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勇士達よ、蒼空を征け~虎穴に入らずんば、虎子を得ず~

#ブルーアルカディア #グリモアエフェクト #日蝕帝国

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 蒼空に浮かぶ、無数の小島。無限に続く、空の世界。
 ここは、『ブルーアルカディア』。母なる大地より放逐された人々が住まう、蒼空の世界である。

「お集まり頂きまして、ありがとうございます」

 そんな世界の風景を見せながら、グリモアベースに集う猟兵達を迎え入れる銀の髪のグリモア猟兵。
 ヴィクトリア・アイニッヒ(|陽光《たいよう》の信徒・f00408)の表情は、引き締まった物だった。
 常に穏やかな笑みを絶やさぬ彼女が見せるその表情を見れば、今回の件は中々に難しい案件なのだと想像もできるだろう。

「『グリモア・エフェクト』により得られた新たな予知に関しては、既にお聞き及びの事と思います」

 今回猟兵達に赴いて貰うのは、その新たな予知に絡む案件である。
 既に視えている風景を考えれば、赴く世界は『ブルーアルカディア』であるのは間違いない。
 だが一体、どんな案件であるだろうか。

「実は彼の世界で暗躍するオブリビオン勢力……屍人帝国の中でも特に大きな勢力に、不穏な動きがある事が判りました」

 ブルーアルカディアを脅かす、屍人帝国。その中でも勢力的に飛び抜けた、強大な屍人帝国が幾つかある。

 ──『オーデュボン』
 ──『ジェード王国』
 ──『コルディリネ』
 ──『天帝騎士団』
 ──『マグナ聖帝国』
 ──そして、『|日蝕帝国《イクリプス》』。この六勢力である。

「皆さんに赴いて頂くのは、その内の一つ。『|日蝕帝国《イクリプス》』の……本領と思しき地です」

 ざわ、と。集まる猟兵達からざわめきが起こる。
 屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』。かつて太陽を奉じる小国家を滅ぼし、雲海に堕とし隷属化する事を狙った、昏き|蝕《ヤミ》を奉じる国家である。、
 彼らの狙いは既に、一度ならず二度までも阻まれた。天使核暴走儀式は既の所で阻まれ、『|世界樹嵐《イルミンスール・グリード》』を利用した計画もまた、猟兵達の手により砕かれていた。
 だが、しかし。二度あることは三度と言うべきか……彼らはまだ、『何か』を企図しているらしい。

「その『何か』を探る為、今回皆さんには、敵本領への斥候任務をお願いする事となります」

 凛とした表情のまま、ヴィクトリアが言葉を紡ぐ。
 今回猟兵達が挑む事になるのは、敵地への潜入任務。そしてその地での、調査となる。
 だが潜り込む地は、敵の本領と思われる地。当然警戒は厳重で、防空網も固く、調査も一筋縄とはいかないだろう。
 まさに、言うは易し行うは難しの言葉の通り。今回の任務は、相当に困難な物となるのは想像に難くない。
 ……しかしそうなると、潜り込む為の脚はどうするべきか。空を往ける猟兵ならば問題は無いかもしれないが、そういう者だけでもないのだから。

「そこは、ご安心を。実は既に、現地の勇士の協力を取り付けてあります」

 そんな猟兵の疑問に、ヴィクトリアが答える。
 協力してくれるのは、『アルク』と『スピカ』という、少年少女の二人組であるらしい。
 ……この二人も、猟兵達にとっては馴染みの名である。|日蝕帝国《イクリプス》との戦いに於いて滅亡した小王国の、ほんの僅かな生き残りである。
 猟兵達の手を借りる事で渦中を脱し、生き抜いた二人であるが……あれから半年程の時を経て、その腕を随分と磨き上げたらしい。
 今回のヴィクトリアからの協力要請にも、怯むこと無く頷いてくれたそうである。

「向かうべき地は、お二人に既に伝えてあります。同道すれば、比較的安全に目的地に辿り着けるはずです」

 だがそこからの安全の保証は、出来かねる。なにせ既に触れた通り、目的地は敵の本領なのだから。
 故に目的地に辿り着いてからは、猟兵達がどれだけ奮闘出来るかが鍵となるだろう。

「敵本領での、潜入調査。難しい務めとなるかと思います」

 皆様の御力を、お貸し下さい。そう言葉を締めて、ヴィクトリアがいつも以上に丁寧に頭を下げる。
 ……難しい務めとなるのは明白。だがここでどれだけの情報を掴めるかで、今後のこの世界の趨勢が変わると言っても過言ではないだろう。
 転移の感覚をその身に受けつつ、猟兵達は強い決意を新たにするのだった。


月城祐一
 夏もそろそろ終盤戦。
 どうも、月城祐一です。暦の上では晩夏と言う時期ですが、最近の気候を考えれば……うーん、どうなることやら(猜疑心)

 今回は、ブルーアルカディア世界より。
 グリモア・エフェクトによって得られた予知を元とした、調査系依頼となります。

 今回調査して頂くのは、屍人帝国六大勢力の内の一つ、|『日蝕帝国』《イクリプス》。
 OP文中の通り、過去何度か猟兵と交戦し、その野望を砕かれている勢力です。
 そんな勢力の本領の一部に潜入する、斥候活動が今回の任務となります。

 なお、『日蝕帝国』に関する依頼は拙作『勇士達よ、蒼空を征け』シリーズ等が該当します。
 ご覧にならずとも問題はありませんが、宜しければタグ及びMSページから是非。
 以下、補足となります。

 第一章は、冒険章。
 飛空艇でののんびりとした船旅となります。

 OPの通り、今回は若き少年勇士『アルク』と少女勇士『スピカ』と同道する形となります。
 移動手段は基本的に、ガレオノイドであるスピカが変じた飛空艇。小型のその艇に同情する形となります。
 但し希望があれば単独行動も可能です。その際は、プレイングにどうぞ。

 往路はヴィクトリアの予知で安全なルートを割り出せている為、特に危険はありません。潜入行動の準備、休息、その他諸々……艇上でのそれぞれの時間をお過ごし下さい。

 なお、若き二人の勇士ですが。
・少年(アルク):人間/男性/翔剣士相当/17歳
・少女(スピカ):ガレオノイド/女性/飛空艇パイロット相当/16歳
 という構成となっています。
 猟兵ほどの手練ではありませんが、猟兵達との出会いから半年で歳を重ね、その実力も大きく伸ばしているようです。
 猟兵達に対する友好度も高いので、何かあれば積極的に助力をしてくれるでしょう。

 第二章、第三章に関する情報は、現時点では不明です。
 章の進行時に情報公開を行いますので、ご了承下さい。

 遂に明らかになった、敵の本拠。
 その一部に乗り込み、その企みを掴む事が出来るのか。
 皆さんの熱いプレイング、お待ちしております!
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第1章 冒険 『猟兵、空を征く』

POW   :    気合を入れて進路を見張る。

SPD   :    細々とした雑用に汗を流す。

WIZ   :    知恵や機転でトラブルを回避する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 猟兵達が降り立ったのは、何処かの浮島にある波止場のような地であった。
 視界に浮かぶのは、多くの船影。大小様々な、飛空艇の群れだった。

「──来たな、待ってたぜ」

 そんな艇の船上から、猟兵達に掛けられる声。
 視線を向ければ、艇の欄干に手を掛けこちらを見る男の姿が目に映るだろう。
 茶色掛かった黒髪の、細身だが靭やかな体付きの少年だ。纏う装具は軽装で、疾さを身上とした剣士である事が判るだろう。
 彼の名は、アルク。猟兵達の記憶より一回り大きくなり、その顔つきも随分と精悍さを増していたが……かつての面影は、まだ色濃く残していた。

『お話は、伺っています』

 そして同時に、艇からも思念が響くだろう。
 この艇は、ガレオノイドである少女勇士スピカが変じた飛空艇。つまり彼女本人であるとも言える。
 彼女の銀の髪色を反映したかのような船体は、過日と比べると僅かに大きく成長しているようにも感じられる。

『今回の一件、私達にとっても他人事ではありませんからね』

 そしてその思念にも、かつて以上の落ち着きが感じられた。
 どうやら彼女もまた、この半年程で随分と成長を見せたようである。

『|日蝕帝国《イクリプス》の企み、放置は出来ません』
「俺たちで良ければ、力になるよ。さあ、乗ってくれ!」

 決意を新たに、猟兵達を促す二人。
 かつて手助けされるだけだった少年少女の成長したその姿を見て、猟兵達がその表情を綻ばせつつ艇へと乗り込めば……やがて艇は離床して、空へと舞い上がる。

 比較的安全な地を経由する為か、目的とする地への旅程は割りと長くなりそうだ。
 その間を猟兵達は、どの様に過ごすだろうか……?
稷沈・リプス
自称:人間な男。『日蝕帝国』と聞いてやってきた。

二人とも、お久しぶりっすよ!
いやー、『日蝕帝国』って俺も他人事じゃないっすからね。よろしくっすよ!
しかし…成長したっすね。善きかな善きかな、っす!

さて、道中は身体を休めてるっすよ。この先は何があるかわからないっすからね…。
でも、すぐに動けるようにはしてるんすよ。

…『日蝕帝国』、その本領の一部。
それに辿り着ける、調べることができる。そんな機会、むざむざ逃すことなんて、できないんすよ。
だから、俺はここにきたっす。

※ちょっとだけ神モード※
我、同じ『蝕』司れど。『日蝕帝国』の存在、許すまじ。





 蒼空を征く、一隻の艇。
 白銀を基調色としたその艇は、空から注ぐ陽を受けて光り輝く。

「いやー。二人とも、お久しぶりっすよ!」

 そんな船上に響く、稷沈・リプス(明を食らう者・f27495)の明るい声。
 今回一行が潜り込むことになる敵地、『|日蝕帝国《イクリプス》』と呼ばれる屍人帝国である。そんな敵と、リプスはかれこれ数度交戦し、既に深い因縁が結ばれていた。
 今までその存在を掴めなかった、因縁の相手の本領。その地に潜り込み、調べる事が出来るという絶好の機会。
 リプスにその機会を逃すという選択肢は、ありはしなかった。

「『|日蝕帝国《イクリプス》』って、俺も他人事じゃないっすからね。今回はよろしくっすよ!」
「ああ、頼りにしてるぜ」
『よろしくお願いしますね!』

 そんな機会の為に骨を折ってくれた二人に言葉を告げれば、その言葉を受けた二人も言葉を返す。
 年若き少年少女である二人……『アルク』と『スピカ』もまた、|日蝕帝国《イクリプス》と深い因縁を持つ勇士である。
 二人の故郷である『ヘリオス王国』は、|日蝕帝国《イクリプス》の暴虐により、滅ぼされた。生きとし生ける者は全て撫で斬りとされ、土地は砕かれ……その全てを、穢されたのだ。
 そんな旧『ヘリオス王国』の臣民で、今判明している生き残りは二人のみ。則ち、アルクとスピカの二人だけである。
 二人はいつかの故国の再生を目指しつつ、今はこの空を征く勇士として活動しているのだ。

「……うんうん。二人とも、成長したっすねぇ!」

 そんな二人を手助けし、未来を拓いてやったのが猟兵達である。リプスもそんな猟兵達の内の、一人であった。
 最後に二人と交流したのは、今年の年初。旧ヘリオス王国領を巡る最後の激戦の後始末と、その疲れを癒やした時である。
 あの時も、多くの猟兵達が二人の未来を思い助言を与えていた。その助言を胸に抱き、二人はその力を磨き上げ……こうして立派な勇士として成長したのだろう。
 アルクと(艇に変じている為に姿は見えないが)スピカの精悍さを増し成長した様子を感じ取り、うんうんと満足げに頷くリプスである。

「……ま、まぁ俺たちも。いつまでも護られてばっかりじゃ、いられないしな」

 そんなリプスの言葉に、気恥ずかしげに頬を掻くアルク。その姿にどこか年相応の幼さを覗き見て、リプスは笑い。

「はっはっは! まぁ、善きかな、善きかな、っすね!」

 ──それじゃあ、俺は一旦身体を休めてくるっすよ、と。言葉を残し、その場を後にする。
 敵地への旅路は、事前の予知で安全は保証されている事が判っている。
 だが、敵地に乗り込んでからは何があるか判らない。敵の本領であるという事も考えれば……恐らくは、満足に休息を取る事も出来ないだろう。
 故に、休息を取るのならば今のうち。しっかり身体を休め、心身を整え、この後の事に望むべきだ。
 ……まぁ、万一の事を考えてすぐに動ける準備だけはしておくつもりだが。

「……フゥー──」

 ゆったりとした足取りで船室へと脚を運びながら、リプスの口から溢れるのは細く深い息。
 その表情は、常ののんべんだらりとした色では無かった。目は鋭く、この場では無い何処かを睨んでいた。

(……我、同じ『蝕』を司れど──)

 昂ぶる戦意。リプスの身体から、自然と神威が沸き立つ。
 リプスは、『日蝕』を司る神である。つまりその身に宿るその力は……|日蝕帝国《イクリプス》の連中のそれと、似た属性である。
 だがそれ故に、リプスは連中を許せない。同じ力を宿しながらも、他者への害意を剥き出しとし続ける連中のその振る舞いを、許せないのだ。

(──『|日蝕帝国《イクリプス》』のその存在、許すまじ)

 昂ぶる神威が、風を起こす。
 空に吹き抜けるその風を受けて、一行を乗せる艇は順調にその旅路を消化していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第四『不動なる者』盾&まとめ役武士
一人称:わし 質実剛健古風

アルク殿にスピカ殿、久しゅう。
ふふ、成長は良いものだ。

潜入…とはいえ。今はまだ、わしで充分であろう。
この間に、二人にもわしのことを話しておくか。大晦日の旅路では、スピカ殿は聞いておる可能性はあれど、アルク殿は…(陰海月、心配ぷきゅぷきゅ思い出し)
わしはな、わりと特殊でなぁ。この先の潜入如何によっては、別のが出てくる可能性がある。
まるっと潜入向き(『疾き者』。忍者)なのがおるのよ。


陰海月「ぷきゅー!」
アルクさんだー!な陰海月。道中は船の旅を楽しむ。
霹靂「クエクエ」
霹靂も出てきて、一緒に楽しむ。





 よく見知った猟兵の一人が、船室へと下がっていく。
 瞬間、吹き抜けた強い風。その中に漂う『何か』を感じたか、アルクの表情が僅かに強張る。

「アルク殿、それにスピカ共も。久しゅう」

 そんな彼の背に掛かる。壮年の男の声。そしてその声に続いて響く、「ぷきゅー!」とか「クエー!」という賑やかな鳴き声。
 その組み合わせは、アルクとスピカにとっても馴染みのあるもの。振り返って確認してみれば……。

「……ああ、久しぶり。あの時は、どうも」

 そこに居たのは、やはり良く見知った姿。馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)と彼に付き従う幻獣達が、そこに居た。
 義透もまた、アルクとスピカとは長い付き合いである。年若い二人の危機を救い、教え導き……二人の進むその道を切り開いた者達の内の、一人であった。

「ふふ。確かに成長しているようだ。実に良きことよ」

 ぷきゅきゅー! と|陰海月《ミズクラゲの幻獣》にじゃれつかれるアルク。そんな微笑ましい光景に笑みを浮かべながら、義透が言う。
 義透が指摘しているのは、アルクが風に違和感を感じた今の一瞬の事である。
 あの風は、先に下がった猟兵の意思に世界が反応を示したもの。自然発生的に生じたものでは断じて無い。そしてその違いは、一般人には見分ける事は出来ないだろう。
 だがアルクは、僅かとは言えその違和感を感じてみせた。その感覚は、彼が着実な成長を積み続けているという事実の証明であった。
 まだまだ巣立つ前の雛鳥のようであった頃の二人を知る義透としては、そんな彼の成長が嬉しいのだ。

「……だが、少々過敏なようだの」

 だが、その成長はまだ途上。百点満点は、与えてやれない。
 あの風に乗っていたのは、敵に対する憤り。まだ悪意を抱き続ける存在への、義憤である。つまりこちら側に対する敵意の発露などでは、無かったのだ。
 だというのに、アルクはその気を受けて必要以上に身体を強張らせてしまっていた。それでは、いけないのだ。
 ……とは言え、その感覚は一朝一夕で身につけられる様な物では無い。『生命の埒外』である猟兵ならばともかく、アルクはこの世界を生きる普通のヒトなのだから。

「これからも、修練を積む事よ」
「……肝に銘じるよ」

 笑みを深める義透のその言葉を聞いて、僅かに顔を顰めるアルク。そんな彼を慰める様に、ぷっきゅーと鳴く陰海月。
 だが、アルクが顔を顰めたのはほんの一瞬。直ぐに気を切り替えて、指摘を素直に受け入れる。
 指摘された事を素直に受け入れられるその度量は、彼の美徳の一つ。その心根を忘れぬ限り、彼はこれからも成長を続けていく事だろう。
 ……ともあれ、そんな少年の成長を喜ぶのはここまでだ。
 ここからは少し、仕事の話をするとしよう。

「陰海月、霹靂。少し遊んでおるが良い……さて。アルク殿、スピカ殿、此度の事は?」
「ああ、聞いてる」
『『|日蝕帝国《イクリプス》』の本領への、潜入ですよね』

 幻獣達を促しつつの、確認するような義透の問い掛け。その問いを聞けば、迷いを見せずに二人が答える。
 認識に齟齬は無いようだ。うむと一つ、義透が頷く。
 敵地への、潜入。それはかつて一度、経験している。二人と共に猟兵達は、滅びた二人の故郷に潜入した事があったからだ。
 あの時も、中々に大変だった。闇夜を縫うように慎重に、しかし大胆に空を征き……何とか目的地へと、辿り着く事が出来たのだ。
 だが、今回はあの時とは違う。
 今回潜り込む事になるのは、敵の本領。本拠地である。
 必然、警戒はあの時よりも厳しいだろう。グリモア猟兵の予知という優位があっても完全な安全は保証出来ぬ程に。
 その状況は、敵地に近づけば近づく程に厳しくなることは明白である。

(ふむ……)

 そんな今回の一件の事を思えば、『己の特性』について事前に話しておくべきではないかと義透は思う。
 義透は、四霊一身の複合型悪霊である。その特徴を活かし、彼はその都度最適な者を表に立たせる事で、猟兵としての活動に尽力してきていた。
 ……なのだが、その事実を二人は知らない。

(今までは、わしで充分であったからなぁ)

 何故なら今まで二人と関わってきた案件で、表立って動いてきたのは一人のみ。四霊の纏め役である第四霊、『不動なる者』のみであったからだ。
 ということは、だ。アルクとスピカは、義透=『不動なる者』と認識しているという事である(スピカは大晦日の旅路の際に義透の特徴を耳にしている可能性はあるが、見ていないのだから実感は無いはずだ)。
 もし、その認識のまま行動を続けたとしよう。そしていざ動く時が来て、『不動なる者』以外が表立つ事があったとしよう。
 ……眼の前で、同じ姿のままに人格だけが入れ替わる。その様子を見れば、知識が無ければ混乱する事は必至であるだろう。
 今回の任務の特殊性を考えると、潜入向きの人格である『疾き者』へと入れ替わる可能性は大いにある。敵中で要らぬ混乱を与える様な事は、出来る限りは避けるべきだろう。

「では、少しわしの事を話しておこう。わしはな、わりと特殊でな……」

 考えを巡らせたのは、一瞬。そしてそうと決めたのも、また一瞬。
 話すべき事を、常の通りの落ち着いた声で義透が語れば……その特殊性に、二人は目を白黒とさせながらも、何とか飲み込み受け入れるだろう。
 そんな三人の会話を横目に、幻獣達がぷきゅぷきゅクエクエと楽しげにじゃれ合う。
 長閑な空の旅路は、もう少し続きそうであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
2人とも随分頼もしくなっちゃって
若者の成長は早いねシェル姉さんや
『セリカも成長していいのよ』

なにをう?!

時間あるし久々に見せてもらおうかな?
と、アルクに模擬戦兼稽古を提案

(順当に伸びてる。私に当てる日も遠くないかもね
経験を糧にできてるいい素質だよっと、危ない。感心してたら掠める所だった!私の意識がそれたの見て攻め込むなんてやるう!)

随分成長したね。それでー
スピカちゃんとはどんな感じなのかなー最近!
可愛かったとことかどうよ?


『セリカ、そういう物言い。アレにそっくりよ。ダメな方のアンタの先生』

わー!夕凪かんなのようになりたくはないです!
思い出すだけで怖気の走る先生になるのはごめんだ。襟元を正そうね





(ふぅん……?)

 セフィリカ・ランブレイ(鉄エルフの蒼鋼姫・f00633)は、のんびりとその光景を眺めていた。
 彼女の視線の先には、壮年の猟兵と何やら話し込む年若き少年勇士、アルクの姿があった。
 ……いや、正確にはアルクだけでは無い。姿形こそその場には無いが、連れ立つ様にその場に漂う意識、スピカの魔力の波動がその場にあったのだ。

(……いやぁ、二人とも随分頼もしくなっちゃって)

 そんな光景に、セフィリカの口の端が笑みを作る。
 初めて出会った時は、一方的に追われるだけであった二人である。
 だが、今はどうだ。話を聞き、何やら困った様に頭を搔いているアルクも。驚きを顕わとしている様なスピカの思念も。見た目には随分とリラックスしているようだが……その実、大きな隙は見受けられない。つまりそれだけ、周囲に対して警戒をしているという事である。
 その心構えは、凶鳥の森を乗り越えて訪れた酒場で示されたもの。何事も冷静に、そして最悪を想定して動くという教えの賜物であっる。
 あの時の教えを身に付け、示している。その様子が、セフィリカには嬉しく思えたのだ。

「若者の成長は早いねぇ、シェル姉さんや」

 そんな気持ちを韜晦するように。セフィリカがとぼけたように呟けば。

『セリカも成長していいのよ?』
「な、なにをうっ!?」

 そのボケを聞いた、セフィリカが腰に佩く|意思持つ魔剣《魔剣シェルファ》の反応は、いつもの通りの塩対応であった。
 ……まぁセフィリカは、所謂『天才』と呼ばれる部類の人間である。だがそれ故に、その行動は自分本位でノリ任せな面が目立ちがちである。
 そんな人間を褒めそやせば、調子に乗るのは明白だ。|魔剣シェルファ《姉代わりの存在》としては、辛口となるのも宜なるかな、と言った所であった。

「……っと。おーい、アルクくんやーい!」

 と、そうこうしている内に向こう側では話は終わったらしい。壮年猟兵は船室に下がり、その場に立つのは話の内容を飲み込もうと考え込んでいる様なアルクのみとなっていた。
 そんなアルクに声を掛けつつ、セフィリカが手招けば……首を傾げつつ、アルクがこちらへとやってくる。

「なんだ? なんか困りごとか?」
「いやいや、困ってるのはアルクくんの方っぽいけどね?」

 そうしてやってきたアルクの第一声に思わず苦笑を浮かべつつ……セフィリカの手が、ぽんぽんと魔剣の柄を叩く。

「ただ頭を使うだけじゃ煮詰まるからね。時間もあるし、どう?」

 そうしてニカッと笑んで、アルクの目を見る。
 剣士であるならば、その仕草の意味が判るだろう。セフィリカは『一戦、交えてみないか?』と、そう言っているのだ。
 ……まぁ尤も、セフィリカとアルクでは実力差が明白だから、アルクへの指南を兼ねた稽古としかならないだろうけれど。

「そう、だな……じゃあ一手、お願いしようか」

 そんな意味の含まれたセフィリカの仕草は、アルクには確りと通じたらしい。
 漂うスピカの思念に向けて「少し頼むな?」と断りを入れれば、『無理はしないでね?』とスピカの思念が響く。お互いを思い合うその関係性は、以前のままのようである。
 しかし。

「……おっ?」

 その微笑ましいやりとりにニヨニヨとしていたセフィリカが、思わずと言った様に声を漏らす。僅かに距離を取り剣を構えたアルクの立ち姿に、感心を覚えたのだ。
 右腕一本で片手長剣を握り、やや斜に構えられたアルクの立ち姿。その姿に、踏み込む隙が見受けられなかったからだ。

(成る程。警戒心もそうだけど、実際の実力も順当に伸びてるね)

 その様子に、セフィリカの眦が下がる。
 猟兵達との数度に渡る交流を経て、アルクは経験を積み上げていた。その経験を無駄なく糧とし、己を磨き上げる事が出来るのは……中々に得難い資質である。
 これはもっと経験を積んでいけば、もしかすると一廉の勇士としてこの世界に名を残せるのでは──。

 ──ガッ、ギィッ!!!

 そこまで思考を巡らせた、その瞬間。響いたのは鋼と鋼がぶつかり合う音だった。

「っとぉ、危ないっ」
「ぐっ……!」

 ぶつかりあったのは、セフィリカが抜いた魔剣とアルクが構えた片手長剣だった。セフィリカの意識が一瞬逸れたその隙を突くように、アルクが剣を振るったのだ。

「私の意識が逸れたの見て攻め込むなんて、やるう!」
「そいつはどう、もっ!」

 言葉を交わしながら、一度二度と剣が閃く。その度に、鋼の音が艇上に響く。
 傍目には、中々にいい勝負に見えるだろう。事実、主導権は先手を取ったアルクにあった。
 だが──。

「いやいや。ホント、随分と成長したね。それで──」

 そんな主導権をひっくり返す手立てなど、幾らでもある。
 尤も、その為にユーベルコードを使おうなどとは思わない。流石のセフィリカも、それくらいの分別はあるつもりだ。
 だから、今回使うのは。

「──スピカちゃんとは、どんな感じなのかなー最近!」
「なっ、なぁっ!?」

 言葉による、口撃。揺さぶりだとか精神攻撃だとか言われる類の物であった。
 ニヤニヤとした顔つきのまま放たれたその言葉に、思わずと言った様子で剣筋を乱すアルク。呼吸も乱れ、上手くバランスの取れていた力の加減も一瞬で崩壊してしまう。
 そして、そうなれば。

「ほい、っとぉ!」
「うわっ!?」

 剣を弾いて無力化してしまうのも、簡単である。
 掛け声一つ、セフィリカが剣を振るえば……アルクの握る長剣は簡単に弾かれ、その掌から飛ばされる。
 ……勝負、ありである。

「ほーら、最近どうなの? スピカちゃんの可愛かった所とか、語っちゃう?」

 その上で更に追い打つ様にセフィリカが煽れば、アルクは頬を赤く染めて狼狽するばかりである。

『……セリカ。そういう物言い、アレにそっくりよ。ダメな方のアンタの先生に』

 そんな少年勇士の姿を見かねてか、はたまた調子に乗りつつある妹分に水をぶっかける為か。溜息混じりに、魔剣が言う。
 ダメな方の先生。それは、セフィリカの剣の師の事である。
 卓越した剣技を誇る人物であり、セフィリカの戦い方の基礎を形作った人物でもあるのだが……。

「わっ、わー!? 夕凪かんなのようになりたくはないですっ!?」

 セフィリカにとっては同時に、『あんな風にはなりたくはない』と思わせる反面教師的な人物でもあった。口調のその乱れっぷりからして、その反面教師っぷりがどれ程の物なのかは想像もつく……だろうか?

「はー……うん、襟元を正そうね」

 自省をするようにぱんぱんと軽く自身の頬を叩き、頷く。
 ……うん。切り替え、完了。

「そんじゃ、アルクくん。講評といこっか? まず構えだけど──」

 気を取り直してセフィリカが真面目に解説すれば、アルクも我を取り戻して姿勢を正す。そうして自身の改善点と向き直り、その実力を高める為の糧とするだろう。
 緩やかな旅路は、まだ続く。平和な内に、伝えられる事は伝えておくべきだ。
 二人の稽古は熱を帯び、その後数本繰り返されるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
ふむ…少し期間は空いたが
ヴィクトリアは水着コン、お疲れ様だったな
(所用で遅れた言い訳をしつつ、離れた所へ転移を依頼)

例の2人に会うのも久しぶりだし
声を掛けたい所だが…今は控えておこう。
合流ならいつでも出来るしな

月並ではあるが…敵を欺くには味方から、とは良く言ったものだ

敵の本拠地に乗り込む以上、
今は再会を喜ぶよりも最善を尽くすべきだろうしな

▼動
目的は退路となる地上ルートの確保

今は予知で安全域とは言え…それが事後も続くかは別問題だ
保険でもあるし使う機会が無ければそれでいい

単車で移動しつつ散開時に森など身を隠せそうな箇所を
いくつか見繕っておくとしよう

…しかし何だ

猟兵に夏休みなど無い、か(遠い目)





 ──ヴォォォォオオオンッッ!!

 無限に続く蒼空に、轟く爆音。|機械造りの心臓《エンジン》が吠える、駆動音だ。

(月並ではあるが……『敵を欺くには味方から』とは、良く言ったものだ)

 科学が生み出した|鋼鉄の悍馬《宇宙バイク》の手綱を握るのは、アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)であった。
 ここは、少年少女と猟兵達が征く空の上……では、無い。彼らの征く旅路とは少し離れた、別のルートである。
 今回、猟兵達に与えられた任務は、敵本領への潜入。そして情報収集である。
 本領。つまりは、本拠地だ。であるならば当然、敵も厳重な警戒網を敷いている事だろう。
 そんな普通なら梃子摺る警戒網だが、今回は予知の力でパスする事が出来るというのはまさに僥倖。グリモア猟兵の予知とは、実に頼りになるものだ。

「──とは言え、事後もそうとは限らんからな……っと!」

 頭の片隅に、今回猟兵達を導いたグリモア猟兵の顔を思い浮かべつつハンドルを操る。車体が宙を舞い、小さな浮島を飛び渡る。
 事前のグリモア猟兵の説明の通り、往路の安全は保証されている。そこに関しては、疑いはない。
 だが、その後は? 潜入し、情報を得て、帰還する、その段となった時は?
 ──そう。安全の保証など、どこにも無いのだ。

(そうなった時の為に、退路は確保しなければならん)

 その事実に思い至ったが故に、アネットは動いた。グリモア猟兵に頼みこみ、単独行動を志願したのだ。
 目的は、退路となるルートの確保だ。
 帰還時にもし追撃を受けた場合、身を隠す事が出来るような場所を幾つか見繕う事。それがアネットの目的であった。

(まぁ、二人に声を掛けたい所では、あるんだが……)

 とは言え、アルクとスピカ。成長したという二人に声を掛けたいという気持ちは、アネットにもある。
 だが、合流ならいつでも出来る。それよりも今は、後顧の憂いとなりうる要素を可能な限り潰しておく事の方が最優先。再会を喜ぶより、最善を尽くすべきであろう。
 ……その姿勢はまさしく、かつてアネットが二人に説いた『常に最悪を想定して動け』という冒険者としての姿勢を体現する物であった。

「……しかし、何だ」

 また一つ、浮島を飛び渡りつつ。我知らず、アネットがボヤく。
 暦の上では盛夏が過ぎ去ろうという時期に差し掛かりつつあるが、暑気はまだ消えずに残っているのが現状だ。
 そんな季節であるのだから、平和な時代であれば夏のバカンスなどと洒落込みたい所だが……遊びに現を抜かす訳にはいかないというのも、また事実。

「猟兵に夏休みなど無い、か……」

 愚痴をこぼす様に、遠い目をするアネット。だがその視線は油断なく動き、周囲の状況を常に探り続けていた。
 再び轟く、|鋼鉄の悍馬の心音《宇宙バイクのエンジン音》。
 アネットのこの行動は、ただの保険だ。当然、使う機会が無いのならばそれに越したことはない。
 だが用心に用心を重ねたその行動こそ、二人の勇士が見習うべき行動であるはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『嵐狂鳥フレズヴェルグ』

POW   :    暴風疾翔
【荒れ狂う暴風の渦を翼から放つこと】によりレベル×100km/hで飛翔し、【飛翔する同種族の数】×【飢餓感の大きさ】×【飛翔速度】に比例した激突ダメージを与える。
SPD   :    狂風疾翔
全身を【触れたモノを切断する狂風の渦】で覆い、自身の【飢餓感】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    血風疾翔
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【血に染まった羽根】から【獲物を追尾する血風の刃】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 グリモア猟兵の予知により保証された、安全な旅路。その間を利用し、猟兵達と協力者の若き勇士が旧交を温める。
 だが、しかし。

「……そろそろ、かな」

 そんな緩やかで穏やかな時間も、終わりを告げる。
 日は沈みかけ、薄暮となった時間。少年勇士アルクがポツリと呟けば。

『そうだね。そろそろ、教えてもらった場所のはずだけど……』

 その声に応じる様に、艇へと変じた少女勇士スピカの思念が小さく響く。
 二人は事前に、グリモア猟兵から今回のルートを教えられていたらしい。その際に、ここら辺りからが警戒するべきポイントであるとも教えられていたようである。
 そんな二人の様子に、猟兵達もその感覚を研ぎ澄ませば。遠く艇の進路の先に、数多の悪意が蠢いている事が判るだろう。

「ここからは、より慎重に、な?」
『わかってるよ、アルク。見つからないように、ね』

 その気配を僅かに感じたか。囁くかのような二人のやり取りをその場に残して。
 屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』。一行はその本領への潜入に、挑むのだった。

 ====================

●第二章、補足

 第二章は、集団戦。
 日蝕帝国本領の空を哨戒している『嵐狂鳥フレズヴェルグ』。風を従える巨鳥型魔獣です。
 その性質は凶暴。常に飢餓感に苛まれ、獲物を見つければ嵐を突っ切ってでも襲いかかってきます。

 戦い、とは言いましたが。今回の目的はあくまでも、『潜入』と『斥候』です。
 敵の撃破は成功の条件とはなりません。また、敵を全滅させる事は事実上『不可能』です。
 如何に敵の警戒網を潜り抜けるか。仮に戦闘となっても、どのようにして騒ぎを小さく留めるか。その辺りが重要なポイントとなるでしょう。
 万一、敵全体に猟兵の潜入が気付かれた場合は、任務は『失敗』となりますので、ご注意を。

 また前章同様、この章にもアルクとスピカの二人が同道しています。
 スペックは、マスコメの通り。猟兵達への信頼は厚く、多少の無茶な指示でも従ってくれるでしょう。
 何かあれば、彼らも上手く使ってやって下さい。

 遂に辿り着いた、屍人帝国本領空域。
 数多の巨鳥がその目を光らせる中、猟兵達はどう進むか。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!

 ====================
七星・桜華(サポート)
『天魔御剣流免許皆伝、だからこそ更なる高みへと。』
『一か八かの勝負?そんな事しなくても私達の勝ちだね!!』
『勝った後は派手に騒ぐんだ!誰一人として倒れないようにね!!』
敵の数が多い場合は敵の強さで一体づつ倒すか複数を纏めて狙うかを第六感や野生の勘と言われる直感で即決する、また見切りの速さも早い。
闘う姿は舞っているかの動きで敵を魅了する、上空の敵が相手でも空中戦もできる。
攻守において残像を使い殺気や覇気が残像にまで残る程の濃密加減。
頑丈な敵が相手でも鎧等を無視した内部破壊系攻撃を当たり前のように使いこなす。
長期戦になっても敵の消耗と自身の回復に生命力を吸収して凌ぐ。
戦闘では先の先、後の先問わず。





(潜入、か)

 静かに動き出した飛空艇の舳先に立ち、七星・桜華(深紅の天魔流免許皆伝・f00653)がその身の闘気を練り上げていた。
 桜華は、武人である。『天魔流』なる総合戦闘術の流派に於ける歴代最年少の免許皆伝者にして、その派生流派も含めた唯一の皆伝持ちである。
 そんな桜華にとって、今のこの状況は若干フラストレーションが溜まる物だった。
 潜入斥候という任務は、真正面からぶつかり合い、武を競うという行為と相反する物だからだ。

(……まぁ、致し方なしだね)

 とは言え、その不満を表に出すような事は無い。この状況で己の好みを押し通せばどうなるか、桜華はしっかりと理解しているからだ。

(派手に騒ぐのは、全てが終わってから。今は、誰一人倒れないように……)

 故に、桜華はその身の闘気を練り上げながらも周囲への観察に余念が無い。
 類まれなる武人である存在は、須らく周囲の敵意に対しての感知能力も高いもの。そんな鋭い感知能力(第六感、と呼ばれる類のそれだ)を活かす事で、敵の感知の目を掻い潜ろうと考えたのだ。
 そんな桜華の目論見は、現状は上手く行っていた。悪意から遠ざかる様に進む飛空艇は、今現在まで接敵を受けずに進む事が出来ていたからだ。
 だが。

「──むっ」

 ぴくり、と。桜華の眉が、僅かに動く。
 桜華が感じたのは、複数の気配。それもルートを塞ぐように複数箇所に広がるように展開している気配であった。
 ……ここは、敵の本拠。つまりそれだけ、警戒網は厚いという事だ。敵が複数展開している事も、想定の内ではある。
 だがこうなると、進路をどう取れば良いだろうか。一度退き、別のルートを探すべきか……。

 ──スッ。

 桜華の指が、一点を指し示す。艇を操る少年少女への、進路の指示だ。
 その進路の先には、敵の一隊が待っているが……。

(あの辺りの敵は、他とは少し離れている)

 桜華の鋭い感覚は、敵の隙を見逃さなかった。
 進路を塞ぐように展開している巨鳥の群れ。だがその群れの内の一つが、他の群れとは孤立する様な形で展開していたのだ。
 狙うならば、あそこだ。あの孤立する群れを手早く抜ければ、侵入の露呈は防げるはず。
 ……その桜華の判断を余人が見れば、一か八かと見えるだろう。
 だが、そうでは無い。これは、確りとした勝算があってのことである。

『判りました、往きます!』

 そんな自信に満ち溢れた桜華の指示に、少女の意思が応じる。意思が響けば艇は加速し、空を翔けるだろう。
 ぐんぐんと増していく船足。敵との距離もあっという間に縮まれば……当然、巨鳥の群れをこちらの存在に気付くだろう。
 風を纏う巨鳥が、こちらにその意識を向ける。そうして高く、その嘶きを轟かす──。

「天魔御剣流免許皆伝。七星・桜華、参る──!」

 よりも、疾く。動いたのは桜華であった。
 艇の舳先に立つ桜華が、宙を舞う。そして同時にその身で練り上げ続けられた闘気が開放されれば、その空域を支配するかのように形成された力場が巨鳥の群れの身を捉えて戒める。そしてその上で、舞った桜華が六振りの愛刀と共に戦陣を翔ければ……悲鳴を上げる間も無く巨鳥は斬られ、その身を雲海へと落としていく。

「知っているかい? 起こるから、奇跡っていうんだ!」

 ──まぁこの程度は、奇跡なんかじゃないけれどね!
 意気揚々と桜華が語り、その剣を更に閃かせて……艇が進む道を、拓いていく。
 とは言え、まだまだ潜入行は道半ば。屍人帝国本土である浮島に辿り着けた訳では無い。
 一行の潜入行は、これからが本番だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

スフィア・レディアード(サポート)
『皆さん、頑張りましょう!』
 ミレナリィドールの妖剣士×鎧装騎兵、21歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、機嫌が悪いと「無口(私、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格は元気で、楽しい祭りとかが好きな少女。
武器は剣と銃をメインに使う。
霊感が強く、霊を操って戦う事も出来る(ユーベルコード)
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!





 道を阻み掛けた巨鳥の一群を斬り捨てて、猟兵達を乗せた飛空艇は進む。
 しかしそんな旅路に、文字通りの暗雲が立ち籠める。

『……っ! 前方に雲! あれは……雷雲です!』

 真っ先に気付いたのは、艇に変じたガレオノイドである少女勇士、スピカであった。
 それは、空に浮かぶ暗雲。迸る稲妻を纏う、雷雲であった。
 普通であれば、進路にそのような雲が浮かんでいれば回避を選ぶだろう。
 現代科学の粋を集めた航空機ですら、基本的には雷雲は回避を選ぶと言われている。それくらい、空を征く存在にとって雷雲とは危険な存在である事が識られているからだ。

(どうする? 征くべき? それとも……?)

 だがその事を良く識るはずのスピカの意識に浮かぶのは、迷いであった。
 雷雲は、危険だ。だが迂回をすれば時間が掛かり、屍人帝国の警戒網にその存在が露呈する可能性が高くなる。
 逆に突っ込めば、時間は短縮出来るだろう。敵の警戒網に存在を露呈する可能性も下がるが……。

(今の私の背には、アルクに、猟兵の皆さんが生命が乗ってる……!)

 それは彼女の背に乗る人々に、危険が及びかねないという事でもある。
 あちらを立てば、こちらが立たず。まさに二律背反と言った状態に……スピカが迷い焦るのは、当然の事であった。

「──行って、スピカさん!」

 そんなスピカの迷いを晴らすかのように響いたのは、スフィア・レディアード(魔封騎士・f15947)の声だった。
 明るく元気で、表情豊か。祭り好きで人懐っこい(それが故、年下に見られてしまう事もあるのだが……)事が特徴なスフィアのその表情は、迷うスピカの背を押すかのような自信に満ちた物だった。
 その覇気に満ちたスフィアの気配を感じれば、スピカも思い出すだろう。
 そうだ。今この背に乗ってる人達は、猟兵。生命を超越したかのような異能を振るう存在である、と。
 スフィアの事は初見ではあるが、彼女も猟兵。ならば、こんな雷雲に負けない力があるに違いない!

『──はいっ!』

 決然と響く、スピカの思念。その決意を示す様に。

 ──カッ!!!

 閃く白光。轟く爆音。稲光が迸る雷雲へと、突っ込んでいく。
 船体に打ち付ける激しい風雨。そして迸る雷が、船体を掠る。

『きゃあっ!?』
「スピカ!」
『だ、大丈夫! 掠っただけ……!』

 思わずといった様に、スピカの悲鳴が響く。
 少年勇士アルクの心配げな声に答えるその声は毅然とした声だったが……軽度ではあるが、船体に(つまりは、スピカの身体自体に)ダメージを受けた事も、事実ではある。
 これは本当に、大丈夫なのか。スピカの頭に、そんな疑念が浮かび上がるが。
 
 ──~~♪

 瞬間、響いたのは細く高い歌声だ。艇上に立つ、スフィアの歌声である。
 スフィアは、謳う。嵐に挑む勇士を、世界の危機に挑む戦士を称える歌を。
 轟く稲妻も、膨れ上がる悪意も。正義の心を止める事は出来ないと……スフィアは、謳う。

(……そう。私達は、負けられないっ!)

 そんなスフィアの歌を聞けば、一瞬揺らいだスピカの決意が再び燃える。同時に受けた傷は癒やされ、揺らぐ艇も力強さを取り戻す。
 ……この歌はスフィアのユーベルコードの発露である。共感する者の傷を癒やし力を与える、異能の力である。
 この歌が続く限り。そして戦う事を諦めぬ限り。艇は前へ進む事が出来るのだ。

 ──~~♪ ~~♪

 歌は、止まらない。轟く稲妻を押し返すかのように、力強く響く。
 そのスフィアの歌に後押しされるかのように、飛空艇は雷雲を突っ切り……敵地への距離を、一息に詰めたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

馬県・義透
ふむ、なれば交代した方がよいな。

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風、四天流星

任されましたー。ではまあ、UC使いまして。まずは風属性の結界を張っておきますねー。
これで、相手の狂風は多少マシになるはずですー。
それに、四天流星の視認錯誤呪詛…それを結界に添わせますね。
見つかるとして、同じ仲間とか…それこそ雲とかと見間違いすればいいなー、というやつですよー。

ああ、もし…見破られたのならば。その時は、漆黒風を投擲して、素早く処理してしまいましょう。
そうすれば、騒ぎは広がりませんから。


甲板にて。陰海月は殴る待機、霹靂は体当たり待機してたりする。ぷきゅクエ。


稷沈・リプス
のんべんだらりとしていた自称:人間な男。
数多の悪意に気づいた。

あー、ここはどうやっていくか、というところっすね。
UC使用して。『Medjed』内に収納した『ジェフティ』からの情報を、仲間全員に!これで避けやすくなるはずっすよ。
あと、念のため…蝕属性を帯びさせてみるっすね。誤魔化せれば御の字というやつっすよ。

万一戦闘になったら、獣奏器のオカリナ吹いて、精神攻撃するっすよ。
全体に気づかれないようにするには、気づいた一部を素早く蹴散らすのが一番っすからね!

ここで躓くわけにはいかないんすよ。
『日蝕帝国』。それを許す俺じゃないっすからね。


ラフタイン・トリアンテ
$連携歓迎・アドリブOK$

|世界樹嵐《イルミンスール・グリード》を阻止した|現在《いま》こそが好機、
今度はこっちから攻めの姿勢を取る番ってことだね。
ふむ、アルク君もスピカ嬢もしばらく見ない間に成長を遂げているみたいだ。関心関心。

さて、ヴィクトリア嬢から事前に情報を得ているといえど、
道行きはナマモノ。リアルタイムでの情報は必要だろうね?
という訳でUCで知恵の精霊を召喚、周囲を【偵察】しながら、
より敵の警戒の薄いルートへ【道案内】に努めようか。

私自身からは積極的に攻撃はしない。
寄ってくる巨鳥に対してはエレメンタル・シンボルでの
【オーラ防御】を展開する【結界術】や宝杖からの雷魔術で
羽を迎撃・追い払う





 響き渡る歌声に背を押される様に、吹き荒ぶ風雨も稲妻も物ともせずに艇が征く。
 この危険地帯をこのまま抜ければ、目的地となる地は随分と近くなる事だろう。

「さて、それでは交代した方がよいな」

 迫る『その時』を感じ取ったか、「ぷきゅ!」「クエー!」と騒がしい幻獣達に笑みを零しつつ義透が呟く。
 今の彼を動かす人格は、第四人格『不動なる者』である。
 だが『不動なる者』はこれから先の任務、潜入斥候という働きには、不向きである。
 ならば、先にも触れた通り。より任務に向いた人格へと、切り替えるべきだろう。

「──はい、任されましたー」

 ふっと義透が瞳を閉じ、開けば……既にその人格は、切り替わっていた。
 今の彼の表人格は、第一人格『疾き者』。四悪霊の内、唯一忍びの業を修めし者である。
 のほほんとしたその空気感は、『不動なる者』とはまるで別人である。

「はー……そんな感じっすかぁ」

 その様子を傍で眺めていたリプスが、ほほう、と感心したかのように頷く。
 リプスはかつて、義透の事情については聞いていた。
 だが聞くと見るでは大きな違い。纏う空気感すら一瞬で変えたその行為に、実に興味深げな様子であった。

「それで、えーっと……『疾き者』さん? は、何をするっす?」

 とは言え、いつまでも興味を丸出しにしてはいられない。
 人格を切り替えたという事は、それが最適な事だと判断したという事だが……実際には何をするのかとリプスが問えば。

「そうですねー。まずは、風の呪詛で結界を張りましてー……」

 義透の返答は、ゆるゆるとしながらも的を得た物だった。風の結界で艇の周囲を覆い保護しつつ……。

「その上から、視認錯誤の呪詛を添わせますね、っとー」

 更にその上から、錯誤の呪詛が篭められた鏢の力を用いて、飛空艇へとその力を這わせていく。
 認識阻害。則ち、こちらの姿を他の物と誤魔化すという事である。
 この空域を護るのは、凶鳥だ。凶暴にして飢餓感に苛まれた巨鳥なのだという。
 そんな確固たる理性を感じさせない様な相手であれば、その手の術は大いに効くはずと考えたのだ。
 ……まぁもし、相手が本能のままにこちらに突っ込んでくるような事態となれば。その時は、手持ちの武具で手早く処理すれば良いだけの事。やる気満々な幻獣たちもいることだし、抜かりはない。

「なーるほど。それなら俺のも、役立ちそうっすねぇ!」

 そんな義透が示した策を聞き、リプスがニカッと笑みを浮かべると……取り出したのは、布のような質感の一枚のカード。
 真白い長方形のそのカードは、『|銀の雨降る世界《シルバーレイン》』にて開発されたイグニッションカードの技術を応用したもの。その目的も、装備の収納用途である。
 だが、収納されている物の桁が違う。
 そのカードに収納されているのは、大型の輸送艇。魔導砲を搭載した、移動書庫とも言える飛行艇なのだ。

「こういう力の使い方もある、ってことっすね」

 そんなカードに収納された飛空艇、その書庫に納められた智慧こそが、リプスが求めた物である。
 今回求めた智慧は、空を征く凶鳥達の生態だ。
 『敵を識り……』とは過去の偉人の台詞であるが、その言葉は実に正しい。敵の生態を知識として識る事で、万一の際の対処の手際も良くなるはずだ。

「後は、その視認錯誤の呪詛っすか? それに、俺の『蝕』の属性も帯びさせれば……」

 更に備えるのは、もう一手。義透の結界に付け加える為の一手である。
 それは、リプスがその身に宿す力。『日蝕』を司る神としての、その力である。
 リプスの力と、『|日蝕帝国《イクリプス》』の連中の力の方向性が似ている事は、既に度々触れられた事である。そしてその事実は、この場に集う仲間達の多くが識る所である。
 今回リプスはその事実を逆手に取ろうと考えた。方向性の似た力を利用して、相手を誤魔化してやろうと考えたのだ。

(……まぁ、連中の仲間みたいに思われるのはシャクっすけど)

 勿論、少々引っかかる事はある。リプスとしては、連中と同一視されるなど御免被りたい事なのだから。
 だが、それはそれである。道半ばで変に躓く訳にはいかない以上、ここはぐっと我慢のしどころである。
 ……この辺りの鬱憤は、いずれ機会があれば晴らさねばと。リプスはその内心で誓いを立てていた。

「──ああ。なら、私もお役に立てそうだね」

 そんなお互いの力を重ね合わせようとした義透とリプスの背に掛かる声。
 二人が振り返れば、そこにいたのは二人も良く見知った男の姿。ラフタイン・トリアンテ(継ぎし者・f33834)の姿があった。

「おっ? そっちも偽装系っすか?」
「いいや、そうではなくてね?」

 |日蝕帝国《イクリプス》絡みの案件で度々共闘してきたその姿に、軽く挨拶をするように手を上げながらリプスが問えば。片手を掲げて挨拶を返すラフタインの答えは、否であった。
 そう。ラフタインの考えた方策は、義透やリプスの様な偽装の策ではない。だが組み合わせる事で、ここから先の道行を確実な物とする策であった。

「さて、精霊よ。ちょっと知恵を借りたいんだけど、いいかな?」

 その策とは、知恵の精霊による周辺偵察。そして敵の警戒が薄いルートへの、誘導であった。
 事前の段階でグリモア猟兵からある程度の情報を得ているとは言え、敵地への潜入というナマモノだ。常に不測の事態が付き纏う物である。
 そんな状況で重要になるのは、リアルタイムの情報だ。天候、風向き、敵の配置……様々な生の情報を得る事で、最良の選択肢を選べる可能性は大きく増える物なのだ。

「……あー、成る程。これは助かりますね」

 そんなラフタインの策に、その道のプロである|義透《疾き者》も笑みを浮かべる。
 相手の状況を逐一確認出来る事が出来るなら、潜入の難度は格段に下がる。その上で、潜入のプロである忍びの業を修めた者がいるのだから……この潜入が上手く行くことは、最早確定した事実であるだろう。

「後は……こちらからは積極的に手出しはしない、という方針でいくべきかな?」
「ですね。万一の時は、手早く処理していきましょう」
「っすね。気付いた敵は素早く蹴散らすのが一番っすからね!」

 そうしてもう一つ、万一の事態に関して方針を固めれば。それぞれの為すべき事を為すために、三人が動く。
 義透が風の結界を艇に纏わせ、その認識を阻害する呪詛を添わせれば。その上を覆う様に、リプスの神気が広がっていく。
 ……準備は、万端だ。

「アルク君、スピカ嬢。こっちの準備は整ったよ。いつでもどうぞ」

 そんな光景を眺めつつ。知恵の精霊を展開したラフタインが、少年少女へと視線を向ける。
 ラフタインの試す様な視線を受けて、少年勇士アルクが力強く頷いて。

「──行こう、スピカ!」
『任せて、アルク!』

 決然とした意思を示して、艇が加速。雷雲を突き抜け、蒼空へとその身を晒す。

(ああ。アルク君もスピカ嬢も、暫く見ない間に成長を遂げたみたいだ)

 勇敢なる二人のその姿を見つめるラフタインの目には、微笑ましげな光が浮かぶ。
 大晦日の湯治の折に、アルクとスピカに伝手を教えたのはラフタインである。そんな事もあってか、二人のその後はどうなったのかと気掛かりであったらしい。
 その結果がこうして見事に示された事に、ラフタインの胸に温かい思いが満ちていく。
 ……けれど、その思いは一旦横に置くとしよう。

(『|世界樹嵐《イルミンスール・グリード》』を阻止した|現在《いま》こそが、好機)

 過日の|日蝕帝国《イクリプス》幹部による、|世界樹嵐《イルミンスール・グリード》修得儀式は、猟兵達の手で阻まれた。
 そんな敵の一手を阻んだ今こそが、好機。更なる敵の悪意に先手を打ち続ける為にも……今回の潜入と斥候は、何としても成功させねばならない案件だ。

(……今度は、こっちが攻める番だ)

 強い決意をその身に宿し、ラフタインの──いや。その場に集う者達の目が、一点に注がれる。
 その視線の先には、白い靄に包まれた浮島の姿が広がっていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
ここからは徒歩だな

(地上から動向を遠目に見て)
合流出来そうな距離ではあるが…どうしたものか
アレは少し騒ぎ過ぎな気もするな?

目的を鑑みると敵を倒し過ぎるのは悪手だ
そうなると回避か現状維持の二択な訳だが…

…仕方ない。合流は棚上げだ

▼動
フード付黒コートで闇に紛れ行動

艇の進行方向を推測しつつ
木々や岩等の死角を利用し先回りを行う

状況を見てUCを展開し、周囲の敵を一時隔離
バレないよう透明か景観を似せて誤魔化す

接敵時は霽刀を手に早業で暗殺するが必要最低限に留め
艇が通過するまでやり過ごす事を優先
死骸が残るなら物陰へ隠蔽も

僅かな支援だが…範囲内なら2人の生存率も上がる筈だ
ここは俺に任せて先に行け…なんてな?





 雷雲を突き抜けた『何か』が、白い靄に包まれた浮島へと進路を向ける。
 その様子は、其処に存在する事が自然であると言わんばかり。空を舞う巨鳥の群れも、その存在に何か違和感を感じてはいないようである。

(……成程、認識阻害か)

 だが今も単独行動を続けているアネットの様に、見る者が見ればその正体は即座に見抜けることだろう。アレは猟兵達がその力を尽くして擬態を施した、飛空艇であると。
 ……今回の任務は、敵地への潜入と斥候だ。そんな任務に於いて重要なのは、『如何に敵にこちらの存在を気取られないか』、である。
 障害となる敵を倒し過ぎるのは、悪手。そうなると採るべき手段は、回避か現状維持の二択となるが……。

(その辺りは、どうやら確りと理解しているようだな)

 ほう、と一つ、アネットの口から息が溢れる。
 艇にあのレベルの偽装が施されている事を考えれば、同乗組も『戦闘は下策』であるという認識はしていることが判るだろう。その上で彼らは、戦闘を回避しつつ進む策を練り上げ実行してみせたのだ。
 同じ猟兵という立場であるが、なんとも頼もしい事である。

(しかしそうなると……直ぐの合流は、難しそうだな)

 そんな頼もしき仲間達の行動を遠目に眺め見ながら、アネットは思う。
 敵に違和感を覚えられない程に、完璧な偽装を身に纏った飛行艇だ。そんな所にノコノコと合流しようものなら……その偽装の意味が、失くなってしまうだろう。仲間達の努力を無に帰すような行為は、流石に避けたい所である。
 で、あるならば。もう暫くは、単独行動を続けるべきか。

「……仕方ない。合流は、棚上げだな」

 そうと決まれば話は早いと言わんばかりに、アネットが動く。
 数歩助走し、跳躍。浮島と呼ぶには小さすぎる岩塊を蹴り渡る様に、進んでいく。黒で統一された装束が、強い風で靡いて揺れる。
 陽のある時間であれば、アネットのその行動は非常に目立つ結果となっただろう。
 だが、今は薄暮。この時間であるならば衣装も相まってその行動は余程注視しなければ目立つ物では無い。
 一つ、二つ、三つ。艇の進行方向を確認しながら、アネットの身体が順調に宙を舞う。

(──ん?)

 だが、その途上。アネットの感覚が、何かを捉える。
 視線を動かせば、その先に居たのは巨鳥の群れだ。
 数は、片手で数えられる程度。群れと呼ぶのも迷う程度の、小さなグループである。
 そんな巨鳥達が翼を羽撃かせて進む進路の先には……仲間達が乗る、艇の姿があった。

(これは、どうしたものかな)

 アネットが見る限り、巨鳥達が艇の存在に気付いている様子は無い。今後も連中が艇に気づかない可能性は、大いにある。
 だが距離を詰めれば、ふとした違和感を感じる可能性は否定できない。そして違和感を感じれば、その飢餓を満たそうと巨鳥達は騒ぎ立てるだろうし……そうなれば、他の群れも黙っている事はないだろう。
 放置か、介入か。さて、どう動くべきか。

「──やるか」

 アネットが選んだのは、介入であった。
 浮く岩塊にその身を寄せて、ジッと迫りつつある巨鳥を睨む。
 瞬間、ばちりばちりと、アネットの周囲の空気が湧き立ち……迸る紫雷が形成される。
 これは、アネットの持つユーベルコードの一つである。
 名は、【|竜騎兵ヘ至ル道《ゲート・オブ・ドラゴンウォリアー》】。武人としての経験と幾星霜の年月を経て再現した、かつてアネットが属していた『同盟諸国』と呼ばれる勢力の願いが込められた広域決戦術である。
 その、効果は──敵を強制的に引きずり込む、仮初の疑似ドラゴン界の形成である。

『ケッ!? クケェ──……』

 迸る稲妻に飲み込まれ、巨鳥の群れが隔離される。
 形成された結界は周囲の風景と同化するように作られている。また僅かに響いた嘶きは稲妻により掻き消され、それ程目立つ事は無かったはず。
 他の群れが、この異変に気付く事は無いだろう。

(僅かな支援だが……これで任務の成功率も上がるだろう)

 そうして巨鳥を引きずり込んだ結界の中心で、アネットは思い……携えた剣を、抜き放つ。
 支援としては、本当に細やかだ。だが失敗の芽が僅かでもあるのならば、その芽は摘み取らねばならないだろう。

「ここは俺に任せて、先に行け……なんてな?」

 冗談めかした独り言を呟きつつ、その目は突然の事態に猛り狂う巨鳥を睨む。
 血風を纏う凶鳥。『嵐狂鳥フレズヴェルグ』と呼ばれるこの存在を、どう仕留めてくれようか。
 戦いの幕は人知れず上がり、そして人知れずに幕を降ろす事となる。
 その勝者がどちらかだったかは……記さずとも良いだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
見つかったらアウト、の状況でも平常心を保ち続けるのが潜入の心得だよね
『セリカが潜入向きとは思えないけどね』

派手にやるほうが私向きじゃあるけどさ
静かに物事を達成するのだってまた趣があるもの

【街角の誰彼】、偵察ドローンで敵の警戒が薄いルートを確認、スピカに伝える
遭遇が避けられないケースに陥った場合は

【虚栄の燐虫】にて対応
気を惹く小さな光で、フレスベルグの注意を引き、その隙に通過
例え捕縛されても小さな虫にしか見えないそれを侵入者の存在とつなげるのは難しい筈

ここまでやっても見つかる時は見つかるかもだけど
『その時は?』

仲間呼ばれる前に速攻
『らしい答えね』

シェル姉私の事蛮族か何かだと思ってらっしゃる???





 眼下に見えるのは、白い靄に包まれた荒涼とした大地。
 偽装を施された艇は雲海を越え、浮島の上空へと踏み込んでいた。
 ……そう。偽装工作は見事にハマり、艇は粛々と、だが堂々と、巨鳥の群れが作る警戒網を抜いてみせたのだ。

「……これもみんなが平常心を保ち続けたからこその、結果だよね」

 そんな一行が挙げた成果を称える様に、セフィリカが言う。
 セフィリカの言う通り、この成果は猟兵や協力者がお互いを信頼し、力を尽くし、平常心を保ち続けたからこその結果である。見つかったらアウト、という状況でそれを見事に為してみせたのは、称賛に値するだろう。

『まぁ、セリカは潜入向きとは思えないものね』
「いや、派手にやるほうが私向きじゃあるけどさ?」

 でも、静かに物事を達成するのだって趣はあるんだよ? と。
 セフィリカを誂うような|魔剣《シェルファ》の言葉に、不承不承と言った様子でセフィリカもその事実を認めつつ、言葉を返す。
 魔剣が指摘したその通り、セフィリカはどちらかと言えば派手な立ち回り方を得手とする猟兵だ。その事は、セフィリカ自身が認める事である。
 だがその事実が、セフィリカにはこういった任務……繊細さを求められる作業や、身を潜める様な任務が出来ないという事実を示す物では無い。
 何故ならば──。

『セフィリカさん、どうですか……?』
「んー……このまま進んで? 高度は少し下げても大丈夫」

 今、セフィリカが務めている仕事が、その反証であるからだ。
 セフィリカが今しているのは、飛空艇の飛行コースの誘導だ。浮島に踏み込んだ瞬間、複数の偵察ドローンを放って周囲の状況の把握に務めているのだ。
 猟兵達は、敵の本領と思しき浮島に踏み込む事は出来た。それは間違いない。
 だが、任務はそこで終わりではない。大事なのはここから……敵が何を企んでいるのか、その情報を探る事である。
 その為には、まずは比較的安全な着地地点を探らねばならない。そうしてしっかり地に足をつけ、その後に情報収集に動くべきであるだろう。
 セフィリカがしているのは、その為の土台作り。着地地点を探る為の、情報収集であった。
 派手な立ち回りでは無い。だが縁の下を支える様な、重要な仕事だ。
 この仕事こそまさに、静かに物事を達成する仕事でなくてなんだというのか。

「……この辺り、かな。スピカちゃん、ゆっくり降りて?」
『はいっ!』

 そうこうしている内に、ドローンから得られた安全地帯と思しき場所へと辿り着いたらしい。
 セフィリカの誘導に従い、艇はその地へと進んでいく。
 そこは、小高い山と山に挟まれた、いわゆる渓谷であった。
 緑は、無い。土地は枯れ、岩肌が剥き出しとなった荒れ果てた地であった。
 そんな渓谷の間を、スピカが変じた艇はゆっくりと進んでいく。

「……狭いな」
『そうだ、ね。でも、光の誘導があるから……』

 思わず、と言った具合のアルクの呟き。その言葉に反応しつつも、スピカの動きは止まらない。
 スピカが言う通り、渓谷の岩肌には小さな光が灯っていた。
 それは、セフィリカが放った虫型マシンが発した光である。マシンが発する光を、航空障害灯代わりに使って艇が進む進路を誘導しているのだ。
 ただ誘導するだけでなく、この辺りの細やかな気遣いが出来るのも……セフィリカという猟兵が、見た目通りの存在ではないという証明であろう。

「まーでも、ここまでやっても敵に見つかる時は見つかるかもなんだけど、ね」

 とは言え、まだまだ気は緩められない。
 油断はしないようにね? とセフィリカが二人へと声を掛ければ、アルクもスピカも、緩みかけた気を引き締め直すだろう。

『……で、もし見つかった時は?』
「そん時はー……」

 だがそんなタイミングで、混ぜっ返す様な魔剣の声。
 何かを含んだ様なその問い掛けに、セフィリカは一瞬考えるような素振りを見せて。

「……仲間呼ばれる前に速攻」

 出した答えは、実にらしいものだった。

『らしい答えね』
「シェル姉? 私のこと、蛮族か何かだと思ってらっしゃる???」

 そんな妹分の答えは想定通りだったのか、呆れたような魔剣に対し、不服を示す様なセフィリカの声。
 敵地への上陸を直前としたこの状況で、常と変わらぬやり取り。流れるような会話劇に、気負い掛けた少年少女も思わず肩の力が抜けるだろう。
 だが、それで良い。
 気を引き締め直すのは、大事だ。けれど常に肩ひじを張っては、いざという時の対応が遅れてしまう。
 重要なのは、メリハリ。緩める時は緩め、締める時は締める。そのバランスが、大事なのだから。

『ふっ、ふふっ……それじゃ、そろそろ着陸しますね?』

 響いたスピカの思念を聞けば、もうその辺りのことを心配する必要も無さそうだ。これで万一の事態も、落ち着いて切り抜ける事が出来るだろう。
 ……艇は、ゆっくりと地に降りる。そうして光に包まれれば。飛空艇は霞んで消えて、銀髪の少女の姿へとその身を戻す。猟兵達も皆、その脚で地を踏みしめている事に気付くだろう。
 猟兵達は遂に、屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』の地へと踏み込んだのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 冒険 『未墜の地』

POW   :    未知の動植物や食材を探す

SPD   :    可能な限り広範囲を探索し、地理を把握する

WIZ   :    住人を探し、見つかれば交流を図る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ====================

●第三章、補足

 第三章は、集団戦。
 日蝕帝国本領の空を哨戒している『嵐狂鳥フレズヴェルグ』。風を従える巨鳥型魔獣です。
 その性質は凶暴。常に飢餓感に苛まれ、獲物を見つければ嵐を突っ切ってでも襲いかかってきます。

 戦い、とは言いましたが。今回の目的はあくまでも、『潜入』と『斥候』です。
 敵の撃破は成功の条件とはなりません。また、敵を全滅させる事は事実上『不可能』です。
 如何に敵の警戒網を潜り抜けるか。仮に戦闘となっても、どのようにして騒ぎを小さく留めるか。その辺りが重要なポイントとなるでしょう。
 万一、敵全体に猟兵の潜入が気付かれた場合は、任務は『失敗』となりますので、ご注意を。

 また前章同様、この章にもアルクとスピカの二人が同道しています。
 スペックは、マスコメの通り。猟兵達への信頼は厚く、多少の無茶な指示でも従ってくれるでしょう。
 何かあれば、彼らも上手く使ってやって下さい。

 遂に辿り着いた、屍人帝国本領空域。
 数多の巨鳥がその目を光らせる中、猟兵達はどう進むか。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!

