●
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
帝都ととある場所を繋ぐ高級弾丸列車の一室。
防音仕様のあるその列車のVIPルームと言うべきその場所で、1人の男が淡々と、机の上に置いた盤を見つめている。
その上には幾つかの何かを示した駒と、幾つかの地点を示すポインターが付けられていて。
「……私の推測が正しければ、恐らくあれの本体は……」
その男の声を打ち消す様に。
――トントン、トントン。
不意に部屋をノックする音が、部屋の中に響いた。
ドアをノックするその音を聞いて。
「どうぞ」
そう、男が声をかけると、控え目に扉が開かれて。
「……」
すっと、姿を現した少女を見て、男は成程、と驚いた風でもなく頷いた。
「どうやら、一杯食わされた様ですね」
まるで全てを悟っているかの様に粛々と頷き、男は微笑して。
「良いでしょう。ですが……私を殺したところで、あなた方の望む世界の理を取り戻すことなど出来ませんよ」
誰に共なく彼が呟いたそれに反駁する様に。
彼の部屋にその少女が飛び込んだ光景を、夢現の中で北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は視たのだった。
●
「……竜胆さん」
グリモアベースの片隅で。
揺蕩う様なその光景を、蒼穹の双眸で捉えた優希斗が誰に共なく囁きながら。
閉ざした双眸を開いて周囲を見やれば。
何時の間にか集まっていた猟兵達がいたのに気がついて、皆、と優希斗は呼び掛けていた。
「もしかしたら俺の呟きを聞いていた人もいるかもしれないけれど。帝都桜學府諜報部の幹部、竜胆さんが殺害される事件が見えたよ」
殺人事件が起きるのは、とある弾丸列車の中。
そのVIPルームとでも言うべきその場所で影朧に竜胆が殺害されるのだ。
「しかし……気になることがある。竜胆さんが乗っている列車なんだが……どうやらこれは、本来皇族の為に誂えられた列車らしい」
故にこの列車を使えるのは、相応の身分やそれなりに保証された何かがある者のみ。
乗務員達も身元が確かな者達の筈だが、そんなある程度身元が確かな者達の中に影朧が紛れ込んでいる。
「並大抵のこととは正直、とても言えないよね。竜胆さんもある目的を達するために身辺には気を使っている筈なのに、それでも潜入されているんだから」
しかし、この列車に影朧が潜入したのは事実。
で、あるならば。
「無論、竜胆さんが殺害されるより先に皆に列車に乗車して貰い、影朧を探りだして貰う必要がある。本来なら、ある程度身元が確かだったり、社会的身分のある者達しか乗れない特殊な列車だけれど……」
だが、そこは猟兵達。
積み荷等をするその間に、自分達の特権を利用すれば取り敢えず中には潜入できる筈だろう。
「とは言え、影朧も用心深い相手だ。簡単に身元が割れてしまえば行動を移すのが早くなったり、密かに脱出して次の機会を伺うかもしれない。その時に、俺の予知が間に合うとは限らない。だから……」
――この列車にいるその間に影朧を仕留める、あるいは転生させる必要があるだろう。
「そして今回、もし、竜胆さんを守りきることが出来たら、竜胆さんからなにか新しいことが聞けるかもしれないね。本来ならこの列車の中の皇族用に誂えられたVIPルームを使用しているくらいだし」
それが、今までの事件とどう繋がっていくのかは、分からないけれども。
それでも、何らかの目新しい情報が得られる可能性はあるだろう。
「どちらにせよ、誰かがむざむざ犠牲になるのを黙って見過ごすわけには行かないんだ。だから皆……どうか、宜しく頼む」
優希斗の厳かな囁きと共に。
蒼穹の風が猟兵達を包み込み、グリモアベースから現地に運ぶのだった。
長野聖夜
--かの者にある真実とは。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
サクラミラージのシナリオをお届け致します。
このシナリオは、下記タグの拙著シリーズと設定を多少リンクしております。
とは言え旧作未参加者でも、参加は歓迎致します。
参考タグシリーズ:桜シリーズ。
前回と異なり、今回NPCとして出会える可能性が高いのは1人のみです。
竜胆。
帝都桜學府諜報部の幹部の1人です。
今回のシナリオでは彼が皇族として殺害される可能性が出ています。
彼を守る為に犯人を探すのが今回のシナリオの目的です。
また敵を撃破し、竜胆を守りきらない限り、彼から話を聞くことはできません。
戦場は帝都とある都市を繋ぐ弾丸列車です。
乗務員の他にSPや他の乗客も乗り合わせています。
他の乗客や乗務員達も確かな身分が帝都より保証されていますので、本来であれば一般人は緊急時を除いて乗車できない特殊車両です。
超弩級戦力の特権を使えば乗せては貰えますが、ただ強引に乗るだけでは乗務員達の信頼を得るのは難しいです。
具体的には乗員からの信頼度や犯人発見にかかった時間により、第2章以降の判定、状況に影響が出ます。
プレイング受付期間はタグ及び、マスターページでお知らせ致します。
ーーそれでは、良き救出劇を。
第1章 日常
『容疑者を探せ』
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POW : 乗り物内をくまなく歩き回り、怪しい人物を探す
SPD : 目星をつけた人物の持ち物を掠め取り、証拠品を探す
WIZ : 人々の会話に耳を澄まし、違和感のある部分を探す
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ウィリアム・バークリー
皇族専用列車、なのに他にも乗車出来る方がいるのですね。どういう伝手でしょう?
ぼくは小細工は苦手です。「礼儀作法」と「コミュ力」を使って、乗客管理の責任者に暗殺阻止のための乗車をお願いします。
運休にしたらいつまでも影朧がついて回る、討滅の機会は今だけと強調すれば、許可いただけないでしょうか?
さて、竜胆さんを狙う暗殺者か。帝都桜學府の諜報部に属しているだけで、命を狙われる案件は両手の指でも足りなさそうです。相手が誰とは、竜胆さんでも分からないでしょう。
VIP席を監視出来る地点があればいいんですが。
皆さんと情報を共有しつつ、容疑者にStone Handを放って「逃亡阻止」。
これでまず一人。他に賊は?
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
普通の客を装い、乗客や乗員達に犯人が紛れてないか監視。状況は無線で局長達に逐一報告。
こういう時は、相手の立場になって考えてみるのがいい。竜胆を殺るとなると…まず犯人は、SP等関係者を装って竜胆に近づく。まぁこっちの線は局長に任せるとして…次に同じ列車に乗っている乗客や乗務員を装って近づく。この場合、竜胆のいる部屋にどう侵入するかがネックだが…その辺はUC等使ってくれば何とでなるだろうな。
まぁ俺が犯人の立場だったら、車両に爆弾仕掛けて列車ごと吹き飛ばす。殺すだけならその方が手っ取り早い。その手を使わないって事は…それをやらない理由でもあるのかね。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
犯人の特定ですか…竜胆さん以外の人物が容疑者の可能性がある以上、事は慎重に運ばねばなりませんね。
竜胆さんを直接護衛。とはいえ、いきなりそう言っても周囲が納得しないでしょうから、竜胆さんに直接許可を頂き、身分を保証して頂きましょう。
こちらはSPや乗務員の身分の洗い出しを可能な限り行いつつ、念の為に夜鬼を列車上空に張り付かせ、列車外部からの侵入者を警戒。また、別の身分で潜り込んでいる他の猟兵との接触は、犯人に察知されない様できるだけ避けます。
余裕があったら、竜胆さんに今回の列車移動についての目的を伺ってみます。
我々の業界では、慎重は臆病とイコールではありませんから。
白夜・紅閻
【銀紗】
心境
駄目もとでの乗り込みですよ
行動
カミサマに高貴なお人を演じさせて、その護衛として乗り込む?
ものは試し、やってみようか
カミサマ、乗務員を誘惑してください
多分、大丈夫です
ほら、上手くいったでしょ?
上手く乗り込めたのなら
如何にして信頼関係を作ろうか
乗務員の手伝いをする?
手伝いと言ってもな…
とりあえず、歩きまくる
カミサマからも式神を借りて
雪鬼女、君は先端車両を
護鬼丸は最後尾車両を
僕は、中央車両を
後で、カミサマのところで合流し
調査経過を教えてくれ
とりあえず、帽子でも深々と被って
他の連中と鉢合わせになっても、接触は控えるよ
まぁ、すれ違い様にカミサマの場所は教えるけど
連携、アドリブはご自由に
吉柳・祥華
【銀紗】
心情
何故か、白夜に巻き込まれたのじゃ
カミサマ、今から列車に乗りましょう!
って、あの列車はお偉いさん方専用じゃろうが
はっ?おぬしは何を云うておるのじゃ?
いや、まてまて
そう、上手くいくわけなかろうが
あ、どうも(誘惑、催眠術、演技、礼儀作法等で、高貴な人を演じる)
ご苦労様じゃな。快適で素敵な旅を案内しておくなんし
はぁー…肝が冷えたぞ
何じゃと?式神を貸せとな?
まぁ、構わぬが…
白楼と紅桜は車内を飛び回っておる
野生の感や第六感に従って
お話を聞いておるやもな
見回り中の乗務員にUCを使用し
「なにやらピリピリしておるが…何か、あったのかえ?」
あくまでも我関せずしつつも何事でもあったのか、と
アドリブ連携可
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に報告・連携
まだ鼠は居るだろうとは思ってましたが…政府車両にまで送って来るあたり、彼方も中々、苛立ってきてますね
事前に帝国軍制服を調達。
装備のbadge of Troyも利用し軍事参議院付きの連絡将校を装い、列車に潜入(催眠術・変装)緊急の軍機資料移送のため、警備状況と乗員・乗客の搭乗状況を確認したい。という態で乗務員から(情報収集)にあたります
襲撃犯が少女な点を鑑みると、有力者あるいは外交使節の家族連れに要注意しまた急遽に予定が決まった乗客が居ないかも聞き込みます。また不審者がいる場合はその人物の乗車許可を出した運行・警備責任者が誰かもそれとなく聴取。指定UCで超極小の白狐を複数体作り、該当者の周囲に密かに展開して盗聴及び目視監視下に置くようにします。但し悟られそうな場合は少し距離をとって監視する様に注意しておきます。
不審な行動や竜胆氏に関する会話を確認した場合、ただちに局長やミハイルさん、仲間に報告。すぐに武装を抜ける様に準備し氏の防護に動きます。
※アドリブ歓迎
御園・桜花
「…皇族?竜胆さんが?」
(と言う事は、今上帝と肉体的相似があると言う事でしょうか?其れはじっくり観察させていただきたいです!)
割とミーハーな理由で参加した
「これは弾丸列車、乗車時間がとても限られています。見えないコンパートメント内の乗客を短時間で割り出せるのは、SPが裏切ったり入れ替わったりしたのでなければ、乗務員と言う事になります。影朧は飲食睡眠が不要で、自身が強く関心を持つ話に惹かれがちです。時間をかければ、かけなくても全員と会話出来れば、該当者の目星がつく可能性は高いと思います。車両を行き来できる車掌、ポーター、厨房から注文を運ぶ接客員辺りと入れ替わっている可能性が高いと思います。ただ…猟兵全員が、個別に全員に聴取すると、警戒されて逃走される可能性が高まると思うのです。目星の付け方や得た情報を共有して、声をかける人と機会は絞った方が良いと思います」
「私は、UCで比較的長く消えている事が出来ますから。最初から、竜胆さんのコンパートメント前で、身を屈めて隠れて来訪者を待とうと思います」
天星・暁音
【雪白】で参加
さてと、じゃあ美雪さん
悪いけどもお願いね
広範囲にバラ撒くと視界、聴覚、嗅覚が沢山あるのと同じだから、同時に、見えて聞こえて嗅げる物の中から気になるモノを選り分けて、何処に飛ばしてる子なのか知るってやってると、どうしても俺自身が鈍くなっちゃうから
なんでお手伝いお願いします
美雪さんと一緒に列車に乗りクレインを列車内全域に撒いて乗客の監視
怪しい人や物、爆弾何かの仕掛けもないかどうかを調べつつ
犯人捜しの方に集中します
竜胆さんを障壁や治癒、分解攻撃で竜胆さんを護りつつ直ぐに駆けつけられる用に備えておきます
同時に乗客やSP達も必要なら守り治癒します
スキルUCアイテムご自由に
共闘アドリブ歓迎
藤崎・美雪
【雪白】
他猟兵との連携、アドリブ大歓迎
下手にスマホで連絡取り合うと目立ちそうなので
乗車前に乗車する猟兵全員分の小型通信機を用意し配布
可能なら諜報部と接触し「竜胆さんの乗車目的」を聞いた上で「乗客乗員のリスト」も頂ければ
クレイン展開中の暁音さんの居場所を確保するため
調子の悪い幼子と年が大きく離れた姉を装って乗車
さらに礼を失せぬよう乗務員と交渉し(礼儀作法)
小さな個室か2人掛け可能な座席を確保
…我ながら無理がある気もするが
暁音さんはクレイン展開中、ほぼ動けなくなるからな
というわけで暁音さん、無理せぬ程度に頼むよ
うまく個室か座席が確保出来たら
以後は暁音さんの護衛
念のため、指定UCで影もふもふさんを列車中に放ち
VIPルーム周辺を見張っておくよ
もし我々の真意を探ろうとする者が現れたら
「言いくるめ」で誤魔化し追い払った上で顔を覚えておく
竜胆さんが全てを悟っているとしたら
暗殺の為の罠と分かった上で乗っている可能性もあるんだよな
というか竜胆さんってホント何者だ
この列車、皇族のために誂えられた列車だろ?
館野・敬輔
アドリブ連携大歓迎
ダークセイヴァーに列車はない(と思う)ので
弾丸列車を物珍しそうに見てしまうけど
僕には列車が竜胆さんを閉じ込める檻に見えるな
まあ、影朧が竜胆さんを暗殺しようとするなら
僕はそれを阻止するだけ
今後騒ぎになる可能性が高いので
事前に乗員の信頼は得ておきたい
「怪力」あるから力仕事専門の乗員に扮して潜入しよう
荷物の積み下ろしや機関室内での作業等
力仕事を頼まれたら率先して手伝うよ
発車後頃合い見てさり気なく他の乗員に
「この列車に影朧が潜入している気配がないか?」と聞いて乗員の反応を観察
もし他乗員と異なる反応をする乗員がいたら
指定UC発動させつつ容姿や目的を質問
入手した情報は全猟兵で共有
朱雀門・瑠香
さてと・・うちの名で乗り込んだはいいけど犯人捜しはどうするか・・・・
場に会った私服で来てコミュ力と威厳でそつなく対応して食堂車とか客車を行き来して人々の表情や挙動、言動を観察しましょう。竜胆さんには誰かが警護についているでしょうし・・・・他の車両を行き来しても怪しまれない人・・・車掌さんとか客室乗務員さんとか?とにかく雑談を兼ねてそれとなく見張るしかないですね。
森宮・陽太
アドリブ連携大歓迎
乗務員も乗客もある程度身元は確かというが
乗務員側に影朧の協力者がいれば
乗客名簿に細工して影朧を乗車させるくらいは容易いよな?
しかもこれ、皇族用の弾丸列車だろ?
闇の天秤に与する者が竜胆殺害のために場を誂えたとすら思えるぜ?
…阻止するしかねぇな
特権は利用せず堂々と乗車
これでも俺、帝都市民だから身元は確かなはずだが
断られたら仕方なく特権利用
潜入後は周りの乗務員や乗客に愛想よく振る舞いながら周囲を観察
影朧が紛れているとしたら乗客の中だろう
乗客の子供の中に不自然に落ち着いていたり、逆に忙しなく周囲を見回している子供はいねぇだろうか?
…そもそも影朧って気配でわかるものか?
もしVIPルームに近づこうとする子供を見つけたら
他猟兵と連絡を取りつつ
指定UCで姿を消した後、足音を殺しながら尾行
VIPルームの扉を開けたらほぼクロだから即「怪力」で取り押さえ
…俺の挙動も思考も
徐々に「暗殺者」に近づいている気がする
何時まで俺は俺でいられるか…わからねぇのが怖ぇ
頼む、今は出て来るんじゃねえぞ…!
鳴上・冬季
「竜胆さんが皇族とは驚きです。人間に見えましたから」
肩を竦める
「不死の一族など、ダークセーバーの領主と変わらぬでしょう?それが護国する?優しい領主は常に他の領主に排斥されました。その比較的優しいと目される領主が天下を取ったのがこの世界なら。見知った領主同士が殺し合うのも吝かではないでしょう」
嗤う
「私は桜學府所属ですから普通に警護を。ただ職質など相手を疑わせるだけですから。巡回警護をして怪しそうな相手に式神をつけておきます」
ゆっくりゆっくり先頭車両から最後尾まで歩いて巡回を繰り返す
乗務員らしい所作言葉遣いができない者
服と行動が合わない乗客
運転手の居る先頭車両
食堂車内の厨房
に小さな小さな式神送り込む
「数時間無手で歩き回るなど軍事訓練に比べればただの散策です。充分並列思考で式神を確認しながら目を走らす余裕はありますとも。黄巾力士、お前は武器所持者に目星をつけたら各車両を出たところで私に報告を。金行でない武器など限られます。暗器含め殆ど把握できるでしょう。ただ敵は無手かもしれませんがね」
嗤う
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
他猟兵との連携を。
さてさてー、またまあ、変わったことでしてー。
私は細々とした仕事をする者としていますかー。
ええ、まあ…昔とった杵柄でもありますので、私。
努めてのほほんとしまして。積込の荷物の整理とか手伝いますかー。名前見やすいようにー。
ええ、ちょっと他人格から怪力借りましたのでー。重いのもお任せくださいー。
このとき、荷物に怪しいのがないかどうかも確認しますかー。ふふ、悪霊には隠せませんよー。
そして、同じことやってる人と他愛のない話をしますかー。そういうのも侮れませんかりねー。
真宮・響
【真宮家】で参加
皇族か。このサクラミラージュの頂点に立つ一族だ。命を狙う輩も多いだろう。皇族専用の列車に竜胆が乗り合わせてるのも腑に落ちないが。まあ、危ない事には変わりない。何とかしようか。
18歳まで高貴な家にいたんでね。身分ある振る舞いは慣れてる。ボルドーのドレスに化粧をして、身分ある親子に扮して、乗員には【世界知識】で振る舞いの仕方を覚えた上で【コミュ力】【礼儀作法】でいつもの口調を引っ込めて高貴な人の態度でさりげなく列車の様子を【情報収集】する。子供達がこういう列車に慣れてない、という事にしておこうか。
念の為、陽炎の騎士に偵察させておこうか。異常が起これば、すぐわかるだろう。
真宮・奏
【真宮家】で参加
竜胆さんはいつも危ない目に遭ってますよね・・・今度は皇族列車ですか。なぜ竜胆さんが?と疑問が浮かびますが、竜胆さんを守らないと、お話も聞けませんし。
母さんの若い頃の経験に従って【世界知識】で振る舞い方を勉強してから、紺色のドレスで母親と一緒に列車に乗りにきた娘として振る舞います。ボロが出ないよう乗員との話はお母さんにいちにん。話す必要のある時のみ、【コミュ力】【礼儀作法】で列車に慣れてない高貴な令嬢として喋ります。
列車を調べに来た身なので、密かに影の追跡者の召喚でこっそり【情報探索】確かに、この列車に不審者がいる事は確かですし。
文月・統哉
【ネコ吉(f04756)】と
他の皆とも連携したい
成程、竜胆さんが
しかも弾丸列車という密室での殺人事件
見過ごせる訳がない
必ず助けるよ、着ぐるみ探偵の名にかけて!
事前に運航会社のデータベースに【ハッキング】
運航予定と全乗員乗客の基本情報を調べ仲間と共有
【瞬間記憶】で把握しておく
背格好の近い侍従に接触
影朧でないと【見切】った上で猟兵と明かし
護衛の為に必要だからと
『メガコーポ式交渉術』で事前の入れ替わりをお願いする
愈々潜入開始、探偵の腕の見せ所だね
【変装・演技・世界知識・コミュ力・心配り】で卒なく仕事をこなしつつ
周囲に溶け込み【読心術・視力・聞き耳・第六感】も駆使して【情報収集】
潜む殺意の出所を探ろう
文月・ネコ吉
【統哉(f08510)】と参加
他の皆とも連携し行動する
やれやれ殺人事件とは穏やかじゃないな
仕方ない、ここは俺も手伝うとしようか
先ずは下準備から
統哉と共に事前情報を調査する
必要に応じて鍵開け技能も使用
竜胆氏の過去の利用履歴とその行先も調べておく
一見無関係に見える情報も
前提として知っておく事で推理の足掛かりになるかもしれない
潜入時はケットシーの身軽さを生かして荷物に紛れる
不審物がないかも確認しておこう
人目がある場合は『闇纏い』で透明化
忍び足で密やかに行動する
統哉達の様に立場を得て動く場合は
堂々と動ける反面、人目を気にする必要もあるだろう
故に役割分担は重要だ
情報共有しつつ彼らの調べ難い場所を調査する
神城・瞬
【真宮家】で参加
竜胆さんが何故皇族列車に乗っているんでしょうか。そういえば竜胆さん、一般人のはずですが、色々と常人の範囲を超えたところが見受けられるような。まあ、竜胆さんを守らないと話になりませんし。
母さんの若い頃の知識に従って上流の人が着るような背広を着ます。髪は後ろで一つに纏めておきますか。母さんに乗員や乗客などの対応は任せますが、一言も発さないのは不自然ですので、話す必要のある時のみ【礼儀作法】【コミュ力】で母親と妹と招かれて列車に乗ることになった身分の高い貴公子として話します。
この列車に影朧がいることは確かですから、月白の使者で【情報探索】【偵察】させて騒動に備えます。
彩瑠・姫桜
あお(f06218)と
竜胆さんを守りたい気持ちはあるわ
でも、気負うだけではただ失ってしまうだけ
ちゃんと考えなくてはね
けれど、犯人探し……
具体的にどうすればいいか全然思いつかないのだけど
周囲の会話に加わったりして[情報収集]する方が少しは動きやすいのかしら
可能なら、乗務員の方々のお仕事のお手伝いをさせてもらいながら動きたいわ
接客などの手伝いはできないことはないと思うから、
[コミュ力、礼儀作法、心配り]を併用して、
乗客の方々に不信感や不安を与えないように動きたいわね
もし厳しそうなら、あおと一緒に乗客側で周りの人たちとそれとなく会話してみるわね
あおほどコミュ力あるわけじゃないけど…頑張ってはみるわよ
榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と
うーん、犯人探し
私と姫ちゃんだと探偵力は低いから困っちゃうよね
でも、まぁ、ちゃんと推理して頑張るのは他の人におまかせして
私達は私達でできることを頑張ってみよっか!
もし乗務員さんのお手伝いできそうなら
ウェイトレスとか配膳とか、車内販売とか、
乗客の人たちと接することができるものをさせてもらえるようにお願いしたいかな
お手伝い厳しそうなら乗客として着席して
そしたら周りの人とそれとなく会話してみたりするよ
[コミュ力、礼儀作法、言いくるめ、変装、第六感]も使いながら対応するね
その上で、怪しそうな動きをする人や物を見つけたら【影の追跡者の召喚】を発動させて[追跡]してみるよ
クラウン・アンダーウッド
見事な列車だねぇ。人名救出とはいえ戦闘時は気を遣うとしよう。折角の列車を傷物にするのは申し訳ないからね。先ずは…お手伝いをしようか♪
積み荷を◆怪力による◆早業で◆運搬のお手伝いしつつ乗客について◆情報収集
従業員の信頼を得るべく行動して乗車の交渉を行う。
次の目的地でもお手伝いしたいから、貨車でもいいから乗せてくれないかな?
カバン型移動工房よりからくり人形(γ)を呼び出してUCを使用
γ、乗車している人を対象にイナゴで監視、並行して集めた情報と照合してスクリーニングを実施
もしキミのイナゴに反応した者がいたら即座に報告。それは人ならざるモノの可能性が高い。
さぁ、楽しい列車旅の始まりだ♪
烏丸・都留
[SIRD]一員が居るなら連携
SPDアドリブ共闘OK
自身は客に変装、隠蔽配置した各客車のCICユニット経由して縮小召喚した装備群から得られる情報を解析し、味方とも情報共有。
対情報戦用全領域型使い魔召喚術式:列車内の凡ゆる場所にある物品等に化ける。
ステルスアサルトユニットΓ/エレボスの影:多数が闇に潜伏。
上記達は、隠密状態で聞き耳/読心術等で全ての乗員/乗客の意思を読みながら情報収集、証拠品等を押収。
アイテールの護衛隊:
運転手/乗員や要人の個室などに置物等に擬態し、緊急時ガードする。
UC:跳躍で要人を緊急時には味方の元に転移退避する。
――とある帝都の駅に停車している鋭角的なデザインをした弾丸列車を見て。
「ヒュウ♪ これは見事な列車だねぇ」
思わず愉快そうに口笛を吹き鳴らすクラウン・アンダーウッド。
「ああー、そうですねー。立派な列車ですねー、アンダーウッドさん」
クラウンの其れにのほほんと好々爺の笑みを浮かべて相槌を打つは、馬県・義透。
――否。義透を構成する四悪霊が1人、忍び……『疾き者』、外邨・義紘である。
そんな義透の相槌に。
「これが……だんがん、れっしゃ?」
赤と青のヘテロクロミアに興味の光を称え、思わず矯めつ眇めつしつつ館野・敬輔がそう首を傾げると。
「あれ? 敬輔は、弾丸列車を見たことがないのか?」
目を眇めて今回の『戦場』となる弾丸列車に翡翠色の瞳を素早く走らせながら、森宮・陽太がそう問いかけ。
「そうですね。僕の住んでいた世界……ダークセイヴァーでは、要所の移動では馬や馬車が一般的ですから。こう言った乗物を僕達の世界で見た事があると言う人は殆どいない筈です」
物珍しげに弾丸列車を見ている敬輔の代わりに、燕尾服に身を包んだ神城・瞬がそう応えるのに。
(「ふむ、ダークセイヴァーですか。彼の世界は吸血鬼……皇族と変わらぬ、不死の者達に領地を支配していましたね」)
宝貝・風火輪で空中から見ていた鳴上・冬季が其の事実を思い出して思わず口の端を吊り上げながら颯爽と駅入口に降り立った時。
「……あら? 冬季さんですか?」
何となくそわついた様子で駅前を歩いていた桃色のウェーブ掛かった髪を風に靡かせていた御園・桜花が冬季に声を掛けてきた。
「おや、桜花さん。桜花さんも竜胆さんの話を聞いてきたのですか?」
「はい、そうです」
微かに驚いた様な表情を見せる冬季の其れに、笑顔を浮かべて頷きながらそれにしてもと呟く桜花に。
「……竜胆さんが、皇族。正直に言えば、未だ信じ切れていませんが」
「そうですね。私も驚きましたよ。彼は人間に見えましたから」
口の端を吊り上げた儘にしつつ、器用に肩を竦めて相槌を打つ冬季。
(「でも、もしそうならば、今上帝と肉体的相似が竜胆さんにはあると言う事なのでしょうか? 其れは是非、じっくりと観察させて頂きたいものです!」)
アイドルを追うミーハーの如き高ぶりを心に抱きつつ、冬季と共に、駅へと連れだって桜花と冬季が入場した時。
「皇族か。このサクラミラージュの頂点に立つ一族だね」
瞬達と歩きつつ、真宮・響が確認する様に呟いたのは、偶然か、其れとも必然か。
「そうですね、母さん。それにしても竜胆さんは、いつも危ない目に遭っていますよね……」
そんな響の其れに軽く首肯しながら口元に手を当て、眉根を寄せて考え込みつつそう呟いたのは、真宮・奏。
奏の其れに、まあ、と響が軽く頭を横に振った。
「皇族の命を狙う輩は多いだろうけれどね。しかし、何だってそんな皇族専用の列車に竜胆が乗り合わせるのか」
「そうですね。何故竜胆さんが? とは如何しても思ってしまいます」
溜息を漏らす響の其れに奏が自らの胸中を吐露していたのに気がついて。
「まあ、ホントに竜胆さんって何者なんだ? 皇族専用に誂えられた列車のVIPルームに居るとか、俄には信じがたいのだが」
思わず、と言った様子で奏の其れに同意したのは。
「おやおや、これは藤崎さんに天星さんじゃないか☆ キミ達も話を聞いてあの列車に乗りに来たのですか?」
道化師めいた調子でピクリと眉を動かすクラウンに答えた、藤崎・美雪である。
美雪は、まるで年の離れた弟にする姉の様に隣の天星・暁音と手を繋いでいた。
と、此処で。
チリチリとした灼熱感が、不意に暁音の共苦の痛みを刺し貫く。
(「この痛み……また、誰かが泣いているのか? それとも、竜胆さんに迫る影朧の気配を俺に伝えてきているのか?」)
その焼け付く様なヒリヒリとした痛みに暁音が軽く眉を顰めて首を傾げていると。
「皇族専用列車、なのに他にも乗車できる方がいる、と言うのも不思議な話ですね。どういう伝手なんでしょうね?」
そんな暁音の背後から、ウィリアム・バークリーが問いかけると。
「何、大した問題じゃねぇだろうよ。俺みたいな戦争屋は身元は確かとは言えねぇが、お貴族様みたいな偽装なら出来るもんだぜ」
途中の喫煙所から姿を現した、気怠げな空気を漂わせるミハイル・グレヴィッチが肩を竦めた。
「退屈ですか? ミハイルさん」
そんなミハイルを見て微かに呆れた様に溜息を漏らしたのは、調えられた軍服に身を包み込んだ、灯璃・ファルシュピーゲル。
灯璃の其の呼びかけに、まあ、とミハイルがもう一度肩を竦める。
「未だ荒事じゃねぇから、この位は別に良いだろ。給料分の仕事はしてやるからよ」
「ええ、そうね。これも任務だものね。しっかりやらないとね」
ミハイルのそれに、聖魔喰理扇で口元を覆い隠した鳥丸・都留が微笑を零すのに。
「そろそろ発車時刻が近付いている様ですね」
駅構内に流れているラヂオの如きアナウンスを耳にしたネリッサ・ハーディが淡々と声を掛けた時。
「ネリッサ」
すっ、とその横に姿を現した文月・統哉がさりげなく呼びかけた。
「文月さん。何かありましたか?」
そんな統哉の方をネリッサが軽く振り返ると。
統哉が心持ち声を小さく、囁き掛ける様に。
「ああ、多分、ネリッサ達も気になるだろう情報が見つかったからな。伝えておかないとと思ってね」
そう粛々と告げるのに、ネリッサが藍色の瞳を鋭く細めた。
「どうやら、何か重要な情報を見つけてきた様ですね」
「ああ、俺も統哉の見つけてきた情報には流石に驚いたぜ」
統哉の隣に控えていた、文月・ネコ吉が眉根を潜めて愚痴る様に呟いている。
そんなネコ吉の其れに1つ頷き、統哉がネリッサ達にハッキングで得た其の情報を耳元で囁くと。
「……成程。此は、竜胆さんに是が非でも取り次いで貰った方が良さそうですね」
統哉から齎された思わぬ其れに、ネリッサが一瞬険しい顔付きになって頷く。
「ですが皆で一斉に行ったら、尚更影朧に気付かれてしまう可能性がありますね。バラバラに列車には乗り込んだ方が良さそうです。まあ、私は家の名を出せば問題なく乗せてはくれそうですが……」
そう軽く頬を掻きつつ呟いたのは、振り袖姿の朱雀門・瑠香。
一般客として潜入する為に、一番簡単な方法として選んだ一張羅ではあるが、どうやら正解だった様だ。
「うーん、と。でもそうなると私と姫ちゃんは、乗客の人達と接することの出来る立場で入った方が沢山情報が入ってきそうかな?」
口の下に軽く小指を置いて。
小首を傾げて呟く榎木・葵桜の其れに、そうね、と彩瑠・姫桜が同意する。
「私達じゃ、ただ乗客として中に入るだけじゃ犯人探しは難しそうだから、お手伝いとして入った方が確かに良いわね。……それを承知して貰えるのかは気になるところだけれど」
「一応、葵桜さんと姫桜さんの2人位ならば、お手伝いとして私が雇っている事にすることは出来ると思います。年も近いですしね。此ならば、弾丸列車内の手伝いをしていても、警戒はされにくい筈です」
「よし、じゃあ瑠香さんに甘えて、協力して貰おっか、姫ちゃん?」
瑠香の提案に葵桜がちらりと姫桜に目配せを送ると、そうね、と姫桜が軽く頷き返した所で。
「それでは皆さん、此処からは別行動と致しましょう。流石にこの人数で纏めて入れば怪しまれるでしょうから」
ネリッサがそう締めくくるのに。
「ああ、そうだな。相互連絡は此で。無線やスマホなどでは、何かと目につきそうだからな」
美雪がそう呟き取り出したのは、人数分の小型通信機。
「そうですね。それでは、各自集めた情報は適宜共有をお願いします」
ネリッサの、その呟きに。
『Yes.マム!』
灯璃とミハイルと、都留が軽く敬礼したのを合図として。
陽太達は其々に行動を開始した。
●
――一方、その頃。
駅構内の一角で、ちょっとした騒ぎが起きていた。
それは……。
「カミサマ、今からあの列車に乗りましょう!」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ白夜! 性急じゃぞ?!」
グイグイ、グイグイ、と。
白夜・紅閻に半ば押し切られ、𠮷柳・祥華が弾丸列車に向かわせられる、その姿。
祥華達は、統哉達とはまた別の車両に向かっている。
「いやいや、そりゃないですよカミサマ。此処まで来ておいて、あの列車に乗らないとか何言っているんですか?」
近付きつつそれを指差す紅閻の疑問に思わず、は? と戸惑いの声を上げる祥華。
「いやいや、あの列車はお偉いさん方専用車両じゃろう? 何で妾達が乗れると思うておるのじゃ!?」
泡を食った様子で思わず突っ込みを入れる祥華だったが、紅閻はいやいや、とキッパリと首を横に振った。
「大丈夫ですよ、カミサマなら。ほら、カミサマですから、高貴なオーラがひしひしと出ておりますし」
「そ、そう言う問題か? まっ、まあ、此処まで連れてこられてしまったのでは仕方あるまい。やるだけ、やってみよう……」
諦めの溜息をつき悄然と肩を落とす祥華。
騙されている気がしないでもないが、此処まで来たら最早引き返せなさそうだ。
そう祥華が腹を括った正にその時。
「むっ……貴様達は何者だ?」
恐らく列車のSPの1人であろう。
軍服に身を包んだ屈強な男が怪訝そうに祥華達に呼びかけた。
そんな軍人の様なSPの其れに内心身を強張らせつつ、祥華が慈愛に満ちた微笑を浮かべ、カーテシー。
「警備、ご苦労様でありんす。此度の旅を妾は心より楽しみにしておりました。どうか、良き旅を妾達に与えておくんなまし」
そんな雅な言葉遣いと慈愛の笑みに、SPの男も心を許したのだろう。
ピリついた気配を和らげさせ、祥華とそのお付きと判断された紅閻へと敬礼した。
「はっ……これは勿体なきお言葉にございます。貴殿達が良き旅をお過ごしになられること、心よりお祈り申し上げます」
「ありがとうございます。さて行くぞ、白夜」
警備のSPをやり過ごし、堂々と車両に紅閻と共に乗り込む祥華。
漸く人気の少ない一般席についたところで、ぷはあっ、と思わず息を吐いた。
「はぁー……肝が冷えたぞ、白夜」
「ほら、大丈夫でしたでしょう? では、私は、乗務員の警備の手伝いをして参りますので。あっ……式神を貸して貰えますか?」
他の誰かに監視されている可能性を拭えないのだろう。
高貴な者のお付きに相応しい、丁寧な口調で祥華に依頼をする紅閻の其れに。
「ふむ? まぁ、構わぬが……」
怪訝そうに小首を傾げつつ雪鬼女と、護鬼丸を封じた札を手渡す祥華。
それに軽く礼を1つして、その場を立ち去る紅閻の姿を見送って。
「さて……どうなることかのう」
祥華は思わず、溜息を漏らし、軽く頭を横に振った。
●
さて、祥華達が弾丸列車に乗り込み、人心地ついた丁度その頃。
最後部の貨物車両に荷物を積み込む車掌服姿の男達がいた。
其の男達の方へと、クラウンと、義透、敬輔の3人が近付いていく。
「おやおやー、積み込み作業が大変そうですねー。宜しければ、私達もお手伝いをしましょうかー?」
代表して彼等に申し出た義透の其れに、男達の1人が振り向き、ポン、と何かを想いだしたかの様に手を打った。
「そうですか。君達が今回の積み荷の管理の手伝いを頼んでいた業者の方々ですね。丁度良かった、未だ来ないのか、と心配になっていたのですよ」
「遅くなってしまい、すみませんでしたね。では、早速手伝わせて頂きましょう」
――ヒョイヒョイ、と。
彼等が運び込むのに難儀していた荷物を数箱軽々と持ち上げたクラウンの其れに、おお、と感心の声を上げる男達。
(「まあ、流石にこの中にボクのカバンと文月さんが纏めて入っているとは思われないだろうけれどね♪ これも道化師の嗜みってやつさ♪」)
と、其の荷物の中にネコ吉と自分のカバン型移動工房を運び込みながら、内心で鼻歌を歌うクラウンに苦笑を堪える敬輔。
(「クラウンさんもちゃっかりしているよ。こうやって僕達の武器も纏めて積み込ませちゃうんだから。しかしこれだけの荷物か……。僕達の武器以外に何か怪しい物とか入ってないだろうな。ネコ吉さんと統哉さんが調べてきてくれた情報には、怪しい積み荷の情報は無かったけれども……」)
とは言え、疑心暗鬼になり過ぎても仕方無いかと思い直し、クラウン達と同じ作業服姿の敬輔も積み荷を運び込む手伝いをする。
敬輔やクラウンのあまりの手際の良さに、流石は業者の方々だ、と乗務員達は感心の声を漏らしている。
クラウンと敬輔が易々と荷物を運び込む一方で、義透は其の荷物に付けられた名札を確認し、テキパキと指示を下していた。
「館野さん、其の荷物は其方にー。アンダーウッドさんは其の荷物をあそこに纏めておいて下さいねー」
そんな訳で。
あっ、と言う間に荷物の積み込みを終わらせたクラウン達に最初に積み込みを行っていた男が代表として礼を述べ。
「いや~、お陰様で助かりましたよ。それでは、また……」
彼等に謝礼金を渡し、貨物車両に乗り込もうとする様子を見て。
「あっ、その件なんですが、実は上に追加で依頼が来ておりまして」
その好機を見逃さぬ様に。
人好きのする笑みを浮かべたクラウンが謝礼金を渡そうとした彼を呼び止めた。
「?」
微かに小首を傾げる彼の様子に構わずクラウンがいやですねぇ、と肩を竦める。
「実は次の駅でも皆さんのお手伝いする為に、同乗する様に、と上司に言い含められているのですよ。そうですよね、馬県さん?」
「ああー、その通りですよー、アンダーウッドさん。因みに、車内でも出来るお手伝いがあれば気軽に言って下さればさせて頂きますのでー」
クラウンに同調してさらりと即興劇を行う義透に、敬輔が頑張って愛想笑いを車掌達に向けて頷きつつ。
(「な、なんでこんなに即興でそんなシチュエーションを組み立てられるんだ、義透さんとクラウンさんは……」)
内心でそんな事を思いつつ襤褸を出さぬ様、必死に愛想笑いを浮かべていると。
「おや、そうでしたか。では皆さんも中へとどうぞ」
此処で特に疑う理由も無いのだろう。
あっさりと頷き、義透達を車内に導く乗務員達の様子に、敬輔の内心に微かに罪悪感が走っていった。
(「まあ、彼等が僕達を積極的に疑う理由も無いけれどさ。とは言え、これじゃあ此処で影朧の事を持ち出すのは得策ではないか。でも、この列車は、まるで……」)
影朧が竜胆を暗殺する為に閉じ込める檻の様だな、と言う思考がちらりと敬輔の脳裏を掠めていった。
●
さて、その頃。
「しかし……統哉が手に入れてきた乗客の情報の中にあいつの名前があるとはな。……嫌な予感がヒシヒシするぜ」
第2車両の方から乗り込もうとしていた陽太が、そう1人ぼやいている。
当然、そんな陽太の姿を見て、SPと思しき乗務員が気にしない筈がない。
「お待ち下さい。お客様、身分証明書のご提示をお願い出来ませんか?」
そうSPに言われてしまい、さて如何したものか、と陽太は思案する。
一応、自分は帝都市民である以上身元は確かなのだが、其れを証明しろと言われれば、其の為の証明書はない。
(「仕方ない。此処はサアビスチケットで……」)
超弩級戦力である事を示し、強引に入るしかないか、と陽太が諦めかけた時。
「おや、森宮さんではありませんか」
背後から、わざとらしく驚いた風に掛けられる声。
その声に陽太が振り向けば、其処には帝都桜學府制服風八卦衣に身を包んだ冬季と、物珍しげに列車を眺める桜花の姿。
「おっ? ええと……お前等は冬季と、桜花だったか?」
「はい、そうです。それはそうといけませんよ、陽太さん」
確認する様に首を傾げる陽太の其れに冬季が頷き、口の端に微かにからかう様な笑みを浮かべつつ近付き。
自らの制服を指さし、続けて陽太の服装を指差した。
「今日は私達帝都桜學府學徒兵も、車両警備の訓練をすると言う話だったでしょう。せめて学生証か、制服位は着てこなければ証明になりません」
「へっ? ……ああ、そうだったな。わりぃ、忘れていた」
冬季の指摘の意図に気がつき、陽太が素早く話を合わせる。
SPが冬季へと注意を向けたところで、冬季が小さく首肯を1つ。
「と言う訳で私達は、車両警備の訓練で、参った帝都桜學府學徒兵です。通して頂けますか?」
「失礼致しました。それでしたらどうぞ」
SPが敬礼するのに鷹揚に頷き、目を輝かせて特別車両を見つめる桜花と陽太を促し、車両へと堂々と入る冬季。
「いやー、助かったぜ、冬季。まあ、最悪強硬手段を取るつもりだったんだが」
「余計な諍いをする必要はありませんからね。とは言え、余計な職質等をするつもりも私にはありませんが。相手を疑わせるだけでしょうし」
冬季の其れに、そうだな、と小さく頷く陽太。
それから、そう言えば、と言う様に統哉が先程伝えた情報を冬季と桜花に共有すると。
「成程。まあ、その方がもし、竜胆さんと関係があるのでしたら、不死の一族同士。殺し合うのも吝かではないでしょうね」
と嘲笑する様な笑みを浮かべて告げるのに、陽太が思わず顰め面になった。
「……取り敢えずだ。その娘っぽそうな奴がいたら、要注意しておいてくれ。正直、影朧の可能性が一番高いが、かと言って本物じゃないとは限らねぇんだ」
「分かりました。まあ、気には留めておきましょう」
肩を竦めて答える冬季の其れに頼むぜ、と軽く溜息を漏らして返す陽太。
「森宮さん。竜胆さんがどのコンパートメント内に居るのかどうかは判明していらっしゃるのですか? 私は、SPが裏切ったり入れ替わったりしたのでなければ、犯人は乗務員だと思っていました。ですが、森宮さんの話が正しければ、竜胆さんのコンパートメント前に陣取り、警戒する必要性が高いです」
桜花の其の問いかけに、陽太がああ……と小さく呟き軽く頭を横に振る。
「悪い。未だはっきりしてねぇ。多分、その内ネリッサ達から連絡が入ると思うんだが……分かったら伝えるぜ」
「分かりました。では私も森宮さんの聞き取り調査に同行させて頂きますね」
桜花の其れに、ガリガリと軽く頭を掻きながら分かったよ、と陽太が頷く。
冬季はそんな桜花達を愉快そうに見ていたが、程なくしてでは、と言葉を紡いだ。
「私は目立たぬ様に巡回警備をしていますよ。其の方が怪しまれないでしょうから」
その冬季の言の葉に、陽太と桜花が頷き。
客の集うであろう車両に向かおうとしたところで、あっ、と声を上げそうになる。
その車両の一角で、何となく窓から外を覗き込み頬杖をつく祥華と、見覚えのある雪鬼女……冥風雪華が横を擦り抜けていったから。
「……ってことは、紅閻も来ている可能性が高いって訳か。情報は……まあ、今は俺達から話しかけない方が良いか。それでも何とかなるだろうしな」
そう結論付けた陽太に桜花が頷き。
2人は冥風雪華とすれ違い、一般車両へと足を踏み入れ調査を始めたのだった。
●
「え……ええっ!?」
そんな素っ頓狂な声が上がったのは、第1車両の搭乗口の前。
ウィリアムの丁寧な言い回しで呼び出された乗客管理の責任者である彼の驚愕の一言に、思わず周囲が一瞬此方を見る。
ネリッサが人差し指を立て、静かに、と仕草で示すと彼は自らの其れに気がつき軽く頭を横に振り、声を潜めた。
「影朧が、この車両に潜入……? 正気で言ってますか、それ?」
「ええ、残念ながら本当の話です。未だ事件が起きていないですから、信じられないのも無理はありませんが……」
ウィリアムがヒソヒソ声で返し、ネリッサが軽く米神を解しながら一先ず、と言葉を紡ぐ。
「直ぐに信じて貰えるとは思っていませんがね。そこで、もし可能ならばで良いのですが、竜胆さんとお話をさせて頂く事は出来ませんか?」
そのネリッサの問いかけに。
「えっ? 竜胆様? 昼行灯のあの方にですか?」
目を瞬く男の言葉を聞いて、ネリッサも思わず微かに目を瞬き返す。
(「竜胆さんが昼行灯? 私達と彼等との間で、認識の齟齬が生じているのでしょうか?」)
そう言えば、とネリッサは先程統哉から齎された驚くべき情報と一緒にネコ吉が共有してくれた話を思い出す。
この弾丸列車は、確かに皇族専用に誂えられた物であり、竜胆も何度か使用していたと言う事。
因みにその行先として指定されるのは、所謂リゾート地や観光地。
更に列車の乗務員達には大らかに振る舞う事が多く、悪い人ではないがぱっとしないという印象が彼等には強いらしい。
因みに皇族専用車両と言いつつも、この列車には竜胆の意向で、一定の地位や身分の者を乗客として乗せる事も有るらしい。
所謂ビュッフェスタイルの立食パーティーを行う車両も用意されており、時にはそこで、人々と交流していることもあるそうな。
(「……竜胆さんの事です。多分それは社交界でしょうね。何となく其処で各国やスパヰ、テロルについての情報を集めている気がします」)
そんな事を思いつつ、ネリッサが自らの名前を出して竜胆に取り次いで貰うと。
「へっ? ああ、成程、例の學徒兵の車両の警備演習の……まあ、それでしたら……」
無線で簡単に連絡を取った責任者が恐縮した様に頷き、ネリッサ達の方を見て。
「申し訳ございません、確認が取れました。どうぞ中へ。ですが、竜胆様のいる皇室のルームには入らないで下さいね。場所は一応、お伝えしておきますが……」
「其れで結構です。ありがとうございます」
そう告げるのに軽く一礼し、ネリッサとウィリアムが直接中に入り。
「……さて、灯璃さん、ミハイルさん、都留さん、其方の状況は如何でしょうか?」
美雪から預かった小型通信機を通してネリッサが問いかけると。
「局長。私は無事に警備隊の一員として中に入ることが出来ました。ミハイルさんは少し手こずっておりましたが、竜胆さんから鶴の一声があったらしく、客として入れています」
「私もミハイルさんと一緒に客として乗車したわ。美雪さん達とは別行動をしているから、彼女達が上手く行ったのかどうかは分からないけれどね」
灯璃の通信に続いてそう言葉を発したのは、都留。
その都留の隣では、ミハイルが窓を開けて喚起をしながら、煙草をくゆらせつつ、さりげなく周囲を警戒している。
「やれやれ、俺がもし犯人だったらこの車両に爆弾仕掛けて列車ごと吹き飛ばしちまうんだがな。暗殺なんて迂遠な手を犯人が使っているのはどういう訳か。しかも先々月の帝都を巻き込んだ戦争を起こした奴だから、尚更だぜ」
「恐らく、彼方もかなり疲労してきているのでしょうね。あの戦いで、私達も黒幕の戦力を相当叩いた筈ですから。それでも政府車両に刺客を送れるだけの力を持っているのは、厄介極まりない話ですが」
ミハイルの其れに通信機越しにそう返したのは灯璃。
「一応、爆発物みたいな怪しい積み荷がないかどうかは、俺が確認しておく。こう言う時の役割分担は必要だからな」
通信に割り込む様に荷物に紛れて潜入したネコ吉がそう答えると、頼みます、とネリッサが頷いたが。
束の間考え、小型通信機の通信相手を都留に繋げた。
「都留さん。対情報戦用全領域型使い魔召喚術式とエレボスの影の一部を、ネコ吉さんのサポートに回して下さい。単独行動は確かに良手ではありますが、万が一何かがあった時のリカバリー役は必要です」
「分かったわ、局長」
そうネリッサに念を押された都留が頷き、其処で一度通信を切ったネリッサにお疲れ様です、と呟くウィリアム。
それからふと、自らの脳裏を宿った人々の姿を思い出し、低い声で小さく呟く。
「後は統哉さんと美雪さん達ですか。無事に潜入できていれば良いのですが……」
自分達とはまた異なる身分で、この車両に入る道を選んだ美雪と暁音、響に瞬、奏達の事を思い出しながらのウィリアムのそれに。
「そうですね」
ネリッサが相槌で返すのを見て、それにしても、とウィリアムが続けて呟く。
「正直に言って、探索するだけでも相当に厄介ですね、この特別車両は。確かに外から見ても、外見も立派でしたし、車両自体も長かったですが……」
そこまで呟いたところでウィリアムが指折り車両の数を数え始めた。
(「帝都桜學府の諜報部に属しているだけで、竜胆さんが命を狙われる案件は両手の指でも足りなさそうですが。今回の戦場である弾丸列車の構造と情報も把握しておきませんとね」)
先ずは客室のみで構成された車両と、一般客が乗車する一般車両。
次に皇族の為に誂えられたVIPルームのある車両と、貨物車両。
他にも瑠香の朱雀門と言う名家の次期当主としての権力を利用して、姫桜と葵桜が侵入した食堂車両や。
社交界の行われる特別車両も食堂車両の隣辺りに設置されている。
機関室や、運転席のある先頭車両があるのは言わずもがな、であろう。
そんな弾丸列車の中で乗務員と乗客達が、思い思いに一時を過ごしているのだ。
「……その中に影朧が紛れ込んでいるのですからね。本当に油断ならない話です」
指折り数え終え、思わず目頭を押さえるウィリアムにネリッサが静かに頷き返し。
「兎に角、私達は私達に出来る事をやりましょう」
そう返事を返すや否や、自分達が乗車した乗降口からさりげなく夜鬼を列車外部に向けて解き放った。
●
丁度、その頃。
「朱雀門家様とも深き縁のある、真宮家様ですね。承知致しました。其の立ち居振る舞いにも嘘偽りを感じることは出来ませぬ。どうぞ、中へ。本日は社交界もございます。どうぞ列車での特別な一時を心ゆくまでお楽しみ下さいませ」
響の丁寧な振る舞いに感嘆したSPが恭しく響達を弾丸列車の中へ招き入れていた。
ボルドーのドレスの裾をあげ、丁寧なカーテシーをした響の後を、紺色のドレスの奏と燕尾服姿の瞬がついていく。
「列車に乗って、優雅に幻朧桜並木を見ながらの社交界、ですか。何というか、普段私達が見ている竜胆さんの姿からは想像が付かないですね、母さん」
着飾った女が颯爽と客室へと入っていく姿に、思わず驚いた様に目を瞬かせながら、奏が呟く。
「そうだね。只、社交界ってのは上流階級や、各国政府の要人達が集まる場でもある。だから社交界ってのは、格好の外交の場でもあるんだよ。だから竜胆がそこで何らかの形でコネクションを育んでいてもおかしくはないが……」
奏のそれに軽く応えつつ響が思考を進めていく。
「……それでもあの竜胆が皇族って言うと、どうしてもしっくりこないんだよね」
響のそれに奏は首肯するのみだが、瞬はその金と赤のヘテロクロミアに周囲を走査させつつそう言えば、と呟いた。
「竜胆さん、一般人の筈ですが、色々と常人の範囲を超えたところが見受けられる様な気がします」
「まあ、言われて見れば、瞬の言う事にも一理あるか」
瞬の其れに静かに響が返し、考え込む様な表情になって軽く唸る。
「あっ……。美雪さんと暁音さんは無事に乗車することが出来たのでしょうか?」
はた、と思い出したように呟く奏の声を聞いていたかの様に。
「ああ……何とかな。中々相手に納得して貰うのは大変だったが」
そう通信機越しに美雪の声が入り、奏が美雪さん、と呼びかける。
「美雪さん達は、今何処に?」
「何とか、小さな個室を1つ借りることが出来たよ。SPは最初私達の乗客を渋っていたが、先程1人の女性が通りかかってな。確認したら竜胆さんの秘書で、その人が私達の身分を保証してくれたよ」
その美雪の通信に。
「ああ、あの人か。背格好が俺に似ていたけれど、あの人、女性だったんだな。男装していたから、気がつかなかったよ」
そう通信に割り込んだ統哉が言うと、美雪は思わず目を白黒させた。
「……待て。竜胆さんの秘書が男装をして乗っていたのか? ……竜胆さんは、余程この列車の乗務員達に自分達の正体を知られたくないのか……? いや、それはそうとしてだ。統哉さんが連絡を寄越してきたと言う事は、統哉さんも無事に?」
「ニャハハ、そう言う事だね」
統哉の笑声に思わず微苦笑を零す奏を横目にしながら響が通信に割り込んだ。
「其々の健闘を祈るよ。社交界があるらしいから、今の内に乗客と親交を深めておくに越したことはないからね」
その響の言葉に合わせる様に。
皇族専用の弾丸列車が、駅を出発したのだった。
●
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
弾丸列車が線路を走る。
美雪がその音に軽く耳を傾けながら、隣で座っている暁音へと少し気遣わしげな目線を向けた。
「暁音さん、大丈夫か?」
その美雪の問いかけに、金の双眸を瞑りながら。
「ああ、大丈夫だよ美雪さん。一先ず宜しくね」
暁音がそう静かに首肯し、首から下げられた胸を飾る星屑の光明が、淡い碧と月色の輝きを発し始めた。
同時に無数のナノマシン群が暁音を中心として車内全体に拡散していき、車内全体の把握を可能にする。
その無数のクレインに同調する様に。
「……」
聖魔喰理扇で口元を覆った都留がゆっくりと周囲を見回すと同時に、対情報戦用全領域型使い魔召喚術式が周囲の物品に化け。
更に人々の影に潜伏する様にエレボスの影が蠢き奏達が聞き出そうとしている会話へと其の耳を傾け始める。
自らの展開する機械類と同調する都留の様子をちらりと横目に見やりながら、ミハイルは顎に手を当てて煙草をくゆらせた。
ポトリ、と零れた灰が席に備え付けられた車内灰皿に落ちていった。
(「もし俺が犯人だったとしたら、SP関係者を装って竜胆に近付く。まあ、文月達の情報が正しけりゃ、あいつに化けている可能性もある訳だが。もしそうなら……」)
内心でそう呟きつつ。
ミハイルが席に座る乗客達に目を光らせていると。
「……未だ着かないのかなー?」
カップルと思しき男女が他愛もない話に花を咲かせているのが目に留まった。
もし、お偉いさんの子供達の逢い引きなのだとすれば、よくある光景と言えるだろう。
しかし少女には、以前ミハイルがある場所で見た娘の面影がある様に感じられた。
(「……あいつに似ているな。ってことはビンゴか?」)
其のカップルを注意深く探るミハイルの気配に気がついた都留が、エレボスの影の警戒度を一段階引き上げていると。
その脇を何気ない様子で灯璃が巡回宜しく、ミハイル達の居る車両を通過しながら、小型通信機越しに話しかけてくる。
「襲撃犯が少女な点を鑑みると、有力者、或いは外交使節の家族連れが一番怪しいのですが……あのカップルも怪しいですね」
そう通信機越しに告げる灯璃の其れに、ミハイルが1つ頷き。
「まっ、明らかにあのカップルは浮いているからな。マークはしておくぜ」
面倒臭そうにしつつも欲していた返答を受け取りお願いしますと礼を述べて通信を切り、警備員や乗務員への聞き込みを行い始めた。
その警備員や乗務員達のスタッフルームの前方の車両の中を灯璃が何気なく見て見れば。
「はい、お待たせ致しました~」
お仕着せ、であろうか。
給仕服姿をした姫桜が少し強張った笑顔を浮かべ、食堂車両の育ちの良さそうな家族へと給仕を行っている姿が目に入った。
灯璃が其れに微かに頬を緩ませているのに気がつく余裕もない姫桜へと、その客は笑顔を向けた。
「あら、ありがとう。貴女は初めて見る顔ね?」
「えっ? あっ、はい。瑠……朱雀門家様よりお声が掛かりまして、今日一日は此方の給仕のお手伝いをさせて頂く事になっています」
その家族連れの女性に尋ねられ、多少まごつきつつ咄嗟に姫桜が首肯する。
慣れぬ給仕と、突然声を掛けられたから、であろうか。
銀製の腕輪、桜鏡に嵌め込まれた玻璃色の鏡が淡く漣だった。
姫桜が戸惑いを隠せぬ様子に、女性は頬笑み、子供達の分もメニューを告げ、それを姫桜がメモに取っているその間に。
「はいは~い! 桜ハンバーグとライスを2つ、ですね! 少々お待ち下さいませ~!」
堂と品の良さが綯い交ぜになった太陽の様に眩い笑顔と対応で器用に葵桜がウェイトレスをこなす声が耳に響いた。
葵桜はオーダーを書いたメモを手にキッチンに戻り、手慣れた様子でキッチンに声を掛けつつ休憩に入った同職の話に耳を欹てる。
(「うん、特に他愛も無い話をしている感じかな?」)
葵桜がそんな事を思いながら、出来上がった料理を持っていく。
その姿を、家族連れのオーダーをキッチンに通した姫桜が見て微かに羨ましそうに溜息をついていると。
「ウェイトレスさん、此方も宜しくお願いします」
客に紛れる様にして人々の話に耳を欹てている瑠香が、そんな姫桜を手招きする。
慌てて、オーダーを手に瑠香の元に向かう姫桜。
「あっ、お、お客様、ご注文は如何致しますか?」
そんな姫桜に頷きちょっと待って下さいね、と呟き改めてテーブルの上のメニューを覗き込みながら。
「どうしましたか、姫桜さん?」
メニューから目を離さぬ様にしつつ瑠香が問いかけると、姫桜は思わず思わず愚痴の様に溜息を漏らす。
「あおはこういうの、本当に慣れているなって。確かにあの子、コミュ力、私より高いけれど……」
ぼやく姫桜の口調の中に籠められた負けん気に瑠香が軽く微笑を零し。
「私達は人ですから。得手不得手があるのは当然だと思いますが。では、これと珈琲をお願いします」
適当なデザートと珈琲を選んでそう言うと、そうね、と姫桜が釣られる様に微笑を零した。
その顔色は、完全には晴れていなかったけれども。
だが……。
(「それにしても、社交界があるのですか。竜胆さんを暗殺するのが目的だとしても……どうにもそれだけではすみそうにないのが少々気になりますね」)
先程姫桜がオーダーを取っていた家族連れの口から零れた其の話を耳にした瑠香が内心で、そう思う。
そんな食堂車両での一幕を。
暁音がクレインで、都留の対情報戦用全領域型使い魔召喚術式を周囲に溶け込ませ、ある目的のついでに具に観察させている。
姫桜はそれに気がつくこと無く、瑠香から取ったオーダーを手にキッチンへと持っていた丁度其の時。
「……あら? 貴方……」
食堂を素通りしていこうとしていった帽子を目深に被った青年の姿を見つけ、姫桜が彼に何となく既視感を覚えて呼びかける。
するとその青年……紅閻も姫桜に気がつき、微かに決まり悪げな表情になったが。
「一般車両はカミサマが見張っている。もし何か共有する情報があれば、カミサマに」
そう小声で囁き次の車両へと向かう紅閻に、分かったわ、と姫桜が微かに頷いた。
●
その頃、クラウン達は手伝いを申し出た荷両の乗務員達の間で持ちきりになっていた、ある噂を具に聞いていた。
それは……。
「ほぉー、成程―。今回の旅行には皇族の方が2人も来ているというのですね-」
それは、一般乗務員である彼からすれば、一寸した噂話にしか過ぎないのかも知れない。
けれどもその話は、最初に統哉が調べ自分達と共有した情報……この列車に『彼女』が乗ると言う話を連想させるのに十分だった。
義透が聞き取った話を脳裏に焼き付けそれを咀嚼していた敬輔が一瞬その身を強張らせ。
(「この2人の皇族って……1人が竜胆さんだとすれば、もう1人はやはり『彼女』の事なんだろうな。だが、彼女を竜胆さんがわざわざ一緒にこの列車に乗せる理由、あるか?」)
そう思考を続けるその間に。
「成程、成程。それはとても興味深い話ですね。ですが、皇族が2人も乗っているなんてちょっと信じられない話でもありますね」
義透が聞いた其の話を混ぜっ返しつつクラウンが乗務員に聞くと。
「ああ、そうなんだよ。普通はそんな事があるとは思えないんだよな。そもそも、皇族様なんて俺達からすれば、殿上人にも等しい方々だぜ。只、事実は小説よりも奇なり何て言葉もあるからねぇ……」
と、期待半分、冗談半分と言った口調でその話を義透達にした乗務員が笑う。
そんな彼にそうですかーと義透が相槌を打つ間に、クラウンが荷物を手早く解いた。
それは、物を搬入する際に、ネコ吉と一緒に紛れ込ませたカバン型移動工房。
其れを手早く空けようとするクラウンを他の乗務員達の視界から隠す様に敬輔がさりげなく移動する。
『γ! 宜しく頼んだよ♪』
小声で歌う様に口笛を吹いたクラウンに応じる様に、からくり人形が1体『γ』が莫大な数の蝗の大群を召喚。
目に見えぬ超極小の絡繰り蝗の大群が、暁音が密かに列車全体に配置したクレインと共に『彼女』の姿を探すべく行動を開始。
そんなクラウン達の所に護鬼丸がのっそりと姿を現した。
「えっ……!?」
突然現れた護鬼丸の姿に流石に戸惑いを隠せずポカン、と口を開ける敬輔。
義透も嘗て何度か共に戦った事のある式神に気がつき、其方から乗務員達の目を逸らさせる様に新しい話題を巧みに作り出す。
護鬼丸は暫く荷両の様子を確認していたが、特に問題ないと判断したか、程なくしてその姿を消した。
(「護鬼丸……と言う事は、祥華さんも来ているのか。彼方では何か新しい情報を集めることが出来たのだろうか?」)
呆然と見送りつつ、内心で敬輔が首を傾げるその間に。
「……大丈夫だ、敬輔。不審物は無さそうだぜ」
ネコ吉が通信機越しにそう言ってくるので、そうか、と敬輔が安堵の息を漏らす。
一方、今回の弾丸列車の旅には、2人も皇族が乗っているという噂話は……。
●
「成程。今回の竜胆様のご旅行では、その妹様も同乗していらっしゃるといわれておりますのね」
「ええ、どうやらそうらしいですわ」
車両内に建設された社交界用の車両の品の良い調度品や美術品を眺めていた上流階級の女性と響達の会話の花となっていた。
(「ですが……予知の中に、竜胆さんが狙われるという話はありましたが、『彼女』の事はありませんでしたよね」)
今回は、皇族が暗殺されるという重大な案件だったので、この車両に乗り込んだ。
この予知通りであれば、竜胆は皇族で有り、其の親族である『彼女』が殺される未来も視えただろう。
何故ならば、統哉が齎した其の名前を持つ少女も、皇族の筈だから。
つまり、この噂話が真実であるとならば。
「『彼女』の姿に化けた乗客が竜胆さんを暗殺するべく潜り込んでいると言う事なのでしょうね」
響が貴婦人の気を引いてくれている間に、考えを纏めた瞬が奏にそう耳打ちする。
「ええ。そうですね、兄さん」
奏もまた、そう言うことなのだろう、と同じ結論を口に出しながら、耳に当てた小型通信機のスイッチを起動。
同時に瞬が白鷲を奏の呼び出した影に隠す様に召喚し、この列車の中を探らせる間に。
奏が、小型通信機越しに先程の会話を流すと。
「……って事みたいだぜ、桜花。つまりこの話が正しければそのねーちゃんを探せば良いって事になる。……まあ、この話自体がダミーの可能性もあるが、如何する?」
それを受け取った陽太がそう隣の桜花に問いかけると。
「そうですね……」
桜花は、一瞬考え込む様な表情を見せるが直ぐに頭を横に振った。
「これが弾丸列車である以上、乗車時間はとても限られています。ですが、もし影朧が、竜胆さんの親族の姿をしてこの中に潜り込んだのでしたら、恐らくSPや乗務員達の目を誤魔化すのは簡単でしょう。そもそも、此は皇族専用車両なのですから、同じ皇族である方が乗っていても不自然には思えません。であるならば、やはり該当者の目星を一番付けるには、その噂話の年頃位の少女の姿を見かけたら声を掛けることだと思います」
桜花に同意する様に一度戻ってきた冬季が小さく頷き、軽く肩を竦めて見せた。
「ええ、そうですね。まあ、その噂が真であるならば、少女達の誰かが動くでしょうから。先程の哨戒の間に、それっぽい人達には式神を付けておきましたよ」
「じゃあ、冬季には紅閻も祥華の式神達と一緒にやっているみたいだが、冬季にはこの車両の中の巡回を続けてして貰って、俺は……」
と陽太が告げたところで。
「森宮さん、聞こえますか?」
不意に陽太の通信機越しに、ややくぐもったネリッサの声が入ってくる。
其のネリッサの声に応えたのは、陽太ではなく、桜花だった。
「ネリッサさんですね。如何しましたか?」
「一先ず、竜胆さんのVIPルームの場所が確認できました。最初は中に入って直衛につこうかと思いましたが、それで影朧に私達の動きを察知されるわけにも行かないので、今はウィリアムさんと交代で、竜胆さんのVIPルームが私達の視界に収まる席から見張っています。とは言え、あまり其方を見てばかりと言う訳にも行かず、私とウィリアムさんだけでは少々人数が少ない感じです。森宮さん達の方は如何ですか?」
そのネリッサの呼びかけに。
「分かりました。でしたら私が其方に行きましょう」
そう桜花が申し出ると、通信機越しにネリッサが微かに意外そうな表情になった。
「御園さんが? 出来るのですか?」
「はい。私、こう見えても自らのUCで比較的長く姿を消していることが出来ますので。森宮さんの通信機から聞こえている話を統合しますと、既に情報収集の為に、他の人々には猟兵の皆さんがそれなりに接触してます。でしたら、私はネリッサさん達と交代で監視していた方が、影朧にも気付かれにくいことでしょう」
淀みなき桜花の説明に、束の間逡巡する様な沈黙を挟むネリッサだったが、程なくして分かりました、と首肯する。
「それではお待ちしておりますので、宜しくお願いします、御園さん」
「はい。分かりました、ネリッサさん」
告げてネリッサからの通信を切った桜花がでは、とくるりと踵を返して陽太に向き直り。
「私、少し行って参ります。竜胆さんのコンパートメントの方に」
「ああ……俺ももうちょい周囲を探ったらお前達に合流させて貰うぜ」
そう告げて一礼し、笑顔で立ち去る桜花に会釈を返し、さて、と陽太がパチン、と気合いを入れる様に自らの両頬を叩いて気合いを入れる。
この時には冬季は既に陽炎の様に姿を消し、幾度目かの哨戒任務に向かっていた。
「まあ、なる様にしか、ならないよな。……取り敢えず、今は出てくるんじゃねぇぞ……!」
誰に共なくそう呟いて。
自らを抱擁する様に体を抱いた陽太がふっ、と其の姿を透明にして、物音を立てぬよう、忍び足で乗客両へと向かって行った。
●
「まあ、数時間無手で歩き回るなど、軍事訓練に比べればただの散策に過ぎません」
姿を消した陽太をひっそりと影から見送った後。
口の端を吊り上げた嗤いを浮かべた冬季がそう呟きつつ目を閉ざし、先程貼り付けた式神達と意識を同調させる。
都留のCICユニットを経由して縮小召喚した装備群からリアルタイムで把握される情報。
同様に、車両中に満遍なく散布された暁音のクレインと同等かそれ以上の情報を同時に伝えてくる式神達。
それは人間は愚か、猟兵であったとしても普段では脳内での並行処理が間に合わず、脳が持たないと思われる程の情報量。
だが……。
「戦う必要が無いのであれば、並列思考で式神を確認しながら目を走らす余裕が無い筈がありませんね。と言う訳で、黄巾力士」
そう自らの傍に控えさせている自立式宝貝、黄巾力士に冬季が呼びかける。
「お前は武器所持者に目星をつけたら各車両を出たところで私に報告を。金行でない武器など限られていますので、何かが隠されているのであれば、暗器含め把握できるでしょうからね」
(「最も……敵が無手ではないとは限らないのですが……ね」)
その冬木の命令を粛々と受諾し、姿を消す黄巾力士を見送りながら。
口の端に嗤いを浮かべた冬季が、何気なく弾丸列車の窓から外の風景を見やる。
――雨を受け、露を滴らせる美しい姿を見せる、幻朧桜並木が流れる其の風景を。
●
「改めて眺めると、また別の風情のある景色でありんすなぁ……この幻朧桜並木の風景は」
無論その風景は、一般車両の椅子に座り、ほう、と思わず吐息を漏らす祥華が見つめているものと同じ。
寄せては返す波の様に流れゆくそれを見つめながら、祥華は思索に耽っている。
(「白楼と紅桜は車内を飛び回っておるようじゃしのう……。白夜は怪しい奴がいないか探している様でありんすが」)
そんな徒然なる物思いをする祥華の傍に、控え目に姿を現したのは……。
「あの……祥華さん」
ウェイトレス用の衣装を着用し、何だか気まずそうに呼びかける姫桜だった。
「ぬっ? お主は、彩瑠でありんすな?」
姫桜の姿を見て、祥華が思わず目尻を和らげると、照れ臭そうに姫桜が頬を赤らめる。
「あっ……祥華さん。私、さっき紅閻さんにあったわ。それで、何か目新しい情報があれば、貴女に伝えて欲しいって小声で頼まれて……。それで、あおが私の分も働いて時間を作ってくれたから、会いに来たの」
妙に気恥ずかしげな様子で用件を伝える姫桜の其れに、祥華がそうでありんすか、と微笑する。
まあ其の笑みはからかっていると思われそうなので、彩天綾で隠したけれども。
「其の格好と言う事は、おぬしはウェイトレスとして、食堂車両に入ったのでありんすな。何か妾達に伝えたい、気になることでもあったでありんすかえ?」
「ええ……その……実はこの車両には、今日は皇族が2人乗っている……そんな噂話が流れているの」
「2人……でありんすか?」
周囲を憚りながらの姫桜の呟きにほう、と祥華が緩やかに目を細める。
(「成程、そんな噂話が……しかし、2人、となると……」)
「1人は竜胆でありんすが、もう1人というのは、もしや?」
「……ええ。多分、『彼女』の事だと私達も思っているわ。でも、それならば予知でその事も予め知らせている方が自然よね、とも思っているの」
そう言葉を選ぶ様にして告げる姫桜の其れに。
心得た、とばかりに祥華が頷き、それから車内を飛び回る白楼と紅桜と意識を同調させる。
「なぁなぁ、お嬢ちゃん、知っているかい? この車両には伝説の皇族様が2人も乗っているらしいぜ? 1人は昼行灯と名高い竜胆って奴だがもう1人は……」
「えっ?! もし良かったら、其の話、詳しく聞かせて下さい!」
白楼と紅桜が食堂でウェイトレスを務める葵桜が聞き出している其の噂話を耳にし、成程、と頷く。
「火のない所に煙は立たぬ。故にこの噂話は恐らく真実でありんしょうな」
それからちらりと後方でキャッキャッと笑い合うカップルとそれを影ながら、見張るミハイルと都留に一瞥を送る祥華。
「確か、SIRDでありんしたか? 其処に所属している、グレヴィッチと初顔の女があの2人連れは監視しているでありんすな。確かにあの娘は、何処となく容姿が『彼女』に似ているともいえるでありんす。まあ、他にも似た様な顔立ちの娘は多いとは思うでありんすが」
そう告げて、これ以上の監視は無意味とばかりに、祥華は優美に頭を横に振り。
周囲をもう一度観察すれば、成程、あのカップル以外にも何人か年頃の娘が居るのはすぐわかった。
「まあ、妾はもう暫く此処で寛いでいるでありんすから、何かあれば声を掛けるでありんすよ、彩瑠。何か妾でも役に立てることがあるかも知れないでありんすからな」
「ええ、分かったわ。ありがとう、祥華さん」
滑らかに囁く祥華の其れに、ペコリと軽く会釈を返す姫桜。
そこに乗務員が現れ慌てて姫桜に声を掛け、職場に戻る様にと指示を出し、姫桜が謝罪の後、其方へと戻っていく。
再び流れゆく幻朧桜並木の様子を見て、ふとある考えが祥華の脳裏を過ぎり、誰に共なくポツリと呟いた。
「妾達の様な数多の超弩級戦力が、一丸になって今、皇族であろう竜胆を狙うこの事件の解決に心血を注いでいる。……この状況下で、その者はどの様に事件を起こすのであろうな」
そんな祥華の呟きへの、その応えは……。
●
「……爆弾何かの仕掛けは何処にもない、ね」
クレイン達の目を通して、車内全体を隅々まで探索しながら。
半ば夢心地の様な口調で呟く暁音の其れに、そうか、と美雪が溜息を漏らす。
「……彼女の容姿をした相手はいるか?」
其の美雪の呼びかけには、やはり夢現と言った様子で暁音が囁き返す。
「俺達も、彼女に何度も会っているわけでは無いし、特別美人だった訳でもないからね。いるかも知れないし、いないかも知れない、と言うのが正確かな」
「……そうか。まあ、そうであろうな」
其の暁音の呟きに美雪が思わずと言った様に深々と溜息を1つ吐く。
(「まあ……気になる場所がないわけではないんだけれどね」)
そう暁音が内心で呟き、クレインに同調して、ある一箇所を見つめ続ける。
それは、自分達のいる一室……個室で埋まったこの車両の中の、ある一室。
ヒトの気配はあるのだが、特に誰かが出来る様子のないその場所だ。
その近隣を特に怪しいと感じているのだろう。
クラウンのγから放たれた蝗の大群や、響の放った陽炎の様に揺らめく騎士がその周囲を警戒していた。
そこに1人の乗務員……否、侍従の様な衣装に身を包んだ人物が向かっている。
それが自分達とは別の方法でこの列車に潜入した統哉である事は、既に暁音には分かっていた。
(「まあ、下手に俺達が統哉さんを援護すれば疑われる恐れもあるから、今は様子見をしているだけになってしまうけれどね」)
その暁音の内心の呟きが聞こえていたのであろうか。
「しかし……仕方の無いこととは言え、諜報部に接触する余裕がなかったのは痛かったな。せめて、白蘭さんか、雅人さん辺りに会えれば良かったのだが……」
美雪が疲れた様に溜息を漏らすのを、自らの体に残した揺蕩う意識の一部で聞き取り、暁音がそっと頷いた。
「寧ろ統哉さんとネコ吉さんが、事前にこの列車の乗客と乗務員達の情報を手に入れられたのが僥倖だったんじゃないかな?」
「……そうかもしれないな、暁音さん」
ぼんやりとした様子で告げる暁音の其れに、一先ず同意を返しつつ、美雪が116体のもふもふ小動物さん達に意識を移す。
そのもふもふ小動物さん達は、桜花や、死角にいるネリッサとウィリアムと共に、交代でそこを監視していた。
竜胆のいるとされる、VIPルームに怪しい奴が近づいてこないかを。
(「まあ、暁音さんが全力を注ぎ、更に都留さんとクラウンさんが全力で車内の情報収集をしている以上、本当に爆弾とかは無さそうだな。ネコ吉さんも太鼓判を押していたし」)
だがそうなると、この車両に潜入している影朧は……。
(「冬季さんの言葉通りなら無手と言う事なのだろうが、竜胆さんを殺せるとはなあ……」)
――いや……それとも?
「まさかこの暗殺事件自体も竜胆さん、悟っていたりしないだろうな……? 暗殺のための罠と分かった上で乗っている可能性があったりしないだろうな?」
そんな美雪の脳裏を過っていった怖い考えを夢現の中で聞いた暁音は、思わず微苦笑を口元に綻ばせた。
「竜胆さんの様子から言っても、其処までは予見していないと思うけれど。と言うか、それだったら、流石に社交界をこの車両で行おうとはしないんじゃないかな。そうでないと、世界各国が大惨事になりそうだ」
瞬達が上流階級の貴婦人達から得た、社交界の情報。
その開催の為に、今回の列車が運行されているのであれば、竜胆と言えど、そんな作戦に踏み切ることは出来ないだろう。
万が一、そこで事件が起きてしまえば、只で済む筈がないのだから。
(「でも……其処に『彼女』の噂だからな……。かなり周到に練られた計画的犯行なのは間違いなさそうだ」)
そう暁音が事実を再認識したところで、何も救われる事は無いのだけれども。
そんな状況下で竜胆が暗殺出来るのであれば、影朧も強大な相手の可能性がある。
暁音がそう思索を進めるその間に、暁音のクレインの目は、新たに車両の巡回警備を行う灯璃の姿を捉えていた。
「……成程。では、皇族の方が2人乗っているというのは、本当の話なのですね」
「ええ、その通りです。ですので今回の旅は、警備を万全に整えねばならなかったもので……。それで帝都桜學府の學徒兵や、貴女の様な方にも手を借りることが出来る様に手配がされているわけです。全てはあの昼行灯の思いつきですよ」
警備責任者のその言葉に、そうですね、と口裏を合わせつつ、胸中で溜息を漏らす灯璃。
(「思い付きと言うよりは、他の政府の要人達の警備を盤石にするために、竜胆さんがその提案をした可能性が高そうですが……」)
しかし、その竜胆の乗客の安全を考えた策を、影朧が逆手に取った。
その情報の名残として、『彼女』の話が統哉達の情報網に引っ掛かったのだろう。
「……未だ鼠は居るだろう、とは思っておりましたが……此処まで策謀を張り巡らしてきているとは。先日の帝都の事件と言い、今回の件と言い……焦っている様に見えて、相当込んだ手を黒幕は打ってきていますね。……性質の悪い相手です」
しかし、其れは逆に言えば、この作戦を止められれば、黒幕の動きをかなり阻害する事も出来る筈だと思える。
もし、懸念材料があるとすれば。
(「また、グラッジパウダーが使われなければ良いのですが……」)
そう、灯璃が思考を進めていた時。
不意に、ある個室の少女がふっ、と窓の外を見つめる姿を、白妖狐を通して灯璃は視た。
別に、只、幻朧桜並木が流れる姿を見ているだけであれば、普通なのだが……。
(「別に特段おかしな事は無いけれど、この雰囲気……気になるわね」)
その灯璃が配置していた白妖狐の影にエレボスの影を潜伏させていた都留も何故か其れに違和感を覚える。
否、その違和感は、当然かも知れない。
何故ならば……。
●
――トン、トン、トン。
その一室にノックの音が響き渡ったのは、ちょうどその時だった。
『はい』
其れに対して、『彼女』は、それに何気なく応えると。
カチャリ、と食事の乗せられたトレイを持った侍従と思しき人物が、個室の扉を開き粛々と一礼する。
「菖蒲様。ルームサービスで頼まれましたお食事をお持ちしました」
その侍従の姿をした人物の、何気ない呟きに。
『ああ、ありがとう。そこに置いておいて』
『菖蒲』と呼ばれた少女が淡々と返した、正にその時。
「ところで、『菖蒲』様。あれから水仙様とは如何ですか?」
そう何気なく侍従に扮した統哉が問いかけると。
『えっ? ああ、あの子? 全く役に立たない駒だったわね。力の強い影朧を与えたのに、帝都桜學府諜報部をひっくり返す処か……白紅党事寝返って、帝都破壊の邪魔までしてくれたんだもの』
冷たく切り捨てる様な、何処かぞっとする口調で。
そう応えた『菖蒲』のそれに、統哉が鋭く目を細めた。
その影には、陽炎の様に姿を揺らめかせる騎士の姿。
他にも、統哉を追わせる様に葵桜が放った影もまた、『菖蒲』が告げたその内容を、直に葵桜に伝えている。
葵桜や暁音、都留にクラウンのγを通してこの会話の内容が義透達、他の猟兵も聞いているであろう事を確信しつつ、統哉は続けた。
「……語るに落ちたね。やはり君が、竜胆さんを殺害するために送り込まれた影朧だったのか『菖蒲』さん。いや……『菖蒲』さんの姿で、この中に潜り込んだ影朧」
『……っ!』
鋭く突き刺す様な棘の如き統哉の其れに、『菖蒲』によく似た姿少女が目を見開く。
動揺する彼女の様子は、灯璃の白妖狐達もまた、しっかと捉えている。
無論、奏の呼び出した影に潜む様に隠れていた瞬の白鷲も。
『……私を此処迄追い詰めるとは、貴様達はもしや……!』
呪詛の呻きを短く上げると同時に。
菖蒲を名乗るその少女は、それ以上の問答を許さぬ様に、ドン、と力任せに統哉を脇に押しのけ部屋を飛び出した。
そのまま脱兎の如く一番車両の方へと走り行こうとする『菖蒲』の偽物に。
「! 逃がすかよっ!」
すかさず声を張り上げて彼女の後を追ったのは、自らを抱きしめる事で自らを隠匿していた陽太。
無論、『菖蒲』は陽太の叫び声など一顧だにする筈もなく。
瞬きする間に、一般車両を駆け抜けて、ピュイ、と口笛を1つ吹いた。
(「口笛……っ?!」)
一般車両を抜ける通路の間で聞こえたその音に微かに目を見開かせ、咄嗟に口笛の聞こえた方角に走り出す紅閻。
だが、其の口笛が本当は何を意味しているのかに気がついたのは、ネリッサ。
――否。
ネリッサが車両の『外』に配置していた『夜鬼』だった。
何故なら『夜鬼』の目は、列車の周囲の咲き乱れる幻朧桜が瘴気に塗れ、黒く、黒く塗り潰されていくその姿を捉えていたから。
黒く塗り潰された幻朧桜の枝が、この列車に向かって直進し始めたその時、ネリッサは何が起きたのかを直感した。
「くっ……幻朧桜が影朧化するのですか……?!」
「えっ……!?」
呻きつつ懐のG19C Gen.5を引き抜くネリッサの呻きに、ウィリアムが息を呑む。
同時に、竜胆のいるコンパートメント前で骸の海に由来する陰気を纏い身を潜めていた桜花もビクリ、と身を震わせた。
「……私の産みの親にして、何時かは共にこの世界の影朧を浄化し、転生させるもの……幻朧桜そのものを影朧化する……!? それでは、まるで……!」
『桜の下には死体が埋まっている。けれども幻朧桜の下に埋まっているものは……』
自らのユーベルコヲドの詠唱を咄嗟に脳裏に浮かべた桜花と、周囲の人々の悲鳴が交差したのはほぼ同時。
そう……窓口からまるでこの列車そのものを取り込もうとするかの様に、大量の漆黒に咲いた幻朧桜の枝が飛び込んできたのだ。
「ちっ……これは大パニックになるね!」
窓と言う窓を割って、今にも飛び込まんばかりに蠢く影朧化した幻朧桜の姿を陽炎の騎士で視認した響が舌打ちを1つ。
無論、それは食堂車両や、響のいる車両以外でも例外ではない。
「くっ……! 皆、直ぐに此処から避難して!」
窓から飛び込んでくる漆黒の幻朧桜の様子を左の赤眼で視認した敬輔が、クラウンが運び入れてくれた黒剣を抜剣。
そのまま勢いよく飛び込み、荷運びの乗務員を襲おうとしていた枝を切り払いながら、咄嗟に叫ぶ。
「成程―。荷物に怪しい物はありませんでしたがー。こういう事でしたかー。これは、厄介ですねー」
そうのほほんとした口調で呟きながら、着物の裾に隠し持っていた漆黒の棒手裏剣『漆黒風』を抜き打ち、投擲する義透。
『漆黒風』に瞬く間に貫かれた幻朧桜の枝が真っ二つになって地面に落ちたところでひゅう♪ と思わずクラウンが口笛を吹く。
「これは、これは。またまた盛大な仕掛けな事で。此処はどうやらボク達が何とかしないと駄目かも知れないねぇ」
そうクラウンが荷両を襲った幻朧桜を見て緊張した風でもなく呟いたその時には。
別の車両に飛び込んできた枝を、灯璃が試製十参式護霊刀「狐火」で切り払い、ちっ、と舌打ちを打っていた。
「竜胆氏の所にも急ぐべきなのでしょうが……放っておけば、この列車に乗る乗客と乗務員達の命まで……!」
その一方で。
先程から警戒を続けていたカップル達に迫る幻朧桜の枝を小脇差を抜刀したミハイルが切り払い。
「おっと……流石にやらせるわけには行かないわね」
更に追随する様に口元を覆い隠していた聖魔喰理扇に都留がその枝の残りカスを喰らわせていた。
それでも尚、無限にも等しくこの弾丸列車そのものを呑み込んでやろうとばかりに襲い掛かってくる幻朧桜の枝を見て。
「ヤレヤレ。これはまた、いつにも増して面倒なことになりそうだぜ……!」
口元に鮫の笑みを浮かべたミハイルが呟きと共に、吸い終えた煙草を噛み潰し。
「ふむ……流石に放っておくわけにはいかなそうでありんすなぁ」
自分が外の景色を眺めていた窓を結界術で覆った祥華が特に驚いた風でもなく、独り言ちる。
その祥華の言葉を聞いていたかの様に。
「成程。確かにこれは、敵は無手でしたねぇ。此れは流石に予想外です」
口元に嗤いを浮かべた冬季が静かに呟き、黄巾力士を傍に呼び出し外からの追撃に備えるその間に。
『今の内に……!』
そのままパニックになっている食堂車両を駆け抜けて、竜胆のいるコンパートメントのある車両へと向かう『菖蒲』
『菖蒲』が、竜胆のいるVIPルームに足を踏み入れられると思った、その刹那。
「させませんよ……Stone Hand!」
不意に、竜胆のVIPルームの死角からその声が響き渡った。
響き渡った声に、一瞬息を呑んだ『菖蒲』の足元に、現れたのは大地の精霊の腕。
突然現れた岩石で出来たそれに驚き、ゴロリ、と『菖蒲』が大地を転がる。
「……やはり簡単に捕まえることは出来ませんか。流石は影朧……と言ったところでしょうか?」
そう呟き、ウィリアムが『菖蒲』の前に姿を現すのに、彼女は軽く頭を振りながら、手を振り上げる。
その振り上げと共に、ウィリアムの近くの窓から幻朧桜の枝が飛び込むが……。
「……今上帝の血を継ぐ高貴なる者の命を狙う不逞の輩。あなたの真実とその姿、見極めさせて頂きますよ」
その呟きと、共に。
桜花が自らが発していた骸の海に由来した陰気を桜鋼扇で呼び起こした風で枝にぶつけ、それらの枝を吹き飛ばした。
『くっ……!』
「誰があなたの事を逃がすと思いますか、『菖蒲』さん?」
呪詛の様に舌を打つ『菖蒲』に向けて、自らの周囲に纏っていた骸の海に由来する陰気を解除した桜花がその姿を晒す。
その手に握りしめられた桜鋼扇を翻し、『菖蒲』に向けて、突き付けながら。
――今。
『菖蒲』の姿をしたモノと、彼女の用意した『死の罠』……この列車を喰らわんとする幻朧桜との戦いが、始まろうとしていた。
大成功
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第2章 冒険
『容疑者最後の罠』
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POW : 狙われた皇族を身を挺して守る
SPD : 仕掛けられた罠を発見し、解除する
WIZ : 焦った敵の残した痕跡から、正体を推理する
👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――其の刹那。
幻朧桜並木の間を駆け抜ける弾丸列車が、幻朧桜に覆い尽くされ。
漆黒に染まった枝が、窓や列車の隙間から、猛る嵐の様に車内に入り込み。
漆黒の桜吹雪を巻き起こして人々を桜の花弁で包み込み。
更に無数の幻朧桜の枝が乗客を包み込み、自らの中に飲み込まんと欲した。
それは阿鼻叫喚の悲鳴、嘆き、涙、悲嘆……『絶望』と言う名の闇を奏でさせ、人々を狂気に陥らせている。
このまま行けば、私が何をせずとも彼等の胸中に嵐の如き不安を育ませ、その心を絶望と悲嘆に満ち満ちさせ。
崩れた天秤のバランスを、此方側に大きく引き戻した上で、私達を滅ぼす元凶を、破壊することが出来た筈なのに。
人々のパニックの悲鳴が車内に響き渡るのを聞きながら。
己が目的とは裏腹に、今、人々に陽光の如く差し込んだ希望によって、車内に転ばされた『菖浦』は憎々しげにそう思う。
(「こうなった全ての元凶は……」)
――悉く私達の理を破壊して、今の世界のバランスを崩す異端の者達の存在にあり。
即ち……。
「忌々しき……超弩級戦力共……!」
呪詛の如くそう呻いた『菖蒲』は、受け身を取って素早く態勢を立て直す。
乾坤一擲のこの作戦が失敗した以上、此処は退くが本来であれば上策だが……。
「……逃がすわけには行かない。貴奴も、貴様達も……! 光と闇のバランスを破壊し、我等の理を歪めてきた者達を……!」
その言の葉が引き金となったか。
線路を覆っていた幻朧桜並木が『菖蒲』の意志に応えて完全なる漆黒に染まり。
弾丸列車を、文字通り『覆い尽くした』
窓口や隙間から、次々に潜り込んでくる影朧と化し、自らの仲間を殖やさんと人々に迫り来るそれらの『闇』
その闇の深さに覆い尽くされ、世界から影朧に隔離されてしまった弾丸列車の中で。
――超弩級戦力達が選ぶその道は……。
*第1章の判定の結果、第2章は下記ルールで運営致します。
1.フラグメントの差替えが発生しました。下記が基本フラグメントとなります。
【POW】狙われた皇族を身を挺して守る
【SPD】弾丸列車に飛び込んでくる影朧化した幻朧桜を破壊或いは転生させる
【WIZ】乗客達の安全を確保する
上記はあくまでも一例です。
弾丸列車及び、車両に乗る人々と、『竜胆』を守るための最善の行動を取れば、それがプレイングボーナスになります。
2.今回は各車両のどれかにPC達が乗車した状態でシナリオが始まります。
どの車両から皆様がスタートするのかを其々に、指定して下さい。
プレイングの冒頭に【1】の様に下記車両に振られている番号を記入することで、指定車両に乗車していると判定します。
第1章に参加して下さった皆様も、最後に描写された車両からプレイングをかける必要は必ずしもございません。
下記9種類の車両があるとします。
車両の後ろの()内の数字は、乗客及び乗務員が、その車両にどれ位人がいるかの目安です。
【1】機関室及び運転席のある先頭車両(乗務員数名程)
【2】皇族の為に誂えられたVIPルームのある特別車両(竜胆、菖浦)
【3】VIPルームの隣のスタッフルームつき車両(乗務員4~5名程)
【4】食堂車両(乗客20名、スタッフ5名程)
【5】社交界用特別車両(乗客10人程)
【6】一般乗客登場車両(乗客40名程)
【7】客室のみで構成された車両(10部屋程。うち8部屋に乗客がいます)
【8】貨物車両(乗務員10人程)
【9】VIPルーム除く、各車両の中間のスタッフルーム付き地点(警備員及び乗務員が各ルームに数名程)
3.この章で影朧を撃破する事は不可能です(第3章が決戦となります)
4.警備員、乗務員を救出するか否かはお任せ致します(判定に影響を及ぼしません)
但し、彼等は今は突然の奇襲にパニックになっていますが、第1章で情報を渡されているので、説得し、協力を要請すれば一般人の避難に協力してくれます(プレイングボーナス扱いです。このプレイングボーナスはPCの誰かが達成すれば、PC全体へのプレイングボーナス扱いとします)
5.【フェアリーランド】の様な「新しい空間を作り、人々を保護する」系統のUC及びプレイングは、それ単体では無効です。
予め迫り来る幻朧桜に対策を行い、安全を確保した車両にした後にそれを使用することで効果を発揮します。
6.竜胆は下記ユーベルコヲドを使用する事が可能です。
UC名:ビブリオテーク・クルーエル
効果:【過去から学んだ全ての記憶】から【類似する事例】を発見する事で、対象の攻撃を予測し回避する。[類似する事例]を教えられた者も同じ能力を得る。
但し竜胆は『自分』を守るために、このUCを使用することはありません。
もし竜胆にこのUCを使用して欲しい場合は、【POW】相当のプレイングを行った上で、竜胆への説得が必要になります。
――それでは、最善の結末を。
鳴上・冬季
巡回警備で先頭車輌を折返した所だったので即引返し先頭車輌に飛び込む
「すぐ車輌を安全に止めなさい、このままでは元の空間に戻った途端脱線しますよ!外の影朧桜は全滅させます!」
言いつつ黄巾力士金行軍14体召喚
「5・4・5!制圧射撃・攻撃又は築陣・オーラ防御、この場の人命保護優先で影朧桜を殲滅しろ!」
普段連れ歩く黄巾力士は車輌間の屋根破らせVIP車輌上で影朧桜殲滅を命じる
自分は風火輪で通路上部隙間を空中機動&空中戦ですり抜け後部車輌目指し飛ぶ
なお各車両で同じように14体ずつ黄巾力士金行軍召喚し同じ命令
その際1~2車輌間に居た乗務員は先頭車輌
2~3車輌間に居た乗務員は3車輌
3~4車輌間は4車輌へと乗務員を追いたてつつ各車両で避難に適した場所聞きそこへ乗客を集めつつ黄巾力士に保護築陣させる
鍵のかかった個室は仙術+功夫で掌底してドアぶち破り乗客保護
(乗務員に乗客が集まるに適した場所を確認→乗客集めつつ黄巾力士召喚→保護築陣始めたら次の車輌へ飛ぶの繰り返し)
全黄巾力士召喚後自分も外へ
雷公鞭で影朧桜に雷撃
ウィリアム・バークリー
【3】
こういう状況では、まず安全地帯を作らないといけません。
竜胆さん、この窓に氷の「属性攻撃」を使った「結界術」で障壁を張ります。
これでそう簡単に桜の枝は入ってこられないはず。
特別扱いは嫌かもしれませんが、敵の最重要目標であるあなたが一般の乗客に紛れると、そちらへの攻撃が激化するかもしれませんので。
それに、後々影朧の暗殺者が乗客乗員を巻き込むかもしれません。
あなたは大人しく『隔離』されていてください。お願いします。
通信機で他の猟兵と情報交換しつつ、状況に対応していきます。
通路側から入り込んでくる枝は、ルーンスラッシュで切り払って。
侵入してくる枝が途絶えたら、状況確認のため通路に出てみましょう。
ミハイル・グレヴィッチ
【1】
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
おーおー、竜胆のみならず、俺ら猟兵も殺す気満々みてぇだな。おっかないね、ちびりそうだ。(けたけた笑いつつ)
列車の先頭の機関車でUCを使い敵を迎撃。
傭兵時代に輸送車両群の護衛を散々やらされた経験則からみて、列車も同じだ。動きを止められたらアウト。だから車内に侵入する影朧のみならず、機関部を狙う影朧も攻撃。まぁこの影朧に覆いつくされた状況下じゃ、列車を走行させ続ける意味があるのか微妙だが、列車の走行能力は維持させといて損はない筈だからな。
同時に、機関車の乗務員に発破をかける。
おら、ぼさっとしてねぇで、死にたくなかったら給料分以上働きやがれ!
灯璃・ファルシュピーゲル
【9】開始で【SIRD】一員として密に連携
静かに出来そうもなければ、列車ごとですか…テロ犯はどこでもやはり陸でも無いですね(溜息つきつつ)
まずは迅速な避難の為、警備要員詰め所と乗務員室の周囲の枝を(制圧射撃)し掃討。警備資料から列車の整備詳細図面を提供してもらい、照らし合わせつつ局長や仲間と逐次情報交換して、安全区域を設置する車両とそこまでの避難経路を策定していきましょう
同時にUC:ウロボロスアーセナルで小型無線機と対枝用にショットガンを作成しSPに配布、ここは彼らのホームベースですし、迅速に乗客を誘導出来るよう情報共有して協力していきます。
護送時は自身が先頭、後尾に警備や仲間に就いてもらい。図面と共有情報を元に、指定UCで枝が入り込もうとする隙間や窓を移動しつつ防火シャッター代わりに黒壁で閉鎖し切断しつつ侵入を妨害。侵入済みの枝は確実に射撃で破壊し乗客を安全区域に送り届け。一般人の避難完了後は周囲に黒壁を張り巡らし強化して防御線を構築しておきます。
※アドリブ歓迎
御園・桜花
【2】
菖蒲と正対し
「貴女が本物であろうと偽物であろうと構いませんけれど。今上帝に連なる竜胆さんを害そうとした事と転生を否定する事。私、とても怒っているんです」
莞爾と笑う
「貴女へのとても効果的な嫌がらせを思い付きましたの…幻朧桜召喚・桜死」
特別車両の窓の内側に幻朧桜の林を戦闘に邪魔にならない範囲で召喚
「生きている方が転生を願っても何も起きませんし死にたくもなりませんけれど。影朧の貴女が転生を願えば弱体化は覿面です。そして願わなければ貴女の生命力も行動速度も思考能力も半減します。私の召喚した幻朧桜ですから、グラッジパウダーも効かず影朧化も出来ません…私を倒す迄は」
高速・多重詠唱で桜鋼扇に破魔と浄化の属性付与し最前線で菖蒲と殴り合う
半減させれば、他の猟兵達が集まる迄、攻撃を自分に集中させ竜胆へ向かわせず、単騎でも持ち堪えられると踏んだ
口笛や腕を振る動作で影朧桜を操ったのを見たので腕や顔を積極的に殴り飛ばす
敵の攻撃は第六感や見切りで躱し盾受けからカウンターしてシールドバッシュで殴り飛ばしたりする
烏丸・都留
【6】
SIRD一員との連携
WIZアドリブ共闘OK
UCで自身や装備群を無敵化状態運用。
前章継続、自身は保護状態を粧う。
各車輌のCICユニット(身代り)経由で無数の各装備群を管理運用。
適宜装備群の配置転換。
メンテナンスユニットは他車輌への出入口等に偽装配置、乗員に擬態済クラスタードデコイ/エレボスの影等により客等を誘導保護。
各車輌の乗客保護済メンテナンスユニットは、解放済客車か(別空間潜伏中の)自身器物内に一時的に即時配置転換で退避。
隠密状態の装備群は、上記の誘導保護と敵の欺瞞陽動。
要人周辺の擬態中アイテールの護衛隊は自動防御/撃退。
無数のガードユニットは自身や味方、乗員全てを範囲防御/攻性防御。
馬県・義透
【4】
避難を考えるにも、まずは列車の中しかないというやつですねー。
こういうときはー、あなたに代わりますねー。
※人格交代※
第四『不動なる者』まとめ&盾役武士
一人称:わし 質実剛健古風
武器:黒曜山(刀形態)
防衛は我が領分であるからな。
そしてここは食堂車。おそらく、視界があけており一時避難するのに向いておる方であろうよ。
襲い来る幻朧桜を敵認定。
UCつきの黒曜山を振るおう。幻朧桜へ斬りつけつつ、余分な斬撃波を出して列車内にぶつけ、内部地形を変えていく。…まずは床部分からな。
こうすることで、徐々にここでの攻撃を無効化していき、安全圏を作っていく。
そうすれば、戦う力のない乗客を守れるというものよ。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動 【2】
状況は非常に危機的です。一刻の猶予もありません。
交戦規定はウェポンズ・フリー。各員全周防御を取りつつ、乗客乗員の避難を最優先で行って下さい。
竜胆さんのいるVIPルームに入り直接竜胆さんの護衛に就きます。
緊急事態ですので、ルームのドアを蹴破ってでも中に入り、竜胆さんの身の安全を確保します。
同時にUCの炎の精を展開し、特別車両に侵入してくる影朧を迎撃させ、必要によっては車内にも展開させ、特別車両を、ひいては竜胆さんを守り抜きます。
また、竜胆さんにUCの使用を勧めます。
ここまで状況が悪化すると、最早竜胆さんの命だけではなく、他の乗員乗客の命も掛ってますので。
天星・暁音
【2】
面倒な事になったな…
とにかく乗客の安全確保が急務だね
他の猟兵と協力してどこでもいいかなら安全な車両を作って、人形たちに乗客の救助をお願いして連れて来て貰おう
俺自身は安全地帯の確保と維持に全力ださないとね
手が足りない所があるなら、そこに援護に入れるように目をくばらないとね
他猟兵と連携しつつ、上記通りに、俺本人は安全地帯の確保、位地に努めますが、何かしらで手が足りない場所があるなら、そちらの援護としても動きます
人形たちにはクレインで得ていた情報を元に乗客の捜索、救助活動をさせます怪力で其処らの客席をを投げてり盾にしたりもできす。
スキルUCアイテムご自由に
共闘アドリブ歓迎
ベアータ・ベルトット
【4】
込み入った事情は分からないけど、呼ばれたからには猟兵の責務を果たすまでね
竜胆の警護は他に任せ、乗員の安全確保に努めるわ
接敵前に食堂車のキッチンを漁る。新鮮な肉があれば機関の動力に出来るかも
…必要経費よ。後で請求してくれたら良いわ
UCで五感と野生の勘を研ぎ澄まし、列車内の人員配置を把握。人手が足りないエリアにブーストダッシュで直行よ
「早く逃げなさい!」
AFを放出して骨の防壁を展開、乗員をかばって避難を促す
捌けさせたら、骨壁を齧って口内にリンを蓄積。枝に向けて火炎を放射
列車への延焼を防ぐため、威力は控え目にして牽制。怯んだ所を輪餓爪でバラバラに切断してやるわ
UCを駆使して機動的に迎撃しましょ
朱雀門・瑠香
さてと・・・まずは周りの人達を落ち着かせましょうか。威厳とコミュ力で周りの乗客たちを落ち着かせて一か所に集めて置き守れやすい状況を作っておいて可能なら他の方と連絡を取り合っておきましょう。後は入り込んだ影朧を片端から破魔の力を込めて片端から斬り捨てて乗客らには近寄らせません!
とは言えいつまでもつか・・・・
館野・敬輔
【8】
【SPD】
アドリブ大歓迎
他猟兵との連携は緊密に
…影朧
世界のバランスを崩すは貴様らの一方的な言い分
だが、それ以上に菖蒲さんを貶めるような真似をした以上
ここから生きて出られるとは思うな!
貴様に戦略的撤退を選ぶ道はない!!
弾丸列車そのもの、及び竜胆の護衛は他猟兵に託し
俺は影朧化した幻朧桜に対応しよう
その間に乗客の安全を確保してくれ!
指定UC発動し、車両の数だけ分身を生成
さらに演出で【魂魄解放】発動し俺のみ魂の靄を纏い
俺と分身全員の武器に「属性攻撃(聖)、浄化」で聖なる力を宿した後
分身を各車両に1人ずつ向かわせよう
各車両に分身を配置したら
全員で窓やドアから侵入する影朧化した幻朧桜を片っ端から「2回攻撃、なぎ払い」
心の中では、桜の精達に無理やり影朧化されたことを謝罪しつつ
また転生して綺麗な桜を咲かせてほしいとの祈りを籠めながら斬る
俺自身の大ダメージは覚悟の上だが
流石にここまで数が多いと乗り切れるか怪しいな
本当に生命の危機に瀕した場合だけ
全身に漆黒の「オーラ防御、生命力吸収」を纏い防御
榎木・葵桜
乗客達の安全を確保する【4】
なかなか動きづらいとこだけど、できることは諦めずにやろう!
同じ車両の仲間とは常に連携
余力がありそうなら姫ちゃん(f04489)とも合流して対応したいな
防御は[第六感、見切り、かばう、武器受け]で対応
攻撃が必要そうなら[なぎ払い、衝撃波、範囲攻撃]で対応するよ
【サモニング・ガイスト】で田中さん召喚し、護りと避難の手を増やすね
明かりは田中さんの炎で対応できそうかな
ダメでもともと、やってみる価値はあると思うから、とにかく積極的に動くね
乗客の皆さんはなるべく固まってもらうようにお願い
声掛けは常に互いの位置を把握できるように
できるだけ落ち着いてもらえるように対応するね
彩瑠・姫桜
乗客達の安全を確保する【6】
どこも人手は必要でしょうけど
特に人数が多い場所の避難誘導と安全確保に動くわ
可能ならあお(f06218)や
同じ車両にいる仲間と連携
個々で車両の隅にいてもらうよりは
なるべく中央に固まってもらった方が護りやすいと思うけれど
この辺は場の状況にあわせて臨機応変に行くわ
声掛けは常に
乗客全員が大騒ぎしてたらかき消されるかもしれないけれど
互いの声は聞こえてた方がまだいいと思うから
落ち着いてもらうためには自分が落ち着いて声を届けるわね
[かばう、武器受け、第六感]もできる限り活用
影朧への攻撃と多少の明かり代わりに[範囲攻撃]とかけあわせて
【サイキックブラスト】とを発動させてみるわ
真宮・響
【真宮家】で参加(他の猟兵との連携可能)
初期位置:【5】
本当に無茶苦茶な事やらかすね・・・元凶を追いかけるのは後だ、まずは乗客を助けるよ!!
アタシはまず顔見知りになった乗客を助けるよ。真紅の騎士団で人手を増やすが、普通の状態だと車両に入りきらないだろうから、半分の63体を【5】の乗客の護衛に回し、もう半分の63体を【6】の方へ奏と同行させる。
いきなり戦闘態勢になって驚かせるだろうけど、非常事態だからね。情報収集の会話とはいえ、言葉を交わした仲の人達だ。体を張って守ってみせるさ。気休めだが、【怪力】【範囲攻撃】で両手の槍を薙ぎ払って影朧を追い払う。正念場だ、【気合い】入れるよ!!
吉柳・祥華
銀紗
【6】
UCで妾のいる車両に咄嗟に結界を張る
そして…誘惑・催眠術・言いくるめ、もしくは恐怖で黙らせて…
あとは、白夜のUCで一般人を眠らせてしまおうか、効くことを祈って
その後は…護鬼丸に見張り番を頼もうかのう
そして神凪に乗り込んで迫りくる影朧化した幻朧桜を破壊するのじゃ
妾では転生させることが出来ないからのう…残念ながら
UCの範囲により妾は車両付近から動けぬ
識神には範囲攻撃でのレーザー射撃による援護を
むっ、元(幻朧桜)から絶たねばなるのか?
それだけは避けたいのう…
白夜の動物たちを使って“影朧化した幻朧桜”付近にナニカ怪しいモノが無いかを調査させる
白楼と紅桜にも手伝わせて“嫌な感じ”がする場所・個所を探させる
ナニカ見つかれば冥風雪華を向かわせて破壊させる
まずは暴走する幻朧桜を鎮めるのが先じゃ
手数を増やす為に朱雀・青龍・玄武・白虎を召喚し対応するしかないのう
場合によっては手段の一つとしてと
地形を利用して龍脈を使い
そこへ…浄化と祈りのチカラを送り込んで幻朧桜の根っこから無力化…出来ればよい
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可能)
元凶を追いたいですが、まずは列車にいる皆さんの安全が最優先です。
初期位置:【5】
まず【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【受け流し】【ジャストガード】で乗客の皆さんを守りながら【衝撃波】で影朧を吹き飛ばします。妖精騎士団お手伝いを発動して、妖精騎士団の半分を援護として【4】の瑠香さんの援護に送ります。
母さんに任せて大丈夫な状況になったら真紅の騎士団と共に【6】に移動。妖精騎士団の半分と共に前述の防御態勢で乗客の皆さんを守ります。いざとなれば、【結界術】で影朧の侵入を阻止します。
兄さんが【7】に行ったら気合い入れて乗客の皆さんを死守しますよ!!
白夜・紅閻
※アドリブ連携はご自由に
・銀紗
【6】
カミサマの元へ向かう
途中で、警備員・乗務員を見つけたのなら、とりあえず一緒に来てもらい
そして、自分たちが超弩級戦力であり、他の仲間たちも一般人、そして皇族たちを守ろうとしている旨を述べて…
――と、これは…結界?
カミサマの結界が張られたことに気付き、とりあず一般人乗客者に、此処から動くな出るなとお願いする
(業を煮煮やしたカミサマに言われ)え?ぁ…ああ、わかった!!
とUCを発動させて、一般人を眠らせる
戦闘
時折UCを使いつつ眠らせつつ
白梟と篁臥を召喚し
白梟は上空から影朧化した幻朧桜へ乱れ撃ちやブレスで応戦してもらう
僕は篁臥の空中機動を使い空中戦を
もちろん、イザークとレーヴェティンを使って攻撃する
その間に、獣奏器を使い…“影朧化した幻朧桜”付近にいる動物たちに
『如何にも怪しい、嫌な感じがする場所、物、もしくは者』が無いか、居ないか調べて貰い、異変が在った個所にはカミサマの式神に頼んで処理をする
場合によっては僕が出向く羽目になるかもしれないが…
その時は仕方がない
神城・瞬
【真宮家】(他猟兵との連携可)
力技にも程がありますね。全く。まずは人命救助が先ですか。
初期位置:【6】
乗客の前に立ちはだかって月読の傭兵団を召喚。半分の63体を【7】の援護に送り、【結界術】に【マヒ攻撃】を合わせて接近を阻止、【衝撃波】で影朧を吹き飛ばしていきます。真紅の騎士団と共に奏が加勢に来て、この場を任せられそうなら、【7】へ移動し、【結界術】と【衝撃波】で影朧の足止めと吹き飛ばしを。
凄く大変な状況ですが、多くの人命が掛かってます。何とか乗り切らないと。
森宮・陽太
【1】
【一応WIZ】
アドリブ大歓迎
他猟兵との連携は緊密に
…ふざけんじゃねえ
破れかぶれで列車全部を巻き込んだか
あるいは最初からそのつもりで罠を仕掛けていたかは知らねえがよ
てめえ、生きて帰れると思うなよ!!
俺自身は先頭車両に急行し
影朧化した幻朧桜の排除及び乗務員の安全確保を優先
この状況で一番やべえのは弾丸列車の転覆だ
そうなったら大惨事になるのは間違いねえ!
意地でもこの車両、守り通すぞ!!
指定UCで先頭車両の外にスパーダ召喚
スパーダの短剣全てに「属性攻撃(聖)、浄化、破魔、優しさ」の聖のオーラを纏わせ
迫る影朧化した幻朧桜に「範囲攻撃、制圧射撃、蹂躙」で短剣の雨を降らせて浄化を狙うぜ
…スパーダ、趣向に合わねえだろうが協力してくれ
俺自身は乗務員をかばいつつお守り刀で幻朧桜を「なぎ払い」
彼らには運転に専念してもらいてぇ
こんな列車、万が一俺らが動かせと言われても無理じゃねえか…?
暗殺者ならひょっとしたら出来るかもしれねえけど…それはそれで謎が残るぜ?
※暗殺者出す(=真の姿解放)か否かはお任せで
藤崎・美雪
【2】【雪白】
【一応POW】
アドリブ大歓迎
他猟兵との連携は緊密に
…えっとですね
こうなると私、できることがほとんどないんだが
ログハウス型チャームに乗客を収納するにも、車両内の安全を確保しないとできないし
せめて暁音さんと一緒に竜胆さんの護衛に行きますか~
あ、一応瑠香さんが【4】にいるかだけは確認するぞ
弾丸列車全車両の状況把握のために
指定UCで目いっぱい影もふもふさんを呼んで全車両に散開させ状況を観察させようか
得た情報は逐次他猟兵と共有
これで少しでも動きやすくなってもらえれば良いのだが
後は【2】にいる人と協力し、竜胆さんが襲われたら身を挺しかばって「拠点防御」
竜胆さんには是非『竜胆さんご自身』を守る為に【ビブリオテーク・クルーエル】を使ってほしいところなので説得しよう
発見した事例は、我々のためになるだろうが
それ以上に竜胆さん自身のためにもなる
ご自身の為に使わない理由はないのでは?
…それとも何だ
貴方は女性にご自身を庇わせるつもりかね?(にっこり笑いつつ)
…って私が竜胆さんを脅迫してどうするんだ
文月・ネコ吉
【7】
仲間と連絡取り合い、連携して行動する
客車全体にオーラ防御を展開し、漆黒の桜の攻撃から乗客達を護る
ここは客室が分かれている分、他の車両より見通しが悪い
乗務員も居るなら協力を頼みつつ
助けに来た事を大声で呼び掛けて乗客達を落ち着かせ
全員を通路に集めよう
仲間が別車両に安全地帯を作ってくれているなら
そこへ避難するよう誘導する
動けず残っている者はいないだろうか
大丈夫、こう見えて俺も超弩級戦力の端くれだ
体は小さくとも怪力で何とかしよう
必要なら医術で応急処置もする
防御を突破してくる攻撃は『八重雨ノ思考』で看破
乗客達を庇い、衝撃波で攻撃を弾き飛ばす
乗客も乗員も
誰一人犠牲になんてさせるものか!
※アドリブ歓迎
クラウン・アンダーウッド
【9】
一先ずは警備員や乗務員の方の救援をしよう。
カバン型移動工房より全からくり人形を呼び出して投げナイフで武装、脅威の無力化を図る。
業務員改め猟兵 クラウン只今登場♪皆さんの安全はボクが保証しよう。だから皆さんにはボクの様な猟兵の指示に従って乗客の避難誘導をお願いするよ。お互いの職責を果たそうじゃないか♪
蝶々の形に変化させたUCの炎を警備員や乗務員の周囲に展開させる。自身は車両の窓から外に出て屋根に登り、車両に脅威が侵入しないように立ち回る。
文月・統哉
【3】
仲間と連携し行動
皇族付きの乗務員にはテロに備えUC使いも居るだろう
緊急時には身を挺し皇族を庇う覚悟だろうが
今行かせる訳にはいかない
変装解き正体明かして協力をお願いする
皇族の方々の護衛は私達超弩級戦力に任せて下さい
皆さんは他の車両の乗客の避難誘導をお願いします
誰一人犠牲にしない為に、皆さんの力が必要なのです
庇う特化の着ぐるみナインを召喚
7体を乗務員達と共に後方へ送り
2体と自分は【2】へ急ぎ影朧の抑えに回る
単に皇族を狙うなら菖蒲さんでも良かった筈
竜胆さんを狙うのは相応の理由があるのだろう
竜胆さん、貴方は彼女も救いたいのでは?
ならばやるべき事がある筈だ
嘗て何があったのか、全部話して頂けますね?
●
――漆黒の幻朧桜……闇に包まれた弾丸列車のその中で。
「状況は非常に危険ですね。此では、一刻の猶予もありません」
G19C Gen.5を『菖蒲』に突きつけながら、そう小さく呟いたのはネリッサ・ハーディ。
『菖蒲』の背後には竜胆がいるであろうVIPルームへの入口。
その窓口や通気口からも幻朧桜が今にも入ってきているかも知れないと言う懸念がその胸を過ぎる。
『超弩級戦力……! 貴様達は……また!』
憤怒と憎悪に塗れた剣呑な光を瞳に宿した『菖蒲』がさっ、と其の左手を上げようとするが。
「あら? そんなこと、私達の前で出来る訳が無いに決まっているじゃないですか」
眩しい程に完爾とした笑顔を向けた御園・桜花が開いていた桜鋼扇をふわりとその場で空中を舞わせる。
桜の花弁の刻印が、ユラリ、ユラリと陽炎の様に舞って花吹雪の嵐と化して『菖蒲』の上げた左手を打擲。
思わぬ鋭い鉄製の扇の痛みに微かに憎々しげに表情を歪めた『菖蒲』に同調する様に、列車に入り込んだ枝達が脈動する。
蠢き列車中に既に入り込み、人々を襲って自らの同胞を作り上げようとする影朧化した幻朧桜。
其れを見たネリッサがその翡翠の瞳を鋭く細め、小型通信機を全オープンにして鋭く声を発してた。
「SIRD――Specialservice Information Research Department全局員へ。交戦規定、ウェポンズ・フリー。各員、全周防御を取りつつ、乗客全員の避難を最優先にして、緊急ミッションを開始して下さい」
『Yes.マム!』
其のネリッサの合図を聞いて。
ミハイル・グレヴィッチ、灯璃・ファルシュピーゲル、鳥丸・都留等……SIRD所属の局員達の返事が響く。
その間にも、『菖蒲』が自らと意識を同調させた影朧と化した幻朧桜達にこの列車を文字通り『食』させようとするが。
「貴女が本物であろうと、偽物であろうとも私には構いませんけれど」
不意に、軽く足踏みをその場で行おうとした『菖蒲』の周囲を、温かな桜色に満ちた幻朧桜の群が現れた。
『何……っ?! 何故この中に我が招き入れた以外の幻朧桜が……?!』
そんな『菖蒲』の動揺に。
桜花が完爾と笑いながら、バサリと、再び桜鋼扇を優美に翻した、刹那。
「今上帝に連なる竜胆さんを害そうとした事と、転生を否定する事。私、とても起こっているんです」
その桜花の殺気の籠められた声に応える様に。
『菖蒲』の周囲に召喚された幻朧桜が巻き起こした桜吹雪が吹き荒れて、それが、『菖蒲』の体を覆う。
――転生を、願え。
桜吹雪から重圧と化して迫り来る『命令』を拒絶する様に咆哮する『菖蒲』
だが、その間『菖蒲』はまるで枷が嵌め込まれたかの様にその動きが鈍っていた。
『くっ……何……?!』
「桜花さん、これは……」
スローで再生された動画の様に目に見えて『菖蒲』の動きが鈍る姿を見た、ウィリアム・バークリーの問いに、笑顔で返す桜花。
「この方は、私が足止めしておきます。簡単に均衡が崩されてしまうと言う事も無いとは思いますが、今の内に今上帝に繋がる竜胆さんをお願いします」
その桜花の笑顔に何故か気圧される様に頷きながら。
「……分かりました。急ぎましょう、ネリッサさん!」
ウィリアムのそれに頷き、ウィリアムと共に、チーターの様に其の脇を駆け抜けたネリッサが、竜胆の部屋の扉を蹴り開けた。
●
「この様な手を使ってきましたか。急ぎ行動を開始しなければなりませんね」
くるり、と先頭車両とVIPルームの間の通路を回れ右しながら。
迫り来る幻朧桜の枝を雷公鞭から解き放った雷光で撃ち抜きながら、鳴上・冬季が先頭車輌……運転席へと飛び込む。
冬季が飛び込んだ其の時には、運転手が悲鳴を上げている姿が目に入った。
そしてその運転手が、今にも幻朧桜の枝に巻き付かれ、其の体を締め上げられ、命の灯火を失おうとしている様子も。
「一足遅かった様ですね」
微かに嘲笑する様な呟きと共に。
連れていた宝貝・黄巾力士が肉薄し、運転手から力任せに幻朧桜の枝を引き剥がし、そのまま握りつぶした。
「あ、あなたは、もしかして……帝都桜學府の……?」
奇跡的に一命を取り留めたのに胸を撫で下ろす様にへたりこみかける運転手。
けれどもその運転手の腕を掴み取り、冬季が些か鋭い語調で言葉を続ける。
「直ぐ車輌を安全に止めなさい。このままでは、元の空間に戻った途端、脱線しますよ! 外の影朧と化した幻朧桜は全滅させます!」
鋭い語調で冬季に命じられ、はっ、とした表情になって慌ててハンドルに飛びつく運転手。
その間に厳しい表情の儘に冬季が素早く仙術を詠唱し。
「5・4・5! この黄巾力士達が、あなたの護衛をします。時期に超弩級戦力の誰かが此方にやって来るでしょう。ですのであなたは元の空間に戻った時の脱線を避ける事に全力を注いで下さい!」
「はっ……はい!」
キビキビと命令を下した冬季の其れに運転手が頷き、運転席に座って運転に着手。
そんな彼の真正面の硝子を突き破り、枝が侵入しようとするが。
「5体防御! その者を死守し、更に迫る敵を殲滅せよ!」
冬季の的確な指示に頷き、5体の黄巾力士が黄巾色の結界を張り巡らして其の枝の侵入を食い止めて。
更に9体の黄巾力士が一斉に手持ちの小筒から魔弾を発射し、枝を撃ち抜いた。
「さて、少しの間は此で保つでしょう。後は超弩級戦力達が来るまでに、私は、私の役割を果たしましょうか」
誰に共なくそう呟き。
先程、運転手の危機を救った黄巾力士に車輌間の屋根を破らせ、直ぐに竜胆のいるVIPルームのある車輌へと向かわせた。
●
「……ふざけんじゃねぇ。破れかぶれで、列車全部を巻き込むとかよ……!」
(「それとも、最初からそのつもりで罠を仕掛けていた? ……いや。其れだったら何らかの兆候はあった筈だ」)
抑えきれぬ憤怒を口に出すのとは裏腹に、何処か冷えた心持ちで今の状況を冷静に分析しつつ先頭車両に向かうのは森宮・陽太。
(「くそっ、あの野郎……生きて帰れると思うんじゃねぇぞ……!」)
だが、先ずは先頭車両の乗務員達の安全の確保が先だ。
憤怒で目前が真っ赤に染まり、目から火花が飛び出そうになる陽太だったが、今、一番危険なのは何処なのかは理解していた。
(「運転手達に何かあったら、グリモアベースに強制転移されるだろう俺達はともかく、竜胆どころか、列車の乗員も全滅しちまうぜ……!」)
その陽太の内心の声をまるで聞いていたかの様に。
激しい戦いの音が先頭車両の方から響き渡り始めたのを聞いて、陽太がくそっ、と逸る心を抑え込む様にして駆ける。
「もう始まっちまっているのか。急がねぇと……!」
その陽太の手元に、ポトリ、と一枚の式神が貼り付いた。
陽太がちらりと其方に目をやって、其れが冬季の式神だと気がつくには訳もない。
「――運転手。黄巾力士14体に守らせている。時間稼ぎ。至急、援軍をこう」
――背後の方からも、聞こえてくる激しい戦いの音。
更にVIPルームを横切る時、美しい桜が吹雪の如く舞っていた様にも見えたが、陽太は其方には一瞥もくれない。
「そっちは皆を信じるしかねぇ……! 皆、頼んだぜ……!」
内心での其の呟きと、共に。
先程、冬季が黄巾力士に開けさせた風と枝が入り込む其方に向けて、陽太がダイモンデバイスを構える。
其の銃口の先に描かれたのは、中央に捻れた2つの角を持つ漆黒と紅の悪魔の描かれた魔法陣。
そして、魔法陣の中央に描かれた悪魔の名は……。
「……スパーダ!」
引金を引くと同時に、ダイモンデバイスに詰め込まれた弾丸が撃ち込まれ、その名を呼ばれた悪魔が。
「グルァァァァァァァァッ!」
其の手に紅の短剣を持ち咆哮しながら姿を現す。
其のスパーダに向けて。
「スパーダ! 迫る影朧化した幻朧桜に浄化の短剣の雨を叩き付けてくれ! お前の趣向には合わねぇだろうが……!」
依頼した陽太の願いが通じたのか。
やや不本意そうでありながらも、確と咆哮したスパーダが、1190本の紅の短剣を自らの周囲に召喚。
その剣先に描き込まれた複雑な幾何学紋様が聖なる白き光を迸らせ、迫り来る漆黒の幻朧桜の枝を次々に迎え撃った。
ぶつかり合う度に、目も眩みそうな激しい閃光が迸り、瞬く間に幻朧桜を浄化するのを見ながら、急いで運転席に飛び込む陽太。
そこには、冬季が残していった14体の黄巾力士達が、5・4・5で隊列を組み、黄巾を思わせる結界で運転手達を守る姿が見えた。
だが、それでも無限にも等しい幻朧桜達に、やや押され気味の黄巾力士達。
幻朧桜の魔の手が運転手に届くよりも、先に。
「やらせるかよ!」
陽太が叫びと共に、お守り刀を抜刀し、一閃。
水晶色の剣閃が走って、運転手に飛びつこうとしていた幻朧桜を斬り裂いて、素早く彼の背を守る様に立ちはだかった。
「おい、冬季の黄巾力士達! 加勢に来たぜ! 俺とスパーダが出来る限り迎撃するから、お前達は護りに専念してくれ!」
(「だが……此処も中枢である以上、更に多くの幻朧桜に襲われかねねぇ……か」)
こんな事件に巻き込まれて、死んでしまえば、人々はさぞや無念であろう。
その無念故に、影朧として現世に留まり、結果として影朧の増殖を助長させてしまう結果になる。
「……ダメだ。そんな事はやらせられねぇ……! 負ける訳にはいかねぇんだよ!」
自らの胸中に芽吹く不安を除ける様に、陽太が吠えた。
●
「陽太さんだったかしら? 一応、1人は運転車両の護衛に14体の黄巾力士と共に護衛に付いたみたいだけれど……」
その陽太の咆哮を、対情報戦用全領域型使い魔召喚術式で受領し、CICユニット経由で其れを聞きながら。
都留が告げたその一言にけたけたとミハイルが笑う。
無数の枝達が潜入し、一般車両の人々が襲われそうになっている姿に、素早く小脇差で切り払いながら。
「おーおー、竜胆のみならず、俺等猟兵も殺す気満々みてぇだな。おっかないねー、ちびりそうだー」
「……口元が笑っているわよ? とてもそうには思えないわね」
澄ました顔の都留の其れに、そうか? とわざとらしく首を傾げるミハイル。
「……ですがミハイルさん。森宮さんと、鳴上さんの黄巾力士14体だけで、ある意味で列車の核である運転席を守り切れるとは思いません」
其の話を通信機越しに聞いていた灯璃の其の指摘にわーた、わーたとまるでそこに灯璃がいるかの様におざなりに手を振って。
「まっ、元々俺にはこんな窮屈な場所で戦うよりはそっちの方が気楽だ。此処じゃ、撃ち放題って訳にも行かねぇしな」
軽く肩を竦めてそう答えるミハイルに、今、正に襲い掛かろうとする幻朧桜の枝から放たれた漆黒の桜吹雪。
美しい花には棘があるとを体現した矢雨の様にミハイルに襲い掛かる其れを……。
「なら此処は、ぼく達に任せて貰いましょう。……共に行こう、我が同胞達!」
――カン、と。
叫びと共に神城・瞬が大地に月虹の杖を叩き付けた。
瞬間、瞬の隠れ里の一族秘伝の月読の紋章が大地に描き出され、そこから126体の大地に描かれた紋を付けた傭兵団が姿を現す。
其々にふてぶてしい笑みを浮かべ、雑種多様な武器に身を包んだ傭兵団達の額に描き出されているのは【1】の数字。
「63体は、客室のある第7車両へ。ミハイルさん、此処はぼく達が食い止めますから、陽太さん達をお願いします」
「へっ……しゃーねぇな。じゃ、後で一杯奢れや、神城」
冷静な瞬の其れに、口元に鮫の笑みを浮かべ、サングラスの奥の金の瞳を光らせるミハイル。
そんなミハイルに、ぼくは……と至極真面目な表情で律儀に。
「奢るのは構いませんが、未成年ですよ? お酒は飲めませんので、悪しからず」
と応える瞬に、サムズアップをしてその肩を叩き、猿の如き速さで車両を駆け抜け、陽太の戦う先頭車両に向かうミハイル。
其のミハイルの背を別の幻朧桜の枝が貫かんと襲い掛かり、更に他の枝達が一般人を同時に狙ったが。
「ホッホッホ。妾のことを忘れて貰っては困るでありんすな?」
何処か蠱惑的な笑みを口元に浮かべるや否や、その場に張り巡らされたのは、白銀色の結界。
瞬の呼び出した傭兵達の背から飛び出して逃げだし、其の命を絶たれようとしていた人々を包みこみ、その攻撃を防ぎ。
……更に。
「ミハイルさんの代わりってつもりはないけれども……やれるだけのことは、やってやるわ!」
――バチリ! バチリ!
不意に突如戦場と化したその場所に、電雷が這う様に飛び交った。
竜の姿を象ったその高圧電流が、戦場を震撼させ、枝を痺れさせている。
「……ふむ、彩瑠でありんすな」
その様子を見て、カラコロと軽く鈴の鳴る様な声で笑う祥華に、そうね、と微かに頬を赤らめた彩瑠・姫桜が首肯した。
突然の雷撃に人々は驚きのあまり、ピン、と背筋を伸ばし、驚いた様に震えていたが、姫桜がそんな彼等に大丈夫よ、と強気の笑みを浮かべる。
――その腕に嵌めた銀の腕輪に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面は、姫桜の気恥ずかしさを現すように、小刻みに波を刻んでいたけれども。
「食堂の方はあお達に任せて一番人手が必要そうな此方に来たわ……。迷惑……だったかしら?」
その姫桜の呼びかけに、いえ、と軽く瞬が頭を横に振った。
「未だ、人々の説得も避難先もありませんから。人手は多いに越したことはありません。兎に角先ずは人々を落ち着かせるかどうかしないと……」
瞬が自分の背に庇った互いに抱き合うカップルの方を振り返った時。
「――と。これは……結界?」
其の呟きと、共に。
数人の警備員と思しき人物を引き連れた白夜・紅閻の其れに、祥華が。
「白夜か」
と聞き返すのに、ああ、と紅閻が小さく頷いた。
周囲を走る様に流れる高圧電流、更には63体の額に【1】の刻み込まれた傭兵達の姿を見て警備員達が一瞬呆気にとられるが。
「此が超弩級戦力の力だ。今の内に人々の避難誘導と説得をお願いしたい」
そう告げる紅閻のそれに、我に返った警備員達が、慌てふためく人々に落ち着く様にと声を掛けていた。
唐突に始まった乱戦。
超弩級戦力である姫桜達にはよくあることではあるが、突然理不尽に見舞われた人々がパニックになるのは無理ないことだ。
中々に鎮まらず、騒ぎ、中には幻朧桜によって破壊された窓から外に飛び降りて脱出を図ろうとする者達までいる。
慌ててその人間の服を掴んで引き戻す警備員達を喰らわんと、幻朧桜の漆黒の桜吹雪が雨の様に降り注ぐのに。
「ダメよ。あなた達にくれてあげる命はないわ」
そう粛々と言の葉を紡いだ都留が、乗員に擬態していた対UDC/NBC対応自立戦略生体型クラスタード・デコイを射出。
飛び込む様に幻朧桜にぶつかったそれが幻朧桜と共に爆ぜ、そこに瞬が月虹の杖の先端から衝撃波を放射。
その爆発の衝撃を最小限に収めた所で、直ぐに次の幻朧桜が列車内に飛び込んでくるのを捉え。
「……そう簡単に諦めてはくれないって訳ね。でもね……誰の命もあなた達に渡したりはしないんだから……!」
姫桜がグッ、と両掌を握りしめ、再び高圧電流を双腕に籠め始め。
――バシャーン!
凄まじい音と共に、車両と車両を繋ぐ連結部の天井をぶち抜いた5・4・5の黄巾力士達が一般車両へと雪崩れ込み。
その場で黄巾色の結界を張り巡らし、祥華達の結界を更に強化した。
●
「母さん、兄さんは無事に一般車両の方に入れたみたいです。しかし……」
語調に微かな心配を滲ませながら。
真宮・奏が呟きながら、先程まで母、真宮・響が歓談していた女性を咄嗟に脇に押しやる。
地面に倒され悲鳴を上げる彼女だったが、構わず奏はその上に覆い被さった。
其れとほぼ同時に、奏と倒れた彼女を背中から刺し貫こうと迫る幻朧桜の枝。
「本当に、無茶苦茶なことやらかしてくれたね……! この仮は後でノシツケテ返してやるよ!」
その叫びと、共に。
響がその枝を切り払わんと赤熱した長剣、ブレイズフレイムを抜き、其の枝を焼き払う。
突然の非常事態に其処で今まで歓談を楽しんでいた人々が表情を青ざめさせ、わたわたとその場を逃げだそうとするが。
「待って下さい! 今、此処で下手に動くのは危険です! 皆さんは私達超弩級戦力が必ず守ります! 落ち着いて私達の回りに集まって下さい!」
女性を助けて立ち上がった奏が必死になってそう声を張り上げた。
そのまま女性から手を放して両手を組み、祈る様に。
「妖精の騎士の皆さん、お手伝い、お願いするね!」
詠唱と共に、126体の【額】に1と刻印された騎士の姿をした妖精達が姿を現した。
短剣の様にこの場では取り回しの良い武器を構えた騎士達が、次々に雪崩れ込んでくる幻朧桜の枝を切り払うが。
(「……ダメ! 今のままじゃとても……!」)
間に合わず迫り来る漆黒の桜吹雪から身を張って守るべくエメレンタル・シールドを構えた時。
「少し遅くなって悪かったね。アンタ達、出番だよ!」
響が雄叫びを張り上げて、126体の【胸】に【1】と刻印の施された真紅の鎧の騎士達を召喚する。
響の心を現すかの様な燃える真紅の鎧に身を包んだ騎士達が、手に剣や槍を構えて、それらを風車の如く回転させると。
放たれた熱風が幻朧桜の漆黒の桜吹雪を焼き払った。
其の時。
「……響さん、奏さん、無事だったか!」
客室車両の方から姿を現した2人の影。
この状況で落ち着いて行動出来る凸凹な2人、と言えばそれはもう限られている。
即ち……。
「美雪さん! 暁音さん!」
奏が喜色満面の表情で藤崎・美雪と天星・暁音を迎え入れた。
「アンタ達、無事だったんだね。確か客室を借りていた、と聞いていたが」
響の確認に、軽く冷汗を垂らしながら、ああ、と軽く頷く美雪。
その表情に途方に暮れた、曇ったそれを貼り付けながら。
「本来ならログハウスで避難場所を作るんだが……よく考えたら、今私達は骸の海の中に居る様なものだからな。このままだと何が起こるか分からないので一旦保留にしたんだ」
曇った表情の儘告げる美雪の其れに、暁音がそうだね、と同意する。
「それで、俺達は竜胆さんの所に向かう予定だったんだ。この状況なら指揮場を作った方が、人々の安全の確保もスムーズに行きそうだから」
其の暁音の言の葉にそうだね、と頷き。
「それでしたら、瑠香さん達の様子を見て貰うついでに、この子達を食堂車両の方へ連れて行って貰えないですか?」
其の周囲に召喚された、126体の内、半数である63体の騎士の姿をした妖精達の方に目をやりながらそう依頼をする奏の其れに。
「それじゃあ此処は任せたよ、響さん、奏さん」
告げる暁音の其れに響と奏が頷くのを確認し、竜胆達のいる車両に続く通路を駆け出す美雪と暁音。
其の行方を遮る様に大量の枝葉が車両同士の連結部を破壊しようとするが。
――ドドドドドドドッ!
その後方から姿を現した14体の黄巾力士達が、一斉に光輝く弾丸を一斉掃射し、その枝葉を叩き潰す。
「……冬季さんの差し金だね。急ごう」
呟きながら黄巾力士達の脇を通り抜けながらの暁音の呟きに。
「……ああ、そうだな。私達を最初に送り出してくれたネコ吉さん達の為にもな」
自分達が移動する前にいた客室車両とそこに残った文月・ネコ吉の事を思い出しながら、美雪がそっと囁いて。
小型通信機でネコ吉へと連絡を入れた。
●
――客室車両。
複数の個室があり、その中に居るであろう乗客達を襲い、喰らわんと漆黒の佐倉の猛吹雪が吹き荒れる。
今にも客室事人々を飲み込み、彼等を自らの同胞にせんことを欲していたが。
「させるかよ!」
ネコ吉が叢時雨を突き出し生み出した銀色の結界を展開、その桜吹雪を防御した。
と……此処で。
「ネコ吉さん、無事か!?」
小型通信機に美雪の安全を確認する声が聞こえ、ネコ吉が其れにああ、と頷く。
其の時には複数の枝がネコ吉を絡め取らんと蠢いていたが、自らの思考を加速させ。
ネコ吉が軌道を推理、予測しその攻撃を正に猫の様な身のこなしで躱しながら。
「大丈夫だ! と言っても、俺の防御だけじゃ、全員を守る事は出来ないな。せめてもう少し援軍がないと……」
――手が足りなくなる。
そうネコ吉が告げようとした、正にその時。
――ドタドタドタ!
とけたたましい足音と共に、63体の額に【1】と刻まれた月読の紋を付けた傭兵団が現れ、ネコ吉に加勢した。
更に降下隊宜しく、反対の連結部の天井を突き破って14体の黄巾力士達が現れて。
各部屋の扉を蹴破る様に飛び込み、乗客達の様子を確認、或いは黄巾色の結界を張り巡らして、人々を守る行動に移っていた。
――更に。
「やれやれ、此はまた派手なショーが始まったものだねぇ。中々に面白くなってきたじゃないか! It’s Show Time!」
何処かハミングでも口ずさむかの様な声が黄巾力士達が飛び込んできた連結車両の方から聞こえてきた。
そこにいた懐中時計のヤドリガミ……クラウン・アンダーウッドは、自作のカバン型移動工房から10体のからくり人形を呼び出し。
「さぁさぁ、乗務員の皆さん、超弩級戦力奇術師クラウン、只今登場です♪ 皆さんの安全はボクが保証するから、ボクの様な超弩級戦力の指示に従って乗客の避難誘導をお願いしまーす♪ ねえ、ネコ吉さん?」
その乗務員室にいた数人に対して、茶目っけたっぷりにウインクし、10体のからくり人形達に持たせた投げナイフを一斉投擲。
投擲されたナイフが殺戮を欲しいままにしようとしていた幻朧桜達に突き立ち、其処から獄炎の炎が溢れ出し、枝達を『癒』す。
そう……心身を癒し、暖める地獄(慈愛)の獄炎が。
投擲ナイフに纏わされた20近くの獄炎が、幻朧桜の影朧化した魂を燃やし、健常な状態……普通の幻朧桜に戻していく。
更に残った炎の内の幾つかが最初の漆黒の黒吹雪で傷ついた乗務員達に纏わり付き、その傷とパニックを鎮めていた。
「幻朧桜も『菖蒲』に無理矢理、影朧化させられているのか……?」
その様子を目の端に捉えたネコ吉の呟きに。
「分かりません。ですが、今は出来ることをやるべきでしょう」
JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioでその呟きを傍受した灯璃がネコ吉に告げ、ネコ吉がそうだな、と首肯する。
(「後部車両の方は、ネコ吉さん達に任せておけば大丈夫そうですが……それにしても」)
「全く……静かに出来そうも無ければ、列車ごと……とは。テロ犯は、何処でもやはり碌でもないですね」
思わずそう溜息を漏らした灯璃は、食堂車両と、特別車両の間の連結部の警備員室に足を踏み入れていた。
唐突な奇襲に泡を食っていたが、この列車のSPとして選ばれた精鋭だけはある。
「灯璃殿。此方が周囲の見取り図です」
灯璃が作成したショットガンでSP達が警備員室に侵入してきた幻朧桜達を撃ち落とす間に、警備責任者が警備資料の1つを広げた。
それは、警備のために必要な重要な列車の整備詳細図面。
連結部や、詳細の描き込まれた地図を見ながら、灯璃がさて、と小さく呟く。
「局長の仰るとおり、状況は芳しくありません。では、人々を安全に避難させる為には、何処に集結させるのが良いか……」
その灯璃の声を聞いていたのだろうか。
「こう言う時は、食堂車両。……視界があけており、一時避難に向いておる場所を選ぶのが最善であろうよ」
そう小型通信機を通して連絡が入り、灯璃が咄嗟に息を呑む。
「その声……馬県さんですか?」
「うむ、馬県であるかと問われればそうだとも言えるが、お主達の前にいつも姿を現す馬県かと問われれば違うとも言える。わしの名は、内県・賢好……『不動なる者』と言う四悪霊が1人だ」
そう馬県・義透――『不動なる者』、内県・賢好が厳かに告げるのに成程、と灯璃が頷きを1つ。
「何度かお会いしたことがありますね。あなたの未来予知にはいつも助けられています」
「ふむ、そう言って貰えるとわしとしても有り難い話だ。ともあれ、今わしも食堂車両に到着し、葵桜殿や瑠香殿と言ったか。彼女達を中心とした猟兵達と共に幻朧桜の迎撃をしておるよ」
告げる義透の其れに、助かります、と頷く灯璃。
「では、一先ずの避難場所として食堂車両を指定します。SPや警備員にもその様に伝達を」
そう告げる灯璃の其れに、承知しました、と責任者が敬礼し、迫りくる幻朧桜の迎撃を行う警備員達に次の指示を下す。
その様子を確認しながら、灯璃が、さて、と軽く溜息を1つ漏らした。
「後は全員の避難誘導が上手く行くかどうか、でしょうか。……やはりもう一枚、私も札を切るべきなのでしょうね」
その灯璃の決意と共に。
灯璃を中心として漆黒の霧が吹き出され、漆黒の霧が警備員室の窓や進入路になる通路を塞ぐ様にその道を覆い始めた。
●
――義透が食堂車両に入る、少し前。
目前に現れた漆黒の幻朧桜が、食堂車両で給仕をしていたウェイトレスの娘に迫るのを見て。
「正直、込み入った事情は、私にはよく分かっていないんだけれどね」
乗客として、食堂車両の隅の方に密かに座っていたベアータ・ベルトットが、今、目前で起きている状況を見て、そう呟き。
――ガシャン!
機腕でテーブルをひっくり返し、幻朧桜とウェイトレスの間に割り込ませる。
割り込んだテーブルと幻朧桜の枝がぶつかり、一瞬怯んだその隙を付いて、機械音と共に、肉薄、機餓獣爪でそれを引き裂いた。
「えっ、あなたも猟兵さんだったの!?」
驚く様に大きな藍色の瞳を見開きながら。
血に飢えた獣の如く、木々を引き裂いた表紙に溢れた樹液を浴びて、自分の傍に立つベアータにウェイトレスが問いかける。
「……あなた『も』? ええ、そうよ。私はベアータ。何故か分からないけれど、この戦いに『呼ばれた』わ。多分、こう言う不測の事態に備えて、って事だけれどね」
――その体を蝕む喰殺衝動を感じながら。
告げるベアータの其れに、ウェイトレス……否、榎木・葵桜がそう、とニコリと笑顔で続けた。
「仲間が増えるのは心強いな! 宜しくね、ベアータちゃん! とは言え、あまりのんびりしていられる状況じゃ無さそうだね」
(「本当は、ひめちゃんと合流したいところだけれど……」)
先程食堂車両から一般人達の様子を伺うべく食堂車両を出た幼馴染みの事を脳裏に浮かべる葵桜。
と……その間に。
「ねぇ、此処のキッチンに、新鮮な肉はあるかしら?」
続けざまに迫る幻朧桜から放たれた漆黒の桜吹雪を、機腕に仕込まれた銃で撃ち落としながら。
そう問いかけるベアータの其れに、態勢を立て直してバサリ、と桜舞花を開いた葵桜が軽く小首を傾げて見せた。
「えっ? 行けば冷蔵庫の中にあると思うけれど。メニューの中に肉料理も入っていたから、未だオーダー切れの話も無かったし。其れが如何して?」
「……本格的に戦いに入る前の腹拵えね。アンタを助けるのに料理ひっくり返しちゃったし」
そう言ってベアータが素早く食堂車両のキッチンの方へと向かうその間にも幻朧桜の枝は食堂車両を喰らわんと暴れ回る。
その幻朧桜の暴走にパニックになる人々に向けて。
「皆さん、落ち着いて下さい! この朱雀門家次期当主、朱雀門・瑠香が、ノーブレス・オブリージュに賭けて、皆様を必ず守り通します! 葵桜さん!」
人形の様に美しい和装から、豪華絢爛なドレス姿に変身した朱雀門・瑠香が高らかに叫び周囲にフワフワとハートを展開。
ふわりと其れに浮かんだプリンセスハートから桜の花弁が舞い散る様に吹き荒れて、瑠香がフワリと飛翔し花吹雪を巻き起こす。
巻き起こされた紅の花による吹雪が侵入してきた幻朧桜を迎撃する間に、ブン、と葵桜が桜舞花を振り下ろした。
「田中さん! 出番だよ!」
その葵桜の命令に応じる様に。
古き戦士……武者甲冑を纏い、槍を両手遣いに構えた田中さんが姿を現し。
「行くよ、田中さん!」
叫んだ葵桜が桜舞花を閃かせて風を巻き起こし、田中さんから発された炎を煽る。
漏れ出した炎がまるで暗雲に覆われたかの如きだった食堂車両を照らし、人々の表情にパニックが貼り付いているのが良く分かった。
「大丈夫! 瑠香さんと、私達が必ず皆さんを守りますから!」
そう叫び。
幻朧桜の枝に組み付かれそうになっていた人々の前に立ちはだかり、葵桜が桜舞花で風を巻き起こして枝を叩き折った時。
(「ええ。此でこの戦いの間位のエネルギーは足りそうね」)
冷蔵庫の中を物色して生肉を自ら喰らったベアータが口元を濡らしたドリップを舌で舐め取りつつ小さく頷く。
その周囲には突然現れたベアータを見て、驚きのあまりに表情を恐怖に引き攣らせた料理人達がいたが。
「! アンタ達、伏せなさい!」
背後に飢餓の衝動が肉薄するのをBestial Mechanizerで直観したベアータの警告。
其れに反射的に料理人達が身を伏せ、入れ替わる様に機腕を振り抜くベアータ。
そうして幻朧桜の枝を引き千切り、料理人達の安全の確保した時。
「……葵桜さん! 瑠香さん!」
タタタッ……と。
其の右目の端で美雪と暁音が63体の妖精の騎士達を引き連れて瑠香達の姿を捉えているのを認め、成程、と頷いた。
(「相当な数の猟兵がこの戦場には集まっている様ね」)
その間にも食堂車両とVIPルームのある車両の間に挟まれた控え室から14体の黄巾力士が現れて、黄巾色の結界を張り巡らす。
展開された結界で一般人を守らせるのを認めながら、美雪と暁音が瑠香と2、3言、言の葉を交すのを見て。
「アンタ達は、アンタ達のやることをやりなさい! 此処は私も加勢するから」
現れた黄巾力士達に料理人達を守らせつつ、ブーストダッシュで其方に一瞬で肉薄し。
機腕銃で再び戦場を多い尽くさんと吹き荒れた桜吹雪を撃ち抜き吹き飛ばしながらのベアータの其れに。
「……すまない。協力、感謝する」
そう告げて。
美雪が何故か微かに苦々しげに暁音と共にその場を立ち去るのを見送った、時。
――ゾクリ。
不意に、Bestial Mechanizerによって強化された野生の勘が、背筋を振るわせる様な氷の殺気を感じ取った。
「! アンタ、横に飛んで!」
そう瑠香に向かってベアータが怒鳴り、素早く機腕銃で幻朧桜に向けて構えるよりも、一足早く。
「ふむ、やはり此処が一番視界があけておるな。行くぞ」
――轟、と。
不意に漆黒の斬撃の刃がその幻朧桜を真っ二つに斬り裂いた。
ベアータがその斬撃の波が放たれた方角を見れば、其処には肩に黒曜山を担いで泰然と構えた義透の姿。
「あっ、義透さん!」
桜舞花で風を巻き起こし、幻朧桜の破片を吹き飛ばした葵桜が嬉しそうな笑みを浮かべて義透に呼びかける。
田中さんは近くの乗客達を壁の隅に避難させる様に追い立てて、その前に立ちはだかり、迫る幻朧桜を斬り倒していた。
その葵桜と瑠香、そしてベアータの様子を見て、義透が粛々と頷いて。
「既に灯璃殿達と話は付けてある。最も他の車両からも中心に位置している視界の開けたこの場所を、人々の避難場所にすると」
義透の決意の込められた言の葉に。
「分かりました」
「そう言うことだったら、任せて! 絶対に此処を安全圏として確保してみせるんだから!」
瑠香と葵桜が首肯し、奏の妖精の騎士達が一斉に短剣を天に翳すのを見つめ。
「まあ、それなら私も協力するべきね。遊撃を兼ねるつもりだったけれど、其れはこの車両の安全を確保してから、か」
そう悟った様に溜息を漏らしたベアータの瞳は、餌を求める獣の如き藍色の飢餓の光を輝かせていた。
●
「……くそっ」
ベアータ達に後を任せて。
列車車両を駆け抜ける美雪の何処か悔しげな舌打ちに、暁音が美雪さん、と小さく呼びかける。
「やっぱり皆が心配かい?」
「いや、そうじゃ無い。こう言う時、本当に何も出来ない私自身が、少し悔しくて、な」
自らの力がどう言うものであるのかは、理解している。
また、自分の力は(ツッコミ属性は別として)基本、他者の協力を得ることで、最大限の力を発揮するものだ。
今回も、セーフティーハウスを用意出来れば、人々の安全は確保できたに違いないが……。
(「しかし、今度は其処を狙って影朧達が一斉に侵入してくる可能性も否定できない。何故ならば……」)
影朧化した幻朧桜によって、今、この弾丸列車は覆い尽くされてしまっているから。
それこそ正しく、弾丸列車とその中の人々を養分とするかの様に。
(「……大樹の養分……?」)
一瞬、何か奇妙な違和感が美雪の脳裏を過ぎるが、直ぐにそれは消えていった。
何故なら……。
「美雪! 暁音!」
そんな自分達の姿に気がついた、敵の正体を見破り此処まで敵を追い詰めた功労者、文月・統哉の姿を認めたから。
「統哉さん、其方の状況は?」
美雪の其の問いかけに、統哉はこれから、と静かに呼びかける。
「VIPルームの周囲を警護している、皇族付きの乗務員達の協力を仰ぎに、部屋に向かうところだ。美雪達は?」
「竜胆さんの所に向かう途中だよ。ウィリアムさんやネリッサさんがもう向かっている筈だけれども、未だ何の連絡も来ていないから」
「分かった。そうしたら、竜胆さんの方は美雪達に任せる。俺は一先ず……」
と、統哉が呟いたところで。
――パシャァァァァァン!
硝子が砕ける音が迸り、統哉達に向けて幻朧桜の根が槍の様に鋭い刺突を放つ。
酷くゆっくりとしたモーションでありながらも、十分名殺傷力を秘めているであろう其れに気がつき、統哉が『宵』を抜刀一閃。
漆黒の大鎌の刃先が星空の様な煌めきを伴う光と共に、それらの枝を切り払い。
「……急ぐつもりだけれど、援護はするよ」
そのまま走り去ろうとた暁音が呟きと共に、聖なる銀糸を戦場に張り巡らした。
ピン、と張られたそれらに無様に突っ込んだ幻朧桜が絡め取られたところに。
「おっと……流石にもうおっぱじまっちまっているよなぁ、そりゃ」
愉快そうな声と共に放たれた無数の銃弾が、暁音の銀糸に絡め取られた幻朧桜を撃ち落とす。
美雪と暁音が其方を見れば、そこには白煙を銃口から噴き出させながら、UKM-2000PNを構えたミハイルの姿。
「ミハイルさんか」
「おー、何やら暗い顔しているじゃねーか、藤崎。折角の美人が台無しだぜ?」
鮫の笑みを浮かべたままのミハイルの其れに思わず美雪が微苦笑を綻ばせた。
それは、先頭車両の護衛に向かう途中で、偶発的に起きた遭遇戦。
ともあれ、再度互いの情報を手早く交換し、ミハイルと美雪と暁音が予定通り、其々の目的地に向かおうとした、その時。
「竜胆様をお守りしなければ……!」
皇族を守る直掩の少数精鋭の警備員達のいる休憩室から、SP達が飛び出してきた。
「さあ、我等も直ぐに竜胆様の元へ……!」
同僚と統哉を認識しているSPの1人が、そう統哉に声をかけた時。
統哉は変装を解いて其方を振り向き、いや、と軽く頭を振った。
「すみません、俺の名前は文月・統哉。竜胆さんが殺される可能性が予知されて、この事件を解決するために列車に入った超弩級戦力の1人です」
そう告げて。
サァビスチケットを見せて身分を証明する統哉の其れに、SP達の1人がならば、と問いかける。
「あの方が殺されるのであれば、尚の事我らがあの方の元に急ぐべきでは……?」
「いえ。其方は俺の仲間の超弩級戦力に任せてください。彼等なら大丈夫です。必ず竜胆さんを守ってくれます」
その統哉の回答に。
「では、私達は如何すればよいのだ?」
別のSPが怪訝そうに問いかけてくるのに頷いて。
「誰一人、犠牲にしないためにも、皆さんの力を俺達に貸してください……」
そう告げる統哉の脳裏にちらりと友の姿が過る。
(「敬輔のいる、最後尾車両の方は大丈夫なのか? まだ連絡が取れていない様だが……」)
――どうか無事でいてくれ。敬輔。そこにいた乗務員達……。
内心で、そう複雑な心情を統哉が漏らしていた、その頃。
●
「させるか!」
舘野・敬輔はその右肩を白化させた10体の分身達と共に、侵入してきていた幻朧桜達を一閃していた。
――白き聖光纏いし、赤黒く光り輝く刀身を持つ黒剣で。
その敬輔の全身には、揺蕩う様に白い靄の様な光が伴われている。
――それは、『彼女』達の魂の力。
加耶の魂に導かれ、復讐から浄化への聖光の力を伴った『彼女』達の力は敬輔の分身達にもその力を及ぼしていた。
無論、ネリッサ達からの通信は敬輔の耳にも届いていた。
だから、本来であれば自分の分身を其々の車両に向かわせるつもりだったが……。
「……義透さんが、安全地帯の確保。クラウンさんが警備員達に協力を取り付けに行った以上、後方から侵入してくる幻朧桜を捌けるのは俺『達』だけか」
そう小さく呟いて、祈りを籠めて聖光の刃で幻朧桜を一閃する。
一閃した幻朧桜に、先日の戦いで自分達が切った桜の精の姿とダブリ、敬輔が微かにその表情に苦悩を浮かべた。
(「あの子達は花蘇芳に唆されて、結果として影朧と化し、僕達と刃を交えた。でも……この幻朧桜、桜の精の母親達は、違う」)
――無理矢理影朧にされ、そして、今がある。
その行為は、嘗て花蘇芳が起こした事件、人為的に人を影朧化する影朧兵器、グラッジパウダーの事を脳裏に過らせていた。
「……僕達の存在が、世界のバランスを崩す。そんな一方的な言い分を突き付けてくる影朧に君達は利用されて……!」
その怒りを力に変えて。
咆哮し黒剣を一閃する敬輔だったが、不意に肩に鋭い痛みが走った。
自らの分身の1体が、自らの肩を貫かれその負傷の反動が、敬輔を襲ったのだ。
「くっ……!」
思わぬ痛みに一瞬その動きを鈍らせる敬輔。
その動きが鈍重になった一瞬は、如何に速度が半減していようとも、力持つ影朧の前では、致命的な隙。
その隙をついて、敬輔を巻き取り、障害を排除しようと影朧化した幻朧桜が敬輔の心臓を貫こうとした、その時。
「それはやらせられませんね」
――ヒュン、と。
鋭い雷撃を帯びた鞭がしなる音が響き渡り、敬輔を貫こうとた枝を鋭く打擲。
更に雷光が迸ってそれを貫き、幻朧桜がパラパラと破砕される。
敬輔がその様子を見て、一度上空を見上げた時。
「おや? 此処には分身は多数いれど、超弩級戦力自体はあなた1人だけでしたか。彼等を守るのも、其れでは大変でしたでしょう」
その足に嵌め込まれた風火輪で見下ろす様に敬輔を見つめていた……。
「……冬季さんか。助かったよ」
その敬輔の言葉に、冬季が泰然とした表情で頷き、周囲を見回す。
「出でよ、黄巾力士達」
その言の葉と共に、最後の14体を空中から投擲する冬季。
そのまま落下傘宜しく地面に着地した黄巾力士達が、隅で敬輔の分身達に守られていた人々を守る様に直掩につく。
「空からの奇襲には私が対応します。舘野さんは、地上の敵を殲滅してください」
冬季が簡潔な説明と共に、車外の影朧化した幻朧桜達に、雷公鞭を振るい。
「ああ……分かった」
その様子を見て首肯して、1つ深呼吸をした敬輔が分身達と共に黒剣を振り抜いて、斬撃の波を聖光と共に叩きつけた。
●
――ガタン!
VIPルームの扉を蹴破る音がその辺り一帯には響いていた。
開いた扉の前方では、破魔と浄化の属性を付与した桜鋼扇を翻して周囲に下婦負の幻朧桜を召喚した桜花が風を巻き起こして『菖蒲』と戦っている。
時に、蹴りを、或いは其れを防御するべく『菖蒲』が咄嗟に顔を庇い、代わりに其の手で桜花の足を受け止めて。
『……ハッ!』
と地面に叩き付けようと桜花を振り回し投げ飛ばそうとするのを、桜花は咄嗟に桜吹雪を其の顔に吹き付けて、その動きを牽制。
「如何しましたか……? 遅い、ですよ……!」
息を荒げさせながら、銀製のお盆でバッシュする桜花に、やむなく掴んでいた足を外してバックステップで距離を取る『菖蒲』
(「……菖蒲の姿を真似た『彼女』ですか。……しかし、如何に此処で私を殺そうとも、世界は小揺るぎもしないでしょうに。どうやら、限界が近付いてきている様ですね」)
そう内心で呟きながら、竜胆が戦場を見渡すその間に。
竜胆の背後の窓を破り、無数の枝が竜胆を貫かんと突き出されようとした、正にその時。
「正に間一髪ですね……! 行けっ! Freeze Wall!」
ウィリアムが指先を突きつけ、桜と緑、水色の混ざり合った魔法陣を描き出し、其の先端から、氷の礫を解き放ち。
「フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、其の使いたる炎の精を我に与えよ」
ネリッサが浪々と詠唱を口ずさむとほぼ同時に、119体の炎の精が飛び交い、ウィリアムが侵入を許した木々を焼き払った。
割れた窓を応急処置の様にウィリアムが凍てつかせて氷壁を張り上げる一方で、外からは激しい迎撃音が鳴り響く。
それが冬木の宝貝・黄巾力士と外に控える幻朧桜達との戦いの音で在る事には、気がついていたけれども。
「おや、ネリッサさんにウィリアムさんですね。お久しぶりでございます」
自分の置かれている状況を重々承知しているのであろう。
特に驚いた様子もなく何時ものスーツ姿で出迎える竜胆は、其の手に二丁拳銃を構えて戦闘態勢を整えていた。
「しかし、如何してお二人が此方に? 私よりも乗客と乗務員達の救助活動を優先して頂きたいのですが」
「竜胆さん。あなたは自分が何故狙われているのか分かっているのでしょう? この状況で、特別扱いは嫌かも知れませんが、敵の最重要目標はあなたですよ」
竜胆の咎める様な言の葉に、ウィリアムが軽く溜息を付いてそう応える。
其のウィリアムの呼びかけに、竜胆の目が微かに鋭く細められた。
「……いえ、既に『彼女』は、列車全体を影朧化した幻朧桜で包み込みました。最早事は私の命だけに留まることは無いでしょう。ならば私1人を犠牲にしてでも、他の方々の命を優先するべきです」
「言いたいことは分からないでもありませんが、其処まで分かっているのであれば、竜胆さんであれば今、私達が如何して欲しいのかも分かるでしょう」
その竜胆の言の葉に。
微かな焦りを滲ませながらも、出来る限り抑制の利いた口調でそう告げるネリッサの其れに、ふむ、と竜胆が小さく頷く。
「確かに、事は既にこの列車全体に及んでおりますからね。ですが、私の此は、言うなればある種の世界の闇。迂闊に口に出すと、却って彼等の力を助長させてしまう可能性もあるのですが」
と、竜胆が呟いたところで。
「……だがそれがあれば、竜胆さん。其の力を使えば、我々のためにもなるだろうが、それ以上に竜胆さん自身の為にもなるのではないか?」
続けざまに雪崩れ込む様に入り込んだ美雪が、そう竜胆に呼びかけた。
「おや、美雪さん。あなたも来ておりましたか。……私自身だけのためになるのであれば、正直に申し上げれば使う理由はないのですが」
その竜胆の呟きに。
何となくビシリ、とこめかみに青筋を浮かべつつでは、と笑顔で美雪が問う。
「……何だ。貴方は、女性にご自身を庇わせるつもりかね?」
――訪れる、言いようのない、気まずい沈黙。
美雪の笑顔と説得(脅迫)が貼り付けられた笑顔とネリッサの呼びかけに、やれやれと、小さく溜息を竜胆が漏らす。
「……皆さん、互いに通信は出来る状況なのですね?」
「……それは大丈夫だね。俺達の間に小型通信機はあるし、俺も美雪さんもそれ以外に情報を伝達するための用意は出来ている」
その竜胆の問いかけに、そう応えたのは暁音。
美雪もまた、それにはその通りだなと同意の首肯を示し。
「竜胆さん。あなたになら良く分かる筈です。我々SIRDの高度な通信網の事も」
告げたネリッサがその間にも近くの通信器具に、自らの小型情報端末MPDA・MkⅢを繋ぎ、全回線をオープンにする。
ウィリアムは自らの張り巡らした氷の結界と、ネリッサの炎の精霊による攻撃を潜り抜け、今にも竜胆に肉薄しようとする敵を切り。
桜花と『菖蒲』の戦いは、互いに気が抜けぬ儘に更なる深みにはまり始めていた。
桜花が蹴打や桜鋼扇による斬撃で、『菖蒲』が指を鳴らそうとしたり、口笛を吹こうとするのを妨げれば。
今度は其れをフェイクとして、『菖蒲』が踵を鳴らして幻朧桜達に命令を伝えながら、桜花の攻撃を上回る蹴撃を放つ。
互いの手の読み合いをして、何とか時間を稼いでいる『桜の精』と、『菖蒲』の姿をした『影朧』の姿に竜胆が小さく息を漏らした。
「……既に舞台は整っている、と言う訳ですか。では、語らせて頂きましょう。私がこの200年の内に学んできた歴史と、その中にある類似した事例……物語を」
その言の葉と、共に。
竜胆がまるで詩人の様に歌い始めたその歴史の物語が美雪や暁音、ネリッサの通信によって朗々と車内に響き渡り始めた。
●
――其の勲を、私は語ろう。
――其の過去を、私は語ろう。
――100余年以上に亘って紡がれ続けてきた、短くも長い光と影の物語を。
――我等が戦い続けてきた天秤の動乱に刻み込まれた、其の記憶を。
●
――朗々とまるで歌う様に紡がれ始めた竜胆が過去を通じて学んだ『記憶』
その中に影朧に飲み込まれたとある列車の物語……事例があったことを。
「……成程。では、此処は此で行きましょうか。……Einen Schritt voraus ist Dunkelheit.≪一寸先は闇ですよ≫」
ネリッサからの通信を通じて聞いた灯璃がのユーベルコードの詠唱を完成させる。
完成された詠唱と共に、見る見るうちに作り出されていく霧がまるで、幻朧桜の先の先を読む様に動いて隙間や窓を覆い尽くし。
同時に生み出された黒壁が、防火シャッターの如く、部屋と部屋と繋ぎ目と冬季の黄巾力士達が穴を埋める様に現出する。
その灯璃の背後には、一般乗客車両からの眠る一般人を担いだ篁臥や護鬼丸、冥風雪華達が付き、更に其の後ろをSP達が固めていた。
(「とは言え、未だ全員を救出できているわけではないのですよね……」)
内心でそう呟きながら、ちらりと後ろの車両を見やる灯璃。
彼女が振り返った先にある一般乗客のいる第6車両では……。
●
「……人々を死なせるわけには行かないでありんすよ、影朧」
其の呟きと、共に。
竜胆が歌う様に語る勲を耳にしながら祥華が自らと意識を繋ぐ識神に命令を下し。
其れを受諾した識神がレーザー攻撃を撃ち込み、次々に幻朧桜を撃ち抜いていた。
「はらいたまえ、きよめたまえ、かむながらまもりたまえ……」
祥華の鈴の鳴る様な声で、朗々と紡がれていく詔が響き、其れが最初に張り上げた結界と共鳴して超合金シェルターを作り上げながら。
(「……むっ? まさか、外を彩る元(幻朧桜)そのものから絶たねばならないのか? それだけは避けたいがのう……」)
その形の整った眉を微かに顰め、其の表情に憂いを貼り付ける。
『幻朧桜』は、ある意味ではサクラミラージュの『理』そのもの。
それを破壊することは、祥華にとっては、世界の『理』の創造主を、自らの手で打ち砕くにも等しい行為。
それでは、この弾丸列車の人々は救えても、世界を救うことは出来まい。
その内心の祥華の葛藤を反映するかの様に。
微かに揺らぐ超合金シェルターの中に、姫桜が残された30名程の乗客達を押し込み、其の入口を守る様に立ち。
「はあっ!」
と幾度目かの高圧電流を解き放ち、眩い光雷と共に幻朧桜を纏めて痺れ上げさせると同時に、雷の灯を灯す。
灯された雷光の中を通り過ぎる様に紅閻が走り。
「眠れ、幻朧桜達」
その言の葉と共に、跨がっていた白梟の頭上からフォースで作り上げた擬似的な月を作り上げ。
「……幻朧桜達」
疑似月光を一般車両の中に差し込ませた。
其の光を浴びて幻朧桜達が動きを鈍らせたその隙を突いて、ケタケタと笑い声を上げながら、イザークが口を開いて。
敵を喰らうのに合わせて、終焉の炎の名を冠したフォースウェポン『レーヴァテイン』が彼等に向かって炎を吹き付ける。
その間に懐から紅閻が取り出したのは、獣楽器。
暁音が呼び出したファンシーな人形からもたらされた類似的な事例により、余裕の出来た紅閻が其れを奏で始めた。
(「動物達よ、動物達よ。もし可能であれば、如何にも怪しい、嫌な感じがする場所、物、若しくは者がないかを探しておくれ」)
――それは、カミサマの表情に浮かんだ懸念を少しでも払拭できる様、辿々しく唱えられた祈り。
其の祈りの主である、紅閻と、彼が跨がる白梟を狙う様に。
幻朧桜の漆黒の桜吹雪が紅閻に迫るが、冬季の黄巾力士隊が、桜吹雪を一斉射撃。
次々に漆黒の桜吹雪を撃ち落とすその間に。
「彩瑠さん! 次の方々の避難させます! もう暫くの間、凌いで下さい!」
紅閻の篁臥と共に、10名の乗客達を避難させた灯璃が再びこの車両に飛び込んで。
義透達が作る安全地帯へと送り出すべく、紅閻の力で眠りに落ちた乗客達を再び担ぎ、或いは宥め賺して避難させ始めた。
そんな灯璃と乗客、そして乗客の避難を手伝い乗務員達に、外から再び侵入してきた幻朧桜の枝が襲い掛かろうとするが。
「あら、鳴上さんだったかしら。あの人の用意した黄巾力士の手から逃げることが出来た敵がいたみたいね」
外にドローンの様にスクランブルさせていたエレボスの影で、その幻朧桜の枝達の侵入を見て取った都留が気がつき。
「当然だけれど、灯璃さんの邪魔は、絶対にさせないわよ」
呟きと共に、エレボスの影に光刃を解き放たせ、逃げて新たな餌を求めてこの車両に潜ろうとした枝をズタズタに斬り裂いた。
●
「アンタ達、こっちだよ!」
灯璃とSP達を誘導する様に。
一般車両と食堂車両の間の特別車両に侵入した幻朧桜達を真紅の騎士団の剣や槍で切り捨てながら響が叫ぶ。
「此方です! 灯璃さんとSPさん達に続いて、皆さんも直ぐに避難して下さい!」
63体の妖精騎士達と共に、食堂車両と一般車両の間の通過点であるこの場所を守り通した奏の続けざまの其の叫び。
その奏達の言葉を聞いて。
一般車両から篁臥と共に戻ってきた灯璃について、特別車両の人々も一斉に避難を開始する。
完全にパニックから回復していない人々は、半ばSPに運び出される様な形その場を後にする。
そうしてこの車両から食堂車両に避難した、人々の後背を守る様に響が63体の真紅の騎士達と共に立ち。
「奏! 此処はもう大丈夫だから、アンタは人の多い、一般車両の援護に行きな!」
「はい、母さん!」
気合いと共に、発された響の言葉に背を押され。
隣の車両に自らの63体の妖精の騎士達と共に駆けていく奏を、響と63体の真紅のk強い、そして14体の黄巾力士隊が見送った。
(「竜胆が類似した事例の情報を与えてくれたんだ。この情報を活用できなければ、女が廃るよ」)
そう内心で響が炎の様な決意を宿し。
「此処が気合いの入れ処だ! 真紅の騎士団! 黄巾力士隊! 死力を尽くして、この道を守り通すよ!」
其の響の叫びに応える様に。
共にいた63体の真紅の騎士団が剣と槍を掲げて雄叫びを上げ、黄巾力士隊が黙々と逃げ道を守る結界を展開した。
●
灯璃達がSP達と共に一般人を護衛し、響達に背を守られて目指した食堂車両では。
短剣を抱えた63体の【1】の数字を刻んだ奏の妖精の騎士達が短剣を振るい。
「くっ……未だです、未だですよ!」
微かに息を荒げさせながら、プリンセスハートから花弁を雨の様に降り注がせて、瑠香が幻朧桜の影朧を次々に射貫き倒していた。
――更に。
「ふむ、一先ず床部分はこれで大分出来上がった様だ」
未来視の力を持つ『黒陽山』の斬撃の波で車両の大地を穿ち、黒曜石の床に作り替え、安全地帯を確保しながら義透が呟く。
黒曜石の床部分は、幻朧桜の枝が降り注ぎ、そこに突き立とうとしても、その攻撃それ自体を弾き返し、其の力を雲散霧消させていた。
「だから、皆、こっち! こっちに避難して!」
――轟。
風を巻き起こし、田中さんと共に黒曜石の床が出来たのを見た葵桜が咄嗟に叫ぶ。
田中さんが葵桜の声に釣られて肉薄してきた幻朧桜達を突き倒すその間に、灯璃が連れてきた一般人達を葵桜が其処に誘導。
其処でじっとしている様にと葵桜がお願いをする間にも、次々に枝が迫り来るが。
「だが……その動きのパターンの例は、わし達が既に把握しておるよ」
竜胆の齎した歌の中に含まれた事例を元にその攻撃の回避運動を即座に取りながら、返す刃を義透が振るい。
「急ぎなさい! こっちよ!」
それでも尚、追撃の手を緩めない幻朧桜達に黄巾力士隊と共に、WARGUS M10で枝を一斉に撃ち抜くベアータ。
(「まだ、安全地帯が完成するのにはもう少し時間が掛かるわね。じゃあ、其れが完成する其の時迄は、凌いでみせるわ!」)
そう胸中で呟きながら。
ベアータが自らのArmored Fluidを展開する。
餓獣機関が精製した液状の其れを骨壁に変形させ、乗客達に迫る幻朧桜を凌ぐその間に。
「今、援護致します!」
統哉の呼び出した色とりどりなふわもこ着ぐるみが7体、皇族直属のSPと共に姿を現し、逃げ遅れた人々を護り。
更に皇族直属のSP達が黄巾力士とベアータを援護する様に幻朧桜の枝を撃ち抜き、或いは刀でその『邪心』を断つ。
その様子を見た余酒気が満足げに頷いて。
「そうか。文月殿の差し金か。援護感謝するぞ」
7体のふわもこ気ぐるみとSP達の傍に、『黒曜山』の斬撃を走らせた。
幾度も同様に放たれたことのある斬撃波であったからか、その動きを幻朧桜達は見切り、素早く其れを回避するが。
「ふむ。だが今回の場合は、避けられる方が好都合なのだよ」
義透の確信の籠った言葉通り。
人々を守るふわもこ着ぐるみ達と、漆黒の黒曜石が交わり、幻朧桜の攻撃を弾く無敵の着ぐるみと化して、幻朧桜の攻撃を完全遮断。
正に、其の時だった。
(「時が満ちた……とは、こう言う時の事を言うのよね、きっと」)
ベアータが胸中で呟き自作の骨の防壁に齧り付き、自らの口腔内にリンを蓄積し。
「……Fire!」
骨壁で引火させて、ある程度出力を弱めた火炎を一気に放射。
列車に引火しない程度に放たれた炎に枝が怯む様子を見せたその瞬間を見逃さず、輪餓爪でバラバラに引き裂いた。
「……此で、もう食堂車両に入って来る幻朧桜はいない……かな?」
田中さんに注意深く周囲を探らせながら、呟く葵桜の其れに応える様に。
「直ぐに周囲の穴を塞げ! 此処を最重要防御拠点として完成させる!」
『ハッ!』
ふわもこ着ぐるみ達と共に来たSPの責任者がキビキビと指示を出し、他の者達が敬礼と共にユーベルコヲドを発動。
弾丸列車に空いた穴を塞ぎ、無敵の城塞の如き状態にしたところに……。
「隔壁を降ろします。遮断せよ、黒壁達」
灯璃が、自らが作り出した迷路の一部である黒壁を出入り口に移動させ、望む者にしか開ける事の出来ない迷宮を作り上げた。
そうして、食堂車両の護りを盤石にした其の直後。
「灯璃さん、其方の状況は?」
ネリッサから通信が入り、灯璃は躊躇うことなく、はい、と頷き返す。
「馬県さんの予定通り、食堂車両を安全地帯として完成させました。途中の特別車両に遺された乗客達は此方に既に収納済。響さんが、真紅の騎士団、14の黄巾力士隊とこの逃げ道を死守してくれています。乗客と乗務員を全員避難させられれば、このミッションは完了です」
「分かりました。其れでは引き続き人々の避難を。未だ、一般車両と客室車両に救助を待つ人々がいる筈です。藤崎さんの影の小動物達が情報を集めてきてくれました」
「……荷両の方は、どうなっている?」
ネリッサの其れに、敬輔のことを思い出した義透がそう問いかけると。
「……未だ、乗務員を逃がすことまでは出来ていない様だね。多分、人手が足りていないんだと思う。ただ其方は大丈夫だろう」
そう確信を持って呟く暁音の其れに、微かに目を見張る義透。
「どうした?」
「俺の用意した人形達の手が幸いにも空いているからね。あの子達が、荷両に向かって人々の避難誘導をしてくれる手筈が整った。クラウンさんが既に乗務員達との協力も取り付けているから、客室車両と荷車は此で人手が足りる様になる筈だ」
暁音の冷静な指摘に、確かに、と言う様に義透が感心を交えて頷きを1つ。
「分かった。では、わしはこのまま此処に残った方が良いな。万が一、響殿達の警備を破られた際の護衛は必要であろう」
「じゃあ、田中さんにもこっちに残って貰うね! 私は……ひめちゃんの事が心配だから、一般車両の様子を見てくるよ!」
義透と葵桜の其々の返事に、頼みます、と頷くネリッサ。
「では局長、私も一般車両に残された人々を救出に向かいます」
「宜しくお願いします、灯璃さん、榎木さん。馬県さんも防衛をお任せします」
そのネリッサの言の葉と共に。
通信機の向こうで轟! と何かが焼き尽くされる音が響き渡り、其れを合図に通信が一度切れる。
灯璃が微かに懸念の表情を見せるが、それ以上にある場所の状態が分かっていないことに気がつき、主割らず溜息を漏らした。
「ミハイルさんは無事でしょうか……先頭車両の方は……」
其の灯璃が胸に抱いた微かな懸念を……。
●
――ドルルルルルルルルルルルルルッ!
搔き消す程の勢いで、UKM-2000Pの銃口から放たれる無数の銃弾と火花。
それらの攻撃が先頭車両の機関室に潜入した幻朧桜を撃ち抜き迎撃していた。
その激しい銃声は、ウィリアム達のいるVIPルームに迄微かに聞こえ、其れ故に、其れが聞こえる限り、列車は安全だと確信出来る。
「薬莢と弾幕音で向こうの安全が確保されているのを知らせてくるとか、中々やりますね、ミハイルさんは」
呟きながら、自らが生み出した氷壁と、ネリッサの火の精の弾幕を抜けて竜胆に迫る漆黒の桜吹雪を一閃するウィリアム。
その剣先を凍らせることで、氷剣となった『スプラッシュ』が、吹雪く漆黒の桜を、纏めて凍てつかせていた。
一方、ウィリアムやネリッサ達のいるVIPルームにまでその射撃音が聞こえてきていると言う事は……。
「お、おいミハイル!」
其の傍で人々を守り続けていた陽太に思わず制止の声を上げさせるには十分な戦闘音だった、と言う事でもある。
故に陽太は、車両の外部に放り出したスパーダが咆シャワーの如く叩き込む浄化の光を纏った短剣を篝火にしながらそう叫ぶ。
そんな陽太に、ミハイルが愉快そうな笑みを口の端に浮かべながら、
「如何した?」
UKM-2000Pを撃つ手を止めることなく返すのに、陽太が軽く米神を押さえた。
「如何したって……そりゃ俺の台詞だよ! こんな狭い場所で機関銃なんて連射したら、エンジンに当たっちまう可能性とか……色々あるんじゃねぇのか!?」
そんな陽太の懸念は、ある意味当然ではあるが、ミハイルは茶目っ気たっぷりに肩を竦めるだけだ。
「まっ……此でも俺は吐いて腐る程戦いを見てきた傭兵だぜ? こう言う狭い場所でも、どうすりゃ重要な機関に攻撃が当たらないかは分かっているぜ。其れも給料の内だしな」
そのミハイルの言葉通り。
ミハイルの連射し続けているUKM-2000Pの銃弾は、薬莢こそ飛ぶが、何かの糸に操られているかの様に幻朧桜だけを撃ち抜いていた。
「んな細かいこと気にしても仕方ねぇだろうよ、森宮。其れより、ちと場所変われ」
軽く頭を振り、溜息を吐く陽太に向けて軽く顎でしゃくるミハイル。
ミハイルの提案に苦笑を零しつつ、陽太がミハイルと自らの位置を入れ替える。
陽太がいたのは、運転席に繋がる扉の前。
ミハイルはその直ぐ後ろの機関室に陣取り、幻朧桜達を迎撃していたのだ。
――と、此処で。
戦場全体を包み込む霧と黒壁が此方にも其の手を伸ばして、迷宮を構築し始めた。
(「こいつは……灯璃か」)
ニヤリとシニカルな笑みを浮かべたミハイルが我が意を得たりという様に頷きながら其の運転席のドアを蹴飛ばし中に飛び込む。
その中では、冬季の指示に従って懸命に列車の立て直しを図っていた運転手と、其れを守る様に黄巾力士14体が控えていた。
「おい!」
そんな、中で。
ミハイルが其の運転手に呼びかけると、微かに驚いた表情になってミハイルの方を振り返る運転手。
「な、何だ!? 新手か?!」
「そうじゃねぇよ。俺はテメェに依頼に来た超弩級戦力だ。悪いことは言わねぇ。お前、今の内にこの列車を再発進させろ」
運転手にミハイルが告げたそれは殆ど物理的な衝撃を伴って運転手の脳を叩いた。
「えっ?! 列車を動かす……のか?」
思わず、と言う様に問い返してくる運転手に、ああ、とミハイルがキッパリ頷く。
「確かに、此処に何時迄も留まっていたら、脱線は防げるかもしれねぇ。だが、此処に止まったままだと敵は此処に俺達が居る事が分かっている以上増え続ける。こいつは、竜胆の奴が過去の事件の類推から導き出した結論だ。ついでに言えば、俺の経験則でもある」
――それはミハイルが、傭兵時代に散々輸送車両群の護衛をさせられた時。
最初は脱線を避けて列車を止めておくことは正解だったが、何時迄も止めたまま出会った場合、其れは格好の的にされ、厳しい防衛線を維持することになった。
と言う事は、線路に沿って出会ったとしても、列車が動き続ける方が、影朧化した幻朧桜達を速度で振り切れる可能性がある希望が持てる。
「まあ……今回は影朧に覆い尽くされた状況下である以上、必ずしも意味があるのかは分からねぇが……生き残る可能性を少しでも上げるためだ。1つでも多く手を試しておくことは悪いことじゃねぇ」
「そ、其れはそうかも知れないが……」
それでも未だ、戸惑った表情を浮かべる運転手。
其の運転手の表情を見て、ヤレヤレと軽く頭を横に振ったミハイルは敢えて大きく息を吸い込んで。
「おら! ぼさっとしてねぇで、死にたくなかったら、給料分以上働きやがれ!」
怒鳴って発破を掛けると、運転手があまりの音量にビクリと反射的に背筋を伸ばし、運転レバーを押し倒した。
「くっ……くそっ! こうなりゃ自棄だ!」
「つっても脱線したら意味がねぇ! 兎に角森宮の呼び出した悪魔が照らす線路を真っ直ぐ走れ! 向かってくる奴は俺達が1人残らず撃ち落としてやるからよ!」
そう言い含めて再び武器を構えるミハイルの通信機に。
「ミハイルさん、其方の状況は如何ですか?」
気に掛かっていたのであろう、灯璃の通信が入ってきたのに、ミハイルがああ、と口の端に笑みを浮かべて首肯した。
「灯璃か。こっちは大丈夫だ。竜胆が出してきた過去の記録にあった類似した例の御陰で、大分やりやすくなっている。後で藤崎には礼を言っておくべきだろうな」
自らの傍に佇んでいたもふもふ小動物の影。
其の小動物から齎された竜胆からのメッセージを受け取ったミハイルの其れに、灯璃が思わずクスリと微笑を零した。
「そうですね。それは間違いないでしょう。ともあれ、ミハイルさんは引き続き先頭車両の警備をお願いします」
「ああ、分かってるぜ。そっちも上手くやれよ、灯璃」
そう言って灯璃からの通信を切り、水晶で作り上げられた青い斬撃を解き放ち、幻朧桜を切り裂く陽太の後方で。
――カチャリ。
ミハイルがUKM-2000Pの引金を引き、無数の鉛玉の雨を幻朧桜の群に叩き付けた。
――影朧の闇に包まれた弾丸列車に、一条の光が差し込み始めた瞬間を祝う様に。
●
――其の一条の光の差し込みが入り込んだのは、何も先頭車両や食堂車両だけではなく。
「はあっ!」
敬輔が類似した過去を元に敵の攻撃を躱しながら、的確に分身達と共に聖光を纏った黒剣を横薙ぎに振るっていたから。
振るわれた浄化の光の一閃に死滅する幻朧桜の方へと踏み込み、続けて鋭い光の刺突を解き放つ敬輔。
――尤も、其の唇はギリリ、とキツく噛み締めていたけれども。
敬輔の噛み締めた唇から滴り落ちた血に気がついたのだろう。
「どうしましたか、敬輔さん」
近くで風火輪を解放して空中を浮遊しながら雷公鞭を振るう冬季の其れに、敬輔が反射的に頭を横に振った。
「いや……俺にはこの子達を浄化することしか出来なくて、御免、と言いたくて……」
「何だ、そんな事ですか。別に浄化でも問題は無いでしょう」
その敬輔の言葉に、微かに唇に笑みを綻ばせ。
告げる冬季の其れに何? と敬輔が思わず軽く首を傾げていた。
其の間にも敬輔の分身達が、14体の黄巾力士と協力して、10人程の人足であった乗務員達を守る様に黒剣を振るっている。
其の体の彼方此方に傷が出来、其れが敬輔の肩や足、腕を抉るが、構わず敬輔は冬季に話の続きを促した。
「一度影朧桜の魂を聖光で浄化すれば、何時の日か、彼等の魂は祈りと共に別の幻朧桜の処に辿り着きます。すると幻朧桜か桜の精が彼等・彼女等の浄化された揺蕩う魂を転生させるでしょう。結果として旧く濁った血は浄化され、新たなる血と命と化してこの世界に還ってくるのです。なれば、此処でのあなたの行動が転生においては無意味になる筈もありません」
(「まあ、今新たに生まれる命が、かの影朧桜かどうかを確認することは出来ませんが。ですが、それもまた転生の真理の1つでしょうね」)
内心でそう思いながらも、告げられた冬季の言の葉に。
「……そうだな。今出来ることを精一杯やらなきゃ、転生も何もない……それどころか、今ある命さえ失われてしまうんだ」
其の敬輔の言葉に共鳴する様に。
自らが纏った白い靄達が微かに笑う様な明滅を繰り返し、聖なる光の波となって、幻朧桜達を打ち据えた。
――と、此処で。
ワタワタと言った様子で、様々な種類のファンシーなぬいぐるみや人形が姿を現し、乗務員達に近付いていく。
突然現れた愛らしいぬいぐるみや人形に乗務員達が戸惑いを隠せぬ表情になるが。
「安心しろ! その子達は、超弩級戦力が我々に貴方方を救助するために遣わしてくれた使者達だ!」
数名のSPがその人形達の後に続いて荷両に飛び込み、敬輔の分身に守られた人々を説得してくれた。
同僚の説得を受け止めた10人の乗務員達が頷き、それでもおっかなびっくり敬輔の分身とぬいぐるみ達に守られながら。
無事に荷両を脱出したのを、分身の1体が見送り、主である敬輔の元に返ってきて其の情報を知らせるのに。
「良し。ならば俺達も、此処で決着を付ける……!」
敬輔が其の分身に頷くと同時に。
黒剣を地面に擦過させて衝撃の波を叩き付ける様に解き放ち。その隙を見逃さず、冬季の雷公鞭が幻朧桜達を打ち据えた。
三日月型の斬撃に斬り裂かれ、雷光にその身を貫かれ、消失した幻朧桜達の様子を見送るその間に。
「敬輔さん! 冬季さん! 其方をこれから、灯璃さんの黒壁が隔離する! 直ぐに中に戻ってくれ!」
敬輔に渡していた小型通信機越しに、暁音のぬいぐるみ達からの報告を受けた美雪がそう叫ぶと。
「分かったよ、美雪さん。……戻るよ、冬季さん」
「分かりました」
敬輔と冬季はそれに頷き、アイコンタクト共に避難した乗務員達の後を追う様にバックステップで交代、荷両を素早く後にした。
●
そして通路を走って通り抜け、辿り着いた客室のある車両では。
「さぁて、ショーはまだまだ続くよ何処までも♪」
まるで鼻歌の様にクラウンが愉快そうに笑いながら、その指先に糸で繋いだ10体のからくり人形を一斉に引き上げていた。
糸を引き上げられたからくり人形達が、伝達された命令を実行するべく、獄炎の炎を纏った投擲ナイフを幻朧桜達に放っている。
その投擲ナイフから放たれた獄炎の炎が、幻朧桜の魂を癒して清め、戦う気力を奪って消失させていく。
「クラウン! そっちの状況は!?」
ネコ吉の呼びかけに、幻朧桜を相手取って戦っていたクラウンがニッコリと道化の笑みを浮かべ。
「こっちはバッチリだよ、ネコ吉さん♪ 後は人々を避難させれば完璧さ♪」
軽やかな口調でそう告げるクラウンの其れを裏付けるかの様に。
8室の中で最も広かった1室に押しくら饅頭の様に怯える一般人が集められ、其処を守る様に瞬の傭兵達が周囲に目を光らせている。
14体の黄巾力士隊もまた同様に陣形を組んで、幻朧桜達を迎撃しているその間に。
「クラウンさん! 荷両の乗務員達の救出に成功しました!」
SPの1人がそう声を掛けるのに、良々、とクラウンが頷いた。
「後は乗客達を無事な車両に移動させるだけか。今一番安全な場所は……」
ネコ吉がそう思案をする可能性に、十分気がついていたのだろう。
美雪のふわふわの小動物の影が姿を現しネコ吉の足下に近づき、頬をすり寄せる。
其の首に巻かれた手紙に気がつき、ネコ吉が丁寧に其れを外しざっと目を通すと、その中には……。
「……成程。食堂車両が今は安全地帯になっているのか。ってことは、一先ずそこに人々を誘導しないと……」
そのネコ吉の提案に。
「其の為には一般人車両と、特別車両の2車両を進む必要があるね♪」
SP達と共に、人々の安全を確認していたクラウンが言うと、そうだな、とネコ吉が思わず眉間に眉を顰めると。
「……強行突破なら、俺と冬季さんもいるから大丈夫だろう」
そんなネコ吉の表情を見て取ったか。
荷両から無事に脱出を果たした敬輔と冬季が合流し、そうネコ吉に自分達の考えを提案すると。
「……ええ、それなら大丈夫です。一般人の車両と特別車両、両方とも人々の避難は大方完了しています」
――すっ、とまるで、影の様に。
不意に一般車両から姿を現した63体の月読の紋を付けた傭兵団達と共に……。
「……瞬さん」
現れた人物の名を敬輔が呼ぶと、瞬はこくりと静かに頷いた。
「既に奏が一般人車両に加勢に来ています。特別車両の方は、灯璃さん達の手で人々の避難が完了しており、母さんがその逃げ道を真紅の騎士団達と死守してくれていますから」
その瞬の状況を見定めた言の葉に。
「じゃあ、俺達も急ごうぜ。あまり此処に長く人々を留まらせ続けても、皆ストレスが堪って、暴発してしまうかもしれないしな」
とネコ吉が告げるのに。
「ええ、そうですね。黄巾力士2小隊、人々の避難と警備を!」
冬季が頷きと共に荷両から引き上げてきた14体の黄巾力士と、予め此処に配備していた黄巾力士軍を再編し指示を下す。
28体の黄巾力士隊が、冬季の指示に従って整然と人々を守る隊形を作り上げ、更に重ねがけの様に瞬の傭兵部隊も護衛に付いた。
「よし……急ぐぜ!」
ネコ吉のその言の葉に。
「うん、そうだね。じゃあ、そっちは任せたよ♪」
予想出来ない一言と共に。
ピュイ、とクラウンが口笛を吹くと、90個の獄炎の炎が敬輔達を取り巻いた。
「此は……!」
その獄炎(慈愛)の焔が齎す温かな癒しの光が、敬輔の体の傷を癒していく。
「この回復は助かるが……お前は如何するつもりなんだ、クラウン?」
同様に乗務員や乗客達を守る為に傷ついたネコ吉が確認の様に問いかけると、道化の様に笑ってクラウンが天井を指差した。
「ボクは元を絶つために、外部でこの弾丸列車に絡まっている幻朧桜達を取り除いてくるよ。まあ、彼等をある意味では燃やし(癒し)に行くだけだけれどね♪ そう言う役割も必要ですよね、鳴上さん」
とクラウンが冬季に相槌を求めると。
「ええ、そうですね。私の黄巾力士も同様の理由で現在、竜胆さんを守る為に、VIPルームの車両のある車両の外で戦っていますよ。森宮さんのスパーダがそんな黄巾力士や空を照らしていますし、私ももう一度行くつもりではありますが」
そう冬季が告げるのに。
でもさ、と軽くクラウンが肩を竦めた。
「それだったら、一般車両の方から鳴上さんには出て貰って外の幻朧桜の撃破をお願いしたいんですよ。弾丸列車全域をカバーしない限りは、この作戦も意味があまりないからね♪」
そうクラウンが告げると、冬季が分かりました、と静かに頷いた。
「乗客達を誰1人も殺させないために、其々に出来る役割を果たす……か」
ネコ吉が確認する様に告げる其れに、そうだな、と敬輔が同意の頷きを1つ。
其々に車内を守る決意を固めている様子を見て、クラウンが周囲の楽団人形に激励の音楽を吹かせて道化の笑みを浮かべた。
「準備完了ってところだね。それじゃあ、急ごうか?」
からかう様な口調でウインクをするクラウンの其れに苦笑を零して。
近くまで迫っていた幻朧桜を薙ぎ払う様に黒剣を振るって暴風を巻き起こして彼等を刻んだ敬輔が乗客達と共に客室車両を後にする。
其の後を追って、冬季とネコ吉が乗客と乗務員達と共に、客室車両を後にするのを見送りながら。
「それじゃあ、楽しい、楽しい列車の旅、第二幕の始まり、始まり~♪」
そう歌う様に戯けて肩を竦めたクラウンが。
灯璃が黒壁で封鎖する直前であった割れた窓から外に10体のからくり人形と共に外に飛び出し。
――獄炎を纏った投擲ナイフを、外壁に取り憑いていた幻朧桜に向けて一斉投擲し、その幻朧桜達を燃やす(癒す)のだった。
●
無論、一般人の乗車する車両の方も、決着の時が、着々と近付いていた。
姫桜が二槍を持って、祥華が作り出したシェルターへの入口を食い止め、紅閻が識神と共に、幻朧桜を倒した時。
「ひめちゃん! 大丈夫!?」
「遅くなってすみません、加勢に来ました!」
食堂車両の解放に成功した葵桜と、63体の妖精の騎士を引き連れた奏が大慌てで一般車両に飛び込んできたのだ。
「あお! 奏さん!」
「真宮達か。生憎だが、既に神城の奴は客室車両に向かったぞ」
姫桜が驚いた様な表情になって目を瞬きさせ、紅閻が涼しい表情でそう告げる。
祥華は自らの結界術に全身全霊の力を込め、識神にレーザー攻撃をさせ続ける。
「次、六時の方向よ。食い止めて」
対情報戦用全領域型使い魔召喚術式から入ってくる情報をCICで解析した都留の的確な指示を、自らの耳朶を通して識神に繋ぎながら。
「白楼、紅桜。幻朧桜を影朧化させている元凶……“嫌な感じ”のする場所は本当に無いでありんすか?」
そう念話で自らのバディ達に問いかける祥華の其れに、白楼と紅桜が動揺の気配を伝えてくる。
白楼と紅桜が伝えてくれたその場所は、竜胆のいるVIPルーム。
即ち、『菖蒲』の姿をした影朧を桜花が足止めしているその場所だ。
そこの瘴気が最も濃いのだと白楼と紅桜がもう一度伝えてくるのに祥華が思わずううむ、唸った。
(「……アンダーウッドは獄炎の焔で幻朧桜達を燃やし(癒し)たか……。と言う事は、この幻朧桜達を止めるためには、やはり其の元凶を……」)
「カミサマ、残念ながら倒すしか無さそうだぞ。其の為には、この幻朧桜達を無力化するしか無さそうだ」
紅閻が呼びかけた動物達から得た情報を元に、何処か諦めた様に溜息を漏らす。
(「嫌な感じのする場所……それが正に、竜胆がいるあの場所から最も感じられる、と言うのであれば……」)
『菖蒲』の姿をした影朧こそが、この幻朧桜達を影朧化した元凶と言う事になる。
――結論せざるを、えなくなってしまう。
遂に諦めた様にそうか、と祥華が小さく溜息を漏らし、改めて葵桜達を見つめて、ほう、と小さく息を吐いた。
「ふむ、榎木達が来たでありんすか。どうやらファルシュピーゲルと護鬼丸と篁臥が、無事に貴奴等を運び出し終えた様でありんすのう」
「はい、そうです! それから母さんが守ってくれている特別車両も、灯璃さんの作り出した迷路を繋げ、既に人々の避難を完了させています!」
そうキッパリと告げた奏の其れに、成程、と納得がいった様に頷く祥華。
「だから、後は此処だけです! 一気に解放しますよ!」
「ええ、そうですね。一気に切り抜けましょう、奏」
その奏の言の葉に。
反対側の車両からこの車両に飛び込む様に入ってきた瞬が、そう応える。
反対側にいる瞬の存在に気がつき、瞬兄さん! と嬉しそうな悲鳴を上げる奏。
「無事でしたか! では、其方の方は……!」
「ああ、今は瞬さんの傭兵部隊と、冬季さんの黄巾力士隊、ネコ吉さんが連れてきてくれたSP達が護衛をしている。後は此処の影朧達を殲滅すれば……!」
一先ず人々の安全は保証され、決戦に持ち込める。
頑なな決意を表明する様に敬輔のそれに、奏が分かりました! と頷きを1つ。
「じゃあ、一気に終わらせちゃおう! ひめちゃん、行くよ!」
「ええ、分かっているわよ、あお!」
その葵桜の気合いに頷いて。
姫桜が両掌に高圧電流を帯電させ、其れを一気に解き放った。
解き放たれた雷撃が幻朧桜達を纏めて撃ち抜きその全身を痺れさせるその間に。
「これだけの戦力が揃っていれば中は大丈夫でしょう。私は外に根付いた影朧化した幻朧桜を叩いてきます。もし、この幻朧桜達を一時的に無力化したいのであれば、私達の戦う方角へと、竜脈の力を移動させれば良いでしょう、𠮷柳さん」
「……承知したでありんすよ、鳴上。では外の幻朧桜達は頼んだでありんす」
まるで、祥華の心の動揺を読み取っていたかの様に。
冬季がそう告げるのに、沈痛な表情を浮かべたままに祥華が頷き、其れに微かな笑みの残響を残して外に飛び出す冬季。
冬季が飛び出した窓の前に、敬輔の分身が体を張って飛び出して、その場所から入り込もうとする幻朧桜を切り捨てながら。
「祥華さん、頼んだ!」
「仕方ないでありんすな……」
その敬輔の呼びかけに。
祥華が走る列車の周囲の竜脈の力を移動させ、敬輔の立つ窓を塞ぐ様にその場所を封鎖した。
封鎖されたその場所から竜脈の力が列車全体に走り、其れによって根付いていた影朧化した幻朧桜が潮が引く様に列車から離れる。
「ふむ。……取り敢えず此で、乗客と乗務員達への被害は抑えられる様になったと考えて良さそうだね♪」
車外を覆っていた漆黒の幻朧桜達が後退する様を見て、クラウンが鼻歌でも口ずさむかの様にそう呟き。
「そうですね」
口の端に笑みを浮かべたまま冬季が粛々と頷いて、VIPルームの上で戦い続ける宝貝・黄巾力士をちらりと見やる。
祥華の編み上げた竜脈の檻に覆い被さる様に、灯璃の霧が他の侵入口を封じ込める様に抑え込んだ結果、その場には僅かな影朧化した幻朧桜が取り残された。
それらの幻朧桜達は……。
「白梟」
紅閻が何処か諦観を感じさせる溜息を吐きながら、自らの跨がる白梟の口腔内からブレスを放出させて焼き払い。
更に……。
「行くよっ!」
姫桜の高圧電流で痺れさせた生き残りには、葵桜が衝撃波を解き放ち。
「行きますっ!」
奏が決意と共に、それでも尚抵抗を続けようとする幻朧桜達を妖精の騎士達と共に風の衝撃を叩き付けてその動きを食い止めて。
「終わらせるわよ。エレボスの影、光属性を起動。浄化せよ」
その幻朧桜達に向けて都留がエレボスの影を嗾けて光の刃を解き放ち、幻朧桜達を斬り裂かせ、一般車両の安全を確保した。
その様子を見て、漸く少しだけ肩の荷が取れたという表情を浮かべながら、よし、と敬輔が呟いている。
「後は貴様だけだ、菖蒲さんの姿を象った偽物の影朧……! 貴様が菖蒲さんの姿をもしたこと、万死に値する……!」
竜胆にとって大切な妹の姿を象った影朧に対する憎悪と憤怒を隠せぬままに。
怒りの呪詛を吐き出した敬輔が、都留達と共に乗客達を食堂車両に残るSP達に預け、義透達と合流し、第2車両へと駆けていく。
――この事件を起こした元凶たる影朧の居るその場所へ。
●
――そして、統哉は。
「着ぐるみナイン! 桜花を守れ!」
SP達に協力を取り付け、7体のふわもこ着ぐるみ達に食堂車両を任せた上で、自らは竜胆の居る部屋に走っていた。
辿り着いた統哉の目に留まったのは。
「くっ……!」
疲労が濃くなり、思わず『菖蒲』の攻撃を受けて、その場に転倒する時間稼ぎのために戦い続けていた桜花の姿。
転倒した桜花に止めを刺そうと拳を振り上げた影朧に向けて。
「させるか! 行け、着ぐるみナイン!」
統哉が雄叫びを上げながら、『宵』を下段から『菖蒲』に向けて撥ね上げる。
横合いから割り込む様に入ったその斬撃は虚しく空を切るが、其の時には2体のふわもこ着ぐるみが、桜花を拾い上げていた。
桜花は疲労からハァ、ハァ、と肩で荒い息をついていたが、自分を守る為に立ちはだかった統哉に向けて完爾と笑う。
「統哉さん、間に合ってくれて、助かりました」
天真爛漫とも思える其の笑みを見て、ニャハハ、と桜花に小さく笑いかける統哉。
『菖蒲』の次の攻撃に備えて身構えながら、統哉が目の端に竜胆達のいるVIPルームの中を見つめてみると。
「断ち切れ! スプラッシュ!」
其の叫びと共に。
侵入していた最後の幻朧桜に向けて、ウィリアムが『スプラッシュ』を袈裟に振るい、斬り捨てているその姿と。
竜胆とネリッサが策を練り、灯璃や陽太達に指示を出し。
美雪や暁音が自らの呼び出した動物や縫いぐるみ達と意識を繋いで、状況を伝達している姿が見えた。
それから、竜胆の方に近付く前に、桜花と戦っていた『菖蒲』の姿を借りた影朧を見やる統哉。
(「本当は、竜胆さんに、如何しても聞きたいことがあるのだけれども……」)
皇族の命が狙いであれば、必ずしも竜胆を狙う必要は無かった筈だ。
それこそ今、この影朧が姿を借りている『菖蒲』を殺してしまえば良い。
けれどもこの『菖蒲』の姿を模した影朧は、間違いなく竜胆の暗殺を企てた。
つまり……。
「……お前は、竜胆さんを如何して殺す必要があったんだ?」
そう統哉がその『菖蒲』に向けて、問いかけた、其の時。
『我が邪魔を悉くし、更には人々をも守りきったか超弩級戦力達……! 何処までも我が我として存在する其の理由を、世界の概念を否定する異分子共め……! 其の罪、万死に値する!』
そう断罪する様に叫ぶと共に。
『菖蒲』の姿をした影朧が、その姿を『娘』へと変えていく。
一度は祥華の竜脈によって切り離された幻朧桜達が再び大きく揺さぶられる姿を、クラウン達に見せつけながら。
大成功
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第3章 ボス戦
『『殺人者』桜守』
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POW : 無限開花・彼岸大桜
【周囲の幻朧桜を一時的に変異させ、自身の】【影朧をレベル×10体を召喚する。自身の】【数が減れば即座に補充し、戦力を強化する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 反魂桜~満開~
自身の【周辺に存在している幻朧桜】を代償に、【凄まじい数の影朧を召喚し、その影朧】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【猟兵に対抗する形で変質し続ける身体】で戦う。
WIZ : 華胥の桜花
無敵の【ユーベルコードと、無敵の影朧】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
イラスト:久蒼穹
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
『よくも、よくも……!』
深き怨嗟の籠められた、呪詛の呻きと共に。
『菖蒲』から『彼女』……真の姿を晒した娘が咆哮した。
――不安定な悲しみを、痛みを、苦しみを。
心残りをーー世界への憂いを。
そんな様々な無念を抱いたままに、死していった人々に『我』が報いる為にすべき事。
それは、生者と言う名の『光』と、その影たる『闇』の天秤を平行に保ち、全てのものに平等な、平和と秩序と安寧の世界を齎す事。
それこそが……我が役目。
自らの望みを生の中で果たせず死んでいき。
我が下に埋められた者達が抱きしこの世界への無限の哀憐の想い。
その想いを人々に伝え、この世界の『仕組み』が覆い隠してしまった真実の1つを白日の下に曝け出す。
それこそが我が役目……生まれたにも関わらず生者達の幸福という名の『光』が享受する偽りの平和に埋もれた悲しき想い、『影』を背負いし『我』の使命。
――2つの生と死と言う世界のバランスを維持する為に、生を間引き、黄泉にいる者達に希望を与える事で。
――だが。
『我等』が天秤に籠めた祈りと願いを踏み躙り、この世界の秩序を狂わせようとする者達がいる。
――それが。
「『罪深き刃』刻まれし者……世界の外より現れた超弩級戦力達……! 」
――その様な者達を。
如何して『我』が許す事が出来ようか。
『この世界の現在と過去を生きる者達……平等なる権利を持つ者達を守る其の為に、我が生み出したこのシステムを……!』
破壊しようとする不死者と、罪深き刃刻まれし貴様達こそ異端。
――故に。
『罪深き刃刻まれし者達よ。そしてかの者らに手を差しのべる、この世界に不死の命として生まれた皇族よ。我は、貴様達を決して許しはしない。全ては――』
――この戦いの中で失われてきた多くの影朧達の命と記憶のために。
『彼女』の拒絶の言葉に応える様に。
竜脈で『世界』から切り離された『菖蒲』……否、『彼女』の賛同者達は咆哮する。
咆哮し、自分達の『想い』を代弁する為に生み出されたこの少女に其の力を貸し与える。
――だから。
『我が抱き、背負いし想いは、世界に欠かせぬ汝等『ヒト』の子等が必ず抱く負の想い。その想いを、貴様達は否定できるのか!? 其の負の想いを背負う『我』を、貴様達に否定する権利があるのか!?』
嘆きの様な、叫びと共に。
娘の咆哮に応えた、走り続ける弾丸列車の周囲の一部の影朧と化した幻朧桜達が振動する。
自分達のその願いを、彼女に全て託しながら。
ーーその負の想いを託された彼女に対する、猟兵達の、其の答えは……。
*第2章の判定の結果、第3章は下記ルールで運営致します。
1.戦場は第2車両、竜胆のいるVIPルームのある車両のみです。
2.人々の避難が完了したため、人々を護衛するためにSPと警備員が待機します。其の為、乗客、乗務員の安否を心配する必要はございません。
3.『桜守』は絶対先制で、SPD:UC『反魂桜~満開~』を使用します。
このUCは絶対先制のため発動を妨げることは不可能ですが、手段を講じれば、周囲の幻朧桜への被害を減らすことが出来るかもしれません。
但し、絶対先制で使われるUCは『使用されたUC』扱いにならず、UCで無効にも出来ません。
故に絶対先制の効果を0には出来ません。
この幻朧桜への被害を減らす行動は、プレイングボーナス扱いになります。
4.第3章では竜胆も戦場に居ます。竜胆の扱いは下記となります。
a.この戦場から撤退することはありません。
b.猟兵達には比較的友好的です。
c.竜胆は下記UCを使用できます。また、武器による戦いの場合は二丁拳銃による射撃を行います。
UC名:ビブリオテーク・クルーエル
効果:【過去から学んだ全ての記憶】から【類似する事例】を発見する事で、対象の攻撃を予測し回避する。[類似する事例]を教えられた者も同じ能力を得る。
第2章の判定の結果、第3章では、竜胆に頼めば普通にUCを使用してくれます。
5.影朧のレベルは、最低でも凡そ『381』レベルとして扱います。此は、UC使用時の参照数値となります。
6.竜胆及び影朧から聞き方次第では情報収集が可能です。但し、幾つか制限がございます。
a.此処で語られる設定は桜シリーズ上の設定です。その点は、予めご了承ください。
b.この影朧が全てを知っている訳ではありません。其の為、必ずしも正しい事を話しているとは限りません。
c.竜胆にもある程度事情を聞くことは出来ますが、此は『影朧』への対処が完了し、且つ竜胆が生存している場合に限ります。
7.竜胆の生死は、判定に影響を及ぼしません。守らない場合、死亡するか或いは重傷を負うことになるでしょう。
――それでは、最善の結末を。
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
まあ、この世界の影朧の在り方は独自の物だ。心残しや恨みが残ると死して後影朧になる。
でもアンタがいう意見は一方的に見えるね。全ての人達は無念のうちに死んでいく訳では無い。全てをやり切ったり、望みを果たして悔いなく死んでいく人もいる。アタシ達家族は多くの人達の死を見てきたが、抱く想いはそれぞれだ。全て知ったような顔するんじゃないよ。
まず厄介な先制攻撃を凌ぐ必要があるか・・・アタシは幻朧桜を護る術がない。なら、【オーラ防御】【残像】【見切り】で召喚される影朧の攻撃を凌ぎながら、【衝撃波】で影朧を攻撃する。
先制攻撃を凌いだら、先程の防御体制を維持しながら、【真紅の騎士団】を召喚。真紅の騎士団と共に【気合い】【怪力】を込めた両手に持った槍を【範囲攻撃】で振り抜き、影朧を纏めて薙ぎ払う。
確かに死者に報いる事は大事だ。でも、死者がまた蘇るのは世の断りではないんだよ。それこそ世界が壊れてしまう。死んだ者はそのまま眠らせてあげた方がいいんだよ。
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との参加)
何か難しいこと言ってますか、例え無念を抱いて死んでいった人はそのまま眠らせてあげるのが正しい事じゃないですか?無念を抱いたまま影朧とするのは逆に苦しめるだけだと思うのです。
生きている方はその方の人生を生きていただく、亡くなった方は安らかに眠っていただく。それが平和の世界だと思うのですが?貴方のいう平等の世界は明らかに死の世界に感じますね。
幻朧桜を護る為に応急処置ですが、【オーラ防御】【結界術】を幻朧桜の周りに展開。それでも全部は守りきれないでしょうから、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【盾受け】【受け流し】【ジャストガード】で影朧の攻撃に耐えます。
先制攻撃に耐え切ったら前述の防御体勢を維持しながら、妖精騎士団のお手伝いを発動。妖精騎士団と共に【衝撃波】【範囲攻撃】で攻撃し、【怪力】【シールドバッシュ】でプレッシャーを与えていきます。
貴方がいう理屈は明らかに闇に傾いています。それは平等な世界ではありません。
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
成程。それが貴方達が行動動機とする理屈ですか。生きている人を殺し、死んだ方を影朧として蘇らせる・・・それは平等の世界ではありません。死が蔓延る、闇に傾いた死の世界です。
人の抱く気持ちは様々です。誰もが悲しみの内に死んでいく訳ではない。一方的な見方しかできない貴方達が世界の秩序と平等を保つのは無理な話です。ましてやその思い込みで人の生き死に干渉するなど。
幻朧桜を護る為に【魔力溜め】【全力魔法】で魔力を注ぎ込んだ【オーラ防御】【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。影朧の攻撃からも身を守らなければいけないので【オーラ防御】【第六感】で身を守りながら【衝撃波】で攻撃。
先制攻撃を凌いだら、【高速詠唱】で【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。更に追撃として氷晶の矢で攻撃。鉄壁の無敵化を崩します。
平和な世界を作るなら、生死の境界線ははっきり引かれるべきです。それが世の理ですよ。
鳴上・冬季
黄巾力士と共に仙術で縮地して先頭車輌へ
「後の責めは全て私が負いますから。戦闘が終わるまで、この列車を停めておいてください。沿線の幻朧桜を安易に供給させ続けるわけには行かないのですよ」
「戦闘は最長で6時間程かと。終わったら必ず呼びに来ますから、貴方はこの車輌で隠れていてください。黄巾力士、この方を庇い、戦闘終了まで誰にも運転させるな」
運転手に仙丹と仙桃を幾つも渡し隠れさせ黄巾力士に庇わせる
自分だけ第2車輌に戻るが1号車への連結部分に陣取り戦闘終了まで誰も運転席に行かせない
「さて、少し出遅れましたが私も参戦させていただきます…八卦天雷陣・彩雲天網」
「最初に言ったでしょう、影朧桜は全滅させる、と。これ以上安易に影朧化させず、召喚にも無駄な労力がかかるようにするには、これが最善です」
敵味方に絶え間なく雷撃し敵にはダメージ
味方は強化
「それは世界を骸の海に落とそうとするただの死者の虚言ですね」
戦闘終了後
運転手の元へ
「お待たせしました。運転再開してください…戻ったらまず沿線の幻朧桜植樹でしょうか」
嗤う
天星・暁音
…止めてよね
想いを背負うのは大事かもしれないけど…背負ったものを、君が動く理由にしないでよ
ただ君が今の世界が気に入らないだけなんじゃないの?
どんな想いを背負おうとも、俺は俺の意志でどうしたいか決めるのだから…
世界を、人々を、君が今、使っている桜たちを、その痛みと悲しみを、怒りと嘆きを、憎しみと苦しみを…
背負ってみせてよ
結界術や祈り、破魔等で先制UCを可能限り防ぎつつ
指定UCで、事前に制御を外した共苦の力を桜守に押し付けます
自分は痛みから解放された事で体が動かしやすくなるので、普段より軽快に俊敏に、武器を使って味方の援護や竜胆さんを庇ったりと動き回ります
スキルUCアイテムご自由に
アドリブ共闘歓迎
吉柳・祥華
心境心情
秩序と言う名の混沌
遥か昔
世界を作った独神が居った
独神は己のチカラを二つに分けて姉妹の巫女にそれぞれの役割を与えた
姉は福を授け、妹は禍を授け
そして姉妹は力を合わせて我が子等を創り給うた
我が子等に、それぞれを平等に与え給うた
されど、いつしか子等は妹神を疎い、葬り去ろうと願った
そして、外から来た神によって願いは成就され…
世界は崩壊しました、とな
まさに、今がそのようじゃな…
しかし我らを招き入れたのは世界
まるで世界が『止められるものなら止めてみよと』挑戦状を叩きつけられておるようじゃ
挙句に、かような者を準備するとは、手が込んでおるのう
確かに妾は外から来たがのう?
それに『神』じゃから…不死でもあるの
ほうかほうか、妾達は罪深い刃刻まれし者なのか
ならば、汝は罪深き刃を産みせし者かえ?
戦闘
しかし、どうしたものか…
周囲の幻朧桜の燃やすワケには…いかんしのう
一時的に無力化するには…
今一度、可能なら先刻のように龍脈を移動させて
此処でUCを使い…暫しの間、幻朧桜の活性力を封じてしまおうか
アドリブ連携お任せ
白夜・紅閻
カミサマ?
(あ、これダメな奴だ…。仕方がない)
カミサマの式神に伝言を伝える
護鬼丸は竜胆の護衛に
冥風雪華はカミサマのサポート
護衛手段と攻撃手段はお前たちの得意なものでとの事
◆心情
生と死に関しては俺はよくわからん
(どちらかというと残されたほうだからな…)
それに俺はヤドリガミだ。ああ、貴様も似たようなものか?
負の感情から生まれた…
黄泉にいる者達に希望を与えて何になる?
それが黄泉返りってやつか?くだらん
死した者は生き返らない、それこそ人の理なのだろ?
だから輪廻というものがあり、魂の循環がなされるのだろ?
それを乱しているのは、貴様ではないのか?
別に、貴様に許されようとは思わん。許せとも言わない。
ただ言えることは、貴様のその行動が…この世界そのものを消滅させてしまう可能性があるというだけ
この世界が消滅してしまえば、貴様のソレも無駄になるな?
白梟は状況に応じて援護射撃を
篁臥は俺を乗せて駆け巡れ、影朧たちを叩き伏せる
深追いは厳禁!ヒットアンドアウェイ
イザーク、奴らを喰らえ!
レーヴェティン、薙ぎ払え!!
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
ふん、余程俺ら猟兵が憎いとみえる。恨み骨髄だな。ま、コイツらの企み散々邪魔してやってるんだから、無理もない。それに少なくとも俺は、そんな恨みつらみを向けられるのには慣れてるし、第一お前ら影朧に褒められる様な悪事は、なーんにもしてねぇしな。
狭い列車の車内で事を構えるとなると、俺は小細工抜きの力技で行くっきゃねぇな。UCでひたすら桜守と影朧に向けて弾幕張りまくって押し切る。無論、効果があるかどうか疑問だが、少なくとも牽制程度にはなって、その間に他の猟兵が何か仕掛ける時間は稼げる筈だ。
結果的とはいえ竜胆、手前の身を守ってるんだ。報酬はしっかり頂くぜ?
御園・桜花
「負の想いと貴女は同一ではありません。否定するに決まってるじゃありませんか」
莞爾と笑う
「人の想いと願いは、正負に関わらず次の生に繋がる為の原動力。次も、次こそ生きたいように生きられるようにと、後押しして転生を促すのが幻朧桜と桜の精の役目。まだ生在るものを死に導き、更には自分の恣にしようとする。貴女は生きる願いを踏み躙り負の願いに寄生する、汚泥以下の汚らわしい存在です」
「此の優しい揺り籠を護る為なら、どんな事でもどんな者とも協力する。それが私の矜持ですもの。さっさと消えてお仕舞いなさい。そして、その悔しさをバネに、骸の海に還るのではなく転生していらっしゃい」
UC「幻朧桜の召喚」
強く相手に負の感情抱かせ癒し浄化する桜吹雪強化
影朧桜も桜守も浄化
「天秤云々を主張すればするほど、貴女は最強から遠ざかります。天秤は釣り合いを取る為の物、片方が最強では最初から釣り合いが取れませんもの。そしてフォーミュラでも無い貴女が理を作る?観測者を自称する?バカも休み休み仰って下さいな」
第六感使用し最前線で殴り合い
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
…あなたの言う想いとやらに関しては、否定はしません。が、肯定もできませんね。その目的自体は頷ける点がなくもありませんが、残念ながらその為の手段が致命的に間違っているとしか言い様がありません。ですので、あなたを排除させて頂きます。
UCの荒れ狂う火炎の王の使いを放ち、桜守の周囲に漂わせてを攻撃・攪乱及び幻朧桜の排除を試みます。同時にハンドガンのG19で牽制射撃を行いつつ、桜守の隙を伺います。チャンスができたら、UCの時空に潜みし貪欲な猟犬を放ち、桜守を攻撃します。
残念ですが、この世界も、そして他の世界も公平ならまだしも、平等などという言葉は幻想に過ぎません。
馬県・義透
安全圏作っといて正解であったな…。
で、此度であるが…属性的にもあやつ向きか。
※人格交代※
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎
早業で四天流星投擲、それを礎としての『魔断結界』で少しでも幻朧桜への被害を減らせればよいのじゃが。
少なくとも、ここ一連のことでは『わし向き(破壊担当)』がなくて、出てこんかったがの。流れは把握しておるよ。
で、なんでそのわしかというとな。魔断属性使えるのが、わしだけであるからの。『またち(魔断・馬舘)』であるし。
UCで出した炎の狼たちのうち、十体は竜胆殿への護衛。残りはあの影朧への攻撃へ回す。
この世界のオブリビオンは影朧、すなわち概念的にもこの炎の狼は天敵であろうよ。
黒燭炎で突いたりもするぞ。
自らの生の中で、望みを果たせなかった奴はごまんとおろうよ。わしもその一人であるからな。
だがそれは過去が、終えたものが、『今』と『未来』を遮っていい理由にはならぬよ。
わしはな、『今』から『未来』へと生きる者を助くためにおるのだ。
※
『侵す者』の生前は狼獣人です
烏丸・都留
SIRD一員との連携
WIZアドリブ共闘OK
前章継続、時騙しの懐中時計とフェノメノンアクセラレーターを起動、処理能力や事象干渉能力を超強化。
聖魔喰理扇で相手の理を崩す。
可能なら「見た目がアレだから攻撃しないでね」
アラクネ型対オブリビオン戦略呪操機朧蟲を車輌内か外に縮小召喚、敵数に対応する数の分体(約100万機まで運用可)を常時展開維持し取付くか防護する事で、敵の力を吸収弱体化し自身強化。
弱体化済影朧/幻朧桜をメンテナンスユニット内に結界隔離/浄化。
その他装備群は、自身や味方、乗員全てを範囲防御/攻性防御。
UCで自身や装備群、味方へ加害行動を向けた対象の根源に対し、索敵認識外から致命的攻撃を行う。
ベアータ・ベルトット
他の猟兵と連携を取りつつ、召喚された影朧群の迎撃に専念するわ
左腕を機関銃に変え、影朧達の頭部を狙って自動射撃で撃ち抜く。同時に右腕からこっそりワイヤーを射出して影朧群の足元に這わせ、BFを逆流させて先端の鉤部から垂れ流しておく
私の射撃に対抗して、影朧達が頭部の防御を強化するかたちに変質したら…水溜まり状になったBFを一気に結晶化して騙し討ち。足元から突き出た無数の刀で、纏めて串刺しにしてやるわ
続いて蝙翼機光を展開しUC発動。空中機動を活かして翻弄するように飛び回り、大量の吸血光線による範囲攻撃で影朧達を爆破。吸血出来るならエネルギー充填し、少しでも敵数を減らす事に尽力
この先はアンタ達に任せるわ
朱雀門・瑠香
どうしろってのよ!!このめちゃくちゃな状況!!?
・・・それとごめんなさい。私、貴方達の言ってることが理解できない。喧々諤々恨みつらみを宣っているのは分かるけどそう言う奴を慮ってあげるほど私は寛容じゃないの。・・・そう言うのは弟だけで十分だし。
周りの幻朧桜を切り倒しながら相手目掛けてダッシュで接近。立ち塞がる影朧の動きを見切り斬り捨て間合いに入り込み呪詛耐性、激痛耐性、オーラ防御で耐えながら破魔の力を込めて斬り捨てます!
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携
先ずは厄介な先制対応に、敵の動きや幻朧桜の位置を把握(情報収集・見切り)しつつ、指定UCで爆撃機召喚。周囲影響を考え炸薬量を減調整した精密誘導爆弾を逐次投下し、敵の召喚影朧が集まっている箇所と代償に侵され始めた桜を叩いて間引き、敵集団の数を減らしつつまだ安全圏の桜への防火帯を作っていきます。
更に自身は敵本体の動きを監視しつつ、ミハイルさんや仲間の牽制に合わせて分身体の頭部を狙撃(スナイパー)し確実に頭数を削り続け、敵戦力の低下と、本体の強化を妨害する様に戦います。
死体の山を作って無念をただ増やす様な貴方に…過去の人々に報いれる事なんて何一つありませんよ?
アドリブ歓迎
館野・敬輔
【闇黒】
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
俺も負の想念で闇に囚われ復讐に邁進して来た身だ
ヒトが負の想いを抱くのは否定できない
むしろ、ヒトはヒトである限り
負の感情から逃れられないと知っている
だが、負の想いは誰かに押し付けるものではない
ましてや、無理やり作り出すものではない!
貴様らのやり方、俺の剣で否定してやる!!
先制で現れる大量の影朧に対しては
幻朧桜が無事であれとの「祈り」を籠めた「属性攻撃(聖)、衝撃波」で「範囲攻撃、吹き飛ばし」
戦闘中に新たに現れた影朧に対しては、吹き飛ばしを「なぎ払い」に変更
聖の衝撃波で影朧の大群を押しとどめれば…幻朧桜は守れるだろうか?
凌いだら指定UC発動
爆発的に増大したスピードと反応速度を生かし少女を翻弄
生じた隙を「見切り」一気に懐に飛び込み「2回攻撃、怪力」で一息に断つ!
世界の調和を保つと嘯く影朧よ、歪んだ想いを抱えて沈め!!
俺は闇に属する人間
竜胆に聞きたいことは特にない
戦闘後は気絶した陽太を抱えて別車両に移動し介抱するさ
…陽太は陽太だ
どんな姿や性格であれ、な
森宮・陽太
【闇黒】
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
…腸煮えくりかえるような怒りが収まらねえ
菖蒲の姿をした影朧
てめぇは世界の…『敵』だ!
真の姿解放(オーバーロード)
先制の反魂桜対策は幻朧桜が平穏であれとの「浄化、祈り」を織り込んだ「高速詠唱」から指定UCでマルバス召喚
戦闘中、戦場全体にずっと黄水晶の雨を降らせ続け
影朧の身体を変質し続ける能力を強化とみなし帳消しにした上で
幻朧桜を影朧へと変えようとする力を打ち消してやりたい
俺自身は「闇に紛れる、地形の利用、忍び足」で気配を消しながら少女の背後を取り
頃合いを見て「浄化」の魔力を籠めた二槍で「ランスチャージ、暗殺」
俺が護るのはこの世界の秩序
貴様らが生み出したシステムとやらはこの世界には異端の存在
そもそも負の想いは何人であれ些細なきっかけで抱くもの
貴様らが操る必要はない
…もっとも
殺戮人形だった俺にその想いを教えてくれたのは『陽太』だが
戦闘後真の姿解除し気絶
いつの間にか別車両で敬輔に介抱されているが
戦闘中の記憶は全くねえ
…なあ、敬輔
俺、何時まで俺でいられるんだ?
彩瑠・姫桜
【二桜】
竜胆さんの護りをメインに
仲間と連携し臨機応変に動けるように意識するわね
矛先は私達猟兵全体に向けられた感じかしらね
それでも、竜胆さんが危うい状況は変わらない
私は自分のできることとして、護りに徹するのみよ
[封印を解き]、真の姿解放(姿変わらず)
【血統覚醒】で攻撃力強化させ可能な限り竜胆さんを[かばう]わ
攻撃は[武器受け]で可能な限り受流す
必要があればドラゴンランス二刀流で[串刺し]にするわね
今回は耐久重視だろうから、最後まで壁として立てるように意識するわね
>桜守
(あお(f06218)の言葉には苦笑いしつつ)
私がこの世界のことで分かっていることなんて無きに等しいわ
だから、否定する権利があるのかと言われたら、困ってしまうけれど
でも、あなたやあなたに賛同する影朧たちがあまり良く想っていないかもしれない、
私が知っている限りのこの世界のあり方は、私は悪いものではないと思っているの
それこそが罪だというならそれでいい
私は、私の持つ『罪深き刃』ごと自分の罪として引き受けて
これからも世界を守っていくわ
榎木・葵桜
【二桜】
真の姿(姿変わらず)解放
【巫覡載霊の舞】発動
[なぎ払い、衝撃波、範囲攻撃、2回攻撃]で影朧をなぎ倒しながら、桜守の動きを伺う
状況見てできるなら桜守自身を一発しばきたい
桜守・影朧含め敵からの攻撃は
[第六感、見切り、武器受け、激痛耐性]で凌ぐ
>桜守
ごめん。頭悪くて申し訳ないんだけど、私、あなたの言ってる意味がよくわかんない
あなたはこの世界のことを憂いていて、この世界のバランスを維持するために、あなたが考え作り出した仕組みで動いてるってこと?
で、そのために今この列車にいる人達は殺されなきゃいけないってこと?
とりあえず真に正しいのがどっちかって話は横に置いて
頭の悪い私は、こう思うんだよね
アホか!って
小難しい言葉こねくり回してもったいぶって、
自分たちがさも正しい顔をして、自分の考えに酔っ払って
人殺しするのやめてくんない?
とりあえず、今回の私は「今」この目で見える人たちの命と笑顔を守るために動く
だからあなたを倒すよ、しばき倒すよ
その動き方が間違ってるとしても、私は今の私ができる最善を信じる!
クラウン・アンダーウッド
なんともお優しい方だね。貴女の笑顔はさぞや美しいことだろうね♪
影朧って素晴らしい存在だよね。絶対悪じゃない不明確なところがとていい。どんな「過去」にも救済のチャンスが得られるなんて素敵な世界だ♪
さぁ、燃やそう。猟兵も影朧も等しく、全てを癒そう。
クラウンは肉体が傷ついたそばから炎で癒し、それでも足りなければそれまでの肉体を放棄して器物(懐中時計)から新しい肉体を再構成して復帰する。
文月・ネコ吉
人々の安全を確保、これで漸く戦える
仲間と連携して行動
この桜もまた循環の中に在るのだったな
浄化の炎で燃やしてでも
桜守から周囲の桜を遠ざける
竜胆氏には勿論UCの使用を頼む
彼には全てを見届ける義務がある
長きを生きる者なら尚の事だ
過去の記憶を未来へと
歪みなく繋いでいく為に
『雨音ノ記憶』使用
俺もまたある意味闇の一部だろう
そして闇を知ればこそ、光も共に在ると知る
負の感情の裏側には、正への渇望もあるだろう
その事実から目を逸らし
全てを闇に縛り付けたままで
託された想いに報いる事が本当に出来るのか?
斬撃と共に疑念をぶつけ弱体化
転生願う
■竜胆氏
過去があるからこそ今があり未来がある
貴方には、今こそ話す義務があるのでは
文月・統哉
仲間と連携
結界術と衝撃波で桜守から周囲の桜を遠ざける
『願いの矢』使用
桜守と闇の天秤の矛盾について問答し
疑念で弱体化させると共に
桜守と影朧達の転生を促す
そうだね
生きるという事は幸せな事ばかりじゃない
苦しい事も悲しい事も沢山ある
時には死が救いである事すらもあるだろう
光と闇は表裏一体
元より切り離せるものではないのだから
でもだからこそ、循環を続ける事が重要なんだ
光が光のままではいられぬように
闇もまた闇のままでいなくていい
望みを果たせなかったなら
再び挑み果たせばいい
転生して未来を歩む為の力を
この世界の全ての影朧達が持っている
無念を思えばこそ平等なる権利をというのなら
その選択肢をどうか奪わないで
天秤のバランスは
光と闇が両方あってこそ成り立つものではないのかい?
でも君の行いは全てを闇に縛り付けるものだ
その先にあるのは完全なる停滞
生も死も許さぬ終焉の世界
バランスどころの話じゃないが、違うかい?
君は桜を守る者
平和と秩序と安寧の世界を願えばこそ
俺もまた君の、君達の転生を願うよ
竜胆さんに
闇の天秤の始まりを聞く
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
そういえば、この世界の影朧は
傷つき虐げられた者の過去から生まれるんでしたネ
だから貴方方は意図的に騒乱を引き起こし
人為的に影朧を生み出す土壌を増やして
光と闇のバランスを取ろうと画策しているわけだな
…大樹の養分、という例えはある意味的確か
でもそれって
結局生に満足して逝った者の意は完全に無視していないか?
闇あれば光もあり、負があれば正もあるものだが
貴方方は闇や負のほうしか見ていないのではないか?
先制対策はUC発動させずに「祈り、優しさ」を籠めた鎮魂歌を「歌唱」でサウンドウェポン通して歌い上げ
少しでも幻朧桜を慰められれば…
凌いだらいつもの「歌唱、鼓舞」+指定UC発動
皆の諦めぬ意思を後押ししながら回復しつつ
いざとなれば竜胆さんを「拠点防御」で守る姿勢
危険を察したら自身でUC使って教えてほしいところだけど
戦闘後、念のため諜報部に本物の菖蒲さんの安否確認依頼
その後竜胆さんに話を聞こう
私から聞きたいのは闇の天秤が誕生した切っ掛け
そして…彼らの本体とやらの正体と居場所
ウィリアム・バークリー
影朧、あなたはこの世界に何を期待しています?
屍者は忘れられ過去となる。たまに影朧にもなる。そしてこの世界では、死者は幻朧桜により転生し、まっさらな人生をやり直す。
それでは不満なんですか?
あなたは現在と過去を生きるものと言いました。つまり、人と影朧。どちらも別に望んで生きているわけでもありません。死にたいと思っているとも思いませんが。
勝手に影朧の代弁者気取りは止めてもらいましょうか。
しかし、一両によくこれだけ人数が集まったもので。寿司詰めですね。
敵味方の判別が難しく、派手な術式も使いづらい。
こういう状況に丁度いい術式は持ってます。
Slip。一度転んでしまえば、起き上がるにはなかなか手間でしょう。
●
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
『桜守』の前口上を垂れ流す様に走り続ける弾丸列車。
其の列車の運転席で必死になって運転をしている運転手の基に……。
「……急ぎましょう、黄巾力士」
外で影朧と化した竜脈によって引き離された幻朧桜達が怪しい漆黒の輝きを発するのを見て、鳴上・冬季が小さく呟き。
――パチン。
と指を鳴らし、宝貝・黄巾力士と共に一瞬で弾丸列車の上を後にする。
次の瞬間、冬季と宝貝・黄巾力士が姿を現したのは……。
「……第2車両と第1車両の間ね。確かに、彼女が本当に幻朧桜を影朧に出来るのであれば、これ以上列車を移動させ続ける事はリスキーになるわ」
車両間に設置していた対UDC/NBC対応型メンテナンスユニットが得た情報をCIC経由で認識した烏丸・都留がそう呟く。
特殊付加ユニット:フェノメノンアクセラレーターと時騙しの懐中時計を起動させ、状況把握の出力向上を行う都留の其れに。
「……食堂車両で人々の身の上の安全を保証し、更にこれ以上の被害の広がりを出来るだけ避けられる、か。漸く戦える様になるんだな」
合流した文月・ネコ吉がそっ、と安堵に胸を撫で下ろすのに。
「全くだな……」
そう馬県・義透――今は未だ、不動なる者『内県・賢好』――もまた、同意をする様に頷いた。
――カンカンカンカンカン……。
其々が戦っていた車両から、第2車両へと猟兵達が急ぐその間に――。
「後の責めは全て私が負いますから。戦闘が終わるまで、この列車を停めておいてください」
些か焦った口調でそう告げる冬季を、一心不乱に運転していた運転手が見て。
「あ、アンタは最初に俺を助けた……!」
そう呟くのに、口の端に安心させる様な笑みを浮かべ。
「ええ、そうです。あの時は超弩級戦力から運転し続ける様指示が出たのかもしれませんが、状況が変わりました。沿線の幻朧桜を安易に影朧に供給させ続ける訳にはいかない……そういう事情にです」
「……!」
弾丸列車を走らせ続ければ、当然それだけ周囲に幻朧桜が存在し続ける事になる。
そうなった場合……『桜守』が延々と同胞を集め続けるのは容易い。
息を呑む運転手を安心させる様に軽く肩を叩くと、それに促される様に弾丸列車にブレーキを掛ける運転手。
落ち着いてゆっくり停車する弾丸列車によし、と頷き
「戦闘は、最長で6時間程になるでしょう。終わったら必ず呼びに来ますから、貴方はこの車両で隠れていて下さい」
そう言って、仙桃と仙丹……食べ物と飲物を手渡してから、傍に控える黄巾力士の方を向いて。
「黄巾力士、この方を庇い、戦闘終了まで誰にも運転させるな」
そう短く命令を出すと、御意、と言う様に頷き黄巾力士が運転手を隠れさせつつ護衛として彼に貼り付く。
その様子に良し、ともう一度頷き冬季がクルリと踵を返して、第2車両と先頭車両の間の連結部に踵を返して戻っていった。
――かくて、弾丸列車最後の戦いの舞台が調えられるその間に……。
●
「……止めてよね」
そう竜胆のいるVIPルームにいた、天星・暁音が『桜守』を突き放す様に最初の言葉を突きつけたのは、偶然か、其れとも必然か。
――啼いている。
世界の想いや苦痛を痛みとして暁音に伝える『共苦の痛み』が啼いている。
――けれども、其の嘆きの痛みは……。
(「同情……憐憫……? いや、違う。この痛みは、まさか……」)
――贖罪?
ちらりとそんな感情が、胸中に育まれるのに微かに戸惑いながら。
「想いを背負うのは大事かもしれないけれど……背負ったものを、君が動く理由にしないでよ」
そう暁音が言葉を突きつけるのに、否、と『桜守』が諭す。
『貴様達とて同じであろう。如何に言葉を取り繕うとも、自らの意志で生者を守ろうとするのも、人々の想いを守る為であるが故であろう。誰かの想いを自らの意志で守り抜こうとすること、それが誰かの想いを背負うことと何が違うと貴様は言うのだ!?』
その桜守の苛立ち混じりの呼びかけに。
「……あ~……そうか。そう言えば、そうだったな……」
ある事に思い至った藤崎・美雪が思わず冷汗を垂れ流し、目を丸くする。
その一方で。
「いいえ。負の想いと貴女は同一ではありません。否定できるに決まっているじゃありませんか」
完爾とした笑顔を浮かべながら。
文月・統哉の肩を借りつつ桜鋼扇を構えてそう切りつける様に否定したのは、御園・桜花。
その桜花の言の葉に。
『桜の精よ! 我等に生み落とされし、死した者達の魂を慰め、癒す者よ! 何故、貴様が我を否定できる!? 貴様とて知っておろう! 何故、影朧達がこの世界に生まれ落ちるのか、其の理由を!』
その『桜守』の問い共に。
『彼女』の言葉に呼応して生まれた漆黒の桜吹雪が吹き荒れて桜花を襲わんとする。
(「何故、影朧が生まれるのか、その理由……ですか」)
「傷つき虐げられた者の過去から生まれるんだったな、影朧は」
冷汗を垂らしながらの美雪の其れに、桜花がそうですね、と笑顔の儘に首肯する。
「確かにそうして影朧達は生まれ落ちてきます。ですが、生者として生きる人の想いと願いは、正負に関わらず次の生に繋がる為の原動力でもあるのです」
その桜花の言の葉にそうだね、と頷きながら。
――轟。
と、降り注ぐ漆黒の花弁から彼女と竜胆を守る様に。
漆黒の大鎌『宵』を水平に構えながら、深紅のクロネコ刺繍入りオーラを張り巡らし、咄嗟に桜吹雪を防御する統哉。
「生きると言う事は、幸せな事ばかりじゃない。苦しいことも、哀しいことも沢山ある。……時には、死が救いにもなるだろう」
「ですが、例え、死が救いであったとしても。次も、次こそ生きたい様に生きられる様にと、後押しして転生を促すのが幻朧桜と桜の精の役目なのです。まだ生在るものを死に導き、更には自分の更には自分の恣にしようとする等、言語道断ですよ」
統哉の防御の背後で、桜鋼扇を構え直す桜花。
戦闘態勢を取り始めた桜花達に応じる様に幻朧桜達が、自らの体をヒトの者へと変え、応じる様な長柄の槍や、銃剣を構え始める。
(「……哀しいね。これだけの力で、誰かを殺す事を望む……なんて」)
そう統哉が内心で呟くその間に。
「……あなたの言う想いとやらに関しては、否定はしません」
都留達と連絡を取り、直ぐに第2車両に合流するよう指示を下したネリッサ・ハーディが誰に共なくポツリと呟く。
――でも。
「肯定も出来ませんね。確かにあなたの目的自体は頷ける点がなくもありませんが、残念ながら其の為の手段が致命的に間違っているとしか言い様がありませんから。この様な形で、多くの人々に死を齎す様な方法を……」
『ほざくな! そう言って自分達の行いを正当化し! そして、数多の影朧達を骸の海へ追いやったのは誰だ! それだけではない! 今は死してしまった者達に、その理不尽な死を叩き付けた生者が、どれだけいるのか知らぬのか! あの惨禍を引き起こした、罪深き刃刻まれし者を……!』
咆哮と、共に。
叩き付ける様にネリッサと竜胆に放たれる一斉射撃。
銃声と共に解き放たれた其れを、ネリッサが咄嗟にG19C Gen.5で迎撃するが、とてもではないが……。
(「竜胆氏への攻撃を防ぎきることは出来ませんか……!」)
そう内心で軽く歯軋りをした刹那。
「矛先は、竜胆さんだけじゃない。私達猟兵全体に向けられた感じね。でも……だからといって、竜胆さんの守りを疎かになんてしないわよ!」
それはまるで、一条の黄金の閃光の様に。
瞬きする間もなく腰まで届く程の金髪を風に靡かせた彩瑠・姫桜が竜胆と銃弾の間に割って入る様に戦場に飛び込む。
更に風を切る音と共に解き放たれた三日月型の弧を描いた衝撃が放たれた銃弾の一部を弾き飛ばした。
――リン、リンリンリン。
鳴り響いた柄にあしらわれた魔除けの鈴の音が、はっ、とウィリアム・バークリ-に息を呑ませ、其の衝撃波の主を見て……。
「……葵桜さん。姫桜さん! 無事、合流できましたか」
そう呼びかけるウィリアムの其れにちらりと流し目を送りながら、胡蝶楽刀を構えた、榎木・葵桜が静かに頷く。
其の藍色の瞳にちらつくのは、燃える様な怒りの焔。
其の怒りを叩き付ける様に。
「この……!」
続けざまに、胡蝶楽刀を撥ね上げ再度の衝撃波を叩き付けようとする葵桜の其れに応じる様に短剣を構えた影朧が肉薄する。
首筋に走った其の殺意に葵桜が咄嗟に体を捻り攻撃を躱そうとした、其の刹那。
――ドルルルルルルルル!
激しい銃声が戦場に響き渡り、葵桜の首を刎ねようとしていた影朧の頭を撃ち抜き、其の存在を消失させた。
更に……。
「ああ! もう! このめちゃくちゃな状況!? どうしろってのよ!?」
頭から白煙を、口から涙交じりの悲鳴を上げる朱雀門・瑠香が斬撃を走らせて。
「どうするもこうするも! 私達に合わせてこの無数の影朧を先ずは足止め、撃破するのが先よ、瑠香さん!」
「そっ、そうかも知れないけれどっ!? ちょっと待って、ちょっと待って、ベアータさん! 何でそんなに落ち着いて肝っ玉冷えそうなことが平然と出来るのっ?!」
餓腕から生えた機関銃をフルオートモードで当然の様に乱射するベアータ・ベルトットの指示に瑠香が思わず突っ込んだ。
「局長。すみません、少し遅くなりましたが……この列車全体を飲み込まんばかりの無数の影朧は厄介極まりないですね」
その瑠香の叫びを冷静に受け流しながら。
ネリッサに通信機越しに語りかけた灯璃・ファルシュピ-ゲルが、スコープから覗き込みながら、ベアータの撃ち漏らしに向けて引金を引く。
音も無く撃ち出されたMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"からの一発が、正確無比に影朧を撃ち抜いて。
「ふん、余程俺等猟兵が憎いと見える。恨み骨髄って奴だな。ま、テメェらの企み、散々邪魔してやってるんだから、無理もねぇか。しっかし、まーた給料以上に仕事させやがって。どいつもこいつも、人使いが荒いったらありゃしねぇ」
と愉快そうに鼻を鳴らしたミハイル・グレヴィッチが、第2車両場外の天井の壊れた部分から其の銃口を下に向け。
「まっ……取り敢えず挨拶代わりだ。取っときな!」
叫びと共に、UKM-2000Pの引金を引いた。
――BRUM! BRUM!
バラバラバラとガンベルトが吸い込まれ薬莢を吐き出す間にも上空から雨の如く降り注ぐミハイルの鉛弾。
一見すれば只、銃を乱射している様にしか見えないが、そこは鍛え抜かれた猟兵の人並み外れた技量。
既に人の理を外れた存在であるその銃撃が、未だ無限増殖し続けるに等しい影朧達だけを撃ち抜いている。
そんなミハイル達を元気づけるかの様に。
――プップカプー! プップププッ、プップカプー!
10体の人形楽団が一斉に喇叭を吹き、其の主が道化と狂気の綯い交ぜになった満面の笑顔を浮かべていた。
「いやはや、いやはや、先程のご高説聞かせて頂きましたが、何ともお優しい方ですよねぇ、桜守さん♪ 貴女の笑顔はさぞや美しいことだろうな♪」
大仰に肩を竦めて嗤うクラウン・アンダーウッドの其れに、憤怒のあまりか見る間に背中に翼を生やした影朧が上昇する。
ミハイルの銃弾と、灯璃のスナイプを、風を利用して右に左に、と華麗に躱しつつその手に握る棍棒でクラウンを蹂躙しようとした其の時。
――グワン!
突如として列車を覆っていた竜脈が竜の姿を模して、顎を開いて影朧を食らい、その内側に閉じ込めた。
「……秩序という名の混沌」
自らが檻に閉じ込めた影朧の様子を、何処か懐旧と憐憫と、何処か寂しさの様な光を伴った翡翠の瞳が射貫く様に見つめている。
「……カミサマ?」
白夜・紅閻がそんな彼女……𠮷柳・祥華に呼びかけるが、紅閻の声など耳に届いた様子も見せず、彩天綾を翻す祥華。
――その瞳を物語の語り部の様に何処か透き通った物悲しいモノに変えて。
「遙か昔、世界を作った独神が居った」
(「あ……これ、ダメな奴だ……仕方ない」)
『神』としての過去に、自らの精神世界に己が心を映し出す祥華の様子に早々に見切りを付けた紅閻がそっと溜息を漏らし。
「……護鬼丸。君は彩瑠と協力して、竜胆の護衛を。冥風雪華は、カミサマのサポートを。手段はお前達の得意なもので、仲間達を傷つけない様に」
諦めた様に言付けしてから篁臥に跨がり、戦場へと疾駆する紅閻。
篁臥が咆哮と共に鋭い鉤爪で影朧を切り裂いた瞬間、その隙をついて、別の影朧が紅閻の心臓を暗器で射貫こうと……。
「させるかよ!」
それを断ち切らんと低く、唸る様な声が轟き。
赤黒い剣閃が走り、其の影朧を眩い聖光が覆い尽くして其の存在を浄化した。
(「……許せるかよ、こんな……!」)
「ヒトがヒトである限り、負の感情から逃れることが出来ないのは確かだが……其れを誰かに押しつける様なやり方を! それも無理矢理、其の状況を作り出す様な此を!」
雄叫びと共に。
篁臥の背を蹴って壊れた天井から外に飛び出した館野・敬輔が憤怒を籠めて、黒剣を空振りすると。
赤黒く光り輝く刀身の上から白光を纏った波が怒濤の如く押し寄せて、ミハイルと灯璃に奇襲を仕掛けようとしていた影朧達を怯ませた。
重力に掴まって車両内へと落下していく敬輔を貫かんと一斉に影朧達の一部が槍衾を構えて突き出そうとするが。
「敬輔さんをやらせはしませんよ!」
――風の妖精の様にしなやかに身を翻して。
真宮・奏が第2車両に雪崩れ込み、エレメンタル・シールドで槍衾を構えていた影朧達をバッシュ。
風圧の衝撃に備えていたのか、それでも尚踏ん張る影朧達に。
「……出番だぞ」
其の厳かな声に、導かれる様に。
「うむ、分かっておるよ――兄者」
目にも留まらぬ速さで鎖で繋がれた鏢が飛び、奏がよろけさせた影朧達を怯ませ。
「せめて安らかに眠るのじゃな。このまたち(魔断・馬舘)の結界の中でのう」
その義透――『侵す者』――馬舘・景雅の願いに応える様に。
吹き出した狼の形をした焔が、槍衾を持つ影朧達を焼き払い、同時にそれらの存在を断ち切っていく。
『ちっ……未だ新手が来るというの!?』
まだまだ全滅には程遠いが、それでも尚、急激に仲間達の数が減ったことに呻く様な『桜守』のそれに。
「まあ、この世界の影朧……オブリビオンの在り方は、独自の物だね。心残りや恨みが残っていると、死した後ヒトは影朧になる。そう言う意味ではアンタの言っている事は間違っちゃいない」
狭所で戦うことを想定し、その刃先に炎を纏わせた光剣、ブレイズフレイムを両手遣いに構えた真宮・響が溜息を漏らしつつ姿を現した。
『ならば……!』
そんな響に向けて、『桜守』が続けざまに声を上げるが、其れよりも一足早く。
「でも、アンタが言う意見は、一方的に見えるね。少なくとも……」
「生きている人を殺し、死んだ方を影朧として黄泉還らせる……そんな世界は、平等な世界とは言えません。そう……死が蔓延る、闇に傾いた死の世界です」
――僕達の、故郷の様に。
死して尚、絶望を与えられ続ける、あの地獄の様な世界と同様に。
そう神城・瞬が思うのは、果たして感傷に過ぎないのであろうか。
『……違う! 死した者達の幸福よりも、生者達の幸福のみが優先されていく不平等な世界! そんな世界を嘆き、悲しみ……其れ故に絶望した者達の想いを、貴様達は踏み躙ろうとしているんだ。其れが分からぬのか、『罪深き刃』刻まれし者達よ!』
――その『桜守』の慟哭に応える様に。
影朧達が新たな姿を経て変質してくるのを見て、瞬達が改めて身構えた時。
「うるせぇ……っ! 御託はどうでも良いんだよ! ……テメェは菖蒲……竜胆の大切な家族の姿を模した影朧。……そんな偽物になりやがった貴様に腸の煮えくりが収まらねぇんだよ……!」
憤怒の熱に塗れた森宮・陽太の咆哮が、影朧達の壁を突き抜けて、『桜守』を劈く様に打ち据えた。
「だから……『桜守』! 生者を冒涜するテメェは、俺達の……世界の『敵』だ!」
陽太がそう咆哮をした、正にその時。
陽太の全身が漆黒のブラックスーツに覆い尽くされ、其の顔に白のマスケラが姿を現し、すっぽりと陽太の表情を覆い尽くす。
溢れる殺気を胸の裡に秘め、冷酷なる殺意へと変える『無面目の暗殺者』がゆっくり前屈みになって影朧の中に突っ込んだ時。
「……影朧」
既に響き渡る、銃撃・剣戟を掻い潜る様に。
そっと地面に手を添える様にしながら、ウィリアムが静かに囁き掛けた。
「あなたはこの世界に何を期待し、何を求めているのですか? 死者は忘れられし過去になり、偶に影朧にもなる。けれどもこの世界では、死者は幻朧桜により転生し、真っ新な人生をやり直すのです。それでは、不満なんですか?」
そのウィリアムの、問いかけに。
『違う! そうではない! 其の痛みを知れと言うのだ! 貴様達が目を逸らしている……其の痛みを!』
その『桜守』の悲哀に満ち満ちた、其の叫びに同調して。
影朧達が一斉に鳴動し、一瞬、中断されていた戦端を、再び開いた。
●
(「其の痛み……私達が目を逸らしている痛み……?」)
影朧達の一部が『桜守』の言葉を受けて、変異する。
それはまるで凶獣の様に禍々しき肉食の獣の様なその姿に。
「……ごめんない。私、貴女達の言っている事が理解出来ない。喧々諤々私達への恨み辛みを宣っているのは分かる様な気もするけど目を逸らしているとか何とか言われても訳分からない!」
瑠香が物干竿・村正を横一文字に振るって、獣達の体を断ち切り。
「本当に、ごめん。私も瑠香さんと同じ。頭悪くて申し訳ないんだけれど、私も、あなたの言っている意味が良く分からないんだ。あなたはこの世界のことを憂いていて、この世界のバランスを維持するために、あなたが考え、作り出した仕組みで動いているって事?」
葵桜が胡蝶楽刀を袈裟に振るって、空を飛ぶ獣を叩き斬りながらパチクリと目を瞬きながら問いかける。
『違う! いや、そうとも言えるか。我等はこの世界の在り方を憂いている。人々が死して同じ過ちを繰り返す事を憂いている! だから、生者と死者を公平に増やし、この世界が壊れてしまわない様に其々の平和を守るために、戦っている! 嘗て起きた悲劇を回避する為に生み出されたシステムと共に!』
「生きる願いを踏みにじり、負の願いに寄生する、汚泥以下の汚らわしい存在がよくもまあ、いけしゃあしゃあと言えたものですね」
――グルァァァァァァァァッ!
身の毛もよだつ様な影朧の雄叫びが物理的な衝撃を伴って、第2車両に反響する。
其れが殆ど物理的な衝撃を伴って襲い掛かってくるのを咄嗟に銀のお盆で受け止めながら笑顔で桜花が切って捨てるが。
――ヒュン。
其の時には全てを貫く無数の刀が、槍が、剣が桜花を背後から串刺しにしようと。
「そう言えば、影朧の中には人の姿をしていない奴もいるんだったかしら? でも、アンタ達には此を出し抜くことは出来なかった様ね!」
――カッ! と。
ベアータが飢餓の獣の光の宿った藍色の瞳で鋭くそれらの影朧である『武器』を睥睨し、くいっ、と機腕に仕込まれたそれを引き上げる。
引き上げられたのは何時の間にか射出され、蜘蛛の巣状に展開されていた機械式ワイヤー。
Vampwire……その先端の鉤部からその血を啜りとる機能を持つ其れが、桜花を狙った影朧型武装を纏めて縛り上げ。
「……Regurgitate!」
鋭く小さく命じるや否や、Vampwireを覆っていた液体状のそれが鋭い刃となって横合い武装を貫き、その刃を、柄を破砕させた。
――Brutal Fluid。
それはベアータの体の中を駆け巡る液体状の……。
『刀……だと!?』
思わず、と言う様に息を飲む『桜守』
しかし其の驚愕とは裏腹に、其の両手は周囲に何かをばらまく為に広がっていく。
程なくして放たれた馥郁たる香漂わせる其れが、外車両の幻朧桜達の所に風に乗って運ばれて。
その願いに応じた幻朧桜達を漆黒に塗り潰そうとした、其の間際。
「ダメだ! やらせられない!」
統哉が『宵』を一閃し、其の刃先から星彩の如き結界を、幻朧桜とその粉の様な何かの間に割り込ませ。
「また、新たな犠牲を増やすわけにはいきません。美雪さん!」
更に瞬が六花の杖を天に掲げ、その杖先で自らの隠れ里の一族の紋章を描き出し。
「ああ、分かっている。援護するぞ、統哉さん」
瞬の呼びかけに応えつつ、シンフォニックデバイスの音量が調整され、グリモア・ムジカから鎮魂歌が流れ始めた。
「~♪ ~♪」
其のメロディーに、祈りと優しさを籠めて歌う美雪。
その間に描き出された月読の紋章が、統哉の結界と二重に張り巡らされ、その粉が幻朧桜にこれ以上掛かるのを妨害し。
更に美雪の歌声が、今にも影朧と化そうとしていた幻朧桜達に微風の優しさを吹き込み、鎮魂する。
『ぐっ……貴様等……! 我等の情を、想いを遮り、自分達の我欲を満たさんと欲す罪深き者共が……!』
幻朧桜の影朧化を妨害され、呻いた桜守が、周囲の幻朧桜の一部に、美雪の鎮魂歌に勝るとも劣らぬ美しき声で呼びかけた。
呼びかけられた影朧桜……祥華の竜脈で一度は列車から切り離された筈のそれらが、その声を聞き、その姿を変貌させた時。
「……上空に無数の桜守の数を確認……! 其の数……4000弱!?」
現れた其れに流石の灯璃も一瞬息を飲みながら、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioを通じてネリッサに報告。
「……! そう来ましたか……! 流石に簡単には倒させてくれませんね」
(「此は……安全地帯を作っていなければ、確実に犠牲者が出ていましたね」)
胸中で呟き小型情報端末MPDA・MkⅢに『フォーマルハウトの火炎の王』とキーコードを撃ち込み。
上空に向けて119体の炎の精達を飛ばして、『桜守』の分身達を焼き払いながら。
「ミハイルさん、灯璃さんは其方の迎撃を。SIRD、交戦規定、ウェポンズ、オールフリー。影朧部隊の殲滅を優先します」
ネリッサが指示を出すと、Yes.マムと落ち着きを取り戻した灯璃の頷く声が響き。
「御免。影朧隊は任せるわ。見た目はアレだから、間違えて攻撃はしない様にね」
更に監視カメラ宜しく列車上部に潜ませていたエレボスの影がCICを通して伝えてきた状況を解析し、都留が呟くとほぼ同時に。
「それ!」
上空へと聖魔喰理扇を突きつけた時。
――ゾゾゾゾゾゾゾッ!
と無数の蟲達がエレボスの影から飛び出し、上空の影朧達に突進する。
対オブリビオン戦略呪操機改修試験機弌型 朧蟲。
炎の精が舞い踊り、体の一部を失った『桜守』達に肉薄し、その全てを喰らい、飲み込まんとする朧蟲。
其の執拗な朧蟲達の攻めに、『桜守』達が怯んだその隙を見逃さず。
「オラアッ! 一丁、オマケだぜ!」
ミハイルがUKM-2000Pの引金を引き、瞬く間に影朧の娘達を撃ち抜いた。
容赦の無い鉛玉の連射に少女達が消滅。
生き残った少女達が、お返しにと一斉に漆黒の桜吹雪を掃射しようとした刹那。
「独神は、己のチカラを2つに分けて、姉妹の巫女に其々の役割を与えた」
吟遊の様に朗々と謳われる其れに応える様に。
車外へと飛び出してきた純白の衣装に身を包んだ、全身に冷気を纏った雪鬼女……冥風雪華が、吐息を娘達に吹き付けた。
「……姉は福を授け、妹は禍を授け、そして……姉妹は力を合わせて、我が子等を作り給うた」
その吹雪が凍てつく刃と化して、娘達を切り裂き、その全身を凍てつかせ、更に数百体を物言わぬ氷像へと変える。
それでも尚、2000以上はいる彼女達の更に上空……高高度に向けて灯璃がMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"を掲げて引金を引き。
あらぬ方向に弾丸を撃ち出した後、スナイパーライフルを振り抜いて。
「CASorder……course Allgreen,――――― Bombs away!」
そう、オーダーを下した時。
超高高度に不意に、影が差す。
何かと思って『桜守』の分身達が其方を見上げれば、其処には無人爆撃機。
『何……っ?!』
分身達の目を通して現れたそれを見て、思わず『桜守』が息を呑んだ、其の刹那。
精密誘導爆弾が次々に降り注いだ。
(「これ以上被害を増やさないためにも、既に侵食され始めていた幻朧桜も纏めて焼き払ってしまいたいところですが……」)
そう内心で灯璃が呟くその間に。
降り注いだ爆弾が『桜守』達を纏めて焼き払い、次々に消失させていく。
――苦痛を、悲鳴を、嘆きを、悲哀を、絶望を、呪詛を……。
次々に吐き散らし焼け爛れた皮膚の痛みに泣き叫びながら。
それでも辛うじて全滅を免れた娘達は、自らの『同胞』たる黒く染まる幻朧桜の前に立ちは、其の命を持ってそれらを『庇う』
自分達が作り出している常人であれば其の精神が耐えきれなくなるであろう悲惨な光景に、ミハイルがふん、と鼻を鳴らした。
「文月や彩瑠みたいな奴等は、この状況に感傷を覚えるかも知れねぇが、生憎俺は、こんな光景とっくのとうに見慣れていてな。結局やっている事は、あの頃と変わらねぇって訳だ」
飄々と肩を竦めて口の端に嗤みを浮かべるミハイル。
そんなミハイル達と共に、車外にいたクラウンが戯けた様に肩を竦めて。
「まあ、でしたら少しだけボクが燃やし(癒し)てあげましょうか。心優しく狂った影朧達も、他の全ても等しく平等にね♪」
からかう様にそう告げて。
全身から116個の獄炎を作り出し、全てを焼き(癒し)尽くせとばかりに影朧化仕掛けている幻朧桜と娘達に射出した。
その焔が、美雪の歌で鎮まりきらなかった影朧桜の根元に点いて、その木々の『桜守』に同調する『心』を燃やす(癒す)。
「こうして話を聞いたり見たりしているとさぁ」
その様子を愉快そうに見つめ、道化の様に笑いながら。
何処か陶然と呟くクラウンに、灯璃が。
「如何しましたか?」
と問いかけると。
クラウンは何処か大仰に両手を広げて、道化の様にいやぁ! と叫んだ。
「影朧って、本当に素晴らしい存在ですよねぇ、ファルシュピーゲルさん! 絶対悪じゃない、不明確なところがとても良い。どんな『過去』にも救済のチャンスが得られるなんて、何て素敵な存在なんだろうって、そう思いませんか?」
そのクラウンの戯けた挑発の様な仕草と問いかけに。
『貴様……!』
ぐっ、と何かを堪えるかの様に『桜守』が、きつく唇を噛み締める。
其の一方で……。
「アンダーウッド。君が言いたい事は何となく分かる。確かに、『過去』に報いる為に、誰にでも平等に救済の機会が与えられるのであれば、それは素敵な事だろう」
そう紅閻が呟いたのは、器物こそ違えど同族たるクラウンの言葉故か。
――けれども。
「でも、俺には『桜守』……あんたの言う生と死に関しては、正直に言えば良く分からない」
――それとも……分かりたくないのだろうか?
(「……違う、そうじゃない」)
――主は先に旅立ち。
――自分は新たな命を得たが、取り残され、悠久の時を過ごしていく。
そう……綺羅星たる、色褪せてしまった指輪と、銀紗の懐中時計に刻み込まれた『彼』の忘れかけた思い出と共に。
(「それでも、僕――俺には」)
手を届かせることが、出来ないのだ。
大切にしていたあの霧の向こうにいる『誰か』の記憶に。
――それとも、此は……『俺』の――。
「……ああ、そうか」
そんな感情を軽く頭を振って誤魔化し篁臥に跨がり。
姫桜に迫る影朧……頭部をしまう機能を得た其れに、イザークを叩き付けながら。
「貴様も俺と似たようなものなのか、影朧。……悠久の時を生き続ける……と言う意味では」
ポツリとそう呟き、ふむ、と思案の表情を浮かべる紅閻。
――けれども。
上空に解き放った白きブレスを吐き出す白梟。
ブレスで白梟に影朧を牽制させながら、だが、と紅閻が小さく問いを唇に乗せた。
「黄泉にいる者達に、希望を与えて何になる? 死した者は生き返らない。其れこそ、人の理だというのに」
「……そう。姉妹は、平等に与え給うた。福もも、禍も」
――然れど、姉妹によって生み出され、感情を与えられたその子等は。
「いつしか、禍を与えたる妹神を疎い、葬り去ろうと願った」
――願ってしまった。
そしてその願いは――。
「……外から来た神によって願いは成就され……姉妹神によって生み落とされた世界は崩壊した」
まるで今『神』たる自分がこの世界に舞い降りたのと同様に。
『……ええ、そうよ! 外から現れた者達は、この世界の『理』をも崩しかねない危険を孕む異端なる存在! その様な者達が、生者を守るなどと囀り、この世界を守ろうなど……!』
祥華の歌声に怒号を叩き付ける『桜守』。
その『桜守』の言の葉に、じゃが、と祥華が軽く頭を振った。
「生者を守り、死して尚存在し続ける不安定な魂を転生……救済する為に、妾達は『世界』に招き入れられておるのもまた事実。そうでなければ、妾達が此処に在る事に説明が付かぬ」
つまるところ、今の状況は……。
(「世界が妾達を呼び、そんな妾達を否定する者を出現させた。まるで……」)
『止められるものなら、止めてみよ』
そう『世界』が自分達に、挑戦状を叩き付けている様ではないか。
「挙句の果てに、かような者を準備するとは、相当に手が込んでおるのう」
(「……此もまた、妾達を試す、世界の意志なのじゃろうか?」)
そんな疑問が、自らの脳裏を過ぎるのを感じながら。
灯璃達が付けて回った火が、未だ『桜守』の手が届いていない幻朧桜を誤って燃やさぬ様に列車に移動させた竜脈の力を移動させ。
「一先ず、この辺りで幻朧桜への被害は手打ちとさせて貰うとするかのう」
――パン!
と柏手を打って竜脈で幻朧桜を包み込み、これ以上の被害を食い止める祥華。
『貴様……! 外から来た『罪深き刃』刻まれし者が、我等が竜脈を読み取り移動させるだと……?!』
その『桜守』の呪詛の呻きに答える様に。
彼女の周囲を警護していた影朧達の内の数体が大蛇と化して、祥華と竜胆を襲う。
「ぬ……っ! 彩瑠! 護鬼丸!」
不意に来た影朧の突進を、彩天綾を翻して空中を飛び回りながら攻撃を躱しつつ叫ぶ祥華。
祥華の言葉に応えた姫桜と護鬼丸が、竜胆の左右に陣取り竜胆の身を守り抜く。
『くっ……!』
(「……妾達を『罪深き刃』刻まれし者と呼ぶこの者は……」)
思わず悔しげに舌打ちを打つ『桜守』について、祥華が推察を続けるその間に。
「所詮はフォーミュラですらない、只の影朧。そんな貴女が理を作る? 観測者を自称する? バカも休み休み言って下さいな」
その全てを、吐いて捨てるかの如くそう告げて。
クラウンの獄炎に燃や(癒)された桜花が桜鋼扇を靡かせて、満面の笑みと共に其の周囲に咲き誇る幻朧桜の霊体を召喚した。
其処から吹き荒れるは、全てを癒し、浄化する桜吹雪。
其れはクラウンの獄炎と絡み合い、『桜守』を守る様に立つ、巨大な壁の姿に変わった影朧達に吹き付けられる。
――けれども。
『……バカは、貴様だ』
其の嘲りと、共に。
『桜守』が口元に初めて笑みを浮かべた。
――歪んだ愉悦に満ち満ちた……完成された、其の笑みを。
人々の『負』の想いを受け、其の全てを背負って『世界』と相対する、『我』を生み出した『主』への誓いの籠った其の笑みを。
「先ず我は、観測者は自称しておらぬ。次に理を作ったのは、『世界』。そして……我はフォーミュラですらない、只の影朧として生まれたが故に、闇の天秤となり得るのだ!』
其の叫びと共に。
「……っ!?」
突如として現れた巨大な影朧が戦場全体を切り裂かんばかりの轟風と共に、巨大な鉄塊剣を横薙ぎに振るった。
振るわれた刃から解き放たれるは、『骸の海』と称すべき暴風。
戦場を震撼させるそれがこれから起こすであろう其の結末をその瞳で見据えながら『桜守』は淡々と言う。
『何度でも言おう。確かに我は最強でもフォーミュラでもない。だが……世界の理の一部を担う生者と死者のバランスを取るべくこの世界に生み落とされた影朧。……そして、我が最強と見做すのは……』
――我を生み出した、ヒトの負の想いだ!
自らの願いと自らと共に在る影朧達の想いを乗せた、祈りを籠めて。
●
「……っ! 竜胆、使え! お前には全てを見届ける義務がある! 長きを生きる者なら、尚のことだろ!」
それは、虚無の暴力とでも呼ぶべきであろうか。
全てを揺るがし滅ぼすであろう、無敵の斬撃と共に生み出された暴風に負けない勢いで、ネコ吉が叫ぶ。
竜胆が素早く頷き、其の暴風と言う名の類似したそれを脳裏に刻み込まれた記憶から取り出して。
「この攻撃を回避するのは難しいでしょう。皆さん、防御に全力を傾けて下さい!」
そう叱咤激励をするのに頷いた響が咄嗟に緋色のオーラ防御を自らの目前に展開。
「むぅっ……これは……っ!」
祥華がギリリと唇を噛み締めて、咄嗟に上空の冥風雪華を見やる。
その視線を受けた冥風雪華が淑女然と頷き、全身から猛吹雪を巻き起こした。
巻き起こされた猛吹雪が、戦場に居るミハイル達全員を守る雪だるまアーマーを作り出し、攻撃の衝撃を弱める一方で。
「がっ……!」
突然叩き込まれた凄まじい衝撃に雪だるまアーマーを纏った姫桜が二槍を十文字にして受け止めながら喀血する。
(「御免……幾ら真の姿と言えどこのままじゃ……!」)
其の内心の、呟きと共に。
見る見るうちにその瞳を真紅に染め上げてヴァンパイアへと姿を変貌させた姫桜が思いっきり前に踏み込んだ。
「……それでも……無敵の一撃を防御しきるのは……厳しそうね……!」
『骸の海』そのものを、剣風の衝撃波として叩き付ける。
それこそが『桜守』にとっての『無敵』なのであれば、その質量は、あまりにも巨大……正しく無限大であろう。
消費された過去そのものこそ最強だと、そう言っているのと同じだから。
――けれども。
「……なればこそ、わしの付け入る隙も出来るというものじゃな」
そう義透が得意げに豪快な笑みを浮かべ。
「そんなものに……私だって、負けてやれないんだからっ!」
全身を神霊体に変身させ、胡蝶楽刀を振るい、神楽の足捌きを見せながら、葵桜が衝撃波を乱打した。
その桜色の輝き伴う衝撃波が、骸の海そのものとも言うべき暴風を少しだけ押し返したところで。
「行くぞ、『魔断狼』」
義透がそう呼びかけ、自らの全身に流れる力を狼の127体の狼へと変貌させた。
――其れは生前、狼獣人(キマイラ)であった頃に、自らに流れていた獣の力。
其の獣の力を可視化し、尚且つ人々に被害を与えぬ様、創意工夫された極致の果てに生み出された狼達。
紅輝を伴ったその魔断狼達の10体が、姫桜を支えて、竜胆を守る様に其の傍について、その骸の海の衝撃を辛うじて塞ぎ。
そして、117体の紅輝の魔断狼達が、その顎を開いて衝撃波を噛み砕いた。
――だが。
『ふん……この程度で『我等』の想いを破ることなど出来はせぬ!』
その『桜守』の叫びに応じる様に。
大分数が減っていたとは言え、未だ存命する影朧達が一斉に吠え猛り、見る見るうちにその姿を変貌させていく。
そう……『桜守』が召喚した、巨大な巨人の如き存在へと。
其の背に翼を生やして空に羽ばたいて、一斉に猟兵達を切り捨てんと大剣を振り下ろす影朧達。
「ですがあなた達を倒すことが出来れば、これ以上の幻朧桜への被害は出ない! 此処が踏ん張りどころですね……妖精の騎士の皆さん! もう一度力を貸して!」
奏が傍に居たベアータを守るべく、エレメンタル・シールドを掲げてその攻撃を受け止めながらそう叫び。
「此処が好機だよ! 皆、行きな!」
漸く頃合いが来たと判断した響が咆哮と共に、その胸に【1】と刻み込まれた、長剣と槍で武装した真紅の騎士団を召喚した。
「瑠香さん! 相手の勢いに飲まれれば押し切られるわよ! 私達も全力で押し返す! そうで無ければ、『桜守』に届けたい声を持つ人達の声は……届かないわ!」
ベアータが鋭く怒鳴りながら、自らの体に刻まれた餓獣機関BB10を意識すると。
――ドクン。
自らの常に苛む飢餓の衝動――その一部を満たした、刃を折った影朧と言う名の『栄養』が、体内を巡り。
そうして自らの中に蓄えた力を、餓獣機関BB10に伝えた時。
ベアータの背に2翼1対の、蝙蝠の様な翼が生えた。
其れは血に飢えた獣……彼女の瞳と同じ藍色の光を発し。
――バサリ!
飛翔すると同時に、螺旋状に束ねられた其の光が球欠光線として放出された。
戦場全体を焼き付くさんばかりのそれが巨大化し、変貌した影朧達を射貫かんと次々に降り注ぐその間に。
「ああ、もう! こうなりゃ自棄です! 兎に角片端からぶった切っていくから、手伝ってよ、ベアータさん!」
瑠香が目をグルグル回しながら、物干竿・村正による神速の突きを解き放った。
解き放たれたその突きが、ベアータが撃ち抜きよろめいた巨人に突き立って、其の体に罅を入れ。
「滅多斬りだ、このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
混乱しながら、破魔の属性を纏った103回の目にも止まらぬ斬撃を解き放つ。
――ズシン。
思わぬ乱撃に影朧の1体が限界が来たのかその場に頽れ、光となって消えていく。
その消えていく巨人の脇を、雷光の如き速さで、敬輔が駆け抜けた。
その全身に纏われているのは白き靄。
「お兄ちゃん! この子達は、私と同じ……帰りたくても、還れなかった悲しい人達! だから……。分かっている! くそっ……せめて安らかに眠ってくれ!」
白き靄……加耶の魂と同調し、カヤとして味わい続けていた『孤独』を感じ。
敬輔が戦場全体に犇めいた骸の海の波動の衝撃を漆黒のオーラを纏って辛うじて受け止め、類同の影朧に刃を撥ね上げた。
(「無敵の影朧が生まれた以上、其れの真似を彼等がし、そして僕達の動きを釘付けにしようとするのは当然か……!」)
でも……それでは彼等は永遠に檻に囚われたまま。
しかし、それは『復讐』と言う名の『負』の想念に囚われていた敬輔と同じ。
同質の力がぶつかり合うことで、元々の力の強い巨人の体に敬輔の黒剣の刃が食い込み、止まった時。
「……マルバス」
その巨人を不意に、黄水晶の雲が覆い尽くした。
彼の雲は『負』の想念による強化を打ち消し、疾病を撒き散らすモノ。
その強化を打ち消す思わぬ効果に、不意に黒剣を通して敬輔の腕に大きくのし掛かっていた肉の重みが薄れていく。
「これは……陽太か!」
何が起きているのかに気がついた敬輔が叫び、心臓まで達しきらなかった黒剣の柄に力を込めて、振り上げきる。
その斬撃に肩までを切り裂かれ、白光に包み込まれ、消えゆく影朧。
だが、まだこの巨体となった影朧は何体か残っている。
このままではジリ貧になるのは恐らく確実だろう。
(「ならば……如何する?」)
何か、後一押しがあれば。
其の一押しがあれば、影朧達との戦いの戦局は大きく変わるだろう。
そう敬輔が結論し、その力を如何にして得るのかを考えた、正にその時。
「すみません。遅くなりました。……八卦天雷陣・彩雲天網」
その言の葉と、共に。
この弾丸列車全体を覆う様に。
天空を美しい彩雲が覆い尽くし、其処から無数の雷鳴が轟いた。
●
――ゴロゴロゴロゴロ……ピシャァァアァァァンッ!
その美しい彩雲から降り注ぐのは間断無く続く雷撃の雨。
「漸くというか、やはりと言いますか……。それがあなたにとっての最強ですか。それでは、如何に理屈をこねようと、世界を骸の海に落とそうとする只の死者の妄言としか言えませんね」
――嘲笑。
口の端に笑みを浮かべ、第2車両と1号車両の連結点に佇みながら嗤う冬季が解き放つ雷撃。
それは、『敵』には裁きを。
『味方』には神をも切り裂く雷鳴の力を与える、八卦の仙術。
其の雷の、支援を受けて。
「今なら行けるか。白梟、焼き払え! 篁臥、ヒット&アウェイだ!」
戦場を縦横無尽に駆け回る黒豹の如き篁臥に跨がる紅閻が指示を出し、其れに応じて上空の白梟が、天空からブレスを撒き散らす。
雷撃を帯びた白き光のブレスが、散弾の如く拡散し、地面に立つ、影朧達を纏めて焼き払い、其の体内から痺れさせていく。
――しかし。
『その程度では、『我』に寄せられた思いを、力を打ち砕くことなど出来ぬ!』
其の叫びと共に。
『桜守』が生み出した最強の影朧は、其の雷を意にも介した様子を見せることなく、身の丈程もある大剣を軽々と振り抜いた。
「うぁうっ!」
弧を描いて振るわれた其の斬撃が葵桜の脇腹から肩に掛けてを大きく切り裂き、葵桜が思わず喀血。
神霊体と化し、雪だるまアーマーを帯び、更に冬季の雷の援護を受けていなければ、自分の胴と体が泣き別れになっていた可能性も否定できない。
――ボタリ、ボタリ。
それでも神霊体と化した代償で、口から血を滴らせ、更に切り裂かれた胸から肩の傷の深さに顔をしかめた葵桜の耳に。
「おっと♪ 可愛い女の子にそんな傷を付けるなんて……お優しい貴女らしくないじゃないか♪」
からかう様なクラウンの声が届くと同時に、獄炎の炎が葵桜を包み込んだ。
――心身の傷を燃や(癒)し、暖める其の炎が。
と……此処で。
「あお! 援護するから、一度下がって!」
竜胆さんを頼むわよ、と言う様に義透の魔断狼と護鬼丸を一瞥した姫桜が、二槍を構えて葵桜と入れ替わる様に疾駆。
血の様な紅色に化した真紅の瞳から、ボタボタと零れ落ちる血の涙と共に、自らの寿命が失われていくのを感じながらも。
「私がこの世界の事で分かっている事なんて無きに等しいわ」
――だから。
「否定する権利があるのかと言われれば、困ってしまうけれども」
――でも。
「あなたやあなたに賛同する影朧達があまり良く想っていないかもしれない、私が知っている限りのこの世界の在り方は――」
――私は、悪いものではない。
「そう思って……いるのだから」
その言の葉と、共に。
影朧と化した者達を守らんとその前に立ちはだかった『桜守』の分身を二槍で串刺しにする姫桜。
その腕を伸ばしきった二槍のその上をまるで走るかの様にギリギリを飛行した。
「そう言う事は、本人に直接思いっきり叩き込んでやればいいのよ、アンタ!」
ベアータが其の翼から大量の吸血光線を放射しながら、『桜守』の本体を守る影朧に迫り。
「……さよなら、影朧!」
――グサリ、と。
その機腕から不意打ちの様に飛び出させた鉤爪で易々と其の体を突き倒した。
斬撃を予想していたのか、斬撃への防御態勢を取っていた其の影朧が驚愕の表情を浮かべて崩れ落ちて消えていく。
「刀だと思った? 残念ね。同じ攻撃は、連続して使わない主義なのよ!」
そう言って、クルリと空で一回転して上空へと舞い上がるベアータ。
そして、陽太の呼び出した紫雲に覆われた最後の影朧に機腕から機関銃を突き出して、その背の蝙翼機光の射撃に合わせて一斉掃射。
放たれた無数の弾丸と吸血光線で、その影朧を撃ち貫き、影朧化した幻朧桜を屠った所で。
「漸く影朧の壁は壊れた様ですね」
白光に溶け込み、或いは、その血を吸われ、力尽きた者達の様子を見ながら。
既に竜脈の力や、結界、防火帯によってこれ以上の幻朧桜の影朧化を遮った事を確認した灯璃がそっと呟く。
場外には未だ、数百体の『桜守』が存在しているが、本体への道は、既にほぼ開けていた。
――だから。
「オラオラオラオラ! こいつらの相手は俺達が引き受けてやるからよ! 榎木! お前等は、とっとと本体の所に向かいやがれ!」
ミハイルが笑いながら叫び、三度UKM2000-Pの引金を引いた。
その銃口から迸る無数の銃弾が、次々に生き残りの『桜守』の分身達を撃ち抜き、彼女達の抵抗を鎮静化させるその間に。
「コイツらは、私達が引き受けるから! この先は、アンタ達に任せるわ!」
ベアータが叫びと共にミハイルを援護して幾度目かの吸血光線を一斉掃射し。
「真紅の騎士団!」
「妖精の皆さん!」
響と奏が、同時に声を張り上げて。
『一斉攻撃! 生き残りの影朧達を制圧しろ(して下さい!)』
そう同時に指示を下すと。
剣と槍で武装した真紅の騎士団達が、冬季の雷で強化され、陽太の雲で弱体化した、生き残りの影朧達を蹂躙する。
一瞬、最強の骸の海を操る最強の影朧以外の同胞を失い、ガラ空きになった『桜守』に向けて。
「背負って見せてよ。世界を、人々を、君が今、遣っている桜達を、其の痛みと悲しみを、怒と嘆きを、憎しみと苦しみを……」
暁音が呟きながら一気に肉薄、祈る様に星具シュテルシアを振るい。
其の先端に描いた自らの体に刻み込まれた紋章……『共苦の痛み』の力を解放し、『桜守』に差し出す様に突き出した。
けれども、ほんの僅かに届かない。
最強の影朧が、暁音を妨害する様に大剣を振るい、星具の軌跡をずらしたから。
「……っ!」
しまった、と暁音が思わず舌打ちをしようとした其の直後に。
「……暁音さん! 行け!」
グリモア・ムジカの譜面を差替え、新たに奏でられ始めた美雪の歌が耳に届いた。
其れは――トッカータ。
諦めない意志を称賛し、貫くことを願う其の歌が生み出した温かな七色のオーロラ風が、暁音の背を押して。
更に……。
「……隙だらけよ」
都留が『桜守』と、無敵の影朧の索敵範囲外から解き放ったエレボスの影から放出された光線が、『桜守』の足を撃ち抜いた時。
「それだけ、嘯くのであれば、背負ってみせてよ」
暁音の星具シュテルシアの先端に描かれた『共苦の痛み』。
世界と暁音が共鳴する為の刻印が、『桜守』の見に焼鏝の様に押しつけ、刻み込まれた。
●
『ククッ……アハハハハハハハハハハハッ!』
その世界の痛みは、想いは、『彼女』にとっては当然のものだった。
だから彼女は、それだけの痛みを受けても尚、狂うことはなかった。
『ええ、その通りよ! 此こそが、世界が、ヒトが、『我』に与えた痛み、苦しみ、憎しみ、悲しみ! 無念の思いを帯びた死者達がいつも抱いている心の瑕疵!』
――だから、誰かが其の責め苦を背負わなければならなかった。
そうしなければ……あの子達の『生』は報われないから。
『例え、転生する事で次代にその想いを繋げることが出来たとしても! それは其れまでに死んでいったその『個』としての想いではない! それでは、誰も何も学ばないし、そんな人達を救えない! この程度の世界の重み……我が前には些事に過ぎぬ!』
――全てを背負う。
其れがどれ程重く苦しいモノだなんて――そんな事は、分かり切っていたこと。
あの時、どれだけの人々を守れず、悔しく、悲しい思いを抱いただろう。
あの時に起きた蛮行で、どれだけの仲間達が死に、悔し涙を流したことだろう。
『大を救うために小を犠牲にする功利主義。言葉だけは麗しいそれを、嘗て、貴様達は行ったのだ! いや……違う! 貴様達は、功利主義を行ってすらいない! あの時、貴様達は我等に全ての罪を押しつけた! 其の時に味わった人々の無念と悲しみと憎しみと痛み……その『負』の記憶を、今、此処で精算せよ! ……あの時の生者達が流し、流された血の代価を、今世の貴様達の血で贖うが良い!』
冬季の雷光を受けながら高笑いを上げる『桜守』。
彼女のその獣じみた悲痛な叫びを受け止めた無敵の影朧が叩き込む超絶なる衝撃の一撃を解き放ち、其れが戦場を容赦なく打ち据えた。
「……此が、負の想念で闇に囚われた者達の末路だとでも言うのか!? そんな想いと狂った思考を持つモノが、世界の調和を保つ事が出来ると、本当に思っているのか!?」
先程と同等かそれ以上に凄まじい衝撃を爆発的な反応速度で、無数の残像を生み出しながら無我夢中で受け流した敬輔が刃を一閃。
だがその刃は、骸の海と言う名の質量を呼び出した最強の『桜守』の生み出した影朧が易々と受け止め、敬輔を真っ向から弾き飛ばした。
(「ぐうっ……?!」)
それは、決して歪むことのない、真っ直ぐな歪んだヒトの負の意志。
其の意志……否、遺志の重さを背負い、共に世界に安寧と秩序を齎すと言う誓いが、其の戦士を正しく『無敵』にしていた。
(「付け入る隙は……何処にある!?」)
信念を掲げるモノ。
そう言った者達は、それだけでも強い。
ましてや、其の信念を貫くための手段として、無敵のユーベルコードと戦士を想像して創造するという事が、彼女の世界の在り方で。
全身に鳥肌が立つ程の殺気と負けるかもしれない、と言う微かな想いが敬輔の脳裏を過ぎった時。
「アホかー!」
ダン、と。
敬輔の攻撃で一瞬出来た隙をつく様に飛び出した葵桜が、傷だらけの体を獄炎に癒されながら、全身から血を吹き出しつつ肉薄し。
――パーン!
と、平手で一発、『桜守』の頬を張り飛ばした。
「ちょっ、あ、あお!?」
衝撃波が直撃し、立っているのがやっとだった姫桜が葵桜のある意味で誰も予想していなかった行動にポカンと、思わず口を開ける。
そんな姫桜の体を燃や(癒)す様に、110の獄炎の炎が姫桜の体に纏わり付き、深い傷口を塞いでいく。
(「最初の獄炎だけじゃ足りなくなるとはねぇ~。全く……本当に最高に素敵な相手だよ貴女は♪」)
新たな獄炎の炎を再構築するために、先程まであった肉体を一度破棄し、再構築したクラウンが内心でそう思いながら笑う。
そのからかう様なクラウンの笑いになど、気がつく筈も無く。
『なにっ……?!』
葵桜の突飛な行動に呆気にとられつつも、怒りと憎悪の視線と共に、懐に隠し持っていた小刀を引き抜き葵桜を斬り掛かる『桜守』
そんな『桜守』の斬撃を妨害する様に間断無く空の彩雲から雷光が降り注ぎ、『桜守』を撃ち抜いている。
葵桜の突飛いた行動に、思わず笑いを口の端に乗せた冬木の雷光が。
――けれども、葵桜は。
その藍色の瞳にこれ以上無い程の怒りの炎を湛えた葵桜は、叫んでいた。
「小難しい言葉こねくり回してもったいぶって、自分達がさも正しい顔をして、自分の考えによって、人殺しする事が正しい訳なんてない! 『今』この目で見える人達の命と笑顔が失われて良い理由なんて、何処にもない!」
『大を救うために小を殺す功利主義。それは貴様達ヒトが今まで散々やってきたこと! そんなヒトの有様を知らぬ貴様達でもあるまい! その自分達が犯してきた罪の重さに、何故貴様達は気付かないのだ『罪深き刃』刻まれし者達よ!』
葵桜の叫びに応える様に。
『桜守』が懐刀を返す刃で振り下ろし、斬撃の波を発生させ葵桜を斬り刻み、吹き飛ばす。
「おっと!」
飛び出した統哉が受け止めるのと入れ替わりに。
「……まあ、あなた達を無理矢理転生させること、それが私達の『罪』だと言うならば、そうなのかもしれないわね」
クラウンにその傷を燃や(癒)された姫桜が真紅の瞳から、血の涙を零しながら再び肉薄し、其の手の二槍を突き出している。
schwarzとWeiß……黒き光と白き光……互いに相反する光を束ねたヴァンパイアの放つ二槍が、『桜守』の体を抉り。
そこから冬季が乗せた雷光が『桜守』の体を駆け抜けていく。
『ぐっ……! 離れろ、『罪深き刃』刻まれし者が!』
苦痛に、其の顔を歪ませながら。
抜刀した二刀を下段と上段から同時に振るい、姫桜の胸から肩にかけてをX字型に切り裂く『桜守』
思わぬ斬撃に雪だるまアーマーと雷光が切り裂かれ、苦痛の呻きを上げながら竜胆を守る様に後退する姫桜の背後では。
「光と闇は表裏一体。元より切り離せるものでもない」
そう呟きながら、それから願いと祈りを籠める様に素早く十字を切る統哉の姿。
「でも……だからこそ、循環を続ける必要があるんだ。光が光……生者の儘ではいられぬ様に、この世界では闇……死者もまた、死者でいる必要は無いんだから」
「そうだな、統哉さん」
その統哉の呟きを、静かに肯定したのは美雪。
吹き荒れる温かな七色のオーロラ風が、クラウンの獄炎の炎の燃や(癒)しを後押しするのを一瞥しながら、粛々と言の葉を紡ぐ。
「傷つき虐げられた者の過去から、生まれる影朧。そんな影朧を人為的に生み出す土壌を作って、貴方方は生者と死者……言うなれば光と闇のバランスを取ろうと画策している」
――それは、ある意味では理屈なのだ。
天秤が生者と死者の数を等しくし、更に果たす事無く心残りを残して死んでいった人々の心が死後も生を全うする。
それもまた、光と闇のバランスを調整する1つの手段なのかもしれない。
(「先程引っ掛かったのは……此か」)
先の救出劇で人々を救った時、自らの脳裏を過ぎった言葉……『大樹の養分』
それが、ある意味で世界という1つの大樹を維持する為の手段を示す例えとしてある意味では的確だったのは、紛れもない真実だった。
――けれども。
「では、問おう。あなたが選んだ人々の想いを背負って生み出そうとしている世界。其の世界は、結局生に満足して逝った者の意は完全に無視していることになりはしないか? それは、あなたの望む平等な世界の原理原則から、離れうるのではないか? それは……天秤が闇側にのみ傾けることになりはしないか?」
その美雪の言の葉に。
『貴様達……気付いていないのか? 我は『闇』の天秤なのだ。だとすれば其の対になる存在が既に無ければいけないという、其の真実に』
そう『桜守』が呟いた瞬間。
「……」
一瞬、竜胆が険しい表情を浮かべるのをちらりと後ろ目に姫桜が見やった。
(「竜胆さんは、やはり何かを知っているの……?」)
『闇の天秤』……何故、その『天秤』と呼ばれるものが生まれたのか、其の理由を。
「……そうですね。確かに私達は、私達が聞いた範囲でしか、物事を推測することは出来ません。それ以上を知ることは、今のままでは出来ないのでしょう。対になる存在があったとしてもおかしくはない。ですが……」
そう沈痛そうにネリッサが呟くとほぼ同時に。
――ピン、と。
其の手から、小さな小粒の様な結界石を解き放ち。
「残念ですが、この世界も、そして他の世界でも……公平ならまだしも、平等という言葉は幻想に過ぎないのです」
――グルァァァァァァァァッ!
