●それは1gのアルミニウム
――アンタ、腕が立つんだろ?
助けてくれよ。
俺達は騙されちまった!
汚ねえ水を啜る生活から抜け出せるって信じてたんだ!
でも、裏切られた!
奴らは俺達っていう手足が欲しかっただけだった。
逆らったやつはみんな殺された。
暖かい毛布なんてなかった。
コンクリートの床がベッドだった!
透き通った水なんて嘘っぱちも良いところだった。
みんな、みんな嘘だった!
でも「あいつ」だけは助けてほしいんだ。
ずっと、一緒に生きて来たんだ。
あいつだけは生きていてほしい。
だから……助けてくれよ!
……へへ、コイン一枚か。
悪ぃこれしかねえや。
脱出するのに精いっぱいで、何もかも置いてきてしまったからな。
すまねえ、これしかねえ――でも、助けてくれよ!
アンタしか……アンタしか、他に頼める奴はいないんだ。
だから……だから……へへ、ざまあねえや。
血がもう止まらねえ、腹を撃たれてずっと走りっぱなしだったしな。
もう、俺はだめだ。
後はアンタに任せるよ。
あいつを……あいつを……みんなを……助け……て……く……。
●グリモアベース
男が一枚のコインを指で弾き、そして掴んだ。
「顛末は以上だ、君達はどうしたい?」
グリモア猟兵、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)が問いかける。
「私は特に干渉しない。君達に今回の話をして選択を委ねるだけだ」
いつの間にかタイプライターで打ち込まれた資料。
それが猟兵の前に滑り込む。
「今回の事件に関わっている企業の名は『ホホエミ・リサイクル』、メガコーポ『ホホエミ・ホールディングス』の子会社だ。そこが人を集めてやっていることは骸の海からの残骸の引き上げ。企業間抗争で出来上がったサイバーザナドゥの残骸を回収し、安物のパーツを作ってのリサイクル販売。材料は海の下に転がっていて、人件費は安く済む……払う前に死ぬからね」
グリモア猟兵は作り笑いを浮かべ、眼鏡の奥の眉を歪める。
「まずは人々をかき集めてホホエミ・リサイクルに引き渡した仲買人を探してくれ。ちなみに彼も今回の事実は知らない。つまらないことに立ち入ったら死ぬ事と商売は信頼が大事だと知っている人間だ。敢えてラインを引いているのさ……まあ自分の生き方を持ってはいるだろうが」
渡された新たな資料に添えられたのはくたびれた中年男の写真。
「彼はすぐ見つかるし、交渉は君達に任せる。そこから人々が働かされている工場へと乗り込んでくれ。勿論手厚い歓迎が待っている。そしてそこがチャンスだ」
そこで初めて探偵屋の目が笑う。
「ホホエミ・リサイクルの社長がちょうど良く視察に来るんだ、そいつを棺桶に投げ込めば、企業は無くなり事件も終わる……汚点は無かったことにされるからね」
こわいこわいと肩を竦めて、タイプライターのレバーを倒すとグリモアの門が開かれる。
「これは良くある話だ。だけど放置して良い話でもないだろう?」
グリモア猟兵が問いかける。
「君達が自分の生き方に正直であるならね」
みなさわ
誰もが自分の生き方に正直で在りたいと願っているだろうと信じる。
御世話になっています、みなさわです。
この度はサイバーザナドゥでの一幕を。
●お話
サイバーザナドゥにてよくあるであろう話です。
冒頭にて彼は死に、「あいつ」は今を生きるのが精一杯で彼がどうなったかは知りません。
だけど、目を逸らせば「あいつ」は死ぬでしょう。
●流れ
第一章にて人集めを引き渡しを行った仲介人に接触します。
方法はお任せしますが仲介人は「真相を知りません」
第二章は工場を襲撃します。
工場はかつて企業間抗争があった土地に建てられ、骸の海が地下に流れ込んでいます。
人々は地下で働かされ、オブリビオンの監視下に置かれております。
その場に着いたら、貴方の心のままに。
第三章はたまたま視察に来た『ホホエミ・リサイクル』の社長との戦闘です。
社長もオブリビオンで事件を隠蔽するために猟兵を労働力と一緒に骸の海へと放り込むことに躊躇はありません。
●彼からコインをもらいたいですか?
もらう事は可能です。
希望した人数分、脱走に成功した人間がおり、彼が一緒に生きて来た人もその数だけいるでしょう。
●その他
マスターページも参考にしていただけたら、幸いです。
それでは皆様、よろしくお願いします。
第1章 冒険
『売人を探せ!』
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POW : 足を使って売人を探し回る
SPD : 購入者から売人の情報を得る
WIZ : 電脳空間で売人の情報を集める
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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●ある仲介人の一日
汚染された空気が人工咽頭によって濾過され、まだ生身で出来た片側の肺に酸素を送る。
時折、咳き込んでしまうのはフィルターの交換の時期が迫っているってことだろう。
『俺』の一日はいつもこんなもんだ。
人、物、情報の仲介。
綺麗なものを汚いところへ、ヤバいものを真っ当なものへ、危ない話をもっと危ない奴へ。
俺はそんな仕事をしている。
勿論、順風満帆とは言えない。
仕事をしくじれば自分のサイバーザナドゥが増えて、金が減る。
情を傾けても同じ事。
ここがそういう『世界』だと知ったのは、青臭い情熱が燻り消えた時だった。
フリーの人間がやれることは限られる。
大きくなればコーポレートの声もかかるが、生憎と彼らも好きになれなかった。
だから俺は「立ち入らない」ことにした。
売り手にも買い手にも、依頼人にもターゲットにも。
ラインを引いてそれ以上は足を踏み入れない。
冒険野郎は動画の向こうだけで充分だ。
死にはしないが引き換えに得られないものもある。
その結果がある程度の信用と適度に重用されない信頼。
自分の生き方を続けた結果がこれだ。
まあ悪くはない……死んでないからな。
けど、今日は違った。
時々居るであろう『違う理由で動く奴』が俺に近づいてきたのだから。
「……なんだい、俺に用事か? どこで俺にたどり着いた? 仕事か? 其れ以外か? 教えてくれるくらいは良いだろう?」
場末のバー。
ただ酔うだけのアルコールと炭酸を混ぜたドリンクを片手に俺は問いかけた。
先手を振れば、相手は話す。
相手が話せば、俺はラインを見極める。
いつも通りにやればいいさ。
いつも通りに……。
リューイン・ランサード
(状況がよく判らない内に彼からコインを受け取り)
この世界は初めてなのに、どうしよう<汗>。
でも、見過ごす訳にはいかないですね。
ご冥福を祈ります(と可能な範囲で彼を埋葬)。
仲買人を捜して、人々が働かされている工場の場所を聞きましょう。
UC:式神具現で禄郎さんに見せて貰った写真の人を捜索します。
見つけたら「貴方の仲介で知り合い(=彼)が働くことになった場所に僕も行きたいのですが、教えてくれませんか。」と聞いてみます。
理由を問われたら「(猟兵としての)仕事で報酬を得たいので。」と返答。
嘘は言いませんが、全てを話してもいません。
この方が仲買人にとってはあまり抵抗無く教えてくれるかなと思いましたので。
●リューイン・ランサードの選択
受け取ったのは1gに満たないコイン。
人も世界も汚れ切った未来都市サイバーザナドゥの地にて、リューイン・ランサード(波濤踏破せし若龍・f13950)は託され、そして戸惑う。
初めて足を踏み入れた世界でいきなり助けを求められたのだから仕方がない。
もし一人で無かったら迷わなかったかもしれない。
けれど今は一人……ならばこそ。
「でも、見過ごす訳にはいかないですね」
少年は自分らしくあろうとした。
最初に行ったのは死んでいった者の目を閉ざしてやること。
土に埋めるには大地は汚れすぎ、灰に返すには人目がつきすぎる。
だからこれがリューインに出来る事だった。
仲買人はすぐに見つかった。
写真もあり、ユーベルコードを使えばたどり着くのはそう難しくはない。
問題はここから。
物事にラインを引いて生きて来た男にどう接するか。
まずは仲買人の人となりを探る必要があった。
「貴方の仲介で知り合いが働くことになった場所に僕も行きたいのですが、教えてくれませんか」
「知り合い?」
見えない探りを兼ねたリューインの頼みに仲買人は首を傾げた。
「悪いが仕事の相手も仕事の内容もはいそうですかと教えられないんだ。第一、お前が誰の知り合いかもわからねえ。すまんな」
男の対応は当然であった。
ラインを引くという事はそこから出ないということ。
故に向こう側からは届かない。
だからこちらが歩み寄る必要があった。
「失礼しました。ホホエミ・リサイクルの仕事の件です」
「ああ、あれか!」
リューインの言葉に仲買人は手を打ち。
「で、そこに行ってどうする?」
さらに問いかける。
見えない拒絶。
答え次第では体よく追い払われるだろう。
「仕事で報酬を得たいので」
少年は嘘はつかなかった。
だが猟兵としてコインという名の報酬で請け負った仕事とは言わなかった。
そうすることが抵抗無く教えてくれると判断したのだから。
「…………」
男の目が細まり、リューイン・ランサードを見る。
それは値踏みかもしれない。
それはビジネスとしての経験からの判断かもしれない。
どちらにしても……
「分かった。ちょうど人が足りないと連絡が来ている。話を着けよう」
仲買人は考えるのを止めた。
少年がどうなろうと知る気は無い。
彼が望み、そして希望の場所に空きがあるなら繋ぐだけだ。
男の生き方にリューインは合わせることを選んだ。
成功
🔵🔵🔴
ユリコ・スターズ
※アドリブ歓迎
WIZ判定
・行動
売買の記録をUCを使って手繰り、紹介人の居場所を特定
現地で顔を合わせて仲介した工場の場所を聞き出す
・セリフ
お前に仕事を紹介されたって相手からの訴えでね
その現場へ行って調査しなくちゃならない
揉め事になるかもしれんから
誰かに通報するような真似はしないでくれると助かる
既定の料金は払うから私にも其処を紹介してくれればそれでいい
お前はそれが仕事だろう?
別にお前を責めようとは思わない
皆それぞれのラインを引いて生きている
私も掛替えの無いものを失うまでは同じようなものだったし
今の生き方だって人に褒められるようなものじゃない
自分に納得が出来る様に生きようとしているだけだからな……
●ユリコ・スターズの選択
仲買人が端末をタップし、つまらなそうな顔でアルコールを流し込む。
シェリフが視界に入り込んだのは酔いのせい……ではないようだ。
……どうやら長い一日になりそうだ。
男は心の中で毒を吐いた。
「お前に仕事を紹介されたって相手からの訴えでね」
古臭い保安官スタイルの女――ユリコ・スターズ(シェリフズスター・f36568)が仲買人の向かいの椅子に座る。
「その現場へ行って調査しなくちゃならない」
「……ドッグ? それとも5-Oか?」
ユリコの風体を見て男が問いかける。
お前は警察なのかと?
「マークだ」
傭兵だとヴィジランテは返した。
バッジも何もかも形見の品。
自身を貫くには法という名の制服はサイズが合わなかった。
「揉め事になるかもしれんから、誰かに通報するような真似はしないでくれると助かる」
あくまでもビジネスライクにユリコは交渉のカードを切っていく。
「既定の料金は払うから私にも其処を紹介してくれればそれでいい」
情報には報酬を。
「お前はそれが仕事だろう?」
仕事の流儀には流儀を。
「ああ、確かにそれが俺の仕事だ」
男の目は遠くを見ていた。
敢えて目の前を見ないようにしていた。
そうすることで突きつけられるものが見えなくなるのならと。
「別にお前を責めようとは思わない」
ヴィジランテの声が現実へ引き戻した。
思索に酔う時間はない。仕事を頼まれているのだから。
「皆それぞれのラインを引いて生きている」
「ああ、そうだな……」
携帯端末から情報をデータチップに吸い出しつつ仲買人は答える。
「場所もルートもチップにつめ込んだ。それ以上の事は俺も知らねえ。すまないな」
「充分さ」
差し出されたデータを受け取りユリコが返した。
「私も掛替えの無いものを失うまでは同じようなものだったし、今の生き方だって人に褒められるようなものじゃない」
ヴィジランテがチップを握りしめつつ話す言葉から男は逃れられない。
「自分に納得が出来る様に生きようとしているだけだからな……」
「……昔話か?」
仲買人が一言問いかける。
「昔話だ」
ユリコも一言で答え、そして踵を返した。
猟兵が去り、仲買人がアルコールの流し込む。
苦い味がした。
……クソみたいに苦い味が。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
なるほど……身の丈に合った生き方、ってヤツか。
ま、それについて私がどうこう言う筋合いもないわね。
冒険するにはそれ相応の力が必要だし、誰もがその力を持っている訳でもないもの。
適当な酒を注文しつつ仲介人に接触
(多分不味いだろうけど表情は変えずに平然と呑む/酒には強い)
こちらも一線を引き、あくまで用事は「ホホエミ・リサイクル」への仲介であると伝える
詳しい話を聞きたいなら話してあげてもいいけれど、知らない方が多分彼もやりやすいでしょうし
必要最低限の話を付けたら、仲介の謝礼として彼の分を含めた酒代とメモを置いて席を立つ
文面は「近く 微笑みは 消える」
……これだけでも、後は上手い事やるでしょ。
●荒谷・つかさの伝言
仲買人のアルコールが空になる。
酔いが欲しい……
もう一杯、オーダーを送るとグラスとそして女が一人来た。
「良いかしら?」
着色された酒で彩られたカクテルグラスを片手に荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)が正面に座った。
つまりは仕事だっていう事なんだろう。
どうやら酔えそうにはなかった。
「あくまで用事はホホエミ・リサイクルへの仲介だけ、それ以上は求めないわ」
そう告げてつかさはカクテルグラスを傾ける。
酒に似つかわしくない甘さと痺れるような刺激の後味がしつこく、口の中から消えない。
仲買人がチェイサーを差し出すとそれに甘えることにした。
「ここでカクテルを頼むなんざ、ハイになりたい奴くらいなもんだ」
「……次は違うものを頼むことにするわ」
羅刹が顔を顰めて応えた。
ちなみに水は臭かった。
「ホホエミ・リサイクルの仕事が多いな……まあ最近はあちらさんも業務拡大に励んでいるし、そういう事なんだろう」
「そういう事なんでしょうね、きっと」
仲買人の言葉に対してつかさが踏み込まない答えを返す。
それ以上、応えることもなく、そして問いかけることもない。
「……そういう事なんだな。ならばこちらもやりやすい」
それならばと携帯端末を操作しつつ、男は新品のデータチップを開けた。
新品をここで開封するのは自分が手を加えていないという名のポーズ。
勿論、チップ一つどうとでも弄ることは可能だが、表面上でも行動することで避けられるものはあるのだ。
「…………」
――こうやって、この男は今までラインを引いてきたのね。
心中にて羅刹が呟いたところで手元に情報を落とし込まれたデータチップが滑り込んだ。
「先方には連絡した。チップにはこちらからの仲介の文面と署名を入れておいた」
「……意外にアナログね」
仲買人の行動に対し、つかさが素直な感想を漏らしデータを受け取る。
「重要なデータは送るより運ぶ方が安全なのさ。クラッキングされないようにな」
「つまり……ここの伝票と同じって訳ね」
男の言葉に理解を示し、羅刹はテーブルの伝票を奪い取った。
電子の海を介すのは便利ではあるが全てに都合がいいわけではない。
だからこそ物理での受け渡しや紙の伝票も需要がある。
こういう店にはそれが都合よく。
「仲介の謝礼がわりよ」
荒谷・つかさにも都合がよい。
仲買人の目の前に残っていたメモには一文のみ
「近く 微笑みは 消える」
メモに視線を奪われた男が店内を見回すと、もう女の姿はなかった。
「…………なんだってんだ」
残ったのはかつて忘れた何か。
成功
🔵🔵🔴
テレスコール・セグメント
ひとまず人を大勢集めて……それから目視で探せばいいかな?
あたしはアクセラレーター・アシッドの「嗤うアルビレオ」を使って、ユーベルコード【save_data.spica;】を利用するね
街の一区画、上空に大量の星を浮かべて留めて人目を惹くよ
……だってこの世界に、綺麗な星空なんてないんだもの
写真からその人を見つけたら、そのまますぐ頼むだけ
あたしは貴方の生きる領域に干渉する気はさらさらないし、しても得なんてないし
持ち主も所属コーポもない無謀なはぐれレプリカントを、死地に押してほしいだけ
型番も状態も良い造り物を、ぼろサイボーグよか役に立つ…なんて建前でさ、あたしを売り飛ばしてよ
(アドリブ連携歓迎です)
●テレスコール・セグメントの願い
この世界に星はあるのだろうか?
知るものは少ない。
不夜の街燈が街を彩り、空の光をかき消すのだから。
そして光が無くとも濁った空気は星の煌めきすら曇らすであろうから。
だが、その日は違った。
星が流れていた。
雨の如き、スピカ。
不夜の街に似つかわしくない、光の雨。
奇跡に人々は惹かれ、空を見上げる。
そんな雑踏の中、テレスコール・セグメント(星忘れのアストラヰア・f36809)は空に背を向けて街を歩く。
この世界に綺麗な星空はないと知っているのだから。
人々が騒ぐ中、仲買人は独り、テーブルにあるアルコールを眺めるだけ。
今日は客の多い日だ。
仕事の仲介、情報提供、そして業務先への繋ぎ。
全て『ホホエミ』絡みだ。
明らかにやばい気配がする。
だが、目を背けることも難しい気がした。
そこへ……。
「あたしを売り飛ばしてよ」
レプリカントが仕事を求めてやってきた。
「お前さん、その身なりなら他に仕事があるだろう? なんだって『ホホエミ』の仕事なんだい」
普段超えない一線をこの時、男は踏み込んだ。
「あたしは貴方の生きる領域に干渉する気はさらさらないし、しても得なんてない」
だが、それを遮るようにテレスコールが口を開く。
「持ち主も所属コーポもない無謀なはぐれレプリカントを、死地に押してほしいだけ」
ああ成程と。仲買人の男は理解した。
「型番も状態も良い造り物を、ぼろサイボーグよか役に立つ……なんて建前でさ、あたしを売り飛ばしてよ」
体のいい自殺の幇助。
何人も相手してきた『知らない振り』をしてきた仕事だ。
一番年季の入った左腕のサイバーザナドゥへ視線を落とす。
死を望んだ女に真っ当な道があると信じて、回した仕事。
けれど思いは届かず女は雇い主を殺し、自分は『落とし前』を受けた。
過去を思い出すのは何故だろう。
分からないが……
「そこまで言うなら、繋ぎを取ってやるさ。ちょうど他にも働きたいって奴は居るからな」
男は何もしなかった。
何かを出来るわけでもないのだから。
死にたがりのレプリカントに最後の居場所を案内するくらいが関の山。
……本当にそれでいいのか?
酒のせいだろうか?
仲買人の思考はグラスの中の液体のように揺れていた。
成功
🔵🔵🔴
新田・にこたま
コインは貰います。
仲介人には単刀直入に言います。
あなたが人集めの仲介を行った企業をこれから潰します。
なので、持ちうる限りの情報を教えてください。これからすぐに意味も価値もなくなる情報です。
報酬は…特にありません。強いて言えば、あなたを罪に問わないことぐらいです。
本当は少しは想像できていたのでは?あなたが売った人々の末路ぐらい。
しかし、あなたも生きるために必死だったのでしょう。弱さは悪ではない…私はそれを責めません。悪ですらないあなたを裁く正義は、私にはない。
まあ、この程度で説得できるとは思っていませんが。
ただ、言うだけ言っておきたかっただけです。
情報がなくとも、私は私の正義を執行するのみです。
●新田・にこたまの正義
新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)の手に握られた1グラム。
魂の重さにしては軽すぎるそれを新田は力強く握った。
自分が自分として生きるために。
仲買人が気まぐれに携帯端末を弄る。
ディスプレイに浮かぶのは『ホホエミ』の文字。
表では名前の通り良い顔をしているがメガコーポの例に漏れず後ろ暗いところもある。
そのお零れで少しだけもらって生きていた男が見ていた画面。
横から伸びた鋼鉄の指がディスプレイをタップし、映像をロックする。
「失礼、あなたが人集めの仲介を行った企業をこれから潰します」
鋼鉄の指の主――新田が単刀直入に切り出した。
「なので、持ちうる限りの情報を教えてください。これからすぐに意味も価値もなくなる情報です」
「穏やかじゃないな。確実にそうなる保証はあるのか?」
男の問いかけに警官は一言。
「あります」
そう告げるのみ。
「仮にだ……アンタがそれが可能だとしても、俺は取引先を失う。補填……いや、対価はあるのかい?」
仲買人が揺れる。
仕事の倫理観。
自分が引くべきライン。
二つの先が……交わることのないはずのものが重なろうとしているのだから。
「報酬は……特にありません」
そんな男にとって新田の言葉は安堵をもたらし。
「強いて言えば、あなたを罪に問わないことぐらいです」
そして心臓を射抜く。
もうサイバーザナドゥとなった肉の無いハートに。
「本当は少しは想像できていたのでは?」
女の言葉は弾丸だ。
「あなたが売った人々の末路ぐらい」
見ないことにしなかったものを見せつける、魔法の弾丸。
「しかし、あなたも生きるために必死だったのでしょう」
けれど全てを傷つけるフルメタルジャケットではなく。
「弱さは悪ではない…私はそれを責めません。悪ですらないあなたを裁く正義は、私にはない」
男が生きるために浸った沼の味を思い知らせ、男がもう燃やし尽くしてしまったはずの何かに火をつけるHEAT。
新田・にこたまは特別な存在ではない。
だからこそ、その言葉は魂を揺らすのだ。
新田自身は答えを気にしなかった。
それはいつもの事だから。
それが生き方で、それが彼女の正義。
そして正義は――報われる。
「……持っていけ」
渡されたのはデータチップ一つ。
「と言っても、俺が知っているのは取引に使った場所と工場がどこにあるかくらいだ。そこでどんな仕事をしてるかは噂話程度……悪いなお巡りさん。俺に出来るのはこれくらいだ」
仲買人は女の目を見ようとしない。
眩しすぎるのだ。
警察官という仕事とそれに誇りをもった人間というのは。
「ありがとうございます」
だから新田も返すのだ。
敬礼というプライドを以て。
大成功
🔵🔵🔵
未丘・柘良
この薄汚ぇ世界で他人を信じて騙されたり、テメェ以外の人間の助命嘆願出来る奴、か
はっ、嫌いじゃあねぇな
騙される側は余程の人好しか間抜けって事だが…
仲買のも騙したつもりなんざねぇんだろ、知らんのならな
仲介屋の隣に座り、一服しながら話しでもしよう
何、人捜しをしていてな
野垂れ死に寸前の連中に仕事を斡旋してるんだろお前さん
無論、タダで聞く気はねぇ
もう少し旨い酒奢ってやるぜ
その間、目をしかと見つめ観察、相手見極め
てめぇは深くは知らねぇんだ
俺様も深くは語らねぇ
だが…多分自分で思うよりお前さんの目は死んじゃいねぇよ
何となく解ってんだろ、関わった先がどす黒い何かだって
残る生身に仁義があるなら従うのも悪かないぜ
●未丘・柘良の仁義
「この薄汚ぇ世界で他人を信じて騙されたり、テメェ以外の人間の助命嘆願出来る奴、か」
未丘・柘良(天眼・f36659)が煙管を咥える。
煙がやけに苦い。
「はっ、嫌いじゃあねぇな」
だがそれは良く知っている味。
ベットされた一枚のコイン。
博打のテーブルに乗ったからには背中を向ける理由は無かった。
――騙される側は余程の人好しか間抜けって事……いや、それしかなかったか。
そして仲買のも騙したつもりなんざねぇんだろ、知らんのならな……。
死んだ者に思いを馳せ、生きている者にも思いを巡らせながら侠客は雑踏の中を歩き、目的の酒場に着く。
この場に珍しい警察官とすれ違い、柘良は仲買人の隣に座った。
「空いてるか?」
「……好きにしな」
博徒の問いに男はぶっきらぼうに応える。
その様子に侠客は猟兵の関与を察し、自分が何人目かは考えなかった。
会話は無かった。
柘良の煙管から煙が登り、仲買人のアルコールが減っていく。
「何、人捜しをしていてな」
先に切り出すのは侠客の方。
「野垂れ死に寸前の連中に仕事を斡旋してるんだろお前さん?」
それが慈善事業でないことを織り込み済みだと分かっているかの如く。
柘良の左手が端末に走り、遅れて全身義体のウェイトレスが酒と言えるものを運んでくる。
「おごりだ、それくらいはするさ」
博徒の言葉に従い二人の男の前にグラスが置かれる。
だが二人とも手を付けることはない。
一人は揺れる酒を見つめ、もう一人はその目を見ていたのだから。
「てめぇは深くは知らねぇんだ」
その言葉には憐憫はなく。
「俺様も深くは語らねぇ」
あるのは遥か昔に骸の海に沈んだと思われていたもの。
「だが……多分自分で思うよりお前さんの目は死んじゃいねぇよ」
八、九、三、割り切れない生き方をしているからこそ分かるものがある。
「何となく解ってんだろ、関わった先がどす黒い何かだって」
柘良にはそれが分かっていて。
「残る生身に仁義があるなら従うのも悪かないぜ」
男にもそれが分かっていた。
侠客はグラスを持ち一気に空にする。
「聞かないのか?」
仲買人が問いかける。
「話してくれるのか?」
柘良が問い返せば、データチップが投げられる。
「持っていけ、酒代の代わりだ」
骸の海に沈んだもの。
人、それを仁義と呼び。
侠客は男の仁義のひとかけらを受け取った。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
ええ、騎士として承りました
…
はい、お察しの通りです
ホホエミ絡みでお話が
まず、この音声をお聞き願えますか?
UCで記録『遺言』発声器で再現
捏造…ええ、有り得ることです
真偽を貴方が確かめぬ限り
彼とは別件で強制労働者解放の為の襲撃を掛ける予定でした
貴方の端末から情報を吸い出すプランも検討中です
何故、伝えたかと?
彼に貴方を頼まれましたので
どちらにせよ企業の情報を漏らすのです
私達の庇護か、自衛か…襲撃完了まで備えや猶予は必要でしょう
そして
騎士は己が振るった剣に…罪に責任を持たねばならない
エゴの押し付けですとも
私達の行動は変わりません
向き合い、選ぶのは貴方です
最期の言葉に、まだ間に合う者に
そして、貴方自身に
●トリテレイア・ゼロナインの選択
騎士が立っていた。
「……あんたもか」
「……ええ」
男の問いをトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は肯定する。
「ええ、騎士として承りました」
そのために来たのだから。
「…………」
「…………」
喧騒響く酒場の中、テーブルの周りだけ音が無い。
それほどの沈黙から口を開くのは当然、トリテレイア。
「お察しの通り、ホホエミ絡みでお話があります」
騎士は端末に自らを繋ぎ、ある男の遺言を流す。
コイン一枚、そこに託された無念、無情、そして願い。
その言葉に真実さを感じられるのは機械仕掛けの騎士だからこその振る舞いであろう。
「こいつは……死んだのか?」
「はい、この目で確認しました。託されたものもあります」
慎重に言葉を選ぶ仲買人の問いに戦機は凛とした振る舞いで回答する。
「……捏造って可能性だってあるだろう。アンタの身体からデータを流したんだぜ?」
「捏造……ええ、有り得ることです」
トリテレイアは肯定し。
「真偽を貴方が確かめぬ限り」
次に選択肢を提示した。
「……どういう意味だ、それは」
選択肢に心射抜かれた男は自分の手が震えていることを悟り、隠さんとばかりに口を開く。
「彼とは別件で強制労働者解放の為の襲撃を掛ける予定でした」
騎士が答える。
「貴方の端末から情報を吸い出すプランも検討中です」
「……口に出すという事はそれなりの準備もあるという事か?」
仲買人の言葉にトリテレイアは首を振った。
「何故、伝えたかと言いますと」
戦機は回答する。
「どちらにせよ企業の情報を漏らすのです、私達の庇護か、自衛か…襲撃完了まで備えや猶予は必要でしょう」
相手を慮り。
「そして」
相手に――
「騎士は己が振るった剣に……罪に責任を持たねばならない」
自らの生き方を突きつける。
「勿論、エゴの押し付けですとも」
肩を竦めるような動作をしたのは何故だろうか?
戦機にも分からなかった。
おそらくはそれが最適な行動を分析したから。
いや、違うだろう。
「私達の行動は変わりません」
自分の中の答えを奥にしまい込み、トリテレイアは改めて告げる。
「向き合い、選ぶのは貴方です」
――選択を。
「最期の言葉に、まだ間に合う者に、そして――」
それは死んだ者、まだ生きている者、そして。
「貴方自身に」
仲買人という男の生き方に対して。
「……時間をくれ」
男の言葉は弱弱しい。
だが、その奥に有る物には――
「振り返る時間を」
何かが灯っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
あたしの暮らしていた街もかなりの地獄でしたけど、この世界はそれに輪をかけてハードだ。
あたしみたいな血吸いの化け物が紛れるにはちょうどいいんでしょうけどね。吸う血の味も味気ない。
大丈夫です、コインは持っていなさい。この世界の冥府はいろいろ金がかかりそうでしょうから。
仲介人には電脳空間で情報を集めてコンタクトを取りましょう。
ホホエミ・リサイクルに興味を持った会社から雇われた「何でも屋」にでも誤認させておきましょう。
あらかじめ偽造した身分も用意しておきます。
一番安い酒を一杯、もう少しいい酒を仲介人に一杯。
「詳しい話を知りたいですか? 天上人のゲームなんぞ、あたしら一般人には奇々怪々でしょう」
興味があるから見て来いと、雇い主から命が下った。ただそれだけです……だから、仲介をお願いしたい。いつもの、よくある仕事でしょう。
「最後に、古い別れの言葉を。あなたに神の御恵みを、仲介人さん。幸運がありますよう」
もう少し若ければ、熱い言葉の一つも吐けたんでしょうが。擦り切れるたぁ、哀しいことです。
●ヤーガリ・セサルの別れ
別れというものは日常茶飯事だ。
人だったモノを見下ろしヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)は思索する。
自分の住んでいた街も地獄だったが、ここは……この世界は輪にかけて酷い。
自分のような血吸いの鼠喰らいが紛れるに充分な掃き溜めなのだろうけれど、吸う血には味なんてないであろう。あったとしても錆びついている。
「大丈夫です、コインは持っていなさい」
ヤーガリはコインを受け取らなかった。
「この世界の冥府はいろいろ金がかかりそうでしょうから」
あの世の六文銭とはどこで聞いた話か、金が力の世界なら死者にも必要だろう。それに……
鼠喰らいの生き方にはそれは必要なかった。
アポを取っていた男はひどく疲れつつも、覚悟を決めた顔をしていた。
ああ『誰か』が火をつけたのですね。
ヤーガリの中で答えはすぐに出た。
数度の事件を経て、自分には眩しすぎる物を持った者をもう知っているのだから。
ならば、自分に出来る役割をしよう。
鼠喰らいは偽造した身分を仲買人に提示した。
テーブルに置かれるグラスはアルコールに無いかを添加したものと、かろうじて酒と呼べるもの。
「詳しい話を知りたいですか? 天上人のゲームなんぞ、あたしら一般人には奇々怪々でしょう」
「そうだな」
ヤーガリの問いに男はいつも通りの答える。
「興味があるから見て来いと、雇い主から命が下った。ただそれだけです……だから、仲介をお願いしたい。いつもの、よくある仕事でしょう」
「ああ、そうだ。いつもの仕事だ。俺はそうして生きて来た、そうするのが最善と信じていた」
それは答えではなく、吐露。
「ところがどういうことだ、サイバーザナドゥは重たくなるばかり。ガジェットを軽くしても変わりやしねえ。なあ……アンタは、アンタらは知っているのか?」
「残念ですが、あたしゃ鉄の重さを知らんのですよ。あたしが知っているのは魂の重さが21gなのと、罪の重さは羽根より重いという事だけです」
味の着いたアルコールを傾け、昔に戻ったかのように鼠喰らいは答える。
まだ捨てきれない何かがそれをさせるかのように。
今はそのための燃料が必要とばかりに焼けた液体を呑み込んだ。
「罪か……そうだな、罪だな」
仲買人が笑う。
ひどく悲しく、そして何かから解放された笑い。
「と言っても、この世は金がモノを言い、綺麗な言葉は鉛弾以上の価値もなく、自分らしく生きるなんてことは誰も出来ません。それこそ天上人の方々も命と地位を失うことを恐れ、一時の享楽に逃げ込む……誰も罪を問う事はできません」
そんな男にヤーガリは世界を語る。
「本当にそう思うか?」
その世界にどっぷりつかった男が問いかける。
骸の海という泥水、そこから這い上がろうとした男には掴み取るために縄かせめて藁の一つでも必要だった。
「いいえ」
だからこそ、鼠喰らい――かつて僧侶だった男は魂の奥底に燻った煤をかき集め、言葉という名のロープを投げる。
「自分以外には」
自分らしく生きる。
その難しさはヤーガリ自身が知っていた。
命を絶つことも出来ず、鼠を喰らい、血を啜り、それでも自分の奥底の何かにすがって生きている。
「最後に、古い別れの言葉を」
ヤーガリ・セサルは言葉を告げる。
「あなたに神の御恵みを、仲介人さん。幸運がありますよう」
「神の御恵みか……信じてみたいもんだな」
仲買人だった男が携帯端末を操作する。
「繋ぎは取った、後は好きにするがいいさ」
最後の仕事を終えた男が立ち上がる。
やるべきことを見つけた以上、もうぐずぐずは出来なかった。
「アンタ達にはもっと早く会いたかったよ……じゃあな」
一人の男が去り、酒場には一人の男が残った。
「もう少し若ければ、熱い言葉の一つも吐けたんでしょうが」
ヤーガリは男がどうなるかは薄々だが分かっている。
「擦り切れるたぁ、哀しいことです」
だが、それ以上に彼の生き方を尊重し。
――自らの為すべきことを成すことが今やれる最上の方法だと信じていたのだから。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『ビオレットガール・ワイルドフラワーズ』
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POW : 敵性個体発見、処分します
自身の【肉体】を【強力な威力の銃火器】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD : 掃討対象確認、接近します
自分の体を【いくつもの装甲脚に変形させ、高速回転】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【激しい痛みを伴う麻痺、あるいは甚大な火傷】の状態異常を与える。
WIZ : 敵性反応、殲滅開始
【肉体を変形させた全武装の一斉発射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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●「アイツ」
あのこが言っていた、空は青いって。
あの人が言っていた、夜空には星が光るって
みんな、みんな、電脳のフィクションムービーみたいなこと。
現実になんてあるわけ無いと思いながら、私は笑っていた。
でも、それも昔話。
あの日、二人で生きていくためにここにきて、私達は離れ離れ。
再び会った時には「ここを出る。助けを呼ぶ」と言って消えてしまった。
彼は私を置いて行った。
彼は私を一人にした。
ねえ、 よ……。
私は考えるのを止めた。
いつものように汚れた瓦礫を引き上げる中、バスがやってきて新しい仲間が来た。
ようこそ、地獄へ。
濁った水と高カロリーゼリーがあなたの夕食よ。
●仲買人だった男
散弾銃を片手に俺は進む。
仕事には決算の時期がある。
多分、今回が人生の決算期なんだろう。
だから足を使う。
自分で歩く。
自分でもおかしいと思ってる。
『取引先』の工場へ他人を案内しているんだからよ。
しかも面接の中継ぎではなく、掃除の仕事。
命知らずも良いところだぜ。
「……こっちだ」
考えるのを止めて、俺は続く者達を案内する。
場所は分かっちゃいるが、中までは詳しく知らねえ。
やれることは出来るだけ、ヤバい奴にあわないルートを使って地下に降りるだけ――
BRAM! BRAM! BRAM!!
……おいおいおい、おかしいじゃねえか?
なんで空なんか見てるんだ?
ああ……そうか。
下半身がトンだのか。
足が無きゃ歩けるわけ無いな。
「……罰が当たったって奴だな」
後悔はもうした、今はそんな気分じゃねえ。
「悪いが、俺はドロップだ。何、つまんねえ男が情に偏って胴体吹っ飛ばしたって話だ。よくあるバカ話さ」
むしろ晴れやかだ。
生きたい生き方をするってことがこんなに気持ちいいとはな。
「行けよ……あとは任せた……だから、俺……みたい……に……つまんねえ……」
ああ、もう目が見えねえや。
けど身体は軽い。
もう見ないものを見なくていいんだな。
これで良いんだな。
後悔はしてねえ。
最後の最後に自分らしく生……き……
「敵性個体を処分しました。ホホエミ・リサイクルは会社運営にホホエミをもたらすために敵性個体を処分します」
福利厚生を考慮したメイド服のガードロイド。
「当社へ敵性個体が侵入しました。アルバイトの皆様は安全のために整列してください。命令を遵守しないものは敵性因子として処分します」
地下工場にて『手足』の監視をしていた女性型のレプリカントが人々に告げる。
今居る者、今来た者問わず。
「ホホエミ・リサイクルはあなたと会社にホホエミをもたらします。さあ笑って並んで微笑んで」
メイド服姿の女性を模したのは福利厚生のつもりなのだろうか?
だが、このガードロイドが反抗した者と逃亡した者をミンチにしたのはここで働いていたものが知っている。
「敵性反応確認、殲滅開始します」
通路の向こうから続々とオブリビオンが腕を銃に変え、足から装甲脚を展開する。
「時間はありません。ホホエミ・リサイクルは笑顔で素早く仕事をする人を何よりも大事にします。さあ、笑って、並んで、微笑んで」
地下工場では人々に銃火器へと変形した腕を向ける。
工場内通路での掃討と地下工場での人々の安全の確保そして救出。
ここに訪れた猟兵が選ぶのは二つのどちらか。
両方を選ぶには場所は広すぎる。
だからこそ、一つの仕事に命というチップを賭けろ。
それが自分らしく生きようとして死んだ男へのせめてもの手向けになるだろう。
それがこれからを生きていたいを願い地下で苦しむ者の希望になるだろう。
Your choice.
――選べ!!
荒谷・つかさ
やっぱり、こうなったか……無茶して。
でも、これが本望だっていうのなら何も言わないわ。
せめて、安らかに眠ってちょうだい。
最期を自分らしく生きた男への手向けに、私の生き様の結晶……即ち【超★筋肉黙示録】を発動する
同時に真の姿も解放、強化された肉体で以て徹底的に蹂躙する
無敵の筋肉で攻撃は弾き飛ばし、装甲は殴り潰し、距離を取るなら追いかけて潰す
無敵の筋肉は攻・走・守の三拍子の無敵を兼ね備えるもの
たかだか五倍程度に負ける筈もなし
(真の姿で微笑みを浮かべながら)
生憎、今私は機嫌が悪いの。
木偶人形とはいえ、少しは楽しませてくれるんでしょうねぇ……!
(己の不甲斐なさへの憤りを目の前のガラクタへぶつけにかかる)
●手向け
「やっぱり、こうなったか……無茶して」
下半身を失った肉と鉄の何かへ視線を落とし、荒谷・つかさはその目に掌を添える。
「でも、これが本望だっていうのなら何も言わないわ」
目を閉じさせれば、向かう相手はビオレットガール。
「せめて、安らかに眠ってちょうだい」
握った拳は赤く染まり、漆黒の髪は色を失う。
人、それを鬼神の相と呼ぶ。
またの名を……。
――真の姿
「敵性個体発見、処分します」
オブリビオンが銃と化した右腕を向けると炎が吹く。
つかさに襲い掛かる弾丸。
だがそれは羅刹の指に絡めとられ、火花と共に力なく落ちた。
星を超越し伝わる筋肉の黙示録。
その一遍に語られる話がある。
螺旋を描き貫く一撃、逆の螺旋を同じ力で与えることで力を失い、更なる力を以って受け止めれば一撃は空虚へと変わる。
何のことは無い、つかさはそれを実践しただけ。
羅刹の姿が消える。
短距離走の選手の身体が筋肉に包まれていることが分かるように、瞬間的な加速は体重より筋出力に依存する。
小柄な上に怪力を極めた人間なら、ガードロイドのセンサーよりは速く間合いを詰め拳を打ち込むことなど造作もなかった。
「生憎、今私は機嫌が悪いの」
鬼神が笑みを浮かべる。
だがその目にあるのは憂い。
跳躍と共にビオレットガールが首が飛ぶ。
体重の乗った飛び膝の一撃。
「木偶人形とはいえ、少しは楽しませてくれるんでしょうねぇ……!」
言葉に乗るのは怒り。
オブリビオンの機関銃斉射より速く間合いを詰め、弾丸を踏み台に敵の背後を取る。
叩き込まれるのは憤り。
自らの不甲斐なさを、やるせない思いを、振るう。
「さあ、大人しく排除されましょう、笑って、動かないで――」
「ええ、微笑んで」
倒れつつも警告と行動のメッセージを送ろうとするビオレットに合わせるようにつかさはその頭を踏みぬいた。
それは最後に自分の生き方を選んで死んだ男への手向けであった。
供える花は鉄の花。
捧げる経文は力の詩。
怪力という一つの事に全てをつぎ込んだ女が届かせることが出来なかった手を握り、見せるは己の生きる姿。
それは悲しき黙示録。
死者に捧げる戦いの喇叭。
大成功
🔵🔵🔵
新田・にこたま
召喚して連れてきていたドローンを衝撃波技能に特化。
1機は私の護衛に残しつつ、8機は地下工場に先行させ、脇目も振らずに私も地下工場まで駆け抜けます。一人でも多くの人々を救うために。
ドローンと私は無線接続ができ、ドローンのカメラで視認した映像は私のサイバーアイにも投影されるので遠隔操作でも状況に合った動きをさせられます。
先行させたドローンたちには衝撃波で地下の人々への攻撃を防がせつつ、衝撃波による敵の撃破も行わせます。優先順位は人々の防御が上です。攻撃2機、防御6機ぐらいでいきます。
迷うのも嘆くのも後でできることです。
今はただ最善を尽くすために動く…それが一番の弔いであり、私に課せられた義務です。
●突入
鬼神の作った間隙。
そこへ走り込む猟兵。
一番槍は新田・にこたまであった。
迷うのも嘆くのも後でできること。
「今はただ最善を尽くすために動く」
呼応するように工場に停めていたミニパトからドローンが展開、飛行を開始する。
8つは真っ直ぐ地下工場へ。
残り1つは入り口の警備を掻い潜り、通路を破壊し新田の元へたどり着くとオブリビオンへと衝撃波を叩き込んだ。
翁丸ドローン
スマートリンクされた9つのドローンはサイバーアイに無線接続され、その情報を視覚に投影する。
脇目も降らずに地下工場へと走る警察官は今、9と1対の瞳を以って為すべきことを成していた。
――人々を守るという事を。
「笑って、並んで、微笑ん――」
人々に銃口を向けていたビオレットガールが吹き飛び、骸の海へと沈んだ。
新田のドローンだ。
唯一、電脳に接続できる飛行体は新田・にこたまという人物の精神を現すかの如く、数体が人々を守るように飛翔し、残りはオブリビオンを相当するかの如く衝撃波を叩き込む。
電脳接続およびソフトウェアによって高められた新田のスキルを再現するはユーベルコードがなせる業。
見えてなくても、聞こえなくても、人々の姿は映り、ビオレットのモーター音はセンサーが可視化する。
――衝撃
目に見えない広範囲へのソニックブーム。
貫通力に乏しいが範囲を圧倒する振動波。
だが、オブリビオンもやられたままではない。
「敵性反応、殲滅開始します。さあ、笑って」
全ての銃火器を展開し、その場に居た人間全てを破壊せんとセフティを解除すれば……。
「させるかぁ!!」
扉を蹴り飛ばしてポリスが飛び込む。
新田は人々の前に立ちはだかり盾を構え。
「翁丸ドローン!」
自らの前にドローンを集合させる。
名を呼ぶだけでいい。
電脳を通じてコマンドを送り付けた。
思考は指向し、飛行体は次々に衝撃波を展開させる。
重ねに重ねた振動。
その波は重く、全てを呑み込む。
ビオレットガールが一斉に射撃した弾丸もその機体も全てを。
有る物は吹き飛び、有る物は構造が耐え切れず崩壊する。
「警察です、ここはもう……大丈夫です!」
ここに安全が確保され、橋頭保が築かれた。
それを行うことが一番の弔いであり、新田・にこたまに課せられた義務なのだから。
成功
🔵🔵🔴
リューイン・ランサード
仲買人さんの斡旋でバスに乗って工場に来たら、いきなり騒動が起こってレプリカントに銃を向けられて<汗>。
人々を護って脱出せねば。
命令に従う振りをしつつ、結界術・高速詠唱・範囲攻撃で人々を銃火器から護る様に防御壁形成、
すかさずUC使用し、弾薬を使ったレプリカント達をブラックホールに吸い込む。
近接戦闘になればオーラ防御展開し、風の属性攻撃を籠めた剣の2回攻撃・怪力で切断。
「ここは危険ですから脱出しましょう!
実は(男性の特徴を言って)皆さんの救出を依頼されてきました。」
と人々に声掛け。
戦闘区域や脱出ルートは仙術による千里眼で把握し、より安全なルートを先導します。
時折出てくる敵は前述の方法で倒しますよ。
●脱出
「仲買人さんの斡旋でバスに乗って工場に来たら、いきなり騒動が起こってレプリカントに銃を向けられました」
リューイン・ランサードが説明的な台詞と共に並び出す。
ここで反抗的な行動を見せるのはまだ早いと分かっているけれど、口に出したくなる気持ちは分かる。
だが今はまだ備える時と心に決め、小声で唱える呪文一言、二言。
「ねえ? 笑って、並んで? 微笑んで?」
リューインの顔を覗き込むようにビオレットガールが微笑みかける。
マシンガンと化した右手を突きつけて。
「は……はい、ならびますぅ」
少年は冷や汗をかいた。
二つの意味で間一髪だった。
一つは行動がバレること。
もう一つは……
「……? アルバイトと当機の間に不可視障壁の存在を確認。敵性因子と確認し排除いたします」
「幻想世界よ!」
自分達とオブリビオンを隔てた防御壁を作り上げられたこと。
おかげでビオレットのユーベルコードを一時的に防ぐ時間と、自らのユーベルコードを作り上げる時間を
「この荒廃せし世界に再臨し、己が理に外れし者を処断せよ」
生み出したこと!
幻想世界再臨――ファンタズムライジング
鉄と電脳に汚染された世界に新たな法則が生まれる。
それは禁言、絶対的なルール。
『弾薬・爆薬・光学兵器を使用するなかれ』
それを守らないものは。
「敵性個体を処分し――」
闇に呑み込まれる。
永遠に続く究極の闇と誰が言ったか、それは超小型のブラックホール。
「敵性個体……敵性……テキセイ」
「ねえ、笑って並んで……ホホエン」
「回避不能、回避不能。当機は任務継続不可能と――」
銃火器の塊であったビオレットは次々と闇に呑まれ、そして押しつぶされていく。
「ここは危険ですから脱出しましょう!」
機を見出したリューイン・ランサードが叫ぶ。
「実はここから脱出した人に皆さんの救出を依頼されてきました」
その言葉に誰かが振り向いた。
死した者と同じくらいの年齢だろうか。
その希望と期待に満ちた目に対して、リューインは……。
「……行きましょう!」
答えを見いだせず、先を促す。
自分に言えるだろうか? 彼はもう死んだと。
「こちらです」
まずは脱出が先決。
ルートはもう把握済み。
後は、ちょっとだけの勇気か冴えた知恵一つ。
成功
🔵🔵🔴
未丘・柘良
…それがテメェのケジメなら俺様は何も言わんさ
後は引き受けた。お前さんは安心して穏やかに休め
安全確保と救出に動くか
冥土に近い場所にメイドたぁ笑えねぇな?
悪ぃがバイト全員円満退職させてくれや
未払賃金や退職金交渉は後で構わねぇ――って聞く耳持たねぇか
整列させられた奴らに危害が及ぶ前に敵の意識を此方に向け
UC発動
千里眼で個体数と配置を把握した上で雀牌を礫として弾き撃ち貫く
俺様達に賭けてくれた命の為にも負けらんねぇからな…!
敵の武装変形強化を強制解除、弱体化させていく
後は離れた奴はレーザー、近い奴は脇差で首を落としてやるだけだ
お前さん達、まだ生きてるか?
礼なら命の賭けに勝ったお仲間さんに後で言うんだな
●血の道
鬼神が穿ち、警察官が飛び込んだ道を博徒が続く。
「……それがテメェのケジメなら俺様は何も言わんさ」
未丘・柘良が男へと振り向くことはない。
「後は引き受けた。お前さんは安心して穏やかに休め」
侠客が歩むのは赤で舗装されたそういう道だからだ。
雀牌片手に地下工場へ歩くとビオレットガールへと笑みを見せる。
「冥土に近い場所にメイドたぁ笑えねぇな?」
「福利厚生のため、当機は配属されました、全ては貴方のホホエミのため……さあ笑って?」
オブリビオンが銃口を向けるより速く、牌は哭いた。
「悪いが待ちは無しだ……点棒を出しな」
柘良の指は何かを弾く。
そう……雀牌だ。
一気通貫!
自らが勝つという思いで弾いた牌は礫とは言えないほどの威力を持ち、鋼のビオレットを貫く。
「悪ぃがバイト全員円満退職させてくれや」
侠客が言い放ち、撃ち抜いたのはオブリビオンのコアシステム。
肉体を武器に変化させる根幹の回路。
「未払賃金や退職金交渉は後で構わねぇ――って聞く耳持たねぇか」
それでも襲い掛かろうとするビオレットに対し黒鞘を抜く。
一尺五寸のレアメタル合金タマハガネ、銘はカネサダ、それが柘良の刃。
「相手になってやる」
力なく転がった人形を蹴飛ばし見回せば、囲むのは外道を生きる鋼の輩。
金が力のこの世界に、自らの力で生きる者だからこそ貫かねばならないものがある。
「俺様達に賭けてくれた命の為にも負けらんねぇからな……!」
それが1グラムに満たない物であろうが関係は無い。
それが未丘・柘良という男の生き方なのだから。
柘良の手が伸びオブリビオンの肩を抑え込めば、貫くは第三の瞳が放つレーザー。
「タンヤオってところだな」
伸ばした腕そのままに、侠客が呟けば感じるのは人の気配。
どうやら安全は確保できたようだ。
「お前さん達、まだ生きてるか?」
博徒の言葉に頷く人々。
「礼なら命の賭けに勝ったお仲間さんに後で言うんだな」
それが叶うかどうかは難しい。
このサイバーザナドゥの路地に骸が転がれば、それはパーツの拾い物と変わらない。
それでも礼を言うために歩くことを選ぶ人情くらいはあっても良いだろう。
柘良はただ信じ、そしてまた血の道を歩く。
ヤマはまだ終わっていないのだから。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
余りに足取りが晴れやかで
私の後ろに、と進言する間もなく
ホホエミ本社が健在な以上、遅かれ早かれこの結末を迎えていたやもしれぬ
されど、男が自ら死地に踏み込んだのは
ええ、私の責任ですとも
…そのように笑って赴かれるのは困ります
翳した大盾に剣を一閃
舞い散らせた鋼の花弁を支点にバリア形成
人々に降り注ぐ弾丸弾き返し
こちらが避難路です!
負傷した方は申告を!直ぐに向かいます!
障害物や壁を怪力にて両断し退路確保
“御伽の騎士”ならば、あの男の命と魂を救い…“正しき”と“めでたしめでたし”を齎せたのだろうか
…戦機故、“正しき”貫く“力”だけは持ち合わせておりますとも
そして、“騎士”とは
それを持てぬ者の為に在るのです
●貫く者
その足取りは晴れやかで、声をかける前に彼は行ってしまった。
ホホエミ本社が健在な以上、遅かれ早かれこの結末を迎えていたやもしれぬ。
されど、男が自ら死地に踏み込んだのは……。
「ええ、私の責任ですとも」
トリテレイア・ゼロナインの呟きは誰にも聞かれることはない。
ビオレットにも、死んでいった男にも。
「だから……このように笑って赴かれるのは困ります」
そして騎士の戸惑った言動を聞かれることもない。
戦機は戦いの場へと歩いていくのだから。
武骨な大盾が翳せられたと思えば、大剣がそれを切り裂く。
鋼が舞った。
剣で切られた断面は鈍に切り潰された様にうねっていて何かの花弁を思わせる。
そして鋼は本当の――花となった。
電脳禁忌剣・通常駆動機構:兵装改造『守護の花』
またの名をバリアビット・ブローディア。
無数の花弁は障壁を形成する端子を担う。
守護の花言葉を実践するが如く、ブローディアの嵐はバリアを作りビオレットガールの無差別砲撃から人々を守る。
「こちらが避難路です!」
剣が示すのは猟兵が確保した橋頭保と退路。
「負傷した方は申告を! 直ぐに向かいます!」
既に壊されたオブリビオンの残骸を放り投げ、ビオレットの動きを封じ込めトリテレイアは走る。
彼ほど晴れやかではないが、歩みを止められない訳があった。
――“御伽の騎士”ならば、あの男の命と魂を救い…“正しき”と“めでたしめでたし”を齎せたのだろうか?
大剣がオブリビオンを切り捨てる。
その一撃は必要以上に――重い。
「……戦機故、“正しき”貫く“力”だけは持ち合わせておりますとも」
ビオレットガールとトリテレイアの腕が交錯した。
銃声は一つ。
倒れたのはオブリビオン。
「そして、“騎士”とは」
壊れたビオレットを一瞥し、格納していた腕の銃器を展開したまま戦機は言葉を続ける。
「それを持てぬ者の為に在るのです」
「敵性分子は排除します。さあ、笑って、並んで、微笑んで」
警告を発したオブリビオンの首が飛んだ。
ならば、己が生き方を最後に為した彼こそは――
騎士はそれ以上を考えるのを止め、己が矜持と戦いの中に自らを埋没させた。
成功
🔵🔵🔴
ユリコ・スターズ
※アドリブ歓迎、共闘可
SPD判定
・行動
『ナゲナワ・ロープ』を起動して頭上で振り回し
相手が変形して装甲脚を出したところに【ロープスロー】を使用
回転を始める前の装甲脚をまとめて拘束して
そのまま引き寄せることで敵UCの無力化を図る
引き倒した相手は拍車付きブーツで踏みつけ動力部を撃ち抜いて倒す
・セリフ
つまらないなんて事は無いさ、意地ぐらい張れずに何の人生かって話だ
お前は最高の仕事をしてくれた、あとは私たちが仕事をする番だ
木偶人形に言ってもしょうがないだろうが、
笑顔って言うのは心の底からあふれ出るものだ。
この人たちが本当に笑えるようになる為に、私がお前たちを掃除してやる!
●私達の仕事
猟兵が人々を助けに向かった時、残ったビオレットガールは背後を狙った。
だが、それは叶わない。
ここにもまだ猟兵が居たのだから。
「掃討対象確認、接近します」
「させると思ったのか?」
対人掃討用の装甲脚を展開したビオレットの言葉を女が遮った。
直後飛ぶのは西部劇を思わせる荒縄、ブルロープ。
特殊繊維で出来た縄は、全てを切り裂き生身の肉体を焼き焦がせるほどの熱を発する装甲に絡みつき、ほどけることは無い。
そして保安官バッジを胸につけた女がロープを引っ張れば縛り上げられたように引き倒される。
「つまらないなんて事は無いさ、意地ぐらい張れずに何の人生かって話だ」
ロープを持つ女の名はユリコ・スターズ。
自らの正義のためにバッジのルールから足を踏み外してもなお、それを手放せない女。
「お前は最高の仕事をしてくれた、あとは私たちが仕事をする番だ」
オブリビオンが両腕を鎌状の武器に変形させ、床に突き立てようとするが耳障りな音が響くのみ。
ロープスロー
投げ縄を操るシェリフのテクニックにしてユーベルコード。
猛牛すら制するロープワークとスピリッツを心無き機械が抗えるわけがない。
あっという間に足元まで引き寄せられると、拍車付きのブーツがビオレットの胸元を踏みぬいた。
「木偶人形に言ってもしょうがないだろうが」
もはや記録する機能すら喪失したビオレットガールだったモノの瞳に向かってユリコは告げる。
「笑顔って言うのは心の底からあふれ出るものだ」
蹴り飛ばした鋼の骸から答えが返ってくることはない。
「あの人たちが本当に笑えるようになる為に、私がお前たちを掃除してやる!」
シェリフがロープを両手に持つ。
視界に対峙するのはまだ人を殺めんとするオブリビオンの集団。
「それが……私の正義だ」
互いに互いを殺すためにユリコとビオレットは跳ぶ。
どちらが生き残ったかは……言うまでもなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
生き抜いた方の魂に、敬意を。そして身近な弔いを。
さて、偽物の微笑みなど、苦痛を隠す仮面にすぎません。人は怒り、泣き、そして笑う。それこそが、自然な姿。
誰一人不幸なまま、いかせやしません。この擦り切れた男にも矜持はあるのでね。
逃亡の手引きは任せました。あたしはここに残って攪乱をば。
誰かさんに感化されてしまったようですねぇ。
来たれUC:影の精兵。「召喚術」にはまあ慣れてまして。
そして、当方、当世風の……ある種のウィザードの技も嗜んでおりまして。
9体の影から発せられる、ハイレベルな処理速度の「ハッキング」。目標は対象の行動の停止。
せいぜい微笑みを顔に張り付けたまま、支配される苦痛、圧政の罪をその身で感じるがいい。まあ、からくり人形に言ってもしょうがないですが。
さて、あたしが足止めしている間に、しっかり逃げて下さいよ?
●擦り切れなかった矜持
下半身を失った骸に黒い古びたロングコートがかけられた。
「生き抜いた方の魂に、敬意と弔いを」
弔う者の名はヤーガリ・セサル。
かつても今も神に仕える者。
違うのは今は泥を喰らうように生きつつも、それでも明日の為に立っているという事。
「さて、偽物の微笑みなど、苦痛を隠す仮面にすぎません」
だからこそ自分らしく歩こうとした者の輝きを穢す事を許すことは無い。
「泣き、そして笑う。それこそが、自然な姿」
右手に持つのは魔導書。
この世界に数少ない紙の本。
「誰一人不幸なまま、いかせやしません」
それが今、開かれる。
「この擦り切れた男にも矜持はあるのでね」
男の矜持という名の短編詩を題材にするかの如く。
「逃亡の手引きは任せました。あたしはここに残って攪乱をば」
制圧のために残っている猟兵の隣を歩き、ヤーガリは紙片にユーベルコードを紡ぐ。
「誰かさんに感化されてしまったようですねぇ」
苦笑と共に現れるのは九つの影。
影の精兵――サモン・フラリック・シャドウ
「『召喚術』にはまあ慣れてまして」
九人の従者が寸分のズレもない動作で胸元にキーボードを召喚。
「そして、当方、当世風の……ある種のウィザードの技も嗜んでおりまして」
目にも止まらない指使いで打鍵を開始する。
その速度は常人のおよそ百倍。
例え脳神経をサイバーザナドゥに換装したとしても、届かないであろう領域。
ましてやハッキングに対抗するとなると――オブリビオンと言えど至難。
ビオレットが笑う。
貼り付けたような笑みをそのままに、まるで糸を切られた人形のように力を失い、動くことを止める。
「さあ笑って、並んで、微笑んで」
「せいぜい微笑みを顔に張り付けたまま、支配される苦痛、圧政の罪をその身で感じるがいい」
鼠喰らいが笑みを浮かべ、言葉を繰り繰り返すビオレットを見下ろしいい放つ。
「さあ笑って、並んで、微笑んで」
「まあ、からくり人形に言ってもしょうがないですが」
自嘲の笑みに応えるものは居ない。
人形はただ笑い。
人は死に。
猟兵は人々を助けに走った。
かき集められたオブリビオンが通路に殺到する。
「これで終わりとは思っていませんでしたが」
やれやれと息を吐くヤーガリの隣に立つのは保安官のバッヂを身に着けた猟兵。
「苦労しそうです」
鼠喰らいの言葉に傍らの猟兵が頷く。
「敵性分子を処分します。当社は貴方にホホエミをもたらします――さあ笑って、並んで、微笑んで」
攻撃の意思を見せたビオレットがまた一体、ハッキングという糸に絡み取られる。
「さて、あたし達が足止めしている間に、しっかり逃げて下さいよ?」
殿とは損な役回り。
などという事はヤーガリ・セサルは決して思わない。
泥には泥の生き方。
人形には人形の生き方。
人には人の生き方があるように――。
「ネジ一つ、この向こうに通すつもりはありませんからね」
擦り切れた男にも決して揺らぐことのない一つの生き方があるのだから。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『オブリビオン・カンパニーマン』
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POW : キャリアアップ・プログラム
自身の【メガコーポ社内での出世】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : メガコーポ式交渉術
対象にひとつ要求する。対象が要求を否定しなければ【論理的思考力】、否定したら【冷静な判断力】、理解不能なら【オブリビオンへの注目度】を奪う。
WIZ : メガコーポ・アーティラリー
【砲撃部隊への通信】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【発信機】で囲まれた内部に【メガコーポ私設軍による砲撃】を落とし、極大ダメージを与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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●「彼」
助けが来た!?
信じられない……そんなことがあるなんて。
あのこが助けを呼んでくれた。
あの人が助けに来てくれた。
どこ?
ねえ、どこにいるの?
会いたい、君に会いたい。
そしてあなたの言ったことが本当だねって言いたい。
きっと空は青く。
夜空にだって星は有るんだ。
だから……だから……
ねえ、どこに居るの !?
●Company Man
ビオレットの残骸を踏み砕き、一人の女が歩いて来る。
「派手にやったもんだね。おかげで来月の予算に大きく響く」
鋼鉄の指に挟めた煙草を咥え、煙を吐く。
遅れて体内清浄機の廃棄ファンが音を立てて回った。
「おたくら、どこのものだい? メガコーポ? ヤクザ? いいや違うかイヌも混ざっている……そうか『フリー』か」
猟兵の姿を見て、女が推測を立てる。
「ならば話は速い、商談と行こう。雇い主からいくらもらったか教えてくれ、違約金込みでこちらで雇いたい。もしそうだな……まさか居ないと思うが自分の心のままで動いているというなら、それにふさわしい金を用意しよう」
女が笑った。
嘲り、興味、色々と混ざったもの。
唯一足りないものは――敬意。
「戦場がほしければ提供しよう、正義を成したいなら悪たるものを提供しよう。流石に首輪無しというわけにはいかないがな……どうする?」
また煙草を吸い、今度は猟兵に向かって吹き付ける。
交渉という名のテーブルの主導権が自分にあり、それにふさわしいバックがあると言わんばかりに。
「分かっているだろう? 断る方が損だと。それとも私と戦うとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい、自分らしく生きるなんてフィクションムービーの世界だけだ」
女は咥えていたものを捨てた。
「選べ、この損失を労働で払うか、命で払うか――それがこの世界のルールだ」
ホホエミ・リサイクルの社長にして、ただのカンパニーマン。
世界のルールを体現する存在が奪ってきた命は多いだろう。
選べ。
自分らしく生きた者達の魂に報いるか、そうでないか。
そして、答えを用意しろ。
「彼」を求めて探す、アイツの為の。
金が全ての電脳の桃源郷。
その裏にあるドブのような真実の前に与えられる最後の選択肢と答えを用意する時間。
願わくば自分が自分らしくあるように……。
ユリコ・スターズ
※アドリブ歓迎
POW判定
・心情
ああ、よく見る目だ
それがこの世の道理だと言わんばかりに
自身の要求がまかり通ると思っている強者の目だ
胸に熱く苦いものがこみ上げてくる
長い間押し込めてきたそれは、
飲み下すには大きく成り過ぎて自然と口から零れ出ていた
「全財産だ」
「聞いたのはそちらだろう? 雇われた対価は全財産だ
たった一枚のコインだがそれがあの時のアイツのすべてだった」
「支払えないというのならば商談は決裂だ、
ここは確かにフィクションムービーの世界じゃないが
映画のヒーローに憧れた馬鹿は此処に居るんだよ」
「さあ抜け、それまでは待ってやる」
コートを広げ腰の銃に手をかざし、早撃ちの構えで待つ
さあ決闘の始まりだ!
●そこに立つの星の名は――
――ああ、よく見る目だ。
ユリコ・スターズが心の中で深く息を吐いた。
それがこの世の道理だと言わんばかりに自身の要求がまかり通ると思っている強者の目。
胸に熱く苦いものがこみ上げてくる。
長い間押し込めてきたそれは、飲み下すには大きく成り過ぎた。
だから漏れるのだ。
「全財産だ」
ユリコ・スターズという女の口から。
「聞いたのはそちらだろう? 雇われた対価は全財産だ。たった一枚のコインだがそれがあの時のアイツのすべてだった」
「なるほど……全財産というと『会社の』という事で構わないかな? なにせ私も雇われの身でね」
ユリコの言葉をカンパニーマンがいなす。
「会社の全財産というなら、君は私を雇用して働かせることになる。ここにいる人間にも給料を与え、仕事を与え、そして会社という組織を動かすことになる。それに足る能力があるというのなら……全財産も構わない。まあ、その前に消されるのが普通だがな」
暗に伝えるNO。
勿論、シェリフにも分かっていた。
オブリビオンが詭弁で返してくる事も。
「支払えないというのならば商談は決裂だ」
故に場面を変える。
交渉のテーブルから。
「ここは確かにフィクションムービーの世界じゃないが、映画のヒーローに憧れた馬鹿は此処に居るんだよ」
決闘の舞台に。
「ワイアット・アープにでもなったつもりか? 『シェリフ』」
カンパニーマンが嘲りの言葉を返す。
この時代に存在しないムービーだけのキャラと皮肉っているのだ。
「脳に『直結』して自分がそうだと思い込んでいるのか? そのバッジはコスプレでは無いというのか? 飛んだお笑い草だ」
嘲り、笑い、そして――
「だが、もしそうでなかったら、お前は会社にとって一番の危険だ。排除しなくてはならない」
サイバネティックの瞳がユリコを捉えた。
自分の生き方を貫く存在が危険なカードであることを認識できなければ会社を率いることは出来ない。
だからこそ、オブリビオンはホホエミ・リサイクルの社長として存在しているのだ。
「さあ抜け、それまでは待ってやる」
シェリフがコートをはためかせ、腰のリボルバーに手をかざす。
「クイックドロウ……イアイか。古臭い流儀だな」
カンパニーマンも腰のブラスターに手を伸ばした。
二つの銃声が響く。
決闘が始まり、そして終わった。
最初に転がったのはリボルバー型のブラスター。
そして右手を抑えるユリコ。
次に膝を着くのはカンパニーマン。
貫かれたのは右肩。
強化神経を撃ち抜かれ、最早早撃ちは不可能。
ワンホールショット!
初弾と寸分たがわず同じ箇所を貫くユーベルコード。
それがオブリビオンのアーマーコートと強化皮膚を貫き、強化反射神経を破壊する。
カンパニーマンもユーベルコードを使っていた。
排除すれば会社の利益となり状況は不利、力を存分に発揮できる技巧となった射撃が出来るはずだった。
だが早撃ちの勝負に乗ってしまい先に『抜いて』しまった。
それが有利になった。
故に、シェリフのリボルバーを撃ち抜く前に肩を撃たれた。
確かにこの世界には義賊もレンジャーも居ない。
だが、シェリフは居る。
ユリコ・スターズという一つの星が。
成功
🔵🔵🔴
リューイン・ランサード
「はてしなく遠い社畜坂を登り続けて、小さな子会社の社長になったというのに今回の不始末で懲罰人事確定。
人の夢と書いて儚いと言いますが、貴女の人生そのものでしたね。」
と終わった人への物言いで挑発し、ヘイトを引き受けて人々を護る。
相手の攻撃は第六感で読んで見切りで避けるか、ビームシールド盾受けで防ぐ。オーラ防御も展開。
向こうはUCで強化するから不利になるが懸命に堪える。
止めの全力の一撃を放ってきたら仙術による分身を置いて、翼による空中戦・見切りで躱してUC使用。
風の属性攻撃を籠めた双剣による鎧無視攻撃で片腕破壊します。
止めは他の方にお任せです。
後で”彼”の知り合いを、遺体のある場所に連れて行きます。
●リューイン・ランサードの選択
立ち上がろうとするカンパニーマンの前に一人の少年が立ちふさがる。
「はてしなく遠い社畜坂を登り続けて、小さな子会社の社長になったというのに今回の不始末で懲罰人事確定」
リューイン・ランサードが謳うのはオブリビオンの未来。
「人の夢と書いて儚いと言いますが、貴女の人生そのものでしたね」
勿論これは挑発。
意図的に自分へと意識を向けさせて人々を守るのが狙い。
「果たしてそうかな?」
作戦は上手く回っている。
立ち上がり視線を向けたカンパニーマンがリューインの動きに合わせ自然と人々から離れていく。
「ここでお前達を返り討ちにして、危機管理を実現したという実績を作り上げても良いんだぞ」
敵の言う通りここからが本番だった。
キャリアアップ・プログラム
出世のための危機対処。
一つ間違えれば自分が消されるであろう選択肢がオブリビオンの能力を引き上げる。
右腕から左手にブラスターを持ち変えてカンパニーマンがトリガーを引く。
――連射。
次々と射ち込まれる熱線に対し、第六感で避けていた少年も次第にビームシールドとオーラを重ねて防御に徹する。
普通ならここで次の攻撃に切り替える。
だが、このオブリビオンは違った。
連射を重ね、距離を詰める。
防御されるなら、そこに集中してもらう。
そして動けないところに後ろ回し蹴り。
「――シッ!!」
ステップワークでサイドに回り込みつつ叩き込める攻撃がリューインのこめかみにヒールを叩き込み吹き飛ばす。
「……こんなところだ」
倒れた少年に対し、覗き込むように笑いカンパニーマンは引鉄を引いた。
……結論から言うと。
誰も死ぬことは無く地面に穴が開いただけだった。
「幻覚!? 認識にアクセスしたのか?」
「そんな器用な事出来るわけ無いじゃないですか」
頭を押さえて状況を整理しようとするオブリビオンの背中から少年の声がした。
「仙術による分身です」
叩き込まれる蹴り。
体格差は翼が補った。
銃を撃つ時に覗き込んだのがカンパニーマンの不運。
状況に対して切り替えが遅れたのがカンパニーマンの不始末。
咄嗟にガードするが姿勢が崩れた。
そこへ――リューインが二つの剣を抜く。
破山乃剣撃!
エーテルソードが、流れるように流水剣が、カンパニーマンの右腕に叩き込まれた。
すれ違う様に若龍の少年は着地し、目の前の少女の手を取る。
「行きましょう」
リューインにはやるべきことがあった。
だから振り向かず置いていくのだ。
片腕を失ったオブリビオンを。
「……ここに“彼”が居ました」
そこには何もなかった。
血だまりとオイルと使えなくなったパーツだけ。
この世界は地獄だ。
埋葬するのも難しく、そのままにしておけば誰かが部品に変えていく。
でも彼女には彼がそこに居たのが分かる。
残ったそのパーツは見覚えのあるものだから。
だから嗚咽が響いた。
この選択が正しいかどうかは分からない。
一つ分かるのは“彼”が守りたかった『あいつ』は真に孤独になり。
リューイン・ランサードがそれに対して何もできないという事だ。
故に少年は嗚咽を最後まで聞く義務があった。
成功
🔵🔵🔴
新田・にこたま
「彼」はもう生きてはいません。
私は「あいつ」さんの心を救う言葉を持ち合わせてはいません。
しかし…この世に正義という救いはまだあるのだということだけは、今ここで示します。
敵とは語る意味がないのでUCを発動して突貫します。
もうさっきの悠長な交渉が不利な行動判定されて身体能力が増大されているでしょうし。これ以上の強化をさせないためにすぐに戦闘に移ります。
敵は強化されているでしょうが私だってUCで強化されています。
諸刃の剣ではありますが…速度と攻撃力で圧倒します。ドスソードと特殊警棒の二刀流…防御は考えません。今の私の強みは制圧力。攻撃こそ最大の防御です。相手の攻撃は全て見切り、切断してあげましょう。
●救う言葉は無くとも……
「あなたが探している『彼』はもう居ません」
新田・にこたまが誰かを探し彷徨う人物の前に立ち、真実を告げた。
事実だろう、助けに来てくれるならここに居るはずだから。
『彼』を探していた『あいつ』はその場で膝を着き、表情を失う。
そんな『あいつ』に対し、新田にはその心を救う言葉を持ち合わせていなかった。
――だが
「ですが……この世に正義という救いはまだあるのだということだけは、今ここで示します」
盾を捨て、警棒を片手に警察官はオブリビオンの方へ向いた。
そこに立つのはイヌと揶揄されるメガコーポにへつらう存在ではない。
法の番人と呼ばれし、人々の平和と正義を守る制服警官。
『あいつ』のメモリーが『彼』の昔話をロードする。
フィクションだけに存在したはずのポリスマン。
その背中は虚構の存在ではなく、今、ここにあった。
御託は要らなかった。
むしろ危険だった。
最初の交渉、猟兵との戦い。
そして負傷……倒すべきカンパニーマンの能力はかなりの領域に引き上げられている。
だから自分も――限界を突破しかない。
正義の限界突破!
体内の炉心が暴走し、次々とエネルギーを生み出していく。
熱は自分の生き方のように冷めることなく、大気を変質させオーラすら生み出す。
「うわぁああああああっ!!」
過剰なるパワーは8倍の速度を生み出し、同じだけの威力を警棒に込め、振るわれる。
「チィッ!!」
舌打ちしつつオブリビオンがブラスターで打ち落とすと視線に迫るのは刀の切っ先一つ。
ドスソード。
生家に伝わりし一振り。
自らの正義のために家族を捨ててもなお捨てられなかった生まれの証。
眉間数センチのギリギリ、刺突を刹那のタイミングで躱しカンパニーマンが流れるように蹴りを放ち鳩尾にヒールを突き刺した。
「ぐふっ!」
まだ残っていた生身の臓腑が蹴り破られ、人工心臓へのバイパスが切断される。
「終わりだ」
オブリビオンが蹴りを叩き込んだ姿勢でブラスターを向け。
「まだぁ!!」
対する新田が鋼鉄の義腕を振り上げ、その肘で敵の足を砕いた。
カンパニーマンの顔がダメージに歪む。
その一瞬の暇――その中に警察官の影が潜り込む。
それは端から見たらすれ違う様な攻防。
ユーベルコードの代償に致命傷を叩き込まれた新田はその場に倒れ。
遅れてオブリビオンの脇腹から血を人工体液の混ざったものが夥しく零れ、飛沫は地面を汚す。
確かに刻み込まれた。
すれ違いざまにカンパニーマンの脇腹を切り裂き刻み込んだのはやがて死に至るであろう一撃。
もはやオブリビオンは猟兵を蹴散らし安全を確保せねば助かる道は無いだろう。
そして刻まれた。
『彼』を失った『あいつ』
ただ着いて行くように生きていた自分の人生。
流されるままに生きていた自分の人生。
もはや孤独という海に流されるだけだった自分は微かだが熱い灯火をその胸に抱いた。
それは正義という名の古臭くも揺るがない一つの救い。
苦戦
🔵🔴🔴
ヤーガリ・セサル
このような者に選択肢を見せて下さるとは、お優しいことで。
ただ卑しい者からのキスを一つ受けていただければ、嬉しく……。哀れな男にご慈悲を、という奴です。
「優しさ」と気弱さを交えた笑みで近づき、「鮮血噛み付き」を使用。何かされても「激痛耐性」で耐えつつむさぼれるだけむさぼります。
この都市に来てからというもの、鼠という鼠がやせ細っていて宜しくない。
あなたのように肥えた大鼠は好物でして。醜い生き物同士、お互い喰らい合いましょうや。心意気を見せて死んだ奴らに申し訳ないですからね。
・「あいつ」
外道の怪物が行う説法など、聞く価値もないと思われるでしょうが。
あなたを救えといった方は、道を残して逝きました。故に、生きなさい。
あなたは愛されていた。このような世界において、最も価値のあることです。
光の側で生き続けることです。難しかったならば……たがいに寄り添えばいいんじゃないですかね。
くれぐれも、あたしの様な化け物には関わらぬよう!
●喰らうものが残すもの
血と人工体液を漏れていく。
すぐに人工皮膚の修復機能が働き、傷を塞いでいく。
だが、それも一時しのぎ。
生体を含めた中枢機能が損傷した今、彼らから逃げおおせる可能性は少なく。
もし逃げおおせても上に消されるか、適切な治療は受けられることはないだろう。
カンパニーマンに最早退路は無かった。
「このような者に選択肢を見せて下さるとは、お優しいことで」
そんなオブリビオンの前にヤーガリ・セサルが背を丸めて歩み寄る。
「こちらとしてはただ卑しい者からのキスを一つ受けていただければ、嬉しく……」
「コンプライアンスに違反しているな」
こんな状況だからこそジョークの一つでも言わないとやっていられない。
だがヤーガリも同じだ。
「哀れな男にご慈悲を、という奴です」
自虐に満ちたその言葉には苦みの効いた何かと……そして殺意。
「チィッ!」
舌打ち、そしてカンパニーマンのブラスターが熱線を放つ。
けれど鼠喰らいは避けることはしない。
負傷の身で乱射するオブリビオンのブラスター。
一撃、二撃と身体を貫き衝撃が身を躍らせ、足を止める。
だが……それは一時の合間のみ。
「痛覚を遮断したか」
「いいえ」
オブリビオンの推測をヤーガリは優しく笑って否定する。
「ただのやせ我慢です」
「馬鹿な!?」
そんなつまらない理由で熱線に耐えたのか!?
狼狽と混乱が隙を生む。
その時にはもうカンパニーマンの首に牙が二つ突き刺さっていた。
鮮血噛み付き
それは接吻というには野蛮であり。
吸血というには化物すぎた。
ただ、肉を喰らいエネルギーを欲す、得る。
「この都市に来てからというもの、鼠という鼠がやせ細っていて宜しくない」
噛み砕いた生体組織の中に入っている金属を咀嚼し吐き捨てる。
「あなたのように肥えた大鼠は好物でして。醜い生き物同士、お互い喰らい合いましょうや」
犬歯を見せ鼠喰らいはもう一度牙を立てる。
悲鳴のようなものが鼓膜を撃つが構うものか。
この世界に巣食うオブリビオンという名の鼠を喰らうのを止める気は無いのだから。
「心意気を見せて死んだ奴らに申し訳ないですからね」
頚部から配線と基盤を露出させ、膝を着いたカンパニーマンへと吐き捨てると、ヤーガリ・セサルは背中を向ける。
自分の仕事は終わったとばかりに。
『彼』を探す『あいつ』
その前に立つのは傷つきながらも襟を正す黒衣の男。
色の薄い痩せぎすの顔は熱線によって孔を穿たれ、最早色は無い。
「外道の怪物が行う説法など、聞く価値もないと思われるでしょうが」
呼吸を整え、ゆっくりとヤーガリは唇を動かす。
やせ我慢などするもので無いなと毎回思うが、こればかりは性分だ。
「あなたを救えといった方は、道を残して逝きました。故に、生きなさい」
だから目の前の人物の痛みも背負ってしまうのだ。
「あなたは愛されていた。このような世界において、最も価値のあることです」
そして痛みを知るからこそ、託された想いの奥底に沈んでいた輝きを伝えることが出来る。
一枚のコインの重さを。
「光の側で生き続けることです。難しかったならば……たがいに寄り添えばいいんじゃないですかね」
そして、諭す。
これからの生き方を。
流されない、誰かに着いていかない、自分で歩き、共に歩く道を。
説法は終わり、黒衣の僧侶は背を向ける。
「あ、あの……」
「くれぐれも、あたしの様な化け物には関わらぬよう!」
何かを言わんとする『あいつ』
強い拒絶は闇の側から響いた。
数奇な運命の末、闇に生きる男は、光を知るからこそ、その輝きを愛し。
眩しく思うからこそ、その場で生き続けることを望む。
闇に立つのは自分だけで充分なのだから……。
苦戦
🔵🔴🔴
トリテレイア・ゼロナイン
価値観に隔たりがある以上、商談は無意味かと
巨大な風車の巨人の如き企業に逆らう合理弁えぬ狂人…そう思って結構ですとも
尤も、狂気の中に正しきがあることもあります
この世界で内蔵兵器など常識
遠慮なく躯体の全格納銃器を展開し牽制として乱射しつつ突撃
相手の攻めを盾で捌きつつ剣にて斬り込み
…騎士を気取る狂人が何に乗っていたか、ご存知で?
遠隔操縦で壁を破壊させロシナンテⅡを突撃
此方の対処に注力する敵の虚を突き、宙に跳ね飛ばし
即座に騎乗、機械馬スラスター全開
馬上槍で刺し貫き
私には騎士の義務がある
命賭した者達の遺志に応える義務が
行方探す者達の責めを受け止め、涙見届ける義務が
故に、此処で斃れはしない!
●滑稽なるは企業人か騎士か
「次はお前か」
首を抑え、立ち上がったカンパニーマンが問いかける。
「一応、アジェンダに対する回答を聞こうか」
「価値観に隔たりがある以上、商談は無意味かと」
トリテレイア・ゼロナインは拒絶の意を示す。
「巨大な風車の巨人の如き企業に逆らう合理弁えぬ狂人……そう思って結構ですとも」
「だとすると私は公爵夫人というわけか」
騎士の冗談をオブリビオンはメモリの中にあった小説に例えて返した。
「ならば私の悪戯に付き合って死ぬのだな。滑稽なる機械人形よ」
「尤も」
カンパニーマンの軽口をに対し戦機は首を振る。
「狂気の中に正しきがあることもあります」
オブリビオンが言葉の意味に気づいた時、騎士は全ての武装を展開していた。
「貴女はそれを知るのです」
機銃弾と熱線が交錯する。
負傷と窮地がなおもオブリビオンを戦に駆り立て引き上げられた能力によって弾丸を容易く避ければ、騎士は盾をかざしてブラスターの射線を塞ぎ、剣を抜く。
金属音が重なり合い、大剣と熱線銃が鍔迫り合いの如く打ち合う。
「……騎士を気取る狂人が何に乗っていたか、ご存知で?」
「その痩せた馬は馬小屋にでも置いてきたか?」
トリテレイアの問いに毒舌で返せば、否定は壁を壊してやってきた。
機械飛竜『ロシナンテⅢ』
口部内の単装砲で破壊した穴から飛び込んだ飛竜が質量と勢いを以てカンパニーマンを宙に跳ね飛ばす。
即座に戦機が騎乗すればロシナンテⅢのスラスターが全開。
トリテレイアが馬上槍片手に暗き空へと突撃をかけた。
機械騎士の突撃、すなわち――マシンナイツ・チャージ!!
「私には騎士の義務がある」
ランスがオブリビオンの腹を貫く中、トリテレイアは叫ぶ。
「命賭した者達の遺志に応える義務が」
己が使命を。
「行方探す者達の責めを受け止め、涙見届ける義務が」
己が生き方を。
「ぬぅうううううううううっ」
カンパニーマンが槍を破壊しようとブラスターを向けた瞬間。
機械飛竜が吼えた。
「故に、此処で斃れはしない!」
照明に反射する白銀の騎士鎧。
戦機は空へ舞い、オブリビオンが操り人形が糸を切られたが如く滑稽な動作で地面に叩きつけられた。
「…………」
一撃を叩き込んだトリテレイアが着地したロシナンテから降りる。
次の役目があるのだから。
そう、誰かを探している『あいつ』の言葉を聞くという一番重要な役割が。
それがどんな戦いよりも辛く、傷つく事であろうことは騎士自身が一番知っていた。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
ふうん、面白い事言うのね貴女。
社長なんか辞めて、コメディアンにでも転身してみたらどうかしら?
お茶の間の笑いを一身に集められるわよ。きっとね。
で、何だっけ。「手札を晒す(ショウダウン)」んだっけ?
【筋肉の精霊さん】発動
表向きは相手の挑発に乗ってレスバを仕掛け、時間を稼ぐ
不利を承知で実力行使してきたとしても「怪力」とこれまでの経験で以て約二分間を凌ぎきる
ちなみに概念的に「筋肉」であれば効果はあるから、サイボーグ体で人工筋肉や油圧シリンダーの類に換装してても問題無いわ
あとは激痛で動けなくなったヤツを「怪力」でじわじわ締め上げて潰すのみね
ほら、笑って?微笑んで?
貴女の会社の社訓でしょ?
未丘・柘良
コインを片手で弾き、受け止めて
原子番号13-Al
大企業が求めるレアメタルとは違い、安価な上にリサイクルの優等生とも言われるありふれた金属だ
この硬貨そのものは端金よ
だが依頼者の仲間の無事を願う心がこれには籠められてる
その想いは再鋳造なんざ出来ねぇ
損得で動くテメェらにゃ死んでも解らねぇだろうがな
千里眼で周囲の機能停止したビオレット達を捕捉しUC発動、接続
お前らの商売の真似事でもねぇが…リサイクルさせて貰うぜ?
メイド共の生きてる武装回路部分を遠隔制御
命中を増した上での包囲は万全
銃口を女社長に向けて一斉発射
蜂の巣になりやがれ
代打ちに俺様達が入った時点でテメェらがハコテンになるのは免れなかったって訳だな
●原子番号13-Al
腹に空いた穴を感情もなく覗き込み、カンパニーマンは思考する。
この世界で人力なんて一番安いコスト。
安いカネで部品を回収し、そして売りさばく。
使えなくなった労働力は骸の海に投げ込んでパーツだけに引き上げる。
デカいカネは動かないが、これほどまでに安牌な仕事は無かったはずだ。
なのに、それが崩壊している。
……金で動かない猟兵と名乗る輩のせいで。
コインを弾く音が響いた。
聴覚センサーがそれを拾い、オブリビオンは現実に引き戻された。
「原子番号13-Al」
片手で弾いたコインを未丘・柘良が生身に見える右手で受け止める。
「大企業が求めるレアメタルとは違い、安価な上にリサイクルの優等生とも言われるありふれた金属だ」
「うちの会社のようなものだな」
腹を抑えるのを止め、風穴を開けた姿でカンパニーマンはブラスターを構える。
「この硬貨そのものは端金よ」
銃口を目の前にしても柘良の啖呵は止まらない。
「だが依頼者の仲間の無事を願う心がこれには籠められてる」
切った張ったの大舞台。
「その想いは再鋳造なんざ出来ねぇ」
金が正義の電脳桃源郷――そこで貫く一つの仁義。
「損得で動くテメェらにゃ死んでも解らねぇだろうがな」
例え割り切れない生き方だとしても、鉄砲一つで引き下がる理由などなかった。
「いいや」
オブリビオンが笑う。
「仕事は信頼あってのものだ。そしてそれを定量化するのが――金だよ」
理解をしつつ否定する言葉は嘘偽りなく。
そこに仁義も何もないだけ。
「ふうん、面白い事言うのね貴女」
だから荒谷・つかさが笑うのだ。
「社長なんか辞めて、コメディアンにでも転身してみたらどうかしら?」
提案しつつも侠客の前に羅刹は立つ。
人それぞれの役割があるがゆえに。
「お茶の間の笑いを一身に集められるわよ。きっとね」
「お前達を部品に変えたら業務拡大の一環として考えておこう」
つかさのことばにカンパニーマンが切り返せば。
「で、何だっけ」
羅刹の女が
ショウ ダウン
「手札を晒すんだっけ?」
軽口でからかうと企業の女は微笑み。
「お前こそ、コメディアンになった方が良いな?」
殺意を持って引鉄を引いた。
瞬間、柏手が鳴り、空気がうねった。
「熱線が……吹き飛ぶ!?」
「熱線だか、光線だか分からないけれど」
胸元で手を合わせていたつかさが口を開く。
「空気がうねる中、真っすぐ飛ぶものかしら?」
柏手による瞬間的な真空状態と衝撃波。
ブラスターの命中精度を落とすに充分な状況を羅刹は筋力で作り上げた。
「――チィ!」
続けざまに放つ一撃を今度は博徒の脇差が打ち落とす。
「無茶をすんな……いや、無茶じゃないか」
柘良の言葉につかさは笑うのみ。
「んじゃあ、その腕っぷしを見込んで頼みがある。ちょっと時間を作ってくれや」
侠客がカネサダ片手に周囲を見回しつつ、提案する。
「良いわよ、どれくらい?」
「二分要らねえ」
羅刹の問いに博徒が答えれば、上等と言うばかりにつかさが走った。
同じタイミングでカンパニーマンも地面を蹴っていた。
死に至る極限状況の中、最後の逆転の一手を狙うオブリビオンの動きは猟兵を上回る。
サイバーザナドゥでも追いつかない速さと力。
個人では対抗するのは難しい。
故に役割を分ける。
柘良は策を練り、つかさはその時間を稼ぐために前に出たのだ。
二分、短くも長いその時間。
拳での戦いに明け暮れ、力の本質を知る羅刹で無ければ追いつけない。
速さに対し、筋肉の反射で反応し、威力に対しては遥かに上回る膂力で対抗する。
顔面突きつけられたブラスター。
つかさがそれを握って捻ると銃身180°に曲がる。
オブリビオンの舌打ちと共に振り払われたブラスター。
直後、銃把の底が羅刹のこめかみを打った。
目の奥で火花が散る。
だが――充分な時間が生まれた。
「ねえ、聞こえる?」
問いかけるは羅刹の女。
「今、あなたの大胸筋から聞こえる声」
筋肉の精霊さん……という物なのだろうか?
それともマッスルエレメンタルというスピリットが居るのだろうか?
我々には知り得ない筋肉を司る何かがオブリビオンの人工筋肉を過剰に収縮させ、筋断裂と筋痙攣を引き起こす。
簡単に言うと――筋肉痛とこむら返り。
「がぁ……ウィルスか!?」
「精霊よ」
自らの身体をコントロールできなくなったカンパニーマンの言葉につかさが答える。
「いや、流石に違うだろう……」
「精霊よ」
柘良も口を挟むがつかさの言葉にそれ以上何もいう事は無かった。
それに口を挟むという事は終わったという事なのだ。
ユーベルコードを起動させるための仕込みが!
壊れたビオレットが次々と立ち上がり、銃を向ける。
「お前らの商売の真似事でもねぇが……リサイクルさせて貰うぜ?」
自身の目に仕込んだクリアボヤンスアイズ。
千里眼を持ったサイバーザナドゥは近くにあるもの全ての目を奪い、そして操る。
――対々和
役牌とつながれば大きな手となるユーベルコード。
「蜂の巣になりやがれ」
それを実現するかのように視覚と武装回路を奪い取ったビオレットの銃がつかさが離れた直後に火を吹いた。
制御を奪われたカンパニーマンに逃げることは――不可能だった。
「代打ちに俺様達が入った時点でテメェらがハコテンになるのは免れなかったって訳だな」
穴だらけになったオブリビオンに背を向けて、博徒は煙管を咥える。
最後を見送る仕事はもう一人に任せ、自分はやらねばならないことがあるのだから。
『あいつ』に向かって歩く柘良とすれ違う様につかさがカンパニーマンへと近寄る。
オブリビオンはまだ地に伏していない……いや、筋肉の精霊がそうはさせなかったのだ。
「ほら、笑って? 微笑んで?」
羅刹の手がカンパニーに身を捧げた女の頭を掴む。
「貴女の会社の社訓でしょ?」
カンパニーマンの口角が上がる。
だが、それはただの筋痙攣。
分かっているからこそ、つかさの掌に力を込め、握った何かを柘榴が如く潰した。
全てを終え、場から去る侠客。
その隣を羅刹が歩く。
「終わったかしら?」
「……ああ」
つかさの問いに柘良が答える。
その手にはあるべきものが無かった。
「……コインはどうしたの?」
「あいつに渡してきた。アレは俺様には重すぎる」
羅刹の問いに博徒は答えた。
「……そう」
それ以上の会話は必要なかった。
ここは電脳飛び交う桃源郷。
全ては汚れ、金が正義。
その中で生き方を貫いた者は死に、そしてついて行った『あいつ』だけが生き残った。
それが今日の答え。
だが、それでも生き方を貫かねばならない。
例え身体が機械となっても人は結局のところ人であるのだから……。
大成功
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