 ====================


 そこは、昏い靄に包まれた地。生命の色の少ない、荒涼とした浮島だった。
 この地こそが、『|日蝕帝国《イクリプス》』の本領。猟兵達が討ち倒すべき屍人帝国列強の内の一つの、本拠地である。

「……俺達は、ここまでだな」

 そんな地へと足を踏み入れて呟いたのは、少年勇士アルクであった。
 猟兵達とここまでの道を同じくしてきたアルクである。経験も積み上げ、今では一端の勇士と呼べる程の実力は備えている。
 だが、だからこそ判る。ここから先は、並大抵の実力では進めないだろうと。

「私達は、ここで皆さんの帰りを待っています」

 そんなアルクと同じ思いを、少女勇士スピカも抱いていたらしい。
 足手纏いにはなりたくない。だがせめて、皆と無事に戻りたい……そんな思いで、二人はこの渓谷の地で一行の帰還を待つ道を選ぶ。

「無理は、するなよ?」
「無事のお戻りを、祈っています……!」

 猟兵達の脚を引っ張りたくはない。そんな二人の思いを受け止めて、猟兵達が歩みを進める。
 屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』。その地で何が起きているのか。
 眼前に広がるどこまでも昏い大地を、猟兵達は踏みしめて進んでいくのだった。

 ====================

●第三章、補足

 第三章は、冒険章。
 遂に踏み込んだ|日蝕帝国《イクリプス》のその本領を、探索していただきます。

 OP、そして断章にもある通り、この地は深い靄に包まれた荒涼とした地です。
 そんな地をどのように進み、『何か』を見つけるか。今回求められるのは、その辺りとなります。
 フラグメントの内容はあまり気にせず、自分に出来る事をお考え下さい。

 なお、ここまで共に進んできた少年勇士アルクと少女勇士スピカは、落着点でお留守番となります。
 猟兵達の足手纏いにはなりたくない、足を引っ張りたくはない。そんな思い出の選択となります。
 待機中の二人に敵襲がある事は基本的にはありませんので、斥候に集中して頂いて問題はありません。

 そこは、生命の輝きの無い昏い土地。
 屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』。その地に潜む闇を、猟兵達は暴けるか。
 皆様のご参加、お待ちしております。

 ====================
ラフタイン・トリアンテ
$連携・アドリブOK$

竜を倒し、魔術師による企みも阻止した。
決戦は目前だというのに、
未だ敵の輪郭は朧げだ。
だからここで少しでも詳細を明らかにしたいところだね。

UC発動。今回は前と違って「攻め」の探索だ。
【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【魔力溜め】【無酸素詠唱】で
可能な限り知恵の精霊に上乗せを行って、
より多くの情報を収集するよ。

他世界の兵法家も言ってたしね、
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず。
彼を知らずして己を知れば一勝一負す。
彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆うし」

とはいえ、ここまで来て見つかった、
では笑い話にもならないからね。
最低限マズいと思ったら引き揚げるさ。


馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

ふふ、二人も強くなりましたねー。では、行ってきますねー。

さてこの霧…少し厄介かもしれませんのでー。いっそ私も霧になっちゃいましょう。
ただし、異質なのはかわりないので…錯誤呪詛を混ぜておきませんと。誤認結果は『周りと同じ霧』です。
あとは、方角を間違えぬように…基本は奥へと行くように。帰るときは来たときの呪詛跡で賄いますか。

知りたいのは首魁なんですけどねー。姿を知っているか否かってのは大切ですからー。
時点で、この本拠地自体の兵力ですかねー。

ここまで来たんですから、一つや二つ、情報を持って帰りませんとねー。


稷沈・リプス
のんべんだらりとするつもりはない自称:人間な男。
神の力を使うのは最低限に。

さて、本拠地っすね…。霧だと視界が悪いんすけど、今は活用するときっすね。
UCで作り出すは『知性強化のコウモリ』。反響定位活用っすね、これである程度の視界代用はできるはず。
さらに蝕属性の結界も張っておけば、ある程度は誤魔化せるとおもうっす。業腹っすけど我慢。

本拠地ったら、やっぱり…『どうして日蝕を名乗るのか』がわかるといいんすけど。そこは無理しない。
やーっぱり(認めたくないけど)同じ『蝕』なボスを知りたいんすよねー。これは近づきすぎないようにするんすよ。

これは、情報を持ち帰るための戦いっすからね。
そこは間違えないっす。


アネット・レインフォール
▼静
これだけの霧が滞留しているのも妙ではある

雲海は当然だが、海が近い場合や
竜種のような縄張に入ったのならあり得るが…

木を隠すなら森の中、という諺もある。

ここら一帯全てが仲間達が使ったような
認識阻害の一種と捉えるべきか

…敵の正体、といかなくとも
特徴や戦力等の尻尾は掴みたい所だな

▼動
エルフの森ではないが闇雲に進むのは危険と判断
UCを使いつつ、周囲の岩等に数字の目印を残しながら進む

稀に敵の気配・臭い・土壌等を確認
瓦礫や遺跡等の人工物があれば念入りに

時を経ても轍や足跡等の痕跡は残りそうではある
…仮にそれが魔獣や不死者の類であっても、な

嵐狂鳥が進む方角に着目したり
浮かせた刀剣を足場に上から見ることも検討





「ふふ、二人も強くなりましたねー。では、行ってまいりますねー」

 第一人格『疾き者』が主導権を握った義透が、待機を選んだ少年少女へ向けて手を振っている。
 あまりにも軽いその態度であるが、その佇まいには一切の隙も見られない。
 これが、潜入斥候のプロである『忍び』という存在か、と。歩みを進め始めた猟兵達から、感嘆の息が零れ出る。

「さて、本拠地っすねー……」

 そんな中、努めて意識を切り替えようと口を開いたのはリプスであった。
 その表情は、常のようなのんべんだらりとした物では無い。決戦に臨む戦士が如き、緊迫感に満ちた表情であった。

「ああ、そうだね」

 そんなリプスに応じる様に、ラフタインが頷く。
 |日蝕帝国《イクリプス》によって滅ぼされた『ヘリオス王国』の旧領を巡る戦いで、猟兵達は帝国の守護竜『太陽を喰らう者』を討ち破った。そして過日には、|世界樹嵐《イルミンスール・グリード》と呼ばれる禁術の復活を目指した帝国幹部の魔術師による企みも阻止していた。
 だが、決戦は間近に至った今になっても……敵の朧気な輪郭しか掴めていない、というのは問題だ。

「彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば一勝一敗す。彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆うし」
「……『孫氏』だな」

 とある偉大なる兵法書に記されたその一節をラフタインが諳んじれば、反応を返したのは合流を果たしたアネットだった。
 それは、ラフタインやアネットから見て別世界の兵法家が遺した書に記された言葉である。敵の実力現状を理解し、己を弁えて戦えば、何度戦っても勝つことが出来る、という意味合いの言葉である。
 だが猟兵達の現状は、その言葉の内の二番目……則ち、『彼を知らずして己を知れば、一勝一敗す』という状況にある。
 この言葉が意味する事は、敵の実力現状を理解しなければ、勝敗は判らないという事だ。
 世界の行末を目前に控えた現状にあってそんな状況は、些か問題がある状態だと言えるだろう。

「そうはならないように、しなければならないからね」
「全くだな」

 どこかおどける様なラフタインのその口ぶりに、アネットのその答えも苦笑が混じる。危機感を共有した事で、共感を得たようである。

「そうっすね。今回は、情報を持ち帰る為の戦い……っすからね」

 そんな二人のやり取りを聞けば、リプスも今回の目的を確りと見据えるだろう。
 もし、山ほどの貴重な情報を得たとしよう。けれどその情報は、持ち帰って共有できねば意味のない物となってしまう。それだけは、避けねばなるまい。
 しかしそうなると、得るべき情報には優先順位を付けるべきであろうが……。

「敵の戦力や、計画。あとはこの本土の地形なんかも有効な情報だろう」
「けど、一番識っておかないといけないのは──」
「──敵の首魁、ですねー」

 幾つか意見を重ねる、ラフタインとアネット。そんな二人のやり取りに乗っかったのは、義透だ。

「敵の首魁。その姿を知ってるか否かっていうのは、大切ですからー」

 次点で、この本拠地の戦力ですかねー、と。指を折りつつ飄々と示されるプロの見解に、成程尤もとだと頷く二人。

「じゃあ、最優先は『ボス』を知るという事で……いいっすかね?」

 相談の流れが固まりつつある事を感じ取り、改めてリプスが問えば、三人が揃って頷きを返す。
 ……リプス個人としては、|日蝕帝国《イクリプス》が何故『日蝕』を冠するのか、というその曰くを識りたいという思いもあった。リプス自身も、『蝕』を司る神であるからだ。
 だがその思いを頑なに抱こうとは、思わない。自身も先に言った通り、今回は『情報を持ち帰る為』の戦い。無理は禁物であるからだ。

「それじゃ、早速……行くとするっすか!」

 意見を固め、一行がゆっくりと、だが着実にその歩みを前へと進める。
 昏い靄に包まれた、屍人帝国の本拠地。その靄の先で、猟兵達は何と出会うだろうか……。



 少年少女と別れて、数時間。猟兵達は未だ、深く昏い靄の中に居た。
 常人であれば、即座に道に迷う状況であるが……猟兵達の歩みに、迷いはなかった。

「おー、ご苦労さまっすよー」

 それらは全て、リプスが放った斥候役のコウモリのお蔭であった。
 |反響定位《エコロケーション》、という言葉がある。ある種の動物に備わる、自ら発した音が何かにぶつかり反射してきた音を受信し、対象物までの位置を知る機能の事だ。
 コウモリという動物は、その反響定位を持つ存在の代表例である。今回リプスは知能を強化したコウモリである自らの眷属を創り出し、霧中を進む一行の目として活用しようと目論んだのだ。

「とりあえず、周囲には特に人工物は無いっぽいみたいっすね」
「私の精霊も、似たような見解のようだね」

 そんなリプスの目論見は、今のところはハマっているようであるが……肝心の探索の方は、中々上手く進んでいない状況であった。サポートするような形で放たれていたラフタインの知恵の精霊の方も、似たような状況である。

 ──これはもう少し、踏み込む必要がありそうですねー。

 そんな二人の声に答える様に、どこからともなく響く声。義透の声だ。
 だが肝心のその姿が、その場には無い。響いた声も、どこかエコーが掛かったかのようであった。
 義透は今、己の身体をいつぞやの潜入行の時と同じ様に、周囲に漂う靄と同化させていた。そしてその霧に己の呪力を拡散させ、認識錯誤の呪詛を為していたのだ。
 つまり義透が担当するのは、一行の傘役だ。道中の飛空艇で担った事を、この場でも担ってみせたのだ。
 霧とは、厄介なものである。視界を制限されてしまえば、ヒトは容易く方向感覚を喪ってしまうのだから。
 そんな厄介な霧を逆手にとった義透の選択は、流石は忍びの業を修めた者と言える選択であるが……リプスとラフタインという目を担う者がいた事も、忘れてはいけない事だろう。

「……しかし義透の業があるとは言え。これだけの霧が自然に滞留しているのも、妙ではあるな」

 少し探索範囲を広げてみるよ、と。ラフタインが己の魔力を更に精霊に注ぎ込む。
 そんな様子を横目にしつつ、一人思案を巡らすような表情を浮かべるのはアネットである。
 アネットが訝しるのも、無理はない。
 靄や霧が出易い場所というのは、確かに存在する。雲海の漂う高所や、海や湖と言った水分の豊富な環境がそこだ。|この世界《ブルーアルカディア》の陸地の特性を思えば、成程確かに霧や靄も出易いだろう。
 だが、ここまで滞留し続けているのも妙ではある。特にこの浮島の大地は見るからに荒れ果て、霧や靄と成り得る水分が無いのだから。
 アネットが訝しるのは、それだけでは無い。

「この道中、気配どころか臭いも無かった。轍や足跡も、な」

 アネットが訝しんだのは、それだ。この地には、自分たち以外の生命の痕跡どころか、魔獣や不死者の類の痕跡すらも見つけられなかったのだ。道中であれだけ凶鳥が雁首を並べていたにも関わらず、だ。

「……この辺りが竜種の縄張りだというのなら、無くはないんだが」

 ふと浮かんだ可能性を、口にする。
 竜種。それは生命体が作る|階級《ヒエラルキー》の中でも、最上位に位置する絶対強者である。
 もしそんな存在が、この辺りを縄張りとしているのならば……この閑散とした状況も、判らなくは無い。他の存在が恐れをなして、この地から逃げ出してしまったというのであれば、理解は出来る。
 だがそれならそれで、疑問は浮かぶ。オブリビオンという存在が竜種を恐れるだろうかという、根本的な疑問が。

(竜種、っすか)

 思考の沼にハマり始めたアネット。だが彼の呟きは、リプスに何かの閃きを与える物となった。
 思い起こしたのは、滅びゆく浮島での死闘。山の如き巨躯を誇る、漆黒の邪竜の姿だった。

(確か、『守護竜』だなんて呼ばれてたっすね……)

 太陽への憎悪を隠さなかったその邪竜は、日蝕帝国の雑兵達から『守護竜』と崇められていたことを思い出す。
 そんな邪竜との戦いは熾烈を極め、遂に猟兵達は彼を討ち破ったのだが……今際の際に、確かこう言ってはいなかっただろうか?

 ──おのれ! おのれぇ! 良くも、我が宿願を!
 ──だが、覚えているが良い! 我はまた必ず蘇り、復讐を果たす!

 当時はありきたりな負け惜しみだ、とも思えた台詞である。
 だが今、この段になって……何故だろうか、妙な胸騒ぎを覚えるのは。
 一瞬過った何とも言えない感覚に、リプスは己の背筋が粟立つのを感じていた。

「──っと、そうかい。ありがとう」

 と、その時。響いたのは、ラフタインの声である。
 我に返ったリプスが視線を向ければ……ラフタインのその表情に浮かぶのは、強い緊張感。普段のやや軽い雰囲気は、完全に隠れてしまっていた。
 一体何を、見つけたというのだろうか。

「精霊によると、この先に廃墟となった街並みがあるらしいんだが……」
「らしいんだが?」

 言い淀むラフタインに、首を傾げるリプス。気付けばアネットも、義透の意識も、ラフタインの言葉に注目を向けていた。
 三者から向けられる意識。一斉に注がれたその視線に対して……。

「……いいや。説明するより、見た方が早いな」

 こっちだ、と。言葉少なに、一行を導く様にラフタインが先頭を進む。
 そのただならぬ様子に、三人は予感する。
 この先に──探し求めたその存在がいるのだ、と。



 ラフタインの案内のもと、一行が辿り着いたのは小高い丘の頂上だった。
 周囲に遮る物の無い場所だ。吹き抜ける乾いた風が、周囲の空気を掻き回す様に抜けていく。
 そんな風に流されるように、次第次第に靄が減り……猟兵達の眼下に、その風景が広がっていく。

「これは……街、ですかー」

 義透が呟いた通り。そこは、広大な街並みであった。
 立ち並ぶ家屋と思しき石造りの建屋が林立し、往時にはそれはもう多くの人が暮らしていたと思しき街であった。
 ……尤もその街並みにも。何者かが生活をしているという痕跡を感じ取ることは、出来なかったけれども。

「見せたかったのは、これっすか?」
「いいや、これもそうだけど……」

 確かめる様に問うリプス。だがラフタインの答えは、否である。

「……あれを、見てくれ」

 すっと伸びる、ラフタインの指。
 その先へと猟兵達の視線が動き──街の中心に座するその存在を見て、絶句する。

「あれ、は……竜、なのか?」

 驚きに目を見開くアネット。
 それは、一体の巨大な竜であった。外骨格と見紛う様な刺々しい外見をした、漆黒の竜であった。
 滾る炎と迸る紫電を思わせる様な禍々しいオーラをその竜をひと目見て、猟兵達は確信を抱く。

 ──この竜こそが、この|日蝕帝国《イクリプス》という屍人帝国の支配者なのだ、と。

「……何とも、凶悪そうな」

 竜が漂わせる、見る者の魂を凍て付かせる様な圧倒的な存在感。生きとし生ける全ての存在に対する、憎悪の念。
 その負の圧力に、義透の頬に一筋の汗が浮かぶが……だがそんな汗を流しつつ、義透は何か引っかかる物を覚えているようであった。

「──あの時の、邪竜か」

 その引っ掛かりの答えへと先に辿り着いたのは、リプスであった。
 噴き出そうな神威をその身に抑え込むリプスには、確信があった。己の権能である『蝕』が、囁いたのだ。
 あの竜はかつて旧ヘリオス王城で対峙した漆黒の邪竜と、同一の存在であると。

「だがそれにしては、力の格が違いすぎてはいないか?」

 確信を持って呟かれたリプスの一言。だがその言葉に、アネットが疑問を呈する。
 アネットの目は、既に敵の本質を見定めていた。
 あの竜は、確かにあの邪竜とその気質が近しい存在ではある。
 だが、そこから感じ取れる力の格。魂の器とも呼べる大きさが、桁違いであったのだ。

「それに関しては……どうやらあの竜、別の存在の力を取り込んでいるようだよ」

 そんなアネットの疑問に対する答えを持っていたのは、ラフタインであった。
 胴を見てくれ、と促すその言葉に従いよくよく見れば……その胴に飲み込まれるかのように輝く、何かの存在が目に映るだろう。
 その光景を見て納得を得たのか、アネットが「嗚呼」と言う呟く。

「つまるところ、奴は……第三者の力を吸収して、パワーアップしたという訳か」
「そういう事、だね」

 そうして得た見解を一致させて、アネットとラフタインの口から同時に溜息が溢れ出る。
 奴が取り込んだ『第三者の力』。その正体は、猟兵達には判らない。だが竜が漂わせるその気配を考えると……ロクな|存在《モノ》で無いことだけは、確かだろう。
 そんな存在の力をその身に取り込み、有言実行と言わんばかりに復活を遂げて来るとは……何とも厄介な竜ではないか。
 二人が溜息を零したのも、無理は無いだろう。

(リプス殿、これは……)
(……あの叙事詩の件の通り、っすね)

 一方、目線を交わした義透とリプスは一つの答えを得ていた。
 実は二人は、既に一度日蝕帝国への強行偵察を行っていた。その際に敵の拠点で、とある叙事詩を描いた絵壺を発見したのだ。

 ──曰く、今から遥か昔に昏き闇夜の神を戴く|凶《まが》ツ国ありけり。

 そんな語出しから始まるその叙事詩は、日蝕帝国と太陽の勇者アルクトゥルスの戦いを描いた物。猟兵達がかつて発見したあの御伽噺より、更に一歩踏み込んだ内容であった。
 その叙事詩に描かれた内容で最も重要なのは、敵役である漆黒の邪竜に関する記述であろう。
 曰く、勇者により追い詰められた邪竜は、“昏き闇夜の神”と同化する事で膨大な魔力を得た。絶対絶大な力を得た邪竜神は神に等しき暴威を振るい、世界を完全なる闇に閉ざそうとしたのだという。
 だがその力は、『完全』なる物では無かった。圧倒的なその力を行使すればするだけ邪竜は傷つき、弱り……遂に滅びを迎えたのだ。

(今の邪竜が、叙事詩のそれと同一の状態かは判らないっすけど)
(大きなヒントである事には、変わりはないですねー)

 そんな叙事詩に語られた姿へと、彼の邪竜は近づきつつあるようである。
 で、あるならば。その弱点もまた、叙事詩の通りなのではないだろうか?
 ……過ぎたる力は身を滅ぼすという、その教訓の通り。奴の肉体という器は、自身のその圧倒的な力に──。

 ──ゾワッ。

 瞬間、猟兵達の背に悪寒が走る。
 気付けば、瞑目している竜の目が開かれていた。
 そしてその目は──こちらを、見ていた。

「──ッ、撤退だ!」

 その事実を認識した、その瞬間。ラフタインの警句が響き、一同は揃って反転してその場からの撤退を図る。
 今の一瞬で気付かれたのかどうかは、判らない。だが楽観的な予測は死を招く事だけは、明白だ。
 何故ならば、この地は……敵の本拠地なのだから。

 振り向くこと無く、一目散に逃走する猟兵達。
 彼らのその決断は、正しかった。敵の追撃の手が及ぶ前に、一行は待機していた少年少女と合流して、島からの離脱に成功したのだから。

 屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』。
 敵の本領で得た情報を、猟兵達は活かせる事が出来るだろうか。
 その答え合わせの日が来るのは、そう遠い日の事では無いだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月08日


挿絵イラスト