アルカディア争奪戦⑤~リッターライト・ヴィ・シュネー
分厚い雲を透かして落ちる日光に、風に吹かれた六花が白銀の輝きを散らす世界。真白の冬に閉ざされた広大な浮島が、その空にはあった。
屍人帝国が一つ『天帝騎士団』の天帝『冬のアスタルシャ』が、かつて天使核に自身の強力なユーベルコードを注いで創造したとされるその浮遊大陸は、すべてが雪と氷で形造られていた。そこでは天帝に忠誠を誓う『天帝騎士』達とスノーゴーレムと呼ばれる怪物達の監視の下、奴隷として連れてこられた人々が苛酷な労働を強いられているという――。
●Rittereid wie Schnee
「……また戦争が、始まったんだね」
物憂げな二色の瞳を伏せて、ブルーベル・ザビラヴド(誰かが愛した紛い物・f17594)は言った。ブルーアルカディア――果てしなく続く空の世界で巻き起こった戦争の余波で、グリモアベースは少なからず色めき立って見える。
「みんなに向かって欲しいのは、飛空氷塊アリステラ。天帝『冬のアスタルシャ』が創り出したといわれてる、雪と氷の浮遊大陸だ。そこでは奴隷として連れてこられた大勢の人達が、オブリビオンのために働かされてるんだけど……」
作戦は大きく分けて二つ。奴隷達を解放することと、彼らを支配しているオブリビオン『天帝騎士』達を排除することだ。僕らのチームは後者、と付け加えて、ブルーベルは続けた。
「天帝に忠誠を誓った騎士達は、名誉と誓約を穢す者を赦さないそうだよ。でも……名誉と誓約って、なんなんだろう?」
問いかけて、色硝子の少年は苦悩する。奴隷として連れてきた人々を使役するなんて、それこそ騎士道精神とは程遠い行いだ。少なくとも彼の知る限り、騎士とは強気を挫き、弱気を助ける高潔な精神の持ち主であったはずである。
「僕は、忠誠のために人を虐げるアリステラの天帝騎士達を、騎士だとは思いたくない……思えない。そんなのは騎士のすることじゃないって、言ってやりたい、けど」
今ここで彼にできるのは戦場へ仲間達を送り届けること、ただそれだけ。掌の上にこぼれ咲いた青い花のグリモアを輝かせて、ブルーベルは猟兵達を一人一人見渡し、そして言った。
「君達が、示してあげて」
忠誠とは、騎士道とは、そんなものではないということを。正々堂々戦いを挑み、真っ向から敵を打ち負かす――そして無辜の人々を、冷酷な支配者達から解き放つのだ。
月夜野サクラ
お世話になります、月夜野です。
以下シナリオの補足となります。
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●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・個別リプレイを想定しておりますが、組み合わせた方が面白くなりそうだな、という場合はまとめてリプレイにする可能性があります。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページも合わせて御確認を頂けますと幸いです。
●プレイングボーナス
騎士道に則り、誇りをもって戦う。
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騎士の誇り、気高い想い、といったものに重点を置いた、シリアス心情系戦闘シナリオとお考え下さい。
騎士道精神や主君への忠誠をぶつけつつ、空駆ける天馬騎士と格好よく戦っていただければと思います。
皆様のご参加を心よりお待ちしております!
第1章 集団戦
『天馬騎士団』
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POW : ランスチャージ
【ランスを構え直し、騎乗突撃形態を取る事】によりレベル×100km/hで飛翔し、【飛翔距離】×【スピード】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : スカイポジション
敵より【制空権を制覇した】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
WIZ : 怒れる空神の加護
自身の【盾】から【荒れ狂う突風】を放出し、戦場内全ての【射撃武器】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑11
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柊・はとり
無辜の民を奴隷扱いしておいて
どの口で騎士道語ってんだか
俺も大いに疑問だね
そんな大層な身分じゃないが
立場の弱い人間を助けたいのは同じだ
…名乗らないと駄目か?
柊はとり、探偵だ
先制攻撃は控えるのが無難か
相手が動くのを待ちUC発動
心配せずとも射撃には頼らねえよ
荒れ狂う風の勢いを殺気と炎で軽減し
ダッシュからの跳躍で空中の敵に肉薄
偽神兵器を叩きつけ盾ごと粉砕する
一度死んだこの身が役に立つなら
俺は命なんぞ惜しくないが
あんたらはどうかね
敵が自滅するまで粘るかは
俺の印象だと五分五分だな
第六感と集中力を研ぎ澄まし
突風以外の攻撃が来ても
即座に剣で受けられるよう構える
探偵に負けてるようじゃ
騎士の名が泣くぜ
一生凍ってろ
吹きつける雪風が、つけたばかりの足跡を浚っていく。
白雪に飾られた木立の中で、柊・はとりは曇天を仰いだ。視界は、決して良好とは言いがたい。まだ見ぬオブリビオン達への呆れと憤りをはらんで零した吐息は、ネクタイのはためく襟元で真白に煙り、凍てつく大気に紛れていく。
「無辜の民を奴隷扱いしておいて、どの口で騎士道語ってんだか。俺も大いに疑問だね」
誇りだとか、矜持だとか。そんなことを声高に叫ぶほど、大層な家の生まれではない。十六歳で命を落とし、ゆえあって死の淵から蘇ったからといって、それが変わったわけでもない。
死後も
生前も、はとりの使命はただ一つ、目の前の謎を解き明かすこと。それを特段に高尚だとも思わないが、ただ――立場の弱い人間を助けたいという志は、御伽話の騎士にも負けはしない。
「いたぞ!」
上空から鋭い声が降った。風は相も変わらずごうごうと鳴っていたが、耳を澄ませば厚い雲の中から迫りくる天馬の羽音を聞き取ることができる。何者だと叫ぶ声に肩を竦めて、少年は眼鏡のブリッジを鼻梁に押し込んだ。
「名乗らないと駄目か? ――柊はとり、探偵だ」
見上げれば鉛色の雲を裂き、天馬の騎士が堕ちてくる。その姿は、見た目だけなら美しく壮麗な騎士にも見えるけれど。
(「速い」)
この速さなら仕掛けるよりも、むしろ。踏み切ろうとした右足をしっかりと地面に押しとどめ、はとりは重心を落として身構える。掲げる盾が生み出す突風はしかし、吹き荒ぶ雪をまとってくっきりと
見えた。
(「射撃には頼らねえよ」)
吹き狂う風の前には、弾も鏃も無力だろう。そんなことは分かりきっている。この雪嵐に抗う術があるとすればそれは、風雪をすら凍らせるこの蒼い炎のみ。人形じみた少年から立ち上る夥しい殺気は、騎士を名乗るオブリビオンをも威圧する。馬上の騎士が一瞬――ほんの一瞬、たじろいだのを見逃すことなく、はとりは言った。
「一度死んだこの身が役に立つなら俺は命なんぞ惜しくないが、あんたらはどうかね?」
渦巻く蒼い炎に触れて、儚い六花は消し飛んだ。いずれも命を削ってぶつけ合う風と炎ながら、敵が自滅するまで粘るとも思えなかった。せいぜい五分、否、あの様子ではそれにも及ぶまい。
降り積もる雪を蹴散らして、駆け、躍んで振りかぶれば、青白い氷刃がぎらりと光った。
「探偵に負けてるようじゃ、騎士の名が泣くぜ?」
一生、そこで凍ってろ――冷ややかに言い放ち、はとりは自重を載せて氷の刃を叩きつける。砕け散った盾のかけらは持ち主たる騎士ともども、凍てつく空へと消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
フィオリーナ・フォルトナータ
元より小細工などするつもりはありません
わたくしも騎士の端くれ
今は亡きただひとりの主様に
そしてかの方から賜りしこの剣に誓って
正々堂々、真っ向から戦いを挑みます
多少の傷は厭いませんが
致命傷だけは盾で受け流せるよう
攻撃の軌道を注視しながらの立ち回りを
地上へ降りてきた際の隙を狙い懐に踏み込んで
聖煌ノ剣でなぎ払い
天馬ごと叩き斬って差し上げましょう
…ブルーベル様の仰る通りです
このような地で罪なき人々を虐げておきながら
汚れなき名誉を誇るとは烏滸がましい
あなた方のような存在が騎士を名乗り騎士道を語るなど
オブリビオンである以上に許せることではありません
一人残らず斬って差し上げます
騎士の剣は、護るためにあるのです
烈しさを増す雪の中、天馬騎士達の攻勢は続く。
降り積もる雪に細身の剣を突き立てて、フィオリーナ・フォルトナータは曇天を見つめていた。吹きつける強風に古薔薇の髪は泳いでも、しっかりと大地を踏み締めたブーツの爪先はわずかも動くことはない。
「元より、小細工などするつもりはありません」
守りたいと願う人がいて、守りたいと願った場所が確かに在った。たった一人、主と定めた人に授かったこの剣は、騎士たる彼女の矜持そのものだ。この先何があろうとも、変わらない――それは、守れなかった今であっても。
胸に去来する遠い苦さを押し殺し、美しい人形は迫り来る天馬と鞍上の騎士を睨み据える。猛然と迫り来る馬上槍の輝きにも臆することなく、フィオリーナは堂々と声を上げた。
「わたくしも騎士の端くれ! 今は亡きただひとりの主様に、そしてかの方から賜りしこの剣に誓って、あなた方を討滅いたしましょう!」
花を愛で、命を愛でてあえかに微笑む娘の面影は失せていた。そこにいるのは、一人の騎士――ただ守るために取った剣を今もなお抱き続ける、騎士フィオリーナ・フォルトナータである。
「くっ……!」
触れれば折れてしまいそうな細腕が、亡国の紋章を戴く盾を掲げた。刹那、その表面に銀の矛先がぶつかって、衝撃が波状の風となって迸る。一撃は重く、踏み締めたブーツの踵は雪を削って、フィオリーナは奥歯を噛んだ。
(「ブルーベル様の仰る通りです」)
このような地で罪なき人々を虐げておきながら、汚れなき名誉を誇るなど実に烏滸がましい。受け止めた槍の先を逸らして反転し、フィオリーナは金を編み上げた剣の柄を握り締める。馬上槍での攻撃には、突進の勢いが不可欠――ならばもう二度と、駆けさせはしない。
弾かれ後退した天馬の前へ大きく一歩踏み込んで、娘は吼えた。
「騎士の剣は、護るためにこそあるのです!」
聖なる光を帯びた断罪の一閃は、有翼の馬ごと天空の騎士を薙ぎ払う。雪舞う空へと消えていく亡霊達を見送って、フィオリーナは剣の切っ先を払った。
「あなた方のような存在が、騎士を名乗り騎士道を語るなど――許せることではありません」
力なき人々のため、傷を厭わず、何物にも臆さず剣を振るう者。それをこそ、騎士と呼ぶのであれば。この身の錆びて朽ちるまで、騎士であろうと彼女は思う。
「さあ――次はどなたですか?」
騎士を名乗る不届き者どもは、一人残らず叩き斬る。澄ませた耳に空舞う天馬の羽音を聞きながら、フィオリーナはその手の剣を握り直した。
大成功
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播州・クロリア
極寒の大地に奴隷を閉じ込めて酷使せよと命じられれば愚直に実行するのが騎士道ですか?
(目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと{絢爛の旋律}で『ダンス』を始める)
何をしているのか、ですか?見ての通りダンスです
ふざけてなどいません
私の心を奮い立たせ、どんなに苦しくとも踊ることで乗り越えられる
ダンスは私にとって騎士道のようなものです
私は奴隷の皆さんを解放するため先に進みます
邪魔をしても構いませんよ
貴女の信じる騎士道ごと粉砕してみせます
(UC【蠱の翅】を発動すると足元から立ち昇った{蜂蜜色の陽炎}を鎧のように纏い『オーラ防御』をしながら敵に向かって突撃する)
吹き荒れる吹雪の白が、より濃く深く世界を覆っていく。その只中、氷柱まとう木々に並んで突き立つ長身が一つ。耳障りな羽音と共に舞い下りる天馬とその騎手を真正面に睨んで、播州・クロリアは問うた。
「極寒の大地に奴隷を閉じ込めて、酷使せよと命じられれば愚直に実行する。果たしてそれが『騎士道』なのですか?」
長い腕が水平に伸びる。指の先までしっかりと張り詰めて、魅せるのは絢爛の舞踊――閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げれば、エメラルドグリーンの瞳は静かな怒りに燃えている。
「戦場で舞い踊るとは。羽虫が、ふざけているのか」
侮り、嘲るような声の主を鋭く一瞥して、クロリアは言った。
「いいえ。ふざけてなどいません。私の心を奮い立たせ、どんなに苦しくとも踊ることで乗り越えられる。ダンスは私にとって騎士道のようなものです!」
彼女はスカイダンサー。太陽を透かして輝く蜂の翅で舞い、その情熱を刃と成す天空の踊り手だ。その在り方を、生き様を、誰にも嗤わせたりしない。降り積もる雪にシュプールを描く爪先から立ち上る陽炎は蜂蜜色に輝いて、見た目よりも幼い少女の体を甲冑の如く包んでいく。
「私は奴隷の皆さんを解放するため、先に進みます。邪魔をしても構いませんよ!」
「――なめた口を!」
無数の馬蹄と足跡に踏み固められた雪を蹴散らして、天馬の翼が猛然と迫る。しかし、クロリアは怯まない。敢えて避けようとも思わない。なぜなら、と一声吼えて、蟲の娘は言った。
「私は! 貴女の信じる騎士道ごと、貴女を粉砕してみせるからです!」
革靴の爪先が雪を削り、長い手足が弧を描く。長い髪を金色の軌跡に変えて翔び上がると、クロリアは天馬の鼻先を軽々と超えて騎士の後背に回り込み、固めた手刀で甲冑の背を貫いた。
「……油断したでしょう?」
それは翔べますよ――虫ですから。
意趣返しの笑みを浮かべて、しかし息つく暇もなく、娘は新たな敵に向き直る。広大な空の世界の全域を巻き込むアルカディア争奪戦は、まだ始まったばかりである。
大成功
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クーナ・セラフィン
騎士道、か。体現できてるかなあ…
上手くいかない事ばかり、けれども誇りを胸に戦い続けなきゃ。
ああ、寒いね。熱のルーン記述した符を服に貼って手足を温める。
敵の騎士達見つけたら奇襲はせず真正面から挑む。
飛んで来たらUC発動し騎士団の頭上を取ろう。
幾ら空戦に慣れていても騎馬ではそうでない時より方向転換やり辛い。
回数決まっててもこれだけ空を跳ねれれば…キミの背を取る事も十分できる。
翼を革命剣で切り銀槍で盾ごとの串刺しを狙ってやる。
…生憎、私が忠誠を誓った人はもういないからね。
だからこそあの子に恥じない為に、人々の為に戦わなきゃいけないんだ。
それが私の目指さなければならない騎士道だ。
※アドリブ絡み等お任せ
目の痛くなるような真白の雪原に、小さな革靴の足跡が続いていた。しかし振り返ってみればその軌跡も、吹き荒ぶ雪風で瞬く間に浚われていく。それは今より顧みる過去のようにも見えて、クーナ・セラフィンは吐息した。灰銀の毛並みの美しい口元から零れる熱はすぐさま凍って、冷たい空気の中に融けていく。
「……ここは寒いな」
服の内側に貼り付けた熱のルーンを記した符で対策はしてきているけれども、猫の身体にこの寒さはやはり堪える。ざくざくと雪道を踏み行きながら、クーナは吹きつける風に飛ばされてしまわぬよう、マスケット帽のつばを深く引き下ろした。
(「騎士道、か」)
忠誠を誓った人がいた。今はもう、この世界のどこにもいない人。たった一人、彼女のために心を澄まし、剣を研いだ日々があった。ただ――そこで培った騎士道精神を今も体現できているのかというと、それはよく分からない。主と定めた人を失い、街から街へさすらう日々の中では、上手くいかないことの方が多いような気がする。
けれど。
(「それでも、誇りを忘れちゃいけないんだ」)
誇りを胸に戦い続けること、それが、今の彼女の
生存理由。だからいつでも、どこででも、正々堂々とあろうとクーナは思う。それはたとえ、凍てつく木立の中に天馬の背中を見つけてもだ。
大きく息を吸い込んで、灰銀の猫は朗々と名乗りを上げた。
「天帝騎士団の騎士殿とお見受けする! 我が名はクーナ――クーナ・セラフィン! 我が剣にかけて、貴殿に決闘を申し込む!」
白く煙る視界の先で、天馬の翼がぐるりと反転した。雪の地面を蹴って浮いた天馬が空の彼方へと翔け上がってしまったら、追いきれない――だから、そうなる前にクーナは跳んだ。小さな足でトントンと小気味よく空を踏み、最後の一段を力いっぱい踏み切る。小回りの利かない天馬の頭上を飛び越えてその背中に回り込み、猫は細剣を振り被った。
(「あの子はもういない。――だからこそ!」)
だからこそ、大切な人に恥じぬため、弱く力ない人々のために戦い抜く――それが、彼女の目指すべき騎士道だ。
曇天に、銀の軌跡が閃いた。翼を切り取られた天馬は、騎手ともども雪原に落ちていく。やがて掻き消える亡霊の後を横目に見送って、猫は軽やかに着地した。
「さて、それじゃあ次に行こうか」
でもちょっと、寒すぎるな――灰銀の毛並みをぶるると震わせて、クーナは再び歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
飛竜のアイナノアの背に乗り二人、蒼穹へ
ええ。ディフさん、参りましょう
しっかり掴まっていてくださいね
ふふ。今日のヴァルダはすこし、おてんばですから
騎士とは。誇り高く慈しみ深き者
救済を、守護を司る者
気高き者へ義を尽くす盾であり……主の過ちを、正す為の剣です
我が義は遍く命が為、我が槍は竜の嘶き
――月の御名に於いて。汝らの誇りを今一度問う!
空中戦を持ちかけ竜槍での属性攻撃を
飛竜翔、アイナノアを操りながら制空権で優位を取れるよう
ディフさんの術に重ねるよう畳み掛けましょう
私は一人ではないことを
背を守ってくれる彼が教えてくれる
心無き者に決して果たせはしないのだと、証明してみせます
ディフ・クライン
ヴァルダ/f00048と共に
彼女の竜の背に乗せてもらい空を駆る
行こう、ヴァルダ
弱きを挫くのが騎士ではないはずだ
教えてあげないとね
オレの知る騎士とは
誰よりも国を愛し、国民を愛し、守ろうとした人だ
たとえ国を滅ぼされようと
王在る限り国は亡びぬと
死して尚玉座に佇み続け、民の支えにならんとした人のことだ
騎士とは、王とは何かを
その姿で示し続けたのは貴方だ、――淪落せし騎士王
漆黒の死霊騎士を喚ぶ
風など問題ない
王はいたく不機嫌だ
騎士道とは何か
王の剣が教えてくれるだろう
敵に制空権を与えはしない
氷属性魔法を手繰り作った足場で王の道を作り阻む
ヴァルダとアイナノアの飛翔を止めさせはしないよ
その為に、此処にいるのだから
鉛色の雲を眼下に見下ろして、一頭の飛竜が蒼穹を征く。ヴァルダ・イシルドゥアとその愛竜、蒼き焔のアイナノア――凛として竜を駆る娘の背中越しに行く手を望んで、ディフ・クラインは口を開いた。
「弱きを挫くのが騎士ではないはずだ。天帝騎士とやらは、それを理解していないらしいけれど――」
「そのようですね。騎士とは、誇り高く慈しみ深き者……罪なき人々を苦しめ、虐げる者を云うのではありません」
燃え上がる夕焼けに似た瞳を物憂げに細めて、ヴァルダは同意した。それが彼らの主君の意向であるのかどうか知らないが、無辜の人々を監視下に置き、奴隷のように酷使する者達が騎士を名乗るなど度し難い。まったくと頷いて身を乗り出し、ディフは言った。
「だったら、オレ達が教えてあげないとね」
「ええ。……参りましょう、ディフさん」
主の身にまとう気迫に変化を感じ取ったのか、飛竜がじろりと大きな瞳を巡らせる。手を伸ばしてその輝鱗をひと撫でし、ヴァルダはいつもより少し、勝気な笑みを浮かべた。
「しっかり掴まっていてくださいね――今日のヴァルダはすこし、おてんばですから」
高らかな竜の嘶きが、蒼い空を貫いた。力強く羽ばたく竜は大きく旋回して、飛空氷塊アリステラを包む鉛色の雲に向かって降下を開始する。どこまでも続く青空は瞬く間に見えなくなり、垂れ込んだ雲間に飛び込めば、冬空の冷たい空気が肌を刺した。
「いたぞ! 侵入者だ!」
不意に、後方で鋭く叫ぶ声がした。できれば先手を取りたかったが、是非もない。素早く視線を交わして頷き合い、ディフは雲間へその身を躍らせた。といって、地表まで降りるつもりはない――魔力で形作った銀盤に身のこなしも軽く着地して、青年の姿をした人形は氷華の杖を突き立てる。
「オレの知る騎士とは、誰よりも国を愛し、国民を愛し、守ろうとした人だ」
王在る限り国は亡びぬ。そう言って、かの人は玉座にとどまった。残された民の支えにならんとして、その身を滅ぼされてもなお、王であろうと立ち続けた。その姿にディフは、清廉なる騎士王の矜持を見たのだ。
「騎士とは、王とは何かを、その姿で示し続けたのは貴方だ――淪落せし、騎士王」
黒い外套がはためいて、銀盤の道が伸びていく。喚ぶ声に応じて姿を現したのは、漆黒の馬を従えた死霊騎士――上空を吹き荒ぶ強風にも微動だにせず立つ王は、いたく不機嫌そうに見えた。
「騎士道とは何か。それは、王の剣が教えてくれるだろう。……とくと知れ」
冷ややかに見据える術師の視線の先で、二騎の天馬騎士が雲の合間から飛び出した。その行く手を阻むように、王の騎馬が走り出す。さらに上空を仰げば、雲間に旋回を続けるヴァルダとアイナノアの姿が見えた。彼女達の邪魔はさせない――敵に制空権は与えない。そのために今、彼はここに立っている。
名を呼ぶ声の主を眼下にちらりと見て、ヴァルダは静かに頷いた。
「騎士とは。救済を、守護を司る者のこと」
気高き者へ義を尽くす盾であり、そしてもし、忠誠を誓った主が道を過てば、正すための剣にもなる。主君の心のままに弱者を虐げる者を、彼女は決して騎士とは呼ばない。
暁の翼の仔竜より変じた竜槍を抱いて、娘は眼下に鍔迫り合いを続ける黒騎士と、天馬騎士達を見据え、そして高らかに吼えた。
「我が義は遍く命が為、我が槍は竜の嘶き――月の御名に於いて。汝らの誇りを今一度問う!」
揺らめく蒼焔をなびかせて、飛竜はぐんぐんとスピードを上げ、天馬達の正面へ滑り込む。不意打ち、奇襲、一切無用――真正面から突き入れる竜槍の一撃は、斯くして甲冑の騎士の胸を堂々と貫いた。
(「私は、一人ではありません」)
背中を守ってくれる人がいる。明日を歩むべき場所がある。それらを守らんと立ち続ける限り、彼女が敗けることはない。
「ディフさん」
「ああ、行こう」
倒すべき敵は、彼らが最後ではない。心なき者には決して果たせぬ騎士の誓いを果たすため、その想いを継ぐために――猟兵達は再び竜を駆り、雪降りしきるアリステラの空へと舞い上がる。
大成功
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