●
――誰かに呼ばれた気がした。
その言葉がどういう風に聞こえたのかは分からない。
でも、確かに私は誰かに呼ばれていたんだ。
この場所に。
『黄昏時』
そう言っても差し支えない程に、今は、夜よりも昏い闇に包まれる、この場所に。
――ああ、そうか。
此処が、全ての始まりなんだ。
胸に差した羽根を握り、私はその奥へ進んでいく。
自分に救いを求めているかもしれない声に、従わない理由なんてないのだから。
●
「此処は……」
その青年の呟きに隣にいた女がカラコロと鈴の鳴る様な笑声を上げる。
「やはり、気になるでありんすか?」
「うん。竜胆さんからの指示で此処に来たけれど……」
(「此処に、紫蘭がいるのか」)
青年の生真面目な表情を横目に見た女は、雅人、と青年に呼び掛けた。
「もっと肩の力を抜くでありんすよ。今から気を揉んでも仕方ないでありんすからな」
「……そう言う白蘭さんも、どうして此処に?」
その雅人の呼び掛けに。
「何。貴奴からの依頼もあるが。……不肖の弟子が1人で逢魔が辻に来たのを見過ごすわけにはいかんでありんすからな。妾は、妾の流儀に従うたまでじゃ」
そう告げる女……白蘭という人物のそれに。
微苦笑を浮かべてそうですかと呟き、雅人はその場所へと足を踏み入れた。
●
「……雅人さん、白蘭さん……そして紫蘭さん、か」
グリモアベースの片隅で。
その光景を閉ざした双眸の暗闇の向こうで見つめた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)がゆっくりとその双眸を開く。
漆黒から蒼穹へと変わった双眸で猟兵達を見つめ、皆、と優希斗が呼びかけた。
「新しい逢魔が辻が発見されたよ。帝都桜學府諜報部の竜胆さん達の情報の解析をした結果、特定された場所ではあるけれど」
其処は、嘗て『里』と呼ばれていた場所で。
大火が原因で焼け落ちた『里』に、無数の影朧達が生まれ落ちた、と言う状況だ。
「何故、最近になって発見されたのか……。いや、逢魔が辻となってしまったのかは俺からは何とも言えないけれどね。……因みに、既に帝都桜學府諜報部からも、既に2名程、ユーベルコヲド使いが派遣されている」
――その影朧達を鎮めるために、単独で向かった桜の精『紫蘭』の力になるために。
「が……このままでは3人とも、還らずの人になってしまうだろう。だから、皆に頼むんだ。この逢魔が辻に向かって、3人……雅人さん、白蘭さん、そして紫蘭さんと協力して、彼女達を鎮めて貰う為にもね」
そう告げる優希斗の表情は、何処か沈痛そうで。
重苦しい息を吐き、優希斗は静かに言の葉を紡ぐ。
「……多分、この逢魔が辻は、皆の何人かが挑み、そして解決し続けてきたサクラミラージュで起きてきた事件に終焉を齎す、1つの切っ掛けになるかも知れない、と俺は思っている。逆に言えば、それだけ危険をはらんだ任務になる可能性もある。……どうか皆。今回の件に関しては、この件に関わる全てを救う位の覚悟でこの逢魔が辻に挑んで欲しい。厳しい戦いになるのは間違いないけれども、それでこそ救える……見えてくるものもあると思うから」
其の優希斗の言の葉と、共に。
蒼穹の風が吹き荒れて、猟兵達を包み込む姿を見て。
「……本当に頼んだよ、皆」
そう、優希斗が締めくくりの言葉を紡ぐと同時に。
グリモアベースに蒼穹の風が吹き荒れて……猟兵達はその場から姿を消していた。
●
――逢魔が辻。
嗚呼、如何して?
如何して、私達の世界の『救済』を、あなたは放っておいてくれないの?
その場所に現れた桜の精……紫蘭の姿を見て、其の少女達はそう問いかける。
その少女達の姿は、紫蘭に息を呑ませるのに十分だった。
「あなた……達は……」
『……ええ、そう。私達は、生者の欲望の儘に力を無理矢理持たされて、『戦争』に狩り出される羽目になった娘達。……『生者』は、私達に何も与えない」
――彼等、彼女等は何もかもを奪うだけだ。
自分達の命が安全であれば、其の為に犠牲になる命の事など、露程も気に留めない。
『そんな偽りの安寧の中で暮らし続ける人々の全てを、否定してはいけないと思うけれども。それでも私達は抗う必要があるの」
――失われた『命』達の、其の為に。
其の命達の為に自分達の命を使い、死者として苦しむ人々を救済する為に。
『只、与えられたものを私達は等分に、平等に返すだけ。それなのに如何して、あなた達は私達を否定するの? それ程までに私達が罪人なのだと、誰に言う事が出来るというの?』
その、彼女達の言の葉に。
「……」
何も応えず、身構える紫蘭の様子を見て、そっと少女達は溜息を漏らす。
『あくまでも、そのつもりならば……私達は、私達の目的を果たすのみ。さぁ……始めましょう」
――どちらが正しく、真の平和と秩序に満ちあふれた世界を作ることが出来るのか。
その1つの答えを出す為の……生者である『光』と、影朧たる『闇』の、其の戦いを。
長野聖夜
――『桜』が願う、その想いは。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
サクラミラージュのシナリオをお届け致します。
このシナリオは、下記タグの拙著シリーズと設定を多少リンクしております。
旧作未参加者でも、参加は歓迎致します。
参考タグシリーズ:桜シリーズ。
今回は3人のNPCが登場します。
3人は其々で、皆さんの手助けをしてくれます。
尚、其々に使えるユーベルコヲドがございます。
此はプレイングで指定が可能です(キャラ名+指定UCをプレイングして頂ければ使用します)
又、温存というルールもあります。
此方は4で説明します。
第1章でNPCが死亡する事はありません(基本自衛する為)
*但し護衛がプレイングボーナスになる可能性はあります。護衛する場合は、NPCを指定して下さい。
1.紫蘭。
桜の精であり、逢魔が辻の影朧を救済(転生)させる事を望んでいます。
使用UC:桜花の舞(鈴蘭の舞相当)or桜の癒やし)
2.雅人。
紫蘭の手助けの為に、逢魔が辻を訪れています。
使用UC:皆伝・桜花風斬波(【刀】を巨大化し、自身から半径100m内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる)or強制改心刀。
3.白蘭。
雅人と共に、紫蘭を助ける為に逢魔が辻を訪れております。皆様の指示には従います。
使用UC:白蘭の魅惑(【魅惑の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能))or白蘭の琴弾(【平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化)
いずれも桜シリーズの登場人物ですが、必ずしも交流する必要はございません。
4.温存。
各NPCのユーベルコヲドの使用を温存するプレイングです。
此を選択すると、その【章】の難易度が変わる可能性がございます。
【温存】と【UC使用】のプレイングが来た場合、UCに関してはより良いプレイングを採用します。
MS判定ですので、温存する、しないは自由に選択して頂いて構いません)
【温存】+NPC名で、誰のユーベルコヲドを温存するかを指定できます。
プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間はタグ、マスターページでお知らせします。
――それでは、最善の結末を。
第1章 集団戦
『旧帝都軍突撃隊・桜花組隊員』
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POW : 疑似幻朧桜の鉄刃
自身の装備武器を無数の【自分の寿命を代償に起動する鋼鉄の桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 疑似幻朧桜の霊縛
【舞い散る桜の花びら】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 疑似幻朧桜の癒やし
【自分の生命力を分け与える桜吹雪】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
イラスト:さいばし
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ウィリアム・バークリー
言いたいことは済みましたか。
確かに理不尽な死を強要されることもあるでしょう。
ですが、幻朧桜根付くこの世界では、死んでもまた輪廻の輪に戻って、一からやり直せます。
逆にいつまでも生前の苦しい思いに囚われていたら、新たな道は歩めません。
ヒトは変わるべきか否か。ぼくたちを隔てるものはこの問いだと考えます。
そしてぼくは、Yesと答えましょう。
始めますか。気が進みませんが。
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「盾受け」でActive Ice Wallを戦場全域に広域展開。
影朧の攻撃、氷塊で受け止めます。
余裕があれば、氷塊を砲弾として飛ばしましょう。
あの三人には特に「心配り」を。まだ先があるんですから。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
…100年前の怨念、とでもいうべきでしょうか。光は闇が存在するからこそ輝く。そのどちらかが失われた時、一体何が起きるのか…とはいえ、今は3人を守るのが先決でしょう。
私は紫蘭さんの護衛に就きましょう。恐らく、雅人さん、白蘭さんと比較した場合、やはり戦闘能力では2人の方が比較的上でしょうから。
白蘭さんの周囲にUCの炎の精を展開して守りつつ、G19と一部の炎の精を用いて敵を迎撃、状況によっては炎の精を複数収束させて攻撃力を上げます。
白蘭さんのUCは温存する様勧めます。
まだ序盤である以上、今後何が起きるかわかりません。切り札は、最後まで取っておくものですよ。
アドリブ歓迎
御園・桜花
「よくある話だと思うのです。私の生まれた里も、私以外全滅しました。幻朧桜に生まれ変われなければ、転生願い人を殺戮する影朧になると思います。其れを転生させるのは、其の時出会う猟兵だろうと思っておりますから、私は貴女達のように死にしがみつこうと思いません。結局死の瞬間になるまで、心を焦がす程の強い想いを持ち得なかったからでしょうか」
首を傾げる
「たった百年で溜め込む情念にしては、薄いのでしょうか。伊邪那岐命の系譜、昔のフォーミュラの残滓で無い事を喜ぶべきでしょうか。解りかね、決めかねますけれど…結局、貴女達を叩き潰して転生を願う以外、方法がない気がします」
「たまたま貴女達が死んだだけで、元々生命は存在する事に貪欲です。共存出来ねば完膚なきまで潰し合うものです。貴女達は…死である事に、驕って居ませんか?」
首を傾げる
「解り会えず、共存できない以上、潰し合うのは当然です。骸の海に還るのが嫌なら、どうぞ転生なさって下さいね」
UC「侵食・幻朧桜」
敵と自分達の間に幻朧桜召喚
概念侵食でダメージ与える
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん?
武器:漆黒風
…墓荒らし許さずで関わったのが、ここまでくるとはね…。
ま、私は名を残さぬハズの忍びですし、似たような立場でしたけどー。世界はいつも公平に平等にあるわけではないですからねー。
だからこそ、止めてみせますよー。
UCにて、私に対応するは風属性。故に、その桜吹雪は届かせませんよー。散らしてしまいましょう。
そして、元からついている雷属性で痺れてしまいなさいなー。
偽りの安寧っていいますけど。今を生きる人にとっては、本当の安寧なんですよねー。
ゆるりとでも変化し生きていく…そういうことなんですよ、平和で安寧って。
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
ああ、無念だったろうね。気持ちは良く分かる。
お嬢さん達が命を奪われた事情は同情できるが、平等に返すには奪う必要があるだろう?奪うとまた奪い返される。結局負の連鎖のループになるだろう?
紫蘭の願い通りにしてやりたいが、まずはお嬢さん達をおとなしくしてやる必要があるね。
【忍び足】【目立たない】で敵の攻撃の範囲から逃れ、【怪力】【気合い】【範囲攻撃】で敵の群れを力任せに薙ぎ払った後、赫灼の闘気で攻撃。
辛かったろうね。苦しかっただろうね。でも奪い合う負の連鎖はいつか断ち切らねばならない。死んだ後もアンタ達が辛い役目を背負う必要はないんだ。そろそろ休みな。
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
目の前の皆さんは命だけでなく、誇りも奪われたんですね。
紫蘭さんならそういう方達は救いたいと思うのでしょうね。奪われたからといって自分達が奪い返す辛い役目をする役目は全くないのです。生者の人生の在り方はは生者が決めるべきです。
私はトリニティ・エンハンスで防御力を高め、【オーラ防御】【拠点防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】で紫蘭さんを【かばう】ことに専念。
敵の群れの攻撃範囲の関係から攻撃する余裕はないはずですが、攻撃する必要が出たら【衝撃波】【範囲攻撃】で花びらごと敵を吹き飛ばします。
もう休んでいいんですよ。疲れたでしょう?
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可能)
ああ、無念だったでしょうね。
でも母さんの言う通り返すには奪う必要があります。生者から奪うと必ず生者達は貴女達影朧を危険視して存在自体を奪います。それで貴女達はどうしますか?また生者から奪いますか?負の連鎖のループになりますよね?
まず【マヒ攻撃】【武器落とし】【鎧無視攻撃】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。負傷を治療するならそれ以上のダメージを与えればいい。【高速詠唱】【全力魔法】【魔力溜め】を併せた氷晶の矢を撃ちます。
奪われたら奪い返す。そのループが続くと無念の死者が更に増えることになります。本当にそれが貴女達の望んだ事ですか?
天星・暁音
コードG!
焔の浄火で焼き尽くしてあげて
悪いけど、俺は何かを護る為の犠牲を是とする人間だ
そして残念だけど君達の奪い取って帳尻を合わせようなんて考え方にも賛同なんて出来ない
紫蘭さん後でハリセン一発行くから覚悟しとくように、例え呼ばれたのだとしても単独行動は怒られて当たり前だからね
何かを救いたいなら誰かを頼ること
一人で出来る事なんて多くない
何より死んでしまったら悲しむ人かいる事を忘れない事
コードGは火属性の恐竜型の巨獣の姿を取ります
分かりやすくいえばゴ〇ラ
巨体で暴れ炎で全身包んだまま行動する事も出来ます
火炎放射や火炎弾を降らせたり等
自分は紫蘭さんの傍で庇う等で護衛と説教
回復も行います
アドリブ歓迎
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携
成程、理不尽極まりない話ですね。言い分も理解は出来ます…ですが、大体のテロはそういう恨みから産まれ、自分が可笑しくなってる事に自覚も出来ないまま狂っていくんです…結局、貴方々がやってる事は、影朧という名前の爆弾をばら撒いて、世界を自分の自滅に付き合わせてるだけですよ
現着次第、牽制射撃し紫蘭さん達3人と
敵部隊の接敵を阻みつつ、敵の動きを(情報収集)
同時に指定UCでエレクトロン焼夷弾を装填したエアバースト・グレネードランチャーを作成。厄介な鋼鉄の桜や花弁を繰り出してき次第、武器を持つ腕・花弁狙いで(先制攻撃)で鉄も溶かす火炎弾幕を張り迎撃しつつ注意を引いて、味方の攻撃を支援
敵の霊縛花弁は(見切り)で回避しつつ、
逆に仲間が注意を引いてくれてる時は、隙を突いて頭部・腕狙いで狙撃(スナイパー、鎧砕き)し敵の戦闘力を確実に奪って行く様に戦います。
※アドリブ・絡み歓迎
鳴上・冬季
「生者などと言う大雑把な括りでなく、里人なり軍部なり桜學府なり、相手をきちんと限定して話してほしいですね。尤も貴女達はもう、相手を限定できぬほど妄執で目が眩んでいるのでしょうが」
嗤う
「生者などと言う雑な括りなら、南極のペンギンも肋骨の浮き出た野良犬も入るでしょう。説得できる時期は過ぎ、思想ごと力で叩き潰して翻意させるしかないと言うことでしょう」
嗤う
「集え、黄巾力士」
火行の黄巾力士14体9組計126体召喚
・砲頭から制圧射撃
・砲頭から徹甲炸裂焼夷弾で鎧無視・無差別攻撃
・上記2組をオーラ防御で庇う
の3組で1隊として3隊編成
各NPCを守らせる
自分は風火輪で上空から雷公鞭振るい雷撃
敵の攻撃は縮地で回避
白夜・紅閻
雅人…紫蘭!?
まさか、随分と早い流れだな
(先日の竜胆襲撃が、今回の逢魔の辻の切っ掛けになったのかも…)
まぁいいじゃないか、そんなこと
まずは、誰も死なすわけには…いかない。それだけ
雅人!、と…あんたは白蘭だったか
護衛対象は雅人。
健在でなにより…
お前(たち)の助太刀に来た
今回の任務は、少し厄介とのことらしいからな
――紫蘭もいるようだし、僕が手伝わない理由はない…から
アレは桜の…いや違うな
話しに聞いていた、旧帝都軍の…?
ともかく、やることは一つ…だ
白梟は上空より俺たちの援護を頼む
ついでに白梟と視界をリンクさせて視野を広めてみる
今回は篁臥はとりあえずそのまま外套のままでUCを発動しそれぞれの武器で攻撃
吉柳・祥華
心情
危うく、見過ごすところじゃった
この『里』というのは、例のアレじゃろうか…?
(さて誰の護衛をしようかのう…うーむ、ここは白蘭でよいか)
おや、ぬしも来ておったのかえ?白蘭よ
嗚呼そうか、紫蘭はぬしの弟子じゃったなあれから腕は上がったかえ?
機会がありんしたら聞かせて貰うんすへ
と、などと言うとる場合はなかったのう
して、アレは件の里での残留思念かのう?
まぁそうでなくともよいわ
逢魔が辻、ヒトの世で言うなら…淀みじゃな
負の力溜まりすぎてしもうて手に負えんくなっとる代物じゃのう
しかし急に成長しなんしたのなら、疑うは、人為的に起こされたというのがしっくりくるがのう…?(はてさて。…先日の例の騒ぎと関係あるのかもしれんのう…いや、わからんが。とりあえず神凪は上空にて待機させて識神を使い何か怪しいモノとか人影など周囲の情報収集じゃ)
白蘭の前方に妾は初期配置にて構える
隙をみてUCにて攻撃じゃ
その間は、白蘭の護衛を護鬼丸がするじゃよ
風華月を投擲し、敵の動きを封じたり
功夫を巧みに操り、浄化と退魔を籠めた攻撃で応戦
朱雀門・瑠香
・・・いや、可愛そうだなぁとは思いますけどそれだけですね。
今を生きている人の邪魔をしないでくれます?
舞い散る花びらを見切って躱してダッシュで接近!当たりそうな花弁は武器受けで弾きながら間合いに入り込み破魔の力を込めて纏めて斬り捨てます!
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
事前に指定UCで「属性攻撃(聖)、破魔、浄化」+【悪魔召喚「スパーダ」】を封じたカードを2枚作成
1枚は俺が持つが、もう1枚は切り札として雅人に渡しておく
雅人、もし彼女たちの転生を望むなら使え
このカードがあれば、スパーダは雅人の意に従うから
少女たちを見ていると
初めて柊と会った時のことを思い出すぜ
力を持たされ戦争に狩り出され…そして捨てられた少女達
柊も最初は彼女たちに想いを寄せていたんだよな
…最近、わかってきた
俺の力も持たされた可能性はある(※真実はまだ忘却の記憶の中だが)
生者の欲望は生者自身のいのちを賭けない限りは貪欲だ
てめえらの糾弾も理解はできる
だが、てめえらもそろそろ知るべきだ
無辜のいのちに力を持たせ後悔する輩の存在と
犠牲となった命を悔やみ、鎮魂しようとする輩の想いを
雅人や白蘭への攻撃を庇い二槍で反撃しつつ
タイミングを見計らってカードからスパーダ召喚
「魔力溜め」したお守り刀から「破魔、浄化」の魔力をスパーダに注ぎ込んだ後
短剣の雨で少女たちを「範囲攻撃」
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
…闇の中に、負の想念が渦巻いている気がする
ここに紫蘭さんが来たということは
…ここがはじまりの地でもあるわけか
少女たち
俺は君たちの言い分もわかる
俺も影朧…オブリビオンに故郷を奪われ
影朧を復讐と称してひたすら殺す身だ
確かに生者は(対抗できる力を)何も与えてくれなかった
俺の力は…闇への憎悪から手に入れたものだから
だがな
負の想念を平等と称して生者に返しても
この世界では皆、負に囚われ堕ちていくだけ
君たちのしていることは救済ではない
…世界を激しく闇に傾け、破滅に導く所業なんだ
せめてこの世界の流儀に則って
君たちを負の想念から解き放とう
花びらの攻撃は全て「第六感、見切り、武器受け」で避けるか切り払うかして防ぎ
声かけしている他猟兵やNPC(特に紫蘭)への攻撃を「かばう、オーラ防御」で代わりに受けよう
最後は「2回攻撃、祈り、範囲攻撃」+指定UCで
少女たちを束縛する負の想念を断ち切った上で転生を促せれば
この先に備え、NPC3人の力(UC)は温存してほしいけど
多数派の意に従うよ
クラウン・アンダーウッド
【温存】紫蘭
悪人だと断罪することはしないよ、少なくとも被害者ではあるからね。けれど同情はしないよ、なんだかんだ言っても結局は自分達が選んだ道なんだから。
平等ねぇ。様は搾取された側が搾取する側になりたいだけだろうに。
さぁ、楽しい戦闘を始めるとしようか♪
敵も味方を平等に炎で癒やしていく。
なぜ、人が争うのか分かるかい?それは自由意志があるからさ。こうしたい、あれはだめなんて意思を押し付けたり守ったりするから争うのさ。争いがない所なんて管理された環境だけさ。面白いもんだよね♪
文月・ネコ吉
仕方ない俺も最後まで付き合おう
影朧達を救済したい
その想いは同じなのだから
仲間と連携
オーラ防御と刀で応戦しつつ
影朧達の転生を願い、説得の時間を稼ぐ
眉間の皺はいつもの事だ
天秤というシステムには、やはり大きな矛盾がある
誰も傷つく事のない真の安寧を願いながら
そのバランスを保つ為にと
人にも影朧にも大きな犠牲を強いている
そんな破綻した状態で
平和と秩序に満ちた世界が作れるとは到底思えない
少女達は自分達の犠牲は放っておけと言うが
それを見過ごす事と
誰かに犠牲を強いる行為と
どこが違うというのだろう
誰も犠牲になどしたくはないのに
そういえばこの国の古い言葉では
影とは光そのものを指すらしい
影朧は闇とは違う
俺はそう思うよ
文月・統哉
愈々だね
俺もまた雅人と白蘭と共に
紫蘭の力になれたらと思う
仲間と連携して行動
オーラ防御展開し
宵で応戦する
可能なら少女達の話を聞いてみたい
彼等の想いを知り寄り添った上で
転生に向け説得したい
理不尽な苦しみにあっても
彼女達が望むのは今尚誰かの救済なんだね
光と闇の天秤による救済
でもそれは本当に可能なのだろうか
掛けられた力に対して相反する力で反発すれば
天秤は平行どころか大きく揺れてしまうだろう
それこそ取り返しがつかなくなるほどの災害となる
そんな事誰も望んではいないのに
そして何よりも
人々を救おうと自らの犠牲を選んだ者達が
闇のままであっていいとは思えない
影朧であり続ける限り
抱えた苦しみはずっと苦しみのままなのに
それこそ放ってなんて置けないよ
理不尽を繰り返したくないからこそ
世界を救いたいと願ってくれた
皆の想いを魂を未来へと繋ぎたい
闇ではなく転生の道を選んで欲しい
誰の犠牲も必要としない世界へと変えていく為に
願いの矢は雅人の強制改心刀と共に一時温存
可能な限り言葉と想いを重ねて説得し
紫蘭の桜の癒やしへと繋げたい
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
あ~彼女たちか~
何か見覚えめっちゃあるけど
おそらく背景は違うだろうからいったん忘れて
長期戦になりそう故、ちょっと搦め手を
突入前に全猟兵(+提供が間に合いそうなNPC)に「元気、優しさ、落ち着き」+指定UCで淹れた飲み物を振る舞って苦痛耐性と自動回復付与
まあ、そうなると私は舌戦しかできぬが
この里にて起きた悲劇は聞いた
ある者が引き起こしたであろう大火による悲劇
そして、輪廻転生による優しさに救われなかった人々の怒りが
影朧生み出さぬと尽力した桜の精たちへ理不尽な仕打ちとして襲い掛かり
…結果として逢魔が辻と化した
生者の余りの所業に
貴殿らが無力感を抱いても致し方あるまい
好意を踏み躙られた無念、察するに余りある
だがな
悲劇を悲劇で返しても
死を死で連鎖させても
それは平等を保つどころか
緩やかな世界の破滅にしか繋がらない
それは私の世界(UDCアース)の歴史が幾度も証明している
だから此処で断ち切らせてもらうよ
…一応伝えておこう
この事実を隠ぺいした者は、それを悔やんでいることを
●
生み出された、焼け落ちた廃墟を包みこむ深淵の中に。
――轟。
蒼穹の風がその背後に吹き荒れたのに、雅人と白蘭が背後を振り返った時。
「雅人! 後……アンタは白蘭だったか」
その蒼穹の風の向こうから姿を現した赤い瞳に銀髪、漆黒の外套をその身に纏ったその男がそう声をかける。
「! 紅閻さんか! 久しいね」
そう雅人がその人物……白夜・紅閻に確認する様に問いかける傍ら、白蘭の方は、ふむ、と何かを思案する様な表情を見せた。
その視線は、紅閻の隣に転送され。
「危うく、見逃すところじゃったな。この『里』と言うのは、竜胆が言っておった例の……アレじゃろうか?」
思考を無意識に吐露している、吉柳・祥華へと注がれている。
「……ああ、お主達か。確か……鵺ゑであったでありんすかや?」
はた、と嘗て遊郭であった時の事を思い出したのであろう。
そう問いかける白蘭の其れに、カラコロと鈴の鳴る様な笑い声を、口元を彩天綾の裾で覆った祥華があげ。
「ああ、確かに初めてお主に会った時、妾はそう名乗っておったでありんすのう。しかし、ぬしも来ておったのかぇ?」
と、問いかえすと。
「不肖の弟子が1人で逢魔が辻を鎮めに行くと言う話が齎されたでありんすからのう。流石に見過ごすのは妾の流儀に反するものじゃ」
「嗚呼、そうか。そうであったな。紫蘭はぬしの芸事の弟子じゃったのう。どうじゃ、紫蘭の腕は、あれから上がったのかぇ?」
からかう様に問いかける祥華の其れに、口元を思わず緩めて白蘭が笑い返した。
「実はあの後、中々、音を聞かせて貰える機会がなかったでありんすよ。あの娘も放浪癖のあるじゃじゃ馬でありんすからな。じゃから、其れを聞かせて貰う為にも、此処で死なれる訳にもいかないでありんす」
「成程。それが白蘭……あなたが雅人さんと共に、紫蘭さんの手助けをするために竜胆さんに選ばれた理由と言う訳か」
祥華と白蘭のやり取りを聞きながら。
何処からともなくその場に珈琲を淹れる為に簡易テーブルを用意し、出来上がった特製珈琲をカップに注ぐ藤崎・美雪がそう呟く。
芳醇な香りが、逢魔が辻の入口に漂い始める其れに、鼻を擽られながら。
「雅人」
と、森宮・陽太が雅人に呼び掛けるのに、雅人が其方を振り向いた。
「陽太さん? 如何しましたか?」
その雅人の問いかけに。
「今の内に、こいつをお前に渡しておく。雅人、もしこの先にいる誰かの転生を望むなら、使え」
そう告げて。
陽太が取り出したのは、捻じれたふたつの角を持つ漆黒と紅の悪魔が描きこまれた1枚のカード。
「このカードは……?」
「最近になって発見されたデュエリストカード。この中には、俺と契約している悪魔、『スパーダ』の力を封じ込めている。お前がスパーダに願えば、恐らく此処に眠る娘達を転生させることが出来るだろう」
そう陽太が説明するのに、雅人が静かに頷き、『スパーダ』の封じ込められたデュエリストカードを懐にしまうその間に。
「……敬輔さん」
その体に刻み込まれた『共苦の痛み』が警鐘の様な鈍痛を与えてくるのに頷いた天星・暁音の呼びかけに、舘野・敬輔が静かに首肯する。
「……この闇の中に、負の想念が渦巻いている。……そんな気がして、仕方ない」
(「そして、此処は……」)
何処か、奇妙な既視感を感じさせるそんな場所。
その違和感の要を探る敬輔に応える様に……。
「僕も先日、竜胆さんから聞いた場所だけれど。やはり此処は、嘗て、僕達が戦った『情と知を司る者』を名乗る聖獣が居た所の近くらしい。まるで、あの戦いの時に見た世界で秘匿されていたかの様な……そんな場所」
「……成程。あそこと縁のあるこの場所が、あらゆる意味で始まりの地になるのですね。あっ、美雪さん。ぼくには紅茶をお願いします」
その雅人の発言に然もあらんと言う様に頷きつつ、飲み物を差し出してくる美雪に紅茶を依頼したのはウィリアム・バークリ―。
「ぼくも、既視感の様なものは感じますが。それにしても……」
ウィリアムの其れに納得がいった様に頷きながら、六花の杖に魔力を籠め、具合を確かめるは、神城・瞬。
「何で今まで気がつけなかったんだろう、とも思うが……」
瞬の言葉の裏にきな臭いものを感じ取り、確認する様に呟く真宮・響の疑問には。
「……いや、先日の竜胆襲撃が、今回の逢魔が辻の切っ掛けになった可能性もある」
紅閻が静かにそう返し、そっと自らの指に嵌めた色褪せた指を撫でた。
「確か、あの戦いで私が雌雄を決した影朧は、天秤の『闇』側の主の現し身、と竜胆さんは言っていましたね。自身の分身……現実に介入できるアバターを作り上げるには、今までは隠していた力をも出さなければならなかった、と言う事でしょうか?」
そう真宮・奏が両腕を組んで小首を傾げるのに。
「……そうだな」
眉間に眉を寄せて、文月・ネコ吉がそう呟く。
「ネコ吉さん? どう言うことです?」
そんなネコ吉に、問いかけたのは朱雀門・瑠香。
瑠香の至極当然な問いかけにも、眉間に眉を寄せたままやはり、とぼやくネコ吉。
「救済のために生み出された、この天秤というシステム自体、大きな矛盾だよな。誰も傷つくことのない真の安寧を願いながら、其のバランスを保つためにと人と影朧、双方に大きな犠牲を強いているんだから」
「……そうですね。ですが、其れで救われてきた人もいるのでしょう」
ネコ吉の疑問に、軽く溜息を漏らしたのは、灯璃・ファルシュピーゲル。
「ですが、多大な犠牲を払わせる其のシステムと負の連鎖は、何処かで誰かが断たねばなりません。それが出来る者が、私達猟兵なのでしょう」
「まあ、よくある話だとは思いますが」
珈琲の入っていたカップを弄ぶ様に転がしながら。
灯璃の呟きに御園・桜花が何かを懐かしむかの様な笑みを浮かべながらそう呟く。
「どちらにせよ、この先に進まねば何も分からない話です」
「……そうかも、知れませんね」
桜花の歯に衣着せぬ物言いに。
小さく頷いた、ネリッサ・ハーディが脳裏に微かに鳴り響く警鐘に想いを馳せた。
(「……100年前の怨念、とでも言うべきなのでしょうか。光と闇は、存在するからこそ輝くもの。其のどちらかが失われた時、一体何が起きるのか……」)
その警鐘を飲み込みながら、ネリッサが白蘭の方をちらりと見やる。
「それはさておき、白蘭さん。まだ私達の此からの戦いは始まりに過ぎません。今後何が起きるか分かりませんから、今は切り札を温存しておいて貰えませんか?」
そうネリッサが問いかけると。
琴の弦を確認していた白蘭がそうでありんすな、と美雪から注いで貰った抹茶を優美に飲み干し。
「では、この戦いは此方で行くでありんすよ」
そう言って腰に帯びていた尺八に持ち替えるのに良いですね、と頷くネリッサ。
「さぁて、藤崎さんの珈琲で体も温まったし。紫蘭さんの事も心配だからね。そろそろ行こうじゃないか♪」
――プップカプー! プップップ、プップカプー!
と人形楽団に行進曲を奏でさせながらのクラウン・アンダーウッドのそれに。
「そうですね。そろそろ向かうべきでしょう、雅人さん、白蘭さん」
甘酒を飲み干し、口の端に笑みを浮かべた鳴上・冬季が呼びかけるのに。
「ああ、そうだな。……行こう」
雅人が頷き、ウィリアム達と共に歩き出した、其の隣から。
「愈々だね」
そう文月・統哉が呼びかけるのに、雅人がそうだね、と頷き返す。
逢魔が辻に向かう統哉達の背を追いながら、馬県・義透が好々爺の様な笑みを浮かべ、何処か遠くを見る眼差しを見せた。
「……墓荒らし許さずで関わったのが、まさか此処まで来るとはね……」
今、『我等』の中で、この『馬県・義透』の体に出ている悪霊は、『疾き者』――外邨・義紘だけれども。
それでも、其々にこの一連の戦いに『我等』は関わり続け……そして今に至ったそれは酷く、感慨深い。
――だからこそ。
「ま、私は本来名を残さぬ筈の忍びですし、似た様な立場でしたけどー。ですが、世界はいつも公平に、平等にあるわけではないですからねー」
――だからこそ。
「止めて見せますよー。貴方方のことも。そして……この天秤に纏わる戦いも、ね……」
その緑茶を啜り終わった義透の言の葉を合図に。
――統哉達は、逢魔が辻に侵入し、そして――。
●
――嗚呼、如何して?
――如何して、私達の世界の『救済』を、あなたは放っておいてくれないの?
くぐもった、心底から発される哀しげなその声を耳にした。
そして、それに……。
「あなた……達は……」
目前に現れたその少女達の姿を見て息を呑み、まるで不意に滝に打たれた様なそんな痛みを伴う呟きを紡ぐ、紫蘭の声も。
『……ええ、そう。私達は、生者の欲望の儘に力を無理矢理持たされて、『戦争』に狩り出される羽目になった娘達。……『生者』は、私達に何も与えない』
そんな紫蘭に追い打ちを掛ける様に蕩々と、哀しくそう呼びかける少女達の声。
紫蘭の向こうに居る彼女達の姿を見て、美雪が思わず微かに目を眇める。
「……あ~、彼女達か~、……何か見覚えめっちゃあるんだが……」
困惑した様に溜息を漏らす美雪の其れに。
「ああ、そうだね。あの子達は……」
「……初めて、この天秤に纏わる事件に、私達が関わった時に現れた影朧の少女達、ですか」
美雪の言葉を引き取り呟く統哉の其れに、確認の様にネリッサが言の葉を紡ぐ。
(「此処で、彼女達と再び邂逅することになるとは、思いませんでしたね」)
「そう、なのか。あれが桜の……いや、件の旧帝都軍の……?」
自分は其の事件には参加しなかったけれども。
妹桜が自分達へと憎悪を向ける切っ掛けとなった紅桜の事件の話を思い出し、紅閻の確認に。
「ああ……まあ、そうだ。最も、同一の個体ではないだろうけれどな」
そう美雪が溜息を漏らしながら紅閻に答えるが。
――それでも。
「あの子達を見ていると、あの時……柊に初めて会った時の事を思い出すぜ……」
陽太が苦しげに呻くのに、灯璃がちらりと陽太を一瞥するが、特に追求はせず、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"を構えていた。
『あの人達は、私達から何もかもを奪うだけよ』
――自分達の命が安全であれば、其の為に犠牲になる命の事など、露程も気に留めない。
そんな慟哭の様な其れがこの逢魔が辻の中に反響する様で、奏が思わず唇を噛み締める。
響もまた眉を鋭く潜め、彼女達の姿を確認しながら、彼女達の主張を聞いていた。
本来ならば、直ぐにでも介入すべきなのだろう。
けれども彼女達の想いの籠められたそれには、ただそれを断ち切る様に割って入ってはいけない『何か』が感じられるから。
そんな響の懊悩を知ってか知らずか、『彼女』達は勿論、と軽く頭を横に振った。
『偽りの安寧の中で暮らし続ける人々の全てを、否定してはいけないと思うけれども。それでも私達は抗う必要があるの」
――失われた『命』達の、其の為に。
其の命達の為に自分達の命を使い、死者として苦しむ人々を救済する為に。
『只、与えられたものを私達は等分に、平等に返すだけ。それなのに如何して、あなた達は私達を否定するの? それ程までに私達が罪人なのだと、誰に言う事が出来るというの?』
そう矢継ぎ早に畳みかける『彼女』達の其れに、紫蘭はぎゅっ、と服の裾を握りしめ鋭く其の紫の瞳を細めて身構える。
覚悟と共に、真っ向から対峙する様子を見せた紫蘭の姿を見た『彼女』達が。
『あくまでもそのつもりならば……私達は、私達の目的を果たすのみ。さぁ……始めましょう』
――どちらが正しく、真の平和と秩序に満ちあふれた世界を作る事が出来るのか。
その1つの答えを出す為の……生者である『光』と、影朧たる『闇』の戦いを。
そう告げて『紫蘭』に襲い掛かろうとした刹那。
「……成程。理不尽極まりない話ですね。確かに貴女方の言い分も理解は出来ます」
その言葉と、ほぼ同時に。
MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"の引金を音も無く引く灯璃。
不意に紫蘭の後方から音も無く撃ち出された弾丸地面に着弾し、『彼女』達の動きを一瞬止める。
その間に……。
「紫蘭さん!」
奏が飛び出して、紫蘭の前に立ちはだかり。
「全く……紫蘭さん、後で一発お仕置きだからね、覚悟しておく様に」
その言葉と共に。
星具シュテルシアをハリセン型に変形させ、其の左隣に立つ暁音。
「嘗て兵器とされて死していった私達を救いもせず、必要な犠牲と容認したあなた達に、私達を裁く権利はないわ!」
現れた奏と暁音達に向け、手持ちの幻朧桜を模造した桜の枝を鋼鉄の花弁へと変貌させ少女達が桜吹雪を吹き荒れさせる。
叩きこまれる様に放たれた桜吹雪をエレメンタル・シールドに翡翠色の結界を張り巡らした奏が受け止め。
更にハリセンに変形させていた星具シュテルシアを盾型に変形させ、星色のオーラの結界を作成、奏の翡翠の重ね合わせた。
それでも酷く重みのある鋼鉄製の花弁が突き立ち、そこから流れるその決意が、暁音の共苦の痛みに刺す様な痛みを与えてくる。
(「目の前の皆さんは、命だけではなく、誇りも奪われたんですね……」)
その桜吹雪に乗せられた嘆きと絶望にエレメンタル・シールドの表層を守る結界が鈍るのを感じ、憐憫の表情を浮かべる奏を一瞥し。
「……ああ、お嬢さん達は、本当に無念だったろうね。その気持ちはよくわかる」
奏の脇を通りすぎ、ブレイズランスに赤熱する闘志を乗せた槍を一閃する響。
赤熱したブレイズランスに纏われていた燃える炎の様に赤いオーラ……闘気が熱波と化して彼女達の視界を遮るその間に。
「その命を、尊厳すらも奪われたその事情には同情できる。でも、平等に返すには奪う必要があるだろう? お嬢さん達が奪うと、また、それを誰かに奪い返される! 結局それじゃあ、ただの、負のループじゃないか」
『そうかも知れない! でも、先に奪ってきたのはあなた達、生者よ! ならば奪われたものを取り返すべく戦わなければ理不尽に全てを奪われた者達は浮かばれない! 聖者は私達に何をした!? 私達の様な存在を作り上げ、無理矢理戦いの道具にした! そして、それすらもなかったものの様にして私達を人々は迫害し、虐待し、最後には虐殺した! あなた達は、今はそうはならなかった。でも、もしあなた達が私達と同じ境遇に立たされた時! あなた達は同じ事を言う事が本当に出来るの!?』
それは、悲痛で哀しい叫び。
嘗て起きた大戦で本人達の望みに関係なく、無理矢理武器を持たされ、改造され、戦いに駆り出され……。
そして戦いが終わるや否や、掌を返して不当な処分を受けた、彼女達の絶望。
「もし、あなた達の様に理不尽に切り捨てられればどうなるかですか、其れは……」
六花の杖に魔力を籠めつつも、瞬が彼女達の問いに、一瞬言葉に詰まった時。
「成程。言いたい事は分かりました。その上で返しましょう。……猪口才な。私の生まれた里も、私以外全滅しました。ですが私は、桜の精として此処にいます」
口元に微笑すらも綻ばせて。
桜鋼扇を翻し、自らの周囲に幻朧桜の林を作り出したながら桜花が応える。
「ですが、それは私が幻朧桜になるための前身だからでしょう。もし、幻朧桜に生まれ変われなければ、転生願い、人を殺戮する影朧になると思います。最も、其れを転生させるのは、其の時出会う猟兵でしょうけれども」
召喚した幻朧桜林に桜吹雪を吹き荒れさせ、解き放たれた鋼鉄製の花弁の桜吹雪とぶつけあいながら桜花が続けると。
『彼女』達は桜花へと、口元に微かな嘲笑を浮かべて投げつけた。
『私達から全てを奪ったのは、確かに生者だけれども。その猟兵……超弩級戦力によって、この里は、土地は滅ぼされた。そんな奴等が自分を転生させてくれると本当に思う? それこそ嬲り殺しにして、更なる憎しみを、負の想念を私達に与え、自分達の不満のはけ口にするだけだわ』
自分達が転生可能と言う概念侵食を、自らの生命力を燃やして作り出した桜吹雪で掻き消して奪われる以上の体力を回復しながら。
叩きつける様に告げられたそれに。
「……そうだな。その言い分は……分からないとは言えない」
ギリリ、と敬輔がきつく唇を噛み締めながら、黒剣を振るう。
「俺も影朧……オブリビオンに故郷を奪われ、影朧を復讐と称してひたすら殺す身だ。それが君達の言う、不満のはけ口と何が違うかと言われれば、何も言えなくなってしまうだろう」
――生者はオブリビオン……『闇』に対抗できる力を、何も与えてくれなかった。
その自分の力の源は……正しく、『闇』への憎悪からだ。
(「其れが彼女達にとっては、生者……『光』に反転しているだけなのか……?」)
だとすれば、自分には強い反論をすることは出来ない。
けれども、このままでは、誰も報われず、救えない事は分かるから。
だからその負の連鎖を、どこかで断ち切らねばならなくて……。
「だからと言ってあなた方が生者から何かを奪い返せば、生者は、貴女達影朧を危険視して存在自体を奪うでしょう。その時、あなた達はどうしますか? また生者から奪いますか? それは永遠に終わる事のない、負のループなのではありませんか?」
敬輔の意を汲んだか、彼の言葉を引き取って。
六花の杖の先端で空中に青色の魔法陣描き出し、行け、と小さく命じる様に杖の先端を魔法陣の中央に突き付ける瞬。
瞬の召喚に応じる様に630本の氷の矢が解き放たれ、『彼女』達の一部を次々に串刺しにしていくその間に。
(「言いたいことは、まだ済んでいない様ですが……」)
ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣し、空中に水色と緑色光を綯い交ぜにした魔法陣を描き出しながら、ウィリアムは思う。
「確かに、理不尽な死を強要される事もあるでしょう。中にはあなた方の言う様に、理不尽にその魂を切り捨て、自身の不満を発散する道具にするものもいるでしょう」
――でも。
「それでも、この世界には幻朧桜……その傷ついた魂を転生させ、傷ついた魂を癒すシステムが、概念が確かに存在しています」
――もしかしたらそれは、生者の傲慢……或いは只の信仰なのかも知れない。
紫陽花と対峙した時の自らの言葉を思い出しながら、ウィリアムは続ける。
「ですが、転生によって死んでも、また輪廻の輪に戻って、一からやり直すことが出来るのは事実。その猟兵達は、あなた達を理不尽に痛めつけ、あなた方を影朧と言う『闇』から解き放たずその憎悪を深めさせるかも知れません。ですが、何時かは、帝都桜學府の様にあなた方に転生と言う名の救済を与えてくれる人達が必ず現れてくれる筈です。逆に、いつまでも生前……いや、死後にも更に与えられる苦しい思いに囚われていたら、新たな道は歩めません」
――魔法陣が、明滅する。
『でも、ヒトは同じ過ちを繰り返す! 何度も、何度も理不尽を他人に与え、自分達の幸福のみを追求する! その事実は、変わらない……!』
「そうかもしれません。でも……だからこそ、ヒトは変わらねばならない。そして、ぼく達ヒトはきっと変わるべきであり、変わろうとすることが出来る」
――それは、影朧の儘では出来ない事だろう。
影朧は、過去の残滓。
生者達の不安定な感情と心が死した後に残り、揺蕩い続ける存在。
――だから。
「ヒトと影朧の違いを、隔意を切り開く……その為に、ぼくは気は進みませんが戦います……Active Ice Wall!」
その叫びと共に。
戦場全体を覆い尽くさんばかりの無数の氷塊の群れが迸った。
その氷塊の影に飛び込み響がその姿を掻き消すその間に。
「全く……生者などと言う大雑把な括りではなく、里人なり、軍部なり、桜學府なり、相手をきちんと限定して話して欲しいものですね」
その口の端に嘲笑を浮かべながら。
超然とした態度で冬季がそう呟きながら、自らの足の風火輪を解放し、ウィリアムの氷塊を蹴って更なる高見に上がり。
そこから見下す様に彼女達に視線を叩きつけ、その嗤いを深めている。
「尤も、貴女達はもう、相手を限定できぬ程、妄執で目が眩んでいるのでしょうね。最早、説得できる時期は過ぎたと言う事でしょうか」
――なれば今。
冬季に出来る事。それは……。
「集え、黄巾力士達。14体9分隊に分かれ、彼女達の思想事、彼女達を叩き潰せ」
その嗤いと、共に。
現れた126体の黄巾力士達が、冬季の命令通り14体9分隊で隊を組み、ウィリアムの氷塊を盾にしながら着地。
内、3隊が1隊ずつ、紫蘭、白蘭、雅人の周囲に展開され、残り6隊の内、先遣隊が、一斉に火弾を一斉掃射。
その後ろに控えた5体の黄巾力士達が、砲塔を構えて、そこから砲弾を解き放つ。
撃ち出された徹甲炸裂焼夷弾が火弾により、逃げ場を失った彼女達の体を貫通し、次々に爆散させ、その体を薙ぎ払っていく。
『貴様……っ!』
未だ辛うじて立つ仲間達を癒す様に桜吹雪を放出する彼女達。
一方で、鋼鉄の桜花弁を吹雪の様に吹き荒れさせ、黄巾力士隊を打ち据えるが。
「ふむ……おぬしらの好きにはさせんぞよ。行け、冥風雪華」
その爆発と氷塊の華を掻い潜る様に一枚の護符を抜き放ち、投擲する祥華。
其の札に封じ込められていた式神……冥風雪華が姿を現し、ウィリアムの氷塊に吹雪を吐きつけ、それを巨大な氷の砲弾にして。
ふうっ! と氷風を吹きつけ、黄巾力士達を打ち据える鋼鉄の桜花弁を横から拉げ押し潰していく。
その祥華とウィリアムの合作とでも言うべき氷塊を見て、ふむ、と口の端の嗤いを深める冬季。
「生者などと言う雑な括りなら、南極に住むペンギンや、それこそ道端に転がる痩せこけて肋骨の浮き出た野良犬も入るでしょう。そう言った考えるに足らぬ生者すらも憎悪する程の妄執に彼女達は囚われているのですかね?」
其の冬季の呟きに。
「……其処までは分かりません。ですが……」
黄巾力士達に撃ち抜かれ、爆散した少女達を微かな同情の光を宿した藍色の瞳で見つめながら。
「……鳴上さん。大体のテロは、彼女達の様な恨みから産まれ、自分が可笑しくなっている事に自覚も出来ないまま狂っていくものです……」
何処か諦念の込められた灯璃の其れに、それもそうですね、と冬季が首肯する。
(「だから……私達が」)
その負の連鎖を断ち切るその為に、時にはやらねばならないことがある。
それはある意味では、非常に残酷で、如何しようもない事だけれども。
――でも。
(「正直、相手が人ではない事は、不幸中の幸いだったのかも知れませんね」)
そんなことを、少しだけ思いながら。
「今のあなた達は、貴女方、影朧と言う名前の爆弾をばら撒いて、世界を自分達の自滅に突き合わせているだけです」
粛然と襟を正してそう告げて。
灯璃がMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"に添えていた左手を外し、そして……。
「ですからその負の連鎖を断ち切るためにも、貴女方を此処で止めます。……Was nicht ist, kann noch werden!」
叫びエアバースト・グレネードランチャーを作成、そのグリップを左手で握りしめ、トリガーを引いた。
その銃口から発射されたのは、エレクトロン焼夷弾。
休む暇もなく連続で繰り出される無数の鉄の桜の花弁が鉄をも溶かす超高熱を以て、それらを焼き払う、その間に。
「……紫蘭さん、私や天星さん、奏さんの傍を離れないでください」
そう告げて。
ウィリアムの生み出した氷塊の裏に紫蘭を庇う様にしながらネリッサが、灯璃が焼き払った鋼鉄の花弁の更に向こうへとその指を突き付ける。
突き付けられた指先から、解き放たれる120体の炎の精。
其の炎の精達の数十体が、白蘭とそれを守る祥華の周りに展開され残りの精が、灯璃が切り開いた道を抜け、彼女達の腕を焼き。
――其処に。
「貴女方は可哀そうなのかもしれないけれど、だからと言って今生きている人の邪魔はしないでください!」
ウィリアムの氷塊の群れと、冬季と灯璃による超高熱による、鋼鉄の花弁が消失したその瞬間を狙って。
物干竿・村正を抜刀した瑠香が、大地を疾駆しながら刀を一閃。
波打つ様に解き放たれた衝撃の渦が少女達の体を打ち据えるが。
『……生きている者の邪魔をする? 違うわ』
後衛の少女達が、自らの生命力を傷ついた者達に分け与え、彼女達の傷を癒す。
唖然とする瑠香を一瞥して。
『私達は、只、公平な平和を、秩序の安寧を求めているだけ。その生きている者達によって、奪われた理不尽な死者達の想いと共に、この世界を救う事を願い、戦っているだけよ!』
そう叫び、少女達は手に持っていた小型幻朧桜を振り下ろした。
同時に、空からヒラリ、ヒラリと舞い散る桜の花弁達。
「くっ……! それを皆さんに纏わりつかせるわけにはいきません!」
叫んだウィリアムがぐいっ、とその手で半円の軌跡を空中に描く。
ウィリアムのそれに従う様に無数の氷塊の一部が空から舞い落ちてくる桜の花弁とぶつかるその間に。
「……成程。言いたいことは少しずつ分かってきた。……君達が求めているのは、理不尽な苦しみに会っても尚、誰かを救済する事……なのか」
その氷塊の影から飛び出した統哉が漆黒の大鎌『宵』を構えている。
其の統哉が紅閻と、雅人と共に跨がるは……。
「……誰かを守るために命を賭け、その結果として彼女達が得たのは、自分達の『死』。それでも尚、形こそ違えど人類の救済を望むのが彼女達、という訳か」
統哉を乗せた全長316cmの漆黒の獣、黒焔。
周囲に14体の黄巾力士達が張り巡らした黄巾色の結界に守られながら、黒き疾風の如く戦場を駆ける黒焔の手綱を操る紅閻の呟きに。
「……そうだね。でも、それによって生者達もまた、理不尽のその命を奪われてしまう。それは瞬さん達の言う復讐の連鎖。……それによって、自らの想いを解消し、救済される影朧もいるだろうけれども……でも」
その腰に帯びた退魔刀の濃口を切って身構えながら、雅人が軽く頭を横に振り。
「……今の彼女達の行動を認め、其れを正当化してしまえば、天秤は平行どころか大きく『闇』に揺れてしまうだろう。それはきっと……取り返しがつかなくなる程の災害になる」
「……まあ、何はともあれ、だ。文月達や、僕達が抱えているその想いを貫き通す為にも……先ずは、誰も死なすわけには……いかない。それだけは、確かだな」
――あの時守れなかった、霞の向こうにいる『彼女』
(「いや……あれを守り切れなかったのは……俺、か?」)
その答えは未だ見つけきれていないけれども……今は。
「黒焔!」
何かを振り切る様に紅閻が手綱を操って指示を下すのに、咆哮する黒焔。
そのままウィリアムの氷塊を易々と蹴って飛び上がり、桜吹雪を撒き散らす少女達に向けて突進する。
突進してくる紅閻達に向けて、顔色を変えた少女達が鋼鉄の桜の花弁を生み出して、矢雨の如く解き放つが。
「コードG! 彼女達を、焔の浄化で焼き尽くしてあげて!」
紫蘭の隣で状況を見てとった暁音が叫び、其れに応じる様に魔導ナノマシンが集い、巨大なティラノザウルスの姿を作り。
そのまま全てを焼き払う光の粒子と化した焔が吐き出して、鋼鉄の桜を焼き。
――そこに。
「逢魔が辻……。ヒトの世で言うなら淀み、じゃな。……負の力が溜まり過ぎてしもうて、手に負えなくなっとる代物、か」
白蘭の前に立ち、彩天綾を翻す祥華。
瞬間、祥華の全身が漆黒の闇で覆われていく。
吹雪を撒き散らす事で花弁を散らし、援護を続けていた冥風雪華もまた、漆黒に染まる。
冥風雪華が更に勢いを増した吹雪を吹散らし、彼女達を凍てつかせるその間に。
朱色から漆黒に染まり始めた、自らの耳飾りに軽く手を触れて。
「朱雀! 焼き払うのじゃ!」
消火が鋭く命じて、四聖獣が一柱、朱雀を空に召喚した。
『キュィィィィィィィィッ!』
召喚された漆黒に染まった朱雀は嘶きと同時に、空中から炎のブレスを叩きつけ。
『ぐっ……!』
鋼鉄の桜花弁を呼び出した『彼女』達を焼き払い、その動きを牽制するその間に。
「……俺には、君達が闇の儘であっていいとは思えない。何よりも、人々を救おうと、自らの犠牲を選んだ君達が」
黒焔の加速による摩擦熱を刀身に帯びた『宵』を統哉が一閃。
同時に、雅人も退魔刀を抜刀して凪払いと共に、彼女達の一部を切り裂き。
「イザーク!」
更に紅閻が叫ぶと、フォースイーター・イザークがケタケタと笑い声を上げながら、彼女達の喉元に齧りついた。
喉元を食らわれ、流血し、悲鳴を上げる彼女達。
だが、それでも決して折れぬ意志を持ち、容赦なく鋼鉄の桜吹雪を叩きつけてくる彼女達の姿を見て。
「まあ、キミ達が悪人だと断罪はしないよ。少なくとも被害者ではある訳だしね♪」
からくり人形達を操り、その手に持たせた投げナイフに獄炎を纏わりつかせつつ。
クラウンが軽く肩を竦めて道化の笑みを浮かべ。
「でも、同情も出来ないよね。結局は自分達が選んだ道な訳だから」
そう呟き、投げナイフに纏わせた117個の獄炎の焔を解き放った。
其れはまるで生き物の様に蠢き走り回る、神々しき光を放ち、激しく燃える焔。
「さぁて、楽しい、楽しいBattle Start! だよ♪」
からかう様なハミングと共に。
パチリ、とウインクをしつつ、自らの指に繋がった10体のからくり人形の手から威勢に獄炎の炎を纏った投げナイフを射出させる。
冬季の黄巾力士や灯璃の銃撃で其の体に穴を穿たれ、ゴボリ、と足下に血の海を滴らせていた少女達に投げナイフが突き立つとほぼ同時に。
投げナイフの刃先を覆った獄炎(慈愛)の焔が、彼女達に纏わり付いた時。
「It’s Show Time!」
――パチン!
クラウンが指を鳴らして、その焔で彼女達の心身を燃や(癒)す。
燃や(癒)しの獄炎を浴びて、その心に纏わりを燃や(癒)され、案山子の様に棒立ちになった彼女達を見て、クラウンが笑う。
「何故、人が争うのか、キミ達には分かっているのかい?」
そのまま飄々とした調子で尋ねられたクラウンの其れに。
『何……?』
彼女達が首を傾げるのにクスクスと肩を振るわせて、クラウンが笑い、大仰に手を空中に向けて広げて見せた。
「それはね、自由意志があるからさ♪ こうしたい、あれはだめなんて意思を押しつけたり守ったりするから争うのさ。争いがないところ何て、管理された環境だけさ。面白いもんだよね♪」
「……この里にて、起きた悲劇については聞いた」
からかう様なクラウンの其れに。
クラウンの獄炎を封じ込めるべく空から降り注ぐ桜の花弁がウィリアムの氷塊で遮られるのを確認し、美雪が溜息を漏らす。
『……そう。どんなに綺麗事を述べようが、負のサイクルが繰り返されると宣おうが、全ての事の始まりは、お前達生者……! それは何もこの里のことだけではない……! 私達をゴミの様に扱った生者達のあの過去もまた……!』
「……ある者が引き起こしたであろう、大火による悲劇。そして……何時果てることもなく、繰り返した過去の戦争。誰もが其々の『正義』を掲げ、人々に不和と争いの種を撒いている」
(「成程。だから彼女達が私達の前に立ちはだかっているのか。生者によって、虐げられ、理不尽に殺された同胞として」)
そう内心で今までの話と彼女達の境遇を確認し、美雪はその先の言葉を続けた。
「……それは、ある者が引き起こしたであろう大火による悲劇。そして、輪廻転生による優しさに救われなかった人々の怒りが、影朧生み出さぬと尽力した桜の精達へ、礼をするどころか、理不尽にも襲い掛かり。その様な仕打ちを受けた幻朧桜と桜の精達を救う為に生み出された天秤と呼ばれる秩序に付いての話をな。……確かに、其の理不尽に対するあなた達の非難は正当なものだ」
『……その通りよ。でも、それを知りながら、何故、貴女達は、私達を止めようとするの!? 悲劇を、理不尽を他者に蒔く生者達は、自分達の体に其の記憶を刻み込まれない限り、永遠にその事を忘れて幸福を享受する。……何も知らず! 知ろうともせず! その知ろうとしない事そのものが、罪であり、これは無知への正当なる罰だというのに、それを如何してあなた達は妨げようとするの!?』
其れはまるで、魂を奮わせる様な。
悲劇を少しでも癒す為の尽力への返礼に、人々に理不尽な仕打ちをされ、『疲れ』てしまった嘗ての『桜の精』達の想いの代弁。
彼女達の思いは――私達には、痛い程分かる。
似た様に生者の我儘の為にこんな力を持たされ裏切られ、処分された私達には。
「……全くだな。それは生者のあまりにも醜い所業だ。そして、それに怒りを抱き、目には目を与えるべくこの世界に影朧として黄泉還った貴殿等の無力感、其の絶望は……察するにあまりある」
(「寧ろ、嘗ての桜の精達の無念を共に晴らそうとするべく戦っている『彼女』達だ。そう言う意味では、彼女達の主張は一理あると認めざるを得まい……」)
その美雪の胸中を読み取ったかの様に。
クラウンの獄炎(慈愛)の癒しを受け、少しだけ心穏やかになった影朧の少女の1人が、美雪に向かって手を差し伸べた。
『ならば、私達と一緒に来て。安心して。一緒に来てくれるのであれば、私達は貴女を殺さない。只……私達の求める理想に、その優しさと力を貸して』
「……!」
思わぬ其の呼びかけに、美雪が其の紫の瞳を大きく見開く。
(「……そうか。彼女達は、生者と死者で世界を等分することを求めている」)
だから、自分達の力になってくれるの『生者』であれば、無駄に殺す必要はない。
美雪が少女達から差し出された手に、その身を強張らせ、思わず息を飲んだ時。
「なるほどー。これは手強いですねー」
その言葉と、共に。
――轟。
不意に、風雷を纏った635本の呪詛の矢が戦場を奔った。
635本の風雷の矢は、ウィリアムの氷塊に絡め取られていた桜吹雪達を風と共に射貫いて弾き飛ばし。
風に舞い散っていた彼女達の桜の花弁と、美雪とのやり取りの間に吹雪いた桜吹雪を吹き飛ばす。
その、風雷の呪詛の矢を解き放った人物は……。
「……義透さん」
詰まっていた息を思わず吐き出しながらの美雪の其れに、すみませんねーと好々爺の笑みを浮かべて義透が頷き返した。
風雷の矢を解き放った、灰遠雷から漆黒の棒手裏剣に持ち替えて、その手裏剣の刃先を、彼女達に突きつけつつ。
「彼女達が求める世界……本当の平和で安寧で、公平な世界なんですけどねー。そもそも其れが存在するためには今を生きる人を間引かなければいけないわけですからねー。つまり、其の今を生きる人達にとっての『本当の安寧』を、破壊するんですよねー、それ」
その義透の糾弾に。
「早々、馬県さんの言うとおり♪」
パチパチと心からの拍手を送りながら、獄炎の焔で統哉達を燃や(癒)しているクラウンが道化の笑みを浮かべて首肯した。
そんなクラウンに軽く手を振り、義透が、ですがねー、と軽く肩を竦めて見せた。
「人々はゆるりとでも変化し生きていくんですよー。少しずつ、ほんの少しずつ争いのない、良い世界にしようと努力をするのですよー。管理された環境ではなく、必ず変わるこの世界の中をですねー。そして其れこそが、本当の意味で、平和で安寧って事なんですよねー。ですが……貴女達の行為の結果、世界は本当に平和で安寧になるんですかねー?」
その義透の言の葉に、眉間に眉を寄せながらネコ吉が無理だな、と静かに頭を横に振った。
その身を焼かれる彼女達を癒すべく放たれた桜吹雪が、義透の風雷によって吹き飛ばされる様子を見つめながら。
(「誰かの傷を高速治療するユーベルコヲド、疑似幻朧桜の癒し……。けれども、其れを使うために、費やされるのは自分自身の生命力……」)
――それは正しく、矛盾以外の何物でもない。
そう……この影朧達の想いを救済するために用意されたと言うシステム……。
「天秤と同様にな。誰も傷つくことのない真の安寧を願いながら、其のバランスを保つ為にと、人にも影朧にも大きな犠牲を強いらせる。義透の言うとおり、生者達にとって今、生きている事で受けている『本当の安寧』を破壊しようとする。そんな破綻したシステムで、平和と秩序に満ちた世界が作れるとは、俺には到底思えないぜ」
「……そうだな」
そのネコ吉の確認に。
ウィリアムの氷塊で受けきれなかった鋼鉄の桜を、濃紺のアリスランスで貫き。
灯璃や冬季の敵を寄せつけぬ爆発の花を上空から降り注ぐことで躱した桜吹雪を淡紅のアリスグレイヴで一閃した陽太が頷いた。
(「……柊も最初は、彼女達に思いを寄せていたんだよな」)
――この哀れな少女達に、深い、深い同情を。
今ならば、彼が如何して思いを寄せる事が出来たのかが、何となく分かる。
何故ならば……。
「……俺の力も、誰かによって持たされた可能性がある……みたいだからな」
其の記憶は朧気で儚く、真実は未だ忘却された記憶の中だけれども。
そして、何故そんな存在を彼等は……生者達が生み出すのか。
其の理由は……。
「生者の欲望は、生者自身の『いのち』を賭けない限り、貪欲なものだからな」
戦争に兵を駆り出す者達は、その言葉や態度を以て、民を戦場に送り込む。
だが自分達は決して戦場に立つ事なく、安全な所から高みの見物をしているのだ。
――前線に出ている者達が常に晒される死への恐怖や痛みを知る事などなく。
「……だからよぉ、てめぇらの糾弾も理解出来るんだ。だが……てめぇらもそろそろ知るべきなんだ」
――無辜の『いのち』に力を持たせ、後悔する者達や、犠牲となった命を悔やみ、鎮魂しようとする者達の想いを――。
『戯言を……! そうやって甘い言葉で私達を操り、お前達はまた、私達を裏切るのだろう!? 國の為、民の為と私達を戦わせようと仕向けた生者達と同様に……!』
――轟。
獄炎の焔が、否定の言葉を叩きつける『彼女』達の体を包み込む。
それは心身を燃や(癒)す焔を敵味方の区別なく撒き散らすクラウンからのサイン。
その戦場を燃や(癒)す獄炎が、美雪の心を漸く少しだけ落ち着けさせてくれた。
「……そうだな。確かに私達の言う事は、甘言や、綺麗事にしか聞こえないだろう。だがな。悲劇を悲劇で返しても、死を死で連鎖させても、それは平等をどころか、緩やかな世界の破滅にしか繋がらないのだよ。……義透さんの言う緩やかな平和の中での進化。其れとは逆のベクトルを貴殿等の行為は引き寄せてしまうんだよ」
――それは、美雪の出身世界……UDCアースで現実に起きた歴史という名の記憶。
戦争による破壊は何も生み出さず、全ての者達の安寧を奪う愚行に過ぎないと言う事を連綿と証明する真実。
「……貴奴等は件の里の残留思念ではなく……その者達に惹かれて、共に歩む道を選んだ影朧達、か……」
(「……となると、やはり貴奴等を何処からか呼び寄せた者が居る筈じゃ。それとも、この逢魔が辻の中心自体が、そうなのかのう?」)
逢魔弾道弾。
意図的に逢魔が辻を作り上げるその弾道弾が使用された形跡こそないが、此処まで急速に逢魔が辻が広がった……広げたモノは何処にある?
美雪達の懸命な説得に揺り動かされる少女達の方を、翡翠の瞳を鋭く細める様にして見つめながら、祥華が『神薙』と意識をリンクさせる。
桜吹雪が降り注ぐよりも更なる高みで待機していた『神薙』が、『識神』と意識を同調させ、千里眼の如く逢魔が辻を見通そうとする。
その一方で。
「……白梟。何か見えるか?」
統哉と雅人を黒焔に乗せたまま、一撃を加えてその場から一度離脱した紅閻もまた、祥華と同様、上空に飛ばしていた白梟の目を借りていた。
(「……いや。直ぐに見つかる筈もない……か」)
そう軽く自嘲し息を静かに吐く紅閻。
桜吹雪を巻き起こす幻朧桜の林による桜吹雪による概念侵食を実行していた桜花の脳裏にも、ふとした思考が浮かび上がる。
(「たった百年で溜め込む情念にしては、薄いのでしょうか? それとも、彼女達が伊邪那岐命の系譜、昔のフォーミュラの残滓で無い事を喜ぶべきでしょうか? 解りかね、決めかねますけれど……」
只、それでも。
此れだけの言葉を叩きつけられ、其れでも戦意の全てを失うことなく、尚も鋼鉄の桜吹雪を解放し続ける、彼女達に言えることはある。
それは……。
「義之さんや、陽太さんの言う通り、元々生命は、存在する事に貪欲です」
その桜花の言の葉が。
放たれた全てのオブリビオンが転生できると言う概念と共に、美雪達の言葉に揺らぐ、『彼女』達の心を侵食していく。
その攻撃に微かに身をよじらせながらも尚、反撃を試みようとする彼女達に思わず桜花は完爾と笑った。
「これだけの目に遭わされても、まだ抵抗しますか。そうなるととてもではありませんが、私達と共存は出来ませんね。まあ、共存出来ねば完膚なきまで潰し合うものですが、一応聞いておきましょう。貴女達は……死である事に、驕って居ませんか?」
そう桜花が静かに問いかけた、正にその時。
「本人達は気付かなくとも、本当はそうかもしれないね。でも……その死んでいる事に驕り、全てを背負って戦おうとするその辛さや、苦しみは、晴らしてやらなきゃいけないんだ」
その言葉と共に。
ウィリアムが戦場全体に展開していた氷塊の影から影を渡り歩く様にして、彼女達の背後を取っていた響がブレイズランスを一閃した。
再び解き放たれた燃え上がる響の魂の形……『紅』の炎が彼女達を炙り、大きくその身を傾がせる。
「アタシは、アンタ達にこれ以上、そんな辛い役目を背負わせやしない。勿論アンタ達を裏切り、騙すつもりもない。アタシ達が……アンタ達が抱えているその負の連鎖の悲しみを断ち切ってやるから……そろそろ、休みな」
燃え上がる闘気の焔の中で、静かに言い放つ響の其れに。
『未だよ……! 私達の友……寂しがりやの彼女達の為にも、私達は負けられない……!』
呪詛の様な呻きと、信念を混ぜ合わせてそう叫び。
『彼女』達が桜吹雪と、鋼鉄の桜花弁を、紫蘭・雅人・白蘭に向けて解き放った。
●
「護鬼丸!」
『識神』と意識を同調させていた祥華がその気配に気が付き、咄嗟に懐の『護鬼丸』を封じ込めていた漆黒の札を取り出し、解き放つ。
「……! Active Ice Wall、Priorityを祥華さんと護鬼丸、白蘭さんへ! この氷塊の盾を使ってください!」
戦況を見て取ったウィリアムが咄嗟に叫び、護鬼丸が其れに応じて近くに集まってきた氷塊を纏めて一抱え。
そのまま巨大な氷の盾として、解き放たれた鋼の桜の花弁を受け止め、更に周囲の黄巾力士達が黄巾の結界の出力を最大にした。
「ふむ……ぎりぎりと言ったところでありんすのう。じゃが……」
――ブォォォォォォォンンッ!
その言葉と共に。
手に持っていた尺八を白蘭が力強く吹き鳴らす。
音によって生み出された音楽の波が、衝撃と化して、鋼とぶつかり合い、その場で音を立てて弾きあったその瞬間。
「黄巾力士隊、一斉射撃」
冬季が命令を下すと、白蘭の周囲に展開されていた9体の黄巾力士が一斉射撃。
鋼など易々と貫通する徹甲弾を叩きこんで鋼の桜花弁を破砕させ、続けざまの一斉射撃が肉薄しようとした彼女達を撃ち抜いた。
『くっ……貴様等……!』
それでも歩みを止めようとしない彼女達に。
「……ごめんな」
小さく謝罪を告げて、横合いから割り込んだ敬輔が黒剣を振り抜いた。
「俺には、こんな方法でしか、君達を止めることが出来なくて」
放たれる白光でその魂を照らし出して精神を縛る鎖を断ちながら、敬輔は呟く。
「だがな。負の想念を平等と称して生者に返しても、この世界では皆、負に囚われ堕ちていくだけなんだ。だから……せめてこの世界の流儀に則って君達は一度、幻朧桜に導かれて還るべきだ」
敬輔のその呟きに口惜しや、と言う様に敬輔を睨み、白蘭を狙った少女達がその場に頽れる。
そこにクラウンの獄炎の炎が放たれて、束縛の鎖を断ち切られた彼女達を燃や(癒)し、静かな眠りにつかせていった。
「お休み、可愛いお嬢さん達♪ 次はもっと幸せになれる事を願っているよ♪」
道化の様な笑みを浮かべてからかう様に告げるクラウン。
その間にも黒焔と其れに跨る雅人を別の少女が鋼の桜吹雪で殺そうとするが。
「……ダメだ。やはりこのまま君達が影朧であり続けることを……俺には認める事なんて、出来ない。沢山の苦しみを、痛みを背負い、苦しみを抱え続ける儘なんて……其れこそ放っておくわけには行かないんだ!」
それよりも早く叫びと共に、統哉が漆黒の大鎌、『宵』を一閃した。
宵闇の如き漆黒の大鎌の刃先で煌めく一条の星彩の輝きが光と化して、彼女達の鋼の桜を切り裂き。
「そこですね……狙い撃ちます」
空から粉雪の様に降り注ぐ桜吹雪をウィリアムからPrirorityを譲渡してもらった灯璃が氷塊で防ぎ。
右手で構えたMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"の引き金を引き、統哉を狙った少女の腕と足を撃ち抜いた。
突然の二連続の正確無比な射撃に撃ち抜かれ、無様に転倒した彼女の胸に。
「……ごめん」
と雅人が静かに退魔刀を突き立てる。
銀刃を突き立てられビクン、ビクン、と痙攣を起こして震える彼女の中に、雅人が注ぎ込むのは破魔の光。
それで彼女に止めを刺して、重苦しい息を吐いた雅人に、四方八方から少女達が全てを焼き尽くす炎をその掌から撃ち込もうと……。
「白梟! 雅人を守れ!」
紅閻が命じると、上空の白梟が雅人を狙った少女達に白光のブレスを吐きかけて。
「黄巾力士隊、一斉射撃」
上空から戦況を見下ろしていた冬季が冷静に指示を下し、雅人達の周囲に展開していた黄巾力士隊が彼女達に向けて一斉射撃。
放たれた徹甲炸裂焼夷弾によって爆発の花が咲き、彼女達の一部を消失させたところに雷光が走る。
それは上空の冬季による、雷公鞭による一閃。
雷光を伴ったその一閃が、問答無用で生き残りの少女を容赦なく叩き、少女はその小柄な体を雷で吹き飛ばされた。
そのままウィリアムの氷塊に激突し、がっくりとうなだれその場に頽れる。
「すまない、助かったよ、冬季さん」
「いえ、同じ學徒兵として助力した迄です。……いっそ、ユーベルコヲドで一掃して貰った方が簡単かもしれませんが」
そう告げる冬季の其れに、雅人が軽く苦笑を零して、肩を竦めた。
「其れも1つの手だったんだけれどね。実は戦いの前に可能なら温存して欲しいと、統哉さんにも、敬輔さんにも釘を刺されているし。それに……」
そっと、その胸の中にしまい込んだ陽太から預けられた『スパーダ』が封じ込められたデュエリストカードを見て苦笑する。
「できれば彼女達には納得して転生してもらいたい。ならば、それまでは今できる精一杯で戦うだけさ」
「成程。そう言う事でしたら、ユーベルコヲドの使用を無理強いする理由はありませんね。既に、ほぼ大勢は決している様ですし」
「まっ……そういう平等な癒しは、ボクにお任せってのもあるだろうしね♪」
鷹揚に冬季が頷くそれに雅人が微苦笑混じりに頷き返したところで、クラウンが呼び出した地獄(慈愛)の焔が傷ついた彼女を包み込む。
その肉体と心を燃や(癒)す焔に包まれて、少女達が生気を抜かれたかの如くペタンと尻餅をついた、其の頃。
『未だ私達は、この世界の歪みを正していない! その歪みを、秩序を正し、真の平和な世界を作り上げるその為に……! 『光』の精! あなたも、私達と一緒に行きましょう!』
その祈る様な願いと共に。
戦闘能力の残された『彼女』達が、最後の力を振り絞る様にして、その手の疑似・幻朧桜の枝を高々と掲げ揚げた。
「くっ……ギリギリ間に合いませんか……!」
ネリッサが其れに気が付き、咄嗟に炎の精達を使役するが、それよりも一歩早く鋼の桜の花弁が紫蘭を襲う。
けれども。
「……駄目ですよ、こんなこと。奪われたからと言って自分達が奪い……ううん、取り返すなんて辛い役目を、あなた達が背負う必要なんて、何処にもありません」
その鋼の桜吹雪に割り込む様に。
風の妖精、シルフィードの様な身軽さで飛び込んだ奏がエレメンタル・シールドを突き出しそれを防御。
強烈な痛打が奏を襲わんとするが……。
「ネリッサさん。今なら……!」
「ええ。感謝しますよ、奏さん」
その鋼の桜を受け止めた奏の呼びかけに頷いて。
構えていた愛銃、G19C Gen.5の引き金を引いた。
愛銃の銃口から放たれた銃弾が戻ってきた炎の精達がぶつかる事で温度を上げ、溶解させたその箇所を撃ち抜き、鋼の桜を粉砕する。
(「そう言えば紫蘭さんは、天秤の『光』と呼ばれる存在。彼女達……天秤の『闇』を撃ち倒した時、彼女はどうなるのでしょうか?」)
ふと、胸中に湧き上がってきた葛藤に、微かにネリッサが逡巡した時。
『何故! 何故私達の攻撃が、貴様達に届かないの!? 何よりも……紫蘭! 何故貴女は、世界によって定められたレールを只、言われるがままに歩き続けることが出来るの!? それでは、世界には何の変化も……幸せを齎す事なんて、出来ないと言うのに!? レールの上を走り続けた私達を待っていたのは、絶望と私達の死と言う犠牲だった! そんな数多の屍の上に作り出された偽りの平和の中に、如何して貴女は立ち続けているの!?』
その『少女』達の糾弾に。
「……お前達のその抗い」
紫蘭が何かを言うよりも僅かに早く、眉間を皺に寄せたまま、ネコ吉が呟く。
「その抗いによって誰かに犠牲を強いる行為。それによって犠牲を強いられた人々と、お前達が犠牲になったその事実、どこが違うんだ? 誰も犠牲になどしたくはないのに……何故、お前達は生者に犠牲を強要する?」
そのネコ吉の呼びかけに。
『そうしなければ、分からないからよ! この世界の平和を維持し、其れを徒に、無為に甘受している人々の足下にどれだけの犠牲が……死体が転がっているのかを!』
「……それは、その通りだね」
彼女達の返答にそう応えたのは、暁音。
ティラノザウルスの如き巨大な恐竜型の生物に、浄化の焔を吐きつけさせ、共苦の痛みが絶え間なく伝えてくる痛みに耐える少年。
「でもね。悪いけれど、少なくとも俺は、何かを護る為の犠牲を是とする人間なんだ。そして残念だけれど、君達の奪い取って帳尻を合わせようという考え方には賛同出来ない」
そう告げて。
巨竜型、ナノマシンに浄化の焔を吹き付けさせながら、暁音は続ける。
「確かに俺達の世界は、多くの犠牲によって成り立っている。だが、それを奪う事ではなく、癒す事でその犠牲の痛みを減らすことが出来るシステムが、この世界には常識として存在しているんだ。君達もその輪の中に戻りさえすれば、何時かその痛みも苦しみも、忘れることが出来るだろう」
『それでは、歴史は繰り返す! 生者はその痛みを忘れ、また無自覚に私達の様な弱者を犠牲にする! そんな世界が本当に正しいと言えるの!?』
その彼女達の悲痛な叫びに。
ふと、何かを思い出したかの様に。
「……そう言えば、この国の古い言葉では、影とは光そのものを指すらしいな」
ネコ吉がそう呟くのに、彼女達が微かに戸惑った表情を見せた。
『何を……?』
「少なくともお前達は、オブリビオンではなく、『影』朧と呼ばれている。つまりお前達は、ある意味では光そのもの。……世界に新たな秩序を齎す『闇』とは違うものだと思うよ」
そのネコ吉や、暁音の言葉を引き取る様に。
「理不尽を繰り返したくないからこそ世界を救いたいと願ってくれた、君達の想い」
紅閻が『白梟』の目で、祥華が『識神』の目で、ある場所を凝視し。
見えそうで見えない何かを探る紅閻に代わって、黒焔の手綱を後ろから雅人がとるその間に、統哉が粛々とそう告げた。
「そんな皆の想いを、魂を、未来へと繋ぎたい。影朧として、この世界に留まり続ける『闇』としてではなく……転生して、誰の犠牲も必要としない世界へと変えていくその為に」
『転生をすれば、全ての記憶はリセットされる! 其れでは何も変わらないわ! それこそお前達の言う未来に、私達の様な犠牲者達のいる世界を知らせることが出来なくなる! ならば、私達はこの重荷を背負い続けてでも……!』
「……それじゃあ、駄目なんだよ」
その彼女の言の葉に。
漸くの想いで口を開いた紫蘭の其れに、彼女達が何!? と色めき立つ。
「そこに留まり続けても、本当の意味で、変わることは出来ないの。それに、例え、転生して記憶を忘れてしまい、魂が浄化されても尚、残る想いと言うのが、私達にはあるの。何よりも……それが、私がここに来た理由だから」
『……』
その紫蘭の呼びかけに。
「そうですよね。全てを奪われ、その理不尽を背負い続ける事……そんな十字架を背負い続けなくても、魂の中に刻み込まれた記憶は、思いは受け継がれる。紫蘭さんが、その胸に羽根を身に着けて、この世界に生まれ落ちたのと同じ様に……」
そう奏が彼女達に告げ。
「ですから、今はもう休んでください。何時かまた、あなた達があなた達の想いを、その魂に刻まれた優しさを、ヒトとして誰かに教えることが出来る様に」
瞬が奏の言葉を補足する様に呟いて、六花の杖を突き出し、再び630本の氷晶の矢を解き放つ。
解き放たれた矢が次々に彼女達に突き刺さり、その場に縫い留められた、その刹那。
「……雅人。お前がこいつらに望んでいる、本当の願いを……!」
陽太の叫びに雅人が頷き、陽太から預かっていたカードを取り出し、そして……。
『スパーダ!』
陽太と雅人のデュエリストカードを通しての召喚が完成した。
声が重なった瞬間に現れたのは、捻じれたふたつの角を持つ漆黒と紅の悪魔達。
――グルァァァァァァァァッ!
叫びと共に姿を現した2体のスパーダの周囲には、1000本近い白き光纏った短剣が浮かび上がっている。
「スパーダ……!」
自らが呼び出したスパーダに祈りと願いを込める様に水晶の守り刀……自らの両親に授けられた其れを握りしめる陽太。
その陽太の破魔と浄化の想いが水晶の刀身持つお守り刀を通して、スパーダの手に持つ紅の短剣を白色に染め上げ……。
「あの子達を……!」
そう雅人が、召喚された2体のスパーダに呼びかけようとした、その時。
『ふざ……けるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
血涙を流しかねない程の勢いで絶叫し、上空に桜吹雪を召喚、それをスパーダに叩き付けようとする少女に向けて。
「もうこれ以上、生きている人々を苦しめる様な真似は止めて下さい! いや……朱雀門の名に賭けて、これ以上はやらせません!」
そう怒鳴り返した瑠香が物干竿・村正を再び振るい、待機を振動させる衝撃の波を解き放つ。
解き放たれた衝撃が、ウィリアムの氷塊にぶつかって次々に反響して巻き起こした音の衝撃波で、桜吹雪をいなされた時。
「頼む!」
雅人が陽太から預かったスパーダ達に呼びかけると。
『ゴルァァァァァァァァッ!』
2体のスパーダが咆哮し、合わせて2200本の幾何学文様の刻み込まれた白光に包み込まれた短剣を戦場に雨の如く降り注がせた。
短剣が次々に彼女達に突き立ち、桜花の概念によってダメージを受けていた彼女達の存在を次々に浄化・転生させていく。
どことなく非日常的な、圧巻のその光景を声もなく見ていた美雪が、
「……転生する前に1つだけ、貴殿等に伝えておこう。この里の事実を隠蔽した者は、その事を悔やみ……その贖罪の為に、生者として今も尚、戦い続けていると」
告げたそれが、新たなる生を生み出す魂の存在へと浄化され、転生する少女達が最期に聞いた言葉だった。
●
「ふー……此が最初の相手ですか-」
消えていった彼女達の姿を見送って。
軽く息を吐き、まるで汗が滲んでいるかの様にそっと額を腕で義透が拭う。
そんな義透の様子を見て、白蘭がさて、と軽く小首を傾げた時。
「……紫蘭さん」
漸く、人心地付いた頃合いを見計らっていたのだろう。
腰に両手を当てて、額に青筋を浮かべた暁音が低い声音で、紫蘭へと呼びかけた。
本来であれば、暁音の方が、紫蘭を見上げる形になっているのだが……。
何故か、見上げた金の瞳に爛々と光っている何かを見て、紫蘭は何となくぎくりと腰が引け、ちょっぴり泣きそうな表情になった。
「……な、何……?」
恐る恐る、と言う様に紫蘭がそう、暁音に問いかけた直後。
――バチコーン!
暁音がハリセン形態に変形させた星具シュテルシアで紫蘭の頭を1発ぶん殴る。
「あ、暁音さん!?」
突然の暁音の紫蘭への一撃に、思わず目を瞬かせる瑠香。
一方、紫蘭はいきなりの奇襲に、パーカッションを鳴り響かせ、目から火花を飛ばしていた。
「え……ええ……?」
今だ混乱収まらぬ、と言う様子の紫蘭を、暁音が鋭く睨め付け、そして。
「……例え、彼女達に呼ばれていたのだとしても、何で君は、単独行動を選んだの?」
そう叱責した、その瞬間。
「……あっ……その……」
と、何処か気まずげに目を虚空に彷徨わせる紫蘭を睨みつつちらりと自らの目の端に雅人と白蘭を捉える暁音。
「……1人で出来る事なんて多くないんだ。何より、何かを救いたいなら誰かに頼ることも覚えなきゃ。そもそも、君が死んだら悲しむ人がいるんだから、其れを決して忘れちゃいけないよ」
「……う」
其の暁音の言葉に決まり悪げに雅人と白蘭へと視線を移す紫蘭。
紫蘭のその様子に、雅人が静かに首肯し、白蘭が処置なし、とばかりに手団扇で風を入れている。
とは言え、2人が任務だろうが、紫蘭を案じて助けに駆けつけた事実は覆らない。
そんな皆の想いを無駄にしてしまう事に思い至らなかった事に赤面して、紫蘭が何となく恥ずかしそうに顔を俯けた。
「ええと……ご、ごめんなさい……」
そう小さく謝罪の言葉を告げる紫蘭の様子を見て、取り敢えずは良いか、と言う様に軽く頷く暁音。
――と……此処で。
「ふむ……皆のもの、喧嘩は其の辺りにしておくでありんすよ」
『識神』と視覚を共有し、周囲を千里眼で眺めていた祥華が窘める様に声を掛ける。
祥華の注意を喚起する様な呼びかけに、美雪が微かにほっとした表情を浮かべ、祥華の方を見やり。
「如何した、祥華さん」
「いや、『識神』を通じて空からこの逢魔が辻を確認しておったのじゃが……何かが誰かに呼びかける様なそんな気配を感じたでありんすよ」
その祥華の呟きに。
白梟の目を通して地上を見ていた紅閻がううむ、と軽く腕を組んで唸る。
「何故、この逢魔が辻が発生したのかは僕も気になった。それで……あるものがちらりと見えた気がした」
「あるもの、ですか?」
紅閻の其れにウィリアムが軽く首を傾げると、ああ、と軽く紅閻が頷いた。
「まるで、その……この逢魔が辻の中心点に向かって、血流の様に何かが流れ込んで行っている……そんな流れを」
「……竜脈に乱れが生じているのやも知れぬでありんすな。それが此処まで逢魔が辻が急速に拡大した原因になっているのか迄ははっきりとはせぬが、どうにも嫌な予感が拭えぬ」
そうしたり顔で頷く祥華の其れにネリッサがでは、と軽く言葉を紡ぐ。
「……やはり白蘭さん達には、ユーベルコヲドをまだ温存しておいて貰った方がいい、と言う事ですね。その、何か油断ならない竜脈の流れがあるのでしたら」
「……そうだな」
其のネリッサの言葉に同意する様に頷いたのは、敬輔。
(「それでも次の戦いでは、転生の為の鍵になる力は、使う必要がありそうだけれども……」)
この先迄続いている逢魔が辻。
其れは逆に言えば、それだけ中心部へと近付いていくことを意味する。
今回は運良く陽太と雅人の呼び出した2体のスパーダや、クラウンの獄炎の炎で彼女達は転生されてくれたが……。
(「次もそう上手く行くとは限らない……よな」)
そう敬輔が内心で呟いた、其の刹那。
――たすけて。
不意に、誰かの声が、逢魔が辻の奥から響き渡った。
「えっ……?」
瑠香が思わず、と言った様に目を瞬き、さりげなく周囲を見回すと。
「たすけて」
同様の声が辺り一帯に響き、更に暁音の共苦の痛みが灼熱する様な痛みを発する。
「こんな所に、私達以外の生存者がいるとは思いにくいですがねー。まあ、私は悪霊ですので、一度死んではいるのですが-」
のほほんとした笑顔を浮かべつつ義透が軽く冗句を飛ばすと、灯璃がそうですね、と軽く頭を縦に振った。
「この先に、誰かが生きているとは思えません。となると影朧の類いでしょうが……それにしても、『たすけて』とは……」
「今回の件、一筋縄ではいかないそうだしな。用心するに越したことはないだろう」
灯璃の其れに、紅閻が頷いた所で。
「……行こう」
紫蘭がそう呼びかけると、雅人と白蘭が頷き、その声のした奥へと向かって行く。
そんな紫蘭達の後を追う様にして……ウィリアム達猟兵もまた、更に奥へと進むのであった。
大成功
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第2章 集団戦
『人々の心に潜む小さな影朧』
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POW : おともだち
自身からレベルm半径内の無機物を【不安を掻き立てる異形の人形】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD : いないいない
見えない【エクトプラズム】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
WIZ : こんにちは
【みなさんの傍ら】から【無限に増殖する不安】を放ち、【圧倒的な絶望】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:透人
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「たすけて……たすけて」
逢魔が辻の、其の奥から。
苦しみを抱え、嘆きを発しながら現れた少女達の姿に、紫蘭が思わず息を飲んだ。
「あなた、達……」
一瞬、心臓が止まってしまうのでは無いかと思う程に押し寄せてくる死への恐慌にその胸を塞がれてしまう紫蘭。
何故なら、彼女達は……。
――紫蘭が初めて世界に生まれ落ちた時に感じた、死の恐怖そのものだったから。
その紫蘭の想いを、知ってか知らずか。
「いっしょに行こう」
「わたし達、友達になろう」
「わたし達は殺された」
少女達が口々にそう言葉を紡ぐのに、からからに乾いた喉で、紫蘭が問いかける。
「とも……だち……?」
その紫蘭の問いかけに。
少女達は茫洋とした表情の儘、そう、と静かに囁き掛けた。
――悪魔の睦言の如き、甘美な響きを宿したその声で。
「わたし達は、痛いの、熱いの、苦しいの……。このくるしみを、ともだちに与えられたの」
「ひどいよ……どうして……どうして……? わたし達は只、この世界に未練を残して苦しむ皆の、心だけでも助けられたらと思っただけなのに……」
その、影朧と化した少女達の言の葉に。
「……」
紫蘭は何も言い返せず、只、身に纏ったスカートの裾を、きつく握りしめるのみ。
「いたいよ、くるしいよ、こわいよ、ひどいよ……このくるしみからたすけてよ」
その少女達の哀しい……あまりにも哀しく悲惨な、其の記憶を。
逢魔が辻に映し出された大火の記憶を見て、雅人が思わず溜息をついた。
「……ずっと、君達は苦しかったんだな」
――理不尽に、其の命を奪われて。
誰かを救う為にした事が、最悪の形で報われる……其の痛みと、苦しみが。
そう、雅人が問いかけた時。
「ちがうの。わたし達は、救って欲しいだけなの。わたし達から理不尽に奪われたともだちを。わたし達の、生きる理由を。ただ、誰かに救って貰いたいだけなの」
――でも。
「きっと、今のあなた達じゃ、わたし達を救うことはできないよね。でも……何時迄も一緒に居られることは出来るから……」
――だから。
「わたし達をたすけて下さい。私達の傍に、いて下さい……」
その、祈る様な少女達の言の葉とほぼ同時に。
――ドクン。
逢魔が辻を流れる竜脈が、大きく唸った。
その唸りが光の奔流と化して、大地から、彼女達に注ぎ込込まれる光と化して、消えていく。
――それは、『ともだち』の痛み。
――わたし達と一緒に行こうと決めてくれた『ともだち』が、受けた痛みと、それを与えたその力を。
――この逢魔が辻とわたし達を産んだ竜脈に記録された、戦いの経緯とその傷を。
何よりも、わたし達の『ともだち』を奪った『罪深き刃』に対する知識を。
わたし達にあの御方は与えてくれている……。
「だから、だいじょうぶ。みんなの事を、わたし達は決して忘れない。これからもずっと、ともだちの皆とずっと一緒にいるから」
――だから。
「みんな、見守っていて。もうすぐ、わたし達が新しいともだちと一緒に同じみちを歩く其の時を」
そう『誰か』……いや、『何か』に囁き掛け。
見る見るうちにその動きを明らかに先程よりも良くした少女達を見て。
「あっ……ああ……!」
紫蘭が、悲痛と恐怖の綯い交ぜになった悲鳴を上げる。
――いけない。
そうなってしまったら、貴女達を救う事なんて、出来なくなってしまう。
そう紫蘭が内心で呟いた、其の時。
――カチリ。
と鍔の鳴る奇妙な響きが、辺り一帯に響いていた。
その鍔を鳴らした主……雅人は、少女達を静かに見つめている。
「……そうだね。僕達は確かに、君達から全てを奪った」
――でも……いや、だからこそ。
「僕達は、君達を救わなければいけないんだ」
その、雅人の呟きに。
「ああ……そうでありんすね」
何かを悟ったかの様に重苦しい溜息を吐く白蘭。
「そうでありんすね、雅人。確かに此は、残された事を糧に成長したお主にこそ、必要な儀式なのかもありんすね」
そう小さく溜息を漏らして。
身構える白蘭に短く頷き、紫蘭の隣に立った雅人が。
「……皆、ごめん。僕が何をすべきなのかは感じている。けれども、僕がそれを行うために、彼女達の全てを止めることは出来ないだろうと……そう思う」
――だから。
「すまないが、力を貸して貰えないだろうか? 超弩級戦力……猟兵たる皆の力を。無論、出来る限りで良い。今、彼女達の永遠の命を奪っても」
――それでも。
「彼女達を救済する為に、転生させる方法は、僕達にもある筈だから」
――後悔は、もうしたくない。
自分の選んだ道よりも、もっと最善の道があったと言う後悔を、僕はしたくない。
……無論、僕が選ぶ結末よりも、より良い結末があるのであれば、僕には反対する理由はないけれども。
その、雅人の呼びかけに。
――猟兵達が出した、結論は……。
*第2章は下記ルールで運用させて頂きます。
1.NPCについて。
紫蘭、雅人、白蘭其々に指示を出したり、護衛をしたりすることが出来ます。
この章で護衛をしない場合、紫蘭が死ぬ(影朧化する)可能性がございます。
(これは、3章の状況に影響を及ぼします)
其の為、紫蘭を守る事はプレイングボーナスとして扱われます。
尚、紫蘭は指示を出せば下記UCを使用可能です。
使用可能UC:桜花の舞(鈴蘭の舞相当)or桜の癒やし。
尚、特に指示(温存含む)がなければ、桜花の舞を自衛のために使用します。
2.雅人は、下記ルールで運用されます。
a.この戦場から撤退はしません。
b.雅人がこの章中で死亡する可能性は低いです。
c.下記UCを使用することが可能です()内は効果となります。
使用可能UC:使用UC:皆伝・桜花風斬波(【刀】を巨大化し、自身から半径100m内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる)or強制改心刀・閃(【破魔と浄化と霊力】を籠めた【退魔刀による広範囲への一閃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【邪心】のみを攻撃する)
d.特に指示が無ければ、皆伝・桜花風斬波を使用します(強制改心刀・閃は、未だ使われたことのない技のため、指示が無いと使用しません)
3.白蘭。
a.この戦場から撤退はしません。
b.この章中で死亡する可能性は低いです。
c.白蘭が使用可能なユーベルコヲドは下記となります。
使用UC:白蘭の魅惑(【魅惑の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能))or白蘭の琴弾(【平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化)
特に指示が無ければ、白蘭の琴弾を使用します。
4.温存。
各NPCのユーベルコヲドの使用を温存するプレイングです。
此を選択すると、その【章】の難易度が変わる可能性がございます。
【温存】と【UC使用】のプレイングが来た場合、UCに関してはより良いプレイングを採用します。
MS判定ですので、温存する、しないは自由に選択して頂いて構いません。
【温存】+NPC名で、誰のユーベルコヲドを温存するかを指定できます。
5.見切り。
この章の少女達は、前章で転生させられた少女達の知識を引き継いでおります。
其の為、第1章でPC及びNPCが使用したUCを無効にします(温存されたUCにはこのルールは適用されません)
但し、第2章から御参加頂く方のユーベルコードや、第1章で使われなかったUCについては、見切りの対象外となります。
また、第3章では、この『見切り』のルールが適用される事はありません。
因みに、MSが前章で何のUCを皆様が使用したのかは記録しておりますので、安心してそれ以外の行動を行って頂いて構いません。
『見切り』のルールを利用したプレイングを敢えて行って頂く事も構いません。其の分、攻略難易度が上昇します。
6.第2章からご参加頂く方のUCに『見切り』のルールは適用されません。
もし、お望みであればどう言う形で登場するのかをプレイングに記載して頂ければ、出来る限り採用させて頂きます。
7.各NPCの死亡確率はルールの通りですが、護衛や心のケアを行う事により、生存確率を上げることが出来ます(此は、プレイングボーナス扱いです)
但し、全NPCをPC1人で守ろうとした場合、それだけ、プレイングボーナスの効果が薄くなりますこと、予めご了承下さいませ。
――それでは、最善の結末を。
*ルール追記。
5.見切りについて。
見切りの対象には、デュエリストカードの様な、『そのUCを使用する事で発動するUC』も含まれます。
何卒、宜しくお願い申し上げます。
鳴上・冬季
「拐って庇え、黄巾力士」
「UCを今使わせないためです。恐怖や怒りでUCを使えば、貴女はきっと後悔します。逢魔が辻を生んだ首魁との戦いはこの後です。首魁を消さねば、彼女達は何度でもこの世に引きずり出される。今に囚われ過ぎれば、彼女達を真に救う機会を失いますよ?」
黄巾力士に紫蘭を掴ませ634mまで巨大化
自分も風火輪で飛行して黄巾力士の手に飛び乗り紫蘭が絶対落ちないよう抱え込んで紫蘭を一時的に戦場から隔離
黄巾力士にはオーラ防御で自身と紫蘭を庇わせ自分は竜脈使い黄巾力士強化
継戦能力高め黄巾力士が敵に落とされないよう敵の遠隔地操作で紫蘭が引きずり落とされないようフォロー
「貴女が落ち着いて物事を考えられるようになったら、勿論下の戦場に連れていきます」
紫蘭の頭を抱え込んで自分の心臓の音を聞かせ
「命が流転することで魂は磨かれます。私は仙になるまで7度転生しました」
「本当に誰かを救いたいなら。貴女は貴女に天秤の衝動を与えた誰かの思惑を超えて動けるようにならなければならない。残された時間は長くありませんよ」
天星・暁音
紫蘭さん、俺が言ったこと覚えてる?
もう一度、言うよ
優しいだけじゃダメなんだよ
その優しさを支えるには、力も大事だけど何より心が強くなくちゃダメ
相手の痛みと悲しみに立ち向かい受け止め救いたいと願うのなら
相手の痛みと悲しみに呑まれていては何も出来ない何も成せない誰も救えない
残酷だけれどそういうものなの
使命何かで戦わなくて言いって言ったのも覚えてる?
今の紫蘭さんはどう思う?
彼女達を救いたいのは桜の精としての使命?それとも紫蘭さんが決めた事?
自分で決める
これは大事なことだよ
敵の妨害をしつつ味方はNPC含めて全員を回復します
護衛としては紫蘭さんについて常に庇える様にしておきます
スキルUCアイテムご自由に
灯璃・ファルシュピーゲル
・【SIRD】一員で密に連携
・NPCにはUC温存方針で要請
ともだち、ですか…不思議ですね。助けてと言いつつ、一ミリも信じてないから、その身を預ける事も出来ないのに、友達だと言うんですか。随分と一方的な友情もあったものですね。
まずは指定UCを発動、NPCさん達、主に紫蘭さんに迫る人形とエクトプラズム操作の物を監視し、速射出来るARで即応迎撃(情報収集・見切り・援護射撃)と同時に敵の動きを監視し、仲間の死角から迫る攻撃も警告しつつ迎撃する事で、仲間の近接戦闘を支援する
増殖する不安に対しては、任務への集中と過去の多くの任務を通しての兵士として守る為に恨まれる事への覚悟を持って対抗(戦闘知識・覚悟・呪詛耐性・狂気耐性)
味方が注意を引いてくれている場合や、敵の数が減ってきたら
敵本体の頭部集中で狙撃(スナイパー・鎧砕き)を断続的に仕掛けダメージの蓄積と人形作成妨害を狙いつつ確実に数を減らして殲滅するよう戦います。
…猟兵を恨んだとしても、貴方々が友と呼ぶ人達は信じるべきでしたね。
※アドリブ・絡み歓迎
亞東・霧亥
雅人:強制改心刀・閃を使う
新世界の技術を磨いてたら出遅れた。
丁度良い、此処で使ってみるか。
雅人のUCは敵の邪心のみを断つ。
過去に囚われた心を邪心と括って良いか分からぬが、物理的にも精神的にも苦痛を上塗りするよりは、たとえ強制でも負の連鎖を断ち成仏する方が幾分マシだろう。
雅人と【UC】で波状攻撃
雅人の振るう刃を阻害せぬ様、彼に降り掛かる様々な不安の嵐を多様な球種を駆使して相殺する。
*硬球は装備のクリエイトフォースを『武器改造』で変化させて複数用意し続ける。
セットポジションもフォームも無視したチート野球だが、それなりに役に立ったな。
世界観を無視するから多用は出来ないな。
アドリブ・共闘歓迎
ウィリアム・バークリー
誰の心にもある闇の具現でしょうか、彼女たちは?
ここで彼女たちを討滅しても、きっとそれは残り続ける。忘れてはいけない痛みとして。
あなたたちの事は忘れません。だから安らかに輪廻の輪に戻ってください。
原理砲顕現。スチームエンジン、影朧エンジン、接続。トリニティ・エンハンスで攻撃力強化。Spell Boost。仮想積層魔法陣全力展開。氷の「属性攻撃」を選択。Mode:Final Strike。攻撃力五倍、移動力を二分の一。発射シークエンス完了。威力三倍でIdea Cannon Full Burst!
極大の「レーザー射撃」を「全力魔法」で放ち、原理砲を振るって面で薙ぎ払います。
どうか苦しまずに転生を。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
パーティーは始まっちまったみてぇだが、どうやら間に合ったらしいな。
ま、大盤振る舞いのパーティーらしいし、たっぷりスコアを稼がせて貰うぜ。
後方の狙撃に適した地点を複数選び出し、占位してUCで狙撃を行う。当然、此方の位置を悟られない為に、射撃位置がバレそうになったら別の狙撃ポイントに移動。無線等を利用し、SIRDメンバーだけでなく、他の猟兵のも含め、射撃指示があったら狙撃にて支援。
正直、敵の感情や考えなんぞ俺の知った事じゃねぇよ。仕事だからな。敵だから倒す、それだけさ。
人の死、特に戦場での死に、意味や価値なんざねぇよ。あるのは、原因と結果だけだ。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
…話は平行線ですね。そうなると、最早闘争しか残された道はありません。
この事態を引き起こした責任の一端が我々猟兵にあると言うならば猶更です。これはいわば、Coup de grace――こちらの世界風に言えば、武士の情け。最早倒す事でしか、我々に責任を果たす術はありません。
但し、まだ望みがない訳ではありません。その為にも可能な限り、SIRDは時間を稼ぎます。
紫蘭さんを護衛しつつ、G19とUCで敵を迎撃。恐らく、まだ先がある筈ですので、紫蘭さんのUCは可能な限り温存を図る様勧めます。
…所詮我々猟兵の手も、血に塗れているという事ですか(溜息)。
アドリブ・他者との絡み歓迎
吉柳・祥華
そうかそうか苦しいか悲しか痛いか…熱いか
その感情と感覚は妾も知っておるぞ
妾はな、自ら生み出した子等達をこの手で壊したのじゃ
そして、跡形もなく燃やしつくしたのじゃ
何故か、じゃと?
何故じゃろうな?
どうしてじゃと思うかえ?
お前たちを、そんな風にしたのは誰じゃ?
知っておるのじゃろ?
ほら、云うてみ?
そのスベテヲ…妾が受け止めてあげようぞ?
※UC発動
彼女らに同調も同情もせぬ
それぞれの感情や感覚はその者しか分からぬ故にのう
(我が半身を殺され
本来なら二人で受け持つはずの…我が子等達の感情と感覚を妾一人で受け止めなくてはなり、辛かった苦しかった悲しかった。でも一番は…そんな風にしか導けなかった妾自身を…呪った。赦せなかった…)
識神は引き続き情報収集を『彼女』たちを動かしたと思われる“ナニカ”を索敵・追跡・偵察を
神凪もそのまま上空待機
精神をリンクさせて上空から“目”として
護鬼丸も引き続き白蘭を
冥風雪華は妾と一緒に『紫蘭』の元へ
時として堕ちそうな紫蘭を抱き締めてみたり?
その間
龍脈を浄化と退魔しつつ鎮めるのじゃ
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可能)
この影朧は・・・確か3年前、紫蘭が桜の精に生まれ変わって初めて遭遇した子達と同じ影朧か。確かに恐怖そのものだろうね。
白蘭の護衛に入る。アンタも大変だねえ。見守る子がヤンチャだと。私にも凄く覚えがある。(目の前で奮闘する子供達を見て)援護するよ、一緒に乗
り越えよう。
白蘭の前に立って飛んでくるエクトプラズムを【範囲攻撃】【怪力】【気合い】で力任せに薙ぎ払ったり、薙ぎ払いが間に合わないなら情熱の炎で焼き払う。隠密の技は使わない。無用に姿を隠したら白蘭に危険が及ぶからねえ。
一応【戦闘知識】で動きを読んで【残像】で回避するが。
白蘭に攻撃が来たら積極的に庇うよ。
白夜・紅閻
紫蘭!
気をしっかり持て!!
呑まれるな、お前はなんの為に此処へ来たのか、思い出せ!
そして描け、自分が此処で何をすべきなのか、をだ。
大丈夫だお前は独りじゃない、雅人も白蘭もいる、これまでお前と関わった者たちがお前を助ける。
俺は救えなかった、助けられなかった…
残された者、そうせざ得るなかったの気持ちは、よく知っている
今此処で諦めたら、また…雅人が、そして彼女たちも救われない
だから、心を強く、そして吞まれそうになっても、今のその感覚を受け入れるな
(イザークとレーヴァテインは元は一つの核、これらを2つ同時に重ねることで…アレを呼ぶことも可能だろう…。初めての試みだが、大丈夫だ…これまでの戦いでこいつらも経験値が上がっていると思う)
今一度、お前たちを一つに。安心しろ…俺が足らないモノを埋めてやる、来い!!
――叫べ、イザークよ、唸れ…レーバテイン!!(UC発動)
白梟は引き続き皆の援護を
篁臥は、封印を解いて召喚し、俺のまたは雅人、もしくは近場の猟兵の手足として動かす
御園・桜花
「素晴らしい悪魔のお誘いですね」
「変わりたくないから、他者を引き摺り下ろして自分と同じ境遇に仕立て上げたいと。衝動に支配され、鸚鵡のように与えられた言葉を繰り返す傀儡。紫蘭さん、貴女は彼等をどう思います?」
UC「幻朧桜召喚・桜嵐」
敵には視界不良と幸運・生命力低下
味方には幸運上昇と生命力回復
紫蘭と敵の間に立ち敵の攻撃を盾受けして紫蘭を守る
「逢魔が辻の主が出てくる前に。紫蘭さんにきちんと紫蘭として生きる事がどういう事か、考えていただきたいのです」
「今の貴女は、先程の鸚鵡達と大差ない、光の天秤と言う傀儡に見えます。与えられた衝動の儘に動くだけで、何も考えていない。貴女が死ねば、其の儘闇の天秤に成り代わるだけでしょう」
「転生を望まぬ者に転生を勧めるのは傲慢だと理解していますか?他者を圧し折っても転生を為す傲慢を理解し、その上で最善を為す努力をしていますか?貴女を助けようと伸ばされた手も、貴女が握り返さなければ役に立ちません。刻まれた衝動の儘動くだけでは、貴女は天秤を為そうとした者の駒の儘です」
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
ああ、この影朧は・・・紫蘭さんが桜の精として生まれ変わった日に初めて出会った影朧と同じ姿ですね。ある意味紫蘭さんの始まりでもありますね。
だからこそ、紫蘭さんを支えたい。この事を乗り越えて先へ進めるように。
紫蘭さんの護衛に付きます。紫蘭さんの傍を離れるつもりはないので、移動距離を犠牲にして白銀の騎士で装甲を補強。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】【受け流し】でいつでも紫蘭さんを【かばう】ことが出来るように。
紫蘭さんに接近してくる人形か片っ端から【衝撃波】や【怪力】を込めた【シールドバッシュ】で吹っ飛ばして行きます。
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
ああ、よく覚えてますよ。紫蘭さんが桜の精として初めて出会った影朧と同じ姿ですね。
雅人さん、僕は貴方の進む道を見てきました。経験してきた出来事、貫きたい信念。これから貴方が進む為に。雅人さんの護衛に付きます。
【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【部位破壊】【目潰し】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して飛んでくるエクトプラズムを迎撃すると共に風花の舞で確実にエクトプラズムを落とすように。
雅人さんに攻撃がくるなら【衝撃波】で敵を吹き飛ばします。自分は【残像】【第六感】で凌ぐ。
気休めですが、本体には【慰め】【破魔】【浄化】を込めた【電撃】で攻撃します。転生への助けになれば。
クラウン・アンダーウッド
あの子達のお話を聞いているとなんだか無性にイライラしてくるなぁ。何でだろう?
辛い記憶も、痛みの意味も何もかも。全て忘れさせてあげるよ♪δ、忘却の森!
10体のからくり人形の内の1体であるδにUCを使用させる。
小さな影朧を対象に全てを忘れさせる。
未練ってなぁに?ともだちってだぁれ?覚えてる?思い出せる?気をつけないと、どんどんどんどん忘れてしまうよ♪さぁ、ゴールを目指すかこの子(δの意)を破壊するか好きな方を選んでよ。全力で阻止してみせるからさ!
小さな影朧を煽り、反感を抱かせてクラウンに注意を向けさせる。
この身が滅びるその時まで、やりたいことをやる。それがボクさ!
朱雀門・瑠香
其処らへんは任せますよ、雅人。道は私が!
一点突破でダッシュで接近。呪詛耐性で異形は気にせずその動きを見切って躱し攻撃は武器受けでいなして間合いに入り込み突き立てた一体を起点に周囲にいる敵を範囲攻撃で巻き込んで破魔の力で切り祓います!
お友達に誘い込むとは悪い子たちですね・・・・
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
…この状況、似ているな
紫蘭が転生しスケート場に現れた…あの時と
意図的に用意された舞台の気もするが
指定UC発動
魂の少女たちに強く心を持てと呼びかけつつ
「地形の利用、ダッシュ」+高速移動で影朧たちに肉薄
このUC使用中に少女たちが影朧の感情に呑み込まれたら
間違いなく俺も呑まれてしまうが
目の前の影朧たちの感情の源を掴むために
呑まれる危険を冒して…あえて使う
影朧たちの寂しさの根源は、おそらくあの大火か?
或いは、その後で受けた理不尽な仕打ちか?
根源を「優しさ、読心術」で見極めた上で皆に伝えよう
俺自身は理解した上で刃で斬るしかできないから
少しでも雅人や紫蘭、そして他猟兵が理解するために、
そして…影朧たちが転生するために、手助けに徹しよう
最後には「属性攻撃(聖)、浄化」で鎮魂の意を籠めた「衝撃波」を「2回攻撃、なぎ払い」し影朧たちを一掃
せめて…寂しさから解放されれば
紫蘭
できればUCは温存してほしいが
影朧たちの転生を望むなら
【桜の癒やし】でその根源ごと包んでやってくれ
文月・ネコ吉
助けを求める声か
全てを救いたい、上等だ、今更迷う事はない
紫蘭も雅人も、俺達は一人ではないのだから
それは白蘭、お前さんもまた同じかね
愛弟子を助けに来たんだろう?
偶には師匠らしいところを見せてやったらいいさ
平和を願う白蘭の琴
助けたい、救いたい、その願いは同じであると
紫蘭を雅人を共に戦う仲間達を、勇気付けてやればいい
届けたい想いがあるのなら
俺もまた手伝ってやるさ
状況を素早く観察し、少女達の行動を読む
読心術と八重雨ノ思考なら
見えない攻撃を見切る事も可能だろう
仲間に声がけし連携して行動
オーラ防御と、浄化の力込めた刀で武器受けし
紫蘭や白蘭、仲間達を攻撃から庇い護る
皆で導く転生が
少女達の救いとなる事を祈って
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
紫蘭転生時の状況を知る連中に一応聞いておきたいんだが
この影朧も過去に交戦経験あるとか言わねえよな?
…ってあるのかよ!!
何だか図られている気しかしねえぞ?
見切られる以上スパーダは呼べねえし
アスモデウスで吹き飛ばすなんて無粋な真似もしたくねえ
ここは雅人の護衛に専念しつつ
「高速詠唱、魔力溜め」+指定UCでレラージェ召喚
戦場を混沌空間に塗り替えつつ
俺が仲間と見做した全猟兵+NPC全員の能力底上げだ
影朧が俺に敵意を持てば弱体化も見込めるが過度な期待はしない
…っておい
混沌空間だから何が出てもおかしくねえのはわかってるがよ
幻朧桜が咲き乱れる空間になるってのはどういうことだ?
かつて咲き誇った幻朧桜の残留思念でも具現化したのか?
寂しさや絶望がこれで和らぐかはわからねえが
苦しみから解放するには転生しかねえ
「属性攻撃(聖)、浄化、破魔」の魔力を宿した二槍で「なぎ払い」
せめて幻朧桜に包まれて…転生してくれ
雅人
もし影朧たちの想いをくみ取ったなら
【強制改心刀・閃】で昇華させてやってくれ
馬県・義透
他猟兵との連携を密に。
ふふ、力を貸すのは、当たり前のことですよー。私たちはそのためにいますのでー。
ですが…ここは、属性的にもあなたが適任かとー。
人格交代
第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
武器:白雪林
ええ、任されました。
…陰海月、おいでなさい。紫蘭殿への護衛を命じます。
私は基本的に援護になりましょう。
救うための戦いならば、このUCにて攻撃を。破魔の霊力矢にて、祓いましょう。
そして…見えない攻撃ですか。ですがそれは…『我ら』を構成するものと同じ。気配を読み、四天霊障をぶつけましょうか。
※
陰海月、借りた黒曜山(盾。未来視不可)で専守防衛。がんばるよ。ぷきゅっ。
文月・統哉
紫蘭も、彼女達を救いたいんだよね
防御は俺達に任せたらいい
君は君の信じる道を
彼女達をどうか、桜の癒しで導いて
仲間と連携して紫蘭を守りつつ
オーラ防御と宵を手に
少女達と対峙する
誰かを助けたい、その想いは俺達も同じ
だからこそ抱える苦しみが
辛く悲しいものだと分かる
その苦しみから救いたいんだ
君達を、君達の大切なともだちを
後悔しても過去は変わらない
それでも今を生きる者であればこそ
繰り返す悲しみから未来を変えていく事が出来る
だからこそ、影朧として共にゆくのではなく
俺達に任せて欲しいんだ
どうかもう苦しまないで
君達の想いは
俺達が受け止めて伝えていくから
彼女達を救いたいという強い思いと共に、願いの矢を使用
無限に増殖する不安を破魔と浄化の力で貫いて
温かな光で包み込み
絶望を希望へと変えてゆく
雅人にも強制改心刀・閃の使用を頼みたい
想いと願いを刃にのせて
雅人の成したい事を成す為に
この先に闇の天秤がいるんだね
君達に寄り添い
また君達が救いたいと願うともだちが
大丈夫、きっと救ってみせるから
だからどうか君達も
安らかなる転生を
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
あ、あ~
また見覚えある影朧なんだが…
そういえばスケート場で見たことあるな~
紫蘭さんもおそらく覚えていることだろう
ならばなおさら、紫蘭さんの心は守らねば
無限に不安を増殖され絶望に心を食い荒らされないよう
不安を希望に変えるための手助けをしよう
芸がないと言われそうだが「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UC発動
高らかにマーチを歌い上げて不安を払拭してやるさ
…思うにこれ
紫蘭さんを闇に堕とすための策だろ?
明らかに転生時の状況再現だぞ?
全く、あのお方とやらも意地の悪いことをするものですネ
負の感情に縛られる仲間を増やしても
その感情が昇華され晴れやかになることはなかろう
救ってほしいという割に紫蘭さんを巻き込もうとするのは
やはり彼女を同じ境遇と見做すからだろうか?
まあ、状況再現に留めるつもりは全くないし
彼女らの痛みや寂しさに共感し続けるわけにもいくまい
この地に束縛された彼女たちを解放してやってくれ
NPCのUCは温存したいところだが
流石に1章のようにはいかないだろう
多数派の意見に従うよ
●
「あ……ああ……っ!」
目前に現れた彼女達の姿を見て。
焼き尽くされそうな程の怒りと痛みが紫蘭の全身を駆け巡る。
「紫蘭……!」
背後に紫蘭を庇う様に。
雅人が前に進み出て、退魔刀の濃口を切ったところで。
「ああ、良く覚えていますよ」
そう呟き、六花の杖を構えながら。
赤と金のヘテロクロミアで少女達の姿を見た神城・瞬が、雅人の隣に歩み出る。
「確かに、この状況……似ているな」
そんな瞬と並んで黒剣を両手遣いに構える館野・敬輔の其の呟きに、そうですね、と紫蘭の肩を叩きながら真宮・奏が頷いた。
「……この影朧は……紫蘭さんが桜の精として生まれ変わった日に、初めて出会った影朧と同じ姿ですね」
「えっ、ええっ!? ちょっと待て、お前等!」
奏達の然もあらんという様な呟きに、泡を食った表情になるのは、森宮・陽太。
「あ、あ~……まあ、見覚えある影朧なんだよな……。確か以前、スケート場で見た事ある彼女達だな~」
何処か遠くを見る様な眼差しになって溜息を漏らす藤崎・美雪の其れに、もう、と懐かしそうな表情と共に真宮・響が呟く。
「3年近く前の話なんだよね、あれも……」
「ええ、そうですね。とは言え、あの時はこれ程までにぼく達の誰の心にもある闇の具現にも見える様な彼女達ではなかった気がしますが」
響のそれに軽く頷きながら、ウィリアム・バームリーが口に出した述懐に。
「えっ、ちょっと待てお前等、マジでこの影朧も過去に交戦経験あるとか……言わねぇ……よな?」
恐る、恐ると言った様に、陽太が忙しない様子で確認する様に問いかけると。
「いや……俺達には、あるんだ、森宮」
そっと其の手に嵌めた色褪せた指輪を撫で。
漆黒の外套を翻る様に脱ぎ捨てて漆黒の獣を召喚した白夜・紅閻のそれに。
「……ってあるのかよ!?」
そう陽太が突っ込みを入れるのに、『識神』の空からの目で竜脈の流れを感知しながら、𠮷柳・祥華が軽く頭を横に振る。
「じゃが……そうか、そうか。苦しく、悲しく、痛く……熱い、か」
意味ありげにそう呟く彩天綾で軽く口を覆い隠す様にする祥華を見て、やれやれ、とクラウン・アンダーウッドが軽く肩を竦めた。
――プップププー、プッププ、プップププー!
そのクラウンの胸中に靄の様に漂い始めたそれが音と化したか。
クラウンの周囲に展開されていた人形楽団の奏でる旋律に明らかな濁り……苛立ちがあった。
「いやはや、いやはや、ボクらしくなくて申し訳ないんだけれどさぁ……」
何処かもったいぶった口調で呟くクラウンのそれに。
「如何しましたか?」
朱雀門・瑠香がすっ、とその赤い双眸を細めながら問いかけると、クラウンは皮肉げな笑みを浮かべて目前の敵を見ていた。
「いやぁ、あの子達のお話を聞いているとなんだか無性にイライラしてくるんだよねぇ。何でだろうね?」
「それはきっと、彼女達が素晴らしい悪魔のお誘いをしてくるからですね」
クラウンのそれに、完爾とした笑みを浮かべ。
桜鋼扇を閃かせ、何時でも幻朧桜を呼び出せる様に身構えた御園・桜花がバッサリ切る。
「変わりたくないから、他者を引き摺り下ろして自分と同じ境遇に仕立て上げたい。衝動に支配され、鸚鵡の様に与えられた言葉を繰り返す傀儡。そんな奴等に苛立たない理由はないでしょう。そう思いませんか、紫蘭さん?」
その桜花の問いかけに。
「ああ……ううっ……!」
嘗て、初めて戦いに巻き込まれた時の恐怖、何の力も持たず、意志も希薄だった頃のトラウマに紫蘭は首を横に振った。
(「まあ、無理もないか」)
そんな紫蘭の様子を見て、微かに胸が引き裂かれそうな想いを胸に抱きつつ、文月・統哉がそっと息を吐く。
「紫蘭、大丈夫だ。君の思いは俺達も良く分かっている。きっと彼女達を救いたいんだよね。だけど、心が落ち着かない。それならその間は俺達が君を守る」
そう統哉が言の葉を紡いだ時。
「拐って庇え、黄巾力士」
鳴上・冬季が短く命じた、刹那。
自らの側近として作り上げられた宝貝・黄巾力士が見る見る内に巨大化し、紫蘭の背を掴む様にして空中へと掴み上げた。
「紫蘭さん!? 冬季さん、紫蘭さんを如何するつもりですか!?」
ほぼ不意打ちに等しい冬季のそれに息を呑みつつも、咄嗟に奏が黄巾力士の上に飛び移りながら叫ぶ。
その奏の叫びに、今は、と冬季が自らの足に嵌め込まれた風火輪から風と炎を射出して飛翔。
「先ずは紫蘭さんの心を落ち着かせるのが最善だと思ったまでです。今のまま……嘗てのトラウマから呼び起こされた恐怖や怒りに駆られて戦えば、彼女はきっと後悔します。其の後悔が分からぬ程ではないでしょう、奏さん」
その冬季の何処までも冷徹なそれに。
「そうだね」
星具シュテルシアを箒型に変形させて、それに跨がり、空に浮かび上がりながら。
共苦の痛みが伝えてくる肉が削げ、骨が灰になる程の焼ける様な灼熱感を感じながら天星・暁音が静かに首肯する。
「今の紫蘭さんに、その心を確認しても、本当の答えを聞くことは出来ない。それならば、其の答えが聞ける時まで落ち着くのを待った方が良いだろうな」
「暁音さん……。分かりました。ならば、私は其の時まで紫蘭さんをこの命に替えても守り抜いて見せます!」
暁音のそれに、覚悟を決めて頷く奏。
そんな奏の言葉を嘲笑うかの様に。
「わたし達をたすけて下さい。わたし達の傍に、いて下さい……」
哀願する表情で懇願する様に呼びかけながら、全身から可視化出来ない原理の解明すら出来ない流動体を放出する。
其の目に見えない何かから、懇々と溢れ出す湧水の様に戦場全体を覆い尽くさんと忍びより、展開されていく不安。
無限に増殖し、その心を乗っ取らんとする其の不安が、波の様にひしひしと押し寄せてくるのを感じながら。
「……話は、平行線ですね」
出来うる限り、平静さを保った口調でそう呟いたのは、ネリッサ・ハーディ。
其のネリッサの呟きに美雪がそうだな、と溜息を漏らした。
「……無限に押し寄せてくる不安に心を食い荒らされ、最後には絶望には心が絶望に覆われる……か。やはり、あの時と同じだ」
――紫蘭を自分達……天秤の『闇』の側に堕とす為に行われたあの作戦と同様の。
と言うよりも……。
「明らかに今回の状況、紫蘭さんが転生した時の状況再現だよな。それだけ彼女の存在は、天秤の『闇』にとって何処までも必要な要素なのか」
「……それが、彼女達が言っている『ともだち』の真意、ですか……」
軽く頭を振る美雪の其れに、目頭を押さえ静かにそう呟くは、灯璃・ファルシュピーゲル。
灯璃の持つJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioに新しく入ってきた2人の人影の存在を確認しながら。
(「……来てくれましたか。ですけれど……」)
「……不思議、ですね」
その怪訝そうにも何処か悲しげにも聞こえるそれに。
「なにが、なにが……?」
そう少女達が首を傾げて不安をばらまくその姿に、灯璃がそっと溜息を漏らす。
その間にも何時の間にか周囲を取り囲む様に押し寄せてくる不安。
それは、得体の知れない何かと戦う者であれば、誰もが感じるモノだろう。
波の様に押し寄せる不安が肌をざわつかせる感触を、確かに感じ取りながら。
「助けてと言いつつ、『私達』を救う事は出来ないと決めつける。つまり、貴女達は、貴女達が『ともだち』と呼んでいる者達を1ミリも信じていない」
その不安から目を背けるべく、今目前にある事実を解析し、それに対して1つの刃を突きつける灯璃。
その脳裏を過ぎるのは、嘗て受けてきた多くの任務において、巻き込まれた人々を守る兵士として、敵に恨まれる事への覚悟。
(「それでも、私達が救ってきた人々の多くは、最後に私達を信じてくれました」)
――そう。彼女達の様に……。
「誰かに自分達の身を預ける事も出来ない癖に、相手をともだちとは……随分と歪んだ、一方的な友情ですね」
「違う。あの子達は、わたし達のともだち。だから、わたし達はわたし達をたすけてくれる人達が、わたし達に何をしようとするのかを理解出来た。わたし達がしあわせになる為には、たすけが、傍にいてくれる、大切なともだちが必要だって」
少女達の呼びかけに。
「……随分と一方的な言い草だな。だが、お前達の傍で友達になる事で、俺達はお前達を救う事は出来ない」
灯璃に同意する様に、文月・ネコ吉が目を細めて鋭く呟く。
――けれども。
「それでも、雅人。お前は……彼女達の望み通りの形ではないかも知れないが、全てを救いたいと……そう思っているんだろう?」
そうネコ吉が雅人に確認する様に問いかけると。
「ああ……その通りだ」
頷き、銀刃閃かせる退魔刀を雅人が抜刀したのを見て。
思わず口の端に笑みを浮かべて、上等だ、とネコ吉が頷く。
「全てを救う事に、今更迷う理由は無いしな。紫蘭も、雅人も、俺達も、1人ではないんだ。やってやろうじゃないか」
「ふふ、ネコ吉さんの言うとおりですねー。ふふ」
そう口元にのほほんとした好々爺の笑みを浮かべて頷いたのは、馬県・義透――『疾き者』、外邨・義紘。
「力を貸すのは、当たり前のことですよー。私達は、其の為にいますのでー」
そうのほほんとした笑みを浮かべた儘に告げる義之の表情が、忽ち冷静沈着……落ち着いた微笑を浮かべる者へと纏う気配を変えていく。
「だからこそ、此処は私が任されましょう。彼女達の魂を救う、其の為にも」
そう告げて。
白い雪の様な長弓……薄らと青白く光輝く、白雪林を構える義透――否、『静かなる者』――梓奥武・孝透。
……そして。
「……雅人。お前の覚悟、この目で確かに見させて貰ったぜ!」
その気合いの入った声と共に。
ひゅん、と目にも止まらぬ速さで振り抜いた魔球が、雅人の周囲に漂う不安を搔き消す様に解き放たれる。
放たれたクリエイトフォースで作られた魔球が雅人の周囲に着弾し、雅人と瞬の心に生まれかけていた不安を雲散霧消。
そのまま音も無く雅人の隣に立ったのは……。
「……亞東さん、来ていたのですか」
特別に驚いた訳ではないが、目を瞬かせつつ、ネリッサが霧亥に呼びかけると。
「ああ。新世界の技術を磨いていたら出遅れてな。まあ、丁度良い肩慣らしになりそうだ」
そう告げて、軽く口の端に微笑を浮かべる霧亥のそれを、聞いていたかの如く。
――ズドォォォォォォォーン!
一発の銃声が戦場に響き渡り、それが少女達の1人の頭を綺麗に撃ち抜いていた。
撃ち抜かれた少女の様子に気がつき、雅人が銀刃を一閃、その邪心を断ち切り、少女の1人の孤独な魂を転生させた時。
「なに……なに……?!」
突然の状況の変化についていけなかったか頭にいっぱいの疑問符を浮かべて戸惑いと恐怖と不安の表情を少女達は隠せぬままでいたのを見て。
「……へっ。パーティーは始まっちまったみてぇだが、間に合ったらしいな」
予め選りすぐった狙点の1箇所にSV-98Mを配備していたミハイル・グレヴィッチが好戦的な獣の笑みを浮かべて呟く。
そのSV-98Mの銃口からは白煙が浮かび上がり、同時に、此処なら良いだろう、と言う様に器用に1本の煙草に火を点けた。
狙撃の最中の一服は、相手に自分の位置を悟らせる危険を孕むが、それ故に、緊張と背徳的な感覚がカクテルとなって格別に美味い。
煙草を吹かす音も、パーティー云々の発言もネリッサと灯璃の耳には届いていた。
思わず微苦笑を綻ばせて肩を竦めつつも、気を取り直したネリッサがG19C Gen.5の銃口を少女達に向けて構える。
「たすけて、たすけて……! わたしたちと一緒に、いつまでも、いて……いてよ……! わるいことをしたみんなは、かいしんして、わたしたちのともだちになってくれるものでしょう!?」
その少女達の悲鳴の様な呼びかけに。
「……そうですね。或いは物語であれば、そう言った事も有りうるかも知れません」
銃を構え、口の端に浮かべた笑みを戻し指揮官としての落ち着いた表情を取り戻したネリッサが淡々とそう呟く。
――けれど。
「ですが、これは物語ではありません。現実で有り、そして事ここに至って私達が世界の秩序を護る為に、あなた達の要求を受け入れることもありません。そうなれば、残された道は1つ。闘争のみ」
――ましてや……それが。
「あなた達の言うとおり、この事態を引き起こした責任の一端が、我々『猟兵』に在ると言うならば、尚更でしょう。謂わば――Coup de grace――日本風に言えば、武士の情け。つまるところ、我々が其の罪を贖い、責任を果たすためには、あなた方を倒し、この場で転生させ、救済する事しかないのですよ」
――先程戦った彼女達は、この大火の悲劇を起こしたのは自分達猟兵だと言った。
それが事実かどうかを確かめる方法は最早残されていないが……そうであるのであれば、その罪を贖う為に出来る事は……。
「キミ達から、その辛い記憶も、痛みの意味も、何もかも。全て忘れさせて上げる事なんだよね♪」
そうクラウンがピュイ! と口笛を吹くと同時に。
10体のからくり人形が1体……δがその姿を曝け出し。
「だから、ボクは、ボクの戦いをするよ。δ! 忘却の森! ……Good Night、影朧!」
――パチン。
とクラウンが指を鳴らすや否や。
戦場が全てを忘れさせる幻朧桜の樹海の迷宮を作り、彼女達を永遠の迷路の中に押し込んだのが、この戦いの始まりの合図となった。
●
生み出されたのは、全てを忘却の彼方へと追いやる幻朧桜で織りなされた樹海。
その迷宮を見守る様に、上空から弓を構えて迷宮を見下ろす、緑の狩人。
「……超常空間の満ちる、混沌空間を作る様、契約したての悪魔を呼び出したがよ」
その言葉と共に。
ダイモン・デバイスの銃口を戦いの始まりと共に天に向けて突き出し、其の引金を引いた陽太が呟く。
「そのレラージェが作り出した空間が、クラウンのδが作り上げた樹海の迷宮と悪魔合……融合するとは流石に想定外だったぜ」
そんな、陽太の苦笑交じりの思惑とは別に。
「たすけて……たすけて……!」
全てを忘れ去る魔力を受けても尚、助けと言う名の本能を叩き付ける影朧達が、次々に不安を生み出していく。
増殖する無限の不安と、更に其の不安を掻き立てる異形の人形。
そして、目に見えない謎の流体、エクトプラズムを天の紫蘭に向けて放射して、紫蘭を地上へと堕とそうとする、その間に。
――ガルッ!
篁臥が咆哮し、紅閻の指示通り、ぐい、と自らの背に乗る様、顎をしゃくった。
それに頷き、素早く篁臥に騎乗する雅人と霧亥と陽太。
そうやって雅人達が騎乗するその間に。
「転生とかそう言うのは任せますよ、雅人さん! 道は私が切り開きます!」
叫びと共に深紅の光と化して大地を蹴って飛び出す瑠香。
少女達の呼び出した、見るだけで人の心に不安を掻き立てる異形の人形が其の目前に無数の壁となって立ち、瑠香を遮る。
その後方では、バサリと開いた桜鋼扇を翻し、周囲の迷宮の幻朧桜達から、桜吹雪を吹雪かせる桜花と。
「道を切り開く、其の為なら、ぼくは!」
空中の巨大な魔法陣から魔導原理砲『イデア・キャノン』を召喚、取手を掴み、アクセルの如く現れたペダルに足を掛け。
「『イデア・キャノン』……セーフティー解除、魔法力の充填を開始……」
ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、鍵の様に『イデア・キャノン』に突き立てるウィリアムの姿。
『スプラッシュ』に搭載された影朧エンジンとスチームエンジンが唸り、コンソールに大規模儀式魔法用の詠唱が刻まれていく。
――ドクン。
ウィリアムが『イデア・キャノン』に収束していく巨大な精霊力にまるで歓喜の声を上げるかの様に、竜脈が脈動と共に唸った。
その姿を『識神』の目を借りて見つめていた祥華が思わず息を1つ飲み。
「ウィリアム! 魔法の重ねがけは止めた方が良いでありんすよ!」
反射的にそう声を上げていた。
「えっ……!?」
思わぬ祥華の叫びに、ウィリアムが咄嗟に風の精霊達を収束させるのを中断しようとするが、僅かにそれは間に合わない。
「わたし達のともだちを奪ったその力は、もう、わたし達のモノだから」
その言葉と共に。
迷宮の力で記憶を薄れさせている筈の少女達の本能に刻み込まれたそれと同時に少女達の1人が金髪を翻す。
翻すと同時に無数の髪の針がウィリアムに飛び、その両肩、両足を貫いていく。
それは、正に精霊達に助力を乞い、『イデア・キャノン』の出力を更に上げようとした詠唱を中断させるに十分だった。
「ぐっ、しまった……! 見切り、ですか……!」
『イデア・キャノン』のコンソールにエラーと走り、再チャージ中と文字が流れる。
(「これは……時間が掛かりそうですね……!」)
そうウィリアムが、内心で歯軋りをするその間にも。
「くっ……瑠香さん、1人で飛び込むのは危険だ!」
敬輔が全身に白い靄を纏い、ダン、と大地を蹴った。
白き光と化した敬輔が自らの黒剣に宿る『少女』達と意識を同調させ、影朧達の感情の奥底を探るべく、大地を擦過させた黒剣を一閃。
放たれた斬撃の白靄が影朧の少女達の体にぶつかり、同時に魂に同調している『彼女』達の悲鳴が敬輔の心を抉る。
「ああ、そうか……あなた達は、寂しくて、辛くて、こんなに悲しい思いを……」
その悲しい想いの根源に触れる『彼女』達から止め止め無く入ってくる感情の波に脳を揺さぶられ無意識に涙を零す敬輔。
「わたし達は、たくさん、たくさん、奪われたの。大切なともだちも、こころも、何もかも。わたし達は、ただ、すくいたかった。それだけなのに、どうして全部をとられなければならなかったの?」
悲鳴の様な少女達の其の嘆き。
その心を覆う絶望が、痛みが、苦しみが、裏切りの其の全てが……迷宮をも飲み込まんばかりの不安を増殖させ、増大させていく。
「くっ……皆、この絶望に、悲しみに飲み込まれてはいけない……!」
『彼女』達が飲み込まれようとしているのに気がついた敬輔が、脂汗を滲ませつつ呻く様に自らの纏う白き靄に警告するのを見て。
「……これは、空中に避難させておいたのは不幸中の幸いでしたね」
容赦なく念動の様に叩き付けてくるエクトプラズムを、巨大化した黄巾力士がぶつけられてよろめくのを仙術で支えながら呟く冬季。
周囲に張り巡らした黄巾の結界が辛うじて直撃を防いでいるが、もしそれが、一発でも紫蘭に直撃すれば、彼女の墜落は免れない。
そうやって墜落し、この不安に取り込まれ、絶望に身をやつせば其の果てにあるのは何で在るのかはこの場に居る誰にでも想像がつく。
――だからこそ。
「紫蘭さんは私が支えます。この事を乗り越えて、紫蘭さんが先に進める様にする其の為にも……出でよ、『白銀の剣』!」
叫び、自らの風の妖精の名を冠するシルフィード・セイバーを高々と掲げる奏。
掲げられたシルフィード・セイバーが白銀色の輝きを伴い、長大な長剣と化して、白と緑の混ざり合った結界を呼び出し。
それと光と風の精霊達の力をエレメンタル・シールドに乗せ、自分と紫蘭の周囲に張り巡らして、エクトプラズムを受け止めた。
その間にも。
「SIRD……一斉射撃、開始します」
ネリッサが抑揚のない声でそう呟き、其の手のG19C Gen.5の銃口に水色の魔法陣を展開していく。
その胸に納めていた小型情報端末MPDA・MkⅢのコンソールには、『大いなる白き沈黙の神の吹雪』と文字が浮かび。
「あなた方から見た時、私達が『罪人』なのであれば、其の贖罪を果たすのもまた、私達の意志です」
繰り返す様にそう呟き、600本の刃の様に鋭く研ぎ澄まされた氷柱を一斉放射。
更に、それに合わせる様に。
冬季の黄巾力士や、紅閻の白梟の目を借りた灯璃が。
「……全ての記憶が失われようとしても尚、友達を求める其の執念。其の執念……いや妄執に、紫蘭さん達を奪わせはしませんよ」
冷静にそう呟いて、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引き。
――ズドォォォォォォォーン!
その後方からSV-98Mから弾丸が叩き出される轟音が戦場を震撼させた。
600本の氷刃が、瑠香の前を遮る人形達に突き立ち、次々に人形達を切り裂いて。
セミオート射撃で連射された灯璃の弾丸が、瞬く間に少女達を撃ち抜いていく。
そうして切り開かれた道をミハイルのボルトスナイパーライフルによる一発の狙撃が閃光の如く走り、少女達の1体を射貫いた。
「ぐっ……!」
『少女』達がその少女から感じ取っていた感情から新たな苦痛と言う概念が齎され、敬輔が軽く脳震盪を起こすが。
(「こんな所で、この闇に飲まれていては……!」)
――彼女達の心を解する等、不可能だ。
その虚仮の一念とでも言うべき感情でどうにか態勢を立て直す敬輔。
そんな敬輔が手信号で送ってきた暗号をちらりと見て。
「そうか、そうか。苦しいか、悲しいか、痛いか……熱いか」
祥華が口々に罵りと共に告げた感情を思い出し、もう一度それを唇に乗せる。
何処か……酷く悲しく、寂しげな笑みを口の端に浮かべながら。
「妾もな、其の感情と感覚は痛い程知っておるぞ。自ら生み出した子等達を、この手で壊し、そして、跡形もなく燃やし尽くしたのじゃからな……」
その祥華の言葉を代弁するかの様に。
桜花の呼び出した桜吹雪が吹き荒れる眼下の戦場に向けて、冥風雪華が其の全身から氷嵐を吹き付けたのは、偶然か、それとも必然か。
上空から降り注ぐ氷嵐に、人形を盾に紫蘭に向けて放たれようとしていた新たなエクトプラズムの周囲の空気を凍てつかせる。
例え可視化できずとも、戦場そのものを凍てつかせれば、届くよりも前に全てではなくとも無力化することは出来よう。
「どう……して……?」
その寒さにか、それともトラウマを抉られる恐怖からだろうか。
震えた声でそう問いかける紫蘭のそれに、微かに溜息を漏らす祥華。
「……何故じゃろうな? どうしてじゃと思うかえ、紫蘭。疑問に対して誰かに解を聞くのではなく、それに自ら解を出すことも時には必要な事じゃ。お主とて、何度かそれをやっているではないのかえ?」
「……それは」
何かを思い出すかの様にそう呟く紫蘭のそれに。
「紫蘭さん」
星具シュテルシアを箒から杖形態へと変形させながら、黄巾力士の紫蘭達の反対の肩に乗り、星具の先端を大地に向ける暁音が問う。
「……何?」
震えながらの紫蘭のそれ。
未だ、完全に心の瑕疵は癒えていないのか、と判断しつつも暁音は胸中に溜め込んでいたものを口にする。
「俺が言ったこと覚えている? 優しいだけじゃだめだって」
それは、嘗て『姉桜』との戦いの中で、暁音が紫蘭に伝えた言葉。
その暁音の呼びかけに、紫蘭が震える体を押さえる様に両肩を強く抱きしめる。
「それ……は……」
「ただ優しいだけじゃダメなんだ。其の優しさを支えるためには、力も大事だけれど、何よりも心が強くなくちゃダメだって事」
告げる暁音の星具シュテルシアの先端が突きつけられた大地に描き出されるは、星色の煌めき伴う魔法陣。
黄巾力士の肩に乗ることで、大地を『足下』と見定めた暁音が、戦場全域に魔法陣を描き出している。
(「まあ……今は、これ以上を伝えても、ダメか」)
沈みきらない動揺が在る事を共苦の痛みが伝えてくる。
其処で一度言葉を切り、魔法陣から聖域を生み出すことに集中する暁音。
そんな、空でのやり取りを聞いていたのか、いないのか。
「アンタも、大変だねぇ」
そう軽く肩を竦めて微笑を綻ばす響のそれに、白蘭がそっと衣の裾で口元を覆い隠す様にしてわざとらしく小首を傾げた。
「何がでありんすか?」
「そりゃあ、見守る子がヤンチャだからさ。雅人や、紫蘭……ああいう子達を見守るのは大変だろう?」
そう、からかう様に笑いながら。
上空で必死に防御線を張る奏と、瑠香と敬輔が切り開いたその道を突っ切る様に駆け抜けていく篁臥の援護をする瞬を見つめる響のそれに。
「そうでありんすな。禿達の面倒を見ていると思えば、何の事もないでありんすが」
本気とも冗談ともつかぬ様子でカラコロと笑う白蘭に、響が思わず苦笑を零した。
「あの子達を守り、未来を切り開く其の為にも一緒に頑張って行こうか、白蘭」
「そうでありんすな」
告げる響のそれに頷くと同時に、先程構えたままだった尺八を吹き鳴らし衝撃の波を解き放つ白蘭。
合わせる様に響がブレイズランスを撥ね上げて衝撃の斬撃を解放、周囲のエクトプラズムを切り払うと同時に、高々と其の左手を掲げた。
●
響が掲げた其の手から響の魂の様に荒ぶる情熱を思わせる炎が散開する。
散弾銃の如く解き放たれた無数の情熱の炎が、次々に可視化できぬエクトプラズムを焼き払い、その動きを止めるその間に。
「Idea Cannon, cancellation of restriction……。普段の様に安定した出力は期待できそうにありませんが……」
コンソールに出るエラーと精霊収束率を睨みながら、戦況を見やるウィリアム。
と……其の間に。
「一気に焼き払うのであれば、もう暫くお待ち下さい。それまでは私が救う為の雅人殿達の救う戦いを援護致しましょう」
冷静な口調でそう告げた義透が、白雪林に1本の矢を番え、ひょうと放つ。
その初雪の様に何処か美しく瑞々しさを感じさせる1本の矢が無数に分裂して、破魔の霊力矢と化して、エクトプラズムを祓い清める。
(「とは言え……本体には未だ届かないですか。長い戦いになりそうです」)
そう内心で義透が冷静に状況を俯瞰するその間に。
「切り開きます!」
瑠香が人形達の1体を神速の突きで穿ち、106の目にも留まらぬ斬撃を解き放つ。
薙払いの要領で横薙ぎに振るった其の斬撃が人形達の数十体を容赦なく屠って作った道を、漆黒の獣が駆け抜けた。
暁音の呼び出した魔法陣と其処から注ぎ込まれる星光の波や、桜花の吹き荒れさせる桜吹雪、そして……。
(「クラウンの作り出した迷宮に重なる様に生み出されたレラージェの混沌空間か。其の結果として生まれ落ちたのは幻朧桜が咲き乱れる樹海の迷宮……」)
けれど其処までやったところで、漸く彼女達とまともに戦い、浄化させることも出来る様になった。
「……ったく、ハードな戦いだっての……」
そう篁臥に跨がった陽太が呟くが、それでも、ヒタヒタと押し寄せてくる不安は纏わり付いて離れない。
それは、啖呵を切り自らの意志を明確にしている雅人もそうだろう。
(「さて……如何する? 俺は、如何してやれば良い?」)
陽太が内心でそう思い、打開の一手を考えようとした、その瞬間。
「~♪ ~♪」
不意に、戦場を震撼させる様な、そんな力強き歌が戦場に響き渡った。
響き渡るその声に合わせる様に、クラウンの人形楽団が一斉に喇叭を吹き鳴らし、行進曲を奏で上げている。
メソソプラノの声で歌いあげられる戦意を昂揚させる其の歌の主は、グリモア・ムジカに譜面を展開した美雪。
(「多くの命を、世界を救うために……今こそ我等、剣を取る時!」)
――マーチ・オブ・アゲインスト・バトル。
そう名付けられた行進曲が戦場に響き渡り、更に響の燃え盛る情熱の炎が其の歌声を後押しする様な、篝火となって戦場を照らす。
その美雪の歌声に導かれる様にして。
「おい、雅人。お前の中には俺と同様、新しい力が宿っているみたいだな」
そう霧亥が呟くと同時に、再び魔球を解き放つ。
解き放たれた魔球が押し寄せてくる不安とエクトプラズムとぶつかり合い、弾けて雲散霧消する間に、雅人が静かに頷く。
「まあね。水仙さんから教わった刀術を応用すれば、使う事は出来ると思う。只……実戦では未だ使ったことがないけれども」
其の雅人の呟きに、霧亥が口の端に笑みを浮かべた。
「実戦に勝る格好の修行の場はないぜ。紫蘭を守る為にも、使える力があれば使い、影朧達を救済する。それが帝都桜學府の學徒兵の役割だろう?」
「誰かを助けたい……その想いは、俺達も同じだ、雅人」
其の霧亥の言葉に同意する様に。
『少女』達の心に触れた『彼女』達と意識を同調させその場で動けぬ敬輔を守る様に立ち『宵』を一閃する統哉が頷き。
「だから、その苦しみから彼女達を、そして彼女達のともだちを助ける為にも、今、雅人に出来る……いや、したいことがあるならば……!」
その統哉の後押しに頷いて。
「――閃!」
抜刀していた退魔刀に銀風を纏わせて、雅人が戦場を一閃した。
閃撃とでも言うべき銀光の斬撃が、瑠香達が切り開いた道の先にいた、『少女』達の本体の一部を切り払い、其の邪心を浄化して。
「今ですね……! 奔れ、雷! 魔を焼き払う光となれ!」
そこに瞬が自らの周囲に展開した127本の水晶の様に透き通った六花の杖を解き放ち、一斉に雷光を放出する。
『邪心』のみを断たれ、クラウンの迷宮によって其の心の痛みを、苦しみを、悲しみを一気に忘却させられた何人かの少女達。
其の少女達の幾人かが雷光に撃ち抜かれ、戦場から光となって消えていく。
「雅人さんをやらせはしませんよ!」
続けざまに瞬が叫び、周囲に展開していた127本の六花の杖を大地に突き立て。
仲間達に迫る危機を敏感に察知した少女達が雅人達を捉えようとしていたエクトプラズムを弾き飛ばす結界を生成、それらを弾いた。
「……雅人のユーベルコヲドは、敵の邪心のみを断つ、か」
――過去に囚われた心を一概に邪心と括って良いかどうかは一概には言えない。
だが……物理的に傷を負い、精神的に今を『忘れる』という苦痛を上塗りされるよりは、その負の連鎖を強制的に断たれる方がマシだろう。
そうして抜け殻と化した彼女達の魂を、完全に浄化する事が出来るのは……。
「まあ、紫蘭殿が本来なら適任でしょうが。今の彼女では恐らくそう言うわけにはいかないでしょう。それに、迂闊に連発させればこの先に待ち受けるモノ相手に耐性を付けられる可能性もありますから」
霧亥の心の声を、まるで読み取っていたかの様に。
そう呟いた義透が、再び白雪林から矢を射った。
射られた浄化の矢が扇の如く開いて無数の光の束となって大地に降り注ぎ。
更に、無数のエクトプラズムを霧亥が魔球で撃ち返し、それを雅人が斬撃でその邪心を断った者達の肉体にぶつけて浄化する。
その流れる様な連携を食い入る様に黄巾力士の上から見つめる紫蘭に向けて。
「どうですか。少しは落ち着いて物事を考えられる様になりましたか?」
その傍に風火輪を灯して近付いて冬季が静かに問いかけた。
「……あなた」
その紫蘭の呟きに、微かな落ち着きが戻ってきているのに奏が気がつき、そっと胸を撫で下ろす。
その様子を白梟の目で捉えた紅閻が。
「紫蘭! 落ち着いてきたのならば、次は気をしっかりと繋げ! あの闇に引き摺り込まれ、呑まれるな! お前が何のためにここへ来たのか、今のお前になら思い出せる筈だ!」
祥華の『神凪』の念話から聞こえる紅閻の声に、紫蘭がハッ、とした表情になる。
紅閻は、篁臥に跨がり懸命に戦う雅人と霧亥達を指差し声を張り上げ続けていた。
「大丈夫だ! お前は独りじゃない! 雅人も、白蘭もいる! これまでお前と関わった者達がお前を助ける! だから!」
――あの時、俺は救えなかった。
助けられなかった――霧の向こうにいる『彼女』のことを。
だから、『俺』は知っている。
残されなかった者、そうせざるをえなかった者達の気持ちも……その思いも。
だから、今。
「今、此処で諦めたら、また……雅人も、彼女達も、誰も救われないんだ……!」
地の底から唸る様な、懸命な紅閻の声。
祥華の『神凪』を通して感情と共に伝わるそれに紫蘭が大きく目を見開いた時。
「ええ、そうですね」
そう頷いたのは、冬季。
「逢魔が辻を生んだ首魁との戦いはこの後です。首魁を消さねば、彼女達は何度でもこの世に引きずり出される。今、貴女を支配していた心に囚われ過ぎていれば、彼女達を真に救う機会を失ってしまうでしょう」
其の冬季の言の葉に。
「そうだね。相手の悲しみと痛みに呑まれ続けているだけでは、紅閻さんの言うとおり、何かを成す事も、出来る事も、そして誰を救う事さえ出来ない」
光の波を誘導し地表の響達を癒し、少女達を縛る光鎖を操りながら、暁音が酷薄に告げる。
「……」
「残酷な話かも知れないけれど、そういうものなんだ。だから俺は、紫蘭さん。君にもう一度問う必要がある」
それは……。
「使命何かで戦わなくって良いんだ、と。そして、彼女達を救いたいのは、桜の精としての使命? それとも、紫蘭さんが決めた事? ……とね」
その暁音の問いかけに。
「私は……」
紫蘭が何かを言うよりも先に、全てを打ち砕く不可視のエクトプラズムが紫蘭と、地表後方の……。
●
「! 避けろ、白蘭!」
それは、エクトプラズムの気配を察したネコ吉の咄嗟の叫び。
白蘭がその言葉に気付き素早くその場に転がり込む様に大地に倒れ、それを守る様に響が割り込む。
「させないよ!」
同時にブレイズブルーを振るって大気を震盪させ、目に見えない波を生み出し、解き放たれたエクトプラズムを飲み込んだ。
「護鬼丸!」
その状況を天空から覗き込んだ祥華の指示に従って、護鬼丸が壁となって立ちはだかり、拳を振るう。
振るわれた剛腕の一撃が大気を破り振るわせて篁臥に跨がり前線を支える霧亥や雅人達を守る波を作り上げ。
その波による攻撃を、異形の人形を壁に、防御しきろうとする少女達。
その少女達を見下ろす様にして祥華が、お前達は、と滑空しながら尋ねている。
自らの体に封じ込めている瘴気の一部を解放するべく指先を動かし、それを呼び出す魔法陣を編み上げながら。
「誰によって、そんな風にされたのじゃ? お主等は知っておるのじゃろう? ほら、云うてみ? その全てを……妾達が受け止めようぞ?」
それはまるで、堕落した悪魔に囁き掛ける様な、蠱惑的な誘惑の言葉。
その言葉と共に召喚陣を潜り抜け、姿を現したのは、『荊棘』に覆われた怨龍。
怨龍の咆哮を耳にした紅閻が、カミサマ、と誰に共なく溜息を漏らしその間に。
「さあ、答えよ。お主等は誰によって、そんな風にされたのじゃ? 言わなければお主等はこの牙に噛み砕かれる運命ぞえ?」
祥華が告げたその運命の行先を、裏付けるかの様に。
生み落とされた怨龍が咆哮と共に、自らを捕らえているもものと同じ荊棘で彼女達をい覆い、其の牙で貪り食らう。
「ああ……あああああああっ!!!」
悲嘆する少女達の様子に祥華は特別な感慨を抱かず、ただ、軽く頭を横に振った。
(「妾は、お主等に同調も、同情もせぬよ」)
其々の感情や感覚は、その者にしか分からぬ故に。
例えば……。
(「我が半身を殺され、本来なら2人で受け持つ筈の……我が子等達の感情と感覚を妾1人で受け止めなければならくなり、それが辛く、苦しく、悲しかったのと同様にのう……」)
――でも一番祥華がその時……我が子等達を殺した時に、最も強く感じたものは。
(「そうじゃ……我が子等の感情を、そんな風にしか導けなかった妾自身……。だから、妾は妾を呪い、赦せず、赦さず……」)
そんな祥華の胸中の嘆息が微かに漏れたからだろうか。
問われながらも怨龍の牙に貪り食らわれる少女達の感情の根底に敬輔……いや、『彼女』達が触れることが出来たのは。
「そうか……それが、君達の答え……」
その奥底にあるそれらの少女達の悲鳴や悲嘆を、『彼女』達から伝えられた敬輔がそっと溜息を漏らす。
「あなた達が辛く、寂しく感じられたのは、あの大火で多くの人々が失われ、其の後に受けた理不尽な仕打ち。大火でともだちだった多くの隣人が焼かれて死に、そのともだちを助ける為に魂を転生させた……」
――けれども、それすらも裏切りと、生者達に断じられ。
本来であれば恩として返すべきそれを、仇として返された。
即ちそれは、信じていた者達に裏切られたと言う、深い痛みと悲しみだ。
(「そうなれば……もう、これ以上誰も信じられなくなる。だからこそ、自分達と共に歩むことの出来る真のともだちを探している……」)
「……それが、君達の答えなのか。だから、大火の根源であったと言われる僕達……いや、猟兵を恨み、憎むのか……」
其の敬輔の、言の葉に。
「成程。確かに妾達のそれは、お主等の求める真の平和とは、ある意味で対極かもしれないでありんす。そんな主等が憎む猟兵……超弩級戦力に特権を与え、妾達と共にお主等影朧の救済を願うその姿は、偽善にしか見えぬでありんすからな」
息継ぎを兼ねて一度尺八から口を外し切りつける様に告げる白蘭に、ネコ吉が思わず目を瞬かせた。
同時に、その言葉の奥底にあるそれを感じてネコ吉がお前は、と白蘭に告げる。
「紫蘭の師匠なんだろ? ならば、偶には師匠らしいところを見せてやったらいい」
「じゃが、今、白蘭の平和を思う心を乗せた琴音が危険でありんすよ、ネコ吉」
意外にもネコ吉にそう伝えたのは、『識神』で目下を監視していた祥華の念。
其の真意は……。
「妾達がユーベルコードを使う度に、龍脈が鳴動し、其の力の一部を中枢におるであろうナニカに送り込んでいる。本来であれば龍脈の径を断つべきでありんすが、如何な妾達と言えど、この地の龍脈の径を止めることは出来ぬ。とは言え……白蘭の音楽に意味が無いとも思えぬでありんす。ならば……」
そう祥華が告げた時。
「そう言うことであれば、妾は師匠らしくこうするのが良いでありんすな」
そう告げて。
クラウンの人形楽団に合わせる様にして、再び尺八を吹き鳴らす白蘭。
それはクラウンの人形楽団の行進曲と見事にセッションして、美しくも勇ましい音のハーモニーと化し、美雪の歌の力を加速させる。
猟兵達に向かって、引き寄せられていく、戦況が有利になる其の流れ。
その後押しをするかの様に、桜花が幻朧桜に吹雪かせた桜吹雪がネリッサ達を包みこみ、その運気と命中精度を確実に撥ね上げた。
ネリッサの氷刃が、灯璃のセミオート射撃が、ミハイルの狙い撃ちが、彼女達の死体の山を更に多く作り上げていくだけの精度を。
「……力が、弱まってきていますね」
今でも尚続く、無限に、恒久的に沸き上がり、忍び寄る不安。
けれども雅人が霧亥や篁臥と共に切り込み、状況を少しずつ好転させている今では、其の勢いは明らかに今までよりも弱まっていた。
――だから。
「私が、望むもの。私の……『私』の望み……」
『皆』が戦う光景を見つめ、詰めていた息を吐く様に呟いた紫蘭の声を聞き届け。
――フワリ、と。
冬季が紫蘭の隣に風火輪で肉薄し、彼女の華奢な手を掴んで、そっと自らの心臓の上に其の掌を乗せさせた。
――トクン……トクン。
冬季の中で確かに脈打つ心臓のその音を、其の感触を自らの手を通して感じ取る紫蘭に冬季が口の端にそっと笑みを浮かべる。
「命は、流転します。そうやって流転することで、魂は磨かれていくのです。私は、今……仙になるまでに、7度の転生を行いました」
その冬季の呼びかけに。
「えっ……!?」
紫蘭と奏が思わず息を呑むのにも構わずに、冬季が淡々と言葉を紡ぐ。
「本当に誰かを救いたいなら。貴女は、貴女に天秤の衝動を与えた誰かの思惑を越えて動ける様にならなければならない。其の為に残された時間は、もう、長くありませんよ」
「……結局、冬季さんの言う通りなんだよ、紫蘭さん」
と己が共苦の痛みが与えてくる切り傷の様な焦燥をその身に刻み込みながら、暁音が静かに冬季に同意の首肯をする。
「何事も、自分で決める。それが一番大事なことなんだ。誰かや、何かの思惑に乗って戦うのではなく、あくまでも自分の意志で。そうしなければ、寄辺がなくなってしまったその時、君は君の儘ではいられなくなるだろう。だから……必要なのは、自分の意志。自分が何をしたいのか、それを決めるための意志だ」
そう、暁音が告げたところで。
「……そうね。其処は変わらない。私は只、あの子達を救いたい。其の為に、私に出来る事……それが何かを、今は知りたい」
紫蘭がきっぱりと頷き返したその様子を見て。
「黄巾力士。彼女を戦場に降ろせ。この戦いの行く末を、直接見届ける義務が彼女にはある」
冬季が黄巾力士に命じるや否や。
巨大化した黄巾力士が、まるで姫君を支えるかの如き恭しい手付きで自らの肩に乗せた紫蘭と奏に其の手を差し出し地面に下ろし。
「……俺達も行こうか、祥華さん」
「ふむ……そうでありんすな、天星」
そうちらりと横目に見つめ告げる暁音のそれに頷いた祥華もまた、自分達の高度を地表に向かって下げていった、其の時――。
●
「出力、80%……最大とは言えないけれど、今しか好機はないか……!」
『イデア・キャノン』に収束する魔力を確認して。
ウィリアムが小さく呻く様にそう呟くと、『スプラッシュ』の鍔に取り付けられていたスチームエンジンが大きな音を立てた。
同時に『イデア・キャノン』の砲塔に水色と緑の混ざり合った魔法陣が描き出され、その魔力を臨界点まで溜めていく。
――そこに、ウィリアムがキーコードを撃ち込んだ。
(「トリニティ・エンハンスを見切られてしまった以上、何処までの出力に耐えきれるかは分からないけれども……!」)
「それでも……どうか、氷の棺の中で安らかに眠り……転生して下さい! Idea Cannon Full Burst!」
コンソールに描き出されたのは、『Full power drive start』と言う言葉。
表示された文言に頷き、左握り拳でコンソールを叩くと同時に、右手で『イデア・キャノン』の引金を引いたウィリアム。
それとほぼ同時に、その砲塔から爆発的なまでの氷の精霊達の群れが光線と化して全てを撃ち抜かんと迸る。
迸った氷塊の光線が瞬く間に目前の少女達を凍てつかせんと……。
「ダメ!」
そうならない様にと、願ったのか。
少女達の1人が悲鳴の様に叫び、目前に無限の目に見えないエクトプラズムの障壁を張り巡らしていく。
障壁が爆発的な迄の氷の魔力を、火力を保有していたそれを減殺していくが。
「此処は好機ですね。灯璃さん、ミハイルさん!」
ネリッサが三度600本の氷柱刃を形成、エクトプラズムを斬り刻まんと一斉掃射。
それに続く様にして。
「白梟」
紅閻が呼びかけた白梟が嘶きと共にブレスを吐きかけ、更に其の目を借りていた灯璃が、セミオートライフルの引金を引く。
――バラララララララッ!
セミオートで連射的に放たれた銃弾が、ウィリアムの氷の光線で凍てついたエクトプラズムの周囲を撃ち抜いていく。
結果として無効にされたエクトプラズムに驚愕の表情冷めやらぬ儘に、其の少女は人形を盾に構えようとするが。
それよりも早く彼女の眉間を、銃弾が撃ち抜いていた。
「はっ……、まぁ、こんなもんだろうな」
そのまま、グラリと傾いで倒れていく少女の様子を、SV-98Mのスコープで覗き込みながらミハイルが軽く肩を竦める。
「正直、俺には、テメェラの感情や、考えなんぞ知ったこっちゃねぇんだよ」
そう吐いて捨てる様なミハイルのそれに耳を傾けていたかの如く。
「……そうだな、ミハイル。今の俺達に感傷は必要ない。いや……その感傷に、不安に、絶望に俺達が飲み込まれれば、紫蘭に合わせる顔もない!」
紅閻が叫びを上げるとほぼ同時に。
全部で119体のカボチャの様な姿をした宇宙ゴーストが姿を現し、ケタケタと嘲る様な笑い声を上げた。
その笑い声は紅閻と共に在るフォースイーター……。
(「……イザーク、レーヴァテイン。元々は1つの核であったお前達。お前達の力を同時に重ね合わせることで……アレを制御し、呼び出すことも出来る……!」)
「まあ……初めての試みではあるが……」
朧気ながら姿を見せた宇宙ゴースト達を見て、そっと息を吐きつつ紅閻が呟くと。
「何を言っている、白夜。俺も、雅人も、此を使うのは初めてだ。だが……確かに役に立てているぞ?」
そう、篁臥に跨がり雅人と共に戦線を走り回っていた霧亥が紅閻の脇を擦り抜ける間にそう告げたのに、紅閻が思わず笑い。
「ああ……そうだな。イザーク! レーヴァテイン! 今一度、お前達を1つに。安心しろ……俺が足らないモノを埋めてやる! 行け!」
そう、鋭い命令を発した時。
――ケタケタケタケタケタケタ!
イザークががなり立てる程の笑いを上げ。
――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!
レーヴァテインが唸りの様な咆哮を上げて、紅閻が召喚した119体の宇宙ゴーストたちと融合し。
其々に60の重力剣と、59の流星群と化して、障壁代わりのエクトプラズムと人形を張り巡らそうとしていた少女に降り注いだ。
「あ……ああ……!」
59の重力剣に串刺しにされ、内部から圧迫されていき、加えて降り注ぐ流星にその全身を焼かれ声なき絶叫と共に消失する少女。
その少女が操ろうとしていた人形とエクトプラズムがまるで砂上の楼閣が水に流されていくかの如く灰と化して消えていき。
「……よくも……よく……も……?!」
戸惑いと憤怒、憎悪で自分達を奮い立たせようとしていた他の少女達の胸にぽっかりとした虚ろが空いた。
半ば放心した様にしている少女達に、わざとらしく大仰に一礼をするクラウン。
「未練ってなぁに? ともだちってだぁれ? 思い出せる? 思いだせなくなってきているみたいだねぇ♪ ハッハッハ♪ この迷宮の迷路の中に居る限り、キミ達はただ、忘れていくだけなのさ♪ さぁ、ゴールを目指すか、この子を破壊するか、キミ達はどちらを選ぶのかな、選ぶのかな!?」
そうからかう様なクラウンの盛り上がりに合わせる様に、楽団人形達が白蘭と共に、一斉に音楽を奏でて少女達を囃し立てる。
何もかもを奪われ……いや、その奪われたと言う事実の記憶すらも失われつつあった彼女達は、クラウンの言葉に我武者羅に其方に殺意を向け。
「うわあああああああああっ!」
絶叫と共に、クラウンに向かって無数のエクトプラズムを叩きつけようとするが。
――斬!
その時には銀閃が舞って少女達のクラウンを憎み、怒りを叩きつけようとするその心……『邪心』を切り払っていた。
「……ごめん。此れが今、あなた達にできる、僕の最大限だ。だが……僕は、迷わない。迷わない事こそが、君達を救う唯一の術だと知っているから」
そう告げて。
篁臥に跨ったまま駆け抜けざまに彼女達の邪心を断ち、転生させた雅人の後姿に陽太が、雅人……と声をかけるが、直ぐに頭を横に振った。
「多分、今はそれしか寂しさや絶望を少しでも和らげてやる方法がねぇんだよな。この空間が、嘗て咲き誇った幻朧桜の残留思念を具現化した本当の理由は……」
『転生』させる事で、その痛みを、悲しみを、苦しみ……魂に刻み込まれた其の悪しき傷の全てを、忘れさせることが出来るから。
(「きっと、この『幻朧桜』の樹海にして、混沌空間はそう言う俺達の想いが重なり合って作られた……そう言うことだろう?」)
そう誰かに向けて、軽く頭を振りながら胸中で呼びかけて。
淡江と濃紺の2色の螺旋状の輝きを伴った槍を解き放ち、その邪心を斬り捨てられた少女達を貫き、止めを刺す陽太。
「せめて、安らかに……」
その言葉と、ほぼ同時に。
エネルギー供給不足での過剰使用により、軽く白煙を上げ始めていた『イデア・キャノン』の引金を、ウィリアムが再び引いた。
解き放たれた巨大な氷塊の光線が、砲塔をオーバーヒートさせて凍てつかせながらも、影朧達を氷の棺に押し込める。
その氷の棺の中に押し込まれた少女達を。
「……自分達のお友達に誘い込もうとするあなた達……。自分達のエゴで動くあなた達の様な悪い子には、お仕置きが必要ですね……!」
瑠香が再び物干竿・村正による神速の突きを解き放ち、同時に106の暴風の如き斬撃を叩きこんで切り捨てた。
「なんで……なんで……! みんな、みんなずっと一緒に……おともだちに、なって、くれないの……?! たすけて、たすけてよぅ……!」
悲痛な叫びを上げて。
少女達が、最も守りが手薄だった白蘭の周囲に無限に増殖する不安を解放する。
その不安に身を苛まれ、蝕まれ、最終的には圧倒的な絶望に覆い尽くす、その力。
だが……。
「……確かに、復讐のために、再び吹き込まれた命を……その不安定でこの地に揺れる己が魂を削るのはおかしな話ではないでありんすな。それは、ヒトの情としても、共感できるところもあるでありんす」
――そう。嘗て紫陽花を殺され、その復讐のために己が身をやつした白蘭には。
然れども。
「でも、あの時、其れを妾がもし為すことが出来たとしても、その先に何が待っていたのか……それは晴れる事のない闇に陥るだけだったのではないかと、思う時もあるのでありんす。それもまた、ヒトの理故に」
そう告げて。
尺八を鳴り響かせ、衝撃の波を解き放つ白蘭。
それでも抑えきれないエクトプラズムは、響が解き放った情熱の炎が焼き払い跡形もなく消し去っている。
「……成程な。白蘭、其れが今、愛弟子や雅人に届けたい想いと言う事か。変われぬものもあるが、変えられるものもある。その果てに待っているのが、滅びではなく救いなのだと」
ネコ吉が、そう軽く頷いて。
尺八を吹き鳴らして美雪の歌の後押しをし、その心を払う闇を払拭するその理由に深く頷きながら、灰色の結界を展開。
(「届けたい思いがあるのであれば、本当は、自分の歌を、音楽を弾く事が必要で、その為に一肌脱いだ方が良い」)
けれども……この蠢く闇が持つものは祥華の予感が正しければ、恐らくそれすらも飲み込んでしまいそうな程に巨大な『ナニカ』
その『ナニカ』が彼女達がウィリアムが先程、ユーベルコードの1つを無力化された力を、彼女達に与えていたのであれば……。
「……白蘭の琴の爪弾きがもし此処で奏でられたら、どうなる……?」
彼女達も先程言っていたでは無いか。
『わたし達のともだちを奪ったその力は、もう、わたし達のモノだから』
――と。
その言葉から推測することの出来るこの逢魔が辻の主の能力。
それは……。
「まさか……俺達のユーベルコードを自分のものとして扱える、か……?」
――だからと言って、今、此処で力を使わなければ……。
「少なくとも俺は、後悔するだろうね、ネコ吉」
その言葉と共に。
再び彼女達の内側に走り込み『宵』を三日月形に一閃した統哉がけれども、と軽く頭を横に振る。
「……そうやって後悔しても過去は変わらないし、そもそも君達を救えなければ、俺達は君達に示す事も出来ないんだ」
――そう。
「今を生きる者であればこそ、繰り返す悲しみから、未来を変えていくことが出来る其の事実を」
『宵』を振るいつつ、クロネコ刺繍入りの結界を張り巡らして敵の攻撃を防御する統哉のその返しに。
「成程……だから、白蘭は」
ネコ吉が軽く目を細めて頷き、尺八を奏で続ける白蘭の想いを口の端に乗せた。
「今変える、変わることの出来る事を後押し出来る、美雪のマーチ。これを後押しする事が、ある意味では白蘭が最も力を発揮出来ると判断したんだな」
そのネコ吉の呟きに。
「そうだね、ネコ吉。そして。そうやって今を生き、想いを受け止めることが出来る、俺達が――」
『宵』を大上段で回転させて少女達の人形を薙ぎ払う統哉が。
「俺達が受け止め、伝えていくんだ」
そう締めくくる様にして、ヒット&アウェイの要領で少女達の懐から飛び出す統哉の隙を埋める様に。
其の状況を『推理』していたかの様にネコ吉が飛び込み、叢時雨を抜刀一閃。
雨を受ければ尚、優れるとされる其の斬撃の軌跡を追う様に桜花の幻朧桜の巻き起こした桜吹雪がそれを包み込み。
「……救う為の戦いです。であれば、三度この力であなた方を祓い清めましょう」
そう優しく告げた義透が、白雪林に番えた矢をひょう、と解き放った。
破魔への祈り籠められし、霊力矢が無数の光と化して分裂し、まるで銀の雨の様に放物線上の軌跡を描いて降り注ぐ。
降り注いだ義透の浄化の矢の1本を受けたネコ吉の銀刃が、淡く白き光に包み込まれ、それが浄化の一閃と化して解き放たれた。
ネコ吉の斬撃に気付いた少女達が、それを回避するべく無数のエクトプラズムを作り出して結界の様に展開。
不可視の流体の壁に義透とネコ吉、そして、ネコ吉と入れ替わりながら『宵』をしまい、両手を掲げた統哉に向かわせるが。
「見えない攻撃……ですか。ですがそれは私……『我等』を構成するものと同じ。幾度も使われれば、『我等』にも軌道は読める」
そう断言すると共に。
四天霊障……『彼等』の無念の集まった霊障の障壁を展開し、そのエクトプラズム現象を相殺していく義透。
「今ですよ、ネリッサ殿」
更に陰海月を紫蘭の下へと向かわせ、彼女を守る結界を張り巡らしながらの義透からのその言葉に。
「はい。ありがとうございます、馬県さん」
ネリッサが幾度目かの600本の氷柱刃を解き放ち、自分達のエクトプラズムを封じられ泡を食っていた少女達を串刺しにし。
「今のわたしに出来る事。それは……」
白い靄を全身に纏った敬輔が言の葉と共に、白い斬撃の衝撃を、波の様に撃ち出して戦場の少女達の体を浄化させ。
「館野さん、援護します」
灯璃が銃口から微かに銃痕の残るHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引く。
指切り撃ちで休ませつつも、尚、連続で吐き出され続けてきた弾丸が、エクトプラズムの障壁を失った少女達を撃ち抜き。
「やめて、やめて、やめて、やめて……!」
自分が如何して此処に居るのか。
それすらも分からなくなりつつある少女達の体を撃ち抜き、その動きを止めると。
そこに篁臥が肉薄し、それに跨がる雅人が退魔刀を一閃。
銀の一閃がその魂達の邪心を断ち切り、抜け殻と化した少女達を霧亥がクリエイトフォースを変形させた魔銃から、明咒彈を射出してその少女達の抜け殻を射止め。
同時に……。
「ミハイル」
「おー、おー。亞東から連絡が来るとは意外だな。まっ、いいぜ。此も給料の内だ」
さっ、と篁臥が横っ飛びにその場を離れた瞬間を、ミハイルがスコープで覗いていたSV-98Mの引金を引き。
――ズドォォォォォォォーン!
と少女の肉体を撃ち抜いて粉微塵に粉砕した。
「……後は、安らかにお眠り下さい」
そこに瞬が雷光纏った六花の杖の模造品を矢の様に放ち彼女達の存在を浄化。
「あっ、ああ……! ともだちが、私達のともだちが……!」
悲鳴を上げ、取り縋ろうとしながら生き残りの少女達が戦場を侵食せんと、不安を撒き散らす。
撒き散らされた不安が、漸く落ち着きを取り戻した紫蘭から其の余裕を奪い取ろうと忍び寄るが。
「ぷぎゅっ!」
陰海月が元気一杯の声と共に海色の結界を展開、其の不安から紫蘭を隔離。
紫蘭は、今の戦況を……自分がしたい事の真実を、その胸の内に刻み込むために瞬き一つすること無く見つめていた。
「ひどい、ひどい、ひどい、ひどい……! 私達は、ともだちになりたいだけなのに……どうして、こんなに酷いことを……?!」
生き残った少女が涙ながらに問いかけるその姿。
透き通った白き涙を零す其の少女の様子を見て、統哉が一瞬胸に詰まった様な表情を見せるが……それでも掌は突き出したまま。
「それは俺達が、君達を救いたいから。君達が無限に増殖させている不安を、何よりもそれを撒き散らして不安になっている君達自身の絶望を祓い……君達に希望を伝えたいから」
――新しい生として生まれ落ちること。
優しさを裏切られ、その時に受けた痛みを、生まれ変わり、忘れさせることで其の此処を癒す『転生』を齎す為。
そうやって――希望という名の『光』を彼女達に見せ。
もう一度、彼女達自身の中にそれを灯らせる其の為に。
――だって、そうでもしないことには……。
「何時迄も君達は苦しみ続けるだけじゃないか。俺は……俺達は、もう、君達には苦しまないで欲しい。だから俺は、俺に出来る事をするんだ」
そう願いと祈りを籠めて。
統哉が重ね合わせていた両掌を広げ、660本の浄化の矢を解き放った。
雅人の『閃』と同じく、その肉体を傷つけず、邪心のみを射貫く光の矢が、義透の破魔の光と共に、戦場を照らし出し。
吸い込まれる様に少女達の体に……その心に突き立ち、消えていく。
「私、たち。願い……何……? どうして、こんな……こと、に……?」
その統哉と義透の浄化の矢を受けて。
消えゆく少女達の邪心と存在に関する記憶が消失させ、そんな彼女達を雅人が一閃し、紅閻が流星を降り注がせて消失させていく。
そうして次々に消えゆく生き残った彼女達の様子を見ながら、正しく道化の如くクラウンがニッコリと笑って見せた。
「さぁて、どうしてだろうね? 全ての記憶が消えていく君達のために、ボクが特別に教えてあげよう!」
――そう。其の理由は……。
「ボクには、やりたいことをやる。そんな信念が……ボクの意志が在り続けているからさ。紫蘭さんには、天星さんや鳴上さんがもう一度教えた自分の意志がね♪」
――それは、エゴ。
信念と言えば聞こえは良いが、全ては自らを形作るため……そして正当化するために自らの中に作った『核』
「それが、キミ達には欠けていたのさ♪ それじゃあ……Good Bye♪」
そのクラウンの言葉に合わせる様に。
灯璃がセミオートライフルの引金を引く。
セミオートライフルに残された弾丸を、最後の一発まで使い切ろうとする様に。
「……例え、私達猟兵を恨んだとしても」
撒き散らされた無数の弾丸に撃ち抜かれその肉体を消滅させていく少女達。
その魂に刻み込まれた邪心を、雅人や統哉、義透が断ち切り、力尽くで浄化して。
残った肉体の欠片……妄執達の残滓達は。
「せめて……其の寂しさからあなた達が解放されます様に……」
そう呟いた敬輔が赤黒く光り輝く黒剣から白き靄と聖光纏いし斬撃の波で少女達の体を蒸発させ。
更にネリッサが氷柱刃で撃ち抜き、或いは瑠香が切り裂き、陽太が二槍で貫いた。
そうして消えていく少女達を見送りながら、そっと灯璃が溜息を漏らす。
「……何時か変わることの出来る人々の為にも、そして自分達自身の為にも。貴女方は、貴女方が友と呼ぶ人達に裏切られても、信じるべきでしたね……」
……と。
灯璃の言葉に、氷柱刃の全てを撃ち尽くしたネリッサが静かに溜息を漏らす。
「……所詮、我々猟兵の手も、血に塗れている……そう言うことですか」
その自嘲とも、諦念とも取れるネリッサの呟きが。
『彼女』達が転生される直前……最期に聞くことになった言葉となった。
●
「っと、標的の全滅確認。……取り敢えず一段落って所か?」
ネリッサがゆっくりと手を下ろす姿を、SV-98Mのスコープ越しに見定めて。
状況終了の声が灯璃から入るのに頷きながら、懐から煙草を取り出し一服しながらするすると狙点から降りていくミハイル。
威風堂々とした足取りで、ミハイルがネリッサ達に近付くと灯璃がそれに振り返り、ミハイルさん、とその名を呼んだ。
「協力、感謝致します」
軽く敬礼する灯璃のそれに、ミハイルが飄々と肩を竦める。
「まっ……あんまり気にするな。俺には、あいつらがどんな思想やら信念やらを持っているかどうかなんてのは、関係の無い事だしな」
口の端に肉食獣の様な笑みを浮かべて応えるミハイルのそれに。
「……そうかも知れません。ですが、私達の手が血に塗れている、其の事実をこれ程までに突きつけてきた相手も早々にいませんよ」
少し疲れた様に溜息を漏らし、額の汗を拭う仕草を見せるネリッサに局長、とミハイルが軽く頭を掻いた。
「局長がそんな感傷的になり過ぎてどうする。そもそも人の死、特に戦場での死に、意味や価値なんぞねぇ。あるのは、原因と結果だけだ。仮に俺達で無い誰かが生きていた頃のあいつらを殺し、今度はそいつらが影朧として現れたんなら、それはもう敵ってだけだ。其処にあるのは命のやり取り。殺るか、殺られるか……只それだけだぜ?」
そう、肉食獣の笑みを浮かべたままに続けたミハイルのそれに。
「まあ、ミハイルさんの言う事にも一理あるな。少なくとも彼女達は、嘗て紫蘭さんが転生した時と同じ状況を、舞台を整えて紫蘭さんに迫った。特異点とでも言うべきは、雅人さんや白蘭さんの存在だが……いずれにせよ奴等の好きにさせる道理は無い。其の痛みや寂しさに、例え、私達が共感したとしてもな」
グリモア・ムジカの譜面をしまいながら美雪が同意する様に告げるのに、そうですね、と少し意外な念に打たれつつ、頷くネリッサ。
「……あの子達が本当に信じることが出来たのは、結局何だったのでしょうかね」
灯璃が小首を傾げると、それは、と地上に降り立った暁音が軽く頭を横に振った。
「信じる・信じない……そう言った感情自体が、既に彼女達から葉失われていたんじゃないかな。彼女達が、紫蘭さんの心を揺るがすための舞台装置として、この逢魔が辻の主によって生み出された存在なのだというのならば」
「……虫唾の走る、話だぜ」
冷静な暁音の指摘にちっ、と舌を打ちながら陽太が重苦しい溜息を漏らす。
(「でも……雅人や、義透、統哉達が願いと祈りを籠めて、俺達が生み出した幻朧桜の混沌空間の中で転生させたんだ。せめて、安らかに眠ってくれよ」)
そう内心で、陽太が祈りと黙祷を捧げ始める。
そこに……。
「皆……」
義透の陰海月と奏に連れ添われた紫蘭が近付こうとした、その時。
「紫蘭さん」
そんな紫蘭と陽太達の間を遮る様に、姿を現した桜花が些か生真面目な口調で紫蘭に呼びかけていた。
「……桜花」
同類の桜の精である桜花の名を呼ぶ紫蘭に頷き、桜花は言葉を紡ごうとして……ちらりと空から舞い降りた祥華を見る。
「何、未だ多少なら時間は残されているでありんすよ。少なくとも、貴奴が何処にいるのかを特定する迄の時間位は」
「何処にいるのかを特定する時間……ですか?」
オーバーヒートを起こして白煙を上げる『イデア・キャノン』
それを魔法陣の中にしまい込みながら理解が追いついていないのか、首を傾げたウィリアムがそう問いかけると。
「まあ、そうでありんすな。少なくとも、この逢魔が辻の主……『ナニカ』は、今は、この場を動くことが出来ぬ。恐らくは、この龍脈の中心点そのものである以上、この径から全てを吸い出す迄、貴奴はその場を動けぬのであろうな。最も……だからと言って、妾達の方が近付かねば倒す事は愚か、戦う事すら出来ないでありんすが」
そんな祥華の説明に、そうですか、とウィリアムが小さく首肯したところで。
「では、伺いましょう。紫蘭さん。逢魔が辻の主のところに行く前に、聞かせて下さい。貴女は、きちんと『紫蘭』として生きる事がどう言う事かを考えていますか?」
其の桜花の問答に。
「……『紫蘭』……私として、生きる?」
先程、暁音に告げられた言葉を脳裏に思い浮かべながら紫蘭が小首を傾げて問い返すのに、そうです、と桜花が首肯した。
「今の貴女は、先程の鸚鵡達と大差ない、光の天秤という傀儡に見えます。与えられた儘衝動の儘に動くだけで、何も考えていない様に」
「なっ……!」
思わぬ桜花の糾弾に鼻白んだ表情を浮かべる紫蘭。
けれども、紫蘭の表情には構わず、その翡翠の瞳に微かな憂いを浮かべながら桜花は続ける。
「もし、今のまま貴女が死ねば、私が幻朧桜になれずに死んだら影朧になるのと同様、其の闇の天秤に成り代わるだけでしょう。そうは思いませんか?」
「……それは……」
重ねられた桜花のそれに、返事に窮する紫蘭。
紫蘭の様子を見てそうだね、と暁音が頷き、さっきも言ったけれど、と話続けた。
「使命何かで戦う必要は無い。例えそれ必要であったとしても、その代わりを誰かが果たしてくる可能性もある。そして、紫蘭さんが彼女達の転生を望み、強要しようとすること、それは……」
「……貴女の傲慢なのだと理解していますか? 他者を圧し折ってでも、転生を成そうとすること。それは、桜の精としては、影朧の救済と言う一点においては、正しいのかも知れません。ですが……その行い自体は、貴女のエゴにしか過ぎないのです。それが、転生を望まぬ者に転生を勧める事の意味。其の覚悟が、今の貴女にありますか? 其の意味を貴女はきちんと理解していますか? 如何に貴女を助けようと伸ばされた手も、貴女が握り返さなければ役に立ちません。刻まれた衝動の儘動くだけでは、貴女は天秤を為そうとした者の駒の儘なのです」
そう桜花が問いかけると。
「……桜花。じゃあ貴女は如何して、概念侵食による、転生を影朧達に無理矢理行わせようとするの? それは桜の精の使命として、貴女が行っている事ではないの?」
そう紫蘭が軽く目を細めて問いかける。
「それは……」
思わぬ口撃に、咄嗟に目を逸らす桜花。
――そんな風に返されるのは、正直、少々予想外だった。
「別に、今すぐ答えられないならそれでもいい。でも、もしそれが『桜の精』としては当然、と考えているのであれば、貴女は自分の意志ではなく、誰かの駒として動いている事になる。だから貴女は、死した後もし、幻朧桜になれなければ影朧になるだろうと思っている。けれどもそれは、本当に貴女が望み、貴女自身が分かって選んでいる道なの? それを駒と言わずして、何というの?」
そう紫蘭が桜花に更に問い詰めた時。
「紫蘭さん、桜花さん、其処までです」
そこに割って入る様に奏が口を挟み、執り成しの言の葉を紡ぐ。
「紫蘭さん。少なくとも私は、私の意志で貴女を守りたいと想い、此処にいます。ましてや今回の相手はあなたが初めてこの世界に生まれ落ちた時に、初めて出会った影朧と同じ姿。今の紫蘭さんの全ての始まりだった事を、私はよく知っています」
――だから。
「だから私は、あなたを支えたいのです、支えているのです紫蘭さん。この先を乗り越えて、先へ進める様にと願って。この戦いを終えて、天秤の宿命から解放され、紫蘭さんが、紫蘭さんらしくあれて欲しい、其の為に」
その奏の励ましに。
「……ありがとう」
そう紫蘭が微笑み一礼するのに、いえ、と奏が笑い返す。
そんな紫蘭と桜花、そして奏の様子を、少し離れたところで見つめていた白蘭が小さく溜息を漏らした。
「まあ、少なくとも紫蘭は、紫蘭である意味を理解しているでありんすからな。まあ、真っ直ぐな子供みたいなものでありんすが」
カラコロと鈴の鳴る様な笑い声と共に、涼しい声で呟く白蘭のそれに。
「そう言えば、お前は紫蘭の師匠だったな。お前が琴の稽古をさせたのは、如何してだったんだ?」
そうネコ吉が怪訝そうに問うと、白蘭が何、と笑いを隠せぬままに肩を竦める。
「あやつは自分から学びたいと言った。只、それだけでありんすよ。妾の所にいるその間だけでも、少しでも何かを知りたいと言う理由でな」
「……つまり、紫蘭の心にアンタの音楽は響いていたと。そう言うことなんだね」
響が何処か安堵の籠った口調で告げるのにそうでありんすな、と白蘭が笑う。
「まあ、だからこそ不肖の弟子を助けようという気にもなるわけでありんすな。古い諺にあるではありんすか……鈍な子ほど可愛い、とな」
「……やれやれ。しょうが無い奴だね、アンタも」
悪意のない調子で言ってのける白蘭のそれに、響が苦笑をしつつ溜息を漏らす。
「……緊張感が無いのは相変わらずと言ったところか? まあ、元々ああいう奴だった気もするが」
そんな白蘭の様子をちらりと見やりながら霧亥が嘗て敵として白蘭に出会った時の事を思い出して目を細めた。
(「初めて使ったセットポジションも、フォームも無視したがチート野球だったが……それなりに役に立ったな」)
そう、内心で先の戦いに想いを馳せながら。
……と、其の時。
紅閻の篁臥から降りた雅人が今は、と何故か呆れた様に白蘭の方を見て溜息を漏らした。
「白蘭さんはあんな感じだよ。初めての頃はとっつきにくかったんだけれど、今は精々食えないけれど悪い人じゃない……そんな感じかな」
自身の覚悟は、既に済んでいるのだろう。
あっけらかんと白蘭にそう評価を下す雅人のそれに霧亥が思わず微苦笑を浮かべる。
「まあ、お前にとっては紫蘭の琴の師でもあるからな、雅人。悪く言う必要も理由も無いか」
そんな霧亥の呟きに同僚だしね、と冗談めかして肩を竦めつつ頷く雅人を見て。
(「……本当に強くなったな。雅人は……」)
と篁臥を漆黒のコートに戻した紅閻が感嘆の呟きを内心で漏らすその間に。
「さて……祥華、紅閻、紫蘭。この先に闇の天秤がいるんだよね」
転生した彼女達を見送った統哉が紫蘭の周囲に集まってきていた紅閻と祥華に確認する様に問いかけるのに。
「ああ……間違いないであろうな、文月」
そう祥華が呟くのに、統哉が静かに首を縦に振る。
(「……闇の天秤。あの子達を生み出し、其の反対の秩序である紫蘭を転生させてこの地に生み落とした……彼女達が救いたいと願った『ともだち』か」)
一体どんな相手なのだろう、と内心で統哉が呟きつつ、そっと無意識に浄化の矢を解き放った自らの手を握りしめる。
「……大丈夫。そのともだちも、俺達がきっと救ってみせるから。だから……」
――君達にも、安らかなる転生を。
その統哉の願いを、祈りが風に乗って消え。
「皆で導いた転生が、どうか、彼女達の救いとなる様に」
そうネコ吉が静かに祈りを手向け、陽太が安らかに……とクラウン達と共に生み出した幻朧桜の樹海の迷宮に静かに告げた其の後に。
――祥華の案内に従って、猟兵達は、逢魔が辻の中心点へと向かって行った。
大成功
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第3章 ボス戦
『彼岸桜』
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POW : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:礎たちつ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●光と影と
――その、逢魔が辻の最奥部で。
『……漸く、来たか。天秤の『光』。『闇』たる我と対を為す、天秤に選ばれし者よ……』
龍脈の径を辿り、辿り着いたその場所に。
『我』は、確かに、そこに在った。
――それは、善でも、悪でもなく。
『光』との平行を取るために世界に産み落とされた『闇』にして、『影』たる概念。
『そうだな……。嘗て、我の現し身を倒した汝等に敬意を表し、我は我を『影朧桜』とでも名乗ろう。汝等を含めた、生あるモノ全ての『光』に、人々の其の目が焼かれてしまわぬ様に。世界が、人々が抱いた想いを背負いし我を……』
――もし100年程前に、我等を焼いた『猟兵』が世界を救う光であり、守護者なのであれば。
『我は、決して汝等と相容れぬ事は無いだろうな……。我は、その『光』に焼かれた人々の心を癒すために、産み落とされた影朧なのだから』
――事の始まりは、100年程前。
自らもかの者達の“火”に焼き尽くされた……。
『我はかの里の幻朧桜達の長にして、その場にいた桜の精達と、人々と絆を育みし者。我は……我等は、その人々の悲しみを癒すために、我が同胞達が殺されても尚、人々の魂を救済しようと転生の儀を行った』
――然れどその果てにあったものは、『我等』の無残な死。
救いたいと願い、安らかな眠りをと捧げた祈りは、あの時、『生者』達に無残に踏み躙られた。
何故ならば……。
『人は、変わることが出来るかも知れぬ。だが……ヒトの『心』は脆く、弱いのだ。『我等』の願いを、想いを容易く踏み躙ることが出来る程度にはな……』
――何故、『生者』達がそれ程迄に我等を憎むのか。
死した者達の魂を慰めた『我等』に、あの様な酷い仕打ちが出来るのだ。
そして、何故その様な世界が赦されるのか。
『死して尚、我等は考えた。そして……1つのことに思い至った。それは……』
――生者は、数多だ。
故に生者達は、感情の赴くままに、無抵抗な者達を容易く踏み躙る事が出来る。
……何故ならば。
『数とは『力』であり、暴力だ。『自分』が一番『幸福』でありたいから、数を頼みにその心の奥底に蓄えた負の想いを、弱者へとぶつけていく』
例え其の結果として、自分達に『死』が訪れるとしても。
彼等は其の蛮行を繰り返すのだ。
『無抵抗な我等を虐殺し。その血と悲鳴と、絶望の想いに酔いしれて、嗤い、罵り、愉悦を得る。『人の不幸こそ蜜の味』と言う諺があるが、ヒトの……生者の『業』を知る者として、それは正鵠を射ていると言わざるを得まい』
――そんな生者達は、無限に繁殖する。
自分達が、生者と言う『種』として存続し続けるからこそ……彼等は、その傲慢の軛から逃れることは出来ぬ。
『故に、我等はなればと決めた。互いが平等に存在し続ける事が出来るのであれば、この世界の全ての者達に真の幸福が訪れるのではないかと』
――その願いを込めて作り出したシステム。
それが……『天秤』
『汝等は、こう言うだろう。『今』を生きる者達の幸福を、我等は踏み躙る存在だと。だが……では、問おうか。『今』でも生きていたであろう、我が同胞達……幻朧桜の『今』を奪い、自分達が幸福になった汝等に、その様な事を言えるのか? と。我等は、只、『我等』でありたいがために、人々の心を救済するべく転生の儀式を行っただけだというのに』
――そこにあるのは、純粋なる『祈り』
誰かの失われた魂を救う為に、誰かの魂を輪廻の輪に戻して安らかに眠らせる……。
それだけが、自分達にできる唯一の事だった。
その『影朧桜』の淡々とした念動話に。
「……」
雅人は何も言い返さず、只、静かに『それ』を……世界によって生み出された『概念』を見つめている。
「それが、あなたのエゴにしか過ぎないのだと言えば?」
そう、紫蘭が問いかければ。
『エゴ。成程、確かにそれは『我等』のエゴかも知れぬ。だが、そのエゴを破壊し、壊すために、生者達は『我等』を皆殺しにしたのだよ。汝等は、我等の誰かを救う為に世界を癒す『エゴ』よりも、自分達が幸せになる為に他者を害する『エゴ』を肯定するのか?』
その何処か優しげな『影朧桜』の問いかけに。
「……」
紫蘭は何も言い返さず、じっ、と『影朧桜』を見つめていた。
『影朧桜』を名乗るそれは……1つの世界のシステムを生み出したそれは、猟兵達に向けて、汝等よ、と言の葉を紡いだ。
『我等が同胞を悉く討ち取ってきた超弩級戦力達よ。汝等と、『我』は対峙する。……そう、『我』が司りし……』
その言葉とほぼ同時に。
不意に、影朧桜の周囲に集った龍脈が『ヒト』の形を為して、その場に姿を現す。
その者達の姿を見て、猟兵達は息を呑む。
――飲む事しか、出来ないだろう。
目前に現れたのは……。
『『影』なる力を以て。かの者達は、汝等の『影』。即ち、汝等にして汝等に非ざる存在。その者達に、我は我が力の一部を差し出した。……汝等の『影』たる者達に』
その影朧桜の言葉と共に。
次々に身構える『超弩級戦力』達の姿をした『影』が武器を構え、其々の力を解放し、息もつかせぬ連携の構えを取る。
――けれども。
その超弩級戦力達の中に、紫蘭と、白蘭……そして、雅人の姿はなかった。
『……そうか。そう言うことか。此度の天秤の戦いにおいては、汝が『異音』であったか、小僧』
その影朧桜の言の葉に。
「……何?」
雅人が微かに目を眇めて問いかけるのに、影朧桜は軽く枝を揺さぶり聞き流し、続けて白蘭の方を見た。
『出来る事で有れば、汝の力も欲しかったが……どうやら、超弩級戦力達に守り抜かれた様だな』
その影朧桜の呼びかけに。
「……さぁ。何のことでありんすか? 只、妾は求めているもののために奏でるだけでありんすよ」
――ポロン、ポロン。
その背に背負った『琴』をその場に構えて爪弾き、不敵な笑みを浮かべる白蘭。
「妾は、妾が望む世界の為に、この力を使う。只……それだけでありんす。故に、貴様等の考えていることなど知らぬ。まあ……その妾の求めるそれの為であれば、貴様の望む世界の否定など、容易いことでありんすからな」
『……嘗て、あの男を愛した者の言葉とも思えぬな。だが……良かろう。汝が我等と道を違うと言うのであれば、我は我等の意を貫くのみ』
――『光』に対する『影』の、その意志を。
現れた超弩級戦力達の分身のその動きを見つめながら、さあ、と影朧桜が告げる。
『この『光』と『闇』の天秤の戦いの果ての『敵』が汝等であると言う事実……これ以上に相応しい舞台などあるまい。我等との戦いの果てを、共に踊ろうではないか、超弩級戦力達よ』
その、影朧桜の言葉と共に。
動き出した自分達の分身と刃を交える、猟兵達が選んだ答えは……。
*第3章は下記ルールで運営致します。
1.第1章、第2章の間で使用されてきたユーベルコヲドの全てを、敵は使用してきます。尚、『影朧桜』が召喚した皆様の影に、精神支配系・状態異常系は無効となります(彼等を撃破後、『彼岸桜』を撃破する事がこのシナリオの成功条件となります)
2.下記は、分身が使用可能なユーベルコヲド一覧となります(第1章、第2章で他キャラ同士で被ったデフォルトUCは、1つのUCとして判定しています)。
また、一部ユーベルコードのデータを若干調整しております。
【POW】
1.赫灼の闘気(カクシャクノトウキ)
【燃えあがる闘気】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
2. トリニティ・エンハンス
【炎の魔力】【水の魔力】【風の魔力】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
3.ザナドゥの死神
自身と装備を【漆黒の闇】で覆い、攻撃・防御をX倍、命中・回避・移動をX分の1にする。
4. 我流・五月雨(ガリュウ・サミダレ)
【手にした武器から衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
5. 魂魄剣・縛鎖両断(コンパクケン・バクサリョウダン)
【束縛からの解放を希う祈り】を籠めた【黒剣、ないしは片手武器】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【精神を縛る鎖】のみを攻撃する。
6. 黒猫は推理する(クロネコハスイリスル)
【眉間に皺を寄せる】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
7. Spell Boost(スペルブースト)
予め【本来儀式魔法用の長く複雑な呪文を詠唱する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
8. 空より至る百億の星
敵1体を指定する。レベル秒後にレベル×1体の【宇宙ゴースト】が出現し、指定の敵だけを【重力剣】と【流星魔法】で攻撃する。
9. 白銀の騎士(ハクギンノキシ)
自身の【持つ剣】を【必殺フォーム】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
10. 終の舞・散桜(ツイノマイ・チリザクラ)
【神速の突き】が命中した対象に対し、高威力高命中の【レベル×回数分の目にもとまらぬ斬撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
【SPD】
1. Active Ice Wall(アクティブ・アイスウォール)
【念動力で浮く戦場を埋め尽くす程の氷塊の群】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
2. Ouroboros Arsenal(ウロボロス・アーセナル)
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【軍用車両・艦、機動兵器、重小火器・爆薬類】を作った場合のみ極めて精巧になる。
3. 漆黒の獣(ブラックサーバルキャット)
自身の身長の2倍の【漆黒のサーベルキャット】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
4. 真・黄巾力士(シン・コウキンリキシ)
【黄巾力士】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
5. Точная стрельба(プリシジョン・シューティング)
レベルm半径内の、自分に気づいていない敵を【SV-98M】で攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中する。
6. Idea Cannon Full Burst(イデアキャノン・フルバースト)
装備中のアイテム「【魔導原理砲『イデア・キャノン』】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
7. 怨龍檻獄(エンリュウノオリ)
対象への質問と共に、【封じてある瘴気】から【荊棘に覆われた怨龍】を召喚する。満足な答えを得るまで、荊棘に覆われた怨龍は対象を【荊棘の檻に閉じ込めて貪り喰らう牙】で攻撃する。
8. Overwatch(オーバーウォッチ)
【半径50km圏内の生物の視覚を強制共有化】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【捕捉し携行武器による必中の精密射撃・投擲】で攻撃する。
9. 情熱の炎(ジョウネツノホノオ)
【掲げた手】から、戦場全体に「敵味方を識別する【荒ぶる情熱の炎】」を放ち、ダメージと【燃え続ける消えない炎】の状態異常を与える。
10. 幻朧桜召喚・桜嵐(ゲンロウザクラショウカン・オウラン)
戦場全体に【召喚した幻朧桜が巻き起こした桜吹雪】を発生させる。レベル分後まで、敵は【視界不良と幸運及び生命力の低下】の攻撃を、味方は【包まれた桜吹雪による幸運上昇と生命力】の回復を受け続ける。
11. 風花の舞(カザハナノマイ)
自身が装備する【愛用の魔法の杖】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
12. 魂魄解放(コンパクカイホウ)
自身に【かつて喰らった魂】をまとい、高速移動と【刺突か斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
13.八重雨ノ思考(ヤエアメノシコウ)
【思考を加速、未来を見たが如き正確な推理で】対象の攻撃を予想し、回避する。
14.四更・林(シコウ・リン)
【破魔への祈り】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【武器『偽・白雪林』から発射した分裂する霊力矢】で攻撃する。
【WIZ】
1.荒れ狂う火炎の王の使い(ファミリア・オブ・レイディング・フレイム・キング)
レベル×1個の【炎の精】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
2.侵食・幻朧桜(シンショク・ゲンロウザクラ)
レベル×10m内のどこかに【桜吹雪を巻き起こす幻朧桜の林】を召喚する。[桜吹雪を巻き起こす幻朧桜の林]を見た敵は全て、【全猟兵が骸の海に転生可能という概念侵食】によるダメージを受ける。
3.四更・雷(シコウ・ライ)
レベル×5本の【否、レベル×10本の雷+風】属性の【追尾し、当たると生命力を吸収する呪詛の矢】を放つ。
4.氷晶の矢(ヒョウショウノヤ)
レベル×5本の【氷】属性の【魔法の矢】を放つ。
5.荒れ狂う元素災厄(エレメント・ディザスター)
【魔導ナノマシン群体を集めて作った巨大生物】によって【戦場内の自然を自在に操り攻撃し、光の粒】を発生させ、自身からレベルm半径内の味方全員の負傷を回復し、再行動させる。
6.デュエリストカード・スパーダ()
【悪魔召喚「スパーダ」】をカード化する。【『スパーダ』と叫ぶ】だけで、誰でも行動回数を消費せず使えるが、量産すると威力が激減する。
7. 悪魔召喚「スパーダ」(サモンデーモン・スパーダ)
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【召喚した悪魔「スパーダ」の持つ紅き短剣】で包囲攻撃する。
8.癒しの業火(ヒーリング・ヘルファイア)
レベル×1個の【心身を癒し暖め、触れた相手を例外なく健常な状態にさせる地獄】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
9.願いの矢(ネガイノヤ)
レベル×5本の【願いと祈り】を籠めた【浄化】属性の【肉体を傷つけずに精神のみを攻撃する光の矢】を放つ。
10.スノウホワイト特製ブレンドコーヒー(スノウホワイトスペシャルブレンドコーヒー)
自身が淹れた【ブレンドコーヒー、ないしは任意の飲み物】を飲んだ対象を【癒やしの香気】で包み、24時間の自動回復能力と【苦痛】耐性を与える。
11.清浄なる加護・無垢なる聖域(イノセント・サンクチュアリ)
【自身を中心に足下に作った魔法陣】から【戦場全域を包む聖域を作る光の波】を放ち、【味方を癒し強化し敵を攻撃し弱体化させ光鎖】により対象の動きを一時的に封じる。
12.Eraser(キエルマキュウ)
対象のユーベルコードに対し【ユーベルコードが消える魔球】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
13.スチームエンジン
自身の装備武器に【蒸気エンジン】を搭載し、破壊力を増加する。
14.大いなる白き沈黙の神の吹雪(スノウストーム・オブ・イタクァ)
レベル×5本の【氷】属性の【刃の様な氷柱】を放つ。
15.人形固有能力・タイプδ(ドールユニークアビリティ・タイプデルタ)
戦場全体に、【指定した全ての対象の全てを忘れさせる樹海】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
16.悪魔召喚「レラージェ」(サモンデーモン・レラージェ)
レベルm半径内を【超常の力が満ちる混沌空間】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【術者とその仲間全員の攻撃・命中・防御】が強化され、【術者に敵意持つ者の敵愾心・攻撃力・防御力】が弱体化される。
17.反旗翻せし戦意高揚のマーチ(マーチ・オブ・アゲインスト・バトル)
【戦意を高揚させるような歌】を披露した指定の全対象に【敵の精神攻撃に抗える強い決意の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
3.この章から参加されたお客様に関しては、設定されているUC及び能力を持った分身が登場する、と判定します。
其の為、仲間が増えるだけでは、難易度が下がることはありません。
4.影達のレベルは、『254』として判定します。
5.装備については、描写は曖昧になりますが、各ユーベルコードを使う為の各PCの最適装備がされていると考えて下さい。技能も同様です。
6.このシナリオの敵ユーベルコードは、ユーベルコードを無効にするユーベルコードは効果がありません。又、開戦当初では、一度見たユーベルコード扱いにもなりません。
7.NPCの扱いは下記となります。
共通
a.この戦場から撤退しません。
b.猟兵達の指示にはある程度従います。
c.2章までの判定の結果、3章でNPC達の分身が現れる事は有りません。
d.NPCを組み合わせた行動は、プレイングボーナスとして扱います。
e.『死なない』、『無敵になる』系のユーベルコヲドは、3人とも効果を受けません。
紫蘭
a.護衛がなければこのシナリオ中で死亡(影朧化)する可能性が高いです。
b.使用可能UCは桜花の舞(鈴蘭の舞相当)or桜の癒やしとなります。
c.特に指示が無ければ、『桜花の舞』を使用します。
d.第2章の判定の影響で、やや猟兵達と自分の在り方に懐疑的です。
雅人
a.護衛がなくともこのシナリオ中で死亡する可能性は低いです。
b.雅人への行動の指示は、基本的に連携扱いになります。
c.雅人は下記UCのどちらかを使用可能です。
使用可能UC:皆伝・桜花風斬波(【刀】を巨大化し、自身から半径100m内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる)or強制改心刀・閃(【破魔と浄化と霊力】を籠めた【退魔刀による広範囲への一閃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【邪心】のみを攻撃する)
d.特に指示が無ければ、『強制改心刀・閃』を使用します。
白蘭
a.護衛がない場合は死亡します。
b.白蘭は下記UCのどちらかを使用できます。
使用可能UC:白蘭の魅惑(【魅惑の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能))or
白蘭の琴弾(【平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化)
c.基本的に『白蘭の琴弾』のUCを使用します。但し、猟兵達から指示が有り、且つ其のプレイングの方が有用であれば『白蘭の誘惑』を使用します。
d.『白蘭の琴弾』使用中の白蘭は敵からの攻撃の回避が極めて難しい状況になります。また、白蘭をそこから動かすと、『琴弾』の支援が機能しない可能性があります。
8.『影』達はUCでは無く、キャラクター扱いです。尚、UC封印系のUCを使用する場合、対象は、上記(+新規参加皆様の)UCとなります。
9.積み重ねられてきた判定の結果、『影朧桜』の転生は不可能ではありません。但し、困難です。
――それでは、悔い無き選択を。
※MS追記。
敵の使用するユーベルコードに漏れがございました。
申し訳ございません。
【POW】
11.黄巾力士・五行軍(コウキンリキシ・ゴギョウグン)
レベル×1体の【黄巾力士】を召喚する。[黄巾力士]は【本来は金行だが、召喚時に設定された五行】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
御園・桜花
「貴方の信じる真実は、きっと多分、事実じゃない」
「転生を請い願うのは、桜の精の本能じゃない」
「だって私の最初の鮮やかな記憶は、青い空を追って山を下りた記憶は…里の人を見殺しにしたのと、同じだったもの」
UC使用
影朧桜と敵を最も多く巻き込むように放つ
「言葉も声も知らず、蝋燭の灯りしかない場所で、本当に生きる最小限の事しか知らなかったから。引き千切れた腕の意味も飛び散る赤の意味も倒れた家の意味すら分からなかった。お婆に拾われて人間に育てて貰えて…やっと分かった。あの日私は、誰も救わず山を下りてしまった」
「知らない事は罪だ。知ろうとしない事は罪だ。きっと何度も間違うけれど、今度はどんな手段を使おうと、私は…救う為に足掻いてみせる」
「貴方は…多分転生を望みすぎた。残った人の心を慰撫しなかった。救うつもりで貴方は…その人達の心を、踏み躙って殺した、と思う」
「此処に居ても、あの日の事実は掴めない。同じ事を真に起こしたくないのなら。貴方は転生して、自ら知ろうと願うべきだと思う…強い願いは、必ず叶うから」
鳴上・冬季
「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ、でしたか。紫蘭さん、貴方の過去であり未来であるあれを見て、どう思いますか」
「貴女は座学がトップクラスだと伺いましたが。影朧に対峙する際の実践心得は未履修でしたか?」
「では選択しなかったか、来期の履修なのでしょう。桜學府に戻ったら、確認されるとよろしい」
嗤う
「真・黄巾力士の相手は私がします」
最大化した黄巾力士と合一
縮地で接敵し零距離から金磚実体弾を砲頭銃口に撃ち込み投げ飛ばす
戻ったら竜胆に桜學府の桜の精の履修科目再編に関する陳情書を提出する
「桜學府に所属する桜の精運用のケースメソッドとして、有効活用すべき事例でしょう?特に桜の精には最初に教え込むべきです。死者を調伏しに行って殺人者を量産したり逆に殺されたりは本末転倒。呼び出した等関係者が居る場合まず慰撫なり捕縛なりで繋がりを絶ってから調伏する。影朧には必ず2人以上で対処する。現場保持と転進の推奨。影朧桜をまた生み出す土壌を残すのは実に愚かしいと思いませんか?それでも学ばぬ莫迦の行いは、自己責任です」
嗤う
亞東・霧亥
手を取り合おうと必死で歩み寄った結果、手酷い裏切りに遭った。という話は残念ながら何処にでもある。
苦痛と苦悩、理解は出来るが時間が惜しい。
その怨み、さっさと刈り取らせてもらう。
行動:白蘭を護る
【UC】
過去の激闘から【竜神親分(成長電流形態)】に変身する。
この姿で戦場に在る限り無限に成長し続けるが、体には強い負荷が掛かり続ける。
猟兵といえど神の威を借りるには代償が要るか。
『武器改造』でクリエイトフォースを親分愛用の槍に変化させる。
迫り来る影達の猛攻、全て捌いてみせよう。
俺が自滅するのが先か、貴様らを殲滅するのが先か、何れにせよ白蘭には指一本触れさせん。
「白蘭、安心して己の成すべき事を為せ。」
ウィリアム・バークリー
あの幻朧桜が闇の天秤?
そうであろうとなかろうと、一つの決戦には違わないでしょう。
全力で影を退けて、あの桜を討滅しましょう。
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「オーラ防御」「盾受け」でActive Ice Wall!
ぼくの影がどう出ようと、防ぎきってしまえば問題ありません。
影は攻撃と防御のどちらを選ぶ?
紫蘭さんたち三人と護衛の方々には特に手厚い「心配り」を。
味方全員、氷塊が必要であればPriorityを渡して自由に活用してもらいます。
影が氷塊を呼んだ時に区別するため、氷塊を薄緑色に染めておきます。
自分の影を討滅したい思いはあれど、ぼくの役目はダメージコントロール。
氷塊が砕かれたら更に追加。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携
狂った一部の人間を見てそれを全てと断じた時点で、貴方方もまた狂ったんです…本当に残念ですよ
まずは普段の経験(戦闘知識)のもと狙撃監視態勢を取るであろう自分とミハイルさんの影から味方を防護する為、指定UCで黒霧を展開し射線妨害。ミハイルさんや局長と示し合わせ、攻撃で注意を引いて貰う間に、霧に紛れ接近しつつUCで狼達を密かに展開。同時に霧中でも暗視、魔力・気配感知等で索敵してくる敵に対しては自身を囮として意識誘導し、隙が出来た所を(見切り)狼達で四方から襲撃or逆に狼を囮に頭部を射撃し、確実に各個撃破し連携を断つ様戦います(目立たない・罠使い・暗殺)
敵集団戦力召喚時や白蘭さんの琴弾使用時は、周辺監視しつつUC:ツェアシュティーレン・フリューゲルを発動。精密誘導爆弾による近接航空支援を実行(援護射撃)彼女に接近する敵、仲間に迫る敵集団に適宜投下し数で押してくるのを妨害。更に敵の武器を持つ腕・脚部狙いで狙撃し味方を支援します(スナイパー・鎧無視攻撃)
アドリブ・絡み歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
やれやれ、どうやらクライマックスな上、手荒く楽しいコトになってきたじゃねぇか。んじゃま、ビジネスを始めるとしようぜ。
当然、狙うのは俺自身の影朧。
戦線のやや後方に潜み、奴を探し出す。当然それまでは発砲は極力抑える。奴も俺と同じUCなら気づかれたら元も子もねぇ。奴の発砲炎を頼りに位置を特定し、後手からの一撃を加えてやる。カウンタースナイプだ。それに、待つのは慣れてる。絶好のチャンスが訪れるまで、獲物がスコープに飛び出すまで、そして自分の死が訪れるまで。
ったく、共に踊るだと?そんなに踊りたいなら、ホパークでもワルツでも手前1人で好きなだけ踊りやがれ。
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
アドリブ及び他者との絡み歓迎
こちらラムダ・マルチパーパス三等兵。支援砲撃態勢完了。以後、猟兵の皆様方からの要請があり次第、支援砲撃を行います。要請して頂ければ、出前迅速、快速特急で砲弾を送り込みますよ~。
後方に位置して、味方の要請した地点に砲撃。SIRDの方は勿論、他の猟兵の方の要請も承ります。
…砲撃地点の座標確認。弾種榴弾。方位角及び仰角修正。FCSオールグリーン。射撃開始。
おっと、敵も同じUCを使用して来るんでしたね。射撃を行ったら、素早く移動します。そうしないと、対砲迫射撃を受けてしまいますからね。
敵を一掃したら、後は彼岸桜に向けてAPFSDSに切り替え砲撃。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
紫蘭さん、雅人さん、白蘭さん。どうやらあなた方3人の存在は、イレギュラーの様ですね。という事は、あなた方の決断と行動が、この結末の鍵となる筈です。
G19で牽制射を行いつつ距離を取り、味方を巻き込まない距離まで来たらUCを発動。
大いなる森の黒山羊よ、全てを薙ぎ払え。
あなたはエゴと言いましたが…確かに、人には残念ながら大なり小なりエゴが存在します。ですがそれも程度問題。ただ破壊と死を撒き散らす様なエゴなど、到底許容できません。無論、あなた方を死に追いやったエゴも許されないでしょう。ですので…これから我々が戦うのは、義務であり、そして贖罪でもあるのです。
アドリブ歓迎
吉柳・祥華
◆心情
天秤、作られし概念…
勝手に弄られ何故ヌシは何もせぬ…
いや、ヌシは何もしないのではなく
――出来(干渉し)ないのじゃろうか?それが…ヌシの在り方かえ?
問うたところで答えは返ってこぬのじゃがな
まぁ…よい、ヌシが動けぬのなら…我が代行しよう
◆戦闘
貴様のその『祈り』
妾も嘗てはそうであったから解らないではない
だからと言って…他者を巻き込むのは(紫蘭や白蘭を横目に)如何がなものかのう?
(確かに、そのおかげで…紫蘭と雅人はカタチは違えど…今に至る。これもヌシの範疇なのかもしれぬが…)
しかし、貴様は少し勘違いしておるやもしれぬのう
ソレ(生み出されし己の…)は本当に妾の『影』かのう?
『出でよ、黒闇天女』
すまぬが…力を貸しておくれなんしよ。アレを(己の影を指さして)
妾の影と抜かしよる…妾の影は、此処に居ると云うのにのう?(背中合わせに並び)
『辛かった、苦しかった、悲しかった、何よりは己自身を呪い、赦せなかった』じゃろ?
護鬼丸は紫蘭を
冥風雪華は白蘭を
朱霞露焔は妾のフォローを倶利伽羅は妾たちを守るのじゃ
烏丸・都留
[SIRD]
アドリブ連携OK
UCなし
機械的思考制御。
要警護対象者を優先し自身、装備群、味方の全員警護対象。
時騙しの懐中時計やフェノメノンアクセラレーターで能力強化と限界突破。
「貴女の維持費は大丈夫? 主たる器物本体との超連携強化や神の加護はあるのかしら?」
自身は聖魔喰理扇で相手行動の理を崩し、認識可能範囲の対象をアイテールのメイスでの鎧無視攻撃、神罰、破魔、浄化、念動力、重量攻撃、鎧砕きで排除。
状況により無数に縮小召喚:
原初の暗黒神エレボスの影は抑止撹乱、ガードユニット、原初の天空神アイテールの護衛隊等でガード。
稼働中の隠密状態の朧蟲とその分体は周囲のオブリビオンからの汚染:力を吸収。
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
まあ、彼岸桜のいう受けた苦しみは理解できる。でもアタシ達も生者の世界を護ると言う事は譲れないねえ。ここまで来たら意地の張り合いか。
さあ、行こうか。どちらの意地が勝るか、決めようじゃないか。
白蘭の護衛に付く。白蘭が琴弾を使うなら、【オーラ防御】を纏った上で全ての攻撃を【気合い】を入れたら【衝撃波】で叩き落とすか、【怪力】【グラップル】で接近する敵を殴り飛ばす勢いで護衛を徹底するよ。
敵が召喚してくる影の攻撃の優先順は鉄壁の守りで味方を庇ってくる奏の影→協力な支援をしてくる美雪の影→厄介なBSを範囲で使ってくる桜花の影とクラウンの影といったところか。
影への攻撃は白蘭の傍を離れない前提で光焔の槍で行うが、接近してきたら容赦無く【怪力】【グラップル】【頭突き】【足払い】で攻撃。
紫蘭、今まで桜の精として影朧を転生させてきたのは他ならぬ紫蘭自身の意志だったはずだ。アタシ達家族はそう思う。もっと自分に自信を持って。支えるよ、アンタの意志を。
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
おそらくこれが最後の戦い。最後まで支えて見せます。紫蘭さん。
紫蘭さん、3年前から私の気持ちは変わってませんよ。紫蘭さんは光の天秤側に重要な桜の精かもしれませんが、私のマカロンを美味しいといってくれたお友達です。
それにここまできたのは貴方自身の意志だったはずですよ。私はそう思います。私はお友達として紫蘭さんを支えます。憧れているのですよ。普通の女の子みたいに紫蘭さんと綺麗な服や化粧品を買ったり、美味しいものを食べに行くの。
初志貫徹、トリニティ・エンハンスで防御力を固め、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【受け流し】【ジャストガード】でいつでも紫蘭さんを【かばう】ことができるように。
影の攻撃は習得している全ての【耐性】を全て動員して耐え切ります。
影を狙う順は私(奏)→美雪さんの影→桜花さんとクラウンさんの影
攻撃は【衝撃波】と【怪力】【シールドバッシュ】で。攻撃する余裕があれば、ですが。基本紫蘭さんの護衛に専念します。
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
彼岸桜が受け止めてきた苦しみは相当なものでしょう。でもその苦しみを生者の世界に向けさせる訳には行きませんね。僕らは僕らの信念を通させてもらいます。
紫蘭さんの護衛に。紫蘭さんを【オーラ防御】を込めた【結界術】で保護。
ええ、紫蘭さんは3年前、僕のフルートの音に気をむけてくれましたね。その感覚を大事にすることです。甘いものを美味しい、熱い紅茶と苦いコーヒーに驚いた気持ち。今まで桜の精としていろいろな影朧と接してきて救いたいと思った気持ち。
それはきっと間違いではありませんよ。他ならぬ、紫蘭さん自身が感じたものですし。僕ら家族は貴方を支えます。
狙う影は奏の影→美雪さんの影→桜花さんとクラウンさんの影
影の数が多いのでいつもの結界は使わず、【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた月光の狩人で敵の腕や脚を鷲に集中して狙わせ、攻撃や術の発動を邪魔させる方向で攻撃します。ダメ押しで【全力魔法】【魔力溜め】を込めた【電撃】を落とします。
天星・暁音
俺にとって転生とは救済とは違う何かだ
転生するのならそれもいいよ
それはとても優しいものだとは思うから…
君達の善意の分かるよ
でも救済したのに何故…というのは、君達の傲慢だよ
どんなに優しい願いでも、どんなに美しい想いでも、全ての人に絶対に正しいなんてことはないんだ
君達のそれは自分達は正しいんだっていう主張に聞こえる
転生っていうのは、今から俺が君達にする事と似ているよ
仮に君が転生したら、今の全て忘れてしまう
君達の善意は正しいかもしれない
でも、今の君達が俺のする事をどう思うのか教えて?
自分の想いを忘れる事に対する気持ちを…
共苦開放
貴方の痛みを…俺にください
UCの奪う力で、奪った力で此方も影を召喚
共苦は相殺しあったり防ぎあったりは不可
共苦の力に触れているは対象の痛みを感じているという事
彼岸桜の痛みと苦しみと悲しみも奪い、全部を奪えずともできる限り奪い、敵意を削ぎます
敵対意志をなくす為ではなく転生の全てを忘れるという事の疑似体験をさせる意図
影のUCに対して自分が作った影のUCで相殺する防御する等し対抗
森宮・陽太
アドリブ連携大歓迎
てめえの考えはよーくわかったが
生死のバランスを取ろうとする考えそのものが傲慢だっつーの
真に平等を保つなら「光の天秤」たる紫蘭を殺す必要はねえ
殺意がある時点でてめえの論理は破綻しているんだよ
紫蘭
あんたが思う儘にやればいい
俺らは支えるだけだ
影朧桜
てめえは世界の…「敵」だ
此処で討ち取ってやる
真の姿解放(オーバーロード)
さらに演出で【表裏一体たる暗殺者】が勝手に発動
「陽太」の意識が残っているようだが
俺も「陽太」と意は同じ
目の前の影朧桜を討ち取るのみ
スパーダとレラージェが脅威なのは明白
故に召喚主たる「陽太」の影を先に討ち取る
気配を殺しつつ「第六感、見切り」で影たちの攻撃を避けつつ
「地形の利用、闇に紛れる」で陽太の影の背後に接近
背後を取ったら即座に「ランスチャージ、暗殺」で仕留める
影を討ち取ったらダイモンデバイスに持ち替え
「高速詠唱、言いくるめ」から指定UC発動
「破魔、優しさ、祈り、浄化」を籠めた「属性攻撃(聖)」の獄炎を戦場全体に吐かせ
影朧桜ごと戦場全体の負の想念も浄化しよう
馬県・義透
破魔に耐性があるため、引き続き『静かなる者』にて
武器持ち替え:四天刀鍵
厄介な話ですが…似姿と対峙するの、二桁いってるような。
平等なる癒しなぞ存在しないのです。どこかで破綻しますよ。
UCを使用し、対するのは私…いえ『我ら』の影。あなた、攻撃が広範囲もいいところですからね…。
私は滅多にやりませんが、早業でダッシュして接近。四天刀鍵による斬りかかりでの近接攻撃ですよ。
純粋な後衛とはいえ、私も武士でしたから。これくらいのことはできますよ。
付近に別の影もいるなら、それもろともの範囲攻撃の薙ぎ払いにて。
影を撃破後は、影朧桜にも刀の一撃を。
…死んだからと言って、必ず影朧になるわけでもない。それは『我ら』が証明しています。
そして、今までの全てを覚えてもいる。そんな存在ですよ。
※
陰海月は海色結界で白蘭を、霹靂は雷羽結界で紫蘭を護衛。いざとなったら、自らに乗せる。
平和を願うのは、ぼくたちだって一緒だ。
朱雀門・瑠香
すいません、昔の事を今の時代の事みたいにごちゃ混ぜにするのやめてくれませんか?客観的証拠あるんですか?無ければただの貴方の思い込みですよ?
美雪さんの影と陽太の影を消しておく。前者は殴り合いが苦手だろうから乱戦に紛れて背後から不意打ちで陽太はプロだからなぁ・・・他にも攻撃する人に合わせて真正面から挑むしか無いか。
いずれもダッシュで間合いに入り込んで攻撃の挙動を見切り躱して或いは武器受けでいなし、オーラ防御で耐えあのニヤケ面に破魔の力を込めて叩き切る!
木の伐採はその後に。
白蘭さんの守りは手の回る人が足りない時にやる
白夜・紅閻
俺の影はルカとガイに任せる
篁臥は雅人のそして皆のフォローに
白梟は俺を乗せて上空へ
紫蘭、君も来てくれるかい?
話したいことがある
先ほどの戦いでカミサマに“なんで”と聞いていただろ?
カミサマはきっと話さない
カミサマは嘗ては独神と呼ばれていたそうだ
あの彼岸桜と似たような立場だったのかな
自分で作った世界を守るために
自分の力を今戦っている二人に与えた
白い方には福を、黒い方には禍を
だがいつしか人は福の力を独占しようと
禍の黒を殺したらしい
本来なら二人で一つで人々の平等を保っていたのに
全てを背負うことになったカミサマは
到底一人では背負いきれなくなり正気を保てなくなって
そのスベテヲ無かったことにしてしまった
そう、自ら生み出した子等と己の世界を、ね
でも、今でも後悔しているのだろうな…多分
子等によって受けた痛みと感情を
子等に与えてしまった痛みと感情を
その全てを自身の身に封印して抱きしめている
そして、今も…未だに蝕んでいる
さて、俺も手伝わないと
白梟、俺たちを下ろしてくれ
紫蘭は身を挺してでも守る影朧化なんてさせない
彩瑠・姫桜
二桜
ごめんなさいね、駆けつけるの遅れてしまったけれど
あお(f06218)や仲間と連携し、ここからできる限りのことをさせてもらうわ
紫蘭さんの護衛中心
オーバーロードで[封印を解き]、真の姿に変身の上【血統覚醒】にて自己強化
[かばう、武器受け]を駆使して護衛させてもらうわ
余力があれば、対峙する自身の影と影朧桜へ攻撃
攻撃する場合は、ドラゴンランス二刀流で[串刺し]にすることを狙うわね
>影朧桜
そうね。
あなたの視点に立てば、あなた達のしていることはどこまでも正しく、純粋な願いであり。
あなた達と対峙する敵である私や生者は、どうしたってあなた達を踏み躙る悪になるわ。
だからあなたが言うように、私を含めた生者にも非はあるのでしょう。
でも、それも織り込んだ上で、[覚悟]を決めて、私は生者の側に立つと決めたわ。
正義は、正しさは、立場と視点の数だけ存在しているからこそ。
私は、私の後悔しない道を貫こうって。
だから、あなた達を踏み躙るその罪も背負って、あなたと影と対峙するわ。
クラウン・アンダーウッド
『天秤』というシステムは破綻しているね。結局、双方の犠牲者を際限なく増やすばかりじゃないか。貴方の「理想」は「非理想郷」だよ。
この世界は十分幸福だよ。だって平等にやり直す機会を与えられるんだからね♪
おいで、ζ。
カバンよりバンシーを取り出しζに持たせてUCを使用
「死者との再会」
指定対象はクラウン。バンシーを持つ手以外がクラウンの嘗ての持ち主であった人形師の姿に変わる。
守れなくて、ごめんなさい。
ζの姿の元となった人形師へ伝わらない謝罪を一言述べて、ζにその悲鳴の様な音を立てるバンシーを以て障害を解体させる。
障害が無くなれば指定対象を『影朧桜』に変更しその姿を変異させる。
榎木・葵桜
二桜
遅れてごめんね!
色々考えるところはあるけど、私もできる限りのことはさせてもらうよ
白蘭さんの護衛中心
オーバーロードで真の姿に変身し【巫覡載霊の舞】使用
[見切り、かばう、武器受け、激痛耐性]を駆使しちゃうね
姫ちゃん(f04489)や仲間とも適宜連携するよ
余力があれば敵とも対峙
[なぎ払い、衝撃波、2回攻撃]駆使する
私や姫ちゃんの姿をしていても影ならば躊躇はしない
割り切って敵は敵として攻撃を仕掛けていくね
>影朧桜
光と闇は存在としては相反するね
立場が違うから、見えるものが違ってて願う幸せの形も違う
自分達が幸せになるためにエゴを持っていることはその通りだよ
でも、あなた達もそういう一面があるよね
あなた達の論理で言えば正しいことも
私達の視点で見れば間違っているように見えることがある
双方歩み寄れたら一番いいのかもしれない
でも、私は、あなたの言う通り自分勝手だから
あなた達の考えに歩み寄って大切な人達を失うのが嫌だから
私は、私の今できることとしてあなた達と戦うよ
礼儀と敬意を持って理解し、争うよ
館野・敬輔
アドリブ連携大歓迎
紫蘭を試しておいて何を言うか
数は力…暴力かもしれないが
圧倒的な力は純粋な暴力だ
それに、貴様は互いが平等に存在し続けるよう仕向けているのだろうが
ここで紫蘭を闇に堕としたら光と闇の均衡はあっさり崩れる
それを知らない貴様ではあるまい?
だから俺は貴様を討つ
闇に大きく傾けるような所業は見過ごせない
指定UC発動
さらに演出で【魂魄解放】発動
漆黒のオーラに潜ませるように魂を纏う
他猟兵と連携し回復・バフ役の影から撃破狙い
気配を殺しながら「地形の利用、ダッシュ」で背後を取り
纏うオーラで「生命力吸収」しつつ「2回攻撃、怪力、なぎ払い」で一掃を狙う
影の攻撃は極力「第六感、見切り」で回避を試み
精神攻撃は決して心折れぬとの「覚悟」と「呪詛耐性」で耐えよう
影を全滅させたらそのまま影朧桜に同様の攻撃をするが
もし、魂たちが影朧桜の内心に触れられれば
その本心を…理解できるかもしれない
ダメもとでオーラを触れさせながら「祈り、優しさ」を籠めて「読心術」を試みよう
俺自身も呑まれるかもしれないが、覚悟の上だ
文月・ネコ吉
平和を願う白蘭の琴、俺もまた想いは同じだ
動けぬ白蘭をオーラ防御と武器受けで庇い護る
紫蘭の護りは統哉や雅人達に任せよう
仲間と連携を密にして戦い
誰一人死なせない
八重雨の思考で未来の攻撃を正確に見切る
仲間と情報共有し、堅い護りを維持しつつ
戦況を徐々に有利な形へ誘導する
影達の攻撃は全てが既知のUC
未来を読むにはもってこいだ
逆に向こうにとって此方は既知と未知の混在
連携を崩す上でこの差は小さくないだろう
■影朧桜へ
光と闇の天秤か
闇の存続には光の存在は不可欠だ
天秤の維持だけを考えるなら
紫蘭は別の場所で生者として使命を全うすべきだろう
だがお前は紫蘭を呼び、その身に取り込もうとした
まるで闇に光を合わせ打ち消そうとするかの様に
これは大きな矛盾点
本当は分かっているのでは?
影朧が天秤を担っても平穏の未来は得られない
時の消費を妨げ未来を閉ざす
それが影朧の、オブリビオンの本質だから
望む望まざるとに関わらず
導く先は崩壊だと
だからこそ光を求めた
闇に傾く己を止める存在を
お前自身も己の闇を終わらせたいと
そう願っているのでは?
文月・統哉
救済を願う強い意志で『着ぐるみの空』発動
雅人達仲間と連携し戦う
影の攻撃は既知な分見切り易い
積極的にカウンター狙う
紫蘭をオーラ防御と武器受けで庇い
迷いも肯定した上で勇気付ける
白蘭はネコ吉達に頼む
絶対誰も死なせない
■紫蘭へ
何が正しいかなんて本当は誰にもわからない
だからこそ考える必要があるんだ
自分自身の心で
迷っていい、躓いていい、遠回りしてもいい
それこそが生きるという事だから
それでも譲れぬ思いが願いがあるのなら
それが紫蘭、君自身の答えだよ
■影朧桜へ
当時の状況は想像しか出来ない
でも理不尽な状況にあっても
必死に人々の救済を願った君達の想いは良く分かる
俺達も今同じ様に君達の救済を願っているから
理不尽に今を奪われた君達にこそ
転生の先で再び今を生きて欲しい
人々の救済を願う君達であればこそ
背負う苦しみから解放されて欲しい
それは嘗ての君達の
そして今の俺達の祈りだよ
その祈りを再び踏み躙る事が
君の本当の願いだとは思えない
だからこそ
雅人に強制改心刀・閃を
紫蘭に桜の癒やしを頼みたい
それが彼らの為に
今の俺達が出来る事
藤崎・美雪
アドリブ連携大歓迎
こうなると私は歌うか舌戦しかできないので
紫蘭さんの側を離れぬようにしつつ
いつもの「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UCでNPC含めた皆を回復しつつ再行動狙い
影の攻撃は全力で回避を試みつつ、心が喰われぬよう強く持つつもり
あ、私の影は最優先で撃破よろしく
それが最適解だろうし、コーヒーをコピーされるのは許せん(謎の怒り)
速攻でカップを叩き割るよろし
しかし雅人さんが「異音」ねぇ…
光の天秤の導き手か、あるいはイレギュラー?
まあ、紫蘭さんも白蘭さんも皆
己が御心のままに戦うが良いよ
たとえ誘導された想いであっても
自覚した想いは何者にも否定できぬし、させぬ
…それが自己を持つことにも繋がるからな
影朧桜よ
エゴに関する問いかけ、貴殿にそのままそっくりお返ししよう
貴殿のエゴももとは祈りだが
今や調和という名目で他者を害するエゴに過ぎぬ
光と闇は表裏一体かつ対の存在だが
何方が光で何方が闇かは往々にして変わるものだ
全てが終わったら
100年程前の大火について調べてみたい
なぜ焼いたのかが妙に引っ掛かるのでな…
●
「あの幻朧桜が闇の天秤、なのですか……?」
目前に生み出されつつある自分達の影を見て。
つと背筋を冷たい汗が滴り落ちるのを感じた、ウィリアム・バークリーの呻き。
『然り。我が……我等が天秤の『闇』にして、『影』である。この世界の中で、無念と共に『光』に焼かれた者達の想いの結晶なる影朧也』
それに自らの枝を陽炎の様に揺らめかせながら念話で語りかける影朧桜を名乗る者。
「成程、のう……天秤、作られし概念か……」
影朧桜の其の念に、そうポツリと呟き口元を彩天綾で覆う様にして、その翡翠ノ瞳で影朧桜を見つめるは、𠮷柳・祥華。
『そうだ。我は世界によって産み落とされた。そう言う宿命にあったモノであるが故に』
「その様に勝手に弄られたヌシは、何故、何もしない……?」
(「いや、この者は何もしないのではなく……」)
――出来(干渉し)無い?
「それが……ヌシの在り方かえ?」
『我は、我である。我は100年前、死した後、人の、生者の業を見せつけられ……それでも尚、全てを平等に救う祈りと共に、産み落とされた者也』
その影朧桜の念話に対して。
「……どう言うことだ? この影朧桜の言葉は。俺には、誰かと手を取り合おうと歩み寄った結果、手酷い裏切りに遭った、と言う事の様に思えるが」
恐らくそう言うことなのだろう、と結論を出した亞東・霧亥が確認も兼ねてポツリと呟くと。
「まあ、概ねその通りだな」
軽く溜息を吐きながらそう首肯するは、藤崎・美雪。
現れつつある影達の中に混じっている自分の影を見つめてむっ、と呻きながら、グリモア・ムジカを展開している。
「少し状況を整理するとこうなる。100年前にこの里で大火があった。原因は、私達猟兵の可能性が濃厚とされているが、詳細は不明。其の時、この里に住む人々、桜の精、そして彼等に寄り添う幻朧桜の多くが焼死した」
――その多くの無念によって、この地に漂い何れ影朧になるであろう死者達の魂を。
「影朧桜に今はなってしまった目前の幻朧桜が、生き残った桜の精と僅かな幻朧桜達の力で死者達に安らぎを与えるために転生させたんだ」
全身に一寸目付きの悪いクロネコの着ぐるみで全身を覆い込み。
炎の様に赤いスカーフを風に靡かせクロネコ・レッドと化した、文月・統哉が美雪に続いて頷いている。
「ですが……その様に死した人々の魂を転生させた、目前の幻朧桜と生き残りの桜の精達を待っていたのは、人々の悪意でした」
統哉のそれを引き取る様に。
G19C Gen.5の撃鉄を起こしマガジンを取り替えながら、幾分冷静な口調でそう告げたのは、ネリッサ・ハーディ。
『そうだ。我等を待っていたのは、人々による我等の無慈悲な殺戮。転生させた死者達の魂を還せと、大切なモノを奪ったと……無抵抗な我等を虐殺し。その血と悲鳴と、絶望の想いに酔いしれて、嗤い、罵り、愉悦を得たのだ。我等は只……死してなお苦しみ、そこに彷徨う魂達を救いたいと願い、祈り、転生の儀を行った……ただ、それだけだと言うのに』
――それ程までに、ヒトは、生者は愚かなものなのだと判断が容易な事も無かった。
ヒトはあまりにも、脆く、弱い。
そして……自分達よりも弱い相手に自分達が抱いた負の心を、痛みを、苦しみを叩き付けることで、憂さを晴らすのだ。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、でしたか。さて、貴方は愚者か、それとも賢者か」
口の端に嘲る様な、愉快げな笑みを浮かべ。
皮肉げにそう呟き、紫蘭さんと今の自分の在り方に疑義を、迷いを抱いた彼女に。
「さて、あれは貴女の過去で有り、未来であるかも知れない。その事を、どう思いますか? 確か、貴女は帝都桜學府でも座学がトップクラスだったと伺いましたが」
鳴上・冬季が確認する様な、その問いかけを聞いて。
「いや……紫蘭はそもそも、帝都桜學府の所属ではないよ」
そう雅人が軽く頭を振りながら、濃口を切る。
其の彼の傍には黒くて巨大な獣……篁臥が彼を守る様にグル……と唸り声を上げ。
その黒き獣……篁臥の主、白夜・紅閻は。
「……紫蘭、少し一緒に来て貰えないか?」
巨大な白き怪鳥白梟の背に跨がり、冬季の言葉に何も応えぬ紫蘭にそう呼びかけていた。
「紅閻さん。今の紫蘭さんは……」
その紅閻の問いかけに。
微かに惑う様な、悩む様な表情を見せていた紫蘭を気遣い、軽く咎める様に真宮・奏が紅閻に呼びかけると。
「……大丈夫だ、奏。僕はただ、カミサマの気持ちを紫蘭に知っておいて欲しいだけなんだ」
――先の戦いで、カミサマ……祥華にどうして、と問うた事の、その真実を。
カミサマの、祥華の心の瑕疵を労る様にその疑問を口に出した彼女のために。
「……紫蘭さんに何かあったら、絶対に私達は許しませんよ」
そう奏が唇を尖らせて紅閻に告げると。
「当たり前だ。……そもそも、この場で彼女を殺されたいと思っている者など、誰も居ないだろう」
紅閻が其の紅の瞳で奏を映し出し、真剣な表情で語りかけるのに。
「……紫蘭だけじゃない」
そうきっぱりと頭を横に振り。
「俺達は、誰1人死なせない。死なせる理由なんて、何処にもない」
目前に現れた自らの影を見つめ、眉根を寄せて目を細めた文月・ネコ吉の言葉に。
「ええ、その通りですね。僕達は、此処に居る皆が誰1人欠けていなくなってしまう事なんて、決して望みなんてしませんよ。……僕達の友達の、其の為にも」
そう神城・瞬が自らの影が持つ、六花の杖の先端に描き出された魔法陣を見て、月虹の杖を構えて頷くのに。
「全くだよ。まあ、彼岸桜……アンタは幻朧桜って名乗っているね。……アンタが、いや、アンタ達が受けた苦しみは、正直理解出来る」
ぽん、と軽くネコ吉の肩を叩き、此処はアタシに任せなと軽くアイコンタクトを飛ばした真宮・響が首肯する。
其の手に、青白く眩い光を纏ったブレイズブルーを構え。
手慣れた手付きで琴を猫足に乗せて覚悟を決めた様にその場に粛々と正座をして座る、白蘭を守る様に立つ。
『では、何故汝等は我等の前に立ちはだかる。汝等が戦うは……』
『……アタシだって、言うのにね』
その影朧桜の念話に重ねる様にそう告げるは、響の影。
自身の影を前にしても、響は勇敢なる笑みを口元に浮かべるのみ。
「なに、アンタはアタシの影かも知れない。でもね、アタシ達は、生者の世界を護る事を譲ることが出来ない。アンタが天秤の秩序を、死者達の世界を護ることを選んだ事と同様にね」
その響の言の葉に。
「そうですね、響殿」
白雪林……黒く染まった雪の様に白い長弓を構えた自らの影を見つめながら、そっと溜息を漏らすは、馬県・義透。
――否。
主人格として、今、この場に『在る』のは、静かなる者――梓奥武・孝透。
「唯一、私の武器だけだったのですがね。白光携える破魔の弓は。まあ、だからこその偽……黒き弓なのでしょうか」
――この様な自らの似姿と対峙したのは、果たして幾度目であったろうか。
少なくとも、両の指折り数えても足りない数には、いっているのではないかと。
そんな益体も無い考えが、義透の脳裏を掠めていく。
ともあれ……。
「影朧桜殿。如何にあなたが、平等で公平な世界を望んだとしても、平等なる癒しなど存在しないのですよ」
誰かが癒されれば、他の誰かは助からない。
そんな時、ヒトは、選ばなければならない。
「助けられる者を救うか、それとも助けられずとも救いたい者を救うか。いずれにせよ其の意志を決定するのはヒトなのです。全てに均等に、平等に癒す……等と言うそれは、何れ破綻しますよ」
「本当にその通りだねぇ、馬県さん」
からかう様に、茶化す様に。
自分の影を見つめ、ピュイ、と軽く口笛を吹くのは、クラウン・アンダーウッド。
クラウンの影はもう、今にも指を弾きそうな勢いで、それが何のための動作であるのかは自明の理。
そして……今のままでは止める事は出来ないと言うことも。
――それでも、言わずにはいられない。
「そもそも、この『天秤』ってシステム自体が、破綻しているんだよね♪」
からかう様なとびきりの道化の笑顔を浮かべて飄々と肩を竦めるクラウン。
『破綻……破綻か』
そのクラウンの言葉に怒る様子もなく。
淡々と念話でそれを確認する影朧桜に早々、とクラウンが頷いてみせる。
「だって、結局、双方の犠牲者を際限なく増やすばかりじゃないか。生者も、死者も。『光』も、『闇』も。そんな貴方の『理想』は『非理想郷』だよ。だって――」
――そう、この世界は。
「もう十分、幸福なんだから。だって転生と言う世界の概念によって、誰にでも平等にやり直す機会を与えられるんだからさ♪」
そのクラウンのからかう様な呟きに。
「……ああ、そう言うことだよな、クラウン」
そう怒りを孕んだ口調で静かに呟くと同時に、淡々と首肯したのは、森宮・陽太。
「影朧桜。てめぇの考えはよーく分かった。ついでに言えば、響達じゃねぇが、言いたい事が全く理解出来ないわけじゃねぇ。でもよ……」
そこで軽く一拍を置いて。
自らの影がダイモン・デバイスを構え、其の銃口の先に召喚陣を描き出す姿を確認しながら陽太が続ける。
「生死のバランスを取ろうとする考えそのものが傲慢だっつーの」
『先に、自分達の全てを圧し我等を滅ぼした人々の方が余程傲慢であろう。貴奴等は、只、死した魂を救いたくて救った我等に『死』と言う名の滅びを齎したのだぞ? ……理不尽に我等の大切なモノを、いのちを奪った人々……その者達すらも我等は救いたいと願い、そして其の為の力を求めたのだ。汝等にはそれがないのか? 大切な者を護り、救い、癒すために、誰かを、何かを傷つける覚悟がないのか?』
その影朧桜の問いかけに。
「……紫蘭を試していた、貴様の言えることか」
淡々とした、声音でそう告げたのは、館野・敬輔。
其の口調の中に含まれた何かを感じ取り、影朧桜がそれは、と微かに笑う気配を見せた。
『我等『闇』とバランスを、公平を保つのだ。なればそれだけの力を持つ者であろう事を試すことは、何もおかしな話ではあるまい。必要なのは釣り合いなのだ』
「だが、貴様は……貴様達は紫蘭を闇に堕とそうとした。其の事実は覆せない」
その敬輔の呼びかけに。
ほんの、ほんの僅かにそれは、と影朧桜が呻く様な気配を見せる。
影達は、そんな自らを産み落とした『主』を守る様に隊伍を組み、陣形を整え、其々の武器を、ユーベルコヲドの発動の準備を開始。
(「……やはり、見られていますか。私と同じ、誰かの目で」)
前衛と後衛、そして支援役。
其々の役割に最も適した陣形を調えていく影達が、上空の天星・暁音の星の船の目を借りて戦場を見下ろしている事を感じ取り。
「それでも私達は、負けるつもりはありません」
先程まで借りていた白梟の目で見て叩き込んだ光景を思い出しながら、灯璃・ファルシュピーゲルが粛々とそう告げる。
「……狂ってしまった一部の人間を見て、其れによって全ての人々が同じだと……そう断じてしまった貴方方。其の段階で貴方方も狂ってしまったのです。世界には……其々に違う考えを、想いを持つ者達が沢山いるというのに」
その灯璃の言の葉に。
『だが、ヒトは本当に命の危機に陥った時、自身だけが助かるためにどんな暴虐も虐殺も行い、他者を害する事が出来る。それがヒトだ。汝等もそれをよく知っている筈だ。他者を蹴落としてでも、自身が助かる道を探る……そんなヒトの醜く脆い、その姿を』
「だが、だからといって真に平等を保ちたいなら、天秤の『光』側とでも言うべき紫蘭を殺す必要はねぇ」
そう告げて。
紅閻の白梟と共に一度天へと上がった紫蘭を一瞬見上げてから自らの影の方へと視線を戻した陽太が続けた。
「……あいつに殺意を持っていた。その時点でてめぇの論理は破綻しているんだ」
その陽太の言の葉に応じる様に。
「貴方の信じる真実は、きっと、多分、事実じゃない」
そう告げて、桜鋼扇を翻したのは、御園・桜花。
その翡翠色の瞳に宿る光には何処か悲しい切なさを感じさせる何かが宿っていて。
『我を否定するか、桜の精。我を……この世界の理にして、我等に刻まれている力を、それを汝が否定できるというのか』
「……転生を請い、願うこと。確かに私達には其の為の力が宿っている。でも、それはきっと、私達の本能じゃない」
幻朧桜によってこの世界に生を与えられ、他者の魂を救済し、全てを忘れさせて転生させることの出来る能力。
それは『種』の能力として、自分達に刻み込まれているモノではあるが……。
――でも、それならば、あの時。
あの時、私は……。
その時の事を、口の端に桜花が乗せるよりも先に。
「あの~……すみません」
と瞬きをしながら朱雀門・瑠香がひっそりと手を挙げる。
その近くにいる自分の影が既に物干竿・村正の抜刀態勢に入っているのを確認しながら。
「昔のことを今の時代の事みたいにごちゃ混ぜにするのやめてくれませんか? 客観的証拠あるんですか? 無ければ、只の貴方の思い込み……」
瑠香が、完全に何かを言い切るよりも早く。
――スパコーン!
「待て、瑠香さん! それはありえんだろう! と言うか、竜胆さんと言う生きた証拠に私達は会っているだろうが! この幻朧桜と桜の精に関する100年前の事件は歴史的には抹消されているから、私達が知らなかっただけで!」
と、思わず腰に佩いていた鋼鉄製突っ込みハリセンで気合いを入れることも含めて一発瑠香に突っ込みを入れる美雪。
――そう。
そこについては客観的……と言うより、明確な証拠が残されているのだ。
(「そもそも、共苦ですら……」)
影朧桜の魂が抱える痛みに灼熱する様な痛みを暁音に与えているというのに。
暁音だけが知る、暁音に与えられる其の痛みは、世界の痛みだ。
そして、それを一際強く感じられる目前の影朧桜と其の影達の想いは少なくとも、只、否定できるものではない。
――何故ならば。
「俺にとって、転生は、救済とは違う何かだから」
それが『何か』なのかを口に出せない。
上手く言い表すことが出来ないと言う方が正しいだろうか?
最も……。
「転生するのなら、それもいい。それをさせるのも決して悪いとは言えない」
――だって。
「確かに転生によって瑕疵を忘れさせる事が出来るのは……とても優しいものだから……」
そう言う意味では、彼等は善だったのだ。
誰かを救いたい、と言う純粋な願いは。
そして……其の力を持って本当に死した人々の魂を転生させ、大火で失われた命達が帯びた記憶を忘れさせた、その事は。
「でもね……救済したのに、何故自分達が報われなかった。そう問いかけるのはきっと……君達の傲慢だよ」
『……そうだな。確かにそう言う意味では我等も傲慢なのであろう。其の報いを受けたと言われれば、成程、一理あるとも思えるだろう』
――然れど。
『だが、他者を救うための力を持ち、其の力を行使しないこと……それは己が力に対する責任を果たさぬ事と同義では無いのか? であれば、我等は我等の宿命の為に、死して悩める人々の魂を救うのは、必然ではなかったのか?』
――恩を着せるつもりは無い。
だからといって、それが、自分達が理不尽を受けて良い理由にもならない筈だ。
その理不尽を受けいれて……そうやって笑って生きることが出来れば……。
『――いや。それも過ぎたこと……か』
その影朧桜の念話に応じる様に。
本格的に動き出す影達の姿を影に潜んで見つめながら、ミハイル・グレヴィッチが鮫の様に笑う。
「やれやれ、どうにかクライマックスな上、手荒く楽しいコトが始まりそうだな。まっ、こいつもビジネスだ」
――故に、これ以上の御託は不要。
出来る事は、戦うこと。
『殺し合い』に理由なんてない。
只、『殺る』か『殺られる』だけか……それだけだから。
そのミハイルの感情を、まるで読み取っていたかの様に。
「……一斉掃射!」
灯璃の影が手を振り下ろし。
『It’s Show Time!』
クラウンの影がそう告げて、パチン、と指を鳴らした其の刹那。
――焼け落ちた幻朧桜の樹海の迷宮が、戦場全体を覆い尽くした。
●
「Active Ice Wall!」
白蘭の琴の音色と、灯璃の影が振り下ろした手とほぼ同時に。
ウィリアムが叫びと共に、空中に描き出していた緑と水色の線で描き出された魔法陣から無限にも等しい氷塊を撃ち出す。
(「戦場全体を覆い尽くし、ぼく達を護る氷塊の群……! でも、クラウンさんの忘却の迷宮は防ぎきれない……!」)
迷宮と同様、戦場を埋め尽くさんばかりの氷塊の群の盾。
それは、間一髪と言って良かったのだろう。
其の時には号令を下した灯璃の影の指示に従う様に、義透の影が其の手の偽・白雪林から無数の霊力の矢を解き放つ。
瞬の影も又、それに倣う様に1270本の氷の魔力を伴った魔法の矢を杖の先端から解き放ち。
そして……統哉もまた、自分達と共に、彼らに来て欲しいと祈り、願う1270本の破魔の矢を撃ちだし。
上空からは、陽太の影が召喚した紅の短剣持つ悪魔、『スパーダ』が咆哮と 共に、2540本の紅の短剣を地上に向けて降り注がせ。
更にネリッサの影が呼び出した、254体の炎の精が、踊る様に飛びかかってきている。
「先ずは一斉射撃ですか。確かにそれで纏めて何人かが倒れれば、御の字ですからね」
破魔の属性を持つ自らの影が呼び出した矢の姿を見ながら、義透が呟きと共に、陰海月と、霹靂に目配せ。
陰海月はそれに『ぷぎゅ!』と鳴き、海色結界を展開して、ウィリアムの氷塊を撃ち抜き白蘭を射貫く矢の威力を削ぎ。
霹靂は紅閻と共に、空へと舞う紫蘭の方へと翼を翻して急上昇し、その背の霊力の籠められた羽根で結界を編み、辛うじてそれを防いでいる。
無論、ユーベルコヲドのバーゲンの如き攻撃で、全員が無事でいられる筈もなく。
「くっ……! 皆さん!」
破壊された氷塊が次々に粉々にされ、それでも尚、氷塊を立て続けに撃ち出しながらの、ウィリアムの叫び。
其の叫びに応じる様に前に飛び出したのは……。
「雅人! 無理はするなよ!」
気遣いながらクロネコ刺繍入りの緋色の結界で自らを覆ったクロネコ・レッドの力で飛翔する統哉と。
「影朧桜! てめぇは世界の……『敵』だ! 此処で討ち取ってやる」
その言葉と、ほぼ同時に。
其の顔に白いマスケラを佩き、全身をブラックスーツに包み込み、深紅と淡紅色の二槍を構えた『無面目の暗殺者』たる陽太。
辛うじて陽太達が行動を開始したそれに追随して、ウィリアムの氷塊の影に隠れながら瑠香が残像を撒き散らしつつ移動を開始。
無論、奏も自らの身に風の精霊達の結界を纏って加護と共に肉薄し、更に敬輔が全身に白い靄を纏って雷光の如くジグザグに動く。
「いきなりの一斉射撃か。でも、この程度で諦められる程、アタシ達は柔じゃ無いんだよ!」
響が叫びと共に青白い結界の盾を張り巡らしつつブレイズブルーを一閃し、大気を割る。
放たれた衝撃波が振動し、それが上空から降り注ぐスパーダの紅の短剣を叩き落とすが。
(「くそっ……いくら何でも手数が……あれ、アタシ、なんで……?」)
――今、戦おうとしているんだ?
クラウンの影の全てを忘却させる樹海の迷宮の力で、戦う理由を見失いかけた、其の時。
「奴の言い分、苦痛と苦悩、それは理解出来る」
――然れど。
「だがそれも、よくある話と云えばよくある話である以上、其の怨み……想いはさっさと刈り取らせて貰うぜ!」
その叫びと共に。
その黒き瞳を大きく見開くや否や、霧亥は忘却の樹海に飲み込まれる前の記憶に遡り。
「俺は最弱だが、最強! 俺は常に成長し続ける! それがこの俺だ!」
――バチリ、バチリ。
戦場全体を包み込まんばかりの雷を解き放つ、無数の雷電を解放した。
霧亥が変身したその姿。
それは……。
「……無限に成長し続ける竜神親分……『碎輝』!?」
自らのクリエイトフォースに雷を注ぎ込み、『碎輝』愛用の槍を模しながら。
生まれ落ちた無限に成長し続ける雷を放出する最弱にして、最強たる竜神親分に変身した霧亥の姿に、響が思わず息を呑んだ。
――だが……。
「響、俺も手を貸すぜ! 白蘭には、指一本触れさせぬその為にも!」
己が、命がじりじりと削り取られていくのを感じながら。
叫ぶ『碎輝』に変身した霧亥のそれにああ! と微かに呆気に取られつつも、気合を入れ直して頷く響。
吹き荒れた巨竜型の雷電が、ウィリアムの氷塊を砕き、響の守りをすり抜け白蘭に迫った凶手を撃ち抜き、灰燼に帰させていた。
「一斉射撃……予想の範囲内ではありますが……」
冷や汗を滲ませながら、呻く様な声を上げる灯璃。
それでも咄嗟に全ての光を飲む漆黒の光の森の様な霧を生み出せたのは、不幸中の幸いだったであろう。
「それでも、イレギュラーたる雅人さん達を殺させるわけには行きません」
灯璃のその言葉に頷いたネリッサが、愛銃の引き金を引き、氷晶の矢を迎撃しながら、彷徨える迷宮の中を移動する。
(「何処に……出口が……?」)
――否。
自分が求めているものは、本当にこの迷宮の出口だったか?
そもそも此処は、本当に迷宮なのか?
此処は、永久に安らかに眠ることの出来る、揺り籠の……。
「ネリッサ! 其れは、桜花の概念浸食だ! その記憶に、この安らかな揺り籠の中で永遠に眠れると言う概念に飲み込まれるな……!」
自分自身の意識も、記憶も曖昧模糊とさせられながらも、鈍り、消えかける記憶を己が思考を加速して、冷や汗を垂らしながら。
そのネリッサの様子から、状況を即座に紐解いたネコ吉が叫ぶ。
そのネコ吉に向けて、肉薄し、自らの持つ偽・叢時雨を振り上げるネコ吉の影。
同様に思考を加速させ、ネコ吉の未来予測能力を、危険と判断した影が振り下ろした刃を。
「この……!」
ウィリアムが咄嗟に無数の氷塊を展開、防壁に変形させて辛うじて防ぐが。
『そこ……!』
その瞬間をまるで見計らっていたかの如く、瑠香の影がネコ吉に肉薄し、神速の突きを繰り出した。
「……っ!!」
思わぬそれに咄嗟に一歩バックステップをして致命傷を避けようとするネコ吉。
――だが。
(「まずい、間に合わ……!」)
加速する思考の結果、思わずそう結論し、覚悟を決めたネコ吉だったが……。
「やらせ……ないんだからっ!」
――轟!
ちりん、ちりんと言う魔よけの鈴の鳴る音と共に、解き放たれた衝撃の波。
何処からともなく解き放たれた衝撃の波が、横合いから瑠香の影を打ち据え、その体をよろめかせる。
それと、ほぼ同時に。
「行くわよ、あお! 今宵はお前を串刺しよ!」
その言の葉と、ほぼ同時に。
真紅の瞳から血の涙を零しながら、腰まで届く金髪を風に靡かせた娘が右手の槍……白き光放つ竜槍、Weißを突き出していた。
突き出された其れが、瑠香の影を横合いから抉り、その身からぱっ、と血飛沫を迸らせる。
その右腕に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が、安堵か、それとも別の何かか……微かな玻璃色の漣を立てていた。
『……影が生み出した迷宮を突破して、邪魔をしに来たか、超弩級戦力達……!』
その低く唸る様な影朧桜の念話に向けて。
「ええ……そうね。私は、私の後悔しない道を貫くって決めたから」
その決意と共に。
真紅の瞳から血の涙を滴らせた、彩瑠・姫桜が。
「あなたの言いたいことは間違っていないと思う。光と闇は存在としては相反するから」
そして神霊体となり、その体の命を……寿命を犠牲にしながら胡蝶楽刀を構えた、榎木・葵桜が。
其々の意思を宿した瞳で、今、姫桜が突き倒した瑠香の影と入れ替わる様に姿を現す葵桜と姫桜の影を見ながら葵桜が静かに呟いた。
「でも……相反するってことは、立場が違うって事でもあるんだよね。だとすると、見えるものが違ってて、願う幸せの形も違うんだよ」
自分の分身を守る様に神霊体と化した葵桜の影が前に立ち、その手の偽・胡蝶楽刀を跳ね上げ衝撃の波を解き放つのに。
「そうね。あなたの視点に立てば、あなた達のしている事は何処までも正しく、純粋な願いかも知れないわ」
姫桜がネコ吉と葵桜の前に立って、二槍を風車の様に回転させてそれを受け止める。
――そう。
「ならばあなた達と対峙する私や生者は、どうしたってあなた達を踏み躙る悪になるわ」
――でも。
「それは、仕方のない事、当然の事。正義は、正しさは、立場と視点の数だけ存在しているから。だから、私は……生者の側に立つと決めたの」
そこには迷いも、戸惑いもあっただろう。
そもそも、戦い自体が姫桜は本質的には嫌いだ。
嘗ては、己が腹に宿した子を守る為に、自らと対峙する事になったあのオブリビオンに刃を向けることを躊躇した程に。
――でも、だからこそ。
『今は、迷いなく我等と戦う……そう言う事なのだな、超弩級戦力よ』
忘却の樹海が、そんな覚悟すらも忘れさせてくれる。
そうクラウンの影が口元に道化の笑みを浮かべて、冬季の影が呼び出した超巨大な真・黄巾力士に守られている。
このままいけば、遠からずその覚悟も、他の者達の想いも、戦意も、痛みも……何もかもが忘却されていくだろう。
其れは慢心ではなく、確信。
――だが。
クラウンの影は、その違和感に気づいていた。
――どうして、今までいなかった者達が、この戦場の中に入り込むことが出来たのだろう。
出口を求め、彷徨い、抜け出せなければ、全てが忘却される筈なのに。
その、クラウンの影の抱く疑問へと応えるかの様に。
「……こんな形で、戦う事になるとはね」
不意に、クラウンの影の周囲の迷宮に『蟲』が巣食い始めた。
その『蟲』達は、影朧……オブリビオンの産みだした迷宮を喰らい、その力を高め……そして迷宮の一部を引きちぎっている。
(「機械的思考制御開始。要警護対象者を優先して警護。警護対象は――味方、全員」)
そう自らの存在意義を定義し、自らの蟲や武装に指示を下し、外から迷宮を蟲達に食らわせた烏丸・都留の期待に応える様に。
「対象を確認! 支援砲撃対象、オールグリーン。ラムダ・マルチパーパス三等兵。此れより支援砲撃を開始いたします!」
その叫びと、共に。
――ドゴォォォォォォォォォーン!
轟音と共にM19サンダーロアからHEATが解き放たれ放物線を描いて、クラウンの影の傍で炸裂し、爆発する。
その爆発から彼を守る様に冬季の影が呼び出した真・黄巾力士が立ちはだかり、その攻撃を受け止めるが。
『……成程。そうきましたか』
その様子を見て冬季の影が嗤いながら呻く様に呟くと同時に、抜けかけた記憶の糸の端を掴んだネリッサが通信機越しに息を漏らした。
「……マルチパーパスさん、烏丸さん。合流しましたか」
「Yes.マム。要請して頂ければ、出前迅速、快速特急で砲弾を送り込みますよ~」
ラムダが告げて直ぐに次の狙点へと移動して、続けざまに砲撃を繰り返し。
「……時騙しの懐中時計、フェノメンアクセラレーター起動……。攻性防壁発動、対象:忘却の樹海」
都留が己が中に取り付けられている能力強化装置を次々に起動させ、時騙しの懐中時計で攻性防壁を作り出し、樹海の拡大を防御。
その間にもラムダと都留の影が姿を現し、其々に行動を開始しようとするが。
「……貴女。主たる器物本体との超連携強化や神の加護はあるのかしら?」
そう告げて。
自らの影に向けて、その連携の理を捻じ曲げ喰らわんと聖魔喰理扇を一閃し、自らの分身に強かな一撃を加える都留。
『……外部からの攻撃で力任せに迷宮の一部を破壊し、侵入したか。何とまあ、呆れる程の力技だ』
ぼやく様な念話を放つ、影朧桜。
けれども、自分では動かない影朧桜を見て、改めて祥華は思う。
「成程……ヌシ自身は、何もしないのではなく、出来ないのか。それならそれで、まぁ……良い。ヌシが動けぬのならば……」
自らの影と称する其れが呼び出した怨龍の姿を認めながら。
口元に微かな笑みすら浮かべて祥華は呟く。
――ヌシが動けぬのならば……我が代行しよう。
……と。
●
――その忘却の、迷宮の中で。
「……紫蘭。カミサマが、何故、影朧桜を気に掛けるのか、分かるかい?」
其の全ての記憶を、大切な思い出を、忘れさせられない様に。
そう願いを込めて、そっと自らの指に嵌まった色褪せた指輪を撫でながら、白梟に後方に向けてブレスを発射させる紅閻。
その下では、篁臥に乗り込んだ雅人が刃を一閃、影達の邪心を切り裂いている。
その様子を見て、自らと共にある月聖霊・瑠華と銀双翼・凱を召喚、地面に降下させ、雅人を狙う自らの分身を足止めさせながら。
確認する様に紅閻が紫蘭に問いかけると、紫蘭は軽く頭を横に振った。
「分から……ない」
その、紫蘭の言の葉に。
昔、カミサマ……祥華に聞かされた話を忘れさせられるよりも前にと、紅閻が訥々と言葉を選んで語り始めた。
「カミサマ……祥華は嘗て、独神と呼ばれていたそうだ」
いつもの呼び名、ではなく。
敢えて『祥華』とその名を口に挟んだのはカミサマでは紫蘭にはもしかしたら伝わらないかもしれないと思ったが故。
案の定。
「カミサマ……。祥華のこと……でも……独神……?」
その呼び名は、幾度か祥華の口から吟じられた様に朧気ながら紫蘭は思う。
そんな紫蘭の茫洋とした反応に、そうだ、と紅閻が首肯した。
「分かり易く云うなら、あの影朧桜を名乗る彼岸桜と似た様な立場だったんだろうな」
「……!」
紅閻の口から漏れ出た思わぬそれに、思わず息を呑む紫蘭。
自分が『光』で、影朧桜を名乗るあれは『闇』にして『影』
『光』と『闇』は表裏一体で在り、相反する存在だとは、姫桜や葵桜達が口に出していた事からも明らかだ。
「まあ、作ったのはこの『天秤』の様なシステムではないが……祥華は自分で世界を作った。元々、祥華は文字通り『神様』だ。そう言う事が出来ないとは言い切れない」
「……神……様……」
茫洋と、確認する様に繰り返す紫蘭。
そんな紅閻と紫蘭に向けて、暁音の影の呼び出したティラノザウルス型の恐竜が咆哮。
浄化のブレスの後押しを受けた陽太の影の呼び出したスパーダが2540本の白光を纏った幾何学紋様の描かれた短剣を投擲。
「……!」
必ず護る、と言う様に其の意志を固めて白梟に命じてブレスでそれを迎撃する紅閻。
だが、あまりにも圧倒的な幾何学紋様の短剣の全てが捌ききれず、その凶刃が紅閻と紫蘭を磔にしようと……。
「兄さん!」
「ええ、分かっていますよ、奏!」
奏の呼びかけに応じて瞬が其の手の月虹の杖を掲げる。
掲げられた杖の先端に月読みの紋章が描き出され、其処から姿を現した……。
「月光の狩人達よ! 妹を空へ!」
其の瞬の、叫びに応える様に。
127羽の狩猟鷹達がタン、と大地を蹴った奏の足場になる様に集う。
其の狩猟鷹達を足場にして更なる高見へと奏が飛び……。
「紫蘭さんは絶対にやらせません!」
「! Priorityを奏さんに譲渡! 守って下さい!」
ウィリアムの叫びに応じて、氷塊の一部を託された奏が空中でエレメンタル・シールドを一閃。
振るわれたエレメンタル・シールドの動きに合わせる様に無数の氷塊の一部が奏の足下に集い、奏が空中で動ける場所を確保。
それとほぼ同時に、奏は風の精霊達の力を纏い、シルフィードの如き軽業で紫蘭と紅閻を纏めて守る結界を形成。
迫り来るスパーダの白光する短剣を其の手のシルフィード・セイバーで薙ぎ払った。
「紅閻さん!」
「すまない、奏。白梟、頼む!」
奏からのやや叱責の混ざったそれを受けながら、白梟にすかさず指示を出す紅閻。
白梟が嘶きブレスを再び放射、奏が捌ききれなかったスパーダの短剣を焼き払った。
『ですが……まだです。局長!』
そこに灯璃の影の号令が飛び、それを受けたネリッサの影が呼び出した炎の精達が奏の足下の氷塊を焼き尽くそうとするが。
「やらせないわよ」
加速した思考で都留が告げると同時に、対UDC/NBC対応自立戦略生体型ガードユニットを展開。
機械的な動きと共に張り巡らされた防壁がネリッサの影達の炎の精を受け止め、ウィリアムの氷塊への被害を食い止めたところで。
「いきますよ」
――パーン! パーン!
ネリッサが、G19C Gen.5を両手で構えて其の引金を引き、自らの影に一打を加えるのに応じる様に。
『……Shot!』
灯璃の影が、構えていたスナイパーライフルの引金を引き、ネリッサの眉間を撃ち抜かんと……。
「霧を展開しても尚、此ですか……。誰の目を使っているのかは分かりませんが、自身の力をこう言う形で使われるのは厄介ですね……!」
それまで、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"のスコープで戦況を覗いていた灯璃が応射する。
互いの弾丸がぶつかり合って其の勢いを弱めるが、暁音の影の支援を受けた灯璃の影の弾丸の勢いの方が勝った時。
「今です、マルチパーパスさん」
「Yes.マム!」
ネリッサの指示にラムダが勢いよく応じると同時に、M19サンダーロアから一発、砲弾を発射。
放物線上に描かれた其の弾丸に気がつき、奏が素早く近くの氷塊を手繰り寄せる様に下に防波堤を築き上げ。
その爆発の余波を受け止めると同時に、ネリッサと灯璃の影がラムダの砲撃と大地に着弾した砲弾の爆発に巻き込まれて負傷。
「続けていきます!」
畳みかける様に瞬が月虹の杖を突きつけて、数字の【1】が刻み込まれた127体の狩猟用の鷹にネリッサと灯璃の影を啄ませる。
風を切る音と共に襲来する狩猟鷹達に対峙するは……。
「おや……此方も来るのですか。黄巾力士水行軍」
その冬季の呟きの通り。
現れた254体の黄巾力士水行軍が一斉に炸裂弾を掃射して、狩猟鷹達を一羽残らず焼き払い。
更に霧亥の影が飛び出して、その手に消える魔球を作り出して投擲を開始。
ユーベルコードを打ち消し相殺する魔球が、紫蘭達を狙うが。
「……残念ね。私のそれは、ユーベルコードではないのよ」
ほう、と溜息を漏らした都留の命令に従って、対UDC/NBC対応自立戦略生体型ガードユニットが殺到。
殺到したドローン型ガードユニットが消える魔球を余すことなく防御し、辛うじて難を逃れ。
「まだまだだぜ!」
そこに白蘭を護っていた霧亥のクリエイトフォースで創造した『碎輝』の雷槍から竜型の雷電を解き放った。
のたうち回る成長する竜の咆哮と雷光が戦場を駆け抜け、都留と霧亥の影を足止めする。
(「なんて……戦いだ!」)
ともすれば、何故戦っているのか忘却しそうになりながら、グリモア・ムジカの譜面を調整していた美雪が思わず舌を打つ。
だが……その間にも。
「紅閻さん! 僕達も紫蘭さんに伝えたいことがあります! ですから……今は!」
そう告げた瞬のそれに頷き、瑠華が月光の剣を編み上げて紅閻の分身を撃ち抜く姿を認め、頷きを一つ。
「それで……祥華が、世界を作って、から……?」
微かな好奇が目の中に宿るのを見て内心頷き、紅閻がゆっくりと話を続けようとして。
祥華が呼び出した、2体の分身を指差した。
「あそこで今、戦っている2人に自分の力を与えたんだ。白い方には福を。黒い方には禍を」
「福と、禍……」
告げられた紅閻のそれを紫蘭が思わず繰り返す様に言の葉を紡ぐ。
それは、本当にまるで……。
「私と、あの幻朧桜みたい」
「……ああ。そうだな。だが人は……」
――人は、皆『福』を求めるものだ。
――ポロン、ポロポロ……。
白蘭の平和を願う心の籠った琴の音が戦場に鳴り響く。
其の平和を目指す想いに共感した者達に力を与えるその琴を耳にしながら……紅閻は諦めた様に頭を振った。
「人は、禍である黒を殺したそうだ……」
「!」
その紅閻の言葉に、小さな悲鳴を押し殺した様な表情になる紫蘭。
「本来なら2人で1で、人々の平等を保っていたのに、禍は殺された。結果として……祥華は神として全てを背負うことになった」
――其の結果。
「祥華……カミサマは1人で当然だが、全てを背負いきれなくなり、正気を保てなくなってその『スベテ』を無かったことにしてしまった」
――『神』として、自らの生み出した子等と、己の世界……文字通りその全てを。
「カミサマとて、護りたかっただろう。救いたかっただろう。その後悔は神に一生と言う言葉が相応しいのかどうかは分からないが……背負い続ける事になるのだろうな……多分」
――そして、それは。
「……あの影朧桜も、紫蘭、お前もそうだ。其の全ての痛みを、苦しみを、後悔を、君1人で背負う必要は無い。そしてそれは……あの影朧桜を名乗る者も、同じ筈だ」
(「最も……子等によって受けた痛みと感情と、子等に与えてしまった痛みと感情を……」)
――其の全てを識る事が出来てしまったカミサマは、其の全てを自身のみに封印して……抱きしめ続けているけれども。
「そして、大切な者を守れなかったと云う後悔も、其の痛みも、感情も……ずっと、自分の体を蝕み続けている」
「全てを、1人で、背負おうとしたから……」
その紫蘭の言葉に、嗚呼、と紅閻が頷いた時。
「紅閻さん! 紫蘭さんを!」
ウィリアムの作り出した氷塊から氷塊を渡り歩き、敵の攻撃を防御し続けていた奏が咄嗟に叫ぶ。
其の叫びにはっ、とした表情になった紅閻が白梟の上で紫蘭を、身を以て庇う様に伏せさせその上に乗りかかった。
それとほぼ同時に天空から降り注ぐのは、1270本の氷晶の矢。
「くっ……僕の技ですか……!」
瞬の影が奏の影に庇われる様にしながら六花の杖で描き出した魔法陣から解き放たれたそれを見て、瞬が咄嗟に臍を噛む。
(「連携して戦うことの強味は良く分かっていたつもりですが……まさか、これ程迄に高度な連携を重視してくるとは……!」)
呻く様に呟きながら、ひゅん、と月虹の杖を上空に向けて振るう瞬。
振るわれた杖の先端から放たれた月読みの紋章が紫蘭に覆い被さる様に其の身を守る紅閻の上に展開されて矢の一部を弾き。
「……あまり空中に居続けても危険か。白梟! 僕達を降ろしてくれ!」
生まれたその一瞬の間に紅閻が叫び、それに嘶く白梟。
地表に向かって滑空していく紅閻に併走する様に氷塊を渡り歩く奏に向けて。
「すまない、紫蘭の時間を取らせた。奏。僕も一緒に紫蘭を守り切る。その為の力を貸して欲しい」
「ええ……勿論です! 私だって、一杯話したいことがあります。何よりも、この戦いが終わったら、お友達賭して一緒に普通の女の子みたいに出掛けたいですから!」
笑顔で告げる奏のそれが、紫蘭の中に温かな熱を灯らせる。
そして……。
「紅閻……私に、色々話をしてくれて、ありがとう」
「気にするな。君が祥華に質問をした。僕は只、知りたいと言う想いを自分の意思で伝えた君にカミサマの事を教えたかった……それだけだ」
「……私の、意志……」
そう告げて。
瑠華と凱と連携する様に退魔刀を振るう篁臥に跨がって戦う雅人を見て。
「僕も援護する。暫く紫蘭の事を頼む」
その言葉と、共に。
紅閻が瑠華と凱に指示を出し、自分の影と対峙させているその姿を、見送ろうとする紫蘭に向けて。
「紫蘭! 上だ!」
白蘭の琴の音色に乗せた、ネコ吉の警戒を呼びかける声と。
「ちっ……白蘭、霧亥!」
忌々しげに舌打ちを行う響の怒声が響き渡る。
『碎輝』に変身し、彼の操る雷電を更に成長させ、戦場に降り注がせ続ける霧亥。
そんな霧亥の存在が心底邪魔だと判断したのか。
霧亥の影が、灯璃の影が作り出した兵器……戦車の影から飛び出す様に現れ、そのまま消える魔球を解き放った。
(「くっ……自分のユーベルコードをコピーされている……不味いな!」)
内心でそう呟き、咄嗟にその魔球を躱す霧亥。
だが、其処で僅かに開いた隙こそが、ミハイルの影の、本当の狙い目だった。
――ズドォォォォォォォーン!
凄まじい音と共に、SV-98M……ボルトスナイパーライフルの銃声が轟き、それが真っ直ぐに白蘭を撃ち抜かんとする。
「ちっ! 白蘭!」
傍にいた響が咄嗟に彼女を庇おうと前に踏み込むが、其の時には、上空で響の影が、ブレイズブルーを唐竹割りに振り下ろし。
「くっ!」
咄嗟にそれに響が反応し、自らの影の攻撃を受け止めた、刹那。
響の影は其の手を挙げて、自らの荒ぶる情熱の炎を解き放っていた。
戦場全体……この忘却の迷宮の中にある白蘭の『琴』をも焼き払わんと。
「しまっ……!」
それでも白蘭を護ろうと、響が琴を凄まじい集中力で爪弾き続ける白蘭を護ろうと手を伸ばすが……。
「間に合わない……!」
思わず舌打ちした、其の時。
「絶対に……やらせないんだからっ!」
自らの影を、姫桜が横合いから振るったヴァンパイアの膂力を存分に活かした突きで生まれた僅かな隙を活かして飛び出した葵桜が。
白蘭と琴の前に立ちはだかり、響の情熱の炎に焼かれ、ミハイルの影の凶弾に其の腹部を撃ち抜かれた。
●
「げほっ……!」
腹部に激しく叩き込まれる灼熱感。
神霊体と化し、更に真の姿になって力を解放していなければ、致命傷となっていただろう。
ボタリ、ボタリと大量の血液を腹部から流しながら葵桜がそんな事を思い、微苦笑を零す。
「葵桜……アンタ……!」
響が自らの影を押し返し、霧亥が激昂したか咆哮し全身に雷を纏わせて、黄金竜の姿と化し、其の口腔から黄金のブレスを吐き出す。
成長した雷の力を存分に帯びた黄金竜のブレスが響の影を焼き払い、其の体にそれなりに重傷を負わせるが。
不意に霧亥は全身を殴打された様なとてつもない衝撃に襲われた。
(「くっ……流石は竜神親分……。代償が計り知れないぜ……!」)
黄金竜に化している自分の本体である懐中時計に罅が入る様な感覚を覚え、思わず息を呑んだ。
「だが、白蘭には俺達が指一本触れさせぬ。白蘭、お前は安心して、己の成すべき事を為せ」
「……」
霧亥の呼びかけに、白蘭の琴の旋律が一際美しく輝き始める。
その音色は、美雪の影の轟く様なメソソプラノの声に勝る共と劣らない美しく、力強き旋律だが……。
「……やはり私と陽太さん、暁音さんの分身を倒すのが先か……!」
巨大恐竜の浄化のブレスが颶風と化して影達の速度を否応なしに増し。
美雪の旋律が戦いへの怖れを打ち消し、其の士気を高揚させ。
そして陽太の傍に呼び出されている緑の狩人、レラージェの作り出した幻朧桜の迷宮が、自分達の内側から其の力を削いでいく。
――更には。
「くそっ……私は、何を……?」
歌っていた音楽……極光に包まれしトッカータの旋律の一部が記憶から抜け落ち、葵桜の傷を癒すのに手間取る美雪。
そして、そんな美雪や陽太、暁音の影を護る様に立ちはだかる冬季の影が呼び出した黄巾力士水行軍。
その間にもウィリアムの影の偽『イデア・キャノン』の砲塔に魔力が収束し初めている気配を感じ、美雪はぞっと鳥肌を立てていた。
「このままでは……!」
それでも、と諦めない意志を称賛し貫く為の思いの丈を籠めて、美雪が歌う。
辛うじて歌われた歌声によって吹き荒れた温かい七色のオーロラ風。
其のオーロラ風に、背を押され。
「我が敵の命を捧げる、我が敵の存在を捧げる、原初の精霊であり不滅の精霊であり名なき畏怖である汝に希う……彼なるものを、喰い尽くせ!」
歌う様な、呪詛の様な。
そんな詠唱を高らかに歌い、桜鋼扇を桜花が翻した。
桜花が扇を翻した、刹那。
――七色のオーロラ風に乗って、凄まじいばかりの颶風が巻き起こされた。
それは、触れた存在を、片端から虚無と化すとされる、神殺しの猛威。
だが、ネコ吉の影も己が思考を用いて、それが何を意味するのかを予期していたのだろう。
黄巾力士水行軍達を盾として前面に押し出し其の颶風を撒き散らし、其の向こうから霧亥の影が魔球を桜花に向けて投擲した。
「くっ……!」
思わぬその魔球に呻く様に舌打ちをする桜花。
更に桜花の影が偽・桜鋼扇を翻すと樹海が鼓動を刻み、永遠の揺り籠の中で安らかな眠りにつけると云う概念を……。
「違う……違う! だって、私の最初の鮮やかな記憶は、青い空を追って山を下りた記憶は……里の人を見殺しにしたのと、同じだった……!」
まるでイヤイヤをするかの様に。
零れ落ちそうになる記憶を掬い上げる様に必死に掴んで頭を振り、忘却を否定する桜花。
……と、其の時。
「マルチパーパス! 合わせろ!」
ラムダの通信機越しに其の通信が入ったのとほぼ同時に。
――ズドォォォォォォォーン!
爆発的なボルトスナイパーライフルの炸裂音が、戦場に轟かせ。
「Yes、ミハイル様!」
其の炸裂音に合わせる様に、砲撃地点を確定させたラムダが、肩の120mmカノン砲から、徹甲焼夷弾を射出した。
愛銃、SV-98Mから撃ち出された弾丸は、先程葵桜を撃ち抜いたミハイルの影……その銃口から漏れる白煙地帯に螺旋の回転と共に着弾し。
一方で、ラムダが射出した徹甲焼夷弾は、霧亥達の目前……奏達の影の目前に着弾し、凄まじい爆発で奏の影を吹き飛ばす。
「今です、皆さん!」
その様子を見て取った灯璃がすかさず指示を下しながら、武器をHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"に持ち替える。
セミオートライフルに持ち替えた灯璃を襲わんと、葵桜の影が偽・胡蝶楽刀を撥ね上げて衝撃波を解き放ち。
更に姫桜の影が、自らの手の二槍の内の一槍、偽・schwarzを投擲しようとするが。
「紫蘭さんや、皆を私達は絶対にやらせない……! この覚悟だけは揺るがないわよ!」
姫桜が血の涙を流しながら踏み込みと同時に自らの二槍の封印を解放。
ヴァンパイアの膂力に加えて真の姿の力を得たその二槍を振るって、目前の自らの影を串刺しにし。
「統哉! 今だ!」
自らの影と読み合い、探り合いを続けていたネコ吉がこの状況を打開するべく咄嗟に声を張り上げた。
(「この記憶を奪われる迷宮の力を何とかすることが出来れば……!」)
そんなネコ吉の想いを汲み取ったか。
「行くぜ!」
クロネコ・レッドの姿をした統哉が、葵桜の影に向かって『宵』を一閃し、葵桜の影を足止めする。
「敬輔……陽太……瑠香……雅人……!」
祈る様な願いを籠めて、自らの想いを託す様に信頼する仲間達の名を思わず口走る統哉。
その統哉の願いを聞き取ったのだろう。
「切り抜ける……っ! 誰か、援護を……!」
目前の自分の影に常の高速移動に追いすがられ、闇に溶け込む漆黒のオーラを展開する余裕すら覚束ない敬輔の呻きに。
「ええ。流石にこれは予測できないでしょう。私……いえ、『我等』のこれは」
静かな、冷静沈着な言葉と共に。
義透を構成する四悪霊達の呪詛が敬輔と陽太の影を蝕んでいく。
奏達の影を、響達が引き付け。
ミハイルの影による狙い撃ちを、ミハイルがカウンタースナイプで撃ち抜いて。
後顧の憂いを断った瞬間を狙って、ラムダが奏達の影を僅かに怯ませる。
――そうして、漸くできたその隙を。
統哉とネコ吉、祥華、紅閻達の影を乗り越えるための一歩を踏み出すために。
義透が、本分である弓を敢えて捨て、其の手に握りしめた四天刀鍵を横薙ぎに振るい、薙ぎ払い、敬輔の影事彼等に切りつけた。
「今です、抜けて下さい敬輔殿」
「……感謝する!」
その義透の言葉に背を押され。
全身に漆黒のオーラを纏った敬輔が闇に溶け込む様に姿を消し。
「ならば、私も一気に……!」
その隙を見逃さず、瑠香もまた大地を疾走した。
義透に切り裂かれた影達が、即座に標的を義透に変更、統哉の影の解き放った浄化の矢が義透の体を射貫くが。
「此でも一応、浄化や破魔の力には、私は耐性がありましてね」
そう告げて微笑を零す義透に陽太の影が音も無く忍び寄り、其の心臓と首を切り裂き貫かんとするが。
「……ああ、分かっている。お前が……『陽太』を模した存在ならば、きっとそうしただろうということはな」
其の言の葉と、共に。
陽太……『無面目の暗殺者』が陽太の影の背後から、濃紺色の輝き伴う刺突を繰り出した。
腹部を貫かれた陽太の影が一瞬怯んだその隙を見て、更に淡紅色の刃を一閃。
目にも留まらない速さで放たれた其の斬撃が陽太の影の首を撥ね飛ばし、そのまま陽太の影を桜吹雪に変えていく。
瞬間、『レラーシェ』と『スパーダ』が身悶えする様な雄叫びと共にその姿を消した。
樹海がぐにゃりと僅かに歪み、それと同時に美雪達の体にのし掛かっていた圧力が、ほんの少しだけ消えていく。
「今ならば……!」
重圧が消えたその瞬間を、瑠香は決して見逃さなかった。
瑠香は一気に戦場を赤光と化して疾駆して、真っ直ぐに歌を歌い続ける美雪の影へと肉薄する。
其の進行を妨害する様に、此方の動きに気がついたラムダと都留の影が、美雪の影の前に立ち塞がるが。
「悪いけれど……少しだけ大人しくしていて頂戴」
そう都留が告げて、その手の聖魔喰理扇を翻すと。
上天と黒天……天上におられる荒ぶる戦いの神にして、再生をも司るとされる福神の力を得たそれが神罰の嵐を巻き起こした。
巻き起こされた神罰の嵐が、瑠香の前に立ちはだかった自分とラムダの影が美雪の影を護る理を喰らい。
「少しでも、戦いを有利に……!」
更にウィリアムが氷塊を砲弾にして連射し、畳みかける様にラムダと都留の影の動きを阻害し。
目眩を覚えながらも、疾駆する瑠香を護る様に氷塊でその左右の道を閉ざした時。
「一意専心……一撃必殺!」
美雪の影と自分だけになった瑠香が、その道を突っ切り、物干竿・村正を抜刀し神速の突きを解き放った。
美雪の影にそれを躱す余裕はなく、胸に突き立てられた瑠香の刃。
瑠香がニヤリと口元に笑みを浮かべると同時に、107の目にも留まらない斬撃の嵐を浴びせかける。
放たれた無数の斬撃に耐えきれず、全身をズタズタに斬り裂かれそのまま灰になって消える美雪の影。
その間に……敬輔は。
(「まだ、記憶は……ある」)
加耶や、白き靄となり、自分の力を貸してくれている『彼女』達の記憶は。
そして目前に迫る共苦の痛みで、自らを苛む暁音の影を滅ぼす為の、其の記憶は。
――だから。
「今は貴様からだ! 暁音さんの、影!」
叫びと共に暁音の影の生命力と気力を奪いながら、赤黒く光る刀身もつ黒剣を下段から撥ね上げた。
下段からの敬輔の斬り上げを咄嗟に偽・星具シュテルシアを盾に変形させて、受け止める暁音の影。
――だが。
黒剣にも纏わせた漆黒のオーラは、暁音の影の気力を奪い……其の力を弱体化せしめ。
「はあああああっ!」
気合い一声、横一文字に黒剣を振るう敬輔。
下から祈りを切る様に振るわれた横一線の一刃は、暁音の影の体を、横薙ぎに切り裂き。
「……もう一丁!」
そこで自らの影を一撃でスナイプしたミハイルが煙草を吹かしながら、もう一度SV-98Mの引金を引く。
「館野様! 後退して下さいませ!」
其の状況をセンサーで感知した拡声器で拡大したラムダの声が、敬輔の耳に届き。
敬輔が咄嗟に横っ飛びに飛んだその瞬間。
――ミハイルの撃ち出した銃弾が暁音の影の眉間を撃ち抜き、其の存在を消失させた。
(「……後の問題は、こいつと、あいつ……か」)
その冴えた推理力で其の様な事を考えながら。
自らの影と対峙するネコ吉は、クラウンの影と、それを守る様に立ち塞がる冬季の影を見て、重苦しい溜息を1つ吐いた。
●
「……ったく、ファルシュピーゲル達の援護もあったとは言え、待ち続けたもんだぜ。まあ……慣れているが」
自分が仕留めた、自らの影の事を思い出し、更に敬輔の援護でもう一度撃った愛銃に新しい弾丸をセット。
それから次の狙点に向かいながら、一呼吸とばかりに煙草を食んでいたミハイルが不可の様な笑みを口の端に浮かべている。
――結局の所、撃ち合いってのは、我慢比べだ。
どちらが先に、自分の居場所を探り当てられるか。
其処に全てが掛かっている。
ミハイルの影の連携が誤りだったのではない。
だが……誰かを囮にして、獲物が自分からその姿を曝け出す其の瞬間を待ち受けている鮫がいるとは思っていなかった。
ただ……それだけの事。
「……しかし、ファルシュピーゲルでも、局長でもなく、決め手になったのが、白蘭を守った榎木の行動、とはねぇ……」
無論、未だ戦いは始まったばかり。
だが……補助の出来るユーベルコードを持つ相手を屠れた事は、此方が戦術的に勝利するための第一歩となり得るだろう。
「ハハッ……面白くなってきやがったぜ」
そう呟いて、ミハイルは笑った。
距離を取っていた為、外から入り込んできた姫桜、葵桜、都留、ラムダと同様、記憶を奪われなかった男は、愉快そうに笑い続けた。
●
『補助役が最初に倒されたか。だが、盾は未だ顕在。汝等に打ち破ることが出来るのか?』
影朧桜の念話による声。
その声に応じる様に戦場を覆い尽くしている樹海の迷宮が明滅し、更に獄炎(慈愛)の焔が、迷宮の空いた穴を塞いでいく。
クラウンの影から其の手から迸らせた254の獄炎(慈愛)の炎が美雪、暁音、陽太の様な再生不可能になった者以外の傷を癒していく。
その炎を受けて、最初に姫桜達とかち合うことで倒れていた瑠香の影や、統哉達に足止めされていたネコ吉達の影も再生していく。
「……やはり、クラウンさんの影を何とかしないとどうしようも……」
トッカータの歌の中身が忘却され、この場に立つ理由を見失いかけながらの美雪の呻き。
不幸中の幸いは、グリモア・ムジカに曲を予め記録していた為、効力こそ低いが、葵桜の傷を癒す程度には歌が機能している点か。
それでも、これ以上戦うのは……。
『何故だ? 何故、汝等は未だ戦い続ける? 我等のこの想いに汝等の身を委ねれば母の胎内の如き安らかな温もりの中で静かな眠りにつくことが出来るのに』
その影朧桜の言葉を代弁するかの様に。
桜花の影が偽・桜鋼扇を広げ、クラウンの迷宮と融合していた幻朧桜の林の花弁を舞わせ、桜吹雪を巻き起こした。
巻き起こされた桜吹雪の其の力は……。
「安らかな、眠り……揺り籠の中で眠りにつくことが出来る様になると……」
放たれた概念に其の精神を侵食され、グラリと傾ぐはネコ吉。
その間にも記憶を奪う樹海が、より一層の力と共に、ウィリアム達から対峙する理由も、傷も、何もかもを忘れさせようとする。
(「氷塊を、絶やさ、ない、よう、に……しない、と……」)
眠気にも近い何かを感じながらウィリアムが内心でそう呟く。
同時に暁音もまた、自らが感じていた共苦の痛みがすっ、と樹海の癒しを受けて消えていく感覚を覚えていた。
「……違う。此は俺の……世界の……痛み。此を奪われたら、俺……僕、は……」
――伝えたいことが、何かあった筈なのに。
その言葉すらも胎児の様に忘れさせ、自分達から痛みも、何もかもを捨てさせて、安らかな眠りにつかせようと……。
「……鳴上さん。キミの黄巾力士のコピー、何とかならない……かな?」
何処か安らかさを感じさせる、そんな口調で。
自らのカバン型移動工房の中に、収容したからくり人形の内の1体を選びながら。
混濁する記憶と骸の海へと転生し、安らかな眠りにつくことが出来るという概念に意識を侵食されながらのクラウンの呟きに。
「良いでしょう、真・黄巾力士の相手は私が……しましょう」
そう呟いて口元に嗤みを浮かべた冬季が頷き。
――自らの宝貝・黄巾力士と合体し、あっという間に巨大化していく。
それと同時に真・黄巾力士の前に仙術が1つ、縮地の法を使用して、一気に、真・黄巾力士へと肉薄し。
「燃え尽きろ。真・黄巾力士」
告げると同時に、その肩に装備されていた巨大な砲塔から零距離で真・黄巾力士に向けて金属性の実体弾を発射した。
零距離で放たれたその金属性の実体弾が、冬季の影の傍に控えていた真・黄巾力士の肩の銃口を塞ぎ。
「では、これでさよならです」
そう告げて、真・黄巾力士をひっくり返そうとした……刹那。
――轟!
戦場全体を爆発させかねない程の轟音が、冬季の耳を劈いた。
「いけない、冬季……さん!」
それの正体に気がついたウィリアムが、魔力を消耗しながらも、三度作り出した無数の氷塊を固めて巨大な氷盾を作り上げる。
その冬季と、合一した黄巾力士を狙ったのは、巨大な氷の魔導レーザー。
そう……大規模範囲殲滅兵器である『イデア・キャノン』に収束させた全ての氷の精霊力をウィリアムの影が撃ち出したのだ。
激しい轟音と共に解き放たれた氷の巨大レーザーが冬季と合体した黄巾力士のみを撃ち抜かんと颶風と化して襲う。
それをウィリアムの氷塊の盾が辛うじて受け止めるが……。
「がっ!?」
急激な魔力の消耗と、その魔導レーザーの激しい余波を受け、ウィリアムがまるで脳を揺さぶられる様な痛みを覚えて喀血。
「ウィリアムさん!?」
気がついた美雪が其方に駆け寄ると、其の衝撃に毛細血管が破裂したか目を血色に染めたウィリアムが大丈夫と微笑して見せた。
「……攻撃力に全力を注がれたIdea Cannon Full Burst……正直これ程の威力を誇るとは、思っていません……でし、た……」
ゲホ、と軽く咽せながらウィリアムが氷塊を展開し、更に氷塊の盾を強化する。
そこに……。
「急いで。アイテールの護衛隊」
都留が叫ぶと、その手の天空神の寵愛を受けたメイスから放たれた空風の障壁がウィリアムの氷塊の前に張り巡らされた。
張り巡らされた天空神の加護を受けた無限にも等しい護衛隊達が、極太の氷のレーザーを受け止める氷塊を支える盾になる。
そこに……。
「一発、決めてやって下さい」
そう冬季が誰に共なく呟いた、其の時。
「それは私にお任せ下さいませ、鳴上様! それでは、キャニスター弾、発射です!」
迅速に後方で戦況を見渡していたラムダの声が鳴り響くと同時に、120mmカノン砲から、キャニスター弾が発射された。
放たれた対人・対戦車用砲弾が、ウィリアムの氷塊の盾と、都留のアイテールの護衛隊で辛うじて防がれた氷のレーザーに直撃し。
――パァン!
と激しい音を立てた時。
冬季の影と真・黄巾力士が吹き飛ばされ、一瞬、クラウンの影がフリーになる。
咄嗟にそれを守るべく敬輔の影が白と黒の綯い交ぜにあった靄を纏って其方へと加勢に向かうが、其の時には。
「よし、今だね♪ ζ! 死者との再会!」
残された記憶の残滓と共に、辛うじて取り出したバンシーを持たせたからくり人形ζに呼びかけ、軽く頭を横に振った。
そのクラウンの命令に応じる様にその姿を現したのは、1人の眼鏡姿の男。
血の様に赤いクラウンと対を為す双眸を眼鏡の奥で鋭く煌めかせ、バンシーを構えるその人を見て、クラウンが懐かしそうに唇を歪め。
「守れなくて、ごめんなさい」
そう小さく謝罪を告げた、クラウンの痛みを、悲しみをまるで表わすかの如く。
――キィィィィィィィィィーン!
とバンシーのチェーンの刃が超高速で振動し、まるでクラウンの代わりに泣いているカの様に鳴き始めた。
その悲鳴の様なバンシーの雄叫びが、クラウンの影の心を激しく抉り取る。
――あれは、自らのオリジナルである、煤けて動かない懐中時計のヤドリガミの持ち主にして、人形師であった男。
『……ディーン・アンダーウッド……』
そう呻く様に呟いたのは、果たして誰であったのだろうか。
だがその呻く様なそれは、バンシーの悲鳴によって瞬く間に引き裂かれ。
そうして、クラウンの嘗ての主……今は亡き人形師が肉薄していく。
それに気がついた冬季の影が再び呼び出すは、254体の黄巾力士水行軍。
しかし、鉄壁を誇る筈の、黄巾力士水行軍の隙間をディーン……否、ζはまるで何事もなかったかの様に通り抜け。
悲鳴を上げるチェーンソーで、クラウンの影をズタズタに切り裂き、解体した。
淡々と無慈悲に、しかし正確にクラウンの影を解体できるのは、クラウンの主……人形師であった彼の姿を模したが故であろうか。
いずれにせよ、その刃によってクラウンが解体された時。
――樹海の迷宮は晴れ渡り……そして全員の中に賦活剤とでも云うべき……。
●
「……! よし、此なら完全な形で歌えるぞ!」
取り戻された歌詞とこの場での戦う理由。
その記憶が戻ってきたのを確認した美雪が、高らかに歌い上げるは、トッカータ。
それは、白蘭の奏でる琴の旋律と絡み合い……そして。
「はあああああっ!」
叫びと共に篁臥に跨がった雅人が、紅閻の影の中に宿る邪心を、叩き斬るだけの時間を十分に作り出していた。
「白梟!」
瑠華と凱が前線にいる以上、紫蘭を守り、且つ自身の安全も確保をしなければならない。
そして、彼等の力を行使する代償として自らが攻撃をするゆとりもない。
そんな紅閻に、今、出来る事は呼びかけることだけだ。
白梟と、篁臥……自らの白き怪鳥と、漆黒の獣に戦いを有利に導く様、命じる事。
そして、自分の子供の様に思っている、瑠華と凱に、その全てを託すこと。
――ただ、それだけの紅閻の願いを聞き届けたか。
雅人の一撃で邪心を断たれ、その動きを止めた紅閻の影に瑠華が立て続けに月の光に満ちた矢を解き放ち。
白梟が戦場を炙る様にブレスを放射して。
そして、凱が振るった大鎌による一閃が、紅閻の影の胴と腰を両断した。
――こうして、戦局は新たな局面へと向かって行く……。
●
記憶を取り戻し、徐々に、徐々に影達を押し返す統哉達の中に混ざる様にして、退魔刀を一振りする雅人。
自分と同じ羽根を胸に差す、何処か懐かしさをいつも感じさせ……今は、自分の中にある想いを育ませてくれる彼の姿に紫蘭は。
「すごい……」
と、呆然とした様子で呟いていた。
そのまま篁臥・瑠華・凱と共に、分裂している2人の『祥華』の援護に向かうべく、篁臥に跨がり戦場を駆け抜けていく雅人。
――如何して、あんな風に。
「雅人は、戦えるの、かな……?」
――ピン! ポロポロポロ……!
そしてそれは何も、雅人だけではない。
自らの琴の師匠である白蘭もまた、何時死ぬやも知れぬ戦場の中で、己が……普通の人々が望む平和への願いを込めた音楽を奏でている。
白蘭の琴弾の音に合わせる様に鳴り響く、美雪の透き通った迷いなきメソソプラノの声。
樹海が崩壊したことで記憶を取り戻した美雪の自信の籠められたその歌声が、温かな七色の波動持つオーロラ風を吹き荒れさせ。
それが……。
「まだだ、まだまだ行ける……!」
同族である桜花が言葉と共に解き放った颶風を撒き散らし、瑠香や奏の影を纏めて虚無にせんと叩き付ける事を可能にした。
冬季の影もまた、その颶風に巻き込まれ、続けざまにクラウンの呼び出したζの鳴き声の様な音を奏でるバンシーに斬り刻まれている。
その冬季の影の消失を防ごうとするかの様に、クラウンに向けて、黄巾力士水行軍が一斉砲撃を開始しようとしたところで。
「やらせませんよ。その数に対応するためには……!」
その白蘭の琴弾を聞きながらそう呟き、手を掲げる灯璃。
『CASorder……course Allgreen,――――― Bombs away.』
その言の葉と共に、空中に召喚されたのは一機の巨大戦闘機。
その戦闘機が、黄巾力士水行軍に向けて爆撃を開始するのに合わせる様に。
「数には数で勝負。……それが私の出来る事ね」
続けざまにそう告げた都留が、エレボスの影達に命じて、閃光を炸裂させた。
炸裂させた閃光に目を焼かれて怯んだ黄巾力士水行軍とそれを操る冬季の影に降り注ぐ巨大な爆撃ミサイル。
更に……。
「追加砲撃支援! 参ります!」
指示を受けるまでもなくM19サンダーロアに再装填したキャニスター弾をラムダが発射。
放物線を描いて着弾したそれが爆撃機と共に爆発を連鎖させ……黄巾力士水行軍と冬季の影を、跡形もなく消し飛ばした。
その間に冬季と黄巾力士は、巨大化したままに肩から支援の金磚実体弾を発射。
生き残った敬輔や統哉の影を撃ち倒すべくその砲弾で爆裂の華を咲かせている。
それに応じる様に、灯璃の影が、セミオートライフルで応射を浴びせかけ。
更にネリッサの影が1270本の氷柱刃を召喚して、一斉にそれを、敬輔達の影を襲う瑠香に向けて解き放った。
放たれたその攻撃に割り込む様に、祥華の護鬼丸が飛び出して、その攻撃を遮り。
更にクラウンが飄々と肩を竦めながら糸で繋げた9体のからくり人形に、一斉に獄炎の炎を纏った投げナイフを投擲させている。
――少しでも、その氷柱刃の勢いを削ぐ其の為に。
「どうして皆は、そんなに戦うことが、出来るんだろう……?」
そんな激しい戦いの光景を見つめ、静かに息を吐き、もう一度自分の在り方を確認する様に額に滲んだ汗を拭う紫蘭。
その間に、白蘭に向けて、瞬の影が氷晶の矢を解き放った。
解き放ったその矢が今にも白蘭を貫き、息絶えさせんと迫った時。
「霧亥! 合わせな!」
響が叫び、鉄壁の結界を張り巡らす奏の影に向けて、635本の青白く光輝く矢を解き放ち。
「任せろ!」
黄金竜形態の儘に、更に全身を成長させその威力を増大させた雷電を放射する様に叩き込む霧亥。
だが、その技の反動か、黄金竜の全身から血の様な何か……油、であろうか……が零れ始めていた。
(「まだ、未だ保ってくれ……!」)
そして、何も限界が近いのは霧亥だけではない。
「ゲホッ!」
目からだけでは無く、口からも血を寿命と共に零れ落ちさせる姫桜や……。
「まだ、倒れられ、ないんだから……!」
美雪の歌で傷を多少塞がれた、とは言えそれでもゼー、ゼー、と両肩で荒い息をつきながら、胡蝶楽刀を振るう葵桜も同様だ。
それでも彼等、彼女等は、自分達の影相手に一歩も引かない大立ち回り。
その様子を食い入る様に見て、紫蘭が自分も何かをしなければ、と言う思いを胸に抱く。
――けれども。
「私のこれは、本当に私の想いなの?」
この想い自体が、誰かによって作られしまったものなのではないのか?
そして、影朧桜を転生させたいのは、本当に自分の意志なのか?
惑い、悩み、最後の一歩を踏み出せぬ儘の紫蘭の背を押す様な声を上げたのは。
「紫蘭さん、3年前から貴女を支えたい。その気持ちは今でも変わっていませんよ」
紫蘭の前に仁王立ちする様に立ちはだかり、ネリッサの影が解き放った氷柱刃を受け止めた奏。
「奏……」
「確かに、紫蘭さんは天秤の光側にとって重要な桜の精で、普通の桜の精とは違うのかも知れません。でも……初めて会った時、私のマカロンを食べて美味しいと言ってくれたのは、間違いなく紫蘭さん、貴女ですよ」
「あっ……」
それは、初めてこの世界に生まれ落ちた時の事。
右も左も、なにもかもがわからない自分に差し出された料理であり、初めてのデザートであり、お菓子だった。
「それだけではありませんよ、紫蘭さん。3年前、初めて僕達に出会った時、あなたは、僕のフルートの音に気を向けてくれました」
その奏の言葉を引き取る様に。
義透の呼び出した霹靂の黄金色の結界に重ね合わせる様に月読みの紋章を重ね合わせて結界を強化し、紫蘭を守る瞬がそう続ける。
「あの時、あなたは妹の……奏のマカロン……甘いものを美味しいと言い、美雪さんが差し出した熱い紅茶と苦いコーヒーに驚いていました。そうやって人としての在り方を学んだ上で、貴女は1人の桜の精として様々な影朧達と接し……救いたいと言い続けていました。その気持ちはきっと、間違いなんかではないんです。紫蘭さん。他ならぬ、貴女自身が、感じ、想い、そして願った祈りなのです」
『桜の精よ。天秤の光にして、我等の同胞たる紫蘭よ。その全ては汝に刻み込まれた偽りの記憶。我等と共に、人々を、世界を救う。それこそが我等の本能に刻まれた想い。その想いを忘れて迄、汝は我等に手向かうのか?』
瞬の言の葉を遮る様に。
淡々と念話で問いかけてくる影朧桜。
けれども……。
「違う……違う! 誰かの転生を請い願う。それは私達桜の精の本能なんかじゃない! だって、私がそうだったもの!」
その影朧桜の言の葉を断ち切る様に。
絹の様な悲鳴を再び上げた桜花が、再び神殺しの精霊――触れた存在を虚無と化す颶風を巻き起こす。
巻き起こされた颶風が、奏の影や、瞬の影に命中し、その体に強かな一撃を加えるのを確認しながら、叫び続ける。
「私は、言葉も、声も知らず! 蝋燭の灯しかない場所で、本当に生きる最小限の事しか知らなかった……! 私が初めて見た引き千切れた腕の意味も、飛び散る赤の意味も、倒れた家の意味すらも……何も分からなかった。お婆に拾われて、『人間』に育てて貰えて……やっと分かった。紫蘭さんに、奏さん達、沢山の人がいたのと同様に。私にはお婆がいて、其れで漸く人の意思も、想いも、見た光景の意味も分かった。あの日、初めて世界に踏み出した私は、誰も救わず山を下りてしまった……だから!」
誰かに与えられ、教えられ、学ばなければ、誰かを救いたいと願いを請う事なんて出来ない。
其れが例え、自らのエゴであり、正義だったのだとしても、その価値観は必ずしも他人と共有できることを意味しない。
――だから、本当の『罪』。それは……。
「知らない事だ。知ろうとしない事だ。それが本当の罪なんだ。だから、私は……!」
その桜花の言葉を引き取る様にして。
「――ええ、その通りです」
敬輔達が敬輔達の影との戦いに時間を取られるその間に、崩された迷宮から移動して、自らの影達の背後を取ったネリッサが呟く。
『後ろ……?!』
「この距離なら舘野さん達を巻き込む事は無いでしょう。影朧桜。あなたは私達の意志をエゴと言いました。確かにそれはその通りです。ヒトには、大なり小なりエゴが存在するのは、誰にも否定できない事実です」
――そして。
「当時の事情はあくまでも竜胆さんから聞かされた事迄しか知りませんが……それでも私達はそれを知らぬ儘に、あなた方と戦おうとした。それは間違いなく私達の罪です。無論、あなたの破壊と死を撒き散らす様なエゴを許容することは到底できません。ですが、私達人が、あなた方を死に追いやったそのエゴも許されるものではありません」
――でも……その罪をネリッサ達はこれまでの戦いの中で遂に知った。
知ることが出来たのであれば……。
「償おうと願う人々もいます。私達があなた方と戦うその理由……それは、世界の守護者としての自負と、世界に選ばれたが故に課せられた義務、そして……」
――『贖罪』です。
その言葉と共に。
ネリッサが懐に携えていた小型情報端末MPDA・MkⅢに文字が浮かび上がる。
コード名――千匹の仔を孕みし森の黒山羊。
「出でよ、狂気孕みし黒の山羊。我が贖罪を、エゴを満たすその為に、世界を守護するその為に。我に仇なす者を、全て薙ぎ払え!」
そのネリッサの詠唱と共に。
ネリッサの後方の空に描き出された魔法陣が明滅し、其処から太く禍々しい漆黒の触手が一斉に解き放たれる。
唐突に背後に現れた禍々しき漆黒の触手の動きに、ネリッサと灯璃、そしてウィリアムの影が咄嗟に後ろを振り返るが。
「馬鹿ね。私に後ろを見せるなんて。ラムダ、お願いよ」
都留が対オブリビオン戦略呪操機改修試験機弌型 朧蟲を解放、背を向けた灯璃とネリッサ、ウィリアムの影に纏わり付かせ。
「砲撃準備良し! 焼き尽くさせていただきます! ……てぇー!」
ラムダが何発目かのキャニスター弾を真直ぐに撃ち出した。
撃ち出された其れが蟲に纏わりつかれ触手に縛り上げられて動きを止めた灯璃とネリッサ、ウィリアムの影を穿ち。
――バァン!
と激しい爆発音と共に、只の肉塊へとなり果てさせる。
肉塊と化したそれらを浄化するかの様に篁臥に跨った雅人が肉薄、退魔刀を一閃。
閃光の銀と共に放たれた刃の一撃が平和を願う白蘭の歌と重なり合ってその肉塊達の、この地に留まりたいと言う邪心を打ち払う。
そうして、露と化して消えていった3人の影の状況に気が付き、都留の影が咄嗟に攻性防壁を雅人に向けて展開。
更に、その肩に装備した対人砲弾であるキャニスター弾をセットした120mmカノン砲の銃口を雅人に向けるラムダの影だったが。
「少し甘いぜ。読み通りだ!」
姫桜と葵桜の力を振り絞った連携に自分の影を一度振り切ったネコ吉の叫びが轟いて。
「行くぜ!」
そのネコ吉の意図を正確に汲んだ統哉が飛翔、クロネコ・レッドのスカーフを風に靡かせ大上段から『宵』を振り下ろした。
大上段から振り下ろされた漆黒の大鎌『宵』の一閃から、都留とラムダの影を守るべく飛び出す奏の影。
その奏の影が統哉の鎌を受け止めたその瞬間に。
「おう。油断したな、奏の影」
――ズドォォォォォォォォォォォーン!
激しいボルトスナイパーライフルの銃声が鳴り響き、其れが真正面から統哉の攻撃を受けていた奏の影を真横から撃ち抜いた。
「……ミハイルか!」
統哉が笑顔で精密射撃をした人物の名を呼ぶが、ミハイルはおざなりに手を振って直ぐに狙点を変えている。
――その間に。
「……斬り捨てる!」
鋭く短い呼気を上げた敬輔が漆黒のオーラを纏ってウィリアムの氷塊の影から姿を現し、その黒剣を振り上げ。
更にζの構えるバンシーが悲鳴の様な泣き声を上げ、袈裟にその刃を奏の影に向けて振り抜いた。
下段からの逆袈裟の一撃と、クラウンのζのバンシーによる解体斬り。
逃れることの出来ない二重の斬撃にその身を切り裂かれ、遂にどう、と守りの要であった奏の影の体が崩れ落ちる。
防御の要を失った都留とラムダのその隙を逃そうとする者などいない。
「そこですね」
その針の穴の様に細い、生まれた光明を逃さず、灯璃がHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引いた。
――Bram! Bram!
撃ち出された銃口を焼き尽くさんばかりの無限の弾丸が、無言の連携で離脱した敬輔と統哉の隙を埋める様に吐き出され……。
都留の影が咄嗟に、自らのオリジナルからコピーした対猟兵対応自立戦略生体型ガードユニットを起動させようとするが。
「幸いにもあなたは神の加護を受けていなかった様ね。もし此で神の加護まで受けられていたら……正直、勝てる気がしなかったわ」
その都留の言の葉と共に。
時騙しの懐中時計を起動させ、加速した自らの武装……原初の天空神アイテールのメイスを振り下ろす。
大地を砕き、壮絶なる神罰の突起した大地の槍が突き立ち、都留の影のガードユニットが展開した防性防壁を破壊した刹那。
灯璃のばらまいた無数の弾丸が都留とラムダの影を同時に纏めて撃ち抜き蜂の巣にしたところを。
「……終わりだ」
ふっ、とウィリアムの氷塊の影から陽炎の様にその姿を現した陽太が、淡紅色と濃紺の輝き伴う2槍を解き放ち。
都留とラムダの影の背から胸に掛けてを貫き、その2機に止めを刺す。
――勝利を図る天秤の傾きは、少しずつ、少しずつ猟兵達の方へと傾き始めた。
●
『……半分近くが、討ち取られたか』
ぐう……と唸る様な思念と共に。
失われた者達の姿を見た影朧桜が淡々とその様な念話を漏らすのを聞いて、微かに祥華は微笑んだ。
今なら、少しだけ。
聞きたいことが、聞けそうだったから。
「ヌシよ、影朧桜……天秤に作られた概念よ。貴様に1つ聞かせて貰おう」
その言葉と共に。
肌が血の色の様に紅く染め上げ、漆黒の髪を持ちし、自らの分身と共に戦場を駆け抜けていた祥華が問う。
『問われたことに、答えよ、神よ。何故、貴様は人と共に在る? 何故貴様は、自らの生み出した箱庭の破壊者である筈の貴様が、其方にいるのだ?』
その問いかけとほぼ同時に。
自らの影が召喚した怨龍が咆哮と共に、自らの纏う瘴気を放出。
同時に『荊棘』に覆われた怨龍がその姿を曝け出し、憤怒と怨嗟の咆哮を上げ、祥華と祥華の分身……黒闇天女を荊棘の檻に捕らえ。
『応えよ、神よ!』
叫びと共に、その顎を広げガップリと祥華に食らい付いた。
咄嗟に呼び出した朱霞露焔……紅蓮の炎を纏った大地を焼き払うとされる鬼神が、その龍の顎に炎を吹き付けた。
吹きつけられた紅蓮の焔に微かに怨龍が怯んだ隙を狙い、黒闇天女へとちらりとアイコンタクトを送る祥華。
祥華のアイコンタクトを受けたもう1人の自分は、周囲の氷塊が作り出した影に溶け込む様に姿を消した。
「ふむ。まあ、ハーディ風に言うなら贖罪であろうな」
――先程、白夜が紫蘭に漏らしておった様じゃが……。
わざわざその全てを目前の自らの影を自称する存在が作り出した怨龍に、教えてやる謂れはあるまい。
「それよりもだ、影朧桜。貴様のその『祈り』。世界に平等なる平和を、人々に救済をと言う願い……それは妾には解らないではない」
――妾もまた、嘗てはそうであったのだから。
「然れど、其れで他者を巻き込むと言うのは……如何なものでありんすかのう?」
朱霞露焔に紅蓮の焔を吹き付けさ続けながら、祥華が横目に見やるのは、紫蘭と白蘭。
続いて篁臥に跨る雅人を見ようとして……ふと、ある事に気が付き軽く頭を横に振った。
(「とは言え、そのおかげで……紫蘭と雅人はカタチは違えど……今に至っておる。まあ、これもヌシの範疇なのかもしれぬが……」)
そんな祥華の微かな疑問をまるで分かっていたかの様に。
「しかし、雅人さんが異音と言っていたな……。此れは、雅人さんが光の天秤の導き手……或いは、イレギュラーであるとでも言う事なのか? まあ、明らかに初めて会った頃より遥かに逞しくなっているわ、以前よりも強力なユーベルコヲドを使いこなしている気がするのは確かだが……」
そうトッカータの間の間奏曲を聞きながら、何気なく美雪が呟いた其れに。
「ああ……成程。そう言う事か」
祥華の頭は霧が晴れたかの様にすっきりした。
(「雅人が与えた羽根を持ち、紫苑……紫蘭は転生したのだと聞く」)
そして、転生に至った迄の時間はあまりにも早く。
加えて全ての始まりの戦いの時は一般人だった雅人はその後、ユーベルコヲドを刻まれて覚醒し。
そして帝都桜學府諜報部に、入隊したのだ。
帝都桜學府に疑義を抱き1人の桜の精として世界を放浪し続ける紫蘭。
帝都桜學府諜報部に所属して、影朧を救済するべく戦いを続ける雅人。
ある意味では、正反対の道を歩んだとも言える、転生者と生者は……ある時邂逅し、再び絆を育み、そして今も尚、共に此処に居る。
――影朧桜を救済するためにこの地での戦いを是として、此処にいる。
つまるところ……。
「それはヌシの範疇外、なのであったろうな。そして……もう1つ、貴様は勘違いをし、イレギュラーがあることに気が付いていないかも知れぬのう」
その祥華の挑発に等しい言の葉に。
『何……?』
影朧桜が息を呑む気配を伝え、祥華へと義透と統哉の影を差し向けようとするが。
「おっと、私……『我等』を出し抜いて吉柳殿の所に行く事が出来るとは思わない事ですよ」
義透が冷静に、其れを指摘する様に言葉を紡ぐとほぼ同時に。
その手の四天刀鍵を袈裟に振り下ろし、自らの影を切り裂かんとする。
咄嗟にバックステップをして、偽・白雪林に無数の矢を番える義透の影。
ひょう、と解き放たれた2540本の風雷の力纏いし呪詛の矢が空中に向けて解き放たれ、正しく雨の如く戦場に降り注ぐ。
「紫蘭さん!」
降り注ぐ風雷の矢から紫蘭を、身を挺して庇う様にその前に立ち、エレメンタル・シールドを構え、結界を張り巡らす奏。
霹靂もまた瞬の援護を受けて自らの黄金色の結界を更に強化するが……そこに畳みかける様に瞬の影が、六花の杖を突き出して。
――全てを凍てつかせる1270本の氷晶の矢を一斉に解き放った。
「うおおおおおおっ!」
其の内の635本が紫蘭と奏の方に、残りの635本が琴の爪弾きを続ける白蘭に迫るのに、全身から血を流し続ける霧亥が咆哮。
これ以上は更に寿命を削られるであろう程にあらんばかりの力を成長して解き放った雷光がそれらの矢の一部を弾き飛ばし。
『……?!』
更に一部の雷光の刃が、瞬の影に向かい、瞬の影を確かに射抜く。
「自分の影には自分で始末をつけますよ……!」
そう呟くと、ほぼ同時に。
瞬が七色のオーロラ風に背を押され、月虹の杖の先端で月読みの紋章を描き出し。
「先程は、冬季さんの影の呼び出した黄巾力士水行軍に殲滅されましたが……今は、そうはいきません!」
解き放った127体の狩猟鷹達が【127】と言う数字を胸に描いて一羽の巨大な狩猟鷹となり、自らの影に突撃した。
その鋭い嘴が、よく研ぎ澄まされた細剣の様に鋭い輝きと共に自らの影を貫き、そこに。
「行きます!」
と瞬が咄嗟に左手を頭上に掲げ、ひゅっ、と印を切りながら振り下ろした。
瞬間、天空から裁きの雷が叩き落とされる。
落ちてきた雷が、霧亥が咆哮と共に放った雷光と重なり合い、瞬の影の全身を感電させ、ぶすぶすと肉の焼ける匂いと共に。
瞬の影がその場に頽れて、灰と化して消え失せるのに、そっと息をつく瞬。
その間にも地面に向かって降り注いだ、義透の影が解き放った雷風の矢雨と、霧亥が撃ち落としきれなかった氷晶の矢は。
「させないよ!」
霹靂が琴を弾き続けるのに満足げに頷いた響が一閃して叩き落とし。
「ぷぎゅう!」
更に紫蘭に向けられた其れの残りは、現れた陰海月が張り巡らした海色の結界がその全てを受け止めていた。
続けざまに、暁音が素早く祈りを切る。
星具シュテルシアを地面に突き立て、足元に星色の輝き伴う魔法陣を生み出して。
その聖域張り巡らす領域の作成の気配に気が付いた霧亥の影が消える魔球を解き放った。
今度は1球ではなく、数球纏めて。
解き放たれた其れが、暁音の領域と美雪の歌声、そして奏の張り巡らした結界を相殺しようとするが。
「数が減ってきている以上、其れだけ俺達の方に少し余裕ができるもんだぜ?」
自らと統哉の影の動きを読んで体を入れ替え、その隙間を拭う様に抜け出したネコ吉がそう告げるとほぼ同時に。
「瑠華!」
紅閻が自らの呼び出した月聖霊の名を呼びつつ、上空の白梟にブレスを吐き出させた。
天上から吐き出された白梟のブレスに、ネコ吉の影が反応し、咄嗟に回避。
だが、再び浄化の矢を解き放とうとしていた統哉の影は、ブレスの攻撃にわずかに反応を鈍らせる。
それを、身を挺してでも守るべく姫桜の影がヴァンパイアの膂力で足場を破壊してでも跳ぼうとするが。
「私が守りに回ることがよく分かっているのならば! 私は私の影をどう食い止めればいいのか分かるものよ!」
白蘭の琴弾きで、この世界を……生者としてのエゴを守り、平和な今の世界を維持することを望みその力を蓄えた姫桜が。
封印を解放したまま咆哮する白と黒の二対のドラゴンランスに竜の波動を纏わせて自らの影を串刺しにするべく突き出した。
その攻撃を葵桜の影が神霊体とした体で偽・胡蝶楽刀を振り抜き、姫桜の攻撃を断ち切ろうとするが。
「あなたが、私の影で、元が私ならば……私がひめちゃんを守ろうとするのはお見通しだよ! ……ラムダさん!」
叫びと共に、葵桜が自らの胡蝶楽刀を振り上げる。
リンリン、と柄についた魔除け鈴が高らかに鳴ると同時に解き放たれる、葵桜の寿命を、命を纏った衝撃波。
その衝撃波に一瞬傾いだ葵桜と、其れに守られ、統哉の影を救いに向かおうとした姫桜の影に向けて。
「快速特急大サービス! ラムダ・マルチパーパス三等兵、今直ぐ砲撃をお届けします!」
ラムダがピコピコと自らのアイカメラを輝かせると同時に、肩の120mmカノン砲から砲撃を発射。
その砲撃の余波が届かぬ様に。
「まだ……まだ、行けます……!」
美雪の歌声で何とか止血されながらも双眸を赤く染めたウィリアムが叫び、氷塊の一部を姫桜達と影達の間に割り込ませ。
「そうね。ここで立て直させるわけには行かないのよ」
続けざまに都留が、アイテールの護衛隊と、ガードユニットを自立移動させ、防性障壁を、姫桜と葵桜の前に展開。
都留とウィリアム、二重の防護の加護を受けた姫桜と葵桜の目前で、ラムダが発射したキャニスター弾が大爆発を引き起こした。
爆風に飲み込まれた姫桜と葵桜の影が桜花の颶風の威力も重ね合わされ、その半分以上の体を消失させているのを見て。
「終わらせるわよ、あお!」
「うん! いくよ、ひめちゃん!」
白蘭の琴の音色の力を背に受けて。
完璧なまでに息を合わせて姫桜が二槍を葵桜の影に、葵桜が胡蝶楽刀を、姫桜の影に向けて突き出した。
突き出された姫桜の二槍が、葵桜の影の心臓を串刺しにして、その存在に止めを刺して消失させ。
更に葵桜が解き放った胡蝶楽刀の刃先が姫桜の影の胸に突き立ち、その内側から衝撃の波を解放した時。
『がっ……!』
ヴァンパイアの膂力を存分に生かしていた姫桜の影の体を巡る血管が砕かれ、姫桜の影が遂にその生命活動を停止させた。
一瞬の隙が致命的となった、姫桜と葵桜の影の、その最期。
それに対する激情からか、白梟のブレスを受けながらも尚、1270本の浄化の矢を解き放とうする統哉の影に。
紅閻に呼ばれた瑠華が、ウィリアムの氷塊と自らの司る氷と水の聖霊魔法の力を重ね合わせて降り注がせた。
更に立て続けに吹き荒れるのは、冥風雪華がその口から吐き出したブリザード。
白蘭の護衛として予め召喚しておいた祥華の式神……雪女でもあるそれの吹雪がネコ吉の影に背後から凍傷を与える。
「これも……予測通りだぜ」
そう小さく言の葉を紡ぎ。
躱したくとも躱すことの出来ない吹雪をその背に受け、その動きを鈍らせた自らの影に、銀刃を一閃させるネコ吉。
雨に打たれればより一層の力を発揮されると言うその銀の斬撃は、白蘭の琴による音色を受けて、その刃を銀に煌めかせ。
平和を希求する白蘭の心を写し取るかの様に輝き、ネコ吉の影を真っ向両断に叩き斬り。
そこに……。
「ガイ! 行け!」
紅閻が叫ぶと同時に、空中から天使の如く飛来した銀の双翼……ガイが何時の間にかその手に持った大鎌を横薙ぎに振るった。
振るわれたその刃が、ネコ吉の刃で真っ二つになっていたネコ吉の影の上と下を泣き別れにさせた正にその時。
豪雪の如く降り注いだ無数の氷塊の雨は、統哉の影を埋め尽くす様に叩き、その体を完全に凍てつかせていた。
その、月聖霊……ルカとウィリアムの氷塊によって氷の棺に埋め込まれた統哉の影に。
雅人の跨る篁臥が、踊る様に旋回して漆黒の雷の如く、その手の爪を振るい。
その斬撃で、氷の棺諸共統哉の影を打ち砕いたのだった。
●
「これで残るは8……ですか」
その戦況を合一黄巾力士と合体し、通常より遥かなる高見から見下ろしながら。
淡々と戦況を確認して呟く冬季の其れに、そうだね、と暁音が頷く。
既に自分達の影はない。
ζが次に桜花の影を解体するべく走り出したが、敬輔の影が食い止めている。
続けざまに霧亥の影がユーベルコヲドであるζを打ち消さんと魔球を投げるが。
「そう、思い通りにはいかないわよ」
「ζ! この氷塊の影に隠れるんだ♪」
都留の言葉と共に練り上げられた防性防壁が魔球を受け止め、更にクラウンがPriorityを委譲された氷塊がζを庇う盾となっていた。
「……ハア、ハア、ハア……」
魔力の消耗は、既にほぼ限界。
それでも自分が倒れれば奏に続いた守りの要……自らの生み出した氷塊そのものが失われてしまう。
Priorityの全てを他の者達に譲渡したとしても、其れがなくなればしまいだ。
故に気力だけでその意志を貫き、ウィリアムが氷塊召喚の魔法を維持し続ける。
それを美雪が微かに気がかりそうに見やるが、それでも直ぐに頭を横に振り、彼女もまた、自らの奏でるトッカータに集中した。
そんな美雪達の様子を、自らの体に具に伝えてくる共苦の痛み。
世界の想いを、仲間達の疲労とその傷を伝えてくるその共苦の痛みの感覚は、先程迄は消えていた。
クラウンの影の呼び出した樹海によって消えていた其れが、漸く取り戻されてきたのだ。
(「だから……そろそろ」)
「俺は……伝えにいかないといけないんだ」
其れは別に冬季に聞かせると言う様子ではなく。
あくまでも自分自身に言い聞かせる様にもしている声。
その暁音の声音を聞いて。
「ふむ。まあ、好きになされば良いでしょう。何なら縮地でお送りしましょうか?」
口の端に嗤いを浮かべて呟く冬季を一瞥し、暁音は大丈夫、と軽く頭を横に振った。
「……これは俺が自分で伝えなければいけない事だから。だから、俺は行くよ」
その言の葉と、共に。
明らかに数を減らしつつある自分達の影の間隙を拭う様に、暁音が星具シュテルシアを箒型に変え。
その背部にジェットエンジンを模した無限の星々の力を蓄えたそれを噴射させる。
(「俺が目指すべき場所は、そして事は……1つ」)
影朧桜の元へと向かい。
そして……自らの意志を、自らの行う事への其れを、影朧桜に問いかける。
ただ……それだけだ。
●
「……動き出しましたか」
冬季の傍から星の力を加速させて空を飛び、影朧桜の方に向かう暁音を見て。
義透がふとそう思い、自らの影との死の舞踏を舞い続ける。
だが……既に自らの影は深手を負っていた。
桜花と敬輔の影が肉薄し、義透を倒すべく加勢せんとする。
桜花は、周囲に幻朧桜の林を召喚し、咲き誇る桜の花を散らさせ吹雪と化させてこちらに揺り籠の中で眠る優しさを伝え。
白き靄を纏った敬輔の影は、偽・黒剣を跳ね上げて、斬撃の衝撃波を義透に向けて解き放っていた。
この敬輔の斬撃を受ければ、『我等』は死ぬのだろうか。
或いは『私』……孝透以外が、今は亡き統哉の影の浄化の矢や、何よりも自身の影の浄化の矢を受けていれば死んだのであろうか。
そうであれば、さぞや無念であろう。
その無念は、『我等』が新たな影朧として生まれ落ちる切欠となるやも知れぬ。
――然れど。
「……死んだからと言って、必ず影朧になる訳でもないのだよ。それを『我等』は証明している。そして、『我等』は……今までの全てを覚えてもいる。そんな存在ですよ、『我等』は」
――だから。
「私……『我等』にその概念による侵食は有効ではありません。そして、私の影のそれもね」
そう短く呟くとほぼ同時に。
桜花の概念侵食と、自らの影が後退して解き放った破魔の矢を掻い潜る様にジグザグに動きながら、義透は四天王刀を一閃。
幾度も受けた精神攻撃とユーベルコードによって更に増強された自らの戦闘能力。
即ち『我等』……四悪霊が『敵』と認めた相手へ返す、怨嗟の果てにある『答え』
その答えと共に、義透は自らの周囲に集った3体の影に四天王鍵を一閃したのだ。
敬輔達にそれぞれの役割を果たさせるその為に振るわれた斬撃が、更なる加速度を増し、影達を一蹴。
その体を敬輔、桜花、そして自らの影が切り裂かれ、痛みに喘いでいた、そこに。
「きっと何度も間違うけれども。今度はどんな手段を使おうと……私は……救うために、あがいて見せる」
桜花が粛々とそう告げながら。
巻き起こした神殺しの触れた存在を虚無と化す颶風が竜巻と化して敬輔と義透……そして、桜花自身の影を飲み込んだ。
その巻き起こされた颶風によって。
正しく虚無……生でも、死でもない虚ろな存在と化した影達に、浄化の願いを込めた『宵』の一閃を、統哉が放つ。
自らの影の死に思うところがないわけではないが、今は……。
「俺は……俺達は、あの影朧桜に伝えないといけないんだ」
人々の救済を願うその心を、そして……新たなる未来をもう一度歩んで貰う。
その為の一歩を踏み出して貰う事を。
だから……。
「後は、祥華、響、霧亥、瑠香の4人の影、か」
その確認する様な統哉の呟きに。
「その位の数であれば、ハーディ殿達に任せれば大丈夫でしょう」
そう確認する様に義透が呟き、其れに統哉が首肯するのに。
「急ぎましょう、皆さん」
急き立てる様に桜花が呟くのに頷いて。
統哉達もまた、影朧桜の方へと駆けだした。
●
「愈々、本当のクライマックスだな」
残された4人の影をSV-98Mのスコープを覗き込み、状況を見据えながら。
既に2人を射抜き次の狙撃の機会を慎重に窺っていたミハイルが笑う。
流石にもう、煙草は消していた。
銃口から溢れる白煙も既にない。
後は只……必要な時に、必要な狙撃を行うだけだ。
「ったく、共に踊るぅ? そんなに踊りてぇならホパークでもワルツでも、手前1人で好きなだけ踊ってやがれ」
最初の影朧桜の言葉を思い出し悪態混じりの軽口を叩くミハイル。
だが、ホパークでもワルツでもないが……死の舞踏(ダンス・マカブル)を踊るのは嫌いじゃない。
「何せ、その殺るか、殺られるか……其れが当然で、其処には善も悪も、なかったからな」
ただ、その日常の殺し合いが愉快であった事は変わらない。
だから……口の端にミハイルが浮かべた鮫の様な笑いが途切れることは、無い。
「さて……もう少しだけ楽しませてもらうぜ」
――この命のやり取りを。
そう内心で呟いて。
隠密したミハイルがSV-98Mのスコープに再び目を落とし、戦況を見渡す。
――次に狙い撃つことが出来る獲物を、今か、今かと肉食獣の様に待ち構えながら。
●
響の影は、子供達をやられながらも尚、未だ戦う事を諦めてはいなかった。
その燃え上がる闘志を反映するかの様に、偽・ブレイズブルーの穂先に闘志の赤熱した焔を宿している。
そしてそれは……瑠香の影も同様だ。
瑠香の影もまた、偽・物干竿・村正を構え、乾坤一擲のその機会を作るべくその黒き銀刃を煌めかせていた。
白蘭に張り付かせた冥風雪華と紫蘭に張り付かせている護鬼丸の視線を介して、彼女達の影の末路を想像しながら。
「やれやれ……そろそろ妾達も決着をつけるとするかのう?」
祥華が唇に何処か妖艶な笑みを浮かべながら自らの『影』を称するそれと、怨龍を見つめ、そう呟く。
(「黒闇天女……すまぬが……力を貸してくれでありんすよ」)
「妾の影と抜かしよる……貴奴を滅ぼす、その為にもな」
『……その者は、汝が影。その事実は如何に汝が否定しようとも変わらぬ』
その祥華の言葉を断ち切る様に。
淡々と念話を叩きつけてくる影朧桜に合わせる様に先の質問に対する解に満足のいかぬ怨龍がその牙を剥いて、唸り。
唸り声と共に荊檻に祥華を捉え……そしてその咢を開き、彼女のきゃしゃな体を噛み砕かんとした。
『我、汝の影なり。何故、汝は汝の影を否定する? 汝は、汝が抱く想いを、その罪を何と思う?』
その怨龍を呼び出した祥華の影の問いかけに。
祥華は漸くこの時が来たでありんすな、と深々と口の端に哄笑を浮かべた。
「……妾の影は、お主では非ず。何よりも、妾の影がおる場所、それは……」
その祥華の言の葉に、合わせる様に。
朱霞露焔が紅蓮の炎を解き放ち、一瞬祥華の影と、怨龍の視界を焼くその間に。
ひらり、と彩天綾を翻して空中をバク転しながら頭上を跳び越す祥華。
その祥華の傍に寄り添うように、口の端に笑みを浮かべた肌が血の色の様に赤く、漆黒の髪を持った『祥華』がそこにいる。
「妾の影は、此処に居るよ」
その『祥華』の名は、黒闇天女。
……自らの罪の烙印を刻んだ、自らの心を具現化させたもの。
その影と共に、祥華の影の背後を取った祥華と黒闇天女が同時に掌を天へと掲げ。
――神罰の雷を、自らの影を名乗る者に叩きつけた。
「辛かった、苦しかった、悲しかった、何よりは己自身を呪い、赦せなかった」
まるで諳んじ、吟じるかの様に。
自らの想いを唇に乗せ、詩の様に優美に歌い上げる祥華。
その、祥華の応えに合わせる様に。
自らの本当の『影』……黒闇天女が両の掌を広げ、神罰の炎を繰り出した。
それは、朱霞露焔の吐き出した紅蓮の焔と混ざり合う様に溶け込み合い、煉獄の火柱と化して、祥華と怨龍を纏めて焼き払う。
消し炭の一滴迄、余す事無く焼き尽くされた自らの『影』を名乗る者と怨龍を見て、祥華がそっと寂しげに微笑んだ。
「妾の事を知った気でいた様じゃが……それだけでは足りなかった様でありんすな」
呟きは、祥華の影を名乗る者と、其れが呼び出せし怨龍には届かなかった。
●
そうやって、討ち取られた影達の残りは、瑠香、響、霧亥の影の3体。
けれども、その戦いももう終焉を迎えようとしていた。
「おおおおおおっ!」
最早、何かを感じる感覚も失われつつある黄金竜『碎輝』に変身した霧亥が、幾度目になるのか分からない雷電を放出。
それは放射された電流を相殺する魔球を投擲しようとした自らの影を撃ち抜いた。
幾度目になるのか分からないその雷光に耐えきることが出来ず、遂に自らの生体反応を止め、機能を停止して崩れ落ちる霧亥の影。
霧亥も自らの本体である懐中時計の時が進み、ミシリ、と自分の中に罅が入りつつ在る事を実感し、其処に横たわる様に着陸する。
その霧亥の限界を見抜いたのか。
響の影が自らの最後まで張り通そうとする意地を、闘志を焔に変えて戦場全体を焼き払わんと解放し。
追随する様に瑠香の影が、偽・物干竿・村正を振るって大気をかち割り、戦場を振るわせる衝撃の波を解き放つ。
戦場を覆い尽くさんばかりに放たれた衝撃と炎の波が、紫蘭と白蘭を焼き払い、或いは打ちのめして絶命させんとするが。
「最後まで、アタシが白蘭を守り抜いてみせるよ! 霧亥は少し休んでな!」
その叫びと共に霹靂が張り巡らした黄金色の結界と冥風雪華の吐き出した吹雪が戦場を飛び交い。
白蘭に迫る衝撃波を結界が打ち消し、更に冥風雪華の全てを凍てつかせる吹雪が、情熱の炎を凍てつかせる。
自分達のユーベルコヲドが凍てつき動きを止めたのに、ビクリ、と一瞬響と瑠香の影が怯んだその隙を逃さずに。
「行くよ!」
響がその左掌から635本の光槍を解き放ち、瑠香の影を牽制、貫きながら踏み込みと共に右手で自らの影に掌底を叩き込んだ。
鳩尾に叩き込んだ掌底から発勁の要領で衝撃の渦を叩き込み、それにがはっ、と喀血する響の影。
ビクリ、とその身を震わせる自らの影に思いっきり自らの闘気を取り込んだ頭突きをその頭に叩き込んだ。
――ガツン!
脳震盪を起こしたか、グラグラとよろめく様に後退する自らの影に止めを刺すべく抜き打ちでブレイズフレイムを抜いて一閃。
赤熱した炎の刃持つ袈裟の斬撃が、響の影を切り裂き全身を焼き尽くすその間に。
「そこだぜ!」
それまでずっと狙いを定めていたミハイルが、瑠香の影の米神を撃ち抜き、そのままグラリとその場に傾いで倒れさせる。
「此で……影は全滅……ですね」
漸くと言った様に安堵の息を漏らす傷だらけの奏に届けられるのは美雪の歌。
その七色のオーロラ風を吹き荒れさせ、傷を癒す美雪の歌もまた、喉に限界が来ていたのか枯れかけていた。
――ポロン。
その奏の言葉に合わせる様に。
最後の弦を弾き終えた白蘭が詰めていた息をそっと吐いた。
「ならば、妾の役割は此処まででありんすな。妾の役割は妾の求める平和の為に敵を踏み躙った先の平和を求める覚悟でありんしたから」
「白蘭……」
その白蘭の言の葉に、疲れた様に大きく息を吐き小さく頷きかけるネコ吉。
魔力の行使に限界が来たか、雲散霧消する氷塊を見送り、ウィリアムがグラリと地面に倒れ込みそうになるのを見て。
「ウィリアムさん!」
慌てて瞬がそんなウィリアムを抱き留める様に受け止め、その脈に手を当てる。
「……大丈夫ですね。魔力の限界以上の行使で気絶しただけ……みたいです」
そう呟く瞬の顔色も、疲労からか青ざめさせていた。
「でも、未だ、影朧桜は生きている」
瞬やウィリアムの限界を見て取りながらも、そう呟いたのは霧亥。
かく言う霧亥も、『碎輝』の姿から元の姿に戻り、その場にグッタリと頽れ、口から血反吐の様な何かを吐き散らしている。
全員が全員、どれ程の限界に来ているのか……その様子を見れば分かろうものだ。
「瑠華、凱……」
傷こそ負わなかったものの、2体の家族同然の聖霊を操っていた紅閻が小さく呼びかけ、霧亥達の介抱に回るその間に。
「……紫蘭さん。私達は……」
そう、何かを促すかの様に呟く奏のそれに、分かっている、ばかりに小さく紫蘭が頷いた。
「私は、行かないと行けない。皆に守って貰ったから。だから……残らせてくれた力で、皆を守りたい」
その紫蘭の呟きに。
バシン! と応援する様に響が其の背を叩き、そして笑みを浮かべて見せた。
「紫蘭、それでいいんだ。アンタが今まで桜の精として影朧を転生させてきたのは、他ならぬ紫蘭自身の意志だった。今だってそうだ。アンタはアタシ達を守る為に、そしてこの戦いの全てに決着を付けるために、前に進むと口に出した。他の誰でもない、自分の意志で。だから、アタシ達家族はアンタを支える。まあ……アタシは白蘭の様子を見る必要がありそうっだけれどね」
疲労困憊と言った様に、目の下に大きなクマを作り上げた白蘭。
頽れる様に項垂れている彼女が、どれ程異常な集中力を以て琴を爪弾き続け、自分達を支えてくれたのであろう。
美雪の歌で回復できる傷や疲労にも限界がある。
だからこそ……誰かがその傍について休ませてやる必要がある。
「私は、行こう。流石に歌い続けているだけだったからな。何、舌戦であれば、私の領分。あの影朧桜にキッチリと響さん達の言葉まで伝えて見せよう」
声を枯らしながらも告げる美雪のそれに、頼みましたよ、と疲労の濃い表情で瞬が頷いた。
と……其処に。
「バークリーさん、真宮さん、藤崎さん、ご無事ですか?」
その体調を伺う様に美雪達の方へと小走りに駆けつけた灯璃が、そう問いかける。
灯璃の背後には、都留とラムダ。
「取り敢えず、重傷者・負傷者の皆様はわたくしめにお任せ下さいませ。本来であれば、支援射撃でわたくしめも戦闘に参加すべきかと存じ上げますが」
少し残念そうな表情になった桃色の髪の美女のホログラムを提示して、ウィリアム達の様子を探り呟くラムダのそれに。
「でもこの傷と疲労度じゃ、倒れている人達の為に、誰かが付いて治療を行わないといけないわね」
都留がそう頷いてこの場に留まりウィリアムや瞬に休息を取らせる道を即決する。
「アタシも此処に残る。だから……奏。最後まで紫蘭の事、守ってやるんだよ」
「分かりました、母さん。兄さん達のこと、宜しくお願いします」
呟く響のそれに頷く奏。
と、此処で。
「灯璃さん、聞こえますか?」
不意に、灯璃のJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioに通信が入る。
その通信に気がついた灯璃が、素早くそれを取り。
「Yes.マム。局長、どうかしましたか?」
その通信の主、ネリッサに灯璃がそう問いかけると。
「未だ何か起こる可能性がありますから、これよりSIRDは最終警戒行動に移りますが……その前に紫蘭さんと雅人さんに1つだけ助言をと」
そう告げるネリッサのそれに。
「なに……?」
そう紫蘭が呟くのに。
「紫蘭さん。影朧桜は、雅人さんを異音……天秤のシステムを維持する上でイレギュラーな存在だと、そう彼を評しました」
ですが……と1つ息をついて。
「私は、そうは思っていません。自らの意志で他者を転生させる事を望む紫蘭さん。そして、そんな紫蘭さんの助けになる為に、最終的には此方側に裏切ったと言っても過言ではない白蘭さん。貴女方の存在……と言うより、その人としての意志も影朧桜にとってはイレギュラーだったのだと思います」
――だから。
「だから影朧桜は、貴女を自分達の側に引き入れようとし続けたのでしょう。……一度は自分達の手駒の1人として引き込むことの出来た白蘭さんと同様に」
「……ネリッサ」
淡々とした、ネリッサの言葉。
しかしそのネリッサの一言、一言は、確かに紫蘭の耳に届いている。
「真宮さん達もいます。文月さんや、館野さん、藤崎さん達の様に、長きに亘って貴女と共に戦ってきた仲間達もいます。それを努々忘れぬ様にして下さい」
――それもまた、贖罪の1つの在り方ですから。
そんな言葉は、流石に飲み込んだけれども。
けれども、ネリッサのその言葉とそこに籠められたその想いを受け取った紫蘭は。
「……分かったわ」
そう短く頷いて。
紫蘭は、奏達と共に、影朧桜が立ち続けるその場所へと向かっていった。
――それは、戦い。
けれども刃を交え、其の体を断ち切る様な戦いには、恐らくならないだろう。
そう……それは……。
●
「――ワァオ♪ 信念って奴の戦い同士って事になるのかな♪」
――プップカプー! プッププ、プップカプー!
ζの変身した、己が主、人形師が悲鳴の様な金切り音を挙げるバンシーで、影朧桜を切り裂かせながら。
星具シュテルシアに跨がり、此方へと飛翔してくる暁音の姿を見て、クラウンはわざとらしく小首を傾げる。
(「まっ、よくある話と言えば、よくある話、だよね♪」)
全てに対する救済を、その理想を求めて最後まで死力を尽くして戦っていく。
それは絵物語に過ぎない様にも思えるけれど……猟兵達の多くが望む道でもある。
「まっ……ならばボク達は、観測者を決め込みますか。ζ! 一度後退して!」
そのクラウンの言葉に応じる様に。
影朧桜に向かってバンシーを叩き込み、影朧桜から樹液を滴らせたζが後退する。
『……どういうつもりだ、ヤドリガミ』
その影朧桜の問いかけに。
わざとらしく唇を吹き、まあ、とクラウンが道化の笑みを浮かべてクスクス笑う。
「直ぐに分かるよ。それにボクだけでキミを倒すのも芸の無い話だしね♪ まっ……道化者は此処からは高見の見物と洒落こむさ♪ まあ……」
そのクラウンの言葉を引き取る様に
「だからと言って、あなたに一撃を叩き込まない道理はありませんけれどね!」
叫んだ瑠香が神速の突きを三度解き放つ。
その神速の刺突を影朧桜に叩き込み、続けざまに107の斬撃で其の体を斬り刻むが、影朧桜はその表面に傷を作るばかりだった。
「そうですね。文月殿達の声を届ける為にも、少しばかり乱暴な手段は必要でしょうから」
その呟きと共に。
瑠香の背後から入れ替わりに飛び出した義透が、四天王鍵を横薙ぎに振るい、幹に強かな一撃を与えていた。
『汝等……この程度で、本当に我を倒せると思っているのか?!』
そう応えるや、否や。
戦場全体を震撼させる衝撃波を解放し、その場にいる義透達を打ち据えんとする影朧桜。
義透はそれをヒラリと躱し、瑠香はその動きを見切ろうとするが、間に合わずにその攻撃を受けて吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
咄嗟に受け身を取ったが、肋が軋む様な音を立てて、瑠香がぐう、と自らの体にじんじんと響き渡る衝撃の痛みに身を痺れさせていた。
――と……此処で。
「救済したのに何故……と言うのは、君達の傲慢だよ」
星具シュテルシアをブーストさせて。
遂に義透達を越えて肉薄した暁音の静かな声に含まれた、諭す様な呼びかけに。
『成程。汝は先程もそう言っていたな。そして、我は一理あるとそれを認めた。だが……汝等人々は我等の傲慢を踏み躙り、我等を虐殺したのだよ? 果たしてどちらの方がより深き業があると思う? そして我等は我等の試みを鑑みて、あの時、何が足りなかったのか、その答えを自らの手で見出した。その見出した答えを貫かんと天秤のシステムによる人々の救済をと望むのは、我等の在り方としては当然のものではないか? 多くの者が、自分が自分でありたいと望むものだ。その事実を知らぬ汝等でもあるまい』
その影朧桜の呼びかけに。
「……そうかもね」
暁音が軽く首肯を1つし、相手の主張に一理あるのを認めた上で、でも、と言の葉を紡ぎ続けた。
「どんなに優しい願いでも、どんなに美しい思い出でも、全ての人に絶対に正しいなんて事は無いんだ。成程、君達のそれは、自分達は正しいと信じているのだろう。そしてそれに自覚的だからこそ……俺達との戦いから、逃れることも出来ないのだと」
――けれども、と暁音は軽く頭を横に振る。
「仮に君が転生したら、その今の想いの何もかもを忘れてしまうかも知れないだろう。例え、本当は、君達の善意が正しいのだとしても」
――だからこそ。
其処で暁音は自らの共苦の痛みの刻み込まれた箇所をそっと擦る。
其処に流れ込んでくるのは、世界の痛みだ。
突き刺す様な、灼き尽くす様な、切り裂かれる様な……そして、貫かれる様な。
そんな永劫にも等しい程の痛みだ。
――その世界の痛みの、その全てを。
「今、俺は解放する。それによって俺が君達に転生とはどう言う事かを知って貰う。その上でもし、答えられるのならば――」
――教えて欲しい。
「今の君達が、俺のする事をどう思うのかを。そう……自分の思いを忘れることに対するその気持ちを……そのあなたの痛みを……俺に――」
ください。
その暁音の言の葉と共に。
他者の痛みを自身の物とし、その糧とする共苦の痛みの力を解放する。
星具シュテルシアで、自らの共苦の痛みの紋章を描き出し……その紋章で、影朧桜に触れる。
(「この力は……全てを奪う」)
その痛みを、苦しみを、悲しみを――その力を。
だが……。
『……ぐっ!』
その奪われることの痛みに影朧桜は苦痛の念話を解き放つ。
だが共苦の力に触れている限り暁音は対象の痛みを感じていると言う事でも有る。
それならば、その全てを奪うことが出来れば……『転生』の全てを忘れ去り、奪い取ることが出来る。
そう暁音が信じ、解き放ったそれ。
だが……。
『成程……確かにその力であれば、我の全てを奪い取ることが出来るかも知れぬ。然れどそれは、我にとっては『異常』だ!』
――カッ!
影朧桜が輝きを発した。
それは先程まで召喚していた影達に与えていた『状態異常』を無効にする耐性を与える力。
その状態に対する異常を……奪われてはならない大切な記憶を、影朧桜は自らの意志で死守しながら叫ぶ。
『成程……それが汝の答えか。此が、我等が他者に与える転生か。真に悲しくおぞましき事よ。なれば……死した者達を黄泉還らせる事は、その者達の心を守る事に繋がる想いの結実! そう言うことにもなるであろうな!』
「……っ!」
思わぬ影朧桜の言の葉に、暁音が大きく目を見開く。
そう、彼は……影朧桜は、嘗ては『転生』させることを至上命題として、それこそが救いになると信じていた。
だが……それを裏切られた時、生者と死者を半分にするという思想を持った時……彼は同時に、1つの答えを作り上げたのだ。
死者として納得出来ず、転生し、全てを忘れることを拒む者達の為に。
その命を例え、異端の手段であったとしても。
今一度……今を生きる生者達の命の中に戻すその術の存在を。
――そう。
『その嘆きを忘れたくなく、その上でこの世界に不安定な痛みを、悲しみを与えたくないと望む死者には、黄泉から一度還って貰えば良い。そうして、もう一度その生を営む為に、生者達の中に加われば良い。それもまた、1つの答えであろう』
「……私……『我等』と同じ様な存在を作り上げる。そう言うことですか」
その影朧桜の念話に呻く様に呟いた義透のそれに。
『実際、それに関する実験を我等は既に幾度か経ている。そして段階的ではあるが、成功している例もあるのだ』
その影朧桜の言の葉に。
「……そうか。椿さんの件……か」
そう呟きながら姿を現したのは。
――紅閻の操る漆黒の獣……篁臥に跨がり、退魔刀を構える雅人。
「でも……それでは救われない人達もいる。その痛みを、苦しみを背負い続ける事の重みに、耐えきれなくなる人達も」
その雅人と共に姿を現した、クロネコ・レッドの着ぐるみを着た統哉のそれは、何処か、寂しげで……悲しげで。
「あなたは……多分、転生を望み過ぎた。残った人々の心を慰撫しなかった。救うつもりであなたは……黄泉還りや、転生という色々な形で、その人達の心を踏み躙って殺した、と思う」
その統哉の悲しげな声に同意する様に粛然と姿を現した桜花が、その心を慰撫……挑発する様に、影朧桜に告げる。
『……桜の精に、異音。……汝等はそれでも尚、我を否定するか』
影朧桜のその言の葉に、雅人と桜花が同時に粛々と頷いた所で。
「……そうね。貴方の信念は、正義は、正しさは、きっと貴方にとっては正しい事」
そう告げたのは、血涙を流しながら、方々の体で影朧桜に肉薄する、姫桜。
ヴァンパイア化の代償で寿命を削られ、全身から命の滴でもある血を滴る彼女を支える様にして。
「だけどね。私達の視点で見れば、あなた達の論理で言えば正しい事も、間違っている様に見える事があるんだよ」
ゼー、ゼーと肩で荒く息をつきながら。
神霊体で在り続けることに限界を感じ、ユーベルコードを解いた葵桜が姫桜と互いに互いを支え合いながら静かに囁く。
「黄泉還りとか、転生が本当に正しいのかどうか……それは私には難しいから良く分からない。だから、本当はお互いに歩み寄ってきちんと話をすることが出来れば一番良いんだと思う」
『だが……では、何故汝は、我の前に立ちはだかる? 何故、我が話に耳を貸さず、只、我等と対峙する道を選んだのだ?』
その影朧桜の問いかけに。
簡単だよ、とガホッ、と喀血し、何とか傷口を美雪の歌で癒された腹部に手を当てながら微笑して首を縦に振った。
「だって、私は、あなたの言うとおり自分勝手で。あなた達の考えに歩み寄って、大切な人達を失うのが嫌だから。あなたの言う、天秤のシステムを受け入れたら、ひめちゃん達……私の大切な人が死者の列に加わってしまうかも知れない。違うの?」
礼儀と敬意と、真心の籠った葵桜の純粋なその問いに。
『……』
影朧桜は答えない。
いや……答えられない、のだろうか。
――束の間の、沈黙。
誰かが続けて何かを言うよりも先に、影朧桜がでは、と葵桜に問う。
『では、汝の大切な者が我等によって害されたとしよう。その者を黄泉還らせ、もう一度汝等と共に歩ませることが出来るのであればどうだ? それでも、汝は納得出来ないか?』
その影朧桜の言葉に。
「……出来ないよ。だって、死んじゃった人がまた黄泉還って、私の傍にいても……その人は、もしかしたら私の知る大切な人じゃないかも知れないから」
嘗て菖蒲が黄泉還らせた椿の成れの果て……融合していた影朧、切り裂きジャックが、紫蘭の命を狙った事実を思い出しながら。
キッパリと否定を突きつける葵桜のそれに、影朧桜は、ただ……。
『……そうか』
と何処か落胆した様な言の葉を紡いだ。
その葵桜の言葉を引き取る様に。
「先程、私達人々はエゴに塗れていると言ったな」
美雪が最初の言上を思い出しながら、淡々と、その事実を突きつける。
「その言葉……そっくりそのままお返ししよう。貴殿のエゴも、もとは祈りだった。まあ、そもそも祈りというものが、誰かに己の罪に対し、赦しを請い、或いは何かを願うというある種のエゴなのだが」
――けれども。
「だが、それでも他者を想い、そして其の為に祈ることも出来るものだ。だが、今の貴殿の天秤のシステムはそうでは無い」
『……そうだな、それは我がエゴなのだろう。だが……それでより多くの者達が救えるのであれば、我はその罪を自らに課し、引き受けようぞ』
そう影朧桜が返すのに。
「本当に、そうか? このシステムは、今や調和と言う名目で他者を害するエゴと成り果てている事に、貴殿は本当に気がついていないのか?」
その美雪の辛辣な問いかけに。
『……!』
動揺を示すかの如き念話を叩き付けてくるのにやはりか、と美雪が呟いた。
「雅人さんを異音と言ったのも、恐らくはそう言うことなのだろう。雅人さんという存在がいたことで、紫蘭さんは天秤の光側という役割を果たすだけではない。『紫蘭』という1人の心優しい桜の精の少女という自我を持った。呼ばれたというのも、恐らく貴殿等の持つ天秤のシステムとの因果関係故であろうが……紫蘭さんは、その気になればその戦いから逃げることも出来ただろう」
だが、そうはならなかった。
何故ならば……。
「光と闇は表裏一体且つ、対の存在なのは確かだろう。だが……何方が光で、何方が闇かは、姫桜さん達の言う『正義』と同じで、往々にして変わるものなのだ。紫蘭さんにとっては、貴殿等を救済する事こそが正義であった。だから、私達がこの事件に介入することの出来る余地が生まれた。……そう言うことなのではないか?」
『……』
美雪の言の葉に、影朧桜は何も応えない。
そんな風に応えぬままでいる影朧桜に、ネコ吉が粛々と語りかける。
「光と闇の天秤。本来闇……影の存続には、光が不可欠なものだ。もし、天秤の維持だけを考えるなら、紫蘭は別の場所で生者として使命を全うすべき。……そうなのではないか?」
『……生者である必要は必ずしも無い。永劫の時を生きながらも、尚、天秤の光として在り続けること。それこそが本来の正しき『カタチ』だ……』
苦しげに言の葉を紡ぐ、影朧桜。
そんな影朧桜の紡がれた念話を読み取って、そうか、とネコ吉が軽く頷き続ける。
「或いは黄泉還りの法で紫蘭を黄泉還らせ、天秤の役割を果たさせる、か。だが……そんなのは嫌だと、先程葵桜は否定した。『それが私の大切な人とは限らないから』と。そして、この言葉に、お前は、『そうか』と落胆した様に呟き、明確な返答を返す事が出来なかった。何故だ?」
そのネコ吉の問いかけに。
『それは……』
弱々しい念話を叩き付けてくる影朧桜にネコ吉がお前は、と言葉を紡いだ。
「本当は、分かっているのではないか? 影朧が天秤を担っても、平穏の未来は得られない。それは、時の消費を妨げ、未来を閉ざす。それが影朧の、オブリビオンの本質だから」
例えそれを、当事者が望むと望まざるとも。
影朧の存在は、存在しているだけで、人に災禍を撒き散らしてしまう。
それは、この世界……サクラミラージュの根に存在する、世界の『理』
(「……如何してこんな、酷な『理』があるのだろうな」)
問われても決して応えることの出来ぬ話ではあるが、それでもどうしようも無い優しくも残酷な、そんなシステム。
(「今なら……行けるか」)
ネコ吉達のその言葉に、何も答えず身動きの取れぬままでいる影朧桜。
その影朧桜に向かって漆黒のオーラが、そしてそのオーラに覆い隠された白い靄が、背後から肉薄する。
それは……敬輔。
オブリビオンを憎悪し、それを倒す復讐者としては、本来であればこの絶好の隙を逃すわけには行かないだろう。
だが……。
(「皆……頼むよ」)
そう内心で呟いて。
自らが奔流に飲み込まれてしまう危険や覚悟と共に、敬輔が、篭手を覆った白い靄の『彼女』達を、影朧桜に突き出した。
突き出された『彼女』達が、影朧桜に纏わり付く様にその周囲を這い回り。
そして……。
「がっ……ぐうううううっ……!」
怒濤の奔流の様に流れてくる喜怒哀楽に愛と憎……様々な感情が複雑に入り交じったそれが敬輔の中に飛び込んでくる。
「がっ……がぁ……っ!」
「敬輔!」
その気配に気がついた『無面目の暗殺者』……陽太が思わず声を張り上げた。
そして……。
(「俺は無面目の暗殺者。この中に『陽太』の意識が微かに残っている……か」)
けれども。
「俺も……『陽太』、お前と同じ意だ。数え切れない程の罪を重ね、人々に多大な苦痛と死を齎した災厄。だから……」
「待って……くれ、陽太……!」
その、無面目の暗殺者の言の葉に。
赤と青のヘテロクロミアから血涙を流し、皮膚が破れ、血が滴り落ち、何時死ぬかも知れない程の痛みに苛まれながら敬輔が叫ぶ。
「『彼』は……人々に愛と、憎しみ……両方を抱えていた……! それでも、裏切られ、その痛みを、苦しみをどうやってこの世界から少しでも減らせないのか、そう思っていたのは事実なんだ……!」
例え、やり方は間違っていたとしても。
この里の当時の桜の精……そして、幻朧桜達の長として、果たさなければならない使命を、試練を自らに課した……。
「だから……!」
「……成程。そう言うことか。つまるところ、影朧桜もまた、被害者で有り、救われるべき存在なのか」
――なれば……。
(「ああ……分かっている、『陽太』。俺も、『陽太』と想いは、同じだ……」)
――思えば、何時からだっただろう。
この様に『陽太』と共に在り、そして……『陽太』と似た様な想いが自らの中に育まれてきたのは。
黙然と『無面目の暗殺者』は内心で思い、ダイモンデバイスを構え、術の詠唱を開始する。
――だがこの力だけで、完全にこの影朧桜を浄化……転生させることは出来まい。
そう冷徹に『無面目の暗殺者』が結論を出した、其の時。
「駄目だよ、あなたは。こんな所にいた儘じゃ」
その理想を、追い求めるかの如く。
己の信念と理想の先にある『それ』を掴み取る、其の為に。
そう言葉を開いたのは、統哉と……。
「……そう! 此処に居た儘では、あの日の事実は掴めない。同じ事を真に起こしたくないのなら。貴方は転生して、自ら知ろうと願うべきだと思う」
颶風を巻き起こす準備を調え、桜鋼扇を翻して懸命に呼びかける桜花。
「ええ……この最後の戦いがあなたの死。悲劇で終わって良い筈がありません。そう思いませんか」
その桜花の呼びかけに頷きながら。
粛々と姿を現した奏がそう囁き掛けたのは……。
「……紫蘭さん」
――桜の精……己が意志で、この場に姿を現した紫蘭に対してだった。
●
「うん……そうだね、奏」
――それは、きっと白蘭も喜んでくれる平和だろう。
何よりも……恐らくそれは、雅人も望むことだろう。
戦いの中でこの想いをもう一度思い出させてくれた友達の猟兵達の願いだろう。
そんな、紫蘭の想いに応える様に。
「ああ、その通りだよ、紫蘭。俺達は、嘗て影朧桜達が人々に願ったのと、同じ様に……」
――君にも又、救済が訪れることを願っているから。
「理不尽に今を奪われた君達であればこそ、背負う苦しみから解放されて欲しいから」
――世界によって産み落とされた天秤という秩序を維持するシステム。
その永劫にも等しい苦しみを抱くそれに、何時迄も君達を乗せたままにしておきたくないから。
――だから。
「それが、嘗ての君達の、そして今の俺達の祈りなんだよ。その祈りを再び踏み躙る事が、君の本当の願いだとは、俺には思えない」
――人々に愛憎抱き、今も尚、その中で揺れ動き……その愛憎の為に自分達が出来る最善を為そうとする君達であればこそ。
『……』
「だから……僕は覚醒したのか。あの時……此を残された、僕は……」
――忘れないで。
その願いと祈りの籠められたその羽根を。
今は転生し、紫蘭の胸に付いたその羽根を。
自らの胸に差し、今も尚、差し続けている雅人の存在が……。
――そう。
それが、全ての『事』の始まり。
『紫苑』と『雅人』が出会い、死に別れ……。
そして、その後に『天秤』のシステムの光として『紫苑』が、『紫蘭』に転生した其の果てにある応えは……。
「雅人、紫蘭、頼む」
もうこれ以上を言うまでも無い、とばかりに統哉が静かに先を促す。
――それは。
……天秤というシステムからの、解放。
システムの破壊と、新たなる世界の再生――。
100年に亘る戦いの因果に『超弩級戦力』という変数が入った結果、『世界』が漸く差し出すことの出来た……。
「――救済、か」
その言葉と、共に。
自分の頬に付いた傷を何かを思い出す様に撫でた雅人が退魔刀を銀刃と共に一閃し。
「……大丈夫。強い願いは……その想いは、必ず叶うから」
桜花が再び巻き起こした颶風が影朧桜の体を包み込み。
「……今だな。共に行こう……『陽太』」
『無面目の暗殺者』の、その言葉と共に。
陽太が抜き取ったダイモン・デバイスの引金を引き、その銃口の前に描き出された魔法陣に一発の弾丸を解き放つ。
その魔弾を突き抜けて、その姿を現したのは……。
『アスモデウスよ。その炎と魔で闇を撃ち抜き、かの者達に祝福と希望を齎せ!』
『陽太』と『無面目の暗殺者』の言葉が重なるや否や、アスモデウスが咆哮した。
獄炎を操る地獄の悪魔が、白色の獄炎を戦場全体に降り注ぐ様に撒き散らし、邪心を、その魂に対する鎮魂の炎を捧げ。
――そして。
「お休みなさい……もしかしたら、なっていたかも知れない、もう1人の……私」
紫蘭が両手を胸の前で組み、祈る様に言の葉を紡いだ時。
白色の獄炎の炎に撒き散らされた幻朧桜が吹雪を撒き散らして影朧桜に降り注ぎ。
そこに雅人の『閃』の一閃が影朧桜の急所を捕らえた時。
『……そうか……。我は、還る……の、だな……』
何処か、満足げな口調で。
黒く、赤く燃え盛る桜の花が吹雪く様に空に巻き上げられ……影朧桜を名乗る樹格が眠たげに言葉を紡いだ。
『……我は、漸く……解放……される。我は、何かを……残す、事が……』
――出来たの、だろうか。
あの時の様に何もかも、只、奪われるだけでなく。
少しでも何かを残し、差し上げ、救うことが、出来たの、だろうか。
『だが……それもまた……我が……使命……』
この地に巣食い続けていた、皆の負の感情と、その絶望。
その絶望を癒すために、我は自らその身を『闇』に堕としたのだから。
『だから……此で……我が……最期の……使命も……終わる……』
――漸く、自分達を救える者達が現れた。
その『光』を示す事の出来る存在が、やっと現れてくれたのだ。
最初に自分達を焼き尽くした者達が、今度はその償いのために、自分達を救済するべくその命を削って戦った。
それは――きっと。
『希望への……可能性……超弩級戦力達よ……感謝……する……』
――その言葉を、最後に。
影朧桜を名乗る影朧は……彼岸桜は、見る見るうちに、その色を美しく咲き誇る桜の大樹へと姿を変えていく。
浄化された魂達と共に、この地に残り続けていた悲しみは天へと昇り。
――新たなる魂として生まれ落ちる、世界の輪廻の環へと還っていった。
●
魂が消え、世界が、逢魔が辻が、清浄なる空気に満たされていくのを感じながら。
「……終わった様だな」
詰めていた息を深々と吐きながら、美雪がそっと言葉を漏らす。
「……ああ、そうだね。でも、ある意味ではこれからが始まりなのかも知れない」
今は只の幻朧桜に戻った目前の桜の大樹を見て統哉が思わず微苦笑を浮かべて軽く頭を横に振った。
(「概念……確かに、概念だったな」)
影朧桜は、世界によって産み落とされた『天秤』というシステムであり、世界の概念の1つだった。
そしてその世界の概念を生み出したのは……報われぬままに死んでいった心優しき桜の精と幻朧桜の『残留思念』だったのだ。
「……結局、100年前に何故大火が起きたのかは分からないままだったが……」
そう呟く美雪。
出来る事ならば知りたい所ではあるが……生き証人でもある竜胆ですら、それは知らない情報だ。
そもそも可能性として一番高いのは『猟兵』だとされているが、その真偽の程すら定かではない。
であれば、これ以上調べても、決してそれは分からない事なのだろう。
(「少なくとも、嘗て100年前に虐殺された者達の残留思念や無念の想いがこの事件を起こしたと言う事……それが全てか)
そう、美雪が一応の結論を付けたところで。
「……終わりましたね。私達の贖罪は」
ネリッサが軽く息を吐いて近付いてくるのに、統哉がそうだな、と頷きを1つ。
「やーれ、やれ。長い戦いだったぜ……。まあ、それなりに楽しい殺し合いだったのが不幸中の幸いか」
それまで隠れて状況を伺っていたミハイルが笑いながら姿を現し、灯璃が軽く目頭を押さえて溜息を漏らす。
「皆様! 誠にお疲れ様でございました! 私め、本当に驚いておりますよ! まさか誰1人欠けること無く、この戦いに終止符を齎す事が……いいえ」
そこまで告げたところで。
女性型ホログラムの姿をしていたラムダが軽く頭を振って、それから、ポン、自分の手を叩く様にする。
「これこそが、私め等猟兵達の戦いで有り、力と言う事でございますね!」
「まあ、そうね。取り敢えず皆、お疲れ様」
ラムダのそれに、軽く肩を解す様な仕草を見せながら。
都留が疲れた様に労いの言葉を掛けるのに、灯璃がお疲れ様でした、と敬礼し。
「雅人、紫蘭。お前達は此から如何するんだ?」
そう紅閻が雅人達に声を掛けると。
「僕は、戻るよ。任務完了の報告をしないといけないからね。その先は、また今まで通り帝都桜學府諜報部としての任務に戻るだけだ」
そう息を吐いて額を拭う雅人。
「私は一度、白蘭の所に、戻ろうと思っている……」
続けられた紫蘭のそれに、えっ、と少し驚いた表情になる奏。
「白蘭さんの所に? あっ、でもそれって……!」
「……うん。少しは上手くなった音楽を、白蘭……お師匠様に聴かせたいから」
そう何処か照れくさそうな表情をして頷く紫蘭のそれに、ほっほっほ、と口元を彩天綾で隠して、鈴の鳴る様な声で祥華が笑った。
「それは良い話を聞いたでありんすな。守れて良かったでありんすな、白蘭よ」
その祥華のそれに、霧亥と響に支えられる様にして姿を現した白蘭が愉快そうに首肯する。
「……皆の旅は、まだまだ続く。そう言うことか」
そう呟く敬輔のそれに、意識を手放していたウィリアムが瞬の背の上でコクリと首を縦に振る様に動かす。
「そうですね、敬輔さん。そしてそれは、僕達も……」
「私達も、同じよね」
瞬のそれに同意する様に姫桜が呟き。
「じゃあ、此からも頑張っていかなきゃね!」
と、葵桜が疲れを気にした様子も見せずにわっ、と姫桜に飛びかかる。
ちょっとあお! と顔を赤らめながら喚く姫桜に一同から穏やかな笑いが上がり。
――パチパチパチパチパチ。
「いやぁ、皆お疲れ様♪ 見事だったよ♪」
拍手しながらクラウンが飄々と肩を竦めて笑うのに、ネコ吉が眉間に皺を寄せながら、そうだな、と頷いた。
「一先ず、今は帰りましょうか?」
其処で漸く体を起こすことが出来た瑠香がそう呼びかけて帰宅を促すのに。
「そうですね。……それでは私達も、私達の居場所に帰りましょう」
義透が陰海月と霹靂を引き連れて、頷いた時。
――蒼穹の風が不意に吹き荒れて、ウィリアム達の姿が消えていくのを。
雅人は紫蘭と白蘭と共に、静かにそれを見送った。
●
――帝都桜學府諜報部。
「此度の任務、ご苦労様でした雅人。白蘭は、休養となったのですね」
その諜報部の一室にいた竜胆が、信頼する部下である雅人に問いかける。
それに雅人が頷き、それから竜胆さん、と静かに呼びかけた。
「冬木さんから、この様な陳情書を預かっております」
その雅人の問いかけに。
「ふむ……?」
怪訝そうに竜胆が首を傾げ、冬季が書いた陳情書に目を通す。
それは、『桜の精の履修科目再編に関して』と題された陳情書であった。
「此度の件は、桜學府に所属する桜の精運用のケースメソッドとして、有効活用すべき事例である。特に桜の精には最初に教え込むべきであろう」
――死者を調伏しに行って殺人者を量産したり逆に殺されたりは本末転倒。
――呼び出した、等関係者が居る場合、まず慰撫なり捕縛なりで繋がりを絶ってから調伏すべし。
――影朧には必ず2人以上で対処する。
――現場保持と転進の推奨。
「……影朧桜をまた生み出す土壌を残すのは実に愚かしいと思いませんか? それでも学ばぬ莫迦の行いは、自己責任です、ですか……」
その向こうにあるであろう、冬季の嘲いをふと、思い起こしながら。
竜胆が苦笑して、その陳情書を脇に置いた。
「そもそも、私は諜報部の主ですからね。履修項目の再編等の権限は持っておりませんし。紫蘭は帝都桜學府の所属ではありませんから、対処のしようがありませんね」
苦笑交じりに、溜息を零す竜胆のそれに。
ですが、ともう一度雅人を見つめ、そしてそっと溜息を漏らした。
「雅人。そして既に帰ってしまった、超弩級戦力の皆様。100年余に及ぶ天秤の因縁に決着を付けて頂いたこと、深く感謝致します」
そう呟き、誰に共なく深々と一礼をした竜胆。
――天秤の因縁を巡る戦いは終局を迎え、魂の輪廻に苦しむ魂達は戻った。
今は、その事実だけが、全て。
――全て、なのだ。
大成功
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