●祭り彩るは、
か細い音が光の玉と共に夜空を翔け昇り、ぱっと弾けて大輪の花となる。
夜空いっぱいに咲いた花の輝きが小さな欠片となって散りゆく中、ひとつ、ふたつと、同じように音と光が翔け昇っては光り輝く花が咲き、その度に、地上から眺めていた妖怪達は歓声を上げた。
「いやー、今の牡丹は見事じゃった! あっちで見た花火を思い出すわい。そりゃあもう大きな花火での、色はきらきら明るい水色で……」
「だったらそれ上げてこようぜ、爺さん」
「おおっ、そうじゃのう! 儂の青春をあの空に……むふふ……!」
若い妖怪に支えられ、ルンルンと向かう先には『花火受付はコチラ』の立て看板。
今宵は秋祭り。秋の訪れを喜び祝うもの。
常に夜空を彩る花火は職人達によるものだが、ここは幽世。UDCアースで見た花火と同じものを再現するなどお手の物。黄金一色であろうと、白から青へ変わるものであろうと、鮮やかに蘇らせてくれるから――。
「あのねー、友達がド紫が好きでさー? そんでもって猫ちゃん好きだから? 猫ちゃんフェイスの花火プレゼントしたくってー。どっすか?」
「いけますとも!」
こんな風に、誰かへのプレゼント花火だって打ち上げられる。
その為、花火受付所は夜空とはまた違った賑わいを見せていた。ただし、祭りのもう一つの花である屋台も負けていない。
「おじさま、花火アイスを二段で下さいな。上はオレンジ、下はバニラがいいの」
「あいよっ!」
まあるい氷菓の上で、小さな花火がぽわっと咲いてはパチンと散る。
花火かき氷も、しっとり艶めく氷山の傍でパチ、パチン。
それらの花火は熱に触れると溶けて消えてしまうから、花火咲く様を楽しむのなら、食べる前にじっくりと。
口の中でもパチパチする花火が良ければ、ふわっふわの花火綿飴やカラーバリエーション豊かな花火サイダーがおすすめだ。この二つは目でも口の中でも花火を楽しめる。
ただし、一気に口に入れた場合は口内が花火大会クライマックスを迎えてしまう為、そこだけは注意が要る。
他にも焼きそば、唐揚げ、フライドポテト、フランクフルト、ケバブ、お好み焼き――腹を満たす屋台飯はメジャーなものだけでなく、空を泳ぐ鯛焼きや、耳をすますと可愛らしい合唱が聞こえるベビーカステラといった幽世ならではの不思議系まで。
夜空に輝く花火に美味しい屋台飯。
秋祭りの賑わいに、幽世蝶もふわりひらりと加わった。
●秋宴彩花
「視えた光景は美しいものであったが、現れた幽世蝶の群れは世界の綻びを感じ取ったもの。故に、助力を願いたい」
告げた黎・万狼(花誓・f38005)曰く、幽世蝶が感じ取った綻び――オブリビオンは飲み込んだ妖怪の姿を取り、祭りを楽しんでいる風を装いながら周囲を眺めているという。
「縁切り屋と呼ばれる者だ。恐らく、祭りに集まった妖怪達が持つ縁を品定めしているのだろう」
誰かと共に居るのなら、ふたつを繋ぐ縁を。
一人で居るのならば、今日は共に居ない誰かや、持ち物と繋がる縁を切る。
縁切り屋が切る縁は家族、友人、恋人、仲間、師弟、偶然の出会い、想う誰かの遺品、愛用の武器――誰かや物と繋がる、『縁』と呼べる全てだ。
そんな縁切り屋にとって祭りは格好の狩り場であり、祭りを楽しむ妖怪達は、すぐに手が届く便利な標的でしかない。始めようと決めた瞬間に正体を現し、袖に忍ばせた匕首で縁という縁を切って回るだろう。
「奴の胸に在るのは愉悦のみ。……その為か、油断しているようだ」
猟兵達が祭りに参加してもまだ気付かれていないと思い、無害な妖怪を装い続ける。しかし、眩い縁にはどうしても惹かれる様子。それを利用しない手はないだろう。
「気兼ねなく祭りを楽しめば良い」
そうする事で各々が持つ“縁”は魅力的に映り、楽しみながら少しずつ妖怪達から離れていけば、向こうは誘い込まれていると気付かないまま付いて来る筈だ。
場が整ったのなら、後は過去へと還すだけ。
そうして一つ一つの縁は守られ、世界もほどける事なく守られる。
「縁というものは不変ではない。日々の中で変化し……時には、不意に失くす事もある。だからこそ、愉悦の為に断たれて良いものではない」
告げた男の傍でグリモアが展開する。
妖怪達が生きる世界へと繋がって――秋の夜空に、大輪の花が咲いた。
東間
秋の花火とお祭り(滅びの危機付き)へご案内。
東間です。
●受付期間
タグ、個人ページトップ、ツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせ。オーバーロードは受付前に送信されても大丈夫です。
●一章
花火と秋祭りな日常章。
思い出の花火を打ち上げたり、誰かへの贈り物に打ち上げたり、ただただ花火を眺めたり。屋台飯はテーブル席で食べるも、食べ歩きするも良し。過ごし方は自由です。
この章のみのご参加も歓迎です、お気軽にどうぞ!
屋台は、OPに登場したもの以外にも一般的なものなら大体あり・の扱いです。
花火アイス・かき氷・サイダーのフレーバーも同じく。
ゲテモノ・イロモノ系はありません。
※オブリビオンとの接触は出来ません。
※大規模アトラクション(ジェットコースターやお化け屋敷など)はありません。
●二章:ボス戦『縁切り屋』
誰かと誰か、誰かと何かの繋がりを裂く気満々。
世界が滅びるけれど知った事じゃない。やりたいからやる。
ですが、皆様が『繋がり』について語りに語りまくったら、そのやる気をゴリゴリに削げるのでは――!? そんな二章の予定です。詳細は開始時に。
●グループ参加:二人まで
プレイング冒頭に【グループ名】、そして【同日の送信】をお願いします。
送信タイミングは別々で大丈夫です(【】も不要です)
グループ内でオーバーロード使用が揃っていない場合、届いたプレイング数によっては採用が難しくなる可能性があります。ご注意下さい。
以上です。皆様のご参加、お待ちしております。
第1章 日常
『夜空に大輪』
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POW : 菊に牡丹、万華鏡
SPD : 冠に柳、飛遊星
WIZ : 花雷万雷、千輪菊
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●咲いた、咲いた
ひゅうう、ひゅううと光が翔けて、ぱんっ、ぽんっ、ぱぱあんと花が咲く。
一気に開いて弾けて輝いて、そして欠片になりながら散る花火の姿と色は、万華鏡のように多彩で鮮やかだ。暗い夜空は眩い花の舞台に変わり、祭りが終わるその時まで打ち上げられる。
フィナーレの時には、夜空いっぱいを花火が埋め尽くすだろう。
日本ではスターマインと呼ばれる一際豪華な瞬間は、もう少し先の話。
それまでの間、妖怪達は世間話や花火の思い出に花を咲かせたり、どこそこの屋台飯が美味いだのアレは今川焼だいいや大判焼きだと、祭りならではの熱いトークを広げていた。
「だからよぉ……ん? 幽世蝶だ」
「おうおう、お前らも祭り楽しみに来たか? ハッハッハ!」
優雅に舞う様に熱はいっとき収まって――ひらひら舞うその中心にいた男が、纏わりつく蝶達に肩を竦めて笑った。
「お前らに用はないんだがなぁ。……ああ、でも」
指先を伸ばす。
そこに止まった一羽をじいと見つめ、ふうん、と笑みを深めた。
光と音が翔ける。
花が咲く。
――お前も誰かと繋がってるなら、後で構ってやるよ。
男の声は花火咲く音にかき消され、祭りの彩はより鮮やかになっていく。
フール・アルアリア
※UCは兎を連れて行きたいだけ。肩に乗っけて一緒にお出かけ。
仕立てられたばかりの浴衣を着て、兎を連れて屋台を巡ろ。実はカクリヨ、来たことなくって。ちらりちらりと見かける妖怪や、ちょっと不思議な光景に足取り軽く、心ははしゃぐ。
花火屋さん、白い蝶々の形の花火はできる?UDCのスマホでも綺麗に撮影できるくらいの、不思議で綺麗なやつ!ついでによく見える場所、教えて?
プレゼントかって?うーん、まあ、そうかな?撮った写真をプレゼントしたいんだ。よろしくね?教えてもらった場所に行って、道中買ったサイダー飲みながら空を仰ぐ。
頼んだ花火が見えたらすかさず撮影!うん、綺麗。ふふ、帰ったら弟に見せてあげよっと。
歯車を浮かべ、黒から銀杏色へ変わる浴衣を黒狐面添えたコルセットできゅっと締め、その下には立て襟のシャツを着て足元はブーツで軽やかに。キャスケット帽にはゴーグルと、レトロモダンとスチームパンクを合わせた装いに。
そんなフール・アルアリア(No.0・f35766)が歩けば、長い髪が祭りの空気と一緒にふわりとそよいだ。
(「実はカクリヨって今回が初なんだよね」)
すれ違う妖怪達は、人間にしか見えない妖怪から、どこからどう見ても立派な――それこそ、ゴーストタウンで見かけるゴーストそのものな妖怪まで居る。
フールの視界をふわふわんと泳いで過ぎた鯛焼きの群れは、ろくろ首の娘の頭上に集まってぐるぐる回り始めていた。
幽世では日常的な光景を間近にした白兎が、フールの肩にちょんと乗ったまま翼をぱたたと震わせる。その頭を指先で優しく擽ったフールの足取りは軽い。はしゃぐ心も抱えて向かった花火受付所で自分の番をウキウキと待ったフールは、暫くして訪れた自分の番に目を輝かせ尋ねた。
「花火屋さん、白い蝶々の形の花火はできる? UDCのスマホでも綺麗に撮影できるくらいの、不思議で綺麗なやつ!」
「そらぁ勿論! 不思議で綺麗っつーなら、そうだな……こいつはどうだい?」
「うわ、最高! それで! ……それとさ。ついでに花火がよく見える場所、教えて?」
「おうよっ、いい花火を見るにはいい場所も重要だ! ……で。花火は誰かにやんのかい?」
楽しそうに問われ、フールは緩い笑みを浮かべた。うーん、まあ、そうかな? 思わず疑問符が付いたけれど、撮った写真を贈りたいという気持ちは確かだった。
職人お勧めの場所は案外近く、小さな花火をパチパチ咲かす桃色サイダーで喉を潤しながらのんびり向かう。興味津々と鼻をぴすぴすさせる白兎には、ちょっと刺激的かもしれない。
道中、聞こえたか細い音ひとつ。
引っ張られるように空を仰いだフールの手がスマホを操作し――、
ぽんっ!
カシャッ!
気持ちの良い音と共に白光を湛えた蝶々が羽ばたいた。
すぐ画面を確認すれば、今捉えたばかりの蝶々が夜空に翅を広げていて――それは眩しくて、不思議で。それから。
「うん、綺麗。ふふ」
帰ったら弟に見せてあげよっと。
嬉しそうに笑うその手元で、桃色花火がぽわんと咲いた。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、アヒルさん花火ですよ、花火。
キレイですね。
ふえ?アヒルさんどうしたんですか?
不貞腐れてないで一緒に花火を見ましょうよ。
ふええ、今年もアヒルさんの浴衣がなかったことを気にしているんですか?
って、アヒルさん怒らないでください。
この綿あめをあげますから機嫌を直してください。
綿あめぐらいじゃ、アヒルさんの機嫌は直らないから覚えてろって、アヒルさんは何か企んでいるのでしょうか?
何か嫌な予感がするけど、今は落ち着いてよかったです。
でも、嫌な予感しかしないのは気のせいでしょうか?
真っ黒な夜空に、ぴゅううと音を響かせながら光の玉が昇っていく。
光の色と同じ尾を残して翔け昇ったそれはふいに消え――ぱあん! 澄んだ破裂音を響かせて夜空を大輪の花で彩った。
わあっと溢れた歓声の中、フリル・インレアン(大きな
帽子の物語はまだ終わらない・f19557)も目を輝かせ、大きな赤い瞳いっぱいに花火の煌めきを映していた。
「ふわぁ、アヒルさん花火ですよ、花火。キレイですね」
夜空に咲いた瞬間も散っていく姿も、鮮やかな煌めきで溢れている。
ぱらぱらと降るようだった花火の名残りが完全に消えると、空は再びの真っ黒色。しかし周りの妖怪達が交わすお喋りからして、次の花火は数分と待たず打ち上げられるらしい。フリルはそわそわしながら待つ事にした。勿論、いつも一緒のアヒルさんだって――ふえ?
「アヒルさんどうしたんですか?」
『……グワ』
アヒルさんが嘴を下に向け、地面をぺたぺた叩いている。纏う空気はお世辞にも明るいとはいえない。普段フリルを色々な意味で引っ張り回すアヒルさんとは大違いだった。これは。もしかして。
「不貞腐れてないで一緒に花火を見ましょうよ」
ぷいっ。
そっぽを向かれてしまったフリルから先程見た花火への感動がスポーンと飛んでいく。キラキラ明るかった表情は、すっかりいつもの困り顔だ。
「ふええ、今年もアヒルさんの浴衣がなかったことを気にしているんですか?」
フリルの浴衣は、深い緑にほんのりと光沢のある辛子色の帯を合わせたものだ。帽子も浴衣とお揃いの色で――と、フリルの足をアヒルさんがぴしぴしつつく。
「アヒルさん怒らないでください。この綿あめをあげますから機嫌を直してください」
『グワ!』
「ふえっ、凄いスピードです……」
全部アヒルさんが食べて私の分は残りませんね。そう確信したフリルは切なさを覚え――グワワ。綿飴を半分まで減らしたアヒルさんの声に、ふえっと肩を震わせた。
(「綿あめぐらいじゃ機嫌は直らないから覚えてろ? 何か企んでいるのでしょうか?」)
嫌な予感しかしないが、アヒルさんは甘いものを食べて落ち着いたらしい。綿飴から咲いた花火を楽しんでいる。それは間違いなくいい事で――けれど嫌な予感は、これっぽっちも薄れなかった。
大成功
🔵🔵🔵
鉄・弥生
【鉄家双子】
悠生と屋台巡り
お祭りといえば屋台だものね
違うのを買って
いつもみたいに分けっこしよう
わ、悠生。いきなり豪快だね
私の好きな味も選んでくれたの?
ふふ、すっごく嬉しい
段が多いからかな?花火も豪快
色とりどりで綺麗だね
私は花火綿飴にしたよ
口の中で弾ける花火なんて初めて
どんな味がするのかな?
うん、やっぱり食べてこそだよね
いいの?それじゃ、いただくね
苺の香りと甘みに、楽しそうな悠生
大好きがいっぱいで頬が緩んじゃう
お返しに綿飴どうぞ
はい、あーん?
あ、一気に口に入れちゃうと…もう、せっかちなんだから
でも気に入ったなら良かった
しょっぱい物も食べたくなってきたね
順番に巡ってこ、悠生(差し出された手を繋ぐ)
鉄・悠生
【鉄家双子】
弥生と屋台巡り
俺は花火アイス5段にチャレンジ!
上から苺、チョコ、ストロベリーチーズケーキ、バニラ、オレンジ
弥生は苺とチョコ好きだからな、俺も好きだし
あははっ、このアイスすげー!花火出てる!
ほら見てみ、弥生!楽しい上に食べれるなんて最高!
勿体ない気もするけどアイスは食べてこそ!
弥生、全種類食べてみるか?
やっぱ最初は苺かな
お店の人に貰ったスプーンですくって口元へ
ほい弥生、あーん
嬉しそうな弥生にこっちまで笑顔になるな
綿飴くれんの?ありがとー!(ばくっと)…んむぐぅ!?
…ぷは!あはははっ!
こっちもすげー!口の中花火大会!!
そうだな、しょっぱいのも食べたいな
見に行こうぜ弥生!(手を差し出し)
翔けた光と音がぽんっと弾け、一斉に花火が咲く。
一つ一つは小ぶりで、けれど一度に夜空を彩った様は花束や紫陽花のようだった。
鉄・弥生(鉄家次女・f35576)が見上げた先で咲いた花火が、光と音をパラパラ散らしながら消えていく。花火の音がいっとき静まったそこに、祭りを楽しむ妖怪達の声が心地よい賑わいとなって戻ってきて――。
「悪い弥生! 待たせたか!?」
ぱっと飛び込んできた溌剌とした声に、物静かだった金色の瞳に明るい彩が宿る。
くるりと振り向けばそこには双子の鉄・悠生(鉄家次男・f35575)が居――たのだけれど、その手にあるタワーの如き花火アイスで、弥生の目はまあるくなった。
「わ、悠生。いきなり豪快だね」
「花火アイス五段だからな! 弥生の綿飴も凄く大きいよな……っていうか、変な奴に声かけられなかったか? 大丈夫か?」
離れていたのはほんの数分、ほんの僅かな距離。だとしても、悠生の弥生に対する過保護は薄れない。悠生は弥生を狙う不届き者がいない事を確認し――自分が持つ花火アイス五段へと注がれるキラキラ眼差しに気付き、ぱっと笑顔になる。
「上から苺、チョコ、ストロベリーチーズケーキ、バニラ、オレンジにしたんだ。弥生は苺とチョコ好きだからな、俺も好きだし」
「私の好きな味も選んでくれたの? ふふ、すっごく嬉しい」
祭りといえば屋台
違うのを買って、いつもみたいに分けっこしよう
そう言葉を交わしたのはほんの数分前で、そんな“いつも”が、まさかこんなに豪快で豪華になるなんて。
すると二人が持っていた花火アイスと花火綿飴から光の玉が現れて――ぱちんっ。
「わっ、花火」
「あははっ、このアイスすげー! 花火出てる! ほら見てみ、弥生! 楽しい上に食べれるなんて最高!」
「段が多いからかな? 花火も豪快。色とりどりで綺麗だね」
苺アイスからは桃色花火、チョコアイスからはチョコ色花火。どうやら現れるそこと花火の色はリンクしているようだ。
弥生はふわふわ綿雲のように真っ白な花火綿飴を見つめ、ぱち、ぱちん、と可愛い音を立てて弾ける白色花火を興味深そうに見つめる。
「口の中で弾ける花火なんて初めて。花火綿飴、どんな味がするのかな?」
ただ、目の前で咲いては弾ける花火を食べてしまうのが勿体ない。自分の顔より大きいけれど、綿飴だから食べ始めたらぺろりと行けるから、どんどん小さくなるだろう。
綿飴を見つめて迷う弥生の心に悠生はすぐさま気付き、屋台で貰ったスプーンを取り出した。
「弥生。勿体ない気もするけどアイスは食べてこそ!」
「……そうだね悠生。うん、やっぱり食べてこそだよね」
「そうそう! ってそうだ、全種類食べてみるか? ほい弥生、あーん」
最初はやっぱり弥生の好きな苺味! スプーンで迷わず掬われた苺アイスが弥生の前に差し出され、スプーンの上で小さな花火をぱちん。それと一緒に、弥生も目をぱちりとさせた。
「いいの?」
「当たり前だろ。ほら」
苺アイスを掬った時と同じように、悠生の答えに迷いはない。
「ふふ。ありがとう。それじゃ、いただくね」
ぱくりと食べれば、苺の存在感が冷たくとろけながら口いっぱいに広がって、ふんわり笑顔になったその目に楽しそうな悠生が映る。苺と悠生。大好きと大好き。弥生の心は大好きなものいっぱいになり、ふにゃりと頬が緩んでしまう。
嬉しそうな弥生に悠生の表情も柔らかくなっていた。つられて笑顔になりながら花火アイスを一口食べ――。
「お返しに綿飴どうぞ。はい、あーん?」
「くれんの? ありがとー!」
「あ、一気に口に入れちゃうと……」
悠生の“あーん”の大きさに弥生が声をかけるも、時既に遅し。花火をぽわんと咲かせていた綿飴を、悠生は元気に
頂きます。
「……んむぐぅ!?」
丸くなったりぎゅっと閉じたりを繰り返す目。
素晴らしく硬いグーになった、花火アイスを持つのとは逆の手。
口内がどうなっているか見えなくても、ばくっと行った大きな一口から咲く花火の勢いは想像しやすい。しかし、悠生の口から笑顔と一緒に飛び出した「ぷはっ!」は、とても満足げなものだった。
「あはははっ! こっちもすげー! 口の中花火大会!!」
「もう、せっかちなんだから。でも気に入ったなら良かった」
「ごめんごめん! ほら弥生、今度はチョコアイス食べようぜ?」
味も花火の弾け具合も、笑顔を交えて分け合っていく。
そうして二人仲良く舌鼓を打った結果、五段あった花火アイスと顔より大きかった花火綿飴は
ご馳走様へ一直線。けれど――。
「何だかしょっぱい物も食べたくなってきたね」
「そうだな、見に行こうぜ弥生!」
「うん。順番に巡ってこ、悠生」
手を繋いだら出発進行。
たこ焼き? 唐揚げ? それとも焼きとうもろこし?
沢山あって迷うけれど、二人にはスペシャルな作戦があるから大丈夫。
「違うのを買って」
「分けっこしような!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳥栖・エンデ
友人のイチカ君(f14515)と
今宵は秋祭りだ〜夏の風物詩っぽい花火も
一緒に楽しめるなんてお得だね
見たり食べたり浴衣で楽しんじゃおう
食べられる花火があるんだってねぇ
綿飴もサイダーも良さそうだけど
僕は二段アイスでオレンジとチョコを選んで
夏も秋も楽しんでる感じにー
空を泳ぐ鯛焼きとか唄うベビーカステラとか
幽世っぽい不思議系も試食しておくかい?
食べ歩きの合間で、輝く花火の景色も眺めて
ふっふ普段より大人しいと思うのは
まだまだ序の口…メインディッシュは屋台飯だよぅ
唐揚げ、フライドポテト、フランクフルトは歩きながらでも行けるし
焼きそばとかお好み焼きは腰を据えてがっつり食べよー
食欲の秋も満喫できたなら何より
椚・一叶
友のトリス(f27131)と
浴衣着て、秋祭りを満喫する
秋の始まりは過ごしやすくていい
遊び尽くそう
小さな花火も見よう
儂も二段アイスで上は苺、下は檸檬としたら
紅葉の色合いになるか
混ざり合っても甘くて美味しい
不思議系も是非に
鯛焼きが空を泳げるなら、逃げ出さないか?
袖捲りして捕まえる準備だけしとく
様々な色で楽しませる花火に
時々目を奪われていたらトリスの笑み
メインディッシュあるとは、流石
と目輝かせ
焼き立ての屋台飯はどれも美味そうだ
肉系は絶対に外せないし
鉄板の上で炒める焼きそばも心惹かれる
遂あれもこれもと
秋の始まりは、より食欲が増すということ
食べ歩きで祭りの空気を楽しみながら
腹と心が満たされるまで食べよう
菫色からほのかに桃がさす淡い藤色へ。変わりゆくそこには、羽ばたく鳥の群れ。
緋色から深支子へ。柔く染まっていくそこには、穏やかな曲線描くススキ達。
浴衣姿の椚・一叶(未熟者・f14515)と鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)が並んで歩けば、明けと暮れの空が並ぶかのよう。
「秋の始まりは過ごしやすくていい。遊び尽くそう」
「うんうん。それに、夏の風物詩っぽい花火も一緒に楽しめるなんてお得だね。見たり食べたり浴衣で楽しんじゃおう」
今宵は秋祭りだ~。髪をふわふわ揺らし笑ったエンデの目が、すれ違った妖怪が満面の笑みで味わうもの――花火サイダーを静かに映す。鮮やかなブルーサイダーから咲く小さな花火は、線香花火を逆さまにしたように華やかだった。
「食べられる花火があるんだってねぇ」
「あれか。うん、小さな花火も見よう」
花火も一緒に楽しめる屋台は、サイダー以外だと綿飴とアイス、かき氷の三つ。どれにしようかなぁとのんびり歩いていたエンデの目に、とある屋台が飛び込んだ。
ぱぁ、と柔く咲いた笑顔で一叶の袖を引っ張り、あそこあそこと指す。指されたものを見た一叶が、ほほう、とニヤリ笑ってうむうむと二回頷く。そうして二人向かった先で手に入れたものは、まんまるにくり抜かれた甘くて冷たい花火アイスだ。
「見て見て、オレンジとチョコで、夏も秋も楽しんでる感じにしたんだー」
「美味そう。儂も二段アイス。上は苺、下は檸檬」
のんびり嬉しそうなエンデの花火アイスは、さっぱりと甘く爽やかなオレンジと濃厚チョコの組み合わせが、見目も味もたまらないものとなっている。
ふふんと得意げな一叶のアイスは色づいた紅葉のように鮮やかだ。重なっている所が混ざり合ったその味も美味しくて、そこから咲く花火も楽しみながらのアイスタイムはあっという間に楽しく美味しく“ご馳走様”へ。
それじゃあ次は何にしようかと話す二人の視界に、ふよふよと入り込んだこんがり狐色の群れ。骸骨の後をついて行くあれは、どう見ても出来立てほかほか鯛焼きではないか。二人は目を丸くしてから、キラリと楽しげな光を躍らせた。
「幽世っぽい不思議系も試食しておくかい?」
「不思議系も是非に。……ふむ」
「どうしたの?」
「ん、なに。鯛焼きが空を泳げるなら、逃げ出さないか?」
念の為に袖を捲って捕まえる準備もしてから、鯛焼き屋台へ、いざ出陣。
おまちどおさまと渡された鯛焼きは、ぴちぴちしながら袋から顔を出し――いつでも捕まえられるよう身構えた一叶の周りを、くるりくるりと泳ぎだす。
「懐こい」
「鯛焼きがペットになったら、こんな感じかもね~」
手を伸ばせば逃げる様子もなく、掴めば“さあ食べて”と言うようにぴたりと動きを止めた。そういえばどうして泳いで? そんな疑問は、食べた瞬間の優しく甘い生地の風味と餡子の味わいで吹き飛んだ。
食べ歩く合間、夜空に響いた音と現れた花の輝きも、様々な色と姿で二人を楽しませる。鯛焼きを味わっていた一叶は時々花火にも目を奪われて――「ふっふ」と隣から聞こえた笑みにハテナマークをぽこん。最後の一口を食べ終えたエンデはニッコリ笑って周りを見る。
「普段より大人しいと思うのは、まだまだ序の口……メインディッシュは屋台飯だよぅ」
「メインディッシュあるとは、流石」
目を輝かす一叶にえへんと誇らしげなエンデの目と嗅覚が早速見つけたのは、メインディッシュに相応しい、祭りでは定番の屋台達。
「まずは唐揚げとフランクフルト食べたいなぁ」
「どれも美味そう。肉系は絶対に外せない。鉄板の上で炒める焼きそばも食おう」
「あっ、あそこにあるフライドポテトも食べようよ。歩きながらでも行けるし」
「食べ歩き。秋祭りの醍醐味だ。実にいい」
「ねー。焼きそばとかお好み焼きは腰を据えてがっつり食べよー」
それじゃあまず唐揚げ一つ、フランクフルトも一つずつ。唐揚げは爪楊枝を二本付けてもらえた為、早速ぷすりと刺して頂いていった。フランクフルトは皮がパリッとして中身はジューシーかつプリップリだ。
屋台から屋台へと移動するにつれ、二人の手には様々な屋台飯が追加され、出来立ての温かさと食欲くすぐる素晴らしい香りが二人を包むものだから、二人の足取りは少しばかり大股になった。
確保したテーブルに早速広げていけば、夜空の花火にも勝る素晴らしい光景の出来上がり。そこに文字を添えるとしたらやはり――。
「食欲の秋だな」
「美味しそうなのいっぱいだ。楽しみだね~」
食欲増す秋の始まりに過ごす屋台飯の宴。
それを彩る祭りの空気も楽しみながら食べてゆけば、腹も心も満たされて――それはそれは実りある秋を満喫する二人なのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蓮見・双良
【空鳥】
2022年浴衣姿
空飛ぶ鯛焼きは僕も気になる
…本当に飛んでる…
今更驚かないけどシュールさについガン見しちゃうな
まぁ、飛んでるからね…
そうだ、射的銃借りて打ち落としてみる?
競争か、良いね
勿論、手加減はしないよ?
あははっ、勝った方なの?
(勝敗お任せ
ピチピチ跳ねる鯛焼きを私物のナイフで真っ二つ
どうぞ、ちぃ
トドメは刺したから大丈夫だよ(笑顔
花火系全種も買ってどこか座って食べよう
僕は、アイスはブルーベリーと紅茶味、かき氷はマンゴー
…凄い。どうやって弾けてるんだろう?
あ、もう溶け始めてる
手早く半分ずつにして、ちぃへ
ん、冷たくて美味しい
へぇ、駄菓子でもあるんだ?
ふふ、口の中が面白い
って、ちぃ大丈夫!?
星崎・千鳥
【空鳥】
臙脂色ベース千鳥模様の浴衣
ぴゅんって飛ぶ鯛焼きに無表情からぷっと吹き出す
と ん で る
食べるには落すしか
ねーねーどっちがはやく落とせるか競争しない?
