●終わらない授業
悪夢の教室に高校生の将吾はいた。
昨日夏休みの宿題を早めに終わらせたからだろうか、こんな悪夢を見ているのは。
時計の針はぐるぐると逆回転。教室中に重苦しい静寂。いつまでたっても終わりのチャイムは鳴りはしない。
『次の連立方程式を解け』
『次の問に答えよ』
『次の文章を読み……』
黒板に幾つもの問題、空白の回答欄。答えを書かずに出ようとしてもドアも窓も開かず、何故か答えにもたどり着けず。
ぐるぐる逆回りの時計を見てため息をついたら、野太い男性の高笑いが聞こえた気がした。
●悪夢の屋敷
「シルバーレインにて、オブリビオンが一般人の夢の中に現れる、事件を予知しました……」
寧宮・澪がグリモアベースで猟兵へと声をかける。
どういうわけかわからないが、「眠っている一般人の夢の中」にオブリビオンが出現するという事件である。オブリビオンは夢の中で夢の持ち主を苛み、心を折って支配下に置こうとしている。罪もない一般人がオブリビオンに心を壊されるのも、配下にされるのも防がなくてはならない。
「皆さんにお願いしたいのは、夢に入っていって夢を支配しているオブリビオンを倒すこと、被害にあった一般人の心のケアをすることです」
今回、銀誓館学園からメガリス・ティンカーベルを借りることができた。それは「夢の中に入れる不思議な砂」を生み出す30cm程度の妖精像。その粉を使えば、一般人――今回のターゲットは将吾という男子高校生だ――の夢の中に入って、彼を助けることが可能になる。
「ティンカーベルの粉を使って入った夢の中では、現実世界と同様に行動できますので……身体能力やユーベルコード、技能も問題なく使えます。ですか、夢の中で負った傷や死も現実世界に反映されます」
例えば夢の中で腕を切った現実世界の腕も切れ、夢の中で死んだなら現実世界でも死ぬということになる。そのことに注意してほしい。夢だからと言って無敵ではないのだ。
「夢の世界は、ちょっぴり現実世界とは違った法則に支配されているようです……」
今回の悪夢はどこかの教室だ。ドアや窓、壁や床や天井といった構造物を破壊して脱出するのは不可能で、必ず黒板に書かれた問題を解かなくてはならない。悪夢の影響下の将吾は解けなくなっているが、猟兵なら問題なく解けるだろう。直感で解いてもいいし、ヒントを探してみてもいい、純粋に知識でもいけるはずだ。
「夢を支配しているオブリビオンは、試練の漢女……です」
彼女は強制的に数々の試練を与えてくるオブリビオン。無限授業教室という試練を超えたなら、最終試練として彼女とがやってきて戦闘になる。破壊できない教室の構造物を利用して試練の漢女の攻撃を凌いだり、逆に黒板に問題を書き込んで解くよう迫るなど、夢の世界の法則を利用すると有利に戦えるだろう。
倒せば教室から将吾も猟兵も開放されるが、まだ将吾は夢から目覚められない。何故か皆で家庭科室に出るようだ。
「夢の中ですし、見知らぬ人が助けてくれてもなんにも問題ないわけで……気晴らしにカレーでも作ったらいいかと」
皆でわいわい作って、美味しく食べたら気分も晴れるんじゃないでしょか、と澪は言う。将吾もカレーくらいは作れるので、一緒に作業したり話したり、美味しく食べたりして、彼が僅かに抱く学業への不安や、今回の悪夢のショックを和らげてあげたら夢も終わるから。
「夢の中のオブリビオン……どうして彼らが夢に入れるのか、わかりませんが。今回も、協力、よろしくお願いします」
澪は頭を下げて、猟兵達を眠る将吾の元へと転移させる。あとは現地でティンカーベルの粉を使って、夢に入り込むだけだった。
霧野
夏のテストの悪夢。霧野です、よろしくお願いします。
●シナリオについて
シルバーレインで一般人に悪夢を見せているオブリビオンを倒して、一般人をケアするシナリオです。
●複数人で参加される方へ
どなたかとご一緒に参加される場合や、グループ参加を希望の場合は【グループ名】もしくは【お相手の呼び方(ID)】を最初にご記入いただけると、助かります。
●アドリブ・絡みの有無について
以下の記号を各章文頭に入れていただければ、他の猟兵と絡んだり、アドリブ多めに入れたりさせていただきます。なければできるだけ忠実に作成します。
良ければ文字数節約に使ってください。
◎:アドリブ歓迎。
○:他のグループや猟兵とも絡み歓迎。
〆:負傷OK。 (血や傷の表現が出ます)
第1章 冒険
『チャイムの鳴らない授業』
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POW : わからん、閃きに頼ろう
SPD : なにかヒントがあるかも、探してみよう
WIZ : こんなの簡単、知識の差で問題を解く
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●悪夢の教室
時計の針は逆向きに回り、終了のチャイムは聞こえてこない。時折漢女の高笑いが聞こえてくる。いつまで経っても出られずに、黒板に書かれた問題とにらめっこする教室という悪夢。
そんな夢の中に猟兵は辿り着いた。
====
・出られない学校の教室、そこの黒板に書いてある問題を解いてください。プレイングに記入いただいてもいいですし、お任せいただいても構いません。
八坂・詩織
【WIZ】
◎○
任せてください、私現役の教師ですから! こんな授業はさっさと終わらせましょう。
さて、問題は…
『惑星の動きについて書かれた次の文章の空欄を埋め、問いに答えよ』
わ、ケプラーの法則じゃないですか!私の得意分野ですよ。
惑星は太陽を一つの【焦点】とする【楕円】軌道を描き、いずれも同じ方向に公転している。そしてその公転周期の【二乗】は軌道の長半径の【三乗】に【比例】する。
もし太陽からの平均距離が100天文単位である新しい惑星が発見されたとすると、その公転周期は何年になるか』
これは第三法則を使って…答えは1000年ですね、簡単簡単♪
さて次の問題は…っと(楽しげに問題を解いていく理科教師)
●理科教師、面目躍如
八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は夢に入る。ティンカーベルの粉を使って目を閉じて、もう一度目を開けたときには、もう夢の中。ぐるぐる逆回る時計の教室で、黒板の問題に悩む将吾が見えた。
すたすたと机の間を抜けて、詩織は黒板へと向かっていく。
「うん? あれ、解けるんですか?」
「任せてください、私現役の教師ですから! 」
新たな登場人物に将吾からふと声が上がるが、そうかそうなんだな、と納得した様子。何故ならここは夢の中、なんでもありといえばありなのだ。
「こんな授業はさっさと終わらせましょう」
きりりと気を引き締めて詩織は黒板を見る。幾つかの問題に埋め尽くされた中、詩織の目に一つの文章が飛び込んできた。
『惑星の動きについて書かれた次の文章の空欄を埋め、問いに答えよ』
ぱぁっと詩織の顔が輝く。詩織には慣れ親しんだ問題だった。
「わ、ケプラーの法則じゃないですか!私の得意分野ですよ」
ケプラーの法則とは天体の動きに関する3つの法則である。天体部から星に魅せられ、理科教師を目指した詩織には得意な分野だ。茶色の瞳を輝かせ、問題分を読み進める。
『惑星は太陽を一つの【焦点】とする【楕円】軌道を描き、いずれも同じ方向に公転している。そしてその公転周期の【二乗】は軌道の長半径の【三乗】に【比例】する。
もし太陽からの平均距離が100天文単位である新しい惑星が発見されたとすると、その公転周期は何年になるか』
「これは第三法則を使って……」
穴埋め部分は第一と第三法則を示していた。カリカリとチョークで空白を素早く埋めて法則の文章を完成させた詩織は、すぐに式を作り、答えを埋めていく。
『公転周期をT、平均距離をaとする。
第三法則より、Tの二乗=aの三乗となる。
a=100とするとTの二乗=100の三乗=10の二乗の三乗。
平方を取るとT=10の三乗、つまり1000年』
「よって答えは1000年ですね、簡単簡単♪ さて次の問題は……っと」
詩織は鼻歌を歌いそうなくらい気軽に物理の問題を解いていく。ケプラーの第二法則や万有引力、力学の問題、光の波長などなど。惑星関係から星の質量や、重力が絡む落下のエネルギーも何のその。
詩織の顔は輝いてとても楽しそうなまま、黒板を見る間に白く埋めていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
◎〇〆
この私、「悪夢の滴」の前で夢を弄ぶ愚か者
真なる悪夢がどのようなものか
すぐにその身で思い知ることになるでしょう
夢の中は我が故郷も同然……とはいえ
無限授業とはあまりいい気持ちはしませんね、ふふ
そもそも、相手の出題に素直に乗る必然性自体ありません
まあ、こんな簡単な問題など悩む必要もないのですけれど
『1+1=?』
ええ、2ですね
おや、そんな簡単な問題を出した覚えはありませんか?
でも黒板にははっきりそう書かれていますよ
ふふ、「黒板に書かれた問題を解け」が条件
問題自体を変更してはいけないとは言われていません
私のUCによって事象を侵食し
黒板に書かれた問題を書き換えたのです
これが真の夢使いの力です、ふふ
●悪夢の滴、夢への侵食
夢の中に訪れた黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は赤い唇をゆっくり綻ばせる。だって可笑しいのだ。彼女の前で夢をいいように変えてしまうなんて笑止千万。
「この私、『悪夢の滴』の前で夢を弄ぶ愚か者」
遠くに聞こえた漢女笑い声に魅夜はくすくすと優雅に笑う。
「真なる悪夢がどのようなものか、すぐにその身で思い知ることになるでしょう」
その為にもまずは目の前の夢を一歩進めなくては。魅夜は時計が逆巻きに回る教室を見渡した。夢の中の教室はやはり現実味は薄く、けれど魅夜には慣れ親しんだ感覚を与えてくる。
「夢の中は我が故郷も同然……とはいえ、無限授業とはあまりいい気持ちはしませんね、ふふ」
悪夢から産まれ、そして決別した魅夜。懐かしくも、無限に終わらない責苦の授業は面白くも何ともない。教室の床を軽く歩き、黒板の前に立つ。そこに並ぶのはいくつもの問題。
「そもそも、相手の出題に素直に乗る必然性自体ありません」
魅夜が干渉してしまえば教室は崩れて元凶を引きずり出せるかもしれない。けれども一般人の夢はあまりにも脆弱だ。破壊できないものへの干渉は、今は避けておいた方が無難なのだろう。
「まあ、こんな簡単な問題など悩む必要もないのですけれど」
黒板の文字が揺れ動き、一つの数式を作っていく。
『1+1=?』
「ええ、2ですね」
小学生でも簡単に解ける足し算の答えを魅夜は書き込んだ。同じように次々現れる簡単な数式の答えをどんどん書いていく。
チョーク置き場からカタカタ、まるで苛立つように動く音がした。魅夜が妖艶に微笑む。
「おや、そんな簡単な問題を出した覚えはありませんか? でも黒板にははっきりそう書かれていますよ」
3−1=2、と新しい問題に答えを書きながら魅夜は嘯いた。
(ふふ、「黒板に書かれた問題を解け」が条件。問題自体を変更してはいけないとは言われていません)
難解な問題は簡単な問へと姿を変える。魅夜の
舞い狂え悪夢、崩壊せよ世の理が黒板に現れる問題という事象に侵食し、書き換えているのだ。これなら夢が壊れることもない。
「これが真の夢使いの力です、ふふ」
新しい問題も容易く埋めて、魅夜はまた優雅に微笑むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
エダ・サルファー(サポート)
アックス&ウィザーズ出身の聖職者で冒険者です。
義侠心が強く直情的な傾向があります。
一方で、冒険者としての経験から割り切るのも切り替えるのも早いです。
自分の思想や信条、信仰を押し付けることはしません。
他人のそれも基本的に否定はしません。
聖職者っぽいことはたまにします。
難しいことを考えるのが苦手で、大抵のことは力と祈りで解決できると言って憚りません。
とはいえ、必要とあらば多少は頭を使う努力をします。
戦闘スタイルは格闘で、ユーベルコードは状況とノリで指定のものをどれでも使います。
ただ、ここぞでは必殺聖拳突きを使うことが多いです。
以上を基本の傾向として、状況に応じて適当に動かしていただければ幸いです。
●直感の導き
エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)は黒板とにらめっこしていた。眼鏡の奥の漆黒の目は眇められたり広がったりと忙しない。腕を組み悩む姿は修行僧の如くもある。
「うーん……」
彼女は大抵のことは力と祈りでなんとかなると思っている。大体のことは筋肉と信仰で解決するのである。これまでもそうだったし、これからもそうだろう。
とは言っても頭を使う努力をしない、ということにはならない。時には適切に動くためにも悩み考えることは必要だ。
そう、今のように。
「とは言っても、むっずかしいなぁ……わけわからん」
空欄を埋めろ、と言われても見たこともない問題は解けはしない。
黒板に書かれていたのは「2の10乗と10の3乗、どちらが大きいか答えよ」という問題。無論、計算していけば出てくるのだが、エダは暗算で2を10回かけるのに苦労していた。途中で何回かけたか見失ってしまうのだ。
「……こうなったら」
彼女は自分の内なる声に耳を傾ける。どちらが大きいか、直感に頼ることにした。
選んだのは「2の10乗」。チョークを砕かないように少し力を緩めながら黒板の空欄に埋めていく。
「多分当たってるはずだよ」
ぱんぱんと手についたチョークの粉を払いながら呟く。
2の10乗は1024、10の3乗は1000。なのでエダは答えは正解である。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『試練の漢女』
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POW : 漢女の祝福
【試練を耐えぬいた者への称賛の気持ち】から【昂る感情を抑えきれずに奇声】を放ち、【力加減を一切考慮しない全力のハグ】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 漢女の贔屓
【好みの人物(老若男女問わず)へ投げキッス】を放ち、命中した敵を【強化(全能力微上昇)しつつも、全身を悪寒】に包み継続ダメージを与える。自身が【体表の80%以上を露出】していると威力アップ。
WIZ : 漢女の試練
戦場全体に【試練の為の特殊空間】を発生させる。レベル分後まで、敵は【様々な試練と称した現象】の攻撃を、味方は【召喚した、戦闘力の無いサポーター】の回復を受け続ける。
👑11
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●高笑いする試練の漢女
「ンッフッフ、オーッホッホ! よくぞ問題を解いたわね!」
ガラリと教室のドアが開いた。そこに立っていたのは筋骨隆々とした体躯を扇情的な舞い手の衣装に包んだ男性型のオブリビオン。
この夢の支配者、試練の漢女だ。
「学力の試練を突破した貴方達。ならば次は武力の試練。さあ、アタシを乗り越えてみせなさいな?」
品を作りウィンクする試練の漢女。彼女を倒せなければ夢の持ち主である将吾は彼女の配下になってしまうだろう。夢に入った猟兵達も無事では済まない。
「いや、何であんなに問題出したかなぁ……まず超えられない壁は良くないと思う」
そもそも将吾はうぇっという顔をして嫌がっているのだし。
各々の考えや気分などお構い無く、試練の漢女は高笑いしていた。
ジード・フラミア(サポート)
『2つで2人』12歳 男
ジード 内気 一般人の安全が優先
セリフは「」でぼく、~さん、です、ます
独り言やメリアに対してはですます無し
例「……よろしくお願いします。」
スクラップビルダーの力をよく使う
メリア 元気 どちらかと言えば撃破が優先 ジードに合わせることが多い
セリフは『』でワタシ(ごく稀にボク)、~さん、デス、マス
例『よろしくお願いシマス!』
人形遣いの力をよく使う
メリアの方が行動力があり、普段はジードを振り回してる
メリアはアイコン右の人形、及びその人形を動かす人格の仮の名前
ジードの人格が表でも、まるで自分の体の様に人形を動かす。
UCを使っていない時、メリアの五感はジードの体or遮断している。
●
ジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)はもう一人の彼、メリアにガジェットを用意した。
現れたのは短剣。手元に蒸気機関がついており、何らかのギミックがあることが窺える。ジードはメリアへとそれをパスした。
「メリア! これを使って!」
『オーケー! イキマスヨ!』
ジード自身は将吾を守るように彼の前に立ち、メリアが用意されたガジェットを持って試練の漢女へと身軽く駆けていく。金の髪をたなびかせ、狭い教室を飛ぶように走り、一気に試練の漢女へと距離を詰めた。
「元気がいいわね。嫌いじゃないわぁ」
漢女はするりと腰の布を剥ぐ。顕になった脚も筋肉がみっしりしていた。そしてそのまま投げキッスをメリアへと向けてきた。
メリアは直感する。あれはよくわからない力場を持っていて当たったらよろしくない。そして近距離に詰めた影響で避けづらささえある。
だが、ミリアはにっこり笑った。
『問題なしデス!』
短剣の柄にあるスイッチを押す。途端刃と柄が分離して、鎖が伸びた。そのままメリアは近くの机を鎖を巻きつけ引き寄せて、キッスを防ぐ盾にする。
『ジードのガジェットは今回もいい感じデス』
手元を軽く操って、メリアは鎖が自在に動くのを確認。そうして机を振り上げた。
『大人しく倒されてくだサイ!』
壊れない机が勢いつけて漢女へと飛んでいき、見事その濃い顔面を天板で打ちつけてノックアウトするのだった。
成功
🔵🔵🔴
シャイニー・デュール(サポート)
『拙者は剣士でござります故!』
ウォーマシンの剣豪×クロムキャバリアです
真面目な性格ですが勘違いや空回りも多く、かつ自分がズレているという自覚もありません
正々堂々とした戦い方を好みますが、それに拘泥して戦況を悪化させたりはしません
ユーベルコードは所持する物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
公序良俗に反する行為は(そういう依頼でない限り)しません
サムライというものに憧れていますが、正しい知識はありません
銃を使うことを嫌っているわけではなく、必要に応じて刀と内蔵兵器を使い分けます
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
シャイニー・デュール(シャイニングサムライ・f00386)は非搭載兵器:無銘刀と無銘斬艦刀の二刀を両手に構えて試練の漢女へと距離を詰める。
狭い教室で長物の刀を容易に振りさばき、机や椅子を足場にしながら漢女へその刃を突きつける。すれ違いざまに彼女の筋肉や布を浅く切り裂きながら、まず一合はシャイニーの優勢にて終わる。
ちゃきりと刀を構え直すシャイニーに、漢女は満足そうに言った。
「フフ、機械人形のサムライガール……身のこなしも剣の腕もあるなんて。いいわ、貴方もアタシの試練乗り越えてみせなさぁい?」
しなりと体をゆらして布を翻し、体の筋肉を顕にして投げキッスを飛ばしてきた。狭い教室、机と椅子のある最中、避けるのは苦労するだろう。
シャイニーは冷静に無銘刀一刀を両手に持ち替え、すっとを振り上げた。
「何ら問題などないであります」
避けずともいいのだ、不可視のそれを切ることができれば。研ぎ澄まされた一閃が閃けば、投げキッスは切断される。
同時にシャイニーの左肩からロケットランチャーが現れた。刀を振り下ろした姿勢のままシャイニーは巨大化した砲口を漢女に向けて撃ち放ち。
投げキッスの体勢のままの彼女を爆風と衝撃で教室の壁に叩きつけるのだった。
成功
🔵🔵🔴
黒城・魅夜
夢の中で「悪夢の滴」たるこの私を試すなどと思いあがった愚か者
知りたければたっぷりと刻み付けてあげましょう
真なる悪夢の恐ろしさをね
悪寒?
ダンピールにして悪霊である私は太陽の眩しさと熱さは苦手ですが
冷気はむしろ大好物、望むところです
寒冷適応・狂気耐性で状態異常攻撃を防御
それに、その身の露出がほとんどない状態では
威力もたいしたことはありませんね
ええ、早業・乱れ撃ち・ロープワークで撃ち出した私の108本の鎖が
あなたの身を絡め取ってすっかり覆ってしまっているのですから
そして無論この鎖は攻撃をも兼ねます
一撃ごとはそよ風のような肌触りでも
我がUCはあなたの意思を削り自我を奪い
そしてその身を塵に還すでしょう
●悪夢の化身
「ふふ」
魅夜の笑みは揺るがない。筋肉美を見せつけるかのように身体をしならせ腕を上げ、ばちりと濃いメイクのまぶたを閉じてウィンクする試練の漢女に優美に微笑んでみせた。
確かに夢の中でも強大な力を感じるオブリビオンだ、だがそれがどうだというのだ。
「夢の中で『悪夢の滴』たるこの私を試すなどと思いあがった愚か者」
悪夢そのものだった魅夜には恐れる相手ではない。見くびることもしないが、ことさらに警戒すべき相手ではないのだ。強大なオブリビオンであろうとも、常のように悪夢を見せてあげるだけ。
魅夜は女王然とした態度で漢女へと告げる。
「知りたければたっぷりと刻み付けてあげましょう。真なる悪夢の恐ろしさをね」
艷やかな唇に浮かんだ笑みに、漢女は一層迫力ある笑みを返す。
「いいわぁ、自信ある子って好きよ。ますますアタシのものにしたくなっちゃう」
試練の漢女は自身の腰布を一枚外した。より彼女の鍛え上げられた肉体が魅夜の前に晒される。そのまま漢女は薄布の下の唇に手を添えて、しなやかに手を突き出した。
それに合わせるかのようにじゃらりと鎖の音がした。一瞬にして漢女の体の上を鎖が走り、絡みついて肉体を覆っていく。
「いやん、アタシの肉体美が隠れちゃう!」
「ふふ、涼しいそよ風でしょうか」
ダンピールにして悪霊である魅夜は太陽の眩しさと熱さは苦手だが、ひんやり心から冷える冷気はむしろ大好物だ。寒さと狂気にはもちろん耐性がある。さらに鎖で隠された状態では、投げキッスの威力も大したことがない。
流石に触れてすぐに塵にはならないようだけれど、と魅夜は少しだけ感心しながら漢女を見た。それでもくねる体は徐々に力を無くし、鎖に触れた肌は確かに傷ついていた。
「もう少しで我が力はあなたの意思を削り自我を奪い、そしてその身を塵に還すでしょう」
まさに悪夢そのものの笑みを浮かべて、魅夜は告げる。後ろでは夢の持ち主である将吾が若干怯え、前の漢女は一層もがくばかり。
見ているものには悪夢にしかならない光景が、今しばらく続きながらも、試練の漢女はいつしか塵になって夢の中から消え失せた。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
起動!
瞳は青く変化し、白い着物を纏う。
悪夢で生徒を苦しめるなんて教師としては見逃せません…!
だからあなたにも私の授業を受けてもらいます。
指定UC発動、ちょっとその恰好露出が多すぎですよ。教室での露出は控えてください。
あと、授業中に先生を攻撃しないでもらえます?
じゃあ、あなたにはこの問題を解いてもらいましょうか。
『質量が太陽の10倍の恒星の寿命を求めよ。ただし太陽の寿命を100億年とする』(恒星の寿命は質量の3乗に反比例する。よって答えは1000万年)
UCで行動成功率も低下しているはず、あなたに解けますか?
隙をみてUC解除、問題が解けない苦しさが分かりましたか?と【精神攻撃】
●八坂先生の天文授業
起動!
詩織の瞳は氷の瞳は青に変化し、髪は解けて風に舞う。服も白い雪のような、あ袖と裾に桜を染めたような着物を纏い、ふわりと冷たい空気すら漂うようだ。
背後に将吾を守るように立ちながら、詩織は凛とした目で試練の漢女を見た。
教師として、彼女の所業は許すことはできないのものだ。
「悪夢で生徒を苦しめるなんて教師としては見逃せません……!」
教師が慈しみ導き、時には叱咤しながらも励まして育てて行くのが生徒だ。そしてもちろん、守るべき存在でもある。
「あら、アナタ先生なの? うふふ、ならアタシの試練から生徒ちゃんを守れるかしら?」
ばちんと厚いメイクの目を閉じてウィンクし、漢女は腕を引き寄せた。拳を握り、勢いをつけて詩織へと床を蹴って机を飛び越えて来る。
けれどその拳が詩織に届くことはなかった。
「もちろん守れます。まずは、あなたにも私の授業を受けてもらいます」
詩織が手を横に薙ぐと雪が舞う。漢女の視界を覆ったそれが晴れたとき、目の前の光景は――整然と机が並ぶ教室になっていた。
時計は順にめぐり、窓からは青空が見え、爽やかな光が入ってくる。試練の漢女は何故か着席させられていた。
「あらぁ?」
教壇に立った詩織は物理の教科書、指導書を開きながら漢女へと注意する。
「ちょっとその恰好露出が多すぎですよ。教室での露出は控えてください。あと、授業中に先生を攻撃しないでもらえます?」
ここは「
八坂先生の授業」で作られた世界。非戦・破廉恥禁止の学校らしい法則のある世界だ。
詩織は小気味の良い音を立てながらチョークで問題文を書く。チョークの粉を払いながら詩織はにっこり笑って漢女に言った。
「じゃあ、あなたにはこの問題を解いてもらいましょうか」
問題文は以下のとおり。
『質量が太陽の10倍の恒星の寿命を求めよ。ただし太陽の寿命を100億年とする』
恒星の寿命は質量の三乗に半比例する。すると、太陽の10倍の質量の恒星の寿命は1/10の三乗、つまり1/1000程度になる。100億の1/1000、つまり1000万年だ。
「えっと、あらぁ?」
露出の多い格好で戦闘行為を行った漢女はこの世界の法則に違反している。漢女は答えを出すという行為への成功率が減っているのだ。唸って頭をひねっても答えは出てこない。
「あなたに解けますか?」
「解けるわけがないわ!」
きぃっとどこかから取り出したハンカチを噛んで悲鳴をあげる漢女に詩織はにっこり笑って、教室の世界を解いた。
時計が逆回しに巡る悪夢へと戻ってくる。
「ふふ、問題が解けない苦しさが分かりましたか?」
最後に漢女のプライドと精神力に一撃を加え、詩織の授業は終わりを告げた。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
◎〇〆
うぅわ変態かよ!
なんかここまで強烈なの見ると、
後で夢に出てきそうだよ。
……そうだよここが夢の中だったわ。
なるべく動揺を気取られないように、
『念動力』や『衝撃波』で教壇やら机やらを目の前の変態にぶん投げ続ける!
触るとなんかワセリンとかオイルのベトッとした感じがしそうで嫌だとかそういうのじゃないからな!?
……手近に投げる物がなくなったら覚悟を決めらぁ。
奇声を上げて迫ってくる夢魔に相対して腰だめに構え。
全力のハグに『カウンター』を合わせるように、
サイキックエナジーを練り上げた掌底を鳩尾目掛けてぶち込まんとするよ!
アンタと縁があるかは知らないけどね。
こいつは【漢女の徹し】ってんだ、憶えとけ!
●漢女の徹し
濃い化粧に赤に染まった扇情的な衣装、しなを作りしなやかに軽やかに。見動くたびにちりりと鈴や飾りが鳴る。ただし肉体は筋骨隆々、むくつけき禿頭の漢である。いや、漢女である。
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は悪夢に現れた試練の漢女を見て思わず声を上げた
「うぅわ変態かよ!」
「違うわ漢女よ!」
漢女のクレームは置いておくとして、そのインパクトは十分だ。ぎゃんぎゃん叫びくねくね揺れる漢女に少しだけ眉を寄せた多喜は小さく呟く。
「なんかここまで強烈なの見ると、後で夢に出てきそうだよ。……そうだよここが夢の中だったわ」
終わらない授業、解けない問題、そして試練の漢女。悪夢にしても濃すぎる内容だ。
「まあいい、いくよ! 受けてみな!」
動揺を悟られないようにポーカーフェイスを保ちつつ、多喜は周囲の机や椅子、教壇を浮かばせた。同時に衝撃波を起こしてそれらを漢女へとぶん投げる。勢い良く風を切り、重量がある硬い机や椅子が漢女に向かって飛んでいく。
これはあくまで遠距離での攻撃を主体として距離を詰められないようにしているだけだ。決して、何だかワセリンやオイルやらでべトッとしてそうな艶めく肌に直接触れたくないからではない。
「せいっ!」
漢女は拳を振り上げ机を殴り弾き、回し蹴りで教壇を壊す。椅子を手刀で割り、新たな机もヘッドバッドで叩き落とした。
いくつも嵐のように周囲の物品を飛ばした多喜は、一つ息をつく。手近に飛ばせそうなものが何もなくなったのだ。試練の漢女は息を荒げながらも多喜にニンマリ笑う。
「ふふ、もういいのかしら?」
「……仕方ないね」
多喜は覚悟を決めた。
「ふふふ、ふぉおおおお! 漲ってきたわぁ! ハグしちゃう!!」
試練の漢女は奇声を上げて多喜へと一気に飛びかかる。大きく両手を広げ、その豊かな胸筋で多喜を抱きしめようとする。
多喜は腰だめに構え、彼の腕が背後に回る寸前に鳩尾へと掌底をぶち込んだ。超高速でサイキックエナジーを込めた一撃が吸い込まれていく。
「げっふぅ!!」
漢女は悲鳴を上げて弾き飛ばされ、机や椅子の残骸へと吹き飛ばされた。残骸が筋肉に押しのけられ、反動で漢女の上へと戻ってくる。
「アンタと縁があるかは知らないけどね。こいつは【漢女の徹し】ってんだ、憶えとけ!」
若干ぬるつくような気がする手をぷるぷる振るいながら、多喜は残骸に埋もれた漢女へと威勢よく啖呵を切るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『カレーを作ろう』
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POW : パンチの効いたカレーを作る
SPD : 手早く美味しいカレーを作る
WIZ : アイデア満載の不思議なカレーを作る
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●悪夢の終わりにおいしいカレーを
試練を退け、試練の漢女も骸の海へと還し、あとは悪夢が醒めるだけ。教室の形をした牢獄が崩れて消えていく。
そして、次に立っていたのは家庭科室だった。
将吾は疲れた顔で席に座っている。
「何なんだよ……せっかく夏休みの宿題頑張ったのに、こんな悪夢を見るなんて」
すっかり勉強に苦手意識を持ったようだ。彼が目覚めるまでもうしばらくかかるかもしれない。
将吾の目が、家庭科室の机の上に用意された材料に止まる。
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ。お肉に魚介にコンソメに牛乳、そして輝くカレールーにカレースパイス、乾燥スパイス。
将吾は、立ち上がる。
「そうだ、カレー作ろう」
高校生、将吾。彼の卒業の夢は調理師学校へと入学し、祖父母のカレー屋を継ぐことであった。
====
・悪夢はもうすぐ終わります。疲れた将吾がちょっと休憩する間、夢にお付き合いください。
・材料は好きなだけ揃います。夢の中なので。食べても太りません。栄養にはなりません。
・一緒に作ってもよし、将吾にリクエストして作ってもらったカレーを食べるだけもよし。ついでに勉強への苦手意識を解くように話に付き合ってあげるのもよしです。
アルヴィナ・コトフ
◎○
勉強、頑張ったって聞いたわ。お疲れ様。
勿論、彼とは面識が無いけれど
誰かと問われたら、街で擦れ違った…の体で接するわ
夢ってそういうものでしょう?
カレー作るの?
私、缶詰の物しか知らなくて
作るところ見ていても良いかしら。
勿論、手伝うわ。野菜の皮剥きは任せて
小さいナイフなんか有れば余裕よ
ピーラー?知らない武器…いえ、その調理器具は使った経験は無いの
使い方、教えて
(便利さに絶句)
コトコト、煮込み料理
温かい料理っていいわね
料理の温度だけじゃなく、人の温かさも感じられる
香りも美味しそう
君、きっと良い料理人になるわ
手際がいいもの
素敵なカレー屋さんになってね
何で知ってるかって…
夢ってそういうものでしょう?
●便利なピーラー、おいしいカレー
野菜を洗っている将吾の側に立ち、アルヴィナ・コトフ(薄氷・f31008)はそっと声をかけた。
「勉強、頑張ったって聞いたわ。お疲れ様」
「ああ、ありがと……あれ、えっと」
勿論、アルヴィナと将吾に面識はない。けれどこれは夢の中、どんな存在でもそういうものだと思えるのだ。
(夢ってそういうものでしょう?)
アルヴィナは少し微笑んで、自分の設定を告げる。
「アルヴィナよ。この間街で街で擦れ違ったの、覚えているかしら?」
「あ、そうだった」
返事をしながらも将吾の手は止まらない。アルヴィナは手際よく洗われる野菜達にペリドットの瞳を向けた。
「カレー作るの? 私、缶詰の物しか知らなくて。作るところ見ていても良いかしら」
彼女の故郷では大体カレーは缶詰に入っているもので、材料を揃えて作るのを見るのは初めてだから。
「ああ、いいよ」
「ありがとう。勿論、手伝うわ。野菜の皮剥きは任せて。小さいナイフなんか有れば余裕よ」
いいのはあるかしら、と調理台を探すアルヴィナの前に、手のひらほどの大きさの機器が差し出された。
「ピーラー使えば?」
「これ……?」
プラスチックでできた持ち手にくるくる回転する刃がついた、不思議な機器。アルヴィナの手にすっぽり収まるそれはピーラーという名だという。
「ピーラー? 知らない武器……いえ、その調理器具は使った経験は無いの。使い方、教えて」
「いいよ」
将吾は洗ったにんじんにピーラーの刃を当て、引いていく。薄く薄く、それでいて途中で切れることなく皮が剥けていくのにアルヴィナは目を見開いた。
「はい」
「……うん」
受け取ったアルヴィナが恐る恐る引いてもやっぱり薄く切れるのだ。あまりの便利さに、アルヴィナの口は言葉を出すことを忘れてしまった。
「あと、じゃがいもの芽はここの出っ張りでえぐれば楽に取れる」
「……便利ね」
皮を剥いて適当な大きさに切り、豚肉やスパイスを少し加えて煮込んだ鍋からは湯気が立つ。少し柔らかな味にするためのヨーグルトと蜂蜜が隠し味。
(コトコト、煮込み料理)
温かい料理の様子にアルヴィナの頬は緩む。寒い寒い雪と氷の廃都では、温かい料理は本当にごちそうだった。
「温かい料理っていいわね。料理の温度だけじゃなく、人の温かさも感じられる」
「な。俺、じいちゃんとばあちゃんのカレーがあったかくて好きなんだ」
ことこと煮込んだ鍋の中、具材が柔らかく煮えた頃、最後の決め手を加えてひと煮立ち。
「香りも美味しそう」
「ありがと。食べる?」
「うん」
皿に盛られたライスにとろりとカレーがかけられる。湯気の立つ皿スプーンを入れて、ひとくち食べたらまろやかな辛味とスパイスの風味が広がった。柔らかく煮えた野菜や肉もいい感じだ。
「君、きっと良い料理人になるわ。手際がいいもの」
「そうなりたいなぁ」
綺麗に空になった皿に将吾もすっきりした笑顔になっていた。
「素敵なカレー屋さんになってね」
「うん。あれ、俺カレー屋になりたいって君に言ったっけ」
なんで知っているのか、とアルヴィナを見つめる将吾。
「何で知ってるかって……」
アルヴィナはゆっくりと微笑んだ。
「夢ってそういうものでしょう?」
きっとこの不思議な出会いも、将吾の目が覚めたら忘れてしまうものだけれど。おいしいカレーの味と暖かな会話は、アルヴィナの記憶には残っていくだろう。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
カレーは私も好きですよ
ですが、隠し味にニンニクを使う場合があるそうですね
申し訳ありませんが、ニンニクは取り除いておいていただけますか
私は吸血種、ダンピールですのでね……
ふふ、世の中には私のように色々な嗜好のお客さんがいるでしょう
その人の体質に合ったカレーを作っていくのも大切なことでしょうね
ではニンニクを使わない代わりにコクを何で出すのか……
そういったことを「考える」必要もあるはず
学校のお勉強は、単に読み書きや計算、法則を暗記することではなく
本質的には「考える癖」をつけること、いわば思考能力を鍛えることです
美味しいお料理を作ることにも、きっとつながっていきますよ
では……いただきます
●少し耳に痛い、辛味のある玉言
魅夜は座ったままで、手際よく皮を向かれていく野菜を見ながら、将吾に話しかけた。
「カレーは私も好きですよ」
「そうなのか。俺も」
そのまま一口大に切られて形を変える野菜。魅夜は続けて話す。
「ですが、隠し味にニンニクを使う場合があるそうですね」
「ああ。すりおろしたり刻んだりして入れると香りが立つんだ」
「申し訳ありませんが、ニンニクは取り除いておいていただけますか。私は吸血種、ダンピールですのでね……」
人やダンピールによってはニンニクが苦手なものもいる。そしてここは夢の中、ダンピールだという魅夜に将吾は驚かない。鶏肉を一口大に切りながら将吾は頷いた。
「構わないよ。大変なんだな、ダンピールって」
「ふふ、世の中には私のように色々な嗜好のお客さんがいるでしょう」
緩やかに口を微笑みの形に変える魅夜の前で、鍋に油が引かれて肉がまず炒められた。焼ける肉の香りのあとに、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん。野菜が加えられて、小麦粉がまぶされれば甘い香りが漂ってくる。この香りを厭う人も好む人もいるだろう。
その鍋に将吾はコンソメと葉っぱのままのローリエを入れて、水と共に煮込んでいた。
くつくつ音を立てる鍋を見ながら、魅夜は小首を傾げて言う。
「その人の体質に合ったカレーを作っていくのも大切なことでしょうね」
趣味嗜好体質、様々な事情で食べられない物がある人は多い。小麦が食べられない人に、小麦粉を使わないカレーを。肉が食べられない人には、肉を使わないカレーを。
「では、例えばニンニクを使わない代わりにコクを何で出すのか……そういったことを「考える」必要もあるはず」
「そうだな。肉やコンソメでもいいし、別のスパイスを使うのもいいかもしれない」
ニンニクの変わりに、何がいいだろうか。足し引きしてスパイスを考えるのもいいし、他の具材を加えるのもいい。いっそニンニクを使わない方が美味しい具材の組み合わせや調理法を考えてもいいかもしれない。
魅夜の言葉に真剣に考える将吾に、諭すように魅夜は語りかけた。
「学校のお勉強は、単に読み書きや計算、法則を暗記することではなく、本質的には「考える癖」をつけること、いわば思考能力を鍛えることです」
どうすれば対応できるか、どう考えてどう行動するか。その場の反射だけでなく、筋道立てて考える力を養うことが学校教育の根底にはあるのだ、と魅夜は言う。将吾は勉強、という単語に少し嫌そうな顔をしながらも言葉を聞いていた。確かに勉強にうんざりするような悪夢ではあったが、魅夜の言葉も間違ってはいないとわかっているのだ。
粉末のスパイスを加えて仕上げをする将吾に、魅夜はそっと言葉を送る。
「美味しいお料理を作ることにも、きっとつながっていきますよ」
そう言った魅夜の前へとカレーの皿が差し出された。煮込まれ、とろみのついたルーが白いご飯にかけられていい香りが漂ってくる。
「まあ、頑張ってみるよ……これ、食べてくれ」
「では……いただきます」
魅夜はスプーンで一口すくい口に運ぶ。少し辛味の強い、けれどリクエスト通りニンニクを使っていない分、他のスパイスでコクを出したカレーの風味が口いっぱいに広がっていった。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
◎○
災難でしたね、お疲れ様でした。
カレー作るんですか?私、インドカレー大好きなんです!(メガリス修学旅行で行って以来のインド好き)
一緒に作りませんか?
ルーは使いません!
スパイスからオリジナルのカレー粉作ってみましょう。
色付けのターメリックやインド料理に欠かせないクミン、香り付けのコリアンダー、辛みのレッドペッパー、仕上げのガラムマサラ…
これらを調合して自分好みのカレー粉を作ります。理科の実験みたいでワクワクしますね?料理は化学です!
勉強で大事なのは楽しむ気持ちだと思うんです。こうして実験っぽくカレー作ってみたりとか。今学んでいることは全部世の中と繋がってる…って思ったら少し楽しくなりませんか?
●インドカレーと勉強の関係論
若干気が抜けた顔をしながら野菜を洗う将吾に、詩織は柔らかに話しかける。
「災難でしたね、お疲れ様でした」
「あ、はい。お疲れ様です」
先生のような話し方をする詩織に将吾は頭を下げて丁寧語で話す。野菜を洗う手も止まっていた。そんな彼に微笑んで、詩織は並んだ材料に明るい声を上げる。
「カレー作るんですか? 私、インドカレー大好きなんです!」
詩織が学生の頃、メガリス修学旅行でインド行って以来、彼女はインドが好きになったのだ。郷土料理であるスパイスの煮込み料理であるインドカレーも。
詩織は袖を汚さないように上げながら将吾に言った。
「インドカレー、一緒に作りませんか?」
「俺も本場のカレー、作ったことがないので……一緒に作ってもいいなら、喜んで」
「はい。先生にまかせてください」
詩織は授業をするときのような口調で、各種スパイスを選んでいく。
「ルーは使いません! スパイスからオリジナルのカレー粉作ってみましょう」
乾燥した葉っぱや実にも見えるホールスパイスを適量取り、グラインダーでゆっくり熱が出ないようにすり潰す。
「色付けのターメリックやインド料理に欠かせないクミン、香り付けのコリアンダー、辛みのレッドペッパー、仕上げのガラムマサラ……これらを調合して自分好みのカレー粉を作ります。理科の実験みたいでワクワクしますね? 料理は化学です!」
「化学かぁ……」
単元名にげんなりした顔をした将吾に詩織は、指を立てて解説する。
「スパイスをすり潰す時に熱を加えると、芳香成分が揮発して香りが飛んでいきます」
全部これらは化学反応。そう言いながらすりおろしたスパイスを匙で取って、混ぜ合わせて詩織は将吾へと差し出す。
「それに、こうやってスパイスを混ぜ合わせると、味や香りの成分が混じり合って何倍にも豊かな風味を楽しめます」
「……美味しいです」
詩織特製スパイスは辛めで野菜や牛肉に合いそうだった。耳に若干痛い言葉と一緒に受け取った将吾は、具材を揃えて刻み始めた。
付け合わせるチャパティの生地を準備しながら詩織は続けて言う。
「勉強で大事なのは楽しむ気持ちだと思うんです。こうして実験っぽくカレー作ってみたりとか。今学んでいることは全部世の中と繋がってる……って思ったら少し楽しくなりませんか?」
福神漬は浸透圧が関係するし、肉が焼けるのは熱によるタンパク質の変性だ。味付けの比率は数学、小麦の産地や調理法は歴史や地理。レシピには国語、海外のレシピを得るならその国の言語も。経営するなら政治や経済も少しは必要だろう。
夢を叶えるその先にすべて勉強は繋がっているのだ。
勉強をただ詰め込むのでなく、楽しく学んでほしい。そんな八坂先生の指導に触れた将吾は、こう言っていた。
「はい、先生。全部が全部、わかったわけじゃないけど、頑張ってみます」
「はい。頑張りましょう」
それから二人で作ったカレーは、少し辛めで、複雑な風味で。けれど豊かな心持ちにさせてくれるような味だった。
大成功
🔵🔵🔵