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アルカディア争奪戦⑧~花鯨の遊ぶ空

#ブルーアルカディア #アルカディア争奪戦


 花の鯨が、空を征く。
 コスモス、リンドウ、シクラメン――多種多様な秋の花を甘く華やかに香らせ泳ぐ鯨達は、浮遊大陸の豊かな森に七色の花弁の雨を降らせながら悠然として回遊する。巨大な鯨が虹の架け橋をくぐり、太陽を背に遊ぶ光景は、まるで御伽噺の一場面を切り取ったかのようだ。
 けれども、決して近づいてはならない。飛空艇の勇士達は、口々にそう囁いた。『雲海の聖域』アルカディア・ガーデン――美しくも危険なその空域では、鯨達の降らせる花と濃密な香気が触れたものを蝕み、本人にすら気取られぬうちにその心を奪ってしまうのだから。

●花降らしの鯨達
「空を泳ぐ鯨……なんて、夢みたいな話だね」
 グリモアベースに集まった猟兵達を見渡して、ブルーベル・ザビラヴド(誰かが愛した紛い物・f17594)は言った。しかし、その夢のような世界は、実在する――戦火の只中にあるブルーアルカディアで、『アルカディアの玉座』を隠していた雲海の聖域の一つ、アルカディア・ガーデンへの道が開けたのだ。
「そこは、色んな花が咲き乱れる空の楽園でね。天気は穏やかで、白い雲には虹が掛かったりして……すごく、綺麗な場所なんだって」
 でも、と続けて双眸を翳らせ、青い色硝子の少年は言った。
「その花が、危険なんだ。雲海の聖域に咲く花は、そこを訪れる飛空艇の勇士達を捕らえて、殺して……花に包まれた『アルカディア・オブリビオン』に造り変えてしまう。……そうして生み出したオブリビオン達に、聖域を守らせるために」
 一歩そこへ足を踏み入れれば、アルカディア・ガーデンの花々は猟兵達を『偉大な勇士』と認め、襲い掛かってくるだろう。花々の放つ香気は吸い込んだものの自我を奪い、内側から侵蝕していくという代物だ。しかし――そんなものに敗けるような猟兵達ではない。
 差し伸べる手に青い輝きを灯して、ブルーベルは言った。
「君達なら、大丈夫って信じてる。でも、くれぐれも気をつけて」
 心の内側は、いつだって脆く柔らかいもの。どんなに屈強な戦士でも、心の間隙を完全に塞ぐことなどできはしないのだから。
 無事に戻ってきてねと結んで、少年は猟兵達を送り出した。輝くグリモアが開く扉は、花降りしきる空の世界に続いている。


月夜野サクラ
お世話になります、月夜野です。
以下シナリオの補足となります。
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●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・個別リプレイを想定しておりますが、組み合わせた方が面白くなりそうだな、という場合はまとめてリプレイにする可能性があります。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページとシナリオ上部のタグも合わせて御確認を頂けますと幸いです。

●プレイングボーナス
花々が放つ「自我を奪う香気」に耐える。

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「自我を奪われる」と、オブリビオンの意識が皆さんの自意識を侵蝕し、破壊衝動や嘆き、悲しみ、欲望といった負方面の感情が膨れ上がります。
そうしたものに抗いながら、華やかに美しく戦っていただければと思います。

皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 集団戦 『花兵装鯨の艦隊』

POW   :    砲閃華
【背中の花から放たれる硬い種】が命中した対象を爆破し、更に互いを【種から発芽した蔓植物】で繋ぐ。
SPD   :    綿毛花粉機雷
自身が装備する【綿毛兵装】から【無数の綿毛機雷】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【花粉症】の状態異常を与える。
WIZ   :    危険な花園
自身の装備武器を無数の【種類】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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柊・はとり
綺麗だな
荒涼とした故郷の大地を
見慣れすぎた所為だろうか
妙にしっくり来ない

不意に冷ややかな液体が瞳を濡らす
それはすぐに雪となって散り
氷の欠片となって落ちる
…誰かがこれを綺麗だと言って
吐きそうになった事を思い出す
俺はこんな身体になりたくなかった
だから誰にも涙は見せたくない

殺意より欲より
涙が溢れるという事は
俺はきっといつも悲しいんだろう
感情すら凍る程の痛みに晒され
全てがぎりぎりの所でやっと立ってるんだろう

UCを使い鯨達を剣で薙ぎ払う
息を止め花粉を躱す
どうせ呼吸なんていらない
悲しみが降り積もるほどに
俺の刃は冴えるから
涙が溢れる度に強くなるのが辛い

何処かで誰かが泣いているから
俺はまだ壊れる訳にはいかない



「……綺麗だな」
 無意識のうちに零れたのはごく率直な、飾らない感想だった。飛空艇の甲板から望むのは、鯨の泳ぐ空。レースのように淡く広がる白雲は眩しく、柊・はとりは双眸を細めた。
 巨大な尾びれで風を起こしながら、透き通るような淡い秋空を悠々と征く花鯨の姿は青海を泳ぐ本物の鯨に極めて近いが、肉体を侵蝕するその幻想は、彼らがオブリビオンであることを物語っている。
(「でも、妙な気分だ」)
 綺麗だ、とは確かに思う。けれどただ、それだけだった。
 荒涼とした故郷の大地に慣れすぎたせいだろうか? 花と鯨の舞う空は紛れもなく現実でありながら幻想の産物のようで、どうもしっくり来ない。まるで一枚の絵画の中に迷い込んだかのような、強いて言うならばそんな感じだ。
 ひゅうと風の唸る音と共に、吹き散る花が舞い上がる。そして、不意に――つうと冷たい一筋が、玻璃玉のような瞳の端より零れ落ちた。
「…………」
 頬を伝った一滴は、すぐさま真白の雪へと変じた。氷のかけらとなって落ちるそれを、綺麗だと表した人がかつていたけれど。
(「……言ってくれるよな」)
 あの時のことを思い出すと、今でも薄らと吐き気を禁じ得ない。
 こんなものを、綺麗だなんて――人の気も知らないで。
(「好きでこんな身体になったわけじゃ、ないのに」)
 だから、はとりは泣かない。淡く儚い六花となって散りゆくどうしようもないこの涙を、他の誰にも見せないために。
 すべてが凍てつく地獄の底の底。コキュートスの名を持つ刃が青く寂しい輝きを放つ。殺意よりも欲よりも、涙が先に溢れる――ということはきっと、この心は平時からずっと、悲しみの中にあるのだろう。
 感情すら凍りつくほどの痛みに晒されながら、何もかもがギリギリの危うい線上でどうにか踏みとどまっている。ただ痛みを感じないがゆえ、そのことにさえ気付けずにいる。柊・はとりとは、そういう人間なのだ。
 雲海に身を躍らせて、薙ぎ払う蒼の剣閃が花の鯨を切り裂いた。途端に濃くなる香気に息を詰め、はとりは空中で反転する。
(「どうせ呼吸なんて、いらない」)
 この胸に悲しみが降り積もるれば積もるほどに、鋭く冴え渡る刃。雪の花がひとひら、ふたひら散るたびに強くなるその皮肉が、堪らなく辛く、そして苦しい。
 けれど。それでも。
(「どこかで誰かが泣いているから、俺は」)
 まだ、壊れるわけにはいかない。
 軋む手足には気づかぬふりで、はとりは氷刃を振るい続ける。それがいつか、あるいは今、名も知らぬ誰かの助けになるのだと――信じている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ絡みOK

巨大なお花を装備した空飛ぶ鯨さんたち?
それも、「艦隊」?
よく分からないけど、人を惑わす艦隊を迎撃すればいいんだね?

