アルカディア争奪戦㉑~春遠からじ
●
悲劇。
其れは常に、俺の国に降り積もり続けてきた。
星詠みの力、そんなものが役に立ったことなどない――星は俺の悲劇しか教えてくれない。国に降り続ける悲劇を詠み、事前に防げたならどれだけ良かっただろう。
だが、俺はいつだって国に降り注ぐ悲劇を剣で破壊して来た。
戦場では星を詠む力は大いに活躍してくれた。俺は天帝。俺を狙うものは数知れず、ならば俺に降り注ぐ悲劇は其れこそ星の数ほどあったからだ。
ああ、星がまた輝いている。
俺に降り注ぐ悲劇を知らせている。
破壊しよう。此度もまた、この剣で全て撃ち砕いてみせよう。
そして開くのだ。アルカディアの玉座に至る道を、この手で。
●
「“天帝”冬のアスタルシャ」
ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)は、甲板でふと呟いた。
「次に向かう大陸で待ち受けている、屍人帝国の首魁の名だ。覚えてる? 絶対氷塊アリステラ――天使核をもとにあの大陸を作ったのも冬のアスタルシャだよ」
まあ、氷と雪ばかりだったけどね。ころころとヴィズは笑う。
「兎も角。あの大陸が示す通り、彼は恐るべき氷雪の力を持っていて――更に“星を詠み”“幻想武装の創造”まで出来ると来た。時代が時代なら無敵を誇っただろうね。……ただ」
ただ?
誰かが問う。
「彼が詠めるのは“己に降りかかる悲劇”のみ。星詠みとしては三流とも言われ兼ねない、限定された能力なんだ。だから国を護り切れずに――天帝騎士団は沈んだ。そして蘇った。オブリビオンとしてね」
故に相手の攻撃はね。
お決まりの“先制攻撃”って奴だよ。
そう言ってヴィズは長い爪を揺らす。
「アスタルシャは相手の攻撃を先読みして、先制攻撃を仕掛けて来るだろう。これを破る方法は恐らく2つ。搦手を用いて相手の予知を掻い潜る。或いは、予知してもどうしようもないような攻撃を叩き込むか、だ。……さっきも言った通り、アスタルシャは己に降りかかる悲劇を詠める。対個人ならば恐らく一番の脅威だよ」
国を守る事は出来なかったが、武人としては最強の部類に入るのだと。
「勿論、此処からも最善のサポートをさせてもらう。物資の要求があれば用意するし、周りには
飛空艇艦隊もいる。彼らの砲台を借りるのも一つの手だ。兎に角、生半可な攻撃では弾かれる事を覚悟しなければならないよ。――ああ、見えてきた。見給え、あの氷雪に覆われた島を」
寒い。
誰かが呟いた。
そう、此処は常冬の國。星さえも凍り付く、凍てと悲劇の国、天帝騎士団。
key
こんにちは、keyです。
自分限定の予知かぁ……
●目的
「“冬のアスタルシャ”を斃せ」
●プレイング受付
このシナリオには断章はありません。
タグにてプレイング受付開始日時をお知らせ致します。
🔵が十分集まり次第〆切を設定し、タグでお知らせします。
●プレイングボーナス!