勝った方が花火スイーツ奢る…違う逆
(勝敗お任せ
手元に来た鯛焼きをしげしげ眺める
これ飛んでた奴
まだピチピチしてる
躍り食…Σえ?!斬ったー!
喫驚のち笑う
双良とだとたのしーや
花火スイーツ冷たいのから
アイスはバニラとキウイ、かき氷は苺
いーねわけわけ
…こんなに花火なのに冷たいの?
冷たいね
不思議過ぎ
綿飴とサイダー半分こ
おー綿飴のパチパチは親しみある
こんな駄菓子あった気がする
サイダーだって余裕だね…う
(パチパチが凄くて固まる)
だい、じょぶ
く…花火、激しー
あらゆる妖怪や竜神が住まう幽世の祭りは不思議がいっぱい。
かき氷やアイスからは花火がぽわんと上がるし、ベビーカステラは可愛いハーモニーを奏でるし、鯛焼きだって泳ぐのだ。
「……本当に飛んでる……シュール……」
淡く透き通った青に浮かぶは、雲に流水、蓮の花。清廉な雰囲気漂う浴衣に身を包んだ蓮見・双良(夏暁・f35515)の視線は、吸血鬼の頭上にてふんわりふわふわ、円を描いて泳ぐ鯛焼きに注がれている。
その向かい側から歩いてきたトロルも鯛焼きを買ったらしい。抱えている紙袋がカサカサ動いて――ぴゅんっ。飛び出した瞬間を思いきり見てしまった星崎・千鳥(元電波系運命予報士・f35514)は無表情からぷっと吹き出した。
「と ん で る」
あれを食べるには落とすしか。
無表情でわかり辛いが間違いなく本気が籠もった呟きをした千鳥は、千鳥模様で彩った臙脂色を基調とした浴衣姿と、双良と同じく秋祭りを楽しむ気満々だ。
「まぁ、飛んでるからね……そうだ、射的銃借りて打ち落としてみる?」
双良がそう言った瞬間、千鳥の無表情な眼差しにきゅぴんと光が煌めいた。
「する。ねーねーどっちがはやく落とせるか競争しない?」
「競争か、良いね。勿論、手加減はしないよ?」
「いいよ。勝った方が花火スイーツ奢る……違う逆」
「あははっ、勝った方なの?」
「間違えたんだって。じゃあまずは鯛焼き買って、そんで射的銃借りよう」
勝負の前に鯛焼きが逃げないよう、買った鯛焼きは袋の中に。
射的屋の主人に話をした所、「面白そうじゃねえか!!」と射的銃も場所も快く貸してもらえた事は驚きで。そして二人の鯛焼き勝負はというと――。
「ボクの勝ち」
「うーん、残念」
いぇい。無表情だがVサインをして勝利を喜ぶその姿は、記念にと射的屋主人がポラロイドカメラでパシャリと記録してくれた。記念の一枚を受け取ったのとは逆の手元へ、打ち落とされた鯛焼きが観念してやって来る――が、まだピチピチしていた。ついさっきまで飛んでいたから、それはまあ、活きが良いという事なのだろう。
(「つまり、躍り食……」)
鯛焼きと見つめ合うその視界でヒュンっと閃いた軌跡ひとつ。すぱっと真っ二つにされた鯛焼きは、すとん、と皿代わりの紙袋の上へ。いやそうじゃなくて。
「え?! 斬ったー!」
「どうぞ、ちぃ。トドメは刺したから大丈夫だよ」
「ちょ、トドメって……! あはは、双良とだとたのしーや」
――ナイフどうしたの?
――これ? 私物。
そんな会話を挟んで真っ二つに分けられた鯛焼きを平らげれば、他の屋台も気になってくる。まずは花火系全種かなと二人の足は各種花火系屋台をスムーズにクリアして――アイスにかき氷、綿飴にサイダーと四種全てがテーブルの上へ勢揃いだ。
そして勢揃いしたそこでは、ぽわぽわっと花火が咲いては弾けている。食欲の秋な光景だが、小さな花火が現れる様はちょっぴり芸術の秋でもあり、不思議の秋でもあった。
「……凄い。どうやって弾けてるんだろう? あ、もう溶け始めてる。はい、ちぃ」
「ありがと」
空色の目でじっと見ていた双良は、手早くアイスとかき氷を半分ずつに分けて千鳥に渡すと、咲きかけていた花火ごと早速アイスをぱくっと食べた。
「ん、冷たくて美味しい。ブルーベリーと紅茶味にして正解」
満足げな声と微笑みに千鳥は目をぱちりとさせた。
二口目へ行く双良から、自分の花火スイーツに視線を戻す。バニラとキウイのアイスからは、アイスと同じ色の花火がぽわっと咲いたところだ。
「……こんなに花火なのに冷たいの? ……え、ほんとだ。冷たいね。不思議過ぎ」
苺のかき氷は――こっちもちゃんと冷たい。
双良が頼んだマンゴーかき氷も、鮮やかなマンゴー色花火をぽんぽんさせていたが「冷たくて美味しいよ」と大好評だ。
とけて消える氷系なら、しゅわりととけていく綿飴の花火はどんな感じだろう?
シュワシュワとした空気の粒でいっぱいのサイダーは?
アイスとかき氷に続いて二人は綿飴とサイダーも仲良く分け合った。
「おー綿飴のパチパチは親しみある。こんな駄菓子あった気がする」
「へぇ、駄菓子でもあるんだ? ふふ、口の中が面白い」
しゅわしゅわとけていく綿飴とは別に、ぱち、ぱちんっと何かが弾ける感覚がある。これが花火かなと微笑む双良の向かい、綿飴食べたから次はこっちと千鳥の手がサイダーへ伸びた。
「これならサイダーだって余裕だね……う」
が、飲んだ瞬間パチパチを通り越してバチバチだった。
びゃっと肩を跳ねさせ固まった姿に、さすがの双良も驚いて目を丸くする。えっ、これそんなに花火激しいの?
「ちぃ大丈夫!?」
「だい、じょぶ」
とは言ったものの、口内花火大会クライマックスは始まったばかり。
「く……花火、激しー」
サイダーの爽快感を上回るバチバチ感は千鳥の眉間に皺を生み、双良を困惑させ――そんな二人の頭上で、特大花火がぱぱあんと咲いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
西條・東
【柴と雀】
去年の浴衣を着用
『オスカーオスカー!凄い賑やかだな。やっぱり皆お祭りは好きなんだな!』
俺も好きだなとウキウキしながらオスカーと屋台を見に行くぜ
『まずはかき氷のオレンジにしようかな…オスカーは何にする?』
『そっちも美味しそう…オスカー、良かったらシェアしようぜ?』
一口貰ったら目を輝かせて『こっちも旨い!オスカーもかき氷どうぞ!』ってはしゃぐぜ
『ぱちぱちのアイスも良いな…りんご飴も…あっ!そろそろ花火見に行かないと見れなくなっちゃうかな?えと、手繋ごうぜ?』
頷いてくれれば繋いで見やすいところに行くぜ
『花火の子供。なんか可愛い表現で好き!
忘れない思い出を残してほしいんだろうな』
オスカー・ローレスト
【柴と雀】
東とお揃いの羽織紐の、去年頼んだ浴衣を着ていく、よ……(詳しくは浴衣2021イラスト参照
う、うん。人……じゃなくて妖怪、でいっぱいだね……は、はぐれないようにしない、と……
え、ええと、俺は……リンゴの花火アイス、頼もう、かな。
ち、小さな花火も、綺麗、というか……こうやって手の中で小さくぱちぱちしてるのは可愛い、ね。花火の子供、みたい。
去年の妖怪花火と言い、カクリヨの花火って、すごいね……
東のは、カキゴオリってやつなんだね。え、シェア……い、いいのかい?
なら、ひ、一口だけ……お、俺のも、もちろん良い、よ。
(手を繋ごうと言われればそっと手を握り)
う、うん。行こう……
屋台からの、客寄せや接客の声。すれ違う妖怪達のお喋り、笑う声。
どこかレトロな印象の音楽は、気分の良くなった誰かが奏でているのだろう。
そこに花火の打ち上げられた音、咲いた音が飛び込む事もしばしば――という秋祭りの中をゆけば、常に明るい音と空気に包まれる。
「オスカーオスカー! 凄い賑やかだな。やっぱり皆お祭りは好きなんだな!」
――俺も好きだな、お祭り!
ウキウキ弾む心を、声と足取り、笑顔に真っ直ぐ映した西條・東(生まれながらの災厄・f25402)が行く。そのすぐ後ろを行くのは、東よりは緩やかに、そしてどこか辿々しい足取りのオスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)だ。
「う、うん。人……じゃなくて妖怪、でいっぱいだね……は、はぐれないようにしない、と……」
落ち着いた青い浴衣に、金魚が繋ぎ、ころころと花が舞う黒羽織。
髪と似た緑の浴衣に、小鳥が繋ぎ、ヤブランが控えめに
描かれた黒羽織。
二人の勢いや歩幅は違えど、揃いの羽織紐を纏っているのと同じように、二人は同じものを目に映し、耳で拾い、驚きや感心を瞳に浮かべていく。
そんな二人の足はとある屋台を見かけて一時停止。テントと一体化している暖簾、ぴかぴかと点滅する花火飾りと一緒に書かれている『かき氷』や『アイス』の文字を並んで見上げる。
「俺、まずはかき氷のオレンジにしようかな……オスカーは何にする?」
「え、ええと、俺は……リンゴの花火アイス、頼もう、かな」
屋台は隣同士。それぞれお目当てのものを買い終えた二人はすぐに合流し、屋台の並びが丁度途切れていたそこ――落ち着いて食べられる場所まで移動した。ここでなら、買ったばかりの氷菓も咲いては散る花火も存分に味わえる。
改めて見る幽世ならではの不思議さと、ぽわんと浮かび上がった花火の透明感ある煌めき。オスカーは少しばかり扱いに困るような戸惑いを浮かべながらも、自分の手元にあるそれから目が離せない。
「ち、小さな花火も、綺麗、というか……こうやって手の中で小さくぱちぱちしてるのは可愛い、ね。花火の子供、みたい」
「子供?」
「あっ、う……な、何でも、ないよ……あ、あれ。ほら。あそこ、花火……」
「え? わっ、でっかい!」
変な事を言ってしまった。自己嫌悪が大きく膨らむ前に、夜空に見えた輝きを指して東の意識をそらす。すっごいなあと笑うその眩しさは、東が買った氷菓からぱっと昇った花火までも照らすようだった。
「東のは、カキゴオリってやつなんだね」
「そうそう。氷削って、色んな味のシロップかけたお菓子なんだ。そっちも美味しそう……オスカー、良かったらシェアしようぜ?」
「え、シェア……」
シェア。つまりそれは分けっこするという事で――えっ。この、自分と?
「い、いいのかい?」
思わず口にした言葉に東の顔がぱああっと明るくなる。しようしよう! そう語る笑顔にオスカーはおどおどしながらも、なら、と頷いた。
「ひ、一口だけ……お、俺のも、もちろん良い、よ」
「やった! へへ、いただきます!」
影色がほのかに黄を帯びた白いアイスが、東の方へと寄せられる。食べやすいようにという気遣いに東はすぐ気付き、笑顔でありがとうと言うと、差し出されたアイスをぱくっと頂いた。
見た目はバニラアイスのようで、けれど食べた瞬間、林檎の香りと甘みがふわっと広がる。一緒に食べた花火はすぐに溶けてしまったようだけれど――うん、間違いない。
「こっちも旨い! オスカーもかき氷どうぞ!」
オレンジシロップを被って鮮やかに染まった真っ白かき氷から、ぽわ、ぽわわと小さな花火がいくつか上がった。それがパチッと弾けた様にオスカーが肩を小さく跳ねさせるが、スプーンに載せられた一口をそっと食べ――あ、と、かすかに目を丸くする。
「美味、しいね。あ、あの……ありが、とう……」
「俺こそ、ありがとなオスカー! うーん、ぱちぱちのアイスも良いな……後で買いに……そうだ、りんご飴も……あっ!」
「どっ、どうしたの……?」
「そろそろ花火見に行かないと見れなくなっちゃうかな? えと、手繋ごうぜ?」
「う、うん。行こう……」
オスカーが頷いたのを見てから東は笑って手を差し出し、そっと握られた手をうっかり離してはぐれないよう、ちゃんと握り返す。次に口を開いたのは、見やすい所を探して歩き出してから少しの事。
「さっきのさ」
「え……?」
「花火の子供」
買ったばかりの花火かき氷のオレンジと林檎の花火アイス。
二つを見たオスカーが口にした響きをなぞって、東は屈託なく笑う。
「なんか可愛い表現で好き! 忘れない思い出を残してほしいんだろうな」
忘れない思い出を残してほしい。
そう言って笑った姿が、ぱあんと弾けた花火と一緒になって藍色に映り込む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルカ・トラモント
連携アドリブ歓迎
「これが異世界の食べ物
……!?」
「見たことないものもいっぱいある」
屋台で食べ歩きの予定
スーパーよいこランドの壮行会で異世界の食べ物については聞いていたので、屋台の料理の数々に目を輝かせます
中でもこの世界でしか食べられなさそうなもの、空を泳ぐ鯛焼きや合唱が聞こえるベビーカステラなどには興味津々
「町のみんなにも食べさせてあげたいな……お願いしたらレシピとか教えてもらえるかな?」
よいこなので屋台の料理を楽しみながらも故郷のひとたちのことも考えたりします。
花火アイスももちろん購入して婆ちゃんを思い出し砕いたビスケットをかけてみたりしつつ、あがる花火を眺めながら口の中の花火も楽しんだり。
鉄板の上で豚肉が炒められ、野菜をもりもり加えて天かすパララッと散らす。塩胡椒を少々加えて手際よく炒められたそこへ、今度はササーッとソースが掛けられた。
豚肉の時点でいい匂いだったものが更に美味しそうになるものだから、ルカ・トラモント(スーパーよいこの猟理師・f38575)の目は興奮とトキメキでスーパーにキラキラだ。
「これが異世界の食べ物
……!?」
「何だ嬢ちゃん、よその世界から――って事ぁ猟兵さんか! もしかして焼きそば初めて?」
「うん! これ、焼きそばっていうんだ……あの、一つ下さい!」
「あいよっ!」
最後にぱらりと散らされた、みじん切りされたパセリのようなものは『青海苔』というらしい。ルカは教えてくれた屋台の店主にしっかり礼を言い、次は何を買おうかなと胸躍らせ屋台を巡っていく。
故郷で開かれた壮行会。あそこで異世界の食べ物について聞いてからずっと、ルカの中で膨らんでいた異世界料理へのワクワクは今、思う存分花開いていた。
「見たことないものがいっぱいだ……! わっ、泳いでる
……!?」
魚の形をしたお菓子? と首を傾げていると他にも泳いでいる魚菓子がいる。一体どこからだろうと辿ったルカは、それが『鯛焼き』という――それでいて、泳ぐ特性は幽世ならではの不思議だと知った。
「つまり、あれはこの世界でしか食べられないもので……ん? 誰か歌ってる?」
それにしては囁くような小ささ。キョロキョロ見渡して、探して、そうして見つけた歌声の主がまたも焼菓子――小さな鈴形をした、まさにベビーでカステラな異世界の食べ物は、口に放り込めば弾力のあるスポンジケーキのよう。優しい甘さはぺろりと食べられる軽やかさもあって、ルカはあっという間に完食した。
「町のみんなにも食べさせてあげたいな……お願いしたらレシピとか教えてもらえるかな?」
その時はちゃんとご馳走様、美味しかったと伝えて、あっ、花火アイスも買わないと!
ウキウキで買った花火アイスには、祖母を思い出して砕いたビスケットをぱらぱらり。食べる時は勿論、道行く妖怪達の邪魔にならないようしっかり隅に寄ってから。
「うーん、美味しい! ……あっ、花火!」
ぱあんっと夜空に輝き咲いた金色花火。勿論、アイスからぽんっと咲いた花火だって見逃さず、どちらも心ゆくまで味わって――ルカの異世界食べ物巡りの旅は、まだまだ続く。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
月風
花火聞こえるだけならひとまず大丈夫?
しっかり手握って屋台見回り
瑠碧はアイスとかき氷どっちがいい?
瑠碧が食わない方俺頼むし
オレンジとマスカットか
いいな俺も葡萄にしようと思ってた
じゃあ俺は葡萄のかき氷
アイスもかき氷も俺持つから
瑠碧サイダー持ってくれねぇ?
で片手はこっち
アイス両手に腕差し出し
テーブル席に
膝がくっつく位の距離で腰を下ろして
花火アイスにかき氷ってこんな感じなんだな
満足したら即消し
おっそっか?
よかった怖くない程度で
氷一匙掬い口に入れて
うん旨い
ほら瑠碧も
差出し
ぱちぱちしたいならサイダー飲む?
お返しに相好崩し
おおマスカット風味が違うな
オレンジも旨い
お、そろそろフィナーレだ
しっかり肩抱き寄せ
泉宮・瑠碧
月風
はい…何とか、大丈夫です
手を繋いで歩き
私は…アイスにします、ダブルも出来そうなので
オレンジと…今だとマスカットとかもあるでしょうか
サイダー?持ちますが…
差し出された腕を見て把握
空いた手で理玖の腕を取ります
テーブル席に座り
花火の食べ物達…
咲くのも、音も、弾けるのも
どれも控えめなのでそんなに怖くはないかも、です
熱くない…熱に弱い花火なので尚更
眺めてから一匙掬い
ん、味はアイスのままです
かき氷も一口貰い
…これらは、パチパチしないのですね
炭酸は苦手です
理玖にも二つの味を一口ずつ差し出して
フィナーレの言葉に…
大きいとか連打の花火?
と反射的にぎくりとしますが
肩を抱き寄せられて、少し安堵して空を見上げます
見上げた空は綺麗な黒一色。
そこを彩り照らす花はなく、今は小休止に入ったのか静かなものだ。
けれどそれは空だけの話。地上の秋祭り会場は多くの妖怪と屋台で賑わっており、陽向・理玖(夏疾風・f22773)はずっと繋いだままだった泉宮・瑠碧(月白・f04280)の手をしっかりと握り直す。
「花火、聞こえるだけならひとまず大丈夫?」
「はい……何とか、大丈夫です」
静かになる前も何度か様々な花火が咲いていたが、ぱあん、ぽんぽぽんと聞こえていたた音だけなら恐ろしくなかった。
瑠碧が浮かべた微笑に理玖はほっと安堵し、ふと目に入った文字を見て笑う。
「瑠碧、花火なアイスやかき氷あったぜ。どっちがいい? 瑠碧が食わない方俺頼むし」
ひんやり冷たい氷菓は恋人のお気に入り。視線を隣に戻せば、ほのかに丸くなった瞳へ小さなキラキラを浮かべた瑠碧が、二つの屋台をじいっと見つめている。
「私は……アイスにします、ダブルも出来そうなので。オレンジと……今だとマスカットとかもあるでしょうか」
「オレンジとマスカットか。いいな。俺も葡萄にしようと思ってた」
列に並んで待つ間、再び聞こえ始めた花火の音。それを少しのアクセントに二人は他愛無いお喋りをして――そして小さな花火咲かすそれぞれの氷菓に笑顔を浮かべる。
「なあ瑠碧。アイスもかき氷も俺持つから、サイダー持ってくれねぇ?」
「サイダー? 持ちますが……」
「で片手はこっち」
アイスとかき氷を両手に腕を差し出され、きょとんとしていた瑠碧は理玖が言うものに気付き、ほんの少し頬を染めた。表情を綻ばせ腕を取れば、理玖の足がゆっくり動き出す。
歩幅を合わせて辿り着いたテーブル席、腰を下ろした理玖と瑠碧の膝は、ふとした拍子にくっつきそうなほど。けれど以前よりずっと距離が近くなった二人は、自分達の距離よりも、テーブルの上で小さな花火大会を催す氷菓に釘付けだ。
「花火アイスにかき氷ってこんな感じなんだな」
「咲くのも、音も、弾けるのも、どれも控えめですね……」
花火が現れる様は、たっぷり溜まった水が雫になる瞬間を緩やかに映したかのよう。
本物のように大きな音も熱もない花火は、火の類が苦手な瑠碧でも安心出来た。
「そんなに怖くはないかも、です」
「おっ、そっか? よかった、怖くない程度で」
一緒に花火を眺めていた理玖の笑顔に瑠碧も嬉しそうに微笑み、まずはオレンジアイスからとスプーンで一口分掬ってみる。スプーンの上に載せたアイスから小さな小さな花火がぽわっと咲き、ドキドキしながらそっと口に入れてすぐ、青色がぱちりと瞬いた。
「ん、味はアイスのままです。それに、オレンジの味と香りがしっかりしていて……」
美味しい。ふにゃり緩んだ笑顔の向かいで、理玖も葡萄かき氷を口に入れ――おっ、と目を丸くする。鮮やかな紫に染まった冷たい一口目は、葡萄の存在感を贅沢に広げてきたのだ。
「うん旨い。シロップ濃厚だけど全然しつこくないな。ほら瑠碧も」
「ありがとうございます。……これらは、パチパチしないのですね」
アイスもかき氷も、咲いた花火と一緒に口に入れた瞬間柔らかにとけていった。花火は確かに咲いて、弾けていたのに。不思議そうにアイスを見つめる瑠碧に、理玖もうーんと考えながら自分のサイダーを見る。しゅわしゅわ昇る泡に混じって昇った光が、サイダー水面の上で花火になって弾けた。
「ぱちぱちしたいならサイダー飲む?」
「ありがとうございます、理玖。でも、炭酸は苦手で……」
ゆるりと首を振って、瑠碧は掬ったオレンジアイスを理玖に差し出した。お返しです。添えられた言葉と微笑に理玖は相好を崩し、あーん、と頬張る。
「ん、凄ぇ。オレンジを贅沢に使ってる感じの味だ」
「マスカットも美味しいですよ。どうぞ」
「ありがとな、瑠碧。……おお、マスカットも風味が違うな。オレンジもどっちも旨い」
他のフレーバー、特にフルーツ系も、この二つと同じようにフルーツの存在感が抜群なのかもしれない。後でまた行ってみようか相談を始めた時、周囲の盛り上がる声が波のように伝わってきた。
「お、そろそろフィナーレみたいだ」
「フィナーレ……」
花火大会のフィナーレというと、特大花火が打ち上げられたり、様々な花火が連続して打ち上げられて――それはとても華々しいものなのだろうとわかっていても、瑠碧にとっては反射的にぎくりとしてしまうもの。
その肩に理玖が触れ、しっかりと抱き寄せる。
支えてくれる体。包んでくれる手。すぐ傍に在る、温かさ。気遣う視線に瑠碧はかすかに微笑み、二人の眼差しは揃って秋の夜空へと。
次々に咲いた花火達は妖怪達から歓声を生み――二人の瞳も、鮮やかに彩った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸神櫻
カムイ、カムイ、はやく!
だって花火よ!いっとういい場所で、あなたと一緒に観たいのだもの
花火は、私達のはじまりの象徴
出逢いと別れの輪舞曲と運命を咲かせたきっかけだから──決めているの
毎年、いくらひととせが巡ったって
カムイと一緒に花火をみるのだって決めてるのだもの
寄り添い穹を見上げて
ただ並んで花火をみる
ちらと私の神様の横顔を見れば幸せそうに笑ってくれていて
それだけで胸が一杯になるのよ
あなたはずっと、笑っていて
……花火は、厄を祓うためのものだけれど…
カムイ、私にとってはね
愛しいあなたを、招くための華火よ
花火をみていたか、って?
観ていたわ
いっとうに美しく輝く、私の神様の瞳に映っていた花火をね!
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
サヨ、待って
どうしてそんなに急いでいたのかと思えば
可愛い事を言うものだから
宵の闇だって
赤く染まる頬を隠せない
私はきみと一緒に観られるなら何処だって…
けどきみがあんまりに一生懸命なものだから
その心に甘えよう
私だって決めている
きみと重ねるひととせに花火をみる
私達の縁をつなげた美しい花を
やっと見つけた場所に並んで座る
サヨが頑張って見つけてくれたからここから見える花火はいっとうに美しい
ほら
また咲いた
咲く度に嬉しくなって笑みも咲く
花火は、禍を厄を
つまりは厄神である私を遠ざけるものだけど
櫻宵と見上げる花火は私を招いてくれる故
サヨ?
ちゃんと花火をみている?
其れは嘗てきみに告げた言葉だったか
かなわないな
「カムイ、カムイ、はやく!」
「サヨ、待って」
どうして、そんなに急いでいるのだろう。
手を引っ張られながら朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)がぱちぱちさせていた双眸に、誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)の春爛漫な笑顔が映る。それは、地上を明るく照らす屋台の灯りよりもずっとずっと眩しかった。
「だって花火よ! いっとういい場所で、あなたと一緒に観たいのだもの」
「!」
花唇が告げられたものにカムイは目を瞠った。
そんなに可愛い事を言われてしまったら――噫。宵の闇でも、頬に覚えた熱を隠せはしないだろうに。少し俯けば、濡烏の闇色を抱いたこの銀朱髪が隠してくれるだろうか。
(「私はきみと一緒に観られるなら何処だって……」)
そう考えた所でカムイはかすかに笑いをこぼす。
ぱたぱたと駆けるように行き、時々立ち止まっては周りを見る。花火を観るのにいっとうの場所を探す櫻宵は、あまりにも一生懸命だ。その心に甘えよう――そう思ったからこそ、カムイは自分の手を引く櫻宵の後ろではなく、隣に並ぶ。
隣に並び、向けられる微笑みに、枝角の桜を増やした櫻宵が甘く微笑み返す。
「ねえカムイ。花火は、私達のはじまりの象徴でしょ?」
出逢いと別れの輪舞曲と運命を咲かせたきっかけである花火は、どれだけ年月が巡ろうと褪せない。思い出す度に、あの時共に目にした彩は、万華鏡のように櫻宵の心を照らしている。
「だから──決めているの。毎年、いくらひととせが巡ったって、カムイと一緒に花火をみるのって決めてるのだもの」
「……サヨ、私だって決めているよ」
「あら、なぁに?」
「きみと重ねるひととせに花火をみる。私達の縁をつなげた美しい花を――きみと」
言葉と微笑を重ねてゆく中、櫻宵がやっと見つけたいっとうの場所は、頭上がぽっかりと開けた場所だ。
寄り添って見上げた先、静かだった漆黒を光の玉が翔け昇る。ぴゅうう、と聞こえた音がふいに途切れて消えた瞬間、眩い花火が夜空いっぱいを彩った。
ぱあんと輝き咲いて、ぱららと音を降らせながら瞬き、消えていく。
すぐに次の花火が打ち上げられては、夜空が大輪の花で照らされる。
一つ一つ違う輝きと姿を放つ花火はどれも美しい。夜空に咲く度に、カムイの中で櫻宵との思い出がどんどん増えて重なって、嬉しさが増していった。
「ほら、また咲いた」
花火と共に笑みも咲かすその横顔を、ちらと見た櫻宵はふんわり微笑んだ。
カムイが、幸せそうに笑っている。それだけで、こんなにも胸がいっぱいになる。
(「あなたはずっと、笑っていて」)
美しいものを見た時。大好きなパンケーキを食べた時。友や、仲間と過ごす時だって。カムイが幸せそうに笑ってくれているのを見る度に、胸を満たす幸いと喜びが、優しく温かなものとなって魂を包み込むよう。
「……ねえ、サヨ」
「なぁに、カムイ」
「花火は、禍を厄を……つまりは厄神である私を遠ざけるものだけど……」
繋いだままだった手を、きゅ、と握る。嫋やかな指先と掌から伝う熱に、カムイは胸満たすものを笑顔に映して咲った。
「きみと見上げる花火は、私を招いてくれる」
きみが頑張って見つけてくれたここから見える花火は、いっとうに美しいね。
花咲くようにこぼれた言葉は愛情に満ちて温かく、枝角に咲く桜がまたひとつ、ふたつと増えた。――ふふ。かすかに笑った櫻宵の頭が、こてんとカムイの肩に乗る。
「……そうよ。花火は、厄を祓うためのものだけれど……カムイ、私にとってはね。愛しいあなたを、招くための華火よ」
これまでも、これからも。
ずっとずっと、そう。
時が過ぎ、季節が巡り、年が変わっても、これは決して変わったりしない。
肩に乗せられていた心地よい重みが離れる。それを少しばかり惜しく感じもしたけれど、傍らの櫻は隣から消える事はなく――甘く柔く注がれる微笑みに、カムイはくすりと笑って小首を傾げた。
「サヨ? ちゃんと花火をみている?」
「花火をみていたか、って?」
そう口にしたカムイと、そう言われた櫻宵。二人は揃って笑みをこぼす。
花火をみているか問うそれは、今よりも前、嘗て神が龍に告げた言葉だったか。
「ええ、観ていたわ。いっとうに美しく輝く、私の神様の瞳に映っていた花火をね!」
朱砂の彩を宿した桜の龍瞳。春に目覚めたばかりの桜を珠としたような瞳に咲いた花火が、どのような形と彩をしていたか。どれほど美しかったか。それは、自分だけが知るこの世にひとつだけの宝物だ。
くすくすと嬉しそうに、そして誇らしげに笑って伸ばされる指先に、カムイはそっと頬を擦り寄せる。
「……噫。きみには、本当にかなわないな」
いつだって自分を囚えて離さない。
この世にひとつだけの――いっとう美しい花だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カイム・クローバー
天魔
『2019年の浴衣』
今は『カタリナ』って呼ぶ。
素顔の彼女を呼ぶ時は他に誰も居ない時さ。
そんな彼女の晴れ姿。実は浴衣姿を拝むのは今年が初めてで。
いつもとは、また一味違った魅力に『似合う』だとか『可愛い』だとか、そんな在り来たりな感想しか出て来ない。
道行く妖怪達が彼女の姿に振り返るのに少し気分良くなるのは俺の意地が悪い性か。
そんな折、見掛けたのは射的の屋台。どっちが多く景品を落とせるか勝負。
コイン投げの結果、先行は俺。照準の悪いマスケットは数体の景品で終わり。
後攻の彼女に負けそうになれば、その無防備な背の翼に指を這わせて。
照れ隠しにはこう返す。
好きな相手に対しては勉強家でね、俺は。
カタリナ・エスペランサ
天魔
『百合の模様、裾の両側にスリットの入った動き易い浴衣』
カイムさんに誘って貰って秋祭り、
今日は魅せる側の旅芸人じゃなく客の一人としてエスコートしたりされたり。
日頃の憂いも忘れ過ごす一時の非日常、
楽しそうな皆を見てると心が満たされるような気持ちになるね。
着こなしには自信がある、真っ直ぐな賛辞は少し恥ずかしいけど満更でもなくて。
勝負のお誘いには二つ返事、遊びでも格好良いとこ見せたいし手は抜かないよ!
センス任せに《集中力+スナイパー》の心得を最大限活かしてスコアを稼ぎ――
思わぬ奇襲には迂闊にも、あられもない悲鳴が響いたり。
……流石に攻め時を見極めるのが巧いじゃないか、なんて照れ隠しに。
屋台の通りは様々な灯りで照らされ、大勢の妖怪が行き交う為、常に賑やかだ。黒色の夜空には何度も花火が打ち上げられ、その度に視線が空へと引っ張られる。
「たまには客として楽しむのも悪くないだろ、カタリナ?」
「そうだね。旅芸人として祭りに参加する時とは違って見えるよ」
自分は客側である事がほぼ、であるカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)に、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)は何だか新鮮だと笑って肩を揺らした。
「誘ってくれてありがとう、カイムさん」
「俺の方こそ、誘いに乗ってくれてありがとよ」
ふと、カタリナは擦れ違う妖怪達にとって祭りとはどんなものかが気になった。
彼らにとっても“祭りとは楽しいもの”である――という事は、見ていて間違いないと確信出来る。屋台に立つ者、屋台に並ぶ者。人々がそうであるように、普段の彼らも、今見ている様と違うのならば――。
「日頃の憂いも忘れ過ごす一時の非日常、か」
ふと紡がれた声へとカイムの視線が向く。
カイムの視界を占めたカタリナは、普段の動きやすそうな洋装ではなく、和――浴衣を纏っていた。百合の模様で彩り、裾の両側にはスリットと動きやすいデザインのそれは、旅芸人として活動するならば適したものだろう。しかし今宵のカタリナは魅せる側ではなく、客の一人として此処にいる。
(「いつもと違う立場で過ごす事も、非日常……なんだろうな」)
そんな事を思いながら、カタリナは自分に向く視線に気付くと、そちらを見て楽しげに目を細めた。髪と同じ色に染まった狼尾がふさりと揺れる。
「楽しそうな皆を見てると心が満たされるような気持ちになるね」
「ああ、そうだな。……非日常と言えば」
「ん?」
「浴衣。似合ってるな、可愛いぜ」
いや待て。彼女の晴れ姿――浴衣姿を拝むのは今年が初めてだろうが。
いつもとはまた一味違った魅力にそういう在り来りな感想じゃなくてもっとこう。あるだろ。おい。
自分で自分にツッコミを入れるも、カイムはそれを一切顔に出さなかった。
落ち着いた深い青に染まった片身違いの浴衣を纏い、堂々とした笑みを浮かべる男の心情がそういう事になっているなどカタリナは露ほども知らない。
甘い赤色の目が、ぱちっと瞬き一回。そしてにこりと笑う。
「ありがとう。この浴衣が一番いいって思ったから」
ありがとう。その気持ちに嘘はなく、着こなしにだって自信がある。ただ――少しだけ、視線が泳いでしまった。贈られた賛辞があまりにも真っ直ぐだったから、何だか気恥ずかしい。それでいて、満更でもない自分がいる事に落ち着かない。
狼尾の先端がそわりと揺れる中、擦れ違った妖怪達が振り返る。少し目を丸くして、キラキラと目を輝かせて。彼らの表情は様々だが、振り返った妖怪全てが浴衣姿のカタリナに魅力を感じたのだとわかり、カイムは心の中で頷いた。
(「わかるぜ。本当に似合ってるからな」)
そんなカタリナの隣を歩いている、隣に居る事を許されている。
少し気分が良くなってしまうのは、自分の意地が悪い性か。
隣を歩く華を時折見つめながら行く中、ふと目についた射的屋台。ふむふむと少し考える表情をしたその顔が、にやりと不敵に笑む。
「アレでどっちが多く景品落とせるか勝負といかないか? 先攻後攻はコインで決める」
「ああ、勿論いいよ」
「二つ返事で受けて良かったのか? 後悔しても知らないぜ?」
「心配無用。遊びでも手は抜かないよ!」
格好良いとこ見せたいし。
カタリナの密かな願いは胸にしまったまま。
射的用マスケット銃を受け取った二人の間でコインが舞い――ぱしっ。
「先攻は俺だな」
普段から本物の武器を扱っている為、構えには全く問題ない。ただ玩具だからこそ照準の悪い得物は数体の景品を落として終わってしまう。それじゃ失礼と笑って構えたカタリナはというと。
「姉ちゃん凄いな! けど加減してくれよ、景品が無くなっちまう!」
ガハハと笑う店主と共にカイムも成る程なと笑――ってはいるが、心得とセンス全てを駆使して稼ぐカタリナの勢いに負けの二文字が脳裏を過ってしまう。
こうなったら
奇襲をやるか。
景品へと照準を定め、引き金に指をかける無防備な背の翼へと指を伸ばし――。
「ひゃあっ!!?」
集中していたカタリナが迂闊にも響かせたあられもない悲鳴。狙いはズレ、弾が屋台の壁をぽこんと叩いて落ちていく。
「……流石に攻め時を見極めるのが巧いじゃないか」
「好きな相手に対しては勉強家でね、俺は」
照れ隠しと素直な言葉がぶつかる。
どおんと、夜空に花咲く音がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
明日知・理
【紅桔梗】(f06629)
アドリブ歓迎
_
気兼ねなく祭りを楽しめば良いとは言われたけれど
どこか気を張っていて
…ルーファスやナイトは、自身のコントロールが上手いんだろうな
俺はとにかく不器用で
彼らや肩に乗る子猫の「ガウェイン」に連れられてやっと肩の力を抜けるようだ
……そういえば腹が減ったな
ガウェインも鮎の塩焼きに興味津々のよう
飯にしようか
あれこれと結局貰いつつ
自然な流れでルーファスにあーんと唐揚げ差し出し
この図体で林檎飴を食べることに多少の気恥ずかしさを覚えるも
彼からの気遣いが嬉しく
頭を撫でられればくすぐったい
花火を見上げ
「……綺麗だな」
そう言って笑み溢し
続く彼の言葉にはにかんで
ルーファス・グレンヴィル
【紅桔梗】
さあ、お祭りか
何から食べるか迷うな
肩の上で寛ぐ黒竜のナイトは
屋台に目を輝かせていた
あとでな、あとで
とりあえず、
ちらりと隣に視線を移して
ドンと大きく彼の背中を叩く
おら、マコ、屋台行くぞ、屋台
片っ端から屋台飯を買い漁り
ナイトと分け合って食べつつも
一口ずつ、ちゃんと隣の彼にも渡す
代わりにと差し出された唐揚げを食って
またお返しにリンゴ飴を彼に手渡した
気張ってるみたいだけど
今は単純に楽しめば良いのにな
オレと楽しめねえなら仕方ないけど
なんて考えて
誤魔化すよう彼の髪を撫で回す
ほら、下ばっかりじゃなくて空見てみろよ
夜空に咲いた打上花火よりも、今は──
ようやく微笑ったな
お前は笑ってるほうが似合ってるよ
幽世蝶が世界の綻びを感じ取り、現れた。
しかしまずは気兼ねなく祭りを楽しめば良いという。
なら――そう、すべきなんだろうなと。そう思ってはいても、明日知・理(月影・f13813)の表情や肩に入った力は“気兼ねなく”とは少々遠い。
そんな理とは反対に、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は赤く鋭い眼光を悠々と周りに向け、笑っていた。
「さあ、お祭りか。何から食べるか迷うな。……お、ケバブ屋」
客引きパンダならぬ客引き肉は存在感抜群で、ルーファスの肩の上で寛いでいた黒竜のナイトが途端に目を輝かせ、身を乗り出した。
「あとでな、あとで」
(「……ルーファスやナイトは、自身のコントロールが上手いんだろうな」)
楽しんで良いと言われていても、どこか気を張ってしまう自分とは全然違う。今すべき事、していいと言われた事をしっかり楽しむ様に理は控えめに息を吐き――ドン。
「うわ」
「おら、マコ、屋台行くぞ、屋台」
「……そういえば腹が減ったな」
二人の会話に、肩に乗っていた子猫のガウェインが「ンンー」と鳴く。どうやらガウェインもそうらしい。大きな橙色の目は鮎の塩焼きを映し、ぴかぴかしていた。
「飯にしようか」
自分の肩甲骨辺りをガウェインの尻尾がぴたぴた叩く。急かすようなそれに理はわかってるよと返した所で、肩の力が抜けている事に気付き思わず笑った。不器用な自分は、彼らに連れられてやっと気兼ねなく楽しめるらしい。
背中を叩いたルーファスはかすかに和らいだ表情を見て笑み、まずは一番近くにあった屋台に並んだ。次はぐるりと周りを見て気になった屋台へ。その次も――という具合に片っ端から屋台飯を攻めていく。
半月のような形の揚げたてフライドポテトは皮がやや厚めだからか、外は非常にカリッとしていて中はふわふわのほくほくだ。塩もちゃんときいており、いくつでも食べられそうな気がしてしまう。
「おいナイト、がっつくんじゃねぇ。ちゃんとやるから」
はふはふと嬉しそうに食べるナイトを見たルーファスは次のポテトを爪楊枝でぶすり。
「理、お前も食えよ」
「ありがとう。……うん、美味しい。ルーファス、唐揚げ」
「おう」
あー、と開かれた口へと爪楊枝に刺さった唐揚げが入る。噛まれて爪楊枝から引き抜かれた唐揚げが口内にジューシーな味わいを広げれば、ルーファスの目が満足げに細められた。
「お返しだ。こいつも食っとけ」
そう言って手渡した艷やかで真っ赤な宝石――林檎飴に理の目が数回、瞬いた。視線は躊躇うように泳ぎ、僅かに頬も染まる。
祭りの定番、その一つである林檎飴。だが、自分は身長189.7cm。背が高いだけでなく、体格もしっかりしている。そんな図体の自分が林檎飴を食べる事が、少しばかり気恥ずかしい。
――けれど、それ以上にルーファスの気遣いが嬉しかった。
背中をドンと叩いてきた事。
差し出された林檎飴。
どちらにも、その裏にルーファスの想いが感じられる。
そのルーファスはというと、食わねぇなら全部食うぞと冗談を言いながらニヤニヤと笑っていて――その実、心の中では理の事をあれそれ考えていた。
(「気張ってるみたいだけど今は単純に楽しめば良いのにな」)
オレと楽しめねえなら仕方ないけど。
なんて考えている眼の前で、林檎飴に歯が立てられる。ぱきっと表面の飴を割り、飴にくるまれていた林檎もしゃくっと食べた理の口がもごもご動く。うん、としていた小さな頷きからして美味かったらしい。
ルーファスは浮かんだ考えを誤魔化すように真っ黒な髪を撫で回した。くしゃくしゃと弄った黒髪の下で、いつもより幾分か和らいだ目が笑う。
「ルーファス、くすぐったい」
「ヘアセットしてやってんだろーが」
ニィと笑えば、肩に乗っていたガウェインの前足がしゅっと伸びてきた。
理にべったりの子猫はご不満らしい。へーへーわかったよと肩を竦めると、ガウェインがぷすっと鼻を鳴らす。それも、理の掌で頭を包むように撫でられればゆっくり目を閉じ、喉を鳴らし始めるのだが。
その音に花火の打ち上げ音が混じる。
ぴゅうう、と聞こえたそれは、すぐにぱあんと弾ける音に変わった。
周りの妖怪達がわあっと歓声を上げる。彼らのように上を向いていない目に気付き、ルーファスはぺしっと自分より身長が高い19歳の背を叩く。
「ほら、下ばっかりじゃなくて空見てみろよ。夜空に咲いた打上花火よりも、今は──」
言葉と共に翔け昇る音が響く。ふたつに引っ張られ上を見た理の目に、ぱあん、と紅花火が映った。明るく透き通った彩は林檎飴のよう。
「……綺麗だな」
「ようやく
微笑ったな」
お前は笑ってるほうが似合ってるよ。
笑みを溢した顔は続いた言葉でぱちりと目を瞬かせるも、すぐにはにかんだ。
花火が上がる。鮮やかな紅色に映る花の色は、黒と紫と――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千家・菊里
【満】(お供のおたまも共に)
ふふ、遂に待ちわびた(食欲の)秋がやってきましたね
更にお祭と聞いては出向くしかないというもの
屋台の香りの魅力には抗えません
(おたまも忙しなくくんくんきょろきょろくんくん中だ!)
はいはい、では両手に花にしてあげましょう(笑顔でさらりと、花――火アイスと花火かき氷を持たせてあげた)
いやだなぁ、とっても素敵な花じゃないですか
ほら、これにはおたまもうっとりですよ
(おたまも両手に花火綿飴で上機嫌だ!
そして萎れ中の伊織を憐れに思ったのか――
美女の代わりに綿飴を
口にむぐっとしてあげた!)
ふふふ、賑やかで華やか――見てよし食べてよしで最高ですねぇ(天地の花火を大満喫)
呉羽・伊織
【満】
(ぴよこ&亀&
蛟もわいわいと頭や肩に乗せ――
毎度の面子を傍らに、花火へと遠い目向け)
いやお前らの食欲は年中無休じゃん…?
嗚呼、天高く狐肥ゆる秋…どこまでまるさに磨きをかけたら気が済むの(まんまるおたまをつつき)
ソレよか今日も今日とて何この珍獣団…!
夜空も周囲も大変華々しい雰囲気全開なのに、ココだけ深刻な華不足…!
(お供達の
つんつんぺしぺし抗議を受けるところまでいつものコース過ぎて)
…
とことん花違いだっての~!!
(と叫んだ瞬間に求めてない
狐のあ~ん+ぴよこ達からの追加サービスまで頂き)
っ~!!
斜め上に華やかすぎだ~!
漆黒の狐耳がぴんっと動き、先が白く染まった狐尾がふっさり揺れる。
「ふふ、遂に待ちわびた秋がやってきましたね」
秋――そう、食欲の(ココ重要)秋だ。
お供のおたまを抱っこした千家・菊里(隠逸花・f02716)は、品の良い笑みを浮かべながら並ぶ屋台を手前から奥までするすると眺め――良い眺めです、とニッコリ笑顔。
秋が到来し、しかも祭りと聞いては出向くしかないというもの。屋台の香りという大変魅力的なそれにだって抗えない。
美味ある所にこの微笑みあり。
北へ西へ、あの世界この世界と、菊里の食道楽は世界の境界をも超えて広がるわけで、抱っこされているおたまも主に似て屋台の香りに大絶賛魅了され中だ。くんくんきょろきょろくんくん――!
「いやお前らの食欲は年中無休じゃん……? 食欲まっしぐらじゃん……」
寧ろそうじゃない時ある?
半目で笑った呉羽・伊織(翳・f03578)はぴよこと亀、そして蛟《鰻》を頭や肩に乗せたまま、毎度の面子を傍らに打ち上げられた音へと目を向けた。肩の上が賑やかな様に、わあすっげえと子鬼が目を輝かせ、母親に引っ張られていく。
花火に向けていた目がもっと遠くなりかけるも、早く屋台屋台、と急かすようなおたまの声に戻ってくる。
「嗚呼、天高く狐肥ゆる秋……おたま、どこまでまるさに磨きをかけたら気が済むの」
「おや伊織さん。おたまが愛らしいからと言って浮気はいけませんよ」
「違うっつーの! ソレよか今日も今日とて何この珍獣団……!」
もふもふは嫌じゃないっていうか好きだけど!
まんまるおたまをつついていた指は拳に変わり、くうっと涙を拭う仕草をした。
「夜空も周囲も大変華々しい雰囲気全開なのに、ココだけ深刻な華不足……!」
祭りといえば浴衣、浴衣といえば浴衣姿の麗しき女性。
祭りの為に選んだ装いでゆく姿はきっと、花火のように艶やかで素晴らしいだろう。髪型だって浴衣に合わせてアレンジしているかもしれない。
――しかし、そんな人物はいない。
いても誰かと一緒であったり遠くにいたり――つまり、自分とは何の縁もない赤の他妖怪なのである。
「読書の秋、食欲の秋って言うならさあ! 出会いの秋ってないの
……!?」
華は? 華は?
しょぼしょぼする伊織をお供達が
つんつんぺしぺし抗議でめいっぱい励ます様も、本日の面子と同じく毎度の事。そして、そんな伊織をお供以外が励ます事もまた、毎度お馴染み、いつものコースであって。
「はいはい、では両手に花にしてあげましょう」
「エッ!?」
ぱっと目を輝かせた伊織の手に何かが渡される。
それは紛れもなく花――火アイスと花火かき氷だった。
「……」
ワァーオイシソー、オレンジとパープルのマーブル模様なのはハロウィン仕様ってやつかスゴイナー、苺かき氷も花火が上がってキレイ――じゃなくて!
「とことん花違いだっての~!!」
「いやだなぁ、とっても素敵な花じゃないですか。ほら、これにはおたまもうっとりですよ」
菊里の腕の中、おたまは先立って両手に花――火綿飴で上機嫌。ふかふか尻尾をぱたぱた揺らし、あーん、と大きく口を開けては綿飴を頬張っている。
ふわふわ綿飴から海月のようにぽよんと現れた花火も、すかさずぱくっ! 口の中でぱちっと弾ける感覚も楽しそうに味わう姿は、まんまるボディも相まって可愛らしい。
そんなおたまは萎れている伊織を見て僅かにしょんぼりと耳を倒し――しゅぴん! 尻尾も一緒に元気に立てると、手にしていた綿飴をえいやっ! 哀しみを綴っていた口へむぐっと《お裾分け》してあげたのである。
「~~!!」
結果、伊織の口の中は花でいっぱいになった。
綿飴がしゅわっと溶け、甘さが広がる口内でパチパチパッチンと花火が大合唱。幸いだったのは、美味しい美味しい綿飴であったという点だろう。
食事中に口を開けるのはご法度。何とか口を閉じたまま、けれど「
んん~~!」と訴える伊織に、菊里はニコニコしながらそうですねおたまは優しい子ですねと頷いた。
「……おや、良かったですね伊織さん。ぴよこさん達も花を下さるそうですよ」
「え?」
綿飴の花火がようやく消えてから口を開いたそこへ、
狐のあ~んアンドぴよこ達からの追加サービスも、元気に無敵にお裾分け。
お花でいっぱいになりました?
ほわほわした顔で見上げる亀の頭を菊里は指で撫で、空を翔けた光と音が、立派な菊花火になったのを見て目を細める。
「ふふふ、賑やかで華やか――見てよし食べてよしで最高ですねぇ」
「っ~!! 斜め上に華やかすぎだ~!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夏目・晴夜
リュカさんf02586
えだまめはハレルヤの心臓です
肉で言うところのハツ
故に絶対渡しませんが、勝負!
(負けた
(三回勝負でも負けた
店を変えましょう
おやおや、器用な人形遣いに型抜きで挑むとは!
人類とハレルヤはそれを無謀と呼びます
はい、余裕!どうです
見て下さいよ
ヨーヨー釣りは多く釣った方が勝ちで
あ、金魚掬いもありますね!
いや、ハレルヤは魚よりも肉が食べたい気分です
この唐揚げの店、詰め放題もありますよ!
では手早く購入しました単品唐揚げを摘みつつ勝負…は?(理不尽負け
へえ、くじ引き
私にくじを引かせるなんて、いい物を引きすぎて国が傾いても知りませんよ
いやハレルヤのが明らかに豪華でしょうが!
かき氷のシロップかけ放題だそうです!
技術点で競いましょう
何ですか、それ。墨?
輪投げがありました!
賞品へ致命傷を与えた方が勝ちですね
ふふん、ハレルヤだって串刺し技術なら負けませんよ(刺さる素材ではない
スーパーボール掬い…?
高ダメージを与えられるやつをゲットした方が勝ちで
後で敵に投げ、痛って!
次は牛串いきましょう
え?さあ
リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
よし、射的で勝負しよう
俺が勝ったらお兄さんのえだまめを貰う
…
……
三回勝負にする?
わかった
じゃあ次は型抜きで勝負しよう
これで忍耐は結構あるほう…(いらっ
…(粉砕した
俺は何も見えないな。先行こうか
次はヨーヨー釣り行こうか
糸が切れる前に素早く釣ればいいんだろ
得意だ
金魚は貰っても飼えないから…あ、食えばいいのか
え…肉?じゃあ唐揚げたくさん積んだ方が勝ちね
ちなみに途中で食べたらその分差っ引くから
食べたら…あ(勝ったな
くじ引きで、いいのが出た方が勝ち
…ところで俺は、いいの、とは言ったけれども、どういうものがいいものかは言ってない。こっちの方がいいものっぽいから俺の勝ちね
かき氷フリーシロップで…
見よ、この混沌とした黒を……(得意げ
はっ。輪投げか。投げるもので俺にかなうと思うほうが間違いなんだよね。ぼっこぼこにしてやるから覚悟しておくがいい(腕まくり
……いいけど
そのダメージ測定はどうやってやるの?
とりあえずお兄さんに投げておくか。えいえいえい
…
……
あれ、何してたんだっけ、俺たち
「よし、射的で勝負しよう。俺が勝ったらお兄さんのえだまめを貰う」
「えだまめはハレルヤの心臓です。肉で言うところのハツ。故に絶対渡しませんが、勝負!」
射的屋を見つけたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)からの勝負の誘いに、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)はぴしっと指を伸ばした手を胸元に添え、フフンと笑う。
普段から銃を得物として扱うリュカとの射的勝負。どちらが有利かは無論わかっている。しかし
心臓であるえだまめを賭けた勝負ならば、退くわけにはいかない!
玩具のマスケット銃を手に見つめ合う二人の足元で、えだまめが流水のような、炎のような真っ白尻尾をぷりぷりぱたぱた揺らす。えだまめがいいこにして待つ中、パン、パンッとそれぞれの銃口が軽快な音を響かせ――。
「……」
落ちる沈黙。
ちらりと横を見るリュカ。
笑顔のまま目を点にしている晴夜。
「…………」
沈黙は更に続き――。
「三回勝負にする?」
こくり。
しかし晴夜は負けた。残り二回も負けてしまった。
だが晴夜の辞書に『へこたれる』の文字はない。不敵なドヤ笑みですぐに復活だ。
「店を変えましょう」
「わかった。じゃあ次は型抜きで勝負しよう」
「おやおや、器用な人形遣いに型抜きで挑むとは! 人類とハレルヤはそれを無謀と呼びます」
勝った! えだまめ勝負、完!!
そんな雰囲気を漂わす晴夜と一緒に、リュカは型抜き屋へスタスタ一直線。テーブルに置かれていた箱から選んだ一つの封を切り、出てきた小さな桃色を前に楊枝を持った。
器用な人形遣い? 狙撃手は冷静さと正確性、忍耐強さを求められるんだけど?
そして始まった型抜き勝負。初戦で敗者となった晴夜の腕前はというと――。
「はい、余裕! どうです。見て下さいよ」
「……」
綺麗にくり抜かれた花は茎の所が細く、型抜きの『難しい』に分類されるタイプだ。器用さを突きつけられたリュカは「ふーん」と成果を見つめると、楊枝で外側から攻めていく。猫が描かれたそれも難しいタイプで、要は細くなっている尻尾だろう。
「これでも忍耐は結構あるほう……」
つんつん。ぱきっ。つん、つんつん、さりさりさり――いらっ。ぼきっ。
「……」
猫の尻尾が途中でもげた。
「リュカさん」
「俺は何も見えないな。先行こうか」
えだまめを賭けた仁義なき屋台勝負、三回戦に選ばれたのはヨーヨー釣りだ。
ルールは――。
「多く釣った方が勝ちでどうです?」
「糸が切れる前に素早く釣ればいいんだろ。得意だ」
「あ、金魚掬いもありますね!」
「金魚は貰っても飼えないから……あ、食えばいいのか」
小さいから丸焼きより唐揚げかな。飼えるなら餌をもりもり食わせて肥えさせたんだけど――と考えるリュカの脳裏には、ブラックバスレベルになった金魚が泳いでいる。
「いや、ハレルヤは魚よりも肉が食べたい気分です」
「え……肉? まあ確かに肉もいいけど」
「ハッ、見て下さいリュカさん、この唐揚げの店、詰め放題もありますよ!」
「いいね。えだまめゲットで腹も膨れる。じゃあ唐揚げたくさん積んだ方が勝ちね」
「あげません、えだまめはこの晴夜のハツ!」
先手必勝。手早く購入した晴夜は詰めて積んでを繰り返し――あっ閃きました、摘みつつ勝負をスレば食欲も勝利も合わせてゲット、まさに一石二鳥の――!
「ちなみに途中で食べたらその分差っ引くから」
「は?」
「……あ」
晴夜が理不尽負けを喫したえだまめ勝負四回戦は、『いいのが出た方が勝ち』というリュカ提案によりくじ引きに決まる。いいですよとドヤ笑顔で返した晴夜は、ハテナが書かれた箱へズボッと手を入れ、ガササササッ。
「私にくじを引かせるなんて、いい物を引きすぎて国が傾いても知りませんよ。……これ!」
おやおやラッキーセブンの七です、これは晴夜が勝ちましたね――ウキウキで店主の方へ行く後ろ姿をリュカは見送り、箱へと手をスポッ。ぐるぐる探り、じゃあこれと選んだ一枚を取り出し後に続く。
「……ところで晴夜お兄さん。俺は、いいの、とは言ったけれども、どういうものがいいものかは言ってない。おじさん、五番だった」
「あいよー。ほい、こいつが七番、こいつが五番の景品ね」
晴夜。強さを三段階で調整可能な、一部がネオンに光るウォーターガン。
リュカ。蜜柑を入れる網のようなそれに収まる、ぴかぴか光る宇宙風ボール七個セット。
「こっちの方がいいものっぽいから俺の勝ちね」
「いやハレルヤのが明らかに豪華でしょうが!」
そんな二人のえだまめ勝負はまだまだ続くのであった。
――五回戦。
「かき氷のシロップかけ放題だそうです! 技術点で競いましょう」
「いいよ。それじゃあ、かき氷フリーシロップで……」
「……えっ」
フリーシロップって何ですかと思わず視線をやった晴夜へ、既にかけ放題し終えたリュカがスススとかき氷を寄せる。
「見よ、この混沌とした黒を……」
「何ですか、それ。墨? 透明度行方不明なんですが?」
「かき氷だよ。お兄さん食べてもいいよ」
「いえいえ遠慮します!」
――六回戦。
「輪投げがありました! 賞品へ致命傷を与えた方が勝ちですね」
「はっ。輪投げか。投げるもので俺にかなうと思うほうが間違いなんだよね。ぼっこぼこにしてやるから覚悟しておくがいい」
「腕まくりとは気合が入っていますね、リュカさん。ふふん、ハレルヤだって串刺し技術なら負けませんよ」
――七回戦。
「スーパーボール掬い……? では、高ダメージを与えられるやつをゲットした方が勝ちで」
「……いいけど。そのダメージ測定はどうやってやるの?」
「そうですね……ふむ……」
「とりあえずお兄さんに投げておくか。えいえいえい」
「後で敵に投げ、痛って!」
そうして二人の腕に景品の入った袋がいくつか連なる頃、二人の腹は丁度いい具合に空いてきていた。パリッとジューシーなフランクフルトをもりもり頬張っていた晴夜の目が、とある屋台を見付けキラッと輝く。
「リュカさん、次は牛串いきましょう」
「……、…………。あれ、何してたんだっけ、俺たち」
「え? さあ」
胃が牛串の気分に染まった二人はすぐに考える事を止めた。
食欲の秋を前に『勝負』の二文字はあまりにも儚い。
――ちなみに、えだまめは始終尻尾を振っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルファ・ルイエ
桜縁
2021浴衣
好きな花火をリクエスト出来るそうなので、まず受付でお願いしておきましょうか。
せっかくですし、シャオさんに何が良いかお聞きして受付をお勧めしている隙に狐の形の花火をリクエストしておきます。こっそり内緒で。
きらきら並ぶ屋台は、半分こにすれば色々試せると思うんです……!
ストローなんかはちゃんと二人分です。
花火アイスは二段にしてバニラで。もう一つはシャオさんがお好きな味をどうぞ。
手の平サイズの花火が可愛くて、ついつい長めに見惚れていたら溶けてしまいそうです。
サイダーと綿飴は口の中で弾ける花火が面白くて、顔を見合わせて笑って。
空を泳ぐ鯛焼きは、海に家出したっていう伝説の鯛焼きさんの親戚かなにかでしょうか……。
この子だけは半分こするのにちょっと神妙になります。
悩んだ末に頭と尻尾に分けたら、大きく割れた頭の方をシャオさんに進呈です。
言葉の端々に見えるご事情を詳しくお聞きした訳じゃありませんけど……。
一緒においしいって笑い合えるのは、素敵なご縁だと思いますから。
ふふ、どういたしまして。
楊・暁
【桜縁】
浴衣姿
好きな花火か…んー…じゃあ、桜の花
シャルファと出逢えた日の花だから
からころ下駄を鳴らして
半分こ、楽しみだ
アイス、なら俺は…苺にする
ぱちぱち花火は一緒に見惚れ
…あ、わ、シャルファ、溶けそう…!
慌てて食べた一口の美味しさと楽しさに笑みを向け
綿飴は、両側からせーの、で食べてみてぇな
口ん中でぱちぱちしたら、吃驚して目もぱちぱちしちまうけど
面白ぇ食感は癖になりそうだ
サイダーは、ちょっとずつ飲みながら一緒に楽しみてぇ
鯛焼き…あれ、どうやって浮いてんだ…?
歌?…そういや、聞いた事ある
こいつを半分こ…縦?横?
割る時は神妙に合掌し、大きな方受け取りほんのり笑う
…ありがとう
…ん。美味ぇ
前、言ってただろ
美味しいものを食べると幸せな気持ちになる、って
俺もそうだったけど…一緒に食べると、もっと美味しい
独りでいたんじゃ、分からなかった事だ
なぁなぁ、シャルファ。今度はあの屋台――
音に気づき空仰ぎ
桜の花火に続く狐の花火に気づく
食い入るように消える迄見つめ
…今のってお前が…?
…ありがとう。最高だ
珍しく破顔
真っ黒な空を、光る尻尾が昇っていた。
ぴゅううと聞こえた音の方へ目を向け見たそれが、花火となるのに時間はかからない。楊・暁(うたかたの花・f36185)は花火が咲いたのを見てからシャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)へと視線を戻し、隣に並ぶ。
「好きな花火をリクエスト出来るそうですけど、シャオさんはどんな花火にします?」
「んー……」
リクエスト用紙と鉛筆を受け取り、考える。
お勧めされて一緒に並んだ花火受付所には、リクエストの参考にと花火名が添えられた絵が貼られてある。菊や牡丹といった定番だけでなく、好きな色・形にも出来るというのなら。
「じゃあ、桜の花」
「桜、ですか?」
「ああ。シャルファと出逢えた日の花だから」
それを聞いたシャルファがぱっと浮かべた笑顔に暁の狐尾がぱたりと揺れた。花火の大きさはどうしようか。考える隣から「あ、」とこぼれた声に今度は狐耳がぴくりと揺れる。
「わたし、ちょっとあそこの花火絵見てきますね。受付所の外で落ち合いましょう」
「わかった。また後で」
薄水色に深い青。星屑煌めく原っぱと舞う花を合わせたような、可憐な浴衣纏う後ろ姿は楽しげだ。
――数分後。
何事もなく合流した二人は、様々な屋台がたっぷり並ぶ魅惑の空間に居た。わぁ、と思わず声をこぼしたシャルファは瞳を輝かせながら見える範囲の屋台をチェックし――ぐっ! 両手を拳にして暁を見た。
「わたし、半分こにすれば色々試せると思うんです……!」
「成る程な。半分こ、楽しみだ」
シャルファ発の閃きと一緒に、暁が下駄をからころ鳴らして向かったのは花火アイスだ。フレーバーの多さは嬉しくもあり悩ましくもあるが、半分こという頼もしい味方がいる。
「ここは二段にして……わたしはバニラで。もう一つはシャオさんがお好きな味をどうぞ」
「なら俺は……苺にする」
丸くくり抜かれて積み上げられた柔らかな白とピンクは、一足早くやってきた雪だるまのよう。そこからぽよんと花火が現れて――ぱちっ。弾けた瞬間、二人は揃って目を丸くした。
目の前で咲いた花火の輝きはとろりと透き通っていて、遠い空にしか見えなかった、弾けた時に散る小さな光までも間近だ。二人の心は手の平サイズの花火の可愛らしさでいっぱいになる。
バニラと苺、それぞれから花火が咲く事数回。上の段のアイスがちょっぴり傾いた。それに暁の目がワンテンポ遅れて反応し、ぎょっと丸くなる。
「……あ、わ、シャルファ、溶けそう……!」
「えっ、わぁ……!? 今すぐ食べましょう……!」
花火アイスレスキューにと慌ててスプーンを差し込んだ先は、それぞれが選んだフレーバー。素朴な味わいのバニラに、果肉も覗く苺。どちらも口に入れた瞬間ひんやり贅沢に広がって、二人の慌て顔をたちまち変えていく。
そうして花火アイスを味わった二人は、軽やかに下駄を鳴らし花火綿飴と花火サイダーの屋台へ。甘い香り漂わすふわふわからアイスと同じように花火が上がれば、それは雲から魔法が飛び出したようなビジュアルだ。花火サイダーは、底からひゅるると昇った炭酸に混じって花火の光も昇り、シュワシュワカラフルな水面を更に彩っている。
どっちから、どこから食べようか。つい視線は移ろってしまうけれど。
「まずは綿飴を両側からせーの、で食べてみねぇ?」
「いいですね。それでは、」
せーの。
声を揃え、ぱくっ。ふんわり柔らかな綿飴は舌の上で甘く蕩ける最中に上がった花火が、口の中を刺激する。パチっと弾けて跳び回るような刺激は驚かずにはいられない。けれども口を閉じて目は真ん丸ぱちぱち状態の二人は、花火綿飴を挟んでお互いを見て――。
「っ……!」
「ふ、ふ……!」
愉快な食感に顔を見合わせ、肩を震わせた。
今度はこっちの花火をと、屋台で貰った二人分のストローをそれぞれすちゃっ。お先にどうぞと少しばかり譲り合いの精神も発揮した後、シャルファが花火サイダーへと沈めたストローがカランと氷の音を響かす。
飲んですぐ訪れたのはしゅわっと爽やか――からの、波のように広がっていく炭酸の刺激。そこへ混じる、少し違うパチンッは間違いなく花火の足跡。お次どうぞと楽しげなシャルファに促されてストローを沈めた暁は、炭酸の中に混じりながらもしっかり主張するような花火に驚きを隠せない。
花火系屋台を連続で楽しんだ二人は、花火はちょっと休憩とのんびり歩きながら幽世ならではが楽しめる屋台――鯛焼き屋へ。列が出来ていたものの長く待たずに済んだ事は嬉しくて。同時に、自分達の目の前を泳ぐ様に二人はハテナを浮かばせる。
「どうやって浮いてんだ……?」
「妖術か魔法でしょうか? ……あ。海に家出したっていう伝説の鯛焼きさんの親戚かなにかかも……」
「……そういや、聞いた事ある」
目の前を泳ぐ鯛焼きは特にご不満はなさそうだ。シャルファが伸ばした手へすいっと収まり、はよ食べて(はぁと)と言いたげにじっとしている。
「色々半分こしましたけど……この子だけは、半分こし辛いですね」
「こいつを半分こ……縦? 横?」
うむむむ。悩んだ末に表情で頭と尻尾に分けていくシャルファと、それを前に合掌する暁。神妙な顔になっていた二人の間で、半分こになった鯛焼きは頭がシャルファで尻尾――ひょっとしなくても大きく割れた方、を貰った暁の顔に笑顔がほんのり灯る。
「……ありがとう。……ん。美味ぇ」
出来立てだから。けれど、それ以上の理由が自然と思い浮かんだ。隣へ視線をやれば、嬉しそうに鯛焼きを食むシャルファがいる。
「なあ。前、言ってただろ。美味しいものを食べると幸せな気持ちになる、って」
「はい」
「俺もそうだったけど……」
“一緒に食べると、もっと美味しい”。
独りで居たなら分からなかった事だと語ったその端々に、少年妖狐の事情が朧気に浮かんで見えた。その輪郭にシャルファは目を細め、残り僅かになった鯛焼きへと視線を落とす。
「わたし、シャオさんと一緒においしいって笑い合えて、嬉しいです」
ひょいっと鯛焼きを頬張り「おいしいですね」と花のように笑ったシャルファに倣って、暁も最後の一口を口に放り込んだ。ああ、やっぱり美味い。
「なぁなぁ、シャルファ。今度はあの屋台――あ、」
花火の音。
空を仰いだ瞬間に桜花火が鮮やかに咲き――その後すぐに現れた、夜空へ駆け出すような狐花火に暁の目は丸くなる。鮮やかな紫に揃って映った二つは無数の煌めきを散らし――消えるまで見つめていた目は、丸いまま微笑むシャルファを映した。
「……今のってお前が……?」
「はい。こっそり内緒で」
「……ありがとう。最高だ」
「ふふ、どういたしまして」
サプライズを告げた笑顔は優しく、柔らかく。
明るく綻んだ暁の顔は、それがうつったかのよう。
違う世界に生まれて、違う道を辿って――今はこうして、笑い合っている。
不思議な廻り合せで繋がった縁は、出逢ったあの日のようにあたたかい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
花火かき氷もめちゃくちゃ気になる
けど花火わたあめなら見た目もいっぱいだしこれにしよう
アレスはどうする?
キラキラした目でアレスを見る
アレスと一緒ならしあわせ倍増しだ
笑いながら大きく口を開けて頬張って
〜!
逆毛だてた猫のように
…さんきゅアレス助かった
次は一口小さく食べよう
なぁ、アレスも食ってみろよ
そういやプレゼント花火なんてもんもあるんだなぁ
一緒に行動してちゃサプライズもないけど
確かに中身を内緒にすれば良さそうだ
アレスに送る花火ならやっぱ
世界一綺麗な色がいい
過ぎったのは大好きな朝の色
けど…夜のほうが
アレスよろこぶかも…
思い切って夜の、俺の色の星型花火をお願いしよう
二人並んで花火を見上げる
アレスからの花火はすぐわかった
だって、俺と同じ星の形に
一番好きな朝の色
同じことを考えてたことが嬉しくて
顔を見て思わず破顔する
俺だって、嬉しい
ちょっと近づいた目は木漏れ日みたいにキラキラ眩しくて
照れくさいのに愛しい
距離がもっと近づいて
確かに、朝焼けになったら
もっともっと愛しくなった
ああ、綺麗だな
アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎
僕は…うん。花火かき氷にしよう
ふふ。僕も一緒で嬉し…セリオス!?
慌ててお茶を渡し
吃驚したね、と軽く撫でる
彼からの綿飴を一口
お礼に僕からはかき氷を
はい。…口、開けて?
(…君に花火を贈りたいと思ってたが
君も同じつもりだったのか)
それなら中身を内緒にするのはどうかな?
決まりだね、と受付へ
初めは僕がいちばん好きで綺麗だと思う夜空の深い青を思い浮かべたが
…朝の色が好きな青だと、嬉しそうに笑う君を何度も見てきた、から
少し緊張するが
朝の…僕の青の星形花火でお願いするよ
…喜んでくれるといいな
ふたりで見上げて…嗚呼
すぐに君のだって分かった
同じ星形で
…僕の好きな夜空の青だったから
顔を見合わせ、笑い合う
君から夜空を贈って貰えて嬉しいよ
感謝と共に伝え…花火の光が彼の瞳に映っている事に気づいた
そっと目元に触れる
…星空みたい
照れくさそうに笑う彼が
可愛らしく…愛しくて
彼の額に合わせるように額を寄せ
その瞳を覗き込む
…こうしたら、夜明けになるかな
(…もっと見ていたい
そう想い浮かんでしまうくらい)
…綺麗だ
花火が夜空を彩るその下で、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)の目は真剣に屋台をチェックしていた。地上で明るく輝いて腹も満たす屋台郡の中、四種ある花火系屋台はどれも美味しそうだ。
(「かき氷……いや、わたあめも美味そうなんだよなぁ……」)
前者の花火は口に入れた瞬間とけて消え、後者は口の中でもパチパチ咲くという。どっちにすっかなぁと考えた末、セリオスは見た目もいっぱいな花火綿飴を手に笑顔でアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)と合流した。
「花火綿飴か。美味しそうだね」
「だろ? アレスはどうする?」
「僕は……うん。花火かき氷にしよう」
「おおっ」
かき氷。気になっていたもう一つを買いに行く後ろ姿へ注がれていたキラキラ視線は、青空と夜空の間くらいの青に染まったかき氷を手に戻ったアレクシスを見て、更に輝いた。
「アレスと一緒ならしあわせ倍増しだ」
この花火綿飴の美味さだって倍増しに違いない。
ご機嫌笑顔であーーーん、と口を開いたセリオスにアレクシスも柔らかに微笑んだ。
「ふふ。僕も一緒で嬉し……セリオス!?」
ばくっと頬張った瞬間、セリオスの目は真ん丸になり肩がびゃっ! と跳ねた。体は強張り、さらさらとした髪も、何だか一瞬だけ逆毛だてた猫のようになった気がする。
あんなに大きな一口だ、何が起きたか訊かずともわかった。目を見開いたまま堪える姿に、アレクシスは大急ぎでお茶を渡す。
「セリオス、これを飲んで……!」
吃驚したねと軽く撫でる手と渡されたお茶。二つの優しさが口内の花火をまろやかに流していく。真ん丸になっていた目は緩やかに落ち着きを取り戻し、ぐっと閉じていた唇からも力が抜け、ほっとしたのは二人同時。
「……さんきゅアレス助かった。マジで花火大会クライマックスが始まるとはな……」
しかし味は良かった。気を付けて一口小さく食べれば、しゅわりと甘くとけた綿飴に花火がぱちぱち混じる感覚も面白い。
「なぁ、アレスも食ってみろよ」
「いいのかい? ありがとう。それじゃあ……ん!」
「だろ?」
食べてすぐ丸くなった蒼穹の目が自分を見る。そこに浮かぶ煌めきにセリオスはにんまり笑い、摘んだ一口分を口に放り込んだ。咲いた花火がぱちんっと弾けて、光の粒が跳ねて頬の内側に当たる。
セリオスの笑顔は暫し綿飴が独占していたものの、目の前へと透き通った氷山のひとかけらを載せたスプーンが差し出されれば、途端に煌めいた目は小さな花火を咲かすかき氷――と、アレクシスへぱっと向く。
「はい。……口、開けて?」
「あーん。……うっま!」
こっちは口ん中が大騒ぎにならないから安心だな、もう一口食べるかい? そんな言葉を交わす二人は、笑顔のままそれぞれの花火を手にのんびりと歩く。賑わいに華を添える屋台にも目を向け、次は何を食べようかと考えながら屋台を眺める――そんな時、屋台が途切れたそこから見えた花火受付所の看板でセリオスの足が緩やかに止まった。
「そういやプレゼント花火なんてもんもあるんだなぁ」
誰かの為に、何かの為に、好きな形と色をした花火が打ち上げられる。気軽に出来てしまうところは幽世ならではで面白い。けどサプライズにするにゃ一緒だとネタバレになるんだよなとこぼすセリオスに、アレクシスは目をぱちりとさせた。
(「……君に花火を贈りたいと思ってたが、君も同じつもりだったのか」)
一緒ならしあわせ倍増し。
一緒で嬉しい。
数分前に交わした言葉がぽかぽかとリフレインする。緩みかけた口元をさり気なく手で覆えば、セリオスの言葉で考えている風に見せられた。筈。
「それなら中身を内緒にするのはどうかな?」
「おっ、そうだな。確かに中身を内緒にすれば良さそうだ」
「決まりだね」
受付で渡された予約用紙と鉛筆を手に、二人はまた後でとその場で分かれる。
妖怪達に混じって適当な席についたアレクシスが初めに思い浮かべたものは、自分が一番好きで綺麗だと思うもの。深い青で満ちた夜空が心の中を静かに幸せ色に染めていく。アレクシスは鉛筆を用紙に向け――先端が触れる直前、そっと離した。
(「……君は、朝の色が好きな青だって言ってたね」)
嬉しそうに笑って紡ぐ姿を何度見ただろう。
思い浮かんだ姿にアレクシスはそっと微笑み、よし、と呟いてさらさらと鉛筆を動かしていく。微笑んでいた口が引き結ばれて少し緊張した表情になってしまうが、籠めるものは揺らがない。
(「……喜んでくれるといいな」)
形と色と、アレクシスが必要なものを記入し終える少し前。セリオスも用紙と向かい合い、端っこを鉛筆でトントンつつきながら考えていた。
(「アレスに贈る花火ならやっぱ世界一綺麗な色がいいんだよな」)
だってアレスに贈るんだし。うんうん。
そう考えて真っ先に頭を過った色は、自分が大好きだと何度も感じ、口にしてきた朝の色。夜の先に広がる、光を孕んで透き通った美しい青だ。
(「けど……夜のほうが、アレスよろこぶかも……」)
セリオスと、自分を呼ぶ声。優しく細められる目。
思い浮かんだ姿に、悩みを映し鉛筆を揺らしていた手がぴたりと止まる。
セリオスはぐっと唇を結ぶと鉛筆を走らせ、記入を済ませたそれを受付係に手渡した。
外に出てすぐの所で合流した二人は、空がよく見える場所へと移動する。二人並んで見上げる先には次々と花火が打ち上げられ、空も、二人の目も、様々な色と形で彩っていた。
自分達の花火がいつ打ち上げられるかはわからない。相手の花火がどんなものかも知らない。けれど夜空を見上げていた二人の目は、並んで咲いた花火を見て静かに瞠られていく。
(「アレスからの花火だ」)
(「……嗚呼。君の花火だ」)
星の形をした花火が咲く様は、唯一の片割れと一緒に夜空へ飛び出したようで、湛えた青は透明感や深さが違う。それぞれの色が何を現しているか、二人はすぐにわかった。
「君から夜空を贈って貰えて嬉しいよ」
「俺だって、嬉しい。俺が一番好きな朝の色だ」
顔を見合わせ笑い合えば、咲ききった花火が残した煌めきが夜空色の瞳に映る。
「……星空みたい」
目元に触れてきた指先と、近くなった朝空の目が湛える木漏れ日めいた眩い輝きが照れくさくてけれど愛しくて――思わずこぼれる笑顔に微笑んだアレクシスの目が、更に近くなる。互いの髪がじゃれ合って、少し、額が擽ったい。
「……こうしたら、夜明けになるかな」
「……ああ。なってる」
互いに互いを映した夜と朝が柔く、あたたかく、笑い合う。
「……綺麗だ」
「ああ、綺麗だな」
次の花火が打ち上げられた音がした。
けれど今は、世界で一番綺麗で大好きな青だけを映していたい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
想い出の花火を打ち上げてくれるのですって!
ゆぇパパ、パパ!行きましょう!
手を引いて、受付の所へ
すみません!ヒマワリ柄の花火を打ち上げて頂けるかしら?
パパとの想い出のお花なの
大きな花を、お空いっぱいで!
ねえねえパパは?折角だから何かお願いしてみない?
むう?なんの絵を描いたのかしら
ぴょんぴょんジャンプしても紙は見えないし
お楽しみね?わかったわ!
花火アイスも食べてみたいな
あのね、下がコーヒーで上がブルーベリー!
コーヒーならパパと分けっこ出来るかしらって、思ったの
アイスの上でパチパチ言ってる!
ひと口すくって食べて見ると……う?全然パチパチしないわ
うん、ひと口と言わずたくさんどうぞ!
コーヒー味をスプーンにたっぷり掬って、あーん!
どう?おいしい?
ルーシーも?
あーん
……!?!?ぱ、ぱちぱちする!
ふふ……!フシギだけどおいしいね
あ、あれはルーシーの花火ね?
ヒマワリが空一面に咲いている!かわいい
次はパパの花火かな?
わ……!
水色ウサギのヌイグルミ、ララと
まん丸の黒ヒナさんにそっくり
とてもステキね!
朧・ユェー
【月光】
おや、想い出の花火を?
色んな花火が上がってますね
向日葵柄?それは素敵な花火ですねぇ
ありがとうねぇ
そうですね、とサラサラと何か絵を描いて花火師さんに渡す
これをお願いします
ぴょんぴょんしてる彼女にくすりと笑って
どんな花火かは上がってのお楽しみで
コーヒー味とブルーベリー味のアイスですね
本当に花火の様にぱちぱちしてますね
ふふっ、じゃコーヒーを一口頂けますか?
美味しいです、確かにぱちぱちしませんね
ではもう一口
ルーシーちゃん、あーん
ふわふわ花火綿飴を口の中へ
ふふっ、こちらはぱちぱちはじけるでしょ?
おや、花火が上がった様ですね
夜空いっぱいに向日葵柄の花火が咲いてます
向日葵畑ですね
次は…ララちゃんそっくりな花火と黒雛そっくりな花火
ルーシーちゃんの花火も上げたかったのですが人の顔は難しいかもなので
二人が僕達の代わりに、どうでしたか?
喜んでもらえて良かったです
目を輝かせ、頬をほんのり紅潮させ、小さな手で自分より大きな大人の手をしっかりぎゅっと握って。ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)と一緒に、普段より早足で秋祭り会場を行く。
もっとレディな所作を心がけるべき?
ううん、今だけはちょっぴりお転婆でいさせてちょうだい。
のんびり歩いていられる気分ではないの。だって、だって――。
「想い出の花火を打ち上げてくれるのですって! ゆぇパパ、パパ! 行きましょう!」
「おや、想い出の花火を? 色んな花火が上がってますね」
弾む声にユェーは微笑みながら首を傾げ、ルーシーの歩幅にしっかり合わせながら夜空を見る。ぱん、ぱぱんと連続して輝いた花火が、誰かの想い出が詰まった花火なのかどうかはわからない。けれど、見えた花火はどれも眩しかった。
辿り着いた受付所は未だ大盛況。行儀よく順番を待ったルーシーは、順番到来でしゅっと背筋を正す。
「すみません! ヒマワリ柄の花火を打ち上げて頂けるかしら?」
「向日葵柄? それは素敵な花火ですねぇ」
ほんわかと笑ったユェーにつられてルーシーもつられて柔らかに笑い、更につられたのか、ひまわり? と笑顔で確認した妖怪にこくりと頷く。
「パパとの想い出のお花なの。大きな花を、お空いっぱいで!」
「わぁっ、素敵ですねえ」
「あ……でも、あちらで記入した方がいいかしら?」
順番が来た自分達の少し後ろには、花火を打ち上げようと並ぶ妖怪が沢山いる。
受付カウンターの先に用意されている記入エリアを気にするルーシーに、妖怪はこちらでも大丈夫ですよと笑ってくれた。
「花火の形は向日葵で……色も実際の向日葵と同じでよろしいですか?」
「ええ! それでね、うんと大きな花火でお願いするわ!」
となると――これくらい? ええ、ええ、それくらい!
熱心にすり合わせる娘の姿に、見守っていたユェーの笑顔はよりほのぼの柔らかくなっていく。花火を打ち上げる前に、小さな花がぽわぽわ飛んでしまいそうだ。
「ルーシーちゃん、ありがとうねぇ」
「ふふ、どういたしまして。ねえねえパパは? 折角だから何かお願いしてみない?」
「そうですね。では……」
すかさず受付担当の妖怪がサッと渡してくれた紙にサラサラと記入し――。
(「むう? なんの絵を描いたのかしら」)
ルーシーはぴょんぴょんジャンプしてみたものの、ユェーが描いたものはこれっぽっちも見えなかった。紙を渡す時にちょっとだけでも見えないかしら。じいっと見つめてみたもののやっぱり見えず、そんな可愛らしい頑張りにユェーはくすりと笑い、口元に人差し指を立てる。
「どんな花火かは上がってのお楽しみで」
「お楽しみね? わかったわ!」
「それじゃあ次は、屋台で何か食べましょうか」
花火をしっかり楽しむには腹ごしらえは大切だ。祭りのもう一つの花でもあるのだから、当然逃せないコンテンツでもある。何が食べたいか聞いてみれば、花火アイス! と弾む声。
「あのね、下がコーヒーで上がブルーベリー!」
コーヒーならパパと分けっこ出来るかしら。
ルーシーは笑顔の下にわくわくを抱え、アイスを注文するユェーにぴったりくっついた。ミルクが入っていないコーヒーはとても苦いけれど、アイスだからきっとそんなに苦くない。筈。
「どうぞ、ルーシーちゃん」
期待と不安を一緒に抱えたルーシーの前に差し出された二段のアイスは、注文通り、上がブルーベリーで下がコーヒーになっている。ルーシーの手が紙に包まれたコーンを握った時、ブルーベリー色の花火がぽんっと咲いた。
「わ! アイスの上でパチパチ言ってる!」
「本当に花火の様にぱちぱちしてますね。おや、コーヒーアイスからも」
「わぁ……アイスとおんなじ色をしてるわ」
一口掬って、どきどき、そわそわ、口の中へ。広がったブルーベリーの香りは豊かで美味しくて――ルーシーは首を傾げた。
「う? 全然パチパチしないわ」
確かに花火がパチパチしていたのに。不思議そうにアイスを見つめ、また咲いた花火に首を傾ぐのを見て、ユェーはふふっと笑みをこぼしてしゃがみ込む。
「じゃあ、コーヒーを一口頂けますか?」
「うん、ひと口と言わずたくさんどうぞ! はいパパ、あーん!」
スプーンに載ったコーヒーアイスは、たっぷりとした一口分。
「どう? おいしい?」
「美味しいです、確かにぱちぱちしませんね。ではもう一口」
ブルーベリーとコーヒーを順番に、半分こ。
最後の一口まで美味しかった花火アイスの次は、夢の世界から持ってきたようにふわふわな綿飴だ。先に一口食べたユェーはニッコリ笑ってルーシーの前に差し出した。柔らかな白色花火が、ぽわ、と浮かんで弾ける。
「ルーシーちゃん、あーん」
「ルーシーも? あーん
……!?!?」
ふかっと食べたタイミングで、ルーシーの口内で始まった小さな花火大会。ぱちぱち弾ける感覚は、口の中で金平糖みたいな花火が跳ね回っている気分だ。
目を丸くして両手で口を押さえてと、ルーシーの可愛らしい反応にユェーはニコニコしながら二口目をむしゃり。
「ふふっ、こちらはぱちぱちはじけるでしょ?」
「ぱ、ぱちぱちする! ふふ……! フシギだけどおいしいね」
「ええ、不思議ですけど美味しくて……おや、花火が上がった様ですね」
空へと昇っていく光がひとつ、ぴゅううと笛の音に似た足音を響かせて――ぱあん! 真っ直ぐな音と一緒に、空いっぱいにそれはそれは大きな向日葵が咲いた。
夜空いっぱいを彩った夏の花にルーシーは目も口もまあるくして、パパ、パパ! と興奮気味にユェーの手を引っ張る。
「あ、あれはルーシーの花火ね? パパ、ヒマワリが空一面に咲いている!」
「まるで向日葵畑ですね」
「ふふ、かわいい。……あ、また花火」
一緒にお願いしたから、もしかして次はパパの花火かな?
翔け昇る光を見つめるルーシーの胸は期待でどきどき高鳴って――ぱぱ、ぱんっ!
「わ、ぁ……!」
向日葵畑の後を追いかけ咲いた花火は、水色ウサギと真ん丸とした黒い小鳥。
もしかして、ルーシーの大切な水色ウサギぬいぐるみのララと、黒ヒナさんじゃあ?
真ん丸にした目に沢山の煌めきを浮かべ、パパ、と言うのも忘れしまったように口を開けたままの姿にユェーは微笑み――ちょっとだけ、困ったように眉を下げた。
「ルーシーちゃんの花火も上げたかったのですが、人の顔は難しいかもなので……二人が僕達の代わりに。どうでしたか?」
すると、ルーシーの目に浮かんでいた煌めきがぱああっと数を増やす。
「とてもステキね! ルーシーね、どっちの花火も大好きよパパ!」
「ふふ。喜んでもらえて良かったです」
向日葵と、ララと黒ヒナ。
連続して咲いた花火は、向日葵畑を散歩する御伽噺を描くようだった。
彼らは夜空いっぱいを彩った後、ちかちかと瞬きながら消えていったけれど――二人で作った輝きは、今日も明日もその先も、ずっと二人の中に残っている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鳥・円
【まる】
今年の浴衣を纏って行きましょう
白梟を携えた、夜に紛れる真の姿では無く
あなたが見慣れた、甘い髪色の姿にて
おにーさん、こっちですよう
……んふふ、何です?意外ですか?
わたしだって落ち着いた色味を着るんですよ
ね、似合います?この浴衣
おにーさんは本当に黒が似合いますね
見失っちゃあ大変です
わたしから離れないでくださいね
迷子にならないよう、手を引きましょうか?
なんてね。
花火アイスが気になっちゃうわたしですの
甘いもの、ニガテでしたよね
おにーさんが食べられる味があるといいなあ
アイスを食べながら花火を観ましょ
打ち上がる花火たちの綺麗なこと
何だかしっとりとした気持ちになります
……らしくないですか?
んふふ、ですよね
そう言ってくれるって思ってました
偶には、こんなわたしも良いでしょう?
ありのままを受け入れて貰えている
その安堵感に満たされるようです
ほんとうの肉親が居たのなら
わたしに、兄と呼べる人が居たのなら
こんな気持ちだったんですかね
何時か、あなたにならば
あの姿を見せることも、こわくない
……かも、しれませんね
ゼロ・クローフィ
【まる】
今年の浴衣
見慣れた姿の円を発見し
手招きする姿にくすりと
はいはい
珍しいな、いつものお前さんなら派手めの和装だが
落ち着いたのも似合ってる
大人になった感じだな
ありがとうさん
俺が黒以外は変だろ?
あぁ?迷子の子供じゃあるまいに
何だ、手でも引いてくれるのか?
花火アイスか
甘過ぎなければ大丈夫だが
バニラで
何でぱちぱちとさせてるんだ?
食べたら同じだろ、見映え必要か?
眉間に皺を寄せつつ食べながら
円の隣で空を見上げる
綺麗な花火が咲き
いつもより穏やかな時間が流れ
今日はやけに落ち着いてるな
いや?そのままでいいじゃないか
ハイテンションのお前さんでも今のお前さんでも俺的には変わりはしないし
ゆっくりな時間をお前さんの過ごすのも悪くは無い
お前さんがしたい事なら付き合う
そこがどんな所でもな
ん?どうした?
俺を家族にしたらめんどくせぇぞと笑って
お前さんなら俺というのが存在して無くて気にせず受け入れるだろ?
それと同じだよ
ちょっとやそっとで俺が態度変えるかよと頭をぽんぽんして
まぁ、色んなお前さん見れるのを楽しみにしてるささ
「おにーさん、こっちですよう」
秋祭りが作り出す賑わいの中だというのに、その声は不思議と遮られる事なく届いた。
笑う瞳と唇が思い浮かんだ声の方へと目を向けたゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)は、にこにこと自分を手招く百鳥・円(華回帰・f10932)を見付け、くすりと笑みをこぼす。
「はいはい」
自分の耳にすんなりと声が届いたように、そう返したのがあちらにも届いたのか、ニ色の鮮やかな彩が細められていくのが見えた。
遠かった距離が近くなる。甘い髪色から覗く獣の耳と、腰に在る一対の黒翼が楽しげな心を映すように揺れた。その姿が纏うものを静かに映していった翠玉が瞬く。
「……んふふ、何です? 意外ですか?」
「珍しいな、いつものお前さんなら派手めの和装だが」
「わたしだって落ち着いた色味を着るんですよ。ね、似合います? この浴衣」
その場で緩やかに回れば群青の生地に散りばめられたもの――彼方の銀河に似た淡い色彩が煌めくようだった。履いているものは普段軽快に音を刻むブーツではなく、足袋と草履。淡い水玉模様で飾った鼻緒は浴衣と似た色をしている。
「ああ、落ち着いたのも似合ってる。大人になった感じだな」
ゼロの言葉に円の双眸がにっこり綺麗な弧を描く。んふふと楽しげな声と一緒に再びぱちりと開かれた色違いの目は、ゼロが纏う浴衣を見てキラキラと輝いた。
「おにーさんは本当に黒が似合いますね」
墨のような黒い生地。それを彩る柄は大蛇を思わす灰色鱗だ。帯は浴衣の色に映える明るい灰色で、和の趣を感じるその佇まいを上から下へと追っていけば、裾から覗く足は黒と灰を合わせたブーツというのが良いアクセントになっている。
「ありがとうさん。俺が黒以外は変だろ?」
「黒以外を着たおにーさんです?」
新鮮かもしれない。ただし本人が着たいと思ったものでなければ、きっとその色はゼロを引き立てはしないだろう。何想像してんだと薄く笑んだゼロへ、円はいいえ何もと笑って甘い色の髪を翻す。
「黒がお似合いのおにーさんを見失っちゃあ大変です。わたしから離れないでくださいね」
「あぁ? 迷子の子供じゃあるまいに。何だ、手でも引いてくれるのか?」
「では、迷子にならないよう、手を引きましょうか? ――なんてね。冗句ですよう」
屋台が道を作るそこを歩き始めれば、屋台グルメを提供するあちらこちらからは良い匂いが漂い、テントに書かれた何々屋の文字が二人を誘惑しにかかる。
中でも花火アイスの屋台が円の目をじいっと惹きつけ、ゼロはすぐそれに気付き、ああ、と行列を生む屋台を眺めた。
「花火アイスか」
「おにーさん、甘いもの、ニガテでしたよね」
「甘過ぎなければ大丈夫だが」
「では決まりです、行きましょ! おにーさんが食べられる味があるといいなあ」
ぱっと明るく咲いた笑顔の後を、合流した時のようにはいはいと返したゼロが続く。
それなりに待つかと思いきや、お客を捌いていたのは多腕の西洋妖怪。複数の腕を巧みに使ってくるりとアイスを取ってコーンに盛り付け、さっと紙を巻いてと、一人で次々に客を捌いていく様は鮮やかだ。
「はーい、お待たせ! こっちがあなたので、こっちがあなたの!」
「ふふ、どうもですん」
受け取った円は期待に躍る心を瞳に浮かべ、続いて受け取ったゼロはどうもとだけ口にし、二人は花火アイスの屋台からのんびりと離れていく。向かう先は、花火を見るならあそことお勧めされた場所だ。
すっかり秋に染まった幽世の夜は涼しく、移動の間にアイスがデロデロに溶ける心配がない。その為、歩きながらアイスからぽわっと上がった花火を楽しむ余裕はあった――のだが。
「何でぱちぱちとさせてるんだ? 食べたら同じだろ、見映え必要か?」
着いた先、バニラアイスを手にしたゼロの眉間には皺が寄っていた。
口の中でも花火がぱちぱちする綿飴とサイダー。ぱちぱちしないかき氷と、アイス。
食った瞬間消えるなら花火にする必要あるのかと言いながら、あ、と開いた口でまあるい氷山を削り取った。
「んふふ。新し親分が考えたのかもしれませんね」
真相は、多分闇の中。手元で時折上がる花火とアイスと共に、二人並んで、夜空へと打ち上げられ大輪の彩を灯す花火を観る。光の玉が黒い空を翔け昇る音、弾ける瞬間と散りゆくさなかに響かす音。その度に周りから上がる歓声。それらが二人の間を流れ、ひとつ、ふたつと咲いては散る花火が言葉を奪っていく。
花火アイスの最後の一口、コーンの底に残ったバニラも一緒にざくぼりと平らげたゼロは、空を見上げたまま一言も喋らない娘へと視線をやった。
(「今日はやけに落ち着いてるな」)
その視線に気付いた色違いの目が、今まさに散っていく花火の煌めきを映しながら向く。
「何だかしっとりとした気持ちになります。……らしくないですか?」
「いや? そのままでいいじゃないか」
そう言って視線を空へと戻した。視界を夜空と花火が占める為、隣は見えてはいない。しかし、円も同じように空を見ている気がした。ぴゅううと翔けていった光の玉が弾け、交差した無数の輪となって夜空を明るくする。
「ハイテンションのお前さんでも今のお前さんでも、俺的には変わりはしないし」
普段の服装と調子でも、今日のような装いと雰囲気でも。
どちらも変わらない。同じ、百鳥・円だ。
「それに、ゆっくりな時間をお前さんと過ごすのも悪くは無い。お前さんがしたい事なら付き合う。そこがどんな所でもな」
「……んふふ、ですよね。そう言ってくれるって思ってました」
バニラに苺とソーダのソースを練り込んだ花火アイスを舌先で舐め取る。咲きかけていた花火は、冷たく甘いアイスへしゅわんと蕩けて消えた。口の中に残るのはアイスのひんやりとした心地良さと、三つのハーモニーからなる美味しさだけ。
「偶には、こんなわたしも良いでしょう?」
そう言って、はふ、と息を吐く。ありのままを受け入れて貰えている。その安堵感がじんわりと心に灯って、隅々まで広がっていくようだった。
ため息の類ではなく、胸満たすものを映した吐息にゼロが円を見る。
「ん? どうした?」
「んふふ。いえね、ほんとうの肉親が居たのなら……わたしに、兄と呼べる人が居たのなら、こんな気持ちだったんですかね」
「兄だぁ? 俺を家族にしたらめんどくせぇぞ。お前さんなら俺というのが存在して無くて気にせず受け入れるだろ? それと同じだよ」
ちょっとやそっとで俺が態度変えるかよ。
言葉は少し乱暴に。
けれど頭にぽんぽんと触れた手は、決してそうじゃない。
何時か、あなたにならば
(「あの姿を見せることも、こわくない……かも、しれませんね」)
ゆるりと瞼を下ろせば、世界が夜や
宇宙のような黒に染まる。
「まぁ、色んなお前さん見れるのを楽しみにしてるさ」
そこに届いた声に色はない。
けれどその音は、花火よりも星よりも確かな光を宿していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『縁切り屋』
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POW : 妖刀解放
【匕首】で攻撃する。[匕首]に施された【妖気】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
SPD : 眷属召喚
【召喚した狐霊】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : 妖焔
レベル×1個の【狐火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
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●紡いで、結んで
花火の音。空を彩る光。祭りの賑わい。
あんなにも近かったものが、どうしてだか随分と薄れている。
その事にハッと肩を震わせた妖怪は、変わらないのは自分の周りとやたらと飛び回る幽世蝶だけだと気付いた。同時に、自分が今置かれている状況も把握した。
「くそ」
悪態を吐いた妖怪は被っていた面をゆっくりと外し――その姿が変わっていく。
髪の長さ、色。纏うもの。
全てが変わり終えれば、そこにいるのはオブリビオンである縁切り屋だ。
「お前らがいいもんを見せるからだ。この俺とした事が、あっさり釣られちまった」
ああ。けどよ――。
細められていった目が猟兵達を撫でるように眺めていく。
「お前らの縁は、本当に上等なもんばかりだ。切り甲斐がある。――なぁ、良けりゃ聞かせてくれよ。お前らの縁はいつから繋がっている? どれだけ繋がってる? どこかで途切れた事はあったか? どうだ? なぁ?」
それを知れば知るほど、縁を切る瞬間に覚える愉悦は味わい深いものとなる。
だから教えてくれ、聞かせてくれ、語ってくれと縁切り屋が嗤う。
――ならば、お望み通り思いきり聞かせてしまえばいいんじゃない?
鉄・弥生
【鉄家双子】
ふふ、悠生と私が仲良しってわかるの?嬉しいな
それじゃ…私達のこと、特等席で聴かせてあげなきゃね
UC発動
影の城の応接間に縁切り屋さんをご招待
そうそう
「私達のお話、大人しく聴いててね?」
私達は双子
生まれた時からずっと一緒なの
ね、悠生
途切れたことなんて勿論無いよ
そしてこれからも、絶対に無い
例えば…この先、永遠の別れを迎えたとしてもね
私のかけがえのない片割れはたった一人
悠生だけだもの
他人が切れるような縁じゃないってわからない?
あ、もしかして
貴方には大切なご縁が無いの?
かわいそう…
もう「縁切り屋さん、暴れちゃ駄目」
さっきも言ったよね?
「大人しく聴いてて」って
命令違反は…どうなっても知ーらない
鉄・悠生
【鉄家双子】
上等だってさ弥生!
お兄さん見る目あるね!
んじゃ、聞いて貰うとすっか
俺達のお城へようこそーって城主は弥生だけど
聞くっつったんだから耳傾けてくれよ?
そ、俺達双子!
生まれた時からずっと一緒なんだ
な、弥生!
途切れたことなんかないし
これからもずっと一緒
そういや永遠の別れは考えたことなかったな
ま、寿命ならやりようはあるし!
弥生が俺のオンリーワンってのは変わんないぜ
要するに他人が切れるようなモンじゃないってこと
縁を切ったことしかないあんたには分からんかもしれんが
でも、それって寂しくねーか?
話聞いたらさっさと帰って欲しいんだけど…しゃーない、違反者には罰ゲームだ
弥生の前に出て武器構え
頼むぜ、ライ!
切り甲斐がある。
向こうは自分達を繋ぐ縁を見て、確かに、そう言った。
漆黒と金。同じ顔立ちにきらりと嵌まる瞳がきゅうっと丸くなり――笑う。
「上等だってさ弥生! お兄さん見る目あるね!」
「ふふ、悠生と私が仲良しってわかるの? 嬉しいな」
悠生と弥生は肩を寄せ無邪気に笑い合い、互いを映していた目を縁切り屋へと向ける。
「んじゃ、聞いて貰うとすっか」
「そうだね……私達のこと、特等席で聴かせてあげなきゃね」
「特等席だ? ――っと、」
空気そのものが揺れるような感覚は一瞬。秋祭りの会場から離れたそこはたちまち姿形を変え、完成したものをたっぷり見るように悠生はその場でくるりと回る。
「俺達のお城へようこそーって城主は弥生だけど。聞くっつったんだから耳傾けてくれよ?」
「そうそう。
私達のお話、大人しく聴いててね?」
「……ああいいぜ」
周囲が変化したのではなく、全く別のものと交換された。
それを肌で感じたのだろう縁切り屋は、ひとまず自身の愉しみを優先する事にしたらしい。ニィと細められた目に、二人はまたにっこりと笑顔を交わし合う。
「私達は双子。生まれた時からずっと一緒なの。ね、悠生」
「そ、俺達双子! 生まれた時からずっと一緒なんだ。な、弥生!」
「私達の縁が途切れたことなんて勿論無いよ。そしてこれからも、絶対に無い」
母の体内で命を授かった時から自分達は繋がっていた。
弥生は静かに断言し、悠生はそれを誇るように笑い、繋ぐ。
「ああそうさ。途切れたことなんかないし、俺と弥生はこれからもずっと一緒だ」
「うん。一緒。例えば……この先、永遠の別れを迎えたとしてもね」
「へーぇ?」
縁切り屋がニヤリと嗤って悠生を見る。
永遠の別れ――つまり、死んでもずっと一緒だと。死ねば鼓動は止まり、体は冷たくなり、何らかの様式で別れの場が設けられる。それが一般的な、死を迎えた者が辿る道だ。
しかし、弥生は“永遠の別れを迎えたとしても、自分達は一緒だ”と言い切った。
「お前の片割れはああ言ってるぜ。どうなんだ、お前」
「そういや永遠の別れは考えたことなかったな。ま、寿命ならやりようはあるし! 弥生が俺のオンリーワンってのは変わんないぜ」
「けろりとしてやがんなぁ。まだ二十歳にもなってねぇガキの癖に」
「要するに他人が切れるようなモンじゃないってこと。だって、俺と弥生だからな!」
悠生は心底嬉しそうな顔をして、親指で自分の胸をビシッと指し――ぱちり。瞬きを挟めば、子供らしい無邪気な笑顔が不思議な落ち着きを宿した笑みに変わる。
「縁を切ったことしかないあんたには分からんかもしれんが。でも、それって寂しくねーか?」
「寂しい、ねぇ。お気遣いにゃ感謝だが、感じたこたねぇな」
縁を切る時はいつだって愉しかった。親と子。上のきょうだいと、下のきょうだい。友と友。想いを伝え合う前の、他人と他人。教える者と、教わる者。肌身離さず持ち歩いていた、何か。様々な縁を見て、切って、切って、切って――切り続けた。
「今まで飽きた事なんざ、いっぺんもねぇよ」
とうとうと語って嗤う縁切り屋に弥生の双眸が向く。
眩い金色は、14の娘にしてはあまりにも静かに落ち着いていた。
「他人が切れるような縁じゃないってわからない? あ、もしかして……貴方には大切なご縁が無いの? かわいそう……」
「一丁前に煽るか、ガキ共」
縁切り屋の口の端が吊り上がる。それと共に殺気が膨れ上がり、空中を無数の狐火が彩った。
全身を撫でる殺気に悠生は面倒くさそうな顔をする。殺気だけではない。現れた狐火も面倒くさかった。あーあ、ここがどこか忘れてんな――なんてわざわざ言ってやる気もないのだが。
「話聞いたらさっさと帰って欲しいんだけど……」
ちらりと視線を向けたそこには、相変わらず落ち着き払っている弥生がいる。
「しゃーない、違反者には罰ゲームだ」
たんっ。杖を手に前へ出た悠生が軽やかに足音を響かせた瞬間、狐火が一斉に揺れた。それは獣が大きく口を開くように広がって――、
「もう。
縁切り屋さん、暴れちゃ駄目」
びたっ。周りの空気ごと停止する。炎として存在してはいるが、それだけだ。
そしてそれは縁切り屋にも及んでいた。匕首を掴んだ手、床を踏む足。ほぼ全身が動かない状況に、男は今居る場所をようやく理解する。
「クソ、行動を縛る術式か!」
「さっきも言ったよね?
大人しく聴いててって。命令違反は……どうなっても知ーらない」
「城主の話はちゃんと聞くんだな! それじゃ、頼むぜ、ライ!」
名を口にすれば、武器に変じた精霊が雷を纏って応える。溢れて弾ける輝きはたった一度爆ぜただけで狐火を霧散させ――匕首を手に固まる男へ喰らいついた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふえ?私とアヒルさんの縁が知りたいのですか?
それはもう、涙無くしては語れません。
ふええ、アヒルさん、そんなに聞きたいなら愉快話を聞かせようとか言わないでくださいよ。
私がアヒルさんから虐げられてる苦労話をするところなんですから。
ふえ!?この人は私のダメダメな笑い話を聞きたいに決まってるって、
そんなことないですって、
そうですよね?
ふええ、この人狐火で攻撃してきましたよ。
アヒルさん、どうにかしてください。
って、アヒルさんはどこに行ったんですか?
ふええ、私が狐火に追いかけられている隙にアヒルさんが活躍なんてズルいですよ。
「くそ、何つーガキ共だ……」
ぶつくさと文句を言う縁切り屋がふいにこちらを見た。反射的にびくっとしたフリルだが、「次! お前だお前!」という言葉に驚きと怯えがスンッ、と引っ込む。
「ふえ? 私とアヒルさんの縁が知りたいのですか?」
「そうだ。楽しそうに祭りを回ってたろ」
途端にフリルの肩がしょんぼりと落ちた。結局綿飴はアヒルさんに食べ尽くされてしまった。味わえたのは、買ってすぐの最初の一口だけだ。しかし、縁切り屋からのリクエストがフリルの気持ちを復活させる。アヒルさんとの縁を語る――それはつまり、アレが出来る!
「それはもう、涙無くしては語れません。私とアヒルさんの、」
『グワ! グワグワ~ア、クワワ』
「ふええ、つつかないでくださいアヒルさん……!」
「おいどうした。俺はそいつの言葉わからねぇんだが?」
「ふえっ……あ、あの、アヒルさんは『そんなに聞きたいなら愉快話を聞かせよう』って……違いますよアヒルさん、お話する内容は、私がアヒルさんから虐げられてる苦労話です」
『グワ?』
「ふえ!? この人は私のダメダメな笑い話を聞きたいに決まってるって……そんなことな――ふえっ」
アヒルさんから縁切り屋へ恐る恐る視線を移したフリルは、ニヤニヤ嗤う顔を見て体を強張らせた。なんだか。とても。いやなよかん。
「……そ、そんなことないですよね、そうですよね?」
「……いいや? ダメダメな笑い話、是非とも聞かせてくれよ」
ぼっ。
空気が燃やされる音と共に、縁切り屋の周りが一気に赤く明るくなった。気温も上昇させた大量の狐火はてんでバラバラな軌跡を描きながら、フリルというただ一点目指し翔け始める。当然、フリルも駆けた。逃げた。全力で。
「ふええ、アヒルさん、どうにかしてくださ――って、アヒルさんはどこに行ったんですか?」
『グワ~ッ!』
「何しやがんだこのアヒル野郎!」
フリルの目に飛び込んだのは、縁切り屋へ華麗に飛び蹴りを叩き込むアヒルさんだ。アヒルさんが助けてくれ――いや、違う。
「ふええ、私が狐火に追いかけられている隙にアヒルさんが活躍なんてズルいですよ」
こうしてフリルとアヒルさんの縁――フリルの言う『私がアヒルさんから虐げられてる苦労話』は順調に増えていく。
大成功
🔵🔵🔵
ルカ・トラモント
連携アドリブ歓迎
「ごめん……俺、一人で来たんだ」
よいこなので意に沿えそうもないことをとりあえず謝ります
「あ、待って! 町のみんなのこととか猟兵さんのことなら――」
それでも何かないかと考えて壮行会の時の話をしたりし
「ここで食べたものは流石に持って帰れないけど、再現できそうなものは帰ったら作って町のみんなに振る舞おうって思ってるんだ!」
「えっと、それから……」
「じゃあ、縁を切らせちゃう訳にもいかないからさ……止めさせてもらうね?」
「狐火? へっちゃらさ」
「行くよ」
遠距離攻撃であればUCのマントを翻して弾き、または躱してから強化された技能を用いダッシュで距離を詰め大ジャンプ、踏みつけ攻撃で攻撃します
対峙するオブリビオンの性質はどういうものか聞いていても、ルカは縁切り屋が自分の方を向き自分を見た瞬間、「ごめん」と謝らずにはいられなかった。
「俺、一人で来たんだ」
「……見りゃわかるが」
開口一番謝られるとは予想外だったのだろう。ぽかんとした縁切り屋が眉間に皺を寄せるのを見て、ルカはしゅんと肩を落とす。
縁切り屋が口にしたものは、“自分と、自分以外との縁”について尋ねるものだった。一人でやって来た自分では縁切り屋の意に沿えそうもない。――と、気にかけずともいいものを気にかけてしまうのは、スーパーよいこランド生まれのスーパーよいこだからこそ。
「それでも何か……あ、待って! 町のみんなのこととか猟兵さんのことなら!」
「おう、此処にゃいねぇ奴との縁でも全く問題ねぇよ」
「良かった!」
いいのかよ。
縁切り屋がそういう顔をしたがやはりルカは気にしない。
ホッと胸を撫で下ろして語るのは、自分が故郷を旅立つ日の事。
町の皆が催してくれた壮行会、振る舞われたスーパーよいこグルメ、出会った猟兵達とのお喋りや食事といった交流――うきうき語るものは、縁切り屋の興が非常に乗るものだったらしい。仏頂面だった顔はニヤニヤと愉しげだ。
「ここで食べたものは流石に持って帰れないけど、再現できそうなものは帰ったら作って町のみんなに振る舞おうって思ってるんだ!」
「成る程なぁ。お前と、お前の故郷と、お前が知り合った猟兵の間にゃ、随分といい縁が繋がってるワケだ」
「えっと、それから……」
「ああ、続きあんのか?」
嗤って促す縁切り屋にルカは静かに首を振り、マントに手を添える。
凛と決意を宿す眼差しに、縁切り屋の笑みがぴたりと止まった。
「縁を切らせちゃう訳にもいかないからさ……止めさせてもらうね?」
「やってみろよ」
目の前で花火が上がったかのように視界が真っ赤に染まった。狐火の群れは瞬きを一度挟む余裕すら与えず翔け出すが、ルカは怯まない。炎の軌道がよく見える。体も軽い。
「へっちゃらさ。――行くよ」
四方八方から突っ込んできた狐火を躱したその姿は、一瞬で縁切り屋の頭上を奪っていた。
目を瞠った縁切り屋が匕首を構えようとした刹那。握る手に力を込めた僅か一瞬の間に、
飛空艇突撃の如き一撃が見舞われる。
大成功
🔵🔵🔵
西條・東
【柴と雀】
『え?なんだコイツ…』
でもそんなに聞きたいなら嫌って程答えるぜ
『オスカーとは仮友達が縁の始まりだ。まだお互いの事を知らなすぎるから、分かっても離れなければ友達になれる…そんな関係だ』
『そこから色んな話をして、色んなところを冒険したり…お互いの名前を忘れた時もあったな…あ、豆柴と小雀になって戦ったりもしたぜ!』
忘れても守りたいと思った相手なのだと再確認して笑う
『そのたくさん細い縁を紡いで今の綺麗な縁がある。
この羽織紐みたいに』
お揃いの羽織紐はオスカーの染まらない黒と自分が好きな青で選んだぜ
『オスカーとの縁はもーっともっと太くなる。や、する。
その途中の縁をお前に切られてやるもんか!』
オスカー・ローレスト
【柴と雀】
上等……そ、そう、なのかな……お、俺からの縁は、割と曖昧な感じだと、思うんだけ、ど……
ぴゃわ?! あ、東……ま、守りたいって……そういう事、考えてたの……?(守りたいと思われてるのは予想外だった様子
俺だって、東のことは守りたいというか、放っておけないというか、そういう風に思ってるよ……
(守りたいのは敵からも、東には秘している自分の殺人鬼としての本性からも。だから離れるべきと守りたいが相反していて)
今でもまだ、この縁が出来て良かったのか、続いてもいいのか俺には、分からない、……まだ分からないからこそ……それに何より、東が守りたいっていうなら、俺も……まだ切られたくはない、かな
「じゃあ次はそこのお前らだ」
「え? なんだコイツ……」
ユーベルコード受けてふっ飛ばされてたのに、こんな、スンッと次に切り替えるもんなの?
目をぱちぱちさせ確認する東に、オスカーも目をぱちぱちさせ頷いた。
「そんなに、切りたいのかな……。あ、えっと確か、切る前に色々聞きたいって、言って……」
「言った。その方が面白ぇんだよ。だからほら、話せ」
「ぴゃっ」
すいっと向けられた匕首の切っ先にオスカーは肩をびくっと跳ねさせた。
距離はある。こちらへ直接届かせようとするのは難しいだろう。だが、わかっていても匕首を向けられるというのは嬉しいものではなく――すかさず東が両腕を広げ、オスカーの前に立った。
東の顔立ちは年相応だが、発育のいい体は同年代の中では背が高い方だろう。そして東はオスカーより背が高い。自分の体も使って庇った少年は、普段は明るく朗らかな色違いの眼差しを少しばかり厳しくさせていた。
「話してほしいんならそれ下ろせよ?」
「……チッ。わかったよ。お前らの縁も上等だからな」
オスカーはというと――匕首も視界も遮ってくれた事への有り難さと申し訳なさで、どばぁと出かかっていた重たい息をどうにか鎮めた所だった。それにしても。
(「上等……そ、そう、なのかな……」)
そっと、自分を背に庇ったままの東を――後ろ姿を、見る。
(「お、俺からの縁は、割と曖昧な感じだと、思うんだけ、ど……」)
全く無いとは、思わない。
ただ――自分から東に向かう縁の輪郭が、自分でもよくわからなかった。
音を立てぬように翼を動かしたそのすぐ前で、よーしそれじゃあと東の表情がいつもの明るさを浮かべる。東の心は、そんなに聞きたいなら嫌って程答えるぜ! という迷いない気持ちでいっぱいだ。
「オスカーとは仮友達が縁の始まりだ。まだお互いの事を知らなすぎるから、分かっても離れなければ友達になれる……そんな関係だ」
驚かしてしまわないよう、ゆっくりと後ろを見る。
目が合ったオスカーはいつものように不安げな顔で――けれど目が合った東は、へへっと嬉しそうに笑った。
「そこから色んな話をして、色んなところを冒険したり……お互いの名前を忘れた時もあったな……あ、豆柴と小雀になって戦ったりもしたぜ!」
「ほーう……名前忘れたっつーのに、今も一緒に秋祭りへ行く仲なわけだ?」
「そうだな! うーん……俺にとってオスカーは……」
(「お、俺は?」
何ていわれるんだろう。
気になる。怖い。知りたい。やっぱりいい。
色んな気持ちで内臓を吐いてしまいそうな心地だなどと、東――そして縁切り屋も露知らず。後者に至っては続く言葉を真剣な顔で待っていた。
「オスカーは、忘れても守りたいと思った相手だな!」
「ぴゃわ?!」
「えっ、どうしたオスカー!? 大丈夫か、気分悪いのか?」
「ち、違、大丈夫
……。……あ、東……ま、守りたいって……そういう事、考えてたの……?」
「うん? そうだぜ?」
「えっ、あ……」
予想外だった。自分が、そんな風に、想ってもらえるなんて。
じっと自分を見る視線の真っ直ぐさからオスカーは目を逸し――かけ、ぐっと堪えた。
「お、俺だって、東のことは守りたいというか、放っておけないというか、そういう風に思ってるよ……」
敵から。――
殺人鬼から。
傷付いてほしくない。傷付けたくない。
(「だから、俺は東から離れるべきなんだ……でも、」)
守りたい。
本性と理性、相反するものが自分の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていく。どうしたらいいかわからない。ただ――。
「へへっ、おんなじだな!」
嬉しそうに笑う東を見ると、歪になりかけていた何かが形を取り戻す気がした。
「ほー。仲がよくて大変よろしいじゃねぇか」
「ああ、そうだぜ。俺とオスカーは、そのたくさん細い縁を紡いで今の綺麗な縁がある。この羽織紐みたいに」
自分達の縁に色があるのなら、それはこの羽織紐と同じかもしれない。
オスカーの染まらない黒。自分が好きな青。
選んで、決めて、形になった羽織紐を、東は指先で優しく摘んで笑った。
「俺は、オスカーとの縁はもーっともっと太くなる。や、する。その途中の縁をお前に切られてやるもんか!」
響いた声がオスカーの瞳を震わせる。
途中の縁。それはつまり――この続きが、東と自分が一緒に過ごす機会や時間がこれから先に在るのだと。そう、言ってくれた。
オスカーの白い手が羽織紐を繋ぐ小鳥に触れる。
「今でもまだ、この縁が出来て良かったのか、続いてもいいのか俺には、分からない……」
怯える小鳥の内側には、殺しを求める本性が在る。
それでも。
「……まだ分からないからこそ……それに何より、東が守りたいっていうなら、俺も……まだ切られたくはない、かな」
仮友達から始まった縁の形は、それぞれ違って見えているかもしれない。
けれどあの日から続く今――その先を望む心は、同じだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
星崎・千鳥
【空鳥】
ふふ憶えてた?
そ
ディスティニーサーガの前からボクは双良を知ってたよ
大昔
悪夢を視て震えるボクへ「やっつける」って言ってくれた男の子
双良はその頃からヒーローだよ
だってMMOの徹夜プレイ推奨だよ?やるよ
ご飯美味しかった
でも倒れた
今は健康管理されてる仲
ボクはね
双良の黒い気持ちも鮮やかな色してて、大好き
最初のやっつけるだって黒と赤
殺したいを肯定するのと実際殺さず留まれるのは違う
え
今更手放すの?(ガン見
クーリングオフ期間ないよ
隠し武器で斬り裂いて
反撃されても恐くない
悪夢が止めてくれると知ってる
双良の激情には何時だって救われてる
代わりに怒ってくれる
で
一緒に、笑お
これからも一緒だよ?ね、相棒
蓮見・双良
【空鳥】
ちぃと出逢ったのって、子供の時だったよね
それで僕が能力者に覚醒して…
ディスティニーサーガをみんなで徹夜でクリアしよう、って話になって
あの時、運命予報士のちぃが一番張り切ってなかった?
…まぁ、だろうなとは思ったけど
ろくに食べもしないから、僕が差し入れして…
そこから面倒見るようになって、相棒になった
ちぃが僕のありのままを受け入れてくれたから、今の僕は在る
…両親を蔑ろにする親族を殺したい、だなんて想いまで知った上で
傍にいてくれる存在ができるなんてね
…一度手に入れると、手放したくなくなる
視線には微笑み
…手放さないよ、絶対に
僕をの大切なものを奪う相手は全部
悪夢で喰らってあげるよ
頷き
勿論、ずっとね
「はい次。お前ら」
「聞かせてもらう態度としてどうかと思うな、それ」
「でもさ、目を潤ませてお願いしますうって言われてもそれはそれで嫌じゃない?」
「おいやめろ俺を気色悪くするな」
被せ気味で飛んできたツッコミに双良と千鳥は浮かべた笑みを交え、それじゃ、と互いに頷いた。自分達の縁、その始まりは確か――。
「ちぃと出逢ったのって、子供の時だったよね。それで僕が能力者に覚醒して……」
「ふふ、憶えてた?」
「うん。それで、ディスティニーサーガをみんなで徹夜でクリアしよう、って話になって」
「そ。――あ、ディスティニーサーガってボクらの世界にあったゲームね。けど、ディスティニーサーガの前からボクは双良を知ってたよ」
これだけわかってれば十分でしょと千鳥は必要最低限だけを添え、双良もそれで十分と微笑みながら頷いた。
大昔。銀の雨が降る世界での事。
悪夢を視て震えていた千鳥へ、ある男の子が「やっつける」と言ってくれた。その男の子が――。
「双良はその頃からヒーローだよ」
かすかに浮かべた笑顔に双良も笑む。随分と懐かしい話だ。あの世界が大きな変化を迎え、銀の雨が再び降り始めるよりもずっとずっと前に自分達は出会って――今はこうして別世界で思い出話に花を咲かせている。
「あの時、運命予報士のちぃが一番張り切ってなかった?」
「だってMMOの徹夜プレイ推奨だよ? やるよ」
「……まぁ、だろうなとは思ったけど」
「そいつゲーマーか」
「そう。ちぃはろくに食べもしないから、僕が差し入れして……」
「双良のご飯美味しかった。でも倒れた」
「はぁ? 倒れるまでゲームしたってのか?」
眉間に皺を寄せこちらを見た縁切り屋に、双良は当時を思い出し、困ったように笑って肩を竦める。プレイしたゲームがゲーム過ぎるものだから仕方ない――とは、あまり思いたくないけれど。諸々の事情が事情だった為に、当時、ディスティニーサーガを限界までプレイした能力者は多数いた。
「そこから僕がちぃの面倒見るようになって、相棒になった」
「うん、そう。今は健康管理されてる仲」
「……上等な縁だと思ったが癖も強いな……」
そういう繋がりと想像していなかった縁切り屋の反応に、こういう変わり種も味変みたいでいいんじゃないのと千鳥は適当に返し、緩く笑う。
その耳に花火の音が入る。視界の隅っこがほんのりと青に染まった。
ああ、また誰かが打ち上げてるのかな。そう考えながら双良を見ると、こちらを見ていた綺麗な空色の目が静かに細められていく。
「ちぃが僕のありのままを受け入れてくれたから、今の僕は在る」
柔らかな表情。礼儀正しく、几帳面。それと、品行方正の四文字がよく似合う青年――今は運命の糸症候群の影響で少年だが――というのが、双良と接した者のほとんどが抱く印象だろう。だがそれらは蓮見・双良という人物を説明出来はするものの、双良を構成する全てではない。
「……両親を蔑ろにする親族を殺したい、だなんて想いまで知った上で傍にいてくれる存在ができるなんてね」
「ほーう」
縁切り屋の口がニィ、と弧を描く。しかし双良は意に介した様子もなく、千鳥もまた、緩く浮かべていた笑みを深めて返す。
「ボクはね。双良の黒い気持ちも鮮やかな色してて、大好き」
「そう?」
「そ。最初の『やっつける』だって黒と赤。殺したいを肯定するのと、実際殺さず留まれるのは違うしね」
自分の中にある黒い気持ちを理解し、制御出来るのは、蓮見・双良が獣ではなく人である証であり、だからこそ、双良は今も自分のヒーローだった。
――そんなヒーローにとって、ありのままの自分を知った上で傍にいてくれる存在は『何』と呼べばいいのだろう。
「……一度手に入れると、手放したくなくなる」
「え。今更手放すの? クーリングオフ期間ないよ」
普段の緩さ漂う眼差しよりも、いくらか見開かれた真っ赤な目。じっと凝視しながらのお知らせに双良は柔らかに笑った。そんなシステム、これっぽっちも必要ない。
「……手放さないよ、絶対に」
故に、二人は同時に動いていた。
縁切り屋が行動を起こした瞬間、間合いに入った千鳥の得物が匕首を弾いて傷をつける。即座に構え直された匕首はしっかりと千鳥を捉えていたが、赤い眼差しは揺らがない。
反撃の姿勢を冷静に見ていられたのは、こうなると――どうと駆けてきた悪夢がそれを阻むと知っていたから。
双良が抱く激情の前では人も過去の残滓も平等だ。
大切なものを奪おうとするものは全て悪夢に喰らわれる。
――だからこそ。
「ボクさ、双良の激情には何時だって救われてる。代わりに怒ってくれる。……で。一緒に、笑お。これからも一緒だよ? ね、相棒」
「勿論、ずっとね」
子供時代から続くこの繋がりは、きっと、皺くちゃお爺さんになっても続いている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カイム・クローバー
天魔
縁、ねぇ。
(彼女の頭にポンと手を置いて)心配するな、俺に任せとけ。(ウインク)
俺はしがない便利屋でね。スリリングな依頼が好きなんだ。
彼女の予知した依頼を俺が解決。ヤバイ案件が多くて報酬もいい。そんな折、彼女と話す機会があった。
『カミサマ嫌い』ってのと――余裕と調子を崩さない態度、似てるって思った。誘ったか、誘われたか…ダンスの機会にも恵まれてね。
スタイル抜群の美女と便利屋のイケメン。
血生臭い故郷じゃなけりゃ、絵画にでもなりそうな一幕だ。
それが馴れ初めさ。
今は本当の意味で彼女を笑わせようとしてる最中だ。
まだ物足りない?何なら酒に付き合えよ。朝まで彼女の魅力を語ってやるぜ。
カタリナ・エスペランサ
天魔
自分とは違う
自分の記憶。
切れた縁は戻らない
だからこそ勝手に縁を切るような部外者は捨て置けないね
羽の《属性攻撃+弾幕》を張る為に翼を広げようとして――
カイムさんに案があるなら乗ってみようか、と一歩下がり。
……馴れ初めというのも、改めて語られるとどうも落ち着かない
寧ろアタシに聞かせてるんだろうな、と察しつつ……
縁を語って敵の隙を作る作戦。そういう作戦だったね、うん
話してる間に《目立たない+早業》で仕込んだ《ハッキング+竜脈使い》の魔法陣を起点に
【世界の不完全証明】、重力崩壊による爆縮現象で吹き飛ばそうか
……少しばかり手元が狂った気がするね。
しっかり仕留めに行こう、と足早に。
既にいくつかユーベルコードを喰らっている筈だが、その度になにくそと悪態をつきながら起き上がる男。未だに縁を切る気でいるのを見たカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)の目は静かに冷えていった。
(「
自分とは違う
自分の記憶……」)
切れた縁は戻らない。だというのにあの男は――いや。それを理解しているからこそ、愉しみながら縁という縁を切ってきたのだろう。
「……勝手に縁を切るような部外者は捨て置けないね」
「少し待ってくれ、カタリナ」
「? カイムさん……?」
翼に力を込めようとしたカタリナにカイムはいつもと変わらない笑みを浮かべると、視線だけを縁切り屋に向けた。向こうが縁を切る前に求めるものはつまり――
縁だ。
「心配するな、俺に任せとけ」
カタリナにはウインクをひとつ。縁切り屋には、数歩前へ出る事で次の語り手を知らせる。
どうやら案があるらしい。ならば乗ってみようかとカタリナは一歩下がり、しかしその目は一挙一動見逃すまいと縁切り屋へしっかりと注がれる。カイムはその事を少しだけ羨ましく思いながら、フランクに自己紹介をした。
「俺はカイム、しがない便利屋でね。スリリングな依頼が好きなんだ」
「刺激がないと退屈なタイプか?」
「穏やかな日常も嫌いじゃないが、心躍るものは生きる上で不可欠だろ? ま、それでだ。俺が彼女と知り合った経緯を話してやるよ」
(「え、アタシとカイムさんの話?」)
カタリナは思わずカイムを見る。少し丸くなった目がぱちりと瞬くのを見たカイムがくすりと笑い、またウインクをした。任せとけ。あの言葉がカタリナの中でリフレインしている間に、カイムは楽しげに語っていく。
「切欠は、彼女の予知した依頼を俺が解決したからだ。ヤバイ案件が多くて報酬もいい、そんな依頼でね。そんな折、彼女と話す機会があった」
その時に自分はカタリナ・エスペランサという女性の人となりを垣間見て――あのひとときが、今も強く心に残っている。
「『カミサマ嫌い』ってのと――余裕と調子を崩さない態度、似てるって思った。誘ったか、誘われたか……ダンスの機会にも恵まれてね」
「へーえ?」
それを聞いた縁切り屋がカタリナへとからかうような笑みを向けてくるが、カタリナが先程浮かべていた驚きはとうに引っ込んでいる。
――ように見えて、心の中はどうも落ち着けずにいた。
カイムはその気配を拾っているのか、いないのか。当時を思い出しながら語るその顔には、変わらぬ笑みだけが浮かんでいる。
「スタイル抜群の美女と便利屋のイケメン。血生臭い故郷じゃなけりゃ、絵画にでもなりそうな一幕だ。それが馴れ初めさ」
「自分で言うか? だがまあ、そうだな。絵になる二人ってのは同意だ。縁の切り甲斐も増すってもんだぜ」
最後の余計な一言にカイムは無言の笑みだけを返し、カタリナは『馴れ初め』という言葉で、再び落ち着かないものを覚えていた。今の話は、寧ろアタシに聞かせてるんだろうな――そう察して熱くなりそうだった頬は、ある事を思い出し平静さを取り戻していった。
(「縁を語って敵の隙を作る作戦。そういう作戦だったね、うん」)
敵の意識がカイムとカイムが語るもの――馴れ初め――の四文字はあまり考えないようにしつつ、その二つへ向いている隙にとカタリナは気取られぬよう“仕込み”を始め、カイムの話は『馴れ初め』から『その後』へと移っていく。
共に赴いた場所の事。交わした言葉。その時の感情。
ひとつひとつに縁切り屋は「ほうほう」「へえ」と反応し――カタリナがどのようなものを仕込んでいたか知ったのは、自らの体が花火のように吹き飛んで地面にべしゃっと落ちてから数秒後の事。
「……少しばかり手元が狂った気がするね。しっかり仕留めに行こう」
今度はもっと近くで的確に。足早に行く様にカイムはくつくつと笑い、ふらつきながら起き上がる縁切り屋を悠然と見て誇らしげに笑った。
「こういう所も彼女の魅力さ。今は本当の意味で彼女を笑わせようとしてる最中だ」
「つまり……話のネタは他にもあるって事だな?」
「何だ、まだ物足りないか? 何なら酒に付き合えよ。朝まで彼女の魅力を語ってやるぜ」
「いや、朝まではいい。そこまで望んじゃいねえ」
「何だとオイ」
一体何をどう語られるのか。
目を点にして動かないカタリナをよそに、男二人はバチバチに火花を散らすのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
明日知・理
【紅桔梗】
アドリブ歓迎
_
この男の凶行はここで止める
これ以上誰の縁も切らせない
……俺とルーファスの出会い方は、あまり穏便なものではなかったな
本気で戦って、けどそこで縁は繋がれていて
すれ違いもした、彼の手を離すべきだと唇を噛み締めたときもあった
けど、それを乗り越えて、二人で今、此処にいる
ルーファスの言葉にバツが悪くなったりするも結局は瞳細め
「…それにほら、相対しているお前も、今俺たちと縁が結ばれたぜ」
だから縁切りなんか止めて一緒に遊びに行こうぜと笑い
_
俺たちは絆で確かに繋がっている
誰にも切れない、切らせない
ルーファスの隣は誰にも譲れないし、譲らない
好きなんだ、──これから先も、ずっと。
ルーファス・グレンヴィル
【紅桔梗】
ナイトを苛めた奴に手あげてるとき
止めに入ってきたのがコイツ
そのまま理もボロボロにしたな
そこから幾度か顔を合わせて
話して、触れて、仲良くなって
気付けば理は欠かせない人になって
親友になったこともあったが
今の恋人っつー関係に落ち着いて
まあ、それでも何回か擦れ違ったけどな
コイツ、基本的に無理しちまうから
オレが止めても、なーんも聞かないし
なんて、けらけらと笑って話す
──でも、そんな面にも惚れた
放っておけなくて、目が離せなくて
今だって敵のお前にも手を差し伸べてる
お陰でオレも簡単には殺せなくなったよ
好きだから
笑ってほしいから
独りでは泣かせねえから
これから先も理の隣に居る
この『縁』はずっと切れねえよ
自分の愉悦の為だけに、他者が持つ縁を切る。
――そんな凶行はここで止める。これ以上誰の縁も切らせない。
言葉なく決意した理の眼差しは冷えて鋭くなっていたが、縁切り屋が望むものである縁――自分に纏わるものを思い出せば、かすかではあるが無意識のうちに和らいでいた。
「……俺とルーファスの出会い方は、あまり穏便なものではなかったな」
「ナイトを苛めた奴に手あげてるとき、止めに入ってきたのがコイツ」
ルーファスは『ナイト』で肩に乗る黒竜を示し、『コイツ』で理を指す。
間を置かず繋がれた補足に理の口がほんのかすかに笑みを浮かべると、ルーファスも口の端を上げ、笑って返した。
「そのまま理もボロボロにしたな」
「容赦なかったな。本気で戦って、けどそこで縁は繋がれていて」
――そう。自分達の出会いが、良い出会いだといえない穏やかさと程遠いものであったとしても、それきりで途切れなかったからこそ、あの出会いは自分達の縁だと言える。
今も共に在る二人を見た縁切り屋が、すう、と目を細められた。意地の悪い猫や狐のようだ。手にしたままの匕首の持ち手を指先で撫でながら、成る程、成る程なあと嗤い――細められたままの目がルーファスを見た。続きを求めている。
ああいいぜ、語って聞かせてやる。
ルーファスは不敵な眼差しで縁切り屋の視線を受け止めた。しかし隣の理を見た途端、真っ赤な目に浮かぶものは気心知れる相手限定の笑みに変わる。
「そこから幾度か顔を合わせて。話して、触れて、仲良くなって……気付けば理は欠かせない人になって」
それは親友と呼べる関係だった。
だがそうであったのはいっとき。理という欠かせぬ存在と日々を過ごすにつれ、ルーファスの中に変化が起き、それは理も同じで――二人は今の恋人という関係に落ち着いた。
「まあ、それでも何回か擦れ違ったけどな」
「……へぇ」
それはつまり、別れの危機があったという事では?
あっけらかんと言ってのけたルーファスに、縁切り屋が興味津々といった様子で目を丸くする。幾度か擦れ違っても共に居る一人と一人、その間を繋ぐ縁を捉えようとするように、じっと眼差しが注がれる。
縁を切る男だと知らなければ、他人の色恋沙汰に食いつく愉快な男と。そう、思えたかもしれない。――もしそうなら、自分達のこれまでを語っている状況も随分と愉快なものになってしまう。その事に理は小さく笑み、けろりとしているルーファスを見つめる。
「すれ違いもした、彼の手を離すべきだと唇を噛み締めたときもあった。……けど、それを乗り越えて、二人で今、此処にいる」
そして、これからも傍にいる。今までの全てを抱えて紡がれた言葉にルーファスが静かに目を細め――けどなぁ、と肩を竦めた。
「コイツ、基本的に無理しちまうから。オレが止めても、なーんも聞かないし」
あの時だろ、あの時だろ、それとあの時だろ。
なんて、自分の制止を聞かずに理が無理したエピソードを語ってけらけら笑うルーファスの隣では、色々と自覚がある理がバツの悪そうな顔をしていた。けれども結局は瞳を細めていく。
擦れ違った。無理をされた、した。
それをこんな風に笑って交わせるぐらいにまで、自分達は繋がっているのだと、満たされる。
「──でも、そんな面にも惚れた。放っておけなくて、目が離せねぇ」
縁という見えないもので繋がっているというが、繋がっているつもりで、たった一つの存在に心がしっかり繋がれてしまっている気もした。それも悪くねえかと思えるのは、相手が理だからだろう。
「……それにほら、相対しているお前も、今俺たちと縁が結ばれたぜ」
「……」
縁切り屋の目が丸くなり口もぽかんと開いた。ぶはっと吹き出したルーファスは手をひらひら振り、言った通りだろと肩を震わせる。
「な? 今だって敵のお前にも手を差し伸べてる。お陰でオレも簡単には殺せなくなったよ」
穏やかでない言葉だが、その裏から覗く愛情は理にしっかり伝わっていた。理は秋祭りを訪れた時とは真逆な、年相応のくしゃりとした笑みを浮かべ、穏やかに息を吐く。
「お前の見立て通り、俺たちは絆で確かに繋がっている。けど俺たちの絆は誰にも切れない、切らせない。ルーファスの隣は誰にも譲れないし、譲らない」
好きなんだ、──これから先も、ずっと。こぼれ落ちるような言葉に、ルーファスが笑う。知ってる、わかってると、理の想いを受け止める。
「好きだから。笑ってほしいから。独りでは泣かせねえから。これから先も理の隣に居る」
――だからよ、縁切り屋。
この『縁』はずっと切れねえよ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フール・アルアリア
※UC→判定用
※相棒→使役ゴーストのモーラットぱたぽん
縁切り屋さんは惚気話が聞きたい。って言うと昨今のラノベタイトルみたいだけど、つまりそういうこと……だよね?
ふっふーん、いいよ、じゃあ聞かせてあげる!僕が話すのはねぇ、相棒との縁について!!
僕が小さい頃に出会ってずっと。銀の雨が降る世界が平和になるまでずーっと、一緒に死と隣り合わせの青春時代を乗り越えて、そばで支えて、寄り添ってくれたんだよ。
今は実家で隠居生活してるけど、たまに帰ると相棒と目一杯遊んで一緒に寝るんだ。仲良しなんだー。
……最近結んだ大切な人とのご縁はね、話すのすら勿体無いから内緒。相棒とはまた違った特別で大切なご縁なんだ。
フールはここまでで縁切り屋が聞いた縁の件数を数えてから、ちらりと縁切り屋を見た。
しっかりばっちり目が合い、うわこっち見てると少しばかりドン引きして――が、たちまちピンと来たのである。あの目つき。間違いない。
(「縁切り屋さんは惚気話が聞きたい。って言うと昨今のラノベタイトルみたいだけど、つまりそういうこと……だよね?」)
惚気話。イコール、自分と何かや、誰かとの繋がり。
ある。あるある。凄まじくありますとも。
「ふっふーん、いいよ、じゃあ聞かせてあげる! 僕が話すのはねぇ、相棒との縁について!!」
「お前の相手は相棒か。いいぞいいぞ、じゃんじゃん話せ」
「じゃあまずは僕の相棒の紹介から……あっ、いい枝見っけ」
ひょいっと拾ったその枝で地面をざりざり、がりがり。
ふわふわふさふさと丸みを帯びた毛玉。可愛らしい耳と手足、尻尾を描いて、小さくつぶらなお目々も――そして忘れてはいけない、ほっぺのぐるぐるマーク!
「この毛玉妖獣がお前の相棒か」
「そ。使役ゴーストっていうんだけど、名前は『ぱたぽん』! ぱたぽんとは僕が小さい頃に出会ってずっと……銀の雨が降る世界が平和になるまでずーっと、一緒に死と隣り合わせの青春時代を乗り越えて、そばで支えて、寄り添ってくれたんだよ」
「死と隣り合わせって、どういう青春過ごしてんだお前……」
「いやー、そういう学園に通ってて。あはは!」
ゴースト事件に戦争と、銀誓館学園での青春は色々な意味で濃密で――そんな日々の中、いつでもどこでもぱたぽんがいてくれた事は大きかった。
「そのぱたぽんはどうした」
「今は実家で隠居生活してるよ。たまに帰った時は目一杯遊んで一緒に寝るんだ。今でも仲良しなんだー」
学生時代のように24時間常に一緒でなくなっても、自分達の関係は変わらない。フールは描いたぱたぽんの周りに花やお菓子を加えた。うん可愛い、後で撮っておこう。
「成る程……今話したもの以外にもあるだろ」
「鼻がきくんだね。そうだよ。でもダメ!」
両手の人差し指を交差させバッテン。お茶目に返して笑った目は、ここにいない誰かを思って静かに細められた。
「……最近結んだ大切な人とのご縁はね、話すのすら勿体無いから内緒」
相棒とはまた違った特別で大切なご縁なんだ。
こぼれた声は、日々の中で少しずつ育っていく新たな縁を慈しむように。
大成功
🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
…縁?
俺お兄さんとの縁が切れたらもう結び直さない自信あるわー
そもそも縁がつながったのいつだっけ
そうか依頼か
変な人もいるもんだと思ってたんだよ
まさかこんなに長い付き合いになるとは思ってなかった
思い返してみるとおよそ三年前だ
特別さも劇的な出会いも派手なきっかけもなく
いろいろして…
…
……もしかして悪縁の類だったのかもしれない
よし喧嘩売ってるな。買うよ
俺は、いつ切ってももう大丈夫だから
そして結びなおさなくとも大丈夫だから
あの、ちょっと黙っててくれます?(敵に
今大事な話してるんで
あと俺はお兄さんがいなくとも強いから
大体毎回誉め言葉が…
(以下延々としょうもない言い争いを繰り広げた
夏目・晴夜
リュカさんf02586と
…麺?
確かに切れてもいちいち結び直さず食べますよね
わかる
あ、縁ですか
確か依頼キッカケでグリモアベースにて顔を合わせたのがファースト縁だったかと
その依頼では骨折れまくるわ血が出まくるわ、やべえ依頼へ連れ出すグリモア猟兵がいたもんだなと思ったものです
そうそう、本当に色々しましたねえ…
何したかちょっとパッと出てこないですが
しかし縁が繋がって早三年も経つとは驚きです
つまり、世界の中心であるハレルヤという引力に引かれて早三年というわけですね
おめでとう
いつ切ってももう大丈夫…?
切られても平気ならば、それは即ち無敵という事では!?
残念でしたねえ縁切り屋、我々は仲が悪いが故に最強です!
他の猟兵から話を聞き終えた縁切り屋が何か言いながらこちらへやって来る。その音を拾った狼耳が、耳の先端でくるんっと円を描くように動いた。
「……麺? 確かに切れてもいちいち結び直さず食べますよね。わかる」
めん。
晴夜の発言で、リュカの眉間によくよく見ればわかるくらいの皺が刻まれ、すんっ、と引っ込む。
「……縁?」
「あ、縁ですか」
「お前ら何の話してんだ。ラーメンの屋台なら確かあったぞ」
「おや、それは朗報ですね! 聞きましたかリュカさん、ラーメンの屋台ですよ!」
「いいね、じゃあ終わったら食べよう。お兄さんの奢りね」
「何でですか!」
別の話へとすっ飛びそうな気配に、今度は縁切り屋の眉間に皺が刻まれた。しかしはっきりと見えていたそれは、リュカの「ところでさ」からなる軌道修正で薄れる事となる。
「そもそも縁がつながったのいつだっけ」
そうそれだ。
ラーメン奢る奢らないではなく、縁の話だ。
うんうんと頷く縁切り屋を視界に入れつつ、晴夜はそうですねえと顎に手を添えて振り返る。
「晴夜とリュカさんの縁ですか。確か依頼キッカケでグリモアベースにて顔を合わせたのがファースト縁だったかと」
「そうか依頼か。あの時は変な人もいるもんだと思ってたんだよ。まさかこんなに長い付き合いになるとは思ってなかった」
リュカの目はそこはかとなく遠くを見るものになり、対する晴夜も過去を振り返って――「やれやれです」と言いたげなものとなる。何せファースト縁であるその依頼が凄まじかったのだ。
「奇遇ですねリュカさん。その依頼では骨折れまくるわ血が出まくるわ、やべえ依頼へ連れ出すグリモア猟兵がいたもんだなと、この晴夜も思ったものです」
「そうだったね」
「そうだったんですよ!」
思い返してみると――。リュカは頭の中で数字を刻みながら遡る。
――ああ、およそ三年前だ。
「特別さも劇的な出会いも派手なきっかけもなく、それからいろいろして……」
「そうそう、本当に色々しましたねえ……何したかちょっとパッと出てこないですが」
あっさり、けろり。
晴夜の言葉にリュカが口を閉じ、縁切り屋がマジかよと驚きを浮かべた。
「……」
「出てこねえのかよ。三年ってそんな昔の話じゃねえぞ」
「まあまあ、縁切り屋。ですがこの晴夜と関わってからの約三年ですから、それはもう個性的で後世に伝えられるものだったのでしょうね! しかし縁が繋がって早三年も経つとは驚きです」
「…………」
そんな中、リュカの口は未だ閉じられたままだ。その顔を見た晴夜はある事に気付く。これは面倒臭くて黙っているのではなく、何かしら思い至ったものがある時の無言リュカさんでは?
「どうしましたリュカさん」
「…………もしかして悪縁の類だったのかもしれない」
ビンゴ。
しかしリュカの発した言葉が晴夜の中にも一つの解を生み出した。
「つまり、世界の中心であるハレルヤという引力に引かれて早三年というわけですね。おめでとう」
キラッ。
すぐそこで自信たっぷりに浮かべられた笑顔が、リュカの双眸に宿る温度をまあまあ下げた。
「よし喧嘩売ってるな。買うよ」
「おっ、喧嘩か。いいぞ、喧嘩も縁に華を添えるからな」
「お兄さんとの縁、俺は、いつ切ってももう大丈夫だから。そして結びなおさなくとも大丈夫だから」
「マジかよ、じゃあ早速やってもいいってわけか」
「いつ切ってももう大丈夫……? 切られても平気ならば、それは即ち無敵という事では!?」
「おい、もしかしてコイツ凄まじいポジティブ野郎か?」
「そうだけど、あの、ちょっと黙っててくれます? 今大事な話してるんで」
よく喋る人はもう間に合ってるし。
それも、およそ三年前から。
縁切り屋へぴしゃりと言って黙らせたリュカは、その、およそ三年前から縁が続くよく喋る人物をギロリと見た。普段以上に青く冴えた眼差しに、しかし晴夜はフッフンと不敵に笑って宣言する。
「残念でしたねえ縁切り屋、我々は仲が悪いが故に最強です!」
「あと俺はお兄さんがいなくとも強いから。ていうかお兄さん、大体毎回誉め言葉が……」
「そうですリュカさん! この晴夜を讃える言葉はいくつあっても足りませんからね、後の世では晴夜褒め語録なる本が出てもおかしくありませんよ」
「いや俺はどっちかっていうとお兄さんを黙らせる本が出てると思う。そもそもおよそ三年前からお兄さんは……」
あの時こうこう、こうだった――……。
でもこの時はこうだったから、ああで、こうで――……。
二人の間で交わされる言葉は俗にいう『言い争い』であった。
そして延々と繰り広げられるしょうもないそれに、縁切り屋が「次行くわ」と言い出すまで、そう時間はかからなかったのである。
「……あれ。あっち行ってる
。…………まあいいか」
「やはり我々は最強ですね、リュカさん!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
月風
不思議そうに首を傾げ
…そんな簡単に切れると思って聞いてんのか?
しっかり瑠碧の手を握って
お前に切られる程度だったらきっともう多分切れてる
瑠碧は俺に愛を教えてくれた人で唯一の人だ
最初は姉さんみたいに思ってて
だけど
段々俺が守りたいって願うようになって
…実際は泣かせてばっかで
今も…たまに
申し訳なさげに肩落とし
だから
今も繋がってるのは
瑠碧が頑張ってくれてるからだ
臆病で繊細で
でも頑張り屋で
俺は決して離すつもりはねぇ
そっと肩を抱き寄せ
もう俺は無力な子供じゃねぇ
理不尽に俺から何も奪わせはしない
ましてや俺の瑠碧を
俺から奪おうなんざ
…覚悟は出来てんだろうな?
ああ瑠碧
ふざけた事抜かす野郎に
思い知らせてやろうぜ
泉宮・瑠碧
月風
縁を切る方、ではあるらしいですが
理玖と手を繋ぎ
もし切れたとしても
理玖となら繋ぎ直せるとも思います
…元々は、切れる縁だと思っていましたから
私は姉貴分で…世から消えたいとも思っていて
理玖が誰かと結ばれて私の手が要らなくなったら
私はもう消えようと思っていましたし…
切れずに繋がっているのは
理玖が私を特別に想ってくれたからですね
…姉の時から特別とは聞いてましたが
理玖が居る、それだけで守られています
独りが当たり前だった私の、唯一の拠り所…
それが理玖です
抱き寄せられて寄り添い
不要な縁を切るのは構いませんが
理玖の縁は、そのまま私の命の緒です
切りたければ相応の覚悟でいらしてくださいね
…切れるとも思えませんが
縁切り屋が匕首の切っ先を上向きにし、ひらり、ひらり。
宙に絵を描くように動かす度、匕首持つ手首に引っ掛けられている数珠が鳴った。
白狐の面。白灰の着流しに、色彩を深く揺らめかせる紺桔梗の羽織。オブリビオンだとわからなければ、秋祭りの賑わいから暫し離れて休む様に見えなくもない。
「縁を切る方、ではあるらしいのですが……」
本当にあの刃物で?
じっと見つめる瑠碧の手は理玖の手と繋いだままだ。もし切られたら、この手はどうなってしまうのだろう。勝手に離れて、繋げなくなってしまうのだろうか。
警戒と疑問の両方を浮かべていた理玖も、不思議そうに首を傾げる。
「……そんな簡単に縁が切れると思って聞いてんのか?」
「実績があるから思ってるし、聞いてんだよ」
笑みと共に匕首の切っ先が二人に向いた。自分達が繋いでいる手を指していると気付いた理玖は、繋ぐ手を自身で隠すようにしながら警戒と不快感を露わにする。
「お前に切られる程度だったらきっともう多分切れてる」
だが、自分達は今こうして一緒にいる。手を繋いでいる。
理玖が示した“違う”に瑠碧は嬉しそうに微笑んだ。柔らかな眼差しは、縁切り屋を映すと真剣な色へと変わる。
「もし切れたとしても、理玖となら繋ぎ直せるとも思います。……元々は、切れる縁だと思っていましたから」
「そりゃあ興味深い話だ。何があった?」
瑠碧は僅かに目を伏せ――そっと上げた。
自分と理玖が出会った頃、お互いの関係は今とは全く違っていた。
「私は理玖にとって姉貴分で……そして私は、世から消えたいとも思っていました」
自分を贄に差し出した親。顔すら覚えていない二人。
姉は自分を愛し、あの日炎から逃がそうとしてくれたが――結果、命を奪われた。
炎は姉だけでなく故郷をも呑み、ただ一人生き残った自分が誰かに愛されるなど当時は思ってもいなかった。望む事もなかった。
「理玖が誰かと結ばれて私の手が要らなくなったら、私はもう消えようと思っていましたし……」
瑠碧姉さんと呼んで慕ってくれる青年が他の誰かの手を取るならば、自分が彼の手を繋ぐ必要はない。だから消えようと――そこで縁は切れると、思っていた。
「でも、今はこうして……」
掌と指から伝わる温かさ。隣にいて、じっと自分を見つめる青い瞳。
瑠碧は静かに柔らかに表情を綻ばせた。
「切れずに繋がっているのは、理玖が私を特別に想ってくれたからですね」
「……瑠碧だってそうだぜ」
繋ぐ手を見つめそう呟いた理玖は、その視線を縁切り屋へと向ける。
「瑠碧は俺に愛を教えてくれた人で唯一の人だ。最初は姉さんみたいに思ってて。だけど、段々俺が守りたいって願うようになって……実際は泣かせてばっかで。今も……たまに……」
「おいおい、頑張れよ彼氏」
申し訳無さそうにしゅんと落ちた肩が、からかう声でぐっと元に戻る。元気をなくしかけた表情も「うるさい」としっかり言い返し、胸のうちに抱いた確かな光を双眸にも映した眼差しが、縁切り屋へと真っ直ぐ注がれる。
「今も繋がってるのは瑠碧が頑張ってくれてるからだ。臆病で繊細で、でも頑張り屋で。俺は決して離すつもりはねぇ」
誰が何を言おうと、誰が、何をしようと離しはしない。そっと華奢な肩を抱き寄せれば、くん、と浴衣の袖を摘まれた。近くなっていた距離が、より、近くなる。
「……姉の時から特別とは聞いてましたが……理玖が居る、それだけで守られています。独りが当たり前だった私の、唯一の拠り所……それが理玖です」
縁切り屋の目が静かに細められていく。その目が捉えているものは、目に映っているものだけではないだろう。二人は繋ぐ手に力を込め、嗤う目を真っ直ぐ見つめ返す。
「もう俺は無力な子供じゃねぇ。理不尽に俺から何も奪わせはしない。ましてや俺の瑠碧を俺から奪おうなんざ……覚悟は出来てんだろうな?」
「不要な縁を切るのは構いませんが、理玖の縁は、そのまま私の命の緒です。切りたければ相応の覚悟でいらしてくださいね。……切れるとも思えませんが」
「ああ瑠碧。ふざけた事抜かす野郎に思い知らせてやろうぜ」
「――ハッ。いいな、お前らの縁」
言葉。眼差し。
向けられるもの全てから二人を繋ぐ縁の深さがわかる。
「切ったらこう、ぶつんッと、いい手応えがありそうだ」
そう言って嗤う男の周り、何もなかった空中に現れた無数の狐火が空気を燃やした。重なった音の厚み、夜を照らす炎と熱。そこから瑠碧を守るように理玖が前に出る。
「お前がそれを覚えることはねえよ」
「……私と理玖の繋がりには、決して、触れさせはしません」
告げたものを現実にする為。想うものを守る為。そして、未来を共に歩む為に。二人のユーベルコードは疾風の如きスピードを見せ、赤く染まっていた夜を黒へと戻していく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
六道・橘
【宿世】
彷は前世の双子の兄
橘→彷:恋愛片想いに気づいてしまった
※両者アドリブ歓迎
絆なんてないわ
赤の他人に傷ついてUC使用
初手は彷を斬り後は敵
寿命の為に他所様なんて斬れないわよ
ため息
敵睨み
彷との関係?
気づくと居るけど探すといない人
特別な所なんて
わたしが人斬りするのをつけ回して証拠隠滅するぐらいしかないわ
彷はすぐ自分を粗末にするし
心が虚ろだって絶望していて
(初めて逢ってその寂寞を見た刹那、己の心は虜になっていた。前世の兄じゃなかったら縁が切れそうで…恐い)
…そ、その
わたしなんかで良ければ…
(心を埋めてあげたい…彼の恋心はわたしだけの物にしてしまいたい独占欲。けれど無理。身分も気持ちも釣り合わない)
比良坂・彷
【宿世】
橘は前世双子の弟
ただし打ち明けあってない(橘共通
彷→橘:前世で死なせたし離れないと…本音は「兄弟」一緒がいい
え、言い切るの?負けるよ?(UCで殴りタゲ取り
まァ危なくなったら逃げなね
赤の他人の俺なんてほっといて(諦めきってるので
…あ
やった斬ってくれんだ
ふふ俺は他所様じゃないんだね
きっちゃんが斬ってるのって通り魔や殺人犯だけど
私刑がバレると猟兵としても拙いからねェ
いや“知り合い”が捕まったら目覚め悪いし
いいの
俺に構ってくれるし
真っ直ぐな眼差しが(弟そのままで)好きだから
最後に敵の耳元で
俺の花さ「想うは1人、また逢う日を楽しみに」
此を咲かせて前世から追っかけて生まれたの
絆語りって此で宜しい?
「で。お前らも縁や繋がり、絆について話しちゃくれるが切るのは駄目ってか?」
「絆なんてないわ」
「え、言い切るの? 負けるよ?」
問われた六道・橘(
加害者・f22796)は見下ろすように鮮やかな緋色の目を向けて、即、冷たく返し。橘の言葉に比良坂・彷(冥酊・f32708)はどこか透明な緋色の目をぱちくりさせ、あ、俺は比良坂・彷ねと雀牌セットでぶん殴るついでに自己紹介をした。
「いっ――てぇなオイ!」
抗議の声は右から左へサヨウナラ。けれど縁切り屋の目がギラギラと自分を映すのを見て、彷はゆるりと目を細めた。男を捉えたまま、橘へ向けた掌をひらひらさせる。
「まァ危なくなったら逃げなね。赤の他人の俺なんてほっといて――あ、」
伝えた瞬間腕に走った熱。真っ直ぐ綺麗な一本線を感じさせる痛み。
それを刻みつけた橘は文句を垂らしていた縁切り屋に向かい、手にしている得物でそれはもうザクザクザックリと斬りつけていた。
「何ッ、だこの女! そういうのは俺に話を聞かせてからに――!」
「五月蝿いわよ」
「やった斬ってくれんだ」
橘が振り向く。動きに合わせて揺れた黒髪の下、いつも以上に鮮やかに輝く緋色の視線は彷を見てすぐに外された。
「寿命の為に他所様なんて斬れないわよ」
「ふふ俺は他所様じゃないんだね」
「……」
「…………穏やかじゃねぇなぁ……お前らどういう関係だよ……」
片や笑顔。片やため息。
話を聞く前にまた斬りかかられてはたまらんと距離を取る縁切り屋を、橘が睨む。
「彷との関係? 気づくと居るけど探すといない人。特別な所なんて、わたしが人斬りするのをつけ回して証拠隠滅するぐらいしかないわ」
「本当に穏やかじゃねぇな」
「まーね。きっちゃんが斬ってるのって通り魔や殺人犯だけど、私刑がバレると猟兵としても拙いからねェ。いや“知り合い”が捕まったら目覚め悪いし」
知り合い。
その言葉に橘はふん、と視線を外し――表情を隠す。
そうだ。自分達の関係は、“前世では双子の兄弟だった”という少し特殊なだけで、それ以外に特別な所なんてない。自分達は赤の他人。ただの知り合い。
(「――なのに」)
そう言った口が「他所様じゃないんだね」なんて言って、笑いかけてくる。
前世の繋がり、双子の兄弟であった事は確かだというのに、それを覚えているのは自分だけ。今生での彼は赤の他人だの知り合いだの――それは事実だが、言葉が表している意味、そこに在る距離感が好きじゃない。
それらを思い出していると、他にも色々なものが橘の中から溢れてきた。外していた視線と、それと一緒に隠していたものを元に戻せば、うすら微笑む彷と目が合う。
「彷はすぐ自分を粗末にするし」
“赤の他人の”“俺なんてほっといて”。
どうして、あんな言い方をするの。あれじゃあ、まるで何かを諦めきって――。
(「――違う」)
まるで、じゃない。
「彷は心が虚ろだって絶望していて」
馴染み深い緋色に染まった目が笑う。その笑顔に、初めて逢った時の彷が重なった。
寂寞を見た刹那、その一瞬で橘の心は彷の虜になっていた。前世の繋がり、彼が自分の兄だったという事実がなければ、今生の自分と彼を繋ぐ縁が切れそうで――恐い。
それに、自分から向かう情の矢印は一方通行だ。向こうを指しているだけで、彼が勝手にいなくならないよう留めるなんてしてくれやしない。
「いいの」
彷の浮かべていた微笑が、深まった。
「きっちゃん、俺に構ってくれるし」
さっきだってそう。ほら、ね。
そう言って微笑みを向けたそこには、腕に走る綺麗な一本線。
「それに……真っ直ぐな眼差しが、好きだから」
前世の、双子の弟。そのままで。
浮かんだ言葉を彷は紡がず、微笑み浮かべる唇で隠して閉ざす。
前世では弟を死なせてしまった。同じ道を辿らないよう今生では彼――彼女から離れなくては。そう思うも、心の底、本音は“兄弟”一緒がいいとばかり言う。
嗚呼けれど。もしも。もしかしたら。赤の他人で知り合いとなった今生なら、自分達を繋ぐ縁は、あの頃とは違う形をしているのだろうか。
「……そ、その」
橘が口を開く。
「……」
ちらり。縁切り屋が橘を見る。が、黙っている。賢明な判断だ。
「わたしなんかで良ければ……」
かすかに染まっていく白い頬の向こう、生まれるのは独占欲だ。
彼の心を埋めてあげたい。彼の恋心はわたしだけの物にしてしまいたい。
(「……けれど無理。身分も気持ちも釣り合わない」)
底の底までも透明な赤に染まった目が、自分を映し微笑み続けているのだとしても。
橘が背を向け祭り会場へと戻ろうとするさなか、彷はふいに縁切り屋の肩を組み、ガッと引き寄せた耳元で囁く。
「俺の花さ、『想うは一人、また逢う日を楽しみに』なんだよね。此を咲かせて前世から追っかけて生まれたの」
――ね。絆語りって此で宜しい?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千家・菊里
【満】
ふむ、縁ですか
(伊織が喋りかけた矢先
被せる様に|《うっかり被ったけど気にせず》呟き
とても鎮痛な面持ちで縁切り屋さんを見遣り)
貴方、“無縁”という言葉は御存知ですか?
(口を挟もうとする伊織を尻目にそのまま続け)
実はですね、この伊織は――悲しい事に、“無縁”なのですよ
何かにつけては美人云々ふらふらほいほい、花を求めて彷徨っているのですが――ええ、“無縁”なのです
貴方が動くまでもなく、すっぱり切り捨てられっぱなしなのです
いやぁ、すみませんね…そもそも無いものは切りようが無いでしょう…
おや伊織、何を言うのです
見てください
この可愛くぎゅっと繋がれたお供達のおててを
切り離すなんてとんでもないでしょう
呉羽・伊織
【満】
よしオッケー、縁切りネ
んじゃ存分に切ってイイヨ、この悪縁を…
(とか言いかけたトコで被せてきた狐にジト目向け)
おい、ちょっと――
何の話してんの…??
(怪しすぎる雲行にどんよりと表情曇らせていき――)
違う、ソージャナイ…
そんな話は暴露しなくていいの~!(頭抱え)
嗚呼…もうっ!!
縁切り屋サン!ドーゾ一思いに遠慮なく!
この狐との悪縁腐れ縁を綺麗サッパリ断ち切ってくださる!?
てか…あの、ホントに切れる…?
あの手この手を尽くしても何故か切れた試しが無いってか寧ろ余計縺れっぱなしってか…そんな感じなんだケド…(遠い目)
…!(
珍獣団を前に更に頭抱え)
ソレは反則~!
くっ、何この雁字搦め…!
匕首を手に縁切り屋がこちらへ来たとなれば、呉羽・伊織(翳・f03578)のやる気はしっかりバッチリ、ガシッと、より強固なものになる。
「よしオッケー、縁切りネ。んじゃ存分に切ってイイヨ、この悪縁を……」
「ふむ、縁ですか」
声が被った。
伊織のジト目が遠慮なくザクザク注がれるも、声の主である千家・菊里(隠逸花・f02716)はうっかり被った呟きをそのまま――被せた? 被ったけど気にしていないと? 甘味に誓って誤解だと申し上げましょう。
仮に「ええーまことでおじゃるかー」とツッコミが飛んでこようとも、菊里の顔に浮かぶものを消せやしない。
「貴方、“無縁”という言葉は御存知ですか?」
「おい、ちょっと――」
「? それくらい知ってるが」
「実はですね、この伊織は――悲しい事に、“無縁”なのですよ」
「この男が……?」
「え、菊里サン? 何の話してんの
……??」
口を挟もうとした伊織は、自分そっちのけで始まった気配濃厚な会話に凄まじく嫌な予感を覚えた。ていうか、なーんで会ったばっかの狐としっかり空気合わせてんのこの妖怪???
嫌な予感と疑問でいっぱいの視線を二人へバシバシ注ぐが、返ってくるのは揃って浮かべられる鎮痛オブ鎮痛な眼差しのみ。
グリモアを持っていなくとも、この後にやって来る展開が何だかわかってしまう。恐らくそれは、今までの経験から来る予感だろう。それも、確信に近いものだ。だがそんな事、伊織はこれっぽっちも嬉しくなかった。
「何かにつけては美人云々ふらふらほいほい、花を求めて彷徨っているのですが……」
「あのもしもし?」
「美人、花を求めて……?」
「ちょっと、お二人さん? ねえ聞こえてる?」
予感を現実としない為、状況を打破する為。間に入り込むように、または敢えて被せて話しかけるも、菊里と縁切り屋は双方の間で交わした鎮痛な様をちらちらと寄越すのみ。互いの言葉は相手へ向けるだけで、伊織に返す様子はない。
「ハッ!? おい、まさか――!」
「いやいや、『ハッ!?』じゃなくて……!」
「――ええ、“無縁”なのです」
愕然とする縁切り屋。
くっ、と悲しみを湛える菊里。
即席だが伊織が項垂れるほどのコンビネーションを見せた二人は、「違う、ソージャナイ……」とガックリ崩れ落ちた伊織を他所に無縁話を展開していく。
「それじゃあ、こいつは……」
「ええ。ええ。貴方が動くまでもなく、すっぱり切り捨てられっぱなしなのです」
「何てこった……」
「いやぁ、すみませんね……」
「いや、謝るこたぁねえ。俺の方こそ、縁切り屋の癖に気付かねぇとは……」
「いえいえ。そもそも無いものは、流石の縁切り屋でも切りようが無いでしょう……」
無縁と気付けなかった理由は自分という者が隣にいた為ではないか。重ねて申し訳ないと狐尾を揺らす菊里に、いやいやそんな事はと縁切り屋が言い、レジ前で「私が」「いいえ私が」と譲り合う御婦人方に似た様を醸し始めた時。
「そんな話は暴露しなくていいの~!」
怪しすぎる雲行きにどんよりと表情を曇らせていた伊織は頭を抱えた。だがこのままにするのはもっとマズイ。絶対にマズイ。
更に怪しくなりそうなそれを思い切り吹き飛ばした伊織は、自分を守るように頭を抱えていた両腕をバッと離し、自分に向けられる視線に「それはもういい!!」とNOを示し、一番大事なものを訴える。
「嗚呼……もうっ!! 縁切り屋サン! ドーゾ一思いに遠慮なく! この狐との悪縁腐れ縁を綺麗サッパリ断ち切ってくださる!?」
すると、菊里に付き合ってノっていた縁切り屋が、伊織の頭の天辺からつま先までをじっくりと見て――眉間に皺を寄せた。
「そんなに苦労してんのか、お前?」
「苦労してるからお願いしてるんですが!!?」
「うおっ、凄ぇ声」
「悪縁腐れ縁? 何の話でしょう?」
にっこり。
綺麗な微笑を見た伊織の表情が、必死から懇願へと変わる。
「てか……あの、ホントに切れる……? あの手この手を尽くしても何故か切れた試しが無いってか寧ろ余計縺れっぱなしってか……そんな感じなんだケド……」
「おや伊織、何を言うのです。見てください」
遠い目になっていた伊織は、菊里に言われるままに見て――ハッとした。
「この可愛くぎゅっと繋がれたお供達のおててを切り離すなんて、とんでもないでしょう」
「……!」
それは
珍獣団だった。可愛らしいのはおててだけではない。
なぁに? どしたの?
自分に向けられるおめめもまた――。
「ソレは反則~! くっ、何この雁字搦め……!」
更に頭を抱えた伊織へ、縁切り屋から憐れみの眼差しが贈られた事は言うまでもなく。
「何つーか……敵だけどお前に同情するわ……」
「ヤメテ! そんな視線寄越さないで!!」
伊織の叫びが秋の夜に響くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鳥・円
【まる】
おにーさんとの縁、ねえ
始まりは何だったでしょうか?
……ああ、そうだそうだ
わたしがまだサクラミラージュに相談処を設けていた時のことでしたね
おにーさん、匿って欲しいだか何だかで
そうやってわたしのところに来たんです
何やかんや色々とありましたねえ
思い返せば懐かしさが溢れるかのようです
んふ、随分長い付き合いになりましたね?
良く振り回されてくれるおにーさん
煙草とお酒が好きで、甘いものが苦手
ノリツッコミが的確で、愉快なひと
あなたも“偽物”な、不完全同士
“わたし”としての本心を口にしても
笑わずに茶化さずに
ちゃんと聴いて、認めてくれる人
兄という存在が居たのなら
こんな感じだったのかななんて
一つの型に嵌めて、形容することが難しい人
……あは、違いないですね
遠くも近くもない、ゼロと円のまあるい縁です
切れたところでくるんっと繋がりますよ
こんなところで良いですか?
切り甲斐がある縁だと思うでしょう?
切れるものなら切ってみせてくださいな
また繋がってみせますから
黒曜の翼と爪で割いていきましょう
あなたという縁を、ね!
ゼロ・クローフィ
【まる】
縁?そんなもん聞いて何になるんだ?
壊したい縁を聴くなんて結構な趣味だな
お前さんとの縁か…
『腐れ縁』初めて遭った時はそうなる気がしたなぁ
お前さんと関わるにつれて
まぁ色々あったな
縁は変わると言うが
『相棒』『酒友』
どれも当て嵌まりそうだしそうでも無いかもしれない
勝手に俺を連れまして言うことなんて聞きやしない
甘いもんまで食わせるし
俺が嫌がる事を楽しそうにしている
だが最近はよく淋しそうな顔までする
めんどくさいと感じつつもほっとけない
家族の様な兄ぽいと言ったが
『兄妹』言われたらそうだしそうじゃないかもしれない
近からずでも遠くない存在
まぁどんな縁で結んで様と俺達は俺達だ
なんど切れたとしてもきっと違う縁でまた結ぶ
切れれば結べばいいだけの話
まるくね、確かにな
俺達の縁
そうだな、『名も無き』縁
どんな縁でも出来るって最強だろ?
煙草に火をつけ一服する
黒狼煙
さて、アンタの縁は喰い千切れないほど強いかい?
こちらを見た金色二つが上向きの三日月を描く。もうだいぶ縁について聞いただろうに。向こうはまだまだ聞くつもりらしい。ゼロの気怠げな表情に“面倒臭ぇ”が加わり、それがたっぷり染み込んだ溜息も吐き出された。
「縁? そんなもん聞いて何になるんだ? つーか、壊したい縁を聴くなんて結構な趣味だな」
「悪ぃな、そういう性分なんでね。それに猟兵の持つ縁ってのは興味があるし……ああ、アレだ。ピザにタバスコかけたり料理の隠し味に色々使うのと同じだ。愉しみが増える」
「ほーんと、結構なご趣味ですねえ」
ニッコリ。笑った円の目も綺麗な三日月を描き、けれどすぐに開かれた目は自分達に向く黄金色をきらきらと映す。
「でもそれをお望みのようですし……聞かせてあげてもいいと思いますよん」
くるり向けられた笑みにゼロが溜息を返す。表情は変わらず気怠げかつ“面倒臭ぇ”と語っているが、適当な方向へ視線をやるその横顔に過去を掘り始めたのが見えた。
「おにーさんとの縁、ねえ。始まりは何だったでしょうか?」
「お前さんとの縁か……」
ひらりひらひらと幽世蝶が舞う夜空に、ぱあん、と響いた音ひとつ。記憶を辿る中、見上げた先に広がる夜空の黒が淡い桜色に染まった。
「……ああ、そうだそうだ。わたしがまだサクラミラージュに相談処を設けていた時のことでしたね。おにーさん、匿って欲しいだか何だかで。そうやってわたしのところに来たんです」
「そういやそうだったな」
「は? “匿って欲しい”?」
縁切り屋からの視線をゼロは無視した。語ろうと思えば語れるが、この男にそこまで語って聞かせる義理はない。教えてやるのは、自分達の縁の輪郭、その姿だけでいい。
「『腐れ縁』。初めて遭った時はそうなる気がしたなぁ。そっからお前さんと関わるにつれて……まぁ色々あったな」
「何やかんや色々とありましたねえ。思い返せば懐かしさが溢れるかのようです」
「なあ。その“色々”やら、“溢れるかのような懐かしさ”やらを詳細に聞かせて欲しいんだが」
「そうなるとお時間足りなくなっちゃうと思いますよ? それはもう、色々でしたから」
懐かしむように、楽しむように。ころころ笑った円は笑みを深め、ゼロを見る。
「んふ、随分長い付き合いになりましたね?」
「そうだな。縁は変わると言うが……『相棒』、『酒友』。お前さんとの縁はどれも当て嵌まりそうだし、そうでも無いかもしれない」
「何だ。付き合いが長いってえのにハッキリしねえのか」
丸くなった目が今度は愉しげに細められる。
“匿って欲しい”という二人の始まり。現在に至るまであった“色々”。繋がりを表すのに、これだと言い切れる単語が未だ無い形。不思議と朧気。しかし、あっけなく、または気付けばぷつり途切れるものでもない繋がり。
ニヤニヤと面白がる視線にゼロは溜息を吐く。翡翠のような右目は、猫のように軽やかに笑む円を映していた。
「こいつはな、勝手に俺を連れまして言うことなんて聞きやしない。甘いもんまで食わせるし
俺が嫌がる事を楽しそうにしている」
「んふふ。良く振り回されてくれるおにーさんですよ。煙草とお酒が好きで、甘いものが苦手。ノリツッコミが的確で、愉快なひと」
やれやれと顔に浮かべながら語ったそれは、ゼロ・クローフィから見た、百鳥・円という娘の事で。髪をふわふわ揺らし笑って語ったそれは、百鳥・円から見た、ゼロ・クローフィという男の事。それから――。
(「だが最近はよく淋しそうな顔までする」)
(「あなたも“偽物”な、不完全同士」)
互いを映した目は揺らぐ事なく、ただ、相手を映し続ける。
(「お前さんはめんどくさい奴だ。……が、ほっとけない。家族の様な、兄っぽいと言ったが……」)
表すならば、『兄妹』。そう言われたらそうだ。だが、そうじゃないかもしれない。
百鳥・円。
近からず、けれど、遠くない存在。
(「あなたは、“わたし”としての本心を口にしても、笑わずに茶化さずに、ちゃんと聴いて、認めてくれる人。……兄という存在が居たのなら、こんな感じだったのかな」)
なんて。浮かんだ思いに円は静かに笑み、にっこり笑った。
ゼロ・クローフィ。
彼は、一つの型に嵌めて、形容することが難しい人だ。
――ふいに、ゼロが煙草を取り出した。
「まぁ、どんな縁で結んで様と俺達は俺達だ。なんど切れたとしてもきっと違う縁でまた結ぶ。切れれば結べばいいだけの話だろ」
「……あは、違いないですね。遠くも近くもない、ゼロと円のまあるい縁です。切れたところでくるんっと繋がりますよ。こーんな風に」
円は両の人差し指の先をぴとりと付け、離して、くるーり。半円を描いた先で右手と左手の人差し指を再びくっつけて、丸にする。円が描いたものにゼロは口の端を上げて笑った。
「まるくね、確かにな。俺達の縁は……そうだな、『名も無き』縁だ。どんな縁でも出来るって最強だろ?」
「んふ、ですね。……さて、こんなところで良いですか? 切り甲斐がある縁だと思うでしょう? 切れるものなら切ってみせてくださいな。また繋がってみせますから」
男は咥えた煙草に火を付け、吸う。深く吸われた分だけ先端は明るい赤に染まり輝いた。娘はガーネットとサファイアのように鮮やかな目をきらきらさせ、黒曜の翼を鳴らす。
二人からの宣戦布告に縁切り屋はさぞ愉しげに目を細め、掴んでいた匕首の柄をくるりと回した。刃が、鈍く輝く。
「折角の厚意だ。お言葉に甘えさせてもらうぜ。勿論、文句はねえだろ?」
「ええ、どうぞ。こちらも割かせてもらいましょ。あなたという縁を、ね!」
翔けるような跳躍から鋭く舞った黒曜の翼と爪先に、遠い秋祭りの光りが反射する。匕首とぶつかり、火花を散らし強かに弾いて皮膚を裂いた瞬間、ゼロがたっぷりと吐き出した煙が唸り声を響かせた。
「さて、アンタの縁は喰い千切れないほど強いかい?」
縁切り屋がどのような存在と繋がりを得ているかは全くもって謎だが。
――ああ、それとも。
手にしている匕首が、この男が持つ唯一の縁なのかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルファ・ルイエ
桜縁
シャオさんと顔を見合わせて、とりあえずわたしからお話しましょうか。
この春に初めてお会いしました。
お花見していたところをたまたま見つけてご一緒して、お団子なんかを食べたのが最初で。
夏に空を飛んで花火を見て、それから今日で3回目です。
……何かご事情があるんだろうなって思ってましたけど色々腑に落ちました。
家族を知らないのは、わたしと一緒ですね。
シャオさんに繋がる縁が、たくさん優しいものだと良いです。
思うんです。
あなたが切っても切らなくても、人の縁が何処まで続くかなんてわかりませんけど。
もしもどこかで縁が切れてしまっても、思い出やその人との縁で得たものまでが無くなる訳じゃないです。
わたしはシャオさんと一緒に見た綺麗なものを覚えていますし、シャオさんはもう、誰かと一緒においしいものを食べるともっとおいしいんだって知っていますもの。
それにあなたが切った縁だって、あなたが知らない所でまた結ばれたり、切れたから新しく結ばれた縁があったりするのかもしれませんし。
だから縁って、不思議で面白いんでしょう?
楊・暁
【桜縁】
視線に気づいて頷き返し
…俺は、ずっと…それこそ生まれてからずっと、独りだった
傍に誰かいたとしても、唯の兵としての同僚か…敵か…そんなんばっかりで
それを変えたくて、歩き出して…色んな人に出逢えて…
春に、桜の舞う中で出逢えたのが、シャルファだった
…お前も?
驚き静かに瞠目するけど、一緒という言葉はどこかあたたかくて
憂いを分かち合うというよりも、傍にいる強さを感じる
出逢えたのは、本当に偶然で…ほんのひとときで…
でも、また会おうって言って…
花火を見たことねぇって言った、俺の言葉を覚えててくれて…夏に、一緒に見に行った
――そうして、今日も
…一緒に過ごした時間は、楽しさは、独りじゃ絶対知ることのできなかったもんだ
言葉には笑顔で頷き
…ああ。シャルファが教えてくれた、大切なことだ
誰かと食べる飯は、それが冷たかろうが温かろうが関係なく、胸があたたかくなる
笑顔になって、
…これはずっと、俺の中に残り続ける
勿論、2人で見た景色も
…絆ってな。見えねぇけど、強ぇんだ
お前がどんなにぶった切っても、意味ねぇぞ?
一人と、一人。一人と、一つ。それぞれの始まり、繋ぐものの形――縁。
他の猟兵が持つ様々な縁を聞き、時にはユーベルコードを激しく交えてきた縁切り屋の姿は若干――というよりも、まあまあボロボロになってきている。だがこちらへと向けられる金色の目に諦めの色はない。
(「困ったひとですね。でも、いきなり攻撃してこないだけよかったかも」)
まずは縁について聞かせればいい。そうなった流れは「聞かせろ」と少々強引なものだったが、それで何とかなるならいいですよねとシャルファは空色の目を輝かせた。
朗らかな笑顔と共に隣を見る。気付いた暁が無言で頷き返してから、シャルファもにっこり笑って頷いた。
「暁さんとはこの春に初めてお会いしました」
「へえ、春に。春は出会いの季節っていうからな」
そう口にした縁切り屋が浮かべる笑みは、二人の出会いを喜ぶ言葉を紡いだにしては悪い笑みだ。出会いの数だけ自分の愉しみが増える、そういう考えなのだろう。
「暁さんがお花見していたところをたまたま見つけてご一緒して、お団子なんかを食べたのが最初で。夏に空を飛んで花火を見て、それから今日で三回目です」
巡る季節と共に、二人は四季のうち三つの中で同じ時間を過ごした。春の後に大きく年月を跨いで夏に再会したのではなく、出会ったのと同じ年の夏と、秋を――その年を形作る中で二人の縁は続いていた。
楽しそうに、嬉しそうに語った笑顔のシャルファの隣。暁はシャルファと出会った春よりも前の事、大陸妖狐として在った頃を思い出す。
「……俺は、ずっと……それこそ生まれてからずっと、独りだった。傍に誰かいたとしても、唯の兵としての同僚か……敵か……そんなんばっかりで」
口を開いた暁の目は自身の掌へと向いていた。武器を手に駒として戦って、必死に生きて――ようやく訪れた故郷では、四つの温もりを失った。あの頃の自分の掌はいつだって空っぽだった。
「それを変えたくて、歩き出して……」
自分を取り巻く環境の変化に流されるのではなく、色んなものを諦め駒として生きるのではなく――自分の意志で新しい道を選ぼうと、踏み出した。そうして出逢った人達の顔が、笑顔が、次々に思い浮かぶ。
「その中で……春に、桜の舞う中で出逢えたのが、シャルファだった」
紫を帯びた赤い瞳がそっとシャルファに向く。鮮やかな色を受け止めた空色は、ふんわりと温かな笑みを浮かべた。
「……何かご事情があるんだろうなって思ってましたけど色々腑に落ちました。家族を知らないのは、わたしと一緒ですね」
「……お前も?」
暁は静かに瞠目する。
朗らかに笑うシャルファが自分と同じだなんて、全く想像もしていなかった。
そして、抱いた驚きに温かいものが差す。“一緒ですね”と紡がれた言葉に宿るものは、独りという憂いを二人で分かち合う色よりも、傍にいる強さに思えた。
瞠ったままの目に、にこりと笑顔が映る。
「シャオさんに繋がる縁が、たくさん優しいものだと良いです」
今は独りじゃないあなたが出会う誰かや、何か。そして繋がる縁に笑顔の種が在るといい。
優しく染み込むひだまりのような声に、ふうん、と縁切り屋が暁を見る。嗤ってはいない。次に暁が何を言うのかを、じっと待っているようだった。
「俺がシャルファと出逢えたのは、本当に偶然で……ほんのひとときで……」
春の花見も、夏に空を飛んで花火を見た時も、一緒にいた時間は一日のうちの数時間だ。自分とシャルファそれぞれが生まれてから経過した時間を考えれば、過ごした時間は“ひととき”という他ない、小さなものだろう。
「でも、また会おうって言って……花火を見たことねぇって言った、俺の言葉を覚えててくれて……夏に、一緒に見に行った」
――そうして、今日も。
秋の夜空に咲く花火を見るだけでなく、自分の為に花火を打ち上げてくれた。
「……一緒に過ごした時間は、楽しさは、独りじゃ絶対知ることのできなかったもんだ」
それが自分とシャルファの縁。
語り終えた暁は短く息を吐き、シャルファはそんな暁から縁切り屋へと笑顔を移す。
「思うんです。あなたが切っても切らなくても、人の縁が何処まで続くかなんてわかりませんけど。もしもどこかで縁が切れてしまっても、思い出やその人との縁で得たものまでが無くなる訳じゃないです」
そう語る口調は敵に対するものにしては、ちょっとした世間話や、お喋りをするような軽やかさを宿していた。唇は笑みを浮かべたまま、だってね、と胸元に手を添える。
「わたしはシャオさんと一緒に見た綺麗なものを覚えていますし、シャオさんはもう、誰かと一緒においしいものを食べるともっとおいしいんだって知っていますもの」
「……ああ。シャルファが教えてくれた、大切なことだ。誰かと食べる飯は、それが冷たかろうが温かろうが関係なく、胸があたたかくなる。……これはずっと、俺の中に残り続ける」
頷いた暁の顔にも、静かに、穏やかに笑顔が灯った。
花火なアイスとサイダーと綿飴、空泳ぐ鯛焼き。今日シャルファと一緒に味わった幽世らしい不思議に溢れた食べ物は皆、美味しかった。
「勿論、二人で見た景色も。……絆ってな。見えねぇけど、強ぇんだ。お前がどんなにぶった切っても、意味ねぇぞ?」
「“切れる”のにか?」
「そうだ」
縁が途切れる理由は多々あるだろう。気が合わなくなり疎遠になった、仲違いをした、遠く離れ顔を合わせなくなり自然に。――それから、病や事故などで故人となった等。
それでも無意味だと言い切った暁に続き、シャルファも「そうですよ」と笑顔で頷く。
「あなたが切った縁だって、あなたが知らない所でまた結ばれたり、切れたから新しく結ばれた縁があったりするのかもしれませんし」
だから縁って、不思議で面白いんでしょう?
二人の言葉にむすっとしていた男が、最後の言葉で目をぱちりと瞬かせる。
それは、縁というものを求め切り続ける中で初めて気付いたかのような、そんな顔だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
縁?
そうですね、昔の話をしたら良いのでしょうか?
彼女との出逢いはあの館
小さな少女が一人迷い込んだ様で
とても気になる女の子でした
元気に振る舞ってる姿が可愛らしく
でも何処か危うい感じで
『父親』の様に
その時は本当の父親ほどでは無くとも頼って下さればと思ったくらいでした
僕には大切な人を大切な関係を作る気はありませんでしたから
でも彼女と歩むに連れて
頑張り屋で淋しい想いをしてる女の子
この子を娘と思う様になったのはいつかはわかりませんが
どんな僕でも受け入れて、僕を叱ってくれる子
護りたいと
本当の父親としてこの子を護りたいと強く思う様になりましたね
ふふっ、嬉しい言葉をありがとうねぇ
僕を父と思ってくれて傍に入れくれて
お互い危うい同士、これからも助けていきましょうね
縁とは血よりも濃いと思ってます
他人の貴方が縁を切ろうとしてもそれは簡単に切れるものではない
それくらいの重さと想いと、たくさんの時間があったのですから
ねぇ、ララ。
と彼女の頭を優しく撫でて
ルーシー・ブルーベル
【月光】
ご縁のお話をするのね?
パパとのご縁は……3年前ほど前から、かしら
ルーシー達は今もお邪魔している白い館でお会いしたの
その時はまだパパじゃなかったけど
ルーシーの背の高さに合わせてご挨拶して下さって
とても嬉しかった!
あの時からご縁は始まった、なんて思うのよ
それからパパを、パパとお呼びするようになって
最初はね、少し躊躇いがあった
家の「お父さま」に申し訳ない気がして…
それに、もうひとり「父親」が出来るのが怖かったの
もしまた嫌われてしまったらって
けれど今はとても
ゆぇパパはなくてはならない人よ
何も無かったとは言わないけれど
「わたし」の本当の名を読んで欲しいって
ずっと傍に居て欲しいと思う程に
まあ!ふふ
パパこそ何処か危うい感じしてたよ?
ルーシーよりずっと強くて大人なのに守らなきゃって
優しくて温かなものに包まれて欲しいと
娘として、それが出来たらって
ずうっと思ってる
ふふ…うん、いいよ!
ええ、ええ
縁とは歩んでいく事で強く結ばれていくもの
貴方には決して切れやしないわ
!うん、ゆぇパパ!
大きくな手に頭を寄せて
「……お前らの縁は、どういうもんなんだ」
それは、からかうでも、縁を切り裂く事を愉しみにする声でもない。
純粋な興味を滲ませた呟きに、ユェーとルーシーは揃って目をぱちぱちさせ顔を見合わせる。自分達の縁――となると。
「そうですね、昔の話をしたら良いのでしょうか?」
「そうね、ゆぇパパ。ルーシーとパパとのご縁は……三年前ほど前から、かしら」
あの日の事を思い浮かべながら言葉にする。そうしただけで湧き上がった懐かしさは心地よく、二人は交わした微笑の温かさを縁切り屋にも向けた。
「ルーシー達は今もお邪魔している白い館でお会いしたの」
「小さな少女が一人迷い込んだ様で。とても気になる女の子でした」
「その時のゆぇパパはまだパパじゃなかったけど、ルーシーの背の高さに合わせてご挨拶して下さって。とても嬉しかった!」
笑顔と一緒に声が明るく弾む。
あの館にいくつもの彩が訪れ、その彩が宿ったように、白き館での出逢いは二人の中に二人だけの彩をぽつりと灯していた。――あの頃は、それが二人にとってどんな彩でどんな温もりを宿しているか、まだわからなかったけれど。
「それからパパを、パパとお呼びするようになったのよ」
ユェーを見上げたルーシーの嬉しそうな笑顔に、縁切り屋が納得したという顔をする。二人の顔を交互に見て、ふーん、とこぼした。
「それで『その時はまだパパじゃなかった』、か」
「そうよ。……でも最初はね、少し躊躇いがあったの」
「本当の父親じゃねえからか?」
縁切り屋の言葉にルーシーは黙って首を振り、ほんの少し、視線を伏せた。
そうだけど、そうじゃない。
「家の『お父さま』に申し訳ない気がして……それに、もうひとり『父親』が出来るのが怖かったの」
パパと呼ぶ度に、胸の中で音もなく不安が芽吹く。
“もしまた嫌われてしまったら?”
“『お父さま』に嫌われて、ゆぇパパにも嫌われたら?”
まだ七歳だった少女にとって、父親に二度も嫌われるなど――それはとてもとても大きくて、自分ではどうにも出来ない怖れだった。
「ああ。複雑な家庭ってやつか」
ルーシーは小さく微笑み、頷いた。柔らかな金糸のツインテールを少しだけふんわりと揺らし、ユェーの手をきゅっと握る。掌から届く温もりと向けられる優しい微笑みで、心の中はぽかぽかと温まり、記憶と共に滲みかけていた不安はすぐに消えた。
「けれど今はとても、ゆぇパパはなくてはならない人よ。何も無かったとは言わないけれど、ゆぇパパに『わたし』の本当の名を読んで欲しいって。ずっと傍に居て欲しいと思う程に」
優しくて、お料理が上手で、美味しい紅茶を淹れてくれて――時々ちょっぴり意地悪だけれど、自慢の、大好きなパパ。
ふふっと笑うルーシーに、ユェーは柔らかに細めた月色の双眸に娘を映し続ける。出逢ったばかりのルーシーは、今一緒にいるルーシーとは少し違って見えていた。
「僕はね、そんなルーシーちゃんが元気に振る舞ってる姿が可愛らしくて、でも何処か危うい感じがした事を覚えてますよ」
「まあ! ふふ。パパこそ何処か危うい感じしてたよ?」
くりくりと丸くなったブルーの目が楽しそうに笑う。当時感じていた事を打ち明けられたユェーは、目をぱちりと丸くした。ルーシーちゃんだけではなく、自分も?
「おや、そうですか?」
「ええ。ルーシーよりずっと強くて大人なのに守らなきゃ、って」
「言われてるぜ、パパさんよ」
「……ルーシーちゃんは、周りの人を大切にする、とても素敵な子ですから」
縁切り屋が浮かべた笑みと紡いだ声に不快さはなかった。当時も大人であった筈のユェーが、今よりも子供であったルーシーの敏さを約三年後に知る――その事を楽しむ声にユェーは柔らかに笑み――何よりも。少女が持つ、今も当時も変わらない“芯”の輝きに微笑んだ。
「だから僕はこの子の『父親』の様に……その時は、本当の父親ほどでは無くとも頼って下さればと思ったくらいでした。僕には大切な人を、大切な関係を作る気はありませんでしたから」
だが、ルーシーという少女と歩むに連れ、その考えは少しずつ変わっていく。
ルーシー・ブルーベルという女の子は頑張り屋で――淋しい想いをしている女の子だった。出逢った時はまだ七歳。そんな女の子が『ブルーベル』をその華奢な肩に背負い、生きいると知った。
「この子を娘と思う様になったのはいつかはわかりませんが、どんな僕でも受け入れて、僕を叱ってくれる子を……ルーシーちゃんを護りたいと、本当の父親としてこの子を護りたいと強く思う様になりましたね」
その思いは今も変わらない。
共に戦場へ立つ時は傍で護り、日常の中であれば過ごすひとときが素敵なものとなるように。この子の心も体も傷つかないよう、笑顔でいられるように。
強い願いは月色の双眸へと優しく宿り、その彩にルーシーの表情が柔らかに綻んだ。
「ルーシーだってそうよ、パパ。優しくて温かなものに包まれて欲しい。娘として、それが出来たらって、ずうっと思ってる」
きゅ、と握られた手が温かくて、心の中がふわふわとくすぐられるようだった。
ユェーは手を繋いだまましゃがみ、目線の高さを同じにする。
「ふふっ、嬉しい言葉をありがとうねぇ。僕を父と思ってくれて。傍に入れくれて。お互い危うい同士、これからも助けていきましょうね」
「ふふ……うん、いいよ!」
交える目線の高さは初めて逢った時と同じようで、あの頃とは少し違う。
二人の関係も、お互いを繋ぐ縁の深さと強さも。
出逢ってからの今までと、これから。続く幸せと楽しみにルーシーは無垢な笑顔を浮かべ、ユェーは静かに立ち上がって双眸に穏やかな彩を宿す。二人は自然と縁切り屋の方を見て――じ、と注がれる視線をそのまま受け止めた。
「縁とは血よりも濃いと思ってます。他人の貴方が縁を切ろうとしてもそれは簡単に切れるものではない」
「ええ、ええ。縁とは歩んでいく事で強く結ばれていくもの。貴方には決して切れやしないわ」
「それくらいの重さと想いと、たくさんの時間があったのですから。……ねぇ、ララ」
「! うん、ゆぇパパ!」
出逢って約三年だが、“たった”三年では収まらない。
笑顔も愛情も言葉も――お互いの名前も、何度も交わして、笑い合う。
そうして一緒に過ごした月日に詰まる沢山のものが、あの日からずっと二人を結び、未来へと繋げていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
は?お前に語る義理はない…って言いたいとこだけど
なんか良さそうな雰囲気だな??
アレスも律儀に答えてるし
ふふんなら聞かせてやるよ
縁が途切れかけたことも、なかったとは言えない
けど、その時だってずっと祈ってた
ただアレスが生きてることを
どんな事をしても、されても
アレスが生きててくれるって事が、俺の戦う理由だったから
それに…アレスもずっと探しててくれて
10と2年かけても、ちゃんと巡りあったんだ
それからもう一度しっかりと繋ぎ直したこの
手を
簡単に切れると思うなよ!
それにさっきだってすごかったんだからな!
内緒で贈りあった花火の形がお揃いだぞ!
まあ色は俺の選んだのとは違うけど
でも俺はそれが嬉しい
〜以下しばらく惚気が続きます。略〜
ってな感じで、アレスと一緒に食べるとなんともっともーっと美味しくなるんだ
思い出したらなんだかお腹が空いてきた
敵がいるのを忘れてはいないけど
アレスに誘われて断る道理はねえよなぁ
今までもこれからも
縁を重ねていこう
アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎
警戒に手は剣に添えたまま
ーいいだろう
僕達の縁を、お聞き頂こうか
僕達は物心つく前から
ずっと一緒に育ってきた幼馴染だ
どこへいく時もふたりで
街を探検したり
父さま達の騎士団に憧れ…騎士ごっこもしたね
互いの家にもよく遊びにいったものだ
でも、喧嘩する日だってあった
怒った僕が部屋に閉じ籠った時もあった。…すぐに後悔したけれど
セリオス、覚えているかい?
あの後君が来てくれて、ふたりで大泣きしながら仲直りして…
泣き疲れて寝ちゃったよね。…ふふ
それから…
〜暫くお待ちください〜
彼の言葉に手を差し伸べる
…そうとも
この
手は易々と切れはしないさ
うん、同じ事を考えていたよね
あの花火と…あの“青”は
心に満ちたこの喜びと共に、ずっと忘れないよ
〜暫く以下略〜
なら、帰ったら僕の部屋に遊びに来ないかい
お茶とお菓子を用意しておくから
…今日は君と沢山話したいんだ
勿論…敵をどうにかした後で、ね
…正直君とのことはまだ語り足りないけれど
縁は繋がり重なるものだ
これまでも、これからも
縁を重ねていこう
縁切り屋の目がぴたりと止まる。
じっと向けられる視線にセリオスが「何だよ」と言いたげに目をぱちりとさせれば、縁切り屋が匕首持つ右手をぶらぶらさせた。アレクシスは静かに添えているだけだった手に力を入れ、剣の柄を握り――。
「お前らで最後だ」
「え?」
「縁だよ。縁の話」
「……ふむ」
「は?」
納得した様子のアレクシスに対し、セリオスは眉間に皺をくっきりアンドへの字口。端正な顔いっぱいに“お前に語る義理はない”を浮かべ、そのまま言葉にし――ようとして首を傾げる。
(「そういや他の奴ら色々話してたな。てことはふつーに喋って良さそうな雰囲気だな? アレスは……」)
ひょいと視線を向ければ、そこには相変わらず手を剣に添えたまま――しかし、縁切り屋へとニッコリ笑う幼馴染みがいた。ははあ、これはやる気だな。
「――いいだろう。僕達の縁を、お聞き頂こうか」
アレクシスがそう告げたのは、ニヤリ笑ったセリオスの視線が縁切り屋へと向いた時だ。
聞かせる姿勢を明確にした二人に縁切り屋が小さくニヤリと笑む。
(「……何か変化があったのかな」)
向けられる笑みも、気配も、嫌なものが随分と薄れている。しかし油断は禁物。アレクシスは剣から手を離さないままセリオスを見て――まだ幼かったセリオスの姿が、今のセリオスにふんわりと並んだ。
「僕達は、物心つく前からずっと一緒に育ってきた幼馴染だ」
あの世界は常闇の上に更なる闇を広げていたが、幼い頃の二人には、生まれ育った街と家族が世界だった。そんな幼い二人にとって街は格好の遊び場で、どこへ行く時も二人一緒。家の周り、少し歩いた先の裏路地――それから。
「父さま達の騎士団に憧れ……騎士ごっこもしたね」
朝空の青色をした目を細めれば、夜空の青に満ちた目も細められる。
幼い騎士二人が握る名剣は、偶然見つけた非常にいい枝や玩具の木の剣だ。ぴかぴかとした心と共に名剣を構えて、えいやあ、とお、と声を上げジャンプして――互いの家にも、よく遊びに行った。
「でも、喧嘩する日だってあったんだ。怒った僕が部屋に閉じ籠った時もあった。……すぐに後悔したけれど」
「めちゃくちゃ仲良し幼馴染みじゃねえか」
「ったり前だろ、俺とアレスだぞ」
縁切り屋の感想にセリオスがすかさずふふんとドヤる。そんな反応にアレクシスも誇らしさと嬉しさが一緒になった笑みを浮かべ――喧嘩をしたその後を思い出し、ふふ、と笑みをこぼす。
「セリオス、覚えているかい? あの後君が来てくれて、ふたりで大泣きしながら仲直りして……泣き疲れて寝ちゃったよね」
「ああ、覚えてる。起きたらアレスが隣にいるんだもんな、あん時は驚いた!」
「……ふふ。僕も『あれっ?』って驚いたよ。それから……」
綺麗な花を見つけたら真っ先に教えたのは親ではなく幼馴染み。勿論、一緒に見に行った。
沢山遊んだ次の日も、当たり前のように会いに行った。昨日は夕飯に何々を食べたんだ、ぼくは何々だよとお喋りをして――騎士になったり、冒険者になったりした。
他にもあんな思い出、こんな思い出が――――……。
「いや聞かせろつったのは俺だがどんだけ続くんだよ。暫く続きますそのままお待ち下さいってのにも限度ってもんがだな、」
「ンだよアレスが律儀に答えてるだけだろ、どこが不満――あっそうか。俺がまだだったな」
「え、は、」
ぽかりと開いた口と微妙に前へ出た手が一時停止を訴える前に、セリオスはふふんと不敵に笑い、夜空色の目を煌めかせた。
「聞かせてやるよ」
旋律を紡げば神秘を招く声に乗せるのは、幼少時より続く縁の強さ、その誇り。
「俺とアレスの縁が途切れかけたことも、なかったとは言えない」
「何でだ? 喧嘩してもすぐ仲直りのズッ友幼馴染みなんだろーが」
「馴れ馴れしいなオイ。あと説明するには尺が足りねぇからカットする」
「……」
あのちょっとあなたの幼馴染みなんですけど。
文句たらたらな視線にアレクシスはニッコリ笑った。
そう。セリオスの言う通り、尺が足りないんだ。諦めて。
やり取りはほんの一瞬。スンッと引っ込んだ気配に、よし続き話すぞとセリオスは笑い――その溌剌とした笑みに、かすかな翳りを浮かべた。脳裏に過るのは、14の時より過ごす事となった、あの鳥籠。
「色々あって、14の時に縁が途切れかけた。けど、その時だってずっと祈ってた。ただアレスが生きてることを。どんな事をしても、されても“アレスが生きててくれる”って事が、俺の戦う理由だったから」
自由と家族を奪われ、尊厳を穢され、自分だけでなく他者も理不尽に消費される。そんな日々に耐え、戦う意志を燃やし続けてこられたのは、たった一つの希望が星の如く胸の裡で輝いていたからだ。
「それに……アレスもずっと探しててくれて。10と2年かけても、ちゃんと巡りあったんだ」
ずっと、何をするにも一緒だった幼少期。
長く離れ離れだった少年期。
そして今は――こうして瞳に互いを映し、笑い合う日々が続いている。
「それからもう一度しっかりと繋ぎ直したこの
手を簡単に切れると思うなよ!」
セリオスが響かせた宣言にアレクシスも誇らしげに笑い、縁切り屋を見る。
「……そうとも。この
手は易々と切れはしないさ」
「それにさっきだってすごかったんだからな! 内緒で贈りあった花火の形がお揃いだぞ!」
「うん、同じ事を考えていたよね」
「……あー。あの、星の形した花火か?」
「おっ、よくわかったな。まあ色は俺の選んだのとは違うけど……でも俺はそれが嬉しい」
「ふふ。あの花火と……あの“青”は、心に満ちたこの喜びと共に、ずっと忘れないよ」
「へーほー、ふーん」
「夏に行った水中庭園や、花で満ちた湖も忘れられないな」
「凄かったよな。夜桜見に行った時もさ、団子を食べて――……」
~ 暫くお待ち下さい ~
「ってな感じで、アレスと一緒に食べるとなんともっともーっと美味しくなるんだ」
「ああうんよかったな」
縁切り屋の態度があからさまに“お腹いっぱいです”と訴えているが、セリオスの意識は自身の腹に向いていた。そういえば秋祭りで食べたのは綿飴とかき氷だけだ。
「んー……思い出したらなんだかお腹が空いてきた」
「なら、帰ったら僕の部屋に遊びに来ないかい。お茶とお菓子を用意しておくから」
途端にぱっと輝いた瞳にアレクシスは思わず小さく吹き出した。その後すぐに湧いてきた嬉しさは、少しだけ抑えて、微笑に映す。
「……今日は君と沢山話したいんだ。勿論……敵をどうにかした後で、ね」
――正直言うと、セリオスとの
縁はまだ語り足りないのだが。
「そうだな。じゃ、この件が終わったらアレスの部屋で!」
――アレクシスに誘われて断る道理はないわけで。
勿論、セリオスもアレクシスも、
敵がいる事は勿論忘れていない。
鈴の音を軽やかに刻み、光の剣達で夜を眩く照らし出す。はいはい大人しく退散しますよと、わざとらしく両手を上げた縁切り屋に二人は小さく笑い――何となく相手の方を見てぱちり合った視線に、子供のように笑い合う。
幼馴染みから始まり理不尽な離れ離れを経た自分達の縁は、繋がり、重なり続けている。
だからきっと――これまでもそうだったように、これからもずっと。
(「お前と」)
(「君と」)
縁を重ねていこう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