魔力接続、システムオールグリーン
アルターギア起動
対境界面抵抗結界、障壁結界展開
行くよ

障壁に、封神武侠界の桃の精さんたちからもらったサシェの香気を混ぜて展開
結界と装甲の2重でできるだけシャットアウトなの
防ぎきれなくても、普段から人狼の狂気を抑えてるから、耐性が少しはあるよ

時間は掛けられないから、短期決戦なの
UC詠唱
装甲表面に施した魔術回路で増幅強化して発動
そのままドッグファイトに持ち込んで、お花や香気もろとも浄化して回るの

ごめんね、でも、おとなしく骸の海に還ってね



「わあ……ほんとに鯨さんが空を飛んでるんだね」
 花をまとって宙を泳ぐ、空飛ぶ鯨の『艦隊』。理解の範疇を易々と超えていく現実を目の当たりにして、ロラン・ヒュッテンブレナーは菫色の大きな目を瞠った。空をゆく船の甲板に吹きつける風は強く、背中に流した長い黒髪をなびかせる。
「あれ! よく分からないけど、あれを迎撃すればいいんだね?」
 飛空艇を駆る勇士達に呼びかければ、そうだと応じる声があった。こちらのことなど目にも入っていない様子で気ままに飛び回りながら、そのくせ有害な香気を撒き散らす鯨達――決して、このまま棄ててはおけない。
 紺色のコートを強風にはためかせて、幼い人狼は耳をピンと立て、鯨の群れへ向き直った。
「魔力接続、システムオールグリーン――アルターギア、起動」
 時事刻々と戦況が変化する中で、あまり時間をかけてはいられない。そうでなくでもこの花の匂いは、嗅ぐだけでその者の自我を侵していくのだ。普段から人狼の狂気を抑えているロランには多少耐性もあるが、だからといって長らく身を浸していたい環境ではない。
 だから――短期決戦で、決める。
「対境界面抵抗結界、障壁結界展開。行くよ!」
 開いた魔導書から迸る魔力が結界を形成し、辺り一面に清涼な桃の香りが漂った。封神武侠界の桃の精達からもらったサシェの香気ならば、少しの間は鯨達の放つ匂いをシャットアウトすることができる。素早く詠唱の詞を紡いで、ロランは告げた。
「邪結界、飛翔」
 刹那、小柄な身体が宙を裂いた。幾何学模様を描きながら空を翔ける無数の帯は、魔のものを滅する聖なる光だ。鯨達の目を眩ませたら、それが好機――そのまま飛翔を続けて鯨の頭へ組みつき、人狼の魔術師は囁くように言った。
「ごめんね。でも――おとなしく骸の海に還ってね」
 ここは命あるものの世界だ。過去より来る亡霊達の棲むべき場所ではない。
 大空に花紋を描く光帯は美しくも烈しく燃え上がり、戦場に舞う花と香気を浄めていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・律
見た目は花が咲き乱れる楽園みたいだが・・・とんでもなく危険な所みたいだな。綺麗な薔薇には棘がある、ってな?

念の為に【オーラ防御】しとくが・・・流石に香気を防ぐのは無理だろうな。何しろ範囲が広すぎる。

香気に当てられて、魔獣に首を食い破られて妻や娘を置いて死んでいく無念の気持ちが湧き上がる・・娘はまだ5歳だった。もっと教えてやりたい事があった。何より娘が成長していく所を見ていたかった・・・

でも、まだ終わってない。確かに一度人生は終わった。でも今はこの地に立っている。

俺は戦い続ける。家族の為に!!強い意志で鳴神の矢を放ち、花を【吹き飛ばし】する!!



「これは……とんでもなく危険なところみたいだな」
 目の前に広がる光景を確かめるように見渡して、真宮・律は舌を巻いた。
 悠々と空を泳ぐ鯨の身体には幾千万の花々が絡みつき、咲き誇り、周囲一帯に甘い香りを漂わせている。それは正に、空の楽園と呼ぶに相応しい美しさであったが。
 ふ、と口許に微かな自嘲の笑みを刷いて、男は言った。
「綺麗な薔薇には棘がある、ってな?」
 全身のオーラを盾の代わりに集めてみても、相手の武器は香気だ。物理的な攻撃とは異なり、防ごうと思ってもそう易々とは防げるものではない。
 風が吹き抜け、色とりどりの花が舞う。にわかに濃く匂い立つその香に当てられて、思い出すのは昔のこと。無念にも妻子を遺して死んだ、十三年前のあの日のことだ。
(「どうして、あんなことになったんだろう」)
 物心つく前から戦場に生き、人並みに幸せを得ることなど、生涯ないと思っていた。そんな自分に愛を教えてくれた二人を庇って、律は死んだ。ヴァンパイアどもの操る魔獣に首を食い破られて、もはや命をつなぐ術はなかった。
 愛娘は、当時わずか五歳。教えてやりたいことも、見せてやりたいものも数えきれないほどあった。そして何より、彼女が成長していく姿を隣で見ていたかった。
 過ぎた時は還らず、悔恨は尽きることがない。――けれど。
(「でも、まだ終わってない」)
 律の人生は、確かに一度終わりを迎えた。しかし何の因果か、その魂は生前の姿をとどめたまま魂人となって、今はこの地に立っている。
(「俺は戦い続ける。家族の為に!!」)
 他の何にも代え難い、大切な人達のために。
 半ば透き通った淡い体の中で、魂が白く燃え立つのが分かる。花の鯨の啼く声を、舞い散る花の芳しきを強固な意志で振り払って、律は両手を身体の前に差し出した。
 顕現させるのは鳴神の弓と矢。バチバチと音を立てて弾ける雷の矢を弓に番え、律は唇を引き結ぶ。深緑のエメラルドにも似た瞳には、空を舞う花鯨の姿がくっきりと映り込んでいる。
「ただ痛いだけじゃ済まさないぜ」
 この身に刻まれた記憶の痛み、苦しみも、すべて持っていけ。限界まで引き絞って放つ雷撃は、舞う花を貫き、吹き飛ばして、鯨の頭蓋に突き刺さる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
ライラ(f01246)と
視界にノイズが奔る
きみに、必死に手を伸ばした

『――キース・コールリッジ博士』
『知的■■■冒涜ノ罪ニヨリ』
『直チニ■■セシ』『■■、罰セヨ、■セ』

覚えていない
覚えている
ああ。だめ、やめて。……やめて!

拒みきれずに向けた銃口
照準スコープの先に立ち尽くすきみを、見て

……ライラ。ライラ!

混濁する思考を振り払う
己の制御装置を解除し肉体改造、無理矢理に跳躍し
きみの背に思い切りしがみつく

ライラ、だめだ!そっちに行っちゃ、だめ!

出力全開のSparklesを放って
周囲の花ごと、絡む蔓ごと焼き払う

おれはもう自我を持たぬ兵器じゃない!
ライラが教えてくれたんだ
『あい』に満ちた物語を、たくさん!


ライラック・エアルオウルズ
カーティスさん(f00455)と

綺麗な花だ、と薄ら思う
やわらかで、はなやかで
僕のペンでは描けないもの

そう過れば、留まることなく
洋墨の溢れる心地がして
黒く黒く、心が塗り潰される
きっと、僕には
こんな夢を描けやしない
『不気味』と嘲笑われるよな
そんな物語しか、綴れなくて
友人の素敵を伝えられなくて

ああ、いやだ
もういっそ、この世界も
黒く黒く塗り潰してしまえば、

――っ、カーティスさん?
万年筆を手に、踏み出す歩を
しがみつかれる感覚に留める
小さな身体で声を張り上げて
抗う友に、ついと視界が滲む

僕にも伝えることが出来たんだ
友の『素敵』を、――物語で

そう、貴方は僕の『大切な友人』だよ
悲しい物語はおしまいにしてしまおう



 その空域には、決して足を踏み入れてはいけない。
 空の鯨の啼く声が、聞く者の足を竦ませてしまうから。
 咲き乱れる花の色が、視る者の心を奪い取ってしまうから――。

 遠く、金の喇叭ラッパを吹くような音がした。

『――キース・コールリッジ博士』

 耳の奥に、無機質な呼び声が蘇る。淡い秋空を映した視界にノイズが奔り、カーティス・コールリッジは硬直した。彼ではない誰かを呼んだ音声は、極めて事務的に、淡々と続ける。

『知的■■■冒涜ノ罪ニヨリ』
『直チニ■■セシ』

「……やめて」
 覚えていないと思っていたはずだった
 けれど確かに、この五感が覚えている『あの日』の光景に、頭が割れんばかりに痛む。ああ。だめ。やめて――悲痛な叫びは自分ではない何者かに塗り潰されて、発するがまま体の外へ抜け出ていってしまうようだ。

『■■、罰セヨ、■セ』

 ■セ。■セ。■セ。
 苛むように繰り返す声を、虚ろな心は拒みきれなかった。胸に抱いた熱線銃のセーフガードを、グローブの指先がひとりでに外していく。覗き込んだ照準スコープの先には、飛空艇の甲板に立つ一人の男の姿があった。
「……ライラ?」

 男の意識は、夢想の空の中にあった。哀しいほどに青い虚空を無数の花が舞う光景は、過去の亡霊達の織り成す虚構だ。そのくせ柔らかで、華やかで――とても彼のペン一本では、描けそうもない。
 限界。
 そんな言葉が頭を過ったその瞬間、どろりと、黒い洋墨の溢れるような心地がした。
(「きっと、僕には描けやしない」)
 誰も知らない夢の世界を、想い、描いて形にする。それが、ライラック・エアルオウルズという物書きの生業だった。季節の花を肴にしては机上の友と夜通し語り、その姿を語り紡ぐ風変わりな文筆家だ。
 けれど、なぜだろう――彼にとっては当たり前の行いを、嗤う人間はどこにでもいた。
(「『不気味』と嘲笑われるよな」)
 そんな物語しか、綴れない。
 友人の素敵を伝えることもできない。
 無限に溢れて留まることを知らない墨によって、誰に必要とされることもない文字は記した傍から塗り潰されていく。
(「ああ、いやだ」)
 もういっそ、この世界ごと、黒く黒く塗り潰してしまえば?
 その名と同じ花の色をしたベストから、するり、取り出した万年筆のペン先が鋭い輝きを放つ。しかし、終わりにしようと一歩、甲板を踏み出したその時――背後から、カッと目映い閃光が迸った。
 乱舞する花弁とうねる蔦蔓が、白い焔の中に灼かれて消えていく。それは、最大出力で放つ加粒子波動砲の一撃。次第に明瞭さを取り戻していく視界に、茫然として振り返る男の姿をはっきりと捉え、少年――カーティスは叫んだ。
「ライラ、だめだ!」
 そっちに行っちゃ、だめ――。
 止めなければと、ただそれだけだった。未だ混濁する思考を振り払い、その身に科せられた制御装置を解いて、カーティスは強引に跳躍する。がむしゃらに伸ばす手でぶつかるようにしがみつけば、上等のベストの背中は微かに、古い鈴花の匂いがした。衝撃に一瞬息を詰め、ライラックはその場に縫い付けられたように足を止める。
「っ、カーティスさん?」
「おれは――もう自我を持たぬ兵器じゃない!」
 取り落としかけた万年筆をベストの胸ポケットに戻して振り返れば、洋装の背にしっかりとしがみついたまま、少年はいとけない声を張り上げた。
「ライラが教えてくれたんだ。『あい』に満ちた物語を、たくさん!」
 彼の綴る物語は、つまらなくもなければ不気味でもない。兵器として生み出された少年が最も求め、必要としていた言葉がそこに在った。その存在に今日まで、どれほど救われてきたことか?
 心からの叫びに胸を震わせて、ライラックはただその場に立ち竦む。思わず目頭が熱くなって振り仰げば、秋雲の輪郭がじわりと滲んだ。
「そう、……貴方は僕の『大切な友人』だよ」
 熱を帯びた叫びが教えてくれる。
 彼は何もできなかったのではなく、ちゃんと伝えることができたのだ。友と呼べる人の『素敵』を――紡ぐ言葉と、物語で。
 再び、今度は自分の意思で取り出した万年筆を右手に構えて、ライラックは花の鯨に向き直った。
「悲しい物語はもう、おしまいにしてしまおう」 
 走る銀のペン先が、宙に流れるようなエンドマークを刻む。これにてジ・エンド――終焉を与えられた鯨達は花を撒き散らしながら、雲海の底へと墜ちていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月11日


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#アルカディア争奪戦


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト