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アルカディア争奪戦㉖~Crimson Thorns

#ブルーアルカディア #アルカディア争奪戦 #帝竜『大空を覆うもの』


●大空を覆うもの

 ――わかっている。

 巨大なる竜は、斯く語る。

 ――わたしこそが『拒絶の雲海アルカディア・エフェクト』。この世界の、空そのもの。故にわたしは、アルカディアを護る……。

 巨大なる竜は、ただ語る。

 ――だけど、この戦いが終わったら行かせてくれ。帝竜『ワーム』、あの中に、死んだはずの『主』がいたのだ……。

 かつて竜はその心を操られ、彼の『主』に仕えていた。
 けれど真実、心の在り方などは彼にとって、至ってどうでもよいことであったのだ。
 
 ――わかってくれ。

 巨大なる竜は、ただ願う。

 ――わたしは『主』の側にいたいのだ……。


●寂しき竜は
「アルカディア争奪戦も、いよいよ佳境だね」
 膝の上に閉じた魔導書の表紙をそっと撫で、ブルーベル・ザビラヴド(誰かが愛した紛い物・f17594)は短くも重い溜息をついた。無理もない話だ――アルカディアの玉座へ通じる空中庭園の一つに、凝縮する凄まじく濃密な大気。それが、帝竜『大空を覆うもの』であったと判明したのである。
「大空を覆うものの正体は、ブルーアルカディアの大気そのもの。つまり、ブルーアルカディアからすべての大気を消滅させない限り、倒すことはできない。でも――当然、そんなことできっこない」
 だけどね、と続けて、青い色硝子の少年は言った。
「少し先の、未来を見たんだ」
 雲海の戦場に、否――猟兵達の脳内に、直接語りかけるような声を聞いた。
 懐かしいような、愛おしいような、不思議な少女の声を。

『私は、もう待ちません。必ず会いに行きますから、今はこれで持ちこたえて……!』

 凛として、どこか孤独な少女の声。それが誰の声で、どこから発せられているのかは分からない。ただそれを耳にした猟兵達の背中には、赤い霧の翼が顕れるのだ。そしてひとたび翼を得たならば、彼らは大気たる『大空を覆うもの』を具現化し、破壊しうるだけの力を得る。
「赤い霧の力を借りて、凝縮した大気を散らすことができれば、一時的にではあるけど、『大空を覆うもの』が顕現するのを防ぐことができる。ただ、赤い霧の力は強大で……僕達猟兵でさえ、長い間は使えない。それだけ、注意して」
 与えられた選択肢は、多くない。赤い霧を身にまとい、最大最強の一撃を放って素早く離脱する。そして破壊するのだ。
 この世界に迫る悲劇の終焉を――破壊する。
 気をつけてと送り出す少年の声を背に、猟兵達は空の世界へと飛び出した。


月夜野サクラ
お世話になります、月夜野です。
以下シナリオの補足となります。
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●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・個別リプレイを想定しておりますが、組み合わせた方が面白くなりそうだな、という場合はまとめてリプレイにする可能性があります。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページとシナリオ上部のタグも合わせて御確認を頂けますと幸いです。

●プレイングボーナス
「赤き翼の真の姿」に変身し、最大最強の一撃を放つ。

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色々と思うところを押し込めつつ。
カッコよく変身してカッコよく一撃離脱してくださいませ!

皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『帝竜『大空を覆うもの』』

POW   :    雷災体現
自身の肉体を「稲妻の【渦巻く漆黒の雲】」に変える。変身中、雷鳴電撃・物理攻撃無効・通電物質内移動の能力を得る。
SPD   :    災害竜招来
自身の【肉体を構成する雲海】を代償に、1〜12体の【様々な災害を具現化したドラゴン】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ   :    魔竜真空波
全身を【触れたものを破壊する真空の波】で覆い、自身の【大きさ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
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国栖ヶ谷・鈴鹿
◎アドリブ連携OKです

この赤い翼は……?
ううん、今はそれは重要じゃない、この世界を守るための意志がぼくたちを導こうとしているんだ。

ヨナ、全速前進!
きこやん、前方に結界展開!
阿穹羅はブースターとしてヨナを加速させて帝竜の懐まで!
紅路夢は空中機動の動力を補助、ヨナを助けてあげて!

近づいたら、結界を解いて、後光を最大展開!
ユーベルコヲド、神饌カミムスビ・アプラヰアンス!

光の結ぶ先は、甘い雹の塊に変えていくこと!
さまざまな味の雹がパラパラと降る間を縫って飛んで、緊急離脱!

帰り道に一粒、ペンギン🐧クルーたちと食べながら思いを巡らせ。

……あの声……どこかで聴いたような気がする……。


鉄・弥生
※連携、アドリブ歓迎

竜さんはきっと主さんが大好きなんだね
一緒にいたいって思えるくらい
その願いが叶うかは私にはわからないけど
…今は、道を開けて

・真の姿
貴種ヴァンパイアとしての姿
瞳が紅に染まる
背にあるはずの巨大な蝙蝠の翼が
此度は赤い霧で構成されている

最大最強の一撃を放って
素早く離脱だったよね
UC発動しつつ全速力で接敵
効果時間内にやり遂げるよ

竜さんがどれだけ分裂しても
私のやることは変わらない
一点に凝縮し密度を高めた
魔力の白光の一撃を叩き込むだけ

白光は振るいやすいよう剣の形に具現化
お母さん。私、この世界を守るね

飛翔の速度の勢いも載せ
竜さんの身体を『切断』し即離脱

大切な人のところに帰るまでが戦いだものね


ヴァルダ・イシルドゥア
あたたかい
はじめて耳にするはずなのに、懐かしい
そんな、気がした

飛竜のアイナノアに騎乗したまま自らも赤い霧を纏い翼を得る
飛翔はアイナノアに任せ自らの翼は大気を散らす事にのみ専念
真空波を振り払うよう
その姿が大空を覆い隠す事をひと時でも防げるように
より長く、気休めほどの時間だとしても
押し留める事が叶えば仲間達の助けにもなりましょう

顔と思しき箇所が顕現する瞬間を見とめたなら
騎乗突撃による流星槍で我が身を弾丸とし大いなる存在を穿ち貫く
貫く勢いそのままに、赤い翼を失う前に戦線から離脱

その終焉を打ち砕く事こそ我が本懐
我が父と、母が辿った道そのもの
彼らが辿ってきた轍
彼らが越えてきた道

――繋いでみせます、必ず!


夜刀神・鏡介
空でもなんでも、そこにいるならば斬ってみせる。等と大言壮語を吐いたところで、斬ったものを消滅させる事はできないし、途方もない相手だな
しかし、それに対抗できる力というのもまた……だが、今は有効活用させてもらうとしよう

神刀の封印を解除して、真の姿(IC参照)に変身
長期戦は不可能とはいえ、闇雲に攻撃を放つのも下策
敵の大きさを考えれば「最も有効な箇所」を的確には狙えまいが、それでも適当に狙うよりは少しでも有効な箇所に叩き込むのが良いだろう

まずは相手の攻撃を回避しながら動きを見極めにいく
攻撃の間合いや隙、弱点と思われる箇所……短時間でも出来るだけ情報を集めて
踏み込み、一刀。参の型【天火:猛】で斬る


ユーフィ・バウム
「もう待ちません」。
大気そのものを砕く加護を持つ貴女は
それさえ創り出した神様でしょうか

逢える日を楽しみにしつつ
真紅の翼と共に『蒼き鷹』の姿へ
勇気を胸に、ダッシュで間合いを詰めますね

帝竜の稲妻が迎撃してくるでしょうが、一撃だけが全てです
反撃なしでオーラ防御で凌ぎ、電撃耐性のある体と、
何より覚悟で耐えきり力を溜めながら前へ前へ

時に仲間とかばうことで道を拓きます
口から悲鳴が上がっても心は折れず、動きは止めませんよ
皆で勝つ!

