アルカディア争奪戦⑪〜水晶樹に鯨華は咲き誇り
●巨鯨は華と共に水晶を戴く
――歌が響く。甲高くも重々しい、幾重にも重なる歌。
――その美しい調べはきっと、鯨の鳴き声だ。
その場所は海に似て非なる場所。どこまでも透き通るような蒼の中に浮かぶは、真白き雲海。大洋からは遥か彼方、大地の軛すらも解き外した、蒼穹に浮かぶ浮遊大陸こそが彼らの住まう世界。
此処はブルーアルカディアが希望の聖地『オーンブル』。水晶によって象られた一本の樹を戴くこの大陸は今、天帝騎士団と同盟関係にある『
帝国継承軍』と屍人帝國に抗う『
飛空艇艦隊』が熾烈な戦いを繰り広げる最前線と化していた。
「装甲艦『マッセナ』、行き足が鈍りつつあり!」
「代わりに『ロングゲート』及び『ランドディープ』を押し出せ!」
「巡洋戦艦『デアフリンガー』、航行不能ッ! 周囲の艦艇は距離を取れ、巻き込まれるぞ!」
戦いの主役はやはり何と言っても
飛空艇だ。分厚い装甲に砲塔を備えた軍艦が、艦隊を構成しながら屍人帝國と砲火を交えている。或いは平らな甲板を持つ兵員輸送船からはひっきりなしにロケットナイトやガレオノイドが出撃を繰り返し、隊伍の間を飛び回りながら果敢にも挑み掛かっていた。
屍人帝國に対抗すべく結集した、勇士連合による大艦隊。しかし総力を結集しても尚、敵群の壁は高く、分厚い。艦橋に佇む老艦長は、そんな儘ならぬ戦況を双眼鏡越しに覗きながら歯噛みする。
「見た目こそ牧歌的だが、実際に相対する身としては憎らしい事この上ない。一匹一匹が生半な
飛空艇を超えるサイズではないか……!」
その視線の先に居たのは、悠然と雲海を泳ぐ無数の鯨たち。鰭に蔦を絡ませ、葉を纏い、華を背負う姿は美しいとすら形容できるだろう。だが、よくよく目を凝らせば肌の一部は鋼板で補強され、眼や耳を始めとする感覚器官が機械へと置き換わっている。
これらはただの動物ではない。『
帝国継承軍』によって機械化されし、生きた戦列艦なのだ。技術の粋を掻き集めて建造された
飛空艇が華鯨によって轟沈させられる様は、戦慄を通り越していっそ滑稽ですらある。
悪夢染みた戦場。しかし、これは紛れもない現実だ。
「……せめて、もう一押しさえあればな」
そんな小さな呟きが、よもや聞こえた訳ではあるまいが。
――歌が響く。砲声すらも塗り潰す、終わりを告げる鐘の音が。
――その美しい調べはきっと、鯨の鳴き声だ。
●
「やぁ、みんな。着実に攻略を進められているようで何よりといった所かな。この調子で引き続き戦いを続けていこう。という訳で、次なる戦場への案内だ」
グリモアベースに集った猟兵たちを前に、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はそう説明の口火を切る。猟兵たちの活躍により、様々な環境の浮遊大陸の攻略が進められている。だが、次なる戦場はその中でも指折りの激戦区と言えた。
「皆に向かって欲しいのは希望の聖地『オーンブル』。ここは『天帝騎士団』と同盟関係にある『
帝国継承軍』によって支配されている浮遊大陸だ」
水晶樹を戴くこの浮遊大陸を覆うように、敵勢力は夥しい数の戦力を集結し防御を固めている。勇士たちによる『
飛空艇艦隊』が突破を狙って決死の攻勢を行っているものの、戦況は決して芳しいとは言えない。故にこそ、猟兵の出番という訳だ。
「敵の物量は凄まじく、仮に猟兵と言えども手古摺るだろうね。だから状況を打破する為にも、友軍との連携が重要になるはずだよ」
勇士たちと戦列を共にし肩を並べるも良し、大軍を囮として敵中枢を狩るも良し、自らが敵を惹き付け艦隊の一斉砲火で一網打尽にするも良し。荒唐無稽な頼みでも無ければ、こちらの求めに応じて動いてくれるだろう。
「そして肝心の敵戦力だけれど、宇宙船染みた飛空艇を主戦力としつつ、改造した鯨たちによって編成された艦隊を投入しているみたいだ」
鯨の巨大さは今更説明するまでも無いが、重力の軛より解き放たれ蒼空に生きる彼らのサイズは正に弩級と言って良い。一体一体が飛空艇に伍するサイズな上、それが群れを成しているのだ。その戦力は凄まじいの一言である。
更には身体に無数の花や植物を纏っており、それらを駆使して攻撃を仕掛けて来る様だ。『
帝国継承軍』による改造も施されている為、穏やかそうな見た目に反してその戦い振りは苛烈と言って良い。
「……何やら、不穏な予知も出ているみたいだからね。このまま勢いを殺すことなく、攻略を進めておきたいかな」
そうして説明を締めくくると、ユエインは猟兵たちを送り出すのであった。
月見月
どうも皆様、月見月でございます。
戦争シナリオ2本目、蒼穹を揺蕩う華鯨との艦隊決戦となります。
それでは以下補足です。
●最終勝利条件
『
帝国継承軍』の撃破。
●プレイングボーナス
『
飛空艇艦隊』と協力して戦う。
●戦場
水晶樹を戴く浮遊大陸、希望の聖地『オーンブル』。その周囲を取り巻く空域が戦場となります。必然的に空中での戦闘となる為、個別に飛行手段を用意するか友軍艦に同乗しての戦闘、或いは個人用の飛空艇を借り受けて挑む必要が有ります。
敵軍は宇宙船に類似した艦艇を主戦力としつつ、機械改造した華鯨の群れで防衛線を構築しています。猟兵、飛空艇艦隊どちらかのみで挑んでも敵の壁に跳ね返されてしまうので、上手く協力しながら突破口を探って下さい。協力の例はOPを参照。勿論、それ以外の手段も大歓迎です。
●プレイング受付について
OP公開後から受付を開始します。戦争シナリオですので、採用は無理のない範囲でとなります。止むを得ず流してしまう場合もありますので、その点を予めご了承頂けますと幸いです。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『花兵装鯨の艦隊』
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POW : 砲閃華
【背中の花から放たれる硬い種】が命中した対象を爆破し、更に互いを【種から発芽した蔓植物】で繋ぐ。
SPD : 綿毛花粉機雷
自身が装備する【綿毛兵装】から【無数の綿毛機雷】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【花粉症】の状態異常を与える。
WIZ : 危険な花園
自身の装備武器を無数の【種類】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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クゥ・ラファール
敵は巨大な装甲目標。
なら、相応の兵器で以て戦うのが筋、だろうね。
了解、クゥが行く。
Rafale搭乗、ブーストの【推力移動】で飛翔し【空中機動】、以て空中戦を仕掛ける。
クゥが敵を引き付けたところに、勇士の人達に砲撃を仕掛けて貰って殲滅するのが基本方針。
勿論、クゥもしっかり攻撃していく。
敵中への【切り込み】から、実弾モードのDualFaceの射撃、LooStarの【誘導弾】、間合いを詰めたらEliminatorで斬りつけ【切断】。
敵が集まってくるならUC発動、敵がUCで放った機雷諸共、武装の【一斉発射】で吹き飛ばしていく。
こんな世界にこんなもの、どうやって作ったんだか。
●疾風、巨鯨を狩らん
砲声が大気を震わせ、轟沈する船体が雲海へと沈み、華鯨の歌が鎮魂歌を紡ぐ。そんな古き航海時代を思わせる光景を前にして、友軍艦の甲板へと降り立ったクゥ・ラファール(Arrow Head・f36376)はスッと丸く大きな瞳を細める。
「敵は巨大な装甲目標。火力は元より、特筆すべきは装甲と耐久性能かな。なら、相応の兵器で以て戦うのが筋、だろうね……うん、了解。クゥが行く」
大物を狩るのであれば、やはりそれに相応しい得物が必要だ。彼女がくるりと背後へ向き直るや、それまで待機状態だった鉄騎の炉心に火が灯る。『
疾風』の名を冠するキャバリアは此度、蒼穹を思わせる群青に紫を差した色合いを身に纏っていた。
乗り手を受け入れた機体は主の意に従い、ブースターを勢い良く吹かしながら戦闘空域へと飛翔してゆく。目指すは当然、砲火飛び交う最前線である。
『敵艦隊、前方一帯に機雷を散布! 速度を落とせ、突っ込めば即お陀仏だぞ!』
『機銃で掃討しろ! 至近距離で起爆させるなよ、まともに動けなくなるからな!』
クゥが戦線へと到着した時、華鯨の群れは周囲の空間へと無数の綿毛を放ち終えた所であった。飛び交う通信の内容から察するに、それらはガスか何かを内包した機雷なのだろう。空域を埋め尽くす様に浮遊する綿毛の合間を縫うなど、
飛空艇の船体では不可能に近い。
しかしそれよりも小さく、かつ運動性に優れたキャバリアであれば話は別だ。
『……まずは進路を塞ぐ障害物を取り除くのが先決かな』
このままでは艦隊間の連携も儘ならない。故にクゥは綿毛の排除へと動いた。彼女は僅かばかりの空隙へ恐れる事無く愛機をねじ込ませると、双面と銘ぜられたライフルの実体弾を以て次々と綿毛を撃ち抜いてゆく。
ふよふよと気流に揺らめく目標を正確に穿ち、被弾と同時に撒き散らされる高濃度の花粉を推力機動により回避。加速圧で身体が操縦シートへめり込む感触を覚えながら、クゥは機雷の散布源である華鯨へと視線を走らせる。
(再散布されたら厄介だね。本体を墜とせずとも、武装を潰すくらいは出来るはず)
案の定、華鯨は身体を小刻みに振るわせ、再び綿毛を撒き散らさんとしている最中だった。そうはさせまいと少女は牽制射を放ちつつ加速。逆の手から光刃を展開するや、巨体の背に群生する蒲公英の茎を纏めて断ち切ってゆく。
だが僅かに一手遅く、ぼわりと夥しい数の綿毛が先端より解き放たれる。このままでは連鎖爆破を引き起こし、鉄騎は木端微塵となるだろう。しかしそんな状況下でも、クゥが冷静さを崩すことは無い。
『全兵装、使用自由。同時に機体のリミッターをカット……全く、こんな世界にこんなもの、どうやって作ったんだか』
彼女が素早く命令を下すや、肩部ミサイルポッドが誘導弾を斉射し始めた。そうして至近距離の綿毛を吹き飛ばすと同時に、花粉が機体に触れるよりも先に急加速。勢いそのままに機体を反転させるや、弾倉が空になるまで弾丸を浴びせかける。
僅か数瞬の内に綿毛は文字通り根元から断ち切られ、華鯨の元まで
飛空艇艦隊の射線が開く。クゥは機体をその場より離脱させつつ、友軍へと呼びかけた。
『機雷は排除しました。今です!』
『感謝するぜ、
猟兵! このリシュリューの主砲を見せてやる!』
果たして、勇士たちの反応は早かった。砲塔群が照準を定めたかと思うや、それらが一斉に火を噴く。放たれた砲弾は狙い違わず、悉くが目標へと着弾し……。
――ォォォオオオン……!
果たして、華やかなる巨体を一つ、雲海へと沈める事に成功するのであった。
成功
🔵🔵🔴
ミア・ミュラー
勇士さんたち、苦戦してるみたい、だね。ん、こういう時こそわたしたちの、出番だよ。
ここはどーんと大きいのをぶつけた方が、いいかも。前の方にいる飛空艇に乗せてもらって、まずみんなにはわたしの魔法が完成するまで守って、ほしいな。ん、もうちょっとだけ我慢、しててね。
舞い散る花びらの先、敵を見据えて詠唱したら【流れ星】を発動、だよ。大きいものには大きいものをぶつけるのが、いちばん。どんどん星を落として花びらも敵も落としちゃう、から。これで突破口が開けたら、最後はみんなに一斉攻撃して、もらおう。これで少しはみんなの役に立てた、かな?
●流星は空船を導きて
猟兵の参戦により反撃の狼煙は上がった。未だ戦況に対する影響力は限定的だったが、それでも変化である事に変わりはない。この流れを更に加速させるべく、新たな猟兵が戦闘空域へと降り立ってゆく。
「敵は華をまとった、大きなくじらたち、か。勇士さんたちも、苦戦してるみたい、だね……ん、こういう時こそわたしたちの、出番だよ」
硝煙の香りが混じる高空の風。それらを全身に受けながらミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は
飛空艇の甲板に佇んでいた。前線へと視線を向ければ、砲火の中を悠然と泳ぐ華鯨の姿が見える。
その姿は優美なれど、頑強なはずの戦艦を鎧袖一触にする様は脅威の一言だ。アレらを沈めるには、生半な一撃では到底威力が足りぬだろう。なれば狙うべきは大火力による必殺か。
「やっぱり、ここはどーんと大きいのをぶつけた方が、いいかも。でも、ちょっと時間が掛かっちゃうから……申し訳ないけど、まずみんなにはわたしの魔法が完成するまで守って、ほしいな」
『成る程、時間稼ぎが必要かね? 了解した。ならばその役目、この装甲巡洋艦「リューリク」に任せて貰おう!』
しかし、強力な術式を発動するにはそれ相応の準備を要する。それまでの支援をお願いしたいと告げる少女に応えたのは、三本のマストを備えた
飛空艇であった。武骨なシルエットの巡洋艦は猟兵の盾となるべく加速するや、敵軍へ間断なく砲撃を浴びせかけてゆく。
当然、
帝国継承軍も応戦して来るも、装甲巡洋艦の名は伊達ではない。絶え間なく被弾しながらも、少女を守るべく一歩も退かずに突き進む。
「ん、ありがとう。もうちょっとだけ我慢、しててね?」
その姿に感謝を述べつつ、ミアは詠唱を口遊みながらジッと視線を巡らせていた。目標は無論、華鯨の群れ。敵味方双方とも絶えず位置を変え続けるものの、その巨躯を見失うまいと常に狙いをつけ続ける。
しかし、相手もただの生物ではない。機械に置換された感覚器官は
飛空艇艦隊の奥深くに守られた猟兵の姿を捉える。通常の兵器では射線を通すことは叶わない。なればと敵が選んだのは、空間全てを攻撃で満たす事であった。
『不味い、流石にこいつは防ぎ切れん
……!?』
華鯨がふるりと身を震わせるや、全身から色とりどりの花弁が溢れ出してゆく。それらは
飛空艇の視界を遮りながら、微細な刃と化してミアへと殺到する。艦内ならまだしも、身を晒している少女には致命的だ。眼を剥く『リューリク』の乗組員たちだったが、対する少女は平静さを保ち続けていた。
「だいじょうぶ。わたしの方が、ちょっとだけ早いから。集え、天を揺蕩う不滅の理……闇を祓う、光となりて降り注げ!」
花びらが到達するよりも早く、術式は完成するはず。果たして、少女の判断は正しかった。ミアが結びの言葉を紡いだ直後、天より飛来した火石が花弁の奔流を纏めて吹き飛ばしてゆく。
しかも、星はその一石だけに留まらぬ。始めの一つを皮切りに、次々と流星群が戦闘空域へと降り注ぎ始めたのだ。
「大きいものには大きいものをぶつけるのが、いちばん、だよ。どんどん星を落として花びらも敵も落としちゃう、から。これで少しはみんなの役に立てた、かな?」
『ああ、十分だとも!』
質量、硬度、そして落下速度。彗星はそれらに裏打ちされた破壊力を以て敵陣を鶴瓶撃ちにし、相互の連携を寸断してゆく。局所的とは言え、こうなれば形勢は逆転である。ミアの問い掛けに力強く答えながら、『リューリク』の一斉砲撃が華鯨へと叩き込まれるのであった。
成功
🔵🔵🔴
杓原・潤
うわ、でっかいクジラがいっぱい……これ、やっつけられるのかな?
いや、強さならサメだって負けない!
テルビューチェに乗って戦うぞ!
まずは飛空艇に乗せてもらって、高い所に連れてって貰おう。
そこから鯨の上に飛び降りて、派手に【重量攻撃】しながら登場するぞ!
【継戦能力】で花びらに耐えながらユーベルコードでパワーアップ、鯨に生えてる花や機械を手当り次第に【切断】して行けば敵の攻撃や回避の能力も落とせるんじゃないかな。
後はうるうが他の鯨に【空中浮遊】で飛び移ってまた暴れて、弱らせた鯨は飛空艇艦隊さんがやっつける!
時間がかかると皆危ないからね、リスク分散しながら効率的に次々倒して行こう!
夜刀神・鏡介
残念ながら俺に飛行する術はない。ついでに遠距離攻撃もそこまで得意じゃない
……となると、できる事は1つだな?
火力はなくても良い、できるだけ機動力が高い飛空艇に同乗
そして敵に接近、できれば頭上を取ってもらいたいが無理は言わない
その途中で敵が攻撃してくるならば、神刀を抜いて斬撃派で迎撃
十分に近付いたところで参の秘剣【紫電閃】を発動
紫紺の神気によって行動力を強化。勢いよく踏み込んで、敵の身体へと飛び移る
放たれた綿毛機雷をなぎ払いつつ、身体の上をダッシュで移動しつつ鯨を切り裂いて攻撃
一体を撃破したなら、直接他の敵に飛び移れそうならそのように
無理なら飛空艇に回収してもらって、また別の敵へと向かおう
●巨躯を踏み、砕き、断ち切りて
「うわ、でっかいクジラがいっぱい。それに何だか妙な雰囲気だし……これ、本当にやっつけられるのかな? いや、強さならサメだって負けないよ!」
盛り返しつつあるものの、戦況は未だに拮抗状態。無数の砲火が飛び交い、華鯨の調べが木霊し、両軍の艦影が入り乱れゆく。そんな渾然とした戦場を、杓原・潤(鮫海の魔法使い・f28476)は駆逐艦の艦首より見下ろしていた。
飛行手段を持っていなかった彼女は友軍に援護を求め、それに応じた快速艦『デアリング』がエスコート役を買って出たのである。敵の巨大さに気持ちを奮い立たせる少女の横には、同じ理由で乗艦していた夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の姿もあった。
「残念ながら俺に飛行する術はない。ついでに遠距離攻撃もそこまで得意じゃない。頼みの綱は己が五体と腰に佩いた得物のみ……となると、できる事は1つだな?」
「考えてることは同じかな? だったら、うるうもテルビューチェに乗って戦うぞ!」
神刀を鞘より引き抜く青年士官の横では、魔術師の意に応じて鮫歯の銘を冠する鉄騎が姿を見せてゆく。そうして猟兵たちが戦闘準備を整え終えるのとほぼ同時に、快速艦『デアリング』は戦闘空域の上方へ到着する。
遥か眼下では華鯨の群れが揺蕩いながら、鉄塊の船を沈めんと攻勢を強めつつあった。これ以上時間を掛けてしまえば、友軍の被害は免れまい。更には敵も上に回り込まれたのを悟ったのか、遠雷の如き叫びと共に綿毛機雷が散布され始める。
「出来ればギリギリまで気付かれたくなかったが、そう甘くはないか。だが、直上を取れただけでも上々だろう」
『タイミングとしても良い頃合いだろうしね。よーし! それじゃあ、思いっきりいくよ!』
もはや一刻の猶予も無し。大小二つの影は恐れる事無く甲板を蹴るや、蒼穹へと身を躍らせた。一瞬の浮遊感の後に訪れるのは、グンと重力に引き寄せられる感覚。自由落下を開始した猟兵たちは真下の華鯨目掛けて勢いよく降下してゆく。
(高濃度の花粉を内包した綿毛機雷、か。一瞬でも速度を緩めれば、着地は愚か目算を誤ってそのまま雲海まで沈みかねないな)
試しに鏡介が手近な綿毛を擦れ違いざまに斬り捨ててみれば、ぼわりと黄色い粉塵が周囲に撒き散らされる。もしアレを一息でも吸い込んだ場合、たちまち目鼻が洪水の如き有り様になるだろう。
そんな綿毛が周囲一帯の空間を埋め尽くしているのだ。何かの拍子に巻き込まれれば、そのまま連鎖的な起爆に飲み込まれるのは明らか。であれば、今必要なのは更なる加速しかない。
「神刀解放。我が刃は刹那にて瞬く――参の秘剣【紫電閃】」
手にした得物の刀身が煌めいたかと思うや、グンと青年の身体が宙空で加速してゆく。それと反比例するかの如く彼の主観速度は停滞し始め、綿毛の動き一つ一つをつぶさに把握出来るようになる。果たして鏡介と交錯した綿毛機雷は次々と両断され、一拍の間を置いてて自壊してゆくのであった。
一方、キャバリアの操縦席に収まった潤は生身の仲間と比べてまだマシと言える。とは言え、当然ながら無傷とはいかない。サイズが大きい分、避け切れなかった綿毛機雷の衝撃をモロに受けてしまう。しかし、軽く頑丈な装甲を活かして被害を最小限に抑えると、そのまま距離を詰めてゆき、そして。
『っと、とと!? よっし、何とか着地できそうだね。ついでに勢いを利用して、このまま……いっけぇえ!』
質量、硬度、速度。それらの三乗は即ち、破壊力。勢いを微塵も落とすことなく鉄騎は華鯨の背へと吸い込まれるや、強烈な蹴撃を叩き込んだ。余りの衝撃に相手の巨躯が僅かに沈み、身体がくの字に曲がる様を見れば、その威力が窺い知れると言うもの。
だが、敵の耐久力も尋常ではない。機体から伝わる違和感に操縦席の潤が思わず眉根を顰める。
『感触がちょっと変、かな? 柔らかそうで、所々が硬い……ッ!?』
見た目は優美だが、どうやら皮膚の下へ装甲板を埋め込み補強しているらしい。墜とすには手間が掛かりそうだと嘆く暇もなく、ぶわりと色とりどりの奔流が襲い掛かって来た。華鯨の背に生えた植物群が、刃と化した花弁を飛ばしているのだ。
一枚一枚は微細なれど、塵も積もれば何とやら。まるで鑢に掛けられたが如く装甲が削り取られてしまう。木製の装甲から破片が舞い、見る間に木屑が舞い散りゆく。だが、ここまでは想定の範囲内である。
『ここは地上と比べて空が近いからね。普段よりもパワーアップ出来るんじゃないかな。さぁ、夜の魔力よ、力を――!』
鉄騎が頭上へ手を伸ばした瞬間、チカと真昼の星が瞬いた。煌めきを抱く夜闇の魔力がキャバリアに注がれるや、損傷した箇所を覆い包むように補強する。こうなれば今しばらくは持ちこたえる事が出来るはずだ。
体勢を立て直した潤は棍棒に魔獣の牙を埋め込んだ剣を取り出すや、攻撃の元凶である植物群を伐採せんと挑み掛かってゆく。
『綿毛や花びらを生み出す植物に、目や耳に埋め込まれたセンサー……それらを取り除けば攻撃や回避の能力を落とせるんじゃないかな?』
「ふむ、鯨用のサイズとあってどちらも相応の大きさだな。そちらは任せて、俺はより直接的に行った方が良さそうだ」
スケール感の違い過ぎる戦闘を横目に見つつ、同じように華鯨へ取りついた鏡介も攻撃を開始する。この足場全てがそもそも敵なのだ。なればかつて行われた伝統に倣い、この巨体を解体するのも一興か。
青年は分厚い皮膚を貫いて神刀の切っ先を突き立てると、そのままの状態で走り出す。一瞬だけ皮下の鋼板に引っ掛かりを覚えるが、速度に任せて強引に斬り裂く。
斯くして華鯨は植物群を無惨にも毟り取られ、体表もあちこちが斬傷塗れ。こうなれば如何な巨体と言えど、衰弱は免れ得ぬ。ぐらりと足元が傾ぐのを認め、猟兵たちはこれ以上の継戦は危険だと判断する。
『そろそろ頃合いかな。あんまり時間がかかると皆危ないからね、リスク分散しながら効率的に次々倒して行こう!』
「ああ、どうやら迎えも来てくれた様だしな。別の敵へ向かう為にも、此処で一区切りつけておこうか」
潤は勢いよくジャンプし別の個体へと飛び移り、鏡介は機を見て高度を落としてくれた『デアリング』へと舞い戻る。既に相手は瀕死の状態だ。抵抗手段を失った敵など、
飛空艇にとっては単なる獲物でしかなく……。
他艦との連携した一斉砲撃により、華鯨は遂にトドメを刺されるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
栗花落・澪
風景だけなら綺麗なんだけどね…
流石に勇士達に危険な事はさせたくないから僕が囮になるよ
隙を見て一斉放火をお願い
翼と★Venti Alaの二重の【空中戦】で接敵
場所は実質海とは違うとはいえ
鯨は元々海の生き物だから
【高速詠唱】で雷魔法の【属性攻撃】
どこまでダメージが通るかわからないけど、とにかく気を惹きたい
更に【指定UC】を発動
敵が放ってくる花弁を焼き尽くしながら
【破魔】の炎鳥をバラバラに鯨達にぶつけます
鉄は熱を通すから、それさえ通れば無視は出来ないでしょ
数の利を生かして、あわよくば敵の飛空艇にも一部でいいから攻撃を届かせたい
それを挑発という名の【誘惑】として
引き付けたところに一斉砲撃してもらえれば
●火の鳥は煌々と的を照らす
「何処までも広がる蒼穹に雲海を泳ぐ華鯨の群れ……風景だけなら綺麗なんだけど、ね」
背に負いし翼は風を受け止め、高空の澄んだ大気が頬を撫ぜる。栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は希望の聖地『オーンブル』の周辺空域を揺蕩いながら、物悲しそうに表情を曇らせてゆく。
本来であれば心安らぐ光景だ。しかし鼻を突く硝煙と油臭さが、此処が戦場である事をありありと示していた。猟兵の活躍によって戦況の天秤が逆転しつつあるとは言え、こうしている今も無数の
飛空艇が煙を噴き上げて航行不能になりつつある。
「うん……流石に勇士達に危険な事はさせたくないから僕が囮になるよ。猟兵の厄介さは周知されつつあるだろうし、隙を見て一斉放火をお願い出来るかな?」
『こちらとしては願ったり叶ったりだが……いや、ここで差し出口を挟むのも無粋と言うものか。相分かった、攻撃は任せてくれ』
当然ながら戦場は此処だけでなく、戦争自体も中盤に差し掛かった頃合いだ。戦略的にも心情的にも、出来る限り損耗は避けるべきだろう。澪は翼を一打ちし虚空を蹴って最前線へ向かいながら、友軍へと通信を入れてゆく。
それに応じたのは船体に『ボルチモア』と記された重巡洋艦を主体とする艦隊であった。パッと見ただけでも、備えた打撃火力は中々のもの。彼らが本領を発揮できる場を整えるべく、青年は行動を開始する。
(場所は実質海とは違うとはいえ、鯨は元々海の生き物。それに機械改造もされているって話だよね? なら、試してみる価値はあるかな。どこまでダメージが通るかわからないけど、とにかく気を惹きたい)
相手はあの巨体だ。細々と攻撃していた所で、よほど上手くやらねば蚊の一刺しにしかならぬ。故に澪は彼我の相性も鑑みて、雷魔法による電撃で相手の出方を窺う事に決めた。猟兵の放った魔力と反応し雲海が灰色に染まるや、ゴロゴロとした唸りと共に稲妻が華鯨へと襲い掛かる。
――ォォオオオオン……!
ダメージの総量としては微々たるものかもしれないが、それでも痛痒程度は覚えたらしい。甲高い歌声を上げながら、華鯨が身を捩らせる。同時にうろちょろと飛び交う羽虫を叩き落とさんと、色とりどりの花びらを撒き散らし始めた。
「狙い通り、相手の注意がこっちに向いた……でも、もう一押し! 鳥たちよ、どうかあの艦を導いてあげて!」
細やかな花弁は刃のように鋭く、青年の柔肌や羽根に細かな傷を残してゆく。先触れだけでこれなのだ、奔流に呑まれれば一瞬にして血霧と化すだろう。しかし、これは逆に好機でもあった。
澪が言の葉を紡いだ瞬間、ぼわりと百を優に超える炎塊が生じる。それらに翼が生えたかと思うや、数多の鳥となって花弁を焼き払い始めた。延焼した分からは新たな火鳥が飛び立ち、燎原の如く瞬く間に華鯨へと襲い掛かってゆく。
「さっきの攻撃を通して、脆弱部は把握済みだよ。鉄は熱を通すから、それさえ通れば無視は出来ないでしょ?」
雷撃を浴びせかけた際、華鯨が本能的に守ろうとした箇所が幾つかあった。十中八九、其処が脆弱部なのは間違いない。落雷に対して備えが在ろうと、熱もまた機械にとっては天敵だ。皮下に埋め込まれていようが、焔は奥深くまで浸透し得るものだ。
(あわよくば、敵の飛空艇にも一部でいいから攻撃を届かせたいかな。勿論、撃沈なんて贅沢は言わない。これは挑発と言う名の誘惑だ)
身悶えする巨体を横目に、澪は敵陣奥深くに陣取った
帝国継承軍の艦艇にまで翼を伸ばす。相手が此方を脅威だと判断し、排除に動けば儲けもの。果たして、近未来的な艦影がゆっくりと前線にまで進出し始めた。
それに比例して砲撃が激しさを増すが、いま退けば目論見は水の泡だ。攻撃を掻い潜りながら青年は敵の敵意を一身に引き受け、ギリギリまでその場へ踏み止まり、そして。
「……今だよ!」
『心得たッ!』
澪がパッと速やかに離脱した瞬間、回頭を終えていた『ボルチモア』率いる艦隊が一斉に火を噴いた。重巡洋艦の側面は必中必殺の
射程領域。果たして、華鯨と敵艦群は数多の砲弾を浴び、雲海へと沈んでゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
フィーナ・ステラガーデン
時は来たわ!世界的にオブリビオンが食べられることを許されたこの世界で鯨が相手!ここにいるのは私!何ごとも起きないわけがなく!
ってはあ!?鯨機械改造しちゃってるの!?何でそんなことするのバカなの!?
全部が全部機械ってわけじゃないんでしょ!?食べられる所がまだ残ってるはずよ!突撃ー!
適当に飛空艇艦に乗って種やら敵戦艦の砲撃を焼き払ってチャンスが来たら鯨に乗り移るわ!ぴょいーんと!
んで鯨の茎か何かにしがみついてUCで鯨の速度をバカみたいに上げて鯨を暴走させ、他の鯨、もしくは敵の船に突撃させるとするわ!(UCの仕様上コントロールを得れるわけではない。だいたい振り回される)
(アレンジアドリブ大歓迎!)
エドゥアルト・ルーデル
ふーん感覚器を機械に置き換え、でござるね
カモじゃん
じゃ拙者攪乱してくっから
味方艦隊はほっといて【航空機】召喚!EA-18G、電子戦機!こいつでクジラ艦隊の懐に突入でござるよ!花火の中に突っ込むぞ!
種とかへーきへーき、当たる気せぇへんでござる空はホームだし(戦闘機操縦技量的な意味で)
敵艦隊の中央についたらECM起動!後は何隻か目潰しでござるな!機械に置き換わってるならそこはミサイルでロックできるってことだ!なんなら機関砲で破壊でも行けるが
レーダーが死んで目も潰れちまえば艦隊運動はできまいて、戦列を外れて単独になったクジラを艦隊で集中砲火するんでござるよ
じゃ、拙者他も潰してくるんで後ヨロシクゥ!
●ブレーキ無しにかっ飛ばせ
猟兵の参戦から相応の時間が経過し、戦況も徐々にだが
飛空艇艦隊側優位に傾きつつあった。先行きの見えない状況では視野狭窄に陥りがちなものだが、余裕が出来れば一息入れる暇も生まれて来る。それ自体は歓迎すべきなのだが、しかし。
「……時は来たわ! 世界的にオブリビオンが食べられることを許されたこの世界で、鯨が相手! ここにいるのは私! 何ごとも起きないわけがなく! いやまぁ別の世界でも行けない事も無いんだけど文化的な諸々の衝突がもどかしいッ!」
そうなると得てして、色々な意味でカッ飛んだ方向の思考が浮かんでくるのは、さて何故だろうか。前線を支えるべく交戦を続ける
飛空艇の艦首に仁王立ちながら、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)はなにやら愉快な事を宣っていた。
まぁ、彼女の言っている内容はこの世界的としては確かに正しい。だがいかんせん、実行しようとするタイミングが中々に豪快である。しかし、魔法使いはある事実に気付いてしまう。
「ってはあ!? なに鯨を機械改造しちゃってるの!? 何でそんなことするのバカなの!? こう、生体濃縮とか気になっちゃうじゃない! でも全部が全部機械ってわけじゃないんでしょ!? 食べられる所がまだ残ってるはずよ!」
なお、飽くまでも重視するポイントが可食か否かであるのは流石(?)だろう。もしこの調子で突き進んだ場合、色々と酷い事になりそうである。とその時、新たな猟兵が戦場へと転移してきた。是非ともストッパー役となってくれる事を期待したいのだ、が。
「ふーん。感覚器を機械に置き換え、でござるね……単なるカモじゃん。という訳で、拙者が来た!」
ストッパー役とは真逆の
追加ブースターが来てしまった。無駄に良いスマイルを浮かべながら姿を見せたのはエドゥアルト・ルーデル(
黒ヒゲ・f10354)。空戦の技量は確かだが、それ以上に奇手奇策バグを引き起こす問題児である。
片や、食欲と勢いの爆裂娘。片や、常識を投げ捨てた奇矯な男。そんな二人がまともに友軍と連携を取る筈もなく。
「じゃ、拙者攪乱してくっから。強く当たって、後は流れで」
「成る程、完全に理解したわ! それじゃあさっそく突撃ー!」
そう言うや否や、二人揃って別々の方向へと飛び出した。だが、華鯨もまた猟兵側の動きを察知したのだろう。背面の大輪を戦慄かせると、中央部より種子の砲弾を投射し始める。着弾すれば瞬時に発芽し、被弾艦と華鯨を連結。そのまま自壊するまで引きずり回される羽目になるはずだ。
「はっ、こんなの大きくて狙いやすい的じゃない! 寧ろ、着火剤代わりになって丁度良いわ!」
しかし厄介な能力を持つ反面、砲としてみれば弾速はかなり遅い。なれば撃ち落とせぬ道理も無し。フィーナは友軍艦を足場に八艘飛びも斯くやと言う跳躍を見せると、杖を振るって次々と種子を撃ち落としてゆく。
蒼空に生まれる焔の華、それを破って飛び出して来たのは総身を鋼で組み上げた航空機。その名は
EA-18G。雀蜂の名を冠する機体を改修した機種である。だが使用用途は単なる制空戦闘に非ず。
『その本領は電子戦機! こいつでクジラ艦隊の懐に突入でござるよ! 花火の中に突っ込むぞ!』
華鯨は感覚器官を機械に置換している。その為、こうした方面からの妨害もまた効力を発揮するのだ。だが友軍付近ならば兎も角、そこから離れての単独行動ともなれば、敵の集中砲火も凄まじい。
にも拘らず、黒髭の傭兵は一切臆することなく種子の雨霰を掻い潜って敵中枢へと入り込む。
『種とかへーきへーき、当たる気せぇへんでござるよ空はホームだし。いや、寧ろこれはあれか? キラキラバシューンと
種を割るべきでは? やめてよね。本気でケンカしたら、オブリビオンが猟兵に敵うはずないだろ!』
紙一重の空戦機動を繰り返しながらも、軽口を叩けるのは流石と言うべきか。そうしてエドゥアルトは目星をつけていた地点まで侵入するや、乗機の持つ電子戦機としての本領を発揮させる。
『さぁ、艦隊の眼を纏めて潰してやるでござる! そーれE・C・Mゥゥゥウウッ!』
内蔵する装置を起動させた瞬間、強烈な電磁波が戦場全体へと放射された。それらはパッと見、電流や爆発の様な派手さはない。だが目や耳を機械化していた華鯨たちは別。視界は白く塗り潰され、耳もまたノイズを本体へと伝えるのみ。
『レーダーが死んで目も潰れちまえば艦隊運動はできまいて。さぁて、今の内に物理的にも破壊しちまおう。機械に置き換わってるなら、そこはミサイルでロックできるってことだ! なんなら機関砲で破壊でも行けるがな!』
戦場において目耳を失う事はこれ以上ない程に致命的だ。のたうち回る華鯨たち目掛けて傭兵は悠々と誘導弾や機銃弾を叩き込み、念入りに戦闘能力を奪ってゆく。戦闘機単体の火力では墜とし切る事は困難だが、こうなればもう敵は単なるデカい的。艦隊の一斉砲撃で仕留めるのも容易い。
それだけでも戦果としては十二分だ。だが、更なる追撃を狙う者が居た。
「これは……チャンスね! 紐無しバンジーも何のその! という訳で、ぴょいーんと!」
それは艦首から種子弾を迎撃し続けていたフィーナ。魔法使いは好機と見るや、躊躇いなく蒼空へと身を投じた。そのまま危なげなく華鯨の上へと着地すると、彼女は周囲に生える植物群の茎をむんずと掴む。
「目が見えない、耳が聞こえない? 大丈夫大丈夫、まだまだいけるわよ! さぁ、いっけえええええええっ!」
すると茎を通して魔力が注がれてゆき、緋色の力場が巨体の隅々まで浸透してゆく。するとそれまで苦しんでいた華鯨が突如、打って変わったように泳ぎ出し始めたのだ。クジラどころかサメかシャチを思わせる速度で突き進むと、同胞や
帝国継承軍の艦艇へと突っ込み、散々に打ちのめす。
これぞフィーナの秘策。目耳を失った華鯨を敢えて暴走させ、同士討ちを巻き起こしたのである。これならば敵同士で削り合ってくれて一石二鳥、実に効率的だ。ただ一つ、欠点があるとすれば――。
「あっはっはっはっは! ……さて、これどうやって止めようかしら。って、あら?」
強化するだけ強化して、制御に関しては一斉出来ない事なのだが。凄まじいGと風圧に晒されたフィーナはもはや笑うしかないといった状況。このままでは友軍艦隊の砲撃に巻き込まれ、哀れ空の藻屑になってしまう……と言う所で、鋼の鳥が駆けつけてくれた。
『拙者も人の事を言えませんが、また無茶をしますなぁ。ちょっくら乗っていくでござるか?』
「ええ、助かったわ!」
斯くして間一髪、エドゥアルトの機転によってフィーナは暴走列車と化した華鯨からの脱出に成功する。その直後、一斉に火を噴いた友軍の一斉砲撃により、件の個体は木端微塵に吹き飛ばされるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
こんな武骨なマシーン改造されてると、
キマイラと言うよりもまるで鯨のサイボーグだねぇ……
この陣容、ちょっとやそっとじゃ崩せそうにないね。
……ん?けれどもアイツらの花びら、空戦するにしちゃ射程が短い?
砲撃戦をすればアタシらへの影響は少ない、ってことはほぼ防御用かねぇ?
まぁ良いさ、取っ掛かりがあればそれを成しに行くだけだよ!
一隻の飛空艇の甲板に、風圧に負けぬよう気合を入れてすっくと立つ。
【闇払う旋風】を吹かせないといけないからね。
このサイキックエナジーで巻き起こした嵐で、戦場に舞う花びらを悉く吹き飛ばしにかかる!
そうすりゃ奴らの守りも薄くならぁ、
一斉砲撃を開始しとくれ!
●風よ、空を覆う脅威を振り払うべし
猟兵たちが戦線へと加わってから、少なくない時間が経過している。既に局所的な部分から戦場全体の優位へと変わりつつあり、この流れを更に強めんと
飛空艇艦隊が攻勢へと転じてゆく。
だが敵も残存戦力を纏め上げ、戦線を再構築しながら頑強な抵抗を続けていた。何かの拍子に趨勢を覆される可能性もまだまだある。故にこそ、猟兵による一押しが必要なのだ。
「遠目からだと幻想的に見えたけど、近づくと機械化された部分が目に付くな。こんな武骨なマシーン改造されてると、キマイラと言うよりもまるで鯨のサイボーグだねぇ……」
なればと戦場へ降り立ったのは数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)だった。
巡洋飛空艇『トロンプ』の甲板に立つ彼女は、華鯨の姿を認めると困惑交じりに眉を顰める。レンズに置換された瞳にパラボラアンテナの生えた耳。肌のあちこちが鋼板との継ぎ接ぎになっており、クジラは穏やかだという先入観も相まってより異形感を際立たせていた。
「とは言え、生き物でなく兵器としちゃ厄介極まりない。この陣容、ちょっとやそっとじゃ崩せそうにないね……って、ん?」
依然として繰り広げられる戦列艦同士の砲撃戦を眺めていた多喜だったが、そこである違和感に気付く。それは互いの交戦距離の差。友軍はある程度距離を取って攻撃を仕掛けている一方、華鯨はそれらを掻い潜って間合いを詰めんとしている様に見える。
「……もしかしてアイツらの花びら、空戦するにしちゃ射程が短い? いやまぁ、砲身も何も無きゃそうなるか。砲撃戦をすればアタシらへの影響は少ない、ってことはほぼ防御用かねぇ?」
原因は種子砲の短射程に起因しているらしい。着弾した種子が発芽して双方を繋ぐと言う能力上、余り遠すぎると都合が悪いのだろう。ともあれ、付け入る隙である事に変わりなし。
「まぁ良いさ、取っ掛かりがあればそれを成しに行くだけだよ!」
多喜は甲板を踏みしめる足へ力を籠め直すと、精神を集中させてゆく。生身で大気に身を晒している上、艦は今この瞬間も縦横無尽な戦闘機動を取り続けている。気を抜いて振り落とされでもしたら笑い話にもならないが、それ以上に心を研ぎ澄ませる必要があったのだ。
(コイツは精神力がものを言うからねぇ。戦場全体を覆う程となりゃ、気合を入れなきゃ厳しいってもんだ)
そうして、猟兵の全身から練り上げられたエナジーが滲み始める。しかし機械化されているとは言え、華鯨も元は生物。気の流れを敏感に察知したのか、相手の動きを妨害せんと無数の花びらを放ち始めた。
先触れとなる数枚が肌に触れた瞬間、じわりと朱が滲む。だが、その程度で乱れるほど軟な気持ちでこの場に立ってはいない。寧ろ、負けてなるものかと戦意が燃え上がる。
「正しき怒りを糧に、吹きすさべつむじ風……目に物を見せてやる。アタシの全力、舐めるんじゃねぇよ!」
果たして、多喜が極限まで高めたサイキックエナジーを解放した瞬間、戦場全体に強烈な旋風が巻き起こってゆく。花弁は無論の事、それは敵の航行を乱す程に渦巻き、荒れ狂う。反面、友軍艦隊にとってはこれ以上ない程の追い風と化す。
「こうなりゃ、嫌が応にも奴らの守りも薄くならぁ。さぁ、今の内だよ! 一斉砲撃を開始しとくれ!」
『了解だ! こうなれば距離を取る必要もない、肉薄して雷撃を叩き込んでやろう!』
こうなればもうこっちのものだ。猟兵の声に応じ、『トロンプ』を始めとする巡洋艦が即座に反応。速やかに距離を詰めるやありったけの魚雷を叩き込み、敵群を次々轟沈させてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
飛空艇艦隊の攻撃を援護を主体に行動
彼等の攻撃の邪魔になるものを排除したい
射線はこじ開ける、その隙に一斉砲火を叩き込んで貰いたい
現地では宇宙バイクに騎乗
ユーベルコードを発動し飛行能力を強化し空中戦を仕掛ける
飛空艇の周囲を飛んで警戒、放たれる種への対処を行う
蔓植物は敵の背にある花を観察し、種が放たれる瞬間を見逃さず回避を優先
体格はともかく、機動力なら負けてはいない
飛空艇に飛ぶ種は、フォースセイバーを起動してバイク全体を刃状のエネルギーで覆い、種へ突進して飛空艇が被弾する前に破壊したい
飛空艇が蔓植物に捕縛されていたら救援に回る
蔓植物へ突進し切断を試みる
防護面は任せて欲しい
艦隊が誇る火力に期待している
●銀狼、空を翔け牙で裂く
「戦局は優勢に移り、徐々に戦線を押し上げつつあり、か。となると、必要になるのは奇策よりも寧ろ
飛空艇の砲火力だろう。である以上、彼等の攻撃の邪魔になるものを排除したい所だな」
蒼穹に浮かぶは、派手さは無いが実用性を追求した宇宙バイク。そのシートに跨ったシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は冷静に戦場と己が果たすべき役割を分析していた。
猟兵たちの介入により、戦況は
飛空艇艦隊側の優位で固まりつつある。掃討戦とまではいかないが、この調子でいけば勝利も遠くはないだろう。だが劣勢に陥った分、敵の抵抗もまた激しくなっている。戦線を食い破るまでに相応の被害が出てしまう可能性が高い。
「敵陣に切り込んで、射線をこじ開ける。各艦はその隙に一斉砲火を叩き込んで貰いたい。頼めるか?」
『
猟兵殿が身を挺して好機を作り出してくれると言っているのだ。否やと言う無粋者など居るまいよ。こちらこそ、宜しくお願いしたい』
なれば、此処は役割分担だ。小回りと機動力に長ける猟兵が障害を取り除き、友軍艦隊による砲撃で敵戦線に圧力を掛ける。シキの言葉通り手堅い戦術だが、優位な時にリスクを冒す道理も無し。
そんな人狼の呼びかけに応じたのは、比較的損傷の少ない戦艦『ウォースパイト』。啄木鳥のペイントが施された船体を誇示しながら、せめてもの援護として副砲による牽制射を展開してくれた。
「ああ、防護面はこちらに任せて欲しい。貴艦隊が誇る火力に期待している……システム起動。少し無理をさせるが、頼むぞ?」
前半は友軍艦に対してだが、後半は己が愛機に向けてのもの。ポンと軽く装甲を叩くと、乗騎は低い唸り声の如き重低音を以て炉心に火を点す。元は広大な宇宙を駆け巡る為のマシンである、多少の風や砲火など何するものか。
一先ず、彼がまず目標に定めたのでは華鯨本体ではなく彼らが放つ種子弾。低速かつ命中精度も高いとは言えないが、着弾と同時に発芽し彼我を蔦で繋がれてしまう。そうなれば船体が千切れ飛ぶまで空を引きずり回されるだろう。
「あれだけ大きい上に弾速も遅い。体格はともかく、機動力なら負けてはいない。命中軌道の種を撃ち落とすだけなら問題ないはずだ」
普段愛用している拳銃では些か火力不足は否めない。なればと、シキは宇宙バイク全体を包み込む様にエネルギー力場を展開。自身を一つの弾丸と変じさせた。そうして友軍艦の周囲を飛び回りながら、彼は注意深く敵を観察する。
(火薬による瞬間的な発射法とは違い、茎や花弁の収縮によって種子を撃ち出しているのか? なら、必ず何かしらの予兆があるはずだ)
果たして、そんな予想を裏付ける様にふるりと花弁が震えた瞬間、大輪の中央から種子が飛び出して来た。『ウォースパイト』目掛けて吸い込まれるそれに人狼は素早く反応するや、纏ったエネルギー力場を刃へと変じさせた。
そのままスロットルを上げて一直線に種子へと吶喊。巨大な円は真っ二つに切断され、勢いを失って雲海へと落下してゆく。シキはそれに尻目に、砲撃直後の華鯨へと針路を取る。
「今ので発射方法は把握できた。どこを切断すれば、種子を撃ち出せなくなるかもな」
敵も迎撃の為に次弾を放とうとするが、余りにも遅すぎた。人狼はドリフトするように乗騎をスライドさせると、大輪の茎を半ばまで切断してゆく。人間でいう所の腱が断たれたのか、種子は放たれる事無くボロリと零れ落ちる。
「相手は反撃手段を失った。これなら……」
『ああ、後はこっちの仕事さ!』
綿毛機雷か、それとも花弁の奔流か。華鯨が別の攻撃手段に切り替えようとするも、それよりも早く『ウォースパイト』の砲門が仰角を整え、そして。
――ウォォオオォォン
…………。
華鯨がまた一頭、雲海の底へと沈んでゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【POW】天上花
共闘可
花は、愛でるもの
風に吹かれ、靡き薫るもの
だと言うのに……この有様は、何だ?
元よりそうあれと生まれているのならまだしも、いたずらに命を弄る所業にはね、道具として―――頭にくるんだよ
鯨達の武装解除、戦力低下を狙う
成功すれば、戦況は少なからず傾くだろう、戦場での貢献にはなるはず
それに……鯨は、仲間想いで賢い生き物だ
平和に暮らしてた仲間をどうにかした連中が傍にいれば、その後の動きは想像に難くない
影遊びも、ある程度なら自己完結出来るけれど、今回は対象が大き過ぎる、工夫が必要か
攻防のためにも機動特化の軽帆船、それも鉄火場に突っ込める度胸と技量のある船乗り連中付きだといいのだけれど……
ま、駄目なら、足場だけなら空に無数にある、何とかしよう
鯨群の上に位置取り、陽の光をもって【影蝤蛑】
後天的に施された武装との非実体的な繋がりを断ち、敵艦としての機能不全を狙う
元々、彼らは道具ではない、個を持つ生き物だ
使役の枷が緩めばどうなるか
種の砲撃での爆破拘束は痛いけれど……案外、落ちなくて助かる?
●黒影で断ちて、白雲に消えゆ
頭数も、勢いも、戦線も。開戦当初から打って変わり、猟兵の活躍により
飛空艇艦隊が
帝国継承軍を上回りつつある。既に一部では掃討戦への移行も見受けられ、戦況としては極めて順調と言えるだろう。
だが一方、その光景を
飛空艇上より見下ろすファン・ティンタン(天津華・f07547)の表情には、戦況の好転とは裏腹な不快感がありありと滲んでいた。
「花は、愛でるもの。風に吹かれ、靡き薫るもの。鯨とて人と文化に関わって生きてきた、自然を巡る要素の一つ。だと言うのに……この有様は、何だ?」
彼女の癇に触れたのは華鯨たちの在り様について。ぱっと見、彼らはとても幻想的な存在に思える。しかしよくよく目を凝らせば、ガラスに置き換わった瞳、アンテナやマイクの飛び出した耳、全身へ継ぎ接ぎ状に嵌め込まれた鋼板など、明かな人工物が見て取れた。
これらは言わずもがな、敵軍による改造で間違いないだろう。名称から察するに宙船の駆けし銀河世界と何かしら関りがあるのかもしれない。だがそういう背景事情に関係なく、白き刃は彼らの有り様が歪であると強く感じていた。
「刃は斬る為に、鳥は飛ぶ為に、魚は泳ぐ為に。元よりそう在れと生まれているのならまだしも、いたずらに命を弄る所業にはね、道具として酷く……」
―――頭にくるんだよ。
戦いでも生物を用いる事はままある。古くは軍馬、伝令の鳩に軍用犬、最近ではイルカに訓練を施している軍もあると聞く。だがそれらは飽くまでもその動物の持つ能力を活かしているに過ぎない。わざわざ手を加えている此度の相手は根本的に異なるのだ。
(あれらも雲海から蘇ったオブリビオンの一種、その事実に変わりはない。だけど、このまま負け戦に巻き込み駆逐してしまうのも……うん、少しばかり忍びないね)
とは言え、機械化は飽くまでも強化の範囲に留まっているらしい。脳がどのくらい弄られているかは外から見た範囲だと分からぬが、何も完全に本能を消し去っている訳ではないだろう。
そうした部分に付け入る事が出来さえすれば、或いは単に屠り去る以外の選択肢が生まれる可能性も有った。
(となると、やるべきは今後の脅威とならぬ様に鯨達の武装解除か。成功すれば、戦況は少なからず傾くだろうし、戦場での貢献にもなるはず。それに……鯨は、仲間想いで賢い生き物だ。平和に暮らしてた仲間をどうにかした連中が傍にいれば、その後の動きは想像に難くない)
一先ず、方針は決まった。どうにかする手段に関しても目星は付いている。後はどうやってそれを為すかだ。必要なのは足回りと高度だが、生憎とファンは飛行手段の当てに乏しい。出来れば条件に合う
飛空艇の協力を求めたいところだがさて、ほぼ優勢が確定した現状で付き合ってくれる物好きが居るかどうか。
だがそんな懸念を吹き飛ばすかの如く、ふわりと一陣の疾風が吹き抜けてゆく。その源へ視線を向ければ、小型の
軽帆船が姿を見せていた。幾分か損傷が見受けられるものの、機能低下にまでは至っていない様だ。
『こちら「サイクロプス」。察するに足が必要かい、
猟兵殿』
「おや、エスコート役を買って出てくれるのかな?」
『見ての通り足回りに問題は無いんだが、砲をやられてな。先に一抜けしちまうより、出来る事をやった方が良いだろ?』
被弾しながら尚も鉄火場に臨まんとする度胸に、戦闘開始から今まで生き残って来た技量。条件としてはどちらも申し分は無い。白刀は船乗りの気遣いに感謝しつつ、そちらへと飛び移る。
「それじゃあ、よろしく頼むよ? オーダーはまず一にも二にも高度を稼いで欲しい。それも、太陽を背にする様にね」
『オーケイ、そのくらいなら安いもんだ。任せな!』
打てば響くとは正にこの事。軽帆船は船首を上げるや、見る間に上昇してゆく。しかし一方、戦列から離れて動けばその分目立ってしまう。
飛空艇艦隊側の計略を警戒したのか、その動きを止めんと種子弾が次々と打ち上げられてゆく。
(種の砲撃での爆破拘束は痛いけれど……案外、落ちなくて助かる? いや、そう都合よくも行かないか)
古い時代、鯨を捕らえるのに紐の付いた銛が使用されたが、まだ余力のある獲物に海上を引きずり回される事が多々あったと言う。況や、戦闘下でそんな事態に陥ればどうなるかなど、語るべくもない。
軽帆船は巧みな機動で攻撃を避けるも、砲撃もまた苛烈だ。避け切れない物に関してはファンが切り捨てつつ、更に上へ上へ。果たして、『サイクロプス』は戦場を一望できる限界高度まで猟兵を導く事に成功する。
『ここら辺が限界だ! それに余り足を止めてると良い的になっちまう。済まないが、手早く済ませてくれるとありがてぇ!』
「ああ、分かってる。さてもはても、太陽が雲海に隠れてなくて良かったよ」
直撃した時点で轟沈は免れぬ。余り時間は無いと告げる艦長に応じつつ、ファンは左瞳で天を仰ぐ。煌々と照り輝く太陽と、目標との距離。この二点こそ彼女の求めていたものだった。
「という訳で、余り時間も掛けられない。それに手間取っていては損害が広がるばかりだ。味方だけでなく、敵に関してもね?」
そうして、彼女はそっと船べりから外へ向けて手を伸ばす。陽光を浴びた指先は影を生み出し、巨大なシルエットと化して戦場に差し込む。ただ陰影を生み出すのではなく、このサイズにまで昇華させる為にも白刀は高度を欲していたのだ。
「これは肉体を傷つけず、移ろいゆく曖昧を断つ鋏。物理的ではなく非実体的な物が対象だけれど、相応には効果を発揮するだろう。さぁ……」
――影追い蝤蛑の挟み閉じ、ちょきりちょきりと太刀で裁ちて。
そうして、伸ばされた指が閉じられる。音もなく、ただ影が動くのみ。眼下の敵勢力は一体何をされたのか皆目見当もつかなかっただろう。だが、変化はすぐに表れた。
「元々、彼らは道具ではない、個を持つ生き物だ。加えて、種としてそこまで闘争心の強い性格でもないだろう。である以上、使役の枷が緩めばさてどうなるか」
辛うじて維持されてきた敵側の戦列。それがまるで櫛の歯を欠くが如く崩壊し始める。原因は言わずもがな、それまで前線を維持して来た華鯨たちが三々五々に戦場を離脱しているのだ。
これには敵味方ともに面食らうも、
飛空艇艦隊側としては逃げる鯨よりも抵抗を続ける敵艦の方が重要である。これ幸いとばかりに未だ浮足立つ
帝国継承軍を殲滅しに掛かってゆく。最早こうなっては戦場の制圧も時間の問題だろう。
『やれやれ、砲撃も止んだか。これにて一段落だな。ご期待には添えられたかい、
猟兵殿?』
「……ああ。取り敢えず、望んだ形にはなったかな」
早くも緊張の糸を緩める『サイクロプス』の船乗りたち。対するファンはジッと、ある地点へと視線を注いでいる。それは戦線を離脱した華鯨たちの後ろ姿。彼らはまた一つの群れとして合流すると、ゆっくりと雲海へ潜行してゆく。
そして、その姿が消える……直前。
――歌が響く。甲高くも重々しい、幾重にも重なる歌。
――それはきっと、歓喜を紡ぐ鯨の鳴き声だ。
大成功
🔵🔵🔵