雨乞いせず手にして殖やせるなら人の命の方が安くもなる
●血は霞のように出来ている
銃火器を武装した防護服の男達が鉄格子を前に歩いている。
「Cー504、出荷だ──C棟はこの辺りだな」
「504か。よし次行こう、B棟は先週に出荷を終えたばかりだから今は繁殖期だな」
チェックボードを片手に持った防護服の男は淡々とペンを走らせる一方、傍らを歩く防護服の上から迷彩を書き加えた男がつまらなさそうに言った。
自身が持つチェックボードの内容を検めている防護服の男は、仲間のその声に「仕方ないだろ」と諫めるように応えた。
「繁殖期の奴隷の棟にはプラントから送り込まれた興奮剤が散布されてんだ。たかが性処理の為に人間やめたくは無いな」
仲間の男が諫められて肩を竦める。
「わーってるよ! んでもよ、A棟は商品価値が高いからってクルマ乗りが独占してんだろ? ふこーへー。断固抗議するね」
「仕方ないだろ」
「お前はそればっかだな! ……チッ、これだからプラント出身の戦闘員はよぉ」
キャンキャン騒ぎ続けている仲間の男を無視して、チェックボードを持った男は薄暗い鉄格子の回廊を過ぎた突き当りにある非常階段を降りて行く。降りた先、潮風が隙間から吹き込む電子扉を潜り抜ければすぐ外だ。
──外は、黒い雨が降っていた。
潮風に煽られて横殴りに黒い雨が降りかかり、防護服の男たちは視界を濡らす汚染された雫を見てウンザリしたように手で拭い取った。
男達は口々に文句と焦りを含んだ声を上げながら、切り立った崖となった海岸沿いに駆け始める。
彼等の後ろにはつい先ほどまで居た『奴隷牧場』となっている建物が2棟立ち並んでいた。いずれも古びていて。旧時代の物を補強しただけの建造物だったが、カラースプレーで『C』や『B』の文字が側面や入口横に書き殴られているのだけが真新しく見えていた。
男達の向かう先には、かつては看守棟として機能していた3階建ての建物にも、真新しく『A』の文字があちこちに描き殴られている。
電子扉を二人が潜る。
灰色の景色から一変して白い清潔感のある空間になったが、よく目を凝らせば弾痕や激しい戦闘の跡がある。だがそれは元からあったものだ。防護服の男たちはそれよりもまず、受付に誰もいない事を訝しんだ。
「警備がいないな」
「アァン!?」
「放っておけばボスに俺達も殺されるぞ、止めに行こう」
チェックボードを受付の机上に置いた防護服の男は、白い清潔感のある廊下を進んで行く。
途中にある部屋の扉は開けてもレイダーの寝床と化したオフィスばかりで、目当てのルームは最奥の電子扉を抜けた先にある。かつては海上護送船などが停泊するための桟橋として機能していた港ロビーの大型ラウンジだったのだが、現在は港に面していたシャッターが閉じたままであり、代わりに大きなガラス越しに外の濁った海と黒い雨が降り注ぐ景色が見渡せるだけだ。
幾分かは綺麗だが、ラウンジのあちこちから響き渡る嬌声や鼻を塞ぎたくなる様な薬品と体液の臭いが立ち込めていた。防護服の男はその中に繁殖とは別の目的で楽しんでいる仲間が大勢いるのを見て怒りを露わにした。
「お前達、仕事はどうした。死にたいのか?」
奴隷であり『商品』でもある若い男女を嬲って愉しんでいる仲間のレイダーに防護服の男は殺意を籠めた声音で行為を咎めた。
それに顔を上げたのは全身タトゥーのレイダーだった。
「あ? なんだお前ら。しらねーのか? ウチのボスがどっかの野郎どもに潰されたんだよ。そんで今日からは俺らがここの生産プラントと商品を好きにしていいってわけだ」
「嘘だろ。ウチのボスはヴォ―テックスシティと取引してるんだぞ、シティの連中に卸せなくなったらどうなるか……」
「そのヴォ―テックスが落ちたんだよ。ボスは巻き添え喰らったのさ、これからは後ろ盾もなきゃ首輪も無くなった俺たちはみーんな野良ってわけだ」
刺青だらけのレイダーは興奮剤を注射したのだろう、目の焦点は合っていないし筋肉が僅かだが肥大化していた。それも商品だ、海岸の崖下にある海面から浅い所に隠された生産プラントから精製したドラッグである。
嬲っていた若い娘──その、亡骸を片手で掴み上げて防護服の男に投げつけたレイダーは血走った眼で叫んだ。
「俺達ァ! もう! 自由なんだ! グヒッ、フッ、フッ……! 楽しもうぜ兄弟ィ、このA棟の奴隷はまだ出荷してない分も含めりゃ大勢いる! プラントの制御キーもあるんだ、何人でも殖やせるし食糧にだって困りゃしねぇよ!! 人間を売って人間を犯して人間を食いモンにして、いずれここをでっけえ拠点(ベース)にしちまおうぜ!!」
●グリモアベースにて
白衣を着た少女、グリモア猟兵のレイン・アメジストがカルテのように持った指令書を読み上げた。
「現場はアポカリプスヘル。『ビーエフロス』と呼称された土地よ。
詳細を説明しましょうか。ビーエフロスはかつての文明が健在だった頃はロサンゼルスとも呼ばれていたそうよ、西海岸の街はご存知かしら?」
レインはそう言ってから本題に入る。
今回の猟兵への依頼はその、西海岸にある拠点(ベース)での任務だった。
「アポカリプスヘルの、あの犯罪都市。ヴォ―テックスがいなくなってから暴走してるレイダー組織があるのはご存知でしょうけれど、今回はその奴隷狩りだった連中のアジトを潰して欲しいの。
ロケーションはいわゆる『奴隷牧場』とも称される趣味の悪い施設よ。昔は海岸都市に位置していた刑務所のようだけど、今は地殻変動のせいで崖沿いに何棟か並んでるわ。
猟兵さんにはこの奴隷牧場を潰すため内部に侵入して貰うわ。それなりの規模なのもあって人質になりうる奴隷が多いのよ、この牧場を指揮するレイダーを撃破する為には慎重に立ち回って欲しいの」
白衣の少女、レインは予知した内容を告げる。
「連中は人間を人間とも思わない方法で繁殖させ、生産プラントを活用してある程度の肉体年齢にまで引き上げた子供たちを売り捌くようになるわ。フラスコチャイルドなんてものじゃない、寿命を数ヵ月にまで縮めたような生きた人形を売って奴等はかつての海岸都市に拠点(ベース)を築こうとしてる」
非人道的──そしてその目的や行き着く先は、来たるべき未来の腐敗に繋がるとレインは語った。
幼い顔立ちに細い肢体を覗かせる白衣の少女は。
「──狩りをお願いするわ。猟兵さん」
優しい微笑と共にそう言って、レインは転移の準備を始めるのだった。
チクワブレード
はじめまして、チクワブレードと申します。
よろしくお願い致します。
依頼概要はこちら。
●第一章『日常─黒い雨の降る街』
ロケーションはビーエフロスと名を変えたかつての都市ですが、拠点(ベース)自体は旧西海岸にある鉄錆びた兵器や干上がった湾港施設のようなものが散見する一区画に居を構えています。
今回は西海岸都市の廃墟を過ぎた崖沿いの奴隷牧場が舞台であり、数十~数百人規模の奴隷が囚われている拠点を潰すことが最終的な目標になります。
奴隷牧場は3棟で運営されており、皆様には各棟への潜入または侵入を試みて頂き内部での情報収集をお願いします。
【具体的には】。
奴隷との交流や奴隷牧場の職員ないしレイダーと接触して聞き込み、または相応の交渉や対話で牧場のリーダーとして君臨する者の所在と攻略に繋がる情報を得て下さい。
手段は問いません。
●第二章『ボス戦─『陸上戦艦』紀伊』
牧場主であるリーダーの情報を集めれば、ボス戦です。
あからさまな強敵ですが、これを動かしている人員やリーダーはいずれも兵器の運用に慣れておらず、加えて牧場そのものを砲撃して吹っ飛ばすといった行為は避けます。
第一章での情報収集でこのボス敵となる戦艦に関するものを得ていると、各ユーベルコードに弱化が入ります。
【戦艦の弱体化成功内容】。
艦隊不在等によるユーベルコードの低威力化、不発、リーダーへの接近戦可(判定は戦艦準拠ですが)等々。
【余談(フレーバーにどうぞ)】。
奴隷達は奴隷狩りで集めた人間を繁殖させ、労働力・若さ・美しさ等で等級分けした商品とされています。現在は商品だろうが扱いが酷く、暴力行為と薬物で支配しています。
等級が高い奴隷ほど薬物の影響は少ない様ですが、どうやら中には生産プラントといった旧時代の技術で生後二ヶ月にして肉体年齢が大人と変わらぬ者もいるようです。
奴隷牧場のある崖を降れば海となっていますが、こちらの海域は汚染濃度が高く奴隷たちが飛び込むには危険です。投げ落とすならレイダーにしましょう。
以上、今回の依頼でも皆様よろしくお願いします。
第1章 日常
『黒い雨の降る街』
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POW : 雨の中を歩く
SPD : 雨具を使う
WIZ : 雨宿りをする
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氷宮・咲夜
潜入先が奴隷牧場なんて刺激的ね
冗談よ。ちゃんとみんな助けてみせるから
とりあえず私はB棟に侵入して情報を集めてみましょう
※以下フェアリークロークの迷彩と忍び足を使用
まず建物の構造や巡回について調査
そしてフェアリーブルームで無施錠の入口から侵入
物陰から物陰へと隠れながら移動して、奴隷達を捜索するわ
奴隷達の異常に気づいた時点で瞬間思考力を発揮
症状と状況から散布型の興奮剤と推定
既に自分も影響下にある可能性大
身を守るより室内の浄化が最優先事項と判断
※UCを使用
全ての精晶石を触媒に、【魔導書:水】から浄化の魔法を室内へ
もし詠唱が完成して室内の興奮剤を浄化できれば
一時的に正気を失っても時間経過で正気が戻るはず……。
人格を手放してからの事は覚えていない
覚えていない事なんて無かった事でいいわ
着替えを済ませたあと、目的の情報収集をさせてもらいましょう
●
降り注ぐ黒い雨。
地面を汚し、或いは濁った雫が溜まり広がる様を見下ろす事はあっても。それらを落とす空を見上げようと思う者など居はしない。
「身を隠すには丁度良いわ」
この日、この場においては──1人いた。
周囲の風景に溶け込む事で姿を隠した氷宮・咲夜(精晶石の魔術師・f37939)は、暗雲に混ざる嵐の残滓を見上げて言った。
フェアリークロークを簡易的な浮遊の魔術と合わせ頭から被るように、雨避けとしながら曖昧な存在へと成った令嬢は溶けた色彩のヴェールの下。足音をほんの少し忍ばせるだけで隠蔽度を高め、彼女がポツリと上機嫌に漏らした声も近くを往く防護服に身を包んだ男達には聴こえず。距離にして17歩程度の間で視界に入ろうとも姿を捉えられた様子はない。
サキュバスの身でもある咲夜は自覚なく他者を誘惑する気配と運命を宿している。個々に及ぼす影響に差異こそあれど色香とも芳香とも呼べるそれに男達が気付かないならば、相応に彼女を捉える術もないのだった。
「奴隷牧場に潜入なんて刺激的ね──冗談よ。ちゃんとみんな助けてみせるから」
誰に見られているというわけでもなかったが何となく肩を竦め。咲夜は防護服の男たちが向かう先、後を追う形で周囲を調べていく。
(────B棟、ね)
断崖にギリギリ引っ掛かるように留まった建物の残骸、廃墟とは全く異なる毛色の建造物を前に咲夜が腕を組んだ。
傍から見れば何らかの庁舎にも思えるが、明らかに強度を重視した構造と設計を始めに見て取り。思考の隅で事前情報とのすり合わせを行いながら、排水管とも通気口とも異なるパイプが地中から建物に繋がっているのを見つける。
思い起こされるは生産プラントの存在。
元よりその用途は旧時代の需要と供給を鑑みるに食糧や医薬品の類が主な生産対象だった筈である。かつては刑務所だったというその場所に、囚人たちに向けた何らかのラインがあったことは想像に難くなかった。
「順当に考えるなら……だけどね」
防護服の男達が巡回するのは定期的な監視の役目が強いのだろう。頻度は少なく、特殊な機材や装備を用いている様子も無い。
しかし時折チェックボードを持った者もいたが、咲夜が目をつけたB棟には近寄らなかった事が彼女には気がかりだった。盗み聞きしようにも男達はいずれも自らのボスがいなくなったことに精々した様子くらいしか伺えない。
咲夜は、黒い雨を弾くクロークの下で暫しの思考に耽った後。
(中を調査した方が早そうね)
雨風で掻き消される程度の陣風を伴い、追随するクロークと共に咲夜がB棟の屋上からウィザードブルームに跨り侵入する。
おおよその見当はついていた。屋上はまるで使われておらず無施錠だった、その理由はレイダー達があくまでも奴隷の管理にしか旧刑務所を運用していなかったからだろう。海が近い事もあり、時折訪れる『しけ』と黒い雨による影響が大きい。
黒々と濁った水溜りに足元を浸けた屋上扉を魔術で開放させた咲夜は、階下に続く黒い雨水の流れを見下ろしながら息を吐いた。
「ん……それほど大きな建物ではない筈だけど。これだけ手つかずでも内部に影響が無いのね」
足音を立てない意図でブルームに腰掛け直したまま咲夜は階下へと降りて行く。
胸元から取り出した小さな精晶石が瞬きを2度繰り返す。掴んだ掌を揺らすこと同数、咲夜は風と水の魔術を組み合わせた雨風を使って屋上扉の開閉時の音や周囲の環境を半自動的に自らの行動に合わせて変則するように設定した。
B棟に防護服の男たちが来るのは少なくとも数時間後だろうと見て、建物の内部で何らかの想定外が起きる事を予見して場の隠蔽を強めたのである。
これで──仮に戦闘が起きたとしても彼女が魔術を使うのに躊躇することはない。
「さて、情報収集と行きましょうか」
階段を降った先。
外の荒廃した様をさらに濁らせるような黒い雨とは真逆に、静寂に包まれた清潔感のある大理石の廊下は幾つもの電子扉が並び白い電灯で照らされていた。
●蠱惑の毒壷
ゆっくりとした時間の流れの中で、咲夜は風の魔術を都度用いる事で音を殺して無音のまま扉を開閉させては滑り込む様に身を隠すと同時に、クリアリングしながら進み行く。
進みながら、彼女はガラス張りの部屋を見つけて漸くウィザードブルームの動きを止めた。
「ここが奴隷達の牧場ってわけ? ──これは」
彼女の視線がガラス張りの向こうで繰り広げられる男女の重なり合いや行為から逸れて、足下に向いた瞬間。咲夜が鋭くさせた碧眼の内側で時間が凝縮され、圧縮された情報が瞬間的な思考の最中に処理される。
廊下を進んでいた時、電子扉が開いた際も咲夜は気付かなかった。『それ』が無臭にして無色だった事もあるが──ある意味では彼女にとって全くの無害に等しかったせいでもあったのだ。
(身体を傷付ける物の無い、恐らくはポリカーボネートに類する素材で出来た密室。途中で見たオフィスにあった資料や器具から察するに、ここはかつて精神疾患に因る犯罪を犯した者達の収容所だったとすれば──)
刹那の狭間に咲夜が導いたことでウィザードブルームが収納される。
(──生産プラントからパイプを繋げる事で、施設内の収容者が暴徒化した際の鎮圧用として何らかの薬剤を散布できた可能性がある。鎮静剤? ……連中がここを奴隷牧場に運用している以上それは無い。現に、ここに囚われている彼等の様子は真逆──)
圧縮された時間の狭間。
氷宮咲夜ほどの才女が有する瞬間思考力を以てしても、頭の奥がチリチリと熱を帯びていくのが感じられる。
(──繁殖用に調整された興奮剤。快楽物質を始めとした脳内分泌物を活性化させ、同時に体力面を強化するための滋養強壮効果を上乗せした物。そう……今の私には毒にはなり得ないけれど、だからこそ部屋から漏れ出ていた薬剤の効果が遅延されてしまった)
電子扉が閉じたのと同時。
咲夜が複数、真珠状の精晶石を掌と指先にそれぞれ掴み握り締めて。凛とした眼差しのまま己が身を流れる魔力を指先へ集中させた。紡がれる呪文に比例して燐光が彼女の手の中から溢れ出し、放出されて行く。
(優先すべきは──私の身よりも、この場の浄化──!)
腰元からフワリと浮遊し弾かれた、他の精晶石もまた彼女の薙いだ手に収まる。出し惜しむつもりはないとばかりに咲夜は頭の中に叩き込んだ魔導書──水の秘密を解き明かし、手持ち全ての精晶石に魔力を込めて唱えた。
「『力ある言葉と正当な資格を以て氷宮の魔術師咲夜が命じる。万物の根源よ、我が意に従いここにその力を示しなさい』!」
──外の雨が一瞬だけ止んだ。
束の間。咲夜の足元から水の波紋が拡がった後、一滴の雨粒が落ちた音がB棟に鳴り響く。
空気中を満たしていた無色の異物が最初の波紋によって遠ざけられ、二度目に訪れた波紋が遠ざけたそれらを掻き消して、三度の波紋が室内の供給パイプを通って生産プラントのB棟供給タンクの残量をゼロにする。
そうして……濁っていた空気が完全に浄化された時。
ガラス張りの部屋で一人の少女が崩れ落ちて、甘い吐息を舌先から伝い落していた。
「……っ、は……ぁは────❤」
意識が落ちる寸前にまで陥った咲夜は自身の五感が異常に研ぎ澄まされているのを感じ取っていた。
だから、瞼はきつく閉じられていた。閉じられているのに、彼女はガラスの向こうで行われている男女──奴隷たちが未だ交わり合っている様を見聞きするよりも精細に『観ていた』。
体の芯が熱を帯びて弾ける、彼女自身定かではない魔力の塊。もう、詠唱が完成したのかも咲夜には分からない。
意識が保てないと思った時には豊かな肢体と胸を冷たい床に這わせて、落ちて行く最中だった。
● ● ●
手放した人格。
落ちて行った青い髪が床に僅かに拡がったものの、けれど床を打つ音までは響かなかった。
ドクドクと脈打つのは、人ならざる者が身に宿した一冊の魔導書。
奴隷達の繁殖部屋と隔てる役目を持ったガラス壁は突如、音も無く亀裂を走らせた後に全て砕け散って砂と化した。
「────?」
障害物が消えさり、空間認識的に余裕が生まれたその空白を興奮剤で発狂した奴隷達が振り向き見た。
部屋中を満たしていた毒素は無くなった。
しかしそれは新たに投入された猛毒に等しく──見た者達を惹きつけ、魅了し尽くして、爆発的に湧き上がった欲求のままに目の前の異性に絡み付き繁殖行為に耽るようになり。運良く相手がいなかった者達が男女問わず、突如現れた猛毒の存在に貪り喰らいついた。
黒い雨の降りしきる最中。
奴隷牧場がB棟において、これまでになかった熱気を建物中で充満させるのだった。
● ● ●
──室内の興奮剤さえ浄化できれば、一時的に正気を失っても時間経過で覚醒する筈だと彼女は考えていた。
「……はぁ。良かった、推測通り浄化は成功していたみたいね」
通常の物から最高級にまで至る品質の精晶石を幾つか仕舞い込み。意識を取り戻した咲夜は小さく溜息をつきながら装いを直していた。
彼女が見下ろす先では大勢の奴隷だった若い男女が僅かな衣類を身に着けただけの姿でベッドやソファー、果てには廊下にまで……力尽きたように眠っていた。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し。ボスがいなくなった事で薬剤の散布量の調整も杜撰のようね、あれ以上薬漬けになっていたら彼等の肉体は限界だったでしょう」
咲夜は──数日は暴走していたであろう奴隷たちの姿を思い出して呆れたように頭を振った。
だが一方で。浄化が成功していたとしても、一度接種した薬の効果は続くにも拘らず僅か数時間で鎮静化されている奴隷たちの不可解な状況を、彼女はその聡明さゆえに敢えて目を向けない。
人格を手放したあとの事は覚えていないし、何より。
(覚えていない事なんて無かった事でいいわ)
結果さえ良ければ問題無い。そう割り切ることが出来るのも彼女が氷宮家において才女として名高い由縁でもあった。
くすっと零れた笑いを秘め。咲夜は我ながら主張の強い豊かな胸元を衣服に収め、着替えを終えてから奴隷たちに近付いて行く。
「さてと……目的の情報収集をさせてもらいましょう」
大成功
🔵🔵🔵
七星・天華(サポート)
羅刹のガンナーで元気娘。
基本的にフレンドリーに接する。
『一般人に過度な期待はしないでよね。』
自分は才能など無い平凡な存在だと思っているが実は天才。
二丁拳銃「白雷」と「黒雷」を用いた近距離戦闘も可能で
ナイフや体術も扱える。
装備や戦場の地形を利用した遠近両方の戦闘も可能。
生まれつきの体質と装備の影響で常時帯電している。
世界を放浪して手に入れたアイテムで出来る事の幅が広い。
少々過酷程度の環境は即座に対応適応するサバイバル能力。
美人な元気娘だが暗殺もするデンジャラスな一面も。
家族のみんなが好きだが特に姉が大好きで昔から姉の一番のファン。
出身の隠れ里に自分にもファンが居るとは微塵にも思っていない。
●
降りしきる黒い雨の中、A棟と称される建物で一度だけ発砲の嘶きが響く。
薄暗い通路を照らしていた小さな光源。避難経路を示す電灯が全て割られた後に、バタバタと防護服を着た男達がその場に倒れ伏せていった。
暗闇に閉ざされた通路の奥から姿を現すのはテラコッタの髪を揺らす、七星・天華(自覚無き天才・f36513)だった。
「よし。これで巡回は当分来ないよね?」
パチッ、と電流が弾ける愛銃の白雷をホルスターへ収めながら。天華は足元に手を当てて武装したレイダーの気配が近くには無い事を確認する。
静かにはなったが、それも束の間。ほんの少しの時間を置けば通路の至る所でざわめきの音が響いて来る。
看守兼品質管理の役目を担った男達が目の前で殺されたことで、通路沿いに並ぶ鉄格子の向こうで囚われた奴隷たちが異変に気づき騒ぎ始めていたのだ。
「こんにちは! ……なんて言ってる場合じゃないよね。ごめんね、すぐに出してあげるから少し離れてくれるかな?」
薄暗い──いまや彼女自身の手で更に闇に包まれた奴隷牧場の内部ゆえに、天華は囚われた者達が如何な姿となっているか知らなかった。だが彼女も場数を踏んでいるのだ。すぐに目が慣れて辺りを視認できるようになるのと同時に奴隷たちがどういう状態なのかを知り、快活な彼女の表情から笑顔が消えた。
ジャカッと腰から抜いた黒い愛銃を二度ほど発砲すれば、瞬く間に通路上を跳弾の閃光と火花が散り走り鉄格子の鍵が破壊されていった。
力無く開く鉄格子の扉を見て、奴隷の男女が恐る恐る通路へと出て来る。
「ありがとう……あなたは?」
「私は天華。猟兵──って言ってもわかんないか、奪還者ってやつだよ」
傷だらけの若い男が片足を引き摺りながら天華に歩み寄って来る。
彼は比較的、このA棟では年長者の奴隷なのだという。つい最近まではC棟に居たが、奴隷牧場の管理者だったレイダー達の組織が大元であるヴォ―テックスシティの崩壊により秩序が失われ、以前よりも酷い扱いと男の奴隷に対する風当たりが強くなってしまったらしかった。
「娘と妻がB棟にいるんだ……無事だといいが。アンタはこれからどうするつもりだ? もし手伝えることがあるなら手を貸したい」
天華が腕を組む。
「それなら、ここの連中の戦力について聞きたいな。他にも私の仲間達が来てるから大丈夫だとは思うけど、生産プラントや牧場を守護する強敵に備えて情報を集めてるんだよ」
「戦力……」
若い男は記憶を探るように目を閉じて、暗闇の中で深く息を吸った。喉の奥でヒュゥと音が鳴ってるのを聞いて、天華は彼が相当に傷つき弱っている事を察する。
「無理しなくてもいいんだよ?」
「いや。いや──大事な話だ、聞いてくれ。ここの連中は陸上戦艦を所有してる……それも複数だ、旗艦となる大型艦砲搭載のモノから護衛艦まで。俺と妻は内陸の方にある拠点(ベース)を襲われて連れて来られたんだ」
「戦艦かぁ……性能は分かる?」
「詳しい事は分からない、すまないが。だが以前ほど奴等は上手く運用は出来ないはずだ、今この監獄のそばに戦艦を置けないのは誤った操縦による被害を防ぐ為らしいからな」
天華は首を傾げた。自分たちの兵器なのに上手く運用できないとはどういうことなのか。
「なんで??」
「旗艦の制御キーを引き継いだ今の奴隷牧場のリーダーは、火器管制のマニュアルの文字すら読めないからだ。当然だ、元々はこの奴隷牧場で生まれた赤子を生産プラントで成長させレイダーとして簡単な洗脳教育を施しただけの……使い捨ての人形なんだからね」
驚く天華を前に若い男は濁った瞳を向けて言う。
「この奴隷牧場にいるレイダーは全員……ここで繁殖させられて成長した、フラスコチャイルドなのさ。惨憺たるものだ、誰かの子供かもしれない男達に嬲られ……自らの血を分けた娘かも知れない少女と体を重ねることを強いられる。地獄だよ」
「……言っちゃごめんだけど、胸糞悪い話だね」
「ああ。でもそんな地獄にアンタたちが来てくれたんだ、協力は惜しまないつもりだ──奴隷牧場の管理者となったあいつらは、陸上戦艦の運用を正しく行えない。旗艦だけは制御キーを握ってるリーダーが寝床にしているのもあって直ぐに動くだろう、けど護衛艦は数人がかりで動かすにもシステム起動に時間が要る。それを阻むかシステム上での妨害をすれば連中の戦力は大幅に削れると思う。それから──」
若い男から一通り話を聞いた天華はそれらの情報を仲間とすり合わせるため、その場を後にして合流に向かう。
「みんなは戦闘が終わるまで隠れてて! 遠くへ逃げるにはこの雨じゃ辛いと思う、私たちを信じてまってて!」
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『『陸上戦艦』紀伊』
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POW : アポカリプス・ランドフリート
【技能【艦隊(周囲にLv×1隻の主砲や地上】【魚雷で敵を攻撃する護衛艦を配置する)】を】【発動した後、護衛艦で輪形陣を構築する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 鋼鉄の咆哮
【技能【艦隊】を発動した後、主・副砲の砲弾】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【主砲・副砲で連続砲撃を行う、砲戦モード】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ : 弾丸雨注の領域
【技能【艦隊】を発動した後、対空火器の砲身】を向けた対象に、【主砲の榴散弾を含めた、弾幕を展開する事】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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キャロライン・メイ(サポート)
ダークセイヴァーの貧民街の生まれ。生きるため、悪事に手を染めてきた。ある日商人から一振りの剣を盗み出す。剣は呪われており、その邪悪な魔力によって、呪われし黒騎士へとその身を堕とす。その冷酷な様を人々はアイスドールと呼ぶ。
自身の半生に強いコンプレックスを持ち、心の中では常に自己を否定し続けている。死に場所を探しているかのような言動をとることがある。
ダーインスレイヴ~漆黒の魔剣による強力な一撃。
ライフドレイン~魔剣の血塗られた鉄鎖が無数の棘に変形し敵に突き刺さる。
※エロやグロNG
※5人以上まとめたリプレイNG
●──行かせない
情報収集を重ねた猟兵たちは、奴隷牧場の主が海岸沿いの岩場に隠した戦艦『紀伊』の旗艦に居る事を突き止め。ひとたび戦闘になれば旗艦をはじめとしたレイダー達の搭乗する護衛艦隊が殲滅に来るという情報を得ていた。
戦艦の名称さえ分かれば性能も特定できる。戦艦紀伊はオブリビオンストームの影響を受けたオブリビオンでもある兵器だったからだ。
もし正面戦闘になれば苦戦は必至の相手だ──しかしそれは正しく運用できていればの話である。
キャロライン・メイ(アイスドール・f23360)が受けた連絡はレイダーの動きを阻む為の協力要請だった。
漆黒の鎧の内に纏うドレスを翻し、身の丈に並ぶ大剣を揺らすキャロラインは涼やかに眼前を見据える。
「戦艦……なるほど、相手にするには確かに脅威だろう」
踵をカツン、と打ち鳴らして揺らめく闇の残滓を散らす。
漆黒の刀身がゆっくりと持ち上がり、数多の鮮血を吸って来た鋭い切先がキャロラインの『敵』を映し出した。
「──だがそれは " 乗り込めれば " の話だ」
猟兵たちは一斉に奴隷の開放と、レイダー達への襲撃を仕掛けた。
旗艦を真っ先に狙う者もいる一方。最も弱化を促せる作戦のひとつとして挙げられたのが、護衛艦へと向かう敵勢力の妨害と迎撃だった。キャロラインはそれら作戦を受けて真っ先に敵が通るであろうルートを見つけ出して先回りしていたのである。
もはや女子供だろうが関係ない。警報が鳴り響く黒い雨の中を防護服で駆けて来たレイダー達はキャロラインの姿を見るや、手持ちの機関銃や火炎放射器を構え怒号を上げながら突進して来た。
言葉は不要──。
漆黒の刀身が残像を宙に描き、幾何学模様に斬撃を放った直後に無数の火花と跳弾が男達に返された。
ボン、と土砂が撒き上がり。砲弾の様に飛んだキャロラインが叩きつけた大剣の下で黒々とした血の爆発が起きる。速すぎて目の前の惨劇にすら気付けない男達は訳も分からず叫びながら銃撃を繰り返すも、長い白髪が尾を引くように残像を残して黒騎士が跳躍して躱して肉薄に迫って来た。
凄まじい踏み込みからの袈裟で大剣が振り抜かれ、斜めに切り捨てられた男の骸が後方のレイダー達を巻き込み吹き飛ばす。数瞬の遅れを経てキャロラインの背後で漆黒の斬撃が切り裂いた衝撃波が爆ぜて散った事で黒い雨粒がドーム状に飛沫を上げ弾け、渦巻いた火炎が掻き消されていく。
音を越えた一挙手一投足。全てがレイダー達に時間差で襲いかかり、なすすべもなく血煙と化して荒野の泥に沈み逝く。
キャロラインが待ち伏せたルートに次から次へと来た者達が残らず討たれるまで、時間は掛からなかった。
成功
🔵🔵🔴
●GMからのお知らせ
第二章の参加者様は前章の調査により、敵の戦艦へ挑むかレイダーの行く手を阻むなどの妨害(システムに仕込みする的なハッカー的なムーブも含め)で臨むことが出来ます。
それなりの自由度が獲得できたので、気軽にご参加ください。
仲佐・衣吹(サポート)
キレイなもの、カワイイもの、ぶち壊そうなんて許さないんだから
バトルだって芸術よ。美しく戦いなさい!
お相手するはアタシことネイル
美術好きな女性人格よ
口調はいわゆる女言葉かしら
身のこなしが一番軽いみたいで
接近戦より距離をとってダガーで戦うのが好きよ
よく使う手は
外套を投げつけて囮や目暗ましからの一撃
ルーンソードで戦ってる途中で手放して虚を突き、袖口から隠し武器としてダガー
光属性を付けたルーンカルテを落としといて、タイミングを見て目潰しフラッシュ
こんなところかしらね
アイテムやユーベルコードはお好きに選んでくれていいわ
使えるものは全部使って、華麗に美しく戦いましょ!
●
鳴り響く警報に苛立ちを露わにしながら、男達は無視して走る。
陸上戦艦は旧時代の技術を応用した兵器だが運用には時間も手間も掛かる。それをカバーするのはひとえに数だ、レイダー達は護衛艦へと急ぎ乗り込み索敵機や火器管制のシステムを同期させなければならない。
「クッソ! 奴隷が半数は逃げてやがる!!」
奴隷牧場からバラバラに散開しつつ護衛艦へと乗り込んだレイダー達。運の良い彼等はしかし、拠点である牧場の様子をモニターで確認した事で猟兵たちによって奴隷が逃がされている様子を見て怒り狂っていた。
いったいどこにこんな連中がいたのか。
猟兵たちの存在など露ほども知らない男達はただ、突然現れた奪還者の集団に怒りを覚えることしか出来ないでいる。
奴等を吹っ飛ばしてやる──そう考えた乗組員の一人が、護衛艦の機銃を遠方へ逃げ去る奴隷達の背中に照準を合わせた時だった。
「キレイなもの、カワイイもの、ぶち壊そうなんて許さないんだから!」
モニターパネルいっぱいに映し出される美青年の顔。
レイダー達がどよめき。次いで画面に映る男の所在を護衛艦の正面カメラの目の前に居る事を突き止める。別のカメラやドローンが護衛艦の中央に立っている赤茶の髪の青年を捉えて映した。
仲佐・衣吹(多重人格者のマジックナイト・f02831)は敵の注目を浴びている事に気付きながら、それでも大仰な仕草と共に女性的な口調を連ね高らかに告げた。
「磨けば光るでしょうに、こんな立派な代物を粗末に扱うなんて信じられないわね! そんなアンタたちには──このアタシことネイルが美しくお相手するわ」
男達が殺せ、と叫び激昂した直後。ネイルと名乗った衣吹が羽織っていた外套を戦艦のカメラに向けて放り投げ、姿を消してしまう。
パリンと鳴り響く破砕音。
それはまるで手品のように、外套を投げた動作からネイルが瞬時に彼を映し出していた偵察機ドローンやカメラをダガーによる投擲で一掃した音だった。
「ば、ばかな
……!?」
戦闘指揮所でもある護衛艦のコントロールルームで、索敵機などのシステムの情報を統括しているモニターを見ていたレイダーが叫んだ。そこでは、次々に何者かの手によって護衛艦に搭載されたレーダーの類が破壊されてる様子が映っていたのだ。
「──おまたせ」
「ひぃっ!!」
レーダー機器の半数が破壊された頃、ピタリと破壊工作の手が止んだと思えばレイダー達の背中に押し当てられるはダガーの冷たい感触。甘い死神の声だった。
成功
🔵🔵🔴
北条・優希斗(サポート)
『敵か』
『アンタの言う事は理解できる。だから俺は、殺してでも、アンタを止めるよ』
『遅いな』
左手に『蒼月』、右手に『月下美人』と言う二刀流を好んで戦う剣士です。
自らの過去を夢に見ることがあり、それを自身の罪の証と考えているため、過去に拘りと敬意を持っております。その為オブリビオンに思想や理想があればそれを聞き、自分なりの回答をしてから斬ります。
又、『夕顔』と呼ばれる糸で敵の同士討ちを誘ったり『月桂樹』による騙し討ちを行なったりと絡め手も使います。
一人称は『俺』、口調は年上には『敬語』、それ以外は『男性口調』です。
見切り、残像、ダッシュ等の機動性重視の回避型の戦い方をします。
●
僅かな浮遊感を覚えた事で、護衛艦が浮上したのだと気づく。
レイダー達の数は総数でいえば大した事はない。だが、数を分かっている者がそれぞれの役割に忠実に動けば害虫並みの生存率を誇ることができる。
艦内から外の様子を見ていた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は冷静に状況を分析する。
「……此処を合わせて四船か」
陸上戦艦『紀伊』は護衛艦との連携を含めた波状攻撃が強力なオブリビオンだ。優希斗は現状の護衛艦の数がどれほど敵に働くものか考えていた。
しかしそうした思考は中断される。優希斗の『剣王の瞳』が視界の映像を書き換えたためだ。
(なるほど)
咄嗟に外套の下で抜き放った二刀の閃きが艦内壁面を切り裂き、直後に蹴りつけた勢いそのままに優希斗は外へ飛び出した。
刹那に震える。
それは旗艦である紀伊から放たれた主砲、榴散弾だった。爆轟に次ぐ衝撃に足を取られかけた優希斗は即座に護衛艦の側面を駆け上がり、地響きと共に傾いた甲板上へと跳躍する。
滑らかな脚捌きからステップした優希斗が右舷に構えていた『蒼月・零式』を逆袈裟に払い、眼前で瞬いた火花のいずれをも切り裂き防いだ。
甲板上にて遭遇したレイダー達。その数を見て、優希斗が一刀を鞘へと納める。
「仲間のいる船ごと俺を狙ったのか……誤射か。どちらにせよ、墜とさせて貰おう」
男たちの怒号を切っ掛けに優希斗が残像を残してその場から消えた直後、再度旗艦からMLRSの弾幕が甲板を横切る形で通り抜けた。白煙の軌跡を目で追ってしまった男たち。
視線の死角を衝く様に身を低くさせた優希斗が一刀の下薙ぎ払う。鮮血が散り、紅い雫が宙を舞う最中にも剣閃が奔って空間そのものを切り裂く。
その動き、太刀筋。それらはいずれも数舜の遅れを経て護衛艦の副砲やレイダーの銃弾を受け止め、切り落とし、残像によって翻弄しながら無傷で場を蹂躙していった。
やがて彼の立つ艦が落ちる。
しかし地上に墜ちた艦から優希斗以外は誰も出て来なかったのだった。
成功
🔵🔵🔴
氷宮・咲夜
【チーム・サクリファ】
相棒のリーファ・イスメリア(f38131)とは別行動
馬鹿正直なリファのこと、もう戦艦で暴れている頃かしら
私にはまだやる事がある
状況を艦に報告しているのがいるはずよ
通信するなら高い所と目星をつけ
フェアリークロークで隠れつつ混乱に乗じて探索
目的は「レイダーの反乱」の偽情報で敵を疑心暗鬼に陥らせる事
言葉の魔術ね
手段はハッキングなり、通信役を反乱(偽)に誘うなり脅すなり
相手と状況に応じて臨機応変に
命を玩具にしてきた連中同士で償い合いなさい
後は情報収集と、艦影が見えればUC使用
直撃は味方を巻き込む恐れがあるけれど
あの超お硬いお姫様リファをUCで弾き飛ばして戦艦だけを撃ち抜くわ
リーファ・イスメリア
【チーム・サクリファ】
相棒の氷宮・咲夜(f37939)とは別行動
あの咲さまのこと、きっとまた悪巧みを仕掛けに行ったに相違ないかと
放っておいて、わたくしはこの剣を以て悪を穿ちに戦場へ
こんな事は終わらせなければ
『星穿つ魔導剣』で方向を調整しながら
『星穿つ魔導鎧装』で推力移動
艦や搭乗員の攻撃は『オリハルコンパワー』が弾くに任せ
切っ先を向けての突撃と離脱を繰り返して艦を攻撃します
やがて危機を知らせる『悠久の祈り』の声に導かれ
UCを解き放ち、神硬姫アルティメットリリーに変身
弾幕は恐れるに足りず、主砲は腕で防ぎます
もしも咲さまの大魔法による援護?があれば
弾き飛ばされる侭に槍と化して、悲鳴と共に艦を穿ちます
●──チーム・サクリファ
護衛艦のひとつが火を噴き、またある場所では艦に辿り着く事も出来ずに断末魔と荒野の染みとなって。
奴隷牧場の管理者となったばかりのレイダー、かつてはこの牧場で産み落とされたフラスコチャイルドだった男は旗艦のオペレーションルームで独り震え上がっていた。
「は、早くしろ────!!! 護衛艦との連動システムを使えば、拠点(ベース)とだって戦り合えるのが俺達の強みだろーが!! 何をモタモタしてやがる!?」
旗艦『陸上戦艦・紀伊』はその搭載された艦砲の出力の関係上、単騎での運用は至難だ。各機関室や持ち場に着いた仲間達に牧場主の男が通信機越しに怒鳴り散らすも、現場はそれに返答すら出来ないほどに混乱を極めているとは知る由も無い。
オブリビオンの兵器とて、利用する者がこれほど無能ならば出力が落ちるのは必至だったのだろう。艦内の誰かがうっかり鳴らした警笛がまるで戦艦の嘆きの様な悲痛さを帯びていた。
「……悲壮ですね」
錆び付いた拡声器から響き鳴らされた警笛は獣の咆哮に近い。そうと感じたのは聖女、リーファ・イスメリア(悠久の超硬姫・f38131)だった。
猛然と立ち昇る土砂と黒い飛沫。
幾つかの護衛艦への乗り込みを阻止したとはいえ、それでもアポカリプスヘルにおいてレイダーとはゴキブリが如き象徴。数が減ろうと脅威には変わらぬ陸上戦艦が数基、荒野に浮上していた。
リーファの長く揺れはためく金の美髪が悪を前にして立つ背に拡がる。
「人を人とも思わない。そんな彼等もかつては在り得た未来を夢見た人々が残した生命のひとつだった筈、こんな事は──終わらせなければ」
濁った風を滑る金のヴェールから煌めきが落ちる。
宙を舞っていた小さな光の粒子を手に掴み。リーファはそれを胸に寄せて目を閉じた。
護衛艦を従えた、火器管制が統べられつつある旗艦が地響きと共に動き始めた時。同時にリーファの身を魔導鎧装が包み、その手に星穿つ名を称えられし魔導剣が握られる。
亡国の姫君が纏いし魔導鎧装、それはリーファが手にする魔導剣によって制御されて発揮する機動兵器である。
着装と同時に関節部から蒸気めいた粒子を吹かせ、威風堂々たる姿と成った彼女が身を一瞬低くした直後。脚部を魔法金属が覆った彼女は地面を踏み砕いて跳躍した。
鎧装背部から銀の燐光が噴射され加速したリーファが魔導剣を手繰り不規則な軌道を描きながら急上昇し、上空から一直線に急降下した。
「はぁああ──ッ!!」
其の身が砲弾と化すことを何ら厭わず魔導鎧装が誇る推力を乗せたリーファは護衛艦の甲板上に突撃する。
およそ人が突撃しただけとは思えないほどの轟音を響かせ、内部から噴き上がった爆炎から金の軌跡が翔ける。
機銃や艦砲が起動するより先手を打ち、至近のタレット砲台目掛け魔導剣を突き立てた超硬の姫騎士が背部から粒子を吹かして貫き。ボシュウッ、と小出しに魔導鎧装から魔力を噴射させる。中空を滑り、跳ねるようにして周囲からの艦砲を回避しながら魔導剣を操って突撃──強烈な一撃離脱を繰り返して行く。
鋼鉄を引き裂いて飛翔するリーファには衝突によるダメージは何ら見られない。
艦の装甲をひしゃげさせ、焦れて甲板に出てきたレイダー達からの銃撃すら物ともせずに突貫しては彗星の如く戦艦へと突撃して明確に損傷を拡大させていく。
それら一撃離脱の狭間で瞬く銀光は、超硬姫が名を示すパワーによる残滓だった。
──旗艦を中心とした戦場から数百メートル離れた廃ビル群。
海岸から陸に寄ったその位置は戦場から遠く。人の気配も無く。黒い雨の中に佇む廃墟でしかなかったが、そんな中で一人戦場を見遣る少女が魔法の箒に腰掛け宙を駆け上がっていた。
(馬鹿正直なリファのこと。もう戦艦で暴れている頃かしら?)
宙を滑るように駆け上がった青き令嬢、氷宮・咲夜(精晶石の魔術師・f37939)はフェアリークロークを羽織った姿で遠方での戦闘を一瞥して思った。加勢すれば正面からの戦闘でも何とかなるだろうとも。
だがしかし咲夜は小さく頭を振って自答する。
(私にはまだやる事があるもの……仕込みも上々、やるなら今でしょう)
今回の相棒。リーファと共に此度の襲撃に参上した彼女たちだったが、今は別行動を取っていた。咲夜がかねてより目星をつけていた場所で早速当たりを踏んでいたのだ。
敵に気取られるわけにいかない咲夜はリーファたち仲間の状況を知る為に魔術を使うわけには行かず、代わりに気配を完全に断つ事に集中していた。
廃ビルの屋上、黒い雨の中で忙しく作業をしていたレイダーの背後を取った咲夜は小さく微笑んだ。
手首に提げられた精晶石の幾つかに魔力が込められ、口の中で唱えた呪文に応じて咲夜の背に隠されたそれらが燐光を揺らす。
「随分と苦労してるじゃない──同郷のご友人に裏切られて残念だったわね?」
「……!? なんだ、お前は」
黒い雨に打たれながらもパラボラアンテナのような物が飛び出した機械を廃ビルに設置していた、防護服の男が警戒心を露わに銃を構えた。
驚くのも無理はない。彼とて無防備に背中を晒していたわけではなかったのだから──ただ、相手は異様な魅力を秘めながらにして姿を完璧に隠し通すだけの技術を持っていたというだけのことだ。
「あら? 何のことか気にならないって事は、あなたも『彼等』の仲間だったのかしら。それならお邪魔してごめんなさい?」
「……待て、さっきから何を言ってるんだ。裏切り者だの彼等だの……何の話をしている!」
ウィザードブルームから降りた咲夜が踵を蹴り鳴らし、フェアリークロークを仕舞い込む。されど降りしきる雨粒は咲夜だけは避けるかのように──青い美しい髪を汚す事無く足元の罅割れたコンクリートを滴り落ちて打つばかりだった。
氷宮が誇る令嬢は妖艶な仕草で長い指先を揺らし手招きしながら、さもここだけの秘密のように言った。
「……レイダーの反乱。この牧場を自分のモノにしようと外部組織に働きかけていたんでしょう? あなたの『同僚』さん」
「な……なに?」
咲夜の仕草、奏でられる疑心を煽る歌にあっさりと防護服を着たレイダーの男は堕ちた。
緊急時。それも所属不明の集団から襲撃を受けている最中の怪しい言葉にどれほどの信憑性があるかなど、男に測る術はない。
だというのに、今の男の内では暗く恐ろしいほどの疑念が満たされていた。
──しかしそれは不思議な事ではない、彼が相手にするのは魔術師なのだから。
黒い雨から漂う臭気に混ぜるように、近寄る前から咲夜は甘い誘惑の魔法を使っていたのだ。
それはとても弱い、静電気のように影響の少ない枕属性の魔術。会話する相手の気を惹きつけ、胸を高鳴らせる程度の魅了である。
だがそれを事ここに緊張感のある場で使えば、大きく心を揺らし平静を失わせる程度の効果を生むこともできる。揺さぶりの加減は──防護服さえ通す彼女の色香を認識すればするほど、だった。
「動いてない護衛艦は何基ある? 敵の数は? あなたたち大勢がこの短時間でそんなに数を減らされる事ってあるのかしら」
「……馬鹿な、まさかそんな……」
鼓動の早まりは意図的に。
無いはずの心当たりは与える小さな気づきと辻褄で合わせ結ばせる。
「この様子だと随分と離反者が出たのね。ここのボスがいなくなってから何かあったの? ……どちらにせよ形勢は不利。今ならあなたも反乱に加わる事は出来るんじゃないかしら……何も知らないなら、そういう事なのだろうけど」
「……ッ!!」
都合良く勘を働かせたなら、そこに小さな火種を添えるだけでいい。
「そんな目で見られても私にはどうしようもない事……精々が、あなたが『如何に味方らしく振舞っていたか』を口聞きできるかってところかしら」
例えば──このまま指を咥えて見ていても『仲間』と共にここで散る事になる、といった結末を予想させる。
「くっそがぁあああっ!!」
仲間内の結束が緩い事は奴隷たちから幾らでも聞き出していた咲夜は、この程度の適当な言葉でも揺さ振れると確信していた。
防護服の内側でレイダーの男がどんな表情を浮かべているかなど知らないが、咲夜は取り乱し吠える様を冷たい眼差しで見ている。
(命を玩具にしてきた連中同士──償い合いなさい)
廃ビルの屋上に設置していた中継機と索敵機を自らの手で破壊したレイダーの男が銃を携え、そのまま別のビルに向かって走り込んで行く姿を咲夜は見送る。
僅か数十秒もしないうちに鳴り響く怒号と銃声。
錯乱した男は予想もしないだろう。まさか咲夜との会話が風に乗り、他の場所にいる仲間たちに聞かれていたなどと──。
●命の値
度重なる猟兵の妨害と襲撃によって護衛艦が一基沈んでいく。
旗艦に搭乗するレイダー達はその音を聴いて酷く怯えながら怒鳴り散らしていた。外部からの通信や補助管制が途絶えた事で、彼等の処理能力がいよいよ戦艦の出力維持に支障を来し始めていたからだった。
「主砲、中破……? ただの一度も撃たないでぶっ壊される奴があるかよ!!」
「リーダー! 三番艦が轟沈! 五番艦も例の襲撃者が乗り込んで来ていて、MLRSによる支援が出来ません!」
「他の艦からぶち込んで諸共吹っ飛ばしてやれ!!」
「味方を落としたらシステムにエラーが生じるんだぞ、正気か!?」
「そもそもストームの化け物だろこの船……自傷行為みたいな真似、できるのか」
怒号が飛び交っていた旗艦オペレーションルームの通信は、次第に絶望した男たちの呟きが占めていた。
陸上戦艦が見る影もない。上からも下からも揺れ昇る黒煙が損耗の激しさを物語り、レイダー達も牧場主となったばかりの男も、追い詰められている事を自覚すると共に気勢を殺されていた。
外での白兵では敵わないと判断して乗り込んだ戦艦が、今となっては逃げる事も出来ない鉄の棺桶にすら思える。
「何だよ……何だってんだよ、これはよォ!? 奴等は何が目的だ、どうしてここまでヤれる!? 奴隷まで逃がして……正義の味方のつもりか。価格か? 同じ人間を売ってるのが気に食わねえって奪還者らしい思想か? 何が気に入らねえんだよぉぉお……ッ! 雨乞いせず手にして殖やせるなら、人の命の方が安くもなるだろうがぁ!!」
牧場主の男が旗艦の司令システムにアクセスすると同時に艦内を警報が流れる。
時間の経過と共に陸上戦艦の性能が著しく落ちていく一方、先ほどからずっと大暴れしていた姫騎士が戦艦『紀伊』の上方を取って急降下してきていたのである。
牧場主の男が火器管制を掌握して副砲や対空砲火、地対空ミサイルといった迎撃パトリオットを起動した瞬間。凄まじい弾幕をすり抜けて戦艦上部──オペレーションルームの真上にリーファが突き立った。
「──貫けませんでしたか」
魔導剣から魔力が漏れ出してるのを見下ろし、魔法金属の膜から頭部だけ出たリーファが静かに呟く。
刹那に囁かれる悠久の祈り。
ゾルン、と彼女を魔法金属が覆った直後に火花が四方から撒き散らされ。それが自身を狙うレイダー達の銃撃と気づいたリーファが途中からそれら携行小銃の弾幕を腕のひと払いで薙ぎ、ついにユーベルコードを発動させた。
「この身! 我が魂は! 決してあなた達の様な悪を前に砕けない物と知りなさい!」
流れる金髪をもリーファが有する魔法金属が包み込めば、銀の輝きは黄金へ。眩い閃光に際して輝く思念集合体が時の祈りを姫騎士にもたらした。
戦闘用の体。オリハルコンパワーで貫けぬならば、それさえ超えた『超硬神化』を経て。
「なんだぁ──この、輝きはぁぁああ────
!!!!!」
オペレーションルームにまで到達していた亀裂から差し込む閃光から顔を背ける牧場主の男が叫び、同時に艦内のあちこちで悲鳴が上がる。
「うわあああ! 中破してる主砲が動いてやがる、暴発するぞ!!」
錯乱発狂した牧場主の男が咄嗟にシステムに叩き込んだのは搭載された艦砲全てを目標に叩き込む、陸上戦艦紀伊が誇る殲滅プログラムだった。
火を噴きながらも歪んだ砲身が何本も『神硬姫アルティメットリリー』へと転じたリーファを捉え、その眩い光が上空へと上り詰めたその瞬間を前に榴散弾が装填された。
本来なら動かすべきではない状態の物さえ混じっているのだから、艦内の乗組員たるレイダー達は揃って絶叫した。
──という、一連の流れを見ていた氷宮咲夜は惜しみない賛辞を相棒に送っていた。
「期待を裏切らないお姫様だコト」
旗艦を取り巻く護衛艦の姿が減り、地上に残ったレイダー達も悉くが捕らえられた所を見ていた咲夜はウィザードブルームに腰掛け鮮やかな燐光に包まれていた。
「さて、八門ある主砲のうち二門は辛うじて貴女を捉えようとしている……クロスカウンターをするにはリファの方が硬いって事を教えてあげないといけないわね?」
陸上戦艦を相手に本気の一撃を見舞おうとしているリーファは今、かねてより聞かされていた【超硬不落の神硬姫アルティメットリリー】なる姿に変身を遂げている。咲夜はその状態、このタイミングこそ狙い所だと見極めた。
幾重にも連なり魔力の奔流を循環させる。咲夜の所有する精晶石を用いて作られたブレスレットは戦いの最中にも紡がれ続けていた長大な詠唱により、魔力変換を終えて尚研ぎ澄まされ。燐光が繋ぎ合わさり錫杖と化したそれを突き出して、天上から突撃せんとする神硬姫へ照準を合わせた。
「ここまでやったら直撃は味方を巻き込む恐れがあるけれど──あの超お硬いお姫様を弾くなら問題ないでしょう!」
紡がれた詠唱を切らし。
循環させていた奔流に道標を敷く事で流し込み、殺到する戦略級魔術が一端をリーファの背に落とした。
ここまでの刹那の間に繰り広げられた数多の思いは上空に拡がった閃光が全てに終止符を打った。
つまるところ。
──────ピカァッッッッ──!!!!
「きゃあああああああああ──!!?」
大爆発に背中を押されるというか。
諸共叩き込まれるかのような勢いで弾かれたリーファが光となって陸上戦艦が自爆しながら撃った主砲さえ撃ち貫き、分厚く硬い本気の装甲甲板さえ射貫いて地上にまで落下していったのだ。
予想外といえば予想外の展開に悲鳴を上げながら地面にめり込んだリーファの頭上で、ドス黒いキノコ雲が折れた陸上戦艦の背から生えているのを見て──下手人が誰なのかを理解した彼女は安堵したように小さく頬を膨らませるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
猟兵達の活躍により、ビーエフロスに点在する奴隷牧場がまた一つ消えた。
救出、或いは脱出ができた奴隷達は再び荒野を生きるために足を一歩踏み出す。
彼らの負った傷は容易く消えるものではないが、それでも──誰に命じられるわけでもなく。命を紡いでいくのだった。