悲劇の終焉を破壊できるのは
能力以上に心にある覚悟と、仲間との絆

想いと共に間合いをまで詰めたら
限界突破まで力溜めた必殺の《トランスバスター》!
絶望の空を、終焉を
この拳で砕き、ますっ!


クーナ・セラフィン
懐かしいような声…いつか会えるのかな。
その前に明日を迎える為に、あの魔竜を倒そう。

可能なら赤き翼はギリギリまで温存。
陽だまりのオーラ全身に纏い結界術で強化、災害の竜の攻撃を和らげる。
翔剣士の身軽さ活かしつつ念動力で空中での動き補助し魔竜へと疾走。
小柄さ活かし竜の背も足場に活用、第六感や野生の勘で危険察知したら咄嗟に回避。
…不滅の薔薇に反応して帝竜直に来るかもなので油断せず注視。
銀槍の射程まで近づいたら赤き霧の翼の力解放し物理化、同時にUC起動。
銀槍で竜鱗とか無視しつつ高速で串刺し連撃やりつつ駆け抜けやれるだけ穴だらけにしてやろう。

※アドリブ絡み等お任せ
真の姿は服装のみ変化、令嬢のような黒ドレス


梟別・玲頼
万物に神(カムイ)を見いだしたのがかつてのアイヌ達の信仰だけどさ
大気そのものなこの竜もそう言った意味じゃ近い存在かもな

この赤い翼もまた神威そのものだけど、ずっと高位の力だ
オレ玲頼からレラに、真の姿になろうとも扱い切れぬ力
だが声に応える事は成そう

UC発動
全身を暴風の結界で覆い、赤い霧の翼と己の両翼の四つ羽にて敵に向かう

私は風
この世界に生きる人々を護りに来た異世界より訪れし風
其方がこの空そのものであろうとも、空に住まう者を蔑ろにする存在ならば私は赦しておけぬ

暴風纏ったままの超高速飛行による吶喊、つまり体当たり
竜に風穴穿ち霧散させてくれよう

声の主よ、待つ辛さは私も知る
早き邂逅を願おうか




「ヨナ、全速前進! よーそろー!」
 朗々と叫ぶ声に呼応して、空飛ぶ鯨が水泡を噴いた。数名の猟兵達を乗せ、疾駆するソラクヂラ型航空巡航艇『ヨナ』――花咲く排気塔の頂で、国栖ヶ谷・鈴鹿は広大な空の世界を見つめていた。
 ブルーアルカディア。遮るもののない空の世界を巡る戦争は、大詰めを迎えていた。そして今、アルカディアの玉座へと続くこの空域で、げに恐ろしき『帝竜』――大空を覆うものが顕現しようとしている。
 気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうな向かい風に耐えるよう、夜刀神・鏡介はしっかりと甲板を踏み締め、口を開いた。
「空でもなんでも、そこにいるならば斬ってみせる……と、言いたいところだが」
 大言壮語を吐いたところで、斬ったものを消滅させることはできない。何しろ相手は、このブルーアルカディアの大気そのものなのだ。無意識に小さな溜息を吐いて、鏡介は言った。
「途方もない相手だな」
「ああ。万物にカムイを見いだしたのがかつてのアイヌ達の信仰だけどさ、大気そのものなあの竜もそう言った意味じゃ近い存在かもな」
 まだ少し遠い雲海を望んで、梟別・玲頼が応じた。大いなる空と大気の化身――その前では、人間も動物もひどく矮小な存在に映る。まったくと相槌を打って、鏡介は首を捻った。
「しかし、それに対抗できる『赤い霧』の力というのも、また……」
「確かに、いったいどういう力なんでしょうね?」
 はてとユーフィ・バウムが首を傾げると、長い紫銀のツインテールがつられて傾き、ひらりと揺れた。この空で何が起きようとしているのか、『声』の主は何者で、何をしようとしているのか――戦いも佳境を迎えているというのに、謎は深まっていくばかりだ。
 薄く紫がかった濃密な雲は絶えず蠢きながら、徐々に形を変え、巨大な竜の姿を象りつつある。設えられた柵の縁から身を乗り出して、鉄・弥生は行く手に広がる雲の海を覗き込み、言った。
「竜さんはきっと、主さんが大好きなんだね。今でも一緒にいたいって、思えるくらい……」
 操られても、利用されても、傍にいたいと願う心。その裏にどんな過去と記憶が横たわっているのかを知る術はない。切なる願いが叶うのかどうかもまた、分からない。けれど――『彼』の想いがどうあれ、彼女達はこの場を推し通らねばならない。
「……今は、道を開けて」
 告げる声に応えて、見つめる瞳がきらりと鋭い光を放った。蜂蜜に似た甘やかな琥珀は見る間に血のように紅いルビーへと変じ、花色の唇に隠れた小さな牙が覗く。貴種ヴァンパイア――それが彼女の本性だ。しかし背中にあるはずの蝙蝠の翼は、今は赤い霧に包まれて鮮やかに燃えている。
「これは……」
「わわっ……ほんとに生えた!?」
 赤い翼を振り返って、鈴鹿は驚きに声を上ずらせる。傍らには、獅子の如き巨大な稲荷狐――どうやら猟兵がこの空域で真の姿を解放する時、赤い翼を得るというのは本当らしい。耳の奥にはどこからか、一人の少女の呼び掛ける声が聞こえていた。

『私は、もう待ちません』

 揺るぎない決意を滲ませて、その声は告げる。

『必ず会いに行きますから、今はこれで持ちこたえて……!』

 猟兵達の翼を象る、赤い霧が輝きを増した。マスケット帽のつばの下、覗いた大きな耳をひくひくと絶えず動かして、クーナ・セラフィンは蒼く大きな瞳を細める。
「なんだか、懐かしいような……」
 もう、待たない。
 待っているだけの自分では、ない。
 告げる声は凛として透明で、けれどもとても力強い。それが、なぜだろう――聞いたことのあるはずもない声なのに、頼もしい。
「この声、いったいどこから――ううん」
 言いかけて唇を引き結び、鈴鹿は緩く首を振った。今は、それは重要ではない。どこの誰かは知らないが、恐らくはこの世界を守るための何者かの意志が、彼女達を導こうとしているのだ。
 なれば――全力で応えるのみ。傍らの狐へ視線をくれて、鈴鹿は鋭く叫んだ。
「きこやん、前方に結界展開!」
 巨大な狐が天頂を仰ぎ、高らかに啼いた。前方に展開する結界は、立ち込める雲海の瘴気から艦を守るためのものだ。オウケイ、と鈴鹿は狐を振り返ったが、一息ついている暇はない。
「阿穹羅はブースターとしてヨナを加速させて、帝竜の懐まで! 紅路夢は空中機動の動力を補助、ヨナを助けてあげて!」
 帯同するキャバリアとホバークラフトに似た乗機――『フロヲトバイ』と命名された――に次々と指示を飛ばして、鈴鹿は前方をきりりと睨んだ。空飛ぶ鯨はみるみるスピードを上げ、やがて雲海へと突入する。その瞬間が、好機だ。
「いざ! ユーベルコヲド、神饌カミムスビ・アプラヰアンス! 世界よ、美味しくなぁーれ!」
 艦を取り巻く結界が消えたと同時、猟兵達が躍動する。鈴鹿の後光が鮮やかな赤を帯びて煌々と空に燃え上がり、周囲を取り巻く雲が甘い雹の塊に変わっていく。次第に密度を増す赤い霧に手を伸べて、玲頼が言った。
「この霧もまた神威そのものだけど――ずっと高位の力だ」
 人の姿を捨て真の姿を解放したとしても、村守の小さなシマフクロウコタンクルカムイには、到底扱いきれぬ力だ。自虐するわけではなく、それほどまでにこの霧の主の存在は大きい。確かなことは何も分からないけれど、凝集する魔力の強さが動かしがたい事実を物語っている。
「……だが、呼び掛けには応えよう」
 長く伸ばした襟足が、ふわりと浮いた。人間の滑らかな皮膚は軽やかな羽毛に包まれて、青年は一羽の梟に姿を変える。ただその瞳の琥珀色だけは変わらずに、蠢く雲海を見据えている。
は風。この世界に生きる人々を護りに来た異世界より訪れし、風」
 羽ばたく背には自身の翼と、同じ形の赤い霧。二対の翼で蒼穹へと舞い上がり、カムイは啼いた。鋭く気高いその声は、静かな憤りに満ちている。
「其方がこの空そのものであろうとも、空に住まう者を蔑ろにする存在ならば――私は、赦しておけぬ」
 呼び寄せる暴風をその身にまとい、玲頼レラは一気に加速する。仕掛けるのは超高速飛行による吶喊、即ち体当たり――追い風を味方につけたその嘴は、弾丸の如く雲海の竜に風穴を穿ち、吹き散らす。
 一息に雲を突き抜けて、梟は蒼い天を仰いだ。
(「待つ辛さは、私も知る」)
 赤い霧をもたらす、儚き声の主。邂逅の日は果たして、遠からず訪れるだろうか?


(「……あたたかい」)
 温かい声、だった。
 耳の奥に直接語り掛けるような少女の声を思い起こしながら、ヴァルダ・イシルドゥアは飛竜を駆り、鯨の艦に随伴する。
 倒すべき敵は、大気そのもの。いかに猟兵の身とはいえ、たった数人で相手取るにはあまりに強大な相手だ。しかしあの声は――初めて耳にするはずなのに懐かしい、あの声は。不可能をも可能にする力を、与えてくれるような気がする。
「――アイナノア」
 意を決し、娘は騎竜の名を呼んだ。彼女は猟兵だ。どんなに強く途方もない敵が相手だとしても、立ち向かわないという選択肢はない。鮮やかな赤い霧が背中に翼を象るのを確かめて、ヴァルダは続けた。
「参りましょう。たとえ気休めほどの時間だとしても、押し留めるのです」
 この空を覆うほどの巨大な竜。その顕現をほんの一時でも妨げることができたなら、その刹那は必ずや、後に続く仲間達の助けになる。
 渦を巻き始めた雲海を正面に見据えて、ヴァルダは竜槍を握り締めた。
「ゆきます!」
 一見すると穏やかにも見える雲の波が、牙を剥いた。四方より飛来する真空の刃を槍の穂先でいなしながら、一人と一頭は一体となり、立ち込める雲の波間を駆け抜ける。常ならざる力を与えてくれる、赤い霧――その加護の失われぬうちに、彼女達は与えられた役目を果たさなければならない。
「……見えた!」
 凝集する大気が巨大な竜の頭部に似て、次第にはっきりとした形を取り始める。その瞬間を見逃さず、ヴァルダは手中の槍を構えた。
「我が身、ひかりの導となりて――!」
 高らかに告げる声の通り、甲冑をまとう娘の身体は光に包まれ、流星の如く雲の海へと突き刺さる。その後方より、赤い霧の翼を広げて弥生が続いた。
「最大最強の一撃を放って、素早く離脱……だったよね」
 飛翔するその足下で、雲海が不気味に胎動する。ぼこぼこと歪に隆起と陥没を繰り返しながら、くすんだ雲はやがて無数の竜となって襲い掛かってくる。しかし決して怯むことはなく、弥生は言った。
「お母さん。私――この世界を守るね」
 告げる声は、混じり物のない氷のように透き通って響いた。その手に収束する光は、母より受け継いだ掛け替えのない白月の世界ちからだ。一振りの剣を象った白光をひと振り構えて、弥生は大きく旋回する。
「あなたがどれだけ分裂しても、私のやることは変わらない」
 切っ先の一点に凝縮し、密度を高めたこの白光を、ただ一撃、叩き込むだけ。発動可能な時間には限度があるが、危ぶむまでもない――勝負はどの道、一瞬だ。
 加速、そして肉薄。光の剣の一閃は、立ち込める雲を割り開いた。崩れてゆく雲の隙間で反転し、離脱する弥生に代わって飛び込むのは、鏡介だ。
「どこの誰かは知らないが、その力、今は有効活用させてもらおう」
 手にした神刀の白鞘を払えば、鴉の羽根に似た黒髪が青白く色を変えていく。ためらいは、ない――無暗に振るえば己が命をも削るその力を、解き放つのは今。この世界を救うためにこそだ。
 空飛ぶ鯨の背を蹴って、鏡介は赤い霧の翼を広げた。特別に意識せずとも思いのままに動く翼は瞬く間に、青年を雲海の波間へと運んでくれる。
(「長期戦は不可能……とはいえ、闇雲に攻撃を放つのも下策だな」)
 弱点を見出し、急所を突くのは戦闘において基本中の基本だ。だが、桁違いに大きな魔竜を前にしては、そんな常識も通用しない。だが、最も有効打を与えられる個所を的確に狙うことまではできなくても。
 漂う雲が次第に黒ずみ、渦を巻き始める。張り詰めた空気は黒い電気を帯び、パリパリと音を立てて弾け出す。迸る雷撃を身を捩ってかわし、鏡介は紅い瞳を鋭く細めた。
「――そこ!」
 限られた時間の中で最大限の成果を挙げるために、必要なのは観察だ。もくもくと隆起する雲が新たな竜を象り始める瞬間を見極め、叩き込むのは天火の剣。上段に構えた神刀を一息に振り下ろせば、淀んだ雲の塊が千々に霧散する。
 その様子を鯨の背から見つめて、ユーフィはぽつりと言った。
「『もう待ちません』――ですか」
 何を、待っていたのだろう。
 誰を、待っていたのだろう。
 まだ見ぬ声の主は、それ以上何も語ってはくれない。
「大気そのものを砕くほどの加護を持つ貴女は、……それさえ創り出した、神様なのでしょうか?」
 応える声は勿論、ない。そのただならぬ力には頼もしさと同時に、恐ろしささえ覚えるくらいなのに――なぜだろう? それでもいつか『彼女』に相見える日を、楽しみと感じてしまうのは。
 よし、と小さく意気込んだ少女は、既に先程までの彼女ではなかった。銀髪は海のような青色に、小麦色の肌は抜けるような白に、一回り大きくなったその姿は、『蒼き鷹』。真紅の翼を背に広げて、ユーフィは空の高みへ翔け上がり、急降下して加速する。その行く手には、待ち受ける暗雲が稲妻の手を広げていた。
「この一撃に、すべてをかけて!」
 襲い来る雷の槍をかわし、時にその身に受けながらも、耐えて前へ――ただ前へ。元より電撃には耐性のある身体だが、この際それは問題ではない。この進撃を可能にするものは、何物をも恐れぬ勇気と、覚悟だ。
(「まだ。まだだ。……今だ!」)
 溜めに溜めた力を込めて、少女は拳を振り被った。そして高々と張る声が、蒼い空へと突き抜ける。
「行きますよ! 絶望の空を、終焉を――この拳で砕き、ますっ!」
 鍛え上げた拳が、雲海を打った。衝撃波を伴う超高速の一撃はパンと弾けるような音を立て、厚い雲を刺し貫く。手応えあり――しかし次の瞬間、雲間に光る雷の残滓を見て取って、少女ははっと瞠目した。音を立てて弾ける雷の伸びる先には鯨の形をした艦と、その背を駆ける一匹の猫の姿が在った。
「くっ!」
 翼をひと打ち、間に合えと宙を蹴って反転すると、ユーフィは稲妻の矢を追い駆ける。そして一切の躊躇なく、その射線に割り込んだ。
「! キミ――」
 大丈夫かと叫ぶクーナの声に、ユーフィはにんまりと口角を上げた。何度雷に撃たれても、この心は折れたりしない。悲劇の終焉を真に破壊できるものは、力でもなく、技でもない――仲間との絆だ。
「皆で、勝ちましょう!」
 行ってと差し出した右手の親指を立てて、少女は落ちていく。その身体をヴァルダの飛竜が受け止めるのを見とどけて、クーナは帽子を押し下げた。
「勿論さ」
 託されたからには、応えよう。高い排気塔を四本足で駆け上がるうち、小さくも勇敢な騎士の盛装はするりとほどけ――恐らくはそれが、彼女の本質なのであろう――美しく繊細な、吸い込まれそうな漆黒のドレスへと形を変えていく。帽子の代わりに耳を飾ったヴェールの下で、灰銀の猫は微かな笑みを浮かべた。
「いつか、どこかで会えるのかな」
 あの懐かしい声の主と、三十六の世界の――どこかで。そう思うと、小さな胸は不思議と躍った。それが何故なのかは、彼女にはまったく分からないけれど。
「だけどその前に、あの魔竜を倒そうか」
 新たな出逢いを迎える前に、明日を迎えられなくては始まらない。赤い霧の翼を広げて、猫は排気塔の縁を蹴り、雲海に向けて飛び込んだ。
(「できれば、ギリギリまで温存しておきたかったけど」)
 あまり悠長なことは言っていられそうになかった。立ち込める雲の波間より鎌首をもたげて、ありとあらゆる災害の竜達が次々に襲い掛かってくる。陽だまりのオーラで身を守りながら、灰色の小さな翔剣士は吹き荒ぶ嵐を抜け、燃え盛る炎の合間を縫って、魔竜の懐へと疾走する。そして襲い来る竜の頭を踏みつけにして、クーナは躍んだ。遮るもののない太陽を受けて、手中の槍がぎらりと鋭い光沢を放った。
「さあ、とくと味わうといい」
 赤い翼の輝きが、いっそう増した。雲を裂き駆け抜ける翼の赴くままに、猫は銀槍を突き入れる。何度も、何度も――触れられるほどに濃密なその雲が、形を失い崩れるまで。


 役目を終えた赤き翼は、ちりぢりに散って空に融けていく。落ちてゆく猫を空中でキャッチして、玲頼が空飛ぶ鯨の甲板に舞い降りる。ほっと安堵の笑みを浮かべて、クーナは乱れた毛並みを整えた。
「これで全員? ――うん、全員乗ったね!」
 甲板に乗り組んだ仲間達を素早く数え、鈴鹿は高らかに叫んだ。
「よし! 緊急離脱!」
 号令に応じて、空飛ぶ鯨が再び啼いた。そのまま限界まで加速して、猟兵達を乗せた艦は魔竜の空域を離脱する。走り回る乗組員のペンギン達が慌ただしくなる中、弥生は甲板の柵にもたれかかり、小さく安堵の息をついた。
「みんなが無事でよかった。……大切な人のところに帰るまでが戦いだものね」
「…………」
 甲板に翼を休めた愛竜の背を撫でながら、ヴァルダは鯨の尾の先に尚も蠢く雲海を顧みる。戦いはまだ続いているが、彼女達が穿った一撃は決して無駄にはならないだろう。一人一人の力は小さくとも、想いは連綿とつながり、いつか実を結ぶのだ――それは彼女の父と母とが歩いた道を、彼女が今、辿っているように。
(「その終焉を打ち砕くことこそ、我が本懐」)
 先人達が辿った道を、残された轍を――必ずや、未来に。
 両の拳をきつく握り込んで、夕焼け色の娘は静かに瞼を伏せた。
(「繋いでみせます。……必ず!」)
 そしてこの破滅的な終焉を、砕き、覆す。
 この戦いの終わりに、彼女達が何を見るのか――すべての終局は、もうすぐそこにまで迫っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月26日


タグの編集

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🔒
#ブルーアルカディア
🔒
#アルカディア争奪戦
🔒
#帝竜『大空を覆うもの』


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト