●透き通る世界
空は、雲一つない快晴。
燦々と降り注ぐ陽光は、容赦なく肌を焦がす。
じりじりとした熱が地面を焦がし、ゆらり、と陽炎が立つ。
近くに流れる川の潺が耳に届けば、ほんの少しだけ暑さが和らぐような気がした。
―ゆらり、ゆらり。
目の錯覚だろうか。
先程まで無かった筈の洞窟が、ぽかりと口を開けて佇んでいた。
まるで白昼夢を見ているような―。
興味本位に洞穴を覗けば、ひやりとした空気が肌を撫でる。
次いで、瞳に写ったのは、暗い洞窟の中を淡く照らす燐光。
ぱちりと瞬き一つ零して、改めて洞窟の中を覗き見れば、仄かな光を称える無数の小さな水晶。
興味深く、洞窟に足を踏み入れれば、其処は幻想溢れる水晶窟。
ぽたりと天井から零れた雫は、手で掬えばころり、と澄んだ結晶と也て。地面や川に零れた雫は、そのまま融けて水へと還る。
壁面の亀裂から覗く水晶は、聳え立つ樹木のようにも見えて。
此処は、夏にのみ現れる幻の水晶窟―。
さあ、恐れずに足を踏み入れよう。そうすればきっと、素敵な一時を過ごせる筈だから。
●幻想水晶窟
「……今年も、夏が、やってきました、ね」
日傘の影から、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)が集った猟兵たちを見つめる。
「……此の、焦げる様な、暑さ、だけは、慣れません、ね」
ふぅ、と小さく吐息を零して。陽炎揺らぐ地面を見ながら、蒼は言葉を紡いだ。
「……そんな、皆様に、納涼の、ご案内、です」
暑さ揺らぐ、封神武侠界―。
俗界離れた桃源郷には、稀に現れる幻の場所があるのだという。
「……今回、ご案内、するのは、水晶と、水の洞窟、です」
洞窟に沿って流れる川と、人が歩く通路があるだけの洞窟。
けれど、壁面や天井に散りばめられた水晶が、淡い光を灯して、闇を優しく照らす。
流れる川にそっと足を浸せば、火照った身体を優しく冷やしてくれるだろう。
罅割れた壁面から覗く水晶は、遠目から見れば聳え立つ大樹の様に。
此処でなら、内に秘める想いを零せるかもしれない。
天井から零れる水滴は、人の体温に触れると結晶化して形に残るのだという。
「……触れなければ、そのまま、水に、融けて、しまうの、だそう、です。……何とも、不思議、です、ね」
結晶化した水滴は、水晶のような煌きを纏って。そっと揺らせば、結晶にならなかった水がちゃぷりと揺れる。
「……洞窟は、一本道で、一度、外に出てしまえば、跡形も無く、消えてしまう、そう、です」
だからこそ。
此の一時を大切に過ごしてほしい、と蒼は言う。
世界を切り取ったかのような、幻想風景。貴方の瞳には、どんな風に映るだろう。
―夏の想い出を、かけがえの無い一時を。ゆったりと過ごしませんか?
幽灯
幽灯(ゆうひ)と申します。
今回は封神武侠界の夏休みシナリオをお届けします。
マスターページの雑記部分とOPのタグにプレイング受付日と締め切り日を記載させていただきます。
お手数ですが、一度ご確認をお願いいたします。
此方のシナリオには以下のプレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス:研究員の狂気を取り除く。
●過ごし方
水晶窟の中をゆったり散歩したり、川辺で涼んだり。
天井から零れる雫を救って、ひと夏の想い出にしたり。
壁面に走るひび割れから覗く、樹木のように見える水晶の元で語り明かしたり。
過ごし方は自由です。
此処に書いていない過ごし方でも全然構いません。
が、水晶窟から出ると、もう戻れませんのでご注意ください。
また、蒼に何かありましたらご用命ください。
一人で水晶窟をふらふら探索したり、涼んでいると思います。
お気軽にお声掛けください。
尚、アイテム発行はありません。
複数名様でのご参加は3名まで。
ご一緒する方は「お名前」か「グループ名」を記載してください。
其れでは、善き夏休みを!
第1章 日常
『貴方だけの物語』
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POW : 天から降る雫を掬う
SPD : 水の地を歩む
WIZ : 水晶の樹に触れてみる
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*マスターコメントのプレイングボーナスに誤りがありました。
誤:研究員の狂気を取り除く。
正:水着の着用。
大変申し訳ありませんでした。
夜鳥・藍
オールインワンの水色の方の水着で参ります。
水晶の洞窟とても楽しみです。
普通の洞窟でも一年を通して気温が一定に保たれやすいのとのことで、この外の暑さだったら結構涼しいでしょうね。
ゆっくり散歩がてら涼しさを楽しみましょう。……水着でもいいけど一枚何かあったほうが良さそうね。
天井からの雫は確か触れると結晶化するんでしたか……何度かそのまま雫が落ちるままに眺めて……爪先だけでもどうなのかしら?結晶化するのかしら?(そうっとゆっくり指先を雫に差し出してみる)
結晶化した水晶はどこかで見た様な……あ、あれね。水入り水晶みたいな感じなのね。
……。この子も家に来てくれるかしら?
●
蜃気楼のような入り口を潜り、水晶窟へと足を踏み入れれば、じりじりと焦げる様な熱気が途端拡散する。
太陽の光届かぬ洞窟の中は、仄暗いけれど水晶が放つ淡く青い光が、そっと内部を照らす。
そんな青の光を受けて、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)が纏う水色の水着も何処か色味を濃く感じさせる。
急な気温差故か、そっと藍が己の腕を撫で擦る。
(思ったよりも涼しいですね)
元々、気温の低い洞窟の中。もとより、茹だる様な外の熱さを感じていた身としては、少しだけ肌寒い。
けれども。其れも少し歩けば慣れるだろうと、透明のヒールをカツンと鳴らして、藍は水晶窟の探索へと挑む。
洞窟の壁面から覗く水晶に、そっと触れれば、ひやりとした感触が手を伝う。
外の暑さに火照っていた身体が、すぅっと冷える様で。
きょろり、と周囲を見回せば、人の手の入っていない、天然の光景が。
其の美しさに、藍の顔に知らず笑みが浮かぶ。
種類は違えども、水晶は、自身を構成する鉱物と同じ物。
何処となく、親しみを覚える。
―ぴちょん。
そんな思考に耽る藍の耳へ、小さな水音一つ。
そっと視線を向ければ、天井より伸びる水晶から零れた雫がぽたり、とゆっくり大地へと落ちていた。
(天井からの雫は確か触れると結晶化するんでしたか……)
―ぽたり、ぽちゃん。
ひとつ、ふたつ。降り注ぐ雫を、藍の紺碧の瞳がゆっくりと追う。
落ちた雫は、水面に、大地に溶けて。後には何も残らず。
(これが、本当に結晶に……?爪先だけでもどうなのかしら?―結晶化するのかしら?)
沸いた疑問は、次々と零れて。藍の身に宿る好奇を僅かに刺激する。
触れたところで、害は無いのだ。試してみる価値は、ある。
そぅっと伸ばした指先に、ひやりとした感触が伝わる。
落ちた水滴は、弾ける事無くころり、と藍の掌に収まった。
ぱちくり、と瞳を瞬かせながら、今しがた結晶となった水滴を観察する。
壊れぬ様にそっと摘まんで揺らせば、ちゃぷり、と中の水が揺れた。其の様子に、藍は何処か既視感を覚える。
「……あ、あれね。水入り水晶みたいな感じなのね」
洞窟の水晶は、青き光を称えるけれど、掌に転がる水晶は澄んだ無垢なる輝きを称えるのみ。
神秘の光景が生んだ、奇跡の産物。
きっともう、訪れる事は出来ない、不思議な場所。
「……。……この子も、家に来てくれるかしら?」
其の問いに応えるように。内包された水が小さく揺れた。
―きっと、此の出会いもまた、運命の導き。
きゅ、と優しく水晶を握りしめながら、藍は洞窟の散策を再開する。
此の夏の想い出を、また一つ刻む為に―。
大成功
🔵🔵🔵
満月・双葉
【虹星】
去年の水着
シャオちゃんと居たら寒いとかの方が多いからまぁ、その辺は。
静かな所だねぇ…人混みは嫌いだから、こういう所が有り難いや。
暫くぼんやりと座り、ぽつりと。
今まであった人はさ…死ぬか、お前のせいで苦しいって罵って来る人ばっかりで。
もう面倒臭いなぁって…
親は僕を捨てたし、今の「親代わり」も僕を捨てた。
師匠は何時か僕を…(殺す、と口にしそうになり、物騒だなと止まる)
シャオちゃんみたいなのは珍しくてさ…
(この先は口にして良いだろうか。相手の重荷になりそうで)
(大好きだよ、とぽつりと呟いて)
シャオちゃん、水着よく似合ってるよ。
(誤魔化すようにそう言って、水滴に手を伸ばして受け止める)
シャオ・フィルナート
【虹星】
※今年の水着着用
※普段から無意識に魔力の冷気を垂れ流しがち
ん…
俺も、静かで、涼しい方が…楽……
双葉さんの隣にそっと腰掛け水晶の光を見つめ
話しは黙って聞きつつ
好きという言葉にちらりと流し見
……ありがと…
女の人の水着…色んな種類あって、凄いね…
と、誤魔化しに便乗を
好きはまだよくわからない
他人と親しくしたのも初めてだから
食べ物の好きは覚えたけど
人に対しての感情はまた少し違う気がして
ただ一つわかるのは
…同じ、だから
俺を本当の意味で受け入れてくれたの…双葉さんが、初めてだから
そう告げて雫を手にし、双葉さんに翳して見せ
…お揃い
あのね
双葉さんといるのが…俺は、一番…落ち着く
今わかるのは…それだけ
●
頭上から降り注ぐ太陽の光も、陽光受けて陽炎揺れる地面も、じりじりと肌を刺すような熱を発して。
けれども、其れも水晶窟へと足を踏み入れれば、一気に霧散する。
普段より、魔力が冷気と為りて零れ落ちるシャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)だけれど、暑いものは暑いし、得意ではない。
ふぅ、と胸中に溜まっていた熱気を吐き出すように満月・双葉(時に紡がれた忌むべき人喰星・f01681)は大きく息を吐く。
「シャオちゃんと居たら寒いとかの方が多いからまぁ」
太陽が熱にでも浮かされたのか。身を焦がすような暑さが続く。
「……ん」
双葉の言葉に肯定するかのように、シャオが小さく頷く。
くるり、と花葉色にも見た不思議な光彩の瞳が、洞窟内を一瞥する。
「静かな所だねぇ……。人込みは嫌いだから、こういう所が有り難いや」
双葉の動きに合わせて、胸元を彩る大きなリボンがふわりと揺れる。
「俺も、静かで、涼しい方が……、楽……」
ぺたり、ぺたりと、歩く度に、シャオが纏う、海の水面を思わせるようなパレオがゆらりと靡く。
周囲に響くは、ぽたり、ぴちょん、と空から雫が落ちる音ばかり。後はただ、静寂が広がるのみ。
だからか。二人の話す声は、思いの外、水晶窟の中では響いた。
水晶が放つ淡く、青い光が、そぅっと、優しく二人を照らす。
太陽さえ射さぬ、暗い洞窟の筈であるのに、此の空間は何とも心地良いものに感じられた。
ゆっくりと、洞窟内を歩けば、座るに丁度良い岩場が目に映る。
「少し座ろうか」
そう、双葉が提案すれば、シャオもこくりと頷き返して。
岩場に腰を下ろして、ぼんやりと双葉は天井を見上げる。
ちょこん、と其の隣にシャオも腰掛けて、傍らの双葉を見上げた後、同じように天井へと視線を向けた。
天井を彩るのも、同じ水晶の光。けれども、よくよく見れば、濃淡が僅かに違うのか。同じ青は無い様。
「……今まであった人は、さ」
「…………」
視線は天井に向けたまま、ぽつりと双葉が言葉を零す。シャオは、静かに双葉の言葉を待つ。
「……死ぬか、お前のせいで苦しいって、ののしってくる人ばかりで―」
脳裏に思い浮かぶのは。罵倒、罵声、嘲笑、其れから、暴力の数々で。
「もう、面倒臭いなぁ、って」
ふっ、とつい自虐的な笑みが浮かんでしまう。そう、本当にどうしようもない事ばっかりだった。
「親は僕を捨てたし、今の”親代わり”も僕を捨てた。師匠は、何時か、僕を……」
其の先を、口にするのは何処か憚られた。内容が物騒である事も勿論なのだけれど。
この、静かで穏やかな空気を穢してしまうのが憚られたから。
「だから、シャオちゃんみたいなのは珍しくてさ……」
うろうろと、双葉の視線が彷徨い揺れる。
此の言葉を、果たして口にしていいのだろうか。此の胸に抱く想いは、表に出していものなのか。
渦巻く疑念に、答えは出ず。隣に座るシャオも、言葉の続きを待っている。そんな雰囲気を感じ取ってか。
「…………………大好きだよ」
―ぽちゃん。
零れた言葉に、シャオの留紺の瞳が一瞬、大きく見開かれて、そっと双葉の顔へと視線を映した。
どう、答えるべきか。口を開こうとしては、閉じるシャオの様子に気付いてか。
「シャオちゃん、水着よく似合ってるよ」
努めて、明るい声を出しながら双葉がにこやかにシャオの水着姿を褒める。
其の肩口に降り落ちようとしていた雫を、そっと手で掬いとる。ぱき、と小さな音がして。
ころりと、雫の形をした水晶が双葉の掌に収まる。
「………ありがと。……女の人の水着、……色んな種類あって、凄いね……」
ひらりと靡くフレアタイプのビキニと、揺れるパレオの裾を摘まんで。自分が纏う水着とは違った双葉の姿を見る。
腰を彩る緑色のリボンも、其れを飾る福寿草の黄色の花も、双葉の白い肌によく映えた。
「……俺は」
真剣に、彼女が想いを伝えてくれたのならば。シャオも、此の胸の内に宿りつつある、名の分からぬ感情について伝えなければならないと。
(……好き、は、まだよくわからない)
ずっと一人だった。孤独だった。此れまでに、たくさん利用されてきて。だから、距離を置いてきた。
食に、あまり興味はなかったけれど。ようやく、其れを理解する事が出来た。
でも、食べ物の好き、と、人に対しての好き、は。きっと何処か違う。同列にして良いものではない。
ただ、それでも。此れだけは間違いない、とシャオが判るのは。
「……同じ、だから」
辛い事がたくさんの人生だった。全部が無機質で、無色で。自分は、無価値だと、ずっと思ってきた。
「……俺を。……本当の、意味で……受け入れてくれたの
……。……双葉さんが、……初めて、だから……」
淡く笑みを浮かべながら、シャオが手を伸ばして、零れる雫を受け止める。
水晶化した雫を、指先でそっと摘まんで、双葉へと翳す。
「……お揃い」
「そうだね、……お揃いだ」
たぷん、と二人が手にする水晶の中で、結晶に成り切らなかった水が、小さく揺れた。
「……あのね。……双葉さんといるのが……俺は、……一番、落ち着く……」
水晶を手にしていない方の手を伸ばして、シャオは双葉の手を取る。
「……今わかるのは、……それだけ」
双葉の手に、ひんやりとしたシャオの体温が伝わってくる。
其れは、普段よりもほんの僅かだけ高いのだけれど、気付く事は無く。
―此の感情に、関係に。名前が付く日は。きっと、そう遠くないだろう。
此れからの二人の行く末を、そっと見守る様に。水晶は、ただ静かに光を称えていた。
大成功
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