「敵の予知能力と先制攻撃に対処する」
みんな大好き先制攻撃のお時間です。
アスタルシャの星詠みは“己に降りかかる悲劇を予知する”という非常に限定的なものですが、其れ故にアスタルシャ襲撃は非常に難しいものとなります。
己を狙う攻撃を予知し、先んじて攻撃してきます。
敢えて受ける、搦手を使う、予知以上の攻撃を叩き込む……など、様々な攻略法があるので考えてみてください。
●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。
また、アドリブが多くなる傾向になります。
知らない人と共闘する事なども在り得ますので、ソロ希望の方はプレイング冒頭に「🌼」を添えて頂けると助かります。
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此処まで読んで下さりありがとうございました。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『天帝』冬のアスタルシャ』
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POW : 絶凍剣
【自身の持つ絶凍剣】からレベルmまでの直線上に「神殺しの【天帝の凍気】」を放つ。自身よりレベルが高い敵には2倍ダメージ。
SPD : 白雪剣舞
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【氷属性の魔法剣】で包囲攻撃する。
WIZ : 氷獄凍土
戦場全体に【五感を奪う魔の吹雪】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【吹雪と共に飛来する幻想武装群】による攻撃力と防御力の強化を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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スミス・ガランティア
……力が及ばず国を護れなかった、か。
なんともままならないものだな。ありすぎても足りなくても、力は悲劇の引き金になる。
だが、だからこそ。
我は正しくこの権能を振るおう。
この世界の悲劇を回避するために。
吹雪を起こされたなら【結界術】と【氷結耐性】、【寒冷適応】で耐えるぞ。
そして【コールド・ドレイン】発動。
氷の力を受ければ受けるほど強化されるこの力で、氷の【全力魔法】(【範囲攻撃】併用)を放とう。吹雪にて武装群を【なぎ払おう】。
全力で、お前に抗おう。
お前もきっと、我らと同じなのだから。
●
――力が及ばず護れなかった。
其れがどれだけの心痛か、嘗て王であったスミス・ガランティア(春望む氷雪のおうさま・f17217)には良く判る。……いや、判っているつもりなのかもしれない。己は目の前で国が死んでいくさまを見た訳ではないのだから。
しかし、これだけはわかる。“ままならないもの”だと。力が在り過ぎても、足りなくても、力というものは悲劇の引き金になる。
「だが――だからこそ、我は正しくこの権能を振るおう」
この世界の悲劇を回避するために、
お前から護るのだ。
……吹雪が吹いている。
五感が死んでいく。目の前が真白に染まり、聴覚に届くのは吹雪のごうごうという音だけ。清らかな水の香りだけがして、口を開けば雪が口に入る。
スミスは結界を張り、己の周囲の雪を打ち払う。
寒いと思ったのはいつぶりだろう。氷雪を司る神であるスミスさえ凍えさせる吹雪に紛れて、がちん! と結界にぶつかったのは幻想武装だった。しゃぼんのような遊色をした矛や槍は、敵を貫けなかったと知るや氷の欠片のように散って行く。
「貴様には判るまい。俺がどれだけ切望したか。俺の運命ではなく、国の運命を見たいと、地を掻きむしる程に願った想いを」
「――判らぬとも。我には予知能力などないからな。単に“運命を知れれば”などと願う事とは違うのだろう」
「そうだ。……国が滅んでも民が死んでも、俺が生き残るなら、運命は俺に何も教えてくれない。……何が予知だ、何が……!」
アスタルシャの怒りに応じてか、吹雪が強くなる。
スミスは冷静だった。判らぬものは仕方がないのだ。理解しようと思うには、彼我の間には大きな隔たりがある。其れは決して超えられない。何より、理解しようとすれば殺される。
「だが――お前もきっと、我らと同じだ」
ただ願う、ヒト。
ただ祈る、ヒト。
スミスはユーベルコードを発動させる。
吹雪が強ければ強い程、スミスは其の力を受けて強くなる。雪の幻影がスミスの周囲を舞い、そうして二つ目の吹雪がアスタルシャの吹雪を散らすように駆け抜けた――!
「だから、我らはお前に全力で抗おう。お前に教えよう、予知能力などなくとも、ヒトは守り通せると」
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
初めからある程度のダメージは覚悟のうえ
【高速詠唱】で炎魔法を編み込んだ【オーラ防御】
熱風を身に纏う事で寒さを緩和
回避?
させないよ
【多重詠唱】で光魔法の【範囲攻撃】
吹雪の白に反射させつつ目眩しを仕掛け
即座に【華響迷宮】発動
僕と天帝さんを共に閉じ込め
音が響く性質を利用し【催眠術】を乗せた【歌唱】で動き封じ
ね…心中してあげようか
言ったでしょ
僕はダメージ覚悟のうえだって
炎魔法の【属性攻撃】を【破魔】の花弁に引火させ火事発生
熱さは吹雪でそのうち緩和されるし心中する気も無いけど
僕には無害な破魔の煙も彼には痛いと思うから
出口は1つ
予知で見えるなら催眠に抗い脱出したらいい
でも出た瞬間艦隊の砲撃が来たりして、ね
●
ダメージは覚悟の上だ。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は己の周囲に熱風を纏い、吹雪の中に飛び込む。
愚かだ、とアスタルシャが嗤っている。
いや、あるいはただの吹雪の音なのかもしれない。
五感が死んでいく。其れでも澪は、諦めなかった。
詠唱を重ねる。二重、三重、まだ足りない。四重、五重、其れでも足りない!
重ねに重ねた詠唱を解き放てば、周囲に光が満ち渡る。吹雪がきらきらと輝く様は極死のダイアモンドダスト。
其の白はアスタルシャの目を焼いた。
呻き声と共に目を庇った天帝と己を迷路の中に閉じ込める。破魔の花弁が、アスタルシャを灼く――
「……この程度の迷路、」
「そう簡単に破らせはしないよ。……ねえ、心中してあげようか?」
「何?」
「言ったでしょ、僕だってダメージは覚悟の上なんだって」
音が反響する。
其の言葉は言霊だ。催眠術を混ぜ込んだ甘い声色はアスタルシャの脚に“動くな”と命じる。
――小賢しい。催眠如きで俺の動きを封じたつもりか。
吹雪は吹き荒れている。
迷路の花弁がふわりと吹雪に乗って、凍ての中に花弁が舞う。
アスタルシャと澪は迷路の壁一枚隔てて向かい合う。
――ねえ、今、僕が何をしようとしているか判る?
炎を灯した杖を、澪は、そっと、花弁に近付けた。
火はみるみるうちに迷路を燃やしながら大きくなる。アスタルシャの身体中に痛みが奔る。これは、破魔の痛み。煙が、空気が、花弁の破魔に染められていく。
「――!」
武人として、この迷路は死地であると予知が疼いた。
このまま手をこまねいている訳にはいかない。アスタルシャは手に持った剣で迷路の壁を切り裂いて、直接其の出口を目指す。
こほ、と澪が咳き込む。
……破魔の力は己に害さないけれど、単純に煙が目に痛いし、喉に悪い。
そうだよね、アスタルシャ。君は催眠を打ち破って、迷路の出口を一心に目指す筈だ。けど、――君が“危機だとも思っていない攻撃”が其の先に待っているとしたら?
最後の壁を切り裂いて、アスタルシャが吹雪の止みかけた外へと出る。
破魔の痛みに耐えるように歯噛みをした、其の瞬間。
「
撃ぇー――――ッ!!!」
鬨の声は今!
アスタルシャがさしたる危機と判断しなかった……
飛空艇艦隊からの砲撃が、彼を一斉に狙い撃ちにした。
大成功
🔵🔵🔵
キャロライン・ブラック
力を持つ故に足りない苦しみはあるのでしょう
ですがそれはこちらとて同じ事
力が足りなければグリモアの予知を頂いても無意味なのですから
貴方に遠慮も同情もいたしません
これは戦争。何方が己の意思を押し通すかの戦いですわ
わたくしの青の旅人は青空に溶け込む業
吹雪を生み出す貴方のUCは天敵と申し上げても良いのでしょう
ですが環境を塗り替えるのは貴方だけはございません
五感を失おうとこの身は覚えております
得物の握り方に魔法の使い方……前へと進むその意思を
最大出力でわたくしの周囲に青空の如き塗料を展開
瞬時に青の旅人を纏い同化することで吹雪を逃れますわ
そうして己の
領域を広げ、天帝へと一矢報いに参りましょう
●
「力を持つ故に足りない、其の苦しみがあるのでしょう」
雪が吹き荒れる中、キャロライン・ブラック(色彩のコレクター・f01443)は静かに其処に立っている。
アスタルシャは皮肉気に口端を上げる。
「其の苦しみが判るとでも?」
「ええ。我々にも“予知の手”はありますが、力が足りなければ同じ事。何も止められず、何も為せないのです。――ですが、だからといってわたくしは貴方に遠慮も同情も致しません」
これは戦争。
何方も己の信条を握り締め、ぶつけ合う。
そして誰の意思が押し通るのか、其の戦いなのですから。
キャロラインの衣服が清かな旅装へと変わる。其の色は青。今は吹雪に閉ざされた、空本来の青い色。
――この色は青空に溶け込む業。
吹雪を生み出す貴方の力はいわば天敵と申し上げても良いのでしょう。
ですが……
「環境を塗り替える力を持つのは、貴方だけではございません……!」
例え目を塞がれようと、蒼い色を知っております。
例え指先が痺れようと、得物の握り方を覚えております。
例え全てを忘れ去ろうと、魔法の使い方を忘れる事はありません。
そして、前へと進むこの意思を、決して捨ては致しません!
