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ひかり幸ふ春の日に

#サクラミラージュ #辻斬り少女


●春に目覚める
 幽かに筆を乗せたような白雲が青空を流れていく。ただ、白雲があるそこは地上よりも風が大人しいようで、兎と競争した亀の方が早いのではと思うほど。
 そんな空は柔らかな青色をしており、そこをさらさらと流れていった桜色の花弁は晴空にひととき浮かんだ星座めいて見えた。
 カンカン帽の下から空を行く春の欠片を見た男は、空から地上へと視線を戻しながら、ほう、と息をつく。
 広々とした道路を挟む店の佇まいは和と洋が半々で、道路と歩道を隔てて並ぶ白木蓮が、清く晴れやかな白を添えている。そこへ幻朧桜の花弁がきらきらひらひらとお邪魔して――。
「春に照らされているようだ。この先にある噂の桜河も、さぞ素晴らしいのだろうな。昨日の新聞では満開と迎えたと書かれていたぞ、楚々とした花吹雪が見られそうだ」
「盛大な桜吹雪も悪くないが、そうだな、楽しみだ。おお見てみろ、美味そうな花見弁当だ! お嬢さん、この桜弁当というのを二つ頼む!」
「はぁい只今!」
 春の日和に似合いの明るい声は、団子屋、土産屋、洋風弁当屋とあちこちでも。

 ――そんな春の訪れが、傷だらけの魂に触れたのか。

 誰かと誰かが擦れ違った一瞬。雑踏の只中に、少女は“現れた”。
『……春、だわ』
 ひらり。ひらひら。
 舞い踊る花弁を、少女の目は緩慢な動きで追う。
 青空に浮かぶ花弁はやがて白木蓮に重なり、眩い彩を灰の瞳に映した。
『嗚呼、春なのね……じゃあ……この先に、行けば……』
 はくはくと動いた唇からこぼれは声は雑踏にとけ、拾われる事はない。
 だが少女は周りを気にかける様子はなく、ふらりと歩き出した。
 その歩みはあまりにもか弱いものだった。
 しかし刀を手にした少女の歩みは止まらず――人々から悲鳴の波が起き始める。

●ひかり幸ふ春の日に
 傷ついたオブリビオンである影朧の中でも、特に儚く弱々しい影朧が現れる。
 グリモアベースにその報せを持ってきたルル・ミール(賢者の卵・f06050)は、その影朧である少女を倒すのではなく、助けてあげてほしいと告げた。
「その影朧さん、殺人事件の被害者みたいなんです」
 名前まではわからなかった為、少女が犠牲となった事件を調べることは難しい。そして悲しい事に、少女が被害者であった殺人事件は複数起きていた。その中の誰かが今回の影朧なのだろう。
「“あの日殺されて、みんなと見られなかった春が”……予知の中で、影朧さん、そう言ってたんです」
 突然降りかかった不幸。
 理不尽に奪われた未来。
 『みんな』と見る筈だったものは死という形で永遠に閉ざされて――そして酷く傷ついた魂のまま、今は春を見たいという願いだけを胸に歩いている。
 周囲の一般人に一切の攻撃行動を見せないのは、そんなたった一つの執着、影朧となっても消えなかった願いが在るからだ。
 帝都を脅かす影朧は即座に斬る、というのが掟だが、件の少女がひとたび無害となったのなら、帝都桜學府の目的である“影朧の救済”を優先して悪い筈がない。
「皆さんならきっと、それができます! とても儚い影朧さんですけど、倒してすぐに消えちゃうことはなくって、春を見る為に歩き出します。残ってる時間は、そんなに長くはないんですけど……」
 犬耳が再びぺたんとなるも、ルルはすぐに明るく笑った。
 少女が見たいと願う春は、白木蓮が美しく彩る通りを行った先にある『桜河』だ。
 澄んだ水が流れる穏やかな河川。両岸には満開を迎えた桜が並び、静かな桜吹雪が若葉に包まれた河岸や空を彩り、まさに春爛漫。
「とてもとても素敵な所みたいなので、皆さんも春を満喫するのはどうでしょう? 影朧さんが現れた通りには美味しそうなお弁当屋さんがいっぱいあって、お花見のお弁当に困らないこと間違いなしです!」
 桜でんぶで描かれた大きな桜の花を炒り卵で囲った桜弁当っていう美味しそうなお弁当が――と言ったところでルルはハッとして蛇尻尾をぴぴーん。照れ笑いしながら現したグリモアがきらきら輝き出す。
「それでは皆さん、お願いします!」
 明るい声の後、世界はグリモアベースからサクラミラージュへと。
 広がる青い空。舞う花弁。輝くような白木蓮。
 賑わう声がさざめいて――音もなく滲み出た影の如く。少女が独り、現れる。


東間
 春に散らされた魂が願う春のもとへ。
 そんなサクラミラージュでのお花見シナリオをご案内。東間(あずま)です。

●受付期間
 タグや個人ページ、ツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせ。プレイング送信前にご確認下さい。

●一章 ボス戦『辻斬り少女』
 心情メイン&さくっと二章へ行くべく受付期間短め&少数採用予定。
 影朧少女はこれといった戦闘行動は取りません。
 基本、無抵抗。ぼんやり気味。話しかければ反応します。

●二章 冒険『はかない影朧、町を歩く』
 影朧少女が現れパニック状態の人々を宥め、なるべく影朧を脅かさないよう日常生活を続けてもらう章。つまり猟兵の皆様がお買い物をすれば人々は「あ、大丈夫そう」と安心します。
 お花見にピッタリのお弁当やおむすびや稲荷寿司、お団子にお饅頭など美味しそうなものが販売中。洋風ならサンドイッチ各種、桜と桜吹雪の焼印がされたカステイラも。
 桜をモチーフとした雑貨や装飾品、小物もあります。
 詳細は導入場面にて。

●三章 日常
 影朧少女の目的地である桜河でのお花見パート。
 影朧少女は念願の場所で静かに過ごすでしょう。かけたい言葉がありましたらどうぞ遠慮なく。お花見に誘えば、そろりそろりと加わります。
 お誘い頂いた場合、ルル・ミールもお邪魔致します。

 桜の枝に乗る・折るといった、桜を傷つける行為はNG。
 大音量の歌や音楽を流す事もご遠慮下さい。

●グループ参加
 一章と二章は【二人】まで。
 三章は試験的に【制限なし】を予定していますが、参加者数によっては一度再送をお願いする可能性があります。

 同行者がいる方はプレイングに【グループ名】の明記を。
 送信タイミングは同日であれば別々で大丈夫です(【】は不要)
 日付を跨ぎそうな時は翌8:31以降だと失効日が延びるので、出来ればそのタイミングでお願い致します。

 オーバーロード利用が揃っていない=グループ内で失効日が発生した場合、その日届いたプレイング数によっては採用が難しくなる可能性があります。ご了承下さい。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『辻斬り少女』

POW   :    【先制攻撃型UC】血桜開花~満開~
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    【先制攻撃型UC】絶対殺人刀
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、殺意】を籠めた【斬撃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【急所、又はそれに類する部位】のみを攻撃する。
WIZ   :    【先制攻撃型UC】ガール・ザ・リッパー
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、斬撃】が命中した対象を切断する。
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●春の迷い子
 艶やかな髪には赤いリボン。
 立派な桜花が桜吹雪と共に在る、紅と淡桃からなる市松柄と、空色蝶々結びがひらひら揺れる藍色袴。
 年の頃は10代半ば。恐らくは、15か16だろう。少しだけ幼さ残す顔立ちは、大人へと向かう半ばで止められてしまった所為もあるだろうか。
 影朧少女が一歩進む度、幽かな足音が紡がれて――がりがり、がり。握られたまま抜かれる気配のない刀、引き摺られ続けている鞘が歪な音を立てていた。
 その、賑わいの中に混じった異音が。傍を過ぎた瞬間、ひやりと覚えた翳の在る気配が。影朧の出現を人々に気付かせる。
 周りの空気が変わったと察知したのか、影朧少女の視線が周りに向いた。
『……』
 ふらりとした視線はすぐに前を向き、誰も映さなくなった。
 少女が求めるものは一つだけ。
 この先にある、死して尚も焦がれた春の彩。
 故に向けられる恐れや広がりゆく混乱は、ぼんやりとしたものでしかない。抱き続けた願いからずっと遠い、意識の外へと放られて、目にも意識にも留まる事はない。

 だが。
 
『――……』

 春だけを求めていた灰色の双眸に、猟兵の姿が映る。
 
リオン・カスタネダ
アドリブ・連携◎

■心情のみ
寂しい終わりを迎え、そして春を求めている…
あなた1人のままの春はあまりにも寂しすぎます
僕はあなたに少しでも心の安寧となるならば…貴女の募っている想いをぶつけてください!
僕は逃げずにまっすぐ受け止めましょう!

■その他行動
僕は熱すぎて拳で語る頭の固い時計ウサギです…
ですが僕は彼女のそばに寄り添い話を聞いてあげます
みんなと迎えたかった春を今度は僕達猟兵で迎え入れたいです

僕は彼女が歩くそばに寄り添いながら彼女の募った想いを聞いてもう寂しい思いのないよう言い聞かせます
セリフ描写はアドリブにおまかせでお願いします。


神宮時・蒼
…春の、陽気。…其れとも、桜の、香りに、呼ばれた、の、でしょうか。
…綺麗、だけれど、何故か、儚い、気持ちを、抱かせ、ますね。
…儚く、散って、しまった、貴女様。此れが、泡沫の、夢で、あるのなら、其の、望みを、叶えて、あげたい、と言うのは、人の業、でしょうか。

相手が手を出さないのであれば、此方も手は出さず。
但し、最終的に撃破が必要なのであれば、【全力魔法】の「彩花万象ノ陣」で痛み無く。桜花の花吹雪で包んで、隠して

…貴女様の、お話を、聞かせては、くれません、でしょうか
…ええ、何でも、いい、のです。ボクは、此の先の、桜河に、行った事は、ありません、ので。…貴女様の、心の、思うままに。…交わした、約束、でも、叶えられなかった、無念さ、でも。
…そうして、共に、往きましょう。
…ボクでは、貴女様の、言う、みんな、には、なりえない、かも、しれません、けれど。
…きっと。…此の機会は、桜が、与えてくれた、奇跡の、ような、ものだと、思います、ので…。


千百秋・清明
【花天】
(件の少女を見つけたら、私達の想いを示す様に――
普段通りの人懐っこい笑顔で、明るく手を差し伸べ)

こんにちは、お嬢さん!貴女もお花見?
ふふ、そうそう、こっちが春和こと春ちゃんで私が清明!

どうやら目指す先は同じみたいだし、良かったら一緒に女子会でも如何?
皆で仲良く楽しめたら、一層彩り豊かな春になりそうかなって!

(荷物重そうだし手伝うよ、と――彼女さえ良ければ、然り気無く刀と鞘を風呂敷で覆って持ち、異音や不穏の元を防ぐように

――代わりにその手を取って、か弱い歩みの支えとなれたら、傷癒す地まで共に歩めたら

かつての友にはなれずとも
せめて新たな友として)

うん、きっと好い春の一日を――叶えに行こう!


コノハ・ライゼ
過去は変えられないし、恨んでいたとして晴らしてやるコトもできない
花だって共に見たかった人達と見れる訳でもない
それなのに忘れられないだナンて、そのささやかな日常が如何に大切だったかってコトよね

救うとか言うつもりはないケド
季節の彩りを想うヒトの願いなら助けない理由だってナイわ

影朧少女の様子みつつ挨拶から声を掛け
この先の景色がどんなに綺麗か、噂で聞いたと話すわ
ねぇ、良ければ道中ご一緒しても?
きっと沢山の人が訪れるのでしょうネ
春を臨むヒトたちミンナが、笑顔で楽しめると最高と思わない?
アナタが穏やかなままいられるよう――少しだけ、イイかしら
手を差し出し、静かに包むよう【虹渡】を向けるわ


永廻・春和
【花天】
(討伐ではなく、救済
其を叶える為に、力ではなく心を尽くして彼女を送り出す
――其こそが私達の想い

なればこそ、周囲の空気も塗り替える様に、清ちゃんと共に至って穏やかに微笑んで)

こんにちは、初めまして
“春”と呼ぶ声が聞こえましたので、つい気になって――突然申し訳ございません
私、春和と申します
貴女様が求めていらっしゃる春とはまた違う存在ではございますが――ええ、もし宜しければ、少しご一緒致しませんか?

(右に同じく、彼女がお嫌でなければ――あたたかな春の彩の元へ――明るく穏やかな道行へ誘えたらと、手を取って)

ええ、必ずや心癒される、佳き春を見つけに参りましょう



 猟兵達を映した二つの灰色が、一度、静かに瞬いた。
 向けられる眼差しには翳りも煌めきも無く、定かでない少女の年と悲運な境遇が重なり、ただでさえ儚い存在感が影朧少女を夢幻のように思わせる。
 しかし結わえられた髪や袴が吹く春風で柔らかに揺れる度、“影朧となってそこに居る”という現実が、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)の心を静かに胸を刺していた。
「……春の、陽気。……其れとも、桜の、香りに、呼ばれた、の、でしょうか」
 あの影朧少女が迎えた生前最後の日と今日は、どれくらい近しいのだろう。
 太陽の光。幻朧桜の花弁。白木蓮の白。それらは、今この瞬間と同じく、当時も影朧少女を包んでいたのだろうか。
 あの影朧少女の事で自分が知っているものといえば、“春が見たい”と願っている事と、殺人事件の被害者だという事だけ。――だから、かもしれない。
「……綺麗、だけれど、何故か、儚い、気持ちを、抱かせ、ますね」
 蒼の囁きを耳にしたリオン・カスタネダ(伝統空手の努力家・f32939)は、拳をきつく握りしめる。
(「寂しい終わりを迎え、そして春を求めている人……」)
 影朧少女が共に春を見る筈だった『みんな』は、ここに居ない。事件で命を落とした日に、影朧少女と『みんな』は道を分かたれてしまった筈だ。
 肌に食い込んだ爪が熱を生んだ瞬間、リオンは表情に滲ませていた悲しみを決意へと変えた。
(「だからって、あなた一人のままの春はあまりにも寂しすぎます」)
 影朧となった少女の願いを叶え、救う。
 リオンと同じ願いを抱いた學徒兵が二人、マントを軽やかに翻した。
「こんにちは、初めまして」
「こんにちは、お嬢さん! 貴女もお花見?」
『……わた、し?』
 瞬いた灰色に映ったもの――春に綻ぶ花の如き笑顔が二つ、揃って頷いた。
 永廻・春和(春和景明・f22608)の穏やかな微笑みと、手を差し伸べた千百秋・清明(晴雲秋月・f22617)が浮かべる人懐こい笑顔。ぞれぞれがかけた声の清廉さと明るさは、笑顔と共に少女へ向き――人々の心にも届いていた。おや、と目を瞠った人の姿を視界に、春和は桜色の双眸をより和らげる。
「“春”と呼ぶ声が聞こえましたので、つい気になって――突然申し訳ございません。私、春和と申します」
『はるか、さん』
「はい。貴女様が求めていらっしゃる春とはまた違う存在ではございますが――」
「ふふ、そうそう、こっちが春和こと春ちゃんで私が清明!」
 真面目な受け答えに清明はころころ笑い、春和を指して自分を指すと、それでねと無邪気な笑顔と共に後光を煌めかせた。
「どうやら目指す先は同じみたいだし、良かったら一緒に女子会でも如何?」
『え……? 女子会? 私、と?』
 存在感と同じくらい感情が希薄だった影朧少女の顔に、初めてそれ以外のもの――小さな驚きが浮かんだのを見て、清明は「そうそう女子会!」と楽しげに頷いた。
 春和も影朧少女の口からまろびでた単語にニッコリ微笑みながら、さり気なくやって来た紫雲の彩に気付き、小さな頷きと共に唇を結ぶ。

 ――どうぞ。
 ――ありがと、お邪魔するわネ。

 そんな無言でのバトンタッチに気付いていないのは、影朧少女だけ。
「楽しそうな話ね、お仲間に入れてくれないカシラ?」
 ハッと向いた灰色の眼差しに、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は軽く手を挙げ「ハァイ」と笑う。
「コンニチハ。この先の景色がどんなに綺麗か、噂で聞いて来たんだケド……」
 軽快さと親しみの両方を声と笑顔に宿したコノハの挨拶に、影朧少女が『こ、んにちは』と辿々しくもしっかりと挨拶を返す。浮かべ始めた感情と僅かな会話だけで、今にも消えそうだった儚さは不思議と和らいでいた。
「ねぇ、良ければ道中ご一緒しても?」
『お兄さんも、桜河に……?』
「そ。きっと沢山の人が訪れるのでしょうネ。春を臨むヒトたちミンナが、笑顔で楽しめると最高と思わない? オレも。アナタも」
 くすりと笑めば、清明がぱぁっと目を輝かせ元気に頷いた。後光の輝きもぴかっと増し、影朧少女が『わっ』と目を瞠る。
「わかる! 皆で仲良く楽しめたら、一層彩り豊かな春になりそうかなって!」
「ええ、私も同感です。もし宜しければ、少しご一緒致しませんか?」
 白木蓮の道を辿って、爛漫の春に満ちた、かの河まで。
『――……一緒に、行ってくれるの……?』
 一人、殺された。
 影朧になった。独りになった。
 誰も連れず行く筈だった春の道に、名も知らぬ人達が寄り添ってくれるという。
 影朧少女の目は再びぱちぱちと瞬きを繰り返し――ほろりと揺らぎながら淡く潤ませていく様へ「そーよ」とかけられた声は、始めに声を掛けてきた時よりも柔らかい。
「だって、楽しいコトはちょっとでも増えた方がイイもの」
 過去は変えられない。
 影朧少女が犯人を恨んでいたとして、それを晴らしてやる事も出来ない。
 花だってそうだ。一緒に見たかった『みんな』と見れる訳でもない。
(「ったく。ないない尽くしね。……それなのに忘れられないだナンて、そのささやかな日常が如何に大切だったかってコトよね」)
 だからこそ、出そうになった不満はぺろりと腹の中へ。こちらを見る影朧少女には、桜河の風景と花見を楽しみにしている笑顔だけを見せる。救う、とか。そういう言葉も、言うつもりはない。
(「ケド。季節の彩りを想うヒトの願いなら助けない理由だってナイわ」)
 そういう事ならグルメでシェフなコノハは、めっぽう自信がある。
 どう?
 三人からの笑顔と厚意に影朧少女が頷き――かけ、止まった。
『でも……いいの? だって、会った、ばかりで……』
「いいんです!」
 堂々響いた声に影朧少女の肩がびくっと跳ねた。
「あっ、驚かせてしまいすみません! 僕はリオンと言います、よろしくお願いします!」
 見事な90度お辞儀をしたリオンはそこからシュバッと元の姿勢に戻った。背筋をぴんと伸ばし、真っ直ぐに影朧少女を見る。
「僕は……いいえ。僕達は、貴女の力になりたいんです」
 そうする事で少しでも心の安寧となれるならば、自分は全力で挑もう。
 花見をするにしては熱過ぎる姿勢かもしれない。しかし拳で語りがちな事と頭の固さに自覚があるリオンは、本気で力になりたいのだという想いを熱い言葉に滲ませる事で、影朧少女に寄り添う姿勢を見せた。
「……儚く、散って、しまった、貴女様」
 ぽつり、ぽつりと紡がれた声。さく、と聞こえた足音は声と同じくらい幽かで、けれど自分へと向けられたものだとわかる。は、と瞠られた灰色に色違いの静かな眼差しが映った。
「此れが、泡沫の、夢で、あるのなら、其の、望みを、叶えて、あげたい、と言うのは、人の業、でしょうか」
 この身は人の形をしているけれど、ヒトではない。蒼は自身の事をどこか客観的に見ながら、それでも、自分も彼らと同様に“そうしたい”のだと改めて認識する。
 蒼の表情は無のまま微動だにせず。しかし、途切れ途切れで届いた言葉に宿るものは真のものばかり。影朧少女の視線は揺れながら蒼とリオンへ、二人から他の猟兵へと移っていった。
『……いい、の?』
「勿論です。先の言葉に偽りはありません」
「そういうこと! あ、そうだ。荷物、重そうだし手伝うよ」
 胸に抱くのは討伐ではなく救済。
 送り出す為に尽くすは力ではなく心。
 春和と清明は変わらぬ想いを笑顔に籠め、清明は刀へとさり気なく手を差し伸べる。
 ――その時になって、初めて影朧少女の目が刀を見た。
『私、どうして、刀を……?』
 執着心や傷付いた心が刀の形を取ったのか。首を傾ぐ影朧少女も知らない刀の由縁に皆の視線が交わる中、だったらと笑ったのはコノハだ。
「アナタが穏やかなままいられるよう――少しだけ、イイかしら」
「……ボクも、お手伝い、します」
「アリガト。じゃ、一緒にお願い」
 ひら、ひら。ふわり。
 幻朧桜の花弁舞う中に桜花が混じり、虹の彩が射す。
 そよ風のような静けさで現れたふたつは刀にのみ向かっていた。柔らかに舞うようにして刀を包み込み、隠し――そして桜花と虹の帯がほどけたそこにはもう、刀は存在していなかった。
 影朧少女の手がグーとパーを緩やかに繰り返し、消えたものを確かめる。何だったのかな。ぽそりとこぼれた声に、消えたものを辿るように見つめていた蒼はふるふると首を振って答えた。
「……貴女様の、お話を、聞かせては、くれません、でしょうか」
『私、の?』
「……ええ、何でも、いい、のです。ボクは、此の先の、桜河に、行った事は、ありません、ので」
「僕も聞きたいです。桜河のこと、貴女が慕う春のこと。どんな想いでも構いません、僕は逃げずにまっすぐ受け止めます!」
 リオンは燃える想いを両目に宿し、拳でどんっと胸を叩いて影朧少女の傍に立つ。
 真っ直ぐ過ぎるほどの情熱には確かな優しさがあった。影朧少女の口から『上手く話せるかな』という不安がこぼれれば、蒼が再び首を振って支えを示す。
「……貴女様の、心の、思うままに。……交わした、約束、でも、叶えられなかった、無念さ、でも」
「お店やってるからアタシも話を聞くのは得意よ。口の堅さは味の良さとセットでお墨付き、安心してネ?」
 コノハの茶目っ気あるウインクに、影朧少女の目元が和らぎ、口角がほんの少し上がる。ささやかな――しかし影朧少女が初めて見せた笑顔は小さな希望に似て、リオンも満面の笑みを浮かべ喜んだ。
『ありが、とう……ええと、それじゃあ……どう、しよう。私の、事。からでも、いい?』
「ええ! ゆっくりで大丈夫ですよ、……えーっと」
『……ちよ。私、ちよと、いうの』
 姓は古屋(ふるや)。
 名は、千代(ちよ)。
 名に使われた漢字から、千代の両親が少女にどんな願いをかけたかが見え、そしてそれが叶わなかった事が猟兵達の胸によぎる。
 しかし千代の顔に浮かぶのは奪われた日々への悲しみではない。僅かでも手に入れた今日という日と、この先に待つ春が見られるという希望が在る。
 それは、影朧少女が独りのままだったなら、決して現れなかったろう。
 春への想いだけを傷だらけの心に抱えた影朧少女は、市民の通報を受け駆けつけた帝都桜學府に討伐されて――再び、世から儚く消えていた。
「……共に、往きましょう。……ボク達では、貴女様の、言う、みんな、には、なりえない、かも、しれません、けれど。……きっと。……此の機会は、桜が、与えてくれた、奇跡の、ような、ものだと、思います、ので……」
『……桜が与えてくれた、奇跡……そう、だね。きっと、そう……』
 異音と不穏の元となっていた刀が消えたそこへ、清明と春和の手が差し出される。
 春が繋いだ廻り合せがほどけてしまわぬように。あたたかな春の彩へ、辿り着けるように。
 二人の手に千代の手がそっと重ねられ、指先に柔く力が籠もった。
『じゃ、じゃあ……桜河まで、お話しながら……?』
「はい! 千代さんのお話したいように話して下さい、僕の耳は準備万端です!」
 もう寂しく思う事がないよう、しっかりと聞き、しっかりと答えたい。
 兎耳を揺らすリオンの熱意は相変わらずだ。しかし変わらないからこその安心は生まれ、微笑み頷いた千代の様子にコノハは桜河へ通じる道を眺める。見える花の色は白木蓮のものだけだが、それはそれで楽しみの多さを物語っているので良し。
「疲れたら何か買って一休みできるわネ。その時は遠慮しちゃダメよ千代ちゃん?」
『は、はい。桜がくれた、機会、ですもんね』
「うん、きっと好い春の一日を――叶えに行こう!」
「ええ。そして、必ずや心癒される、佳き春を見つけに参りましょう」
 翳りの中でも抱き続けた願いの蕾が花開けるよう、春の青と木蓮の白が照らすひかりの道を――貴女と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

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●春色道中
『私、通り魔に、遭ったの』
 痛くて熱かったから、多分、刺されたのね。
 遠き過去を振り返りながら歩く影朧少女――古屋・千代(ふるや・ちよ)の目はぼんやりと前を見ていたが、ひととき足を止めると、咲き並ぶ白木蓮の傍に並ぶ店を見て幽かな笑みを浮かべた。
『……お店、あの頃よりも、ずっと多い……』
 千代が、ゆっくり、ゆっくり歩き出す。
 自分の最期。その場に居合わせた『みんな』――友人達。遺した家族。
 自分以外にも傷付いた人の心や、死んだ後の事。取り戻せない過去や痛み、可能性は抱えきれないほどある。
『でも、ね……こうして、春を、見に行けるから……だから、悲しいとか、辛い、とか……そういうものは全部全部自分の中に抱えて……春、を。桜河を、見たいの』
 見たくてたまらなかった春ならば、きっと全て温かくくるんでくれるから。
『……嗚呼、見て。美味しそうな、春のお弁当』

 柔く微笑む灰色に一足早く映った桜花は人気上位の弁当だ。
 ほろほろとした桃色のでんぶで描かれた大きな桜花。周りを綺麗に包む炒り卵は菜の花や蒲公英のよう。その下には、鶏そぼろを挟んだ白米の大地が隠れているらしい。
 そんな『桜弁当』の味は“大人も子供も大満足!”と書かれた謳い文句の通りなのだろう。
 もっと満腹になれるものを望むのならば、すき焼き弁当という大物も在る。
 甘さ引き立つタレは肉を戴くご飯に染み込んでおり、共に弁当箱へ収まる人参や大根、木綿豆腐も、食めば鍋から連れてきたかのような美味を広げる事間違いなし。
 気軽に食べられるものが良ければ、具なしの素朴系と五目の二種が看板商品である稲荷寿司専門店や、摘みやすいよう正方形に切られたサンドイッチ専門店など、大きさも量も手頃な花見弁当は多々存在している。
 団子?
 饅頭?
 勿論ありますとも! みたらし、餡子、醤油、味噌とスタアもびっくりの豊富さがキラリ。しっとりふんわり大福餅と餡で苺を包んだ苺大福も、一緒に並んでいる。
 ハイカラ希望の方は、桜花の焼印が“降る”カステイラ屋までどうぞ。
 羊羹をずむっと太ましくしたようなカステイラは、頼めば沢山の桜花を降らせてくれるそうだ。
 桜吹雪が舞う万年筆や、春の風景が描かれた便箋。桜花を描く七宝焼の手鏡。花が咲き、花が揺れる簪。財布。こういった雑貨店も並ぶのは、名高い花見名所ならではか。

 ――そして今。
 影朧が現れた事で騒然としていた通りは、戸惑いながらも日常を続けようか迷うような気配で満ちている。ならば此処で存分に買い物を楽しめば、春はよりいっそう、輝く事だろう。
 
リオン・カスタネダ
アドリブ・連携◎

■心情
彼女を満足させてあげるには買い物を一緒に楽しんであげることですね…この少女が何が好きなのか聞くとしましょう…お財布確認…ま、まだ余裕はある!何とかなる!
自分のことより今は彼女を優先だ!

■行動
僕は周りの住民がこの影朧に危害がないということを伝えるために一緒に買い物に付き添ってあげます
彼女の欲しいものがあれば、お財布と相談しながら買ってあげようかと思います。もしお金の方が少なかったら…その場合はなんとか話題で誤魔化して買わずに済む方法を探ります
彼女が満足するまで行きたいところを一緒について行ってあげれば自ずと周りも危険性がないとわかってくれるでしょう



 千代がこぼした声はか細く、しかし温かな喜びを宿していた。
 桜色に似た兎耳がぴょこりと揺れる。
「ああいうお弁当、お好きですか?」
『ええ……桜でんぶの、ね……甘くてほろほろとした所……それから……』
 千代がぽつぽつ語るものにリオンは笑顔で相槌を打ち、さり気なく周りを窺った。どの人々も、少々強張った顔をしている。見目は少女とはいえ千代は影朧、こういった反応をしてしまうのも無理はない。
(「ですが千代さんには危害を加える気はありません。それを上手く伝えなくては……」)
 そして千代を満足させてあげたい。それらを同時に叶えるには、買い物を一緒に楽しむ事が一番だ。リオンは用意してきた財布を取り出すと、緊張した顔つきでこちらの様子を見ていた店員へと桜弁当を二つ! と声を弾ませた。
『一つでは、なくて?』
「はい。僕もこのお弁当が気になりましたので。もう一つは千代さんへの贈り物です」
『いいの……? だって私、貴方にお返し出来るものは何も……』
「いいんです。千代さんがずっと見たかった春を見に行くんですから、素敵な時間にしたいじゃないですか! そこにお花見弁当は欠かせませんよ?」
 キリリとした笑顔で断言すれば、目を丸くした千代がくすりと笑みをこぼした。
『それじゃあ……お言葉に、甘えて』
 包み終えた桜弁当二つ。差し出されたそれに千代がぺこりと頭を下げた。礼儀正しい様と、それまでリオンとしていたやり取り。そこから、今の千代が伝わったらしい。店員は未だ緊張気味ではあったが、笑顔を返してくれていた。
(「良かった。……お財布の中は……ま、まだ余裕はある! 何とかなる!」)
 他のお店も気になりますねと視線を巡らせば、その後を千代の視線がゆるりと追って――あの、と遠慮がちにかけられた声に、リオンは再び兎耳を揺らした。
「どうしました?」
『貴方は……? 貴方の好きなもの、とか……』
 自分ばかり、良いのだろうか。
 千代の気遣いに、今度はリオンが目を丸くする事となる。
「大丈夫ですよ。僕は、一緒に春を楽しみたいんです」
 笑顔で告げた言葉に嘘はない。今は自分の事よりも、千代が今日という春を心ゆくまで楽しめるようにしたい。
「向こうにも美味しそうなお弁当屋さんがありますよ、行ってみませんか?」
 傷だらけだった魂が満たされるように。
 時計兎の青年は願いを胸に、白木蓮照らす道を笑顔でいざなっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神宮時・蒼
…折角の、機会、です。…あの頃、出来なかった事、全部、今、やって、しまい、ましょう
…春の、お弁当も、桜花の、雑貨、春溢るる、桜の河
…目一杯、春を、感じましょう
…古屋様は、何を、なさりたい、ですか?
…あの頃と、変わらない、お店も、あったり、する、のでしょうか?
それは、それで、素敵、ですね
時を経て、尚、変わらない、物が、在る、と言うのは。

…桜花降る、カステイラ、ですか
どんな、物か、興味が、あります、ね
桜花が、降る、とは、どういった、事、なの、でしょうか
…気になる、雑貨も、いろいろ、あります
お財布、春色で、素敵、です


いつか、桜花抱く品物たちも、時を経て、ヤドリガミに、なったり、する、のでしょうか



 言葉を交わし、同じ時間を過ごすにつれ、ぼんやりと静かだった灰色の瞳は少女らしさを増していく。今は、綺麗に包まれている桜弁当を見つめながらほのかな煌めきを湛えていて――その様を見れば、何が好物か聞く前だったとしても、ある程度の見当がついただろう。
「……千代、さん」
『……?』
 すい、と桜弁当からこちらへと移った灰色ふたつに映る自分の表情は、常と変わらぬ無表情。しかし蒼の胸の内には、他の猟兵が抱いているものと同じ――千代への優しさが咲き続いている。
「……折角の、機会、です。……あの頃、出来なかった事、全部、今、やって、しまい、ましょう」
『全、部?』
「……全部、です」
 爛漫の春にも負けぬ弁当は既に一つ。けれど白木蓮が咲く通りにはまだ見ぬ美味が詰まった弁当屋が多数在り、桜花の雑貨は、店先へ視線を向けただけで桜が彩ったもの桜を象ったものと、次々に瞳を照らしていく。
「……春溢るる、桜の河も。……目一杯、春を、感じましょう」
 すぐそこで柔らかに咲き輝く白木蓮も。
 蒼が静かに紡いだ想いへ、千代がふわりと笑って頷いた。
『……ええ。沢山、沢山』
 今見ている春。感じている春。どちらも零さず抱えようとするように。千代の腕が、きゅ、と桜弁当の包みを抱きしめるのを蒼はじっと見つめ――こてん、と小さく首を傾げた。
「……古屋様は、何を、なさりたい、ですか?」
『わた、し?』
 考えながら周りを見ていった千代の瞳がとある団子屋でぴたりと止まる。もしや、あの頃と変わらない店が? 蒼の問いに、千代は嬉しげに笑いながら頷いた。
『お店に立っている人は、違う、けれど……お店は、あの頃のまま。……あのお団子屋さん、私が生まれるずっと前から、あるの』
「それは、それで、素敵、ですね。時を経て、尚、変わらない、物が、在る、と言うのは」
 人の命には限りがあり、団子職人や従業員は幾度も変わってきただろう。けれど変わらぬものを創り続けてきたからこそ、こうして今も存在し続けている。
 人が繋ぎ、ものという形として現れる時の流れの中、千代の目がカステイラ屋で止まった。知らない店だというそこは桜花降るカステイラ屋だが、“桜花が降る”、とは。
 興味のまま近付いた二人が見たものは、職人が手にしている焼鏝がカステイラの表面を軽やかに叩き、次々に桜花を咲かす様だった。甘い香りに刺激されながら納得すれば、目についた桜雑貨の店も心惹くものばかりが並んでいた。
「お財布、春色で、素敵、です」
『ええ、お買い物が、楽しくなりそう……』
 今より先、未来を楽しむような言葉に、蒼は桜花抱く雑貨達をじぃと見つめる。
 今は店に並ぶ彼らも、一日、一年、十年と時を重ね続けたら。
(「いつか、ヤドリガミに、なったり、する、のでしょうか」)
 その時彼らが最初に目にする季節は、どんな輝きを宿しているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

幻朧桜と本物の桜って綺麗だよな
…白木蓮って白い木蓮の事か?
首傾げ
そうなんだ
見んの楽しみ

とりままずは弁当買おうぜ
瑠碧の手を取り
うわ桜弁当かぁ…
これ一緒につつくのもいいけど
俺すき焼きの方が食べたい…
いい?
じっと瑠碧見て
瑠碧はどうする?
もう少し見てみる?
あっち稲荷だって
アレも美味そうだな
えっ俺のもいいの?

菓子も色々あるなぁ
おっ
カステラ…カステイラ?旨そう
すっげぇ太いけど
瑠碧も食う?
2人分頼み
沢山の桜花ってどういう事だろ?
俺のして貰おうかな
菓子でも花満開だな

雑貨屋も春いっぱいだな
手鏡とか…簪もいいな
小花が咲く簪を瑠碧にかざし
やっぱこういう可愛いの似合うな
折角だし付けてってくれよ
1本買い早速付け


泉宮・瑠碧
【月風】

常の幻朧桜と更に咲いた桜色に白木蓮…
彩りが増しました
そうですね、木蓮は紫です

理玖と手を繋ぎ店を見て行きます
お花見のご飯も沢山
理玖のすき焼き弁当と聞いて微笑ましく
どうぞ、お肉な上に量も理玖には良さそうですね
私はもう少し、少なめが…
稲荷…甘めの御飯、ですよね
小さいので稲荷なら食べられそう
具無しと…五目?というのを一つず…
理玖にも、ともう一つ追加で

お菓子も可愛らしいのが多いです
かすていら?
パウンドケーキみたい…
私も食べたいです
理玖のを見て、私のも桜花を沢山お願いします

雑貨屋は道すがら
桜は勿論、花の品が映える時期ですね
可愛い、綺麗と見て行き…理玖?
急な簪に一度瞬き、照れ照れ
え、あ、ありがとう…



 四季問わず咲き続ける幻朧桜と春に目覚める桜。そして、白木蓮。
 存在感も彩りも増して映る春に泉宮・瑠碧(月白・f04280)は眩そうに目を細め、微笑む横顔に笑った陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、改めて空舞う桜花弁を眺め――ん? と首を傾ぐ。
「……白木蓮って白い木蓮の事か?」
「そうですね、木蓮は紫です」
「そうなんだ。見んの楽しみ」
 こっちのは凄ぇ真っ白、と曇り無い白を宿した花々に笑んだ後。理玖の視線と頭の中は、春色に満ちた通りに並ぶ弁当屋へ一直線。とりままずは、と瑠碧の手を取って弁当屋巡りを始めれば、店一件に弁当複数と、こちらも白木蓮に負けじと春爛漫の様で二人を出迎える。
「うわ桜弁当かぁ……これ一緒につつくのもいいけど、俺すき焼きの方が食べたい……いい?」
「どうぞ、お肉な上に量も理玖には良さそうですね」
 じっと自分を見ながらすき焼き弁当を希望する姿が微笑ましくて、可愛らしい。
 可愛いよりカッコイイと言われたい事をわかっているから、それは胸の内へ、大切に。
 微笑む瑠碧に理玖は少しだけ不思議そうにしながらも、すき焼き弁当決定にぐっと拳を握った。
「ありがとな。瑠碧はどうする?」
「私はもう少し、少なめが……」
「じゃあもう少し見てみる? あっち稲荷だって」
「稲荷……甘めの御飯、ですよね」
 二人手を繋いだまま覗いた店は繁盛していた。綺麗に並んでいた稲荷寿司は目の前で順調に売れていき――もしかして、このままだと完売して買えないのでは?
 そんな不安がよぎった時だ。奥から出てきた職人が素早く追加の稲荷寿司を補充していった。
 無言でサササッと済ませた手際は見事であり、かつ、長方形の盆にぴっちり並ぶ様はまさに稲荷寿司軍団と呼ぶに相応しい。
 二人は揃って目をぱちぱちさせた後、小さく吹き出して笑い合う。
 これで一安心。すき焼き弁当に稲荷寿司、花見の準備は恙無く済みそうだ。
 そして瑠碧にとって嬉しい事がもうひとつ。
 小さい稲荷寿司なら、少食の自分でも安心して食べられる。作ってもらったものを残さず味わえる。そう思えるサイズ感も、これから出逢う春をより楽しみにさせてくれた。
「では、具無しと……五目? というのを一つず……理玖にも、もう一つ」
「えっ俺のもいいの?」
「はい」
 “美味そうだな”と語る横顔を見たら無視なんて出来る筈がない。食べる量は同じでなくとも、一緒に買った物を一緒に食べる事は出来て――そしてそれが、幸せだと知っている。
 買った弁当を大事に持った二人の足は、見目にも味にも拘った菓子屋の前で度々止まった。特に気を引いたのは太ましいカステイラが売りの店だ。パウンドケーキのようだが生地の密度はそれよりもふんわり軽そうで、では二人分、と話し合って決めた――のだが。
「沢山の桜花ってどういう事だろ?」
「お花が咲くんでしょうか?」
 ひそひそ、こそこそ。ちら、ちら。
 順番を待つ時間と共に興味は膨らんで――自分達の番が来た時、解決という花が咲く。
「あ、こういう事か!」
「わ……あ、あの、もう一つのも沢山お願いします」
「畏まりました!」
 表面を焼鏝がぽんぽんと叩く度、狐色のそこに咲いていく桜花。桜花と花弁の二種が駆使された結果、二人のカステイラは見事な満開模様。
 そんな満開の春は雑貨屋にも存在しており、理玖は「へえ」と感心し、瑠碧は並ぶ品々を前に静かに目を輝かせる。文具、置物、装飾品――春という季節は、桜は勿論だが花の品がとてもよく映える。
「可愛い……あ。こちらも綺麗ですね……」
 本日は晴天なり。
 降り注ぐ陽光は雑貨を照らし、雑貨の魅力をより鮮やかなものへと浮かび上がらすよう。
 穏やかに、そして楽しげに見ていく瑠碧の後をついて行った理玖もまた、陽光の手伝いを受けるようにして並ぶ品々に目を留めていった。
(「手鏡とか……あ、これもいいな」)
 見た瞬間惹かれたそれを手に取り、瑠碧、と呼ぶ。不思議そうに振り返った恋人の煌めく髪に翳したのは、小花咲く愛らしい簪だ。陽の下で雪の影めいた髪と簪が煌めけば――ああ、思った通り。
「理玖?」
「瑠碧、やっぱこういう可愛いの似合うな。折角だし付けてってくれよ。すいません、これ下さい」
 買ったばかりの簪が早速瑠碧の髪を飾る。
 鏡に映った自分を見て状況を把握した瑠碧の顔が、ぱちりと一度、瞬きを挟んでから朱に染まり――その色と熱がじんわりと耳の先まで伝う中、未だ驚きを残す声と共に“ありがとう”が咲く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

椚・一叶
【シンク】
店の多さに目移り繰り返す
花見の時どれ食べるか、候補選ぼう
らしさ満載の桜弁当、とても捨てがたい
摘まみやすいのも良い
春らしさ求めつつ、肉の匂いにふらふら釣られ
…駄目だ、選べない
合流予定の仲間は、色々な味を食べたい筈
もういっそ全てか…?
贅沢賛成
儂はよく食うので量の心配は不要

今回来れなかった仲間たちの土産も選ぶ
これも春らしいものをと色々覗いては悩み
精巧な桜模様を見付けては、興味深くて眺める
そういえば人に土産買うの初めて
ヴェレーノは何貰ったら、嬉しい
女子のぶんは特に、ヴェレーノが選んだ方が良い
簪見て、深く頷く
他は…カステイラで間違いない気がする
皆、食べるの絶対好き
思い浮かべてにやりと笑う


ヴェレーノ・マリス
【シンク】
お弁当のお店だけでも沢山ありますね
目移りを繰り返す彼に笑みを向け
お弁当の香りは普段は小食の私でもそそられる程
いっそ全部と零す彼に楽し気な声色で
あら、一叶様は思い切りがよろしいですね
そうしたら桜弁当とすき焼き弁当…
手軽に食べられるサンドイッチ等は如何でしょう?
一叶様も沢山食べられると思いますから
折角ですし贅沢に買ってみましょう

続いてお土産を覗く
桜の意匠の装飾はやはり目が惹かれる
私は簪、かしら
皆様は御髪がとてもお美しいので春花の簪が映えそうです
思い浮かべる彼女達を華やかにするだろうと
お土産、こちらにしてみますわ

ええ、カステイラも素敵なお土産になりますね
私も皆様の喜ぶお顔が目に浮かびますわ



 花見の名所・桜河と繋がる通りは、眩い白を魅せる白木蓮によって真っ白な花明りが並んでいるかのよう。そして穏やかな青空の下、車道と歩道を隔てて並ぶ白い列の傍には店があり――今いる場所から真っ直ぐ道の先へと目をやれば、白木蓮も店もずっとずっと遠くまで続いていた。
 椚・一叶(未熟者・f14515)は目を瞬かせる。
 あの店、この店、向こうの店。指がすぐ足りなくなる店の数に、オレンジ色の目は明滅する灯りの如く瞬きしながら目移りを繰り返していた。
「お弁当のお店だけでも沢山ありますね」
 そんな様子に甘やかな笑みを浮かべたヴェレーノ・マリス(Gift・f33134)も、店から店へと紫水晶の眼差しを楽しげに移していく。
 春野菜をふんだんに使った彩り豊かなもの。肉をメインとしたボリュームたっぷりのもの。
 ヴェレーノの瞳が弁当屋自慢の品を一つ映す度に、一叶も同じものを見つめながら花見の時に思いを馳せた。きっと桜は満開で、芝生は真新しい若葉色。空は今と同じ青でいっぱいだろう。
 ここで一番人気だという桜弁当はらしさ満載で、蓋を開けて桜でんぶの桜花を見た時は嬉しさがわっと芽吹くだろうか。とても捨てがたい。
 稲荷寿司やサンドイッチのような摘みやすいものも良い。いや、しかしやはり春らしさを――この食べる前から美味いとわかる良い匂いは? 肉肉しいそれはすき焼き弁当を売っている店から漂っており、一叶はふらふら釣られゆく。
 その足が、びたっと止まった。
「どうしました?」
「……駄目だ、選べない」
 どれもこれも美味そうだ。
 そして合流予定の仲間は、色々な味を食べたい筈である。
「確かに、これは難しい問題ですね」
 そう言いながらも微笑むヴェレーノだが、嘘は言ってはいなかった。漂ってくる弁当の香りは魅惑に満ちており、普段小食のヴェレーノでもそそられる程なのだ。
 参ったと短くこぼした一叶は口を結び、むう、と唸って弁当屋を順々に見ていく。桜弁当。すき焼き。稲荷寿司。サンドイッチ。他、沢山。
「もういっそ全てか……?」
「あら、一叶様は思い切りがよろしいですね」
 微笑みと共に楽しげな声色を紡いだヴェレーノは、そうしたら、と一叶から弁当屋へと緩やかに視線を移していく。それはまるで、花畑を気儘にゆく蝶のよう。
「桜弁当とすき焼き弁当……手軽に食べられるサンドイッチ等は如何でしょう? 一叶様も沢山食べられると思いますから。折角ですし贅沢に買ってみましょう」
「贅沢賛成。儂はよく食うので量の心配は不要」
 そうと決まれば早速。
 迷いがなくなった事で、弁当入手という任務は面白いくらいササッと消化された。そして美味しい未来確定の重みを手にした二人の目は、次の目的へと向けられる。
「今回来れなかった仲間たちの土産もな。弁当だけでなく、これも春らしいものを買いたい」
「ええ、そうしましょう。やはり惹かれるのは桜の意匠ですけれど……」
 淡い青色をした万年筆は昼に見る桜吹雪のようであり、紫帯びた黒に煌めく粒も散らしたものは夜桜のよう。柔らかな桃色から紫に変わるものは夕空か。
 文具だけでなく食器を始めとした生活雑貨も豊かに並び、色々と覗いて悩むひとときは弁当選びを彷彿とさせる。精巧な桜模様が施されたものを見付けた一叶は、しげしげと眺めた後に店員に声をかけ触れさせてもらい――そういえば、と瞬きひとつ。
「人に土産買うの初めて。ヴェレーノは何貰ったら、嬉しい」
「私、ですか?」
「ん。女子のぶんは特に、ヴェレーノが選んだ方が良い」
 任せる。じっと見てくるオレンジ色へ、では、と紫水晶が咲う。
「私は簪、かしら。皆様は御髪がとてもお美しいので、春花の簪が映えそうです」
 簪を挿した姿を思い浮かべれば、より華やかな様となった姿ばかり。
 一本ずつ手にしては吟味を繰り返した後、ヴェレーノの手には春花簪の花束が出来ていた。
「お土産、こちらにしてみますわ」
「流石だ」
 深く頷いた一叶は自分の両手を見る。
 弁当良し。土産良し。
「他は……カステイラで間違いない気がする。皆、食べるの絶対好き」
 彼らの事を知るからこそ思い浮かべればそう言い切れるし――にやりと笑みも浮かぶもの。そんな一叶に、ヴェレーノもふんわりと瞳を細め頷いた。
「ええ、カステイラも素敵なお土産になりますね。私も皆様の喜ぶお顔が目に浮かびますわ」
 桜花咲くカステイラ求め歩く道すがら。
 二人が抱く笑顔の予感は、きっと春爛漫の現実となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明空・橙吾
【彩】

店を覗き歩く背中を見付け、形ばかりはそっと近付き声掛ける
それで、どれがお勧めなんだい?
きっと行動はお見通しだろうけど、コノハ君の反応を見るのも楽しみで
いやいや今回は本当に偶然だよ
白木蓮も美しいが桜河というのも絶景と聞くし、この世界も初めてで……とても撮り甲斐がある
でも折角だから、と言い掛け遮られ目を瞬く

そうか、それは良かった
彼の日常を垣間見てつい表情緩めれば、どこか懐かしい台詞
――そうだね、そう思われるのは嬉しいよ
みんな置いてきてしまった僕には、そんな資格はないだろうけど

さて、お邪魔するのは悪いから一人で行くけど
この先で食べる物を見繕う位は頼めるかい
君のお勧めなら絶対だろうからねぇ


コノハ・ライゼ
【彩】

賑やかな店頭をわくわくと眺め買い物し歩いてたら
あまり嬉しく無い気配に眉を寄せる
素知らぬ振りでやり過ごしたいトコだけど……アンタ、ストーカーの才能あるわよ
呑気な笑顔からお決まりの台詞が出る前にびしっと牽制
オレこの先で待ち合わせしてんの、全然残念じゃないケド

速攻断ったのに何だか嬉しそうなのを訝しげに見て
……アンタ、父親みたいネ
ソレがどんなんか知らないくせ言えば、やはり何度目かの自分越しに何かを見る目
ソレを鼻で笑い
オレは置いてかれるようなタマじゃねぇヨ、アンタを置いてく事はあってもネ

神妙になったかと思えば図々しく捻じ込む現金さには溜息
ヤケ気味にお弁当に甘味にと引っ張りまわしてやるわ



 空や白木蓮の眩さに目を細め、気になった店へ足を運び、並ぶ品々に目を瞠り、笑う。
 猟兵と共に通りをゆく千代の様は、影朧であるという一点を除けば今を生きる人と変わらない。 ざわざわと不安や恐れを浮かべていた人々の視線は、いつしか落ち着きを取り戻していた。
 そんな千代と人々の様子にコノハは小さく笑ってから目の前へと視線を戻す。人気の桜弁当や稲荷寿司、すき焼き弁当以外にも菜の花の天麩羅と五目ご飯が美味そうな弁当があってと、大変よろしい光景が広がっている。
(「どれ買おうかしら。それとも買えるだけ買っちゃう?」)
 薄氷の目に浮かぶわくわくは荷物が増えても減りはせず――しかしふいに覚えた嬉しくない気配の接近で、ご機嫌表情はムッと不機嫌表情へ。そんなコノハの背後にそっと迫る気配の主は、春に似合いの穏やか笑顔の男だった。
「それで、どれがお勧めなんだい?」
 なんて声をかけながら、近付き始めた時からお見通しなんだろうなあと明空・橙吾(かけら・f35428)は胸のうちで笑う。それでもこうしてしまうのは――。
「素知らぬ振りでやり過ごしたいトコだけど……アンタ、ストーカーの才能あるわよ」
 声をかけてから数秒無言の後、ゆっくりこちらを振り向いてくれたコノハの反応を見るのも楽しみだからこそ。呆れている声と眼差しに、橙吾は小さく緩く笑いながら片手を軽く上げた。
「いやいや今回は本当に偶然だよ」
 じろ。
「いや、本当に」
 にこり。
「フーン?」
「白木蓮も美しいが桜河というのも絶景と聞くし、この世界も初めてで……とても撮り甲斐がある。でも折角だから、」
「オレこの先で待ち合わせしてんの、全然残念じゃないケド」
 すっかり見慣れてしまった呑気な笑顔から、これまた聞き慣れたお決まりの台詞が出る前にコノハは牽制を入れた。言いかけたその瞬間に差し込まれたもの、続きをびしっと遮った言葉に橙吾の灯りめいた目がぱちりと瞬き――、
「そうか、それは良かった」
 丸くなった目がふわり嬉しそうに和らいだ。
(「待ち合わせ。一緒に花見をする誰かがいるんだねぇ」)
 遮る速度は相変わらずキレがあり、一緒に花見が出来ないのはまあ残念ではあるけれど、自分の知らぬコノハの日常が垣間見えたのだから、つい表情も緩んでしまう。
 速攻断られた男からそれに似合わないものを返されたコノハは、笑顔でうんうんと頷く橙吾を訝しげに見た。何というか。この、反応は。
「……アンタ、父親みたいネ」
 そう思って言った癖に、自分はソレがどのようなものか知らない。
 他人様のものであれば見聞きした事くらい、そりゃあるのだけれど。
 ほんの僅か瞠られた灯色の目は、すぐに和らいでいった。
「――そうだね、そう思われるのは嬉しいよ」
 父親みたい。ああ、どこか懐かしい台詞だ。ただ、ソレが今よりどれくらい過去に在るものなのか自分には計れない。言える事といったら――、
「みんな置いてきてしまった僕には、そんな資格はないだろうけど」
 フン、と音が聞こえた。鼻で笑ったとわかる音に、こぼしたばかりのものをひょいっと吹き飛ばされたよう。瞬きを挟んだ橙吾の目が、いつかの過去からコノハへとピントが合う。
「オレは置いてかれるようなタマじゃねぇヨ、アンタを置いてく事はあってもネ」
 クリアに見えたのは、涼しげなそこに余裕も一摘み加えた笑みだった。
(「……ああ。そうだね」)
 先言ってるわねと行く様が目に浮かぶ。その背を見送る自分もピタリとハマる気がした。まるでひとり立ちする子と、親離れの時到来に小さなショックを受ける親のような――なんて言ったら、何度目かの半眼にしてしまうだろうか。
「さて、お邪魔するのは悪いから一人で行くけど……この先で食べる物を見繕う位は頼めるかい? 君のお勧めなら絶対だろうからねぇ」
 どれも美味しそうで困ってねと言いながら、浮かべる笑顔は楽しげだ。
「アンタね……」
 ついさっき、何度目かの自分越しに何かを見る目をしていた癖に。
 神妙になったと思っていたが、初めて声をかけてきた時のような図々しさは健在とわかり半眼になる。穏やか笑顔で捩じ込まれたお願いもとい現金さに、コノハは呆れをたっぷり含んだ溜息を吐き出した。少しはスッキリした気がする。
「いいわ。弁当と甘味。セットで見繕ってあげる」
「ありがとうコノハ君」

 いやあ、楽しみだなぁ。

 先を行く背に向けた言葉が、コノハの眉間に皺を復活させる。――ここに、ヤケ気味買い物引っ張り回しコースへのルートが確定したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千百秋・清明
【花天】
(重苦しい傷を抱えながらも
唯一心に温かな春を願い歩もうとしてる
――なら、そうよね!
私達はその足取りと心が少しでも明るく軽やかに、桜河の元へ――
そしてその先の旅立ちへと向かえるよう
支え続けましょ!)

ふふ、女子会にもお花見にもぴったりな品揃えね!
この人数なら色々買ってわけっこするのも楽しいよね
千代ちゃんも気になるものを見つけたら教えてね!
折角だし可愛い御品は全部頂いて行きましょ!
(悔いは残さず、そして勿論食べ残さず!
それが私のモットーです!
とうきうき張り切って
噂の桜弁当にお団子達
とっておきのカステイラまで抜かりなく抱え
――春ちゃんに目配せし)

うん、この春の思い出の彩りに――良かったら是非!


永廻・春和
【花天】
(全て抱えて、それでも前へ――
見知った誰かとも何処か重なる様な言葉に――想いに触れれば、益々我らの想いも強まるばかり
嗚呼、他ならぬ千代様がそうお望みであるならば、せめて重く苦しい想い以上に、晴れ晴れと温かな想いが満ちゆく様に、寄り添いましょう)

辺りに咲き誇る春の花々もさることながら、お店の品々もまた、優しい色彩で満ち溢れておりますね
ええ、是非、楽しい気持ちも優しい味わいも、余さず皆で分かち合いましょう
(流石ハイカラさんな清ちゃんの意気込みに微笑みつつ
――ふと店先の簪に目を留めて、目配せ送り)

――千代様、少し髪に触れても宜しいですか?
お似合いになりそうでしたので、是非この簪を貴女様にと



 ぼんやりと揺れるようだった瞳。そこに宿る灰色。
 綴る言葉は尚も緩やかに途切れがちだが、春空の下を行く千代にはもう誰かを傷つけかねない危うさは存在しておらず――しかし、重苦しい傷を抱えながらも唯一心に温かな春を願い歩もうとしてる姿に、清明はほんの一瞬だけ瞳を震わせた。

“悲しいとか、辛い、とか――……”
“そういうものは全部全部自分の中に――……”

(「全て抱えて、それでも前へ――」)
 千代の言葉は春和の見知った誰かともどこか重なるよう。
 そしてその想いに触れれば、グリモアベースで話を聞いた時以上に想いも強まっていく。
 それは自分だけではないのだという確かな予感を胸に隣を見れば、瞳も後光も輝かす清明とぱちりと目が合い、嗚呼やはり、と春和は笑顔を綻ばせた。
 その様に清明は光弾むような笑顔を浮かべ、頷き返す。
(「――なら、そうよね!」)
 影朧となって戻ってきた千代に残された時間は長くない。夕刻まで在る事すら難しいだろう。
 だからこそ、二人は千代の事を心から願い、想うのだ。
(「嗚呼、他ならぬ千代様がそうお望みであるならば」)
(「その足取りと心が少しでも明るく軽やかに、桜河の元へ――そしてその先の旅立ちへと向かえるように」)
(「せめて重く苦しい想い以上に、晴れ晴れと温かな想いが満ちゆく様に」)
 くすりと笑い合った二人は千代の名を呼ぶと、緩やかに振り返った少女を間に挟むようにして立った。知り合ったばかりの、けれど学友のような気安さが心地よいのだろう。二人に挟まれた千代は穏やかに笑い、桜弁当以外も素敵なものが沢山で大変、と柔く紡いだ。
「わかるわかる。目移りしちゃうよね」
「ええ。辺りに咲き誇る春の花々もさることながら、お店の品々もまた、優しい色彩で満ち溢れておりますね」
 仲良く並んで咲いた笑顔みっつ。三人の視線は、通りを賑わす店へ向いては楽しげに煌めくばかり。
 盛り付けや食材に春を感じる弁当や甘味は多々。看板や店先に並ぶ商品を見ながらの道行きは、気になるものを見付ける度にゆるりと止まり、とてもとても穏やかな足取りへとなっていく。
「ふふ、女子会にもお花見にもぴったりな品揃えね!」
『見ているだけでも、心が躍るもの、ね』
「ね! あっ、この人数なら色々買ってわけっこするのも楽しいよね。千代ちゃんも気になるものを見つけたら教えてね! 折角だし可愛い御品は全部頂いて行きましょ!」
「ええ、是非、楽しい気持ちも優しい味わいも、余さず皆で分かち合いましょう」
『全部……ええ、全部。少しくらい欲張っても、いいものね。……だって、春、だもの』
 ぎゅ、と小さく握られた拳に、清明はそうそう! と頷いた。
 なぜならば、悔いは残さず、そして勿論食べ残さず!
「それが私のモットーです!」
『わぁ……素敵、ね……!』
 えへんと張った胸を拳でドンッ。後光もキラリッ。
 千代からの拍手もくればハイカラさんたる清明のやる気はうきうきと上昇し、艶やかな髪も華麗なマントも翻し、可愛い御品全制覇へと張り切って乗り出していく。
 花見というひとときの華となるだろう桜弁当は、他の猟兵から贈られた。ならば次は、花見に欠かせない甘いものを。和菓子店も洋菓子店もあり、両方気になるのであれば順番に!
「千代ちゃん、お団子好き?」
『ええ、好き。特にきなこが……清明さんと、春和さんは?』
「私ですか? そうですね……」
 団子屋では互いの好みを教え合い、別の店では春の花を象った美しい練りきりと目が合った。当然、気になったものは全てお買い上げ。
 軽やかに跳ねるような焼鏝によって降る桜花が可愛らしいカステイラも、清明はとっておきの甘味として抜かりなく手に入れて――宣言通りの意気込みは流石ハイカラさんといえるもので、そして尽きる様子もない。
 そっと微笑んだ春和は、笑顔で歩む千代にも同じものを向け――ふと店先の簪に目を留めると、清明へと目配せを送った。清明はすぐさま気付き、目配せを返す。
「――千代様、少し髪に触れても宜しいですか?」
『? ええ、大丈……あ。もしかして、髪が、乱れて……?』
 乙女らしい心配に春和と清明は笑顔で首を振り、店先に置かれていた鏡の前へと千代を連れていく。初めに映ったものは不思議そうな千代の顔。続いて春和と清明の笑顔と――。
『簪……?』
「はい。お似合いになりそうでしたので、是非、貴女様にと」
「うん、この春の思い出の彩りに――良かったら是非!」
 会ったばかりの千代だったなら、是非という言葉に申し訳無さそうな顔をしただろう。けれど沢山の温もりに触れた心が翳る事はなく――髪を彩る花と二人に向くのは、少女が抱いた心からの感謝と幸せを宿した笑顔だった。
 その笑顔に、二人は改めて想いを強くする。
 千代が願う春へ辿り着くまでの間も、その先へと至る時までも――こうして傍に寄り添い、支え続けよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『風に舞う幾万の花びら』

POW   :    仲間達と語らう。

SPD   :    風景を楽しむ。

WIZ   :    故郷や誰かを偲ぶ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●春のひかり
 白木蓮が描く眩い境界線の終わりが、ふいに訪れる。
 深く濃い緑になる手前のまだ若い緑に覆われた土手。その向こうからふわふわ覗く雲のような桜色。清らかな桜色ひとつひとつは春を祝うように輝き、穏やかに吹いた風が、空へ、澄み切った水を抱いた河へ花弁を遊ばせていく。
 少しだけ、強めの風が吹いた。
 溢れんばかりに咲き誇る桜色が一斉にふんわりとたわみ、こぼれるようにして起きた花吹雪。
 その瞬間に立ち会った全ての人から上がった歓声は、笑い声や興奮の言葉へと変わっていき――その中で、影朧である少女は目を瞠ったまま立ち尽くしていた。
 呆けた表情がふいに緩む。灰色の目にうすらと水の膜が張る。
『……っ、』
 影朧少女――古屋・千代はこぼれかけたものをぐっと飲み込み、数秒。静かに静かに息を吸って、吐いて、きらりと光る雫を浮かべながら『綺麗ね』と咲った。

 広がる風景の名は、桜河。
 浅く、穏やかな河。遠き山まで在るように見える桜の木。
 豊かな自然が描く春の名所。光を含んで広がる爛漫の春は、人も、影朧も――全てを等しく照らし、歓待する。
 
華匣・咲樂
🐧花鳥

きゅきゅー!
春ですの!綺麗ですの!
お水もさやさや流れていて…えいですの!
ぽちゃんと、浸かれば心地よい雪解けの桜河──きゅ?!

エルピス、何をするのですの!わたくしは子ペンギン、お水なんてへっちゃらですのに
心配性なのですわ

きゅきゅ!せっかくの美しい春なのです
楽しまなければ桜も悲しみますわ
エルピスのお弁当は美味しいから大好きですの
お弁当というよりフルコースふれんち気味ですけれどあなたらしいのですわ

もきゅもきゅ味わいながら、花も楽しむ
この世界の桜はこんなにも優しい薄紅の揺籃にゆられて癒されて
また歩き始めることができるのですわ

きゅう
空が青くて
桜が桜色で、隣にあなたがいて
わたくし、しあわせですの!


エルピス・ラペルト
🕊花鳥

お嬢おおおぉ!!!何やってんだァ!
水に浮かぶお嬢をズバシュッと抱えあげる
大丈夫じゃないだろ?!どうみてもドンブラコしてたぜ!
まったく、俺のお嬢様はお転婆でいけねぇな
はしゃいでる姿はめちゃくちゃ可愛くて可愛くて可愛いが、俺は甘やかさねぇって決めてんだ

よしよし、お嬢
抱っこしててやるからな
一緒に花見と洒落こもうじゃねぇか

いい場所見つけて、弁当でも食べようぜ
そうだろう
事前に下見を……おっとこれは秘密だ
丁寧にシートをひいておかねぇと
お嬢がおむすびころりんしないようにな!
お重には洒落たフルコースな弁当だ
たんと食べろ、お嬢

ああ、そうだな
桜は優しい
儚くて強くて、俺もそうありたいもんだ

幸せなのは同じだよ



 待っていたのは、春爛漫。
 空と桜、緑と水。そして空気も豊かに輝くような風景に、春彩をした愛くるしい子ペンギンの体がふるると揺れた。
「きゅきゅー! 春ですの! 綺麗ですの!」
 感動でいっぱいの声は、すぐにきゅうきゅうと無邪気な笑みを紡ぎ始めた中紅花の嘴から。
 華匣・咲樂(花時・f37010)はフリッパーを広げ、柔らかな緑の上を駆けていく。春の陽射しも春風も受け止めながら、弾むように。けれど河の手前でぴたり止まると、さやさやと流れゆく河を覗き込む。
 ころりとした後ろ姿は、表情が見えずとも可愛らしい。見守っていたエルピス・ラペルト(スワンソングは歌わない・f37011)が薄花桜色の目を細め、うんうん頷いた時だった。
「……えいですの!」

 咲樂が跳んだ。

 ぽちゃん。水飛沫の音までも可愛――じゃねぇ!
「お嬢おおおぉ!!! 何やってんだァ!」
「きゅ?!」
 ふわふわ羽毛を受け止めた雪解け水、その心地よさに咲樂がきゅきゅうと笑っていたのは僅か数秒。エルピスが猛烈爆速ダッシュ。ズバシュッと抱え上げられた咲樂の視界で青空がぐるんと回る。
「エルピス、何をするのですの! わたくしは子ペンギン、お水なんてへっちゃらですのに。心配性なのですわ」
「大丈夫じゃないだろ?! どうみてもドンブラコしてたぜ!」
 まさか『桜に攫われてしまうかと思って――』を河で経験する事になろうとは。
 桜だろうと河だろうと、咲樂を攫わせたりなんて決してさせないのだが。
(「まったく、俺のお嬢様はお転婆でいけねぇな」)
 エルピスはバクバクとうるさい心臓を鎮めながら、可愛らしい『えいですの!』を思い出す。可愛い咲樂がはしゃぐ姿はめちゃくちゃ可愛くて可愛くて可愛かった――!
(「けど、俺は甘やかさねぇって決めてんだ」)
「きゅきゅ! せっかくの美しい春なのです、楽しまなければ桜も悲しみますわ」
「よしよし、お嬢。抱っこしててやるからな。一緒に花見と洒落こもうじゃねぇか。弁当用意して来たんだぜ」
 舞う桜花を映して咲う薔薇色に、今日の空とよく似た瞳もからりと咲った。
 早速甘やかしている? 抱っこしたままなのは咲樂がドンブラコしないよう、彼女を守る為。花見を始めるべく最良最高最適の場所を探すのは、咲樂が言った通り、折角の春と桜の為。だから、ぜーーーんぜん甘やかしていないったらいないのだ。
「お。あそこなんてどうだ、お嬢? 桜の天蓋っぽくていいだろ」
「きゅ、素敵な場所ですわ。エルピスのお弁当も、美味しいから大好きですの」
「そうだろう。事前に下見を……こほん」
「きゅ?」
「いや、何でもないぜお嬢」
 こぼしかけた秘密はしっかり戻して飲み込んで、芝生の上へふわり広げたシートを丁寧に敷いていく。座り心地の妨げになりそうな小石もさり気なくどかせば、咲樂がおむすびころりんドンブラコとならない花見場所の出来上がり。
 用意してきた重箱も一弾ずつ展開されれば、春にも負けない魅力放つ洒落た食により花見場所は更に心躍るものとなって――きゅ、と咲樂は笑みをこぼす。
「たんと食べろ、お嬢」
「お弁当というよりフルコースふれんち気味ですけれど、あなたらしいのですわ」
 エルピスが用意してくれた花見弁当に、咲樂はふわふわほっぺを笑顔で膨らませて“頂きます”。一口食べ、また一口――もきゅもきゅ味わいながら舞う花弁や桜天蓋を楽しむうち、小さな体に温かな想いが芽吹いていった。
「この世界の桜はこんなにも優しい薄紅の揺籃にゆられて癒されて……また歩き始めることができるのですわ」
「ああ、そうだな。桜は優しい。儚くて強くて、俺もそうありたいもんだ」
 見上げた先に広がる桜の天蓋も、そこから淡く降る光の破片も。目に見える桜彩全てが自分達を優しく包み込んでいるが、そんな風に――優しく在り続ける事は簡単ではない。そこには必ず、優しさの根となる強さがある。
 エルピスと共に見上げていた咲樂は、ふいに「きゅう」とこぼした。
「どうした、お嬢?」
「空が青くて、桜が桜色で、隣にあなたがいて……わたくし、しあわせですの!」
「幸せなのは俺も同じだよ」
 すぐ傍で咲いた笑顔に、エルピスは同じくらいの温かさ宿す笑顔を向けた。
 笑顔が咲く理由。
 胸の内に幸せが芽吹く理由。
 同じものを心に爛漫の春と食を楽しめば、二人の幸せは優しく重なって――春と共に咲き誇る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティーシャ・アノーヴン
【ラボ3】

お花見の楽しみと言えば景色とお弁当ですね。
私は手作りではありませんが、市販のお茶とお酒を少々・・・お酒は私が飲みたいからですけれども。飲める方は一緒にどうでしょう?
折角ですしね、一人でも飲みますけれども。ふふ。
命は樹と花と両方に・・・ですか。でしたら散り花と言うのは少々物悲しいですわね。
お花見と言うのは何を考えながら行うものなのでしょうね、本当の・・・正しい作法などはあるのでしょうか?
文化や風習についての由来なども気になりますね。

ともあれ、難しいことを考えすぎては楽しめませんし、ある程度はお気楽に参りましょう。
こう見えて私は食いしん坊ですので、お肉以外でしたら遠慮なくいただきますね。


青葉・颯夏
【ラボ3】

せっかくだからお花見弁当を作ってきたんです
見るだけじゃなくて味わってみませんか?
桜と枝豆のてまり寿司と玉子焼きです
あとは緑茶と、お茶請けには桜もちを
レインちゃんには猫用のおやつがありますよ
お酒はあまり得意じゃないけど少しいただけますか?
作法……はあってないような、それぞれに楽しめればそれで
あまりにも賑やかなのは苦手ですけどね

花の命、あたしは花にも木にも等しくあると思ってます
源を同じくして分かれて散る、次へ繋がる
そんな感じで
秋吉さんならいつかこの謎を解き明かしそう

レインちゃん、少しあたしと遊んでくれそうかしら
嫌がらなければ抱っこしてみたいわ


秋吉・シェスカ
【ラボ3】
アドリブ歓迎
子猫のレイン(三毛で少しまるこい)も一緒

今年最後の桜ね
近所のはもう散っちゃったし、皆で見に来れて良かったわ
…あら颯夏、気が利くわね
全部自分で作ったの?やるじゃない
…ティーシャ、私はお酒付き合えないけど、飲み過ぎ注意よ?

私も花咲かじいさんロボを持ってこようと思ったけど
賑やかになり過ぎそうだしやめといたわ

桜餅をもちもち食べながら颯夏の蘊蓄を聞いて
「草木や万物にも生命が宿り輪廻する…
神々のメカニズム、解き明かしたいものね」

科学脳を発揮しつつ、お弁当を食べ過ぎているレインを窘める
「こら、その辺にしときなさい。最近太り気味でしょ」
うーん、私でもこの子に作法を教えるのは難儀しそうね…



 陽光。光遮る雲のない空。桜花が持つ色。全てが重なって見せる春の風景は眩しく、咲き誇る様は新聞を見ていなくとも満開を迎えているとわかるほど。――数日もすれば、桜色の代わりに若葉が枝を彩っているのだろう。
「今年最後の桜ね。近所のはもう散っちゃったし、皆で見に来れて良かったわ」
 ぱちりと瞬きの後、秋吉・シェスカ(バビロンを探して・f09634)は満足気な笑みと共に吐息をこぼす。膝の上でごろごろしていた三毛の子猫・レインも、柔らかな春の陽気を満喫しているように見えた。
「せっかくだからお花見弁当を作ってきたんです。見るだけじゃなくて味わってみませんか?」
「……あら颯夏、気が利くわね」
「お花見の楽しみと言えば景色とお弁当ですね」
 シェスカからは感心が、ティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)からは期待が伝わる声。青葉・颯夏(悪魔の申し子・f00027)は小さく笑むと、作ってきた花見弁当を広げていく。食べ物の気配にレインもしゅっと体を起こしていた。
「桜と枝豆のてまり寿司と玉子焼きです。あとは緑茶と、お茶請けには桜もちを。レインちゃんには猫用のおやつがありますよ」
「全部自分で作ったの? やるじゃない」
 春のひとときが一層華やぐ風景にシェスカの双眸が静かに丸くなる。レインも目をまん丸に――こちらは食欲由来のまん丸目だ。だからこそ、ボディも少々まあるいレインが自分用おやつへ興味津々になるのも納得というもので。
 くすくす笑っていたティーシャも、そうそう、と何やらゴソゴソし――ササッ。花見弁当の隣へ並べていったものは、宴の席には欠かせないものばかり。
「私は手作りではありませんが、市販のお茶とお酒を少々……」
 お酒は私が飲みたいからですけれども。
 二人にだけ打ち明けて、またくすりと笑ったティーシャの手が一本の酒瓶を取った。
「飲める方は一緒にどうでしょう? 折角ですしね、一人でも飲みますけれども。ふふ」
「お酒はあまり得意じゃないけど少しいただけますか?」
「ええ。こちらのお酒でいいですか?」
 ティーシャは杯を渡し、いそいそウキウキと注いでいく。自分の杯にも注いだら、早速一口。春の風景を肴にしての一口目は、笑顔に染まった吐息をこぼさせた。
 そんな姿を捉えたシェスカは、てまり寿司を食べようとしていた手をぴたり。今の一口で杯をほぼ空にしたのを見抜くと、二杯目を注ぎ始めたティーシャをじっと観察し――ひとつの答えを導き出す。
「……ティーシャ、私はお酒付き合えないけど、飲み過ぎ注意よ?」
「はい。気を付けますね」
 訪れた先に広がる春爛漫と、花見弁当と酒と茶と――沢山の楽しみを味わい尽くすには、はしゃぎ過ぎないよう注意がいる。
 まあ私も颯夏もいるし、もしもの時は止めれば大丈夫かしらね。シェスカは冷静に考えながら、颯夏とティーシャが用意したものを改めて眺め、それから自分の手へを目を落とした。空っぽ――つまり、手ぶらであるのだけれど。
「私も花咲かじいさんロボを持ってこようと思ったけど、賑やかになり過ぎそうだしやめといたわ」
 飲めや歌えやの花見だったなら、花咲かじいさんロボはきっと桜にも負けない人気者になっていただろう。活躍の時は来年春のお楽しみ。
 そこから始まった話題は、花咲かじいさんに纏わるものだ。お伽噺の中で、お爺さんは『枯れ木に花を咲かせましょう』と言って灰を撒き、桜花を――命を芽吹かせていた。
「花の命、あたしは花にも木にも等しくあると思ってます。源を同じくして分かれて散る、次へ繋がる……そんな感じで」
「命は樹と花と両方に……ですか。でしたら散り花と言うのは少々物悲しいですわね」
 颯夏の考えに、ティーシャは紫彩の双眸をぱちりとさせ、頭上の桜を見る。満開の先、散り始めた様を見たら、今口にしたような想いを抱えてしまいそうだ。
「お花見と言うのは何を考えながら行うものなのでしょうね、本当の……正しい作法などはあるのでしょうか? 文化や風習についての由来なども気になりますね」
「作法……はあってないような、それぞれに楽しめればそれで」
「ああ、わかります。難しいことを考えすぎては楽しめませんよね。ある程度はお気楽に参りましょうか。こう見えて私は食いしん坊ですので、お肉以外のお料理、遠慮なくいただきますね」
 美酒に美食。二つ揃えばもう無敵。
 舌鼓を打ち始めたティーシャに颯夏はほのかな笑みを唇に浮かべ、頷いた。
「ええ、楽しむことが一番大事だと思います」
 あまり賑やかなものが苦手な自分をシェスカが気遣ってくれたように、周りへの思いやりもあれば、きっと楽しいひとときとなるに違いない。ただ。
(「秋吉さんならいつかこの謎を解き明かしそう」)
 そっと視線を向ければ、シェスカは桜餅をもちもち食べながら思考の海へと羽ばたいていた。
「草木や万物にも生命が宿り輪廻する……神々のメカニズム、解き明かしたいものね」
 ティーシャの疑問と颯夏の蘊蓄を切欠に科学脳を発揮していたシェスカだが、とても良い食べっぷりを発揮しているレインに気付き、科学脳は一時停止。レインの頭を数度撫で、宥めにかかる。
「こら、その辺にしときなさい。最近太り気味でしょ」
 しかし鳴いて返事をしたレインの食事は止まらず、そのうちウマイウマイ合唱が聞こえてきそうな気配まで漂ってくれば、流石のシェスカもお手上げだった。
「うーん、私でもこの子に作法を教えるのは難儀しそうね……」
「人と同じで猫も色んな子がいますしね。……わ、この玉子焼きとても美味しいです」
 レインと同じくティーシャも美味しいものを存分に味わい、幸せそうに頬を春色に染めていく。一人と一匹を交互に見た颯夏は、その視線をレインへと向けながら猫用おやつを一摘み。
(「レインちゃん、少しあたしと遊んでくれそうかしら」)
 今はおやつに夢中だけれど、嫌がらなければ抱っこがしてみたい。
 密やかに夢を抱く頭上で桜色が柔らかに揺れ、穏やかで美味しいひとときはそのまま恙無く進んでいく。
 その後満腹になった子猫はどうしたのかというと、颯夏の腕の中、おやつの余韻に浸りながら午睡を楽しんだのだとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

邨戸・嵐
【シンク3】
ひとの賑わいが心地良い
楽しみながら一叶とヴェレーノを探そ

俺が足りるだけ準備してくれた?
こっちの弁当は何の味かな
あれこれ質問攻め
ふたりの思い出話も味わいたいの

すき焼きのやつが腹に溜まりそう
大口に食べ進めて上機嫌
これ美味しいな
食べちゃうとなくなるのだけが残念

お手製のデザート、楽しみにして来たんだ
料理出来るのって凄いよねえ
俺は食べるの専門
桜見ながらだと相乗効果って一叶が言ってた
景色と一緒に味わおう

俺もひととこう言う花見なんて初めて
昼にふたりと会うのは健康的で凄く珍しい
不思議な気分だけど悪くないねえ

簪なんて思いもつかなかった
感心しながら土産の検分
このカステイラ、今ちょっとだけ食べちゃだめ?


ヴェレーノ・マリス
【シンク3】
花見場で嵐様と合流
彼の姿にゆるりと手を振り近くへ

嵐様、お待たせしました
ご覧ください
一叶様とお弁当をうんと選んで参りましたの
三人で楽しみましょう

桜弁当…崩してしまうのが勿体なくなります
綺麗に描かれた桜を暫し眺めてから一口頂きます
ん。甘くて美味しい
お二人はお弁当のお味は如何ですか?

デザートは
手作りしたパウンドケーキ
桜風味の優しい味わいの甘味
桜を見ながらお楽しみ頂けたらと

桜は散り際が美しい
こうして何方かとお花見に来たのは初めてでしたの
三人でも賑やかに想えて楽しいです

噫、そうですわ
皆様へのお土産を選びましたの
嵐様、見てみてください
…あらあら。では、一切れずつお分けします
食べ過ぎぬように、ね


椚・一叶
【シンク3】
きっとお腹空かせているに違いない嵐と合流
美味いものいっぱいある
良い場所見付けて早速食べよう
迷ったがヴェレーノの力添えで選べた
儂の分までは食べないように

サンドイッチ片手に桜弁当食べる
どれもとっても美味い
桜眺めながら食べる、相乗効果高い
気付いたら弁当の方の桜ばかり見てしまうが

儂も楽しみにしていた、お手製デザート
一体全体どうやって作るのか
桜の香りがする、凄い
惜しみつつもしっかり味わう
うま…

美味いとか、桜がきれいだとか
言える奴いるの悪くない
いっぱい食えて大満足

カステイラ、ちょっとだけと言いつつ止まらない気がする
…儂もちょっとだけ食べたい
ヴェレーノ、ちょっと以上を食い止めるのは頼んだ



 春を織り成すひとつひとつ全てが輝くような場所だった。
 人々が生む賑わいも穏やかにとけているのか、邨戸・嵐(飢える・f36333)が先程から覚えるものは心地良さばかり。
 同じようにして桜色の下を歩いていた一叶とヴェレーノを見付けた瞬間、嵐の双眸がゆるりと細められていく。や、と軽く手を挙げた嵐に一叶が同じく手を挙げ、ヴェレーノはそよぐような緩やかさで手を振り返した。
「俺が足りるだけ準備してくれた?」
 きっとお腹を空かせているに違いない――予感を裏付ける第一声に、一叶はしっかりと頷いた。白木蓮が照らすあの場所で、とびきりのものばかり見付けてきたのだ。
「美味いものいっぱいある。良い場所見付けて早速食べよう」
「喜んで頂けると思いますわ。デザートも用意して参りました」
「やった。楽しみ」
 爛漫の春が生む木漏れ日の下を行きながら見付けた“良い場所”は、なだらかな斜面の終わり。桜の枝がふわりとかかっていたそこに腰を下ろせば、桜色の天幕を得た気分になる。
 ヴェレーノは頭上に広がる春へ静かに微笑んでから、買ってきた物を一つずつ並べていった。途端に春とはまた違った華やかさが一気に増す。
「嵐様、お待たせしました。ご覧ください。一叶様とお弁当をうんと選んで参りましたの」
「迷ったがヴェレーノの力添えで選べた。儂の分までは食べないように」
「ふふ。三人で楽しみましょう」
「そうだね、三人で」
 では早速とそれぞれ手にした弁当の蓋をぱかりと蓋を開けたなら、食欲そそる色と香りがぱっと咲くようにして現れる。しかしまだ開けていない弁当の中身も気になるもので。
「こっちの弁当は何の味かな」
「それか。稲荷寿司だ」
「二種類ありましたので、両方買ってみましたの」
「へえ」
 興味が一つ解決すればまた一つ。嵐があれこれ質問攻めしてしまうのは、二人が巡った旅路を――ふたりの思い出話も味わいたくて。
 そうして心を美味しく満たしながらのひととき、ふと耳に届いた溜息に嵐はどうしたのと笑ってヴェレーノに視線をやる。
「……崩してしまうのが勿体なくなります」
 手元の桜弁当は綺麗な桜を咲かせたまま。しかし綺麗に描かれたこの桜は、散ってこそ、より咲き誇る。ヴェレーノは暫し眺めてから箸をそっと入れ、一口。桜でんぶの柔らかさと甘みが白米の味と共に広がり、瞳が水晶めいて煌めいた。
「ん。甘くて美味しい。お二人はお弁当のお味は如何ですか?」
「どれもとっても美味い」
「これも美味しいな」
 左手にサンドイッチ、右手では箸を使って桜弁当という豪華な楽しみ方をしていた一叶は、お次のサンドイッチをばくりと頬張った。肉と野菜を一緒に挟んだそれは、出汁のきいた玉子焼きを挟んだものとはまた違う満足感がある。
 嵐が「腹に溜まりそう」と思ったすき焼き弁当は、最初の一口から大きかった事もあり、順調に嵐の心身を美味しく満たしつつあった。
ばくり、ばくりと食べ進める嵐が浮かべる笑みには“上機嫌”の三文字がきらきら寄り添っていそうなほど。その笑みが、ほんの少しだけしょんぼりとなる。
「食べちゃうとなくなるのだけが残念」
 当たり前の事が切ないものの、未だ知らぬ美味は沢山控えている。切なくなった分だけ思い出話が増していくと思えば、次の一口を頬張る顔にあったしょんぼり気配は薄れており――うむうむ頷きつつ「美味かった」とサンドイッチを平らげた一叶の目が頭上へ向く。
「桜眺めながら食べる、相乗効果高い。……気付いたら弁当の方の桜ばかり見てしまうが」
 花の桜と桜でんぶの桜。どちらも素晴らしいが、一叶の視線を奪う桜花は後者だった。
 他の弁当もぱかりと蓋を開け、見目や味を楽しみ、感想を言い合いながらのひとときは穏やかに重なり続ける。そして弁当全てが美味しく頂かれたそこへ、次なる美味が――デザートがお披露目された。
 こちらです、とヴェレーノが示すのは表面が山のようにこんもりとした長方形の洋菓子・パウンドケーキだ。桜風味の優しい味わいに仕上げたという。
「こちら、桜を見ながらお楽しみ頂けたらと」
「ヴェレーノお手製のデザート、楽しみにして来たんだ」
「儂も楽しみにしていた、お手製デザート」
 覗き込んだ男子二人は興味津々。食欲もバッチリ。ヴェレーノは笑みをこぼし、では、と切り分け二人へ差し出した。
 鼻を寄せ、くん、と嗅げばふわりと香ったもの。ああこれが桜の、と二人は頭上を見、そしてヴェレーノ作のパウンドケーキに視線を戻す。見た目からして焼き菓子だとわかるのだけれど。
「桜の香りがする、凄い。一体全体どうやって作るのか」
「料理出来るのって凄いよねえ。俺は食べるの専門」
「レシピ通りに用意した材料を混ぜて焼くだけですから、初心者の方でも出来ると思いますわ」
 優雅に笑うヴェレーノの言葉に、一叶も嵐も目をぱちりとさせる。
 彼女がそういうのならそうなのだろう。うんうん。
 一叶はもう一度桜の香りを楽しみ、惜しみつつもしっかりと噛んで、口内に広がりながら心満たすものを味わった。
「うま……」
(「一叶、桜見ながら食べてる。相乗効果って言ってたっけ。俺もやってみよ」)
 嵐は桜のパウンドケーキをぱくり、視線は目の前――澄んだ青空と桜、緑が生み出す春の景色へ。すると、食べるとなくなる切なさ以上に不思議と満たされるものがあった。
(「これが相乗効果ってやつかな」)
 すき焼き弁当の時と同じように数を――もとい、長さを減らしていくパウンドケーキにヴェレーノは嬉しそうに微笑むと、二人と同じように桜見つめた。桜は散り際が美しい。それが紛れもない事実なのだと、広がる眩さに目を細める。
「こうして何方かとお花見に来たのは初めてでしたの。三人でも賑やかに想えて楽しいです」
「俺もひととこう言う花見なんて初めて。昼にふたりと会うのは健康的で凄く珍しい。不思議な気分だけど悪くないねえ」
「美味いとか、桜がきれいだとか。言える奴いるの悪くない。いっぱい食えて大満足」
 にぃ、と目を細め笑う嵐と、きりりと頷きながらパウンドケーキをおかわりした一叶。
 二人の眼差しと言葉にヴェレーノも笑みを浮かべ――は、と目を瞬かせた。
「噫、そうですわ。皆様へのお土産を選びましたの。嵐様、見てみてください」
「簪? 思いもつかなかった」
 相手に似合うものを選んだという簪を感心しながら検分し、ふと気付いたのは噂に聞いたカステイラの箱。桜花が咲くというそれも桜弁当に並ぶ人気者だった筈だ。
「このカステイラ、今ちょっとだけ食べちゃだめ?」
「ちょっとだけと言いつつ止まらない気がする。……が、儂もちょっとだけ食べたい。ヴェレーノ、ちょっと以上を食い止めるのは頼んだ」
「……あらあら。では、一切れずつお分けします」
 そうすれば食べ過ぎる心配はなく――帰った後も思い出が増え、心を満たすだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千百秋・清明
【花天】
(最後まで千代ちゃんと共に)
本当に――優しくて温かい、綺麗な場所ね
千代ちゃんと春ちゃんと、こうして一緒に幸いな景色と心地に浸れて感無量よ
(彼女の瞳に浮かぶ雫の光と、そこに映る桜の彩を見たら――嗚呼、私も思わず貰い泣きしそう――ずっとずっと、この光景を願い続けていたんだよね)

(暫く静かに想いを馳せて――それから、はっとして)
そうだ、さっき沢山買った甘味も余さず楽しまなきゃね!
ふふ、一面の桜もさることながら、甘味の優しい色味風味にも癒されるね

(そうして最後まで笑顔咲かせ続けて)
千代ちゃん
今日の様に――貴女の道行が、温かく輝くものとなる事を、心から願ってるよ
(先刻の簪に幸運の祈りを託して)


永廻・春和
【花天】
(千代様の傍らで桜河眺め――聞こえた声にそっと微笑み)
ええ、心癒され洗われる様な――実に心地好い雰囲気ですね
(春爛漫の穏やかな眺めに、千代様の瞳に溢れた想い――心打たれずにはいられない光景に、つられて込み上げる感慨に、暫しそっと浸り)

――は、そうでした
甘味という友も忘れてはなりませんよね
ふふ、それではお花見も女子会も謳歌致しましょう
(麗らかな空気、癒しの色彩、優しい味わい――温かく心満ち行く一時を、思い切り満喫し)

――感極まる、とはこの事ですね
(笑顔も晴れ晴れと満開の中、千代様に本日のお礼告げ)
私も、光満ちる旅路と笑顔咲く日々を――ずっと祈っております、千代様
(幸運の祈りをそっと重ね)



『……夢の様に、綺麗』
 ほう。
 千代が吐息混じりにこぼした言葉に滲むのは、目の前の風景に覚えた感動と、そこから広がるようにして芽吹く幸せの彩。
 “最後まで共に”と優しい決意を胸に抱いた清明と春和は桜河を見つめる横顔に笑みを深め、同じものを瞳に映す。
「本当に――優しくて温かい、綺麗な場所ね」
「ええ、心癒され洗われる様な――実に心地好い雰囲気ですね」
 そっと微笑んだ春和の言葉を喜ぶように、吹いた風はどこまでも穏やかだ。並ぶ桜からこぼれ落ちるように舞った花弁も、風に遊ばれて舞う雪の欠片のように静かだった。
「千代ちゃんと春ちゃんと、こうして一緒に幸いな景色と心地に浸れて感無量よ」
『ええ、私も……一緒に見られて、とても、とても……』
 自分達を見て、そして再び春を見た千代の瞳が更に潤む。
 影朧となった千代を迎えた春爛漫。全てが穏やかな眺めを欠片も落とさぬように見る千代の瞳には、言葉にされなかったものを伝えるほどの想いが溢れていた。
 目尻に浮かぶ雫の光とそこに映る桜の彩。一瞬の煌めきに清明は唇をぐっと引き結び、千代の想いと結びつく穏やかな春爛漫の眺め、心打つ光景に春和もつられこみ上げる感慨に唇を閉じた。
(「嗚呼、私も思わず貰い泣きしそう――ずっとずっと、この光景を願い続けていたんだよね」)
(「この時を、貴女はどれほどの間待ち望んでいたのか――」)
 優しく穏やかな温もりの中、人々の賑わいすらも包むように静けさが満ちていく。それぞれの想いは静かにそっと芽吹き、咲くように。しかし、ふいに清明がはっとして千代と春和を見る。
「そうだ、さっき沢山買った甘味も余さず楽しまなきゃね!」
『はっ』
「――は、そうでした」
 反射的にこぼした驚きの声。小さく跳ねた肩。ほぼ同時にこぼしたそれに春和と千代の笑顔が交わり、お揃いだね、とからかうように清明も笑う。
 一気に増した明るさを愛でるように春和は目を細め、今日という花見の席に欠かせぬものを取り出していった。
「甘味という友も忘れてはなりませんよね。ふふ、それではお花見も女子会も謳歌致しましょう」
「悔いは残さず! そして、」
『勿論食べ残さず……!』
 桜花咲くカステイラ。各種味の違いが楽しめる団子。丸やぷくりとした花形をした一口大の煎餅。見目麗しい練りきり。どれから食べようかと指先を迷わせる間も笑顔が咲く。
「ふふ、一面の桜もさることながら、甘味の優しい色味風味にも癒されるね」
『食べると、より癒やされて……ふふ、幸せ……』
 千代はきなこがたっぷりかけられた団子から。ふむふむと頬張る様は子供らしいもので、そんなに美味しいの? と目を煌めかせた清明に一本どうぞと差し出されれば、すぐに「美味しい!」の声が咲いた。
 カステイラを切り分ければ、誰のカステイラに一番桜花が咲いているかと小さな遊戯も始まって――麗らかな空気に包まれ、癒やしの色彩と優しい味わいに心をとかす――そんな温かく心満ちゆくひとときを噛みしめるように、春和はそっと目を閉じて笑った。
「――感極まる、とはこの事ですね。千代様、有難うございます」
『……? 私?』
「そうだよ。千代ちゃんと知り合えたから出逢えた春だもの!」
 きららと後光を輝かす清明に、春和は楚々と頷いて同意を示す。
 桜も笑顔も晴れ晴れ満開。そんな今日の出逢いが生んだ今日だけの花見女子会は、目にしている春の如くただただ温かく、そして豊かに心を満たしていく。
 千代の髪を彩る簪が、春風に揺れた。
 灰色の双眸が丸くなり、潤み、そして頬に朱がさしていく。
『わ、わた、私も……私も、嬉しいのよ……』

 こんな風に春を過ごせるなんて、思いもしなかった――

 すん、と鼻を鳴らす音と、ぽろりとこぼれた雫。聞こえたし見えてもいるそれを、清明と春和は笑顔のまま触れず、共に春を過ごした少女へと優しく笑いかける。
「千代ちゃん。今日の様に――貴女の道行が、温かく輝くものとなる事を、心から願ってるよ」
「私も、光満ちる旅路と笑顔咲く日々を――ずっと祈っております、千代様」
 いつの日か、再びの生を得るまでの時も。
 その先で、『古屋・千代』以外の名と姿になっていたとしても。
 変わらぬ願いと祈りに真の想いを乗せた二人の目に、ぽろぽろこぼれる雫が映る。それは空舞う花弁よりも清く澄み――ありがとう、と笑顔が結ばれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神宮時・蒼
…これが、件の、桜河、ですか
春色、たくさんで、何とも、素敵な、場所、ですね
…此れが、古屋様が、見たかった、景色、ですか。…此の、景色ならば、納得、ですね

折角なので、桜河の周辺をお散歩
はらはら零れる桜花の、なんと儚い事でしょう
これから、どんどん命が芽吹いていくのでしょうね
きっと、古屋様もいつかは転生して、再び此の景色を眺める時が来るのかもしれませんね

さて
折角、いろいろ、買った、訳ですし、此方の春も、頂きましょうか
…ヒトは、食べ物にも、春を、込める、のですね
…とても、素敵な、発想、です

…ああ、そろそろいかれるのですね
貴女様の願いは、叶いました、でしょうか
…おやすみなさいませ。今度こそ、善き夢を…



 嫋やかに吹いた風が蒼と千代の髪を、雲のように連なって見える桜色を揺らす。
 桜色が揺れる様を無言のまま見た蒼は、桜色から澄んだ水が流れる河へと視線を移した。
「……これが、件の、桜河、ですか。春色、たくさんで、何とも、素敵な、場所、ですね。……此れが、古屋様が、見たかった、景色、ですか」
『ええ、そう……ずっとずっと、見たかったの』
 青い空。清らかな桜色。芽吹いた緑。透き通った水。
 桜河と呼ばれる場所を創る全てを愛おしむように笑った千代をじぃと見つめた蒼は、目元へかすかに残る雫の後に気付く。数秒それを見つめたが、こくん、と頷いた。
「……此の、景色ならば、納得、ですね。……折角なので、少し、お散歩しませんか?」
『……!』
 千代の目がぱっと輝き、返事を伝える。
 足を止め眺めていた時も見事だった春の風景は、歩きながら見る今も心を豊かに彩っていく。立派な幹と、空へ河へと伸びる枝の色艶は咲き誇る花の生命力に相応しい濃さだ。その深い色合いと桜花の白さは、対極だからこそ互いを引き立てているようにも見えた。
 そんな桜の下を歩いていると、足元以外を桜色のドームに包まれているようで――ふいに流れた春風が、静かな音色を響かせる。その音色の様は、目にした桜吹雪とそっくりだった。
「……なんと儚い事でしょう」
『本当、ね』
 溢れんばかりの春は満開だからこそ見られるものだが、はらはらこぼれた桜花の儚さもまた、この瞬間だからこそのものだ。しかし、同意を示した千代の声に悲嘆の色はなく、穏やかに笑っていた。
「……これから、どんどん命が芽吹いていくのでしょうね」
『そうね。……あのね、私。花が散った後の新緑も、好きなの……芽吹きたては小さくて、色も、何だか可愛らしくて』
 そう笑った千代もいつかは転生するのだろう。彼女を想って駆けつけた自分以外の姿を思い浮かべた蒼は、千代が見つめる春を色違いの双眸に映し続けた。
(「再び此の景色を眺める時が来るのかもしれませんね」)
 さて。
 足を止めてこぼした言葉に千代が首を傾ぐが、蒼が取り出したもの――色々と買った、もう一方の春に笑顔を綻ばせた。蒼の表情は相も変わらず。しかしその瞳には“食べる”春がしっかりと映っていた。
「……ヒトは、食べ物にも、春を、込める、のですね」
『……欲張り、かしら?』
「……いいえ……とても、素敵な、発想、です」
 服に用いる生地。生活をちょっぴり豊かにする日用雑貨。人の発想が向かう“季節”も春だけに留まらず、それが日々の生活と記憶を彩り、一年という時間を輝かせるのだから。
 ぽつりぽつりと言葉を交わしながら楽しむうち、蒼は千代がほのかな輝きを帯びている事に気付いた。千代の向こう側に広がる風景が、淡く透けてもいる。
「……ああ、そろそろいかれるのですね」
『ええ……刻限が、来たみたい……』
「貴女様の願いは――……」
 言いかけたものは、満ち足りた笑顔と眼差しを見てすぐに閉ざされた。
「……おやすみなさいませ。今度こそ、善き夢を……」
『……ありがとう。本当に、ありがとう……私、いってくるわ、ね』

 ――次の春は、どんな春かしら
 ――嗚呼、とてもとても、楽しみよ

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

思ったように…いや
思った以上に綺麗じゃん
白木蓮と桜交互に見て目細め

河原の方でいい?
手繋ぎ慎重に土手下り
こんな近くで川に映る桜一緒に見るのは初めてだな
良さそうな場所で敷物を敷き弁当広げ
麦茶に礼言い
肉ぱくつき
んー肉柔らかいしいい味
めっちゃ米進む
ほんの少し位摘む?
苦手なのは知ってるけれど
良かった
味を共有できるのが嬉しくて

稲荷を食べる様子を眺めつつ
瑠碧俺の分も
口を開け待機
んっジューシーで旨い

カステイラほんと桜満開
本物と見比べるように翳し
これもふわっふわで美味いな

あーめっちゃ食った
瑠碧
ちょっとだけ膝貸して
少し甘えるように横になり
空の青と桜と映えて
瑠碧がめっちゃ可愛い
手を伸ばし髪に触れ
当たり前だろ


泉宮・瑠碧
【月風】

この先からは…
川と桜が見頃ですね

理玖と手を繋いで河原へ
自然が沢山で、どれも綺麗で…嬉しいです
私は作って来た麦茶を互いのコップに注ぎ置いて
稲荷をちまっと一口
…美味しい
すき焼き弁当を頬張る理玖を微笑ましく見て
では、小さめに一口貰います
…ん、こちらも美味しい

稲荷に戻り
理玖の待機についくすくす
はい、あーん
と、稲荷を一つ箸で摘まみ理玖の口へ
はい、甘さも美味しいです

終えればデザートへ
カステイラに咲かせてくれた桜も可愛くて綺麗ですね
少し勿体無いけれど齧り
ふわふわで…味も濃厚で、美味しい

食べ終えて少しのんびり
膝を貸した理玖に少し照れつつその頭を撫でて
…なぜ、そこで私に
照れ隠しに理玖の頬をつんと突きます



 静かに、嫋やかに桜色がたわむ。ほろほろとこぼれるようにして舞う桜吹雪は、目の前で起きている筈なのにどこか夢のようだった。
「この先からは……川と桜が見頃ですね」
「ほんとだな。思ったように……いや、思った以上に綺麗じゃん」
 目の前の風景に見入る瑠碧の声は囁くように静かだ。話に聞いていた桜河の風景、その実物を前にした理玖の声も、普段と比べ少しだけぼんやりとしている。
 後ろを振り返れば純白の花をつけた木々の道。
 視線を戻せば土手を彩る桜色。
 理玖は二つの春を交互に見て目を細め、より楽しめそうな河原の方へと瑠碧と手を繋ぎ向かう。穏やかな場所とはいえ念には念を。慎重に土手を下ったなら、間近に見る桜の――溢れる春に思わず感嘆の吐息がこぼれた。
「自然が沢山で、どれも綺麗で……嬉しいです。……あ、理玖。魚が」
「マジ? うわ水も凄ぇ綺麗……あっ、いた! こんな近くで川に映る桜一緒に見るのは初めてだな……」
「はい。どこまでも続いていそうです……」
 こんなにも豊かに広がる春を楽しむなら――あそこがいい。
 二人は穏やかに笑みを交わし、河辺から少し離れた場所に敷物を広げ、その上に花見の華たる弁当を広げていく。喉を潤すものは、瑠碧が作ってきた麦茶だ。
 理玖の「サンキュ」と共に麦茶を注がれたコップがそっと触れ合えば、花見のひとときが穏やかに、そして美味しく始まっていき――並ぶ様に一時圧倒された稲荷寿司を、ちまっとぱくり。小さく一口食べた瑠碧の目にきらりと光が踊った。
「……美味しい」
 もう一種類はどんな味なんでしょう?
 美味しいからこそ期待は膨らみ、食が進んでいく。
 少食の自分と比べしっかりいっぱい食べる理玖は、と向かいに座る理玖を見たならば、頬はふっくら、口はもぐもぐもぐ。すき焼き弁当をもりもり頬張る姿に、瑠碧は言いかけた“可愛い”を微笑の下にしまい込んだ。
「んー肉柔らかいしいい味。めっちゃ米進む。……ほんの少し位摘む?」
「では、小さめに一口貰います。……ん、こちらも美味しい」
「良かった」
 肉もご飯も甘辛いタレを纏っており、一口食べる度に食欲と満足感がぐいぐい刺激されていく。けれど瑠碧は肉が苦手で――それを受け取ってくれた事が。味を共有出来る事が嬉しくて、理玖の顔に満面の笑みが咲いた。その笑顔は稲荷を食べる様を見るうち、興味津々なものへと変わっていく。
「瑠碧、俺の分も」
 口を開けての待機に、瑠碧はついくすくすと笑みをこぼした。先程のお礼ですと微笑み、箸で摘んだ稲荷寿司にもう片方の手を添え、理玖の口元へと運んでいく。
「はい、あーん」
「んっ、ジューシーで旨い」
「はい、甘さも美味しいです」
 稲荷寿司に焼肉弁当。メインを食べ終えたなら当然デザート――カステイラの出番。こちらの桜華は本物と違い狐色だが、溢れるほどの桜花は目の前の桜とはまた違った魅力に満ちていた。
「ほんと桜満開だな」
 カステイラと本物を見比べるように翳す理玖に、眩いほどの桜色を愛でていた瑠碧は、切り分けた一切れ――手元のカステイラを見て柔らかに笑む。
「カステイラに咲かせてくれた桜も可愛くて綺麗ですね。食べるのが、少し勿体無いですけど」
 しかし目の前の甘味から漂う魅力は放っておけず、二人揃ってカステイラを食む。口を優しく受け止められるような心地と一緒に素朴な甘さが広がり、二人は目を丸くしてすぐ視線を交えた。
「これもふわっふわで美味いな」
「味も濃厚で、美味しい……」
 狐色の表面と卵色の生地。桜満開のカステイラは二人のお腹へと美味しく散る。
 そして残るのは――、
「あーめっちゃ食った。瑠碧。ちょっとだけ膝貸して」
 満足感と一緒に、理玖は少し甘えるように瑠碧の膝へと頭を載せた。頭を撫でる瑠碧の手つきは優しく、空の青と桜色を背景にして微笑むその頬にほんのりと紅がさしたのを見ながら、理玖は銀糸の髪へと静かに触れた。
「瑠碧がめっちゃ可愛い」
「……なぜ、そこで私に」
「当たり前だろ」
 春の彩に映える恋人の姿は、可愛い以外言いようがない。
 自分だけが知る春の風景を誇るような理玖の頬を、照れ隠しを秘めた指先がつんとつついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
【喰】
コノ君と待ち合わせ

ふふ、此の世界は何時でも
花見日和だから良いなァ
眼が眩むので日陰に陣取り
此の河全てが酒精なら
僕の喉も流石に潤いそうだ

それで、コノ君
手製の弁当の用意は勿論
バッチリなんだろ?
ふふふ、楽しみだなァ

オヤ、甘味もあるのかね
団子とか桜餅、無性に食べたくなるよねェ
桜彩のフィナンシェやマカロンも
…ふふ、結構楽しんでるじゃないか
ま、ゆっくり休んでくれ給え

そうそう、僕はねェ…
仕事を済ませた君を労う為
酒瓶を買ってきたよ
さァ、乾杯しようじゃァないか
溢れんばかりに杯へ
金箔混じりの酒精を注ぎ

掲げた杯に桜ひとひら捉えれば
それも一緒に飲み干して
胸のなかまで春日和
巡る季節の先も見なきゃねェ
次は向日葵とか


コノハ・ライゼ
【喰】

まさしく桜の河ねぇ
川面に映る彩見ては、コレ全部お酒だったらイイのにナンて笑いつ
ゆったり座れる場所へ

そりゃもうこの為の一仕事ヨ、と並べるお重は
弁当と言うより酒の肴の詰め合わせ
お花見らしく色形整えたた和洋問わないソレらをずらっと並べ
ごろごろだらけタイム

そうそう、飽きたら甘味もあってよ
三色団子に桜餅、洋菓子だって
……なんせ店という店引っ張り回したのよ、戦うより厄介だったわぁ

ま、ぱーっと気分転換!
勿論付き合ってくれるデショ
差し出された酒瓶ににんまり笑って花吹雪に乾杯

ああ、確かにこんなに綺麗じゃ
見ずには死ねないってモノねぇ
真似して桜も呑む
誰かの胸にもずっと咲くよう
そうネ、次はどんな酒と肴にしようか



 ひらりと流れるように過ぎていった桜色は、幻朧桜のものだろうか。
 それとも、目の前でどこまでも伸びるように並ぶ桜からだろうか。
 ――さァて。どちらだろう。
 神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は含むような笑みを唇に浮かべてから、ふふ、と肩を揺らした。ひらりと行ってしまったから、確かめるには少々時間が足りない。しかしそこはさして問題ではなく――寧ろ、わからないままで問題無いのだ。
「此の世界は何時でも花見日和だから良いなァ」
「ほーんと。それにホラ、まさしく桜の河ねぇ」
 見てよジンノと川面に映る彩見たコノハは、透き通った流れにあるものを思い浮かべた。
「コレ全部お酒だったらイイのに」
「此の河全てが酒精なら、僕の喉も流石に潤いそうだ」
 本気か冗談か。本人達にしかわからない言葉を交わしながら陣取った場所は、ゆったり座れ、目が眩むような春の陽射しも和らぐ日陰だ。桜の天蓋も近過ぎず遠過ぎずで丁度良い。
「それで、コノ君。手製の弁当の用意は勿論、バッチリなんだろ? ふふふ、楽しみだなァ」
「そりゃもうこの為の一仕事ヨ」
 ニヤリ笑って並べていくお重の中身は“バッチリ”に相応しいものだった。
 花見の席に相応しい色と形で収まるそれらは、和洋問わずで桜の如き華やかさ。――弁当と言うより酒の肴の詰め合わせだが、コノハと常磐の二人ならば酒の肴はいくつあってもいいのだから、全くもって問題ない。
「そうそう、飽きたら甘味もあってよ」
「オヤ、甘味もあるのかね」
「折角の花見よ? 妥協ナンてするワケないじゃない」
 三色団子。桜餅。洋菓子。重箱に続いて登場した甘味もずらっと並べられていく様を眺めていた常磐の笑みが、より愉しげなものへと変わった。
「団子とか桜餅、無性に食べたくなるよねェ。おや、桜彩のフィナンシェやマカロンも?」
「……なんせ店という店引っ張り回したのよ、戦うより厄介だったわぁ」
「……ふふ、結構楽しんでるじゃないか」
「ええ、そう? ま、ぱーっと気分転換! 勿論付き合ってくれるデショ」
「勿論だとも。そうそう、僕はねェ……」
 ――スッ。
 常磐が取り出した物を見た瞬間、コノハの目にぴかっと喜びの煌めきが躍る。
「ジンノ、それ……!」
「仕事を済ませた君を労う為、酒瓶を買ってきたよ。さァ、乾杯しようじゃァないか」
「さっすが! ジンノが選んだお酒なんて絶対美味いでしょ」
「光栄だ。ま、ゆっくり休んでくれ給え」
 栓を抜いて杯へと傾け注ぐ量は溢れんばかりに。とろりと注がれていくそこに混じる金箔が、杯の中で花弁のようにくるくる躍る。にんまり笑ったコノハと薄ら微笑んだ常磐。二人の笑みと共に、花吹雪へと乾杯の声が捧げられる。
 早速美酒を――と口をつける直前に入り込んだひとひらの桜色は、揺らめく金の欠片と共に常磐の喉を通り、体内へ。芳しい風味と共に胸の中まで春日和となるようで、重箱を彩るものへと箸を延ばしつつ、ほのかにある美酒の名残をも愉しんでいく。
 頭上の桜。地上の若葉。酒であったならと言って笑った、清水流れる河。
 それらにも名残は重なり、和の装いが魅力的な一品を口内へと招けば、見える春がより心を満たすようで――ふふ、とこぼした笑みに、無言で「なぁに、どしたの」と笑顔での問いが向く。
「いや何、巡る季節の先も見なきゃねェ――と。次は向日葵とか」
「ああ、確かにこんなに綺麗じゃ、見ずには死ねないってモノねぇ」
 美味しい名物も手に入ったし?
 くすりと笑い、常磐がしたように花弁加わった美酒を呑む。
 スイカを種ごと食べたらいつかヘソからスイカが生えてくる、なんて子供を驚かす定番ネタがあるが、今呑んだ桜もそんな風にして心臓から芽吹くだろうか。
(「でも咲くなら、」)
 そういう咲き方ではなく――誰かの胸にも、この日の春がずっと咲きますよう。
 コノハは杯に残る酒をぐいっと呑み干し、周りを見て笑う。
 いい天気だ。空は果てまで青く、輝くような桜と緑、硝子のように煌めき流れる澄んだ水と素晴らしい眺めもある。この風景が夏を迎えたら――。
「そうネ、次はどんな酒と肴にしようか」
「……では、次も期待していいかな、コノ君?」
「勿論」

 全てが鮮やかになる夏。
 豊かに満ちる秋。
 静けさの中に恵み息づく冬。
 そして――目覚めの春。

 今この時に存在する春の輝きに誘われるように、まだ先の計画を立ててしまう。けれどそんな様も桜河は変わらず受け止めて――そしてまた爛漫の春を広げ、訪れる命全てを歓待するのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年05月08日


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 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
#辻斬り少女


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト