ダストエリアの危機〜ヤクザの遊興施設に潜入せよ!
●サイバーザナドゥ・最下層
高層ビルが立ち並ぶ都市の地下――最下層に位置する広大な空間。
そこは都市の各所に設置されたダストシュートを通じて種々雑多な廃品が運ばれる、『ゴミ捨て場』だった。
山のように積み重なる廃品の山。それはほとんどがジャンク部品と鉄屑だったが、それを再利用できる技術を持つ者にとって、『宝の山』だった。
かくして『宝の山』の噂を聞きつけたリサイクル業者や技術者が続々と集まり、都市の最下層エリアには廃材を建材にしたバラックが次々に建設され、やがて「バラック街」の形を成す。
ダストエリア。現在、最下層の大空間はそう呼ばれ、メガコーポが支配する社会から逸脱したワケありの者たちが集まる無法地帯と化していた。
●ダストエリア・ヤドリギ街区
天井で鳴り響く低い唸り声。それは天井に蜂の巣のように設置された通気口のファンの音だった。
無数の通気口が見下ろす地上はダストエリアと呼ばれる「街」だった。
この街に散在する廃品の山。それを取り巻くように建つ、無数のバラック。
バラックの間を縫うように走る街路には肉体の一部を機械化した住民たちが行き交っている。
街路で隔てられたバラックは島のように寄り集まって「街区」を成しており、それぞれが植物の名前を冠していた。その一つ、エリアの南西の一角を占める『ヤドリギ街区』に、ヤクザが経営する繁華街があった。
繁華街の中央に鎮座しているのは、二十棟ほどのバラックの壁をぶち抜いて作られた大きな建物。入り口のゲートの上には「LivingDead」と記された派手なネオン看板が掲げられている。
そして、サイバーグラスをかけ、虎柄のジャケットを身に纏う小太りの男が現れる。
「今日も張り切っていきましょう! タイガー・モリタの裏社会チャンネル! 今日はなんとぉ! ダストエリアにあるヤクザの遊興施設『LivingDead』に来ています! ここではどんなキケンな遊戯が繰り広げられているのでしょうか? 楽しみですね〜。ではさっそく入場してみま……え?」
店の前でビデオドローンを使って撮影していたライブストリーマーのモリタは踵を返した直後、石化したように動かなくなる。背後にブラックスーツを着た強面の大男二人組が立っていたからだ。
「おい、コラ! なに無断で撮ってんだ! まさかネットで流してんじゃねぇだろうなぁ?」
「い、いや、違います! これはプライベート用です。観光の記念にと思って……」
モリタは言い訳しながら後ずさりするも、男の一人に首根っこを掴まれて沈黙する。
「おいコラ、てめぇ、ヤクザを舐めてんのかぁ?」
「バレバレの嘘つくんじゃねぇ! オラ、ヤキ入れてやっから、こっち来い!」
「ひぃ! お助けぉおおお!!」
大男二人に両脇から抱えられたモリタは、強引に店の中へと引きずられていくのだった。
●グリモアベース
「皆さん、サイバーザナドゥで事件です」
紡木原・慄(f32493)は招集に応じてくれた猟兵たちに依頼の概要を説明する。
サイバーザナドゥ。巨大企業群(メガコーポ)が垂れ流す有害物質『骸の海』に汚染されてもなお、生身の肉体を機械化義体(サイバーザナドゥ)に換装して生き延びる人々が住む世界である。
「事件発生は明日の正午。ヤドリギ街区に突如現れたオブリビオンは、この区域のヤクザたちを力と恐怖で支配するために無差別殺戮を行います。計画を阻止しなければ大量の犠牲者が出ることに……」
脳裏によぎる陰惨な光景。慄は一度言葉を切り、小さくため息をつく。
「……敵はラガラルド社所属のカンパニーマンを名乗っています。ラガラルド社は新興のメガコーポの一つですが、随分、戦略的に動いているようです。油断のならない相手ですね……」
ヤドリギ街区はヤクザが集まる繁華街。ダストエリアのヤクザを束ねる大親分も頻繁に訪れているという噂もある。ここで大暴れして力を誇示し、ヤクザ組織を屈従させれば一大勢力を築くことができる。そんな考えに基づき、立案された計画なのだろう。
おそらく敵はヤドリギ街区のヤクザたちに事前に接触して下調べをしているはずだと、慄は推察する。
「幸い、予知が早かったのでこちらが先手を打てます。カンパニーマンの潜伏場所を突き止めて速やかに襲撃すれば計画を阻止することも可能です」
現在は事件前日の夜。敵が行動を開始するまで、まだ時間の余裕がある。
遅くとも翌朝までに潜伏場所を掴み、先手を打って襲撃する。
それが犠牲者を一人も出さないための最善手だった。
「まずは情報収集です。この時間ならヤクザたちは『LivingDead』という店に集まっています。一般客を装って彼らに接触し、情報を引き出してください」
LivingDeadはダストエリア在住のヤクザが集う遊興施設。
そこでは毎晩、非合法のドラッグや密造酒が振る舞われ、扇情的なショーや命がけのゲームが繰り広げられている。
慄は遊興施設について幾つか補足すると、ダストエリアへのゲートを開くのだった。
刈井留羽
こんにちは。刈井留羽です。OPをご覧下さりありがとうございます。
今回はサイバーザナドゥのシナリオ第一弾となります。今年度もよろしくお願い致します。
●目的
都市の最下層、『ダストエリア』と呼ばれる区域を暴力で支配しようと目論むラガラルド社所属のオブリビオンを倒すことです。
しかし、迷宮のように入り組んだ広大な空間に潜伏するオブリビオンを見つけるのは至難の業。目的の達成のためにまず情報収集から始める必要があります。
●第一章
『ヤクザの遊興施設』に赴き、情報収集を行います。
●第二章
第一章で情報が得られたら、オブリビオンの潜伏場所に向かいます。
行く手に立ち塞がるオブリビオンとの集団戦。速やかに蹴散らして潜伏場所に向かいましょう。
●第三章
潜伏場所に到着したら、いよいよ黒幕のオブリビオンとの決戦です。
補足は以上です。
第一章、第二章、第三章ともに断章公開後にプレイング受付開始。
受付状況は随時タグでお知らせします。
それでは皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 日常
『ヤクザ経営の施設で楽しもう!』
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POW : 羽目を外して楽しむ。
SPD : 程ほどに楽しむ。
WIZ : 損をしないように楽しむ。
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●ヤクザの盛り場
ダストエリア・ヤドリギ街区にそびえ立つ遊興施設『LivingDead』。
派手な装飾が施された扉を開けると、喧騒と熱気が塊となって押し寄せてくる。
バラックとは思えないほど、天井が高く広々としたホール。
そこは体の一部を機械化したガラの悪い男たちの巣窟と化していた。
床には幾何学模様があしらわれた派手な色彩の絨毯が敷かれており、ホールの外縁に沿って並べられた円形テーブルに視線を向けると、合成肉の串焼き料理を頬張り、毒々しい色の酒が入ったジョッキを傾けるワイルドな男たちの姿。こちらに好奇のまなざしを向けているが、警戒しているのか、誰一人話しかけてくる者はいなかった。
「いらっしゃいませ♪」
新顔の客に笑顔で声をかけてくるのは、ホールで忙しく立ち働くバニーガール。彼女たちがテーブル席と行き来する奥のバーカウンターには、小奇麗な服装をしたバーテンダーが無表情でシェイカーを振っていた。
まさに裏社会の社交場といった雰囲気である。
――うぉおおおおおお!!
唐突に歓声が上がり視線を向けると、ホール中央の「リング」が目に入ってくる。
リングの上ではヤクザウォリアーの大男二人が喧嘩ファイトを繰り広げており、周囲に群がる大勢の客の手には『投票権』が握られていた。勝敗にお金を賭けているのだろう。
さらに周囲をよく見ると、ホールのあちらこちらに人だかりができていた。
その中央には小さなステージが幾つもあり、いかがわしいショーやゲームが行われているようだった。ホールの奥には幾つもドアが並んでいる。施錠されたドアの先にはVIP専用の個室や、プレイルームの類があるのだろう。いずれにせよ、一見さんお断りのエリアである。
ヤクザの遊興施設に足を踏み入れた猟兵たちは、思い思いの場所に散っていく。
タイムリミットは翌日の早朝。幸いにも、まだ夜は始まったばかりだった――。
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❖補足情報
第一章はヤクザの遊興施設で情報収集するのが目的です。
一般客を装って遊興施設を楽しみながら、情報収集をしましょう。
以下は第一章の行動についてまとめたものです。
●店内の人々に接触して話を聞く・取引を持ちかける。
正攻法で情報収集をする選択肢です。
裏社会ではコミュ力や威圧感も必要なスキル。
暴力で脅して力づくで聞き出してもOK。
積極的に動けば何かが起こる?
●ヤクザと勝負
命知らずなヤクザたちはゲーム勝負を持ちかければ応じてくれます。
ロシアンルーレット、酒の飲み比べ、大食い対決、ストリートファイト、ポールダンス、ダーツなど、様々な種類のゲームで勝負することができます。
ただし、ゲームはデスマッチ式にアレンジされ、大抵の場合、命がけのゲームとなります。
ヤクザたちは肉体を機械化義体に換装しているため、チート級に手強い相手です。それ故に、勝利すれば一目置かれるかもしれません。
●その他
ヤクザの遊興施設を自由に楽しんでもOKです。
ステージでショーを披露したり、酒や料理、ドラッグを嗜んだりしていれば運良く情報を得られるかもしれません。
補足は以上です。プレイング受付中です。よろしくお願い致します!
狐々愛・アイ
ふむ、ファイトに出るのが手っ取り早そうですね。
レプリカントとはいえ、子供が出るとなればオッズは荒れる。大きなお金が動き、余興としても悪くないと思います。
リングに上がったら『オーバーヒート・ボディ』を右腕に。
体格差から来るであろう油断に付け込む……即座に距離を詰め、右ストレートを1発!
そのまま攻め続け、3分でカタをつけます!
勝敗はどうあれ右腕は壊れますが、その位無鉄砲な方が気に入られやすいでしょう?
勝っても負けても、残った腕で【手をつなぐ】……握手です。親愛の印です、どうか一つ。
ファイトマネーは不要です、代わりに「ラガラルド社所属のカンパニーマンの潜伏場所」の情報を……噂程度でも構いませんので!
●喧嘩ファイト
ホールの中央に設えられた「喧嘩ファイト」のリングでは、前代未聞の挑戦者の登場に異様な盛り上がりを見せていた。
リング上には、全身の8割を機械化義体に換装した2メートル超の大男。対するのは狐耳の少年だった。
虐殺キング『ジャック・ゲイザー』 VS 命知らずの狐娘『狐々愛アイ』
リングサイドに投影されたホログラムのラウンドガールが掲げるプラカードにはそう記されている。
そう、狐々愛・アイ(f36751)は「喧嘩ファイト」に飛び入り参加しているのである。
容赦なく注がれる好奇の眼差し。それを一身に受けながら、アイはレフェリー兼リングアナウンサーを務める男によるルール説明に耳を傾ける。
喧嘩ファイトとは、素手での殴り合いのことだ。足技や投げ技、関節技は使用不可。機械化義体のパーツは素手とみなされる。ボクシングと同様に1ラウンド3分、インターバル1分で相手が動けなくなるまで無制限のラウンドで戦うという、シンプルなルールだった。
「なお、試合中に死亡しても当方は責任を負いかねます。ご了承ください!」
説明を終えた男が「ジョーク」を飛ばすと、どっと笑いが起こる。
ちなみに「虐殺キング」の異名は毎回相手を殺して勝利することに由来している。
観客が全員、そのことを知っているが故のジョーク。知らないのはアイだけだった。
「投票権の販売が今、締め切られました! オッズはジャック選手の1.1倍に対し、アイ選手はなんと11.0倍。大差がついていますが、勝負の行方はわかりません。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか? それでは試合開始です!」
――カーン!
「フハハ! さあ、お嬢ちゃん。どこからでもかかって来な!」
圧倒的な体格差。勝利を確信したジャックは両手を広げ、強者の余裕を見せる。
対するアイは試合開始のゴングが鳴るやいなや、ユーベルコード『オーバーヒート・ボディ』を発動。固く拳を握りしめた右腕が唸りを上げる。
(3分でカタをつけます!)
そして、アイは体格差を活かして一気に懐に飛び込むと、右ストレートを叩き込み――。
「うごっ!!」
ドゴンと重厚な音を奏で、熱を帯びた右拳が腹部装甲をぶち抜く。
「なん……だと……」
思わず漏れる戸惑いの声。
「油断大敵です!」
アイは深く穿たれた腹部から拳を引き抜くと、畳み掛けるようにラッシュを繰り出す。
ジャックは慌てて防御姿勢を取るも、怒濤の攻撃を喰らい続け、金属の体をガリガリと削られていく。
観客の誰もが予想だにしなかった一方的な展開に、客席は静まり返る。
だが、死の危機に直面した虐殺キングの双眸に殺意が宿る。
そして、アイを屠るべく機械化義体の両手を棘付き鉄球へと変化させ――。
「死ねぇえええ!!」
猛烈な殺気とともに鉄球を振り下ろす。
その刹那、アイは地面を蹴って飛び上がりながら渾身の一撃を放つ。
鉄球を紙一重で躱し、相手の顎に狙いを定めた右アッパー。
「ぐはっ!!」
下顎に直撃した拳が機械化されていない脳を激しく揺さぶり、意識を断ち切る。
失神し前のめりに倒れる2メートル超の巨体。同時にアイのオーバーヒートした右腕が爆発し、機能を停止する。
「ふぅ、ギリギリでしたね……」
試合終了を告げるゴングの音が鳴り響き、観客達から万雷の拍手と歓声が上がる。
左手を上げてそれに応じるアイ。すると、失神していたジャックが目を覚ます。
「……お前、なんでオレを殺さなかった!?」
困惑顔でアイを見つめるジャック。彼にとって試合に負けることは死と同義だった。
「この壊れた腕では命は奪えませんよ。それに……愛は奪うものではなく、与えるものですから」
アイは慈愛に満ちた瞳でジャックを見つめ、左手を差し出す。
「……よくわからん理屈だな。今度は油断せずに最初から全力で戦う。またやろうぜ!」
「はい。それまでジャックさんは命を大事にしてくださいね」
アイはジャックと親愛の握手を交わし、微笑むのだった。
●情報収集①
「クククッ……大番狂わせだったな。ファイトマネーに色を付けさせてもらった。受け取ってくれ」
リングを降りたアイに、両目にサイバーアイを埋め込んだ胴元の男が分厚い封筒を差し出す。選手登録のためにサーチした際にアイが超高性能なレプリカントだと気づいていたらしい。
この結果を予想できていたのは彼一人。要するにボロ儲けというわけである。
「いえ、ファイトマネーは不要です。その代わりに、少し聞きたいことがあるのですが……」
「そっちが目当てか……この世の中、金より情報のほうが価値があるからな。いいだろう。なんでも聞いてくれ」
「ラガラルド社所属のカンパニーマンについて何か知っていますか? この街のどこかに潜んでいるはずなのですが……」
「ラガラルド社? 悪い、そいつは聞いたことがねぇな」
「お願いします! 噂程度でも構いませんので!」
「噂か……そういや、若頭のジョニーさんの舎弟連中が最近よそ者とつるんでるって噂を聞いたことがあるな。奴ら親分のやり方が気に入らないと裏でボヤいてるらしい……もしかすると近いうちに何かやらかすつもりかもしれん」
「親分? ボスのことでしょうか?」
「ああ、この界隈のヤクザを束ねるベルモンド大親分さ。今日はちょうどVIPルームに……いや、こいつはよそ者には言えんことだったわ。わははっ、今のは聞かなかったことにしてくれ!」
一方的に話を打ち切ると、胴元の男は逃げるように立ち去った。
ヤクザ組織の内部対立。抗争の火種を利用してラガラルド社は暗躍しているのだろうか。
重要な情報を得たアイは仲間の猟兵たちと情報を共有し、さらなる調査に動き出すのだった。
成功
🔵🔵🔴
水衛・巽
アドリブ◎
相当口は硬そうですが
バーテンダーにでも当たって情報収集してみましょうか
幸いアルコールには不安もないので
適当に注文してあらかじめチップも弾んでおきましょう
虎穴に入る覚悟はできていますしこんな時のためのコミュ力です
お忙しい所失礼します 少々お尋ねしても?
ラガラルド社所属のカンパニーマンに
至急コンタクトを取りたいんですよ
是非居場所などの情報があればお伺いしたい
…カンパニーマンへの要件ですか?
いえね、何でもヤドリギの森を焼却するとか何とか
自然破壊は人命に直結するのでね
燃やされたら困るでしょう? あなた方も
そういうわけで断念していただきたく
丁重に「お願い」しようかと思いまして
●バーカウンターにて
ヤクザの遊興施設。バーカウンターの端の席に座った水衛・巽(f01428)は、慣れた手つきでカクテルを作る小奇麗な服装をした中年男を静かに観察する。口ひげを生やし紳士的な雰囲気を醸し出しているが、客の動きを抜け目なく追う目つきは鋭い。やはり彼もその筋のものなのだろう。
「これは珍しい客だな。さて、ご注文は?」
「オススメはありますか?」
「……見た所カタギのようだな。それなら『混ぜもの』はないほうがいいだろう。少し値が張るがいいかい?」
「はい、お願いします」
「混ぜもの」の意味はわからなかったが、巽はとりあえずそれを頼むことにする。
数分後、巽の前に供されたのは、グラスの縁をスライスした檸檬で飾りつけたおしゃれなカクテルだった。材料は純度の高い蒸留酒、温室で栽培された檸檬、天然の甘味料を用いたガムシロップ。いずれもこの世界では希少な代物だった。
「後味が爽やかで美味しいですね。これなら何杯でもいけそうだ」
カクテルに口をつけ率直な感想を述べると、男は口元をわずかに緩める。
「そうかい。他にもいろいろあるぞ。金に余裕があるなら飲んでみるといい」
高級カクテルを惜しげもなく頼む客。しかも「本物の酒」の味がわかっていることに気を良くしている様子だった。ヤクザとはいえ、プロのバーテンダー。自らの技術を披露できて嬉しいはずがない。
(この人、意外と薀蓄を語りたいタイプかもしれないですね……)
そう見抜けたのは、巽の「コミュ力」の高さ故のことだろう。
巽はグラスの酒を飲み干しては、バーテンダーのオススメカクテルを次々に頼み、それぞれについて質問してみることにする。案の定、男は饒舌に語り出し、次第に打ち解けていく。
❖
「美味しいお酒でした。いろいろと貴重な話も聞けましたし……これはお代とチップです」
最後の一杯を飲み干し、代金の数倍の額をバーテンダーに渡す巽。
「これ少し多すぎないか?」
困惑顔のバーテンダーに、巽は真剣な顔で頭を下げると、改まった口調で切り出す。
「お忙しい所、失礼します。少々お尋ねしてもよろしいですか?」
「そういうことか……だが、こちらも守秘義務というものがある……念の為、聞くだけ聞いておくが……」
予防線を張りつつも、聞く姿勢だけは見せる男。
(相当口は硬そうですが……)
脈がありそうだ。そう踏んだ巽は手短に要件を伝える。
「ラガラルド社所属のカンパニーマンに至急コンタクトを取りたいんですよ。是非、居場所などの情報があればお伺いしたい」
しばしの黙考。巽は何も言わず、相手が口を開くのを待つ。
「たとえば……オレがそのカンパニーマンとやらのことを知っていたとして、キミは何を話すつもりだね?」
「いえね、何でもヤドリギの森を焼却する計画があるとか何とか噂を聞きまして……そうなると多くの人命に直結する自然破壊でしょう? そういうわけでカンパニーマンには計画を断念していただきたく、丁重に『お願い』しようかと思いまして……」
「まさかそんな……」
巽の発言の真意を理解したのか、男の顔色が変わる。
ところが――。
「……これでも人を見る目には自信があるほうだ。キミが信頼に足る人物だということもわかる。だが、この界隈では護るべき仁義というものがある……オレが口を割るわけにはいかんのだ……」
それだけ言うと、バーテンダーは口をつぐんでしまう。
「そうですか……わかりました」
意志は固そうだ。これでは力づくで口を割らせることも難しいだろう。
バーカウンターを後にした巽は情報収集を開始するも、めぼしい情報は得られなかった。
(式神を召喚して人海戦術もありか……)
そんな思案をしていたときだった――。
「あの、これ店長からお客様へのサービスだそうです」
小声で声をかけてきたのは給仕を担当するバニーガール。
礼を言ってグラスを受け取る巽。それは果汁100%のソフトドリンクだった。
(これはどういうことでしょう? ちょうど喉が乾いていたところですが……)
首をかしげつつジュースを飲み干すと、ラップで密封した四つ折りの紙片がグラスの底に貼り付けられていた。
四つ折りの紙はこの店を中心に描かれた地図。地図には5つの赤丸がついており、余白の部分に走り書きのような文字が記されていた。
――ラガラルド社のカンパニーマンはいずれかの場所に潜伏しているだろう。オレはただの取り次ぎ役。奴らが何を計画しているのかまでは知らない。後はキミに託す。よろしく頼むよ。
「……ありがとうございます」
巽はバーカウンターの中でこちらを見ている男に会釈をすると、赤丸の位置を確認する。
イタドリ街区、ドクダミ街区、オニユリ街区、オウバイ街区、ヒガンバナ街区。
5つの街区は四方に散らばっており、いずれもここからだいぶ距離があるようだった。しらみ潰しに当たっている余裕はないかもしれない。
「もう少し情報収集が必要ですね……」
有力情報を得た巽は他の猟兵と情報を共有しつつ潜伏場所の特定を急ぐのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天宮・紫苑
SPD
初めての異世界で情報収集、少々難しそうですね。
無理はせずに遊興施設内を色々と回ってみましょう。
「遊興施設ですか……色々と見て回ってみますか」
とりあえず、ステージやバーの方を中心に動きます。
のんびりステージを見学して、ゆっくりバーカウンターで休ませて頂きましょう。
その後、トイレ等の人目のつかない所で、UC【黒影剣・術式】を起動。
姿も、音も、匂いも隠して、施設内部を移動して回ります。
その際に、「ラガラルド」や「カンパニーマン」等の言葉が聞こえたら、
聞き取れる距離まで近づき聞き耳をたてます。
情報の収集ができたら、
再びトイレ等の人目につかない所で能力を解除、
他の猟兵と情報共有致します。
●密談
「遊興施設ですか……色々と見て回ってみますか」
異世界の遊興施設に興味をそそられた天宮・紫苑(f35977)は、情報収集がてらいろいろと見て回っていたのだが――。
(ロシアンルーレットですか……ここではスリルの欠片もありませんね。機械化義体の脳ならすぐに修理できますし)
(人間ダーツ……これってただ人間を投げ飛ばしてるだけですよね?)
(猛獣サーカス……って猛獣のような顔のおじさんの火の輪くぐり!? 看板に偽りありですね!)
蓋を開けてみれば、ツッコミどころ満載のヤクザのゲーム&ショー。
機械化義体に換装するのが当たり前の世界では、命がけのゲームでもコメディになってしまうようだ。
しかし、生身の体の自分たちがゲームに参加すれば、おそらく――。
「カモにされますね……」
それは至言だった。百戦錬磨の猟兵たちとて完全アウェイの環境で相手が得意なゲームを勝利するのは容易ではないだろう。
(この飲み物は美味ですが、これ以上は時間の無駄です。早々に仕事を済ませることにしましょう)
バーカウンターでソフトドリンクを注文してしばらく休憩していた紫苑はトイレに身を隠し、ユーベルコード『黒影剣・術式(コクエイケン・ジュツシキ)』を起動。「闇のオーラ」で全身を覆い、視聴嗅覚での探知を無効化する。
姿が見えなければ、気づかれずに接近して内緒話にも耳を傾けることができる。
仲間内の何気ない会話にこそ、重要な情報が転がっているはず。
紫苑の判断が功を奏し、ほどなくしてホールの隅のテーブル席で声をひそめて話す3人組の男に出くわす。
「そういや、あのラガラルド社のヤツ、大丈夫なのか?」
「若頭が信用してるんだ。オレたちはただついていくしかない……」
「まっ、当然リスクは承知の上だろう。若頭がトップに立つには毒を呑む覚悟が要るってことだ」
「だな……そういや、今日は若頭も来てるんだよな」
「ああ、前祝いだとかで側近連中と個室で飲んでるらしい」
「そんならこれから挨拶にでも行くか。今のうちに点数を稼いでおけば、いいポストがもらえるかもしれんしな」
「はははっ、そいつは妙案だな!」
話がまとまり、男たちはテーブル席を離れ、意気揚々と歩いていく。
(ラガラルド社と内通している者がいるようですね……このまま尾行しましょう)
❖
――コンコン……。
施錠されたドアの前。男たちはおずおずとノックをする。
すぐに誰何の声。代表の男が名乗るとほどなくしてロックが外され、招き入れられる。
室内では5人の男たちが円卓を囲み、酒宴を開いていた。
(あの真ん中の偉そうな人が若頭でしょうね……)
男たちの後について入室した紫苑は、揉み手をしながらご機嫌取りをする男たちを横目に、上座の席に座る30代くらいの男を見据える。
一人だけ明らかに雰囲気が違っていた。細身ながらも精悍な顔立ち。鋭い眼光は冷酷さを感じさせる。いかにも策略を巡らせそうなタイプである。
子分の男たちが辞去しても紫苑は部屋に残り、若頭と側近の会話に聞き耳を立てる。
男たちは大親分亡き後の新体制について話合っているようだった。
ラガラルド社のカンパニーマンがヤドリギ街区で暴れ回り、混乱に陥っている隙に大親分のベルモンドを暗殺する計画。
それを成し遂げれば、若頭がヤクザ組織の頂点に立ち、新たな組織運営が始まるというわけだ。
しかし、彼らの取り引き相手はオブリビオンである。そう上手くは行かないだろう。
「……それでヤツは今どこに?」
「確か今日はドクダミ街区のアジトにいると言ってたな」
「そうか……あそこならここから一番近いしな」
「作戦決行は明日の正午だ。子分たちが巻き込まれぬように連絡を徹底しておけよ」
「はっ! 若の仰せのままに!」
そして、個室を出ていく側近の一人とともにホールに戻ってきた紫苑は、人目につかない場所でユーベルコードを解除する。
「ドクダミ街区……そういえば地図を持っている方がいましたね……」
これで敵の潜伏場所は特定できるだろう。
核心に迫る情報を得た紫苑は、他の猟兵と情報共有するために待ち合わせ場所へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天堂・美亜
「もう、勝負はついています!」
決着はついているのに、なお強烈な一撃でトドメを刺そうとしている場に遭遇してしまい、思わず割って入り庇います
(思わず飛び出ちゃった……)
乱入扱いで戦うことになってしまいますが、庇った際のダメージが大きく、ヤクザや客の下卑た野次に集中を乱され、敗北
「もう、やめて……お願い、見ないで……」
私はステージ上に吊るされ、サンドバッグにされてしまいます
ジワジワと嬲り者にされ、衣服を破かれ、身体を弄ばれ……
私は下着や肌の露出を隠すこともできず、数多の視線と歓声に晒されます
(あの人は、無事、かな……)
散々辱められた後は、羞恥とダメージで逃げ出すこともできず、ヤクザたちに囚われ……
●身代わり
「な、なんでこんなことに……」
ライブストリーマーのタイガー・モリタは満身創痍の体をなんとか起こし、絶望に顔を歪める。
店の前で撮影していたところを連れさられた彼は、ホールの端、四方を高いパーテーションに囲まれたエリアに設けられたリングで、ヤクザウォリアーの男とデスマッチを繰り広げていた。対戦相手は実戦経験豊富な戦士。どう考えても「無理ゲー」だった。
「死ねやぁああああ!!」
そして、対戦相手が豪腕を振りかざし、モリタにトドメの一撃を放ったときだった――。
「もう、勝負はついています!」
そう言って割って入ったのは天堂・美亜(f33199)だ。彼女はヤクザウォリアー放った渾身の一撃をガードで受け止めるも――。
「きゃっ!!」
機械化義体の豪腕から放たれた重量級の一撃が、ガードの腕をあっさりと薙ぎ払う。
ビリビリと痺れる両腕。この腕では当分、剣を握れそうもない。
「こいつは面白い乱入者だぜ! そうだ、お前が代わりに戦うならこの豚を助けてやらんこともないぞ! どうするお嬢ちゃん!」
乱入者の登場に機転を利かせたレフェリーが下卑た笑みを浮かべて提案する。
「私、戦います!」
瀕死の男を救うため、身代わりを志願する未亜。
しかし、未亜は満足に腕を使うことができず、観客席から罵声が降り注ぐ完全アウェイの環境で、心と躯を消耗させていく。そして――。
「クククッ! いいざまだな。だがな、俺様は命までは奪わん! その代わり……」
リング上に倒れた未亜の体に馬乗りになるヤクザウォリアー。
「今宵はたっぷり楽しませてもらうぜ!」
「嫌! やめて!」
未亜は瞳に涙を浮かべ首を激しく振って押しのけようとする。
だが、抵抗も虚しく、力づくで組み伏せられた未亜はあっという間に捕縛されてしまうのだった。
❖
急遽設置された「特設ステージ」の中央には、赤い紐できつく縛られた未亜が、天井から吊るされていた。その衣服はビリビリに破かれ、ボロ布同然となっている。
「もう、やめて……お願い、見ないで……」
上気した頬。潤んだ瞳。桃色に染まる素肌。まだあどけない顔立ちと対照的に肉感的な少女の肢体は、ステージを取り囲むケダモノの群れに視姦されていた。
「ひっ! 触らないで! やめ……やめてぇ!」
攻め役として代わる代わるステージに上がる男たちは、残る衣服を少しずつ破り捨て、露出した素肌を無遠慮に撫で回していく。
それは未亜にとって全身を蛇が這い回るかように不快で嫌悪を催すものだった。
そんな中、彼女の脳裏をよぎったのは――。
(あの人は無事、かな……)
自分が庇ったあの男のことだった。
未亜が猟兵を志したのは家族や大切な人々を護るためだ。
現在は猟兵として人々を助けることに喜びを感じていた。
その尋常ならざる純真さと優しさが、常軌を逸した「自己犠牲」へと駆り立てているのだろう。
そして、ヤクザたちの執拗な責苦に懸命に耐え続ける未亜に「救いの手」が差し伸べられる。
「その娘はワシが貰い受けよう! ここはワシの庭。誰にも文句は言わせぬぞ!」
よく通る低い声が響き渡る。
涙でぼやける視界の隅に、2メートルは超える、白髪の大男が立っていた。
(私……助かったの?)
安堵し気が緩んだ刹那、ギリギリで保っていた緊張の糸が切れ、意識が途切れる。
そして、失神した未亜は新たにやってきた屈強なヤクザたちに囚えられ、どこかへ運ばれていくのだった。
●VIPルーム
「ここはどこ……どうして私……」
豪奢な装飾の施された個室。未亜は柔らかいソファーの上で目を覚ます。
下着の上に真新しいバスローブを着せられ、擦り傷を負った個所には清潔な包帯が丁寧に巻かれていた。
そばにメイド服の女性が二人立っていて、心配そうにこちらを見下ろしている。
「あら、お目覚めですわね。すぐにお着替えをお持ち致しましょう」
「ようやく起きたようじゃな」
正面のソファーに座る白髪の大男を気づき、未亜は反射的に身を固くする。
「安心せい。取って喰ったりはせんよ」
「あなたは?」
「ワシはベルモンド。この店のオーナーじゃ。もう引退しようと思っておるがの」
白髪の大男はこの界隈のヤクザを束ねるベルモンド大親分だった。
「そのような方がどうして……私を助けてくださったんですか?」
「お嬢さんにはいいものを見せてもらったからの。その礼じゃ」
「いいものなんて……」
大親分の背後には複数の液晶モニターが設置されており、ホールの各所が映し出されていた。
この人も自分が辱められる姿を見ていたのだろう。未亜は羞恥が蘇り、赤面する。
「……自らを犠牲にして他人を助ける場面など、そうそうお目にかかれるもんじゃないからな」
ベルモンドは未亜の無鉄砲な行動に、心の底から感心しているようだった。
思いもよらぬ言葉に未亜は、キョトンとした顔でベルモンドを見つめる。
「最近の若いもんは自分さえよければよいという輩が多いからのう。嘆かわしいことよ……」
憂いを帯びた目で虚空を見つめ、ベルモンドは未亜に視線を戻す。
「それで、お嬢さんはこんな掃き溜めにまで何しに来たのじゃ?」
「あの、実は……」
未亜はラガラルド社のカンパニーマンがヤドリギ街区を狙っていることを話す。
「あやつの差金だろうな……愚か者めが!」
ベルモンドの目つきが変わる。その声は全盛期を彷彿とさせる、威圧感を帯びていた。
そして、彼はVIPルームのドアの前で待機していたヤクザたちに命じる。
「今すぐ幹部連中を招集せい! 拒否する者はひっ捕らえて無理やりにでも連れて来るのだ!」
店内がにわかに騒々しくなる中、ラガラルド社のカンパニーマンの潜伏場所を特定した猟兵たちは遊興施設『LivingDead』を後にし、戦いの場へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『メタリックスライム』
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POW : からみつく
【粘液】に触れた対象の【行動の自由】を奪ったり、逆に与えたりできる。
SPD : まきちらす
自分の体を【破裂】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【麻痺毒】の状態異常を与える。
WIZ : ぞうしょく
X体の【分裂体】を召喚する。[分裂体]は自身と同じ能力を持つが、生命力を共有し、X倍多くダメージを受ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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●ドクダミ街区・大通り
――うぎゃぁああ!!
ヤクザの遊興施設を後にし、ラガラルド社のカンパニーマンの潜伏場所へと向かう猟兵たちの耳に届いたのは、断末魔の如き悲鳴だった。
そこはヤクザウォリアーの居住区に面した大通り。
「カチコミか!?」
「加勢するぞ!」
「ここに来るとはいい度胸だな!」
「ヒヒヒッ! 八つ裂きにしてやるぜ!」
夜明けまであと数時間。安眠を妨害された血気盛んな男たちが、バラックから続々と飛び出してくる。
しかし、敵勢を見た男たちは、驚愕の光景を目の当たりにする。
通りを埋め尽くすが如く、大挙して押し寄せる金属光沢を放つ怪物。
それは猟兵たちを足止めするために放たれた『メタリックスライム』の群れだった。
――グシャリ!
不用意に殴りかかったヤクザウォリアーがスライムが伸ばした触手に捕えられ、握り潰される。
「「「クソッタレがぁあああ
!!」」」
仲間を破壊され、頭に血が上ったヤクザウォリアーたちがなりふり構わず突進していく。
その刹那――。
――パンッ!!
突然膨張した先頭のスライム一体が破裂。同時に青黒い液体が飛散し、それを浴びたヤクザウォリアーたちは体が麻痺し、崩れ落ちる。
――うわぁあああ!!
「囲まれるな! 押しつぶされるぞぉおお!」
怯んだ隙を狙われスライムの群れに押しつぶされた仲間を見たヤクザが、注意喚起の声を上げる。
未明に幕が上がったヤクザとスライムの抗争。控えめに言っても、大惨事だった。
そして、混沌とする戦場に猟兵たちが到着する。
「グボ! ゴボグボボ!!」
ゲル化した体の一部が口の形に歪み、威嚇の声を発する。
知性はあまり高くなさそうだが、本能的に猟兵たちを「敵」と認識しているようだった。
眼前に立ち塞がるメタリックスライムの軍勢を見据え、猟兵たちはここで戦うことを決断する。
それは図らずも命知らずのヤクザウォリアーたちを救うことになるのだった。
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❖補足情報
第二章は猟兵たちの足止めに放たれた『メタリックスライム』の群れとの集団戦です。
被害が拡大しないように速やかに殲滅してください。
●戦場
戦場は道の両側に長屋のようなバラックが並ぶ大通りです。
道幅が広く見通しがよい通り。遮蔽物はほとんどありませんが、バラックは一階建ての頑丈な建物なので、屋根に上がって戦うこともできます。
●ヤクザウォリアー
・長屋に住んでいるヤクザウォリアーが戦場に出ています。彼らは好戦的なので猟兵たちが来てもメタリックスライムと戦おうとしています。
・ヤクザ軍団は体の大部分を機械化義体に換装しているため、簡単に死亡することはありません。
・ヤクザ軍団と協力して戦ったり、戦闘の邪魔しないように排除したり、戦闘に利用したりすることも可能です。もちろん、放置して自由に戦っても問題ありません。
・「チャカリボルバー」と「ドスソード」を装備しています。状況によっては拝借したりもできるかもしれません。
●メタリックスライム
・ゲル状で不定形の怪物。
・肉体の質量の範囲内で形状を変化でき、数の利を活かして攻撃を仕掛けてきます。
・知性はあまり高くないようですが、力が強く、触手のような腕をのばして打撃攻撃やつかみ攻撃をしかけてくる油断のならない相手です。
・体のどこかに「核(コア)」を持ち、そこが急所のようです。
第二章の補足は以上です。途中参加も歓迎です。必要に応じてサポート参加の方も採用します。プレイング受付中です。よろしくお願い致します!
狐々愛・アイ
血気盛んなヤクザの方も、本能剥き出しのスライム達も……その荒々しさが、とても愛おしい。
ここはヤクザの皆様に助力を乞いましょう。
「賭け試合で無茶をしまして、片腕がこのざまなのです。手伝って、頂けますか……?」
助力を乞ったら戦闘開始です。
『跳ね回る愛情』、アイズ・アイズレーザーによる【レーザー射撃】を屈折させます。
左目ウィンクに左手ピースを合わせて……発射!
ヤクザの方に近いスライムの体を狙ってレーザーを撃ち込む!
当たり所は何処でも構いません。体の中で多重に屈折させれば、核に当たるかズタズタになるかしてくれる筈……90回程曲げられますしね。
これがぼくの愛情。押し売りですが、受け取ってください……!
●共闘
「くそっ! 全然、弾丸が効かねぇぜ!」
「こいつらやべぇぞ! ドスで斬りつけても少しも手応えがねぇ……」
「おい、野郎ども一旦引いて、態勢を立て直すぞ!」
彼らは居住区に住むヤクザウォリアーの中でも比較的冷静さを保っている一団。
このままでは負け戦になると判断したヤクザたちは、通りに面したバラック長屋の背後に身を隠し――。
「うわっ! なんだてめぇは?」
男たちが鉢合わせたのは、物陰から戦場をうかがっていた一人の少年――狐々愛・アイ(f36751)だった。
「失礼しました。ぼくは狐々愛アイ……通りすがりのレプリカントです」
アイはあえて「レプリカント」だと名乗る。
今回は子供だと見くびられては困る状況。少しでも戦力になることをアピールする必要があった。
「なんだ機械人形かよ……で、お前、なんでこんな時間にウロついてんだ?」
「この先に『お遣い』がありましてこの通りを歩いていたのですが、あいつらに道を塞がれまして……」
「そうか、そいつは災難だったな。こんな時間に行動するくれぇだから戦闘タイプなんだろうが……ん? その腕、ぶっ壊れてねぇか?」
アイは壊れた右腕を左手でさすりながら苦笑する。
「賭け試合で無茶をしまして……このざまなのです」
「あの店の賭け試合か……見かけによらず無茶するヤツだぜ!」
どっと笑いが起こる。アイはちょっとした雑談でヤクザたちと打ち解けると、本題に移る。
「……それで、これからあいつらを排除しようと思っているのですが、手伝って、頂けますか……?」
「お前……あのバケモンを殺れんのか?」
「はい、皆様のご協力があればですが……この腕では反撃されたらひとたまりもないので……」
敵の数は多い。一体目を屠ればアイに攻撃が集中するだろう。
壊れた腕では反撃もままならない。集中攻撃を受けずに着実に敵を減らすには、陽動と護衛を引き受けてくれる戦士の存在が不可欠だった。
「お願いします。皆様だけが頼りなのです!」
上目遣いで見つめ助けを乞うアイに、わずかに顔を赤らめるリーダー格の男。
「……しゃーねぇな。やるぞ、野郎ども!」
かくしてアイとヤクザ軍団との間に共闘関係が結ばれ――。
「「「うぉおおお
!!」」」
再びメタリックスライムの軍勢に向かっていくヤクザたち。
そして、後衛に陣取ったアイは、左手でつくったピースサインを左目にかざしながらユーベルコード『跳ね回る愛情(リフレクション・アフェクション)』を起動。左目に高出力のエネルギーが収束していく。
「これがぼくの愛情。押し売りですが、受け取ってください……!」
そして、左目から発射されたのは高密度のレーザー光線。それはただ直進するだけでなく何度も屈折し、「愛の障害」となるヤクザたちを躱しながら標的へと向かっていき――。
「グボッ!!」
ヤクザウォリアーに背後から迫っていた一体のスライム命中し、そのまま金属光沢を放つ体に侵入。体内で多重に屈折しながら光の束が駆け巡り――。
――バシュッ!!
核を貫かれたメタリックスライムが蒸発。なんの余韻も残さずに消滅する。
「うおっ! すげぇ……一発で蒸発しちまったぞ!」
助けられた男が驚愕の声を上げる。
だが、スライムたちは仲間を一瞬で屠ったアイを即座にロックオン。前衛のヤクザの足止めを振り切って3体のスライムがシュルシュルと地面を滑るようにして突進してくる。
「くっ!」
アイは咄嗟に左目からレーザー光線を放ち、なんとか先頭の一体に命中させるも――。
「「グボォオオオ!!」」
残る二体は威嚇の声を発しながら左右に散開。アイの両サイドから挟撃を仕掛けてくる。
「おっと、そうはさせねぇぜ!」
「お前はもう少し下がっとけ!」
護衛担当のヤクザ二人が前に出て、後方に下がったアイと入れ替わる。
そして、それぞれドスソードを振り回して左右のスライムの触手を切り裂き、怯ませると――。
「次、二連射、行きます!」
アイはパチパチとウインクをしてレーザー光を二連続で放ち、左右のスライムの核を貫く。
「連携もバッチリですね! ぼくらの愛の力でこの危機を乗り越えましょう!」
「「お、おう……」」
愛の力のおかげか、初めてとは思えないほど連携が機能し、アイのウインクとともに放たれる『愛の光線』が、メタリックスライムの核を次々に撃ち抜いていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天宮・紫苑
POW
金属質なスライムですか。
ゲームだと雑魚だったり強敵だったり振れ幅が大きいですが……まぁ、やることは変わりません。
一体ずつ丁寧に、速やかに……。
「本命の前ですし、手早く済ますといたしましょう」
UC【黒影剣】を起動。隙を見せているスライムを攻撃します。
ヤクザさんに襲いかかっている、もしくは襲いかかろうとしているスライムを優先して攻撃します。
スライムらしく物理攻撃に強かったとしても、切りつけた上に生命力も奪い取れば倒せるでしょう。
仮に倒せなかったら、一旦距離を取り【黒影剣】を再度使用して追撃します。
倒せたら【黒影剣】を起動して次に向かいます。
「さて、次ですね……」
●暗闘
不定形の怪物の襲撃を受けたドクダミ街区の大通りは騒然としていた。
チャカリボルバーの銃声がひっきりなしに響き渡り、激しい怒号が夜気を震わせる。
ドスソードを片手にヤクザウォリアー軍団は果敢に戦うも、圧倒的な物量と正体不明の怪物相手に苦戦を強いられていた。
(随分、騒々しいですね……それに夜にしては明るすぎる気がしますが……)
バラックの陰で闇に紛れ、戦場を観察していた天宮・紫苑(f35977)は天井を見上げる。
「夜」の通りは夕方のような明るさだった。
都市の最下層に位置するダストエリアでは夜になると天井に多数設置された『常夜灯(橙色のLED電球)』が点灯する。日の出時刻には複数の『太陽ドローン』が少しずつ打ち上がり始め、最終的にエリア全体を昼のような灯りで照らす。「夜」はドローンの充電の時間でもあった。
(とはいえ、ここには『動く遮蔽物』がたくさんありますし、私の戦いに支障はないですね)
そして、紫苑はユーベルコード『黒影剣』を発動。闇のオーラで自身と武装を覆い、視聴嗅覚での感知を無効化する。
「本命の前ですし、手早く済ますといたしましょう」
紫苑は息をゆっくり吐いて気持ちを落ち着かせると、音もなく物陰から飛び出し、敵陣へと静かに忍び寄っていく。
すると、近くでメタリックスライムと戦うヤクザたちの声が聞こえてくる。
「クソッ! ぶっ殺してやる!」
そう叫んだ直後、スライムの触手に腹部を殴られた声の主が、後方へと吹き飛ばされ――。
――ドォオン!
バラックの壁にぶち当たる。
「うぐっ! 動けねぇ……」
体を激しく打ち付けて立ち上がれないヤクザウォリアー。スライムはトドメとばかりに追撃の触手を伸ばす。
だが――。
「グボボッ!!」
苦痛の呻きを漏らし、静止するスライム。その腹部には大太刀『闇纏』の切っ先が飛び出ていた。
紫苑が放った背後からの刺突は核(コア)を外していたが、そのまま大太刀を引き抜き、踵を返す。
(たとえこの攻撃で斃せなくとも……闇のオーラに触れれば生命力を奪われ、やがて絶命します)
そう、紫苑の目的は斬り倒すことではない。生命力吸収能力を付与した闇のオーラを敵の体内に確実に送り込むことだ。即座に索敵を再開する彼女の背後で、生命力を奪われたスライムが穴が空いた風船のようにしぼみ、どさりと崩れ落ちる。
そして、地面に横たわるのは干からびたメタリックスライムの残骸。
「な、何が起こったんだ……」
命拾いした男は呆然と虚空を見つめる。
紫苑は振り返ることなく、再び闇オーラを身に纏う。
「さて、次ですね……」
屠った敵に興味はない。頑丈なヤクザウォリアーを顧みる必要もないだろう。
私は少しでも多くの敵を葬るだけだ。
(一体ずつ丁寧に、速やかに……)
敵を全滅させる。それが私の仕事なのだから。
そして、闇のオーラを纏う「暗殺者」はヤクザに気を取られるスライムに背後から忍び寄り、着実に仕留めていく。
「うおっ! まただ! どうなってんだよ!」
「オレらには勝利の女神でもついてんのか?」
「いや、こいつは死神だろ! なんかこの辺、殺気がやべぇし!」
勘がいいヤクザが身震いをしながら周囲を見回すも、そこには既に紫苑はいない。
ピンチになると敵が頓死する異様な状況に、ヤクザたちは困惑していた。
(死神ですか……あなたたちに女神と呼ばれるよりマシですが……)
わずかに口元を緩める紫苑。その双眸は早くも本命の敵を見据えているのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天堂・美亜
(着替え、ありがたいんだけど……)
露出の多い衣装(詳細はお任せ)に戸惑いながらも大通りへ
「……っ」
ヤクザが窮地に陥るのを目撃
LivingDeadでの恥辱に逡巡しますが、見てみぬふりはできず、敵に奇襲をかける形で救援
「あぁんっ!!」
そのままそこらで戦うヤクザを救助して回るものの……
数多の触手に絡まれ鞭打たれ、ドサクサ紛れに私を狙うヤクザに体を弄ばれ、貰った衣装も脱がされ破かれ、混戦の中でボロボロに
必死に戦い続けますが、最後の敵の破裂からヤクザを庇いダウン
ヤクザ達のど真ん中で満身創痍+麻痺で倒れてしまった私は、そのまま彼らに戦利品として回収され、抵抗できないのを良いことに恥辱の限りを尽くされます
(着替え、ありがたいんだけど……)
天堂・美亜(f33199)が大親分のベルモンドに与えられたのは、バニーガールの衣装だった。
水着とほとんど変わらない露出度の高さ。特に胸元が心もとない。
成長著しいバストが今にもこぼれ落ちそうだった。
生足を包む網タイツは一見してニンジャが装着する鎖帷子を連想させるが、実際は似て非なるもの。どう考えても戦闘向きではない。
それもそのはず、ベルモンドはこの着替えをあえて渡すことで美亜が危険な戦場へ行くのを妨害しようとしたのである。
――自己犠牲の精神は素晴らしいが、生きていてこその人助け。若いお嬢さんには別の幸せもあるじゃろうて。
そんなベルモンドの老婆心に気づかず、猟兵の仕事を成し遂げようと意気込む美亜を待ち受けていたのは――。
――助けてくれぇええ!!
切迫した男の悲鳴だった。
「今行きます!」
美亜は反射的に悲鳴の方向へと駆け出す。
だが、遭遇したのは想像以上に絶体絶命の状況だった。
3体のメタリックスライムに襲われ、満身創痍のヤクザウォリアー。
機械化義体の両腕を破損して無防備な男は触手パンチで殴られサンドバッグにされている。
(何なの、あの敵は!?)
触手を鞭のように振るうスライム軍団を目撃した直後、遊興施設での恥辱の記憶がフラッシュバックする。脳裏を嫌な予感がよぎる。
だが、嫌な想像をすぐに振り払うと、美亜は腰のルーンソードを抜き放つ。
背後から奇襲をかけ運良く一体目を屠るも、その瞬間、ターゲットが美亜に移る。
「その人から離れなさい! 私が相手よ!」
スライム二体に対して美亜は一人。それでも健気な少女は不屈の闘志で戦いを挑んでいく――。
❖
(なんとか勝てたけど……)
激戦の末、二体のスライムを倒したものの、美亜の体はあちこちに手傷を負い、疲労困憊。バニーガールの衣装もビリビリに破け、網タイツも穴だらけだった。
(でも、みんなを助けなきゃ!)
それでも、美亜はピンチに陥るヤクザウォリアーを見つけるたびに体を張って助けに赴く。
しかし――。
「あぁんっ!!」
美亜の奇襲攻撃に適応したスライムたちにあっという間に囲まれ、さらに無意識に発動したユーベルコード『被虐の呪い(ヒギャクノノロイ)』の影響でヤクザたちが欲望を発散すべく襲いかかってくる。
「きゃぁあ! やめてぇ! 服を脱がさないで!」
どうして助けたはずの男たちが私に……その理由もわからずに追い詰められていく美亜。そして――。
「危ない!」
大乱戦の最中、ヤクザを庇ってスライムの攻撃を受けた美亜は、敵陣の中央でパタリと倒れる。そこへ情欲に塗れた他のヤクザが群がってくる。
「ゴボッ!!」
だが、スライム軍団は咄嗟に粘着性の液体を大量に吐き出し、情欲に駆られる男たちを一網打尽にしてしまう。
既に美亜の周囲から殺意は消え失せていた。
存在するのは少女への『邪な欲望』のみ――。
そして、壮絶な奪い合いを制した不定形の怪物の群れは、動けない男たちを放置し、美亜をどこかへ連れ去ってしまうのだった。
❖
(ここはどこ? 真っ暗で……何も見えない……)
暗い部屋で目覚めた美亜は、スライムの粘着液で壁に磔にされ、身動きが取れない状態だった。どうやらどこかのバラックに連れ込まれたようだった。
既に邪魔な衣服はすべて剥ぎ取られていた。暗闇で誰にも見えないのが唯一の救いだろう。
周囲には多数の不定形生物の気配。すると、シュルシュルと触手の音が耳に届き――。
「ひっ!」
突然、内もものあたりを触手で撫でられ、声が漏れる。
怖気を催すような不快感。無数の触手が、無遠慮に全身を撫で回す。
「いやっ! そこはダメ……敏感だからぁ……」
拒絶の声を無視し、素肌に触手を滑らせるスライムたち。
首、脇の下、内もも、足の付け根……。
スライムたちは敏感な個所を重点的に狙っているようだった。
感覚的に殺意が無いのはわかる。だが、これから先、行為がエスカレートしていけば……。
ゾワリ。未知なる恐怖に悪寒が走り、こぼれ落ちる涙。その刹那、一体のスライムの触手が頬を撫でる。
「きゃっ!」
そこで美亜は敵の意図に気づく。
(この子たち……私の体液を舐めているの?)
体細胞分裂で増殖するスライムは雌雄の区別がなく、動物のような生殖行動を行うことない。情欲のぶつけ方も独特なのだろう。触手の先の「舌」でひたすら這わせて零れ落ちる体液を味わう。全身を這い回る触手は、体液をすくい取るための行為。それならこれ以上、酷いことはされないはずだ。ひとまず安堵する。
(あ……嫌っ! あんなところまで……でも私がここで我慢し続ければ……)
闇の中で不定形の怪物たちにひたすら全身を舐め回される少女。
普通の人間ならば、決して耐えられる状況ではない。だが、美亜はどこまでも前向きだった。
私が我慢すれば、この数のメタリックスライムを足止めできる。住民たちを救えるのだと――。
(みんな無事だといいな……)
震えが止まらぬほど怪物たちの行為を嫌悪しながらも、美亜は他の猟兵が助けに来るまで、健気に耐え続けるのだった。
成功
🔵🔵🔴
※後半修正ミスが見つかりました。訂正してお詫び申し上げます。
×動物のような生殖行動を行うことない。→○生殖行動をすることはない。
×触手の先の「舌」でひたすら這わせて →○「舌」をひたすら這わせて
クリム・フラム
アドリブ連携歓迎
「すごいいっぱい居ますね!まず皆様にスライムの避け方をお教えします!」
バラックの屋根を駆け回ってスライム相手の追いかけっこで時間稼ぎとおびき寄せしながら情報検索、UC「ビブリオテーク・クルーエル」で
纏まった情報を他の猟兵とヤクザにも伝達して安全を確保します。
「射線の確保よし!延焼の心配たぶんなし!レーザー魔法で焼き払います!」
そのままできるだけ多くのスライムを直線で捉え自分は広げた本から放たれる魔法、【焼却】【爆破】【レーザー射撃】織り交ぜて麻痺毒を焼き、コアを露出させて狙い撃ちます。
響納・リズ(サポート)
「ごきげんよう、皆様。どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」
おしとやかな雰囲気で、敵であろうとも相手を想い、寄り添うような考えを持っています(ただし、相手が極悪人であれば、問答無用で倒します)。
基本、判定や戦いにおいてはWIZを使用し、その時の状況によって、スキルを使用します。
戦いでは、主に白薔薇の嵐を使い、救援がメインの時は回復系のUCを使用します。
自分よりも年下の子や可愛らしい動物には、保護したい意欲が高く、綺麗なモノやぬいぐるみを見ると、ついつい、そっちに向かってしまうことも。
どちらかというと、そっと陰で皆さんを支える立場を取ろうとします。
アドリブ、絡みは大歓迎で、エッチなのはNGです
●炎と白薔薇
「すごいいっぱい居ますね!」
救援に駆けつけたクリム・フラム(f36977)は、大通りを埋め尽くすメタリックスライムの軍勢に驚く。
「オラ! 死ねやぁああ!」
住民のヤクザウォリアーたちは怒声を上げながらドスソードを振り回し、押し寄せるスライムの群れを必死で追い払おうとするも劣勢は明らか。怪我人も大勢出ているようだった。
(まずはあのスライムへの対処法を見極めないとですね……)
敵は金属光沢を放つ不定形の怪物。その性質を把握せねば対処しようがないだろう。
ブックメイカーにとって知識こそが力。クリムは太古の図書館で得た知識を活用し、戦うことを決める。
(まずは分析……っと、その前にあのおじさんたちも助けないとですね)
無法者とて被害者には変わりはない。
クリムは大通り沿いに立ち並ぶバラック長屋の屋根の上によじ登ると、その上を走り出す。すると、大通りにたむろするスライムの一団が一斉にクリムに殺気を向け、追いかけてくる。
(ふふっ、追いかけて来ましたね! このまま引き連れていけば救助の余裕ができるはず……)
そして、チラリと背後を見たクリムは大通りの端に猟兵と思しき女性を見つける。
「そこのお姉さ〜ん! 怪我をしてる人の救助をお願いします!」
❖
「お安い御用ですわ!」
救援要請を受け遅れて合流した響納・リズ(f13175)は、すぐに行動を開始する。周囲には重傷を負ったヤクザが何人も倒れていた。
リズは医術の知識を活かしてトリアージを実施し、急を要する怪我人を優先して助けに行く。
(まずは止血……この方は体の半分近くが機械のようですが、生身の部位の損傷がひどいですわね……)
サイボーグの体に戸惑いつつも、リズは聖痕(スティグマ)の治癒の光も駆使し、淡々と治療を続ける。機械化義体を修理することはできないが、傷を治療すれば命を助けることができそうだった。
ほどなくして止血を終え、応急処置を終えると、一命を取り留めた男は呆けたような顔でリズを見る。
「あんた……女神か?」
まだ意識が朦朧としている男がポツリとつぶやく。
掃き溜めに鶴。ヤクザの居住区にお嬢様。
そんなことわざが誕生してもおかしくないほど、この場にいるリズの存在は異質だった。
しかし、リズは救助活動に夢中でそんなことは全く気にはしてはいない模様。
「さあ、もう動けますわね。申し訳ございませんが、私はここにいる皆様を助けなくてはいけませんの。あなたは自分で安全なところまで引いてくださる?」
「は、はい……」
ヤクザの男は柄にもなく頬を赤らめ素直に返事をすると後方に下がっていく。リズは微笑を浮かべそれを見送ると次の怪我人の元へと急ぐのだった。
❖
降雨のないダストエリアのバラックの屋根はフラットで走りやすかった。
「ほら、わたしはこちらですよー」
声を発しながら屋根の上をドタドタと走るクリムを追いかけ、触手を振り回しながら大通りを滑るように移動するメタリックスライムの群れ。
鬼ごっこのように逃げながら、クリムはスライムの動きを観察し、さらに自分が持つ膨大な知識と照合すべくユーベルコード『ビブリオテーク・クルーエル』を発動する。
(さて検索を始めましょうか)
その刹那、クリムの脳裏に今まで読破した本を収蔵した『書架の森』が出現する。
それはクリムだけの私設図書館。様々なジャンルの本が所蔵された書架から、眼前の事象と類似する事例が書かれた本を探していく。そして――。
(これでしょうか……)
それはとある論文誌に掲載されていた「スライムの『目』に関する研究」についての論文の一説だった。
一般に、スライムには常に目が露出しているものと、露出していないものの2つに大別される。
前者は視覚が発達しており、体のどこにでも目を生やすことができる。
後者は視覚をほとんど持たない代わりに、聴覚、嗅覚、触覚が著しく発達している。
したがって、前者を狩るときには視覚をいかに封じるかがカギであり、後者を狩るときには目が見えないという弱点を突く戦い方が有効である。
(なるほど、それならあのスライムたちに視覚はない……おそらく聴覚、嗅覚、皮膚感覚でわたしの位置を把握し、追跡しているのでしょう)
「皆さん! スライムたちは目が見えてません。音と匂いに頼って標的の位置を把握しているようです!」
音と匂いで感知されないようにすれば、スライムの攻撃は空を切るだろう。
クリムはとりあえず近くにいるヤクザや猟兵たちに情報伝達をするも、それほど効果があるようには思えなかった。ヤクザウォリアーの多くは既に手傷を負い、血の匂いを纏っている。猟兵ならまだしも彼らが音も匂いも発生させずに行動するのは到底無理なことだった。
「さて、どうしましょうか……」
クリムが思案していると、怪我人の治療を終えたリズが立ち上がる。
「猟兵の皆様、少し離れていてください!」
語気を強めて警告の言葉を発し、リズはユーベルコード『白薔薇の誘い(シロバラノイザナイ)』を発動する。
戦場に吹き荒れる強風。渦を巻く風とともに舞い踊る白い薔薇の花びらは、戦場に充満する匂いと音を撹拌し、メタリックスライムの鋭敏な聴覚と嗅覚を狂わせていく。
(あなた方は安全な場所、棲家にお戻りくださいませ……)
さらに白薔薇の花びらはヤクザたちを棲家へと転移させ、安全確保も済ませてしまう。
やがて広範囲に及ぶ花びらの竜巻が収まると、ダメージを受けながらも地面に貼り付くようにして難を逃れたメタリックスライムの残党がニュウっと頭を出し、体を分裂させて増殖を始める。
「……意外としぶといですわね!」
愛用の魔導杖を構えて臨戦態勢を取るリズ。
そのとき、空からレーザー光線が飛来し、一体のスライムを撃ち抜き――。
――ドゴォオオン!!
爆発。周囲の分裂体を巻き込んで炎上する。
攻撃の出処は、少し離れた屋根の上。レーザー光線はクリムが「百科全書『閃光の章』」から放った炎熱魔法の光だった。
「射線の確保よし! 延焼の心配たぶんなし! これよりレーザー魔法で焼き払います! お姉さん、巻き込まれないようにもう少し距離を取ったほうがいいかもです!」
クリムの注意喚起に従い、後方に下がり支援に回るリズ。
そして、ここからはクリムの独壇場だった。
空から降り注ぐレーザー魔法は天の裁きの如き爆炎を生み出し、炎に巻き込まれたメタリックスライムの表皮が焼け落ち、体内の核(コア)が露出。そして――。
――バシュッ!!
その瞬間を狙って発射されたレーザー魔法が核を破壊。スライムの体が一瞬で蒸発する。
「ゴボッ! グゴ、ボゴボ!」
瞬時に仲間を葬られ、本能的に形勢不利を悟ったスライムたちは退避しようとするも、足止めに放たれた爆炎に阻まれ立ち往生。苦しまぎれに破裂し、飛散したスライムの麻痺毒ごと焼き尽くす。
「ふふっ、一体たりとも逃しませんよ!」
炎上するスライムを見てテンション爆上がりのクリムは安全圏からのレーザー魔法を放ち続け、スライムの一団を葬っていくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
水衛・巽
ゲル状ということは少なくとも
水分か体液を保持しなければ困ったことになるのでは?
手持ちの弾数が足りてくれれば良いのですが
まぁ足りなくなったらその時はその時です
最大数で朱雀の炎を展開し
まずはヤクザの方々を救出しましょう
水分を蒸発はさせられますが
核を燃やすまでには至らないかもしれないですしね
熱されて乾いて動けなくなった所で
親分達に核を処理してもらいましょうか
見通しのよい場所のようですし
それなら通りの真ん中に陣取って
正面からお相手いたしますよ
絡まれるのは御免なので極力接近される前に排除しますが
さて、どうなるか
●朱き神鳥
圧倒的な火力を誇る猟兵たちの活躍で急激に数を減らしていくメタリックスライム。
だが、まだ殲滅には至ってはいなかった。
そんな中、居住区での騒ぎを聞きつけたベルモンド大親分が手下を率いて参戦するも、乱戦模様の戦況は全く変わってはいなかった。
「う〜む。どうしたものかの……」
最後方で手下に指示を出しながら、思案するベルモンド。
すると、背後から声をかけてくる青年がいた。水衛・巽(f01428)である。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「お主は店主が言っていた青年じゃな……うむっ、なんでも言うてみるがいい」
「部下の皆さんを一旦、引いていただけますか?」
「なんじゃと!」
驚きの声を上げるベルモンドに、巽は作戦を伝えるのだった。
❖
大通りの先に群がるメタリックスライムの群れは、示し合わせたように全力疾走で後退するヤクザウォリアーの一団を追いかけるように、押し寄せてくる。
「ご協力感謝します。後は私に任せてください!」
「ああ、頼んだぞ!」
大親分に見送られ、巽は引き返してくるヤクザたちと逆方向に走り、大通りの中央に一人立ち塞がると――。
「来い! 朱雀!」
凶将・朱雀を召喚――熱風とともに炎熱を纏いし朱き神鳥が出現する。
「「「ゴボボッ
!!」」」
突如として顕現した朱雀に気圧されたのか、メタリックスライムの群れが急停止し、威嚇の声を発する。即座に警戒心をあらわにする敵勢だが、巽は逃げる時間を与えない。
――焼き尽くせ、朱雀!
力強い命令の言葉とともに、ユーベルコード『朱雀凶焔(スザクキョウエン)』が発動。
その直後、朱雀の周囲に展開された105個の火球が前方へと放たれ――。
――ゴゴォオオオオオオ!!
散弾のように飛翔。それはやがて燃え盛る鳥の形を成し、轟音を奏でながら大通りを埋め尽くすメタリックスライムの群れに突進していく。
「「「グボッボ
!!」」」
熱気と風切り音に反応し、前衛のスライムの一団が慌てて躱そうとするも、時既に遅し。
直撃を受けた前衛のスライムたちの躯に無数の穴が穿たれ、そのうちの半数のスライムが核を灼かれて一瞬で蒸発する。
だが、前衛の残り半数は地面に伏せて躯を平らに延ばしてやり過ごし、後衛のスライムの群れは即座に散開して分裂体を10体ずつ召喚し、本体を護る「肉壁」をつくる。
分裂体は召喚した数に比例して耐久性が下がるが、肉壁としては充分。分裂体で炎攻撃をやり過ごし、術者である巽の消耗を狙う戦術のようだった。
これに対して巽は――。
「そう来ましたか……持久戦も望むところです」
全く動じた様子はない。最初から炎だけで敵を殲滅できるとは思ってはいない。
この程度は想定済みなのだろう。100以上の『炎の鳥』を自在に操り、逃亡を阻止するかの如く敵を牽制。さらに敵陣を炎の鳥で包囲していく。
(一体たりとも逃しません。あなた方にはここで乾物になっていただきましょう)
そう、巽の目的はメタリックスライムから「水分」を奪うこと。
ゲル状の躯を保つには一定量の水分を保持する必要がある。
それならば体内の水分がなくなればどうなるか。その疑問の答えはすぐに出ることになる。
――プシュゥゥゥ……。
炎熱をまとう鳥たちに容赦なく炙られ、体内の水分を大気中に放出させていたメタリックスライムがゲル状の躯を維持できなくなり、一体、また一体と崩れ落ちる。
地面に伏せて辛うじて生命を保っているようだが、核(コア)らしき球形の塊を表面に露出させていた。
「今です! 露出した核(コア)を潰してください!」
「「「うぉおおおお
!!」」」
巽の声を合図にして、後方にいたヤクザウォリアー軍団が鬨の声を上げ、敵陣へと突っ込んでいく。彼らは闘争心と頑丈さが取り柄。灼熱の蒸し風呂の中でも闘志を失わず、メタリックスライムにトドメを刺していく。
これで決着はついた。巽が安堵のため息をついたそのとき――。
――ゴボッ!!
仲間の死骸の下に隠れ、力を温存していた一体のメタリックスライムが、不意を突いて巽に飛びかかって来る。
「くっ!」
反射的に両腕でガードする巽。だが、その刹那、彼の前に大親分のベルモンドの巨体が立ち塞がり、スライムを体で受け止め、投げ飛ばす。
巽はすぐに炎の鳥を呼び戻し襲ってきたスライムにトドメを刺すと、ガクリと膝をついて息を弾ませるベルモンドに慌てて声をかける。
「大丈夫ですか!?」
「……大丈夫じゃよ。久々に全力で動いたらこのざまじゃ……歳は取りたくないもんじゃの……」
骸の海による汚染が進行し、心肺機能も弱まっているのだという。
息を整えるとベルモンドは立ち上がり、巽を真剣な目で見つめる。
「これ以上はワシらは足手まといになるだけじゃろうな。後はお主らに任せるぞ!」
ベルモンドは威厳たっぷりに言うと、この界隈のヤクザを代表して頭を下げた。
「はい……」
巽は大親分の想いを受け止め、スライムの残党の討伐に向かうのだった。
❖
ほどなくして猟兵たちはドクダミ街区の居住区に出現したメタリックスライムの殲滅に成功する。残るはラガラルド社のカンパニーマンただ一人。猟兵たちは気を引き締め、潜伏場所へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『アームド・サイコブレイカー』
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POW : メタル・クラッシャー
【超念動力を帯びた巨腕】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : ラックイーター
【幸運収奪の超能力】を解放し、戦場の敵全員の【生命力】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ : ライトニング・カリギュラ
戦場内に【炸裂する稲妻の鎖】を放ち、命中した対象全員の行動を自在に操れる。ただし、13秒ごとに自身の寿命を削る。
👑11
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●ドクダミ街区〜倉庫
そこは表向きはリサイクル業者の倉庫として利用されている大きな建物だった。
偽装のためか、山のように積まれたスクラップの山。
作業や運搬のための重機や大型トラックが何台も置かれた広い倉庫は、雑然としていた。
そして、スクラップの山の頂上に一人佇むのは、新興のメガコーポ『ラガラルド社』に所属するカンパニーマン。
両腕に機械化義体を埋め込むことで超能力を大幅に強化した男は、『アームド・サイコブレイカー』というコードネームを与えられていた。
「……どうやら想定外のファクターが紛れ込んでいたようですね。ですが、リスクヘッジはできています。ここで奴らを葬りスクラップとともに埋めてしまえばノープロブレム! プラン変更の必要はありません…………はい、それはわかっております。このプランは必ずや完遂させてみせます! 我が命を懸けて!」
男が通信機を通じて上司に報告を終えると、猟兵たちが施錠された扉を破壊して庫内に飛び込んでくる。
「随分、乱暴なご登場ですね。私はラガラルド社に逆らう者には決して容赦を致しません! あなた方は我が社の活動を妨害した。この損害は死という対価で贖っていただきましょう!」
(……まぁ、口上はこのくらいでいいだろう。面倒なことだが、ショーを盛り上げるには、大げさな芝居も必要なのだ。クククッ、このまま派手に奴らを虐殺すれば、幹部連中も喜ぶだろう。貴様らは俺様の出世の糧として葬ってやるわ!)
営業スマイルを崩さずに、欲得にまみれた視線を猟兵たちに向けるアームド・サイコブレイカー。ここでの戦いの様子は、庫内の至るところに設置された小型カメラによって撮影され、社内で生中継される手はずになっていた。
一流の社員は常に一流の演者であれ。
そんな社訓を掲げるラガラルド社は、表では数多くの人気イベントを主催するイベント制作・運営会社。裏では戦闘用の機械化義体やレプリカントを開発・製造する軍需企業でもあった。
要するに、アームド・サイコブレイカーはラガラルド社を体現したような存在――。
忠実な社員を演じるサイボーグの男は、自社に仇なす敵対者に鉄槌を下すべく、巨腕を振り上げるのだった。
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❖補足情報
第三章は『ラガラルド社』のカンパニーマン『アームド・サイコブレイカー』との決戦です。
●戦場
戦場はドクダミ街区の外れに建てられたリサイクル業者の倉庫。
庫内にはスクラップの山や重機・大型トラックなどが放置されているので、戦闘に利用することも可能です。
なお、今回はヤクザの皆さんは参戦しません。邪魔も入らないので存分に戦いましょう。
●アームド・サイコブレイカー
巨腕型機械化義体(サイバーザナドゥ)を埋め込むことで超能力を増大させたサイコブレイカー。その超能力は物理的な破壊に特化しているようです。
通常攻撃は念動力で強化した巨腕による殴打。スクラップを拳で殴り飛ばして遠距離攻撃をしてきたりするかもしれません。
物理攻撃中心のパワー型ですが、超能力を駆使したユーベルコードも強力です。
補足は以上です。途中参加も歓迎です。必要に応じてサポートの方も採用します。
それでは第三章もよろしくお願い致します!
狐々愛・アイ
己の欲に生きるヒトの姿は美しいものです。勿論、貴方も。
けれど、ぼくはヒトの味方ですから。虐殺など許す訳にはいかないのです。
愛するからこそ、貴方を倒します。さぁ、やりましょうか……!
まずはAIBoardで【滑空】、距離を取ります。
あの腕ならば重機やスクラップは飛び道具も同然ですね。
投擲物を食らってひるんだ隙にやられる、というのが最悪のシナリオ。
質量弾をこちらの武装で普通に防ぐのは難しいでしょう。
……ならば狙うはカウンター。
あちらの投擲に合わせ、ぼくも『L.O.V.E.Dive』を発動します。
10500km/hのスピードに、あなたへの愛を乗せて……投擲物ごとぶち破って突撃!これがぼくの愛です……!
●愛の戦い
「……見たところ、戦闘型レプリカント。私は見た目に惑わされて手加減は致しませんよ!」
物腰は柔らかいが、アームド・サイコブレイカーの視線からはギラギラとした欲望が滾っていた。
狐々愛・アイ(f36751)はそれを察し、微笑を浮かべる。
(己の欲に生きるヒトの姿は美しいものです。勿論、貴方も……)
眼前の巨腕の男は愛すべきヒトの美しさを体現していた。
だが、彼はヒトに仇なすオブリビオン――虐殺行為に及ぶ前に止めるべき存在だ。
ヒトを愛し、ヒトの味方として戦う道を選んだアイにとって、愛すべき『敵対者』でもあった。
「愛するからこそ、ぼくは貴方を倒します。さぁ、やりましょうか!」
そして、決戦の火蓋が切られる。先に動いたのはアームド・サイコブレイカーだった。
「喰らえ、バーストハンマー!!」
演技じみた態度で大げさに技名を叫び、スクラップの山頂から跳躍すると、落下の勢いを利用し、アイの直上から振り上げた右の巨腕を叩きつけ――。
(くっ!)
インパクトの直前。愛用のフロートボード「AIBoard」に乗って、後方に退くアイ。
――ドォオオン!!
だが、その衝撃は凄まじかった。
倉庫の床として一面に敷かれた分厚い鉄板に大きな凹みをつくり、衝撃波とともに地響きが発生。そして――。
――ゴゴゴゴゴ……!
轟音を立てて雪崩落ち、床に散らばるスクラップ。
それらは遮蔽物になるほどの高さはなかったが、近接攻撃を避けるために距離を取ったアイを攻撃する「礫(つぶて)」としては最適だった。
そして、サイコブレイカーはスクラップの背後から巨腕を振りかぶり――。
「せいっ!」
力任せに殴る。瞬時に破壊されたスクラップの破片が散弾のように飛散。フロートボードで浮遊するアイに襲いかかる。
「うわっ!」
即座に反応しギリギリで躱すも、金属片が腕をわずかに掠め、肝を冷やすアイ。
「わははっ! よく回避しましたね。しかし、防戦一方では私には勝てませんよ!」
巨腕の男は勝ち誇ったように笑いながら、近くのスクラップ塊を乱打して「礫(つぶて)」を飛ばし、アイを追い詰めていく。
(このまま投擲物を食らい、その隙に接近されて、あの拳で殴られたら……)
一瞬でスクラップの仲間入りだろう。
最悪のシナリオが脳裏をよぎるも、アイはこの状況を打開するための策を冷静に考えていた。
(……ならば狙うはカウンターです!)
リミッター解除。AIBoardの出力が限界を突破し、アイはアームド・サイコブレイカーに照準を合わせ――。
「受け取ってください! これが、ぼくの気持ちです!」
ユーベルコード『L.O.V.E.Dive(ラブダイブ)』を発動。
その瞬間、アイの愛情を源泉とするエネルギーが迸り、全身を包み込む。
そして、愛のオーラを纏ったアイは「愛の弾丸」となりマッハ8を超える速度で突撃――。
「なんだとぉおおお!!」
正面から迫りくる高速飛翔体に驚愕の声を上げながら、サイコブレイカーは巨腕を振り回してスクラップの弾幕を張る。
しかし、音速の壁を遥かに超え、空力加熱による熱気を帯びたアイには通用するはずがなかった。
飛来するスクラップの礫はアイに衝突すると、融解しながら弾き飛ばされる。
だが、アイも全くの無傷というわけではない。超高速飛行で凄まじいGがかかり、全身が悲鳴を上げていた。それでもアイの愛は止まらない。
「これがぼくの! 全身全霊の愛情だぁあああ!」
「返り討ちにしてくれるわぁああ!!」
アームド・サイコブレイカーも巨腕に念動力を宿し、拳に力を込める。
そして、激しい衝突音が鳴り響き――。
――ぐぁああああああ!!
高密度の愛がこもった一撃に穿たれ、後方へと吹き飛ばされたのは、巨腕の男だった。
アイは即座に受け身を取って衝撃を緩和し、事なきを得る。
まさに「愛の力」の勝利。敵はかなりの損傷を受けているだろう。
しかし、その代償は決して小さくはなかった。
疲労困憊で息も絶え絶え。フロートボードも推力を失いつつあった。
ここは引くべき状況だろうが、その瞳からはまだ闘志は消えていない。
(まだ、ぼくの愛を貴方に伝えきれてはいませんから!)
肉体は疲弊していても「愛」は無尽蔵に湧き続け、アイを戦いに駆り立てていく――。
大成功
🔵🔵🔵
天宮・紫苑
ここで倒して殺戮を止めます。
「殺戮なんて、やらせません」
スライムから引き続き、相手の場所に行く前からUC【黒影剣】で姿を隠したまま行動します。
すぐに攻撃を仕掛けるのではなく、他の猟兵との戦闘など様子を窺いながら、隙をみて攻撃。
姿を隠したまま隙を窺い、攻撃を仕掛け、【黒影剣】で姿を隠しながら距離をとる。
これを繰り返して確実にダメージを与えます。
「こちらを殺すのは構いませんが……貴方も殺される覚悟はできていますよね」
UCの危険性は把握しているつもりです。
なにせ、私がUCを多用していますからね。
なので、攻撃より回避を優先します。
特に敵のUCは最大限に警戒し、回避を優先。
無理な時は防御します。
メイリン・コスモロード(サポート)
『一緒に頑張りましょうね。』
人間の竜騎士×黒騎士の女の子です。
普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「対人恐怖症(ワタシ、アナタ、デス、マス、デショウ、デスカ?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
人と話すのに慣れていなくて
「えっと……」とか「あの……」とか多様します。
戦闘ではドラゴンランスを使う事が多い。
その他、キャラの台詞はアドリブ等も歓迎です。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●前門の虎、後門の狼
(あれがラガラルド社のカンパニーマン……私たちが止めるべき敵ですね)
力と恐怖でダストエリアの支配を目論む新興企業ラガラルド社。
ここで止めなければ、おそらく予定通りヤドリギ街区での殺戮が行われるに違いない。
「殺戮なんて、やらせません!」
敵のアジトの倉庫に「潜入」した天宮・紫苑(f35977)は、他の猟兵と戦う『アームド・サイコブレイカー』を見据え、決意を新たにする。
紫苑は既にユーベルコード『黒影剣』を起動し、視聴嗅覚の感知を無効化する「闇のオーラ」をまとい、大太刀『闇纏』を抜き放っていた。
そう、彼女にとっての「戦い」は既に始まっているのだ。
❖
「ほらほら! そんな防戦一方では私には勝てませんよ!」
巨腕をガンガンと振り回し、激しく攻め立てるアームド・サイコブレイカー。
対するのは一人の竜騎士――メイリン・コスモロード(f13235)だった。
(くっ! この人、圧がすごいですね……)
接近すれば豪腕から放たれる重い拳の攻撃。離れれば、庫内に散乱するスクラップを殴り壊し、金属片を散弾のように撒き散らす。
一見して力任せの攻撃が主体に見えるが、実際には緻密な計算で動いているようだった。
とはいえ、メイリンとて幾度も死線をくぐり抜けてきた竜騎士。
敵の怒濤の攻撃にも怯まず、ドラゴンランスの柄を使って器用に受け流していた。
今は防御重視の戦闘スタイルで耐え忍ぶとき。その目的は敵の動きを見極めるためだ。
すると、次第に敵の動きにも目が慣れ、反撃の機会も生まれてくる。
「はっ!!」
敵の右拳を躱し、カウンターの突きを放つメイリン。
ガキッ。硬質な音がして、ランスの穂先が穿ったのは左の肩パット。
「馬鹿め!」
咄嗟の体捌きで刺突攻撃を肩で受けたアームド・サイコブレイカーは即座に槍の柄を掴み、そのまま怪力でメイリンを投げ飛ばす。
「きゃっ!」
宙に放り出されたメイリンは「軽業」の要領で空中でクルリと一回転。体勢を立て直して足から難なく着地するも、着地直後の無防備な瞬間を狙い撃ちすべく、サイコブレイカーは巨腕を振り上げて地面を蹴り――。
(そうはさせません!)
「うがっ!!」
そのまま前につんのめる。突然、背後から何者かに太ももの裏を浅く斬りつけられ、バランスを崩したのだ。
「後ろか!」
背後の気配を察知して裏拳を放つも、そこには誰もいない。
敵の攻撃を妨害するために斬撃を放った紫苑は即座に射程外に退き、既に闇のオーラで自らの存在を隠蔽していた。
「まさか、こいつは……」
暗殺者。アームド・サイコブレイカーの額から汗が流れ落ちる。猟兵とメタリックスライムの戦いをライブドローンで監視していた彼は、スライムを背後から襲っては消える、何者かの存在をおぼろげに目撃していた。そいつが今近くにいるとしたら……。
「どこを見てるんですか!」
思考を遮るように正面からランスチャージで突っ込んでくるメイリン。
「くっ!」
サイコブレイカーは、なんとか左右の巨腕でガードしてギリギリで受け止めるも、再び背後から暗殺者が忍び寄り――。
「それでガードしたつもりですか?」
ボソリとつぶやく。
「何だと……ぐはっ!!」
声に気づいたときには、サイコブレイカーは背中から袈裟斬りで斬られていた。
再び、反撃に裏拳を放つも、当然そこには誰もいない。
「ぐぬぬっ!」
歯噛みして悔しがるサイコブレイカー。
視聴嗅覚での感知を無効化して忍び寄る紫苑の存在は、脅威だった。
背後から突然、斬られるかもしれない。常に危機意識を持ち続けなければならないのだ。
戦闘に与える心理的影響は計り知れない。
さらに『黒影剣』の生命力吸収効果を受け、彼は少しずつ体力を奪われていく。
❖
(くっ! 何だこいつらは……無意識に連携してるのか!? このままでは俺様は……)
負ける。アームド・サイコブレイカーは完全に戦いのペースに握られ、焦りの表情を浮かべていた。
「前門の虎、後門の狼」ならぬ、前門の竜騎士、後門の魔剣士。
二人の戦士に前後から挟み撃ちにされ、サイコブレイカーは徐々に手傷が増え、心身ともに消耗し、いら立ちを募らせていく。そして――。
「おのれぇええ! 貴様らなど殺してやるわ!」
ついにブチ切れる。
本性を露わにしたサイコブレイカーは巨大な両腕を荒っぽく振り回して二人を牽制すると、巨腕に超念動力を宿し、両腕をハンマーのようにして床に叩きつける。
――ズドォオオオオン!!
轟音とともに金属製の床に衝撃波と振動が伝播し、庫内のスクラップがガタガタと揺れる。
まず衝撃波で敵を足止めし、その隙を突いてスクラップ片を360度に撒き散らせば、敵が見えなくとも大ダメージは必至だろう。だが、その算段が実現することはなかった。
「……こちらを殺すのは構いませんが……貴方も殺される覚悟はできていますよね?」
頭上から降ってくる冷ややかな言葉。地面に両腕が叩きつけられる瞬間、紫苑は闇のオーラを身に纏ったまま高く飛び上がっていたのだ。
「なんだとぉおおおおお!!」
そして、紫苑は急落下とともに上段から大太刀を振り下ろし――。
――ぎゃぁああああ!!
庫内に響く絶叫。だが、アームド・サイコブレイカーの受難はまだ始まったばかりだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クリム・フラム
アドリブ・連携歓迎
「困りましたね、力押しされたらどうしようもありません!」
UC「炎祭りの終宴(スベテヲヤキツクスオワリ)」の不規則な炎に混ぜ込んだ【弾幕】【レーザー射撃】による攻撃で牽制して飛んでくるスクラップの狙いを絞らせないように遠距離戦を徹底します。
「ところでこのスクラップ、バッテリーとか燃料の類は適切に処理されてるのでしょうか?」
周りに広がった炎で自分で自分の逃げ場を封じたように見せかけてから、
一斉にUCで炎を操作して【焼却】と【爆破】による攻勢に出ます。延焼した分は消して工場の全焼は避けます
●炎の戦い
「まだまだショーは始まったばかりです! 私のパーフェクトヴィクトリーをご覧あれ!」
表向きは余裕たっぷりの「演技」をしていたが、アームド・サイコブレイカーは猟兵たちの猛攻を受け、内心で焦りを覚えていた。
不甲斐ない戦いを見せすぎた。カメラの向こうの「観客席」はさぞかし冷えてるに違いない。
肉体へのダメージは決して小さくはなかったものの、殺戮ショーの演者としての意地でなんとか戦い続けていた。
そんな中、サイコブレイカーは一人の少女に目を留める。
(ふっ、弱そうなガキだな。まずはこいつを血祭りに上げて勢いづけるか……ここいらで俺様の実力を示し、観客席を温めないとな!)
狙いを定めたのは齢10歳の少女――クリム・フラム(f36977)だった。
「困りましたね、力押しされたらどうしようもありません!」
敵の強さに驚くクリム。だが、同時に弱者を侮蔑するような視線も感じていた。
「確かにわたしは子供ですが、ただの子供ではありませんよ!」
クリムは心に炎を宿して睨み返すと、障害物のスクラップを巨腕でなぎ払いながら一直線に突進してくるサイコブレイカーに応戦すべく、ユーベルコード『炎祭りの終宴(スベテヲヤキツクスオワリ)』を発動。85個の「祝福の炎」が周囲に召喚され、不規則な軌跡を描いて標的へと飛んでいく。
「ぐぬっ! なんだこの炎は!」
サイコブレイカーは突然出現した炎の群れに驚き、急制動。
反射的に巨腕をバタつかせて振り払おうとするも、炎は予測しづらい軌道で動き回り、攻撃をすり抜けてしまう。
「この炎は気まぐれですので、一筋縄ではいきませんよ!」
「ぐぬぬっ! こんな炎など痛くも痒くもないわ!」
悔しげに叫ぶと、サイコブレイカーはサイキックエナジーを放出。稲妻のオーラを宿す「鎖」を具現化し――。
――バチッ!
唐突に電光が弾け、放射状に飛び散る稲妻の鎖。それは庫内に散乱するスクラップの塊に次々に命中し、電流のようなサイキックエナジーを流し込んでいく。
そして、強力な念動力で操られたスクラップ塊が、巨腕の男の周囲にふわりと浮かび上がる。
「ハハハッ! キミは私を甘く見ていたようだな。このままスクラップの下敷きになるがいい!」
形勢逆転だとばかりに高笑いをするサイコブレイカー。
(これは強力な技ですね……ですが、まだわたしにも手札は残っています!)
視界を埋め尽くすほどのスクラップ塊。これに対してクリムは、百科全書『閃光の章』を開き、レーザー魔法を繰り出す。
――ドンッ!!
敵の近くのスクラップ塊をレイザー光が撃ち抜くと、炸裂弾のように弾け、金属片が飛散。弾幕となって降り注ぐも、サイコブレイカーは両腕の巨腕であっさりとガードしてしまう。
「これで私を撹乱したつもりか! 所詮、子供騙しに過ぎんわ!」
(これはただの布石。勝負はこれからです!)
敵が視界を覆った隙に距離を取ったクリムは、炎と爆発で撹乱しながらレーザー魔法を乱射し、次々にスクラップ塊を破壊していく。
そして、ついに「仕込み」は完了する。
❖
「クククッ、ついに逃げ道がなくなったな!」
勝ち誇ったようにほくそ笑むサイコブレイカー。
クリムはいつの間にか、何かに引火したと思しき炎に囲まれ、身動きが取れない状態となっていた。
だが、クリムは動じた様子は全くなかった。
「……逃げ道がなくなったのはあなたのほうです!」
「何だとぉお!」
彼の周囲には逃げ道を塞ぐように配置されたスクラップの山。その裏にいつの間にか潜んでいた「祝福の炎」が最大火力で一斉に襲いかかる。
「うごごごぉおおお!!」
直撃を受け、炎に包まれるサイコブレイカー。
「……ところでこのスクラップ、バッテリーとか燃料の類は適切に処理されてるのでしょうか?」
ポツリとつぶやくクリム。そして、追撃のレーザー魔法を連続で放ち――。
――ドゴォオオオオン!!
敵の周囲に飛散していた揮発性オイルを巻き込んで大爆発を起こす。
「ぐぎゃあああ!!」
まるで映画のクライマックスのような、大迫力の爆破シーン。
そのメインキャストとなったサイコブレイカーは、カメラの向こうの「観客席」を大いに失望させたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
水衛・巽
アドリブ可
…素朴な感想ですけど
その腕、ものすごく重そうですよね…
ともかく、またもあまり近付かれたくない相手ですし
足元が安定した場所を選び、距離を保ちます
ふらついて殴られたらおおごとなので
霊符・縛で動きを阻害し、焦れるのを待ちましょう
一流の演者ならば一流の勝ち方をしたらどうです
機械化義体もない生身の人間に手こずるとは
ラガラルド社とやらも大した事はないようで
挑発に乗ってくれれば御の字ですが
乗って来ずともそこはそれ、玄武の出番です
尾で拘束し、振り回しからの叩きつけを狙いましょう
…ああ、大層重そうな腕だったので
避けて縛らせてもらいましたが
遠心力って怖いですね
重い物は、特に
●剥がれ落ちる仮面
「……見たところ、まだ元気なようですね。あれも『演技』なのでしょうか?」
少し離れた位置から敵の状態を分析していたのは、水衛・巽(f01428)だった。
この戦いを殺戮ショーと豪語し、余裕たっぷりな表情で演技じみた台詞を吐くアームド・サイコブレイカー。猟兵たちの猛攻を受けて満身創痍のようにも見えるが、まだ余力を残しているようにも見える。周囲には足を取られそうなスクラップも散らばっており、油断大敵だな、と巽は気を引き締める。
すると、突然、サイコブレイカーの殺気立った目が巽を捉えた。
「次はお前だ! 今の私は無敵! 絶対に負けはしないのだぁああ!!」
怒号のような叫び。その双眸は血走り、テンションが急上昇したように見えた。
それは当然のことだった。追い詰められた彼は奥の手とばかりに体内に仕込んだ『興奮剤』を自らに注入し、リミッターを解除したのだから。
(エンドルフィンの過剰分泌で、今の俺様には痛みはない。だが……)
ランナーズハイの原因物質とも言われるエンドルフィン。
一時的に麻酔薬のような効果をもたらし、すべての苦痛を取り払う。
しかし、その代償は決して小さくなかった。
(この状態は長くは持たない……速攻で奴らを皆殺しにしてやる!)
アームド・サイコブレイカーはなりふり構わず利己的な殺意を滾らせ、巽に襲いかかるのだった。
❖
「おのれ! ちょこまかとぉおおお!!」
巽を狙いを定めたサイコブレイカーは巨腕を振り回し、あちこちに散乱するスクラップを弾き飛ばしながら急襲を仕掛ける。
対する巽は足元に気を配りながら走り回り、一定距離を保っていたが、間合いは徐々に縮まりつつあった。
(さて、少し揺さぶりをかけてみましょうか……)
猪突猛進に向かってくる敵は、視野が狭くなっている。
巽は相手の死角を狙い、さりげなく『霊符・縛』を投げる。
小さな風切り音を発しながら霊符は飛翔し――。
「うぎゃっ!」
左脚の太ももに命中。その刹那、左脚部の筋肉が硬直し、バランスを崩したサイコブレーカーはスクラップにヘッドスライディングするかの如く、すっ転ぶ。
「ぐぬぬ!」
太ももの違和感に気づき、霊符を剥がしながら立ち上がるとサイコブレイカーは怒気を帯びたまなざしを巽に向ける。
敵が転んだ隙に後方に退き、距離を取っていた巽は不敵な笑みをこぼす。
「ふふっ、なかなかのコメディアンぶりですね」
「何だと!」
「あなたはこの戦いの中で幾度も『自分は一流の演者だ』とおっしゃっていましたが、私にはそうは見えません」
「何を馬鹿なことを抜かすか! 私こそが、このショーの主役! パーフェクト・アクターなのだぁああ!」
「冷静にご自分を見てください。今のあなたは『道化』そのもの……一流の演者なら一流の勝ち方をしたらどうです?」
嘲笑を浮かべ挑発の言葉を次々に繰り出す巽。対するサイコブレイカーは――。
「糞がぁあ!! 『俺様』を愚弄するとはいい度胸だなぁああ! 何もかもぶっ壊してやるぜぇええ!」
ついにカンパニーマンの仮面を自ら剥がし、本性を現す。
最早、自分の立場などどうでもいい。コイツらは絶対にこの手で捻り潰す!
そして、サイコブレイカーは超念動力を両腕に宿すと、両腕を左右に広げ、独楽のように回転を始める。
――うぉおおおおお!!
野獣のような雄叫びを上げながら、巨腕の男は容赦なく周囲のスクラップを蹂躙し、広範囲に金属片をばら撒いていく。
(そろそろ頃合いか……)
「来い! 玄武!」
好機と見逃さず、巽が召喚したのは凶将・玄武。
虚空が歪み出現した亀の如き神獣は、その岩山のような巨体を活かして『盾』となり、飛来する金属片から巽を護ると、その尻尾の黒蛇を「北方七宿へ繋ぎ止める水の縄」へと変異させ、敵に放ち――。
「うがっ!!」
命中の瞬間、水の縄から無数の棘が飛び出し、サイコブレイカーの巨体を容赦なく突き刺す。
それでも回転を止められず、巨腕の男は自らの回転で水縄を体に巻き付け、身動きが取れなくなってしまう。そして――。
「これがあなたにとっての『ラストシーン』になるかもしれませんね……」
巽が冷ややかに言い放つと、玄武は尻尾の水縄を容赦なく振り回し、金属の床に何度も叩きつける。
「ぐわぁあああああ!!」
床に叩きつけられるたびに全身に数百もの棘が食い込み、激烈な痛みをもたらす。
完璧に拘束されたサイコブレイカーにはこの攻撃から逃れる術も、余力も残されてはいなかった。
最早、その命は風前の灯火――。
ダストエリアの支配を目論んだ「一流の演者」が無様な断末魔の声を上げて果てる姿は、ラガラルド社の本社で最後まで生中継され、「観客席」からは悲嘆の声が漏れるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
●後日談
猟兵たちの活躍により、ラガラルド社の野望は打ち砕かれた。
後の調べによると、数々の人気イベントを手がけるラガラルド社は、ダストエリアの全域を使っての「サバイバル鬼ごっこ」を運営するためにダストエリアの支配を目論んでいたという。
要するにラガラルド社の幹部の思いつきで始まった侵略計画だったが、アームド・サイコブレイカーの失態によって頓挫することとなり、ダストエリアは平穏を取り戻しつつある。
一方、ヤドリギ街区に拠点を置くヤクザ組織では、ベルモンド大親分が今回の事件を招いた責任を取り、隠居を表明。
裏切りが発覚した若頭ジョニー以下、「若頭派」として活動をしていた構成員たちは相応の処分を受けることとなった。
そして現在、組織は複数の有力幹部から成る「幹部会」の下で、破壊されたドクダミ街区の居住区の復興が進められている。ベルモンドは「顧問」として組織運営を陰で支えながら後進の育成に力を入れているという噂だ。
――ワシが生きているうちに、あの若者たちのような後継者を育てんとな。そうすればダストエリアの将来も安泰じゃろうて……。
猟兵たちとの出会いをきっかけにベルモンドは密かに決意していたのであった。
(了)