「其は青!」
嗚呼、叫ぶこの声は耳に届いてもとても小さい。
けれどもわたくしは確かに叫んでいる! 喉を嗄らして叫んでいる!
「其は空、操りしは旅人の業!」
キャロラインはワンドを振るう。加減なく振るわれたワンドから青の塗料がばっ、と散って――上空に一瞬、偽りの青空を作る。
其の一瞬を見逃さない。青き旅人は其の青に溶け込み、吹雪の流れを駆け上るように飛翔する!
「さあ……! この吹雪を晴らす時です!」
キャロラインが振り落とした光の一撃が、予知する間もなく天帝を包み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
ソフィア・エーデルシュタイン
一人、悲劇を予見できるがゆえに
貴方はずっと、置いて行かれる立場でしたのね
貴方の予知が、己以外の誰かの終焉を見るものであったなら
そう、あれば…良かったのかしら
わたくしはね、貴方に幸せになって貰いたいと思っておりますの
悲しい終焉は、人生の幕引きには相応しくありませんもの
それでもきっと、わたくしは敵
彼を終わらせる悲劇を目論んでいるのだから
受けて差し上げますわ、貴方の民への愛を
守りたくて、守れなかった悲哀を
水晶髑髏のきょうだいが盾になってくれるから
手を取り合って踊りながら、少しでもわたくしへの被害を逸せれば
うふふ、耐えられるかしら
耐えてみせますわ
ですから貴方も受け取って
わたくしからの、最上の終焉を
●
予知できる故に。
非業を回避できる故に。
「貴方はずっと、置いて行かれる立場でしたのね」
ソフィア・エーデルシュタイン(煌珠・f14358)は其の白い膚に笑みを浮かべながら、“天帝”冬のアスタルシャを見据えた。
武人が置いて行かれるとはどういう事か、知らぬほど無知ではありません。
其れがどれほどの恥辱なのか知らぬほど、無垢でもありません。
護りたいものを護れず、常に見送ってきた貴方はきっと、心に数え切れない傷を抱いている。
「貴方の予知が、己以外の誰かの終焉を見るものであったなら」
「……たらればの話だな」
「……そうだったら良かったと、思いますか?」
「……。ああ。思う。今でも思っている」
アスタルシャが剣を雪に突き立てる。ふわり、とまるで影が揺らぐかのように剣にそっくりな氷の剣が現れて……アスタルシャの周囲を巡るように跳び上がると、幾何学模様を描いて躍り始めた。
「どうして俺ではなく、俺以外の悲劇を見られる目ではなかったのかと」
「そう。……あのね、わたくしは、貴方に幸せになって貰いたいのです」
……。アスタルシャが片眉を上げた。
話を促すような仕草であったが、一笑に付す事すら勿体無いとも言いたげな表情だった。
「悲しい終焉は、人生の幕引きには相応しくありません。――其れでもきっと、わたくしは貴方の敵でしょう? だって、貴方を終わらせる悲劇を目論んでいるのですもの」
氷の剣が躍る。
ソフィアの周囲に、かしゃん、という音が生まれる。其れは水晶で造られた髑髏たち。ソフィアの大切なきょうだい。名も知らぬ同じ父を、同じ母を持つ大切なきょうだいたち。
急降下して来た氷の剣は、ソフィアの兄弟たちを貫き、水晶の硬度で押し留められる。ぎしぎし、と二つの硬質が軋み合う音がする。
けれどソフィアは構わず、にこりとアスタルシャに笑み掛けるのだ。ああ、怪物は一体どっちだろう。
「貴方の民への愛」
軋む。
「護りたくても護れなかった、悲哀」
掌を翳す。
「さあ、躍りましょう。きょうだいたちも、ほら! “めでたし、めでたし”の時間です!」
嬉しそうに言うソフィアの掌から渦巻くのは燐灰石の欠片。其れ等は氷の剣を叩き割り、アスタルシャをも巻き込んで渦巻く。
嗚呼、可哀想な貴方。受け取ってくださいまし。
わたくしが差し出せる、最上の終焉を!
大成功
🔵🔵🔵
ゾーヤ・ヴィルコラカ
居場所を守りたい、悲劇を防ぎたい。それはわたしも、この世界のみんなも同じ。だから、新たな悲劇を生んででも悲劇を断ち切るなんて、そんなことさせるわけにはいかない。天帝アスタルシャ、わたしはあなたを止めるわ。
飛んでくる武器は武器と瞬発力で上手く〈受け流し〉て、吹雪は〈寒冷適応〉〈環境耐性〉で耐えるわね。極寒の中で生きていたのはわたしだって同じ。どれだけ耐えられるか分からないけれど、この戦いの間だけは保たせてみせるわ。【UC:慈悲なき冬、来たれり】(WIZ)を発動、吹雪すら凍てつかせるほどの氷雪と氷槍で戦場を覆うわね。
……本当に、寒いわね。とても悲しくて寂しい、まるでわたしの故郷のよう。でも、悲しくて寂しくても、大切な場所で大切な人がいた。アスタルシャ、きっとあなたもそうよね? でも、ごめんなさい。これがわたしの選んだ道、あなたを骸の海へ送るわ。
(アドリブ等々大歓迎)
●
居場所を護りたい。
悲劇を防ぎたい。
其れは何も、アスタルシャだけの願いではないとゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は思っている。ゾーヤ自身だってそう思っている。この
世界の人たちだって、そう思っている筈なのだ。
「だから、わたしはあなたを止めるわ。天帝アスタルシャ。新たな悲劇を生んででも悲劇を断ち切るなんて、させるわけにいかないもの」
「……ならばどうする。其の細腕で剣を振るってみるか」
吹雪が吹き荒れている。
其れは徐々にゾーヤの五感を奪っていく。……アスタルシャは完全に猟兵を脅威だと認識したのだろう。吹雪の中に自ら斬り込むと、ゾーヤへと其の大剣を振り下ろした。
「っ」
ゾーヤは佩いていた長剣を抜くと、アスタルシャの一撃を受け流す。……重い。たった一撃を受け流しただけなのに、腕が痛む。
吹雪に適応するにも限界がある。際限なく下がって行く温度に、人より長い犬歯がかちり、と鳴った。
「……この戦いの間、だけでも」
もってみせる。
もたせてみせる。
ゾーヤは力を解き放つ。
聖痕が寒冷の青に輝く。聖者たる其の力は冬。彼女を押し流す運命は氷。そうして雪は降る。そう、アスタルシャ! 冬はあなただけの領域じゃないのよ!
接近してきたなら好都合。アスタルシャに降り注ぐ氷の槍、そして更に寒さの余波で氷雪が吹雪に混じって降り注ぐ。「冬」だったフィールドが、全ての生命を拒絶する「厳冬」へと変わって行く。冬に慈悲はない。全ての者に平等に死と眠りを齎すもの。
「……寒いわね」
氷の槍とタイミングを合わせて長剣でアスタルシャに斬りかかりながら、ゾーヤは笑った。槍を一太刀で斬り流し、返す剣でゾーヤの一撃を受けながら、アスタルシャは己の身体が冷え切って行くのを感じていた。
「何故笑う」
「判らないわ。わたしの故郷に似ているからかもしれない。……わたしもそうよ。冬は悲しいけれど、寂しいけれど、大切な場所だったの。大切な人がいたのよ」
ゾーヤの膂力がアスタルシャの剣を押し返していく。
がちん! と音を立てて弾き飛ばされたアスタルシャの剣。
「ごめんなさい。これがわたしの選んだ道」
あなたを骸の海に送るわ。
同じ冬を知っている二人は、けれど決定的に生きる場所が違っていた。
一方は今を生き、一方は過去より舞い戻って来た。
そうしてゾーヤは其れを許せなかったから、……全てを奪う吹雪を。アスタルシャの鎧を、長剣で力任せに引き裂いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎アドリブ連携OKです
先制対策は、阿穹羅の機動力と装甲と、結界術と氷結耐性とオーラ防御……そんなところだけど、まぁ一対一最強の相手は分が悪いね。
『どうしようもないやつで行こうか』
ユーベルコヲド、超弩級艦隊決戦。
スポッター、目標捕捉済み。
雷撃艇部隊、対装甲徹甲爆雷水平発射、焼夷榴弾砲撃、爆撃開始。
彼には皮肉だけど、エリア内を徹底的に破壊する。
雷撃艇部隊、引き続き障壁を破壊、砲撃は敵の炙り出し、爆撃機は直掩の攻撃部隊の地上掃射と合わせてグレネードで一掃。
決闘が得意な相手に決闘を挑むのは得策じゃないと思ったからね。
戦争で勝てるなら、そうさせてもらうよ。
●
国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ
乙女・f23254)は戦場に行き着く僅かな間に考えた。
己のキャバリアの機動力と装甲。其れから結界術に、氷雪への耐性。オーラでの防御。込み込みで考えても、出来る対策は其の程度。だけど、……多分其れだけじゃ、アスタルシャには届かない。一対一ではほぼ最強だとグリモア猟兵に言わしめた彼だ、簡単に出来る防禦じゃ破られちゃう。ううん、防禦に徹している暇なんてないかもしれない。
――ならどうするか?
鈴鹿は、こうした。
戦場に飛び立った其の瞬間、氷の剣が飛来する。アスタルシャは猟兵を、鈴鹿を脅威と見做して彼女が戦場に降り立つ瞬間を狙って氷雪剣を放っていたのだ。
だが。
ばらばら、という硬質な音がして、氷の剣を打ち砕く。
「そうくると思ったよ。だからぼくは――
どうしようもないやつで、応戦する!」
スポッターは目標補足を。
雷撃艇部隊は対装甲徹甲爆雷を発射、更に焼夷榴弾、爆撃開始!
そう。鈴鹿はこの地を戦場に変えた。
高度な戦略のもとに編成された一軍を召喚して、彼らを引き連れて来たのだ。
軍隊は炎を連れて来る。銃弾の火が、榴弾の炎が、雷撃の衝撃がアスタルシャを襲う。……アスタルシャは駆ける! 自らに降りかかる危機ならば、其れは“見えてしまう”から!
「キミには皮肉だろうけど……徹底的に破壊させて貰うよ。さあ、雷撃艇部隊、引き続き攻撃して。彼が放つ氷の剣を引き付けるんだ。砲撃も続けて、追い込むよ。それから爆撃機は地上掃射に合わせてグレネードを」
アスタルシャは追い込まれていく。其れはまるで行き過ぎた銃による狐狩りのよう。弾き飛ばされていた剣を手に取ると、氷の剣を撃ち砕いた雷撃を剣を盾にしてアスタルシャは防ぐ。……其の停止が生死を分ける。雷撃が剣を繋ぎ留めている間に、砲撃が、爆撃が、アスタルシャを包み込む。
――或いは、アスタルシャが国を挙げて闘っていたら?
そんなのは、もしもの話だ。
現実の話をしよう。アスタルシャは全身を焼け爛れさせて、氷雪が溶けた大地の上にいた。形を保っているのが不思議なくらいだった。皮肉にもオブリビオンとしての強度が、アスタルシャの命を繋ぎ留めている。
……島一面の雪が、戦火で融け始めていた。
大成功
🔵🔵🔵
弘原海・汐海
POW ※アドリブ連携等歓迎
予知能力を持った武人、か
フフッ、柄にもなく仕合うのが楽しみになってきたで
さて、同じ武人として、一つ手合わせ願おうやないか!
敵の先制攻撃は<第六感>で攻撃範囲を事前に予測し、<見切る>
回避の後、即座に接近、<不意打ち>をかます
海神流、壱ノ型──海鳴リ
これはタイミングをずらした二度の斬撃を放つ、それだけの技
だけど、予知能力があるなら解る筈やろ?
どっちを躱しても、斬撃は命中するって
一度目の斬撃を躱せば二度目が当たる
二度目を躱そうとすれば一度目が当たる
この距離なら
ウチはアンタの動きを見て、どの位置にでも斬撃を置いていける
どう回避しても、ウチの斬撃を躱すことなんてできへんよ
●
予知能力をもった武人。
刃の先を読み、後の先で仕掛けてくる。
弘原海・汐海(海神流・八代目継承者・f36108)は其れを想像し……声をあげて笑った。
「……フフッ……! 柄にもなく仕合うのが楽しみになってきたで」
――そして。
目の前に立っていたのは、戦い果てた武人だった。
あちこちから煙が上がり、何で攻撃されたのか鎧は見事にひしゃげて、チーズのように引き裂かれた跡がある。
手に持つ大剣にはひびが入り、今にも砕けてしまいそうだった。
けれど、汐海には判る。
まだアスタルシャは戦う事を諦めていない。天帝騎士団と共に空を駆け、アルカディアの玉座へ至る事を諦めていない……!
「……手加減はいらへんな?」
「無用だ。其れとも、俺が膝を突いたら刃を緩めてくれるとでも?」
「そんなことはでけへん。ウチはアンタを斃しに来たんや。……手加減無用! 同じ武人として、一つ手合わせ願おうやないか!」
アスタルシャが殺気を放つ。
彼の持つ剣の名は、絶凍剣。其の刀身から直線状に、神ですら殺す凍気を放つ。
汐海は刀の柄に手を添えたまま、真横に奔って避ける。直線状に立っていれば最悪死ぬ。やけれど、直線状やなかったら……!
だが、天帝は駆けた。王として其処に立つのではなく、武人として奔ることを選んだ。ひびの入った絶凍剣を掲げて、汐海の頭を兜割りしようと大上段から振り下ろす。
汐海は、……感じ取った。そして“アスタルシャが望む通り”、刀を思い切り剣に向かって振るう。
――其れは、儚くも脆い氷のように。
絶凍剣が、もともと入っていたひびをあっという間に広げたかと思うと砕け散る。
……アスタルシャの表情は、穏やかだった。
けれども其れを伺いはしない。直ぐ様に刀を鞘に仕舞い、汐海は構える。仕合うと決めたのだから。殺仕合うと決めたのだから、相手がどんなに“既に敗北を見ていても”、其れでも、刀を仕舞って背を向ける訳にはいかんのや!
「……やけどな。アンタの剣が十全やっても、防げん一撃にするつもりやったんやで」
海神流――壱の型。“海鳴り”
本来なら不意打ちに飛び込むのは、汐海の方だった。
そうして一撃を仕掛け……重ねるように“海鳴り”を仕掛ける。
一撃目を防げば二撃目で斬られる。二撃目を防ごうとすれば一撃目を受ける。……其の筈やったんやけど。まあええわ、海神流の一撃をとくと味わって逝きぃ!
汐海の見えぬ一撃は、アスタルシャの頭をふつりと飛ばした。
……アスタルシャは、何も言わなかった。最早言葉は無用だったのだろう。語るべきを語り、為すべきを為し、けれども猟兵には敵わなかったのだと。
「……」
まるで冬の名残、溶け残った氷柱のように一欠片残った絶凍剣の欠片を、汐海は拾う。
「……見え取ったんやろ。自分の頸が飛ぶ未来が。其れでも剣を振って、……うん。ええ仕合いやった。もし次があっても、ウチは負けへんよ」
常冬の島に春が来る。
其れは涼しいそよ風となって、汐海の髪をふうわりと揺らした。
そうか。冬は、終わったんやな。
大成功
🔵🔵🔵