#クロムキャバリア
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学府連盟広葉地方樫学府では、未曾有の騒ぎとなっていた。
理由は二つ。一つは、先の大戦以後、“持たず・作らず・持ち込ませず”という非キャバリア三原則を心情としていた樫学府において、二機のキャバリアが校庭で相対していたからだ。
学生運動を発端とする学府間抗争が激化する現在、樫学府が己に許したキャバリアは一機だけだ。
「樫学府護督……。彼と同じ機体が何故!?」
そして、もう一つの理由が今、明確となった。
『くっ……!』
アマランサス・ラピート。樫の者が“赤ヘル”と呼ぶその機体が、同じ“赤ヘル”の前で膝を着いたのだ。
学区内外の危機を排除するための限定暴力存在“護督”は、苦悶の声を挙げる。
『お前は……いや、貴女はまさか――』
『ほうじゃの。改めて自己紹介せんとの』
涼しく立つ“赤ヘル”から、訛りの強い女の声が聞こえてきた。
『ワシは先々……々? 今から何代前じゃ? まあええじゃろ……。
――旧代護督、そう呼べ。あの戦争から今帰ったけえの』
「……!?」
驚愕、歓喜、戦慄。全てが入り混じった声が、学府に響いた。
●
「皆様、事件ですの!」
猟兵達の拠点、グリモアベースでフォルティナ・シエロは言う。
「現場はクロムキャバリア。人型機械である『キャバリア』が特徴的な世界ですわね」
クロムキャバリアは、無数に分裂した小国家同士が体高五メートルの人型兵器“キャバリア”を主力に、生産施設“プラント”を奪い合う、荒廃した世界だ。
「オブリビオンの暗躍によりこの世界は百年以上もの間、戦争を続けていますの……」
オブリビオンマシンとして蘇ったキャバリアが、搭乗者を破滅的な思想に狂わせ、戦火を拡大させている為だった。猟兵以外はどれがオブリビオンマシンか識別できず、その状況を認識する事もできない。
現地の様子を映した資料を提示しながら、フォルティナは言葉を続ける。
「今回私が予知した未来は、戦乱のうちに消息不明となっていたとある凄腕のキャバリア乗りが、突然故郷である小国家に戻って来たんですの」
現場の状況を説明しますわ、と、画像を次々に用意していく。そこに写されていたのは海辺の丘に立つ建物だった。頑健な造りで、様々な人が出入りするそこは、
「学校……。現地では学府と呼ばれていますの。名を樫学府。ここに英雄、旧代護督が戻ってきたのですね。
学生達は喜びに沸いていますが、帰還した英雄の愛機であるキャバリアはとっくの昔にオブリビオンマシンと化しています。勿論、パイロットである旧代護督自身もその影響を受けてしまい、歪み果てた思想のもとに故郷へ滅びをもたらすべく、今回の“帰還”を果たしたわけですわ」
●
つまり、猟兵がするべきことは何か。
「彼女がかつての故郷を滅ぼしてしまう前に、最小限の被害でオブリビオンマシンを破壊することがですわ。
この学府への突入ルートを導きました。出発点は丘の麓……海岸線ですわ。丘からは見えにくいそこを進むことで、学府へ突入してくださいまし。
――ご武運をお祈りしてますわ!」
シミレ
シミレと申します。よろしくお願いいたします。
●目的
・復活し、己の故郷を破壊せんとする英雄が乗るオブリビオンマシンの撃破。
●説明
・戦乱のうちに消息不明となっていたとある凄腕のキャバリア乗りが、ひょっこり故郷である小国家へ戻ってきました。
・小国家の人々は喜びに沸いていますが、帰還した英雄の愛機であるキャバリアはとっくの昔にオブリビオンマシンと化していました。勿論、パイロットである英雄自身もその影響を受けてしまい、歪み果てた思想のもとに故郷へ滅びをもたらすべく、今回の「帰還」を果たしたのです。
・グリモア猟兵の予知は、英雄とオブリビオンマシンがいる拠点への突入ルートを導きました。今すぐに攻め込めば、彼女がかつての故郷を滅ぼしてしまう前に、最小限の被害でオブリビオンマシンを破壊することができるでしょう。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 冒険
『キャバリアの墓場』
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POW : ●『現場を調べる』:現場をくまなく歩いて、何か異常が無いか調べる
SPD : ●『キャバリアを調べる』:武装やシステムなどを調べ、キャバリアに何があったか知る
WIZ : ●『キャバリアの声を聴く』:物言わぬといえど、ひょっとすると…
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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初夏の空、熱をもった陽光が降り注ぐ先は、空とは違う青だった。揺れ動く広がりは海だ。日差しによって暖められた海面から風が生まれ、そして流れていく。だがそれらは水平線を超えていかない。存在しないからだ。
『学府連盟広葉地方樫学府・戦争遺跡』
海岸線に立てられた看板の向こう側には対岸があり、青く霞んだ浜辺や山並みが見える。それも対岸は一つや二つではない。遠近様々な位置に島嶼が散らばっているここは内海なのだ。そして、看板に書かれた通りの場でもあった。
不自然に抉れた岸や、青黒い海面から幾つものキャバリアの残骸が突き出ている。そのどれもが“赤ヘル”だった。
そんなキャバリアの墓場とも言える中央に、無傷の“赤ヘル”がいた。
もう何十年も、この古戦場跡でその姿のままだったようだ。
看板の文字は続く。
「“櫻自大戦において、L.S.が誘発した二発の殲禍炎剣砲撃の内の一発がこの地を襲った。”……」
人の声をもって。
生者など誰もいないはずのこの空間で、声は無傷の“赤ヘル”の内部からだった。
「“これを決め手とし、櫻洋は降伏。以後、国体を解体し“学府連盟”として分散。”……」
訛りの強い声はコックピットの中で依然として文章を読み続けていき、やがて、
「――――」
“赤ヘル”を始動させた。加速器を震わせ、丘の上を目指していく。
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海岸線に転移した猟兵達は、丘の上にある学府を目指すために移動を開始していく。
キャバリアの残骸は海側だけでなく、海岸にも存在していた。砲撃で砕けた機体や、海から流れ着いた部品など、多種多様だった。
オブリビオンマシンとなった“赤ヘル”と同型機がここにもあるのだ。武装や特性などを調べれば、敵との攻略に役立つだろう。残骸からキャバリアや武装を調達しても良い。
また、この地に何があったかを調べることも、オブリビオンマシンと対峙する時に役立つ可能性はある。どのような背景があって思想を歪められたかを知れば、相手と対面した際に糸口が増えるからだ。
「…………」
猟兵達は動き出していった。
レン・ランフォード
蓮:さて、行方不明だった人が戻ってくるのは良い事ですが…
錬:オブリビオンじゃなけりゃの話だな
れ:なにが癪にさわったんだろうね…?
蓮:それを今から調べるんですよ。行きますよ
UCで三人になり戦争の経緯や行方不明者について
手分けして探りましょう
ここを管理している人や石碑等から歴史を読み取ります
何かが破壊されている、供え物がある
キャバリアの移動跡など、新しくできた誰かが立ち寄った跡を探します
それを発見できたら数珠丸太郎に臭いを追跡してもらい
どこに立ち寄ったかを詳しく探します
幽霊がいるなら実現符で実体化させて話を聞くという手もありですね
去る時に守るための刀を一本拝借していきましょうか
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転移を終えた蓮は、自分の足裏に返って来る感触を感じていた。平滑で揺るぎないその感覚は、大地が舗装されている証拠だ。
コンクリート。だがそんな舗装も完全というわけではなかった。自分が立っている位置から左右方向へは整然と続いているが、目の前に設けられた進入禁止の鉄柵から向こうは、しばらくすれば崩壊した灰色が広がっているのが見える。
砕かれ、散った跡だ。
それが海に浸っている。
●
「さて……」
現場を前にして、蓮は何かを探すように首を回した。すると、鉄柵が壊れている箇所をすぐに見つけられた。方向からして海側からこちら側へ。何者による仕業かは明白だった。
「行方不明になった人が戻ってくるのは良い事ですが……」
――オブリビオンじゃなけりゃの話だな。
重量物がコンクリートを削った跡は、丘に続く道へと認められる。
――なにがしゃくにさわったんだろうね……。
それを今から調べるんですよ、と心の中からの声に返事をした後、潰れた柵の手前で一礼。
「――――」
次の瞬間には、己の身体から二つの影が分けられていた。
ユーべルコード、“分身・雪月花”。己と全く同じ背格好の姿は、別の人格である二人を実体化させたものだ。
「じゃあ、三人で手分けして探りましょう」
その言葉を合図に、二人は柵の向こう側へ散っていく。荒れた足場でも淀み無く進んでいくのは忍としては当然だ。
無論、自分も同じような事は出来るが、まず足を運んだのは二人とは違い、柵の手前側だった。
「“学府連盟広葉地方樫学府・戦争遺跡”……」
看板、正確には案内板だ。そこに書かれているのは歴史だ。
戦乱とその終結、そしてその傷跡が今の抗争に続いている、と。
「何か手がかりがあればいいんですが……」
読み進めていく。
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「ふむ……」
錬は砕けた岸の中ほど、海面から顔を出す瓦礫の上で、現場を眺めていた。
「“行方不明者”が立っていた場所だけが無事、か」
“行方不明者”というのは、今回のパイロットの事だ。今自分が立っている位置からしばらく前方、砕けた岸と海を少し越えた先に、殲禍炎剣の爆心地がある。そこで彼女のキャバリアだけが無傷だったというのだ。
「“想定される被害規模との差異から、彼女が身をもって被害を可能な限り最小限化し、この地を護ったと考えられる。”……」
それ以降、彼女のキャバリアからは一切の反応が無く、いかなる手段でも内部を確かめることは出来ず、そして数十年。不動の伝説となった機体が今になって動き出し、
「波と瓦礫を掻き分け、上陸……」
キャバリアが進んだであろう軌跡を目で追う。地面を削るその後に乱れは無く、数十年ぶりの駆動とは思えない。
……つまり敵の状態は万全ってことだな。
地面が削れた深さから、相手の武装を含めた状態が予想できる。
「機体の加速器も生きてる」
加減足の具合を確かめるような痕跡の後、やがて柵を踏み壊した後があり、そこで一度、方向転換。看板と石碑がある場所へ向かい、
「また、方向転換……」
丘へ続いていく。
「…………」
顎に手を当て、思う。今現場から汲み上げた情報からして敵は万全であり、また何らかの攻撃無効化手段を持っている可能性があるのだ。
「何で無傷だったか知りたいんだが……」
周囲に散るアマランサス・ラピートは行方不明者のものと何が違うのか、確かめようと比較的原型の残った残骸の一つに目を向けてみれば、
「ん?」
もう一人の自分、れんがその残骸の前に立っていた。
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懐中から一投。宙を舞った符はしかし海風に流されず、れんの目の前にある残骸へ張り付いた。
「よし……」
それを認め、手指で印を組むと、原型を留めていない機体の中から影のようなものが現れた。
装甲を無視して空の下へ出てきた朧な姿は、霊体だ。ゆっくりと瞼を開け、こちらを見る。
「どーも」
片手を上げた挨拶に男の霊は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに悲痛な表情となる。
『ああ、何ちゅうことじゃ……』
嘆いている。それは、
「……このまわりのこと?」
『いいや……、違う。この状況に関しては、ここにおった連中全員が想定しとった通りじゃ。わしらが――』
否、と首を振る。
『護督がおらんかったら、もっとわやになっとった』
「そのごとくに、なにがあったの?」
答える前に、霊体の男はぼんやりと光る自分の身体を示し、乗機であっただろう背後にあるアマランサスを視線で示した。
欠損している。
男もキャバリアも、どちらも身体の各部が失われているのだ。
『殲禍炎剣が迫る時、わしらは同期しとった。人機一体となり、陣を組み、その中央にいるのが護督。全員全機の生命力と駆動力を護督に全部託したんじゃ』
「そんなこと……、できるの?」
『古代魔法帝国の異常なシステムじゃ。通称、“守海地”。効果は名の通り』
「“もみじ”……」
と、そこまで聞いてれんは思った。
「なんで――」
『わしがここに残っておるか、じゃろ?』
そうだ。生命力すら明け渡したのなら、彼はここに居るはずないからだ。
『簡単な事じゃ……。臆病者が土壇場で怖気づいて、途中で一抜けした。勇敢なあの人は何も文句言わず、わしの分まで背負ってくれた』
●
なあ、と言葉は続く。
どう思う? と。
『もし、そんな勇敢な人が、キャバリアすら動けんくなるほどのダメージを食らってなお、生き残ったとしたら。
傷ついていくこの地をずっと見ていられる程度の生命力とそして無念を背負って、今の今までおったとしたら……』
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呼び出した数珠丸太郎の後を追いながら、蓮は駆けていた。
己が得た物は四つだ。この地の歴史と敵機の状態、当時の者の証言、そして、
「…………」
一振りの刀だ。櫻と波の意匠を持つ赤い鞘は掠れてはいるが、文字が読める。
“帝立衛兵隊・広葉地方護督付”。
自分が読み取った歴史を考えれば、これは
「八十年前の品ですね……」
見上げる。敵は、丘へと続く道を真っ直ぐ登っていた。
大成功
🔵🔵🔵
リーベ・ヴァンパイア
……かつて国を守った英雄。そんな人物に守った国を襲わせる訳にはいかん。ーー阻止せねば
方針
とはいえ、オブリビオンとして甦ったという事は何かしらの理由がある筈だ。先ずはその理由を調べる
戦争遺跡に残っているキャバリアを調べる。これだけあるんだ。当時の戦闘の録画や録音データがあるかもしれん。
死者の墓を暴くような事はしたくはないが……すまない。許してくれとは言わないが、未来の者達の為に暴かせて貰うぞ
(コックピットを【切断・解体】で抉じ開けて、【メカニック】知識でデータを復元してみる)
(……もし、もしも、かの英雄の目的が歪められたものではなく己の意思の場合だったらーーいや、よそう)
俺は必要な事をするだけだ
●
熱に浮かされた潮風が、海岸線に立つ男の頬を撫でる。
「…………」
肌の上を走った感触を確かめるように、男は己の頬へ片手を当てると、そのままグラスを持ち上げた。
海面に反射した陽光が、男の表情を下から不規則に揺らしている。グラスの向こうで赤の瞳が細められた。
リーベだ。転移が済み、現場を前にしている。
●
リーベは思う。
……かつて国を守った英雄。
それが今回の重要人物だ、と。曰く、その者がこれから破壊を行い、それも自分が守ったはずのこの国をその手で襲うというのだ。
「――阻止せねば」
そんなことをさせるわけにはいかなかった。海面から視線を外し、自分の傍に漂着していた赤い装甲片に目を向ける。
アマランサス・ラピート。過去にここで何があったかは、装甲の上に刻まれた激しい傷が物語っている。
「オブリビオンとして甦ったのならば、何かしらの理由があるはずだ……」
まずはその理由を探るべきだ。そしてこの戦場において手がかりを持つとしたら、やはりこの機体だった。
機体の残骸は周囲に幾つもあるが、探すのは比較的状態の良い機体、それも、
「コックピット周りが無事なものは……」
有った。ここからそう遠く離れていない位置に、海面から上半身だけを見せている一体が見える。点在する瓦礫を踏み石として進めば、数歩の内にたどり着いた。
眼前のコックピットのハッチに、開けられた形跡は無い。
「死者の墓を暴くようなことはしたくはないが……」
恐らく当時のままなのだろう。通常であれば遺体を回収するのだろうが、何らかの理由でそのままとしていることは明白だった。
物言わぬ大きな鋼の塊を前に、手に持っていたクロスロッドを構える。先端がクロスレンチのような構造をしているその杖をコックピットに向けると
「すまない……。許してくれとは言わない」
コックピットを留めているボルトやナットを取り外していった。長い年月海風に浸された機体は、塗装とは別に錆の赤で塗られている。
脆い。ナットが砕け、ボルトが折れるのだ。レンチが通用しなくなれば、片手にまた別の武器を取り出した。
拳に嵌めたデバイスから生まれた血の刃が、錆びついた装甲の境を切り裂けば、生まれたその隙間にロッドの石突を突き込んだ。
「未来の者達の為に暴かせてもらうぞ」
そして一気にこじ開けた。
「――――」
瞬間。コックピットの中を見て、息を呑んだ。
「誰もいない……?」
●
機体の内部に残された記録を見て、リーベは疑問の答えを知った。
「……封印システム“守海地”」
この地方に過去に存在していた古代魔法帝国の遺産術式であり、条件を満たせば非常に強力な力を得られるという。
「“協力者が肉体的にも精神的にも合一した機体内部で、生命力と駆動力を術者と術者の機体へ転送することによって、術者と術者の機体は補給を必要とせず、長期間活動を続けられることを意味する”」
つまり、英雄を補佐していたパイロットたちは全員機体と一つとなり、そして英雄と一つになったのだ。
文章は続く。
「“しかしこの効果は副次的な効果に過ぎず、この地方には張り巡らされている古代魔法帝国時代に敷設された『超次元的なパイプ』とも呼べる管、『龍脈』を使い、エネルギーを周囲環境へも寄与することが主な効果である”……」
思わず周囲の海へ目を向ける。砕かれ、形を変えた海岸線は今もなお悲惨な過去を想起させるが、そのすぐ側の丘や林といった部分は被害を受けているようには見えなかった。
「それに……、“補給を必要としない”だと?」
目の前のデータにはそう書いてあった。
「つまり……」
口の中で推測を呟きながら、急ぎデータを確かめる。当時の戦場でこの術が使われたのは間違いない。今必要なのは、どれだけの人数と機体がその場にいたかだ。
すぐに情報は出てきた。あとは術式に付随している計算式に当て嵌めて概算をしてみれば、予想していた結果が出た。
「……英雄は当時からずっと生きていた」
残存するデータから戦争は八十年前のものと解る。当時からつい先程まで、陣形の中央にいたアマランサス・ラピートのコックピット内部で生きていたのだ。
「これだけのエネルギーがあれば、書いてある通り飲まず食わずで数十年は生きていられる。だが……何故外に出なかった?」
動力は有るはずだ。機体へのダメージが激しく、外部との意思疎通ができなかったのかと思ったが、違う。
「これは……」
読み進めていくうちに解った。
●
《“守海地”は、“喪巳慈”であり“燃眠詞”である》
《術者は受け取ったエネルギーを術式の維持のために用い、術者の生命もこれに準ずる》
即ち、
《術者の生命力が続く限り、術式陣から離れず、己が喪われることを是としながら、ただこの海を慈しみ守る防人そのものとなることである》
即ち、
《機体の駆動力が続く限り、術式陣から動かず、己を燃すことを是としながら、ただこの地を安らかに眠らせる詞歌そのものとなることである》
●
「出ないことを課せられたのか……」
記録された情報の整理が終わった後、リーベは誰も居ないコックピットのシートを見ながら、今得た情報を思い返していた。
街を守るための戦いに身を投じ、己と仲間の命を賭けた英雄は己を喪いながらも、この地のために尽していた。
……それが八十年前だ。
長い年月だ。当時を知る人はもうおらず、そして何より、絶え間無く続く戦乱が人々の記憶から当時の戦いを忘れさせたのだろう。
「そうしてオブリビオンマシンとなったか」
細部は違うかも知れないが、失われた過去が顔を出した理由は概ねはこのようなところだろう。
破壊を望むオブリビオンマシンからすれば、守護の術式など不必要でしかない。長い眠りから覚めた機体は、システムやパイロットを支配下においてもう動き始めている。
「しかし、少し安心した」
調査を始める前に、考えていたことがあるのだ。
……もしも、かの英雄の目的が歪められたものではなく、己の意思の場合だったら――。
己はどうするべきかと、そう考えていた。だが、今はもう得られた情報を前にして首を振り、思考を切り替えている。
「俺は必要なことをするだけだ」
小さく呟いた言葉が、シートに落ちていった。
大成功
🔵🔵🔵
クゥ・クラウ
「……」
キャバリアのコックピットハッチを開放して、ワタシは海を見つめる
『実物を見るのは初めてだったね』
AIのジョン・ドゥが声を掛けてくる
『海は良い。ただ眺めているだけでも飽きないからね。だけど、まずは仕事を済ませよう。またあとで来ればいい』
調査
機体に特殊な武器や装置が接続されてないか調べ、可能なら作戦や戦闘の記録をサルベージする
この国のネットワークに繋がるなら櫻自大戦について調べる
UC【名無し男は手を伸ばす】。(情報収集、ハッキング)
ジョン・ドゥ、何か分かったことはある?
『英雄は、自分たちが命を賭して守った国を見に行ったのだろうね。目にしたものによっては落胆したり怒りを感じることもあるだろう』
●
太陽が天上を上っていくうちに、降り注ぐ日差しは強くなっていた。柔らかさを残した初夏の熱が、海面へ降り注ぐ。
「…………」
反射する光量が多くなり、存在感を増した海を眺める姿があった。手足の有るその姿は人の形をしているが、しかし人よりかなり大きい。
キャバリアだ。白い装甲の一機は今、コックピットのハッチを開放している。そこにいるの白髪の少女は、コックピットを排した視界を前に、数度瞬きをした。
『実物を見るのは初めてだったね』
クゥだ。端末機からの声を静かに聞いている。
●
クゥは思う。知識としては知っている、と。
……海。
陸地ではない地理的領域の中で、塩分やミネラル分が含有された水で満たされた水域だ。
「色味が僅かに緑がかっているのは、プランクトンの数が多い証拠……」
『そうだね』
内海の特徴だ。頭の中にある知識を確かめるように言葉にすれば、AIであるジョン・ドゥが返事というより相槌を打つ。
知識はまだある。視線を遠くに向ければ、海面の揺れが一定ではないところが幾つか見える。
「内海は潮流が衝突し合い、狭い範囲で流れが変化する」
『そうとも。あれは潮目と言う。天体の引力や気象現象、海水内の熱などの不均一から流れが生まれる。流れは周囲に伝播し、海流や潮流となる』
知識の再確認を手助けする目的か、それともただ話したいだけなのか、教育係が端末機から説いてくる。
知識としてあり、説明もされたものが今、目の前に広がっているのだ。
『海は良い。ご覧の通り、ただ眺めているだけで飽きないからね』
だけど、と言葉は続く。
『まずは仕事を済ませよう。またあとで来ればいい』
道理だった。納得を頷きで表し、コックピット内部でコンソールを操作する。機体、アインベルの感覚素子を使って周囲を探れば、過去の大戦に使われたであろう残骸があちこちにあることがすぐに解った。
「アマランサス・ラピート……」
識別名を読み上げる。事前の情報によれば、復活した英雄の同型機らしい。つまりこの機体についての情報を集めれば、英雄と対峙する際に有効な手がかりとなるということだ。
『うーむ……。だけどこれは、破損機体というよりもはや残骸だね。どれだけ情報が手に入るか疑問だけど……』
端末機であるオラクルとアインベルは既に接続されている。消極的なようにも聞こえるジョン・ドゥの声だが、アインベルの内部で確保した作業領域内で着々と準備を進めている。つまり、
「ジョン・ドゥ」
『もちろん、お安いご用だよ』
準備が完了すれば、後は己がユーベルコードを発動するだけだ。
ユーベルコード、“名無し男は手を伸ばす”。ハッキング等によって集めた情報はすぐにこちらの手元に集まってくる。
●
《アマランサス・ラピート》
《武装:BSロングビームライフル、BXビームソード、RS-Sマイクロミサイルポッド》
《情報:背部と脚部の加速器が特徴的な高機動機体。ピーキーな操作性と、大規模なジェネレーターによるコスト増が関係し、少数生産の精鋭機として開発された。帝立衛兵隊の広葉地方護督・護督付にて主に配備され、“赤ヘル”の通称で知られている。》
●
『どうやら遠近両用の機体のようだね』
手元のコンソールに流れる情報を読み取りながら、ジョン・ドゥに同意する。
「でも、過去の作戦を見ると、突撃戦法を好んでいる」
マイクロミサイル砲撃からのビームソードによる突撃だ。優れた加速性能で一気に距離を詰める戦法が、記録の中に頻出する。
『勇ましいね』
英雄らしいと、そう言えるのだろう。恐らく自分達猟兵と対峙する際にも同じ戦法を用いてくるはずだ。最適化された動きは戦闘の基本だからだ。
が、
何故、オブリビオンマシンになったのか……。
それが解らなかった。ハッキングした情報の中、そういった面での特殊な武装や装置はヒットしなかった。
「……ジョン・ドウ、“櫻自大戦”について調べて」
『それならば当時の機体より、現在のこの地域のネットワークにアクセスする必要があるね』
「繋がるなら」
繋がった。官公庁や民間を問わず集めた情報が、コンソール上に表示されていく。文書や図表、映像など様々な媒体があることから、この地域での関心の度合いが知れた。
「“櫻自大戦。櫻洋とL.S.(Liberty States)との戦争……”」
発端としては、宗主国との対立が深まったL.S.を狙った櫻洋側からの侵略戦争だった。植民地を切り取っていく一進一退の攻防は、L.S.側に宗主国との独立戦争を半ば強引に選択させる形となっていく。
二面作戦という激しい戦いを続ける中、L.S.はやがてこの地方に目をつけた。
「秘密都市……」
内部の情報等を管理する都市だ。人員や情報の出入りを制限するのは機密性を保つためであり、それは大抵において軍事的な理由だ。
『この地域には以前、キャバリアの研究施設が有ったようだね』
過去の地図を手に己の周囲を改めて見比べてれば、確かにここがただの海岸線ではなく、護岸され、大きな港や工場を有していた湾なのだ。
「だから狙われた」
『“護督隊による撃退の後、追い詰められた兵士の独自判断によって砲撃が敢行されたが、護督隊の挺身によって被害を最小限化。
L.S.側にとっても予期せぬ砲撃だったが、この件によって殲禍炎剣砲撃の有用性を認め、二発目である現紫陽花学府への砲撃が計画された”……』
そうして二発目が落とされ、
「降伏」
史料の一節を、その一言が締めくくった。
●
クゥは聞いた。得られた内容から人工の知能によって判断できたことを、ジョン・ドゥは結論するのをだ。
『英雄は、自分たちが命を賭して守った国を見に行ったのだろうね』
挺身、先程見た史料にあったその二字を思い出す。
『目にしたものによっては落胆したり、怒りを感じることもあるだろう』
「…………」
必要な情報は手に入れた。コックピットハッチを閉じ、アインベルを起動させる。
『急ごう。きっと英雄は、今にも感情を爆発させようとしている』
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『暴動が起こっている…』
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POW : ●『厳粛に対応する』:正面から暴徒たちに当たる。隙を見せず、粛々と鎮圧を推し進めていく。
SPD : ●『先んじて対処する』:暴徒グループの合流、武装の調達等々…これを阻止するため、先回りをする。
WIZ : ●『暴徒側に潜入する』:瓦解させるために暴徒達側に潜入し、知識や魔術で内部工作を計る。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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混乱状態だった現場は徐々に変化しつつあると、樫学府の当代護督は認識していた。
「……!?」
「――!」
学生達の間で動揺が広がっている内はまだ良かった。誰もが、判断を下すのを先送りできるからだ。
だがそれも長くは持たない。やがて学生達は生じた感情の置き場を求める。
「…………」
今、校庭は二分されていた。新旧の“赤ヘル”が向かい合う中、機体の背後に学生達も並んでいるのだ。
突如として現れた旧代護督によって己が打ち負かされてしまったのが拙かった。己の実力が懐疑された結果、対立は決定的となった。
不信任から護督役を先祖に返上するというだけであれば、己も対立などしない。
「……今、何と?」
耳を疑った相手の言葉を、もう一度問う。
『殲禍炎剣砲撃をもう一発、樫にぶち込もうと思うとる』
承認できるはずがなかった。
●
旧代は目の前の後継とも子孫とも言える相手が、自分に言葉をぶつけるのを聞いた。
『樫学府は、八十年前の殲禍炎剣砲撃による護督・護督付の挺身を忘れず、いかなる戦争行為も容認しないことを誓いました』
この地の歴史や、学府とやらの理念だろう。
「“守海地”はまだ完成しとらんのよ」
聞くつもりは無かった。
『非キャバリア三原則を絶対の条件とし、当学府を含めるあらゆる学府自治会による戦闘行為を許さず、広葉地方護督改め、樫学府護督による絶対防衛を是とするのです』
「ワシらが“守海地”を発動して、ワシを通してこの地を加圧しとらんかったら、護督一人で守りきるなんて一日だって無理じゃったろう」
あの日死んだ者達の力で今も生き続け、この地に力を分け与えていたのだ。
生きながらえ、全てを見てきた。
「何せ時代は学府間抗争の真っ只中じゃけ。初期はまだ小規模やったらしいな。他学の研究狙い、諸国の工作。ショボい衝突はやがて生き残りを賭けた抗争へと発展……、っと」
喋りながらコンソールを叩いていた手指を止め、入力の結果を確認。そして、周囲の者達にも見えるよう送信した。
地形図だ。樫の地下を透過するようなグラフィックに、光のラインが走っている。
「古代魔法帝国時代の超次元的パイプ……龍脈じゃ。殲禍炎剣の砲撃で歪んだ龍脈は、“守海地”にも影響を与えた」
それは一体何か。
「――樫で人が死ぬ度、ワシの力になる」
最初は気付かなかったが、“赤ヘル”の中で確かに感じていた。護督付の命を転用する術式のはずが、彼らがいなくなった後も続いてくのを。
この地で抗争が起きる度に、自分と“赤ヘル”が強固になっていく感覚だった。
最初は嘆き、悲しんだ。何故こんなことにと。何とか機体に課せられたロックを解除しようともしたが、
『樫学府は狂乱の結果を遺跡として守り、語り継ぎ、今もなお狂気に塗れたこの世界が理性を取り戻すことを切に願うものです』
「そうは言うが、あそこに参拝する連中も随分減ったの。そろそろ夏じゃが、今年は何人来るやら」
長い時間が経ち、人も死にすぎた。寿命は勿論、抗争の結果でも何人も死んだ。自分達の戦いを知る者はどんどん居なくなる中、己にあった焦りは諦めとなり、そこからだろうか。
“赤ヘル”から声が聞こえ始めたんは……。
●
当代の護督は、思う。衝突は避けられないと。
『“守海地”は“百御死”である。
全ての者の尊い犠牲をもって、初めて完全となる』
旧代護督の言う通り、この地では随分と人が死にすぎた。厭世や嫌気といった思いを持たない者はこの地にいない。
高潔な誓いを自分達に課したがゆえに、それはさらに顕著となる。旧代の思想を支持する者達があれほど出るほどに。
「学生自治会は当代の支持を表明します!」
「我々旧代派は旧代の支持、加えて当代の不信任を表明。護督役の返上を即刻求めるものである……!」
そして双方は激突した。怒声と足音が校庭に響き、あちこちで衝突が始まる。
「クッ、待て!」
この騒ぎに乗じ、旧代は身を翻し校舎の方へ向かっていた。あちらにはこの学府が持つプラントがある。
飛翔体を製造する気か……!
初めの相対で自分の“赤ヘル”は無力化された。後は支持者によって学生を足止めさせれば、憂いは無くなる。その間に、全てを済ませるつもりなのだろう。
学生が全てを決めるこの地において、大人達はこの問題に関われない。もし関われるとしたら、
「全くの第三者だ……」
その時だった。
「あれは――」
校庭に、新たな姿が飛び込んできた。
●
丘を駆け上がった猟兵達は、それを見た。
「……!」
「――!」
学生間の対立によって暴動が生まれ、あちこちで衝突が起こっているのだ。人と人の大波の向こう、英雄の赤いキャバリアが校舎の裏へ回っていくのが見えた。
「誰だ貴様達は!? ――当代派か……、それとも旧代派か!?」
猟兵達は理解する。この暴動の大波をなんとか掻き分け、オブリビオンマシンの元へ向かわなければ、何もかもが手遅れになるということを。
リーベ・ヴァンパイア
予想はしていたが、此処まで荒れるとはな。
(ーー過去に何度か見覚えのある光景。意見の違いによる大多数の対立、時間が長引けば長引くほどそれは会話により討論では済まなくなり、暴力、武力へと変わっていく。そしてそうなれば)
……怪我人や死人が出る前に英雄を止めなくては。その為にもーー此処を通らせて貰うぞ。
作戦
【swordparty】で召喚した剣で宙に道を作って、その上を【ダッシュ】で駆け抜けて、校舎へと向かう
その際、下で生徒達の中に武力や暴力により行使を行おうとする者がいたら、【ガン&ブレード】の銃弾でそれを阻止する。少しの間、その場で止まって貰うだけだ(【武器改造】で弾を粘着弾にして【捕縛】する)
レン・ランフォード
蓮:なんで暴動が起こってるんですかね!
れん:鬱憤がたまってたのかな?
錬:裏に行ったアイツのせいだろ…急いだ方が良さそうだ
蓮:ですね、では1コーラスで無力化します!
初手煙幕弾からの
スピーカー効果の「結界術」と供にUC発動
私達の敵はオブリビオン、なのでダメージも麻痺も発生しませんが
歌声を聞いた事による催眠の状態異常は発生します
選曲は揺籃歌。落ち着つかせ、そして少し眠っていてもらいますよ
実現符で実体化している二人には気合入って妨害してくる人を止めてもらいます
うん、止めるよ…だってあの人は覚悟のない…怖気づいた人を
無理に犠牲にする事はない人だったんだもの
ある程度道が開けたら急ぎましょう
あの人のためにも
クゥ・クラウ
アインベルに搭乗している。
当代派、旧代派……?
『他国の政治にはあまり関わりたくはないね』
AIのジョン・ドゥが言う
破壊された護督のキャバリアに近づいて話しを聞きたい。
「……負傷はない? 機体からの脱出の手伝いは必要?」
『貴方が樫学府の護督ですね? キャバリアを持ち込み、領内に侵入したことは、どうかご容赦願います』
猟兵であること、旧代護督のオブリビオンマシンを追っていることを告げる。旧代護督が何をしようとしているのか尋ねる
旧護督派は、革命を求めている?
『旧護督は礎となった兵達ことを忘れ、理想を並べて戦う力さえも放棄した今の樫学府を許せなかったのかも知れないね』
天翼、起動。学生達を飛び越えて先に進む
●
リーベは人の波を前にして、表情を険しくさせた。
「予想はしていたが、此処まで荒れるとはな……」
今、自分の前では大きな騒ぎが起こっている。
「正気か!? 旧代の護督と言えど、誰が従うものか!」
「このまま何もしなければ、全てを失うことになる!」
対立する両者が声を張り上げ、自分達の正当性と相手の不当性を振りかざす。
――過去に何度か見た光景だ。
意見の違いは集団を衝突させ、時間が長引けば長引くほど会話は討論では済まなくなっていく。
そうするとどうなるか。
「――――」
暴力や武力で訴えるようになるのだ。それを示すかのように、どちらの陣営も剣呑な雰囲気が増していた。
……武器を隠し持っているな。
護身用か、それともすぐそこで拾った石か何かなのか。とにかくこの場が次のフェーズへ移り始めていたのは確かだった。
「……怪我人や死人が出る前に英雄を止めなくては。その為にも――」
絶対の決意を口にして現場へ踏み入れば当然、周囲からの反応がある。
「! 貴様、何者だ!?」
「此処を通らせてもらうぞ」
それに対し、己はユーベルコードの発動をもって答えた。
●
旧代派の学生はそれを見た。
校庭へ侵入してきた見知らぬ男を問い詰めたところ、相手はこちらの前で、
「剣……!?」
数十、否、百を超える数の剣を、一瞬にして生み出したのだ。
すわ攻撃かと身構えたが、宙に浮かぶ百の赤剣はこちらに振るわれず、威圧的でもない。ただ、ある形を作っていくだけだ。
規則的に配置されたそれは、まるで階段や通路のようだった。整然と並んだ剣で出来上がった足場の行く先は、
「頭の――」
上。見上げれば、そこを男が駆け抜けていくのが見えた。
「!」
速い。見上げた首の動きが間に合わず、視線に引っ張られるように身体ごと振り返る。
男は剣を踏んで跳躍し、また次の剣へ。一歩が優に十メートルは超える走りは、あっという間に校舎の方へ向かっていく。
「け、警戒しろ! 新手だ!」
そんな叫びを挙げたのは、しかし己だけではなかった。
「な……!?」
飛び込んできた影は、一人ではないのだ。
●
「何で暴動が起こってるんですかね!」
校庭を走りながら放った疑問は、前方からの怒号と騒音に対するものだった。
「あっ!? 貴方達誰ですか? すぐに取り押さえて下さい!」
「おい、あいつを止めろ! 校舎の方へ向かうつもりだ!」
半狂乱になった学生達はこちらの存在に気付くと、、一気に近づいてきた。騒々しい気配はさらに強くなったが、側にいる者達にとっては関係ない。
れんと錬だ。
「うっぷんがたまってたのかな……?」
そういう部分もあるにはある気もするが、決定的な引き金となったのは
「裏に行ったアイツのせいだろ……。急いだ方が良さそうだ」
「ですね」
と錬に同意し、袖口から取り出したのはグレネードだ。
既にピンは抜かれている。
「!」
走る姿勢を揺らさず、一投。迫り来る学生の目の前で、グレネードがその中身を噴出させた。広がっていくのは火炎でも衝撃波でもない。
白。その色が爆発的に広がっていく。
「煙幕!? うっ……!」
咳き込む音を聞きながら、手指で素早く印を切る。
「結界展開……。ワンコーラスで決めます」
切った。己を中心として結界が生まれ、その中にいる自分達三人は結界の恩恵を受ける。
『みゅーじっくすたーと』
今、れんの声が大気を揺らしたのが“それ”だ。スピーカーとしての役割を持った結界によって、声量が増幅されている。指向性も与えられており、前方の煙幕へ向けられている。
相手に届ける準備が整ったのならば、後は何を放つかだけだった。
「――――」
深く吸った息が、口から音となって外に出た。音階と旋律を持った声を歌声という。
「ア」
歌う。
●
増幅された声は校庭に広がり、初夏の空気に混じる。
まずは煙幕中の前列へ。やがて、全体にも伝播した。
音階の上下差は穏やかで、テンポも緩やかに流れる。
周期的なリズムが、聞く者の心を柔らかく包むのだ。
それはまるで布に包まれ、籠に囲まれ、揺れる心地。
揺籃。まるでそこにいるかのように、人は歌を聞く。
鼓膜を揺らされ、心が揺らされ、視界も揺れていく。
揺れて、微睡み、眠れよ、眠れ。ああ、愛しき子よ。
●
学生達が徐々に沈静化されていく気配を遠くに感じながら、クゥは歩みを進めていた。
「当代派、旧代派……?」
校庭へ侵入した時に聞こえた言葉を思い返してみたが、心当たりが無い。
『大方、復活した英雄に合わせて二つの派閥が出来たんだろう。他国の政治にはあまり関わりたくはないね』
自分は世界を渡る猟兵でもあるが、この世界の出身でもある。他国の政治的な判断や趨勢に関与するつもりは無かった。
そして実際、それはある意味では果たされそうだった。
「!? な――」
己が歩くのは中央を二分する境界線上だった。当代派も旧代派も、こちらの姿を見ると、信じられないものを見たような表情で後退りをする。
「二機目……!?」
キャバリア、アインベルに登場しているのだ。
暴動の最中、自分の周囲だけが時が止まったようだった。そんな彼らの中央にいる人物に、自分は用があった。
「……負傷はない? 機体からの脱出の手伝いは必要?」
『……問題ありません。自動修復機能がありますので』
尋ねた相手は、一拍の間を置いてこちらに答えた。片膝を着いた赤いキャバリアは、この場における重要人物だった。
『貴方が樫学府の護督ですね?』
『ええ。貴女方は?』
損傷し、満足に動けないキャバリアに乗った当代の護督の受け答えは丁寧だが、こちらに対して警戒の念を緩めていないことは明白だった。
『キャバリアを持ち込み、領内に侵入したことは、どうかご容赦願います』
『この地の原則を知った上での行いですか。……今日はそんな方が多い』
護督は憮然とした息を吐き、言う。
『貴女方は一体……?』
「私達は、猟兵。旧代護督が乗るキャバリア、オブリビオンマシンを止めるためにやって来た」
端的に必要なことだけを伝えると、護督だけでなく周囲の学生達からも息を呑む気配があった。
「猟兵……ええ、無論聞いたことがあります。貴方達の行動目的も。
旧代の“赤ヘル”は、やはりオブリビオンマシンでしたか……」
オブリビオンマシン、その言葉を聞いた者達の反応は様々だ。驚愕する者もいたが、納得という気配もあった。眼の前の護督もその一人だ。
「教えて。旧代護督は何を求めているの?」
●
「……三発目の殲禍炎剣砲撃だと?」
暴動の頭上を疾走しながら、リーベは当代護督の声を聞いていた。
『旧代は……この地に砲撃を誘導し、樫の者を全て殺すつもりなのです』
否、と否定が挟まれた。
『樫の全てを、滅さんとするつもりです』
「…………」
ユーベルコード、“swordparty”。生み出した赤剣で作られた空中回廊を駆けながら、校舎の裏へ視線を向ける。
『校舎の裏には樫学府のプラントがあります。そこで飛翔体を製造するつもりなのでしょう』
砲撃を誘導できればいいのだ。速度や高度に関するプルーフさえ取れていれば、飛翔体の造りは適当で構わないだろうと、技術的な推測を立てる。
残された時間は少ない。だからこそ、
「学生達は焦り、衝突したか」
「ぐっ……!?」
抜き打ち一発。眼下で暴行を働こうとした学生目掛けて、弾丸を放った。
拳に嵌めたデバイス、“ガン&ソード”を拳銃形態とし、装填されていた粘着弾を撃ち込んだのだ。狂い無く命中した弾丸は学生を打撃し、手に持っていた武器もろとも地面にへばりつかせる。
「つまり……」
焦る学生はまだいる。適宜弾丸を撃ち込みながら、走る足は緩めない。
「この騒ぎ、一方は砲撃を拒絶する者達だろう」
ならばもう一方は、
「砲撃を容認する者達か」
●
「砲撃を容認、って……!」
揺籃歌を歌い終わった蓮は、暴動の経緯に驚愕していた。
「つまり心中に同意して、学友を付き合わせようとしてんのか。……正気か?」
「がくゆうどころか……、ちいきにすむひとぜんぶ? どーりできあいはいってるわけだ……」
錬とれん、実体化している二人には、歌による催眠を乗り越えた学生を止めてもらっているところだ。先程放ったユーベルコードの厳密な効果は敵、すなわちオブリビオンが対象であり、学生には適用されない。
それはつまり、本来であれば生じる筈のダメージや麻痺が発生しないということだ。
……ですが、歌声を聞いた事による催眠の状態異常は発生します。
揺籃歌の狙いはそれだ。学生達を落ち着つかせ、少し眠ってもらう。そのために指向性も与えた。
しかし、そんな催眠を乗り越える者達が先程から何人かいる。穏やかな眠りに抗うほどの強い思いは並大抵ではない。
「樫の全てを、旧代がその身に背負って下さるのだ!」
「樫の者は仁義を大事にする。……過去、全てを投げ売ってくれた彼女に、私達は今こそ仁義を果たすべきだ。それを止めるというのか?」
立ち向かってくる学生達へ二人が当身と符を叩き込む。その快音が響く中、海岸線で抱いた思いを強くする。
「うん、とめるよ……」
れんの声を聞きながら、強く握るのは手にずっと持っているあの刀だ。
「あのひとはかくごのない……、おじけづいたひとを、むりにぎせいにすることはないひとだったんだもの」
●
「……旧代派は、革命を求めている?」
当代護督からの説明を得て、クゥはそう呟いた。
『確かに彼らが求めているものは、大きな変化と言えるだろうね。領民も領土も失わせて、旧代護督一人が担うわけだから』
すると、旧代派の中から前に出るものがいた。
「……旧代の中には、我々が失った者達がいる。彼女の力となって共に戦えるだけでなく、愛した者達と再び会えるのだ」
旧代の力となる。その言葉が意味する結末はもはや誰にとっても明らかだった。
『正しく、“命を革める”わけだ』
旧代派の言葉を聞き、ジョン・ドゥがそう感想した。
だけど……。
疑問点はまだ残っている。ジョン・ドゥがそれを察知したように、内部通信で音声を送ってくる。
『何故、旧代はそんな暴挙に出たか』
「うん……」
学生達の生命力を担い、最強の存在として君臨し、樫を存続する。学生達に知らせた表向きの理由はそれだろう。
だが、この地を守るために身を挺した英雄が、果たしてオブリビオンマシンによって、どのように思想を歪められ、今も抱いているのか。
『旧代護督は礎となった兵達のことを忘れ、理想を並べて戦う力さえも放棄した今の樫学府を許せなかったのかも知れないね』
「…………」
思い返すのは先程の海岸線だ。整備もされず、人気も無い。戦争遺跡として当時のまま残すためだとすれば、一応の納得は得られるが、
『……我々の不徳の為すところです』
当代の沈痛な声から、そうではないようだった。
「オブリビオンは、失われた過去……」
段々と忘れられ、過去となったキャバリアはオブリビオンマシンとなったのだろう。そして、己の主を操っている。
そんな相手が今、目と鼻の先にいる。
「……行こう」
「!」
アインベルの身体を校舎へ向き直せば、キャバリアの動きに弾かれるように周囲の学生達が距離を取る。
「天翼、機動」
そんな彼らの反応は、自分にとって都合が良かった。声と共に起動したのはアインベルに装着された翼だ。
天翼。そこから生まれる光の粒子が翼を形作り、一際その輝きを強くさせると、
「――!」
次の瞬間。アインベルが浮遊した。学生達が作る大波の上を跳躍し、一気に飛び越えていく。
校舎への道を遮るものは、もはや何も無かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『アマランサス・ラピート』
|
POW : BSロングビームライフル
【一瞬の隙も見逃さない正確な狙いの銃口】を向けた対象に、【高出力高収束のロングビームライフル】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : BXビームソード
【スラスターを全開に吹かすこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【高速機動で間合いを詰めてビームソード】で攻撃する。
WIZ : RS-Sマイクロミサイルポッド
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【肩部マイクロミサイルポッド】から【正確にロックオンされたマイクロミサイル】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ルイン・トゥーガン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
樫学府校舎裏、そこに広い空間がある。舗装された土地の中央に存在する構造物は、この空間が作られた目的だった。
プラントだ。この世界の生命線とも言える巨大機械をサポートをするため、周囲には運搬や輸送のための設備が豊富に備えられている。
様々な資源を生産する機械は今、入力された命令をシステムが受諾し、それを為すために稼働している真っ最中だった。
「ここも、変わっとらんの」
そんなプラントの前で、旧代護督は製造の完成を待っていた。コンソールを見れば、完成予定時刻まではまだある。
砲撃を誘発できればそれでいいのだ。燃料とケーシング、その程度を組み合わせて空に打ち上げれば十分だろう。速度を優先して発注したが、この時間だけはどうしようもない。
「…………」
暇。それを自覚した瞬間、
「あ――」
“赤ヘル”が、映像を寄越した。
過去の記録映像だ。
●
場所はやはり、あの海岸線だ。
『飛行船の撃墜を確認!』
しかし、己の視界ではない。あの場にいた己の部下、護督付の誰かの視界だった。人機の全てを提供してくれた彼らの記録が、己の中にはある。
“赤ヘル”の視覚素子からの視界と、パイロットが処理する情報が合わさった記録映像は、凄惨の一言だった。地上も海上も破壊と火炎が埋め尽くし、空には巨大な飛行船が煙を吹いて墜落する様子が見える。
『!? 飛行船の中から……』
火で照らされた赤い世界の中、飛行船の黒煙を突き破って何かが見えた。大鳥を模したようなその機体は、船体の裂け目から身を乗り出し、墜ちる船から飛び降りる。
『警戒しろ、突っ込んで――』
来るぞ、という誰かの声は続かなかった。それは誤った予測であり、大鳥は飛び込んでこなかったからだ。
大鳥は地上を無視し、鼻先を空へ向けていた。翼基部の加速器に光が溜まっていっている。
『――――』
それを見た瞬間、場の空気が固まったような雰囲気を得た。何をするつもりなのか。誰もが最悪の状況を想像し固まる中、一機だけが反射的に射撃を放った。
『!』
撃墜。加速器に溜まったエネルギーの分だけ空に光の華が咲いた。華が散っていくのを全員が見上げ、最悪の事態が引き起こされなかった事に気付くと、やがて固まった空気が解かれていった。
『ああ……』
呻き声にも似た安堵の声が通信に乗り、誰もが息を吐いた。
●
直後。二機目の大鳥が空に飛び上がった。
●
『!!』
見る。船体をぶち破るように飛び出したその姿は、最初からトップスピードだった。囮が撃墜される間に飛行船内部で溜めたエネルギーをぶち撒け、一気に天上へと昇っていく。
不意を突かれた一発に誰も反応ができなかったが、硬直を破ったのはパイロットの視界に流したメッセージだった。
《広葉地方護督より広葉地方護督付へ》
《封印システム“守海地”の起動。全員は機体との合一を開始せよ》
直後。通信から痛苦の叫びが聞こえた。素早く反応した者達が傷ついた機体と身体を合一させたのだ。
遥か彼方の上空で、光が生まれたのが見えた。
《合一確認。全駆動力・全生命力を転送》
部位欠損のフィードバックを厭わず、完全に人機一体となった者達の肉体はもはや存在しない。コックピットから生じた光は大地へと流れ、海を通り、陣形中央の“赤ヘル”へ合流していく。
上空、大鳥が鋭い光に撃ち砕かれて爆散するのも束の間、黒煙も破片もすぐに光で蹴散らされた。
《負荷上昇。転送にエラーを確認。転送中断、一。“守海地”起動を優先》
駆動力を護督である自分に提供したことによって、機体の出力が一気に減衰、映像にノイズが混じり始める。
荒れて乱れる視界の中、緩まぬ光は大気を焼きながら一直線に落下し、
《条件の完遂。“守海地”を起動》
閃光。
●
「……来たか」
猟兵達を出迎えたのは、プラントの前で振り返ったアマランサス・ラピートだった。
「そっちが何者かはワシも知っとる。海岸線からずっと追ってきちょうじゃろ」
右腕のライフルを持ち上げ、左腕のシールド先端からブレードを一度、放出。
「この砲撃で誰もが全て失って、そして誰もが全てを得る。止めれるもんなら止めたらええ。
あの日からワシは樫を喰らい続けた。あの海岸線にいた護督付達も、今までここを守って散った護督も、全部ワシの糧となっちょる。
――残りも食らえば、樫は永遠じゃ」
肩部、そこにあるミサイルポッドが開いた。
「――往生せいや」
リーベ・ヴァンパイア
……俺にはそれが貴女の本心か、それともオブリビオンマシンの影響によるものか、分からない
だが、どちらにせよ、貴女を止めさせて貰う
この地を、貴女達が守ったものを貴女に壊さす訳にはいかない
作戦
敵がキャバリア、乗っているのは歴戦の英雄。生身ではキツいが、こういった敵と戦うのは初めてではない
【ダッシュ】で相手の照準が定まらないようにしながら、【ガン&ブレード】で奴に向けて攻撃する
だが、あくまで奴に向けて撃つだけ、狙いは特に定めない。下手に止まれば、一撃でやられるだろうからな
彼女の腕とライフルの威力を確認したら……仕掛ける
【戦闘知識+カウンター+早業】で奴が撃つよりも速く【Blood shock!】を放つ
●
旧代の言葉を聞き、リーベは武器を構えた。
「……俺にはそれが貴女の本心か、それともオブリビオンマシンの影響によるものか、分からない」
その言葉を聞き、ハ、と旧代が笑う。
『それはワシにも分からんの。こいつが狂ったからワシが狂ったんか、それとも逆かなんて……なっ!』
瞬間。浅く構えられていたライフルが抜き打ち気味に放たれた。
が、しかしその結果は地面を削っただけだった。
「――どちらにせよ、貴女を止めさせて貰う」
己はすでにそこにはいない。弾くように身を飛ばし、今はオブリビオンマシンの右手側に回っている。
『チッ……』
「この地を、貴女達が守ったものを貴女に壊させる訳にはいかない」
こちらを追うようにライフルと機体が振られていく。弧を描く逃走劇は、追いつかれたら終わりだ。
敵はキャバリア、乗っているのは歴戦の英雄……。
一方こちらは生身だ。多くの部分で差があってキツいが、こういった敵と戦うのは初めてではない。
素早い動きで照準から逃れ、砲火にさらされるのを避ける。これは基本として戦術を組み立てていく。
前方、運搬機械や輸送車両が見えた。その影に飛び込むことで射線を切ったが、
『諸共砕いたるわ!』
言葉通り、敵は構わず二発目を撃ってきた。砲撃を受けた機械や車両が赤熱したかと思えば、すぐに熱でフレームが溶断され、貫通。背後にある大地を削り飛ばすと同時。燃料引火によって爆発が引き起こされていく。
炎と煙はこちらの姿を隠すのに丁度良かった。煙の中、腕の振りだけでデバイスを励起させると、
『チッ……! たいぎいの!』
黒煙から飛び出して銃撃を放った。“ガン&ブレード"からの弾丸が、アマランサス・ラピートへ連続着弾していく。視覚素子や照準に影響を受けた結果、相手がカウンターとして放った砲撃は甘い狙いとなり、
「!」
離れた位置にある別の輸送機械を爆破。その爆風の勢いに乗って疾走を再開しながら、思う。
この威力、やはり足を止めたら、一撃でやられるだろうな……。
“ガン&ブレード"の射撃が有効な手段だということは解ったが、しかし拘るつもりは無かった。さらに有効打を与えるには、速度を落として狙いを正確にする必要があるが、敵の火力が健在な今、それはあまりに危険だった。
なので狙いは厳密には定めずあくまで牽制程度に留め、逃げ続けることを主軸としていく。
だが、
「もう十分か……」
三発も撃たれれば己の目も肥えてくる。砲撃のタイミング、予兆、被害範囲、そして砲手の癖にいたるまで、十分なほど味わった。
「!」
再開した疾走は、弧を描くように逃げていた今までとは違うルートを取った。それは、
『正面……!?』
●
旧代護督はそれを見た。今まで逃げ続けていた猟兵が、こちらに進路を変更したのだ。
無論、対応する。自動でフォーカスする管制装置は、黒煙から飛び出した相手をロックする。その手には先程と同じく銃を、
「――――」
持っていなかった。先程受けた銃撃は間違いなく何らかの射撃兵装によるものだったが、今その手にあるものは、否、手から伸びているものは、
「血の、鎖!?」
鎖は、その先に刺の付いた球体を有しており、その姿はまるで血で作られたフレイルのようだった。
どう見ても接近戦仕様。己は、すぐさま迎撃する必要があった。
こちらの不意を付いたとはいえ、相手は正面に躍り出たのだ。慌てず正確な動作で照準を合わせようとするが、
「――――」
合わない。猟兵は、まるでこちらの動作を完全に読み取っているように、自分の位置を素早く変えていく。
激しいステップにも似たその走りは一歩、また一歩とこちらへの距離を詰め、フレイルも等しく速度が乗っていく。もう、彼我の距離は目前だった。
「な……!?」
腰撃ちで構えたライフルの上を飛び越すように、猟兵が大きく跳躍。それを追うように、血の鉄球とも言うべき球体が、頭上で最高点に達した。
「俺の血は――重いぞ?」
刹那。それが一気に振り下ろされた。
●
『ぐ、ぁ……!!』
フレイルを振り下ろしたリーベは、その結果を着地した地上で見た。
速度と重量が乗った激しい一撃はオブリビオンマシンの装甲を砕くだけに留まらず、機体と己が立つ路面にすら亀裂を走らせた。
『グ……!』
ノイズにまみれた呻き声が、加速器任せの強引な加速で遠ざかっていった。そのふらつくような歪んだ軌道から、先程の一撃が機体内部にも通じていることは明白だった。
恐らくコックピットでは全てをひっくり返したような衝撃の中、警報類が一気に警報を挙げていることだろう。
「――俺は、貴女を止める」
最初に告げた言葉をもう一度繰り返し、己は再び武器を構えた。
大成功
🔵🔵🔵
レン・ランフォード
護督の護の字が泣いていますよ
止めてあげます…この刀を持っていた人の代わりに
今誤っている貴方を!
大典太召喚
大典太は私と同じ装備をもつ…この刀の巨大版も持っています
さぁ行きましょう、アナタも
事前の情報収集に第六感も用いて回避しつつ踏み込んで接近戦を行いますが
私自身を直接狙われないように突撃と同時に煙幕弾を撒き
更に突入前こっそり持ち込んでいた大典太二式に乗り込んだ錬が
ジャミングを発動し肉と機、二重に目潰し
からの不意打ち
操縦は本職には一歩劣るんでねコンビネーションで行かせてもらうぜ
れんは煙に紛れてハッキング等で飛翔体の停止・破壊工作に回ってもらいます
必ず助けましょう
●
「護督の護の字が泣いてますよ」
己に関する言葉が聞こえ、旧代はそちらへ振り向いた。
「何じゃ――」
そこに立っていたのは女の猟兵だ。その手に握られているものを見て、己は一瞬言葉を失った。
「それは……」
「止めてあげます。……この刀を持っていた人の代わりに」
赤い鞘に納められた刀だった。
鞘に書かれた文字は滲んでいるが、読める。読めずとも、知っている。錆の赤も浮かんでいるが、元の赤色だって自分は知っていた。
その刀が潮風を浴びる場にあったことも、どれだけの年月を過ごしたかも、全て知っていた。
それが何故、ここにあるのか。
「……お前らが何を知って、何を解った気になっとるかなんて、それこそワシが知るよしもない。
じゃが……」
「……!」
猟兵が身振り一つでユーベルコードを発したのを認めながら、言葉を続ける。
一瞬の内に女の背後で大きな影が立っていた。キャバリアより大きなその高さは、八メートル足らず。武者に似た姿だった。
「…………」
その機体が女と同じ構えをしていることから、使用者を搭乗させるのではなく動作をトレースするタイプだろうと推測できたが、すぐに“それ以上”だと解った。
武者の手にも、赤の刀があったからだ。
●
“帝立衛兵隊・広葉地方護督付”。
持ち主の姓も名も、憶えている。
●
旧代護督は操縦室の中で頷いた。
ああ、と。
「――ワシはもう全てを知っとる」
戦闘態勢。
●
大典太を背後に召喚した蓮は、反射的に横へ跳んだ。
「!」
次の瞬間にはアマランサス・ラピートの砲口から飛沫くような音が生まれ、先程まで自分が、否、自分達が立っていた場所を光柱が貫いていった。
大気を焼く焦熱音を横に聞きながら、己と大典太は数メートルと十数メートルの跳躍を果たす。
事前の情報収集通りですね……。
第六感に従って跳んだからこそ、相手のライフルが正確無比なことを実感する。
「――――」
宙にいる最中、赤鞘から抜刀。八十年の時を経てもなお輝く刃が、砲撃の光を反射した。鞘を背に背負い、地面へ着地。
しかしそのまま固まることなく、連続した動きで足を前に運ぶと一気に距離を詰めていった。
人機一体、両者の動きに乱れは無い。この様な操縦方法は、歩幅の違いから足元にいる操縦者を踏み潰す恐れもあるが、大典太の感覚素子は自分を認識しているし、何より己はこの操縦を熟知している。
今も、敵機であるアマランサス・ラピートは自分にとってまだ前方にいるが、
「そこ!」
気にせず、上段から刀を斜め下ろしに打ち込んだ。当然、己の刀は空を切るが、大典太は違う。
『チッ……!』
オブリビオンマシンへ十分に届く軌道で、巨大化した刀が袈裟に斬らんと迫っていくのだ。それをバックステップで何とか回避した敵は、さらに距離を取るため牽制射撃を放とうと砲口をこちらへ向けたが、
「――!」
自分達の方が速い。刀を振り切った勢いのまま一回転、片手で取り出した発煙弾をバックハンドで放り投げる。
人機で大小二つの発煙弾が炸裂した。白煙に包まれる範囲は、先程の校庭とは比べ物にならない。
数センチ前も判然としない中、音が聞こえた。
『!』
大典太ではなくオブリビオンマシンからだ。引き絞るような高い駆動音は、
加速器で吹き飛ばすつもりですね……!
周囲大気に圧力をぶちまけることで煙幕を消し去り、奇襲を狙うこちらからも離脱が出来る。一石二鳥の策だと、そう判断できた。
「ですが無駄です!」
『な……!?』
護督の驚愕の声が聞こえた次の瞬間。アマランサス・ラピートへ煙幕越しに巨大な影が落ちた。
『もらったぜ……!』
煙幕を突き破って大典太とは別の機体が、キャバリアが敵の頭上から奇襲を成功させたのだ。
『グッ……! 新手か!?』
『よう、ジャミングは効いたか?』
錬だ。キャバリアである大典太二式に乗り込んだ彼女は、敵が加速器を作動させる直前にジャミングで妨害を行ったのだ。
離脱する際に必ず確認するレーダーが突如無効化されたのならば、必ずそこに隙が生まれ、そこを突いた。今の音からして短刀か苦無か、敵の装甲を断ったのは間違いなかった。
『操縦は本職には一歩劣るんでね。コンビネーションで行かせてもらうぜ』
煙幕とジャミング、肉と機による二種の目潰しは効果的に敵を阻害した。そして、こちらの手はそれだけではない。
『――プラントが……!?』
戦場に響いていた音の内の一つ、プラントの稼働音が徐々に低下していた。
「仲間が辿り着いたようですね。――貴方の計画は必ず止めます」
●
『そがなことが……。プラントのプロテクトはこの世界じゃ有数の――』
煙幕に紛れてプラントに接近したれんは、そーじゃのー、と呟きを訛らせながら、プラントのコンソール前で目まぐるしく変わる画面を見ていた。
「…………」
その手に持っているのはスマホだ。UDC組織の支部に忘れた結果、その中身は見た目からは想像がつかないほど高機能化していた。
「えらいこっちゃ……」
今、学校規模とはいえ小国家の基幹システムをハッキングしている真っ最中だった。
●
プラントの方から何かを破壊するような、激しい音が蓮の耳に聞こえた。
どうやら飛翔体の部品も破壊したようだな……。
れんがハッキングと併せて破壊工作を完了した音だった。これで飛翔体の組み立ては不可能となった。
『クソ! まだじゃ……、まだワシは諦めんぞ!』
今、自分達は戦闘のまっただ中だ。様々な妨害を受けて確実に追い込まれている護督が、煙幕の霧中にも関わらず攻め手を緩めていない。
砲撃や斬撃、激しい攻撃の嵐の中を掻い潜りながら、自分と蓮は距離を詰めていく。コンビネーションを決める二機の大典太は、その大きさ以外にも決定的に異なる部分がある。
「行くぞ」
「ええ」
刀だ。それを構えたもう一人の自分が、確かな声を返してくる。
「――必ず助けましょう」
大成功
🔵🔵🔵
クゥ・クラウ
アインベルに搭乗
仲間を失い、街が焼かれ、国が分断し争い会う光景。この人はたったひとりで見続けてきた
……きっと、さみしかったんだと思う
「こんなことをしても、大切なものは帰ってこないよ」
『強敵だけど勝機は必ずある。作戦を提案するよ』
AIのジョン・ドゥが告げる。
思考を加速(瞬間思考力5)
プラントに張り付くように立ち回れば不用意には撃てない、はず。
ダメージは光の粒子の盾を展開して軽減。(オーラ防御3)
相手が得意とする突撃戦法を誘い、それに乗ってきたならば、
UC【光成武装】攻撃力重視。光の長大な剣を形成しながらアインベルの腕を前に突き出す(カウンター3)
1章の調査で判明していたなら、彼女の事は名前で呼ぶ
●
校舎裏へ向かったクゥは、あの海岸線で見た記録や他の猟兵が手に入れた手がかりについて考えていた。護督は、強力な術式の結果として生き長らえていたという。しかも意識を保った状態でだ。
仲間を失い、街が焼かれ、国が分断し争い会う光景……。
『――キャバリアか』
前方にいる相手は、それをたったひとりで見続けてきた。今、こちらに振り返るあの赤い機体の中で。
八十年。まともな精神状態ではないことは想像に難くない。
守った街を自らの手で砕き、自分の一部とする。そんな狂気の計画を練り上げた彼女の原動力、心に深く根ざした根源とも言える感情は、
……きっと、さみしかったんだと思う。
言う。
「こんなことをしても、大切なものは帰ってこないよ」
すると、スピーカー越しに鼻で笑う音が来た。
『ほうじゃの。じゃが、これ以上失わんことは出来る』
瞬間だった。
アマランサス・ラピートの肩部のミサイルポッドから、大量のミサイルが一斉に発射された。
白煙を吹く高速の飛来物は個々は点だが、密集し、面としてこちらへ迫りくる。
「!」
瞬間的に天翼を発動し、回避機動を取った。警戒アラートが鳴るコックピットの中、ジョン・ドゥの声が聞こえた。
『強敵だけど勝機は必ずある。作戦を提案するよ』
直後。世界は一変した。
●
放ったミサイルがことごとく回避され、いたずらに爆炎を咲かせるのみとなったのを旧代は見た。
「……!?」
戦闘において、多量のミサイルを前にしても戸惑わない者もいる。白い機体に乗った猟兵もそうだった。冷静に加速による回避を選択し、
あれは……?
そこからの動きに違和感があった。猟兵は加速だけに頼るのではなく、最小限の動きで弾幕を回避したように見えた。
「っ、逃がすか!」
白い装甲のキャバリアは今、こちらの横を抜けてプラントの外周ラインに居た。その狙いは明白だった。飛翔体製造を担うプラントは計画の要であり、それを盾に立ち回るつもりなのだ。
阻止しなければならなかった。なのでライフルを向け、管制装置が相手をロックしたと同時に引き金を引く。
引いた。
だが、
「――――」
その瞬間。またあの違和感が己を襲った。
●
アインベルの背中を狙った一発を防ぐため、クゥは機体に命令を与えた。
狙われている背部には天翼がある。既に加速のために生まれているものと同じ粒子が、さらにそこから生まれて後方の空間へ集まっていく。
粒子は光の盾となり、砲撃を阻む構えを取った。
光と光が、衝突する。
『防御成功だ』
結果を知らせるジョン・ドゥの声を聞きながら、機体の加速はそのままにしておく。プラントの外周を回ることで、己と敵の間にプラントを置き続けるのだ。飛翔体を製造しなければならない敵は攻め手を制限せざるを得ない。
「…………」
背後から連続して放たれた第二射、第三射もやはり同様だった。慎重な射撃を、どちらも防ぐ。安定した守りに揺らぎは無い。
だが、四射目は違った。
『今度はミサイルが来ている』
端的に伝えてきた彼の言葉通り、ライフルの砲撃ではなくミサイルが背後から迫っていた。
最初に放ってきたときより数は少ないが、その分制御は正確だ。プラント外壁すれすれを飛行し、こちらの隙を伺うように睨めつけていたかと思えば、一気に距離を詰めてきた。
「!」
十を超える爆発が、己の背部だけでなく肩や脚部といった場所でも連続する。砲撃よりも細かな狙いが、ピンポイントでこちらの部位を狙ってきているのだ。複数ヶ所の同時攻撃は、こちらの防御範囲や反応速度を知るためだろう。
だが、
「防いだよ」
“今”の己にとっては、そのような処理は造作もないことだった。
ミサイルが衝突する直前に、天翼からの粒子で十分なシールドを機体の各部位に生み、防御に成功している。
爆破の黒煙は、すぐに風で流されていった。晴れた煙の下、機体の何処にも損傷が無いことを確かめていく。
その時だった。
『――――』
ジョン・ドゥから、一拍を感じさせる“間”を感じた。人間くさいAIである彼にとってそのような芸当は常だが、こういった戦闘状態においては別の場合がある。
『前だ』
戦場から読み取った情報を処理し、演算するための思考時間の後、彼は最低限の言葉で注意を促した。
続いてアラートや警告が表示される中、急いで確認するのは敵と己の位置関係だ。それは単純故、すぐに理解できた。
「――回り込んできている」
敵が、プラントを逆回りしてきたのだ。
『……!!』
前方、弧を描くプラント外壁の向こう側から赤の機体が飛び出してきた。
●
猟兵の前へ飛び出した旧代は、一つの確信を得ていた。
やはりの……!
今、そして最後に放ったミサイル攻撃の際も、自分は猟兵に対して完全に不意を突いたと思っていた。
だが、白の機体の動きに慌てや怯え、戸惑いは無かった。今も無い。まるで、攻撃を“予測していた”かのようなそんな動きは、
「――感覚を強化しとるな!」
五感の鋭敏化、否、思考能力の強化だろう。猟兵はそれを行っている。知覚した情報を処理する速度を強化すれば、様々な出来事に対して十分に思考を巡らせることが出来る。
実際、こちらが攻撃を放つ度に、白の機体の対応は全くの無駄が無かった。普段であれば一瞬で判断しなければならない状況の中、加速した思考によってフェイントやブラフにも引っかからない相手だった。
そんな相手に、ならばどうするか。
己の出した答えは、可能な限り不意を突き、思考の上から高火力を叩き込むというものだ。自分達が得意だった突撃戦法だった。
「……!」
だからそうした。左腕のシールド部から放出したビームソードを、光の障壁の上から一気に振り下ろした。
速度の乗った、重く鋭い一発だった。
しかし、それは届かなかった。
「な……!?」
届いたのは、自分ではなく猟兵の武装だった。
白の機体が突き出してきた光剣が、“赤ヘル”の上半身を貫いている。
●
「収束、形成……、成功」
『ユーベルコード“光成武装”、命中だね』
クゥは己の選択の結果を見た。
今まで防御に回していた光の粒子を前面に集め、長大な光剣として再形成したのだ。
相手が回り込んできていることを知覚した時から、敵の狙いについては見当がついていたし、事前に調べていた情報の事もあった。加速した思考で導き出した答えが今、目の前にある。
『グ、ッ……!』
突撃戦法によるカウンター、その一撃が完全に決まり、アマランサス・ラピートの上半身に突き刺さっている。
「コックピットは外してるはず。……聞こえる?」
そして、調べて得た情報は戦法だけではない。
「聞こえる? ――厳島・洋果」
『っ……』
息を呑む気配が聞こえた。この小国家の英雄だ。調べはつくし、本人も自分の名の通りは自覚しているだろう。
名を呼ばれても、通常であればこのような強い反応をしない。
しかし、今は違う。
『ワシ、は、厳島は……。皆は……』
オブリビオンマシンの支配下から、彼女の意思が逃れようとしているのだった。
大成功
🔵🔵🔵
キャロル・キャロライン
間に合ったみたいね
80年前――確かにそんな話を聞いた気もするわね
でも、この際そんなことはどうでもいいわ
ここには私の玄孫がいるのよ
あの子の今を、未来を奪わせたりしないわ
銃で牽制しつつ、突撃
敵の射撃は、最低限の大きさにして防御力を高めた盾で防御
さすがは正確な射撃。でも、それゆえに予想しやすい、って奴ね
接敵したなら、剣で攻撃
ライフル、ミサイルポッド、そしてスラスターの破壊を狙う
搭乗者すら知らない、どのような力がマシンに蓄えられているか分からない
殲禍炎剣を誘発する可能性は全て潰す
一度、そのマシンから降りてみることね
それとも、人肌に触れるのは怖い?
UC取得:操縦、誘導弾。見切り、オーラ防御、盾受け。切断
●
プラントを擁する校舎裏、その広い敷地に新たな姿が現れた。
『――間に合ったみたいね』
傾き始めた日が大地に伸ばす影は、手足のある人型。人としては大きいその影絵は体高五メートルの存在が描く影絵だった。
キャバリアだ。純白の機体から聞こえた声は、搭乗したキャロルからのものだ。
転移を済ませた直後だった。
●
キャロルは、事前に手に入れた情報を思い返していた。
「八十年前……。確かにそんな話を聞いた気もするわね」
この地で戦争があったという。キャバリア乗りとしての自分の記憶を振り返ってみれば、確かに思い当たる点もあるが、
「でも、この際そんなことはどうでもいいわ」
己に関係し、この場に転移した理由として今必要なのはそれではない。
「ここには私の玄孫がいるのよ。あの子の今を、未来を奪わせたりしないわ」
オブリビオンマシンはこの地に“殲禍炎剣”の砲撃を撃ち込み、全てを破壊するという。自分の子孫がいる、この地にだ。
『……玄孫? さっきからまるで、ワシと同じ年寄みたいな口ぶりじゃの。
レプリカントか?』
そう返してきた相手だったが、こちらのキャバリアを見れば訝しむような気配を露わにした。
『そのキャバリアは……』
「お互い、まだまだ現役でしょう」
しかし、それだけだった。
純白のキャバリア、スマッシャーに装備されたライフルを相手へと向ければ、向こうも応じた。
『……ワシは誰にも止められん』
互いの加速器と砲口に光が溜まり、
「!」
『!』
一気に、弾けた。
戦闘の始まりだった。
●
刻印によってキャバリア乗りとしての力を取り戻したキャロルは、今、その力を再び発揮していた。過去に保有していた能力を、刻印が全力で強化しているのだ。
オブリビオンマシンは距離を取るためにビームライフルの引き撃ちを、対するこちらは全盛期の操縦テクニックによって、それを追う追撃を、
否、
「はぁ……!」
突撃を敢行している。オーラを弾丸とする射撃は、弾道を自分の意志で操作できる強力な攻撃だ。弧を描く誘導弾によって牽制を行いながら、今は距離を詰めることに専念する。
当然、相手からは迎撃の砲撃が来るが、
「効かないわよ!」
銃とは別に装備されている盾で、その砲撃を受け流した。オーラで弾道を操作できるならば、やはりオーラで形成された盾はその大きさが可変だ。
『そんな大きさで、よう“中てる”の……!』
敵の砲撃は高出力で高収束。ならばこちらも高密度の盾でなければ防げない。オーラを限界まで圧縮し、範囲より防御力を確保したのだ。
「さすが、情報通り正確な射撃ね。でもだからこそ予想しやすいのよ」
相手に追いすがることも、正確無比な射撃も、そんなシチュエーションはキャバリア乗りとしての自分の過去を振り返れば、無いわけではなかった。経験で対処できる部分はある。
追いつかれることを警戒する相手は、焦りを持つ。なのでまず狙ってくるのは胴体だ。狙いやすく、コックピットや動力炉が高確率で有る。大穴やヘコみができれば空力が乱れるし、背部にある加速器まで貫通できれば最上。
それを今、防いだ。ならば相手が次に狙うのは、
「脚部」
『!』
防御に成功する。下に流すように払った盾が、砲撃を彼方へ弾き飛ばした。
追いすがる者は視野狭窄に陥りがちになる。不意を打てる足元はよく狙われることを己は知っていた。
そして、三度目を考える必要は無かった。
「行くわよ……!」
二度、防御したのだ。相手の射撃の癖や、何よりライフルの充填にかかる時間も予測が付いた。
数秒の間の内に己は一気に距離を詰めるし、相手もそれを理解しているので三度目の射撃など考えない。相手が取るであろう行動は、
シールドを前に構えた防御姿勢……!
だが、こちらのほうが速い。一気に距離を詰めた己は、盾から直剣へと変化したオーラの刃をシールドの向こうへ掻い潜らせ、突き込んだ。
『チッ!』
断たれたライフルの砲身が、宙を舞った。残った銃床側を放り投げた敵は、こちらへシールドを押し付けるようにして距離を取ろうとする。シールドバッシュだ。
スマッシャーの視覚素子が寄越す視界の中、赤い盾が壁のように迫ってきた。突撃するこちらに対し、押し込まれる盾との衝突は相対速度で一瞬だ。
「――スマッシャー!」
本来であれば慣性に従って衝突するはずだったが、しかし己が名を呼ぶ機体は違う。
スマッシャー、己の愛機は慣性力や重力を制御出来る機体だからだ。
『――はぁ!?』
盾面に接触する直前、まるで側転するように機体を横へ跳ばした。
速度が乗ったキャバリアとしてはありえない動きであり、不意を突かれた相手は慌てて身体を向け直そうとするが、その頃にはもう伸縮自在の気刃が機体の各部を切り裂いている。
「ミサイルポッド……!
そして、
『チィッ!! ――グ、あっ……!』
スラスター。それらを、機体にマウントされている基部から切り飛ばした。
この一撃によって機体の速度とバランスを崩した敵は制御を失い、慣性に従うまま地面を転がっていく。
舗装された路面を削っていくオブリビオンマシンは、もはや以前の姿とは違う。ライフルもミサイルもスラスターも、切り落とされた全ては高速の飛翔体となりうる。プラントで製造している飛翔体とは別に警戒するべきだった。
『クソ、が――、ッ……!』
そして今、シールド下のビームソードも破壊した。満身創痍と言える状態でありながらも、近づいてきたこちらへ振るってきたが、赤盾の上からオーラの刃を突き刺したのだ。
……殲禍炎剣を誘発する可能性は全て潰した、と思うけど、
加速器が破壊され、各種武装も失っている。オブリビオンマシンはもはや完全に無力化したように見えたが、搭乗者すら知らない力が機体にはあるかもしれなかった。
残された対処方法としては、
……完全破壊ね。
だが、
『うっ……? ワシは……。ここは? 皆は……』
己はそれ以外の方法を選んだ。
「―一度、そのマシンから降りてみることね」
『あ……? お前は……』
コックピットに向けていた刃を剥がし、告げる。
「――それとも、人肌に触れるのは怖い?」
『ワシは……』
戦闘が、完全集結した瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