みとなった。
天華が奔る。
その向かう先、オフィス内に突入してから舞う様に敵の合間を縫い跳躍しては滑り転がるレインがドレスの袖から薙いだ暗器で瞬きの間に集まった敵戦力を蹴散らしていた。
(少し手応えが硬いですか)
新田にこたまは元より、今回は巨大企業群の中でも『臭う』と怪しんでいた要注意企業のひとつだった。レインはそれを鑑みて事前にオフィス内に配備された警備労働者のメンバーが所属するクランやバックアップ企業、愛用する義体パーツ製造会社を洗っている。
特別な装備はいらない。
たん、とドレスをはためかせて距離を詰めた彼女は滑らかに懐に入り込み。同時に指先に挟み掴んだナイフを義体の接続部と配線、動力部への機関神経路を全て断ち切って蹴り倒す。
「ぐ、が!?」
動けない。サイボーグの身となった彼等も破壊ではなく、完全な動作不全を起こして立ち上がれず指一本動かせないのは初めてだったろう。
そうして、彼女達がひとしきり暴れ回った後。
ビル内の制圧が完了した報せが味方に行き届いたのに次いで、新田にこたまから現況報告がメッセージで届くのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『デッドコピー『狼神・ワン』』
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POW : 攻撃ですね、了解です!
他者からの命令を承諾すると【任務遂行に必要な重火器類】が出現し、命令の完遂か24時間後まで全技能が「100レベル」になる。
SPD : 防衛ですね、了解です!
レベル×1体の【ロボットウルフ】を召喚する。[ロボットウルフ]は【噛み付きや体当たりと仲間救護】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
WIZ : 無力化ですね、了解です!
【巫女舞】を見せた対象全員に「【踊りに合わせた手拍子と応援をよろしく!】」と命令する。見せている間、命令を破った対象は【攻撃速度と戦闘意欲】が半減する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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●
猟兵たちの手引きによって地下工場へと入り込む事に成功した少年、『錆色のシャシー』は突如猟兵の制止を振り切って通路奥の扉を開け放つ。
この時、既に猟兵側の代表者には錆色のシャシーから報酬クレジットが送金されており、同時にインプラント製造企業『
ファナテックコープ社』の違法製造ラインに関する情報と他製造プラント管理企業との合併計画、都市郊外開発計画におけるギャング組織や警察上層部との癒着を示す写真やデータマップが受け渡されていた。
もう、自身の身を護る者はないのに。それでも少年はここで義理を果たしたのと同時に安全を顧みずに工場へと単身乗り込んで行ってしまった。
「エル!! エル──! 僕だ、サイバーアカウント名『納豆は寿司として認めないエチゴヤRe:23140077』だ!!!」
大声で叫び、天井部を回転するラインに吊るされた義体の腕や脚が揺れ動く中を走る。錆色のシャシーの恋人は、数ヶ月前にネット上で知り合った者。架空の人物だったのだ。
だがそんな彼女はシャシーと確かな絆を感じさせるメッセージや会話、仮想空間で何度も会っていた。そんな恋人が連絡を絶ったのは数日前、錆色のシャシーに『所属する部署で新たな事業が始まるらしい』とだけ伝えたのを最後に音信不通となってしまっていたのである。
「どこだ……! エル──!!」
困惑する作業員たちをどかし、ひたすらに恋人を呼ぶ少年は辺りを見回す。
どこもかしこも、インプラントや義体パーツばかりが並ぶ普通の製造工場の風景だ。作業員も男ばかりで、彼の知る金髪の少女型義体の恋人の姿はない。
「エル、エル……うっ!」
義体パーツの積まれた箱にぶつかって転ぶ少年、錆色のシャシーは忌々しそうに少女型腕部パーツや細切れになった衣服を蹴飛ばして立ち上がった。
──どこにもいなかった。
確かに彼は、自らの寿命を縮めてまで手にした違法ハッカーツールで恋人が最後に接続したネットワークアカウントの発信元を突き止めた筈なのに。
「なんで……ここじゃ、ないのか……?」
腕からぶら下がった端末を見下ろして、恋人の努めている会社名をチラと見つける。
社名、企業名、地名、ビルの座標、何から何まで合致している。この手のツールで誤りが出た場合は、どちらかといえば実在しないモノを検索結果に出してしまう点にある。つまり何もかも実在するモノを出されたならある程度は信頼できる。
それなのに、いない。
それどころか違法な現場にはとても見えない製造工場の姿に錆色のシャシーは混乱し始めていた。
「アイツ、何やってんだ!」
「おい、『DSI』のレプリカントを出せ! 野郎……ニッタはどこだ! なんでこっちに居やがる!?」
武装したサイボーグが工場内に駆け付け、同時に鳴り響く警報。
錆色のシャシーが狼狽えた隙に天井部から複数の人型が降り立った。
「DSIコーポレーションをご利用いただきありがとうございますニャン♪ 今宵はどのように致しましょうか~♪」
「DSIコーポレーションのご利用感謝致しますわん♥ 警備システムの追加プログラムの受理完了致しました、これよりぃ……ミンチにして差し上げますわん♥」
メガコーポ傘下派遣企業『DSIコーポレーション』の量産型戦闘レプリカント、【デッドコピー『狼神・ワン』】の部隊が現れる。
彼女達は一様にしてDSI社の開発、改造してオブリビオン化したレプリカントであり傭兵の立ち位置である。そんな彼女達に下されたのは侵入者の抹殺だった。
変態企業として名高いDSI社製、そのレプリカントの由来は過去に活躍していたアイドルやバーチャルキャラクターの模倣品。だがその中身はそんな可愛らしい由来とはかけ離れたものだ。
錆色のシャシーが他の作業員達と逃げ惑う最中、出口にもサイボーグやレプリカントが現れる。
(こんなところで、こんな……!)
少年の脳裏を過ぎったのは、猟兵の存在だった。
高宮・朝燈(サポート)
『オブリ解析…バール先生、あいつを止めるよ!』
妖狐のガジェッティア×電脳魔術士、10歳のませたガキです。
普段の口調は「ちょっとだけメスガキ(私、あなた、~さん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」、機嫌が悪いと「朝燈スーパードライ(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
ユーベルコードは、レギオン>お料理の時間>その他と言った感じです。レギオンで出てくるガジェットはお任せします。補助的な役割を好みますが、多少の怪我は厭いません。オブリは小馬鹿にしますが、味方には人懐っこくなります。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
響納・リズ(サポート)
「ごきげんよう、皆様。どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」
おしとやかな雰囲気で、敵であろうとも相手を想い、寄り添うような考えを持っています(ただし、相手が極悪人であれば、問答無用で倒します)。
基本、判定や戦いにおいてはWIZを使用し、その時の状況によって、スキルを使用します。
戦いでは、主に白薔薇の嵐を使い、救援がメインの時は回復系のUCを使用します。
自分よりも年下の子や可愛らしい動物には、保護したい意欲が高く、綺麗なモノやぬいぐるみを見ると、ついつい、そっちに向かってしまうことも。
どちらかというと、そっと陰で皆さんを支える立場を取ろうとします。
アドリブ、絡みは大歓迎で、エッチなのはNGです
蒼月・暦(サポート)
デッドマンの闇医者×グールドライバー、女の子です。
普段の口調は「無邪気(私、アナタ、なの、よ、なのね、なのよね?)」
嘘をつく時は「分かりやすい(ワタシ、アナタ、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
無邪気で明るい性格をしていて、一般人や他猟兵に対しても友好的。
可愛い動物とか、珍しい植物が好き。
戦闘では、改造ナノブレード(医療ノコギリ)を使う事が多い。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
七星・天華(サポート)
羅刹のガンナーで元気娘。
基本的にフレンドリーに接する。
『一般人に過度な期待はしないでよね。』
自分は才能など無い平凡な存在だと思っているが実は天才。
二丁拳銃「白雷」と「黒雷」を用いた近距離戦闘も可能で
ナイフや体術も扱える。
装備や戦場の地形を利用した遠近両方の戦闘も可能。
生まれつきの体質と装備の影響で常時帯電している。
世界を放浪して手に入れたアイテムで出来る事の幅が広い。
少々過酷程度の環境は即座に対応適応するサバイバル能力。
美人な元気娘だが暗殺もするデンジャラスな一面も。
家族のみんなが好きだが特に姉が大好きで昔から姉の一番のファン。
出身の隠れ里に自分にもファンが居るとは微塵にも思っていない。
コレット・クリスクロス(サポート)
今日も今日とて、理不尽なエンディングをぶっ壊しに行くとしますかねェ
ほな、あんじょうよろしゅうなァ
あ、報酬は金目の物でおしたら、何でもよろしおす
でも出来れば、現金以外がえェなァ
(京言葉と丁寧語が、中途半端に混じった喋り方をする)
他者の邪魔はせえへんよぉ活動
協力出来る時は、ちゃんと協力して行動しますえ
戦闘の際は、基本的には後方火力として参加
即死せぇへんのやったら、多少の無理無茶無謀は許容範囲でおす
戦闘でよく使うのは、レギオスブレイドとクリムゾンハウンドと邪眼
戦場の状況で使い分けます
抜刀・飛燕返しはボス戦等の強敵専用
デモンウイング、ファイアーボールは、その時の状況と気分次第で適当にぶっ放しますぇ
●
──地下工場へ配備されたレプリカントは通常、運用時の費用を抑えるために派遣元である『DSI社』の格納コンテナに収容されている。
こうする事で待機中の保管料以外の雇用料を抑える事が出来、同時に彼女達のメンテナンスも気にしなくて済むのだ。後はインプラント製造企業『
ファナテックコープ』が緊急時に警報システムを作動させればそれで契約が完了し、戦闘用レプリカントは出動する事となる。
その格納コンテナが位置するは地上のオフィスビル上階。
地下工場へと続く移動用のダストシュートめいたホールをレプリカントが十数体降下する最中。そのうち数体が社内警備システムとリンクした事で、地下工場の外にも侵入者が多数襲撃を掛けて来ている状況に気付き降下を中止した。
「……あれぇ? コンナ所でどうかしたのかしらワン?」
──レプリカントがいなくなり、空いたコンテナを汎用アームで掴みフルスイングで投擲した高宮・朝燈(蒸気塗れの子狐・f03207)が耳を忙しなく揺らして言った。
「わぁ! もうこっちに気付いてるー!?」
「だったらここで増援の手は止めないとね。行くよー!」
シェイカーガジェット『バール先生』に搭乗する朝燈の横を走り抜けた蒼月・暦(デッドマンの闇医者・f27221)が片手で拳銃を撃ちこみ牽制した直後、後続の味方から放たれた弾丸がオブリビオン『狼神・ワン』たちへと降り注ぐ。
弾幕に押され怯んだケモミミ巫女アイドル型レプリカントに肉薄した
暦が拳銃を投げつけ、背から振り抜いた解体用医療武器の鋸形ナノブレードを袈裟に切りつけた。噴き出す義体鮮血。血飛沫に怯まない
暦に次いで敵レプリカントの巫女服もまた同様、DSI社に許可された自社装備を腕部から露わにして砲撃を見舞う。
格納庫内を爆風が吹き荒れる。
しかしその中でも構わず小柄ながらのヤクザキックでレプリカントを蹴り飛ばした
暦が改造ブレードで腕部と脚部を武装ごと切断して薙ぎ倒し、別のコンテナから出て来たレプリカントの銃口がこちらへ向く前に強靭な脚力で壁面を駆け上がり回避する。
「エマージェンシー、ですワン♡」
緊急の追加要請。格納コンテナ内に設置された無数の電送装置からナノマシンを媒介に、無数のロボットウルフが狼神・ワンの背後から飛び出して行く。
「オブリ解析……バール先生、行くよ!」
汎用アームを床に突き立てて前方へ跳ぶ朝燈のガジェットがコンテナ内に突っ込み、ロボットウルフの召喚されている装置そのものを叩く。
警備用のナノマシン凝固フレームロボット達が背部から機関砲を見せ唸り声を上げる。
「──犬の相手は任せた!」
機関砲のマズルフレームを側面から正確無比な射撃で逸らした直後、ビルの屋外で轟くは飛空挺が格納庫内に突撃した事で生じた衝撃。猛然と瓦礫と余波が窓を全て割り散らして内外で破壊が巻き起こる。
七星・天華(自覚無き天才・翔ける紅い雷光・f36513)のユーベルコードで率いて来た霊体傭兵の部隊が飛空艇から飛び降り、一糸乱れぬ連携による銃撃がロボットウルフたちをコンテナ内に押し込み、装置を破壊していく。
既に格納庫内のコンテナは全て起動している。その為、乱戦もかくやという混沌と化すかに思われたが天華も筆頭とした傭兵部隊が狭い格納庫内でも隊形を乱さずに応戦する事で地下工場へレプリカントが降下するのを抑え込む事が出来ていた。
ロボットウルフが次々に召喚されては砲撃銃撃が入り乱れビルの壁面を穿つ一方、怯まず二丁の拳銃を巧みに操る天華がカウンターショットを決め。朝燈と
暦も近接戦ペアとして連携しながらレプリカント本体を叩いていた。
それでも時に、流れ弾やレプリカント本体が強力なサイバー兵器といった武装を用いて強襲して来る際もある。
「──皆さんは敵に集中を。背中は私がお守りいたしますわ」
奏でられる旋律の風。
爆散するレプリカントやロボットウルフの動力炉から発する青白い光を反射し、白銀に光り輝く白薔薇を嵐の如く舞い上げるは響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)の奏でるフルートの音。仲間と自身に向かう火の粉を払い除ける白薔薇は同時に刃と化し、花弁の波が殺到した先、そこでもレプリカントが巫女服めいた衣装スーツや強化外皮を刻まれて爆散する。
飛び交う銃弾をも刻みその様を眺め、口笛がひとつ。
「はぇー、バックアップは完璧ですぇ。こりゃ私の出番は無いかも知れまへんなぁ」
揺れ動く旋律の傍で邪剣を肩にトントンと置き、爆風に煽られてはためく金髪と並んだのは白薔薇と映える赤髪。コレット・クリスクロス(アレイキャット・f38932)が背後の空中に固定した無数の邪剣の矛先をどうするか悩む仕草を見せていた。
群れを成す刀剣は次第に格納庫内の天井付近を旋回し、円陣となって包囲する。
「どうでっしゃろ。私も前に出ていけるか思います?」
「ご心配には及びませんわ、可能ならば少しだけ私の背を守っていただければと思います」
「おおきにぃ」
チラと目を配り。互いに頷き合った後コレットが邪剣を数本手元へ手繰り寄せて重ね、大鎌の形貌へと転じた。
ツインテールの赤い軌跡が音も無く流れ、尾を引いた先。一直線にコンテナ内にいたレプリカントを切り裂いて蹴り砕き、次いで薙ぎ払った一閃で内部の装置ごとロボットウルフを粉砕して見せる。
包囲陣と化していた無数の邪剣もまた彼女に続き、最早狙い澄ます必要もないとばかりに手を振り下ろした直後から格納庫内を蹂躙し始める。仲間への被害は全て白薔薇の嵐を操るリズが引き受けてくれるのだ、ためらう必要は無かった。
同士討ちを気にせず敵を滅する猟兵達は破竹の勢いでDSI社の格納コンテナ群を制圧したのだった。
「──戦闘終了ですわね。地下工場の様子はどうなりましたか」
「地下は通信が届かないみたいで……何かあればじきに連絡が『彼女』から入る筈だけどね」
成功
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新田・にこたま
納豆巻きだってスシです。異論は認めません。
そもそも、スシなんて元は立ち食いジャンクフードなのに、●●は邪道とか言い出すのっておかしいと思うんですよ。それに、合成スシしか食べたことがない人間も多いこの世界でそんな贅沢を言うのってどうなんでしょうか?
UCによる先制攻撃でハッキングプログラムの光を戦場に放ち、敵集団の動きを止めます。動きが止まった敵なんて的でしかありませんから13秒以内に全ての敵をサイバー軽機関銃で撃ち抜きます。削る技がある以上、寿命は大事なリソースですから。
上記の台詞も大体13秒あれば言い終わりますし。
あと、まだ私に騙されてる可哀想なサイボーグもいますね…ついでに撃っておきます。
●
地下工場に響き渡る騒音。
それが警報に基づいて出動したレプリカントの通って来たホールからだったからか、或いは地下工場に施された防音性能によるものか。いずれにせよ工場内に駆け付けて来た社内警備のサイボーグやレプリカント達はそれが戦闘によるものだと分かる様子はなかった。
彼等の向く先は出口を塞がれ、膝を屈している少年だ。
『DSIコーポレーション』の戦闘用レプリカント、オブリビオン『デッドコピー【狼神・ワン】』は簡単な解析ひとつで少年が非武装のハッカーだと看破した上で、拳銃形態の武装を腕部から覗かせて突き付けた。生体パーツの隙間から覗く鉛色の銃口を『錆色のシャシー』は背筋を冷たいものが伝い落ちるのを感じながら見つめていた。
どこかの過去のアイドルを模倣したレプリカントは小首を傾げ、銃口を揺らしたのを見た白髪の少年は薄汚れた体をびくりと震わせ、それから顔を背けようとした。
だが──目の前のレプリカントが弾かれたように頭をブレさせ、赤い飛沫と一緒に横薙ぎに吹っ飛んだ姿を見て目を見開く。
出口のそばに立っていたもう一人のレプリカントがユーベルコードを起動しようとした瞬間、頭部を先と同様の一射が貫き。次ぐ三発のバースト射撃が糸の切れた人形の如く通路奥へ吹き飛ばしてしまった。
その場へ歩み出て来たのは一見すれば一般警官の姿。
「────納豆巻きだってスシです。異論は認めません」
無骨なサイバー軽機関銃を片手に現れたのは、地下工場に着いた瞬間から依頼完遂にした筈の新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)だった。
彼女は錆色のシャシーへは視線を向けず、工場内へ踏み込みながら戦闘態勢に移ろうとしているレプリカント達に左手を突き出し掲げた。そこには自身が文字通り掲げる正義の威光を示す警察手帳が在り、その威光を示すかのように眩い光が場に奔る。
「そもそも──」
「……え?」
思わぬ頼もしい助け人の登場を喜んだ少年は一瞬だけ、にこたまの金色の瞳の奥に陰があるのを何故か見つけてしまった。
様子がおかしい、というよりも──何だか怒られている気がする事に少年は気づく。
そして何よりも、彼女が右手に携えた大型の銃器に肝を冷やした。整備こそ行き届いているが、恐ろしく使い回されている様子がフレームから『臭った』のだ。
黒鉄の鈍さの中に走る青いライン。あれは決して安価なスマートガンの類ではなく、義体の強度や相応のパワーがある事を前提に設計された威力反動を持った機関銃だと少年は推測する。
サイバー軽機関銃を掴むにこたまの右腕が薙ぎ払われたのと同時、思わず反射的に頭の後ろに手を当てて地面に伏せた少年錆色のシャシーは頭上で鈍い衝撃が空気を打ったのを感じた。
警察手帳を素早く仕舞う、にこたまの声の前後で炸裂音が鳴り響く。
「──スシなんて元は立ち食いジャンクフードなのに、●●は邪道とか言い出すのっておかしいと思うんですよ。それに、合成スシしか食べたことがない人間も多いこの世界でそんな贅沢を言うのってどうなんでしょうか?」
轟く銃撃音と共に錆色のシャシーのそばに降り注ぐ薬莢。レプリカント達からと思われる「システムエラー」の意を示すコード音声の連続に次ぐ爆発音。
伏せた少年の視界外ではレプリカントがいずれも武装変形すら出来ず。同時に内部通信による電子召喚でロボットウルフを出しても動作するより先に頭部を破壊され、一瞬で数を増やした敵は同時にその数を減らしていった。
トリガーを絞ったまま薙ぎ払うように軽機関銃を振り回したにこたまは、左手で拡張視界内のサークルから疑似武装を抜き出して掴み取り。腰部の圧縮ポケットから伝い出たナノマシンが拡張視界にて表記された疑似武装を覆うようにして形成。小型の短機関銃となったそれを更に構え、薙ぎ払い残敵を撃ち抜いて行った。
鉄板の敷かれた地面に這いつくばる錆色のシャシーは自分の心臓の鼓動か銃撃の衝撃か、訳の分からない揺れや振動に震える。
少年は僅か数秒の間に何度も叫ぶ。
「うっぅおおお!? すみません! すみません!!」
「別に咎めているわけではありませんが、スシを認めないというのは──」
「いや本当は見た事があるだけで食べた事なくってあのその……」
銃撃が続く。にこたまのサイバー軽機関銃が轟いた刹那、不意に錆色のシャシーは走馬灯のように以前中華街にあった寿司屋『おおきに=どす』のウインドウ越しに見た納豆軍艦なる商品を精細に思い出してしまった。
あれは有害物質の雨が降り注いでいた、肌寒い春先の頃。
彼が出会ったそれはドスコイニンジャー・シェフの加藤アルバトロスという全身タイツのおっさんが握るスシらしい。
ねっとりと金粉を散らしたハードモイストな粘りの質感と合成再利用ロゴ入りの厚手海苔に巻かれた食用カーボン・シャリの色艶のある白さ。あの見た目はとにかく派手で、だが同時に美味そうでもあった。
そうだ──美味そうに見えたのは確かなのだ。
(僕は納豆巻きを羨んだのか?)
少年は刹那の思考の果てに緊張と恐怖と安堵が入り混じり混乱しきった頭で答えを出した。出てしまった。
少しだけ説教をしていたら、気づけば薄目のまま白昼夢の如く気絶していた錆色のシャシー。その傍ら、にこたまは二丁の銃を軽く揺すった重さで残弾を検め。それから工場内を見渡した。
「……おや?」
「お、オォイオイ!? 何やってんだよニッタ、お前これ、オイ! どうなってる!?」
警備のサイボーグもレプリカントも、悉くを撃ち抜いていたにこたまは意外な人物が生き残っていたのに気づく。奥から走り出て来て頭を抱えるサイボーグは彼女が事前の潜入時にハッキングプログラムで記憶改竄を施していた警備の一人だった。
ぱちりと金色の瞳を瞬かせ。視界に浮かぶ解析データの羅列を一瞥したにこたまが納得して頷く。
わめくサイボーグの後方、拡張視界内に映る奥の小部屋が通信用に防護加工されたコンテナだと材質から推測されていたのだ。
「なるほど。それはさておき、まだ私に騙されてる可哀想なサイボーグもいますね……ついでに撃っておきます」
ドパァン、という飛沫混じりの重い音。
哀れな棒立ちの案山子と化していたサイボーグは何故にこたまが手帳を一瞬掲げた後から自身のボディが制御不能になったのか、最期まで分からなかった事だろう。
──地下工場の制圧時に新田・にこたまが行ったのは対ハッカーツールプログラムや防壁システムの皆無な相手に有効な、ハッキングプログラムを仕込んだフラッシュだった。
ユーベルコードとして登録されている名は『桜の代紋フラッシュ』なるものだが、これは彼女が盾にも剣ともする正義が威光として使い、限られた時間内でならノーリスクで行使できる力だ。
無駄を省き、最短最速で制圧に掛かったのは。これの効果時間で一定を超えた分だけ以降は『寿命』というリソースの減少を強いられる事を嫌ったからだった。
こうした削る技や力はいずれもっと違う場面で──自らが正義の為に運用すべきだとも考えて。
「仲間へのメッセージは送信完了。さて、『
ファナテックコープ社』の代表者は今どこにいるのか──確認させていただきましょうか」
コンテナ内の奥に鎮座されていた大型の高度隠匿性能を有した通信端末へ近づいて行くにこたまは、錆色のシャシーなる少年や一連の怪しかった企業情報と中枢における現代表者についてのデータを抜き取りにかかるのだった。
大成功
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第3章 ボス戦
『執行騎士』
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POW : 強制執行
速度マッハ5.0以上の【超スピード】で攻撃する。軌跡にはしばらく【大剣の残像】が残り、追撃や足場代わりに利用できる。
SPD : 執行大剣
自身の装備武器を【メガコーポに逆らう悪を殲滅する執行形態】に変え、【防御無視】能力と【斬撃波放射】能力を追加する。ただし強すぎる追加能力は寿命を削る。
WIZ : 執行命令書
【浮遊ドローンが投影したメガコーポの命令書】を見せた対象全員に「【メガコーポに従え!】」と命令する。見せている間、命令を破った対象は【攻撃力】が半減する。
👑11
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指令が届くのはいつだって、失敗の許されない時だ。
急速に業績を伸ばしていた他企業、プラント管理企業『呑福』へ事業における協力提携を結ばせる際に代表者を叩きのめす時。ストリートの半グレを駆逐する時。ヤクザの総本部への襲撃を任された時。
いずれも社の発展には欠かせない節目ともいえるもの。分水嶺とされる期を自社の好機に転じさせる、黒を白に塗り変える為に己は在ったのだ。
近代都市アンチオピニオンに本社を構えるインプラント製造企業『
ファナテックコープ社』は親会社となる
巨大企業から、ついに新たな使命を受ける事となる。
「……武装警官を筆頭に企業データベースへの侵入。加えて、新規事業のプラント構成予定だったビルの制圧と検挙だと……?」
オフィス内に浮かび上がった立体拡張映像を睨みつける、強化外骨格を装着した男はくぐもった声を漏らして首を傾げる。
彼の確認している情報に添付されていた親会社からの指令書には『
最高責任者』の封蠟マーカーが押されていた。内容は地下工場での襲撃とそれに関連するスラム街の少年について、そして猟兵達の存在が記されており。幾度も文面上で強調されていたのは関係者の抹殺だった。
手段を問わないとも書かれていた事で、書類上はFTCC代表者となっている彼にも事の重大性が分かって来た。つまりは本格的に楯突く輩が現れたという事なのだろう。
汚れ仕事ではなく、それは正しく粛清に相応しい。
「命知らずな者が居たものです……だが久しぶりに血が騒ぐ。直近での単騎指令が出たのはいつかの代表者との決闘の時だったか、いずれにせよ下手な処理を考慮しない分ラクな仕事ですね」
新たな闘争の予感に、男はデスクの端末に脳内インプラントによる遠隔操作で社員へ本社ビルからの退避をメッセージで指示する。既に居場所はハッカーによって暴かれており、場合によっては別の区画から雪崩れ込んで来た都市警察との衝突も視野に入れていたからだ。
強化外骨格の内側で何らかの操作が為された後、彼を中心にデスク下から這い出て来た機械化義体の『鎧』が纏わりついて着装が進む。
代表者として、メガコーポの発展を脅かす輩は消さねばならない。
崇高なるCEOの命は絶対であり啓示に等しい。かつての人類は神を信仰し文明の発展と統治、支配に繋げたという。今の時代にとって神とは、我等が現CEOに他ならない。
「場所を変えるのがベストなのでしょう。だが既に────」
彼は襲撃の魔の手がすぐ近くにまで伸びている事を理解していた。その上で、剣を取った。
オブリビオン『執行騎士』の名を冠する者。特命社員にして元傭兵であるその男、インプラント製造企業FTCCの現代表者『サリエル・イドカワ』は玉座の様にデスクの上に座り、敵を待つのだった。
七詩野・兵衛(サポート)
『アルダワ魔法学園応援団『轟嵐会』団長 七詩野兵衛である!』
アドリブ他の猟兵との絡みカオス?も歓迎
見方によってはギャグキャラ化する
怪我は厭わず積極的に行動する。むろん各種技能は使うが。
何らかの事情で必要がある場合以外は、
他の猟兵に迷惑をかける行為や公序良俗に反する行動はしない。
我輩の応援は森羅万象の全てが鼓舞する対象だ!
それは巻き込まれた一般人から士気の足りぬ兵達。
たとえ枯れ果てた森だろうと、
無念にも死んだ者達の魂や死体であろうとも!
我輩の迸る『気合い』と滾る『情熱』で
ありとあらゆるものを鼓舞するのだッ!
(というある種の狂人?らしきもの)
だが、意外と常識的に考えて普通に戦闘をする事もある。
架空・春沙(サポート)
『断罪します』
人狼の女性
ピンク掛かった銀髪と同色の狼耳・狼尻尾、緋色の瞳
スタイルが良い
服装:ぴっちりスーツ
普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」
罪有る者には「冷徹(私、あなた、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。
・性格
通常は明るく人懐っこい女性ですが
罪有る者に対しては冷徹に、処刑人として断罪しようとします
・戦闘
大鎌「断罪の緋鎌」を振るって戦います
ユーベルコードはどれでもいい感じで使います
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
クオン・キマヴィス(サポート)
サイボーグのブレイズキャリバー×戦場傭兵
普段の口調は「非常に寡黙 (私、あなた、呼び捨て、ね、よ、なの、なの?)」、戦闘中は「無機質(私、あなた、呼び捨て、ね、よ、なの、なの?)」です
UCは指定した物を使用し、損傷は気にせず行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
非常に寡黙で感情の起伏に乏しく、常に無表情でしかも口下手
身の丈よりも大きな鉄塊剣や高周波ブレード、ハンドガンやライフル、膝ドリル等に蒼炎を纏わせ、状況によって使い分けて戦います
話し始めは必ず「……」から。台詞に「!」は使用しない。あとはおまかせ。よろしくおねがいします
鳩麦・灰色(サポート)
「さ、ウチも行かせてもらおかな」
「〇〇さん、そこちょーっと手伝うで」
「アンタ(敵)はそこで黙ってて」
◆特徴
普段は関西混ざり気味の標準語、相手問わず脱力した口調
独り言と敵に対しては関西弁
動き出せば早いが動くまでが遅い性格
◆行動
【ダッシュ】【クライミング】【地形の利用】で状況を問わず素早く動く
それを活かし一撃離脱や素早く突破する戦法を好む
武器の音で【存在感】を出し狙われ、速さで避ける"回避盾"戦法も選択
攻撃は主に【衝撃波】を込めた鉄パイプで叩いたり投げたり
◆UC
索敵、回避ではUC『三番』
対集団は『四番』
敵単体へは『一番』か『二番』を使用する
◆
協力絡みセリフ自由
他おまかせ。よろしくおねがいします!
ローズ・ベルシュタイン(サポート)
『さぁ、楽しませて下さいますわよね。』
人間のマジックナイト×電脳魔術士、女の子です。
普段の口調は「高飛車なお嬢様(私、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」、宿敵には「薔薇の棘(私、あなた、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格は高飛車なお嬢様風の偉そうな感じです
花が好きで、特に薔薇が大好き
武器は、主にルーンソードや精霊銃で戦う。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
千束・桜花(サポート)
どうやら強敵が現れたようですねっ!
私が百戦錬磨の将校を名乗るためには避けては通れぬ相手!
幻朧退魔刀を片手に挑ませて頂きます!
本来は対影朧用の剣術ではありますが、別世界のオブリビオンにも有効であることを示しましょう!
クロムキャバリアへ向かうときは専用のキャバリアにてこの剣術を再現します!
さあ、怒りや悲しみに満ちたその荒御魂、鎮めて差し上げましょう!
いざ、いざいざ!
●
『
ファナテックコープ社』の本社ビル中層、データ管理部署となっているそのオフィスでは今──たった一人の最終決戦が行われていた。
FTCC社員、アレキサンドライト・プルートは本社ビルに住まう現代表者より社内通信で退避と同時に重要データの保管業務を早急に行う事を命令されていたのだ。
超大容量の取引先、顧客データを最小限保管と凍結処理には成功したものの。それでも一人で行うには量が多すぎる。アレキサンドライトは機械化義体を全身ブルブル震わせながら背後で大声を上げて応援してくれている存在をなるべく意識しないように努めながら処理作業を全身全霊で行っていた。
「はぁ、はぁ……ッ! まだ、あと350件もあるのか……ッ!? も、もうだめだぁ!」
「諦めるなぁあああああああ!!! お前ならやれる!! 手を動かせ、指先に神経を集めろ! いま! お前の手は音を越え光を越え森となる──!!!」
アレキサンドライトは震えながら作業の手を加速させる。
彼の背後で灼熱の守護霊と化しているのは七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)、猟兵だった。
彼の応援、魂の鼓舞は本社ビルを伝い、如何な特殊加工による防音防壁機能だろうと貫いて他猟兵達の助けとなり力となり、多分もっと熱いナニカの源となる──!!
仁王立ちで男が叫び、それにアレキサンドライトが応える度──男達の間では真っ赤なオーラが膨れ上がり続けていくのだった。
──そんな自社の社員がワンオペで残業を余儀なくされている最中。
最上階の代表者オフィスのドアを内側から斬撃が切り崩して猛然と戦闘用重サイボーグが複数人を相手に刃を交えていた。
「ようこそ我が社のオフィスへ──ご用件は何かな」
丁寧で物静かな口調の反面、荒々しくも鋭い踏み込みから繰り出されたパイルバンカー式の腕部ショックシェルによる刺突が一撃で猟兵達を長い廊下へノックバックさせた。
瞬く火花。
直後に舞う緑色の光は小型の粒子型マシンによる修復機能だろう、現代表のオフィスへ辿り着いた猟兵達を一歩先に迎え出て来た騎士型装備の強化義体のオブリビオン『執行騎士』を冠する者は近接戦に特化した調整がされている様だった。
「断罪を執行する……それ以上の言葉は不要でしょう」
赤いラインを帯びてユーベルコードを起動させた架空・春沙(緋の断罪・f03663)が緋色の刃を揺らす大鎌を背に構え、小首を傾げる。
近接戦。
数多くいる猟兵達の中で、その分かり易い戦闘スタイルに適性を持った者がどれほどいるものか、執行騎士は知らないだろう。
ましてや今宵の『狩り』は相手が知れた状態。集った猟兵達のスタイルもまたそれに対応出来る者になっているのだ。
「あんたんトコのやる事成す事が胸糞やからぶっ潰しに来た、って言うとわかりやすいんかね」
「聞きました……! 無辜の民を虐げながら企業の為に命を捧げ、発展の為に心を弄ぶその所業……許しません。いざ!」
春沙が鎌を揺らめく背後で姿勢を低くして腰元の鞘に収まった【幻朧退魔刀『サクラブレェド』】に手をかける千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)がぐっ、と踏み込みに力を入れた瞬間。彼女から7歩後方に立っていた鳩麦・灰色(音振おおかみ・f04170)が一見すると鉄パイプにしか見えない一振りを振り被って獣耳を忙しなく動かす。
刹那に流れる呼吸。
猟兵、オブリビオン両者の意識が一瞬加速した思考に『入った』直後。灰色が背に回した鉄パイプを通してユーベルコードを起動する。
「広がれ 、"四番"──!」
「──少年の人を想う心、力無き者らの伸ばす手を狩る悪しき心にこの刃が通らぬ道理は在りません!」
咲き乱れ、吹き荒れる桜花一陣。
華の煌めきが輝いた瞬間に振り薙いだ灰色の衝撃波を背に、水平一直線に跳躍して瞬きの間に距離を詰めた桜花が抜刀。執行騎士の剣に一文字一閃を打ち込み先ほどのノックバックの意趣返しに大きく宙を滑らせ後退させる。
散り舞う桜吹雪を鬱陶しそうに切り払いながらも姿勢は崩さなかった執行騎士は後退と同時に踏み込み、強化素材の床接地面を削り踏み砕きながら前へ出る。
「はぁ──!!」
サクラブレェドが更に閃き、逆袈裟に振り抜く一方で執行騎士が刃側面を鍔で打ち払い受け流し。桜花の背後から駆け上がって来た春沙の振るう緋色の刃、『断罪の緋鎌』を横薙ぎに打ち払って強化外骨格を纏い性能を底上げした機械化義体を瞬間的に駆動させ加速する。
二撃の打ち合いを経た桜花が一瞬だけ跳んだ足下、執行騎士の脛を刈ろうと薙ぎ払われた大鎌が緋色の軌跡を描く。だがそれを見切り、地面に突き立てた剣で受けた騎士型鎧が肩を突き出す様に踏み込んだ事で桜花の剣戟が火花を散らして『合わせ』られてしまう。
踏み込み、後退し、入れ替わりに少女達の剣閃が入り乱れ執行騎士との打ち合いが続き。
「ぶっ飛びや! 響け“一番”!!」
「ッ、ヌゥ────!」
桜花と春沙の一撃が交差して執行騎士の大剣を弾き、僅かに開いた隙へ差し込まれるは天井を駆け抜けて来た灰色が叩きつけに行った『お手製の音波振動鉄パイプ』による零距離での衝撃波だ。
紙一重の差で打ち合わせた大剣。だが手応えが異様にして強固が過ぎる事に気付いた執行騎士の頭部を指向性の衝撃波が打ち抜いた。
揺れる、義体内の換装型前頭葉。
一瞬の硬直を見逃さなかった春沙が緋色から赤赤とした刃へ染め上げた緋鎌を一閃させ、同時にがら空きとなった胴体へ桜花が突貫。彼女たちの連携による一撃が強化素材ビルの廊下を粉々にして亀裂を奔らせながら執行騎士を吹き飛ばした。
──費用が少し嵩んでしまうか。
三人の少女が再びそれぞれが得手とする間合いに入ろうと踏み込んで来る最中、執行騎士は眼前の敵を前にそんな事を思考する。
巨大企業から支給ないし装着を義務付けられた強化義体はいずれも高性能だが、こと執行騎士の有する武装は自らがオブリビオンとしてユーベルコードを覚醒した時より携えている物だけであり、彼の力が相応に強力な事を示唆していた。
騎士型装備に扮して隠した、自らが象徴する企業への忠誠と神聖を籠めた執行の大剣。それこそが彼の持つ最強のユーベルコード。
「とはいえリスクが高いのがネックですね──」
「……余裕ね。……でも、いつまでリスクを気にしていられるかな」
大剣が変形しようとした瞬間、廊下を一気に高速で駆け抜けて来た白髪の少女が執行騎士と肉薄する。
クオン・キマヴィス(
黒絢の
機巧少女・f33062)の左腕から音速を越えた速度で高周波ブレードが突き出される。バギン、という音。刹那に大剣で上方に弾いた執行騎士が意外にもクオンの脇を抜け、前方から彼女の背を追う様に鉄パイプを振り被り、緋鎌を振り薙いでいた春沙と灰色の上下二撃を縦一文字に切り払った。
瞬く火花と閃光の狭間、初撃を弾いた執行騎士を追って更に加速したクオンが跳躍して天井を足場に蹴り執行騎士の首へ背部から振り抜いた大剣『レイス・ノヴァエ』を叩きつける。青白い閃光。クオンのギミック剣と執行騎士の大剣が同時に内部機構を振動させ、奇しくも似た波長の衝撃波を衝突させ合いながら互いに鍔迫り合いとなる。
執行騎士が跳ぶ。鍔迫り合いのままクオンの身体が天井に背中から叩きつけられた後、振り払った事で小柄な体躯が砲弾の如く横合いへ飛ばされた。
「クオン……!」
瞬く精霊銃の火線が身を屈ませた桜花の頭上を通り、執行騎士の肩部を打って怯ませる。
廊下奥、代表オフィスで粉塵巻き上げ派手な衝撃が走る一方。ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)が桜花と共に駆ける。
「美しい意匠だ。雅なるかなとでもいいますか──なッ!?」
「……お前の相手は、こっち」
大剣に纏わりつく様にして執行騎士の手を止めたのは、蛇腹剣の如き形貌に変形したレイス・ノヴァエだった。夕闇の焔が薔薇の長剣に灯る。ビルの廊下壁面を抉りながら一直線に駆け上がって来るローズの邪魔はさせないとクオンが執行騎士とパワーだけで拮抗する間に、桜花が桜吹雪を伴い騎士型装備の鎧胸部に突撃した。
「いざ、ここに──!」
突き刺さり。
「ぐ、ォオッ
……!!」
遂に怯み体勢を崩した執行騎士がクオンの膂力に負け、大剣ごと引き寄せられ廊下を滑り吹き飛んだ直後。騎士の背部から飛び立ったドローンらしき小型ポッドへローズが一輪の薔薇を指先で投げ、小さな爆発と共に撃ち落してから跳躍する。
滑り込み辿り着いた先、執行騎士の頭上と正面でクオンとローズの二人が互いに刹那の視線を交わしながらにしてユーベルコードを起動させる。夕暮れの如き炎と蒼白き焔が渦を巻いて吹き荒れ、少女達が短い雄叫びを上げたのと同時に爆炎と衝撃波を以て本社ビル廊下を崩落させながら執行騎士を沈ませたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
新田・にこたま
騎士型装備、厄介な…本社ビルを縦に両断ぐらいはできる装備ですね…。
敢えてミニマムな戦闘規模で戦いますか。それで私がピンチにでも追い込まれれば敵もその戦闘規模で倒せる相手に自社ビルを捨てる選択はしないはず。油断を誘う目的もありますが。
フォトンセイバー化させた特殊警棒で突貫。サイバーアイを利用した私の見切りとかつて日本舞踊で培ったダンス技能を組み合わせれば、室内でも踊るように敵の攻撃を躱すことができます。しかし、やはり装備の差は決定的で、武器ごと右腕を斬り落とされ…た瞬間、バンカーヒールを炸裂させ突進。敵に抱き着くようにしてUC発動。ゼロ距離ならば外しません。
悪党の断末魔はいつ聞いても心地良い…。
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本気にさせた方が対処がし易い手合いと、慢心させた方が対応できる相手とでは全く違うことを彼女は知っている。
「──騎士型装備、厄介な……本社ビルを縦に両断ぐらいはできる装備ですね……」
油断を誘うのは勿論。しかし加減を誤れば一呼吸の間に詰めて来る相手だ、被害と損耗を抑えながらにして獲るなら絶妙な一線を引かねばならない。
件の地下工場を後にした新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)は依頼人だった少年『錆色のシャシー』から受け取ったデータと、工場内の端末から入手したデータやハッキングを基に、インプラント製造企業
ファナテックコープ社の代表取締役『サリエル・イドカワ』の所在と近況データを手繰り寄せて猟兵達と共有していた。
夜の都市でミニパトを走らせる彼女はハンドルを片手に、周辺地区に散見していたFTCCの出張所や下請け企業の下へ機密保護プログラムに守秘されたデータの転送がされている事を突き止める。これは現在進行形であり、向かう先の本社ビルを中心としたものだ。
巨大企業群傘下とは簡単に言ったものの、既にFTCCの規模はストリートヤクザの支配に繋がっている程度には大きくなっていた様だ。
恐らく現代表のサリエルを始末しても悪の根は断てないのだろう。あるいは、過剰なまでの戦力を代表が担っている時点で“そういう事”なのか。
「……さて、行きましょうか」
猟兵達の気配に疲弊が少々見えた頃、彼女は一時手出し無用のメッセージを一斉送信した上でFTCC本社ビルへと入って行った。
艦砲や戦車砲にも耐える強化ガラスが砕け散っている最中、濛々と立ち昇る白煙や黒煙に包まれた社内を駆けて行ったにこたまは猟兵達の退避を一時手伝いながら代表オフィスのあるフロアーへと辿り着いた。
崩落した廊下を飛び越えた先。
そこで白銀の騎士型装備に身を包んだサリエルが光学迷彩を解除して顕現させた無数のドローンと共に女警官を迎える。
「……今度は警官と来ましたか」
「インプラント製造企業ファナテックコープ社、代表取締役社長サリエル・イドカワ。あなたには労働者への異常勤務の強制を始めとした無許可での人体実験、6件に及ぶ容疑が掛かっています」
──射すは正義の威光、にこたまが掲げる手帳バッジ。
「ニコタマ・新田、貴女には我らが
巨大企業の築き上げる人類発展と繁栄の為に秩序を守る義務があります。都市条例、規則に照らし合わせれば私と我が社の無実は明白であり、企業に個人の正義を翳し事業を妨げる行為は社会の敵となる事を意味します」
──拡がるは企業の威光、ドローンが展開し立体拡張映像を以て空中に出力するメガコーポからの命令書。
「武装を解除し、大人しく投降しない場合は
公務執行妨害とみなし──」
「──我等が企業に降り従わないのなら、メガコーポに楯突くというのなら!」
────執行するまで。
ドローンの出力していた命令書の映像を幕にしていた執行騎士、サリエル・イドカワが鎧の背部から反重力装置による加速を用いて大剣を突き出す。
対するにこたまは手帳を仕舞う手とクロスして抜き放った『正義の特殊警棒』を逆手に構え、電撃を頭上に撃ちながら仰け反って見せる。
爆ぜる電流。小さな爆発を起こしたのは中空のドローンだったが、同時にオフィス内の
噴射式消炎装置を誤作動させてサリエルの視界を濃密な消炎剤の白煙が遮って刺突の軌道を乱れさせた。
床を跳ねる音。
微かに感知する布擦れ音を見逃さなかったサリエルが大剣を横薙ぎに振り回して煙幕を切り払いながら迎撃を掛ける。閃光が奔り、火花とは違う光の粒子が散る。弾かれるような手応えにサリエルが鎧の中で呻く。
「フォトンセイバー……」
「意外でしたか、受け切られたのは」
にこたまの格好から、サリエルは彼女を勘違いしてしまった都市警察の末端だと解釈し軽んじていた。だが半ばユーベルコードの具象化でもある自らの大剣を防ぎ切ったのを見て、その手に握る警棒から展開している光刃を捉えた彼は目の前の女警官への評価を改めた。
何より──膂力負けしなかったあの右腕は。
(……警官にしては随分と物騒な義体をお持ちだ)
心が躍る思いでサリエルが大剣を握り締めた直後、彼の構える大剣が眩い光を放出しながら刃幅を広げ剣そのもののリーチが増す。
先の猟兵達との戦闘でひび割れた鎧胸部や鎧の節々から破片が飛び散る。空気を伝う震動は、サリエルの強化鎧の内側で機関がフル回転している証拠なのだろう。
敵を認め、自らの枷を外そうとするその姿に。にこたまが真剣な表情のままトリモチに獲物を捕らえた心境を思い描く。
(──やはり自社ビルを捨てる選択はしませんか)
代表者サリエルの思考や過去の経歴から、『その可能性』が高い事を意識していたにこたまのプロファイリングは正しかったと結果論的に認めた。
執行騎士──サリエルの赤き眼光とにこたまの金の瞳光が互いを射抜くように、視覚情報の読み合い、サイバーアイが交差する。
片や騎士型装備。各関節部を始めとしたアーマー部位の堅固さに次ぐ強靭さは並みの軍事用をも凌駕し、近接戦においては無類の強さを発揮する。サリエルの傭兵時代は後衛やバックアップを必要としない強襲部隊に居た事も調べがついているのだ、にこたまの特殊警棒や現武装だけでは相当の苦戦を強いられる相手になるだろう。
右腕が揺れ、手首のスナップで円を描いて投げたフォトンセイバー化させた警棒を左手に掴み取ったにこたまが爪先で地を蹴り前に出る。
頭上を奔る斬撃。
猛然と駆け出す勢いのまま膝蹴りを打ち込みながら繰り出した剣戟を紙一重で躱したにこたまは、そこから右手を脇腹に食い込もうとしたサリエルの膝を受け止め。右腕を後ろに流す様に身を捻りながら受け流して光刃を回転させる。
サリエルの巨躯が天井へ飛び上がり、逆さまに突き立った姿勢から一気に屈んでミシリと接地面から亀裂を走らせた瞬間。回転する光刃、警棒手繰る左腕を軸にその場から跳ねるように飛翔したにこたまがクイックドロー気味に背部の虚空から抜いたサイバー軽機関銃で対機強装弾をばら撒いた。
「雅な……その動き、ゲイシャの経験がおありで?」
天井から振り下ろした大剣の傍を舞うにこたまから弾丸を撃ち込まれながら、サリエルの剣が地を打つより先に軌道を鋭く変えて跳ね上がり。同時ににこたまの警棒が風を切って奔り、音速で斬り合った刃同士が光の粒子を散らして甲高い音を紡ぐ。
「その言葉で日本舞踊に興味が無い方なのはわかりましたよ──」
「──ッ、粋な真似を」
打ち合わされる刃と鉄塊。
弾き出された軽やかな足音とは反対に繰り出される手元の鋭さ、打ち合いの最中に交わされるサイバーアイによる見切りと分析。
見惚れれば、見据えられる。
フォトンセイバー化した警棒が宙を舞い、サリエルの頭上をそれが放たれた時点でにこたまが踏み込みに来ると予測した事で身構えた直後。再び警棒から電撃が降り注ぎ視界が一瞬のノイズに遮られていた。
たん、と床を蹴る音。
ノイズが晴れた向こうから繰り出された渾身の右フックに脇を打たれ、怯んだサリエルの懐からにこたまが鎧を踏み台に跳んで警棒を掴み叩きつける。義体に直接打ち込まれた電流と右腕による膂力を用いた衝撃が火花を盛大に散らす。
(~~! この動き……カタギではないな──!)
フォトンセイバーが発する熱と衝撃に鎧内部から損傷アラートが聴こえて来るのを無視して、サリエルが女警官を前に加速する。
地を滑る様に跳ねては刃を扇に見立て舞うその女、新田にこたまを相手に執行騎士サリエルが賞賛する。
代表オフィスを騎士型装備のサイボーグが縦横無尽に駆けながら大剣を振るう一方、一本の光刃を手に躍る女警官が夜風を背に窓際へ追い詰められて行く。
(見切れない動きをわざと減らし、こちらの手を限らせている……チェスか将棋のやり口ですか)
油断を誘い。誘い込まれる。
幾度となく打ち合わされたフォトンセイバー化した警棒も次第に出力限界を迎えつつある最中、サリエルが取った戦法は些か慎重さに重きを置いた立ち回りである。オフィスの外──ビルの周辺に猟兵達が未だ集まっている事は分かっている筈、にこたまの狙い通りミニマムな戦闘規模に抑えられた一方で執行騎士は彼女を油断ならない相手とも認識してしまっていたのだ。
既に、装備の差が露骨に出始めている。
サリエルが詰め。そして一気にトドメを刺すその一瞬が来たならそれは、彼が見切ったにこたまの限界という事だ。
(────来る)
天井に二人が跳躍して打ち合い、音速で大剣が空を切って光刃が鎧に焼き筋を入れた直後。にこたまが先に反応した。
執行騎士の大剣が真っ青に光を帯びた刹那に天井と眼下の床を同時に切り刻み、にこたまの足先が着地するその瞬間を狙われた事で浮遊感が襲う。
無防備に揺れ上がった細くも精密にして強靭なる右腕。
強敵の利き腕。クイーンかナイトか、或いは飛車角のつもりだろうとにこたまが表現した自身の武装を落としに来た刃。執行騎士の大剣が凄まじい衝撃波を放ちフォトンセイバー握る彼女の右腕が切断されてしまった。
階下へと落ちながら腕を飛ばされたにこたまが頭上を仰ぐ。
(──完全に意表を衝いた。着地は出来るだろう、だが防ぐ手段は無い。貰った。警察にしては強かった、惜しい。次に取る動きは転がっての回避か。こちらの余力は十二分にある、避ける暇も与えずに両断して見せる。避けろ、避けろ、避けろ。惜しい、美しいこの女のダンスをもっと見たかった────)
勝機を掴み取ったサリエルが大技を打ったばかりの剣を跳ね上げ、無茶な軌道ゆえにブレた大剣を力任せに振り下ろそうとする。
久方ぶりの良き戦闘。その果てに迎えた高揚感は思考を乱し、沸騰させ、熱い感情と見切り予測された彼女の動きの幻像で埋め尽くされる。
小柄なにこたまの体躯が右腕を失ったせいか、先の打ち合いよりも遥かに軽そうに階下へ瓦礫と共に着地した瞬間。サリエルは音と思考を置き去りにした一撃を振り下ろした。
「────何ッ
……!?」
にこたまの姿が視界から消える。
階下に落ちた瓦礫を吹き飛ばして叩きつけられた大剣の下には血の一滴もなく。粉塵さえ掃い飛ばした暴風と衝撃波の中心で執行騎士サリエルは強化外骨格の内部で目を見開いた。
剣を握る両の腕、その内側にて懐に抱き着いている女の姿。
小さな頭、黒髪の質感とシルエット、発熱した体温から新田にこたまだとサリエルは気づく。もしも冷静なままであったなら、直前に彼女が脚部の『バンカーヒール』の炸薬によって加速して突進して来たのだと視えていた筈だった。
ばかな。
たったその一言を絞り出そうとしたサリエルは、自身の視界──サイバーアイや視覚以外の情報収集機器から夥しい量のエラーとアラート、警告文に埋め尽くされて真っ赤に染まった。
「グ…………ッオォ……ッ!!?」
煌めく電子光がまるで翼や腕のように女警官の背から伸びている。
執行騎士サリエルの関節や動力機関、強化外骨格の弱点部のみならず猟兵との戦闘で負っていた損傷個所といったあらゆる部位に無数の手錠が繋がれていた。
ギシリ、と。ありえない音を奏でながらそれら大量の手錠は万力の様に絞めつけ、拘束と同時に絡みつき、騎士型鎧の膝を物理的に反対に折り曲げて地に落とす。
(なんだこれは……止まらない!? ただの拘束ではなかった
……!?)
咄嗟に鎧型バイザーヘルメットを脳感操作で外したサリエルが、嫌な音と共に軋み液体を散らしながら項垂れた姿勢で手錠に締め付けられた首の上、顔だけを上げて新田にこたまを見た。
「おッ……」
メキメキと、喉が潰れた。
「待っ……グぎ、ッ……ぁ、がぁあああああああああああ
……!!!!」
命乞いすら出せぬ中、サリエルは見た。
「はぁ……悪党の断末魔はいつ聞いても心地良い……」
とても良い汗をかいた、という風に額を左手で拭った女警官の妖しく──婀娜やかにして昏い笑みを。
その姿を目に焼き付けながら、長い長い苦痛の果てに男は逝く。
恐ろしい音と共に断末魔の叫びを上げながら還って行くのだった。
●
──何台ものパトカーや黒塗りの装甲車が停まっている道路のすぐそばで、少年はFTCC本社ビルから出て来たにこたまを見つけた。
「Pメン! 例の代表は、悪党どもはどうなったの!」
「おや……まだいたんですか? ちょうど周りに警官も大勢いますし、署までご同行願いましょうか」
黄色いレジャーシートめいた医療用のパックで右肩から下を包んでいるにこたまが首を傾げる。
少年『錆色のシャシー』は彼女の言葉に思わず悲鳴を上げて逃げ出しそうになるものの、踏み止まって頭を振った。
「あ、のさ……僕の恋人。エルっていうんだ……あの地下工場では見つからなかったんだ、本社で何か分からなかったかな」
「捜査情報を安易に公開する事は出来ないんです。わかるでしょう? ──まぁ少なくとも、あなたの言う彼女の情報は出て来ていませんよ」
その答えに錆色のシャシーは肩を落とす。
それを答えるという事は、彼女は暗に『情報にもならない情報』ならば問題ないと言っているのだ。彼の知らない所ではメガコーポ傘下に繋がる証拠資料などが見つかっているのだが、そこに彼の言う恋人の情報は何処にもなかった。
「そうか……そうなんだね」
「珍しくもない話です。そう気を落とさず前向きにそのハッキング技術を正義の為に今後使う事をおすすめしますよ……で、ここで引っ張られたくないなら早く帰る事です。今夜は見ての通り忙しくなるので──」
白髪の少年が路地裏に消えていくのを見送りながら、にこたまは自身のミニパトのドアを開けて運転席に乗り込む。
そこには猟兵用に確保しておいた資料や、サリエルのドローンの残骸が隣の座席に転がっていた。
「……労働者のリサイクル計画、ね。要はスラム街にもあるインプラントや生体器官の洗浄売買でしょうに」
にこたまは溜息と共に資料を左手に目を細める。
『ナワツキ警察』『アブソリュートロータス製薬』、『園蔵重工』、『曹彰会』──どこかで見た名前ばかり。
悪党や腐敗は繋がるというよりも湧き出したように出て来るものだ。叩けば出て、掃えば拡がる、虫けらよりも小さく醜悪だ。
彼女の仕事は、まだ終わっていない。
大成功
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