ネリッサの呟きに応じる様に小さな結界石から不気味な猟犬が姿を現し咆哮する。
咆哮と共に其の口を大きく開いた貪欲なる猟犬は、其の顎を開き、結界石の貼り付いた彼女の体の一部をガブリ、と囓り取った。
「がっ……?!」
思わぬ猟犬の本体への直接攻撃。
仮に、無敵の影朧にその攻撃が通らなかったとしても。
其れを操る本体に攻撃が届き、其方を滅ぼす事が出来れば、無敵の影朧は消失する。
――故に。
陽太の呼び出した黄水晶の雨と冬季の呼び出した雷光の中を駆け抜けて。
「……俺もまた、ある意味闇の一部だろう」
黒髪と青く鋭い双眸を持ち、叢時雨を両手遣いに構えた人間形態となったネコ吉が『桜守』に肉薄した。
叢時雨の銀刃は、マルバスの黄水晶の雨を受け、黄色く眩く光輝いている。
更に冬季の雷光をも纏ったその刃には。
深淵の『黒』の化粧もまた、施されていた。
「……だが、其の闇を知るからこそ、光も共に在ると知る」
自らが、何も知らぬと言う事を自らも知っている。
この世界の中で最も恐ろしいのは、ヒトの『心』。
然れど其の心に在るものは……。
「何も、『負』だけじゃないんだ。其の感情の裏側には、『正』への渇望もあるだろうから」
例えば、誰かが持つものを、自分が持たないと言う『嫉妬』の想い。
けれどもそれは、持たざる者が持つ者へと抱く……『羨望』や『尊敬』の様な『正』の感情の裏返しにしか過ぎないこともあるのだ。
――それなのに。
「其の事実から目を逸らし、全てを闇に縛り付けたままで……」
――ヒュン。
黒き銀刀による雷光を纏ったオーロラ風に其の背を押された斬閃。
それは今まで無敵であった影朧の持つ両手剣とぶつかり合い、そして……。
――微かに、その刃の一部を欠けさせた。
『何……っ?!』
それは、本来であれば決して有り得ない事象。
人々の負の想いこそ、世界の中でも最も肥大化し、拡大し、そして世界を飲み込める程に助長し、膨張していく最強のもの。
けれども其れが。
その『負』の感情の塊が……本当に、本当に微かに揺らぎを生じさせている。
「……やっぱりこの位じゃあ、此処までが限界か。でもよ……」
刃こぼれを起こした自らの叢時雨を見つめながら。
人の姿……真の姿となったネコ吉が、淡々と『桜守』に問いかけた。
「仮に、ヒトの『負』の感情こそが最強だとして……只それだけで、本当に託された想いに報いることが出来るのか?」
――と。
●
『ああ! 報いることが出来るとも! 何故なら其れが、我等を形作る、人々の願いなのだから!』
何かを振り切るかの様な、其の雄叫び。
その『桜守』の雄叫びに応えた無敵の影朧が咆哮し、戦場全体を骸の海……泥濘を飛散させる様に暴風を巻き起こす。
巻き起こされた暴風に向けて、義透が紅魔断狼を嗾け。
「まだまだこれからだよ♪ ボクの力で、全てを暖め、燃や(癒)してあげるからね♪」
クラウンが鼻歌交じりに笑いの波動を発しながら、三度獄炎の炎を放出。
天空より降り注ぐ雷が、徐々に、徐々にその燃や(癒し)の炎の精度を上げて、降り注ぐ災厄の様な暴風を燃や(癒)している。
「……あなたは現在と、過去を生きるもの、と言いました」
この混迷する戦況の中で。
自分にとっての最善の一手を探るべく状況を見定め続けていたウィリアムがゆっくりとそう口を開いた。
灰色の眼差しで、射貫く様に『桜守』を見つめながら。
『其れが如何した? ヒトは今を生き、影朧は過去を生きる。此は誰にでも分かる普遍の理であろう』
「そうですね。人も影朧もその通り、『生きて』います。ですが、果たしてその全てのモノ達が、自らが其の位置で望んで生きているのだと、本当に思っているのですか?」
ヒトは、何時か死ぬ。
それは避けることの出来ない真実で。
だからこそ……其の死を恐れて、不老不死の道を求める者もいる。
黄泉還り……死者を生き返らせる方法を求めるのもまた、同様だろう。
では……影朧は?
影朧は影朧として、不老不死の儘生き続ける事を、本当に良しとするのだろうか?
そんなウィリアムの脳裏に過ぎったのは――紫苑の姿。
連綿と続いてきたこの戦いの始まりで、命を落とし、影朧となり、大切な人の下を訪れて保護されていた少女の姿。
そして今は、紫蘭として転生し、第2の生を生きている桜の精。
「無論、死にたいと思っているとも思いません。死にたいと思っている人も居るかもしれないし、そうでない影朧もいるかもしれない。あなたは、勝手に全ての影朧の代弁者を気取っているだけだ。それでぼく達を倒して、世界のバランスを取る事なんて出来はしない」
その言の葉と共に。
指先を、『桜守』の足下に其の指を突きつけるウィリアム。
(「皆さんの思いを、感情を叩き付け、最強の影朧の力を削ぎ、これ以上の被害を減らすためには……これしかない」)
こんな乱戦だ。
未だ誰も倒れていないのが不思議な程に人々が犇めくこの場所で、敵味方の識別を付けるのは難しく、故に派手な術式も難しい。
此では何時か『桜守』に逃げられ、竜胆達の命を奪われる可能性も十分ありうる。
――だから。
「Slip!」
そのウィリアムの、叫びと共に。
其の指先から放射された桜と緑と薄水色の混ざり合った小さな弾が、『桜守』の足下を凍てつかせ。
『っ?!』
思わぬそれに仰け反る様に転ぶ『桜守』
足を取られ無様に転倒するのを避けようと、咄嗟に受け身を取って反転、素早く地面に立とうとし。
その『桜守』を守る様に、無敵の影朧がその前に立ちはだかろうとするが……。
「チェック、甘いわよ!」
誰かが作り上げる最善の隙を見逃さぬ様、ずっと対情報戦用全領域型使い魔召喚術式で監視を続けていた都留がそう叫ぶ。
その都留の叫びと共に、無敵の影朧にネコ吉が微かに穿った傷を深々と抉る様な斬撃が走り、影朧がよろけた隙を突いて。
「……甘いな。俺が護るのは、この世界の秩序。貴様等が生み出したシステムとやらこそ、この世界にとっての異端」
都留のエレボスの影を初めとする、人々の闇に紛れ込む様にその身を潜ませ。
その隙を伺い続けていた陽太が宵闇から姿を現し、淡紅と濃紺の輝き伴う螺旋状の突きを放ち、『桜守』の心臓と首を穿とうとする。
『無面目の暗殺者』
そう名乗る陽太が突如として突き出した槍に籠められた殺気を反射的に読み取り、咄嗟に身を捻って攻撃を躱す『桜守』
だがその攻撃は、肺と肩を抉り、強かな一撃を与えていた。
『ぐっ……! だが、違う! この天秤のシステムは、『世界』によって作り出された秩序! 全てのものに平等な安寧と秩序を与える世界の為に、生み出されたものだ……!』
鋭く貫く様な痛みに顔を歪ませる『桜守』の言の葉に。
都留の拡散したアイテールの護衛隊の影に隠れる様に再び隠密を行う『暗殺者』たる陽太が淡々と。
「仮にそうであったとしても。ヒトの『負』の想いは何人であれ、些細な切っ掛けで抱くもの。故に、貴様等に其の全てが操る必要がない。其れこそ、『世界』にすら出来ない事だ」
そう返した。
――そう、今の『世界』を構築し、生み出している人々。
其の人々が抱く思いや、其の情感、生まれ落ちた命の意味にまで、『世界』が干渉することは出来ぬ。
(「最も……」)
――殺人人形である『無面目の暗殺者』たる俺に、そう言った『想い』を教えてくれたのは、『陽太』だったのだが。
いや……それとも『陽太』の両親か。
「……陽太。ああ……そうだ。そもそも、生まれ落ちたモノ達の『負』の感情の全てを、『世界』が知ることは出来ない。『世界』にだって予測すること何て、出来ないものだ! それを、貴様は……!」
搔き消す様に姿を消した陽太の言葉に合わせて入れ替わる様に。
敬輔が目にも留まらぬ速さで戦場を疾駆しながら、黒剣を再び一閃した。
横一文字に振り切られた白き靄纏いし斬撃は、強かに『桜守』を切り裂いた。
『未だ……未だ……!』
その『桜守』を守らんと。
態勢を立て直した最強の『影朧』が敬輔の反射速度を上回る速度で戦場を疾駆し、敬輔の背を大剣で切り裂かんと……。
「……ふむ。貴様は我等を『罪深き刃』刻みしもの、と呼ぶ。では……汝は、罪深き刃を産みせし者かえ? ならば、汝も世界の破壊者。妾達と同じ異端の存在じゃな」
その祥華の言の葉と共に。
雪鬼女が吐き出す猛吹雪が、敬輔を切り裂こうとした最強の影朧の視界を塞ぎ、更に篁臥に跨がった紅閻が影朧へと其の指を向け。
「……そうだ。そもそも貴様の行動そのものが、この世界そのものを消滅させてしまう可能性さえある」
呟きと共に、酸の雨を降り注がせた。
降り注ぐ酸の雨は、無敵の影朧の体を焦がすことも、焼くことも出来ない。
その筈なのに、影朧の装甲が酸の雨を受けて溶けている。
溶けかけている其処に……。
「……行きます。合わせて下さい」
G19C Gen.5を構えたネリッサが淡々とそう呟いて、その引金を引き。
「……YES、マム。死体の山を作って無念を只増やす様な貴女に……過去の人々に報いることが出来る事なんて、何1つありませんよ?」
と灯璃が、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"の引金を引き。
「やってみるだけ……やってみます!」
ウィリアムが、抜剣したルーンソード『スプラッシュ』を投擲する。
ネリッサと灯璃の撃ち出した銃弾が、冬季の雷光に導かれ、酸雨で溶けた影朧の体を抉り。
そこにウィリアムの『スプラッシュ』が突き立ち、其の体の傷を更に穿った。
『な……なにっ……?!』
無敵の筈の影朧が目に見えて弱体化しているその姿に、思わず大きく目を見開く『桜守』
その『桜守』と『影朧』の方へと、統哉が両手を開いて其方に向ける。
その統哉の開いた両の掌の前には、少しずつ光の矢が形作られ始めていた。
「でも……望みを果たせなかったなら、再び挑み果たせば良い。それを望む、望まないは其々に異なるけれども……」
――獄炎で、その心身を燃や(癒)すクラウンの言葉の通り。
「転生して歩むための力は、この世界の全ての影朧達が持っているんだ。それを選ぶのは其々の影朧達。無念を思えばこそ平等なる権利をというのなら、其の選択肢を、どうか影朧達から奪わないで」
続けられた統哉の言の葉が。
『負』の想念を、影朧と化した幻朧桜達の残滓の極一部を微かにざわめかせた。
――そうだ。自分達は、貴様達生者によって、全てを奪われた。
だからこそ、我等は貴様達を決して許しはしない。
けれども……。
「……転生は、優しい揺り籠なのです。ヒトが、ヒトとして生きることに疲れ、死に、其の記憶を忘れて新たな命を歩むことが出来る。そんな心優しく、私達を抱擁するこの世界を、其の揺り籠を私は護ります。其の為になら、どんな事でもし、どんな者とでも協力します。汚泥以下のあなたの中に燃えかすの様に残るものと同様に。私には世界を、転生を護る為に、全てを捧げる矜持があるのですから。其れに破れるのが嫌ならば……今はさっさと消えて、其の悔しさをバネに、骸の海に還るのではなく、転生していらっしゃい」
その言葉と、共に。
クラウンの獄炎に燃や(癒)された桜花が桜鋼扇を翻し、咲き誇る幻朧桜の霊体を召喚し。
――全てを癒し、浄化する桜吹雪を吹き荒れさせた。
その燃や(癒)しの獄炎と、浄化の桜吹雪の即興劇が、無念の想いを糧に、回復し始めていた影朧桜達を吹き散らした。
「……例え、無念を抱いて死んでいったとしても。桜花さんやクラウンさん、統哉さんが示してくれている様に。この世界では、其の無念を癒し、転生させる力が存在しています」
その分解されていく影朧達を目の端に捉えて見送って。
奏がエレメンタル・シールドを構えながら『桜守』に肉薄し、問う。
「なのに、あなたはその無念を抱かせたまま、影朧として人々を存在させ続けている。其れが嫌ならば、と人々を黄泉還らせている。でも、黄泉還り、記憶が継続し続けているのであれば、尚更無念の思いは募るばかり。そうなれば何時か還ってきた人達は、其れを晴らすために生者達に何らかの報復をするでしょう。だったら……そのまま死んでいった人々は、眠らせてあげた方が正しいんじゃないですか? 生きている方には、その方の人生を生きて頂き、死んだ方にはまたもう一度新しい命になって芽吹いて貰うか、安らかに眠って頂く。それが、本当の意味で平和な世界なのではないですか!?」
叫びと共に、シールドバッシュを叩き付ける奏の其れを懐刀をもう一本引き抜き、二刀流で受け止める『桜守』
だが、連続した衝撃と長い戦いが、『桜守』の体から集中力と体力を着実に削っている。
それでも尚、無敵の影朧は未だ顕在。
その大剣で回転し全てを真っ向両断にしようとした、其の時。
「ヒトの抱く気持ちは様々です。誰もが悲しみの内に死んでいく訳ではない」
水晶色に輝くその杖の先端を、無敵の影朧へと突きつけながら。
月読みの紋章を描き出し、その先に氷晶の魔力を蓄える瞬が赤と金のヘテロクロミアに『桜守』を映し出して。
「その理屈から目を逸らし、一方的な見方しか出来ないあなた達が、世界の秩序と平等を保つのは、無理な話です。ましてや……その信念という名の思い込みに従い、人の生き死に干渉するなど、言語道断です」
――だから。
「例え、鉄壁の……人の負の想念より練り上げられた最強の影朧だとしても。その様なものに……生と死の境界線を引くことの出来ない存在に、この力を止めることなど出来ませんから……!」
その決意の言葉を吐き出して。
描き出した月読の魔法陣から、530本の氷晶の矢が乱射した。
影朧の間接部、鎧の継ぎ接ぎ、そして視界を遮る凍てつく氷の矢を、1本の巨大な束にして、瞬く間に影朧に突き立て。
其処に……。
「死者に報いることは、確かに大事だよ。でも、死者がまた黄泉還るのは、世の理じゃないんだ。その黄泉還り自体が世界を壊しちまう。……運が良ければ、アタシ達みたいな猟兵として別の生を与えられることになるかもしれないけれどね……!」
――轟!
紅閻の白梟の足を掴んで飛翔した響が大上段にブレイズランスを振り上げて、その穂先を影朧に向ける。
響の強き意志を体現するかの様に燃え盛る焔を纏ったブレイズランスが瞬の氷晶の矢によって、凍てついた影朧の体を穿った。
穿たれた無敵の筈の影朧が、凍てついた体を急速に熱せられ、全身に罅割れを生じさせた、正にその時。
「そこですね」
冬季が雷光を降り注がせ、一気に痺れさせていく。
氷、炎……そこに雷。
容赦の無い3連撃は無敵の筈の影朧を大きく傾がせ、紅閻達の連撃のダメージと合わせて全身に罅が入る程に消耗させていた。
『だが……その程度で我等が背負う想いは負けぬ! この程度の『負』で我等は決して負けるわけにはいかぬのだ! 失われていった多くの仲間達の其の為にも……!』
その『桜守』の心を覆い尽くそうとする絶望を、大声を上げて振り払い。
影朧が見る間に其の力を取り戻し、大剣による暴風を巻き起こそうとした直前。
「天秤のバランス、光と闇、両方あってこそ成り立つもの。そうだろう?」
統哉が両掌で生み出していた浄化の矢を守る様にクロネコ刺繍入り結界を張り巡らしながら、そう問うと。
『ああ、その通りだ! だから、強すぎた光を抑え、バランスを調えるために、我は今こうして自ら、『闇』の使命を果たしている!』
「だが……其れを君が行い続ければ。全てが闇に縛り付けられる。その先にあるのは完全なる停滞。生も死も許さぬ、終焉の世界だ」
その統哉の言の葉に。
大きくその動きを鈍らせる『桜守』の様子を見て、そうじゃな、と義透が同意とばかりに首肯した。
「自らの生の中で、望みを果たせなかった奴はごまんとおろうよ。わしもその1人であるからな」
だが我は……『我等』は悪霊として戻ってきた。
死者として、黄泉還った。
その我等が、死者の黄泉還りを否定し、それを『悪』とするのは……ああ、何と皮肉なことであろうか。
――然れど。
「其れを理由に、過去が、終えたものが、『今』と『未来』を遮って良い理由にはならぬよ」
――なぜわし……『我等』が死者であるにも関わらず、再び生を受けられたのか。
其の理由は――恐らく1つしかない。
「それはな……わしは……『我等』は、『今』から『未来』へと生きる者を助くと決めたからじゃ。其の為に、此処におるのだからじゃ」
黒燭炎……嘗て、成長する雷を受けて砕けて、また再生した、その黒槍に。
冬季が雷を落とし、何時砕けてもおかしからぬ成長する炎雷を今、この槍が纏うは何の因果か。
だが、その遠雷の咆哮こそが。
「この成長する事の出来る力こそが、わしがお主の言う『罪刻まれし者』……超弩級戦力である事の本質なのだろうな。そんなわしは、お主の様に、変わらぬ過去で世界を塗り潰さず、生者の……否、『未来』を目指すモノ達を、護りたいのじゃ」
その義透の言の葉と共に。
幾度目かの紅輝を纏った魔断狼が一斉に咆哮し、無敵の影朧……即ちオブリビオンと言う名の『闇』を其の炎雷を用いて食らう。
食らわれたその一撃に無敵の影朧が大きく傾ぎ、其の余波が『桜守』に届き、彼女が衝撃に体を仰け反らせた時。
「如何したの? 義透さんの言葉も、世界が抱いている共苦の痛みが抱えている意志だ。其の世界の意志を、君には受け止めることが出来ないの?」
前傾姿勢になって飛び出した暁音がエトワール&ノワール……二丁拳銃を構えてトリガーを引いた。
星と闇の力を蓄えた眩き光伴う其れは、光と闇……相反しながらも、共にあるモノの反発力を融合し、巨大な星の弾丸として撃ちだされる。
撃ち出された其の2発の銃弾が、影朧を撃ち抜きその身を傾がせるその間に。
「私には、昔の記憶が無いわ」
そう淡々と呟いて。
ミハイルと共に、分身した『桜守』を全滅させたベアータが、其の背の蝙翼機光を大きく開き、吸血光線を乱射した。
――其の飢えを満たす、其の為に。
(「私はヒトなのか、ケモノなのか。……どっちなのかは分からないけれども」)
そして……何時か、常に私を苛む飢餓に飲み込まれ、遂には理性を失ってしまう可能性すらあるけれども。
(「それでも、私は……ヒトの側にありたいんだ……!」)
――故に。
「アンタが言っている事をやり続ければ、ヒトはヒトであれなくなる! そんなことを許すわけにはいかないのよ!」
それはヒトかケモノか分からぬままに放たれた咆哮。
咆哮と共に放たれた吸血光線が『桜守』を撃ち抜き、自らの飢餓を少しだけ満たしていくのを感じるベアータ。
そして、そのベアータの隣でミハイルが口の端に鮫の笑みを浮かべて頷いて。
「まっ……少なくとも、俺はお前等影朧に褒められる様な悪事は、なーんにもしてねぇ。ついでに言えば、お前の主張なんぞどーでもいい。だが、結果として竜胆を守ってやれば、それだけ報酬の上乗せが期待できるんでね! 其の為にも、お前にゃさっさとぶっ倒れて貰わなきゃ困るんだよ!」
吐いて捨てる様に叫んでUKM-2000Pの引金を引き、1発の必中の弾丸と無限の銃弾を雨あられの様に叩き付けた。
ベアータの吸血光線に大きくその身を傾した『桜守』
その『桜守』に向けて放たれた何百発もの鉛玉が、『桜守』の全身を穿っている。
「くあっ……!」
――ああ、けれども。
けれども、我は未だ負けられぬ!
我を慈しみ、共に歩むと決めてくれた同胞達の為にも我は決して負けられぬ……!
そんな『桜守』の思考を断ち切る様に。
「ああ、もう! あなたみたいにグダグダ、グダグダ言う奴を慮ってやれる程、私は寛容じゃないのよ! ……とっとと、倒れなさい!」
瑠香が神速の突きを解き放ち、其れが『桜守』の胸に突き刺さった。
そこから放たれた103の目にも止まらぬ早さで繰り広げられた斬撃に、ガボッ、と喀血する『桜守』
『未だ……未だ……! 此処で、負ける、訳には……! 皆の想いを……裏切る、訳には……!』
(「そう言うのは、弟だけで十分だってのに……!」)
それでも尚、意地で立ち続ける『桜守』の姿に胸中で瑠香が舌打ちを1つ。
けれども、その今も尚残る『桜守』の不退転の決意は……。
「……黄泉還りにより、死者……死した者が生き返らない、其の人の理を穢し、輪廻と魂の循環を乱しながら、貴様が与えてきた希望」
美雪の温かな七色のオーロラ風を受けた紅閻が朗々と墓碑を読み上げるかの如くそう告げて。
解き放ったイザークの重力の圧縮攻撃がボロボロの無敵の筈の影朧を押し潰し。
「其れを打ち破り続けるのが『罪』だというのであれば……」
その言葉と共に、続けざまに放たれたレーヴァテインによる終焉の炎が、傷だらけになり、押し潰された影朧の体を跡形もなく焼き払い。
「俺は別に、貴様に許されようとは思わん。許せとも言わない」
最後に、吐いて捨てる様に叩き付けられた、紅閻のその言葉と酸の雨が終焉の炎を消し止めて、傷だらけの『桜守』を無防備にしたところで。
「君は桜を守る者。平和と秩序と安寧の世界を真に願うのであれば……この世界における魂の、命の循環と浄化作用である『転生』を、正しく君達にして貰いたい。その心に抱えた胸の傷みと、苦しみと、悲しみを一度忘れて……そして、新たな『命』として、この世界を支える幻朧桜として、もう一度戻ってこれる様に」
統哉が、両掌の前でそう願いと祈りを籠めて遂に完成させた、605本の『光の矢』に撃ち抜いた。
邪心を断ち切る願いと祈りを籠めた太刀……『強制改心刀』と同じ想いを大量に突き立てる605本の『光の矢』が。
それは影朧達に穏やかなる転生を願う、そんな細やかな願いの籠められた光の矢。
冬季の雷属性を付与された統哉の浄化の矢が、次々に『桜守』に突き立ち、その魂を浄化そたけれども尚動こうとするその体に。
「……それが、この世界の願いだ。祈りの籠められた其の力こそが、この世界の貴様等を転生させる……あるべき所へと返す力」
――ドスリ。
淡々とした、言葉と共に。
側面に回り込んだ陽太が、淡紅と深紅の螺旋状の槍を突き立て、同時にその刃で『桜守』を抉り。
「……例え、貴方の言う事が本当は正しくて、私達は間違っている……『罪深き刃』刻まれし者なのだとしても」
その腕に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面に一滴の滴を滴らせ。
澄んだ湖の様に透き通った鏡面の光を帯びた、其の両目から血の涙を零しながら、姫桜が粛々と言の葉を紡ぎ。
「私は、私の持つ『罪深き刃』ごと自分の罪として引き受けて、此からも『世界』を守っていくわ」
その頑なな決意と、誓いと共に。
二槍を陽太の反対側から姫桜が突き立てたところで……『桜守』はその場でグラリとその場に傾いで倒れ込んだのが。
――『無面目の暗殺者』……陽太が意識を失う直前に見た最後の光景だった。
●
――ガチャリ! キィィィィィィィィ……!
少しだけ不気味な解錠音が、其の部屋に響き。
仙桃を囓っていた運転手がビクリ、と何が来たのかと、微かに歯の根が合わずガチガチと音を鳴らしながら其方を見る。
だが、彼の護衛……宝貝・黄巾力士はそうではなかった。
運転席の方に現れた人物……冬木の姿を見て、粛々と片膝を突き最敬礼を送ったのだ。
「ご苦労だったな、黄巾力士」
軽く黄巾力士の肩を叩いて労った冬季がゆっくりと運転手に近付き、さて、と口の端に笑みを浮かべる。
「お待たせしました。もう、大丈夫です。運転を再開して下さい」
その冬季の言葉を聞いて。
「は、はい……」
全身から脱力した様にそっと息を抜いて最寄りの駅に入るべく、ゆっくりと運転を開始する運転手。
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
ゆっくりと速度を上げて発進し、傷だらけになった幻朧桜並木を見つめながら。
「……これは、戻ったら先ず、沿線の幻朧桜植樹でしょうね」
そう呟いて小さく嗤い、運転手の背中をゆっくりと見ながら、辛うじて残った其の風景を楽しんだ。
●
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
弾丸列車が動くその音で、目を覚ました。
暗くなり、消えていった意識が水面下から上がってくる感触と共に、陽太は双眸を開く。
陽太が其方を見ればそこには淡々と自分を気遣う……。
「敬輔。俺は……?」
「気がついたか、陽太さん」
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
弾丸列車の揺り動かしに頷きながら敬輔が軽く安堵の息をついた。
「此処は、客室車両……か?」
周囲を何気なく見やった陽太がそう問いかければ、そうだな、と敬輔が頷いた。
「戦いが終わって意識を失ったからな。竜胆さんの事は、美雪さん達に任せている」
「そうか……」
――カタン、カタン……カタン、カタン……。
弾丸列車が淡々と駅へと走っていく音が、まるで古時計の様だ、と思いながら。
自分の中に戦闘中の記憶が全く無い事に気がついた陽太が、なあ、と敬輔に問う。
「如何した?」
「……敬輔。俺、何時まで俺でいられるんだ?」
如何して気を失っていたのか。
其の理由は嫌でも分かる。
(「暗殺者……」)
――あいつがまた俺を乗っ取り、そして『桜守』を暗殺したのだろうと。
その陽太の問いかけに。
ほんの少しだけ微笑を零して。
「……陽太は陽太だ。どんな姿や性格であれ、な」
そう告げる敬輔の其れに、陽太はそうか、と頷く事しか出来なかった。
●
――そして。
「……竜胆さん」
戦いの一部始終を、竜胆を護衛しながら見守っていた美雪が、竜胆に呼びかけた。
「……終わりましたか。この戦いも……」
竜胆は、其れには直接応えず淡々と現状を把握する様に頷くと。
「って訳で竜胆、結果的とは言え、手前の身を守ってやったんだ。報酬はしっかり頂くぜ?」
そうからかう様な笑みを浮かべたミハイルの其れに、竜胆が微苦笑を綻ばせ。
「ええ、勿論です。何ならば、このままもう少しお手伝いをして頂ければ、危険手当だけでなく、特別手当も支給させて頂きますよ?」
からかう様にそう返してくるのに、ミハイルがヤレヤレ、と溜息を漏らす。
「……ったく、何処までも食えねぇ奴だな……。で、その特別手当の要件は?」
「勿論、事後処理の手伝いと次の駅までの護衛です。乗客と乗務員は皆様が避難させて下さいましたが、駅に到着するまで、まだ皆様の安全が保証されたわけではありませんから」
「確かに最後まで護衛をして、乗員達が全員無事にこの列車を降りるのを見届けるまでが任務の内でしょうね。灯璃さん、ミハイルさん、都留さん、お願いします」
仕方ないとばかりに頷くネリッサのその言葉に、灯璃が敬礼し、都留が頷き、ミハイルが軽く頭を掻きながら了解と諸手を挙げる。
冬季は何時の間にか姿を消していたが、列車が動き始めている以上、既に運転席に根回しをしにいったと見て良いだろう。
そんな事を思いながら事後処理をネリッサ達SIRDとベアータと乗務員達に託し、人心地付く様に息を吐いた竜胆に向けて。
「……過去があるから、今が有り、未来がある。お前には、今こそ話す義務があるのでは無いか?」
人間形態の青く鋭い双眸で射貫く様に見つめながら、ネコ吉が竜胆に問いかけた。
「……そうですね。事、此処に至っては、これ以上隠し立てする必要も無いでしょう。もう既に『天秤』に纏わる100余年の物語は、終わりの時を、迎えつつある様ですからね」
何処か、悟った様に小さく溜息を漏らす竜胆の其れに、統哉が尋ねる。
「闇の天秤……この始まりは、何だったんだ?」
そして美雪が統哉の問いかけに頷きながら、そして……と呼びかけた。
「彼等の本体とやらの正体と居場所は……何処だ?」
その統哉と美雪の問いかけに。
この場に残った猟兵達を一瞥して、竜胆がそっと息を漏らし、訥々と語り始めた。
「……全ては、100年前にある里で起きた大火が始まりです。最も……其の大火の事を知る皇族は、恐らく私と、あり得るとしたら……」
「今上帝……でございますか?」
竜胆の其れの意味に思い至った桜花がそう問うと、竜胆が静かに頷いた。
「何故なら、其の事件は、他の皇族達にとっては、よくある出来事の1つに過ぎませんでしたから。だから私は……当時、其の事件が抱えていた大きな問題を見逃してしまった」
それは、何処か悔いる様で。
そして俄には信じられぬと言う様な表情である事に祥華が翡翠の瞳を眇める。
「……フム。嘗て妾達は、情と知を司る者、世界の平穏のバランスを名乗る影朧とも事を交えたことがあるでありんすのう。あれもまた、関わりのある者なのでありんすか?」
「ええ。あれは1つの試練だったのです。……此度の『天秤』のバランスを取る『光』側の桜の精に、天秤の片割れを努めさせるだけの力を付けさせる、其の為の」
「『光』側の精……それは、やはり……紫蘭の事か?」
そう問う紅閻をちらりと一瞥し、そもそも、と竜胆が問いかけた。
「紫蘭が如何してこれ程早く転生できたのか? そう不思議に思ったことはありませんか? それも雅人との別れ際、影朧と化して滅ぼされる前までは『人』であった事、『人』を愛していた証拠とも言える、あの羽根を胸に着けたまま、です」
「……私達にはどう言う期間で転生するかは分からないからな。何とも言えないが……それと、事の始まりは何か関係があるのか?」
その美雪の問いかけに、竜胆が軽く咳払いを1つ。
「話が逸れてしまいましたね。年を取ると本題に入るのが遅くなってしまいます」
「……竜胆さん」
咎める様な統哉の其れに、はい、と竜胆が軽く首肯を返す。
「失礼しました。話を戻しましょう。事の始まりは、その里で起きた100年前の大火でした。その大火で、当然、多くの人々が死にました。そう……多くの魂達が、様々な無念や悲しみ、痛み、苦しみ、辛さを抱えて死んでいったのです」
「その言いざまからすると、その大火の原因自体が、面倒な事になっていそうだね」
そう響が呟くとそうですね、と竜胆が静かに頷いた。
「起きた原因についてまでは当時、正確には把握できませんでした。ですが、その事故を起こした可能性が高い存在は、分かっています」
「……待ってくれ。竜胆さん。まさか、それって……」
思わず、と言った様に息を呑みながら問いかける統哉の其れに。
「……はい。今では超弩級戦力と呼ばれるあなた方猟兵……あるいはその資質を持ったものです。当然その事実は秘匿され、その事件そのものも既に闇に葬られています。ですので、最も事件を起こした可能性が高い者を知っているのは事件の当事者位のものでしょう」
「……竜胆さん。まさか、あなたは……!」
息を呑みながらの瞬のそれに、そうですね、と静かに竜胆が首肯した。
「これでも皇族の端くれです。100年程前でしたら、既に帝都桜學府諜報部に所属し、隠蔽位は行いましたよ」
「……それは、そうかも知れないけれど……」
そう呟く姫桜に、何処か自嘲染みた笑みを浮かべて軽く頭を振る竜胆。
「さて、話を戻しましょう。その超弩級戦力が起こしたのではないかと言われる大火では、当然、多くの人々が死にました。そして、そんな魂達を幻朧桜や、桜の精達は慰めるべくその力を使い多くの人々を転生させました。……その大火の影響で、その里の周囲の幻朧桜は多くが消失し、桜の精達にも多くの犠牲が出ていたにも関わらずです」
「記録から破棄しなければならない程の大火なら、幻朧桜の犠牲も致し方なし、か」
やりきれない表情で美雪が頭を横に振り、祥華が微かに遠くを見る眼差しになる。
何故か、先程語った嘗て姉妹によって生み出された世界……その世界の最期の時と、その光景が重なってしまったから。
「……それでも生き残った人々が里を再興し日常を取り戻すことが出来ていれば、未だ良かったのですが……事は、そう簡単にはすみませんでした。寧ろ、此処からが本当の悲劇でしょうね」
「……本当の悲劇、ですか?」
その竜胆の言葉に引っかかりを覚えたのか。
ウィリアムがそう問いかけたのに、そうです、と竜胆が粛々と首肯した。
「先ず、少ない桜の精と幻朧桜しか残っていなかった。けれども、沢山の死者達が無念と共に死に、影朧と化した。そうですね……逢魔が辻程の規模の大小さまざまな影朧が生まれたと言えば、皆様には分かりやすいでしょうか」
「……まっ、待て! 逢魔が辻が出来る程の規模の影朧がその1回の火事で生まれたのか!? そして、それを極少数の桜の精が幻朧桜と共に転生させただと……!?」
素っ頓狂な声を上げる美雪の其れに、その通りです、と自嘲じみた笑みを浮かべたまま竜胆が頷く。
「他の地域から別の桜の精を応援に向かわせればよかったのですが、そうは出来なかったのですよ。結果として、其処にいた者達と幻朧桜だけで転生を行った……。その中には、皆さんが嘗て戦った、姉桜と妹桜の様な桜の精達もいたでしょう」
そう、竜胆から語られた時。
ギョッ、とした表情に美雪がなり、統哉もまた、一瞬ひゅっ、と息を呑んだ。
(「……まさか、あの紅桜と白桜……双子の桜の精と、彼女達を生み出した幻朧桜まで、その大火で焼き払われたんじゃないだろうな……?」)
あの時、姉桜は確か、自分が焼き払われた其れを、『戦争』と言っていた筈だが。
その真偽は不確かではあるけれども。
――けれども。
「そうして自分達の家族を理不尽に失われた命を転生させた、生き残りの桜の精と幻朧桜に、生き残った人々は、何をしたと思いますか?」
その竜胆の問いかけは、あまりにも無慈悲で残酷なものだった。
「……何をした……?」
一瞬、何を言われたのか理解できないと言う様に凍り付いた表情になるネコ吉。
ネコ吉の反応を一瞥し、竜胆が淡々と言葉を紡いだ。
「自分達が大火によって、理不尽に大切な者を奪われ、失われた事への憎悪や憤怒、悲哀……。それらの全ての負の感情を、大火で死した人々を転生させた幻朧桜を叩き折り、桜の精を虐殺する事で晴らしたのです」
『……!』
竜胆のその言葉に、思わず大きく目を見開く統哉達。
竜胆はそんな彼等の表情を一瞥し、それから軽く頭を横に振った。
「あの時、彼等を止めることが出来なかったのは、紛れもなく私の罪。その理不尽を受けた幻朧桜と桜の精達の一部は、誰かを救済することに『疲れ』てしまいました」
「では、天秤に拘るあの影朧達が、負の感情を一身に抱えていると言うのは……」
口の中がカラカラになるのを感じながら。
何とか気力を振り絞って美雪が問いかけた、正にその時。
(「……ぐっ!」)
暁音の『共苦の痛み』が激しく鋭く突き刺す様な、灼熱感を伴った痛みを与える。
それは……その話が真実であることを、暁音に世界が教えるための、痛みだったのかもしれない。
「輪廻転生による優しさを当時の人々が自らの手で破壊して、傷つけたのです。……そんなことになれば、当然その桜の精達と幻朧桜は自らの役割を果たせなくなる。結果として、彼女達は、『影朧』と化しました」
彼女達は、耐えきれなかったのだ。
『生者』から向けられる……あまりにも理不尽な行為に、その心が。
こんな悲劇は二度と繰り返してはいけない。
――影朧と化したその幻朧桜と桜の精達はそう考え……。
「其の結果、彼女達が辿り着いた結論が、この世界の生者と死者を半分ずつで等分する事でした。そして、無念を果たす事の無かった者達は黄泉還らせることで、その想いを果たさせてやる。満足に死んでいった者達には、輪廻転生の輪に戻って貰い、『生者』として営みを続けて貰う。そして……『影朧』の儘でありたいと望む者には、『影朧』として人生を送ってもらう。平行になった天秤の様に、生者と死者のバランスを公平にとることが出来れば……誰も傷つくことのない、真の安寧と秩序は保たれるのではないか? と……』
そんな彼等の想いが結実して生まれ落ちたのが、『天秤』と言うシステム
――何時か、その絶望と苦しみからかの影朧達が救われるその時が来るまでに、と産み落とされた1つの答え。
『先程、桜花さんは彼女達はフォーミュラではないと切って捨てましたが、正にその通りです。ましてや彼女達は今上帝でもない。それまでは只の、心優しき世界のシステムにしか過ぎなかった。けれども……そんな普通の心を持つ者達が、己が使命を果たした結果、自分達が理不尽に滅ぼされるなどと言う痛みを受けて平静でいられるものでしょうか?』
淡々とした、竜胆の問いかけに。
「それは……」
ごくりと生唾を飲み込む桜花に竜胆はだから、と話を続けた。
「あの天秤はある種の自浄作用なのです。『生者』と『死者』、『光』と『闇』、『ヒト』と『影朧』……どちらかに一部の者達が偏った時、その偏りを正すための。ですがその根底にあるのは、あの事件で理不尽に遭い、壊れた幻朧桜と桜の精達を救済する事です」
「でも……あの人達は、実際に生者達を殺し続けてきたわ。それが許されることとは、私には思えないけれども……」
その姫桜の問いかけに。
そうですね、と竜胆が粛々と頷いた。
「そして、その理不尽によってより多くの命が失われ、この世界を骸の海に飲み込ませるわけにもいきません。だからそれを補うために、世界に生み出された桜の精がいます。これは……この天秤を巡る戦いが起きる時にのみ生まれ落ちる『桜の精』です。一度『人』の生を経験した、適性のある影朧と化した心優しき死者を桜の精に転生させる。そんな……悲しくも優しい1つの秩序。それが……天秤です」
其れで誰もが救われる訳でもなければ、世界の大勢に影響を与える訳でもない。
精々、慰め程度のものだけれども。
でもそのシステムを作り出し、その概念を粛々と実行する事で、その心を救われる人々も、幻朧桜も、影朧もいる。
「ですが……そろそろこのシステムの終焉は近くなってきています。多くの戦いの中で『光』側の『桜の精』は成長し……そして天秤に連なった多くの影朧達もまた、転生に至りましたから」
「……成長した『桜の精』……紫蘭さんの事か」
漸く、と言った調子で。
ポツリと重苦しい言葉を紡ぐ美雪に、ええ、と竜胆が淡々と首肯した。
「そうです。そして、あなた達が今回、私を……いや、この弾丸列車の命を守るために戦ったあの『桜守』。あれは、『闇』の象徴……今回の天秤の『闇』側の主である存在が生み出した現し身です。其の現し身を、私を暗殺するために使わなければならない程に、天秤に救いを求めた影朧達は追い詰められている。であれば後は、その本体を転生させれば……この戦いに終止符が打たれることになるでしょう」
「……その影朧がいる場所と存在は?」
その美雪の問いかけに。
竜胆は軽く頭を横に振り、そっと溜息を漏らした。
「それをあなた方に伝えることが出来るのは、この世界にあなた方を導く道を作ることが出来た『グリモア』と、其れを操る猟兵だけでしょう。そして……」
――それが予知として伝えられたその時こそが、この天秤を巡る戦いに決着がつくその時でしょう。
そう告げる竜胆の其れに、美雪が分かった、と重苦しい溜息を吐いて首肯する。
……頷くことしか、出来なかった。
――天秤の行方を巡る最後の戦いの時迄、後少し。
大成功
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